- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[代理サンクス!] 投稿日:2009/06/07(日) 22:05:07.20 ID:t1CgTq3i0
- 僕の妻、ツンが浮気をしている事が探偵の調べにより明らかになった。
相手は銀行マン。僕よりも若いくせに、年収は僕をずっと上回っているらしい。
写真を見せてもらったが、僕よりもずっと男前だった事が敗北感に拍車を掛けた。
(# ω )「…………」
遠くに見える窓から、かすかに明かりが漏れている。
あの窓は寝室の物……僕とツンの、寝室だ。
寝室のカーテンに映る影は2つ。
背の低い物と高い物……ツンと銀行マンだ。
探偵の調べどおり、火曜の晩にツンは銀行マンを招いているようだ。
顔も良く、年収も良い男と関係を持ち、君はどうするつもりなんだ?
僕とは離婚し、銀行マンと再婚するのか?
確かに僕は、仕事仕事でツンを蔑ろにしてしまっていた。
君はそう愚痴っていたね。
でもそれは、彼女と家の為に身を粉にして働いていたからだ。
僕を蔑ろにしているのは、むしろ君の方なんじゃないか?
僕の気持ちが分からないなんて、妻失格だ!
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:06:01.84 ID:t1CgTq3i0
(# ω )「どうしてなんだお、ツン……」
そう考えると、身体中がじんじんと熱くなる感覚を覚える。
まるで頭と胸の中で小火が沸いているようだ。
怒りで生まれた小火は、僕のどす黒いマイナス思考を巻き込んで大火となり、
僕の理性を焼き尽くす。
今晩も家には帰らず、バーでたらふく飲んでしまった。
怒りに焼かれた僕の手足が、勝手にそうさせるのだ。毎晩のように。
浮気が発覚して数日の間は、酒で気を紛らわす事は出来た。
しかし、僕の中で燃え盛るツンへの怒りは次第に規模を増して行き、
酒という名の多量の水を持っても鎮火が敵わなくなってきた。
もう我慢はできない。
大火が、僕のコントロールを焼いてしまっているのだから!
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:08:38.12 ID:t1CgTq3i0
ウィスキーの瓶を口に咥え、一気に流し込む。
最後の行って気まで飲みつくし、用済みのウィスキー瓶を近くの川に思い切り投げた。
ドス、という重い音がこちらまで届く。水面を割る事は無かったようだ。
(# ω )「……やるかお」
胸ポケットの銃と弾丸を取り出した。
箱から弾丸を3発、手に転がす。
リボルバー式の弾倉に一つずつ弾を押し込み、準備は整った。
(# ω )「……脅すだけだお」
___
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:10:21.78 ID:t1CgTq3i0
「内藤さん、貴方はあの晩、何をしていましたか?」
( ^ω^)「……家の近くで酒を飲んだ後、行き付けの満喫で一夜明かしましたお」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:12:28.95 ID:t1CgTq3i0
「はい。貴方の家の近くに流れている川で、ウィスキーの瓶が発見されたのと、
漫画喫茶での入店記録には、確かに貴方が10時間滞在していた事が残されています」
「つまり貴方は、家の近くで酒を飲んだ後、妻であるツンさんと彼女の不倫相手を殺害し、
そして行き着けの漫画喫茶に行った。そうですね?」
(;^ω^)「違いますお! 僕は妻を殺していないお!」
「……近くの川の辺で、貴方の指紋が付いた酒瓶と、それから銃と弾丸が発見されているのです」
(;^ω^)「確かに僕は銃を持っていた! しかし撃ってもいない!
家に入ってもいないんだお!!
弾を“3発”込めただけで怖くなって、川の方に投げ捨ててしまったんだお……」
「“発見された銃の弾丸の数は0”。
“奥さんと浮気相手の遺体に埋め込まれていた弾丸の数は3”。
……ブーンさん、これについては?」
(;^ω^)「僕は銃を撃っていないと言っているでしょう!
そもそも、発見された銃は本当に僕の持っていた物なのかお!?」
「はい。貴方が仰っていたメーカーと製品の銃です。
購買記録とも一致しています。何より、発見された銃には貴方の指紋が残っているのです」
(; ω )「そんな……何かの偶然だお……」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:13:54.66 ID:t1CgTq3i0
「……貴方は2人の頭や胸を撃って、殺害した。
ウィスキーの瓶と一緒に、貴方が使った銃が川で発見されました。
残っている弾丸の数も一致、銃創の口径も全てが一致しているのです。
貴方以外に2人を殺害するような動機を持つ人間も、いません」
(;゚ω゚)「何かの間違いだっつってんだろ!!
もう一つ銃が家の近くにあるはずだお! よく探せお!!」
「……今日はここで閉廷しましょう」
(; ω )(どうなっているんだお……)
彼女を殺したのは別の誰か。真犯人が存在する。
しかし髪の毛一筋の痕跡も出てこず、
僕が脅しに使った銃と弾丸に信憑性の重きを置かれ――――、
数回の裁判を経たが、誰も僕の言い分には耳を貸そうとせず、
裁判官達は僕を殺人鬼だと決め付けて、僕をヴィップ刑務所に送り込んだのだった。
___
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:15:58.63 ID:t1CgTq3i0
罪人合作出展作品
( ^ω^)贖罪メーターのようです
.
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:18:10.76 ID:t1CgTq3i0
- ※
両手首に重たい手錠をはめられた後は、何もかもがスピーディに進行していった。
シートから滲むドブのような臭いを我慢しながら、バスに揺れた事も。
バスを降りて刑務所に入り、広々とした玄関で所長の話を聞いた事も。
決して安くは無いスーツを剥ぎ取られ、淡い青色の囚人服を渡された事も。
そして、冷たい鉄格子の中にぶち込まれた事も――。
あっという間の出来事だった。
そのような感覚を覚えたのは、僕が未だに頭の中で理解していないからだろう。
――殺人罪で14年の懲役を受けた事を、だ。
( ω )(なんで……こんな事に……)
そういえば、いつか見た映画を思い出した。
映画の主人公は僕と同じような境遇で、無実の罪で懲役の刑を受けていたっけ。
( ω )「はぁ……」
首と肩が悲鳴を上げている。
悩みに重くなる頭を支えるのが限界のようなので、。僕はベッドに体を寝かせた。
それに、鉄格子の前で呆然としていても、誰かが出してくれる訳でもないし。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:20:27.07 ID:t1CgTq3i0
- ああ、ベッドが硬い。
こんな板切れの上で寝ていては、身体を痛めてしまうだろうに。
それにとても寒い。12月だというのに、毛布が一枚しかないなんて。
( ^ω^)(便器から匂ってくるし……)
部屋の隅に設置された便器。
水洗式のようだが、酷く臭う。
( ω )「どうしてこんな目に……」
( ω )「どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだお!!」
「うるせーぞてめえ! 静かにしやがれ!!」
( ゚ω゚)「なんだと!? こちとら無実で投獄されてんだお!!
愚痴の一つくらいでガタガタ言うんじゃねーお!!」
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:23:12.50 ID:t1CgTq3i0
「おい! 何を騒いでいる!!」
下の階をうろついている看守が、我々のいる2階に向って叫んだようだ。
階段を踏み鳴らす音が聞こえてくると、
「あ、いや、何でも無いんですよ看守殿!
へへへ……もう大人しく寝ていますよ。明日も早いですからね」
隣人は慌ててそう繕い、看守を追っ払った。
(;^ω^)「……」
僕はほっとした。
隣人の手馴れた対応に感服しつつ、感謝の念を覚える。
「チッ……おい、隣の新入り。覚えてろよ。
明日、たっぷり可愛がってやるからな」
――が、束の間に終える。
胸に沸いた感謝の念は消え、苛立ちが再び燃え上がったのだ。
確かに、突然荒立って看守の注意を引いてしまった事は反省すべきである。
しかし、僕の気分を害した隣のゴロツキに謝るつもりは、微塵も無くなった。
明日たっぷり可愛がってやるだと?冗談じゃない。
( ^ω^)「はあ……」
それにしても、大声を出しても気分は一向に良くなろうとしない。
ますます気が滅入る一方だなんて、まいった。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:26:53.67 ID:t1CgTq3i0
- 湿り気のある枕に頭を沈め、考える。
狭く臭い鉄格子の中で、何年過ごすのだろうか。
そう考えればゾッとするのだろうが、僕の頭を埋めようとするのは
「何故、こんな事になったのか。誰がツンを殺したのか」という疑念だ。
何処の誰か分からないが、お前がツンを殺したせいで、
たまたま近くに居合わせた僕が、こんな目に遭ったのだ。
僕はツンや銀行マンを殺そうなんて、微塵にも思っていなかったのに。
たまったもんじゃない。
くそったれ。
( ^ω^)(寝よう)
こうして牢に入れられたのだ、もう弁解のしようもない。
懲役を終えるまでの間、感情を鈍化させて時が過ぎ行くのをじっと待つべきなのかもしれない。
先のような事を立てず、目だ立ず、じっと――――……
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:29:02.45 ID:t1CgTq3i0
( -ω-)
( ^ω^)パチッ
( ^ω^)(寝れないお)
みな寝静まり、刑務所は静寂に包まれていた。
看守のかったるそうな足音が鳴るくらいで、不気味な程静か。
眠るのには最適な環境であるというのに、ずっと僕は眠れずにいた。
酒……酒が欲しい。
ツンの不倫に苛立っていた時とは異なる怒りが、
僕を寝かせようとしないのだ。
僕の頭には「どうしてこんな事に」というフレーズが繰り返し響き続けている。
無実の罪で刑務所にぶち込まれるなんて、こんな事があっていいはずがない。
はいそうですかと納得して、大人しくしている方が異常だ!
( ^ω^)(脱獄……脱獄だお!)
小説や映画によくある、穴掘り。
あれでいい、穴掘りで脱獄に挑戦してみよう。
挑戦するだけでもいいんだ……きっと気晴らしにはなる。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:31:27.71 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)(何か掘る物があれば……)
すぐにでも実行に移りたかったが、今ここに必要となる物は無い。
明日、牢屋から出る機会は恐らく何度かあるに違いない。
金属製のスプーンでも何でもあれば、壁を彫れるはず……
(;^ω^)「……壁が……」
何という事だ……僕を囲う壁は。
金属で出来ていた。
軽く小突いてみれば、質量感のある手応えが指に響く。
スプーン程度では掘るのは不可能、電気ドリルでも無ければ無理だろう。
脱獄は不可能。
いや、冷静に考えてみれば、穴を掘ったところで逃げ切れる術も自信も無い。
小説や映画のように上手く行くはずなんて無いのだ。
この鉄格子の中では、夢や希望を持つ事も許されないらしい。
科された懲役を淡々とこなす……この刑務所でやるべき事はそれだけであり、それが全て。
充実していた頃の生活を思い出すと、身が引き裂かれるような気分を味わった。
「無理じゃないぜ!!」
( ^ω^)「無理に決まって……え?」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:32:55.21 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「脱獄させてやんよwwwww」
鉄格子の向こう側で、女性が立っていた。
コスプレなのか分からないが、背から白い羽が生えている。
派手な金髪の周りを、うっすらと輪のような物が浮かんでいるように見える。
中性的な声だった。
コスプレした看守と言われれば、それで納得出来るかもしれないが、
しかし紛れも無い女性なのである。
薄布のロープがピタリと張り付いた豊満な胸。
何より美しい顔立ちが、女性である事を証明しているのだ。
(;^ω^)「え、ちょ、だだだ誰だお?」
从 ゚∀从「そんなビビんなってwww」
(;゚ω゚)「え、なっ――――」
信じられない事に、絶世の美女が鉄格子をすり抜けて入ってきた。
鍵を開けたのでもなければ、手品やトリックでもない。
本当に、すり抜けたのだ。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:34:54.41 ID:t1CgTq3i0
(;゚ω゚)「なんなんだおおまぐふぉっ」
手で口をふさがれた。
ひんやりとも温かくもある、不思議な感触だ。
从 ゚∀从(でかい声出すんじゃねーよ!
