- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:09:18.95 ID:gPfpLmb50
- 「ふざけるな! ワシの財産は貴様らなんぞには渡さんぞ!」
穏やかでない叫び声が廊下に響き渡って、僕は目を覚ました。
声の主は、恐らくモナーさん。
僕が今泊まっているこの館の主でもある。
日本でも有数の富豪である彼ともなると、様々ないさかいがあるのだろう。
とりあえず、その事について僕が聞き耳を立てたりするのは間違いと言うものだ。
そう思い、僕はまどろみに緩む瞼を閉ざして、再び眠りについた。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:16:39.90 ID:gPfpLmb50
- 翌朝。
窓から差し込む陽光が瞼をすり抜け眼球を刺して、僕は目を覚ました。
寝ぼけまなこを擦りながら凝り固まった首を回す。
次に両腕を頭上へ伸ばして――そこで僕は、なにやらドアの外が騒々しい事に気が付いた。
訝しいと思った僕は、さっさと身だしなみを整えて部屋を出ることにした。
ドアを開くと、どうだろう。
屋敷の大広間から聞こえていた声が一瞬やんだ。
僕が目を覚ました事が、そこにいる皆に知れ渡ったらしい。
しかし、こんな朝っぱらから一体何をしているのか。
首をかしげながら、僕は大広間へと歩いていった。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:23:53.53 ID:gPfpLmb50
- 長い廊下を抜けて、僕は大広間の扉へと辿り着いた。
ノブに手をかけると錆付いた金属同士が噛み合って、不快な音が奏でられる。
同時に、扉の向こうで飛び交っていた話し声が再び萎え消えた。
何を話していたのかは分からないけど、ひとまずは僕もその話し合いに混ぜてもらおう。
( ・∀・)「おはようございます。こんな朝早くに一体何をしているんですか?」
ドアを開き隙間から顔を覗かせて、僕は大広間の面々に問いを投げかけた。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:38:58.50 ID:gPfpLmb50
- 「……」
けれども誰一人として、答えを返そうとはしてくれなかった。
代わりに、口を真一文字やへの字の閉ざしてなにやら敵意のような――
だけどそれにしてはやけに怯えを孕んだ視線が僕に向けられる。
( ・∀・)「……あの」
彼らの反応に、僕は戸惑いを表に出す事を抑えられなかった。
何かを聞こうと口を開いたが、何を聞けばいいのか分からなくて続きが出てこない。
川 ゚ -゚)「……昨夜」
澱み留まった場の空気を一層しようと思ったのか、一人の女性が出し抜けに声を発した。
名前は、記憶違いがないのならば素直クール。
たしか僕と同じく、モナーさんに招待されていた客人だった。
と、僕が記憶の引き出しをしていると、素直クールは再び声を紡ぐべく口を開いた。
赤いルージュに彩色された唇がゆっくりと開かれ、
川 ゚ -゚)「モナー氏が殺害された。それを今朝方メイドが見つけ、今に至る」
僕にとって、いや誰にとってもそうだろうけど。
ともかく衝撃的な解答を、提供してくれた。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:46:51.53 ID:gPfpLmb50
- (;・∀・)「……はい? え、モナーさんが……?」
答えは得られたけど、僕の中での疑問は逆に増えてしまった。
モナーさんが殺害……殺されて……死んだ?
(;・∀・)「えっ、ちょ……こんな事してる場合じゃないですよ! 警察を呼んで……!」
言うべきことが、上手く出てこない。与えられた情報が余りにも大きすぎて、処理が追いつかない。
从'ー'从「それが、無理なんです」
僕の舌が空回りをしている内にまた一人、女性が口を開き言葉を発した。
提示された情報は相も変わらず衝撃的で、絶望的だった。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 12:54:22.50 ID:gPfpLmb50
- 川 ゚ -゚)「丁度いい。ねぼすけの新参君の為にも、一度情報をおさらいしてみようじゃないか」
無機質な視線を僕に向けながら、素直クールはそう言った。
川 ゚ -゚)「現状を端的に表現するならば、これはクローズドサークルだ」
クローズドサークル、推理小説なんかでは良く見る単語だけど、今はそんな事はどうでもいい。
紡ぎ出された情報をせき止めないように、僕は口を挟まず無言でいるべきだ。
川 ゚ -゚)「館の主が殺され、電話線は切断されていた。更に館の出入り口は全て使用不可能とされている」
随分と用意周到なものだと、素直クールは嘲るような調子で笑ってみせる。
それはこの状況に対する、せめてもの抵抗に見えた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 13:01:27.49 ID:gPfpLmb50
- 川 ゚ -゚)「さて……これだけの人数が雁首を揃えて集まった情報がこれだけと言うのも寂しいものだが。
最後に一つだけ、最も重要な情報がある」
やはりどこか口調に嘲りを潜ませて彼女は口を開く。
その情報は、きっと誰もが分かっている事だ。
僕だってもう、察しがついている。
川 ゚ -゚)「我々は今、殺人犯と空間を共有している」
……やっぱり、そうなっちゃうんだよなあ。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 13:14:56.25 ID:gPfpLmb50
- 彼女が言葉を終えると同時に、空気が明らかに毒々しく尖ったものに変貌した。
从'ー'从「……無意味に不安を煽るのは、やめて頂けますか? この子達も怯えてしまいます」
メイド服に身を包んだ女性が素直クールをきっと睨み、強い語調で彼女を諌めた。
川 ゚ -゚)「無意味じゃないさ。知っておくべき事実だ。
部下の面倒見がいいのは美徳だが、その子達に後ろから刺される可能性だってあり得るのだからな」
从'ー'从「……っ! もういいです。私たちは一度部屋に戻らせて頂きますから。
食事が必要になったり、何か館の事で分からない事があればお呼びを」
主が亡くなったとは言え、私たちはメイドですので。
そう言い残して、彼女とその後ろでびくついていた数人のメイドは大広間を出て行った。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 13:33:24.31 ID:gPfpLmb50
