愛間哀Iのようです

3 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:25:39.93 ID:a6tmhrqu0
元ネタ

「( ^ω^)ブーン系小説の没ネタを挙げるようです」より


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/10(月) 23:26:45.20 ID:fitAQknT0
 小学校時代、いつも私たちは三人で仲良くしていたはずだった。 私もそれを楽しんでいた。
感情を表に出すことが苦手な私たち二人と、相手の心の事情なんて無視してずかずかと踏み込んでくる幼馴染。
二人が転校してしまって、この三人が再び出会った高校生活は、人生で一番楽しかっただろう。

 背が低い彼女と、背の高い私。 その中間の身長の彼。
感情が表情に出すことが苦手な彼女と、感情が表情に出ない私。
内情全てを理解してくれる彼の温かみが、私は大好きだった。

 ああ、どうして私は――彼と彼女であった肉片の前で、血塗れの包丁を――。
抑圧してた感情を解放できた愛おしさと、もう二度と彼女と合えないと思い、哀しくなった。




          愛と哀の間に私の感情は位置しているのだ。



               愛間哀Iのようです


原作者様に感謝!!

5 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:26:54.40 ID:a6tmhrqu0

換気扇の音が、低く響き続ける。
私は、ただ立ち尽くして自問自答する。

――どうして。なぜこんなことに。

その問いに答える声は無く、ただじっとりとした空気と、生臭さが鼻をつく。
目の前に広がる光景を私は茫然と、しかし何処かうっとりと眺める。

生ぬるい感触を感じ、両手を目の前へと上げる。
途中、手に持っていた何かが滑り落ち、床に当たって金属音を立てる。

私の視界に入ってきたのは、紅く濡れた五指。

――この血は『彼』の血

―――この血は『彼女』の血


6 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:27:39.03 ID:a6tmhrqu0

顔に近づけると、一層鉄の香りを強め私の脳を刺激する。
宙に浮いているのではないだろうかと錯覚するほどの、高揚感が私を支配する。

『それ』を大切に、愛しむように、私の目が、鼻が、舌が。
すべてを感じようと、働きを強める。


――これが『彼女』の血の色。
―――これが『彼』の血の色。

――これが『彼』の血の香。
―――これが『彼女』の血の香。


――これが『彼女』の血の味。
―――これが『彼』の血の味。


まるで高級な料理でも堪能するように、しかし一心不乱に紅い血を愛でる。

―――なんと馨しく、そして美しい。


7 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:29:20.46 ID:a6tmhrqu0

私は一通り両手の血を堪能すると、しゃがみ込む。
そこにあった『彼』だったものと『彼女』だったものに目を向け、手に取る。

にちゃ、と湿った音をたてて紅い糸を引きながらそれは床を離れる。
手の届く範囲にあった肉塊を拾い集め、抱きしめる。

――これは、『彼』であったもの。
―――これは『彼女』であったもの。

もはや元の形など留めていないため、どちらのものかなどわかるはずもない。
しかし、私には分かる。なんといっても『付き合いが長い』のだ。

――やっと、こうすることができた。

肉塊に頬を擦り付ける。
温もりなど残っているはずもないそれを、赤子のように、恋人のように。
何度も、何度も。

そこで、気付いた。
もう、彼女にも、彼にも会えないのだ、と。


8 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:31:30.21 ID:a6tmhrqu0

『彼女』の外に跳ねた銀髪も、溢れんばかりの笑顔も。
伏し目がちに悩む表情も、涙を流す美しいルビーの目も。

『彼』のぼさぼさの短い黒髪も、照れたように笑う顔も。
細い瞳の奥の鋭い眼光も、とぼけたような言葉を紡ぐ口元も。


すべてが、もう見ることは無いのだと気付いた。


――あぁ、愛していたのだ。殺してしまいたいほどに。


――あぁ。哀しているのだ。二度とは戻らない彼らに。



私の感情は、愛と哀の間に存在していたのだ。


9 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:33:08.99 ID:a6tmhrqu0





愛間哀Iのようです








12 名前:◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:36:08.66 ID:a6tmhrqu0

全ての始まりは、そう。
小学校の時でしたね。

いえ、正確には生まれたときから始まっていた、と言えるかもしれませんね。

生まれたときから、親同士が知り合いで。
一緒の病院で生まれ、同じ町内で育ち、遊び。

ずっと一緒にいた友人たち。


13 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:37:57.73 ID:a6tmhrqu0

隣の家に住んでいる幼馴染。
銀のショートカットに、笑顔の絶えない口元。
なんでもはっきりと言い、私の心にずかずかと入り込んでくる、少女。
それでも、本当の気持ちを表に出せない、憎むことのできない幼馴染。


近所に住んでいた、年上の幼馴染。
すらりと通った鼻筋に、細い眼。
暴走しがちな私と彼女を優しく諭してくれる、お兄さんのような存在。
いつも私たちを気遣ってくれるのに、自分の事を話すのは苦手で。
損な役割ばかりを引き受けてくれていた、年上の幼馴染。

彼と、彼女が一緒にいた小学校時代。
幸せ、という言葉で表わしきれないような日々。

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・


14 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:39:27.22 ID:a6tmhrqu0

パタパタと軽い足音を響かせて、前を歩く二人に追いつこうと駆ける。

(;><) 「ハイン!兄者君!待ってほしいんです!」

少し大きな声をあげて、呼びかける。
返ってくるのは、二つの対照的な返事。

从*゚∀从「おそいぞわか!そんなんだからかけっこ勝てないんだぞ!」

( ´_ゝ`) 「まぁ、そんなこというなハイン。わか!あんまり急ぐところぶぞ」

(;><) 「あうっ!」

石につまづき、前のめりに倒れてしまう。
これはいつもの事。

(;´_ゝ`) 「大丈夫?ころぶのなんかい目だ?」

( ;<) 「さんかいめなんです…」

僕を心配してくれるのは、流石兄者君。
一つ上の学年なのですが、ちっちゃいころから家が近所だったこともあり、とても親しい友人です。


15 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:40:50.25 ID:a6tmhrqu0

すりむいた膝小僧を押さえながら、涙目になる私。
学校へ行くだけでこれだ。
石やモノにつまづくことが多く、何もないところでもころぶ事の多かった。
親にも、兄者君にも、足元に気をつけろとよく注意されていたものでした。