看守に見つかっちまうだろうが)
そしてこれ、俗に言うテレパシーというやつなのだろう。
信じられないが、頭の中で彼女の声が響いている。
从 ゚∀从(へへへ。ここから出してやってもいいんだぜ?)
(;^ω^)(はっ?)
从 ゚∀从(はっ?じゃなくて本当に)
声を出していないのに会話が成り立っている。
どうやら僕にもテレパシーが出来るらしい……偶然と思いたいが、
(;^ω^)(そうじゃなくて重要なのは――)
从 ゚∀从(――アタシが何者かって事かね?)
こくこく、と彼女は何度も首を縦に振って見せた。
彼女はニヤニヤと馬鹿にするように笑っている。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:36:46.70 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「よくぞ聞いてくれた! アタシはねえ……」
ババーン!!
从 ゚∀从「神様だ! 全知全能のゴッドだ!」
電波?と一瞬頭に過ぎったが、しかし先ほどの鉄格子潜り抜けなどの芸当、
あれぞまさしく神の成せる業なのではないだろうか。
第一、ファンタジックな格好でこの刑務所をほっつき歩いている時点でおかしい。
それに、彼女はとても美しい……こういうのを神々しいと言うべきなんだろう。
僕は、彼女の事を神様と信じ始めている。
(;^ω^)(何で、神様がこんな所に?)
口は塞がれているので、頭で強く念じてみた。
すると、神様は再びニヤニヤと口を動かした。どうやらテレパシーが伝わったらしい。
それと構いはしないのだが、僕の思考や挙動の一つ一つを楽しんでいるように見える。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:38:42.63 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「お前さー無実の罪でぶち込まれたじゃーん?
それがゴッドとして見過ごせなくってねー」
(;^ω^)(じゃ、じゃあ、本当にここから出してくれるのかお!?)
胸がうるさいほど高鳴る。
痛みを感じるほどに、胸板が震動している。
从*゚∀从ニヤニヤニヤニヤ
そんな僕に気づいたであろう神様は、次の言葉を溜めに溜めて楽しみ始めた。
恐れ多いのかもしれないが、僕は神様を睨み付ける。
从;゚∀从「そ、そんな目で睨みつけるなって!
……ああ、ここから出してやるさ! 本当だ!」
(*^ω^)「むごごえかお! うっぶお!!(マジですかお! やったお!)」
从;゚∀从「ええい喋るな! 掌がお前の涎だらけになっただろうが!!」
(;^ω^)(すみません)
神様は僕の服で、掌についた涎を拭いた。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:41:48.02 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「この刑務所から出してやる。
でもブーン、その代わりにお前はな、良い事をしなければならない!」
( ^ω^)(良い事?)
从 ゚∀从「そう、良い事! 皆が喜ぶような良い事!
そうやってお前は罪を購うのさー」
( ^ω^)(ちょっと待ってくださいお、神様)
思うよりも先に口が動いた。
罪を購う? 何の為に? そもそも――、
( ^ω^)(僕には購うべき罪がありませんお)
僕が無実の罪で懲役を負った事は、神様も知っているのに。
どうしてこのような交換条件を提示されなければならない?
そう疑問していると神様は、
从 ゚∀从「……果たして本当にそうかな?」
と、何故か意味深に、ぽつりと呟いた。
何か過去に悪行したっけ?と頭の奥底に集中するが、特に思い出せず苛々が募っていく。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:43:45.50 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「まぁとにかく」
从 ゚∀从6m「出してやんだから良い事しなさい。ゴッド命令だ」
(;^ω^)(……分かりましたお)
――ゴッド命令とあっては、そう逆らえない。
本能的に僕はそのように認識した。
それに、この汚い鉄格子の外に出してくれるだけでも有難いと思わなければ、きっと罰当たりだ。
僕は神様に牢屋から出してもらう。
その代わりに、誰かが喜ぶような“良い事”をする。
そこまでは理解したし、外に出たら“良い事”をしよう。
肝心なのは――、
( ^ω^)(神様、良い事ってどんな事ですかお?
僕はどのくらい良い事をすればいいのですかお?)
定義と範疇。
一生ボランティア活動でもしなければならないのだろうか?
脱獄させてくれるのであれば、それはそれで別に構わないのだけれども。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:46:04.73 ID:t1CgTq3i0
- 从 ゚∀从「詳しくは外で話そう。着いて来い!」
口を塞いでた手を離し、その手で金属製の壁に触れた神様。
かと思えば金属製の壁に黒い渦のようなものが発生し、
その中に神様の腕がずぶずぶと飲み込まれてゆき、
从 ゚∀从「こっから外に出られるから!」
首だけになった去り際、僕にそう伝えた。
(;^ω^)「…………」
(;^ω^>⊂ 「いだだだだだっだ」
(;^ω^)「…………痛いお」
(*^ω^)「……痛いお! 夢じゃないんだお!」
⊂ニニニ(*^ω^)ニニ⊃「や、やったおー!!」
左頬が現実を痛感させてくれた。
紛れも無い現実である事を更に認識し、僕は黒い渦へと飛び込んだ。
しかし、脱獄したからとはいえ、僕が背負わされた刑が消える訳ではない。
神様の言う「良い事やれ」という指示は、その為にあったのだった。
____
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:49:15.09 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)「ん……? ここは、いつもの満喫だお……?」
黒い渦を抜けると、まず見慣れたPCが目に入った。
モニターには満喫のアイコンがあるし、鼻を利かせると嗅ぎ慣れたヤニの臭いが鼻腔を突いた。
間違いない、ここは満喫だ。ああ、ヤニ臭いだけの空気が何て美味いんだろうか……。
从 ゚∀从「ようwwwwwwww」
(;^ω^)「うわあ!?」
狭いペアシート席に、神様が漫画「正義のヒーローになれないようです」を片手に、
オレンジジュースを啜っていた。
从 ゚∀从「さーて、それではルール説明だ。
ルールっつっても大したもんじゃないけどねぇ。
そこにあるヘッドフォンをつけてくれ、ブーン」
( ^ω^)「ヘッドフォン……?」
PCと繋がっている、何の変哲も無いヘッドフォン。
こんな物付けさせて、どうするつもりだ神様。
神様が、マウスをカチカチとクリックした。
クリックされたのは……何だ、これは。
( ^ω^)「贖罪……メーター?」
と、呟いた瞬間だった――
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:51:16.09 ID:t1CgTq3i0
- モニター一杯に眩い映像が映し出され、カオスが繰り広げられた。
デフォルメされた3頭身の神様が、鮮やかな照明に照らされたステージ上で可愛らしく踊っている。
と、思いきや。
ズンチャンズンチャンズンチャン♪ 全知全能ハインリッヒ♪
ブープカプープーブンブンブン♪ 全知全能ゴッドハイン♪ ハーレールヤッ♪
(;^ω^)「…………」
間抜けな音色で構成された間抜けな音階が、ヘッドフォンを介し爆音で流れる。
この難解な楽曲を堪能していると音量が次第に絞られてゆき、
从 ゚∀从ノシ『イエーイ、ブーン! 見てるぅー!?』
モニター内の3頭身神様が僕に喋りかけてきた。
「何ですかおこれ」と尋ねようと横を向くが、さっきまで隣にいた神様が消えている事に気づく。
……オレンジジュースの入っていたコップが、殻になっている。
从 ゚∀从『さて、あの世の大ヒット商品、贖罪メーターについて説明するぜ。
ブーン、左手首を見てみな!」
( ^ω^)「え?」
半ば無意識に左手首に視線を注ぐと。
いつの間にか腕時計とは明らかに異なる物体が、巻かれていた。
なんだ、これは……?
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:54:36.25 ID:t1CgTq3i0
从 ゚∀从「それが贖罪(しょくざい)メーターだ!」
(;^ω^)「これが贖罪メーター? しかし、ひどいネーミングだお」
構造的にはアナログの時計に似ている。
時計と違うのは1から12の数字が、0、10、20・・・MAX(100にあたる)と表記されている事と、
秒針と分針時針のような針が存在していない事。
『注目!』と、神様の声に促されてモニターに目を向け直す。
モニターには、空き缶拾いをしている神様が。
矢継ぎ早に画面は切り替わり、今度は贖罪メーターが映し出された。
モニター上の贖罪メーターに、変化が出ている。
罪メーターの盤面、数字の10の半分あたりまでが、赤色で扇状に塗られているのだ。
塗られているというより、蓄積されていると言うべきか。
从 ゚∀从『このように、良い事するとメーターが増えます!
MAXまでメーターが伸びるとなんと!!』
从 ゚∀从6m『……貴方に科された刑が消えます……!』
( ^ω^)「ちょっと待ってくださいお神様」
从#゚∀从『質問のある方は!!』
从>∀从『手元のキーボードに打ち込んでねっ☆』
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:57:24.35 ID:t1CgTq3i0
カタカタッ“僕は罪を犯していないお。なのに何故こんな物を巻かれているんだお?
でも社会的には懲役14年の囚人である事は事実。
つまり、神様はこの事実を消してくれるって事ですかお?”カタカタッ
从 ゚∀从『あーなるほどね! 確かにブーンは無実だもんな!』
从 ゚∀从『そうそうそんな感じ、ブーンの言う通り。
贖罪メーターをMAXにすると、その事実が消える』
カタカタッ“ツンと銀行マンが、生き返るのかお?”カタッ
从 ゚∀从『いや、そういう事じゃないな。
それはひっくり返り様の無い事実。
あくまで、ブーンの社会的な刑罰が消え去るだけー』
カタカタッ“贖罪メーターがマックスになった時、僕は前科者ではないんだおね?”カタカタッ
从 ゚∀从『そうそう。ブーンの社会的保証は、全て元の状態に戻るんだよ!』
カタッ“ツン達の扱いは?”
从 ゚∀从『ツン達は何者かに殺された……これは揺るがない。
贖罪メーターがMAXになると同時、筋書きが何らかの形に変更されるんだよ』
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:59:49.11 ID:t1CgTq3i0
カタカタッ“筋書きが? 変更?”
从 ゚∀从『うん。贖罪メーターがMAXになると……そうだな、こうしよう』
从 ゚∀从『ツンと銀行マン殺害の真犯人が登場する。
しかもお前が殺人の疑いをかけられた事実は、無かった事になる。
つまり最初の容疑者として、ブーンではない別の誰かが真犯人として登場する』
从 ゚∀从『とか、そんな感じにしよう』
“……今現在の、僕の社会的な扱いはどうなっているんだお?”カタタタッ
从 ゚∀从『刑務所にぶち込まれた時と変わってない。
明朝には追われている身になるのかなー。
ブーンは今、妻と浮気殺しの殺人犯であり、脱獄犯でもあるんだ』
(;^ω^)「うーん……じゃあ、まとめると」
カタカタカタカタッ“僕は今、殺人犯であり脱獄犯。
贖罪メーターをMAXにさえすれば、真犯人が登場して僕の罪は無かった事になる”。タンッ!!
( ^ω^)「こういう事かお?」
从 ゚∀从「そうだな」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:01:01.86 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)「じゃあ最後の質問だお」
カタタッ“良い事って、どんな事だお?”
从 ゚∀从『んなもん自分で考えろよ! ググれカス!!
へへへ! ググれカスとか2chの言葉使ってみたかったんだ!』
(;^ω^)「…………」
从 ゚∀从「さーて説明はこんなもんかな?」
(;^ω^)「うわっ!?」
モニターの中にいたはずの神様が、僕の隣で漫画を読んでいる。
殻だったコップにはコーラがなみなみと注がれていた。
从;゚∀从「あ、言い忘れてた」
神様は漫画をデスクに置き、指を3本立てて僕の面前に突き出す。
从 ゚∀从「期限は三日間! 今からきっかり72時間だ!
