(  )CRIMEのようです。

55 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:00:40 ID:Iw.JEQf.

罪人合作参加作品

・注釈
この作中には、グロテスク描写がいくばか含まれます。
また、幾度にもわたり視点・人称の変更があり、それに関しても特に文中で記載する事がありません。
その事をご留意の上、苦手な方はブラウザの戻るボタン、ないしスレッドを閉じるボタンを。
構わない、という方は、どうか。
最後まで、ごゆるりとお付き合い願えれば。
甚だ幸いでございます。

それでは、始まり、始まり。

56 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:01:10 ID:Iw.JEQf.


(  )CRIMEのようです。

57 名前: ◆Qq92ExZaJE:2009/06/06(土) 02:01:43 ID:???


開幕

58 名前: ◆Qq92ExZaJE:2009/06/06(土) 02:02:45 ID:???

豪雨。
雷鳴。
風鳴り。

酷い嵐の夜。その山奥の廃教会の扉が開いた。

「はぁ……はぁ……」

ずぶ濡れになった何者かが、教会に足を踏み入れる。
光源は、時折落ちる雷の一瞬の光のみ。
そんな闇の中を、手探りで壁伝いに進んでいく。
ふと、その何者かの手に触れた感触は、ドアノブのそれ。
鍵は、かかっていない。
ドアを開け、中に入り込む。

「はぁ……はぁ……」

ドアを閉め、内側から鍵を閉める。
ようやく落ち着いたらしく、その何者かは懐からオイルライターを取り出す。
キン、と、硬質な音が響き、小部屋の中とその何者かの顔ががぼんやりと照らされた。
その光の中に蝋燭を見つけ、ライターの火を移す。
そこで、ようやっと気づいた。

59 名前: ◆Qq92ExZaJE:2009/06/06(土) 02:04:00 ID:???

川 ゚ -゚)「懺悔室……?」

自身の右手に、小さな張り出しと小窓がある。
ちょうど、自分の口辺りの場所にその小窓はあり、部屋の作りからそこは懺悔室、その神父の側と解った。

川 ゚ -゚)「とりあえず、ここに隠れているか……」

外観からしてもわかる、廃棄された山奥の教会。
こんな嵐の夜に、好き好んでこんな所に訪れる者などまず居ないだろう。
彼女は嵐が過ぎ去るまでここに身を隠す事を決めた。

川 ゚ -゚)「さて、と……」

つぶやき、大事そうに持っていた何かを置く。
そして、黒いジャケットの左脇。
そこにぶら下がっているビアンキのショルダーホルスターから取り出したのはコルトの.45口径自動式拳銃だ。
マガジンを取り出して見れば、中は空。つまり、残弾は1発のみ。

川 ゚ -゚)「ちっ」

小さく舌を打ち、マガジンをフレームに戻す。
拳銃をホルスターにしまうがてら、懐からタバコを取り出してくる。
残りのタバコは、あと僅か6本。
その少なさに、また舌打ち。

60 名前: ◆Qq92ExZaJE:2009/06/06(土) 02:04:30 ID:???

悪態をついた所で、タバコの数が増えるでも無し。
女は、タバコを咥え火を着ける。

川 ゚ -゚)「……酷い味だ」

濡れたBOXパッケージの中身、ジタン・カポラルは酷く湿気っていた。
そのコクのある味わいも、ただただ辛いだけに成り下がっている。
また、思わず舌打ちが出る。

川 ゚ -゚)「……」

チラリ、と。先ほど置いた荷物に一瞥をくれる。
黒のゼロハリバートンのアルミケース。
頑強さと軽量さを兼ね備えたその高級ケースの中身は、果たして。

川 ゚ -゚)「まったく……、こんな物の為にこんな目にあうとはな……」

忌々しげに呟き、紫煙を大きく吸い込む。
相変わらず酷い味のそれに、顔を顰めた、その時。
教会の扉が開く音が聞こえた。

61 名前: ◆Qq92ExZaJE:2009/06/06(土) 02:05:37 ID:???

川 ゚ -゚)「──っ!」

コツリ、コツリと、聞こえてくる足音。
それは確実に、この部屋に近づいて来ていた。
何故、こんな時間に、こんな所へ?
否、問題はそこでは無い。
こんな所で、見つかるわけにはいかない。見つかれば、酷く面倒な事になる。
足音は、それでもどんどん近づいてくる。
女は、懐に手を伸ばし、拳銃を掴む。
最悪、これでケリをつけてやらねばならない。

川 ゚ -゚)「……」

足音は、女の居る部屋のすぐ近くで止まった。
そして、仕切りの向うのドアが開く音がする。

川 ゚ -゚)(しまった、迂闊だった……)

敷居の向うからは、小窓を通してこちらの明かりが見えてしまう。
やはり、撃つしかないかと女がサムセーフティに指をかけたとき。
聞こえてきたのは、以外な程に落ち着いた台詞だった。
62 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:06:17 ID:Iw.JEQf.

(  ∀ )「おや、まさかこんな所に人が居るとは」

飄々とした、男の声。
その声音は。この場にはそぐわないほどに落ち着き払っている。

(  ∀ )「ああ、安心してください。どうせ何かしらの訳有りって事でしょう?
      大丈夫。それは僕もですから」

いったい何が大丈夫なのか?
ギッ、と椅子に腰掛ける音が聞こえ、銃把を握る手に力が篭る。

(  ∀ )「まぁ、しかし。そうですね。そんな所に居るのですから、僕の話を聞いていただきましょうか。
      元々、懺悔というよりは独白の為に来たのですが、何、聴き手が居るのも悪くない」

男の声色が、少し変わる。
まるで、何かの自慢話しを始めるように。

(  ∀ )「それでは、そうですね。あなたは、今どんなことに興味をお持ちですか?」

63 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:06:59 ID:Iw.JEQf.

Case No.1 Cannibalism

64 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:07:33 ID:Iw.JEQf.

いやなに、どうって事は無いんです。元々はね。
なんというか、最初はただの興味だったんですよ。
ほら、よくあるでしょ? テレビの美食番組とか、そういうの。
そういうのを見てて、自分も食べてみたいなー、って思うの。
元々は、そういう感じだったんですよ。
どんな匂いがするのかとか、どんな味がするのか、とか。
食感とか、そんなのも込みで。
まぁ、粋人であれば、どんな酒に合うのか、なんて事も考えるかもしれませんね。
ああ、僕はそこまでは考えませんでしたよ? 
恥ずかしながらお酒、飲めないもので。
まぁ、そんな感じです。
逆に言えば、それだけで十分だったんですよね。
僕としては。

いやはや、しかし、あれは中々。
なんと形容してよいのか、未だにわかりませんよ。
雑食ですからねぇ。美味しくは無い、という話しは聞いていたんですが。
それでも、その昔は万病に効く薬、なんて言われてたらしいですよ? 一部の器官なんかは。
とりあえず、話しましょうか。
事となり、ってやつを。

65 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:08:04 ID:Iw.JEQf.

男は、とある物に非常に興味があった。
もしかすると、誰もが一度は興味を抱くかも知れないものだ。

( ・∀・)「いやはや、どうにも」

目の前には、1人の女性。
彼の恋人が、すやすやと眠っている。

川д川「……」

寝息も静かな、恋人の寝顔。
あまりに安らかなそれは、まるで死体のようだ。

( ・∀・)「……」

男はその興味をそらそうとするように、目線を外す。
そして、コーヒーを一口。

66 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:08:39 ID:Iw.JEQf.

