ξ ゚听)ξ『EMETH』のようです

1 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 22:41:51.10 ID:+rOgwdjEO
没ネタ:偉大な人形師ブーンの娘ツンがブーンの人形を殺していく話し

3 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 22:47:58.08 ID:+rOgwdjEO
月光降り注ぐその場所は、肌を刺す冷気に満ちている。

(  )「―――!!!!」
深夜のオフィス街。
本来静まり返っているはずのその空間に、人間に認識不可能な、超高音域の断末魔が響いた。
ξ  )ξ「……怖じ気づいた?」
一歩前へ。
砂に汚れた太刀をかざして近付けば、目の前の人形たちが後ずさる。
あたしの足元にはかつて『彼ら』を構成していた物質が、大量の『砂』が散らばっていた。
ξ  )ξ「なら帰りなさい。あたしだって暴れたいわけじゃないわ」
聞き入れる筈はない。
彼らが父の作りたもうた最新の泥人形である以上、父の命令に逆らうことは有り得ない。
それが分かっていてもあたしは言わずにはいられなかった。

残りは二体。
人型の泥人形が一。
爬虫類型の泥人形が一。

爬虫類型の体躯は大型。
この太刀で斬れるかどうか分からない。
なら泥人形共通の『弱点』を狙う以外に無く、それには俊敏な人型が邪魔だった。
(  )「――!!!!」
人型が弾かれたように飛び出した。
その腕には金属製の鉤爪。あたしを狙って振りおろされるそれを、太刀を翳して受け止める。

4 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 22:53:02.58 ID:+rOgwdjEO
がきん、と。僅かに甲高い音が夜闇に響いた。
ξ;゚听)ξ「ッ……」
双方の武器に伝搬する衝撃。
それが痺れとなって太刀を支える両腕に伝わり、思わず呻く。
さらに人型の左手が伸びた。掲げた太刀よりも下、下腹部を狙って突き出されるブロー。 それを避けるべく後ろに跳躍。
拳は、服をかすめただけに留まった。
跳躍でぶれた視界の端に口をあんぐりと開けた爬虫類型の姿を認める。次の瞬間吐き出されたエネルギー弾を避けるべく、着地点からの貫性に逆らう踏み込みで、人型の左側面に回り込んだ。
先程のあたしの居場所――今はもういないー―を目掛けて飛んでいくエネルギー弾。遅れて後ろから響くコンクリート壁の破砕音。
人型の、あたしへの注意が削がれた。
(  )「!!」
ξ#゚听)ξ「あああぁあッ!!」
覇気を伴った叫びと共に一撃を叩き込む。遠心力を伴った太刀が、人型の首にざくりと食い込んだ。
悲鳴を上げる暇も与えず、そのまますっと流れるように人型の首を刎ねる。胴体から離れた首、噴き出した血、崩れ落ちる胴体。その全てが地面に落ちるまでにその姿を変え、どこにでもあるような砂へと変わって地に広がった。

5 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:01:41.82 ID:+rOgwdjEO
ξ ゚听)ξ「…あとは、あんただけよ」
返り血もすぐに砂に変じた。
砂まみれの体で爬虫類型と対峙し睨みつけながら、一方で泥人形共通の弱点部位を――そこを削りとることで致命傷を負わせられる、『EMETH』の烙印を探して全身を見つめる。
先程のエネルギー弾の攻撃に関して言うなら、この爬虫類型泥人形。支援用だけあって動きは鈍く、遠距離攻撃は威力はあれど全くの直線だ。射線軸となる頭部を避けて回り込んでいればとりあえずの安全が確保できる。
肝心の『EMETH』の部位が分からないが、焦るほどでもない。時間はある。
回り込みつづけるあたしをどたどたと追いかける泥人形の姿は、端から見れば滑稽だったろう。
尾が動きに合わせて上下する。目的の物が目に入った。
尾の下側の付け根の部分に深々と彫られている。泥人形の製造完成の証であり、魔術師が泥人形を制御するための基盤となる烙印。『EMETH』。

