- 143 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:25:26 ID:gOxW1Y16
- 巻頭歌
胎児よ
胎児よ
何故躍る
母親の心がわかって
おそろしいのか
("ドグラ・マグラ/夢野久作"より引用)
- 144 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:28:15 ID:gOxW1Y16
- 「なんだい、そりゃあ」
彼は僕に声を掛けてきた。
彼が今読み終えたそれの感想だろう――僕の書いた小説。
「駄目だ、駄目。今時、ナイフで殺人なんて、そりゃあ、どうだか。
それに、死後もリアリティがないし、何より成功の場面がチープだ。
人気が欲しいんだろ? じゃあ、カストリでもなんでも、面白くなくとも、注目を浴びるような文を書け」
彼は怒る時、口元が緩む。そのサインは、なかなかに怒っている時のものであり、しかし僕は恐怖を感じない。
僕は自分の運命を理解していた。どうせ――
僕はおかしくなんかない。
「書き直してこいよ、生きぞこない」
僕は可笑しくなんかない。
その夜、僕は包丁で編
――べつに正常のようですごく異常な( ^^ω) 閉幕
- 146 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:31:12 ID:gOxW1Y16
- ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン」
ツンは僕の幼馴染で、小、中、高と同じ学校に通っている。
八重歯がチャームポイントだと、自称している。
汚い色恋沙汰が絶えないと噂されている、所謂ヤリマン。
何かと僕に話し掛けてくる。
( ^ω^)「どうたんだお」
こうやって返事をしてやるとつけあがって、まるで自分が持て囃されているかの如く振る舞う。
僕はお前に何の感情も抱いていないというのに、しかしツンは嬉しそうに頬を緩める。
そうやって幾人もの男とセックスをしてきた。
証拠? ならば、今、ここで、僕と、セックスするか? 遊びじゃない? しかし今お前はフリーなんだろ? 別れる程度の彼氏からの愛情だったというわけだ。
一人に抱かれるのも十人に抱かれるのも、処女膜は一枚だろう。
もし一度目に愛があったとしても、それ以降はお前は糞以下の肉便器なんだ。
ξ゚听)ξ「今日もお弁当作ってきたんだ」
触れるな雌 豚。
( ^ω^)「おっ、おっ。ありがとうだお」
うふふ、と言い、僕の手を握ってくるツン。
汚らわしい。
今日になってようやく箍が外れたか。
どうした、もうキープ君はいなくなったのか。
触るな。
- 147 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:32:13 ID:gOxW1Y16
- ツンは毎日弁当を作ってくる。
僕は毎日食堂でこの弁当を食べている。
と、ツンはそう信じている。
しかし、僕は毎日便所に流している。
幾人の男のペニスを握った汚らわしい手で創作されたものなど見たくもない。
美味しかったお、と伝えると、心底嬉しそうな顔をする。
そうやって僕とセックスする算段を整えているのだろう。
ああ、汚らわしい。
( ^ω^)「毎日ありがとうだお」
頼んでもいないのに、態々、ご苦労様。
顔を赤らめる所作は本物でも、いつかはそれが偽りとなる日が来る。
僕はとうに体験していた。
――裏切り。
この世は不条理だ。
この世 は理不尽だ。
この世は矛盾だらけだ。
僕は真実を吐かない人間だ。
だからその儚さを知っている。
誰がこの混沌とした世界で本音を言う。
――僕? やってないお。
- 148 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:33:43 ID:gOxW1Y16
- ('A`)「うす、フーン」
( ^ω^)「おはようだお、ドクオ」
こいつの名は蕺憶恵(どくだみ・おくえ)。男だ。綺麗な名前のくせに性格は悪く、友達もいない、勉強も運動も駄目な、救いのない奴だ。
毒のような男、だからドクオという字(あざな)が付けられた。
('A`)「一回忌か」
溜息とともにドクオの口からその言葉が出る。
( ^ω^)「早いお」
一回忌。
