- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:04:28 ID:KdmiiC8E0
- .,、
(i,)
|_|
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:06:19 ID:KdmiiC8E0
――
――――
――――――――
「おい、ちゃんと付いて来てるか?」
「来てるって」
「子供じゃないお」
「いや、そうなら良いけど。特にブーン、お前調子はどうだ?」
「どうもこうもないお! 『夕飯食べに行く』って言ってた癖に、
こんな廃墟で肝試しなんてたまったもんじゃないお」
「わりぃわりぃ。ま、いいじゃねーか夏だし。夏だしな!」
「うん、こういう所はいいよね。いかにも何か出そう! って感じ」
「あー、やってらんないお……お?」
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:07:43 ID:KdmiiC8E0
「どうした?」
「あそこ……誰か、いや何かいないかお?」
「え?」
「あー……? 誰も居ないじゃねーか、ったく期待させやがって」
「いやいるお! ちょ、ちょ! 来るなお!」
「お前一人で何やってんだよw」
「芸人でも目指してるの?」
「あ、が……げほっ、ふー…………ぐっ!」
「ぁ…………」
「おい、おい?」
「何やってるの? 死んだふりでもしてるの?」
「…………」
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:09:33 ID:KdmiiC8E0
「おーい、さっさと起きろ」
「あまりの恐さに失神でもしちゃったとか」
「ったく。ほら起きなかったらこのまま耳にコーラ入っちまうぞー」
「やめなってそんな馬鹿な事」
「おっ! ……何なんだお」
「あー起きたー」
「お前一人で何やってたんだ?」
「いや、変なのが首絞めてきたから苦しんでたんだお」
「ふーん。俺には全く見えなかったけど」
「気のせいじゃないの?」
「ただの幻覚だといいお……」
「あ! そうだ言い忘れてたけど来週の旅行、急用が出来てダメになっちゃった」
「え。そうなん?」
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:10:49 ID:KdmiiC8E0
「そう。ちょっと親戚の方でごたごたがあってね……どうしても」
「そうかー……んじゃ、一人……いや」
「え?」
「ブーン! お前も来い! お前、出かけるの好きだろ? もう宿には予約しちまったんだからさ、付いて来てくれ!
頼む! 金は全部俺が払うから!」
「そうかお。まあ大丈夫だと思うから、遠慮なく付いて行くお」
「何だテンション低いな、ちゃんと『いい宿』に予約してあるから安心しろって」
「まあいいお。じゃあ、待ち合わせは……」
――――――――
――――
――
- 7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:13:38 ID:KdmiiC8E0
( ^ω^) 旅中怪奇のようです
落ちてくる。
上から光が落ちてくる。
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:15:15 ID:KdmiiC8E0
(;^ω^)「っと」
_
( ゚∀゚)「ナイスキャーッチ」
ブーンは投げられたペットボトルを、なんとか落ちる寸前でキャッチした。
買った時の冷え冷えとした感触は既に失われ、生温さだけが手のひらに伝わってくる。
_
( ゚∀゚)「お、ここか」
( ^ω^)「そうだお」
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:17:20 ID:KdmiiC8E0
民宿「新速」。
かすかに涼しさが感じられる夕焼け時、リュックを背負った二人の眼前にあるのは二階建ての民宿。
この時間帯という事もあり、白の外壁と黒い瓦屋根は茜色に染め上げられていた。
民宿の後ろには、剥き出しの岩壁を滑り落ちる細い滝と、なだらかな山稜を描く山々。
アブラゼミの声は遠くに聞こえ、堤防に打ち寄せるさざ波の音が、すっと耳を通り抜けていく。
ゆったりと流れる時間。
どこか懐かしさを覚える情景。
ブーンはデジタルカメラを弄りながら、
晴れ空の下で民宿と海を一緒に写すと良い感じになるだろうな、と思う。
( ^ω^)「やっぱり海辺の道は涼しいお」
_
( ゚∀゚)「あー、そーだなー……それより腹減った」
( ^ω^)「ジョルジュは本当に燃費が悪いお」
_
( ゚∀゚)「そうかねー。いやー腹減ったな」
ブーンの友人、ジョルジュは思い切り背を伸ばし、再度「腹減った」と呟く。