从*゚∀从「わかとろいぞー」

(。><) 「ごめんなんです…」

銀髪の外跳ねの髪をした少女は、高岡ハイン。
生まれた日は一日違い。同じ病院で生まれて、隣のベッドに寝ていた。という
本当に生まれたときから一緒だった幼馴染。

同じ小学校へ行って。同じ中学校へ進んで。
ずっと一緒にいる時間が続くのかどうかなんて、まったく考えることすらしなかった日々を共に過ごしていた。


16 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:42:30.29 ID:a6tmhrqu0

( ><) 「べんきょう終わりなんです!きゅうしょくなんです!」

从*゚∀从「わか!ピーマン食べてくれ!」

( ><) 「好ききらいは良くないんです!」

从*゚ ‐从「えー。食べてくれよ」

( ><) 「…じゃあ、代わりにぼくのニンジン食べてほしいんです」

从*゚∀从「…!おーけー、おれにまかせとけって!」

嫌いな食べ物を交換したりして、たまに先生に見つかって怒られて。

从*゚∀从「よーし!きょうは校庭でサッカーだー!」

(;><) 「じゃあぼくは本をよみに…」

図書室へ行こうとすると、ハインに首根っこを掴まれる。
昼休みくらいは自由に…と思ってもそうはいかない。
これもあのころの日常。


17 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:44:24.82 ID:a6tmhrqu0

从*゚∀从「わかも行くんだからな!」

(;><) 「にゃあああ!そんなああぁ!」

(;´_ゝ`) 「おれもいくから!ほら!おとじゃもいこう!」

(´<_`*)「さすがだよな!おれら!」

(;´_ゝ`) 「おまえもっとほかに言うことないのか…」

心配してついてくる兄者君とその弟の弟者くん。
あんまり人と話すのが苦手で、友人は多いとは言えなかった私をリードして、振り回すハイン。

やり方は不器用で、あの頃の私は正直言って苦手でしたが、
今思うと彼女なりの気づかいだったんでしょうね。

そんな風に、小学校での生活も、5年目が終わろうとしていたとき。


18 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:45:53.63 ID:a6tmhrqu0

――それは突然のことでした。

いえ、突然だったと思っていたのは私だったのかもしれません。

彼女も、彼も、知っていたのですから。

それは、春休みを目前に控えた、寒い日のことでした。
3月だというのに、雪がちらつく空の下、家路をたどる時の事。

( ><) 「ハイン!一緒に帰ろうなんです!」

从*゚−从「……そうだな」

兄者君は、確か風邪をひいていて休みだったんだと思います。
私と、ハインだけの帰り道。

(*><) 「そしたらですね!サッカーボールが先生に…」

从*゚−从「……」


20 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:47:25.69 ID:a6tmhrqu0

いつもなら、ハインのマシンガントークに僕が相槌をうつ程度の会話が、
その日は私だけが喋り続けていました。
いつもと違うハインの様子に、気付いていたんだと思います。
でも、それを認めるのが怖くて、できるだけ明るく、明るくふるまおうと思っていたのでしょう。

(*><) 「頭がぱーんって…」

从*゚−从「…わか、あのな」

(*><) 「なんですか?」

从*゚−从「おれ、春休みにひっこすんだ」

( ><) 「え?」

茫然。
一瞬私はハインの言葉を理解できなかった。


21 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:50:39.87 ID:a6tmhrqu0

(;><) 「引っ越すって、どこにですか?」

从*゚−从「父さんがね、おしごとでとなりのラウンジに行かなきゃいけないんだって」

隣のラウンジ市。
電車で一時間ほどの距離。
しかし、小学生の私にとっては、遠い距離に感じられました。

(。><) 「…もう、あえない…んですか?」

从*;−从「……きっと、ときどきは、会えるとおもう…」

幼い私たちは、お互いに涙を流し、別れました。
私は、彼女がいかに自分にとって大事な存在か、その時は気付くことはできなかったのです。



22 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:51:58.38 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・


( ´_ゝ`) 「…ハイン、行っちゃったな」

ハインが、引っ越した日。
私は、兄者君と一緒にいました。

( ><) 「……」

何も、話すことのできない私に、ぽつりぽつりと。
兄者君が私に話しかけます。
それは、寂しさに満たされた空間を埋めるために。

( ´_ゝ`) 「俺も、もう中学生だ。お前と一緒にいられない」

(。><) 「わかってます…」

( ´_ゝ`) 「中学校で、待ってるから、もっと強くなって、泣き虫を卒業して来い?な?
       クールでカッコいい男になるんだぞ?」

(  う<) 「はいなんです…」


24 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:54:21.00 ID:a6tmhrqu0

――しかし、中学校に進学したとき、どこを探しても、兄者君の姿は見つけることができなかった。

携帯電話を持っていたわけでもなく、かといって家に押し掛けるわけにもいかず。

彼は自分の前に現れてくれると信じていたのに。

彼が現れることは無く、幼い私は混乱の中に。


25 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:56:22.20 ID:a6tmhrqu0

嘘だ。
嘘に違いない。
私には、信じられなかった。

待っててくれると言ったじゃないですか?
約束をやぶる気なんですか?

なんでなんでなんで?
なんで近くにいてくれないんですか?
なんで、待っててくれなかったんですか?

所詮、口約束だったんですか?


26 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 21:57:35.84 ID:a6tmhrqu0

幼い自分が、嫌われてしまったのではないかと考えて。
しかし、いくら考えても、理由を聞きたくても兄者君に逢うことは無く。

しかし、私の中で大きな存在であり、目標としていた彼を否定することもできず。
ただ彼の言った「クールでカッコいい男」を目指し。

ハインに再び会うこともできず、ただ遠い距離を嘆くことしかできない、弱い私。

しかし、その記憶も、日々忙しくなっていく生活の中に埋もれて、記憶の奥底へと、嘆きは仕舞われていきました。


27 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:00:00.68 ID:a6tmhrqu0








―― そう。高校に入学するまでは。








28 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:02:01.74 ID:a6tmhrqu0

VIP高校、入試合格発表の日。
中学校で親しくなった友人達と、掲示板を見に行く。

(;^ω^)「おー…キンチョーするお…」

陸上部で、足の速さならば学校一とも言われていた、ブーン。
たまたま同じクラスになって以来、勉強を教えたり、遊びに行ったりと親しくなっていました。

('A`)「俺、この入試受かってたら…告白するんだ…」

幸の薄そうな顔ですが、これでも弓道部の副部長だったドクオ。
ブーンと仲良くなった時、彼とも仲良くなっていました。
頭はいいのですが、俗に言うオタクという人種であるため他人に敬遠されがちです。

( <●><●>)「それが、死亡フラグなのはわかってます」

そして、私。
ひたすらに、常に冷静であろうとして。
いつの間にか、表情を変えることのない無表情な人、と言われるようになっていました。

私達三人は、目立たない存在。
クラスで、多少浮いた存在で、友人も多くは無い。

それ故に、三人でいることが多くなっていた、所謂はぐれ者三人。

29 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:03:34.87 ID:a6tmhrqu0

(;^ω^)「そりゃワカッテマスは頭がいいから心配ないだろうけど…」

( <●><●>)「いえ、自信はないですよ」

(;'A`)「その表情のまま言っても説得力無い件」

( <●><●>)「これが素です。ぶち殺しますよ」

駄弁っている間にも、掲示板に近づいていきます。

(;^ω^)「神様仏様ワカッテマス様!どうかブーンに合格を!」

(;'A`)「もう何神でもいいから受かってますよ―に!」

( <●><●>)「私に言ってどうするんですか、ほら、張り出されてますよ」

三人並んだ受験番号。
というのも、私達の中学校からは微妙に遠い距離にあるこの高校を受ける人は少なく、
たまたま男子が三人だったというだけの理由ではあるので、少しの高校デビュー(笑)への期待を持ちつつ。

