大人と子供の境界のようです

3 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:11:17.81 ID:WuQ7gEbjO

没ネタ祭り作品

元ネタ:大人と子供の境界のようです
青春物語

5 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:13:07.39 ID:WuQ7gEbjO





「゙Hope I die before I get old.゙」




うだるように暑い夏空の下。 学校の屋上。貯水タンクの日陰。
何時だったか、彼はいつもの屋上で、彼を探しに来た私を気にも留めずに、そんな言葉をポツリと呟いていた。


「…誰の言葉?」

「どうしてお前はすぐに俺の言葉を引用だと決めつけるんだ」

「…誰の言葉?」

「……『旅人』の歌詞だよ」

「THE BLUE HEARTS、だよね?
私も大好きだけれど、THE WHOの『MY GENERATION』からの引用よそれは」



6 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:13:57.92 ID:WuQ7gEbjO

関係ねえよ、と彼は口を尖らせた。私も、関係ないと思うよ。良いモノは良いモノよ、と返す。

私よりも大きな背中に、大人びた気を背負う彼。

タバコ代わりのペロペロキャンディーを舐めながら、彼はこうも言っていた。


「夏休みまで、後…あれ、どん位だっけ?」

「3日だよ」

「そう。後3日で、俺達ば自由゙になれる」



……゙自由゙、ね。


゙自由゙を全くイメージ出来ない私は、つまらない人間なのだろうか。


分からない。私は、彼みたいに゙自由゙な人間では無いから。


8 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:14:52.25 ID:WuQ7gEbjO
親に従ってばかりで、何も言えない私。
言いたいことも言えずに、ずっと黙っている私。

何も出来ない、私。

『何がしたくて、何がしたくないのか。

何かしたくて、何かしたくないのか。

何をしたくて、何をしたくないのか。



何も選択出来ず、何も思いつかない』


小学生の夏。
来年は受験だから、実質、私の小学生生活で最後の夏。

子供でいられる、最後の夏。



「……゙自由゙、かぁ…」


もう一度、呟く。
やはりイメージ出来ない私は、よっぽどつまらない人間なんだろうな、と少しだけ悲しくなった。


9 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:15:58.61 ID:WuQ7gEbjO








大人と子供の境界のようです







10 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:19:45.48 ID:WuQ7gEbjO





「………ム、…オサム君…」

(#゚ー゚)「起きなさいってば、オサム君!」

(;゚゙_ゞ゚)て「あいたっ!?」

まどろみの中、コーンッという音と共に、僕の額に何かが直撃する。

ポトリ、と膝の上に落ちたチョークを無意識の内に拾い、レム睡眠から復帰した僕の頭は疑問符で埋め尽くされる。

その時、フッ、と影が差したので顔を上げると、青筋を浮かべた可愛らしい童顔少女、もとい、学級委員のしぃが仁王立ちでこちらを睨んでいた。



11 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:20:27.70 ID:WuQ7gEbjO
(#゚ー゚)「私が教卓に立っているにも関わらず居眠りとは、良い度胸ね。
出席番号12番、棺桶死オサム君?」

(;゚゙_ゞ゚)「ご、ゴメンよ、しぃ」

(#゚ー゚)「全くだわ!人が説明してる時に爆睡だなんて、無神経にも程があるわよ!」

プンスカと教卓に戻っていくしぃを見送りながら、チョークが当たった額を擦る。
どんだけ強く投げたんだろう。当たった場所がピンポイントで痛い。

 _、_
( ,_ノ` )「おーおー、しぃは相変わらず恐えーなァー」

隣の席から、クツクツと笑い声が聞こえる。
同い年とは思えない老けg…もとい、貫禄を出す横顔を一瞥し、僕は小さく溜め息をつく。

12 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:22:14.97 ID:WuQ7gEbjO

(;-゙_ゞ-)「しぃが聞いたら怒るよ、渋澤君…」
 _、_
( ,_ノ` )「かもな!ハハッ!」

(#゚ー゚)「ちょっと!そこ煩いわよ!」
 _、_
(;,_ノ` )そ「あだッ!?」

カラカラと笑いだした渋澤君の眉間に、しぃが豪速球で投げたチョークが見事に直撃する。うわ、痛そう。
流石に怒ったのか、渋澤君が立ち上がる。
 _、_
(#,_ノ` )「テメッ…何すんだ!」