6 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:17:57.15 ID:+rOgwdjEO
ξ ゚听)ξ「あった…!!」
太刀を構えつつ一気に距離を詰める。近付くにつれて、『EMETH』が視界一杯に広がっていく。
ξ ゚听)ξ「はあああああッッ!!」
力に任せて振り下ろし、烙印を尾ごと切り捨てた。
(  )「―――!!」
再び超高音域の断末魔。咆哮。
肉を切り裂いていく感触が太刀を通して手に伝わっている。本来なら尾を切ったくらいで決着はつかないが、『EMETH』ごと切り捨てたとなれば話は別だ。
(  )「――!!…!……」
切り捨てた部位から急速に全身が色を失う。そして砂と化し、ぼろぼろと零れ落ちていく体躯。
ものの数秒後には、爬虫類型のいたはずの場所に砂山が出来ていた。
ξ --)ξ「…ふうっ」
敵影が無くなったのを確認して、歩道の脇に腰を降ろす。
火照った体が急速に冷えていくのを感じながら、服に付いた砂を手で払った。
懐から携帯を取り出し、登録された短縮番号に掛ける。数回のコールののち低い男性の声が耳に届いた。

『ツン、終わったのか?』
「はい。ドクオさんは?」
『俺も終わった。今はどこだ?迎えに行く』
「えと…」
きょろきょろと辺りを見回し、目に付いた建物の名前を挙げる。
『了解。そこで待ってな』
通話が切れる。


12 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:39:16.69 ID:+rOgwdjEO
オフィス街に静寂が戻ってきた。
太刀に付いた砂を取り除きながらドクオさんの車を待つ。先程までの命のやりとりが、まるで夢だったかのような静けさ。

…夢なら、どんなにいいだろう。

今日も泥人形達を斬った。
昨日も泥人形達を斬った。
多分明日も。明後日も同じく。

繰り返す。
終わりは、どうにも見えなかった。

13 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/22(日) 23:49:01.08 ID:+rOgwdjEO
('A`)「…『ツン・ナイトウ』?」
父の友人だというそのいかにも冴えない男性は、パスポート片手にあたしを見比べて、何故か落ち込んだ顔をしていた。
('A`)「ブーンにこんな大きな娘がいたなんてな。それに比べれば俺は…」
ウツダシノウ、なんて物騒な声が聞こえてきたけど反応に困るので無視。
ξ ゚听)ξ「知らないのも無理はないですよ。
鬱田さん…でしたよね。父も私が生まれてから多忙で、殆ど日本には帰ってきてませんでしたから」
あたしの父である内藤ホライゾン――ドクオさん曰く、ブーンと言うあだ名だったらしい――は、あたしの祖国で名の知れた『人形師』、つまりは『泥人形(ゴーレム)遣い』として名を馳せた魔術師だった。
(-A-)「う―ん、そうか。あいつも報告くらいしてくれりゃよかったのにな。薄情な奴」
一人呟いて、革張りの応接ソファーにどかっと体を預けたドクオさん。
(-A-)「……しかし、信じられんよ、俺は」
深く溜め息。
彼の懸案はあたしがもたらし、同時に彼の所属先…日本国VIP市における対・魔術犯罪の治安機関。
特殊法人『VIPPER』がもたらしたものでもあった。
(-A-)「…巷を賑わすあの殺人鬼の正体が、内藤だなんて」

15 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 00:02:53.08 ID:xU8lZN8iO
ξ ゚听)ξ「…そう、ですね」

ずきり、と胸が痛みに悲鳴を上げる。

ガラステーブルに載った書類群。
直視したくない現実がそこにはあった。

【C国・中央公園テロ詳細】
【D国・高層ビル爆破テロ詳細】
【日本国・シラネーヨ氏殺害事件詳細】

まだまだ他にもある。次々と並ぶ事件資料はどれも同じ手口のもの。泥人形を使った殺人やテロ。


あたしの父が犯した罪の数々だ。


('A`)「内藤とはVIPPERの訓練生時代に知り合った。最もあいつは泥人形造りのその能力を認められて、早々に君の祖国…C国に招かれたけどな」
ただ、と続ける。
('A`)「ただ俺が知る限り。
あいつは才能があるのに驕った所もなくて、素直で、普段だとどっか抜けてて。誰からも好かれるような奴だった。
こんなことするような奴じゃあなかった」
声が沈んでいる。ぼんやりと思った。この人は昔の父に似ている。