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:19:48 ID:KdmiiC8E0
夏真っ盛りの八月、二人は夏期休暇を利用して、離島のO島へ旅行に来ていた。
本州からフェリーで約二時間半。
全国的にはあまり知られていない島なのだが、古くから残る社や豊かな大自然が数多く残る、
まさに秘境と言ってもいい場所。
とても二日や三日では全てを回り切る事など出来ない。
しかし天気予報では明後日から雨が降ると言われていた為、
昨日から明日までの三日間各所をレンタカーで回り、
四日目に帰る事にした。
今は温泉で汗を流した後、予約していた民宿へ入ろうとしている所である。
だが、ブーンは躊躇していた。
(;^ω^)「うーん……本当にここで良かったのかお?」
_
( ゚∀゚)「いいじゃんいいじゃん、面白そうだし」
ジョルジュが「いい宿がある」と言って、この民宿に泊まる事を決めたものの。
ある噂を聞いた後から、拭い去れない程に不安の種が根付いてしまった。
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:21:35 ID:KdmiiC8E0
ある噂。
「曰く付きの部屋」の噂だ。
(;^ω^)(本当はそんな所で寝たくは無いんだけど……それに……)
先週から原因不明の悪夢に毎晩うなされているブーンは、
きちんと安眠できるような宿に変えようとしていたのだが、
「どうしても」とジョルジュから懇願された為、仕方なく了承したのだ。
_
( ゚∀゚)ノ「ここまで来たんだから観念しろって。ほら行くぞ! 腹減った!」
(;^ω^)「はいはい、乗り掛かった船だから……泥船かも知れないけど」
肩を叩かれ、ブーンは仕方なく引き戸を開けて中へ入った。
(*゚ー゚)「いらっしゃいませ」
( ^ω^)「すみませんお、二泊で予約したブーンとジョルジュですが……」
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:22:51 ID:KdmiiC8E0
下駄箱でスリッパに履き替え、入って右手にあるフロントで手続きを始める。
屋外とは違い、玄関ホールは涼しさで満ちていた。
(*゚ -゚)「しかし……本当にあのお部屋で宜しいのですか?」
民宿の受付係が、心配顔で二人に問いかける。
_
( ゚∀゚)「大丈夫ですよ!」
( ^ω^)「みたいですお」
(*゚ー゚)「そうですか……では、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
( ^ω^)「どうもですお」
ブーンは部屋の鍵を受け取り、ロビーへ足を進めた。
棚やテーブルに所狭しと並べられている特産品が、思わず目を引く。
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:24:13 ID:KdmiiC8E0
_
( ゚∀゚)「へー、さざえカレーなんてあったのかよ……雲丹ほたて……佃煮か。
藻塩? って何だ?」
( ^ω^)「あーっと、アラメ……海藻と海水を釜で煮詰めて作ったものだお。
その名の通り海藻成分が豊富らしいお」
_
( ゚∀゚)つ「夕焼けに鎌を研げってね……ん、このアクセサリーって本物の貝使ってんの?」
( ^ω^)「本物の貝だお」
_
(;゚∀゚)「え、これ本物? 人工じゃなくて?」
( ^ω^)「本物だお! 親戚に見せてもらった事があるお」
ジョルジュが手に取ったのは、
赤や紫、黄色など色彩に富んだ貝殻が付けられたアクセサリー。
ホタテの貝殻を着色したようにも見えるが、れっきとした「ヒオウギ貝」という二枚貝だ。
O島で養殖が盛んな魚介類の一つで、刺身、酒蒸し、バター焼きなどにして食される事が多い。
食べ終えた後の貝殻は、アクセサリーや土産物として再利用されていく。
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:26:37 ID:KdmiiC8E0
-
_
( ゚∀゚)「ふーん、色々あるなー……帰る時に買ってくか」
( ^ω^)「勿論だお」
長期休暇でもなければ、この離島を思うがままに観光するのは難しい。
だからお土産はしっかり吟味して買うと、ブーンは決めていた。
_
( ゚∀゚)「あー俺ちょっとトイレに行ってくから、先に部屋に入っててくれ」
(;^ω^)「いやそれはちょっと」
_
(;゚∀゚)ノ「さあ早く! あー漏れそう! じゃあな!」
<(;^ω^)>「ああ、マジかお……」
一目散にトイレへ駆け込むジョルジュの背を、
ブーンは文字通り頭を抱えながら見送るしかない。
足元から鳥が立った訳でもないだろうに。
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:28:05 ID:KdmiiC8E0
(;^ω^)(部屋に入ってしまうかお……?)