都心の、高級マンション。その中ほどの階の一部屋。
3LDKの間取りで、中々の広さを誇るそれは、一定の成功を収めた者の証でもある。
その寝室、ベッドの上には、生まれたままの姿でいる一組の男女。

( ・∀・)

男のほうは、美男子と言っていい部類だ。
年の頃は、20代後半ほどか。顔に、年相応の落ち着きが見える。

川д川

女のほうは、お世辞にも美人とは言えない。
さりとて不細工というわけではなく、しかし悲哀を感じさせる顔立ちだ。
ほっそり、というにはあまりにも病的なほどに痩せた体つき。
幼さの抜けきらない顔立ち。
肌の白さは、若さ故ではなく不健康さ故の青白さだ。

67 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:09:10 ID:Iw.JEQf.

( ・∀・)「もう、こんな時間か」

男が時計を見れば、時刻は既に深夜の3時。
草木も眠る、との言われに反し、この都会では人の気配が絶えない。

( ・∀・)「やはり、気になる」

男は、もう一度、女に視線を戻す。
そして、その肩を優しく揺すった。

川д川「ん……あ……」

女は、うっすらと目を開ける。
焦点の定まっていない目が、男の顔を捉えた。

川д川「どうか、したんですか?」

その顔立ちに似合いな、どこか悲壮な色を含んだ声。
女は半身を起こすと、甘えるように男にしなだれた。
男の顔を見上げる目は、色を求め濡れていた。

68 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:09:40 ID:Iw.JEQf.

( ・∀・)「ちょっとした確認だよ。僕達の今後について、とか」

男は女を抱きしめると、そっと。
耳元で、優しく囁いた。

川д川「……・・・・・・はい」

間を置いて、答えた女。
その内心。情火が激しく燃え上がる。
しとしとに濡れた陰部を男の腿にこすりつけながら、男の胸に舌を這わせる。

川д川「……ん……んっ……」

男は、そんな女を見下ろしながら。
その目は、酷く冷ややかだ。

( ・∀・)「君は、僕の事を愛しているかい?」

男の問いに。

川д川「もちろん……です……」

女の答え。

69 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:10:12 ID:Iw.JEQf.

( ・∀・)「そうか。それはよかった。では」

その答えに、満足したかのように。
男は、ゆっくりと。
女の首に、手をかける。

( ・∀・)「僕の興味を、満たしてくれないかな」

川д川「……ん……あ……かっ……はっ……」

何のためらいも無く、その手に力を込める。
両の手の親指を、女の小さな喉仏へ。
そこに全力で圧力をかければ、僅か3分ほどで人間は失神する。
そして5分ほどで、簡単に絶命に至る。

川д川「くる……し……い……」

女の、蚊の鳴くような小さい声。
男は、そんな物は無視し、ただただ力を込め続ける。
女は、やがて沈黙し。
男が、手を離した時には。
女は、絶命していた。

( ・∀・)「さて、と」

70 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:10:49 ID:Iw.JEQf.

男は、ベッドを抜けるとキッチンへ向かった。
寝室に戻った男の手。そこには、一振りの出刃包丁。
丁寧に手入れの施された刃物は、見るものにその切れ味を想像させる。
恐らく、いや間違いなく、素晴らしい切れ味だろう。

( ・∀・)「やはり、魚のように簡単にはいかないのだろうな」

女の体に刃物を入れる。
プツリと、出来た赤い斑点は、流れになり。
真っ白なシーツを赤く染める。

( ・∀・)「さて、と。どうやって料理したものかな」

意気揚々よ女の体を刻む男は、ふと思い出す。
ああ、そういえば。居たな。
アメリカの、犯罪者だったか。殺した女性の乳房をステーキにしてたのは。

( ・∀・)「肉、だからな。そうだ、まずはそうしよう」

ご馳走を前にした子供のように。
男の目は、純真な輝きに満ちている。
これから、彼の長年の興味は満たされるのだ。

( ・∀・)「さて、さて。果たして、どんな味がするのかな? 人間って言うのは」

ほんの些細な興味は。
ほんの些細な犠牲で、満たされる。

71 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:11:19 ID:Iw.JEQf.

間幕〜T〜

72 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:11:53 ID:Iw.JEQf.

(  ∀ )「これで、僕の話はおしまいです」

話し終えたことに満足したのか、男が椅子から立ち上がる音が聞こえた。
いったい、何故、何を思ってこんな事を話したのか。
女は、酷く当惑していた。

(  ∀ )「ああ、そうだ。こんな事、言う必要は無いと思うのですが……」

(  ∀ )「この事は、くれぐれも内密に。その辺は、お互い様という事で」

川 ゚ -゚)(…………)

73 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:12:24 ID:Iw.JEQf.

女は、沈黙。
既に、相手を撃つ気力など失せていた。

(  ∀ )「それでは。もう2度と会わない事を願って」

男が立ち去る音を、無言で聞いている。
アイツは、常人か?
とても、そうは思えない。
と、その時。
視界の端に何かが映ったように思えた。
あれは、人影? まさか。

川 ゚ -゚)「……ちっ」

意味不明の事態に、また舌打ち。
そこで、だ。
イライラして注意が散漫になっていたのか。
また聞こえてきた教会の扉が開く音に、思わ肩を振るわせた。

74 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:12:56 ID:Iw.JEQf.

先ほどの男の時と、同じ。
足音は、どんどん女の居る部屋に近づいてくる。
そして、聞こえたのはやはり。
仕切りの向うのドアが開く音だった。

(  _> )「……」

聞こえてきたのは、仕切りの向うの人間が息を呑む音。
しかし、すぐに冷静さを取り戻したのか、独り言のような声音で女に話しかけてくる。

(  _> )「まさか、先客が居るなんてな……」

聞こえて来た男の声、その声色に。
女は、なんとなく後に続く言葉が予想できた。

(  _> )「まぁ、いいか。あなたも、そんな所に居るんだ。
      俺の話を聞いてくれても、罰は当たるまい」

やはり、か、と。
女は、そんな事を思う。

(  _> )「あなたは、何かを羨ましいと思った事は、あるかな?」

75 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:13:26 ID:Iw.JEQf.

Case No.2 Re-Try

76 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:13:57 ID:Iw.JEQf.

確かに、悪い人生ではなかったと思う。
自殺を考えるほど、追い詰められもしなかったしな。
まぁ、それに。
自分で言うのもなんだが、成績はいい。
運動だって苦手って程でもないし、顔も悪くはないと思うぞ?
まぁ、これが俺の自分自身に対する認識だったわけだ。
それでも、まぁ、足りないものというか。
不満に思う事はあるわけだ。
大抵誰でも持ってると思うんだが、いわゆる。
「何で、アイツは持っていて自分は持っていないんだ」
ってヤツ。
これも、やっぱそういう感情の1つなんだよ。

まぁ、我ながら、これは少々行き過ぎな気がしないでもない。
だけど、後悔みたいなのはしてないかな。
なんにせよ、俺はやり直すチャンスを得たわけだから。

77 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:14:27 ID:Iw.JEQf.