- 川 ゚ -゚)「……やれやれ。まあ丁度いい節目だ。ここで一度解散としようか」
来て早々に、何やら解散を言い渡されてしまった。
なんだか僕が空気を悪くした遠因のようで、正体も根拠も不明の罪悪感が湧いてくる。
_
( ゚∀゚)「こんな殺人犯がいる大広間にいられるか……ってのはモロに死亡フラグだしなあ。別にここに残ってもわるかないんだろ?」
無意味な罪悪感に眉を顰めていると、突然一人の男が訳の分からない事を口走った。
何なんだこいつは。
川 ゚ -゚)「それは構わんさ。そもそも流れでこうなってしまったが、私が場を取り仕切る理由もないからな」
_
( ゚∀゚)「まあそうだわな。んじゃ俺はここでのんびりさせてもらうぜ。
ぶっちゃけ寝坊して朝食食い損ねて腹も減ってるしな」
ああ、そう言えば僕も朝食の時間を逸しているじゃないか。
となると僕は空腹を堪えると言う選択を度外視すると、必然的にこの男と一緒に過ごす必要がある訳だ。
川 ゚ -゚)「それならそれで構わんが、この状況では食料にも限りがあるだろう。無駄に浪費するような真似はよしてくれよ」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 13:41:38.18 ID:gPfpLmb50
- _
( ゚∀゚)「言われなくても、そんなアホじゃねーよ」
言動と口調からはアホの臭いがぷんぷんするんだけどな。
なんて事を考えていたら、何故だか男がこちらへと視線を向けた。
_
( ゚∀゚)「んじゃ、行こうぜお寝坊さんよ。アンタも朝飯食い損ねた口だろ?」
(;・∀・)「あ、え……まあ」
思考の最中に話しかけられて、僕は中途半端に肯定の答えを返してしまった。
よしきたと言わんばかりに、ソファに腰掛けていた男が立ち上がる。
_
( ゚∀゚)「よっしゃ、そうこなくっちゃな。ってな訳でよろしく、俺はジョルジュ長岡って言うんだ。アンタは?」
男は僕に歩み寄りながら、まくしたてるように自己紹介を済ませた。
やけにテンションが高く押しの強いこも男はどうにも苦手なタイプの気がしたが、
だからと言って朝食を逃す訳にもいかないだろう。
僕は仕方なく自己紹介をするべく、空腹と驚愕で乾ききった唇を開いた。
8:30 モララー
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 13:56:40.95 ID:gPfpLmb50
- 大広間から食堂へと向かっていく男二人を、私は横目でずっと見ていた。
あの二人は何故、二人で食堂へ向かったのかしら。
単純に食事を取るという目的が一致したからなのか。
それとも、どちらかがもう一方を殺そうとしているのか。
或いは、何かしらの共謀があるのか。
……頭を軽く振って、疑心暗鬼を頭から飛ばす。
今の私は、過剰に人を疑うようになってしまっている。
父親を殺されれば無理はないって、自分でも思うけれど。
完全に人を信じきってはいけない。
だけどある程度は信用をしないと、やっていけないのも事実だわ。
与えられた情報を疑うばかりでは真実は曇っていくし、何より心が壊れてしまうから。
(;^ω^)「……ツン、大丈夫かお?」
傍らにいた恋人――ブーンが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私はそんなにも、思いつめた表情をしていたのかしら。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 14:05:36.41 ID:gPfpLmb50
- ξ゚听)ξ「大丈夫よ。別に、そんなに堪えてないから」
これは別に嘘じゃない。
あの人との間に、親子の情があったとは思えないから。
私は創作の世界によくあるような、跡継ぎとしか見られていなかった娘。
だから私が今狼狽しているのは、父親を亡くしたという事実が
世間一般で悲劇と称されるからだ。
父親を亡くしたという事よりも、自分の身に悲劇が降り注いだって事の方が、大きいのだ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 14:12:26.93 ID:gPfpLmb50
- ( ^ω^)「無理は……しないでくれお?」
まだ心配そうに、ブーンは私を見ている。
大丈夫だって言ったのに、心配性なんだから。
ξ゚听)ξ「……ありがと」
普段ならきっと「うっとうしい」とか言ってたんだろうけど、
今の私には彼の気遣いがありがたかった。
大丈夫。
そう自分自身に言い聞かせる。
私にはブーンがいる。
彼は少し抜けているけど、とても力強くて、とてもあたたかに私を守ってくれる。
だから父を殺した犯人だって見つかるし、この館からも抜け出せるに決まっている。
そのために、私にはしなくてはならない事がある。
8:30 ツン
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 14:35:46.17 ID:gPfpLmb50
- _
(;゚∀゚)「……おいおい、冗談キツいぜ」
目の前に並べられた現実の辛辣っぷりに、俺は思わずそう呟いた。
_
( ゚∀゚)「こりゃあ……どうしろってんだよ」
今の状況を有り体に言っちまえば、たった一言で表せる。
食糧難、だ。
とりあえず、火がつかねえ。
何度コンロのつまみを回してみても馬鹿デカい虫の羽音みたいな音が鳴り響くばかりで、
肝心の火がどうにもつきやがらねえ。
もう卵はかき混ぜちまったってのに、どうしろってんだ。飲めってか。
そして第二に、これはかき混ぜた卵をひとまず戻そうとして気が付いたんだが。
冷蔵庫の電源が落ちてやがる。
生ものはあと一日もしない内に全滅だろうなこりゃ。
とりあえず腐らせる前にとハムを取り出して噛み千切る。
一緒に食堂へ連れ立ったモララーって奴も、良くわかんねえ肉を取り出して齧っていた。
ってかそれ何の肉だ? 豚とかだったら何かやべーんじゃねえの?
良くわかんねえけど。
まあそんな訳でこの館に残された食料は、
消費期限24時間未満の生もの各種と、今現在館にいる人間が食い繋ぐには心許なさ過ぎる量の穀物だけって訳だ。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 14:47:00.45 ID:gPfpLmb50
- (;・∀・)「……早いところ出口を見つけないと、ヤバいね。これ」
食堂を見回しながら、モララーが呟く。
緊迫感溢れる台詞のはずなんだが、肉を齧りながらのせいでどこか致命的に抜けて見えてしまう。
とは言え、ヤバいってのはマジだから困る。
_
( ゚∀゚)「……だけど、どうするよ? 俺たちゃ客人なんだぜ?