二階に上がり、部屋の前で立ち尽くす。
元来ブーンは「そういったもの」が苦手だ。
実際に見た事がある訳ではないが、怪談話を聞くと恐怖で竦み上がってしまう。
本当はいるのではないかと思うと、鳥肌が止まらなくなる。
ジョルジュだって怖いから僕に任せたんじゃないか?
そう思わずにはいられなかった。
(;^ω^)「あー、もう!」
覚悟を決め、鍵を開ける。
霊なんて知った事か、僕はこの部屋で寝るんだ。
睡眠の邪魔なんてさせてたまるか。
言い聞かせ、ドアを開き、部屋に入ったブーンだったが。
( ^ω^)
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:30:06 ID:KdmiiC8E0
部屋の中を見て、戦慄。
ブーンが入った、十畳の畳部屋。
中央にはテーブルと椅子があり、壁際にはテレビと押入れ、
開けられた障子の向こう側には広縁が見える。
その、前。
部屋と広縁を仕切る障子の前に。
赤い着物を着た子供が佇んでいた。
無表情で、長い髪をして、瞬き一つせずに。
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:32:54 ID:KdmiiC8E0
まるで座敷童子のようだ。
小学生程度の女の子だろうか、 知り合いにでもいれば頭を撫でていただろう。
だが、この異様な状況ではそんな事を思える筈もなく、ただ唖然とするばかり。
頭の中は一瞬にして真っ白へ様変わりしてしまった。
( ゚ω゚)「……」
川 ・ ・)「……」
目の前の光景を受け入れられず、棒立ちしたままのブーンをよそに、
子供は歩み寄って来る。
そして目の前で立ち止まり、あるものを差し出した。
( ゚ω゚)「……」
( ^ω^)(はっ)
(;^ω^)「!」
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:34:14 ID:KdmiiC8E0
額から冷や汗が垂れ、肌が粟立つ。
夏だというのに、感じるのは暑さではなく凍りつきそうな程の寒さ。
(;^ω^)(大丈夫だお、普通に接していれば、普通に接していれば……)
得体の知れない、人ならざる者との接し方など分かる筈もないが、
相手を怒らせないように細心の注意を払いながら、差し出されたものに手を伸ばす。
(;^ω^)「……貰ってもいいのかお?」
川 ・ ・)っ「……」
子供はこくりと頷く。
(;^ω^)「ありがとうだお」
すまない……
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:36:24 ID:KdmiiC8E0
川 ・ ・)「……」
川川・)
受け取ると、女の子は背を向けて走り去っていく。
その様を眺め、しばしの間呆然。
( ^ω^)「えーっと?」
_
( ゚∀゚)「おっす! 小便終わったと思ったら便意を催してな……
ってなにぼーっとしてんだ」
( ^ω^)「あ、いや。ところで、女の子を見なかったかお? 着物を着た……」
_
( ゚∀゚)「見てねーな。ところで、その手に持ってるのは何だ? 黒い何か……」
( ^ω^)「これかお」
子供から受け取ったものをまじまじと見つめる。
いくつかの小さな黒い石が、一本の紐で繋げられていた。
腕輪なのか。数珠のようにも見える。
手首に付けるには丁度良い大きさだ。
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:39:04 ID:KdmiiC8E0
( ^ω^)「いやさっき、かくかくしかじかで」
ブーンは経緯を手短に、感情を交えながらジョルジュに話す。
_
( ゚∀゚)「ほー。ってことは、今回は当たりか! 俺が見れなかったのが残念だ」
ジョルジュはよく「そういった噂」をどこかで聞き集めては、旅行で訪れている。
それも彼女と二人で、だ。
今回も本来ならば彼女と旅行をする予定であったが、
急用が出来てしまったが為に、ブーンを勧誘したのだ。
(;^ω^)「こういう事はこりごりだお……ってか、腹が減ったんじゃないのかお。