双子。
他人同士でありながら、限りなく同じ顔を持つ一卵性双生児。
彼ら、あるいは彼女らは、生れ落ちた時既に他人を知っている。
まるで、鏡を覗き込むように、自分の顔を知っている──

( ´_ゝ`)(´<_` )

彼らもまた、双子。
1000組に4組の確立で生まれてきた、一卵性双生児。
その中でも更に希少な、ミラー・ツイン。

( ´_ゝ`)「おk。ブラクラゲット」

兄である流石兄者は、右利き。
ネットの海に溺れ、二次元に恋をする典型的駄目人間。
しかし、明るく友好的な性格故その人種を問わず友人が多い。

(´<_` )「兄者。頼むから勉強の邪魔をしないでくれ」

弟である弟者は左利き。
成績優秀、運動神経抜群で人格者の典型的優等生。
しかし、その雰囲気と余りに出来すぎた人間性故友人はほとんど居ない。

同じ卵子から生まれ、同じ環境で育ったとは思えない2人。
ミラー・ツイン。鏡像の2人。

78 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:15:06 ID:Iw.JEQf.

俺と兄者は所謂ミラー・ツインってヤツだ。
まぁ、それでも顔なんか基本的に一緒。違いは中身と利き手くらいのモンだ。
DNA鑑定ですら識別できない他人同士。
昔はそれを利用してよく馬鹿な悪戯をしたもんさ。
まぁ、家族にだけはバレたんだけどな。
それが利き手のせいだって、気づいたのは小学校に上がってからだった。
何を思ったか、それ以来2人して逆の手を使う練習をしてな。
2人とも、最後には両利きになったよ。
と言っても、日常の動作はやっぱ慣れてる利き手でやってたんだけどな。

79 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:15:37 ID:Iw.JEQf.

(´<_` )「……」

(,,゚Д゚)「おう。兄者。今からカラオケいかねーか?」

(´<_` )「すまんな。俺は弟の方だ。兄者ならエロゲの0時売りに並びに行ったよ」

(,,゚Д゚)「す、すまねぇなゴラァ」

(´<_` )「何、慣れてる。気にするな」

(,,゚Д゚)「悪いな。しゃあねぇ。カラオケは今度にすっか」

(´<_` )「……」

友人が多く、基本的に遊び歩いていることの多い兄者。
その兄と間違われて遊びに誘われる事は多々あったが、弟者として遊びに誘われる事など無かった。
それが、どうしてか。
彼は、無性に寂しくてしょうがなかった。

80 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:16:07 ID:Iw.JEQf.

兄者は成績のいい俺の事が羨ましいなんて言ってたけどな。
兄者だって馬鹿なわけじゃない。ただ、勉強とかそういうのに向いてない性格だっただけさ。
俺は逆に、友達の多い兄者が羨ましくてしょうがなかった。
休み時間には色んなヤツと話して、放課後は色んなヤツと遊びに行って。
色んなヤツと楽しい時間を過ごして。
俺と兄者は同一人物じゃない。それは解ってるんだ。
いくら双子でも、他人は他人。
ただ、それでもな。
無性に、惨めな気分になる事があったんだ。
なんで、同じ顔なのに。同じDNAなのに。
なんで、俺にだけ友達が居ないんだろうってな。
まぁ、それが俺の性格なんだからしょうがなかっただろうけどさ。

81 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:16:41 ID:Iw.JEQf.

( ´_ゝ`)「なぁなぁ弟者! せっかくの休みなんだから遊びいこーぜ!」

(´<_` )「兄者、今が何故休みなのか知ってるか?」

( ´_ゝ`)「兄を舐めるなよ? それくらい知っとるわ! ズバリ! テスト休み!」

(´<_` )「正解だ。所で、腐っても進学校であるうちの高校ではこの中間テストの後すぐに実力テストがあるって
       いうのは知ってたか?」

( ´_ゝ`)「モチのロンだ。役牌ドラ3で7700点直撃だぞ」

(´<_` )「兄者がまだ耄碌してなくて良かったよ。テストあるって解ってんなら勉強しろ」

( ´_ゝ`)「えぇ〜? やだぁ〜。私ぃ、弟者くんと遊びたいぃ〜〜」

(´<_` )「ええい、鬱陶しい!」

( ´_ゝ`)「弟者のいけず〜。このテレ屋さんめっ!」

82 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:17:11 ID:Iw.JEQf.

兄者は優しかったよ。
友達の居ない俺を、何かと気にかけてくれた。
何度も遊びに誘ってくれたし、俺が悩んでる時には馬鹿やって、不器用だけど慰めてくれた。
まぁ、時には最高に空気の読めてないときもあったけどな。
本当に、本当にいい兄だった。
あんなにいい兄貴、中々居ないぜ?
俺にとっては、世界で最高の兄貴だったよ。
ただ、俺は。
俺は、世界で最低の弟なんだ。
それだけさ。


細かい事に関しては、省かせてもらう。
悪いな。自分から話しておいて。
ただ、正直、率先して思い出そうとは思えないんだ。
我ながら、何のつもりなのか皆目検討も着かないよ。
とかく、数日前だ。
地方新聞の小さな見出し。3面の左下。
そこに、こんな記事が載ったのさ。

──高校2年生男子 屋上から飛び降り自殺──

83 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:17:43 ID:Iw.JEQf.

(,,゚Д゚)「弟さん、残念だったな……」

( ´_>`)「ああ……」

(,,゚Д゚)「すまねぇ。俺、馬鹿だからさ、こういう時なんて言っていいかわかんねぇ」

( ´_>`)「その気持ちだけで十分だよ。ちょっと、弟者と話して来る……」

(,,゚Д゚)「き、気が利かなかったな。また、学校で会おうぜ」

( ´_>`)「そうだな。また、学校で」

……。
棺の置いてある部屋。
そこに佇む、1人の男。
そこに横たわる、1つの遺体。

( ´_>`)「兄者、ありがとう。こんな最低な弟には勿体無いくらい兄者は最高の兄貴だったよ」

( ´_>`)「本当に感謝してるんだ。だけど、ずっと惨めだったんだ」

あるいは、彼もまた兄と同じく友好的な性格を持ち合わせていたのなら。
こんな気持ちには、ならなかったのかもしれない。

( ´_>`)「本当に、ごめんな。最低な弟で」

84 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:18:14 ID:Iw.JEQf.

( ´_>`)「そして、もう一度ありがとう。俺は、兄者のおかげで沢山の友達が出来た。
       弟者はもう死んじまったけど、だけど俺はこの友達と一緒に生きる。」

( ´_>`)「俺は、流石兄者」

( ´_>`)「死んだ流石弟者の最高の兄貴。そういう男として、この人生をやり直す」

そう言って、男は踵を返す。
おもむろに、流石兄者の携帯を取り出したのは、右手だった。

85 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:18:44 ID:Iw.JEQf.

間幕〜U〜

86 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:19:14 ID:Iw.JEQf.

(  _> )「まぁ、こんな所かな。悪いな、説明下手で。聞きづらかったろう?」

川 ゚ -゚)(…………)

相手の問いに、女は沈黙で答える。
女が懐に手を伸ばして、取り出したのは煙草。
咥え、火を着ける。

(  _> )「ふむ。それじゃあ、俺はそろそろお暇させてもらうよ」

川 ゚ -゚)「……」

女は、終始無言を貫いた。
立ち去る男の雰囲気が、少し寂しそうだったのは気のせいだろう。

87 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:19:44 ID:Iw.JEQf.

川 ゚ -゚)「……」

無言で煙草を吹かす女。
その視界の片隅に、チラチラと何かが映りこんでは消える。
女は、それが酷く鬱陶しくてしょうが無かった。
そして、聞こえてくる。
教会の扉の開く音。
この部屋へと、歩を進める足音。
女は、もう驚かなかった。

88 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:20:16 ID:Iw.JEQf.