とにかく、誰か一人でも落ちていればすぐわかるというわけです。


32 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:05:24.49 ID:a6tmhrqu0

(;-ω-)「いち、にの、さんで目を開けるお?」

(;-A-)「よし。フライングは駄目だからな?」

( <●><●>)「あ、私受かってました」

ぎゃあというドクオの声を尻目に、飲み物でも買おうと自販機を探し、歩き出そうとした瞬間。

从 ゚∀从「お前、ワカッテマスだよな!?」

そう声をかけられたのは、ちょうど後ろでブーンとドクオがお互いの合格に喜び、歓声を上げながら抱き合っている瞬間のことでした。

( <●><●>)「…確かに、私はワカッテマスという名前ですが、それがなにか?」

私は他校に友人などいなかったために声をかけられる覚えもなかったですし、
ましてやそれが綺麗な女子になんて声をかけられようなんて、誰が考えましょうか。


33 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:07:17.89 ID:a6tmhrqu0

从 ゚∀从「…まぁ無理もねぇか。もう4、5年くらい前になるだろうからな」

( <●><●>)(…4、5年前?)

5年前、何があったのかを必死に記憶を探ると、私の記憶の中に一人の女の子の姿を見つけることができました。

( <●><●>)「…違っていたら失礼ですが、高岡ハインさんですか?」

从*゚∀从「へっへっへ。覚えてたか『わか』」

目の前で嬉しそうに笑うその銀髪の少女は、私が忘れていた過去。
幼馴染という存在であると。

从 ゚∀从「小学校以来だなー。なんか印象全然違うなお前」

( <●><●>)「あなたは、変わっていないようですね」

从 ∀从「まぁ…な、そうかもな…」

彼女は少し目を伏せると、髪によってその紅い目が暗く陰ります。
少し配慮に欠ける言葉であったでしょうか。
何も「変わっていない」わけなどないのでしょうから。


34 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:08:52.61 ID:a6tmhrqu0

( ;ω;) 「おぉぉん!ワカッテマスー!受かってたおー!」

(;A;)「うおおぉぉ!俺告白すrくぁwせdrftgyふじこlp;@:」

ハインの言葉は、五月蝿い友人たちに遮られ。

(;<●><●>)「ちゃんと聞いてあげますからひとまず静かにしなさい二人とも!」

なおも騒ぎ続ける二人を制しつつ、ハインをのほうを向くと、いつの間にかハインは何もなかったかのよう顔をしており。
さっき言いかけた言葉を聞くこともできそうにありません。

( うω;) 「ところでその子は彼女かなんかかお…?」

(;A;)「くそ!お前だけは、ずっと独り身の仲間だと思ってたのに!」

( <●><●>)「誰が仲間ですか。それにこの人は…」

また叫びだすドクオを宥めようとしますが、その前にそんな風に思われてたことがショックです。
しかし、まずは誤解を解くべきだと思い直して口を開こうとしますが、その前にハインが口を開きます。


35 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:09:56.22 ID:a6tmhrqu0

从 ゚∀从「そうそうww俺はこいつの彼女ww」

(;<○><○>)「        」

あぁ。この人は間違いなく『高岡ハイン』です。
場を鎮めるどころかさらに悪化させるあたりは小学生当時からまったく変わっていません。


36 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:11:39.60 ID:a6tmhrqu0

(゜A゜)「wせdfrgtひゅkぉにいlfぺldsp;sf―――!!!」

(;<●><●>)「いやいや、違いますから!落ち着いてください!」

从 ゚∀从「そんなー。一緒のベッドで寝た仲じゃないかよー」

(゜A゜)「いいい一緒のべべべべべベッドドドドドドトトトトトトガガガガガガッガガガ」

(;^ω^) 「ちょwwwwwなにその関係wwwwwww」

(;<●><●>)「それは小さいころの話で!」

こうなるともう収拾がつかなくなってしまって。
ドクオを落ち着かせるために散々手を焼くことになったのです。


37 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:12:41.14 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

(;^ω^)「小学校の時の友達かお。びっくりしたお」

从 ゚∀从「いやー悪い悪い。そんな驚くと思ってなくてさー」

VIP高校の近くで見つけたカフェ『バーボンハウス』に私達は来ていました。
隅のテーブルを4人で占領して、各々で飲み物を啜りつつ、さっきのハインの言葉についての誤解を解くために。

(;'A`)「俺ぁもうお前が童貞卒業してるもんかと焦ったぜ…」

(;<●><●>)「ぶふぉ!?」

从;゚∀从「うぉ!?汚ねっ!!」

ドクオの一言でコーヒーを吹いてしまいました。
むせる私の背中をハインがさすってくれているようで、ドクオが羨ましそうな視線を送ってきています。
誰のせいでむせたと思っているんですか。

39 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:14:12.99 ID:a6tmhrqu0

(;<●><●>)「女性のいる前でその話題はどうかと思うんですが」

从 ゚∀从「俺は別に気にしないけどなー」

(;<●><●>)「私は気にするんです」

从*゚∀从「きゃ、気を使ってくれるの?男らしくてカッコいー」

ここまでくるとため息しか出ません。
助けを求めても、ドクオは返事をするわけもなく、リア充死ねと言われなくてもわかる視線です。

(;^ω^)「む、昔はワカッテマスはどんな感じだったんですかお?」

さすがブーン。
こういう空気の読める男は好かれます。
えぇ。ただしイケメンに限りますから彼は除外ですが。


40 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:15:52.53 ID:a6tmhrqu0

从 ゚∀从「そうだなー。昔はコイツよく道端で転ぶし、すぐ泣くし、運痴だし…」

( ^ω^)「今の姿からは想像できませんお…」

(;'A`)「今は、冷静だし、無表情だし、怖いし……正反対だよな」

从;゚∀从「マジで!?そんなワカ気持ち悪くて嫌なんだけど!」

(;^ω^)「逆にそんなドジっ子なワカッテマス怖いお…」

(;<●><●>)「好き勝手言いすぎでしょうあなた達…」

一通り誤解を解いた後は、昔話に花を咲かせ。
ネタが尽きると世間話から、高校への期待など、話が膨み和やかに時間が過ぎていきます。


41 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:17:31.14 ID:a6tmhrqu0

と、そこまで言ったときに急にハインの目が見開かれます。
そして、私のほうを向いたかと思うと、思い出したようにまくしたてます。

从*゚∀从「そうだ!あのな?あのな?兄者もVIP高校らしいんだよ!
       お前覚えてるよな?兄者。流石兄者だよ!」

そう言われて思い出すのは、記憶の奥底に眠ったはずの、何もなければ思い出されることもなかったはずの記憶。


43 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:18:53.40 ID:a6tmhrqu0

从*゚∀从「な!また三人揃うんだぜ!面白くなりそうだよな!」

( ^ω^) 「え?誰なんですお?その人」

从*゚∀从「俺とワカの幼馴染でな…」

(;'A`)「まだ幼馴染いるんですk…」

景色が歪み、三人の話す声が遠ざかっていく。
テーブルにあるはずの飲みかけのコーヒーが、何メートルも先に感じる。

先ほどまでの心地よい空気は、どこにもない。
あるのは、深く記憶の底へと落ちていく自分。

幼く、弱かった自分の心に宿った、あの時の衝撃を再び体験したような感覚にとらわれる。


44 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:19:58.09 ID:a6tmhrqu0

从;゚∀从「おい!ワカ!」

(;<○><○>)「…は、ハイ。なんですか?」

ハインのことばで我に返ると、ドクオとブーンも不思議そうな顔でこちらを見ています。

(;<●><●>)「あぁ、すみません。ボーっとしていたようです」

( ^ω^) 「珍しいおね、ワカッテマスがボーっとしてるなんて」

从;゚∀从「え!?こいついつもこんなんじゃないの!?」

(;'A`)「むしろそっちが驚き!」

やっぱ付き合いが古い人は違う、などとまた話が脱線していく。
そして、また始まった他愛もない話で時間は過ぎて行きました。


46 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:22:31.24 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