彼と彼女の一回忌。
僕は適当に返事をする。
('A`)「墓参り、お前も行くよな」
( ^ω^)「行くお」
当たり前だ。
僕が行かずに誰が行く。
僕は関わってしまったから。もう、無視はできない。
- 149 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:36:00 ID:gOxW1Y16
- ('A`)「可笑しいよな、知り合いが死ぬだなんて」
( ^ω^)「慣れって怖いお。すっかりこんな話も、雑談に昇華できるようになったお」
僕はおかしくなんかない。
僕は可笑しくなんかない。
('A`)「ちょっと前まで一緒に馬鹿やってたと思ったらさ、死んじゃうなんて」
( ^ω^)「確率、だお。事故で死ぬか、病気で死ぬか、寿命で死ぬか。そんなもんだお」
人の死なんて所詮、仮初。
('A`)「クーさん、フーンの彼女だったのにな」
( ^ω^)「うん……そうだったお」
彼女。
だった。
('A`)「すまんな、こんな辛気臭い話。放課後まで忘れていようぜ」
でも僕は、一時たりとも彼と彼女を忘れたことはなかった。
転機を与えた彼らは、僕に取り憑いた害悪を消させた。
クーとの出会いは一年程前に遡る。
- 150 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:37:35 ID:gOxW1Y16
- 告白したのは、今から一年三カ月程前だった。
人間の
害悪を、
最悪を、
凶悪を、
劣悪を、
知らなかったあの日々。
僕は学校で虐められていた。
しかしそれは無視できるレベルの可愛いものだった。
ただ僕が、家に帰って自傷行為を済ませば気分が晴れる程度のことだった。
――しかし。
クーと付き合い始めてから、全て
が狂っ
た。
今考えても、あいつは死ぬべきだった。
僕は思った。ああ、なんてクーは可愛いんだ。
それが間違いだと、気 付かずに。
僕はクーと毎日登校した。
僕はクーと毎日下校した。
僕はクーと毎日お弁当を交換した。
僕はクーと毎日喋った。
僕はクーと 毎日
- 152 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:41:46 ID:gOxW1Y16
- 川 ゚ -゚)「ホラちゃんの弁当はいつも美味しいな」
( ^ω^)「ホラ……?」
僕の本名は内藤ホライゾンという。
天と地の境界という意味で名付けられたらしい。
学校では、フーンと呼ばれている。
誰が呼んだか、不運のフーン。
僕も内心、上手く掛けたな、と思う。
どうせ僕に安息の地はないんだから。僕は全てに牙を向かれるんだ。
川 ゚ -゚)「ホライゾンだからホラちゃんだ。嫌か? なら、那須やさとやすというのはどうだろう?」
(;^ω^)「それは違うお」
僕たちがこうも惚気ていて、誰のお咎めがあるだろうか。
_
( ゚∀゚)「おうおう、お熱いねェ、お二人さん」
東方乗輔(ひがしかた・のりすけ)――ジョルジュと呼ばれている。
僕はこいつと取り巻きに虐められている。
――しかし。
( ^ω^)「クーには手を出さないでくれお」
_
( ゚∀゚)「分かってる、分かって……るっ!」
と。
不意にジョルジュの右腕によって繰り出されたアッパーが僕の顎を直撃する。
- 153 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:43:54 ID:gOxW1Y16
- 川 ゚ -゚)「内藤っ……!」
ああ、クーが僕を心配してくれてるお。
でも僕は反撃しない。
何故なら反撃したらもっと殴られるから。
今は大丈夫、クーがいるから、大丈夫。
_
( ゚∀゚)「あー、クッソ。お前なんか殴っても面白くねぇわ」
帰んぞ、と取り巻きに指示し、ここを立ち去るジョルジュ。
僕の元に駆け寄ってくる影は、果たしてクーのものだった。
そして僕は安堵する。ふう、と溜息を吐いた。
川 ゚ -゚)「大丈夫だったか?」
( ^ω^)「大丈夫だお」
大丈夫。
二、三本線を入れれば。
そう答えたものの。
――しかし。
その日、僕はリストカットすることができなかった。
- 154 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:45:36 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「ドクオ。人って脆いお」
