( ФωФ)ドミノのようです

3 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:28:04.14 ID:nDnll7qz0
―1―


−VIP城・王座の間−


 やはり、だめなのか。

 そんな諦めにも似た悲壮感が漂う中、最後の候補者である少年ブーンが進み出る。
 眼前にあるのは、赤岩に突き刺さった長剣。その柄を、両手でしっかりと握り込む。

(# ω )「おっ……」ズ…

(# ω )「おおっ……」ズズズ

(#^ω^)「おおおぉおぉぉおぉぉぉ〜〜っっ!!」ズルリィ

     /l
     | |
     | |
     +=+
    . ||
(;^ω^)っ ポンッ

4 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:30:30.54 ID:nDnll7qz0

(;^ω^)「抜けたお……抜けたお!やったお!
      このナイトウ=ブーン=ホライゾンが勇者だお!!」

 その瞬間、広間は息を吹き返したかのように沸き立った。

/ ,' 3 「おお……!よくぞこの聖剣を……!ブーン、いや勇者ブーンよ!
    世界を救えるのは、この聖剣に選ばれたお主だけじゃ。
    皆の者!この新しき勇者を称えるがよい!」

( ^ω^)「ありがとうございますお!必ずやこの剣で魔王を討ち取って見せますお!」

 アラマキ王の呼びかけに応じて、一際大きな喝采が勇者へと送られる。
 そんな中、熱狂する人々をかきわけ、見慣れた顔がブーンのもとへ駆け寄ってきた。

6 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:33:55.00 ID:nDnll7qz0

('A`)「やったな、ブーン。必ず俺かお前が勇者になるって信じてたんだ。これからもよろしく頼むぜ」

( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ。
      また長い付き合いになるだろうけど、こちらこそよろしく頼むお、相棒」

(*'A`)「ドゥフフww改まって言うなよ、勇者様よう」

(* ^ω^)「ブヒヒwww」






ξ゚听)ξ「おめでとう、ブーン」

8 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:37:25.46 ID:nDnll7qz0

 その透き通った声を聞いて、人々が我先にと広間の左右へ身を寄せる。
 中央にぽっかりと空いた道を通り、豪奢なドレスを身にまとった少女がゆっくりと歩を進める。

( ^ω^)「ツン……王女様」

ξ゚听)ξ「まさかあのブーンが勇者になるなんてね」

( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「明日にはもう、旅に出るのね。長くて、危険な旅。今度はいつ会えるのかしら」

( ^ω^)「おっおっお。王女様の命とあらば、週一で帰ってきますお」

ξ゚ー゚)ξ「バカね。そんなの無理に決まってるじゃない」

( ^ω^)「申し訳ありませんが、仰る通り冗談ですお。
      でも、必ず生きて帰ってきますお。これだけは約束しますお。」

ξ゚听)ξ「……」

ξ )ξ「そんなの当たり前よ。頑丈なことだけがブーンの取り柄なんだから。
      死んだりしたら承知しないんだから」

9 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:41:01.97 ID:nDnll7qz0

( ^ω^)「王女様こそ、お体に気をつけて待っていてくださいお。
     旅を終えたら、すぐにお迎えに上がりますお」

ξ )ξ「迎え……?」

ξ ///)ξ「ちょっと。それどういう意味よ」

(*^ω^)「ブヒッwww言葉通りの意味ですお」

ξ ///)ξ「もう……!」


 それ以上言葉を交わそうとしない二人を、アラマキ王を筆頭に皆が息を呑んで見守っていた。
 やがて、誰もが二人の甘い沈黙に耐えかねた時。

('∀`)「ヒューッ、妬けるぜ……リア充しね!」

 この日二度目の喝采が、笑い声とともに沸き起こった。

10 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:44:38.87 ID:nDnll7qz0










 ∧ _ ∧
( ФωФ)「よいか、皆の者。いつも通りである。『刃向かう者には容赦をするな』」

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「かかれ」

 ∧_,,∧     ノノノノ
<ヽ`∀´>「はっ」( ゚∋゚)

11 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:47:12.61 ID:nDnll7qz0

 その日の深夜、数百年の長きに渡りヴィップ国の栄華を誇った王都、ヴィップ城が落ちた。

 暗闇の中、一部で戦闘に伴う混乱が起きたものの、
 魔王軍が完全に城を制圧した頃には、旅の門出にふさわしい春の朝日が辺りを照らしていた。






      ∧ _ ∧
     ( ФωФ)ドミノのようです

12 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:51:18.63 ID:nDnll7qz0
―2―


 怒号の行き交う城内のあちこちで燃え盛る炎に、彼は、自らの過去を透かし見ていた。




         ―――――――――――――――

 彼は地図にも載らないような、名もなき村に生まれた。
 周囲を砂漠に囲まれながらも、村は小さなオアシスに支えられてささやかな営みを続けてきた。

 それを断ち切ったのは、長らく村を苦しめてきた慢性的な乾きではなく、明確な悪意だった。


 ある日、彼は村の男達に連れられて初めてオアシスへ足を運んだ。
 村の生命線である水汲みには男手が必要で、少年と呼べるまでに成長した彼も、
 例に漏れず駆り出されていた。