さっさと下のレストランに行かないかお?」
_
( ゚∀゚)「そうだったそうだった。んじゃ行くか!」
ブーンも僅かながら空腹を感じていた。
腕輪を鞄にしまい、畳へ置く。
それから一つ欠伸をすると、一階にある和風レストランへ進んだ。
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:41:36 ID:KdmiiC8E0
* * *
景色の中を歩き、温泉で疲れを癒した後、料理に舌鼓を打つ。
旅の醍醐味だ。
普通に過ごしていれば食べられないものを、旅行では存分に味わえる。
和風レストラン「新速・びっぷ」は、離島らしく魚介類の料理が専門だ。
新鮮で種類豊富なネタを使った握り寿司。
サクサクとした衣の中にぎっしりと身が詰まった、車海老の天ぷら。
熱くぷりぷりになった岩牡蠣からはいっぱいに旨味が溢れ出し、
深い味わいと歯ごたえがあるサザエのつぼ焼きは、口に入れると磯の香りが広がってくる。
次から次へと、自然に箸が動いていく。
滅多に味わえない贅沢な海の幸をとことん堪能した二人は、
カウンターで店主との話に花を咲かせていた。
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:43:15 ID:KdmiiC8E0
- _
(*゚∀゚)「いやー良かったっすよーK海岸は!
まさかS県でこんな凄い景色が見られるとは思いませんでしたもん! 本当に来て良かった!」
( ゚д゚ )「そう言って頂ければ、O島人としても喜ばしい限りですよ。
そうだ、灯火島は見られましたか?」
灯火島は、O島を代表する景勝地。
松明のような形をした細長い奇岩で、日が沈む時に先端に重なると、
火を灯したように見える事から「灯火島」と名付けられている。
自然の力が生み出した、神秘的で奇跡的な光景を目に焼き付けて旅を終えられれば、
これ以上の事は無い、とブーンは思っていた。
(*^ω^)「まだですお。明日見に行く予定ですお!」
( ゚д゚ )「天気が良ければ良いんですがねぇ……明日は午後から雲が出てくるそうですよ。
雨は降らないようですが」
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:47:15 ID:KdmiiC8E0
- _
(*゚∀゚)「大丈夫っす大丈夫っす! 俺は晴れ男ですから!」
( ^ω^)「こいつの言う事はアテにしなくていいですお」
( ゚д゚ )「ははは。私も晴れるように祈っておきましょうかね」
( ^ω^)「ありがとうございますお。ごちそうさまでしたお!」
皆で談笑し、幸福なひと時が終わる。
店を出た二人は、ロビーの椅子に座って余韻に浸った。
_
( ゚∀゚)「あー……旨かったー……」
( ^ω^)「良かったお……牡蠣が……じゅーしー……」
一息。
( ^ω^)「あ、ちょっと聞きたいんだけど……あの部屋に泊まった人は呪われたりするのかお?」
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:50:32 ID:KdmiiC8E0
- _
( ゚∀゚)「そんな話は聞かなかったなー、『子供の霊が出る』って事しか知らん。
ってか、お前はもう呪われてるんじゃね?」
(;^ω^)「あーそうかも知れないお、帰ったらお祓い受けようかと思ってるお。
ってかジョルジュのせいじゃないかお、アレは!」
先週ジョルジュとその彼女に、
S県の海岸・日ノ崎付近の廃墟へ半ば強制的に肝試しに連れて行かれてしまい、
身の毛もよだつ体験をするはめになってしまった。
それからというもののブーンは毎晩、起床するまで「首を絞められる」悪夢を見るようになり、
どうするべきか苦慮していたのだ。
_
(;゚∀゚)「あー、あれは本当にすまんかった。お祓いにでも連れてけば良かったかも知れんが、
いかんせんこっちも忙しくてな……」
( ´ω`)「まあいいお、帰ったら自分で行くお。部屋に戻るかお」
ブーンはおぼつかない足取りで、ジョルジュと共に部屋へ戻る。
_