从 ゚∀从「それじゃ、そろそろお開きにしようぜ」

ハインの口からそんな言葉が出る頃、窓の外は茜色に染まり、輝きのない白い月が浮かんでいました。
結局あれから兄者の話題が出ることはなかったのですが、私の心には黒い靄がかかったようなまま、晴れることはありませんでした。

ブーンとドクオも同意して、伝票をながめてそれぞれ財布を取り出します。

( ^ω^) 「じゃあ、割り勘だおね?」

('A`)「おk」バリバリ

从*゚∀从「なぁ、ワカ、おごtt( <●><●>)「もちろん自分の分は自分で、ですね」

从#゚∀从「けち!ドケチ!女の子に払わせるのかよー!」

( <●><●>)「恋人でもないのにそんな事する義理がありません」

ぶつぶつ言いながらも、ハンドバッグから財布を取り出すハイン。
しかし、その財布が存外かわいらしいものだった事に、多少の驚きを感じました。

自分の中では、男勝りだったハインも、やはり自分と同じ年頃の女の子なんだと。
そして、変わっていないのだと無意識に思ってしまっていた自分に、少し嫌気がさした。

――結局のところ、その日はそのまま帰宅したのですが、やはり学校が始まるまでの一カ月ほどの間私は落ち着かない日々を過ごし。
   心の晴れないままに高校生活はスタートしたのです。


48 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:24:48.47 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・


――とても、嬉しかった。

   ハインが、変わらずに私に接してくれたこと。

   家族よりも、友人よりも、大切にな存在。

   それは、中学校の私にはまったくと言っていいほど欠けていたもの。

   恋ではなく、『愛』していた。

   ただひたすらに愛しい存在。

   しかし、それは私を、彼を狂わせていく原因だと気付くことは無かった――


――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

49 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:26:25.16 ID:a6tmhrqu0

時間は少し飛んで、入学式後のクラス発表。
簡単な明日からのスケジュールをプリントで渡された後、クラスが張り出されているのを見に行く。
と、そこにはブーンとドクオの姿もありました。

( ^ω^) 「ワカッテマスー!何組だったお?」

( <●><●>)「3組でした、あなた方は?」

('A`)「そいつは残念。俺とブーンは5組だってさ」

( <●><●>)「微妙に離れましたね」

(;^ω^) 「ワカッテマスがいないと心細いお…」

( <●><●>)「何言ってるんですか。いい加減高校生…」

そう言いかけた時、遠くからバタバタと走ってくる声。
私は軽くため息をついてから、足音の主を振り返ると、そこにいたのは想像通りの人物。
と、いることを予想もしなかった一人の男子。


50 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:28:19.87 ID:a6tmhrqu0

从*゚∀从 「ワカ!ワカ!見つけたぞ!!」

(;´_ゝ`) 「引っ張るな!入学早々袖が伸びる!伸びるからー!」

私より少し背の低い、中背で痩せがた。
そして少し長めの黒髪に、すらりと高い鼻。

――それは、まさしくもう一人の幼馴染。

( <●><●>)「…兄者、君?ですか?」

(;´_ゝ`) 「え?なに?どちら様?っていうか目ぇでか!?」

从*゚∀从 「馬鹿、それがワカだよワカ。覚えてるだろ?」

ハインが言った瞬間、兄者君の表情が一気に硬くなる。
あまり良くなかった顔色がさらに蒼く染まっていく。


51 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:29:56.71 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「…お久しぶりです」

(;´_ゝ`) 「…あ?あぁ…。久しぶりだな、ワカ」

間に流れるのは、あまり良いとは言えない空気。
おそらくあちらも中学生の時の事を気にしてはいたのだろう、あまり目を合わせようとはしない。

从*゚∀从 「ほら、もうちょっと喜べって!感動の再会シーンだろ!?」

あまり空気を読めているとは言えないハインの言葉に、少し表情を和らげる私達。
しかし、それでも空気は変わらず。
その場にはおろおろするドクオとブーンの目線だけが泳いでいました。

从*゚∀从 「まぁ、立ち話もなんだし、この間の喫茶店行こうぜ!」

ほらほら、とハインに追い立てられて、仕方なく、といった感じで歩き出す私達。


52 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:30:58.93 ID:a6tmhrqu0

――とは言っても、喫茶店に着いても空気が良くなるわけでもなく。

( <●><●>)「……」

(;´_ゝ`) 「……」

(;^ω^) 「……」

(;'A`)「……」

从*゚∀从 「なんだよ皆ー。緊張してんのかー?」

やたらハイテンションのハインを除いて、誰も話しだせる空気ではなく。
ため息をついて仕方なく私が話し始めます。

( <●><●>)「では、一応紹介しておきましょうか。彼は、私の幼馴染の流石兄者君」

(;´_ゝ`) 「お、おう。よ、よろしく」

それに続いてブーンとドクオが自己紹介のような挨拶のような中途半端な返事を返すと、再び場が沈黙する。


53 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:32:18.32 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「ちょっと、トイレに行ってきますね」

そう言って、兄者君にアイコンタクトを取る。
私の意図を理解したのか、兄者君も立ち上がります。

从*゚∀从 「なんだ?連れションか?」

ハインの場所をわきまえない発言に送られて、トイレへと着いた私達は、水道の前で向かい合います。

( <●><●>)「…さて。なんであなたを誘ったか、分かりますよね?」

(;´_ゝ`) 「…正直さっきから睨まれてた気しかしなかったのに、理由が見当たらない」

( <●><●>)「…心当たりがない、と?」

(;´_ゝ`) 「無いことは無いが、それで合ってる気がしない」

( <●><●>)「では、その自信のない心当たりを言ってみてください」

(;´_ゝ`) 「…昔、ハインが引っ越した後に」

ここで、私はゆっくり瞳を閉じた。
そこまで分かっているのになんで自信がないのか。


54 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:33:17.08 ID:a6tmhrqu0

(;´_ゝ`) 「お前の家に遊びに行ったとき、お前のケーキこっそり食べちゃったこと?」

(;<●><●>)「…………は?」

(;´_ゝ`) 「え?違うの!?俺はてっきり食い物の恨みなのかと…」

予想もしない返しに、私の口からは変な音しか出てこない。
そして、私の不安であるとかそんな感情は幼いプライドとともに融けていってしまって。

(;´_ゝ`) 「え?じゃあ、なんかあったっけ?」

本気で焦っている兄者君の顔を見ているうちに、約束なんてどうでもよくなってしまって。

( < >< >)「は、はははは…」

こんなにも気にしていたことが、嫌われてしまっていたのじゃないかと思った事が。
こんなにも簡単に消えて行ってしまったことに対しての安堵に。


いつの間にか、笑みが零れてしまっていたのでした。


55 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:34:21.01 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