 初めて目にするオアシスは、彼が想像していたものよりは小さかったものの、遙かに美しかった。
 静かに、ただ静かに青をたたえたその景色は、しかし彼の記憶に長くは残らなかった。

13 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:53:54.52 ID:nDnll7qz0


 異形の者たちに襲われ、なぶられ、命を絶やしていく人々。響く断末魔の叫び。
 やがて、村中でのたうち回る鮮烈な赤と、立ち上る黒、それらが生み出す熱風。
 生臭い死臭、次第に混じり出す焦げた悪臭。

 そのすべてが、帰り道、村の外れに立ち尽くす彼の脳裏に刻み込まれていた。




         ―――――――――――――――

 いくつもの乾いた金属音と、それらが生み出す悲喜こもごもの喧騒が、
 すぐそこまで迫っていた。彼は先を越されぬよう、急がなければならなかった。


 数人の部下とともに、真っ赤な絨毯が敷き詰められた長い廊下を抜き足で駆け抜ける。
 突き当たりに扉を見つけ、そっと身を寄せた。
 
 この階で調べていない部屋は、もうここだけだった。

15 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 19:56:11.88 ID:nDnll7qz0

 部下の一人が、扉に耳をつけて中の様子を伺う。
 しばらくして、小さくささやいた。

  (誰かいます。)

 速まる鼓動を押さえつつ、彼は自らが先頭に乗り込むことを伝える。
 部下達は戸惑ったような表情を浮かべたものの、彼の迫力に押され、一歩ずつ下がった。

 罠から身を守るための術をかけられたことを確認して、彼は扉を蹴飛ばし一気に突入する。
 
 
 一瞬の間をおいて彼の目に飛び込んできたのは、
 下半身をむき出しにして一心不乱に腰を振る男の背中だった。

17 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:00:24.91 ID:nDnll7qz0




         ―――――――――――――――

 同行していた大人たちが怒声を上げながら村へと駆け込んでいくさまも、
 どんどんと燃え広がる火の手が村の家屋を崩壊させていくさまも、
 立ちすくむ彼の目にはスローモーションのように映っていた。

 なぜ動けないのか?そんな疑問すら浮かばない。
 彼は放心していた。


 やがて空全体が赤く染まった頃、ようやく彼はふらふらと歩きだした。

  「おい……」

19 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:03:52.72 ID:nDnll7qz0

 あてもなく歩いていた彼に、後ろから声がかかる。
 おそるおそる振り返ると、壁の残骸にもたれるようにして倒れている男がいた。
 頭の右半分が焼けただれ、両手で押さえた腹からは、血がとめどなく流れ続けている。
 
 村長だった。

 彼は、自分の膝ががたがたとふるえていることに気がついた。


  「なぜ……さない……ヒューッ…いけ…」

 村長が荒い息を懸命に抑えながら、かすれた声を絞り出す。
 彼がなにも言えないでいると、村長はかろうじて右腕を上げ、彼の家がある方向を指さした。
 とたんに村長の腹の周りが色濃く染まり、臓物が顔を出す。

 顔面を蒼白にした村長が、憎しみに震える声で、最期に言った。


  「殺せ……」


 だらりと右腕が下がり、村長の両目があさっての方向を向く。
 それを合図にして、彼は何かにはじかれたように自らの家へと走り出した。

20 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:09:30.63 ID:nDnll7qz0



 彼の家は、半日前に見たそれと同じものとは思えないような有様だった。
 ヤシで葺いた屋根はすべて燃え落ち、白っぽい土の壁の残骸と焦げた木の骨組みだけが残っていた。


 家に近づくにつれて、彼の心に恐怖と憎しみが渦巻いていった。
 
 ――敵とも呼べないような、あの恐ろしい者たちがいるのか。
 そんなことを考え、つい立ち止まりそうになる体に鞭打ち、彼は我が家の残骸に足を踏み入れた。


 そこから先は、彼も断片的にしか覚えていない。
 散乱する衣服を踏みしめ、放り出されていた剣を鞘から抜き、
 目の前で腰を振る男の背中に突き立てる。どす黒い感情に身を任せ、何度も何度も突き刺した。


 すでにこと切れていた姉の顔は、最後まで直視できなかった。

22 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:12:03.21 ID:nDnll7qz0




         ―――――――――――――――

 吐き気を催すほど不快な感情に身を包まれても、ある種の冷静さを保っていられたのは、
 歳をとり成長した証であろう。彼は若かりし頃とは違い、一撃で男の首をはねとばした。

 主を失った男の身体が、どさりと音を立てて横に倒れる。
 野蛮な男の性欲のはけ口にされた哀れな女の胸には、突き立った短剣を中心にして、
 黒く乾いた血だまりがこびりついていた。

 彼が首のない死体を蹴り上げ、仰向けにひっくり返す。
 見たところ、どうやら彼が捜している者ではなさそうだった。


 彼は涙の跡が残る女のまぶたを閉じ、毛布を掛けてやると、
 後から入ってきた部下たちとともに、まもなくその部屋を立ち去った。

25 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:15:55.76 ID:nDnll7qz0
―3―