(#゚ー゚)「お喋りしてるのが悪いのよ!お陰様で話が進まないじゃないの!」
 _、_
(#,_ノ` )「だからってチョーク投げんな!
お前本当に女か!?」

(#゚ー゚)「何ですって!?この老け顔!」


14 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:23:52.59 ID:WuQ7gEbjO

今にも罵り合いが起きそうな(というかもう起きてるけど)雰囲気の中、しぃの相方のギコが仲裁に入った。


(,,゚Д゚)「まあまあ二人共、その辺にしとけや」

(#゚ー゚)「むぅ……」
 _、_
(#,_ノ` )「…チッ」


な?と毒気の無い笑顔で諭すギコ。
渋澤君は渋々席に座り、しぃも、今度こそ教卓へ戻った。



(*゚ー゚)「コホン…それでは、今年度の合唱コンクールについて、話し合いたいと思います」

えー、ダリー、面倒臭い…。

゙合唱コンクール゙の単語が出た瞬間、あちこちから不満の声が上がる。

まあ、無理も無いか。


15 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:24:49.24 ID:WuQ7gEbjO
合唱コンクールは、年に一度開催される、゙生徒同士の協調゙を目的とした年間行事だ。
優勝クラスには商品も出るらしいが、どうせ大した物では無いらしいので、誰も気に留めないのが現状だ。


(*゚ー゚)「ハイハイ静かに!
それじゃ、まずは指揮者と伴奏者を選びます。
立候補者は手を上げて下さい」


またも、教室が騒然とする。

お前がやれよ、あの子がいいんじゃない、私やろうかなー。
ざわざわ、ガヤガヤと騒がしい室内の中で、一人の手が上がった。



16 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:25:48.18 ID:WuQ7gEbjO
(*゚ー゚)「えーと…小森さん?」

ガタン、と椅子をずらす音で、僕と渋澤君はそちらに目をやった。


川д川「………」


出席番号14番、小森貞子さん。
存在感の薄い、目立たない大人しい女子で、会話をしている所を見たことは殆ど無い。
後ろの席にいるので、人に気にかけられる事も余り無い。
何より、彼女は目立つ事を嫌う傾向がある。
珍しいな、と僕はその時思った。


(*゚ー゚)「えーと…指揮者?それとも、伴奏?」

しぃが教卓から身を乗り出して、小森さんに問いかける。

小森さんは暫く何か迷っていた様子だったが、控えがちに顔を上げて、こう言った。


川д川「……指揮者は、棺桶死君が良いと思います」

17 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:28:13.39 ID:WuQ7gEbjO

(;*゚ー゚)「え?」

ザワッとあちこちで声が上がった。
勿論、僕も驚いた。でも、彼女が僕を推薦する理由に、心当たりが無い訳では無かった。

じっ、と小森さんはまっすぐ僕を見つめている。
僕は立ち上がると、小森さんに尋ねた。


( ゚゙_ゞ゚)「どうして、僕なんだい?」


クラスメイト達は、ポカンとした顔で僕と小森さんを交互に見ている。
小森さんは一度深呼吸をすると、今度はさっきよりもハッキリと、大きな声で言った。


川д川「棺桶死君は、音楽が好きそうだから」


18 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:30:06.16 ID:WuQ7gEbjO


ややあって、小森さんはハッと息を飲んで捲し立てた。

川;д川「あっい、嫌だったら別にいいから!
ただ、棺桶死君なら向いてるかなって…」

( ゚゙_ゞ゚)「いや、やるよ」

そのまま、僕はしぃへと視線を向ける。
しぃはいきなりの事で放心していたが、ギコに小突かれて、慌てて居ずまいを正した。

(;*゚ー゚)「え、えーと、棺桶死君は指揮者で良いのね?」

( ゚゙_ゞ゚)「ああ。それと…」


チラ、と小森さんを見る。

先程までのシャキッとした姿勢は何処へやら、急にオドオドとして周りを見回している。


( ゚゙_ゞ゚)「伴奏は、小森さんで良いかな?」

川;д川「えっ……」


20 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:32:06.55 ID:WuQ7gEbjO
今度は、小森さんが驚いていた。
まさか、自分を指名されるとは思わなかったのだろうか。


( ゚゙_ゞ゚)「駄目、かな?」

川д川「………」


小森さんは少しだけ考えるような仕草をした後、コクリと頷いた。

(;*゚ー゚)「じ、じゃあ…指揮者は棺桶死君、伴奏は小森さんに決定で良いですね?」

しぃが全員を見る。
どうやら、皆異論は無いようだった。

ギコが指揮者と伴奏の欄に僕達の名前を書き終えた時、丁度担任が戻ってきた。


( ´Д`)「おや?もう終わったのか?」

(*゚ー゚)「はい。それじゃあ、今から終礼を始めます」


22 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:34:42.66 ID:WuQ7gEbjO









 _、_
( ,_ノ` )「しっかし、お前が指揮者ねー」

( ゚゙_ゞ゚)「似合わない?」
_、_
( ,_ノ` )「全っ然、似合わねぇ」


帰り道。
まだ明るいアスファルトの道路を、渋澤君と肩を並べて歩く。

首を横に振って、似合わないと言った彼の台詞に、僕はムッとした表情になったに違いない。

カカカ、と陽気に笑う彼に、ますます僕は不機嫌になった。似合わないという台詞が、何だか僕の心に堪えた。


23 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:35:35.89 ID:WuQ7gEbjO

 _、_
( ,_ノ` )「まあ、そう怒るな。
お前が指揮者ってのは意外だが、案外向いてるんじゃねーの?」


お前がOKを出したのには流石に驚いたけどな、という彼の言葉に、僕は一時間前の小森さんを思い出す。



川д川『棺桶死君は、音楽が好きそうだから』



( ゚゙_ゞ゚)「………」


小森さんの、透き通るようなあの声が、脳内にまざまざと甦る。

それと同時に、記憶の片隅に、一週間の放課後を思い起こしていた。


24 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:38:23.02 ID:WuQ7gEbjO
回想は、一週間前、夕日が差す音楽室から始まる。