この館の事なんて、俺はまだどの廊下の角を曲がったらトイレがあるのかすらわかんねえんだ」
俺の問いに、モララーが顔を顰める。
そうして口元に手を運ぶと、俯き加減になって思索を始めた。
( ・∀・)「……あのメイド達を頼ろう。彼女達なら、この館の造りにも詳しいはずだ」
おお、伊達に優男してねえな。そいつはナイスアイディアだ。
_
( ゚∀゚)「よっしゃ、そうと決まったらさっさと行こうぜ。善は急げだ」
残ったハムを全部口に詰め込んで、立ち上がる。
少し遅れてモララーも肉の咀嚼を終えた。
そして俺たちは、時限爆弾となった食堂を後にした。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 14:48:43.68 ID:gPfpLmb50
- 9:00 ジョルジュ
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 17:44:39.09 ID:gPfpLmb50
- モナー氏に借りた部屋に戻った私は、この部屋に錠がない事に気が付いた。
また少しだけ、気が滅入る。
私は殺人鬼に対して、この上なく無防備だ。
川 ゚ -゚)「犯人は……一体誰なんだ?」
一体誰が、一体何故、一体どうやって、モナー氏を殺したのか。
怪しいのは……やはりあのメイド達だ。
全ての出入り口が封鎖出来るのは、この館を知り尽くした人間しかなし得ない。
モナー氏を殺す動機も、長年働いている間に降り積もったと考えれば不自然ではない。
川 ゚ -゚)「やれやれ……食事には少し、気を付けなければな」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 17:56:16.77 ID:gPfpLmb50
- しかし、これでモナー氏の会社との商談は振り出しへ戻ってしまった。
川 ゚ -゚)「……人が一人死んでいるのに商談の心配とは、我ながらふざけた頭だな」
自分への嘲りを込めて、鼻で笑う。
昔から人間らしい情が足りていないと、色々な人から言われていた。
初めは親で、次は通知表に、歳を重ねると友人からもそう言われるようになった。
小さい頃から、私は人間失格を言いつけられてきた。
だから私は躍起になって、学んだ。鍛えた。
他の誰よりも、上に立つ為に。
この館からも絶対に、私は生きて脱出してみせる。
もしも犯人が私の命を脅かすと言うのなら、容赦はしない。
私は人間失格なのだから、人間を殺す事だって躊躇わない。
そんな事を考えていると、不意に部屋のドアがこんこんと二回叩かれた。
招いた覚えのない来客は、果たして何を運んできたのだろうか。
9:15 素直クール
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 18:14:41.69 ID:gPfpLmb50
- ( ・∀・)「そう言えばジョルジュさん。あなたは何故この館に?」
長岡と言う苗字を聞くに、モナーさんの親族ではなさそうだ。
となれば何故、ジョルジュ長岡はこの館にいるのだろう。
_
( ゚∀゚)「あー? 別に大したことじゃねーよ」
( ・∀・)「その大したことじゃない事が気になるんだよ」
嘘だ。正直な事を言うと割とどうでも良かった。
けれどああやってはぐらかそうとされると、逆に聞きたくなってしまう。
これは多分僕だけじゃなくて、人間ならあって当然の反応だと思う。
_
( ゚∀゚)「……あー、まあいいけどさ。隠すような事でもねーし」
そう言ってジョルジュは一旦言葉を切って、頭を指で一掻きしてから口を再び開いた。
_
( ゚∀゚)「商談がな、あったんだよ。モナーさんとさ」
紡がれた答えに、僕は思わずはっと息を呑んでしまった。
( ・∀・)「商談……?」
驚愕に揺らいだ頭では碌な言葉を考える事も出来ず、
僕はせめてもの場繋ぎにジョルジュの言葉をオウム返しにする。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 18:23:16.93 ID:gPfpLmb50
- _
( ゚∀゚)「ああ、商談。俺はモナーさんの会社と浅からぬ付き合いがあってね」
どう言うことだ。
ジョルジュはモナーさんと商談をするために、この館へやってきた?
モナーさんと商談をしていたのは、僕だけじゃなかったのか?
疑念が動揺を呼ぶ。
けれども、それを表に出すのはよくない。
それだけは分かる。
(;・∀・)「へえ……それは、見かけによらずエリートさんなんだね。ははは」
動揺を包み隠すように、減らず口を叩いた。
_
( ゚∀゚)「見かけによらずって……お前今まで俺をどう思ってたんだよ」
ジョルジュはその減らず口に、苦笑いを浮かべる。
僕の焦りは、悟られてはいないようだ。
けれどもまた、考えるべき事は増えてしまった。
……もっとも。
犯人の候補はなんとなく、もう頭の中で出来上がっているんだけど。
9:10 モララー
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 18:39:20.11 ID:gPfpLmb50
- メイド達の部屋を探し始めてから大体10分が経過した頃だったか。
あまりの部屋数の多さに、モララーは「手分けして探そう」と提案をしてきた。
実際効率を考えるのならその方がいい。
まあ、その分一人になると言う危険が生まれるんだけどな。
とは言えモララーが犯人である可能性も無きにしもあらずで、
そう考えるとやっぱり一人になった方が安全で……だあもうややこしい。
無限ループって怖くね、と思考を強制終了だ。
まあそんな経緯があってだ。
俺は今、ひたすらドアをノックし続けると言う訳の分からん苦行に励んでいる。
とか言ってる内に……おっ、部屋の中で反応があったぞ。
こいつぁビンゴか?