−ヴィップ城・会議室−

 血の臭いがようやく薄まりつつある城内の、とある部屋に、二人の男の姿があった。

 ,、 ,、
(´・_ゝ・`)「お待たせ致しました。報告書です」

 そう言って紙の束を差し出した男は、若い青年だった。
 肌が浅黒く、小柄ながらも見るからに俊敏そうな体つきをしている。

 一見すると人間の平民のようだが、ふつうの人間とは異なる点がある。
 彼のきれいに剃り上げた頭と額の境目には、高さ二センチほどの小さな角があった。

26 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:17:51.45 ID:nDnll7qz0

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「ご苦労であった」

 一方、イスに腰掛けたまま紙の束を受け取る男は、二メートルをゆうに超える大男だった。
 魔族の象徴たる太く鋭い角と朱色の肌が、黒光りする曲線的な甲冑とコントラストをなし、
 見るものに強烈な威圧感を与える。

 彼が魔族の長、魔王ロマネスクであった。

 ,、 ,、
(´・_ゝ・`)「それでは、見回りが残っておりますので」

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「待て、デミタス」

 デミタス、と呼ばれた青年が部屋の外へ出かけた足を止める。

28 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:20:56.46 ID:nDnll7qz0

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「このたびはご苦労であった。礼を言う。ニダーら将兵に加え、
      おぬしらの働きがなければこれほどうまくことは運ばなかったであろう。
      望みのものがあるのなら、国に帰るまで考えておくが良い」

 本心からの言葉だった。
 
 勇者選抜にまつわる情報収集から城の開門工作まで、
 魔王軍の諜報活動を一手に担っていたのが、デミタスの一党だった。

 そしてそれを可能にしたのは、彼らの特性――人間と魔族の混血、である。
 
 ,、 ,、
(´・_ゝ・`)「恐縮です。では」

 魔王の好意に表情を崩すでもなく、短い返事を残してデミタスは部屋を出た。 
 
 そのまま頭に布をまきつけ、何食わぬ顔で人間として城下町に繰り出していく彼の姿が、
 ロマネスクの頭に思い浮かんだ。

29 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:23:32.57 ID:nDnll7qz0
 
 部屋に静けさが戻り、ロマネスクは卓上の白い文書に目を移す。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)(それにしてもこの紙は便利そうである。羊皮紙ではないようだな)

 この紙の作り方も調べさせておこう、と心に留めて、手書きの報告書を読み始める。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「三千か……思ったより多いのである」

 一頁目を読んですぐに、思いがけずつぶやいた。

 ∧ _ ∧
( ФωФ)(いや、よくこの程度で済んだと言うべきか。だが…)

 魔王軍543名、ヴィップ軍2372名。
 三日前の戦闘における両軍の戦死者数である。

30 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:26:03.76 ID:nDnll7qz0

 その日、勇者誕生を祝う宴に酔いしれ、騒ぎ疲れたヴィップ城が寝静まるのを見計らって、
 八千人の魔王軍が奇襲をかけた。

 ヴィップ城は魔王軍の倍以上の兵をかかえていたが、実際に応戦した兵は三千に満たず、
 一夜にして魔王軍の手に渡った。
 
 
 魔王の住む南方のスギウール山地からは遠く離れ、
 これといった内乱もないことで享受されてきた平和が、兵の警戒を緩めきり、
 百年に一人とされる勇者誕生の報せが城全体を無防備にした。
 
 
 かくして、闇の中突如現れた魔王軍に対し、即座に応戦できる者は少なく、
 ほとんどの兵は心地よい眠りから覚めた後に落城を知るという体たらくだった。

32 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:28:46.17 ID:nDnll7qz0
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)(それにもかかわらず、この戦死者数はどうだ。敵軍の八割は戦死したことになるぞ。
        確かに、勇敢に戦い死んでいった者は致し方ない)
        
 ∧ _ ∧
( ФωФ)(しかしいくら王都とはいえ、勝負の大勢が決まった後で、
        無駄な抵抗を続ける兵がいったいどれだけあるだろうか。
        ましてやあの戦いでは、早い段階で国王をとらえていたはずだ)

 さらには、できるだけ禍根を残さないためにも、
 捕虜や戦意のない者は殺さないよう軍で徹底していたロマネスクにとって、
 八割という数字は、異常な数字に思えた。 

34 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:31:27.50 ID:nDnll7qz0
 
 しかし、疑問はすぐに氷解した。

 ヴィップ城軍の戦死者数には民・兵問わず、
 自決により命を落とした者が五百名近く含まれていることが、報告の欄外に記されていた。


 ロマネスクは苦々しい思いを禁じえなかった。

 ∧ _ ∧
(#ФωФ)(我々に捕まればなぶり殺しにされるとでも思ったのか、全くばかばかしい。
        不必要に危害など加えんというのに。貴様等人間どもとは違うのである)


 報告書を卓上に放り出し、苛立ちを振り切るようにして椅子から立ち上がる。
 そのまま窓辺に歩み寄ると、大きく伸びをして、窓の向こうに広がる緑豊かな庭園に目をやった。

 ∧ _ ∧
( ФωФ)(ようやくここまで来たのである。あとは雑用をこなして、帰るだけだ)