僕は彼女の墓の前で呟いた。
('A`)「ああ、脆いな。一瞬前までそこにいた奴が突然死んじまうんだからな」
ドクオは彼女の墓の前で呟いた。
ドクオは懐から煙草を取り出し、ふと吸い始めた。
('A`)「悪ぃ。お前、煙草駄目なんだっけ」
( ^ω^)「いや、今は大丈夫だお」
今は。
そう言って、僕は最低の転機を 思い出していた。
あれがなかったら――あれがなかったら僕は、一体どうなっていたのだろう。
- 155 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:47:36 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「勉強教えてくれおー」
僕とクーは家が隣同士ということもあり、昔から仲がよかった。
小さい頃は一緒に遊んだ。
川 ゚ -゚)「ああ、構わないぞ」
クーの家に行く。
僕はクーに貰ったチョコのことを考えた――あれは義理だと分かっている。
でも僕は、この淡い期待を隠せずにいた。
誕生日に貰ったプレゼント――社交辞令だと分かっている。
でも僕は、この溢れる思いを止められなかった。
( ^ω^)「ええと、はうあーゆう……あいぷれえさっかー……」カリカリ
川 ゚ -゚)「ああ、そこの過去ナントカは分詞のウンタラ……だから受動スンタラをうりゃー……」カリカリ
作者には学がなかった。
――気がつくと、外は暗くなっていた。
ふと、僕はあることを思い出す。
( ^ω^)「そうだ。クー、親御さんはいないのかお?」
川 ゚ -゚)「ん、言ってなかったか? 昨日から二泊三日で旅行に行ってるんだ」
なんと。
僕は自分の心臓の鼓動がはやくなっている事実に気づいた。
ああ……僕はクーに惚れているんだ。
僕は恥ずかしくなった。
僕がここまで動揺するなんて、いつ以来だろう。
- 156 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:49:42 ID:gOxW1Y16
- 川 ゚ -゚)「何ならどうだ、泊っていくか?」
この時点で気付いていかなければならなかった。
( ^ω^)「う……うん。泊まってくお」
何を期待していたのか。
僕は本当に愚かだと思う。
川 ゚ -゚)「じゃ、飯でも食うか」
( ^ω^)「ご飯、かお?」
川 ゚ -゚)「ああ。手作りだ……と言っても、朝の残りなんだがな」
( ^ω^)「大丈夫だお。クーの手料理なら何でも嬉しいお」
川 ゚ -゚)「そう言ってもらえると、有難いな」
こうやって、今までのような平凡な日々が続くのだと思っていた。
夕食を終えた後、僕の頭の中から煩悩はすっかり消え失せていた。
期待なんてしていなかった。
しかしそれは甘かった。
僕はまだ女というものを全く分かっていなかった。
川 ゚ -゚)「おう、風呂出たぞ」
( ^ω^)「え……?」
クーは衝撃的事実を、いとも簡単に吐き出した。
果たして僕は、風呂上がりのクーに、何を思い描いたんだろう。
- 157 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:50:57 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「あ、じゃあ……入る、お?」
川 ゚ -゚)「うん。ゆっくり浸かっていいぞ」
この時僕は、なんと警戒心の薄い女なんだろう、と思った。
しかし、 それこそが策略だった。
川 ゚ -゚)「んー。どうだった?」
( ^ω^)「いい湯だったお」
川 ゚ -゚)「そっか。じゃあ、勉強に戻るか。テストも近いしな」
( ^ω^)「分かったお」
がち、と音がする。
ドアノブが下がり、クーの部屋に足を踏み入れる。
クーの部屋は簡素であり、しかし女性的な可愛さも兼ね備えた、僕には少々刺激が強いそれだった。
風呂上りのクーは、とても魅力的に見えた。
心なしか、この部屋もいい匂いがした。
( ^ω^)(昼間も同じ部屋にいたっていうのに……)
僕はとうとうおかしくなった のだろうか。
かりかり、かりかりと、ルーズリーフにシャープペンシルを走らせる。
僕たちは終始無言だった。