「誰だ?」
っと、残念。
中にいたのは胸の大きなメイドさんじゃなくて、胸も情も薄っぺらそうなお姉ちゃんだったようだ。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 18:53:04.08 ID:gPfpLmb50
- _
( ゚∀゚)「おっと失礼。別にお一人の時間を邪魔しようとかそう言う訳じゃないんだがね。
ちょっとあのメイド達に用があったからさ。今こうして探し回ってんのさ」
「メイド……? ああ、そう言えばあのメイド。たしかに部屋がどこにあるのかも言わずに出て行ったな。
呼べと言っておいてそれはないだろうに。……それで、一体何の用があると言うんだ?」
_
( ゚∀゚)「ん? あーそりゃ……」
返された問いが逡巡を生んで、そいつが俺の口を押さえつける。
食料がヤバい事を、今ここで言うべきなのか?
_
( ゚∀゚)「……野郎二人が食堂に行って、メイドを探してるんだぜ? 察しがつかねえか?」
やはり無駄な不安を煽る事はないだろうと、俺はてきとうに誤魔化した答えを返した。
「……そう言う事か。せいぜい一服盛られないように気をつけるんだな」
ドア越しに、呆れたような声が返ってくる。
うまく誤魔化せたようで何よりだ。
しっかしまあ、つれないを通りこして何だか悪意さえ感じる一言だったな。今のは。
_
( ゚∀゚)「お気遣いどーも」
心無い言葉に心にも無い言葉を返却して、俺はドアの前から立ち去った。
9:20 ジョルジュ長岡
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 19:07:11.58 ID:gPfpLmb50
- 食堂から二人の男が出ていった。
どうやらあの人たちも少し遅めの朝食を終えたらしい。
その事を考えるとまたなんだかお腹が空いてきた。
でもあまり食べ過ぎるとツンが怒るから、食べるのはやめておこう。
そう言えばこの前読んだ小説では、閉じ込められた上に食料がなくなって
それはもうひどい有様になっていた。
僕のせいでそんな事になっては困るので、やっぱり食べるのはやめておくべきだ。
食への未練を断ち切るために、僕はちらりとツンを見る。
顔色こそ普通だけど、固い表情は相変わらずみたいだ。
……お父さんが殺されちゃったんだから、そんなすぐに治る訳はないんだけど。
( ^ω^)「……ツン、部屋に行かないかお? ここは、ほら……」
いるのは分かっているけど、やっぱり口に出すのは何か抵抗がある。
テレビでも新聞でも沢山報じられているけど、人を殺す人がいるだなんて、
僕はどうしても信じたくない。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 19:15:25.90 ID:gPfpLmb50
- ξ゚听)ξ「……殺人鬼がくるかもしれないから、かしら?」
けれどツンは、それを何のためらいも見せずに言ってのけた。
( ^ω^)「……そうだお。部屋のほうが、ここよりきっと安全だお」
ξ゚听)ξ「お父様は、鍵の掛かった寝室で殺されたのに?」
(;^ω^)「う……」
確かにそうだ。今朝方、メイドの渡辺さんが困ったように言っていた。
「あれれ〜? 館のマスターキーがないよ〜?」って。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 19:16:39.97 ID:gPfpLmb50
- 渡辺さんはよく物を無くす。だから今回もそうかもしれない。
けれどもしも誰かがマスターキー持ち去ったのだとしたら。
この館の中で、安全な場所は実質存在しない。
そうなってしまう。
( ^ω^)「でも、やっぱりここよりかは安全だお。出入り口だってひとつしかないし……」
絶望に塗れた予想を振り払おうと、ツンの手を取った。
引っ張りはしない。彼女が立ちたくないと言うのなら、僕はそれに従うまでだ。
ξ゚听)ξ「……そうね。行きましょう」
小さくそう言うと、ツンは腰掛けていたソファから立ち上がる。
少しだけツンが前向きに見えて、僕は内心でほっと息を吐いた。
大広間を後にして、僕達は手を繋いだまま廊下を歩く。
僕は誰が犯人かだなんてまったく検討も付かないけれど。
それでも彼女だけは、守り通してみせるんだ。
9:30 ブーン
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 19:44:08.51 ID:gPfpLmb50
- 私が、しっかりしなくては駄目だ。
部下のメイド達は皆怯えてしまっている。
この館に殺人犯がいて、更に自分たちが閉じ込められてしまったとなれば、当然だ。
正直な事を言えば、私だって怖い。
今すぐにでも一人で部屋に篭って、毛布に包まって泣き出してしまいたい。
体の震えを隠すために、精神を削ったりなんかしたくはない。
だけど私がそうしてしまったら、彼女たちはもうどうしようもなくなってしまう。
私はメイド長なのだから、他の皆が挫けないように拠り所になってあげなくては。
「……私たち、これからどうなっちゃうのかしら」
メイドの一人が、重さに耐えられなくなった分の不安を口から吐き出した。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 20:07:46.88 ID:gPfpLmb50
- 从'ー'从「大丈夫よ。何があっても、私が絶対に守ってあげる」
前向きに、前向きに。
私はその不安を言葉で掻き消す。
「でも……出入り口はどれも塞がれてたし……人殺しだってまだ……」
それでも掻き消しきれなかった不安が、他の子たちに感染してしまう。
早く塞き止めないと。
不安は坂に転がした雪球みたいに、肥大化していく。
瞬く間に、手が付けられなくなってしまう。
从'ー'从「大丈夫。私の命に代えてでも、あなた達は守ってみせるから」
だから私は強い語調で、身をもってその雪玉を食い止める。
負荷がかかり心が軋みをあげるけど、そんな物は堪えてみせる。
从'ー'从「それに出入り口だって、探していない所はまだまだあるわ。希望は十分にあるわよ」
私の言葉に、皆の表情が少しだけ和らぐ。
良かった。
何とかだけど、不安を振り払う事が出来た。
出口が見つかるまで、犯人が見つかるまで、私は何度だってこうして皆を支えてみせる。
9:45 渡辺
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 20:31:58.27 ID:gPfpLmb50
- 自分の部屋に戻ってどれくらい経ったのかしら。
突然、扉が小さくノックの音を奏でた。
部屋の外にいる演奏者は一体誰で、何の目的を持ってこの部屋にやってきたのか。
私には検討もつかない。
(;^ω^)「……」
だから私もブーンも声を発さず、物音を立てたりもしない。
このままやり過ごせるのなら、不要な接触はしたくないと言うのが本音だわ。
「もしもーし、メイドさーん。いませんかー?」
だんまりを決め込んでいると、今度はドアの外から呼びかける声が聞こえた。