 午後には、ヴィップ国の王との会談が控えていた。

37 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:37:23.22 ID:nDnll7qz0
―4―


 春といえど、炎天下の日差しは容赦がない。
 
(;'A`)(この眺めもひさしぶりだな)

 それほどでもないはずだけど、と付け加えながら、ドクオはその黒い額にびっしりと汗を浮かべ、
 城下町へと連なる石造りの階段を下りていった。



         ―――――――――――――――
         
―数時間前、ヴィップ城・第二東棟―         

 第二東棟の大部屋には、戦闘のあったあの日に、
 王座の間に面した大広間に居合わせた、二百名余りの人間が監禁されていた。

39 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:41:01.61 ID:nDnll7qz0

 あの日大広間に居合わせたのは、王族とその親衛隊、宰相とそれに近い文官、
 将軍級の軍人、おおぜいの使用人、勇者として旅立ちを控えていたブーン、
 そしてそのお供となるドクオ、という面々である。


 深夜、魔王軍が大広間に踏み込んだとき、彼らは宴の真っ最中だった。

 事態に気づいた数人の親衛隊士が、酔いも醒めぬまま鈍りきった腕で剣を抜き、
 あっという間に討ち取られるのを目の当たりにして、彼らはあっさりと敵の軍門に下ることを選んだ。
 大半の者が、酒臭い息を吐きながら、目の前の出来事を夢ではないかと疑っていた。


 それから数時間後に、城内での戦闘が終わりを迎えると、
 まず、国王と勇者ブーンが個別の部屋に軟禁され、
 次に残りの者たちが、この第二東棟の大部屋に連行された。
 
 そしてそのまま、三日が経っていた。

41 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:44:08.59 ID:nDnll7qz0


 その大部屋に、見張りの者以外ではじめて、魔族の男が現れた。
 肌と同じ朱色の鎧を着込んだその男は、部屋中に響くドスの利いた声で言った。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「この中から5人ほど、街の武器屋の見回りに行ってもらうニダ。希望者はいるニカ?」

 人間たちの中から、ざわめきが漏れる。

  「どういうつもりだ?化け物風情が」

  「よせよせ。なにをさせられるか分かったものではないぞ」
  
  「その通りだ。よからぬことを企んでいるに決まっている」

 ざわめきが群を成し、徐々にその勢いが強まりだしたとき、
 髭をたっぷりと蓄えた大柄な男が集団の後方から身を乗り出し、叫んだ。

45 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:47:18.60 ID:nDnll7qz0

(#’e’)「誰が化け物どもの手下になるってんだ!野蛮なケダモノめ!!
    きさまらの言いなりになるくらいなら、死んだ方がマシだってんだ!!
    そうだろ?みんな!!」

 王族親衛隊の隊長だった。
 彼の呼びかけに応じて、人間たちが腕を振り上げ、口々に賛同の意思を唱えた。




 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「なら死ねニダ」

 その声を聞いて、人間たちの動きがぴたりと止まる。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「拒否した者を殺すつもりがないから、わざわざ希望を聞いてやってるニダ。
      それすら拒否して死にたいというのなら、いっこうに構わないニダ。
      ほれ、これでいいニカ?」

47 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:50:30.56 ID:nDnll7qz0

 言い終えると、その魔族は腰に差していた長剣を抜き、放り投げた。
 宙に浮いた長剣が、親衛隊長の足下に突き刺さる。

(#’e’)「きさまぁ!!」

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「何ニカ?遠慮しなくていいニダ。さあ、グサッと、一息に」

 親衛隊長が右手で剣を引き抜き、中段に構える。

(#’e’)「なめたマネしやがって。死ぬのはきさまの方だ!」

 文官たちは小さな悲鳴を上げつつ、軍人たちは息を飲みながら、
 それぞれ親衛隊長から距離をとり、小さな半円を形作る。
 
 一方で見張りの魔族たちは、慌てる気配も、制止する素振りも見せない。

50 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:53:32.23 ID:nDnll7qz0

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「…ウリの名はニダー、ニダ。そっちの名前も聞いておくニダ」

 言いながらもニダーと名乗った男は、うしろに背負った得物の柄を、そっと握る。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「それといい機会だから覚えておくニダ。
      ウリたち魔族の掟は(#’e’)「黙れ!後悔しやがれ!」


 言葉を遮って、親衛隊長が懐に飛び込み、同時に突きを放つ。
 
 ニダーの眉間へと、まっすぐに最短距離を走ったその突きは、
 なりゆきを見守る人間たちに淡い期待を抱かせた。
 
 しかしその期待も、次の瞬間には親衛隊長の頭蓋といっしょに砕け散っていた。 
 ニダーが避けざまに、手にした巨大な鉄の棍棒を、 親衛隊長の頭に横殴りに叩きつけていたのだった。

51 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:56:41.13 ID:nDnll7qz0

 人間たちは、常軌を逸したそのスピードに我を見失い、狼狽した。
 ニダーが得物の血を振り落としながら、改めて言う。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「いい機会だから覚えておくニダ。
      ウリたち魔族の最大の掟は、『刃向かう者には容赦はしない』、ニダ。
      そのかわり、大人しくしていれば何もしないニダ。」

