( ^ω^)どこへもいけなかったようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:21:08.05 ID:VUwW4qID0





('A`) なあ、ブーン。一緒に行かねえか

( ^ω^) ……





4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:24:00.68 ID:VUwW4qID0


('A`) ここにずっと居たところでさ、ここには何も無いじゃん

( ^ω^) ……ドクオ

('A`) 「こんなこと」になっちゃった今となってはさ、ここに居る意味も無いわけだし

( ^ω^) ドクオ

('A`) だからさ、俺と一緒に行こうぜ? 新しい場所でさ、新しい生き方をm





(  ω ) ド ク オ !





5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:28:32.95 ID:VUwW4qID0


('A`) ……

(  ω ) 気持ちは、うれしいお

('A`) ……じゃあ

(  ω ) でも、

(  ω ) でも、僕は一緒には、行けないお

('A`) ……そうか

(  ω ) お


7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:31:19.05 ID:VUwW4qID0




もう一度だけ、彼は「そうか」と呟いて、その場を去った。


去り際に彼が呟いた、「待ってるから」という言葉が、ブーンの胸には少し痛かった。




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:33:46.05 ID:VUwW4qID0




あれから、どれくらいの時間が過ぎただろう?




     ( ^ω^)どこにもいけなかったようです




未だに、自分はここを動けないままでいる。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:35:29.57 ID:VUwW4qID0


その日は、雨が降っていた。

穴の開いた天井と、崩れたコンクリートの壁。
鉄製の格子戸は、すっかり溶けて、もはやその役目を果たすことはない。

(  ω )

かつては罪人を閉じ込める為の独房だったこの場所。
今はもう、誰も居なくなってしまった、崩壊した刑務所の一角に彼は居る。


13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:38:16.35 ID:VUwW4qID0


雨の降る、壊れた独房の中。
その中でも、なんとか残った天井の、その下にある簡素なベッド。
膝をかかえたブーンは、じっとその場にうずくまっていた。

(  ω ) ……静かだお

耳が拾うのは、しとしとと降り注ぐ雨の音
周囲に、他人の気配は無く、雨以外の物音は一切しない。
それは当然のことだったのだが、それが当然だという事実がまた、ブーンの心を締め付ける。
ここにいることを、決めたのは自分だ。
なのに、なんでこんなに寂しいのだろうか?

『たとえ自分が選んだ道でも、それを後悔せずに歩みきるのは難しい』
そんな当たり前の事実が、今のブーンにはただただ痛かった。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:40:23.22 ID:VUwW4qID0


(  ω )(僕は、なにをしているんだお? なんのために、ここにいるんだお?)

今まで、何度と無く自分に対して問いかけ続けてきた疑問が頭をよぎる。
そして、今まで何度と無く自分に言い聞かせていた答えにぶちあたる。

(  ω )(そうだお、僕は、贖罪のためにここにいるんだお……)

彼は、かつて罪人としてこの刑務所に服役していた。
更生し、罪を償うことを決めてからしばらくして、彼を襲ったのは一つの悲劇。
事故だったのか、それとも事件だったのかさえ分からない。
とにかく、突然の爆発による、刑務所の壊滅。
服役していた罪人の殆んどは爆発と同時に命を失い、生き残った少数の罪人も、自分以外は皆、どこかへ行ってしまった。


18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:44:29.90 ID:VUwW4qID0


(  ω )

しばらく、目を閉じていた。
刑務所が崩壊する前の、なんだかんだで賑やかだった刑務所の風景が目に浮かぶ。

(  ω )(ドクオ、君はいまどうしてるんだお? 元気にしてるのかお?)

ここには居ない親友に、声に出さずに呼びかけてみる。
もちろん、答えは返ってこない。
これも、ここでひとりぼっちになってから、何度と無く繰り返してきたことの一つだ。

(  ω )(僕の罪は、いつになったら償えるんだお? それとも、もう僕は償えたのかお?)

頭の中で続くのは、自問自答の無限地獄。
そして、聞こえるのは雨の音。
ただそれだけ




―――そのはずだった




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:47:49.62 ID:VUwW4qID0




「あんた、バカなんだね」




雨音の中に、透き通るように響く女性の声。

(  ω ) お……?

思わず顔をあげると

ζ( 、 *ζ

溶けた格子戸の向こう、天井の壊れたそこに、女性がひとり立っていた。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:50:51.18 ID:VUwW4qID0


(  ω ) おっおっ どちらさまですかお?

屋根の無いその場所に傘も差さずに立つ女性は、言うまでもなくびしょ濡れになっている。
女性の手にバスケットを見つけて、ブーンはピクニックにでも来た女の子が道に迷ってしまったのだろうと推測した。

ζ( 、 *ζ なんでよ……

(  ω ) お?