優しい、のだ。

('A`)「なんで、こんなことになっちまってるんだろうな」
悲しげに呟く彼。
ξ ゚听)ξ「……わかりません、私にも。父がどうしてこんなことをしでかしたのか」
その彼に、あたしは嘘でもって答える。

19 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 00:20:22.95 ID:xU8lZN8iO
知っている。分かっている。
何故父がこんなことをしたのかは。
ξ ゚听)ξ「…独自に調べた襲撃情報と、共通点です。どうぞ」
――洗い出してなんていない。元から父の目的は分かっているのだから、それに当てはまるものを並べ立てているというだけ。
全部吐き出してしまいたい。そんな甘えを無理やり押さえ込み、ドクオさんに資料を差し出した。



ξ ゚听)ξ「……なんだか懐かしいです」
('A`)「ん?」
夜闇を駆け抜ける車、その中。運転席のドクオさんが言葉に反応したことに、あたしは思いがけず慌てふためいた。
ξ ゚听)ξ「あっ、えっと。もう半月になるんだなあ、って思って」
('A`)「半月…ああ、ツンと俺が初めて顔を合わせてからか」
ξ ゚听)ξ「そうです」
私が頷くとドクオさんが苦笑いを浮かべた。彼の表情が複雑に歪む。
('A`)「ま、嬉しいような悲しいようなって感じかな」
ξ ゚听)ξ「…すみません」
軽々しい発言をしたことに気づいて頭を下げる。
半月経ってもあたしがいる。つまりは事態が半月経っても良くなっていないということだ。

20 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 00:40:13.58 ID:xU8lZN8iO
具体的に言えば、父の居所が分からない。

父が泥人形に襲撃させる場所は予想がついている。だから迎撃は可能だけれども、父の居場所を見つけださなければ根本的な解決は望めない。
今の状況は言うなれば、私達と父のいたちごっこでしかないのだ。

無論捜査については素人の私と違い、ドクオさんはそんなこととっくに分かっている。
ξ ゚听)ξ「ドクオさん、聞き込みの方は…?」
('A`)「前と変わりないな。引き続き市内のホテル、今度はラブホなんかも併せてVIPPER職員で総当たりしたんだが。
やっぱあいつの目撃情報は無かったよ」
ξ ゚听)ξ「……」
('A`)「あとは観測班の波形解析に頼るしか無いな。それまではツン、今まで通り……」
ξ ゚听)ξ「『ラウンジ』の元日本支部長・井上モララーの周囲を警護する、ということですね」
彼が頷いた。


人権団体・ラウンジ。


魔術が一つの文化として公に認められ。世間に浸透し始めた現代において、その団体名は良くも悪くもよく話題に登る。

元は他の人権団体とさほど変わらない。
社会的格差の是正を訴える機関であったものが、魔術が表舞台に現れてしばらくしたころ、大きく方針を転換した。

22 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 00:54:43.11 ID:xU8lZN8iO
魔術の中には、人の似姿を作り出すことのできる魔術も存在する。

代表的なのは、『錬金術』で生成される『ホムンクルス』。
そして『カバラ秘術』で生成される『泥人形(ゴーレム)』。
他にも数多い。

『人の手で人の似姿を生む』。
それは科学で言えば、人間のクローンを造る行為と酷似している。
クローン問題に人一倍否定的、過激なデモ行動を辞さないほどだったラウンジがその問題を見逃す訳はない。
次第にその行動は『魔術的に作成された人型生物』の排斥デモ行動へと移っていった。

そんな過激団体として名を馳せるラウンジ。その日本支部の現支部長だったのが、先日殺された天城シラネーヨ。
そしてシラネーヨ以前に日本支部長の座についていたのが、このVIP市に居を構える井上モララーという弁護士の男だった。