朝に一番の寝坊をしでかした、少し線の細い男の声だ。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 20:48:25.84 ID:gPfpLmb50
- ( ^ω^)「……どうするお?」
顔を近付けて、小声でブーンが聞いてくる。
ξ゚听)ξ「……アンタが決めていいわよ。仮に犯人だったとして、戦うのはアンタだし」
( ^ω^)「ちょ……マジですかお」
軽い冗談を飛ばせるくらいには、回復したんだなと自覚する。
ブーンはと言うと、どうしようかと悩んでいる様子だった。
と言っても、それは数秒も続かなかったけど。
( ^ω^)「じゃあ……返事、してみるお」
ξ゚听)ξ「……ん」
仮に外にいるのが殺人犯だとしても、ブーンの決断なら私はそれに従うわ。
彼は絶対に私を守ってくれる。くれるし、
もしもブーンが殺されてしまうような事があったら。
その時は私が首だけになってでも殺人犯を殺してやる。
その後で、私もブーンを追いかけてあげよう。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 21:09:04.63 ID:gPfpLmb50
- ( ^ω^)「はいもしもし。メイドではありませんけど、どうかしたんですかお?」
「おお、誰かいたんですね。いやあ、実はですねー」
ブーンの返事に、ドアの外の男が嬉しそうに声を上げる。
けれどもそれから数秒、男は急に黙りこんで言葉を発しなくなった。
まるで、何かを考えているのか悩んでいるのかしているようだけど、一体どうしたのだろう。
「……えっとですね。朝食を頂こうと思ったんですが、その……僕ら二人とも、男なもので……」
ξ゚听)ξ「……呆れた」
思わず、声が零れてしまった。
こんな時にうちのメイドを呼び出して、食事を作らせようとしているなんて。
ξ゚听)ξ「渡辺の部屋だったらこっちじゃないわ。大広間から左に行って三つ目の扉よ」
突っぱねるように、大きな声で返事をしてやった。
そんな馬鹿げた理由で歩き回っている男が、
私の部屋の前にいると言う事がなんとなく我慢ならなかったから。
私の目論見どおり男はすぐに、絨毯が発するくぐもった足音を立てながらどこかへと去っていった。
- 98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 21:10:42.97 ID:gPfpLmb50
- ツン 9:45
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 22:01:36.42 ID:gPfpLmb50
- 私の部屋にやってきた、ジョルジュとか言う男。
どこか様子がおかしかった。
まるで何か隠し事をしているような、そんな語調をしていた気がする。
川 ゚ -゚)「……何か、あったのか?」
いや、間違いなく何かがあったのだ。
その何かが――
出口が見つかったのか。
そこまででは無くても、光明が見つかったのか。
それとも、また誰かが死んだのか。
――それは、分からないが。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 22:10:41.00 ID:gPfpLmb50
- 川 ゚ -゚)「……安寧を捨ててでも、動くべきかな」
いずれにせよ、状況がまた揺れ動いた事は確かだ。
ならば私も、動かなくては。
置いていかれた者は、殺される。
それはどの世界でも通じる真理と言うものだ。
情報に、時勢に、集団に、置いてけぼりを食わされた者は殺されてしまう。
私は、絶対に殺されてなどやるものか。
確固たる決意を秘めて、私は与えられた安寧の殻を自ら後にした。
クー 9:50
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 22:30:49.26 ID:gPfpLmb50
- 普段の行いがよければ、きっといい事がある。
どうやらその法則は本当のようだ。
彼、ジョルジュ長岡と別れてから30分もしない内に渡辺さん――恐らくはあのメイドさんがどこにいるか分かってしまった。
一時間探し回ったら結果はどうあれ大広間で落ち合おうって話だったけど、
これでは随分と時間を持て余してしまうかもしれない。
( ・∀・)「……先に説明なんかは済ませておいた方がいいかもしれないな。
時間には限りがあるんだ。わざわざ彼を待つ必要もないだろうし……」
そう判断して、僕は一人先立ってメイドさんの部屋を目指した。
……にしても、この館は広すぎる。
大広間まで、軽く数十分は掛かりそうなんですけど。
モララー 9:55
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 22:54:23.15 ID:gPfpLmb50
- 皆を守る。
さっき口にしたその言葉は、決して嘘じゃない。
だけどそれが本当だとしても、結果的に嘘になってしまえば何の意味もない。
ただこの部屋で篭っているばかりでは駄目だ。
出口を見つけなくては、皆の不安は段々募っていくし精神も磨耗していく。
それに殺人犯がまた新たな獲物を求め始める可能性だって十分にあり得る。
いや、出口を封じたと言う事は、この館にいる人間を逃がさないと言う意思の表れだ。
もたもたしていれば間違いなく、第二第三の犠牲者が出てしまう。
……さっきから緊迫した事ばかりを考えているからだろうか。
口の中が乾いて仕方が無い。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:11:56.18 ID:gPfpLmb50
- 「……私、喉渇いてきちゃった」
どうやら同じような子が一人、メイド達の中にもいたらしい。
丁度いい。ここで一度外の空気を取り入れる必要があったのかもしれない。
从'ー'从「そうね。私も柄にもなく緊張しちゃったし、ちょっとお水を取ってくるわ」
そう言って、私は座っていた椅子から腰を上げた。
気が付かない内に同じ姿勢でずっといたせいか、体の節々が小さく音を立てる。
緊張を晴らす意味も併せて伸びをしてから、私はドアへと歩み始めた。
「待ってください。一人では危ないですよ。私も付いていきます」
メイドの中の一人が必死に気丈に振舞った――それでも強張った表情で立ち上がった。
从'ー'从「……ありがと。じゃあ、二人で行きましょうか」
断ろうとも思ったけど、せっかく彼女が自分で前向きな姿勢を見せたのだ。
それを無下に扱うのはきっと良い事ではないだろう。
私は彼女を連れ添って、食堂へと向かった。
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:26:09.21 ID:gPfpLmb50
- 食堂に着いて、私たちは大きめのトレイにポットやグラスを乗せていく。
後は適当に棚を漁って、クッキーなんかも用意してみる。
「どうせならよく冷えていた方がいいですよね。氷も用意します」
そう言って、彼女は冷凍庫を開ける。
同時に彼女の表情がざわりと曇った。
いやな予感が脳髄に浸透する。