( ゚∀゚)「食べ過ぎて眠くなってきたなー……もう俺寝るわ……っと!」
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:52:12 ID:KdmiiC8E0
ジョルジュは部屋へ入ると、押入れから布団を出し、ゆっくりと敷いていく。
欠伸をして枕を置くと、寝転がって寝息を立て始めた。
( ^ω^)「寝るのが早いお、まだ九時にもなってないお。小学生でもまだ起きてるお」
呟きは誰の耳にも届かず、木霊する事もなく。
暮れ残る空に漂う綿雲を見つめながら、明日は晴れますように、と願った。
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:53:20 ID:KdmiiC8E0
* * *
時が過ぎ。
夜の帳に覆われた民宿は一点の明かりも灯さず、ただ暗闇の静けさに溶け込んでいた。
そして、ある一室。
冷房のタイマーが消え。
( -ω-)「zzz……」
扇風機も羽を止め。
_
( -∀-)「zzz……」
二人の寝息だけが支配する部屋。
- 29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:54:42 ID:KdmiiC8E0
いや。
(;-ω-)「……!」
二人の寝息だけが支配していた部屋。
(;-ω-)「ぅ……あ……」
ブーンが発するものは、寝息から、いつの間にか苦痛に満ちたうめきへと変わっていった。
顔は苦悶に歪み、体中に汗が滲んでいる。
(;-ω-)「うぁー……」
(;-ω-)「ぉ……」
(;^ω^)「おっ……!! げほっ!」
たまらず飛び起き、息を吐き出す。
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:57:51 ID:KdmiiC8E0
(;^ω^)「はー……はー……ったく、またかお……」
肝試しの夜から続く悪夢。
例に洩れず、今晩も容赦なく襲いかかってきた。
連れて来られたとはいえ、せっかく気分転換に旅行を楽しんでいるというのに、
やはりここでも邪魔をするのか。
もう勘弁してくれお、と口にした瞬間。
( ^ω^)「!」
がさごそと、何かを探る音。
(;^ω^)「……」
今、この部屋には二人だけしかいない。
まさかと思いつつ荷物の方に目をやると、夕方に貰った黒い腕輪が転がっていた。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:58:36 ID:KdmiiC8E0
(;^ω^)(鞄に仕舞った筈なのに……)
内ポケットに入れた事は、今でも鮮明に思い出せる。
どう考えても、おかしい光景。
自然に出てきた訳ではない。
ジョルジュは寝ているから違う。
明らかに、第三者が取り出している。
(;^ω^)「……」
(;^ω^)(気休めだお、気休め)
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:00:50 ID:E.U.cefw0
こんな物に効能など無いに決まっていると決め込んでいたが、
ブーンは藁にも縋りたい気分だった。
湿った手で腕輪を掴み取り、手首にはめる。
(;^ω^)(ちょっと暑いおね)
つい先程の緊張感からか、鼓動はまだ緩んではくれず、
体もほんのり火照っていた。
手探りでリモコンを探し、エアコンを動かす。
(;^ω^)(寝るかお)
このまま起きていてもどうしようもない。
寝ずの番で体調を狂わせるより、悪夢を見たとしても多少は睡眠できる方がマシだ。
そう思ったブーンは、覚悟を決めて布団の上に寝転がった。
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:01:31 ID:E.U.cefw0
* * *
まばらに響く海鳥の声。
薄日にきらめき、彼方へと広がる大海原。
朝凪によって風が止み、夜とは違う爽やかな静けさが辺りを包み込む朝。
二人は目を擦りながら、浴衣を着たまま一階への階段を降りていく。
朝食をとる為だ。