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「さて、希望者はいないニカ?」

 ニダーの言葉を最後に、部屋は静まり返った。
 人間たち、さらには見張りの魔族たちでさえも、目の前の凄惨な光景に声を失っていた。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「いないニカ?」

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>=3

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「実に困ったニダ」

52 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 20:59:12.90 ID:nDnll7qz0

 ため息をつきながら人間たちを見据えるニダーの目に、
 やがてゆっくりと挙げられた細い腕が映った。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「おっ、そこの黒いの。やるニカ?前に出てくるニダ」

 人々の間をかき分け、一人の少年がおそるおそる前に出てくる。

(;'A`)「……」

 勇者のお供となるはずだった黒人の少年、ドクオだった。

54 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:02:12.75 ID:nDnll7qz0



 ドクオは震える足を必死に動かしながら、内心では未だに、
 目の前で繰り広げられた光景に戦慄していた。

(;'A`)(おれは馬鹿だった。ゆくゆくはあんな怪物と戦う気でいたなんて。
    勇者でもないおれがいくら技や術を鍛えたところで、かなうはずがない。
    聖剣を持つブーンにしたって、あんなのが相手なら怪しいものだ)

 だけど、とドクオは足を止めて考える。

(;'A`)(状況は変わった。ヴィップは魔王の手に落ちた。
    囚われの身にあるブーンやツン、そしてカーチャンを助けるために、
    おれは『今』を生き抜く必要がある)

<   >「……ぉぃ」

(;'A`)(そのためには、ずっとこの部屋にいてもしょうがない。
    リスクはあるけど、まずは外に出るんだ)

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「おい!」

(;'A`)「はひぃ!何でしょうっ!」

55 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:05:05.79 ID:nDnll7qz0

 考えに耽り、呼び声に気づくのが遅れたドクオは、驚きのあまり気の抜けた声を出した。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「何度も言わせるな。さっさと名前を言うニダ」

(;'A`)「ド、ドクオ=ウーツ=ダシノーです。歳は17で趣味は…」

 ∧_,,∧
<#`∀´>「もういいニダ。黙るニダ」

(;'A`)「は、はひ!すみまぜん!」

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「ニダニダ。お前は文官ニダね?」

(;'A`)「え?えーと」

 普段みすぼらしい格好をしていたドクオは、勇者が決まったあの日、
 間に合わせで支給された文官の服を着ていたのだった。
 
 ドクオの返答を待たず、ニダーが話を進める。

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「ホルホル。じゃあ、そうだな、フィレンクト! お前の担当で頼むニダ」

∧_∧
(‘_L’)「承知しました」

59 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:08:33.97 ID:nDnll7qz0

 ついてこい、と身振りで促され、ドクオはそのままフィレンクトと呼ばれた男に従って部屋を出た。
  
 扉を閉める寸前、背中から「じゃあ次を選ぶ前に、残った奴らでその死体を片づけるニダ」
 という声が聞こえた。グロテスクな親衛隊長の死体を思い出し、ドクオは安堵のため息をついた。



 かくしてドクオは、実に三日ぶりに、窓からのそれではない太陽の光を浴びることとなった。




         ―――――――――――――――
         
―ヴィップ城城下町・西大通り―

∧_∧
(‘_L’)「その腕輪はな」

 人影の少ない大通りを歩きながら、フィレンクトがドクオの左腕の腕輪について語り出す。
 ドクオが大部屋を出た後すぐ、フィレンクトによってはめられたものだった。

61 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:11:51.90 ID:nDnll7qz0

∧_∧
(‘_L’)「私の魔力を封じたものだ。君がなにか私にとって不都合なことをしようとした場合、
    その腕輪を通じて君の動きを止めさせてもらう。」

(;'A`)「はあ……」

∧_∧
(‘_L’)「死にたくないなら下手な真似はしないことだ。
    その気になれば、君の心臓だって止めてしまえるのだから。」

Σ(;'A`)

 さらりと放たれた恐ろしい言葉に表情をひきつらせながら、ドクオは質問をした。

(;'A`)「あの…」

∧_∧
(‘_L’)「なんだ」

(;'A`)「えーと…その……」

∧_∧
(‘_L’)「…フィレンクトだ」

(;'A`)「フィレンクト、さん……えーと、武器屋の見回りって、何をすれば」

63 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:13:59.79 ID:nDnll7qz0

∧_∧
(‘_L’)「それは着いてから話そう。ああ、着いたぞ」

 フィレンクトはそう言って、通りに面した二階建ての大きな武器屋の前で、歩みを止めた。

(;'A`)(あれ、ここって……)

 ドクオは見覚えのある武器屋の扉を開き、薄暗い店内に入って行った。


(´・ω・`)「やあ。ようこそ、バーボンハウスへ。

(;'A`)「ショ(´・ω・`)「このカタログはサービスだから、まず落ち着いて読んで欲しい。
             うん、「また」なんだ。済まない。
             仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない」
             
(;'A`)「無事(´・ω・`)「でも、この店のなまえを聞いたとき、君は、きっと言葉では言い表せない
             『アルコール』みたいなものを感じてくれたと思う。      
             殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい、
             そう思って、この名前をつけたんだ。
             じゃあ、注文を聞こうか、ドクオ君」
             