- 158 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:53:01 ID:gOxW1Y16
- 僕は虐められていた。
DV、家庭内暴力。
兼ねてから学校で行われていたそれとは違う、酷いものだった。
物心が付く前に父は死に、僕は高校に上がるまで母子家庭で育った。
(#;;´ω`)「もうやめてほしいお……」
母親――そんな呼称すら吐き気を催すが、他に何と呼べばいいか分からないないため、便宜上そう記さねばならないそれは、僕がいくら乞おうがそれをやめなかった。
僕が学校での虐めに耐えられたのは、家のほうがよっぽど地獄だからだ。
こうして僕は、リストカットが趣味とすらなっていった。
しか し奴
がい
( ^ω^)「クー。クーて、彼氏とかいるのかお?」
- 159 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:54:18 ID:gOxW1Y16
- 何の気なしに、
ごく自然に、
不意に、訊いてみた。
今思うと、僕は風呂に入って安心していたようだ。
ガードが緩くなっていた。
川 ゚ -゚)「ああ、いるぞ」
僕は別段ショックを受けなかった。
( ;ω;)「そうなのかお……」
しかし何故か、自然と涙が出ていた。
だって男の子だもん。
川 ゚ -゚)「…………」
そんな様子を見て、不意にクーがこちらに歩み寄る。
気付いた。
ああ、僕はクーのことが好きなんだ。
と。
Σ( ^ω^)「!」
- 160 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:55:23 ID:gOxW1Y16
- 急にクーが抱きついてきた。
川 ゚ -゚)「お前だ」
( ;ω;)「え……?」
川 ゚ -゚)「い、嫌だったか? 迷惑だったか?」
( ^ω^)「え、あの……ぼ、僕でいいのかお?」
川 ゚ -゚)「だ、だからその……こ、く……は」
クーが俯いた。
川*゚ -゚)「したんじゃないかぁ……」
今にも消えていきそうな声で、クーが呟く。
(*^ω^)「くっ……クー!」
僕は勇気を振り絞って、気持ちを言葉にした。
(*^ω^)「僕は駄目な人間だお。なんにも取り柄がない。でも、クー。
クーを幸せにすることは……それだけは、『駄目な奴』じゃなくて、
絶対に、君を大切にしてみせじゅ……!」
息を切らしながら、それでも必死に、僕はクーに告白した。
すると、突然クーが笑いだした。
川 ゚ ー゚)「何だそれ。普通噛むか、そこで? ふふっ」
- 161 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:56:57 ID:gOxW1Y16
- でも、とクーが言葉を紡ぐ。
川 ゚ ー゚)「この恋が実って、本当に嬉しいぞ」
――ああ。
――何でここで気付かなかったんだ。
僕はこの晩、クーとセックスした。
別にどうってことない、ただのスポーツのような、馬鹿みたいな感じ。
愛を確認しあうとかじゃなくて、何だか、空しかった。
僕はとうとう、気違いになったんじゃないかと思うほど、つまらない行為。
それでもクーは可愛くて。
それでも僕は嬉しくて。
僕はクーに惚れていた。
クーは僕に惚れていた。
しかし、僕は間違っていた。
クーは僕が好きじゃない―― が好きだったんだ。
クーは誰かに愛し 欲しかったんだ。
僕は愛を感じた。
そしてきっと、彼女は何も感じなかったのだろう。
僕は女性を侮っていた。
- 162 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 15:59:05 ID:gOxW1Y16
- まさか、三ヶ月の間で、こうも変貌を遂げるとは、僕は思いもしなかった。
( ^ω^)「クー。そいつ、誰だお」
何故訊く、内藤ホライゾン。
答えは出ているだろう。
(´・ω・`)「やあ。久しぶりだね」
眉知書梵(まゆうち・しょぼん)。
僕は彼を知っていた。
――友達だった。
川 ゚ -゚)「……? 彼氏、だが?」
クーは呆気なく答えた。
何かの公式でも暗唱するかのように。
まるでそれが正しいかのように。
実に自然な所作で発言した。
川 ゚ -゚)っと(´・ω・`)
ねえ、クー。
君は何が嬉しいんだ?