忘れ物を取りにいって、誰も居ない部屋からピアノの音がした時は本当に驚いたものだ。
しかも、聞こえてくるのは、本来は生徒が使用する事を許されていない筈の、グランドピアノの美しい旋律と、透き通るような聞き心地の良いソプラノヴォイス。

ドアに付けられた小窓から見える、夕日に照らされ、ピアノを弾きながら唄う小森さんは、とても綺麗で、儚げだった。

それは、時間を忘れ、友人との約束も忘れて、ドア越しで聞き惚れる程素晴らしいものであった。


25 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:39:06.67 ID:WuQ7gEbjO
だが、僕はミスを犯した。

立て付けが悪いそのドアが、少し寄りかかっただけで簡単に開いてしまう事を、僕はうっかり忘れていたのだ。


川д川『あ……』


ドアが開いた瞬間、歌も旋律も止まり、彼女の視線が僕にぶつけられる。


(;゚゙_ゞ゚)『えっと、小森さ』

川;д川『ご、ごめんなさい!』


僕が何か言おうとする前に、彼女は物凄いスピードで楽譜を胸に抱き締め、そのまま猛ダッシュで出ていってしまう。

僕は呼び止める事すら出来ず、そのまま呆然と見送ってしまったのだった。






27 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:40:59.94 ID:WuQ7gEbjO


以来、彼女が音楽室を使う事はなく、とても惜しいことをしたと後悔している。




 _、_
( ,_ノ` )「…オイ、オサム?」

( ゚゙_ゞ゚)「え?ああゴメン、聞いてなかった」
 _、_
(;,_ノ` )「お前な……」

ハァ、と深い溜め息をつかれる。
再度謝ると、もういいよというジェスチャーをされた。


( ゚゙_ゞ゚)「で、何の話だったっけ?」
 _、_
( ,_ノ` )「小森だよ、小森。何でお前を指揮者に推薦したのか、それが気になるっつってんだよ」

( ゚゙_ゞ゚)「…他意は無い、と思うよ?」


28 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:42:48.71 ID:WuQ7gEbjO

うーむむ、と唸る渋澤君に、恐らく僕の言葉は届いていないだろうな。
直射日光を背中に感じながら、僕らは家路を急いだ。






( ∵)「あ、アニキ帰ってたのか」

(;゚゙_ゞ゚)「うわっと…ビコーズか、脅かすなよ」

真っ暗だった部屋に、突如明かりが灯る。
思わず後ろを振り返ると、呆れたような顔をして、スイッチに手をかけている弟がいた。


( ∵)「またこんな真っ暗にして…ホラゲでもするつもりか?」

( ゚゙_ゞ゚)「いや、ホラー映画。見る?」

(;∵)「飯時にそんなモン見る奴の神経を疑うよ」


29 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:44:31.47 ID:WuQ7gEbjO


ビコーズはリモコン操作でTV画面を消すと(ドッキリシーンだったので余計鳥肌が立った)、持っていた買い物袋を漁り始めた。


( ∵)「今日カレーでいい?」

(;゚゙_ゞ゚)「またかよ…いい加減ボキャブラリーを増やせ、ボキャブラリーを」

( ∵)「アニキが飯炊けるようになったら、増やしてやらんこともないぜ」

(;゚゙_ゞ゚)「こ、このオニチク!」


ニヤ、と嫌な笑みを見せる弟に、些か怒りと理不尽がこみあげてくる。
僕が飯すら炊けない料理音痴なのを知っている癖に。嫌な奴め。


30 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:45:42.33 ID:WuQ7gEbjO

( ∵)「今日、何かあった?」

( ゚゙_ゞ゚)「…どうして、そう思うんだい?」


二人きりで向かい合っての食事中に、弟はこう切り出してきた。
僕はスプーンを止めると、ビコーズへと視線を向ける。


( ∵)「アニキがああして部屋ァ真っ暗にしてる時って、大体何か考え事してる時だかんな」

( ゚゙_ゞ゚)「…凄いなあ、ビコーズは」

(`∵)+「伊達に13年、アンタの弟やってないかんな」


エヘン、と威張る弟。
うーん、ここら辺は母親に似たんだろうなあ。


32 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:47:07.08 ID:WuQ7gEbjO

( ゚゙_ゞ゚)「…合唱コンクールの指揮者に選ばれたんだよ」

( ∵)「…へー」

(;゚゙_ゞ゚)「いや、へーってお前…」