(;'A`)「……」

64 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:17:38.31 ID:nDnll7qz0

 どうやらお決まりになっているらしい、年輩の店主の台詞が終わるのを待って、ドクオは言った。

(;'A`)「ショボンさん!無事でしたか!?」

(´・ω・`)「まあ、無事だよドクオ君。
      もっとも、君の後ろにいるような人たちのおかげで、
      お客さんが消えて商売上がったりだがね」
      
 ショボンという名の店主が、ドクオの後ろにいるフィレンクトを見据えながら言う。
 町を占領する魔族の男とカウンター越しに向き合う形になっても、少しの動揺も見せない。
      
∧_∧
(‘_L’)「失礼する。私はフィレンクトという者だ。
     単刀直入に言わせてもらう。5日間だけ君の店を封鎖しに来た。
     それほど時間はとらせないので、ただ見ていてくれれば良い」
      
(´・ω・`)「封鎖、ね。倉庫の鍵でも渡せばいいのかい?」

66 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:19:44.81 ID:nDnll7qz0

∧_∧
(‘_L’)「その必要はない。私が術でここを封印する。
     向こう5日間は入れなくなるので、武器や防具以外の日用品や貴重品は
     持ち出してくれてかまわない」
      
(´・ω・`)「…わかった。少し待ってくれ」

 ショボンが荷造りをしに、カウンターの奥の階段を上っていった。
 
(;'A`)「あの、フィレンクトさん。ところで僕はなにを……」

∧_∧
(‘_L’)「君も、私に不正がないか、ただ見ていてくれれば良い」

 思いがけない返答に、ドクオが呆気にとられる。

(;'A`)「…え?それだけですか?」

∧_∧
(‘_L’)「?? それだけも何も、大事な事だ。
     あとで無断で武器を持ち出していた、なんて密告があったらかなわないのでね」

69 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:23:21.89 ID:nDnll7qz0

 もっとも、嘘をつかれたらどうしようもないが、と続けたところで、
 ショボンが荷物を抱えて奥から出てきた。
      
∧_∧
(‘_L’)「よし、それじゃあ二人とも外に出ていてくれ。出入り口は表だけか?
     裏口があるなら、二手に分かれて見張っていてもいい」

 几帳面な魔族の男を店内に残して、二人は通りに出た。
 
 ショボンが開けっ放しの扉からフィレンクトの背中を伺いつつ、
 先ほどまでの堂々とした態度が嘘だったかのように、ひそひそと語りだす。
 
(;´・ω・`)「いやあ、正直チビるかと思ったよ」
      
(;'A`)「どうしたんですか、急に」

(;´・ω・`)「だって、あの魔族だよ?君と彼が来たときなんか、
       『人間どもに武器を売った汚物は消毒だー』とか何とか言われて、
       ぶち殺されちゃうのかと思ってたよ」
       
(;'A`)「確かに、イメージと違いますよね」 

 ドクオが第二東棟に監禁されていたときから、うすうす感じていたことを口にすると、
 ショボンがもっともらしく頷いた。
 
 ドクオたち人間が思い描いていた魔族のイメージは、フィレンクトが与えたそれよりも、
 はるかに野蛮で汚らしいものだった。

71 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:26:47.85 ID:nDnll7qz0

(;´・ω・`)「実際、魔族が怖くて自殺しちゃった人もいるらしいからね。
       ところで、僕のことはばれてないよね?」
       
(;'A`)「たぶん、大丈夫だと思いますけど」

 おびえるように辺りを見回しながら、ショボンが言う。
 
(;´・ω・`)「ならいいんだけど。勇者の子孫が、たくさん魔族をぶった斬った勇者の武器を元手に  
       商売やってるなんて知られたら、いくら人の良い魔族でも、八つ裂きにされそうだよ」

 それはそうだ、とドクオが納得したとき、タイミングよくフィレンクトが出てきた。
       
∧_∧
(‘_L’)「終わったぞ。一応、確かめてみろ」

 言われたとおり、ショボンが自分の店の正面扉や窓、裏口を確かめたあと、戻ってきて言った。


 
(´・ω・`)「僕のケツの穴みたいにガチガチだったよ」


 早くも虚勢を取り戻したらしかった。

73 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:31:48.66 ID:nDnll7qz0
 下品なたとえには反応せずに、フィレンクトが言う。

∧_∧
(‘_L’)「念のため、武器にも術を施してきた。
     たとえ扉を破ることができても、肝心の武器は手に持てないほど重くなっているはずだ。
     まあ、5日経てば元通りになる。手間を取らせたな」

(;'A`)(……魔族SUGEEE!)
     