ζ( ー *ζ「こんな時間に、こんな所に。私以外に用事がある人が居るとは思いませんでした」

今度は、どうやら女らしい。
年若い、可愛らしい声だ。
それでも、声音は酷く落ち着いていて。
可愛らしさとは、間逆の何かを感じさせる。

ζ( ー *ζ「随分と、落ち着いているんですね」

それはお互い様だ、と。
思わず声が出そうになるのを堪える。
そして、相手の言葉を待った。

ζ( ー *ζ「だんまりなんですね。まぁ、いいか」

ζ( ー *ζ「せっかくだし、私の話しを聞いてください。
      可愛らしい、乙女の恋物語。素敵でしょう?」

女が、一拍置いて言う。

ζ( ー *ζ「あなたは、誰かを愛した事がありますか?」

89 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:20:47 ID:Iw.JEQf.

Case No.3 Insanity Love

90 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:21:21 ID:Iw.JEQf.

私には、お姉ちゃんがいるんです。
とっても素敵な、私の自慢のお姉ちゃん。
煌びやかな金髪に、クリッとした大きな瞳。
綺麗に通った鼻梁。形のいい、小さな唇。
その唇から紡がれる、綺麗な声。
ちょっと素直じゃない所もあるけれど。
だけどそれがとっても可愛いんですよ?

ああ、私の綺麗なお姉ちゃん。
私の、大好きなお姉ちゃん。
私が愛した、お姉ちゃん。
私の事を、大好きだと言ってくれたお姉ちゃん。
だけどね、お姉ちゃん。
私が欲しい大好きは、そうじゃないんだよ?
私が本当に欲しいのは、もっと別の大好きなの。
私がお姉ちゃんを想うような、そんな大好き。
ねぇ、お姉ちゃん気づいてる?
私、こんなにお姉ちゃんが大好きなんだよ。

91 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:21:52 ID:Iw.JEQf.

その二人は、美しいと評判の姉妹だった。
活発で明朗な『姉』と、淑やかで心優しい『妹』の二人。
早くに両親を亡くしながら、二人で支えあって生きてきた。
それ故か、とても仲の良い姉妹。
幼い頃より姉は甲斐甲斐しく妹の面倒をみ、妹は姉に良く従い助けた。
そんな二人も成長し、姉は大学二年生、妹は高校三年生になる。
二人とも学業をしながらアルバイトをこなし、慎ましやかながら幸福な、
自立した生活を送っていた。
ワンルームのアパートに、姉妹で喧嘩も無く暮らす。
そんなささやかな生活の中に、変化が訪れたのは、ある年の初夏。
桜は葉になり、徐々に気温が上がる。
本格的な夏の到来を予感させる、そんな時だった。

92 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:22:23 ID:Iw.JEQf.

その日、姉は非常に機嫌の良さそうな表情で帰宅した。
妹がその理由を尋ねると、姉はとびきり嬉しそうな表情を作った。

ξ^竸)ξ「あのね、今日彼氏が出来たの! それも、結構なお金持ちでさ!」

金のために付き合っている。という訳ではないのだろう。姉は、そういう人物ではない。
それに、姉の表情はまさに『恋する乙女』といった所だ。

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの? お姉ちゃん、おめでとう!」

それに対して、自らの幸福であるように喜ぶ妹。
今まで、姉には苦労をかけた。
年長者の姉は、先に働き始めていたため恋色沙汰とは無縁だった。
常に妹の幸せを考え、自己を犠牲に生活を守ってきた。
そんな心から尊敬し、敬愛する姉の幸を喜ばぬ妹が何処にいよう?

ξ^竸)ξ「内藤君って言うんだけどさ、凄くいい人で……」

曰く。
その内藤と言う人物はちょっとした企業の社長の息子であること。
決して見た目が優れる訳ではないが優しく、柔和な性格で情に厚い人間であること。
その人柄を慕われ、常に人の輪の中心に居ること。
成績も優秀で有り、将来的には父の会社を継ぐであろう事。
そして、なんと言ってもその笑顔が魅力的な人物であること。
内藤の事を語る姉の表情は生き生きとしており、妹はそれを笑顔で聞いていた。
その時は、本当に。
妹は、心から姉を祝福していた。

93 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:22:54 ID:Iw.JEQf.

姉が内藤と言う男と付き合い始めて、1ヶ月。
その間、二人の生活に小さな変化があった。
姉は、バイト帰りに内藤と会っているらしく帰りが遅い日が続いた。
今までなら、2人でとっていた食事。
そこにあった、ささやかな団欒と暖かな姉妹愛。
それがまるで消え去ってしまったかのごとく。
まるで、存在していなかったのこどく無くなっていた
妹は、1人きりの食卓で、思う。

ζ( ー *ζ(お姉ちゃん、なんで帰ってきてくれないのかな?)

その心に浮かんだ、黒い感情。
それは、留まる所を知らず、どんどん大きくなっていく。

ζ( ー *ζ(お姉ちゃん、私の事を嫌いになっちゃったのかな?)

そんな、ありえない幻想さえも見えてくる。

ζ( ー *ζ(ああ、わかったよ。あいつが、あの男がいけないんだね)

その感情の矛先は、少しずつ、彼に動いていく。

ζ( ー *ζ(あいつが、あいつが)

ワタシカラオネエチャンヲウバッタンダネ?

その夜部屋に残されたのは、暗闇のみになった。

94 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:23:31 ID:Iw.JEQf.

喧騒。

( ^ω^)「お?」

恋人を駅まで送り、自宅への帰路を急ぐ男。
彼がふと感じたのは、強烈な違和感だった。

──誰かに、見られている?──

( ^ω^)「気のせい、かお?」

男が今まで感じたことの無い類の感情。
強烈な憎しみの篭った、怨嗟の視線。

雑踏。

( ^ω^)(気のせいじゃ、無いお……)

何処の誰かはわからない。姿も見えない。
しかし、解る。解り易ぎるほどに、感じる。
駅前の、その雑多な人ごみに紛れ。
何者かが、男を注視している。

( ^ω^)(危ないけど、確かめる必要がありそうだお……)

男は、帰路を外れて人気の無い路地へと足を向けた。

95 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:24:01 ID:Iw.JEQf.

タバコの吸殻。空き缶。ゴミ。
打ち捨てられたダンボールハウス。
饐えた匂い。薄暗闇。
後ろから、足音が聞こえてくる。

( ^ω^)(…………)

こういった路地を歩いていると、フッ、と、大通りの喧騒が遠ざかる瞬間がある。
その瞬間から数歩。そこえお右に曲がると、袋小路だ。
目的地が同じという事は、まずありえない。

( ^ω^)(…………)

男が足を止めると、足音も止まる。
聞こえるのは、エアコンの室外機の音。頬に、嫌な熱風を感じる。
男は、ゆっくりと振り返った。

( ^ω^)「デレちゃん、かお」

ζ(^ー^*ζ「はい。お久しぶりです」

男の、恋人の妹。
彼の恋人とよく似た顔立ちでは有るが、彼女はより柔和な印象を受ける。
その彼女の顔には、笑みが張り付いている。
しかし、その笑みが、決して好意的なものでは無いと。男は直感した。

96 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:24:38 ID:Iw.JEQf.