( ∵)「良いじゃん、アニキそういうの得意そうだし」


事も無げに言うビコーズに、何故だかカチン、ときた。

( ゚゙_ゞ゚)「…ご馳走様」

( ∵)「おー…ってアレ?風呂はー?」

( ゚゙_ゞ゚)「要らない」



弟の制止も聞かず、僕は真っ先にベッドに潜りこんだ。
胃の辺りが、やけにむかむかした。







34 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:48:51.12 ID:WuQ7gEbjO

(;゚゙_ゞ゚)「……うーん…」

コレはマズイ。非常にマズイぞ。

放課後、合唱練習の時間が終わり、流石に時間に焦りを感じ始めていた。
サボる人もいるし、何より統一感がまるでない。
コンクールに間に合うだろうか。


川д川「か、棺桶死君…」

(;゚゙_ゞ゚)「ん?…ああ、小森さんか」

トントン、と肩を叩かれて振り向くと、小森さんがモジモジとして立っていた。

川д川「…合唱の、事なんだけど…」

( ゚゙_ゞ゚)「うん、このままだとコンクールに間に合わないんだよね…」


どうしたものか、と悩む。
すると、小森さんはこんな事を言い出した。


川д川「あのね――――――…………」


35 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:50:39.60 ID:WuQ7gEbjO

2日後。

( ゚゙_ゞ゚)「えーと…合唱コンクールの練習の事ですが、夏休みに強化合宿をやりたいと思います」

ΩΩΩ<えーー!?

6時間目のミーティング。
僕の言い出した計画に、一斉にブーイングが上がった。


( ゚゙_ゞ゚)「怒る気持ちも分かる!
だけど、このままじゃあ冗談抜きでコンクールに間に合わないんだ!
何なら自由参加でいい!だから…」

川д川「…皆さん、聞いて下さい」


小森さんの一言で、シン、と教室が静寂に包まれた。


36 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:51:33.68 ID:WuQ7gEbjO

川д川「…確かに、皆さんからすれば、合唱コンクールはつまらない物かもしれません」

川ヮ川「でも、大切なのば心を通わせ合ゔ事です。
皆で合わせて歌えば、きっと楽しい筈です!」


小森さんが話し終えた後も、静寂を守り続ける教室。

川;д川「…え、えっと………」


と、後ろの方で1人の拍手が起こった。


o川*゚ー゚)o「アタシはサンセーよ、サダコチャン」

アニメのキャラクターのような声でそう言ってのけたのは、クラスのマドンナ、素尚キュートだった。


37 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:54:11.35 ID:WuQ7gEbjO


「俺も参加するぜ」

( ´_ゝ`)ノ「つっても、俺の場合は只のひつまぶしだけどな」

(,,゚Д゚)「…流石、それを言うなら暇潰しな」


同じく、うつ伏せのまま、ヒラヒラとやる気なさげに手を上げたのは、サボリ魔で有名な流石君だった。


( ´_ゝ`)「ひつまぶしも暇潰しも似たようなモンだろが」

ケッ、とギコ君に反論する流石君。

 _、_
( ,_ノ` )「…阿呆だな」
  _,
(#´_ゝ`)「あ゙あ?」


38 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:55:37.17 ID:WuQ7gEbjO

渋澤君の呟きに、ギッ、と反応する流石君。
そういえば、二人はとても仲が悪い。正に犬猿の仲。

ペロッこれはヤバいムード!

  _,
(#´_ゝ`)「テメー…今なんつった?」
 _、_
( ,_ノ` )「阿呆が阿呆な事言ってんなーって思っただけよ」

(;*゚ー゚)「ちょ、ちょっと!喧嘩は(#´_ゝ`)「上等だァ!表出ろや!」
 _、_
(#,_ノ` )「ハッ、返り討ちにしてや…」



(#゚ー゚)




39 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 13:58:07.04 ID:WuQ7gEbjO








( ´Д`)<※諸事情により音声のみでお送りします



<オラオラオラオラァ!テメーラノチハナニイロダァア!
<アーッ!
<OK.シィ,トキニオチツkギャァア!!
<ホァタタタタタタタタタァ!!
<アベシアベシアベシアベシアベシ!
<ラメェエ!ネジレル!ネジレチャウノォオ!
<キィィィヤァァァアアア!!
<アアマドニ!マドニ!!