ぼそりと呟く女性。
その声は、どこかこちらを責めているようで

ζ( 、 *ζ せっかくの雨じゃない…なのに、なんであんたはそんなところにいるの?

(  ω ) ……

女性の言っている意味が、ブーンにはよく分からなかった。
せっかくの雨?
“そんなところ”というのは、牢屋の中のことか、それとも、屋根の下、ということだろうか?


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:52:46.61 ID:VUwW4qID0


ζ( 、 *ζ まあ、いいわ。聞いて

困惑するブーンを他所に、女性は突然自分の身の上話をし始めた。
つくづく、よく分からない人だ。と、ブーンは思った。
まあ普通の人は、雨の日に傘も差さずにこんなへんぴな所に来たりしないか。

ζ( 、 *ζ この近くの町でね、恋人が働いてるんだ

ζ( 、 *ζ えっとさ、ほらこないだの爆弾テロ? でボロボロになった町の復旧作業。
       あれを手伝ってたの

ζ( ― *ζ 「少しでもいいから、困ってる人たちの役に立ちたい」って言ってさ
       すっげえはりきってたんだ

ζ( ― *ζ でさ、あたしも一応アイツの彼女なわけじゃん、だからね
       ちょっと差し入れでも作ってやろうかな? なんてさ……


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:56:40.50 ID:VUwW4qID0

そういって女性は、両手でびしょ濡れになったバスケットを胸の高さまで持ち上げる。

ζ( ― *ζ じゃーん、つくっちゃいました。あたしの愛情たっぷり
       愛妻サンドイッチ!

ζ( ― *ζ って、妻じゃないか。なんつって、あはは……

(  ω ) ……

この人は何が言いたいんだろうと、ブーンは思った。
でも、それを口には出さない。
わざわざ、崩壊した刑務所跡まで、恋人のノロケ話をしに来る人は居ないだろうし、
それになによりブーンは感じていたのだ。

ζ( ― *ζ でさ、わざわざその町まで行ってさ、作業員の人に聞いて見たわけ
       「あたしのカレシどこですかー?」って

彼女の声に、なんとも表現のしようのない物悲しさが混じっているということを

ζ( ― *ζ そしたらさ、その作業員の人、なんて言ってたと思う?




ζ( ― *ζ 「ああ、その人だったら、ついさっき死にましたよ」だってさ




26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:59:45.34 ID:VUwW4qID0


(  ω )

一瞬、雨の音が遠くなった気がした。

ζ( ― *ζ 道を歩いてるときにね、上から材木が落ちてきてさ、頭打って即死だったって

ζ( ― *ζ ほんとさー、あっけないもんだよね、人間なんて

(  ω ) ……

女性はどこか皮肉っぽい笑みを浮かべて言った。
ブーンは、正直かける言葉が見つからないでいる。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:02:23.77 ID:VbpmoGn00


ζ( ― *ζ でさ、ふつうならここで「誰が材木なんておとしたんだ」とか
       「私も彼の後を追います」的な展開になりそうなとこじゃん?

ζ( ― *ζ でもね、ならなかったんだな、これが

ζ( ― *ζ 彼の死体を見て、私が真っ先に思ったことはね、彼の死への憤りでも、ましてや、不注意で彼を殺した人への怒りでもなくて

「これ」と、彼女は自分の持つバスケットを指差していった。




ζ( ― *ζ 「せっかくサンドイッチ作ったのに、もったいないなあ」だった




(  ω ) ……


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:05:24.09 ID:GdSOlidW0


ζ( ― *ζ 薄情でしょ? あたし。自分でも薄情すぎてさ、笑えてくんのよ、これが

ζ( ― *ζ 「自分のカレシが死んだことよりも、サンドイッチを誰にも食べてもらえないってほうが辛いのかあたしは」ってさ

(  ω )

ζ( ― *ζ ……バカだよね? ほんっとバカ

ζ( ― *ζ でさ、町の人に「食べ物がなくて困ってる人はいないか?」って聞いてみたの

ζ( ― *ζ そしたらどういう因果か、爆撃で壊れた刑務所跡に、まともなものも食べずに住み着いてる変り種がいるって、ある子どもに教えられてね

ζ( ― *ζ で、なんか雨の中ダッシュでここまで来ちゃったわけなんですよ


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:08:23.45 ID:GdSOlidW0


ζ( ― *ζ だから、はい、これあんたにあげる

そういって女性は手に持ったバスケットをブーンに投げつける。
ブーンはそれを受け取ると、一言、尋ねた

(  ω ) 本当に、僕なんかでよかったのかお?