( ^ω^)「僕に、何か用かお?」

ζ(^ー^*ζ「はい。とっても大事な用事です」

ζ( ー *ζ「お姉ちゃんの、事ですから」

以前、恋人の家に行ったとき。そう、彼女と初めてあった時だ。
その時も、仲の良い姉妹だと思った。恋人も、自慢の妹だと言っていた。
彼女にとって、姉の事というのは、とても重要な事なのだろう。

( ^ω^)「ツンが、どうかしたのかお? ちょうど、さっき駅まで送った所だお」

ζ( ー *ζ「はい。知ってます。ずっと見てましたから」

なるほど、なるほど。
ずっと、見ていたわけだ。それで、自分をつけてきた、と。
何のために? 男の心中に疑問符が燻る。

ζ( ー *ζ「で、本題なんですけど」

( ^ω^)「…………」

彼女は、そういってきり中々口を開こうとしなかった。
轟、轟、と。
室外機の音が、妙に耳障りだ。男が、発言を促そうとしたとき。
コツリ、コツリ、と。
彼女が、歩き出したのが解った。

97 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:25:09 ID:Iw.JEQf.

ζ( ー *ζ「…………」

彼女は、貌に笑みを貼り付けたまま、男の後ろに回る。
男は、微動だにでずに、視線で彼女を追うのみ。
と、その時、男は気づいた。
ああ、あの笑顔。あれは、好意的でない、なんて程度の物ではない。
あれは、狂気に犯されたそれだと。
が、気づいた時には既に遅く。
いつの間にか、周りの音が遠のいていて。くっきりと。
聞こえる。彼女の声が。

「お姉ちゃんを、返してください」

ヒュ、と。風きり音が聞こえ。
僅かな月明かりの中に、銀色が閃いた。

( ゚ω゚)「…………」

刃は男の首、頚動脈をバッサリと切り裂く。
そのまま、気管にまで達し、男は声を出すことも出来ず絶命した。
鮮血が、迸る。

98 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:25:42 ID:Iw.JEQf.

ζ( ー *ζ「ごめんなさい。だけど、これしか思いつかなくて」

(  ω )「…………」

物言わぬ骸に、嬉しそうに語りかける彼女。
その返り血を浴びた、その笑顔の。
なんと、倒錯的な美しさを持つことか。
魔性的な月明かりの照明が、その色を。
濃く、より濃く照らしている。

ζ(゚ー゚*ζ「早く帰って、お姉ちゃんに会いたいな」

その場を去ろうとする、彼女の足取りは軽く。
紅潮した頬は、恋する乙女のそれ。
彼女は、恋する乙女で間違い無いのだから。

99 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:26:13 ID:Iw.JEQf.

間幕〜V〜

100 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:26:44 ID:Iw.JEQf.

ζ( ー *ζ「私の話は、これでお仕舞い」

まったく、いやはやまったく。
こんなおかしな場所に来るのは、やはりおかしな人間ばかりらしい。
こんな話しの後に、惚気話しが始まらなかったのが幸いと言うべきか。

ζ( ー *ζ「じゃ、私はもう帰りますね。お姉ちゃんてば、もう私が居ないとダメだから……」

どこか嬉々とした色を含ませながら、女が立ち去る。

川 ゚ -゚)「……」

その遠ざかる足音を聞きながら、女はまた煙草に火をつけた。
そして、次の来訪者を待つ。
視界の隅をチラつくナニカは、その輪郭を徐々にハッキリさせて居た。
酷く、疎ましい。

101 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:27:15 ID:Iw.JEQf.

いくばかの時が過ぎ、女の予想していた音が聞こえた。
教会のドアの開く音と、近づいてくる足音。
仕切りの向うのドアの、開く音。

从 ∀从「おや、まぁ。驚いた」

聞こえて来たのは、また女の声。
その声色は、台詞と反してまったく驚いているようには思えない。

从 ∀从「独り言でももらそうかと思って来たんだが、どうやらそういうわけにも行かないみたいだな」

从 ∀从「まぁ、いいか。ちょっと私の話に、付き合ってもらうぜ」

女性の声色なのに、酷く乱暴な口調だ。
最も、自身も人の事は言えないがと女は思う。
肯定の代わりに返したのは、沈黙だ。

从 ∀从「なぁ、あんた。好きなやつと、自分が作り上げた物。どっちが大事だい?」

102 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:27:52 ID:Iw.JEQf.

Case No.4 Mad scientist

103 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:28:22 ID:Iw.JEQf.

最初は、そうだな。
「仕事だから」ってのが理由かな。
でも、やってるうちに楽しくなってきちゃったわけよ。
よくあるだろ? さして興味のある仕事でもなかったけど、意外とやりがいが出てくるとか。
そんな感じだったな。最後のほうは。
物は試し、ってのはよく言ったもんだ、なんて。
柄にも無く、そんな事を思ったよ。
あんたが何者かは知らないが、もし今仕事とかしてないんならさ。
何でもいいから、出来る事をやってみな。
意外と楽しいかもしれないぜ?
ああ、これは余計なお世話か。すまん。
っと、話がそれた。

いや、なに。
なんてこたぁ無い。楽しいだけなら良かったんだよ。
ただ、何がまずかったかって言うと、優先順位なんだよな。
自分の中での、物事の優先順位。
それが、何よりも最上位に来ちまってたわけだ。
こういうの、ワーカーホリックって言うんだっけ? よくわからんけど。
ま、気づいた時は時既に遅し。
覆水盆に返らずってやつか。
一回倒しちまったコップの水ってのは、コップの中には二度と戻らないもんなんだよな。

104 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:28:57 ID:Iw.JEQf.

この地球上に存在する、最も強靭な生命体とは何か?
その1つの回答として挙げられるのが、ウィルスであろう。
特に、インフルエンザウィルス等の「RNA型」に分類されるウィルスは驚異的速度で変異する。
そのため、たとえ治療薬があったとしてもその効力をすぐに失ってしまう。

从 ゚∀从「変異。あるいは進化でもいい。とかく、ヤツらは生き残るために自身の構造を作り変える。
     ヤツらには『個』があるわけじゃない。その『存在』が残る為に変異を繰り返す。個が死んでも群は残る」

('A`)「……」

対Bスーツを着込んだ男女が、無機質な廊下を歩いている。
白い壁、白い床、白い天井、白いドア。
生という物をまったく感じさせないその空間は、確かに人間が生身で生きるには危険すぎた。

从 ゚∀从「さて。菌糸状のウィルスの中にフィロウィルスってヤツが居る。
     この中で、最も凶悪なヤツが所謂エボラエイルスってヤツだ」

人間を、否。
その存在と相容れない生命を、僅か1週間で死に至らしめるウィルス。

从 ゚∀从「詳細は省くが、動物実験用の猿見てるだけでもタマンネー気分になるぜ?
     アタシらは、この防護スーツ1枚挟んだだけの状態でこいつらと退治してるんだって思うとな」

ウィルスは、通常目に見えない。
顕微鏡によって拡大された視界によって初めて、その存在を認識できる。

从 ゚∀从「ま、それがアタシらの相手。お前の相手、さ」

105 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:29:28 ID:Iw.JEQf.