40 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:03:10.73 ID:WuQ7gEbjO


10分後。



( ゚゙_ゞ゚)「こいつを見てくれ。どう思う?」

川д川「凄く……屍です……」


(メメギ)_ゝ(キ) チーン
 _、_
(キメメ゙)_ノ(キメ) チーン


o川;*゚ー゚)o「これは酷い…」

(#゚ー゚)「フン!」



多少トラブル(?)はあったものの、素尚さんや流石君の影響か、皆夏の合宿に参加する事が確定した。
指揮者として、喜ばしいことだ、うん。



41 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:06:38.64 ID:WuQ7gEbjO

(*゚ー゚)「しかし、あの流石君がねえ…」

放課後、コンクールの為の選曲をしている最中(さなか)、しぃがポツリと呟いた。

(*゚ー゚)「流石君て、ああいうつまらない行事に興味なさそうじゃない?
大体、体育祭も文化祭もサボるような人だし」


そうなのか。それは初めて知った。
血の気が多いから、てっきり祭りの類いとか好きなんだと思っていた。


川;д川「血の気が多いのと、祭り好きは関係無いと思うんだけど…」

(;゚゙_ゞ゚)「うーん…僕の偏見なのかなあ…?」


心の声が口に出たのにも気づかず、小森さんのささやかなツッコミに、僕は無意識に首を傾げた。


(;*゚ー゚)「…っていうか、選曲がロックて…」

(;゚゙_ゞ゚)「ア、アグレッシブだね…小森さんて…」

川д川 +


42 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:08:32.28 ID:WuQ7gEbjO

翌朝。


ジリジリと照りつける日差しのせいか、ローファーが必要以上に熱を吸収する。足が火傷するのではないだろうか。

太陽、有給とれよ。なんなら無断欠勤でも良いから。地球が滅ばない程度に。


そんな下らない事を考えつつ、僕は足を早める。最近、近所に出没するという不審者に遭遇したくないという思いからの行動だ。





「だーれだっ!」

「…素尚だろ」

「せーかーいっ!」

43 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:10:10.77 ID:WuQ7gEbjO


(;゚゙_ゞ゚)「ん……?」


聞き慣れた声がした気がして、ふと顔を上げる。
すると、意外な二人が仲良く登校しているのを見て、僕は些か驚きを隠せなかった。


( ´_ゝ`)o(゚ー゚*川o


意外だ。実に意外だ。
マドンナと不良。どこの少女漫画だ。

二人は僕に気づく様子はなく、首に回された素尚さんの腕を掴み、流石君はグルグルと回転し始めた。


o川*>∀<)o「キャー!早いはやーい!」


キャッキャッとはしゃぐ素尚さんの笑い声が、通学路に響く。
流石君も、なるべく振り落とさないように加減しているのだろう、尚も素尚さんを振り回し続ける。


44 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:12:41.05 ID:WuQ7gEbjO

( ´,_ゝ`)「おーりーろー」

o川*>∀<)o「きゃー!」


まるで兄妹だなあ、と密かに思い、僕は人知れずクスリと笑った。

少し疲れたのか、ようやく流石君は素尚さんを降ろして歩きだした。

うーん、実に意外なカップルだ。



 _、_
( ,_ノ`#)「死ねばいいのに」

(;゚゙дゞ゚)そ「うひゃあああああああ!?」



45 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:13:31.67 ID:WuQ7gEbjO
耳に息がかかる位の至近距離で囁かれたら、恐らく誰だってビビるだろう。僕だってビビる。


(;゚゙_ゞ゚)「あー吃驚した…悪趣味だよ、今の」
 _、_
( ,_ノ` )「あーwww今の顔おもしれーwww」


カッカッカ、と親父臭い笑い声を上げる渋澤君を鞄で殴った。

避けられた。


49 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:18:24.91 ID:WuQ7gEbjO


o川*゚ー゚)o「だーれだっ!」

(; ゙_ゞ )て「ぐぇえッ!」


突然、背中が衝撃と重みを訴えてきた。
同時に首が閉まり、視界も真っ暗になる。
少し汗ばんだ背中に、柔らかい何かが押し当てられている。

あ、なんか良い香りが。

 _、_
( ,_ノ` )「素尚、その辺にしとけ、オサム窒息死する」

o川*゚ー゚)o「(゜д゜@」


背中の重みが消える。
少し残念だ、と思った自分が憎らしい。

50 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:20:21.59 ID:WuQ7gEbjO
  _,
o川*゚3゚)o「ちぇーっ、折角驚かそうと思ったのに」