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:28:23.69 ID:gPfpLmb50
- 「やだ……嘘……! 冷蔵庫の電源が落ちてます! 起動しません!」
从;'ー'从「……え?」
信じられないと思いながらも、急いで冷蔵庫に駆け寄る。
幾つかのボタンを押してみたり、裏の配線を確認してみるが、うんともすんとも言わない。
从;'ー'从「そんな、どうして……?」
これでは中の食料は一日も持たない。
冷蔵庫の中身を除けば、残っているのは僅かな穀物だけだ。
从;'ー'从「……もしかして」
更に絶望的な予感が脳みそに投影される。
私はそれが杞憂である事を祈りながら――ガスコンロのつまみを押し込み捻った。
けれどもコンロが着火される事は無かった。
それどころかガスが出ている音さえしてくれない。
从;'ー'从「……っ!」
最早狼狽を隠す事もせずに、私は他の調理器具を逐一試してまわる。
だけど、きちんと機能してくれる物は一つも残されていなかった。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:32:58.07 ID:gPfpLmb50
- 「どうしましょう……」
不安を露にして、彼女が言葉を漏らす。
ちょっとした故障ならともかく大規模な修理が出来るほどの知識はないし、
私にだってどうしたらいいかなんて分からない。
从'ー'从「……ひとまず、部屋に戻りましょう。事を説明して、それから皆でどうするかを考えるの」
不安を訴える彼女の手を取って、そう言い聞かせる。
彼女は泣き出しそうな表情になりながらも、こくこくと頷いてくれた。
一応水だけは持って、私たちは部屋までの道のりを戻っていった。
部屋に戻るや否や、空気が少しだけ重くなる。
部屋にいたメイド達も、私たちの表情から不穏なものを読み取ったのだろう。
そして私は、皆に絶望を突きつけた。
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:44:09.28 ID:gPfpLmb50
- 説明が進むに連れて、部屋にざわめきが生まれる。
不安が募り、不穏が溜まる。
何とかしてこの空気を一掃しないとまずい。
けれども、もうどうすればいいのか私にすら分からない。
皆が黙り込んでいる中、一人のメイドが急に顔を険しくさせて口を開いた。
「やっぱり……アンタ達が犯人なのよ……!」
そう言った彼女の視線が示すのは、私ともう一人、一緒に水を取りに行ったメイドだった。
「ちょ……何言って……」
「だってそうでしょ!? 朝食の時冷蔵庫は冷たかったじゃない!
だったらアレを壊せるのはさっき食堂にいったアンタ達だけよ!」
弁明を挟み込む隙間もなしに、彼女はまくし立てる。
やめて。不安を撒き散らさないで。
取り返しのつかない事になる前に。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/08(日) 23:53:31.21 ID:gPfpLmb50
- 「や、やめなよ……。けほっ、私達以外にだって人はいるんだから……。
壊したのは他の誰かかもしれないよ?」
喉が渇いたと言ったメイドが、おどおどと怯えながらも彼女を宥める。
しかし、彼女の表情は一層険しくなるばかりだった。
「うるさいなあ! そうだ……アンタも共犯の可能性だってあり得るわ!
アンタが喉渇いたなんて言わなければ、二人は食堂に行ったりしなかったんだから!」
「む、無茶苦茶だよ……! そんな……!」
暴論を受けて、もう一人もまた口調が荒くなる。
不安が敵意を生み出して、敵意が敵意を増長させる。
「ともかく近寄らないで! もうアンタ達だって信用ならないんだから!」
金切り声を上げながら、一人が一人を突き飛ばす。
「ひっ……!」
恐怖と不安の入り混じった声が、零れ落ちる。
この部屋の中はもう、いっぱいいっぱいだったのに。
いわば表面張力ギリギリまで水を注いだコップのような物だったのに。
そこに加えられた暴力と言う衝撃は、彼女達を破綻させるには十分過ぎる物だった。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 00:04:37.00 ID:kDzotxhm0
- 「――――いやぁっ!」
突き飛ばされたあの子が、恐怖に取り憑かれて手を振るった。
それは偶然にも突き飛ばした子の目を掠めて彼女から視界を奪い、流血を生んだ。
「あ……ああああああああ!」
パニックに陥った彼女は傍らにあった置物を掴み、それを振り回す。
視界の覚束ない中で振るわれるそれは狙いなんて定まってなくて、
だからこそ加減なんて出来る筈もない。
置物は身が竦んで動けなかった一人のメイドの頭に減り込んで、
彼女はどさりと音を立てて倒れこんだ。口元からは、白い泡がこぽこぽと零れている。
もう止まらない。
後戻り出来ない一人は更に狂ったように置物を振り回し、
残った子たちも殺されないように武器を取る。
置物や、模造剣、割れたグラス。
様々なものを手にとって、殺しあう。
私は呆然と立ち尽くしていたが、
暫くすると必死の形相でガラスの破片を振り回すメイドが近寄ってきたので、そこで目を閉ざした。
渡辺 10:00
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 00:27:04.76 ID:kDzotxhm0
- 僕の視界に映ったのは、絶望だった。
部屋の中に転がる幾人もの死体。
ドアを開いた瞬間に全身へ降りかかった血の臭いが、今も僕の吐き気を誘っている。
メイド達が全員、殺されていた。
一刻も早く出口を見つけなきゃいけないと言うのに、誰がこんな事を……。
「あークソ、何だってこの館はこうも広いんだ。おいモララー、見つかったか?」
突然かけられた背後からの言葉に、僕は思わずびくついて身構えてしまう。
まるで、僕にやましい事があるみたいに。
_
( ゚∀゚)「ん? どした?」
(;・∀・)「あ、いや……!」
僕が制止を掛ける暇もなく、ジョルジュは部屋の中を覗いてしまう。
限りなく僕が疑わしい状況を、弁解する前に。
_
(;゚∀゚)「……っ!」
部屋の中を見るや否やジョルジュは驚きに一歩後ずさりして、それからすぐに僕を振り返った。
(;・∀・)「ぼ、僕が来た時には既にこうだったんだ! 誰がやったのかも、わからなくて!」
慌てて弁解をするが、明らかにタイミングが悪い。
これでは苦し紛れの言い逃れにしか聞こえないじゃないか。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 00:49:25.22 ID:kDzotxhm0
- (;・∀・)「そ、そうだ! 実は僕、犯人ならもう目星が付いてるんだよ!」
_
( ゚∀゚)「……ほう?」
歩き回りながら僕が導き出した結論に、ジョルジュは眉をぴくりと動かして反応を示した。
そうだ、きっとこれをやったのも奴らに決まっている。根拠だってあるんだ。
犯人はあいつら以外にあり得ないよ。
(;・∀・)「昨夜の事だよ! 僕は夜中一回目が覚めて、モナーさんの叫び声を聞いたんだ!