それまでに贖罪メーターをMAXに出来なかったら……」
从 ゚∀从「ま、せいぜい警察に捕まらんように逃げてみれば?www」
そう言い残して、神様は目の前から消えてしまった。
僕の頭に装着されたヘッドフォンから、エンディングテーマ「GOD ハイン」なる楽曲が流れ始める。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:02:48.72 ID:t1CgTq3i0
(;^ω^)「残り三日……」
PCのモニター右下の時刻を確認する。
AM2:30、刑務所で点呼が行われるまでの時間はたっぷりとあるが、
(;^ω^)(うかうかしてられないお!)
急いでペアシートを出、そそくさと満喫を後にした。
その際、店員と目が合ったが、別に呼び止められはしなかった。
小汚い作業着のような服を着ているにも関わらずだ。
神様の補正か何かと自分に言い聞かせ、納得する。
外に出た。見慣れた街並だ。
( ^ω^)「すー……はぁ……」
改めて、感じる。
便所臭い牢屋とは空気そのものが違う。美味い。
しかし何より有難いのは、この解放感だ。
空気の清々しさなんて重要じゃない、娑婆の空気とは「解放感」を言うのだろう。
と、外の空気を堪能している最中、予告なく贖罪メーターが白色に輝いた。
光と共に現れたのは――デジタル時計のような「72:00」という数字。
数字は盤面中央に位置しており、ゆっくりと「0:00」に向って刻んでいる。
いよいよ贖罪開始、ということか。
この3日間で、僕の運命が決まる。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:04:18.32 ID:t1CgTq3i0
- ――そういえば、喉が渇いた。
牢に入れられてから、何も飲んでいない。
近くに自動販売機があったので、近づきながらポケットを弄る。
ああ、そうだ、サイフも無かったんだ。
「すまん一つ言い忘れてたわ!」
(;^ω^)「うわっ!!」
从 ゚∀从「3日間逃げながらメーターMAXとか無理ゲーだと思って、力を貸したんだった!」
背後から突然現れた神様。
いつも現れるのは突然すぎて、心臓に悪い。
神様はお構いなしという様子で、指を4本立てて僕に突き出した。
从 ゚∀从「お前の望みを叶える不思議な力を与えた!
限度は4つ! 好きなように使ってくれ!」
从 ゚∀从「ただし刑罰を無くしたり、贖罪メーターをMAXにする事は叶わない。
他にも色々制約はあんだけど……ま、しっかり考えて使ってみて!」
そう伝えると、神様は羽をはためかせて空に飛んでいった。
あまりにも低速飛行なので、見届けるのは止しておく。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:05:57.79 ID:t1CgTq3i0
(;^ω^)「望みを叶える不思議な力……」
( ^ω^)「じゃあ試しに……大量の金をくれお!!」
虚空に向けて、望みを紡いでみる。
が、何も起こらない。
( ^ω^)「嘘かお? それとも願い事が悪かったのかお?」
思わず首を傾げる。
コツン……。
空に向けた方の首筋に、何かが当った。
(;^ω^)「これは……」
キャッシュカードと、それにクリップで留められたメモ。
メモには暗証番号の他、「百億くらい入ってるからwww 从 ゚∀从」と書かれている。
『でも三日間だけなー! 三日経ったら全部消えるからなー!』
と、神様の声が頭に響いた。
なるほど、不思議な力の効力は最大で三日間という訳か。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:08:09.14 ID:t1CgTq3i0
(;^ω^)(うーん……軽はずみにお願い事をするんじゃなかったお。
お金は使える場面がありそうな気もするけど)
願い事は後三つ、叶えられる。
明日には警察が僕を追うだろう……。
何が起こるかわからない、願い事は慎重に吟味して使わなければ。
( ^ω^)(とりあえず家に行くお。お金を下ろすのはその後だお)
こんな小汚い囚人服では怪しまれてしまう。
それに警察からすれば、格好の的である。
家に帰って着替える。その後、改めて変装用に服を買う。
今現在、贖罪メーターの時間は「71:50」。
満喫で確認した時刻は「2:30」だから、10分乗せて現在の時刻は「2:40」。
点呼までの時間はまだ長い。
(;^ω^)(いや、もしかしたら……)
看守に、牢に僕がいない事を悟られる可能性もある。
急いで追っ手から逃れる準備を進めるべきだ。
神様から貰ったキャッシュカードとメモをポケットに突っ込み、
此処からそう遠くない家を目指して足を動かした。
___
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:10:22.82 ID:t1CgTq3i0
- ― ブーン宅 ―
黄色い帯の上に、KEEP OUTという文字が等間隔で端から端に綴られている。
警告を示すそのテープは、僕の家の周りに張り巡らされていた。
家の主である僕すら通さぬように巻かれているようだ。
近くに誰かがいる気配は無い。
テープを巻いた者の意思を尊重せず、するりとテープを潜らせてもらった。
何事も無く玄関前に辿り着いたが、肝心の鍵を持っていない事に僕は気づく。
かといって、ドアをぶち破るのは少しリスキーに思えた。
近隣に物音を聞かれるかもしれないし、僕がここに来たという痕跡が残ってしまうからだ。
「不思議な力の効力は三日間」、という神様の声を思い出した。
三日間、どんな場面でも上手く使えそうな、そんな能力が欲しい。
( ^ω^)「あ、透明人間になればいいのかお?」
「壁をすり抜ける力」……というのも思いついたが、見つかってしまえば危険が生じる。
しかし透明人間ならば……痕跡は残れど、肝心の姿を見つけられない。
いずれやってくる警察も、僕を見つけられない……これは良いアイディアかも。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:14:09.99 ID:t1CgTq3i0
見慣れた玄関。
数日離れていただけなのに、懐かしさを感じる。
( ^ω^)「……寝室」
僕は、当該の現場である寝室が無性に気になった。
思えば、僕はツンの遺体を目の当たりにしていない。
ツンが本当に死んだのは事実だろうが、実際に自分の目で確かめなければ、気がすまない。
恐る恐る、寝室に近づく。
寝室に入るなり見た物は。
夥しい血潮がベッドシーツやカーテン、絨毯を赤黒く染め、
それを下地に、白いチョークでツンと銀行マンと思われる「影」が縁取られている。
――ああ、ツン。君は、本当に死んだのか。
( ^ω^)「ツン……」
君を殺すつもりは無かったが、憎かった。
君を脅して銀行マンとの関係を切らせる……そこまでが僕の企みだった。
そこから先、どうしたかったのか、僕にも分からない……。
( ^ω^)「やり直したかった? ツンと?」
そんな、まさか。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:15:02.31 ID:t1CgTq3i0
- >>58 一個抜けてしまいました。コチラから先にお読みください。
( ^ω^)「透明人間になりたいお!」
願い事を口にし。
透明になるかどうか、自分の手をじっと見て待つと。
不意に、贖罪メーターが鳴り響いた。
何事かと思うと、贖罪メーターから機械的な声が流れる。
「その願イ事の効力は一日ダケでス。ヨロシいデスか?」
(;^ω^)「何で一日限りなんだお……じゃあ壁をすり抜けるのは?」
「その願い事デシたら、3日間持ちマース」
( ^ω^)「じゃあそれで」
贖罪メーターからの返答は無い。
無言イコール了承、と見做していいのだろうか。
それにしても、贖罪メーターが喋るなんて……なるほど、贖罪メーターは
僕の3日間を徹底して管理するアイテム、と思えば良さそうだ。
ドアにゆっくりと手を伸ばす。
指先でドアに触れ、僅かに力を込めると、僕の腕がずぶずぶとのめり込んでいった。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:17:18.19 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)「やり直せるはず、ないお。
拳銃持って『僕とやり直すお!』なんて言えるかお……。
たとえやり直したとしても、きっとギクシャクして一緒に住めたもんじゃないお」
( ^ω^)「やっぱり、僕は君が憎かっただけなんだお!
僕は君を脅したかったんだお! 脅してストレスを発散させれば良かったんだお!」
( ^ω^)「ああ、きっとそうだお。そうに違いないお……。
いくらなんでも、あんなビッチの事を……」
( ^ω^)(……外に出る準備をするかお)
『贖罪メーターが5、上昇しました』
( ^ω^)「えっ?」
何も良い事してないのに、どうしてメーターが上がった?
訳が分からない。故障か?
(;^ω^)「神様! 贖罪メーターがおかしいお!」
天井を見上げて声を出してみた。
いつものように何処からとも無く現れると思い、身構えて登場を待つが、
一向に出てくる気配が無い。どういう事だ? サポートは一切無しという事か?
……ともかく今は、考えるよりも行動。時間が惜しい。
___
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:20:15.74 ID:t1CgTq3i0
- ※
服は一式、あまり着ていない物。
すぐに買い換えて今着てる物と替えるつもりだ。
それから持った物はサイフと腕時計、恐らく止まっている携帯電話。
他に必要な物は思い当たらなかった。
車で移動するのは返って危険かもしれない。
カラーやナンバーなど、特定できる特徴は押えられている可能性があるからだ。
それに壁をすり抜ける力があれば、そう易々と捕まる事は無いだろう。
少し楽観視しているような気もするが、不思議な力は残り3つもあるのだ。
状況は、それほど悪くないはずだ。
とにかく3日間。
警察に捕まらずに、贖罪メーターの目盛りをMAXにする。
それだけだ……何とかやれるはずだ。
( ^ω^)「絶対に、刑を消してやるお!」
――――12月23日、AM「4:00」。
贖罪メーターが示す残り時間は「70:20」。
ただ呼吸しているだけでも残された時間は減少してゆく。
居ても立ってもいられない、今は寝る間も惜しい。
両足を焦がすような焦燥に駆られ、僕はドアをすり抜けた。
空はまだ、暗い――――
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:21:33.58 ID:t1CgTq3i0
― 同刻、VIP刑務所 ―
ブーンの住むニューソク市からは、だいぶ離れた場所に位置するVIP刑務所。
労働と、有り余る時間の経過に憔悴した囚人達は、穏やかな寝息を立てているが、
夜の番を務める看守達は対照的であった。
靴底を地面に打ち、硬いトーンを刑務所内に響かせている。巡回だ。
しかし、24時間の体制で行われるこの巡回、実は詰めが甘い。
何故かと言うと、見回る必要性が無いほど囚人達が大人しいからだ。
つまり看守達は、有り余る夜の時間を、ただひたすら歩いて過ごしているのである。
他に有効的な時間の使い方なんていくらでも思いつくが、
しかしそれでも仕事は全うしなければならない。
とはいえ、そんなフラストレーションに苛まされては、仕事が散漫になるのも無理は無い。
現に、今夜の巡回も適当そのものである。
運動がてらに階段を1階から最上階の7階まで昇降してみたり、
広々とした場所で、警棒をバットに見立てて素振りの練習をしてみたり。
こんな調子では、牢の一つが蛻の殻になっている事など知る由も無いだろう。
だが、起こりうるから、その事象を偶然と呼ぶのであり。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:24:14.00 ID:t1CgTq3i0
- ※
ぶんぶん、と警棒を振り回している看守の名は、ジョルジュとモナー。
ジョルジュの方は趣味が野球で、看守仲間で組んでいる野球チームのスラッガーである。
( ゚∀゚)「ああーチックショウ、クリスマスイブなのに夜番なんてよ!