(;´_ゝ`) 「あー…ごめんな…すっかり忘れちまってて」

( <●><●>)「いえいえ、もう済んだ事ですよ」

悪気が無いのは分かっているので、もう気にするつもりもなく。
昔のように、

――いや、もしかしたら、あの頃よりも少し大人になった私たちは、
    離れていた時間なんか関係ない位に仲良くなれるのかもしれない。

話しながらハイン達の待つテーブルに帰ると、私達が席をはずす前と何の変わりもない空気。
しかし、私達の空気が和らいでいるのを察したのか、ドクオとブーンは安堵のため息をつきました。


56 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:35:14.90 ID:a6tmhrqu0

从*゚∀从 「おー、おかえりー!ずいぶん長かったなー?」

( <●><●>)「つもる話もあったもので」

( ´_ゝ`)「おー、なんか迷惑かけたなー」

主に空気的な意味で、とは口には出しませんでしたがハイン以外は理解してくれているようで。
しかし、二人の空気が柔らかくなったぶん、話に参加しようともしなかったドクオとブーンが、堰を切ったように質問しだす。

( ^ω^) 「兄者さんも今年からVIP高なんですかお?」

( ´_ゝ`)「あー、うん。まぁ年齢的には一歳上なんだけど、色々あってなー」

('A`)「え?でも二人の幼馴染じゃないんですか?」

( ´_ゝ`)「家が近かったからね―。それだけの話だよww」

从 ゚∀从 「ところでなんで同じ学年なんだ?」

57 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:36:25.82 ID:a6tmhrqu0

明るくなっていた空気が、また一瞬凍りつく。
ドクオとブーンは動作までも止め、私はやれやれと首を振る。
ハインは、この空気を作りだした元凶にも関わらず、頭の上に?マークを浮かべながら兄者の答えを待っている。

( ´_ゝ`)「…まぁ、ちょっと病気しててな。そんな感じだ」

本人はサラリと言い放ったが、凍りついた空気は動き出さない。

( ´_ゝ`)「っていってもそんなにヘビーなものじゃなくてなwそこまで心配するようなもんじゃないさ」

何かを思い出すかのように、眩しそうに細める。
しかし、細い目の奥の瞳は暗く陰り、ある程度の重い病気であった事は明白です。

从 ゚∀从 「でももう大丈夫なんだろ?」

( ´_ゝ`)「あぁ。じゃなきゃこうしてここにいたりはしないさ」

ならよかった、とハインが言ったのを皮切りに、再びさっきのような兄者への質問タイムが始まったのでした。

58 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:37:14.07 ID:a6tmhrqu0

・――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・



――実際、再会した後は上手くやってたと思う。

   ブーンも、ドクオも二人の空気にすっかり慣れて、それなりに充実した高校生活。

   ハインも、多少の空気を読む能力に欠けるものの、その明るさで、クラスの中心になりつつあって。

   いつも一緒にいて、振り回されつつ。

   中学校の時なんかよりも幸せな日々。

   それは、まるで小学校の時が戻ってきたかのような――

・――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・


59 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:38:21.70 ID:a6tmhrqu0

从 ゚∀从 「ワカ!教科書貸せ!」

( <●><●>)「同じクラスにいるのに貸せるわけないでしょう」

朝一番のあいさつ代わり。
しかし、私に借りることが無理だとわかると、一時間目が始まる直前、5組にハインが飛び込む。

从 ゚∀从 「ブーン!教科書貸せ!」

(;^ω^) 「ハインさん昨日も同じこと言ってたお!」

从 ゚∀从 「こまけぇこたぁいいんだよ!」

( <●><●>)「あなたが宿題もやっていないことはわかってます」

从;゚∀从 「ちょwww早く言えwww見せろwwww」


60 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:39:13.76 ID:a6tmhrqu0

( ´_ゝ`)「自分でやれ」

从#゚∀从 「見ぃせろおおお!」

後から来た私達に絡みつつ、

(;'A`)「人のクラスで暴れんなwww」

ドクオとブーンのクラスで、自分たちのクラスで。
いつの間にか、私達は、クラスどころか学年の中でも有名な三人組になっていて。


61 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:40:56.30 ID:a6tmhrqu0

从 ゚∀从 「よし!昼だ!屋上行くぞ!」

( <●><●>)「はいはい。私が飲み物を買ってからにしてください」

( ´_ゝ`)「あ、俺も俺も」

从 ゚∀从 「うっせ、行くぞ!」

一緒にいられなかった時間を埋めるかのように。
本当に、三人揃った事が嬉しすぎて、言葉にできなかった。

从 ゚∀从 「なー。小学校で別れたのに、高校でもっかいこの三人が揃うって、実はすげー事なんじゃないのか?」

初夏のころのことでした。
屋上で昼食を食べた後、寝転がったままにハインが呟く。

さわやかな風が私達を包み、太陽は真上から私達を照らしていました。


62 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:42:42.41 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「そうですねー、今さらだと思いますが、すごいことです」

ハインの隣に寝転がる、私。

( ´_ゝ`)「しかも俺なんか学年を超えて再会しちまったしなー」

一人だけフェンスに寄りかかって私とハインを見ている兄者。

从 ゚∀从 「俺、お前ら大好きだからさー、今度は別れないようにしようなー?」

(;<●><●>)「……」

(;´_ゝ`)「……」

これは、聞き様によっては告白ともとれる発言ではありますが。

(;<●><●>)「……まぁ」

(;´_ゝ`)「『俺ら』だしなぁ」

私も、兄者も、ハインに恋愛感情なんてものはありません。
どちらかと言えば、姉、もしくは妹といった家族のような存在、というのが一番近いでしょう。


64 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:43:59.08 ID:a6tmhrqu0

从;゚∀从 「…え?俺なんか変なこと言った!?」

( <●><●>)「…いえ、約束しましょう。ずっと、三人一緒だと」

( ´_ゝ`)「まぁ、高校の友人は一生の友人って言うしな」

私達三人は、買ってきた缶コーヒーで乾杯をして、お互い照れた微笑みを浮かべて。
自分達の間の愛情を、友情を確かめました。

嬉しかったのです。
私にとっての太陽のような彼女も、彼も、ずっとずっと自分と一緒に居てくれるものだと、そう思うと嬉しくて。

しかし、さんさんと輝く太陽は、私の心にも暗い影を作り出していました。


65 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:45:37.95 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