あの時モナーさんは『貴様ら』なんぞに財産は渡さんって言ってた!
だから犯人は二人組なんだ、つまりあの金髪の女と傍にいた男なんだよ!」
息継ぎも忘れて、僕は一気にまくし立てる。
_
( ゚∀゚)「なるほどねえ……。うん、多分それであってるんだろうな」
ジョルジュが紡ぎ出した納得の言葉に、僕は安堵の溜息を吐く。
_
( ゚∀゚)「流石、VIP商事のホープ。モララーさんだねえ」
そのせいか、彼の口から零れた不自然に、僕は一瞬気付くのが遅れてしまった。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 01:04:32.48 ID:kDzotxhm0
- ちょっと待て。僕は一度だって、彼に『僕がここに商談へやってきた』とは言ってないぞ?
(;・∀・)「え?」
_
( ゚∀゚)「ライバル会社のホープの面くらい、覚えてるっての。おめーは俺の事知らなかったみたいだけどよ」
いつの間にか部屋の中へと入っていたジョルジュが、メイドの胸に刺さっていた模造刀を手に取っていた。
そして、僕へと駆け寄る。
おいちょっと待て、僕はまだ、何の準備も出来てな……
(;・∀・)「――――っ! っあ゛ぁ!」
わき腹に奥に、火が湧いたような痛みが走った。
激痛はそのまま全身に駆け巡り、脳を麻痺させて、足を萎えさせる。
_
( ゚∀゚)「俺に話が来なかった以上、モナーさんはお前を選んだんだろうな。
だけどお前もモナーさんも死んじまえば、商談は白紙だろう。
次こそは俺が契約を頂くとするさ」
おいちょっと待て。
何の話だ。
僕は契約なんて、貰ってないぞ。
じゃ……何の……め……モ…………僕……
モララー 10:10
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 01:18:04.49 ID:kDzotxhm0
- 川 ゚ -゚)「殺人の瞬間に出くわしたのは、初めてだな」
まあ正確には大分前から事の成り行きを見ていたんだがな。
助けようと思えば助けられたかもしれないが、私はどうせ人間失格だしどうでもいいだろう。
_
( ゚∀゚)「……さて、悪いけどアンタも死んでもらうぜ」
川 ゚ -゚)「ほう、それは何故だ? もうお目当ての彼は殺したんだろう?」
まあ理由なんて聞くまでもなく分かっているんだがな。
とりあえず時間が必要だからな。お互いに。
_
( ゚∀゚)「ひとまず、目撃者を消すのは当然だろ? んでもう一つ、あんたには犯人役を押し付けようと思ってな」
ふん、まあ予想通りだ。
そしてそれを実行する為には、武器が必要だ。
つまりその優男の腹に突き刺さっている模造刀を、引き抜く必要がある。
だから私はその瞬間を狙えば、
_
( ∀ )「が……ぁ……っ!」
容易にこの男を殺す事が出来ると言う訳だ。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 01:24:00.92 ID:kDzotxhm0
- 別に武器なぞそこらで調達しなくても、私もビジネスマンだ。
万年筆の一本くらい持っているさ。
そして今、私は『私も』と言った。
これがどう言う意味か分かるかい? ジョルジュ長岡。
私もまた、モナー氏に商談を持ちかけられた一人なのだよ。
君の描いた計画は、そっくりそのまま私が実行してやるとしよう。
クー 10:15
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 01:54:19.43 ID:kDzotxhm0
- 足音が近づいてくる。
絨毯を踏み鳴らして、誰かが近づいてくる。
僕は傍で少しだけ縮こまっているツンの手をぎゅっと握った。
そして、足音が止まった。
僕たち二人がいる部屋の前で。
こんこんと、扉が軽く二回叩かれる。
( ^ω^)「……開いてますお」
「……意外だな。てっきり篭っているものだと思ったが」
ドアの向こうから声が発せられる。
この声は、クーさんだ。
一体何の用で、彼女はこの部屋に来たのだろう。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 01:55:57.14 ID:kDzotxhm0
( ^ω^)「僕は人間だからお腹も減るしトイレにも行きたくなりますお。
だから、ずっと篭っている事なんてどうせ出来ないんですお」
川 ゚ -゚)「なるほど、正論だ」
ドアを開き、クーさんが境界線を越えてくる。
( ^ω^)「クーさんは……モナーさんを殺したんですかお?」
川 ゚ -゚)「いや、それは私じゃないな。多分あのメイド達の誰かか、モララーかジョルジュだろう」
( ^ω^)「じゃあ、何の用でクーさんはこの部屋に?」
そうだなと、クーさんは口元に手を当てて考え込む。
川 ゚ -゚)「まあ端的に今の状況を表すなら、ほぼ全滅だ。メイド達も、モララーもジョルジュも死んだ。
ジョルジュに関しては私が殺したんだがな」
彼女の言動にツンが体をびくつかせる。
瞬時に、僕は彼女を自分の後ろへと隠した。
川 ゚ -゚)「おいおい、その殺人も正当防衛だったんだぞ?