23 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 01:06:03.63 ID:xU8lZN8iO
('A`)「まあ今日はもう遅い。帰ってさっさとゆっくりしようぜ?
休める時に休んでおかなきゃな」
休めるうちに休む。
戦いの先輩である彼の言葉を心の中で反芻する。
ξ ゚听)ξ「はい。
……あ、ドクオさん。お店に寄って下さい、コーヒーが切れちゃいました」
('A`)「了解」
そうしてあたしの思考は、今日の晩御飯に思いを巡らせる作業に切り替わった。

* * *

窓越しに差し込む朝日を顔に受け、目を覚ます。
ξ --)ξ「ふぁ…」
人には見せられないような大きな欠伸を一つ。のろのろと洗面台で顔を洗い、身支度を始める。
昨晩帰ってから手入れをしていた太刀を、運搬用ケース――他者に与える威圧感に配慮し、中が見えない黒のエナメルで作られている――にしまい込み。
ボトムスには黒のパンツ、トップスはワイシャツに茶のジャケットを纏う。髪や化粧、身だしなみを再度確認。
さらにボトムスを覆うように上から編み上げ式のブーツを履いて寮棟を出、食堂に顔を出す。
そこには煙草を吸いながら新聞に目を通すドクオさんがいた。
('A`)「おはようさん」
ξ ゚听)ξ「おはようございます」

24 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 01:16:49.73 ID:xU8lZN8iO
本来外部の人間であるはずのあたしは、VIPPERの寛大な処置により『客人』という形で父の捜査に関わらせてもらえている。
VIPPERの職員寮までこうして使わせてもらえているのだから、本当に頭が下がる思いだ。
食堂のおばちゃんからサンドイッチを受け取ってドクオさんの前に座る。彼自身は寮暮らしではなく、自分のアパートがきちんとある。
ここにはわざわざあたしを迎えに来てくれているのだ。

井上モララーの警護交代時刻まであと一時間半。

内心複雑な気持ちではある。
私がなぜよりによって、ラウンジの人間を守らなければいけないのか。
おとぼけで優しかった父がああ変わってしまったのも、デレが死んだのも、ラウンジのせいなのに。

そこまで考えて、しかし思いを打ち消した。
違う。

確かにラウンジのせいでデレは死んだ。
でも井上モララーは実行犯でも、それを命じたわけでも、厳密に言えばあたしの国に少しの関わりすら持たないのだ。
井上モララーは、ただラウンジにかつて在籍していたというだけの人間。

そんな人物まで恨んでしまうのなら、あたしは父と同じになる。
ラウンジの人間を殺すためなら何でもやる悪意の塊に。

25 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 01:28:45.62 ID:xU8lZN8iO
――あたしは、かつての父を取り戻すためにここにいる。

履き違えてはいけない。
あたしの目的は、復讐ではないのだ。



早々にサンドイッチを胃に詰め込んでドクオさんの車に乗り込む。
井上モララーの仕事場はそう遠くはない。名のある弁護士である彼は、そのネームバリューに相応しい大きな住居兼事務所を抱えている。
いや、抱えていた、というべきか。

原因は分からないが、彼はラウンジ日本支部長を自ら辞任したのちに弁護士職までも休職している。現在はあまり外出することもなく、友人以外には顔をあわせることもないらしい。
かくいうあたしも彼の姿を見たのは一度だけ、しかもドクオさんと話しているのを遠巻きに見ただけだ。

左折、直進、そして小さな道へ。井上モララー宅への最短のルートをたどり、車が中庭の広大な駐車スペースに停められる。
降り立つドクオさんに続いてあたしも外へ。
あちこちにVIPPERの制服を着た職員達が待機している。
彼らはドクオさんを初めとする現場主任の指揮下にある、一般職員の人達だ。
彼らに挨拶しようとして――突如、あたしは背後から視線が注がれているのを知覚した。
ξ;゚听)ξ「ッ!?」