――もしこの二人が居なかったら、私は退屈に過ごしていたでしょう。

   この二人がいたからこそ、私は生きていられた、

   大げさな表現ではなく、本当にそう思っていました。

   離れたくなかった、高校で終わりたくなんてなかった

   だから私は――


――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・


66 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:47:02.01 ID:a6tmhrqu0

いつものように学校へ行く。
ホームルームぎりぎりに間に合うように来るはずの銀髪が、その日は見えませんでした。

( <●><●>)「…ハインが来ませんね」

( ´_ゝ`)「どうせ寝坊したからとかじゃないのか?」

しかし、一時間目がおわっても、昼休みが終わっても。
外に跳ねた銀髪も、赤く輝く瞳も、見ることはできませんでした。

( <●><●>)「…なんかつまらないですね」

( ´_ゝ`)「まったくだ」

二人で並んで屋上に寝転がる。
いつもと違うのは、町がオレンジに染まっていることと、ハイテンションな幼馴染がいないこと。


67 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:47:52.35 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「兄者?」

( ´_ゝ`)「なんだ?」

( <●><●>)「私は、ハインを、そしてあなたを、愛してますよ?」

( ´_ゝ`)「…俺にはそのケはないぞ?」

( <●><●>)「…分かって言ってません?」

はは、と笑いながら兄者は立ち上がる。
夕陽を向いているため、逆光で真っ暗な背中しか見えない。

( ´_ゝ`)「もちろん分かってるさ。お前が俺らを大切に思ってるなんて。
      俺だって、お前らを愛してはいるんだ」

まぁ、と付け加えて振り返る。

( ´_ゝ`)「俺は、お前らを一番理解してるつもりだし、これからもそれは変わらんよ。
      それにな…いや、ちょっと失礼」

その後の言葉は続かず。
兄者の携帯電話が、黒電話のベルの音を響かせる。


68 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:48:37.85 ID:a6tmhrqu0

兄者は少し離れたところで電話に出る。
私は、ただぼうっっとだんだん茜色から紺色へと変わっていく空を眺めていました。

(;´_ゝ`)】「おい、ワカ」

兄者が携帯を耳に当てたままこちらへと近づいてくる。

(;´_ゝ`)】「ハインが怪我したらしい。病院行くぞ」

(;<●><●>)「は?」

私が聞き返すと、兄者は携帯を閉じるとバッグを肩にかける。

(;´_ゝ`)「とりあえず、VIP病院だ」

大急ぎで私も荷物を持ち、駆けだす。
屋上から階段を下り、靴を履き替え、校門を飛び出し、
そこまで来てやっとのことで私は話すだけの思考を取り戻す。


70 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:49:59.78 ID:a6tmhrqu0

(;<●><●>)「…怪我ってなんなんですか?そのせいでハインが今日来なかったってことですか?」

(;´_ゝ`)「わからん、がハインの親の話し方からして、冗談の類ではないのは確かだな」

途中でタクシーを捕まえる。
帰りにどう帰るかなんて事はすでに頭から消え去ってしまっている。
VIP病院に着くと、とにかく階段を上る。

(;<●><●>)「何号室?それともしゅじゅちゅ室ですか?」

(;´_ゝ`)「5階だそうだ」

兄者が携帯を取り出して、メールを見たらしい。
病院だから、と咎めることすら忘れてひたすらに足を動かす。

五階に着くと、一番近い病室に【高岡】とかかれた紙を見つけ、扉を開く。
しかし、ノックをして開くところが、兄者らしいといったところでしょうか。


72 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:51:12.73 ID:a6tmhrqu0

(;´_ゝ`)「ハインは!?」

从'ー'从「あらー。兄者君?すっかり大きくなったわねー」

(;<●><●>)「怪我ってなにがあったんですか?」

从'ー'从「あれ?君は…もしかしてワカくん?」

(;<●><●>)「あぁ、はい、そうですけれども」

从'ー'从「本当に久しぶりね、小学校の時以来かしらー?」

とにかく、ハインのお母親はのんびりとした性格で。
これは小学校のときにはあまり気にならかったのですが、まさかこんな時にまでのんびりとは。


74 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:52:27.80 ID:a6tmhrqu0

从 − 从「今日の朝にね、通り魔に襲われた、って警察の人が」

しかし、一瞬で柔和な笑顔が消える。
精一杯の元気のつもりだったであろう軽い調子は消えさる。

从'ー'从「でも、軽い怪我で済んだから良かったのよ、少しすれば普通に学校行けるらしいし」

(;<●><●>)「…ハインには会えますか?」

从'ー'从「んー、眠ってるから起こしましょうか?」

(;´_ゝ`)「いえ、今日のところは遠慮しておきますよ」

从メ゚∀从 「待てよ」

奥からハインの声が聞こえた瞬間、兄者がピクリと反応する。


76 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:55:22.71 ID:a6tmhrqu0

从メ゚∀从 「顔くらい見ていったって損はねーだろ」

( <●><●>)「起きて大丈夫なんですか?」

大した傷じゃない、と言いながらも多少顔をしかめるハイン。
頬の切り傷が白い肌に映えて、不謹慎ながらも少し綺麗に見えます。

从メ゚∀从 「乙女の肌に傷つけやがって…」

(;<●><●>)「まぁ、命にかかわる怪我なわけじゃないですし、良かったんじゃないですか?」

从メ゚∀从 「あぁ。まぁ、ちょっと切り傷だけだからな」

一週間くらいあれば退院できるんだ、と軽く言って。


77 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:56:14.31 ID:a6tmhrqu0

从メ゚∀从 「兄者も何かないのかよー、慰めの言葉とかさー」

ハインに声をかけられてから、ずっと黙ってハインの顔を見ていた兄者が、はっとしたように口を開く。

(;´_ゝ`)「ん?あぁ。大変だったな」

しかし、目はハインの顔に固定されたままで。
上の空のままに、ハインの話を聞いていたのでした。



78 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:57:28.74 ID:a6tmhrqu0

VIP病院を後にして。
お金がないので、家まで40分程度の道を歩かなければなれません。

( <●><●>)「どうしたんですか?ずっとぼーっとして」

(;´_ゝ`)「…いや、ちょっとな」

( <●><●>)「ハインに見とれていた、なんて落ちではないですよね?」

(;´_ゝ`)「それは無い。心の底からない」

( ´_ゝ`)「…まぁ、『顔』っていうのはあんまし間違ってないけどな」

( <●><●>)「なんです?」

兄者が何かつぶやきましたが、聞き取ることができず。

( ´_ゝ`)「いや、なんでもない。それより、これだったらタクシーなんか使わないで歩いてくれば良かったな」

( <●><●>)「まったくです」

彼女を欠いた明日からの学校生活は、どうなるのか。
多少の不安を抱く私は、兄者の不審な様子など、

そして、通り魔とやらを恨みながら、すっかり日の落ちた家路についたのでした。


79 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:58:29.27 ID:a6tmhrqu0

・――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

――ハインに怪我をさせる、そんなことは許せなかった。

   犯人を、殺してしまいたい。

   しかし、ハインに会うことで自分は思ってしまった。

   あの白い肌にできた一筋の紅線。

   それは自分を、彼を魅了してしまった。

   あまりにも、美しすぎた――

・――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

80 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 22:59:47.78 ID:a6tmhrqu0