恋が実った。
その恋は何だったんだろう。
口実。
疑惑。
逃避。
僕は今、凄く を したい。
- 163 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:00:20 ID:gOxW1Y16
- ――なにしちゃってんの?
僕は
彼女と
彼を
殺したかった。
――なにかんがえちゃってんの?
( ^ω^)
クソッ、にやにや笑いやがって。
吐き溜めの糞どもが。
のうのうと生きればいい。
ああ、ああ、さぞかし楽しい人生ですこと。
( ^ω^)「でもさあ」
そんなの。
( ^ω^)「僕が許すわけないじゃん」
- 164 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:03:58 ID:gOxW1Y16
- あの日、母に脚を刺された。
どこへ行ってたんだ? 内藤ホライゾン。何でてめえに言わなきゃなんねえんだ。
親に向かって何だ、その口の利き方は。知らねえよ、親のつもりか。
許さないぞ。知ったこっちゃねえ。
ずぶり。
肉に刃物が刺さっていく。
ずぶずぶ、ずぶずぶと深く刺さる。
驚くほどの血が出た。
しかし、痛みはなかった。
ずぶり。
気付いたら、僕はその包丁を奪い取り、母親を刺していた。
J( 'ー`)し「…………」
喋らないあいつは鬱陶しくなかった。
( ^ω^)「チッ……」
僕は気掛かりだった。
奴が今際の際に発したその言葉が。
J( 'ー`)し「あんたと私はな、家族なんだ」
僕はその後、絆を――家族との繋がりを実感した。
- 165 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:04:48 ID:gOxW1Y16
- J( 'ー`)し「内藤ホライゾン。お前、こんなに遅くまで、何処をほっつき歩いてやがった」
次の日、玄関では、奴が僕を出迎えていた。
その日から――クーと付き合い始めるようになってから、奴からの虐待に拍車がかかった。
僕はあいつを殺 たのに、 故、虐待 れる?
クーの呪いだ。
- 166 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:06:15 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「墓といえば……ジョルジュ。ジョルジュはどうしてるんだお?」
僕は煙草の煙が平気になった。
('A`)「土方やってるとか、違うとか。ま、あいつが碌な仕事に就けるわけないわな」
ああ、と腕を組みながら、ドクオは続ける。
('A`)「そういえば、ショボンってどうなったんだ?