所謂ABC兵器。
アトミック、バイオロジカル、ケミカル、それぞれの頭文字から取った最強最悪の3兵器。
そのうち、Bにあたる生物兵器は「貧者の核兵器」とも呼ばれる。
莫大な資金を必要とするレベル4クラスの設備が必要になるのはあくまで研究段階のみ。
種菌さえ完成してしまえば、あとは一般家庭の台所程度の設備で培養できる。
敵地に対し、ほんの僅かな菌をまいてしまえば後はそれらは自己増殖、自己進化を繰り返し敵国を蹂躙する。

从 ゚∀从「設備もレベル4ならここの機密もレベル4さ。トップシークレットだ。
     ここではな、エアゾル感染能力を持つエボラの研究をやってんだよ」

陸・海・空、あらゆる軍部から独立した、統合指令局直属の研究施設。
ウィルス兵器の開発及びっ治療薬を研究するそれだ。

从 ゚∀从「さて。改めて。アタシがここの所長をやってるハインリッヒ高岡だ。
     階級は特務大尉。中佐扱いだな。ま、ここじゃ階級なんか関係ねーけど」

('A`)「欝田ドクオ、階級は少尉扱いです」

2人がたどり着いた先、レベル4の研究室には10名弱の研究員が働いていた。
皆、防護スーツに身を包んでせわしなく動いている。

106 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:29:59 ID:Iw.JEQf.

从 ゚∀从「今はどっかと戦争してるわけじゃねーが、曰く保険だそうだよ。この研究は。
     どっかの馬鹿がB兵器を使った時の対策及び報復兵器の研究さ。ま、ロクでもねー事に変わりは無いが」

女だてらに、などと言っては女性蔑視の謗りを受けようか。
こういった施設の所長を勤めている人間であれば、相応の頭脳を持っているのだろう。
割りに、ハインリッヒは酷く乱暴な言葉遣いの人物だった。

从 ゚∀从「今の所、エボラを構成する7つの酵素のうち解明されているのは僅か3つ、ってのが通説だが。
     そいつは一昔前の話さ。ここじゃ、すでに5つが解明されている」

('A`)「それは、公には?」

从 ゚∀从「まだされてねーが、そのうちだろうな。それで最高に儲けられるタイミングで行くだろうよ」

間違っても善意なんかでやってる研究じゃねぇ、と言いながらハインリッヒは歩を進める。
その後、設備の説明を行う。
それが終わると、2人は所長室に向かった。

107 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:30:30 ID:Iw.JEQf.

从 ゚∀从「と、まぁこんな感じだ。何か質問は?」

('A`)「いえ、特に」

主のその乱雑な印象とは裏腹に、所長室は酷く片付いていた。
むしろ、殺風景と言っていい。
書類仕事をするであろう机に、専門書や資料の詰まった本棚。来客用のテーブルセットが1つと、見るからに堅牢な金庫が1つ。
観葉植物さえ置かれて居ないそこは、厳重な隔壁の向こうと同じ匂いがした。

从 ゚∀从「よろしい。お前の論文は読ませてもらった。結構期待してるぜ」

('A`)「ご期待に沿えるよう、努力致します。

108 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:31:00 ID:Iw.JEQf.

ドクオをメンバーに向かえ、研究はひたすら邁進した。
僅か数年の後、7つの酵素全てが解明される事となる。
更に、その構造を改変。エアゾル感染能力を持たせる事にも成功する。
同時に、唯一無二の特効薬も製作された。
研究チームの中でも、ドクオの活躍は目を見張る物があった。
様々な新しい発見をし、その才能を遺憾なく発揮。
ハインリッヒと並び、研究成功の立役者と言われている。

共に長い時間をすごし、接触・会話する機会の特に多かった2人。
その関係が所長と研究員からより親密なものへと変化するのはあるいは必然であったのか。
そのウィルス兵器完成の夜、2人はハインリッヒの私室でグラスを傾けていた。

109 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:31:35 ID:Iw.JEQf.

从 ゚∀从「まずは、研究の成功に」

('A`)「乾杯」

キンッ、とクリスタルガラス特有の澄んだ音が響く。
バカラのミルニュイシャンパンフルートに注がれているのはサロン ヴィンテージ1988。

('A`)「所で、所長」

グラスの中身が半分になる頃、ドクオが口を開いた。
目は、酔いとは無縁の真剣さを持っている。

('A`)「この研究の完成が、どういう意味を持つのか。所長ならお分かりでしょう?」

从 ゚∀从「……」

俗世にほとんど興味を示さないハインリッヒと言え、解る。
抜群の感染拡大能力を持つエボラウィルスと、その特効薬。
それを持つという事の意味。

从 ゚∀从「絶対に負けの無い戦争が仕掛けられる、か」

110 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:32:06 ID:Iw.JEQf.

敵対国に、その種菌を持った人間を1人送り込んでおく。
その上で、宣戦を布告する。
その時点で、勝利はほぼ確定的だ。
このB兵器には、それだけの威力がある。

从 ゚∀从「だが、それがどうした? 私達には関係の無い事だ」

('A`)「貴女なら、僕が言いたい事は解っているはずです」

从 ゚∀从「いや、解らんな。私は超能力者じゃない」

否、彼女ほどの聡明さを持ってわからないはずが無い。

('A`)「では、言います」

否、言わなくていい。そんな事は。

('A`)「僕は、この研究は」

何故そんな事を言う?
今までの時間を、全て無に返す気か?

('A`)「軍部には報告すべきではないと考えます。もちろん世間にもです」

まさか、全て無かった事にするつもりか?

111 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:32:37 ID:Iw.JEQf.

从 ∀从「理由を、聞かせてもらおうか?」

('A`)「完成して、やっと気づきました。これは禁忌です。
   あらゆる霊長類に感染し、死に至らしめる驚異。これは人間が己の為に使ってよいものではありません」

果たして、彼が如何なる経緯でその結論に至ったのか。
その理由の如何はさして重要ではなく、彼の意思に対してハインリッヒは反対であるという事。
しかし、彼の意思は揺ぎ無いものであるという現実のみが唯一絶対だった。

('A`)「なにより、僕は、コレの為に戦争が起こる事を望みません」

言って、ドクオはソファの横にあったケースを持ち出した。
この研究の全てのデータと、種菌の入ったそれ。
研究の性格上、バックアップは取られていない。

从 ∀从「そいつを、どうする気だ?」

('A`)「もし、所長。いや、ハインがどうしても好評するというのなら僕はこれを処分する。そして、コレも」

そういって、ドクオが取り出したのはポケットサイズのノートPC。
ディスプレイには、なにやら実行画面のような物が映っており、後は入力を待つのみとなっている。

('A`)「コレのエンター1つで研究所のメインサーバーにあるデータが全て消え去る。
   ハイン。僕は君と一緒にした研究の成果を無に還したいわけじゃない。ただ、怖いんだ」

('A`)「もし、このウィルスがなんらかの変異を起こし、僕達人類の手に負えなくなるような事態が起こるのが」

万が一、億が一にもありえない可能性。
そんな事は起こりえない。起こらないように作った。
しかし、ドクオは捨て切れなかった。その可能性。那由多の彼方のその可能性を。
自然、という物を心底恐れた。

112 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:33:19 ID:Iw.JEQf.

しかし、ハインの気持ちは逆。
ドクオと、自身の想い人と共に作り上げたその傑作とも呼べる成果を。
不眠不休の研究の果てに作り上げたそれを、なんらかの形で評価されたかった。
誰かに見せ付けてやりたかった。自分と、ドクオの能力を。

从 ∀从「ドクオ、私は。私はお前が好きだ。その研究成果も大事だ。だから、だから」

从 ;∀从「そんな事、言わないでくれよ……」

涙ながらに懇願するハインリッヒ。
しかし、ドクオの表情は変わらない。

('A`)「ハイン、そのためにはコレを公表しなければいいだけなんだ……」

そう言って、易しく手を差し伸べるドクオ。
しかし、ハインリッヒはその手を弾き、そして。
そして──

从 ∀从「──っ!」

手につかんだのはサロンの瓶。
それを、全力でドクオに振り下ろす。

( A )「──!」

オーク材の床に、ロゼ色の水溜りが出来た。

113 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:33:49 ID:Iw.JEQf.