( ´_ゝ`)「女がそういう顔すんな、男に逃げられっぞ」


素尚さんの頬っぺたをびろーんと引っ張る流石君。
どっから現れるんだ、皆して。


( ´_ゝ`)「お、棺桶死と老け顔か」

 _、_
( ,_ノ`#)「誰が老け顔だ【自主規制】が」

(#´_ゝ`)「ああ?んだとこの【 自主規制 】!」

 _、_
( ,_ノ`#)「【 自主規ry 】にゃ言われたかねえな、【 自主ry 】にh」

(;゚゙_ゞ゚)「ストップストップストップ!
朝から、しかもこんな住宅街でそんな話しない!」

o川*゚ー゚)o「ねー棺桶死クン、タンショーホーケーって(;゚゙_ゞ゚)「女の子がそんな事言っちゃ駄目ェェエエエエ!!」


51 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:21:48.76 ID:WuQ7gEbjO

…天g、もとい外国の両親へ。


明日から始まる夏休みが、凄く……不安です…………。



(#´_ゝ`)「お前なんか【 自主ryピー】だ!」

(;゚゙_ゞ゚)「だからそういう話は止めてええええ!」




川д川「へー、そんな事が…」

(;-゙_ゞ-)「結局二人共喧嘩は止めないし、素尚さんの質問攻撃は止まないしで、もう散々だよ…」


終業式が終わった音楽室に、僕と小森さんは居た。
明日から伴奏もつけての練習なので、その音合わせだ。


53 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:24:24.56 ID:WuQ7gEbjO

朝の愚痴を聞いていた小森さんは、不意にクスリと笑う。
僕にはその笑顔の意図が分からず、首を傾げた。


川ー川「皆、仲が良いよね。羨ましい」

(;゚゙_ゞ゚)「アレ、仲が良いっていうのかな…」


渋澤君と流石君を思い浮かべる。
あれは喧嘩する程仲が良いなんてものではないと思う。


川ヮ川「人はね、本当にその人が嫌いなら、絶対に近寄らないと思うの。

きっと、素直になれないだけなのよ」

(;゚゙_ゞ゚)「…そうだと良いけど…」



54 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:26:53.49 ID:WuQ7gEbjO




 _、_
( ,_ノ` )「覚えてるか、オサム?」

( ゚゙_ゞ゚)「何が?」


学校の食堂に取り付けられた自動販売機に小銭を入れ、少し迷ってアクエリアスを選ぶ。

隣の彼は、迷わず烏龍茶のボタンを押し、出てきたペットボトルを掴んで、うなじ辺りに押し付けていた。

気持ち良さそうだ、と思い、僕もそれにならった。
暑さでペットボトルの表面から湧き出た水滴が、肌に心地良い。

夏合宿が始まって、1週間が経った。
やっぱり、旅行等の諸々の関係で、来れない人もいる。

が、それでも、来てくれている人がいる事は、きっと喜ぶべき事なのだろう。



57 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:29:03.71 ID:WuQ7gEbjO

 _、_
( ,_ノ` )「小学校の夏休み、俺達が何してたか、覚えてるか?」

( ゚゙_ゞ゚)「……ううん、余り」


そっか、と言って、烏龍茶をガブ飲みする渋澤君。
そんなに飲むと、トイレが早くなっちゃうよ。

 _、_
(*,_ノ` )「ッ…プハーッ!」

( ゚゙_ゞ゚)「親父臭っ!」
 _、_
( ,_ノ` )「煩ェ」

ゴシゴシと口を拭い、あっという間に空になったペットボトルが捨てられる。

見上げれば、青空がとても眩しい。
厚ぼったい小さな雲が、ふよふよと自由気ままに流れていく。



( ゚゙_ゞ゚)「…小学校、か」


58 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:34:34.52 ID:WuQ7gEbjO




夏祭り。
親とはぐれて、たった一人。

『…おとーさぁーん、おかあさーん』

涙声で呼ぶけれど、小さな声では、誰も気づかない。

『…あれ、==?』

終業式以来に聞こえた声に振り向くと、同じように一人きりの君がいて。


『迷子?』

『…………うん』

『…ほら、一緒に探すからさ、泣くなよ』

『…うん』


すすり泣いた顔を見られたくなくて、袖でひたすら顔を隠して。
呆れられながらも、手を繋いで一緒に探してくれた。



61 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:44:44.72 ID:WuQ7gEbjO


『見つからないね』

『…そうだね』


疲れた足を休める為に、石段に腰を下ろす。
もうすぐ、花火が上がる時間だ。

『===、引っ越すんでしょう?』

『……うん』


夜空に一瞬だけ咲く、音と光で出来た夏の花。


『…ねえ、===』

『なに?』

音で掻き消される声。
口の動きがたどたどしくて、何を言っているかは聞こえない。

『==、===が』

『==』

62 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:46:39.31 ID:WuQ7gEbjO




( ゚゙_ゞ゚)「進路かー。何も決めてなかったな」

(,,゚Д゚)「そういえば、俺達何だかんだで高校2年生だもんなー」

(;*゚ー゚)「ギコ君は自覚足りなさすぎ!」


皆プリントを手に、思い思いの言葉を口にする。


(;゚゙_ゞ゚)「(…どうしよう、何も決めてないのに…)」

ボリボリと頭を掻く。
中学生時代、似たような事を書かされて、かなり悩んだ時期があったのを思い出した。

あの時は、何て書いたっけか。
ああ駄目だ、やっぱり思い出せない。



63 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:48:52.62 ID:WuQ7gEbjO

o川*゚ー゚)o「小森さんは、進路相談、何て書いたの?」

川д川「へ?」


素尚さんの質問に、伴奏を弾いていた小森さんの手が、ピタッと止まった。
小森さんは暫く言うのを渋っていたみたいだけれども、か細い声で言った。


川д川「ま…まだ何も……」

o川*゚ー゚)o「なーんだ、小森さんの事だから、ピアニストって書くのかと思ったわ」


素尚さんの言葉に、小森さんはただ困ったようにはにかんでいた。



65 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:52:16.35 ID:WuQ7gEbjO
様々な夢を語るクラスメート達が、とても羨ましく思える。