転校したとか聞いたんだが……フーンって、確か、幼馴染とかじゃなかったっけ?」
( ^ω^)「家が近かっただけだお。一緒になったのは高校に入ってから」
('A`)「ふうん……」
風が沁みた。
僕の心の傷がいえることはもうない。
ストッパーはみんな死んだ。
フェミニスト。
僕は箍が外れた。
しかし、そんな僕を、神は見捨てなかった。
( ^ω^)「ショボンは……知らないお」
だって、真実を語るわけにはいかない。
('A`)「そっか」
ドクオは俯きながら、声を返した。
- 167 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:07:11 ID:gOxW1Y16
- 僕は辺りを見回した。
墓。
そこは安息の地であり、遺族に感傷をもたらす。
そして逆に、部外者には牙を見せる。
不思議な土地だ。
僕が生まれ育ち、そして死ぬであろうこの地は、僕に を向いていた。
牙
僕は不思議と寂しくはなかった。
親は死んだ。
友も死んだ。
全員、死んだ。
- 169 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:09:18 ID:gOxW1Y16
- (´・ω・`)「ねえ、ブーン」
彼は僕の字(あざな)に濁点を付けて呼んだ。
(´・ω・`)「クーね、子供がいたんだって」
セックス狂いの豚め。僕からクーを盗って尚、貶し続ける気か。
(´・ω・`)「君の子だったんだって」
冷や汗が出た。
( ^ω^)「……お」
手汗が酷い。
(´・ω・`) 「堕ろしたよ」
唾を飲む。
( ^ω^)「――――」
絶句。
- 170 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:10:00 ID:gOxW1Y16
- 僕は何も言えなかった。
悔しかった。
何が? 僕にも分らない。
ただ、ショボンが憎かった。
そして、
クーが憎かった。
僕は憎悪で動いた。
殺意が芽 生えた。
この日、僕は生まれ変わった。
――否、この瞬間、初めて「生まれた」のだ。
僕が死のうがどうなろうが、知ったこっちゃない。
ただ、この二人を殺すことができれば。
それに、恐れることはない、内藤ホライゾン。
僕は親殺しを被った。
寧ろ――畏れろ。己を祝福せよ。
この奇跡に立ち向かう己が奮起に感動せよ。
( ^ω^)「……腹減ったお」
僕は料理ができなかった。
だから、母親を食った。
その血 肉は、なかなかに美味しかった。
そして覚悟を決めた。
( ^ω^)「今日、ショボンを殺すお」
僕はそう呟き、部屋に置いてあったナイフを懐へ入れ、家 出た。
- 171 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:12:07 ID:gOxW1Y16
- ショボンの家は知っていた。
奴は家庭の事情で、一人暮らしをしているらしい。
もしか僕と似た境遇かもしれないが、しかし僕は笑った。
何故かって?
だって、君、今日死ねるんだよ?
アパートがそこにあった。
道中田圃にいた得体の知れない物体のことを思い出し、くふふ、と笑った。
きっと異形の事物すら、僕を祝福しているのだ。
クーの家は、僕の家の隣だ。
だからいつでも殺せる。
まずはショボンを殺さなき ゃ。
犬小屋から鳥が二十九羽飛び出してきた。
車道で小汚い浮浪者が踊っている。
草むらでは、金魚たちがラテンのリズムを刻んでいた。
空でメフィスト・フェレスが高らかな笑い声をあげている。
僕の右手に イフが。
( ^ω^)「久しぶりだお、ショボン」
彼は寝ていた。
彼女は寝ていた。
- 172 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:13:19 ID:gOxW1Y16
- 予想が当たった。
やはりクーはショボンの家にいた。
栗の花の香りが漂っている。塵箱(ごみばこ)にティッシュとコンドームが捨てられていた。
部屋は小奇麗に片付いていた。
僕はベッドを蹴った。
(´・ω・`)「うわぁっ!」
川 ゚ -゚)「っ!」
転げ落ちる二人は、酷く滑稽だった。
クーが来てから全てが変わった。
僕の人生は変わった。
死にたかった。
死ななかった。
死ねなかった。
死にたくなかった。
だから
殺そう。
理由はできた。
浮気をしたから僕は殺す。
覚悟を決め、僕は母親を殺した。
不思議と、呆気なく殺すことができた。
不思議と、死が露見することはなかった。
僕は っていた。
- 173 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:14:56 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「ドクオ。人は死ねないんだお」
('A`)「ん。哲学か?」
( ^ω^)「でもね、ドクオ。死なないんではないんだお」
('A`)「…………」
( ^ω^)「だから僕は人を殺すことはできる」
('A`)「……フーン」
( ^ω^)「被った罪を浄化する聖水はないんだお。
だから僕は、死んでやるお」
('A`)「フーン……!」
ドクオが叫んだ。
僕はそのまま家に帰った。
僕とドクオの間には、確固たる溝ができていた。
深い深い、決して埋まることのない。
そんなことより。
僕は最大の禁忌を犯していた。
だから僕には罰を。
決して桜桃忌には為り得ない。
その夜、僕は意志で子
――べつに正常のようですごく異常な( ^ω^) 開幕
- 174 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:15:36 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「今から僕は君たちを殺す。
叫んでも構わない。どうにもならないから」
僕には自信があった――何をされても、この二人を殺すことができるという。
だから僕は、あいつを殺した時と同じよう、ナイフ一本でここへ向かった。
(´・ω・`)「……内藤」
先に口を開いたのは、果たしてショボンだった。
( ^ω^)「僕も鬼じゃないお。遺言くらい、聞いてやるお」
(´・ω・`)「僕は殺されてもいいから、だから――」
ショボンの声に被せるよう、雌豚の罵声が、部屋に響いた。
川 ゚ -゚)「勿論、私は殺さないよな!?