早く交代になんねーかなぁ。チェスの続きやりてーよなぁ」
( ´∀`)「クリスマスイブは始まったばかりじゃん。
にしても好きだよなぁジョルジュも。毎晩負けてるのに」
夜勤は基本4人で、巡回に出るのは2人。
1時間経つごとに交代というローテーションで行われている。
(#゚∀゚)「うるせえ!! 今日こそギャフンと言わせてやるからな!!」
ぶんぶんと振り回される警棒の勢いが増し。
(#゚∀゚)「あ」
警棒はジョルジュの手を離れていった。
警棒は2階の牢屋の方へ飛んでいき、カーンという金属的な音を鳴らした。
鉄格子に直撃したようだ。
(;´∀`)「何してんだよバカ! 囚人に拾われたら面倒だぞ!」
(;゚∀゚)「あ、そっか! そりゃやべーな!」
(;´∀`)「さっさと拾って来いよ!」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:25:51.17 ID:t1CgTq3i0
(;゚∀゚)「やべぇなぁ。囚人に警棒なんて取られたら、看守長にどやされちまう」
ジョルジュは慌てて階段を駆け上がる。
四方形の空間に沿って並ぶ牢、その格子の中で眠る囚人達の事など
気にも留めず、ジョルジュは鉄の階段を踵で打ち鳴らし。
警棒を投げ込んだ2階へ。
ジョルジュは息を切らし、膝頭に手をついた。
(;゚∀゚)「あー、あったあった。牢の前に落ちてらぁ……いやーよかったよかった」
曲げた膝を伸ばし、警棒に近づく。
警棒を手に取りながら、ジョルジュは牢屋の住人に声を掛ける。
( ゚∀゚)「いやいやスマンね。起こしちゃったかね?」
返事が無い。
ジョルジュは寝ているものかと思ったが、ふと目をやってみる。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:27:30.94 ID:t1CgTq3i0
( ゚∀゚)「ん?」
(;゚∀゚)「あれれ!?」
小さな牢屋の中に居る筈の囚人が、居ない。
ジョルジュは自身の目と頭を疑う。疲れているのだと。
目を擦り頬を抓り、警棒で頭を殴ってみるが。
(;゚∀゚)「え、あれ、嘘、マジで? 脅かしてるんだろ?
そういう冗談やめてくれよホント! 心臓に悪いじゃねーか!」
いない。誰も存在しない。
牢の隅から隅へと視線を向けるが、居ないのだ。
――今日入ってきたばかりの囚人が。
(;゚∀゚)「だ、だ、だだだ脱獄だあああああああああああああ!!」
鉄格子にも壁にも傷一つ無い。
一体、どのように脱獄したのだろうか?
看守としての失態よりも、不可解な脱獄にジョルジュは呆然とする。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:29:30.31 ID:t1CgTq3i0
(;´∀`)「うるせえええ!! じゃなくて、どうしたあああ!?」
叫び声に、モナーが駆けつける。
2人の大声、それから踏み鳴らされる鉄の階段が醸し出す騒然に、
鉄格子の内側の者達も眼を覚ました。
なんだなんだ?と、鼻の先だけ鉄格子から出して窺う囚人達。
冷静を欠いているジョルジュは、彼等が耳を欹てている事に気づかないまま、
覚束無い口調で事をモナーに説明し始めた。
(;゚∀゚)「だ、だ、だ、脱獄っ! 脱獄だよ!」
(;´∀`)「まさか……空きの牢屋じゃないの?」
(;゚∀゚)「あ、そうなの?」
(;´∀`)「知らんがな」
と、看守のやり取りを聞いていた、当該の牢獄の隣人が口を挟む。
ブーンに因縁を付けた者である。
「いや、確かにそこにゃ居たぜ看守殿。 生意気な新入りがよぉ」
(;゚∀゚)「や、やっぱ居たんだよ……やべーよやべーよ!!」
証言をも突きつけられた2人は、みるみると顔を青ざめる。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:31:46.01 ID:t1CgTq3i0
「どうしたんだぁ?」
「なんか2つ隣のやつがよぉ、脱獄したらしいぜ」
「冗談言ってんじゃねー! 四方が金属だぜ? どうやって脱獄したってんだ!」
次第にざわめきを増してゆく牢獄。
騒ぎを聞きつけた他の夜番の看守も、現場に駆けつけた。
(;゚д゚ )「おいおい、何の騒ぎだよ」
(;・∀・)「ったく、チェスの良い所だったのに!」
(;゚∀゚)「チェスやってる場合じゃねーよ! 脱獄だ! 脱獄されちまった!」
その牢屋を、ジョルジュは指を指し示す。
看守のミルナとモララーが、牢屋の隅から隅まで目を配らせ、
(;゚д゚ )「……ここ、空きの牢屋じゃないの?」(・∀・;)
モナーと同じように尋ねた。
2人の間抜けな問いにジョルジュは苛立ち、地団駄を踏む。
(;´Д`)「そうだと思いたいけど、ガチで脱獄発生だ!」
(;゚д゚ )「wせdrftgyふじこlととにかく! 看守長に報告しよう!」
___
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:35:01.16 ID:t1CgTq3i0
- ※
AM「5:00」、贖罪メーター「69:30」。
VIP刑務所がブーンの脱獄に気づいたと同刻。
( ^ω^)(良い事、かお……)
コンビニで現金を少しばかり下ろしたブーンは、
まず手始めに街のゴミ拾いを行ってみたものの、
(;^ω^)「……何すりゃいいのかサッパリわからんお」
贖罪メーターはピクリとも動かず。
くの字に曲げた腰が痛み、手に持った90gのゴミ袋が
空き缶などで一杯になっただけ。
軽く握った拳で痛んだ腰を叩いて、腰の鈍痛を緩和させる。
背を伸ばし、溜息を空に飛ばした。
……贖罪開始から2時間と30分が経過してしまった。
2時間30分もだ。
日常、こんなにも時間が惜しく感じる事は有り得なかった。
毎日同じ業務を淡々とこなす中、ひたすら時間の経過を望んでいたばかりだった。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:38:17.53 ID:t1CgTq3i0
- 残された時間は「69時間と30分」。
こうして空を眺めている間にも、時は無情に過ぎてゆく。
メーターは一目盛りも堪らず、焦燥感が募る一方だ。
(;^ω^)「どうしたらメーター増えるんだお?」
ふと、自宅での出来事がフィードバックされる。
僅か5程度であったが、メーターが増えたのは、何故だったのか?
( ^ω^)「全く思い当たる節が無いお」
しかし、少し思考してみても謎は解明せず。
それよりも今は、贖罪メーターを増やす効率の良い方法を模索しなくては。
何かあるはずだ……何か。
気分を切り替えるために、コンビニで買ったホットコーヒーを飲み干す。
12月半ば、針に刺されるような痛覚すら覚える寒風が吹いている。
安いホットコーヒーが、体をじんと温めてくれる。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:39:56.55 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)「あ」
( ^ω^)「雪だお」
夜が明けてまず気づいたのは、鉛色の分厚い雲が空を覆っていた事だった。
この寒さなら、雪が降ってもおかしくないと思っていたが。
粒こそ小さいものの、肌に触れる雪の冷たさで眠気が飛ぶのは有難い。
思考が研ぎ澄まされる。
そういえばと、急いで携帯電話を開く。
確認したかったのは、今日の日付。
ああ、やっぱり、
( ^ω^)「……今日はクリスマスイブだお」
今日から明日に掛けた2日間は。
世界的な祝日、クリスマスだ。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:41:55.47 ID:t1CgTq3i0
- そうだ、クリスマスだ。
皆が待ちに待ったクリスマスじゃないか!
クリスマスといえば、子供達にとってはビッグイベントだ。
サンタからのクリスマスプレゼント。
現実的には、決してサンタがプレゼントを持ってくる訳ではない。
ともかく、サンタに扮する誰かにプレゼントを貰ったりする、そんなハートフルなイベント。
世間的にはそれが、今晩行われる事になっている。
( ^ω^)「サンタ……」
( ^ω^)「そうだ、サンタになるお!」
( ^ω^)「世界中の人がプレゼントを貰うくらい、盛大に……。
そうすればきっと、贖罪メーターはMAXになるはずだお!!」
不安に焦がされていた胸が、すっと冷めていくのを感じた。
絶対にメーターをMAXにしてやる。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:43:19.89 ID:t1CgTq3i0
( ^ω^)(アレをこうして、コレをあーして……いいおいいお!)
頭の中で、サンタクロース作戦をプロットしてゆく。
決行は、イブからクリスマスに掛けた一夜。
決して長くない時間の中、如何にしてこの煩わしくもある贖罪メーターをMAXにするか――、
( ^ω^)(……これなら、きっとメーターはMAXになるお!)
――作戦は決まった。
我ながら、史上かつて無いクリスマスを世にプレゼントする事が出来そうだ。
……しかし、夜までの時間をどのようにしてやり過ごすか?
じきに警察が僕を追ってくる。
サンタ作戦上、これ以上不思議な力を使う事は出来ない。
僕は最初に得た有り余る金と、壁をすり抜ける力で、しばらく逃亡し続けなければならない。
そう考えると、急に心細くなってきた。
(;^ω^)(ど、何処に隠れればいいんだお!?)
家はダメ。満喫などの施設も危険。
壁をすり抜ける力を利用して、下水道はどうだ? 凍えて死ぬか。
となると、何処に?
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:44:42.25 ID:t1CgTq3i0
(;^ω^)「…………よし」
唯一思いついたまともな案。
それは信頼のある友人に尋ねる事。
携帯電話の電話帳を開き、「さ行」の欄に。
数少ない友人である「ショボン」に頼るべく、コールしてみた。
ショボンがバーの仕事を終えるのは空が白み出した頃だ。
今は5:10、恐らくまだ床には就いていないはずだ。
世間的に、僕が起こしたとされる殺人事件はどの程度認知されているのだろうか。
日々の習慣として毎朝ニュースを見る人間は、もしかしたら記憶の片隅に止めているかもしれないが、
僕を知る知人など、特に親しい友人が見たらと思うと、ゾッとする。
彼等が僕を殺人者と罵るのを想像すると、電話を切りたくなった。
無意識に、親指が通話終了のボタンに掛かるが、
トゥルルル、トゥル『も、もしもし!? ブーンなのかい!?』
ボタンを押す前に、耳を突いていた無機質な音は肉声へ変わった。
ショボンの声だ。ああ、何故か懐かしい気がする。
(;^ω^)「しょ、ショボン……」
『その声、ブーンなんだね!?』
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:46:09.50 ID:t1CgTq3i0
- 反応で分かる。
やはり、ショボンは知っていた。僕が殺人を犯した事を。
(;^ω^)「ショボン、ツンを殺したのは僕じゃないお。銀行マンもだお。
偶然が重なりに重なり合って、検事が僕を犯人に仕立て上げたんだお!」
『そんな事は分かってるさ』
(;^ω^)「お?」
『君は人を殺せるような度胸が無いからね。例え、酒に酔っ払っていてもだ』
( ω )「ショボン……」
涙が、出そうになった。
『しかし何故君は外にいるんだ?
既に君が脱獄したというニュースは出回っているぞ』
爆発的に、心臓が飛び跳ねたのを感じた。
もう脱獄を発見されたなんて、早すぎる。
(;^ω^)「僕は今VIP市内にいるお。ショボン、匿って欲しいんだお」
『ただし、事情は聞かせてもらうからね。
ラウンジまで来てくれ。僕の店で君を匿おう』
___
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:47:28.70 ID:t1CgTq3i0
- ※
ハイウェイを高速で移動する一台の覆面パトカーに、屈強な男2人が乗車していた。
パトランプが不快な音を発しながら回転し、周囲にこう呼びかけている。
「道を開けろ、邪魔だ」と。
パトカーが次々に車を追い抜いてゆく。
優に100kmを超える速度でパトカーが向う先は――、
ガー『脱獄犯内藤ホライゾンをガガ―z_VIP市駅前のカメラが捕らえた。
至急VIP市に向え。至急VIP市に向え』ピーガガー
ブーンこと内藤ホライゾンのホームタウン、VIP市だ。
音割れの激しい無線連絡を聞き、乗車する2人の警察官が顔を顰める。
運転席に座る口が尖った男、クックルが先に口を開いた。
( ゚∋゚)「牢屋には何ら脱獄の痕跡が残っていなかった……。
内藤ホライゾンの経歴を調べてみたが、彼はプログラマーであり手品師ではない。
つい先日までは前科も無い善良的な一般市民だった」
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:50:10.74 ID:t1CgTq3i0
- クックルの言葉を受け、助手席のギョロ目男、ロマネスクが答える。
( ФωФ)「そんな男が、どうやってあの強固な牢獄を抜け出したというのだ?