間幕〜W〜

114 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:34:21 ID:Iw.JEQf.

从 ∀从「悪いな、こんな話しにつき合わせちまって」

まったくだ、と思う。
そんな国家機密級の話し、話していい物でも聞いていいものでも有るまい。
少しは、こちらの事情も考えて欲しいものだ。

从 ∀从「ああ、安心してくれ。私も、こんな話しベラベラ言いふらしたりしねーから」

何を安心しろというのか。
まぁ、しかし、今問題にすべきはそこではあるまい。

从 ∀从「さて。じゃあな、私はもう行くよ。そろそろ、嵐も止みそうだ」

言って、女は立ち去った。
そう言われてみれば、轟々と聞こえて来た雨音や風音が、少し落ち着いている気がする。

115 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:34:52 ID:Iw.JEQf.

川 ゚ -゚)「…………」

女は、また。
沈黙したまま、煙草に火をつける。
右手にはめたブレゲのマリーン・クロノグラフを見れば、時は既に夜明け近くになっていた。
根元近くまで吸ったジタン・カポラルを床でもみ消し、居住まいを正す。
沈黙が、破られる。

川 ゚ -゚)「まったく、面倒な事になったと思ってるよ」

彼女は、虚空に向かって言葉を紡ぐ。
否。
先ほどからずっと見えていた。
既にその存在を完全に認識できる用にまでなったナニカ。
否。
彼らに対し、彼女は言葉を紡ぐ。

116 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:35:26 ID:Iw.JEQf.

Case No.5 Erosion

117 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:36:21 ID:Iw.JEQf.

まったく、面倒な事になったと思ってるよ。
大仕事を終えて、やっと一息つけると思ったのに。
ツイて無い事、ってのは続くみたいだな。
タバコは湿気ってて不味いし、外は大嵐。
挙句の果てに、やっと見つけた休憩場所でこれ、だろう?
何かこう、超常現象的な力が私の邪魔をしているように思えてくる。
本当に、ツイてない。
いい事があった次には、悪い事があるって事なのかな。
とにかく、今の私は最高にツイて無いと思う。

118 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:36:53 ID:Iw.JEQf.

しかし、奇妙な縁というかなんというか。
類は友を呼ぶ、ってやつなのかな。
それも、立て続けに4人。
頭がおかしくなってもしょうがないだろう?
だから今、君達が見えているのかもな。
ああ、失礼。これは嘘だ。
本当は、あの時から見えていたんだよ。
だけど、気づかない、見えないフリをしていた。
あの時は、私もまだ比較的正常な部類だったからな。
そうしないと、折り合いを付けられなかった。自分自身にな。
誰だってそうだと思うけどな。
自分が殺した人間に付きまとわれたら、君らだって正気で居る自身は無いだろう?
ああ、これは、あまりに無意味な質問だな。失礼した。
どうにも、今の私はあまり冷静でないらしい。

119 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:37:23 ID:Iw.JEQf.

いや、どうなんだろうな。
もし今の自分を客観的に見たら、冷静に対処できている方かも知れない。
自分の見知った、自分が殺した人間ならまだわかるんだよ。
それなら、しょうがない。
そういう話は、よく聞くしな。マンガや映画で、ではあるがね。
それなら解る。まだ解るんだ。
だが、これはどういう事だ?
細身の女、鼻の高い男、にやけ面の男、貧相な男。
そこの4人。そう、君らだよ。
私は君らと始めて合うんだ。
ただ、察するに。
今まで私が聞いて来た話の登場人物。
厳密には被害者の方々じゃないのかな?

120 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:37:58 ID:Iw.JEQf.

…………。
やはり、か。
しかし簡便してくれ。私は関係ないだろう?
君らが何を思い、誰を恨もうがそれぞれの自由だろうが。
しかし、ここで私の目の前に現れるというのはいささか不条理が過ぎる。
私は、自分が殺した人間の相手だけで手一杯なんだよ。
ただでさえ面倒な状況なんだ。
これ以上、面倒を増やして欲しくない物だね。
本音を言えば、私は面倒ごとが嫌いなんだよ。
出来れば、何もかも面倒なく済ませたいんだ。
ま、無理な相談なようだがね。

121 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:38:32 ID:Iw.JEQf.

何? 提案がある?
面倒ごとを、今、ここで全部終わらせる方法?
そんな都合のいい魔法が、あるのか?
ふむ。まぁいい。
さっきも言ったとおり、私は面倒ごとが嫌いでね。
本当に終わらせられる、というのなら聞こうじゃないか。
その、方法ってやつをさ。
さ、早く言ってみてくれ。誰でもいい。

122 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:39:13 ID:Iw.JEQf.

ああ。なるほどな。確かにそうだ。
そうすれば、面度は全部終わるな。
はは。魔法でも何でもないが、中々に妙案かもしれない。
ふむ。誰の思い付きかは知らないが、中々冴えてるじゃないか。
所謂「たった一つの冴えたやりかた」ってやつかな?
私は、読んだ事は無いがね。

さて、と。
どうするか決まった事だし、早速実行に移そうか。
え? 気が早過ぎないかって?
思い立ったら吉日、なんていうだろう? すぐに実行可能なら、なるべくそうすべきさ。
意外と、こういうのは機会を逃すと出来なくて、後で後悔するものなんだ。
私の経験上も、ね。
何、事は簡単だ。
人差し指に、2.8kgの力をかけてやるだけでいいんだ。
すぐに終わるよ。
君達には手間も迷惑もかけない。
本当に、すぐ終わる。

123 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:39:45 ID:Iw.JEQf.
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  。

124 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:40:16 ID:Iw.JEQf.

女は、感じる。
眉間に、冷たい鉄の感触を。
カチリ、と。
それはサムセーフティを解除する音だ。
グッ、と銃把を握る。
こうしないと、グリップセーフティが作動して引き金が引けない。
さぁ、後はワンアクションでいい。
その人差し指がかかった引き金に。
2.8kg。たった2.8kgの力をかけてやる。
それだけで、面倒ごとは全て終わる。

125 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:40:54 ID:Iw.JEQf.

短い、乾いた銃声。
.45口径の、音速を超えない鈍い音。
その後に続いた、何者かが倒れ臥す音を最後に、全てが途絶えた。
その寸劇の幕は、恐ろしいほどにあっさりと幕を閉じる。


が、終演を迎えたのはあくまでこの女の物語であり。
他の者達に降りかかるエピローグは、彼ら・彼女らがこの女と同じ選択に至るまで終わらない。
彼ら・彼女らは、実は既に。
その事に気づいているはず。
彼らの世界は、既に彼らに侵食されている。

127 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:54:25 ID:Iw.JEQf.
( ・∀・) 「いやはや、僕はツイて居るのかな?」

ハハ ロ -ロ)ハ「……?」

( ・∀・) 「Do not mind it」

たとえば、前の少女。
彼女は捜索願の出ない類の家出少女だった。
そして、今の彼女。
不法滞在の外国人だ。
どちらも、居なくなったとして、その事実に気づく者の少ない人種だ。

川д川

( ・∀・) 「……」

今、何か見えたか?
否、気のせいに違いない。

ハハ ロ -ロ)ハ「Was something wrong?」

( ・∀・) 「It is nothing」

そう。何でもない。
何でも、無い。

川д川
128 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:55:09 ID:Iw.JEQf.