( ^ω^)ノ「おはようございまーす」
_
( ゚∀゚)ノ「おはようございまーす」
( ゚д゚ )「おはようございます。ぐっすり寝られましたか?」
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:03:30 ID:E.U.cefw0
和風レストラン「びっぷ」へ入ると、テーブルの上に朝食が用意されていた。
_
( ゚∀゚)「ぐっすり寝られましたよー、なんともありませんでした」
( ^ω^)「僕達、あの曰く付きの部屋に泊まったんですお」
( ゚д゚ )「なんと、あの部屋に! ご無事でしたか?」
カウンターの向こうにいる店主が、手を止めて驚く。
部屋の噂は知っていたようだ。
( ^ω^)「全く問題ありませんでしたお。『ぐっすり』寝られましたお」
_
( ゚∀゚)σ「こいつだけは妙な体験をしたみたいですよ。昨日でしたけど」
( ^ω^)「部屋にいた……何かに、これを貰ったんですお」
ブーンは右手に付けた腕輪を軽く掲げ、店主に見せる。
( ゚д゚ )「それは……黒曜石では?」
( ^ω^)「黒曜石? この石がですかお?」
( ゚д゚ )「だと思いますよ」
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:06:11 ID:E.U.cefw0
紐が通された、丸く、黒い石。
黒曜石は切れ味の良さから、古来よりナイフや矢じりとして世界に流通し、
時には装飾品として加工される事もある。
現在でも、手術用のメスとして使っている国があるようだ。
( ゚д゚ )「黒曜石は、魔よけの石とも言われているんですよ。邪気を遠ざけるようです。
O島の特産品でもありますね」
魔よけ。
(;^ω^)「まさか、これが……」
_
( ゚∀゚)「すまんが、そんなことより食べようぜ。腹減った」
(;^ω^)「分かったお」
- 36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:08:47 ID:E.U.cefw0
二人はテーブルに座り、そそくさと朝食をとり始める。
ふっくらとした熱々のご飯に、脂の乗った焼き魚、
あさりが入った味噌汁など、和で統一されたメニューだ。
味付けは濃すぎず薄すぎず、誰もが食べやすいように、
丁寧に作られていると感じられる。
腹をすかせた二人は瞬く間に食べ終ると、「びっぷ」を後にして部屋へ。
浴衣を着替えると、出発の準備を始めた。
_
( ゚∀゚)=3「ふー。さっさと行くかね」
( ^ω^)「そうするお」
_
( ゚∀゚)「お、そうだ。お前、やっぱり昨日も?」
(;^ω^)「お、話してなかったお。実は……夜に起きてから悪夢を見てないんだお」
- 37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:10:09 ID:E.U.cefw0
手足を動かしながら、昨夜の状況と黒曜石の関係を説明。
ブーン自身もたまげた出来事だっただけに、ジョルジュも相応の驚きを見せた。
_
(;゚∀゚)「マジかい。んじゃ、あの霊は悪い奴じゃなかったって事か?」
( ^ω^)「だと思う……お。それと、お祓いには行かなくてもいいかも知れないお」
_
( ゚∀゚)「そいつは良かったな。んじゃ行くか!」
ジョルジュは自分の太ももを景気よく叩き、フロントへ歩き出す。
窓から差し込む陽光はまだ柔らかく、若干、涼しさも残っている。
これからぐんぐんと日差しが強くなるだろう。
日焼け止めクリームを塗った方が良かったかなと思いながら、
ブーンも一階へ降り、民宿を出ようとする。
すると、ロビーの土産物売り場でうずくまっている人影が目に付いた。
- 38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:12:11 ID:E.U.cefw0
( ^ω^)「お? 何やってるんだお?」
_
( ゚∀゚)「さーな……すいませーん。おはようございまーす!」
(,,゚Д゚)「ああ……おはようございます!