セックスしてやるぞ、生でだ!
元鞘に戻ってもいい!
命だけは助けてくれ。何でもするから……」
僕はその声で、やはりにやりと笑った。
( ^ω^)「何でも、かお」
川 ゚ -゚)「っ! 何でもだ! だから助けてくれ!」
これだ から。
- 175 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:16:22 ID:gOxW1Y16
- ( ^ω^)「じゃあ、死ね」
僕は言った。
カタルシスが体内を駆け巡った。
僕は言った。
ルサンチマンが体外へ消え去った。
(´・ω・`)「命乞いに思われるかも知れないから、多くは語らない。
僕は碌な人生を送ってこなかった。だから思い残すことはない」
一息。
(´・ω・`)「だけど、その雌豚が死ぬのだけは見たくない。
出来るならば、先に僕を殺してくれ」
僕はその指示に従い、ショボンを殺した。
川 ゚ -゚)「ね、ねえ……殺人って、犯罪なんだよ? 一人くらいなら死刑にならないんだって。
あ、はは……。私、女だしさ。普通、喧嘩とかでも、女って殴らないじゃん。
今ならまだ戻れるよ。
夢? ねえ、夢なの? 早く醒めてよ。ふふっ」
星が輝いていた。
月の上には天使が三人踊り狂っていた。
ざあざあと、窓が揺れる。
がたがたと、木々が擦れる。
- 176 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:17:49 ID:gOxW1Y16
- ふと、箪笥を見た。
すると、その裏側から覗いていた目玉と視線が交差してしまい、微笑んでしまった。
ベッドの上には無数の耳朶があった。
全てが僕を応援していた。
羊の脳味噌が僕を食べた。
だから僕は泳いだ。
ふと、箪笥を見た。
髪の長い女性が出てきた。
ベッドの上では釈迦が微笑んでいた。
僕はナイフを持ち直した。
( ^ω^)「残念その一、僕は既に殺人を犯している。
残念その二、クーは何でもすると言った。
覚悟なんて決めなくてもいい。決まる前に、楽になる」
母を
ショボンを
殺した時の感触が蘇る。
肉片の気持ち。
――クー。
僕は君を愛していたよ――
( ^ω^)「ばいばい」
ぐち ゃ、と音。
ひ、 と悲鳴。
くす、と声 。
- 177 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:18:26 ID:gOxW1Y16
- ドクオと墓参りに行く前日――ツンに手を握られた日。
丁度ショボンとクーを殺してから一年が過ぎたあの日。
僕は限界を迎えた。もう、無理だ。仮面を外そう。
( ^ω^)「今日は家、誰もいないお。来るかお?」
するとツンは、
ξ*゚听)ξ「うん、行くわ」
嬉しそうに答えた。
僕は確信があった。
誰でも殺せると。
このナイフで。
だからツンを呼んだ。
ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン? それ、何?」
( ^ω^)「見て分からないかお? ナイフだお」
ξ゚听)ξ「何する気? ご飯なら食べたわよ?」
こ
( ^ω^)「ろすに、決まってんじゃん」
- 178 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:19:36 ID:gOxW1Y16
- 何度体験 しても、気持ちいい。
特別、女性を殺すのは楽しい。
クーを殺した時、勃起した。そのまま屍姦した。
性的興 奮を覚えた。
そして何より格別なのは、遺体を食べる時だ。
僕は神になった。
ツンは空手をやっていた。
