- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:36:59.11 ID:S1PkosTt0
- 【図書館】
資料の為に保存された古新聞紙を、僕は目を皿のようにして眺め、とある記事を探していた。
古参の新聞紙たちは一様に黄ばみ、それらは僕に火星の地表を連想させた。
……不況、内戦、自殺、殺人。
火星の地表は、ネガティブなニュースで占められていた。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:40:26.42 ID:S1PkosTt0
- 一時間ほど経って、僕はやっと目的の記事を見つけ出した。
それは十年程前に、この町に隣接する町で起きた猟奇殺人についての記事だ。
なにぶん、インターネットが余り普及していない時代。
その方法以外に情報収集の術が無かったのである。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:42:06.12 ID:S1PkosTt0
食い入るようにその記事を読む。
飼い猫肉切り包丁二十三箇所切断血溜り
狂気怨恨肋骨失踪臓器住宅町濃硫酸
精神鑑定風呂場ポリ袋バラバラ肉塊遺棄
判決無期懲役逃亡廃墟書置き
その言葉遣いはまるで三流ゴシップ雑誌だ。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:44:24.55 ID:S1PkosTt0
- 簡単に事件の概要を説明する。
十年程前、隣町で猟奇殺人事件が起きた。
犯人は事件発生の翌日に逮捕。
その後、彼に無期懲役の判決が下された。
それから護送中に警官の虚を突き脱走。
そして何故か彼は僕たちの町にある廃墟に逃げ込んだらしく、逃亡から数日後、死体で発見される。
死因は自殺で、謎の書置きを残していたらしい。
こんな事件だ。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:47:34.20 ID:S1PkosTt0
- ちなみに廃墟は、町外れに存在する森の最深部に立っている。
洋風な造りで、三階立てだ。
事件発生後からは厳重に施錠されている。
犯人は何を思ってそこに逃亡したのか、さっぱり分からなかった。
聞くところによると、犯人が遺体で発見された後、オカルト的好奇心に駆られた人々がそこに押し寄せたらしい。
が、その事件がすっかり風化した今、廃墟に行くものはおろか、その存在すらほぼ忘れ去られていた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:50:18.32 ID:S1PkosTt0
- (´・ω・`) 「見つけたかい」
突如、背後から僕に話しかける者が居た。
彼の名前はショボン。幼馴染だ。
僕は彼のことを”モグラ”と呼んでいた。
その理由は、異常に日光を嫌っていたこと。
それに、モグラに似た、触り心地のよさそうな坊主頭の持ち主だったことだ。
(モグラと呼ばれて彼は何故か満足げだった)
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:54:03.95 ID:S1PkosTt0
- ...
モグラについて語る。
あだ名のくだりでも分かるように、彼は変人だった、かなりの。
特に、オカルト分野に関しての興味は尋常ではなかった。
そしてことあるごとに僕は、トンネル、墓地、それらに類するオカルトスポットに、時に強制的に連れて行かれるのだ。
もちろん夜間に。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:55:33.89 ID:S1PkosTt0
- ……そう。奇人であるモグラは、ふとした拍子に知ったその曰く付きの廃墟に興味を抱いたのだ。
そして彼はそこを探検することを提案。
僕は少し恐いと思ったものの、好奇心が勝りそれを承諾した。
僕たちは最高のコンビだと自負していた。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/06(土) 23:58:18.72 ID:S1PkosTt0
- ...
僕が渡した新聞を、彼は食い入るように読む。
そして、何かを確信したかのように、僕にこう言い放った。
(´・ω・`) 「三階にある寝室で発見……か」
そう独り言をつぶやいた後、
(´・ω・`) 「予定通り、計画は実行だ」
(´・ω・`) 「じゃあ一週間後。例の場所に集合ね、モララー」
と、僕に言い放った。
僕は小さく息を吐いて、うなずいた。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:00:55.27 ID:94xwpsZq0
- 【自宅前】
それから一週間が経過した。約束の日だ。
放課後、手短に夕食をとり、運動に適した服に着替えた。
親には、友達の家に勉強に行く、と言っておいた。
基本的に彼らは放任主義であるため、一切の問題はなかった。
懐中電灯、蚊取り線香、護身用スパナ、カロリーメイト。
それらをお気に入りのリュックに詰めて、僕は森へと向かった。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:06:31.57 ID:94xwpsZq0
- 僕は歩きながら、犯人が残したという書置きについて考えていた。
死の淵に際し、犯人が伝えたかったこととは何か。
しかし、なんだか気分が悪くなってきたのでその思考を打ち切り、歩みを急いだ。
道すがらに逢った野良犬は、僕を知ってるかのように吠えた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:09:06.29 ID:94xwpsZq0
- 【廃墟前】
月明かりと懐中電灯を頼りに、ようやく廃墟の前にたどり着いた。
モグラは既にそこに到着していて、僕を見つけ、手を振りながら僕を歓迎した。
やや息を上がっている僕を見て、彼は少しの休憩を提案した。
もちろん、その提案に承諾した。
月は、まるで空に開いた穴のようだった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:12:23.01 ID:94xwpsZq0
- ( ・∀・) 「なあ、僕たちは今までいろんな所に行ったよな」
手ごろな石に腰掛けながら、僕は彼にこう切り出した。
( ・∀・) 「墓地、神社、トンネル、工事現場……」
( ・∀・) 「だけど、不法侵入は初めてだな」
(´・ω・`) 「わくわくするだろ」
モグラは、坊主頭をなでながら言った。もちろんさ、と僕は胸を張って答えた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:16:24.88 ID:94xwpsZq0
- ( ・∀・) 「捕まったら、二人ともきっと銃殺刑だな」
(´・ω・`) 「それか、一生囚人だな」
(´・ω・`) 「モグラの町に連れて行かれて、死ぬまで穴掘りの真似事さ」
( ・∀・) 「君はその町から来たのかい」
(´・ω・`) 「脱走してきたのさ」
と、彼は飄々とうそぶいた。
そして僕たちはどちらとも無く笑いあった。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:19:53.73 ID:94xwpsZq0
- ...
