- 268 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:09:30 ID:RwkX19gY0
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lw´‐ _‐ノv灼熱チョコレート地獄のようです
- 270 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:10:20 ID:RwkX19gY0
太陽が私のうなじをこんがりと焼いている。
両腕に抱いた脚のすぐそばまで、静かな波が砂の上を転がっている。
夏休みですることもなく、予定も決めずに友人のキューと待ち合わせをした。
日陰が一切見当たらない夏の砂浜は、落ち合う場所としてはかなり不適切だったようだ。
lw´‐ _‐ノv「被った猫をー、暑さーでー、脱いでー」
lw´‐ _‐ノv「砂浜に埋ーめーたー、夏ー」
作詞作曲私の即興の歌を口ずさんでも、そばに誰もいないので何も恥ずかしくない。
この荒巻海岸は、私たちのような田舎者しか訪れない、ド田舎の片隅の海岸だ。
太陽が生き生きとするこの時間に人影はなく、キューが来ればすぐに分かるだろう。
壊れたドライヤーのような熱風が肌を撫で、その肌を太陽が焼く。
ただ目の前の透明な海だけが、少しだけ気持ちを涼しくさせる。
キューがあと三十分遅れれば、私は炭火焼の木炭になっているという確信があった。
- 271 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:11:07 ID:RwkX19gY0
lw´‐ _‐ノv「……」
lw;´‐ _‐ノv「洒落にならない暑さだ……」
そろそろかなと振り返ると、夏の陽炎の向こうにキューの姿が見えた。
黒い日傘を持った彼女は、幸いにもあまり遅れることなく来てくれたようだ。
o川*゚ー゚)o「やっほー、シューちゃん」
lw´‐ _‐ノv「よっ、キュー」
o川*゚ー゚)o「いやー、今日も変わらず暑いねー」
lw´‐ _‐ノv「もう少しでバーベキューになるところだった」
o川*゚ー゚)o「えっ、何が? 今日の晩ご飯?」
lw´‐ _‐ノv「ううん、私が」
o川;゚ー゚)o「誰がシューちゃんを食べるの!? そうなったら私が全力で止めるよ!」
- 274 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:12:14 ID:RwkX19gY0
lw´‐ _‐ノv「え、う、うん。ありがと」
キューは何か勘違いをしているらしい。
けれどもこの暑さでは、きっと勘違いも多発するに違いない。特に訂正はしない。
o川*゚ー゚)o「ところで、このあとどうするー?」
lw´‐ _‐ノv「まず伊藤さんとこに行こう、喉がカラカラ」
砂浜を抜けた道路のすぐ先で、伊藤茶店はポツンと営業している。
娯楽の少ない地域だけあって、この辺の高校生なら誰もが一度は訪れる。
o川*゚ー゚)o「そうしよっか!」
立ち上がると、なるべく砂がサンダルに入らないように、一歩一歩ゆっくり歩く。
キューも私に合わせて砂の粒と格闘しながら、ぎこちない歩き方をしていた。
o川*゚ー゚)o「というかさ! この熱い中に、なんで砂浜で待ち合わせなの!?」
lw´‐ _‐ノv「ごめん、気の迷い……」
- 276 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:13:13 ID:RwkX19gY0
o川*゚ー゚)o「はい。シューちゃんの分も持ってきたから使いなよー」
そう言ってキューがトートバックから取り出したのは、折りたたみの日傘だった。
キューの気遣いは嬉しいのだけれど、何故私がピンクで、キューは黒の傘なのだろうか。
lw´‐ _‐ノv「ありがとう。だけど、私にピンクは似合わないよ」
o川*゚ー゚)o「えー、似合うかも知れないし、とりあえず、はい!」
手渡された日傘を開くと、いくらか暑さは遠退いた。
けれど、太陽にピンクの傘を見られていると思うと、やっぱり恥ずかしい。
キューには大人びた黒より、こっちの方が似合うと思う。
lw´‐ _‐ノv「そっちの傘重そうだし、交換してもいいよ」
o川*゚ー゚)o「ふふっ、その手にはのらないよー」
lw´‐ _‐ノv「……」
lw´‐ _‐ノv「こっち見るなよ、太陽……」
- 277 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:14:36 ID:RwkX19gY0
そうこうしているうちに、ちょっと古臭い外観の伊藤さんのお店に着いた。
ミントアイスの載ったコーヒーフロートは、すごく美味しい。
ドアを開けると、チャイムの音とともに冷え冷えの空気が外に流れる。
('、`*川「いらっしゃい。あら、暇ねえ……」
lw´‐ _‐ノv「こんにちは」
家から近いこともあって、週に二日は伊藤茶店に顔を出している。
すっかり顔も名前も覚えられ、食い逃げなどしようものなら、ポストにすぐに請求書が届くだろう。
o川*゚ー゚)o「暇じゃないですよー! 毎日ひまわりに水あげてます!」
('、`;川「けっこう暇じゃない……」
lw´‐ _‐ノv「オレンジジュースください」
o川*゚ー゚)o「えーと私は、かき氷のブルーハワイで!」
('、`*川「はい、ちょっと待っててね」
- 279 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:15:17 ID:RwkX19gY0
店内には他に人はおらず、私たちは奥のテーブル席に着く。
革張りのソファもやはり古めかしいものだが、座り心地はいい。
しばらくして、伊藤さんが注文の品を持ってきた。
('、`*川「お待たせ」
o川*゚ー゚)o「わー、ありがとうございます!」