次の日からの学校は、色を失ったかのようにつまらないものでした。

( <●><●>)「静かなのもたまにはいいかもしれませんね」

朝の喧騒もなく、無理やり宿題を奪おうと躍起になる姿もなく。
静か且つ平和な時間が過ぎていきます。

――しかし。

昼休み、いつものように屋上に出るとと、私が一番乗りのようでした。

( <●><●>)「……」

ハインはもちろんそこにいるはずもなく。
兄者もまだ来ていないようでした。

( <●><●>)「まぁ、一人で食べるのもなんですし、待ってますかね」

と、呟いた瞬間。
ぶぶぶ、と携帯のバイブがメールの着信をつたえてきます。

内ポケットから携帯を取り出し、メールセキュリティを解除する。
と、兄者からのメールでした。

81 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:01:10.22 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「えーと…?」

『(;´_ゝ`)「すまんが用事があって帰らなきゃいけなくなった!」』

( <●><●>)「…まぁ、そんな日もありますよね」

ブーンとドクオのところに行こうかとも思いましたが、あちらにはあちらの友人関係があるようですし。
仕方なく、午後の陽の温かな屋上で一人で昼食をとることにしたのでした…。

しかし、それはひどく哀しく、孤独を感じずにはいられませんでした。


83 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:02:39.29 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

( −−)「…ん…?」

(  う<●>)「あれ?」

いつの間にか眠っていたようで、陽が傾き始めていました。

ぱんぱん、とズボンのお尻をはたいて起き上がり、背伸びを一回。

( <●><●>)「…この時間じゃあ、もう授業は終わってますね…」

手元の携帯の液晶に映る時計は、もう下ではホームルームが始まっている時間。
途中何回もチャイムも鳴っただろうに。そんなに爆睡していたのだろうか。

(;<●><●>)「私としたことが…」

真面目で通っている私が、午後の授業をまるまるサボってしまうとは。
一人で沈んでいると、階段へとつながるドアが勢い良く開く。


84 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:03:36.02 ID:a6tmhrqu0

( ´_ゝ`)「ワカいるかー!?」

聞きなれた声に軽く返事をして、振り返る。
安堵の顔を浮かべ、しかしどこか呆れたように兄者が立っている。

( <●><●>)「すみませんね、眠ってしまいまして」

(;´_ゝ`)「お前なぁ…ハインじゃなんだからさ…」

( <●><●>)「先生はなんか言ってましたか?」

(;´_ゝ`)「保健室って言って誤魔化しといた。まぁ、明日呼び出しくらいは覚悟しておけよ」

ため息を一つ。

(;´_ゝ`)「そうそう、俺はそんな話をしに来たわけじゃないんだよ!
      悪いが、明日からたまにしか屋上に来れそうにないからさ、それを言おうと思って」

( <●><●>)「…なんでまた?」

(;´_ゝ`)「いやいや、ちょっと、な」

言葉を濁す兄者に多少の疑念を抱きながらも、とりあえず納得するしかありません。

85 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:04:42.32 ID:a6tmhrqu0

( <●><●>)「…まぁ、たまには一人で昼食もいいと思っていましたから」

嘘だ。
しかし、寂しいからなんて理由で引き留められるわけもなく。
精一杯の虚勢を張って、彼の案を受け入れるべきだろうと私は。

(;´_ゝ`)「すまんな、ハインもいないって時に」

( <●><●>)「いえいえ。大丈夫ですよ」

兄者が屋上に来れない「原因」に対しての嫉妬心のようなものが、私の中で首をもたげた。
そしてそれは同時に、ハインも、兄者もなんで私のそばに居てくれないのか、という子供じみた独占欲にも似た黒く、どろりとした感情を含んでいた。


86 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:06:55.84 ID:a6tmhrqu0

――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

その後の私は。
毎日昼になると一人で屋上へ行き昼食を。

たまに、クラスメイトからも誘われましたが、そんな気分にもなれず。

携帯でテレビを見ても、最近話題の通り魔のニュースしかやっておらず。

まるで兄者にも、ハインにも置いて行かれたような。
自分だけが乗り遅れているように思えてきて。

( <●><●>)「…私は、どうしたいんでしょう」

そう。どうしたら良いのか。
どうにもできないと分かっていながら、どうすればいいのか。

一緒にいたい。
少しでも離れていると不安で仕方ない。

一緒に居たい。ただすっとそばにいてほしい。

それだけを考えるようになっていました。


87 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:08:10.78 ID:a6tmhrqu0

・――――――…・・ ・ ・  ・  ・  ・

ある日の帰り道。

( <●><●>)「…」

( ´_ゝ`)「おぉ。ワカじゃないか、どうした?」

( <●><●>)「ちょっと本屋に用事がありまして。兄者は?」

( ´_ゝ`)「おう、俺は今用事を済ませてきたところだ。ついでだから本屋一緒に寄って行こうぜ」

そんなわけで、歩いていると、前方に人だかりが。

( <●><●>)「…なんでしょうかね」

その人だかりは、悲鳴をあげる人もいれば、しかめっ面をしている人もいて。
人込みを押しのけて前へ行こうとすると、意外にも簡単に皆が道を開けてくれたのだが。

中心まで行ってよく見れば、人だかりではなく警察が道を塞いでいる。
そして、その奥に見えるのは赤い染みの広がった跡と、その染みの元となっている人。
いや、人であったモノと言ったほうが正しいのかもしれない。

88 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:09:18.19 ID:a6tmhrqu0

それが、最近巷を騒がせている通り魔の現場であると理解するや否や、急いで立ち去ろうとするが、

しかし

足が動かない。

目が、離れない。

赤い染みから、運ばれていく人間の頭の傷口に、吸い寄せられたように目線が行く。

太陽の光を反射する深紅の輝きに、黒い髪に、白い肌に筋を作って流れていく様子に


――私は、何とも言えない魅力を感じていたのだ。


嗚呼。愛する人をあんな風に美しくできたら。

口では、否定してみたものの。
心の奥底では、さらにそれを否定する自分がいて、独占欲と結び付く。

( ´_ゝ`)「早く、行こうぜ。気分が悪くなる」

その場をやっとのことで動き出す。

しかし、一度宿った黒い心は、それぐらいでは消えることは無かった。

90 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:10:03.95 ID:a6tmhrqu0

――あれなら、誰かに彼らを奪われることは無い。

   でも、一緒に居られないじゃないか?

   ならば、一緒に居るために何をしたらいい?

   一緒になる?結婚?