仮に牢を抜け出したとしても、刑務所周囲には常に看守が見回っている。
収容された囚人が刑務所から離れる事など、不可能なのだが」
(;゚∋゚)「しかし、彼は遠く離れたVIP市内の監視カメラで発見された……」
(;ФωФ)「ああ。しかも当直だった看守達に問い詰めれば、
彼等の中に脱獄の手引きをした者はいなかった。
つまり内藤単独による脱獄だったとしか考えられない」
(;゚∋゚)「……不気味な奴だな」
(;ФωФ)「ああ……我々の予想を超える何かがありそうだ。
通常、脱獄だなんて有り得ない事なんだ……」
(;゚∋゚)「内藤なんて囚人が本当にいたのかどうか……」
(;ФωФ)「バカな事を言うな。君も見ただろうクックル?
彼は確かに刑務所内のカメラにも映っていた。
昨晩の何時かは知らんが、彼と話したという囚人もいるんだ」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:53:25.82 ID:t1CgTq3i0
(;ФωФ)「とにかく! 内藤を捕まえさえすれば全てが分かる!」
ロマネスクが豪語すると、車内はしんと静まった。
クックルは片手でハンドルを捌き、空いた手で懐から煙草を取り出し、
それをロマネスクに火を点けさせた。
(;゚∋゚)「捕まえられれば、の話だけどな」
車内に、白煙が充満する。
濃厚な白煙が、不可解な脱獄事件で悩ます重い頭を、更に気だるくする。
ロマネスクの顔に刻まれた皺が、一層深く溝を作った。
パトカーが、ハイウェイを下りてゆく――――……
___
- 98 名前:猿め!! 投稿日:2009/06/08(月) 00:05:23.74 ID:c2WnDlhy0
- ※
AM「5:30」、贖罪メーター「69:00」。
クックルとロマネスクがVIP市内に到着したのと同刻。
__
| |_
(;^ω^)(心なしか、パトカーがよく通る気がするお。
コンビニで帽子を買っておいて正解だったお)
10分も経たないうちに、パトカーを2台見かけた。
幸い、そのパトカーは自分とだいぶ離れていた所を走っていたが、
仮に増援でもされてしまえば発見されるのは時間の問題だろう。
現在AM5時30分。
祝日の、AM5時30分だ。
……木は森に隠せと言うが、まさにその通りだと僕は学んだ。
人通りが少ないこの時間帯では、警察から見て人の見分けがされやすいように思えるのだ。
一刻も早く、ショボンのバーボンハウスに向わなければ。
問題なのは、彼の店がVIP市ではなくラウンジ市にあるという事。
駅といった公共施設は、警察にマークされている可能性がある。
そこを、突破できるかどうか。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:09:12.27 ID:c2WnDlhy0
- …………ファンファンファンファン…………
不意に、不快な警報音が僕の耳に入った。
反射的に体をビクつかせ、無意識に僕は足を止めた。
耳を欹てて音源を探ると、どうやらそう遠く無い場所を走っているようだ。
幸いにも、その車は僕から遠ざかっているように聞こえ――
――ファンファンファンファン。
別の方角から警報音が聞こえてきた。
今度のは、駅の方に向っているような気がする。
__
| |_
(;^ω^) (そんな……早すぎるお!)
嫌な予感が的中してしまった……増援のようだ。
どうする、どうする、どうする!?
パトカー数台に追われれば、瞬く間に捕まる気がしてならない。
凶悪なドーベルマンが僕を襲ってくるなんて事も、あるかも。
……かといって、不思議な力をこれ以上使うわけにはいかない。
壁をすり抜ける力……。
これで何とか、この状況をどうにか乗り切らねば。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:11:03.73 ID:c2WnDlhy0
- ※
( ФωФ)「さて、どうするクックル」
( ゚∋゚)「俺達は駅の近くで張ってみるか」
(;ФωФ)「しかし、一夜で刑務所からVIP市に移動するような奴だぞ?
電車を利用するとは考え難いんだが」
(;゚∋゚)「……すると、瞬間移動的な事が出来ると?」
(;ФωФ)「そうとしか考えられん」
(;゚∋゚)「ぬう……じゃあ既にVIP市外へ逃げてるという事も……」
(;ФωФ)「十分考えられ……お、おい! クックル!」
(;ФωФ)6m「……あれ、内藤じゃないか!?」
ロマネスクがフロントガラス越しに指で差し示す人影
帽子を被っているが、特徴的に横幅のある体型だ。
2人は内藤と断定し、背後から近づけるように車を回り込ませる。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:13:04.11 ID:c2WnDlhy0
(;゚∋゚)「間違いない。あのメタボリックボディ、内藤だ」
悟られぬように、距離を保って接近する覆面パトカー。
内藤とは車4台分はある。
(;ФωФ)「ああ、発見した。072番通りだ。
至急応援に来てくれ」
(;ФωФ)「クックル、どうする?」
ロマネスクは無線を切り、運転席のクックルに尋ねる。
( ゚∋゚)「……銃突きつけて捕まえちまうか」
(;ФωФ)「しゅ、瞬間移動するかもしれないぞ?」
(;゚∋゚)「なぁに……じきに応援も来る。
瞬間移動的な動きでも見せようもんなら、そん時は足にでも弾丸をぶち込めばいい」
強気に言い放ち、クックルはアクセルを踏み込む。
地を這うような排気音と共に、覆面のパトカーは内藤へ接近した。
- 112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:15:04.93 ID:c2WnDlhy0
- 覆面パトカーは、内藤の真横に並ぶと同時に停止。
直後に左右のドアが勢い良く開かれ、中から強面の警官が現れ。
気づいた内藤は、不自然なほどに身を強張らせた。
その様子を見たクックルは、ニヤリと口の端を上げ、
( ゚∋゚)「警察だ! 両手を頭に乗せて伏せろ!」
__
| |_
(; ω ) 「っ!!」
(;゚∋゚)(身体をビクつかせた! 間違いない、星だ)
すぐさま、銃を突きつける。
そして腰にぶら下げた錠を取り、じゃらじゃらと音を鳴らして、
地面に伏せる内藤に近づく。
( ゚∋゚)「どうやって脱獄したのか分からんが、これで終いだn」
いざ手錠を掛けようとした時だった。
内藤の姿が突然その場から消えたのは。
(;゚∋゚)「き、消え……」
(;ФωФ)「い、今……」
(;ФωФ)「今、あ、あっあいつ! じ、地面の中に消えていった!」
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:16:52.40 ID:c2WnDlhy0
- ― VIP市 下水道 ―
__
| |_
(;^ω^) 「はぁはぁ、危なかったお!」
手錠を掛けられる寸前、壁をすり抜ける力を使った。
どの程度、壁をすり抜けられるのか分からなかったから、イチかバチかだった。
実際、この力は凄いもんだった。
コンクリの表面をすっと抜け、僕は土の中を悠々と歩いて下水道を探り当てたのだ。
この力は中々万能かもしれない。
もっとも、早い内にどこまで出来るのか、検証すべきだったが。
ともあれ、一先ず難から逃れられた。
急いでVIP市を離れないと。
……酷い臭いだが、このまま下水道を通っていく事にしよう。
駅までの方角は大体覚えている。
分からなくなれば、顔を地面から出して確認すればいい。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:18:21.12 ID:c2WnDlhy0
- しかし、脱獄犯というのは大変なものだ。
こうして追われてみると、映画や小説の主人公の気持ちが良く分かる。
同時に、何故こんな目に遭わなければならないのか。
再び憤りを感じるのだ。
僕は無実、濡れ衣であるというのに。
そもそも、殺されたツンと銀行マンに責任がある。
聞けば死体は全裸だったそうじゃないか。
君達、戸締りもせず性行為に励んでいたんだろう?
クソ、君達が殺されてなければ、僕はこんな目に――!
「贖罪メーターが5下がりマシタ。ざまあwwwwwwwwwww」
__
| |_
(;^ω^) 「な……なんでだおおおお!? 下がるなんて聞いてないお!?」
- 117 名前:すみません ミスです 投稿日:2009/06/08(月) 00:20:22.46 ID:c2WnDlhy0
- しかし、脱獄犯というのは大変なものだ。
こうして追われてみると、映画や小説の主人公の気持ちが良く分かる。
同時に、何故こんな目に遭わなければならないのか。
再び憤りを感じるのだ。
僕は無実、濡れ衣であるというのに。
そもそも、殺されたツンと銀行マンに責任がある。
クソ、君達が殺されてなければ、僕はこんな目に――!
「贖罪メーターが5下がりマシタ。ざまあwwwwwwwwwww」
__
| |_
(;^ω^) 「な……なんでだおおおお!? 下がるなんて聞いてないお!?」
- 121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:22:23.54 ID:c2WnDlhy0
- __
| |_
(;^ω^)「おい、何で下がるんだお!
増えないといけないのに、ふざけんなお!!」
手首に巻かれた贖罪メーターに、尋ねた。
傍から見られれば頭がイカれていると思われるだろうが――こうして
話しかけている僕も自分がおかしいと思う――実際こいつは音声を発する。
しかし、贖罪メーターはうんともすんとも言わず。
盤面の液晶数字を0:00に向けてカウントし続けるだけである。
__
| |_
(;^ω^)「クソ、さっさと“良い事”しろって事なのかお!?
夜まで待ってろお! 一気にMAXにしてお前なんかとオサラバしてやるお!」
从*゚∀从「ぬ、ぬるぽ!!」
( ^ω^)「がっ!!」
(^ω^;)「え??」
声に反応して振り向くが、そこには誰もいなかった。
(;^ω^)「神様め! ぬるぽしたかっただけかお!!」
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:24:04.73 ID:c2WnDlhy0
― VIP駅 ―
__
| |_
( ^ω^) ヌッ
~~ ~~
(^ω^ 三 ^ω^) キョロキョロ
~~ ~~
( ^ω^) 「よし、警官はいないお」
~~ ~~
駅の真下に辿り着き、コンクリの中をモグラのように移動して地表へ。
僕を張っている警官の姿は見えないので、そのまま体を地中から出した。
正確に言えば、出た場所は地下鉄。
ラウンジへ向う下り方面のホームだ。
しかし、万全を期す為に僕は地面の中へ再び潜り込んだ。
私服警官が張っている可能性もあるのだから、安易に姿を見せない方が良い。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:25:46.60 ID:c2WnDlhy0
『まもなく、2番線に電車が参ります。
黄色い線の内側に下がって、お待ちください」
アナウンスが流れると同時、線路を鳴らす音が地面を震わし始めた。
電車の停車音を確認した後、急いで地面から這い上がる。
降りる人を懸念しての行為だったが、杞憂に終わった。
そういえば、今日は祝日で、今は午前6時だった。
クリスマスイブに地方都市のVIPに降りる人なんて、いないらしい。
電車に乗り込み、一番端の席に座る。
周囲の人間に殺人犯内藤である事を悟られぬよう、キャップを深く被り直す。
電車が動き始めた。
__
| |_
( ^ω^) 「ふう……」
ここまで来れば安泰だろう。
ラウンジまで10分少々の時を過ごすだけだ。
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:29:11.49 ID:c2WnDlhy0
- 不意に、ポケットの中にある携帯が震えだした。
急いで取り出し、ディスプレイを確認する。
ショボンからのメールだ。
内容は、ブーン大丈夫か?という一文だけ。
短いメールだが僕を勇気付けてくれるには十分だった。
( ^ω^)(大丈夫だお。もうすぐラウンジに到着するお……)
打ち込み、メールを送り返そうとしたが、圏外になってしまった。
急に、酷く心細くなってきた。
無性に、誰かと会話がしたい気分だ。
ラウンジに行かずとも、壁の中に隠れていれば見つかる心配は無い。
しかし、夜までの長い時間を冷たい壁の中にいるのは、今の僕には耐えられそうにない。
ましてや、親しいショボンと会えるとなれば、会わずにはいられないのだ。
それに、腹も減った。
睡眠も取りたいと思うようになった……メーターをMAXにする作戦はあるんだ。
ともかく、バーボンハウスに行けば、一時の安息にありつけるだろう。
___
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:32:18.94 ID:c2WnDlhy0
- ― ラウンジ ―
無事、ラウンジに到着。
唯一難があったとすれば、電車の揺れが眠気を誘うくらいだった。
( ^ω^)(ラウンジに着いたお。今からそっちに向うお)
ホームは携帯の電波状況が良好なので、すかさずメールを打った。
送信してから30秒ほどで、メールが返る。
「今、駅の前に車を停めてある。来れる?」
( ^ω^)(把握したお。すぐに行くお)
素早く指先を動かしてメールを打って、送信。
僕は人目を確認してから、コンクリに沈んでいった。
かんかんと踏み鳴らされる階段の下、腕を掻いて冷たいコンクリの中を泳いでゆく――。
しばらく泳いだ後、顔をぬっと地面から出してショボンの車を探す……あった!