lw*´‐ _‐ノv「砂漠のオアシスだ……」
('、`*川「それじゃあ、どうぞ、ごゆっくり」
冷たいオレンジジュースが、一気に胃に落ちてゆく。
一息つくと、私とキューは雑談に花を咲かせた。
o川*゚ー゚)o「それでね、アイスの中にゴーヤが入っててね」
o川*゚ー゚)o「ほんとにびっくりしちゃって!」
lw´‐ _‐ノv「うんうん」
- 280 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:16:08 ID:RwkX19gY0
キューは遠い目をしながら、青いかき氷をスプーンですくう。
o川*゚ー゚)o「あれはちょっと苦手だったなあ……」
o川*゚ー゚)o「シューちゃんはそういうの何かある?」
チラリと見ると、伊藤さんはカウンターの向こうで、頬杖をついて暇そうにしている。
苦手な食べ物は数あれど、スイーツの類では何かあっただろうか。
キューに一口もらったかき氷に導かれ、意外とすんなり思いついた。
lw´‐ _‐ノv「ブラックチョコレートは苦手」
lw´‐ _‐ノv「甘いものが食べたいからチョコ食べるのに」
lw´‐ _‐ノv「苦いと損した気分にならない?」
o川* ー )o「……」
( 、 *川「……」
lw;´‐ _‐ノv「えっ?」
キューも伊藤さんも何も言わない。
私は何か余計なことを言ってしまったのだろうか。
- 281 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:16:58 ID:RwkX19gY0
o川* ー )o「……ブラックチョコレート美味しいよね?」
( 、 *川「……ええ、美味しいわ」
二人の様子が明らかにおかしい。
虚ろな目をしながら口元に笑みを浮かべ、それでいて無表情だった。
( 、 *川「そういえば、チョコレートがあるんだわ」
o川* ー )o「チョコレートがあるんだ」
lw;´‐ _‐ノv「ね、ねえ、どうしたの?」
重い、嫌な雰囲気に緊張して、心臓の鼓動が早くなる。
キューも伊藤さんも、こんな顔をしているのを私は見たことがない。
o川* ー )o「……」
( 、 *川「……」
- 282 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:17:58 ID:RwkX19gY0
lw;´‐ _‐ノv「……」
私はどうしたらいいのか分からず、黙ってジッとする。
丁度良かった店内の冷えた空気が、今は寒い。
o川* ー )o「……ねえ、ブラックチョコレート美味しいよね?」
キューがそう言っても、伊藤さんは無言のままだった。
私に聞いたのだろうか。恐る恐る答える。
lw´‐ _‐ノv「……そう、かな」
すると不意にキューに頭を掴まれ、無理やり口を開けさせられた。
異常なほどの腕力で押さえられ、逃れられない。
見ると鍋を持った伊藤さんが、カウンターを越えて近づいてくる。
- 283 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:19:18 ID:RwkX19gY0
lw;´‐ _‐ノv「それどうするの?」
( 、 *川「……」
o川* ー )o「……」
伊藤さんは、私の目の前で鍋を傾け始め、やがてチョコが垂れた。
ドロドロに溶けた黒い液体が口に流し込まれる。
lw;´‐ _‐ノv「熱っ! ケホッ、……ふ、二人ともやめてよっ」
まだ熱いままのチョコレートを飲みきれず、思わずむせる。
味も何も分からず、ただ苦しい。
( 、 *川「美味しいわよねえ?」
o川* ー )o「美味しい、美味しい……」
- 284 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:20:52 ID:RwkX19gY0
ゴボゴボとチョコを吐き出して、やっとのことで息をする。
酸素が足りないのか恐れのせいか、目の前がかすんで見える。
私はこのまま、ブラックチョコレートで窒息死してしまうのかもしれない。
どうせ死ぬのなら、最後にちゃんと味わいたい。
口に流されるチョコレートの味を、落ち着いて感じる。
lw´‐ _‐ノv「……美味しい」
lw;´; _ ;ノv「ブラックチョコレートも美味しい……」
確かにブラックチョコレートは苦かった。
けれどそのなかに、水溜りに棲みついた小さな魚のような、儚い甘みがあった。
私はブラックチョコへの誤解を解き、泣きながら安らかな気持ちになる。
分かり合えることは、どんな時でも嬉しいものだった。
- 285 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:22:16 ID:RwkX19gY0
そのときふと、私を押さえていたキューの力が抜けた。
伊藤さんもその場に倒れ、鍋がカランと音を立てて床に落ちる。
lw;´‐ _‐ノv「……」
床一面にチョコがこぼれるかと思いきや、鍋の中には何も入っていなかった。
自分の顔を触ってみるも、チョコは一滴も付いていない。
私はいったい何を見ていたのだろう。
lw;´‐ _‐ノv「キュー、大丈夫?」
o川*´ー`)o「……」
どうやら気を失っているらしい。
頭の中で考えがまとまらず、呆然とする。
lw´‐ _‐ノv「……」
夏の暑さは勘違いや、あるいは別の何かを、どこからか呼んでくるのだろう。
私はこの出来事を忘れることにした。
- 286 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 03:23:06 ID:RwkX19gY0
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i フッ
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