少しは手ごたえがあったが、しかし、難なく せた。
僕は勃起した。そのまま、ツンを裸にした。
( ^ω^)「チッ……」
案の定、緩かった。
糞のような人間だ。
結局僕の欲望を一切叶えることができなかった。
僕はそれを食べることもせず、ただ、そこに放置しておいた。
( ^ω^)「お……?」
家に帰り、違和感があった。
違う、ツンの遺体ではない。
何か――
と。
( ^ω^)「――っ!」
- 179 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:20:17 ID:gOxW1Y16
- 僕は分かっ た。
母の言葉を思い出した。
ショボンの言葉を思い出した。
僕とクーの間には、子供がいた。
家族の縁は、太く、そして長いのだ。
こ の感触は。
僕は太宰のように自殺が出来ない運命だった。
人生という自殺すら、業火の如く生温い。
僕は誰かに殺されるべきだった。
僕は誰でも殺せる。
じゃあ。
僕が、クーが、ショボンが、誰もが殺した赤ん坊。
殺した赤子に殺されるというのも、それは、小説より奇だ。
苦しくなんてなく、
嬉しかった。
僕でも死ぬこ
――べつに正常のようですごく異常な( ^ω^) 閉幕
――べつに正常のようですごく異常な( ^^ω) 開幕
- 182 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:21:31 ID:gOxW1Y16
- ( ^^ω)「なんだい、そりゃあ」
彼こと、は服部哲は僕に声を掛けてきた。
彼が今読み終えたそれの感想だろう。
僕の家に上がりこんで来、挙句、彼は原稿を手に取った。
そこには「戸喰=面惑」と、タイトルが記されていた。
僕こと、現野从士冬の、新作だ。
( ^^ω)「駄目だ、駄目。今時ナイフで殺人なんて、そりゃあ、どうだか」
僕の小説は、どこか、いけないらしい。
「戸喰=面惑」は、主人公・内藤稔が、ヒロイン・零堂通雲を殺すという、歪んだラヴ・ストーリーが主題だ。しかし、砂音空流との過去へ対する、主人公の意志が蛇足だったのだろうか。
彼は怒る時、口元が緩む。そのサインは、結構怒っている時のものであり、しかし僕は恐怖を感じない。
僕は 。
僕はおかしくなんかない。
( ^^ω)「書き直してこいよ、生きぞこない」
僕は可笑しくなんかない。
おかしいの はき みじゃないのか?
その夜、僕は包丁で編集者に刺された。
彼はストレスが溜まっていたのだろう。きっと、医者に行けば、それなりの名前が貰える程に。
そして僕は、殺さ
- 183 名前: ◆2rPWxrbSIg 投稿日:2009/06/06(土) 16:22:06 ID:gOxW1Y16
- 暗闇の中、光が一筋。
泳ぐよう、そこへ行った。
すると、ぱあっと、辺りが明るくなった。
一人、誰かが私を見ている。
私はそこに掛っている絵画を眺めた。レミーの「晩鐘」だ。
そして、分かった。
今、私の前で涙を流しているのは、私の母親だろう。
私は死んだ。
死んだのなら、少しばかり、夢を見てもいいじゃないか。
果たして死者は夢を見ることが出来るのか。
そして夢の中で、親を殺してもいいじゃないか。
「おっおっ。ハッピィバースディ・トゥ・ユゥだお」
「早いもので、もう、五歳か」
「デレねえ、デレねえ、お父さんもね、お母さんもね、みんな大好きだよ」
――Do killed baby dream of foolish seep? "is" TRUE END.
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