( ゚゙_ゞ゚)「(良いなあ、夢がある人って)」

いや、今まで夢を見つけようとしなかった自分が悪いのだろうか。


(;゚゙_ゞ゚)「………何て書こう……」



…結局、何も書かずに提出してしまったのは、また別のお話。






川д川「私ね、本当はピアニストになりたいの。
…でもね、なれる訳なんかないの」


皆が帰ってしまった後、小森さんは悲しそうにそう言った。


( ゚゙_ゞ゚)「そんな事ないよ。
実際、小森さんはとてもじょu川#д川「嘘よッ!」


66 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:53:15.09 ID:WuQ7gEbjO

小森さんが大声を張り上げた。
僕は驚いて、口をつぐんでしまう。


川#д川「私みたいな、大して上手くもない女の子が、ピアニストなんてなれる訳ないじゃない!
棺桶死君だって、聞いていたんでしょう、私のあの酷い演奏を!
指差して笑ってたんでしょう!?」


ヒステリックな大声を出して、小森さんは怒っている。


川#;д;川「そうよ!
私はどうせ下手クソで、魅力もへったくれも無いわよ!

ねえ貴方、皆が私の事、何て呼んでるか知ってる!?
『コウモリ』よ!コウモリ!!
そりゃあ指差して笑いたくなるでしょうよ!
でもね!私にだって、人並みに夢くらい有るわよ!
馬鹿にしないでよ!」


67 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:56:27.39 ID:WuQ7gEbjO


彼女は泣き喚き、髪を振り乱し、脇目も振らずに走り去っていく。

彼女を知らず知らずの内に傷つけていたという事実が悲しくて、僕は彼女を追いかける事が出来なかった。


 _、_
( ,_ノ` )「痴話喧嘩でもしたか?」

(;゚゙_ゞ゚)「…もう慣れたよ、その登場の仕方」


何だ、つまらんと僕の目の前に移動する渋澤君。


(;゚゙_ゞ゚)「っていうか、痴話喧嘩って…」
 _、_
( ,_ノ` )「あ?お前と小森、付き合ってんだろ?」

(;゚゙_ゞ゚)「いやいやいやいや」


68 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:57:20.58 ID:WuQ7gEbjO

慌てて手を横に振った。
確かに僕等は喧嘩をしたが(いや、あれは喧嘩なのか?)、付き合ってなぞいない。
 _、_
( ,_ノ` )「あれま、てっきり俺ァ…」

(;゚゙_ゞ゚)「べ、別に僕らはそういうやましい仲では…」
 _、_
( ,_ノ` )「バーカ、付き合う事のドコがやましいんだよ」


パコン、とデコピンされた。
ジンジンと痛む。渋澤君はニヤニヤ笑っている。

 _、_
( ,_ノ` )「お前さ、小森が好きなんだろ?」

(; ゙_ゞ )「ブフッ!?」


69 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 14:59:23.84 ID:WuQ7gEbjO

何も無いのに噴き出してしまった。

 _、_
( ,_ノ` )「バレバレなんだよ、お前。
チラチラ見たり溜め息ついたり、見てるこっちが恥ずかしいわ。このヘタレめ」

(;゚゙_ゞ゚)「ヘタレ言うな!」

お返しに、彼の頭をはたく。良い音がした。
 _、_
( ,_ノ` )「どうだ、ちったあ元気出たか」

( ゚゙_ゞ゚)「……うん」

そうか、と肩に手を置かれる。

 _、_
( ,_ノ` )「…俺は詳しい事情は知らん。
が、今やる事は1つ。だろ?」

( ゚゙_ゞ゚)「…ああ!」


有り難う、と礼を言い、僕は小森さんが走っていった方へと向かう。


目指すは、屋上だ。

71 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:01:04.00 ID:WuQ7gEbjO



熱をもったドアノブを握り、ゆっくりと回す。
開けると同時に、熱を孕んだ風が頬に叩きつけられ、思わず眉間に皺を寄せる。

そういえば、今日は風が強いと、天気予報で言っていた気がする。


( ゚゙_ゞ゚)「…小森、さん」

川川川「……………」


前方5メートル先のクラスメートに、僕は何と問いかければ良いのだろうか。

背を向けている彼女は、僕の呼び掛けにも答えずに、ただ髪をなびかせて空を仰ぐ。


72 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:01:51.17 ID:WuQ7gEbjO


川д川「…私ね、小学校のとき、好きな人が居たの。
その人ね、よく授業をサボって、屋上で歌を歌ってたわ。

とっても上手だった。羨ましかったわ」

淡々と、彼女は語る。
僕は、それを聞いている。


川ー川「その子は屋上が好きでね、立ち入り禁止にも関わらず、度々忍びこんでは先生に怒られていたわ。
反省文を沢山書かされても、親に叱られても、やりたい事をやる。
そんな自由な彼が、私は好きだったの」