 ドクオが驚くのも無理はなかった。    
     
 人間が使う術は、せいぜい炎を出したり、かすり傷を直したりする程度のもので、
 カギをかけたり重力を操ったりする術など、ドクオは見たことも聞いたこともなかった。
 
(;'A`)(魔族のほうが術は進んでるらしいな……
    どうにかして覚えられないもんかね)
 
 ドクオの考えなど知る由もないフィレンクトが、早くも歩き出す。
 それを慌てて追いかけながら、ドクオはショボンに別れを告げた。
 
('A`)ノシ「ショボンさん、とにかくお元気で!」

(´・ω・`)ノシ「君のほうが大変だろうけど、死ぬなよー」
     
      
 ――ショボンの店からさらに二件まわり、太陽が沈みかけた頃。
 魔族の伝令が二人の行く手を遮った。
 
  「フィレンクト様、その者を連れて至急お戻り下さい。その者は、『勇者の仲間』です」

75 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:34:58.66 ID:nDnll7qz0
―5―


−VIP城・王座の間−

 歴史的な会談は、一時間もかからずに終わった。


 ヴィップ側からは、国王と、第二東棟から連行された宰相以下2名の文官、 
 魔王軍からは、魔王に加え、軍団長2名が出席し、
 王座の間に備え付けられた円卓を囲むという、形式的には対等な会談であった。
 
 しかし当然、会談の内容は、城を占拠する魔王軍の要求を、
 ヴィップ側が一方的に呑むことに終始した。
 
 魔王軍の要求は、以下の通りである。
 
 ・停戦条約の締結
 ・2年に一度の使節の交換
 ・南方領土の確定
 ・ヴィップ国の科学技術の供与
 ・城外での香草の段階的使用停止

79 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:38:35.69 ID:nDnll7qz0

 これらの要求には、魔族ならではの考えが見てとれる。
 
 
 例えば、魔族の文明は術こそ発展していたものの、
 こと科学技術においては人間たちに数段の遅れをとっていた。
 
 その中でも製紙技術をはじめとして、かんがい技術や家屋の建築術など、
 なるべく軍事にかかわりの薄い科学技術を、これを機に輸入しようというのが、魔王たちの魂胆だった。
 
 
 また、一般に魔族は人間よりも身体能力が高いものの、致命的な弱点があった。『香』である。
 人間が焚く『オオカミ草』という香草が、魔族には強い毒性を発揮するのであった。

 したがって、魔族の主な居住地であるスギウール山地に近い地方の城では、
 魔除けとして城壁を囲むように、昼は香が焚かれ、夜は香草を混ぜ込んだ松明が灯される。
 
 その香りが風に乗り、近隣の魔族の村まで届けられ、流行り病を引き起こしていた。
 こうした問題も、魔王たちは一挙に解決しようとしていた。

82 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:42:41.99 ID:nDnll7qz0
 
 ヴィップの代表たちは、まず相手の思いのほか丁重な態度に目を疑い、
 次にその要求を聞いたとき、耳を疑った。

 彼らの予想していた、人間の奴隷化や巨額の賠償、
 そして魔王によるヴィップ国全土の統治といった言葉が、一言も聞かれなかったからだ。
 
 それどころか、準備が整う4日後には、ヴィップから撤退するという。
 国王たちはますます困惑した。


/;,' 3 「…この要求だけ呑めば、本当に、城を、国を返していただけるんですな」

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「何度も言わせるでない。われわれは平和を望んでいるのだ。
       人間の土地に興味はないのである」

 ただし、とロマネスクが付け足す。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「すでにおぬしの部下たちを伝令に走らせているが、他の城には決して手を出させるな。
       この城に攻めこもうものなら、国王たちの命はないと、重ねて伝えさせておけ。
       それとおぬしらには、撤退時に人質として国境ぞいまでついて来てもらうぞ。
       なに、下手な真似をしなければ危害は加えん。安心するが良い」

84 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:45:20.76 ID:nDnll7qz0
       
 真っ青な顔を震わせながら、アラマキ王が首を縦に振り、
 そして突然思い出したように、慌てて付け加えた。
 
/;,' 3 「む、娘に、ツンに会わせて欲しい。この国の王女だ。
     あなた方が捕えているはずだ。どうかこの通りだ、会わせてくれ」

 必死になって頭を下げるアラマキ国王を見て、ロマネスクはあきれ返った。

 ∧ _ ∧
( ФωФ)(この期におよんで私情を優先するとは、どうしようもない奴だな。まあよい。)

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「わかった。条約の取り決めが終わり次第、手配させよう」

87 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:50:18.41 ID:nDnll7qz0




         ―――――――――――――――

 条約の調印を済ませ、アラマキたちが魔族の兵に連れられて退出すると、
 入れ替わりで八人の魔族が訪れ、円卓の席についた。

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「みなの者、ご苦労であった。それでは始めよう。」


 ヴィップ城王座の間で、魔族だけの、最初で最後の会議が始まった。

 会議はデミタスが提出した報告書をもとにして、ロマネスクの主導によって進められた。
 
 戦死者数、城や町の治安、食料庫や武器庫の保全、略奪の有無などから、魔王軍の撤退計画までが、
 いくつかの質問と応答をはさみながら、滞りなく、しかし丹念に確認されていった。
 