26 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 01:41:09.50 ID:xU8lZN8iO
視線の方向へ振り向く。
誰もいない。一瞬思い違いかと考えるが、すぐにその間違いに気付いた。
三階建ての住居、その一階。カーテン越しにあたしを覗き込む人影がある。
( ・∀・)
やや疲れの色が見えるものの、それを差し引いても端正で凛とした顔立ち。
井上モララー本人だ。
彼はあたしが視線を向け返したのを見て、慌てて奥へ戻っていく。
ξ;゚听)ξ「……?」
一体何だったのだろう。
……ともあれ、配置につかなくては。
そう考えてきびすを返す私の目の前に、何かが現れ――同時に、腹部へ一撃を受けた。
ξ;゚听)ξ「がっ……!」
その打撃の重さに踏み堪えられずに体が宙を舞う。
('A`;)「ツン!」
( ;)「内藤さん!!」
ドクオさんや他の職員の皆の、悲鳴にも似た叫びが飛んだ。
口内を切ったのか血の味がする。
腹部は……大丈夫だ。これくらいで死ねるような体ではない。
受け身をとるべく体を丸め、姿勢を制御しながら相手の姿を視認。
言うまでもない。泥人形、だ。
タイプとしては古式で大型、鈍重、無骨。中世ヨーロッパ、魔術の黄金時代と呼ばれた時代の泥人形。
しかし泥人形を作成するには本来ある程度の時間と工程を必要とする。
それを初期型とはいえ、瞬時に作成してしまうその手腕。

28 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 01:56:00.00 ID:xU8lZN8iO
そんなことができる人間を、あたしは一人しか知らない。

受け身を取り地面に転がる直前、あたしの視界は敷地に歩みを進めようとする一人の男を捉えた。
( ゚ω゚)「――なんでここにいるんだお、ツン」
かつての柔和な表情は見る影もなく、不気味な冷たさを湛え。
瞳は悪意に取り付かれたかのように血走り。
手には泥人形を作成するために土に埋め込む、小型の銀の円筒を数本。
土にまみれた白衣が翻る。

あたしの父。
内藤、ホライゾン。


('A`;)「ッ、確保しろ!」
ドクオさんの指揮に職員さん達が両手銃を構える。一気に放たれた散弾は、父の泥人形によって阻まれた。
( ゚ω゚)「……」
いくら泥人形といえど、強化コーティングもされていない初期型。
銃弾の雨には長時間耐えられずに蜂の巣になり崩れ落ちる。
壊れ逝く泥人形を見ながら無表情で佇む父。
しかし次の瞬間、何かの異変を感じとった。
目を見開く。僅かな焦りが表情に滲み出た。
いきなりぐらりとバランスを崩した父の姿に、あたしはVIPPERが父に何をしたのか朧気に理解する。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/23(月) 02:02:19.33 ID:xU8lZN8iO
('A`)「ツン!大丈夫か!?」
父の隙を縫ってドクオさんが駆けてきてくれた。手には他の職員さんと違う一際大きい銃。銃砲、といって良いサイズかもしれない。
ξ ゚听)ξ「私は大丈夫です!ドクオさん、あれ…!」
('A`)「散弾に紛れ込ませて催涙弾を撃った。屋外だから効果は薄いぞ…!」
その間に確保だと呟き、ドクオさんが再び父へ向かって走り出した。
重い銃砲を地面に放り出し、ベルトのホルスターに手をかけて回転式拳銃を抜く姿が見える。あたしも続かなくてはいけない。
運搬ケースから太刀を引き出し、走りながら鞘から抜いた。
( # ゚ω゚)「……ッ、舐めるな、おッ!」
催涙ガスによってダメージを受けている目を押さえながらも、片手で円筒を土と接触。円筒は土に飲み込まれて泥人形の構成の核となり、恐るべきスピードで土を吸い上げて人型に凝縮させていく。
初期型の泥人形が、5秒と経たずに再び姿を現した。
( # ゚ω゚)「ゴーレム、薙ぎ払えおッッ!!」
命令に従い腕を振りかざそうとする泥人形。
このままでは、ドクオさんや近場の職員さん達が危ない。
ξ ゚听)ξ「させないッ!」
跳躍する。
初期型の体長、目測2,5m。
元々は馬上戦闘用に生まれた太刀。このリーチなら、腕くらいには刃が届く…!