   違う。自分の気持ちはそんなものとは違う

   もっと、もっと深く、愛しているのだ。

   それは、彼も同じように――


95 名前:◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:45:25.52 ID:TyaZ7hwb0

屋上のドアが開く。
外は光にあふれている。

( ´_ゝ`)ノ「おっす」

( <●><●>)「今日は用事ないんですか?」

( ´_ゝ`)「おー。まぁ、な。」

一瞬で、彼の首や、腕や、年齢にしては細身の体に目が行く。

昨日の、通り魔に襲われた人がオーバーラップする。

――この体が赤く染まったら、さぞかし美しいだろう。


――ああ、今すぐ切り裂いてしまいたい、切り裂いて、誰にも触れられないようなところに…


――あの娘の銀髪もさぞかし紅が合うだろう。


96 名前: ◆j0VQcv9RTo投稿日:2009/11/08(日) 23:46:38.85 ID:TyaZ7hwb0

( ´_ゝ`)「なんか目つきが怖いんだが、大丈夫か?」

( <●><●>)「大丈夫です」

大丈夫です。大丈夫ですだいじょうぶダイジョウブダイダイダイダイジョウジョジョウブ

声が頭の中でエコーする。
心の中が、衝動で満たされていく。


そう、ダイジョウブ、大丈夫。
もう迷うことは無い。ダイジョウブ。ダイジョウブ。



98 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:47:40.75 ID:TyaZ7hwb0

――手紙を、書いた。

   彼女の退院の日に、彼と彼女に。

   彼も、彼女も、来るだろうか。

   待ち合わせの誘い。学校裏の廃工場に。

   今夜、八時に来てくれと。

   待っているから。


99 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:48:38.21 ID:TyaZ7hwb0

*―――――――――――――――――――――――――――――*

外は、星空。


廃工場に着いた時には、すでに二人は待っていて。
それはそれで思惑通り。

そっと、バッグの中身を手でなぞる。
それだけで、恍惚感に満たされる。

( <●><●>) 「揃いましたね」

( ´_ゝ`)「久しぶりの遭遇だな」

从 ゚∀从「まったく、こんな辛気くせーところに呼び出しやがって」

三人が久方ぶりに集まったのが嬉しい。
本当に。


―本当に。


101 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:49:34.08 ID:TyaZ7hwb0

( ´_ゝ`)「なんか秘密基地っぽくてよくないか?」

( <●><●>) 「ガキですかあなたは」

いや、餓鬼。まさしくそうなんだろう。
餓えた鬼、今の気持ちにぴったりじゃないか。

从 ゚∀从「で?こんなところで何すんだよ?」

退院祝いをしてくれるわけじゃないんだろ?
彼女はそう呟き、そのへんに落ちている石を蹴る。


沈黙が場を支配する。


102 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:50:30.83 ID:TyaZ7hwb0

「俺は、お前らを愛している」


そう、口を開くと二人は照れたように笑う。
彼女は、光の溢れる笑顔で。
彼は、鋭い目をいくらか和らげて。

「だからな?二人がほしいんだ」


二人の笑みが少し陰る。

バッグからナイフを取り出す。


103 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:51:35.75 ID:TyaZ7hwb0

( <●><●>) 「それは、奇遇ですね。私も、おんなじことを思っていたんですよ」

『彼』がおもむろにバッグから、牛刀を取り出す。
少し驚いたが、すぐに気付く。

お互いの目線が、銀色の髪を見据えていることに気付いた。

从;゚∀从「え?何?なんなんだよお前ら」

彼女は恐怖と困惑の顔を湛えて、ルビーの瞳を潤ませる。


104 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:53:00.05 ID:TyaZ7hwb0

どすん。
彼女の体が大きく揺れる。

傷口から、瞳と同じ、紅い色をした飛沫があがる。

言葉にならない悲鳴があがり、彼女は倒れて。その傷口は鼓動とともに紅い血を噴き出し。
紅い雫だけが、じわじわと広がっていく。ひろがっていく。

か細い彼女の体を、二つの刃が蹂躙していく。彼女が分かれていく。

お互いに目を見合せて、同時にことばを発する。空気を振動させる。


106 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:54:27.07 ID:TyaZ7hwb0


「あなたも」            「おまえも」


「一緒になるため」        「一緒にいるために」


『その肉も、血もすべて一緒にいさせてくれ』



108 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/08(日) 23:59:23.48 ID:a6tmhrqu0

換気扇の音が、低く響き続ける。
俺は、倒れ伏して自問自答する。

――どうして。なぜこんなことに。

その問いに答える声は無く、ただじっとりとした空気と、生臭さが鼻をつく。
目の前に広がる光景を俺は茫然と、しかし何処かうっとりと眺める。

生ぬるい感触を感じ、両手を目の前へと動かす。
途中、手に持っていたものが床を滑り、少し離れた場所で止まる。

俺の視界に入ってきたのは、紅く濡れた五指。

――この血は『彼』の血

―――この血は『彼女』の血


109 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/09(月) 00:00:05.69 ID:RA+Srfkj0

顔に近づけると、一層鉄の香りを強め俺の脳を刺激する。
宙に浮いているのではないだろうかと錯覚するほどの、高揚感が俺を支配する。

『それ』を大切に、愛しむように、俺の目が、鼻が、舌が。
すべてを感じようと、働きを強める。


――これが『彼女』の血の色。
―――これが『彼』の血の色。

――これが『彼』の血の香。
―――これが『彼女』の血の香。


――これが『彼女』の血の味。
―――これが『彼』の血の味。


まるで高級な料理でも堪能するように、しかし一心不乱に紅い血を愛でる。

―――なんと馨しく、そして美しい。


111 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/09(月) 00:01:08.50 ID:RA+Srfkj0

俺は一通り両手の血を堪能すると、手を伸ばす。
そこにあった『彼女』だったものに目を向け、手に取る。

にちゃ、と湿った音をたてて紅い糸を引きながらそれは床を離れる。
手の届く範囲にあった肉塊を拾い集め、抱きしめる。

―――これは『彼女』であったもの。

もはや元の形など留めていないため、どちらのものかなどわかるはずもない。
しかし、私には分かる。なんといっても『付き合いが長い』のだ。

――やっと、こうすることができた。

肉塊に頬を擦り付ける。
温もりなど残っているはずもないそれを、赤子のように、恋人のように。
何度も、何度も。

そこで、気付いた。
もう、彼女にも、彼にも会えないのだ、と。


113 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/09(月) 00:02:14.47 ID:RA+Srfkj0

『彼女』の外に跳ねた銀髪も、溢れんばかりの笑顔も。
伏し目がちに悩む表情も、涙を流す美しいルビーの目も。

『彼』の整えられた黒髪も、美しくアーチを描く眉も。
大きな瞳も、真面目くさった言葉を紡ぐ口元も。


すべてが、もう見ることは無いのだと気付いた。


――あぁ、愛していたのだ。殺してしまいたいほどに。


――あぁ。哀しているのだ。二度とは戻らない日々に。



俺の感情は、愛と哀の間に存在していたのだ。


そして、銀色の閃きを認めると、俺の視界は暗い淵へと沈んでいった。


114 名前: ◆j0VQcv9RTo 投稿日:2009/11/09(月) 00:04:03.97 ID:RA+Srfkj0






愛間哀Iのようです






おわり





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