廃墟のドアには頑強な鍵が設置されている。おまけに鎖で補強されている。
正攻法では攻略不可能かに思えた。
しかし、時間の経過によって木製の廃墟はもろくなり、腐りかけてさえいる場所もあった。
そしてその損傷が最も激しいところには、屈めば子ども一人が通れそうな穴が開いていた。
モグラを先導に、僕たちは廃墟への侵入を試みた。
彼は器用に手足を曲げ、穴を潜っていった。そう、あの動物のように。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:23:01.23 ID:94xwpsZq0
- 【廃墟】
……廃墟の中は、とてもではないが人間が住める環境ではなかった。
調度品は朽ち果てて地面に散乱し、埃は絨毯のように床に積もっていた。
やたらとかび臭く、隅には得体の知れないキノコが群生していた。
そうした障害も厭わず、僕たちはただひたすらに探索を続けた。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:28:22.90 ID:94xwpsZq0
- ……一時間程の探索の甲斐なく、猟奇事件に関する物は、全く発見することができなかった。
当然だ。書き込みなど、とうに回収されているに決まっている。
しかし、僕たちは何も見つからなかったことにあまり落胆しなかった。
僕たちはそのことよりも、不法侵入していることに満足感を覚えていたのだ。
正直、猟奇事件などどうでも良くなっていたのだ。
僕らはリビングにあったソファーに腰掛けて、時間を忘れてあれこれ話し合った。
好きな音楽、好きなUFO、好きな古代人、そういう類の話を。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:32:03.82 ID:94xwpsZq0
- (´・ω・`) 「なあ、おなか空かないか?」
( ・∀・) 「いや、僕はカロリーメイト食べたから」
( ・∀・) 「……もしかして何も持ってきてないのか」
(´・ω・`) 「君が用意してくれると思って」
( ・∀・) 「芋でも食ってろ、馬鹿」
僕はため息を吐いた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:37:02.98 ID:94xwpsZq0
- ,,,
天井の隙間から差し込む日光で、僕は目覚めた。
どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
モグラはというと、まるで運動会の後の子どものように、ぐっすりと寝入っていた。
僕は再び、ため息を吐いた。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:38:30.65 ID:94xwpsZq0
- それからモグラを叩き起こし、手荷物を回収してから、僕たちはのそのそと廃墟から脱出した。
二人の着衣は驚くほど薄汚れていたが、それをなぜか誇らしく思った。
太陽の光は今、焦げるほど僕らを照らしていた。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:42:22.57 ID:94xwpsZq0
- 【廃墟前】
( ・∀・) 「楽しかったね」
(´・ω・`) 「全くさ、また遊びに行こう」
( ・∀・) 「もちろんさ」
そう言い合いながら僕たちは共に帰途に着いた。
明日は月曜日で、それを考えると少し憂鬱になったがそれでも気分は上々だった。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:45:11.18 ID:94xwpsZq0
- 道すがら、喉が渇いたので当たり付き自販機でコーラを買うことにした。
すると見事当たりを引き、ワンコインでコーラ二本をゲットした。
(´・ω・`) 「やっぱり俺たちはついてやがる」
( ・∀・) 「恐いものなんて、ないね」
(´・ω・`) 「俺たちは、二人で一人だ」
( ・∀・) 「複数形は、いらないぜ」
そして勝利の美酒を楽しんだ。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:48:52.22 ID:94xwpsZq0
- 【学校】
……どこから露見したのか。
僕らが廃墟に行っていたことが、あろうことか学校にばれていた。
僕たちはこっぴどく怒られて、罰として学校周辺のドブ掃除を命じられた。
気分は下の下だ。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:52:14.33 ID:94xwpsZq0
- ( ・∀・) 「やれやれ、これも穴掘りみたいなものだな」
(´・ω・`) 「どこでばれたのか不思議でならない」
そうぼやきあいながら、堆積した泥をスコップで一生懸命にさらい上げた。
ご丁寧にも、体育科の教師の監視付きである。
(,,゚Д゚)
ゴゴゴゴゴ
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:55:56.30 ID:94xwpsZq0
- (´・ω・`) 「まるで俺たち、囚人だな」
( ・∀・) 「なに、銃殺刑よりましさ」
無駄口を叩く二人を見て、教師の眼光は増す。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 00:58:11.41 ID:94xwpsZq0
- 「なあ、ここから脱走しないか」
「無理だって、見ろよあの顔。 今まで何人か殺してるんじゃないか?」
「……恐いもの、やっぱりあったな」
「まったくだ」
それからどちらともなく、僕らは顔を見合わせて笑った。
- 44 名前:end 投稿日:2009/06/07(日) 01:00:10.80 ID:94xwpsZq0
僕たちは、モグラの町の囚人みたいだ。
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