ζ( ― *ζ ……



ζ( ― *ζ 良いわけ、無いじゃない



(  ω ) お……


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:12:52.28 ID:GdSOlidW0


ζ( ― *ζ あたしだってさ、本当はアイツに食べて欲しかったよ、「おいしい」って、笑って欲しかったよ

ζ( ― *ζ でもさ、あいつはもう、死んじゃってるんだよ
       もう、どこにもいないんだよ

ζ( ― *ζ そんなの……もうどうしようもないじゃん

(  ω ) ……ごめん、だお

自分の不謹慎な発言を反省しつつも、しかし、ブーンの頭にはもう一つの疑問が浮かび上がってくる。
去っていく彼女に、ブーンは聞いてみることにした。

(  ω ) そういえば、“せっかくの雨なのに”って、あれどういう意味だったんだお?


34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:16:48.06 ID:GdSOlidW0


ζ( ― *ζ ……

ブーンの言葉に立ち止まる女性、彼女はゆっくりとこちらに振り向くと
一言、ぽつりとつぶやいた。

ζ( ― *ζ あんたってば、本当に

そのとき、ブーンは

ζ(゚―゚*ζ …バカ、なんだね

始めて、女性の目が充血していることに気付いた。

去っていく女性。
彼女の背中が視界から消えて、ようやくブーンは彼女がずっと、泣いていたことに気付いた。

そして、気付いた。彼女が言っていた言葉の意味に。


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:20:42.30 ID:GdSOlidW0


“せっかくの雨”を彼女は進んで浴びていた。それはきっと、雨で涙をごまかす為だ。
逆に言えば、彼女は、自分が泣いているのを隠せるからこそ、彼女はこの雨を“せっかくの”雨と呼んでいたのだろう。

そして、あのときの、彼女の言葉

「あんた、バカなんだね」

まるでこちらを責めるようにつぶやいた、「なんでよ」という言葉

なぜバカだ言われているかといえば、
それはきっと、彼女もやっていた方法で、自分がそれを隠そうとしていなかったからだ。

なぜ、責められたかといえば、ただでさえ、悲しくて泣いている自分が向かった先に、もう一人、なぜだか泣いている人間が居たからだ。

つまり、そう、気付かなかったけれど―――



( ;ω;)



―――始めから、僕も泣いていたんだ。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:25:30.50 ID:GdSOlidW0


( ;ω;) おっおっ 自分の涙にも気付かないなんて、ボケたかお?

照れ隠しの強がりを言って、ブーンは彼女からもらったバスケットを開けると、中にあったサンドイッチに噛り付いた。

( ;ω;) はむっはむっ!!!

サンドイッチは、少し雨にふやけていて、とてもじゃないけれど、おいしいと呼べるものではなかった。




それでも、ブーンは一心不乱に、それに噛り付いていた。




39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:30:34.21 ID:GdSOlidW0


雨は、いつの間にか止んでいて、曇り空の隙間から日光が差し込んでいる。
気が付くと、たくさんあったサンドイッチも、いつの間にか残り一枚になっていた。

( ^ω^) ……

「この一枚を食べたら、どこかへいってみよう」と、そのとき何故かブーンは思った。
久しぶりに、他人に会った影響かもしれないし
自分が泣いていたことに気付いてしまったせいかもしれない
とにかく、そのときブーンはいままでかたくなに離れなかったこの場所を離れたいと思い始めていた。

( ^ω^)パク

ひとくち ひとくち ゆっくりと、ブーンはサンドイッチを食べていく。

やがて最期のひとかけらがその口に収まったとき、
ブーンは勢い良く立ち上がった。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:33:37.96 ID:GdSOlidW0


( ^ω^) さて、行くかお!

ブーンは歩き出した。
行き先は、まだ決まっていない。


あのとき「待ってる」と言ったドクオは、未だに僕を待っていてくれているだろうか?
探しに行くのもいいかもしれない


あの女性はどうしただろう? そういえばサンドイッチのお礼をまだ言っていない
会いに行くのもいいかもしれない


どっちにしろ、いや、どこにいくにしろ、自分のやることは変わらない。
自分はまだ『罪人』、罪を償えていないのだから。
それでも、ここにいたって、何もできない。
独房に自分を閉じ込めるだけじゃ、罪は償えない。
そんな気がしたから、ブーンは溶けた独房の格子戸を潜り抜けた。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:37:49.81 ID:GdSOlidW0


不思議と、気分は高揚している。

自然と、彼は両手を広げていた。

風向きは、追い風。



視界に映る景色は、なんだか独房の中の何倍も広くて




―――いまなら、きっとどこへだっていける




なんだか、そんな気がした。




43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/08(月) 00:39:08.05 ID:GdSOlidW0





     ( ^ω^)どこへもいけなかったようです

              おしまい






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