30 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 02:14:26.23 ID:xU8lZN8iO
跳躍の勢いを維持し、泥人形の腕を斬り捨てた。
そのまま着地。今度は懐に踏み込み、口目掛けて太刀を投擲、刺し貫く。

刹那、泥人形は砂となって崩れ落ちた。

砂と共に落下する太刀の先には刺し貫かれた銀の円筒と、同じく刺し貫かれた円筒の中身である、『EMETH』が書かれた羊皮紙が引っかかっている。

それを睨む見る父と目が合う。
ξ ゚听)ξ「……甘いわよ。
まがりなりにも父さんの娘。昔からの父さんの技ならあたしも知ってるわ。
どの種類の泥人形が、どこにEMETHを持ってるかなんていうのは」
( ゚ω゚)「……なんで、ここにいるんだお」
繰り返される問いかけ。
ξ ゚听)ξ「父さんを止めるためよ」
そう告げれば、静寂が場を支配する。

対峙する父とあたし。
回転式拳銃を手にしたままのドクオさんも、他のVIPPERの職員さんも、手を出していいのか考えあぐねているらしかった。
('A`)「――ブーン」
戸惑いながらのその声に父がぴくりと反応する。
('A`)「ことごとく差し向けた泥人形が殺られて。そんでこっちに腕利きがいるのを知って、わざわざ警備の交代時間を狙ったわけか」
( ゚ω゚)「…ドクオ、かお」
('A`)「あぁ俺だ。同じ釜の飯食って同じ部屋で寝泊まりして同じエロゲで白熱した仲だ」

31 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 02:42:30.15 ID:xU8lZN8iO
('A`)「その俺がどうにも腑に落ちないんだ。
まがりなりにもVIPPERの職員だったお前がなんでこんなことやってる。なんでこうなっちまった?」
ドクオさんの怒りと悲しみの入り混じった視線が父に向けられた。
( ω )
一瞬。ほんの一瞬だけ、父の表情が弱々しく曇る。
( ゚ω゚)
そしてまたあの冷たい表情へ。
( ゚ω゚)「…ドクオ。
法は、無力だお。
ラウンジを裁けなかった。だから僕が裁いてやるんだお」
(;'A`)「裁く……?」
( ゚ω゚)「……。お喋りが過ぎたおね。機を逃したみたいだし、僕は帰るお」
場の緊張を歯牙にもかけず、あたしたちに背中を向ける父。それでいて銀の円筒を手から離さない。今追ってくるなら容赦しないという牽制の意思表示だった。
最後にもう一度あたしたちを振り返る。
( ゚ω゚)「…ツン。
お前は今すぐ家に帰れお。僕はそんなことをさせるために、お前を――」
声の最後は風にかき消されて聞き取れない。
でも、父が何を言わんとしているのかは想像できた。

32 名前: ◆YQwes.4rUA[sage] 投稿日:2009/11/23(月) 02:55:56.30 ID:xU8lZN8iO
悠然と去る父。やがて姿が視界から消える。
('A`)「……被害状況を確認。
あと奴の持ってた円筒の残骸があるだろ、あれは観測班に回せ。魔力波長で隠れ家を割り出せるかもしれん」
ドクオさんの指示の声に場の緊張状態は一気にかき消え、慌ただしい後処理が始まった。

一人佇む、あたしを除いて。

“…ツン。
お前は今すぐ家に帰れお。僕はそんなことをさせるために、お前を――”

ξ --)ξ「お前を『生み出した』訳じゃない。
……知ってるわよ。
知ってるわよ、そんなこと……っ」
それでも後には引けない。
胸がどうしようもなく苦しい。
知らず知らずのうちに、あたしは右の脇腹を服の上から撫でていた。


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