いつものように、彼の赤い車がロータリーに停まっている。
車の停めてある方向を見覚え、車の方へ泳いで行った。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:34:41.86 ID:c2WnDlhy0
- ――ちょうど今、車の真下にいるあたりか。
普通に登場するのもつまらないだろうと思って、悪戯を思いつく。
(´・ω・`)「ブーン大丈夫かな……」
( ^ω^)「大丈夫だお!」
(´・ω・`)「そうかそうか。ならいいんd」
(;´゚ω゚`)「ぶっフぉお――ッ! い、いつの間に車の中に!?」
コンクリを、そして車もすり抜け、僕は後部座席に現れた。
それまで誰もいなかった座席から、突然声を掛けられたショボン。
口に含んだコーラをフロントガラスにぶちまけるくらい、驚いてくれた。
悪戯目的も勿論あるが、本当の狙いは摩訶不思議な現象の数々を信じてもらう為にある。
( ^ω^)「ドアを開けて入ったんじゃなくて、車の下からすり抜けて入ってきたんだお」
(;´・ω・`)「い、いつから手品師になったんだい?」
( ^ω^)「手品なんかじゃないお。これは神様から貰った不思議な力だお……
と言ってもすぐに信じてもらえないだろうし、後で詳しく話すお」
(´・ω・`)「……何やら訳の分からない状況に陥ってるみたいだね。
とにかくバーボンハウスに行こう」
___
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:38:22.10 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「なるほど……君はツンを脅そうとしたが、殺そうとは思ってなかったんだな」
( ^ω^)「そうだお。思えば、銃で脅す事自体、愚かな行為だったお」
(´・ω・`)「どうしてそんな事をやろうと?」
( ^ω^)「脅して、ストレス発散したかっただけなのかも。
不倫相手と縁を切らせても、ツンとやり直せるはず無いお」
(´・ω・`)「……しかし君は脅さず、銃を川に捨て、その日は満喫に泊ったと。
そして恐らくその後、真犯人が君の家に上がりこみ、ツンと銀行マンを銃殺した」
( ^ω^)「しかも、偶然にも僕が捨てた銃と弾丸と、丸っきり同じ物で。
僕が銃に込めた弾丸の数は3発。ツンと銀行マン合わせ、
彼等の遺体から見つかった弾丸は3発」
(´・ω・`)「偶然とはいえ酷すぎるというか……。
君が捨てた銃は、見つからなかったのか?」
( ^ω^)「そうだお。見つかったのは犯人が使用した銃だけ。
しかし妙な事に、その銃の購買記録は僕だったんだお」
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:40:26.06 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「それ、真犯人が偶然、君の銃を拾って使用したんじゃないかい?」
(;^ω^)「まさか……」
(´・ω・`)「その可能性も十分に考えられる。大体、君は銃を何処に捨てたのか覚えているのか?
そして検事が言うには、銃に残っていた弾丸の数はゼロ、おまけに君の指紋まで。
しかし、君は撃たずに捨てたと言っている」
(´・ω・`)「発見された銃が君の物という事実は揺るがないだろう。
購買記録という証拠があるんだ。
……でも、そうだとしても、犯人は何故ツン達を殺したんだ?」
( ^ω^)「そこが不明なんだお……別に金品を盗られたんじゃないだお。
ただの殺人鬼としか想像できないお……」
(;´・ω・`)「逆に君には、十分ツンと銀行マンを殺害する動機があった、ってわけか……」
( ^ω^)「……ショボン。真相がどうであれ、僕は刑を免れる術を得たんだお」
(´・ω・`)「……現に収容されたはずの君がここにいるんだし、何があっても驚かないよ。
君が嘘を付くような奴じゃないってのは分かってるし。
で、その術とは一体?」
( ^ω^)「それは、美味しい食事と共に語らせてもらうお」
(;´・ω・`)「ええ……もったいぶるなぁ……」
___
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:42:00.12 ID:c2WnDlhy0
― バーボンハウス ―
( ^ω^)「やっぱりショボンの手料理は美味いお!!」
今日ほど、ショボンという親友を持っていた事を嬉しいと思う日は無い。
バーに朝方から昼間にかけて尋ねる者はおらず。
隠れるのには絶好の場所である。
(´・ω・`)「食べ終わったらちゃんと話してくれよ。
ファンタジーめいている君の話が、気になって気になって」
そう急かされたと同時に、スプーンを置いた。
僕の胃はスカスカで、いくつもの大皿に盛られた料理を平らげるのは容易な事であった。
グラス一杯のオレンジジュースを全て胃に流し込み、一息つく。
( ^ω^)「頭がおかしいと思われるかもしれないけど、僕は刑務所で神様に会ったんだお」
(´・ω・`)「車の中でも言ってたけど、神様って? まぁ、君の事だから本当なんだろうけど」
- 148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:44:45.64 ID:c2WnDlhy0
( ^ω^)「……僕が収容された番、鉄格子の前に羽と輪を持った女の子が立ってたんだお。
コスプレした看守? とも思った瞬間、彼女は鉄格子をすり抜けたんだお。
そして彼女は言ったんだお……ここから出してやるって」
カウンター内のショボンが、僕のグラスにオレンジジュースを注いでくれた。
バタン!
――続きを話そうと口を開いた矢先、背後のドアが豪快な音を立てた。
反射的に椅子から立ち、ドアの方へ振り向くと、そこには、
(;'∀`)「……ブーン! 本当にいやがる! 信じられねーよ!」
見慣れたキモイ顔……ではなく、僕の親友のドクオが立っていた。
彼がショボンから連絡を受けた事は、2人に聞かずともすぐに理解できた。
( ^ω^)「驚かすなおwww ……ラウンジに来るまで大変だったお」
- 150 名前:残り30レスほど・・・ 投稿日:2009/06/08(月) 00:46:50.74 ID:c2WnDlhy0
('A`)「どうやって脱獄したか知らねーが、お前が脱獄したって既にニュースになってるぜ。
摩訶不思議な脱獄事件って、テレビでも新聞でも大盛り上がりだ。
それに、VIP市じゃ大規模な検問が始まってやがった。ここらもすぐおっ始まるぜ」
(´・ω・`)「検問が始まるまでに到着してラッキーだったね」
(;^ω^)「全くだお……ショボンも共犯者になるところだったお」
('A`)「それで……お前はどうやって脱獄したんだ?」
(´・ω・`)「それをさっき話し始めてくれた所だったんだよ!
30秒早く来てろよ……間が悪い奴だなぁ!」
(;'A`)「悪かったなぁ……すまんが最初から話してくれ!」
( ^ω^)「分かったお。僕もドクオに聞いてもらいたいお」
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:49:32.45 ID:c2WnDlhy0
- ※
それから、僕は収容された番から現在までの経緯を、ありのままに話した。
必勝の策であるサンタクロース大作戦の事も。
ショボンもドクオも時折「信じられない!」という顔を浮かべていたが、
話し終えた今、彼等が僕に真偽を確かめるような事は言ってこない。
ドクオは煙草を静かに吸い終えると、
(;'A`)「あ、あと何時間あんだ……?」
と、恐る恐る尋ねた。
( ^ω^)「今7時だから……67時間と30分だお」
(;'A`)「67時間以内にそのメーターの目盛りをフルにしないと……
お前は一生、脱獄犯として生き続け無きゃいけないって事か……」
(´・ω・`)「おいおい、嫌な事言わないでくれ……」
(;'A`)「あ、いや、すまん」
( ^ω^)「いや、いいんだお。自信のある作戦もあるんだお!」
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:51:59.39 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「ブーン。夜まで休んでろよ。
刑務所を抜けてから寝てないんだろ?」
( ^ω^)「そうさせてもらうお……色々あって、ちょっと疲れたお」
('A`)「何かあったら叩き起こすよ。
俺達の交友関係を洗われてる可能性だってある」
(´・ω・`)「いや、それはどうかな……って言うのもなんだが……」
('A`)「まぁ確かになぁ。俺達のサークルは、ツンを含めて4人だけのサークルだったし」
( ^ω^)「だおだお。僕達の仲を知るのは死んでしまったツンだけ。
まさに、不幸中の幸いってやつだお」
(´・ω・`)「…………」('A`)
( ^ω^)「じゃあ、僕は夜まで裏で寝かせてもらうお」
(´・ω・`)「ああ……何かあったら叩き起こすよ」
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:54:17.89 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「ねえ、ドクオ」
('A`)「んー?」
(´・ω・`)「あのメーター……贖罪メーターなんだけど」
('A`)「……お前も同じ事考えてるようだな」
(´・ω・`)「そうみたいだね。確かに、ブーンの言うサンタクロース大作戦は上手く行くだろう。
世界中の人々がきっと幸せな気分になると思う。
ブーンは良い事をしたと断言できるだろう」
('A`)「でも、聞いた話じゃ贖罪メーターって……」
(´・ω・`)「うん。どうも何かあるような気がしてならない」
('A`)「当の本人は気づいてないようだが……教えるべきか?」
从 ゚∀从「教えるな!!」
(´・ω・`)「うん、僕もそう思う」
(´・ω・`)「え?」('A`)
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:56:41.42 ID:c2WnDlhy0
- 从 ゚∀从「教えたらお前等にオナニーメーターを着けるからな!
オナニーするたびにメーターが上昇して、MAXになると金玉が取れるんだぞ!!」
(;´・ω・`)「も、もしかして、貴方は神様!?」('A`;)
从 ゚∀从「よくわかったなぁ! アタシが全知全能の神、ハインリッヒ様だ!!」
(;'A`)「おお、やはり……なんという神々しさ、なんという可愛さ! 一目で分かりました!
ああ神様、何故わたくしめを不細工な顔にしたのです!?
何故イケメンという存在をお造りになられたのですか!?
不公平であると嘆いている人々は大勢いるのですよ!?」
从 ゚∀从「ドクオ、お前は3年後に超絶美人と結婚できるんだが」
('A`)「え、うそ、マジでございますか?」
从 ゚∀从「神様に文句垂れるんなら、運命を捻じ曲げてやる」
('A`)「今日より毎晩、貴方様に2時間の祈祷を捧げる事に致しました」
从 ゚∀从「うむ。今日から2時間、亀頭じゃなくて祈祷を天に捧げろよ」
(;'A`)(やはりこのお方は神様であらせる!