 そうして時は進み、窓の外が茜色の空に満たされ始めた頃、会議はとうとう最後の議題にたどり着いた。
 
 
 ―――魔族にとって最大の『罪人』たる、勇者の処遇である。

89 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:54:22.95 ID:nDnll7qz0

 ノノノノ
( ゚∋゚)「勇者は即刻処刑すべきです。それ以外、ありえません」

 口火をきったのは、軍団長の片割れであるクックルである。
 
 魔王に次ぐ地位にあるクックルであるが、平均寿命が長い魔族の中にあって、いまだ年若い部類に入る。

 しかしその精悍な顔つきと、背中に生える強大な翼が、
 ワイバーン族の長としての威厳を生み出しており、
 先の戦では全軍の半分に当たる四千の兵を指揮しながら、
 同族とともに得意の空中戦で人間たちを大いに苦しめていた。
 
 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「ウリも賛成ニダ」 
 
 もう一人の軍団長である、ニダーがクックルに続く。
 
 先代の魔王から仕える、ただの一人の魔族であると言われる彼もまた、
 先の戦では自ら陣頭に立ち、自慢の怪力を大いに発揮して多大な戦果を挙げていた。
 
 
 魔王の両腕と目される二人の一致した意見を聞いて、
 魔王を除く残りの八人――軍団長の下につく、部隊長たちである――が、お互いの顔を見合わせる。

  (これで魔王様が賛同すれば、異論をさしはさむ余地はない)

91 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 21:58:51.34 ID:nDnll7qz0
 
 お互いの顔にそう書いてあるのを確かめて、彼らは魔王の様子を伺う。
 
 しかし魔王の口から発せられたのは、彼らの期待とは正反対の言葉だった。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「我輩は処刑に反対だ。勇者は、生かしておくべきだと考えている」
 
 
 予期せぬ言葉に、一瞬にして場の空気が凍りつく。
 数秒の間をおいて、最初に反論の口火を切ったのは、またしてもクックルだった。
 
 ノノノノ
(#゚∋゚)「どういうことですか、魔王様!
    人間どもには、散々苦しめられてきたではありませんか!
    本当なら、国王をはじめ主だった人間たちをすべて処刑しても足りないぐらいなのに、
    それなのに、勇者すら処刑しないとは、どういうお考えですか!」
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「落ち着くのだ、クックル。
       おぬし、聞き捨てならない言葉を吐いておるぞ。
       無抵抗の、まして軍人でもない者の処刑を口に出すとは、
       掟を反故にするというつもりか?」

93 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:01:06.67 ID:nDnll7qz0
       
 ノノノノ
(;゚∋゚)「…申し訳ありません、しかし……」
 
 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「『刃向かう者には容赦をするな』、それがウリたちの守るべき最大の掟ニダ。
      勇者とは、魔王様に『刃向かう者』ではないニカ?」
      
 クックルの後を受けるように、ニダーが意見を述べる。

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「状況が違うと言っているのだ。我輩たちが今いる場所は、戦場ではないのである。
       そもそも、勇者がいつ我輩に『刃向かった』のだ?そんな覚えはないのである」

 ∧_,,∧
<ヽ`∀´>「……」

 ∧ _ ∧
( ФωФ)「それに、『刃向かう者には容赦をするな』、この掟が、
       むやみな殺生を慎むことと表裏一体であるのは、お主も知っておろう」
       
 熱の高まる議論に、束の間の沈黙がたちこめる。 

95 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:04:10.83 ID:nDnll7qz0

 ノノノノ
(;゚∋゚)「……しかし、あのブーンとかいう人間は、あの忌々しい聖剣を引き抜いたと聞きます。
     そのとき、きっと勢いあまって魔王様に対する殺意を口にしたに違いありません。
     われわれにとってその存在が危険極まりない『勇者』が、
     忌々しい聖剣を手にして、あまつさえ『魔王様の殺害』を予告する」
     
 ノノノノ
(;゚∋゚)「間接的とはいえ、これを『刃向かう』と言わず、何といいましょうか」

 ロマネスクはため息をついた。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「間接的に、か。そんな根拠で死刑になった者が、はたして『納得』できるのか?」

 ノノノノ
(;゚∋゚)「……」
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「まあよい、言い方を変えよう。
       では百歩譲って、その勇者の振る舞いが死刑にあたるとして、
       誰が『証言』すると言うのだ? まさか、この中に目撃者でもいるというのか?」

97 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:08:15.86 ID:nDnll7qz0

 再度、沈黙がその場を包む。しかし、よく響く声がそれを破る。

 ノノノノ
(;゚∋゚)「…いるかも、しれません」

 ノノノノ
(;゚∋゚)「もちろん私たちの中にはいません」

 ノノノノ
(;゚∋゚)「しかし、目撃した人間はいる可能性があります。
     『証言者』を探す時間を下さい。」
     
 ロマネスクが、再度ため息をついて言う。
 
 ∧ _ ∧
( ФωФ)「わかった。好きにしろ。
       ただし、『脅迫』や『買収』はもってのほかだ、わかっているな」

98 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:09:45.62 ID:nDnll7qz0

       ただし、『脅迫』や『買収』はもってのほかだ、わかっているな」

100 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:14:43.70 ID:nDnll7qz0
申し訳ないです。単純なミスで、書き溜めが飛びました。

支援してくれた方々、ありがとうございました。そして本当にすみません。

104 名前: ◆.KHsCpS6zI 投稿日:2009/06/07(日) 22:19:13.74 ID:nDnll7qz0
なるべく早く書き直して、また合作とは別に出直します。
すみませんでした。


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