……まあいい。そんな訳で、今やこの館の生き残りは我々だけだ。
そして、話は変わるが私は一番になるのが大好きなんだ」
何となく、彼女の言いたい事が理解できた。
共感も納得もしたくないし出来ないけど、理解だけは出来てしまった。
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:03:26.98 ID:kDzotxhm0
川 ゚ -゚)「どうせなら、この生き残りでも一番になりたくなってね」
言葉と同時、彼女は僕目掛けて一直線に掛けてきた。
予想以上に早い。
けれど避ける事は出来ない。
僕の後ろには、ツンがいるから。
だから僕は、彼女と刺し違えよう。
彼女が持つ模造刀が僕に刺さると同時に、彼女を絞め殺す。
そうすればツンは生き残る事が出来る。
覚悟を決めた瞬間、僕の前に人影が現れた。
三人しかいないこの館の中で。
僕とクーさんの間に、人影が。
( ゚ω゚)「……っ! ツン!?」
ツンの肩越しに、彼女の胸に突き刺さった模造刀が見えた。
川;゚ -゚)「驚いた、ただの臆病な子だとばかり……」
( ゚ω゚)「あああああああああああああああああ!!」
よくもツンを。殺す、すぐに殺す。
首を掴んで、頭を掴んで、縦に捻って。
ごきんと言う重苦しい音を伴って、素直クールの体は絨毯に崩れ落ちた。
10:15 ブーン
- 152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:09:11.15 ID:kDzotxhm0
- あの女が突っ込んできても、ブーンは避けなかった。
きっと私のために死ぬつもりなんだって、すぐに分かった。
そして、ブーンが死んじゃうなんてやっぱり嫌だって、そう思った。
ブーンが死んだら私も死んであげるだなんて、馬鹿げていた。
私が死んででも、ブーンには生きて欲しい。
あのブーンの暖かさがこの世のどこにもなくなっちゃうなんて、寂し過ぎるから。
だから私は、ブーンの前に躍り出た。
青銅色の刀が私の胸を貫いて、声も上げられないような激痛が体中に駆け巡る。
私は糸が切れた人形のように倒れこんでしまった。
それから数秒。今度は顔の向きがおかしくて、首の中ほどが不自然に出っ張っている素直クールが倒れてきた。
ざまあみろ。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:16:07.76 ID:kDzotxhm0
- これで、ブーンは生きてくれる。良かった。
……でもやっぱり寂しいなあ。
電話とか、ないわよねえそりゃあ。
そんな事を考えていると、ブーンが私の前で屈みこんだ。
手を伸ばして彼の顔に触れてみたと思ったけれど、もうそんな事すら出来ないみたい。
思ったより人間って脆いのね。
( ^ω^)「……君が最後に見せた表情が、そんな寂しそうな顔だなんて、僕はごめんだお」
ブーンが何か言っている。聞き取れるんだけど、もう頭がぼんやりして意味が良く分からない。
必死に理解しようとしていると、ブーンの手が私の胸に伸びてきた。
普段ならこの変態ってひっぱたいてやる所だけど、今ぐらいは――
とか考えてたら、彼は私の胸に刺さった模造刀を掴んでいた。
何よそれ、人がせっかく許してあげようと思ってるのに。
本当にばかで鈍感なんだから。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:19:35.69 ID:kDzotxhm0
- 胸から刀が抜けると、血がどっと溢れていくのが分かった。
同時に一層頭がぼんやりする。
もう朧気にしか見えない視界の中でブーンを追いかける。
霞んでしか見えないけど、彼は私から引き抜いた模造刀を首に押し当てているように見えた。
ああ、さっき言ってたことの意味、分かっちゃった。
あなた、私と一緒に死んでくれるのね。
ツン 10:16
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:21:22.76 ID:kDzotxhm0
-
23:26 モナー
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:30:14.74 ID:kDzotxhm0
- この館には今、私を含めて十人ちょっとの人間がいる。
私の人生は成功だった。
いい大学に入って、いい会社に入って、いい社長となって、莫大な富を築き上げた。
けれどその中で、今でも鮮明に思い出せるほどの刺激があったかと言ったら、なかった。
それなのに私の人生はもう、完成してしまった。
これからの人生は、どうせ使い切る事など出来ないほどの数字を
ひたすらに増やしていくだけの毎日だ。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:33:53.43 ID:kDzotxhm0
- そんな退屈な日々を過ごすよりか、私は今とびきりの刺激を求めて――死んでやろう。
この館に住まう人間、呼びつけた人間達が、私の死によって一体どのような顛末を迎える事になるのか。
逃げる事は出来ない。
館は完全に封鎖したし、食料も長くは持たないようにしておいた。
恵まれた人生を歩む者。固い絆で結ばれた者。
そんな彼らが見るも無残な醜態を演じてくれると思うと、私は今から笑いが止まらない。
おっと、忘れていた。一応、隣の彼にも仕込みを入れておかねばな。
「ふざけるな! ワシの財産は貴様らなんぞには渡さんぞ!」
聡明な彼の事だ。きっとこの無意味な叫びからでさえ、何らかの意味を汲み取ってくれるだろう。
そしてそれは、きっと惨劇の種となってくれる筈だ。
全ての仕込みを終えて、私は自らの胸をナイフで突き刺した。
終り
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/09(月) 02:36:16.33 ID:kDzotxhm0
- 「皆殺しのようです」
ブーン系では影が薄いが、AA界では重鎮であるモナーが自宅にて殺された。
モナーの家の壁には、血文字で「ブーン系AAを皆殺しにしてやる」という文字が…
恐怖に怯え、他人を信じられなくなっていくブーン系AAの住人達。
そして今日も一人のAAが殺される…一体犯人は? そしてその動機は?
・没になった理由
余裕が(ry
というより劣化バトロワのような気がしないでもなかった
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