俺が2時間のオナニーをしている事をご存知でらっしゃるなんて!)
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:58:48.40 ID:c2WnDlhy0
(;´・ω・`)「あのー神様。贖罪メーターの事を教えるなとは、どうしてでしょう?」
从 ゚∀从「ああ、そうだったそうだった」
从 ゚∀从「お前等、なかなか優秀な勘を持っているな。
贖罪メーターについてはそう、お前等が想像している通りのシロモノでね」
(;'A`)「や、やっぱり……。
このままじゃブーンはメーターをMAXにする事は出来ないぞ……」
从 ゚∀从「クソ忙しいゴッド職務に追われる中わざわざ伝えに来たのはなぁ、
このクソ不景気の世に元気を与える、その代行をブーンにして欲しいってのと、」
从 ゚∀从6m「贖罪たる何かを知っていただきたいからさ!!」
(;´・ω・`)「そっちには誰もいませんが……誰に言ってるんです?」
从 ゚∀从「そいつはコッチの話もとい天界の話さ!!」
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:01:11.53 ID:c2WnDlhy0
('A`)「すると神様、貴方にブーンを救うつもりは無いのでしょうか?」
从 ゚∀从「あーそうねぇ」
从 ゚∀从「お前等、アイツにちょっと痛い目見て欲しいって思わなかった?」
(´・ω・`)「思いました」
(;'A`)「お、おいおいショボン!」
(´・ω・`)「あれ、ドクオは思わなかったの?
今までのブーンの言い草……死んでしまったツンに対する言葉かよ」
('A`)「……そうだな。ひでえと思った。
確かにブーンはツンを恨んでいるだろうけど、しかし、」
从 ゚∀从「不倫されるアイツもアイツだよなwwwwwwwwwwwwww」
('A`)「仰る通りで」(´・ω・`)
从 ゚∀从「ってことで、あのアホに何か助言するのはナシで!
贖罪メーターをMAXに出来るかどうかは、アイツ次第だ」
そう言い残し、神様は姿を消した。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:03:54.60 ID:c2WnDlhy0
- ※
それから長い時間が経ち。
日は沈み、このジャパンもキリスト生誕の前夜を迎える。
( ^ω^)「おはようお」
('A`)「おはよう。いよいよだな」
(´・ω・`)「頑張ってくれ」
( ^ω^)「おっおっ! 僕は絶対にメーターをMAXにするお。
それで忌々しい刑罰とオサラバしてやるんだお……!」
(;'∀`)(まぁ、確かにブーンが犯人にされちまったのは不運だと思うが)
(;´^ω^`)(14年とは言わないけど、数年の懲役を科されてもいいかもしれん)
( ^ω^)「じゃあ、2人とも見守っててくれお。僕のサンタクロース大作戦を!」
('A`)「……ああ! 行って来い!」
(´・ω・`)「(せめて)最高のクリスマスプレゼントを、世界中に配ってこい!」
( ^ω^)「行ってくるお!!」
――現在の贖罪メーター……「残り55時間、メーター0」。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:06:21.32 ID:c2WnDlhy0
- ブーンは裏口からバーを出、空を見上げた。
――綺麗な夜空だ。
星すらもくっきり見えるほど、澄んだ空である。
しかし、この夜空は今にも僕の手によって、より美しくなるのだ。
自信に満ち溢れた表情を浮かべながら、ブーンは顔を下ろし、
そして忌々しくも刑罰を逃れ得る唯一のチャンス、贖罪メーターを眺め、
( ^ω^)「僕にサンタセット一式寄こせお!
サンタの服と空飛ぶトナカイ! 空飛ぶソリ! それから、」
不思議な力を使う事を宣言する。
贖罪メーターは間をおかずに、
「了解です。すると、あのブツですね?」
と、音声を発した。
( ^ω^)「……? 分かってるなら、あの袋を寄こせお!」
「使用期限は2時間とナリますが、よロしいですネ?」
( ^ω^)「2時間ありゃ十分だお。2時間後にはお前ともお別れだおwwww」
「それでは……ハイ!」
- 171 名前:残り20ほど・・・ 投稿日:2009/06/08(月) 01:07:39.72 ID:c2WnDlhy0
- すると贖罪メーターが大きな光と音を放ち、ブーンの居る場を包み込んだ。
その余りの眩さにブーンは目を閉じ、音が鳴り止むのを待った。
やがて音が途切れ、目を開くと、
( ^ω^)「おお! 想像していた通りの格好だお!」
まず目に入ったのは赤い袖。
爪先から胸、肩へと目をやると、当然のように赤が続いていた。
包容感を感じる頭を手で触ると、やはり柔らかな手触りを覚える。
冷たい夜風に乗って鼻を擽るは、野生の臭い。
立派な角を生やしたトナカイが真横に立っているのではないか。
勿論、トナカイにはソリが繋がれている。茶色の、大きな大きなソリだ。
そして、ソリには人2人は入りそうな袋が積まれている。
あの中に、ブーンの思い描くプレゼントが詰まっているのだ。
ブーンはソリに乗り込み、手綱をぎゅっと握り締め、
( ^ω^)「よーし、行くお!」
ピシャリと綱を叩くと、トナカイとソリは大空へと飛び立った――
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:10:11.20 ID:c2WnDlhy0
('A`)「行ったなぁ」
(´・ω・`)「行ったねぇ」
窓から見える夜空に、空を駆けて行くブーンの姿を見た2人は。
しみじみと酒を交わしながら、紙巻の芳醇な煙を味わっている。
('∀`)「なぁ! せっかくなんだから外でバーやるってのはどうよ!?」
(´・ω・`)「おっ、いいねぇ! ブーンのプレゼントを眺めながら一杯か!
きっとお客さんは素敵なクリスマスを過ごせるよ!」
('∀`)「良いアイディアだろ!? 俺も手伝うぜ!」
(´・ω・`)「君、今年のクリスマスも暇なんだね」
('A`)「ハハハハ!! クリスマスは毎年何の予定もねーんだ!
でもよぉ、それも後3年耐えりゃあ俺に超絶美人のワイフが出来るんだぜ」
(´・ω・`)「大学時代、フラレ王だった君に? 信じられないなぁ。
神様の言う事とはいえ、信じがたい運命だ」
('A`)「てんめぇ、ハイン様に失礼な事を言うな! 罰が当るぞ罰が!!」
(´・ω・`)「っと、始まっちゃった! さあ急いで準備しよう!!」
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:12:46.73 ID:c2WnDlhy0
- ― VIP刑務所 ―
(;゚д゚ )「はぁ……」
(;・∀・)「ったく何でクリスマスなのに……」
(;゚∀゚)「あー、やっぱり内藤の脱獄って、俺らの責任になるのかな?」
(;´Д`)「なるからクリスマスだってのに家に帰れねーんだよ!!」
(;゚д゚ )「でも、あんな不可解な脱獄聞いたことも無いぞ。
牢から忽然と囚人が消えるなんて……神業としか……」
(;-∀-)「神業ねぇ……でも俺等がちゃんと見回りしてりゃ、
奴の脱獄は防げたんじゃないかなーと思うんだけど」
(;゚∀゚)「だよなぁ。チェスに現を抜かしてた俺等が悪いんだよなぁ」
(;゚д゚ )「ハァ……クビになるのかn」
ドォン! ドドォン!! ドドドォ――――ン!!!
突然、立て続けに鳴った爆音が、彼等と彼等が取り囲むテーブルを大きく揺らした。
(;・∀・)(;゚д゚ )「て、テロかー!? テポドンなのかー!?」(゚∀゚;)(´Д`;)
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:14:42.52 ID:c2WnDlhy0
(;・∀・)「ついに打ち込んできやがったか!!」
(;゚∀゚)「う、うわあああああ核の炎が世界を包んじまうよおおおおおおお!!」
慌てて窓の方まで駆け寄り、外の様子を窺うと。
彼等は文字通り目を丸くして、驚いたのだった。
( ´Д`)「へ……?」
( ゚д゚ )「は、花火?」
( ゚∀゚)「うおー超きれー!!」
( ・∀・)「なんと季節外れな……って、別に季節外れでもないか。
クリスマスの夜に花火かー。いいねぇ。しかも凄く近くでやってるみたいだなぁ」
( ´∀`)「にしても、この花火屋、打ちや過ぎやないかい?
夜空が完璧に花火で覆われちゃってるよ!」
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:16:19.86 ID:c2WnDlhy0
- ― ラウンジ市内 ―
( ゚∋゚)「……なぁ」
( ФωФ)「ん……」
( ゚∋゚)「……朝方に見たアレ、やっぱ内藤だったんだよな?」
( ФωФ)「内藤だろう。姿を消すなんて非現実的だったが、
返って刑務所での不可解な現象も説明がつく」
( ゚∋゚)「まぁ、誰も信じてくれなかったけどな」
( ФωФ)「皆して頭がイカれてやがるとか言うんだもんな」
( ゚∋゚)「……なぁ」
( ФωФ)「ん……」
( ゚∋゚)「一杯やってこうぜ?」
( ФωФ)「しかし、まだ捜索中だ」
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:17:54.93 ID:c2WnDlhy0
( ゚∋゚)「あんな化物、捕まる訳ねーよ。それよりクリスマスなんだ。
どっかで飲み明かしてキリスト様を祝福しようぜ……」
( ФωФ)「そうだな……どこか良い店知ってるか?」
( ゚∋゚)「バーボンハウスって店が、隠れた名店らしい。
通の間じゃあ飯も酒もラウンジ市で一番うまいと評判だ」
( ФωФ)「隠れた名店ってのがいいなぁ。行ってみy」
ズドドドドドドドドド!!!!
(;゚∋゚)「て、テロかー!? テポドンなのかー!?」(ФωФ;)
(;ФωФ)「って、花火じゃないか! 近くで花火大会があるなんて聞いてないぞ!」
(;゚∋゚)「ビックリしたな……本当にテロ攻撃か何かかと思ったよ」
( ゚∋゚)「いやーしかし、物凄い花火だな。
打ち始めだってのにクライマックスのようなスターマインだ」
- 182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:19:47.72 ID:c2WnDlhy0
- ※
( ^ω^)「上がれ上がれ! どんどん打ち上げるお!!」
ブーンは夜空をトナカイで駆り、ソリの後ろに積んだ大きな布袋から、
今まで誰も見た事が無いような大きな花火を上げているのです。
そう、誰も見た事が無いような、大規模なスターマイン。
火の花は夜空という苗床を僅かな隙間さえも埋め尽くしているのです。
ラウンジ市、VIP市はおろか。
ブーンの花火は、ジャパン全国に上がっているのです。
( ^ω^)「世界中を夜空にしてくれお!!」
「効力は2時間ですが、ヨろしいデスか?」
( ^ω^)「頼むお!!」
更にブーンは、世界中を真っ暗にしたのです。
太陽が燦々と輝く国々の空に、まるで宇宙が落ちてきたかのように黒色で覆われ、
同時に光り輝く花火が何処からとも無く上がり始めました。
ブーンの花火は、世界中に上がりました。
世界中の空で、美しい花火のショーが繰り広げられたのです。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:29:33.89 ID:c2WnDlhy0
( ><)「お父さん! お母さん! 早く早く!」
(;<●><●>) 「はいはい! わかってますよ! 手を引っ張らないでくださいビロード!
母さん! まだ化粧が終わらないんですか!?」
(;*‘ω‘ *) 「お待たせ!! それじゃ行きましょっ!!」
(*><)「わーい! 花火大会なんですー!!」
( <●><●>) 「ハハハ……凄いですね。
こうして空一面に花火が広がってるなんて」
(*‘ω‘ *) 「ちょっと寒いけど、しばらく外で見てましょうよ。
家の中で見るのは勿体無い景色だわ!」
( <●><●>) 「お、外で店が出てますよ! あそこで軽く食事でもしましょうか」
(´・ω・`)「いらっしゃいませ!