否、何でも無いわけが無い。
気のせいでは、無い。

川д川

( ・∀・) 「冗談にしちゃ、性質が悪いな」

冗談でも、無い。
間違いなく、見える。
もう居なくなったはずの人間。
自身の、胃袋に収まったはずの人間。
自分が、殺めた人間。

川д川

思えば、彼女はずっと自分についてきたのかも知れない。
彼女は、酷く自分に依存していた。
ならば、それもしょうがないのかも知れない。
自分は、彼女に愛されていたようだから。

川д川

まるで、一昔前の乙女のごとく。
彼の3歩後ろを、無言で着いてくる。
沈黙を消して破らない彼女の、その真意。
それは、解らない。

129 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:55:39 ID:Iw.JEQf.

(,,゚Д゚)「じゃあ、またな」

( ´_>`)「まったなー」

アレから、どれだけの日々が過ぎたのか。
しかし、毎日が充実している。

( ´_>`)「…………」

もう、寂しくも悔しくも無い。
勉強も出来ている。友人も沢山居る。
何より、だ。

( ´_ゝ`) 「よぉ、弟者。学校は楽しいか?」

ふと気づけば、居ないはずの兄も居る。
こんな生活に、何の不満がある?

( ´_>`)「ああ。毎日、楽しいよ」

( ´_ゝ`) 「そっか。それは良かった。弟者はずっと寂しそうだったからな」

130 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:56:20 ID:Iw.JEQf.

兄は、死んでもなお優しい。
彼を殺めた張本人である、最低な弟にでさえ優しい。
それは、彼が本当に。
最高の、兄貴だったという証明に他ならない。

( ´_>`)「兄者、俺はいま最高に幸せだよ」

友人が居る。兄も居る。家族も居る。

( ´_>`)「だから、この新しい人生が終わって、俺もそっちに行ったら。
      何か、恩返しさせてもらうよ。そうだな、新作のエロゲでも買っていこうか」

( ´_ゝ`) 「ああ。楽しみにしてるよ」

満ち足りているこんな生活。
何の、何の不満の持ちようがあると言うのか?

131 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:57:21 ID:Iw.JEQf.

ξ゚听)ξ「じゃあ、行ってくるね」

ζ(゚ー゚*ζ「行ってらっしゃい。お姉ちゃん」

内藤が死んだ直後は、酷く落ち込んでいた姉も、随分と元気を取り戻した。
姉の心は、また妹に帰ってきたのだ。
否。
姉は、以前にもまして妹を溺愛した。
完全に、妹に依存しきっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんを1番好きなのは私。お姉ちゃんが1番好きなのは私」

一線は、簡単に越えた。
口付けから始まった体の関係は、毎夜のように繰り返され。
姉は、喪失の恐怖に怯えながら妹を抱く。

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんは、今幸せなんだよ。私も、幸せなんだ」

そう、幸福だ。
慎ましやかながらも、幸福な生活だ。
なのに。

ζ(゚ー゚*ζ「なのに、何で貴方はまだここにいるのかな?」

( ^ω^)

132 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:57:54 ID:Iw.JEQf.

彼は、見ている。
姉を、ずっと見守っている。

( ^ω^)「僕は、彼女事を愛してるお」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、お姉ちゃんが愛してるのは私だよ」

( ^ω^)「それでも、僕は彼女を愛しているお」

ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃんを愛しているのは、私だよ」

もう、幾度繰り返したかも解らない会話。
彼は、何時だってそうなのだ。
その柔和な笑みを崩さぬまま、姉への想いを語る。
妹は、彼に張り合うように姉への想いを語る。
しかし。

ζ(゚ー゚*ζ「だけど、お姉ちゃんに貴方は見えない。お姉ちゃんに見えるのは、私だけ」

( ^ω^)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「死者は、生者には適わないよ」

( ^ω^)「それでも、僕は彼女を愛してるお」

しかし、それでも。
彼は、姉を愛し続ける。

133 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:58:35 ID:Iw.JEQf.

从 ゚∀从「まったく、私もいい身分になった」

豪奢な邸宅。手入れの行き届いた広いリビング。
高級なソファーに、バスローブ一枚で腰を下ろす。
テーブルの上には、適温に冷やされた高級シャンパン。
サロン。ヴィンテージは1988。

从 ゚∀从「注いでくれ」

(゚、゚トソン 「はい」

そば着きのメイドに、それを注がせる。
あの時は、手酌だったのにな、と自嘲的に思いながら。
そこで、思い立つ。

从 ゚∀从「なぁ、グラス、もう一個出してくれよ」

(゚、゚トソン 「はい」

テーブルの上に置かれた、2つ目のグラス。
それに、自身でサロンを注ぐ。

从 ゚∀从「下がってくれ」

(゚、゚トソン 「はい」

134 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:59:06 ID:Iw.JEQf.

終始無表情だったメイドが下がると、ようやくハインリッヒは人心地ついた気分になった。
あの無愛想なメイドには、何時までも慣れそう無い。

从 ゚∀从「さて、と。一杯やろうぜ」

('A`)

彼が、少し顔を顰めたのが解った。
それが、何故かおかしくてしょうがない。

('A`)「公表、したんですね」

从 ゚∀从「ああ。お蔭様でこの生活さ。本当に欲しかったのは、こんなもんじゃないんだがな」

言って、シャンパンを煽る。
あの時飲んだ一口に比べれば、酷く味気ない。

('A`)「であれば、僕は見守る必要があります」

从 ゚∀从「何を、だい?」

('A`)「貴女と、貴女の決断の行く末を」

135 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 02:59:56 ID:Iw.JEQf.

从 ゚∀从「であれば、だ」

言って、ハインリッヒはグラスを掲げる。
その先は、虚空。

从 ゚∀从「私達の、暗い未来に乾杯」

グラスは、空を切っただけで終わった。

136 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 03:00:48 ID:Iw.JEQf.


終幕

137 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 03:01:18 ID:Iw.JEQf.

様々な愛憎劇を孕んだ一夜の茶番劇。
そしてその後日談。
その全てが、終わった。
彼ら・彼女らの行く末は、果たして誰に予想できようか。

138 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 03:02:34 ID:Iw.JEQf.

仕事のため、と。多くの人を手にかけた女は自ら命を絶った。
自身の興味のため、と。1人の少女を殺めた男はその行為を繰り返そうとしている。
人生をやり直すため、と。兄と成り代わった男はその新しい人生を謳歌せんとしている。
愛する姉を自らの物に、と。姉の恋人を殺した妹は幸福な生活を手に入れた。
その意思を通すため、と。想い人を亡き者とした女は何かを失い名声を得た。

形は違う。その意義も違う。目的も違う。
あらゆる物が違えど、犯した罪は同じ。
あるいは、この物語は全てハッピーエンドだといえる。
彼ら・彼女らは、自身の望んだ物を手に入れたのだから。


同じ罪を孕んだ罪人達の舞台は、これにて終幕。
願わくば。
この舞台に上り、この物語を紡いだ罪人達に、幸があらん事を。


                      ──(  )CRIMEのようです。──終。

139 名前: ◆Qq92ExZaJE 投稿日:2009/06/06(土) 03:03:04 ID:Iw.JEQf.

参考
Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜/Sound Horizon
ゴルゴ13 病原体・レベル4/さいとう たかお
ワイルダネス/伊藤明弘
沙耶の唄/Nitro+ 虚淵玄
           他


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