フフフ、と笑う小森さん。
僕はゆっくりと、彼女の元へと歩みよる。

73 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:03:40.15 ID:WuQ7gEbjO

川д川「でもね、その子、転校しちゃったの。夏休みが終わって、すぐに」

( ゚゙_ゞ゚)「…手紙とか、書かなかったの?」

そんな度胸は無かったわ、と小森さんは悲しそうに首を横に振った。

川д川「好かれている自信は無かったし、気持ち悪がられるのが嫌だったの。
…根性無しでしょう?」


そんな事はない、と僕は返す。
無理しなくていいわよ、と小森さんはクスクス笑った。


川ー川「後悔はしてないよ。
私が彼を覚えているから、それでいいの。

今回の選曲も、わざわざ彼が好きだった曲を選んだのよ」


ああ、そうか、彼女は。

彼女の笑顔が、とても眩しい。
それは、果たして逆光のせいか、はたまた。



74 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:05:04.88 ID:WuQ7gEbjO

( ゚゙_ゞ゚)「…僕はこう見えて昔は悪戯っ子でね、とても捻れていたんだ」

えー、意外と彼女はまた笑う。
僕も笑う。


( ゚゙_ゞ゚)「僕にも、好きな子が居たんだ。大人しくって、目立たない女の子。
その子は学級委員でね、とても真面目だったんだ。
…好きだったんだけどね、僕には告白する勇気が無かった。
だから、気を引くために、わざわざ授業までサボった位さ」


彼女は黙っている。
僕も、黙っている。

川ー川「…その子の事、今も好き?」

( ゚゙_ゞ゚)「…ああ、好きだよ」


フフ、と彼女は笑った。
僕も、ハハ、と笑った。


僕らの笑い声と蝉の声が、夏の空に響いていた。


75 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:06:08.42 ID:WuQ7gEbjO
















77 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:07:35.47 ID:WuQ7gEbjO









(ー@∀@)「……さん、小森さん?」

川д川「へっ?ああ、ごめんなさい。
何かしら?」


ドアップで映ったマネージャーの顔に少々驚きつつ、私は慌てて姿勢を正す。
いつの間にやら、うたた寝をしていたらしい。

危ない危ない、…涎、垂れてないわよね?

(ー@∀@)「いや、棺桶死さんという方から御電話が…」


そう言って差し出された彼の手の中の電話をひったくる。

恨みがましいといった表情を見せるマネージャーを投げ飛ばして追い出し、私は電話を耳に押し当てる。

78 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:10:16.46 ID:WuQ7gEbjO


川*ヮ川「お、オサム君!?」

『…い、今なんか凄い音したけど…』

川*ヮ川「ああ気にしないで、マネージャーさんが鬱陶しかったから巴投げしただけだから」

『…へ、へえー』


三ヶ月ぶりに聞く声に、私の声と気持ちは思わず高ぶる。


川*ヮ川「見ててね!絶対演奏見ててね!」

『うん、最前列で並んでるよ。渋澤君も楽しみだって』


なんだ、渋澤も居るのか。あの腰巾着もどきめ。空気嫁。

思わず舌打ちが出そうになったが、乙女としてそれは堪えた。


79 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:11:56.54 ID:WuQ7gEbjO


川*ヮ川「でも、合唱の伴奏なんて10年振りだわ。
何だか緊張しちゃう」

『あー、懐かしいねー』


ははは、と笑うオサム君の声に、10年前の高校生合唱コンクールで優勝したあの時を思い出す。


川ヮ川「……あれから、もう10年なのねー」

『…そうだね』


お互いに笑う。
あの時から、私達は色々と変わった。


81 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:14:43.42 ID:WuQ7gEbjO


川ヮ川「……ありがとうね」

『何がだい?』


フフフ、とまた笑う。
彼には、感謝してもしきれない。

オサム君は、夢を叶える勇気をくれた。
オサム君がいたから、今の私がある。


川ヮ川「…何でもない!」

『?』


恐らくクエスチョンマークを頭に浮かべている彼を想像した。


(メー@∀ギ)「小森さん!時間です」

川ヮ川「はぁーい!…それじゃ、会場でね」

『ああ、頑張れよ』


82 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:19:37.66 ID:WuQ7gEbjO

電源ボタンを切り、楽屋を出る。

舞台裏に到着した時、既に司会者が、プログラムを読み終えていた。


『…それでは、お待たせ致しました!

登場して頂きましょう!

世界的ピアニスト、小森貞子さんです!』

一歩、踏み出した途端、物凄い歓声がホールを包み込んだ。
目の前に立ち、一礼する。
オサム君と渋澤君が、小さく手を振っている。
私はそれを笑顔とアイコンタクトで答えた。

指揮者が腕を上げ、私はピアノ盤へと指を置いた。



私の夢は、まだ始まったばかり。




83 名前: ◆jPpg5.obl6 投稿日:2009/11/21(土) 15:22:05.99 ID:WuQ7gEbjO












川ー川大人と子供の境界のようです











戻る

inserted by FC2 system