お子様にはコチラのノンアルコールのシャンパンをサービス致します!」
世界のどこかの、とある家族の上でも、花火は無限に姿を変えて光を放ち続けました。
――こうしてこうして、
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:32:47.24 ID:c2WnDlhy0
从 ゚∀从「いいねぇ、やってくれんじゃんブーン。
世界中がハッピーに包まれてるぜ!」
天界から下界を眺める神様も認めるほど、世界中が幸せになりました。
毎年クリスマスに寂しい思いをする者も暖かい気持ちとなり、
家族と過ごす者は共に花火の美しさを楽しみ、
恋人達はロマンチックな一時を共有し、
世界中の誰もが、クリスマスを幸せな気分で過ごす事が出来たのです。
もちろん、時間的に朝っぱらから爆発音を出されて頭に来た人もいましたが、
それも花火の美しさには束の間の事でした。
从 ゚∀从「いやー良い! 非常に良い!
幸福のオーラが足元から伝わってくる!!
グッジョブ! グッジョブだよブーン!!」
从 ゚∀从「……さーて、どうすっかなぁ。
まさかこんな素敵な発想してくれるとは思ってなかったなぁ」
___
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:35:00.42 ID:c2WnDlhy0
- ※
― 2時間後 バーボンハウス ―
( ω )「何で、何でだお」
('A`)(やっぱり……)
(´・ω・`)(予想通りの展開になっちゃったか……)
( ω )「何で贖罪メーターがゼロのままなんだお!!」
(#゚ω゚)「ふざけんなお! 皆幸せそうな顔をしてたのに!
皆楽しそうだったじゃないかお! 皆を幸せにしたのは僕だお!」
(#゚ω゚)「何でだお! 何でだお! 神様出て来いお!!」
从 ゚∀从「ったーく、お前は何にも分かっちゃいない」
(#゚ω゚)「神様あああああああ!!」
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:39:07.40 ID:c2WnDlhy0
(#゚ω゚)「僕はアンタに言われた通り“良い事”をした!!
世界中の人々を幸せにした! これ以上良い事があるか!?
なのにメーターはぴくりとも動いていない! ふざけんなお!」
(#゚ω゚)「メーターがぶっ壊れてるのかお!?
一回あの世の電気屋にでも持っていて見てもらえお!!」
从 ^Д从6m「ちゃんと電気屋に見てもらってから渡したしwwwwぷぎゃーwwwwww」
(;'A`)(電気屋あんのかよ……)(´・ω・`;)
从 ゚∀从「ま、落ち着け。んで2人をよく見ろ」
神様は指をパチンと鳴らすと、
(#゚ω゚)「これが落ち着いていられ……え?」
(;'A`)「え、これは!?」(´・ω・`;)
(;゚ω゚)「しょ、贖罪メーター! どうしてドクオとショボンに!?」
ドクオとショボンの手首に、忌まわしき贖罪メーターが巻かれているのだった。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:41:30.21 ID:c2WnDlhy0
从 ゚∀从「ドクオとショボンだけじゃない。外を見てみろ」
3人は神様に促され、窓から顔を出した。
外には、ブーンの花火大会を見終わって帰路を行く人々が。
(;^ω^)「ど、どういうことだお……!?」
道行く人々全員に、贖罪メーターが装着されていたのだ。
从 ゚∀从「なぁブーン。人ってのは何かしら罪を背負って生きてくもんだと、思わないか?」
(;^ω^)「え?」
从 ゚∀从「詐欺、窃盗、殺人とか、そういうのもモチロン罪として含まるが、
とにかく誰かしら一度は、自分にとって無視できないような悪事をしたと認識してるんだ」
从 ゚∀从「罪メーターが溜まってるやつだっているだろ?
そういうやつは、本当に後悔しながら生きているやつ。
罪メーターがお前みたいに全然溜まってないやつは、本当にダメなやつ」
从 ゚∀从「何度やっても懲りないバカヤロウ。
そういうメーター0〜20のやつはね、地獄にいくのがあの世の相場でね」
- 206 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:44:21.53 ID:c2WnDlhy0
(;^ω^)「で、でも神様! 僕が一体何をしたと言うのですか!?」
(#'A`)「バカヤロウ! ツンを死なせたのはお前の所為でもあるじゃねえか!!」
(;^ω^)「え……」
(´・ω・`)「おい」
(;'A`)「あ、つ、つい……」
从 ゚∀从「あーもういいんだ。もう隠さんでいい。
お前等ちょっと、このアホなお友達に教えてやりなさい」
(´・ω・`)「……ブーン。ドクオの言った通りだと思う。
ツンが死んでしまったのは、君に責任がある」
(;^ω^)「な、なんでだお……あれは不運だったとしか……」
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:47:20.43 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「君が本当にツンを愛していたら、目の前で浮気されていようが
家に入って銀行マンを殴り飛ばしたんじゃないかなぁ」
(;^ω^)「そんな無茶な……」
(´・ω・`)「まぁ、あくまで例えさ。でも仮にそうだったとしたら、
君は持っていた銃で殺人鬼を撃退できたかもしれない」
(;^ω^)「!!」
('A`)「知ってるか? 事件当日、お前ん家は戸締りがされてなかったらしい。
ここの所、家に帰らないお前を良しと思い、ツンはそのまま銀行マンと
寝ちまった……のかも。浮ついた心で鍵を掛け忘れたのは確かだな。
お前がいたら、そんな事にゃならなかったのかもしれねえ」
从 ゚∀从「ちなみにゴッドアイで見た現場、ドクオの言う通りの展開が起こってたぜ!」
(;'A`)「本当ですかぁ? 当てずっぽうで言ったんですけどね」
(;^ω^)「…………」
(´・ω・`)「まぁともかく、ブーン」
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:49:00.59 ID:c2WnDlhy0
(´・ω・`)「不倫されたのは君がツンを大切にしていなかったらだ。
仕事に追われていたのは大変だったろう、それは分かる」
('A`)「だが、それを理由にツンを蔑ろにした。
妻とのやり取りなんて無い方がお前にとってラクだったか?」
(;^ω^)「それは……」
(;'A`)「……どうしたんだよ! お前、あんなにツンのことが好きだったじゃないか!」
(; ω )「……」
(; ω )「君達の言う通りだお」
(; ω )「僕は仕事に追われ、疲れ果てていたお。
いつしか大好きだったツンという存在は、食事と洗濯をしてくれるくらいの
存在と思うようになったお……」
('A`)「今、ツンの事をどう思ってる?」
( ω )「………………愛しているお」
- 211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:52:28.74 ID:c2WnDlhy0
( ω )「僕はツンとやり直したかったお。
でも、僕は毎晩のように酒に酔うだけ酔って……。
挙句、銃を持っても、銀行マンとツンを懲らしめたりする度胸すら無かったお」
从 ゚∀从「銃突きつけたら犯罪だろwwwってか、それやったらツンも呆れるわwwwwww」
(;´・ω・`)(神様、茶化してはなりませぬ。
それに、そういう事ではないと思いますよ)ボソボソ
( ω )「僕はバカだったお。あんなに愛していたのに、何で大切にしなかったんだお。
僕のせいでツンが死んだも同然だお……」
( ω )「僕はそれを無実の罪だと思い込んで、科された刑を消すことばっかり考えてたお」
( ω )「僕は、無罪なんかじゃなかったんだお……」
(´・ω・`)「そう……だと、思う。
君はツンが死んだというのに、贖罪メーターの事しか考えていなかった」
( ω )「……あの、神様!」
从 ゚∀从「あ?」
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:55:47.66 ID:c2WnDlhy0
(;^ω^)「僕に贖罪メーターの事を教えたのは、何故ですか?」
从 ゚∀从「天界にいるツンの頼みだ」
(;^ω^)「ツンの!?」('A`;)(´・ω・`;)
从 ゚∀从「おめーが懲役で刑務所にぶち込まれたって教えてやったらな、
“こんな事になったのはアタシのせい。
神様、ブーンをどうか助けてあげてください”って泣き止まなくてな」
( ;ω;)「ツン……」
( ;ω;)「あの、でも神様、贖罪メーターがMAXになっても、
僕の罪と刑罰は無くならなかったんじゃ?」
从 ゚∀从「おーよく分かったな。その通り。さっきもチラッと言ったんだけど、
これね、死んだ時に天国行きか地獄行きか決める道具なんだよね」
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 01:58:52.01 ID:c2WnDlhy0
从 ゚∀从「ともかく、まぁ」
从 ゚∀从「お前の罪と罰は綺麗サッパリ消しておいてやるよ。
こんなの滅多にしないんだが特別にな……ツンに感謝しろ!!」
从 ゚∀从「んじゃな! せいぜい頑張って生きてくれ。
お前は一生、ツンを大切にしなかった事を後悔して生きなきゃならねえんだ」
从 ゚∀从「自殺なんかすんなよ。そん時は問答無用でスーパー地獄行きだ!!」
(;'A`)(スーパー……地獄?)(´・ω・`;)
( ;ω;)「神様! ありがとうございましたお!!」
从 ゚∀从「いいってことよ! あ、それからツンは天国いk――」
神様は言い掛けて消え去り。
直後、ショボンとドクオが糸を切られた人形のように、バタリと倒れた。
___
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 02:00:58.34 ID:c2WnDlhy0
- ※
翌日、ツンを殺害した真犯人が見つかったと、報道された。
真犯人といっても、僕が審議にかけられた事は完全に改竄されているので、
つまり最初の犯人候補が発見されたと言うべきか。
それを確認すると同時、贖罪メーターが見えなくなっているのに気づいた。
ショボンとドクオは。
贖罪メーターはおろか神様に関する全ての記憶を失い、
僕が一度刑務所に収容されていた事も忘れていたのだ。
という事が分かったのも、ツンが殺されたというニュースを見て、
僕に電話をくれたからなのである。
- 223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 02:03:15.49 ID:c2WnDlhy0
( ^ω^)(贖罪メーターなんて、見えなくなったけど……)
――無実の罪で捕らわれ、冷たい牢獄の中で数十年を過ごす事は無くなった。
しかし、贖罪メーターが見えなくなろうとも、僕は罪を購いながら生きなければならない。
ツンを死なせたのは、僕に責任があるから。
そして。
天国にいるというツンに会う為にも。
僕は一生涯掛けて、贖罪メーターをMAXにしなければならない。
彼女を死なせてしまった、その罪を購う。
それが、僕のこれからの人生だ。
- 225 名前: ◆jVEgVW6U6s 投稿日:2009/06/08(月) 02:06:47.05 ID:c2WnDlhy0
从 ゚∀从「いやー思うんだよね!
皆が皆、こうやって後悔しながら生きていけば!
ちったぁ良い世の中になってくんじゃねぇのかなぁ〜って」
从 ゚∀从「例えばさぁ、犯してしまったことに対する「償い」というものは本当にあるのか、ってことですね
実際、殺人犯が懲役を全うしても、犯罪者としての素質的な物が変わるかどうか疑わしいしー」
从 ゚∀从「もっと分かりやすく言うと、宿題を忘れた。だから掃除をやらされた。
掃除で済むならまた宿題やんなくてもいいや!
というダメダメなスパイラルの連続みたいな?」
从 ゚∀从「犯してしまった事を、代わりの何かで片付けるんじゃ、
人間的に成長するのは難しいかもしれねーよな」
从 ゚∀从「皆にも一つ二つはあるだろ? 誰にも話せないような、悪事、罪。
自分にとって無視できないような罪があると思う」
从 ゚∀从9m「……君の贖罪メーターはどのくらい増えたかな?
果たして、MAXに出来るかな?」
从 ゚∀从9m「フフフフ! ピクリともメーターが動かない奴は
問答無用でスーパー地獄行きだぜ! じゃあな!!」
( ^ω^)贖罪メーターのようです おしまい
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