オーナーのギコです、この度はこちらの宿に宿泊して頂きありがとうございました。寝心地の方はいかがでしたか?」
_
( ゚∀゚)「良かったですよー。あの部屋でしたが、ゆっくり寝られました」
うずくまっている人影は、オーナーだった。
礼儀正しそうな男だ。声が大きく、言葉の発音も良い。
(,,゚Д゚)「あのお部屋に、ですか……。申し訳ございません、妙な噂が絶えないようで……
近々、お祓いをしてもらおうと思っています」
( ^ω^)「すみませんが、その必要は無いと思いますお」
_
( ゚∀゚)「いや、お前の話じゃねーって」
(;^ω^)「それは分かってるお、部屋の話だお」
_,
( ゚∀゚)「んー? 何で、部屋のお祓いが必要無いって分かるんだよ」
ジョルジュが腕を組んで顔をしかめる。
- 39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:14:06 ID:E.U.cefw0
( ^ω^)「あの子供は……僕を助けてくれましたお。
だから、出来れば追い払わずにそのままにしてあげて欲しいんですお」
自分が悪夢にうなされていた事、子供から貰った黒曜石が悪夢を追い払ってくれたかも知れない事。
それを包み隠さず話した上で、ブーンは再度、「お願いしますお」と頼み込んだ。
(,,゚Д゚)「しかし……」
( ^ω^)「確かに、見方によっては怖い存在ですお。でもそこにいるのだから、
受け入れてあげるのも大切だと思うんですお」
無暗に恐れおののき、邪険に扱うのではなく、あるがままを受け入れる。
そうやって、世界は広がっていくものだ。
だがそれは誰もができる事ではなく、とても難しい事でもある。
(,,゚Д゚)「そうですか……部屋に宿泊して下さったあたながそう言われるのであれば、私もそうしましょう。
それに」
_
( ゚∀゚)「?」
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:17:43 ID:E.U.cefw0
(,,゚Д゚)「『そういう部屋がある』という噂を広めて、その手の方々に宿泊していただくのも良いかもしれないですしね」
オーナーはそう言ってくすりと笑う。
――この人の商売根性には脱帽するな。
そう思わずにはいられない二人だった。
( ^ω^)「じゃあ、僕達は」
(,,゚Д゚)「ああ申し訳ございません、その腕輪を見せて頂いても宜しいですか?」
( ^ω^)つ「はいですお」
手首から腕輪を外し、渡す。
店主はしげしげと腕輪を見て、面食らったように声を上げた。
- 41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:19:39 ID:E.U.cefw0
(,,゚Д゚)「ああ、これです! 先程、土産物の中になくなっているものがありまして」
(;^ω^)「そうなんですかお? お返ししますお」
(,,゚Д゚)つ「いえいえ、差し上げます。それにしても悪戯好きなようですね、少しだけ愛着が湧きました」
_
( ゚∀゚)つ「ではお言葉に甘えて」
( ^ω^)つ「受け取ろうとするなお。すみませんお、ありがとうございますお」
好意を無駄にする訳にもいかず、ブーンは快く腕輪を受け取った。
(,,゚Д゚)「お二人はこれからどちらに?」
( ^ω^)「えーと、S島海岸やJ浦に行って、島内を巡って……夕方は灯火島の遊覧船に乗りますお」
(,,゚Д゚)「灯火島ですか、あれは本当に素晴らしいですよ。写真でも十分美しいですが、実物は更に感動的です」
( ^ω^)「分かりましたお、ありがとうございますお。行ってきますお!」
(,,゚Д゚)「お気を付けて!」
- 42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:21:24 ID:E.U.cefw0
店主に見送られながら、二人は民宿を出て車に乗り込む。
車内は暑かったが、ハンドルを握るのは容易い。
( ^ω^)「さーて、まずは」
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( ゚∀゚)「あー、S島海岸の遊覧船に乗ってみようぜ。あそこも出てるだろ」
( ^ω^)「え、でもそれは要予約じゃなかったかお?」
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( ゚∀゚)「……そうなのか?」
( ^ω^)「その筈だお」
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( ゚∀゚)「……なのか?」
( ^ω^)「だお」
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( ゚∀゚)「……」
( ^ω^)「……」
- 43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:22:55 ID:E.U.cefw0
- _
( ゚∀゚)「ま、まあ行くか! 灯火島の遊覧船は予約してあるから、それでいいだろ!
晴れる事を祈ろうぜ!」
(;^ω^)「晴れ男じゃなかったのかお!?」
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(;゚∀゚)「自分でアテにしない方がいいって言ってた癖に、何だそりゃ! ほら車出せ!」
促されたブーンは地図を閉じ、エンジンをかけて車を発進させる。
心地よい駆動音に、思わず頬が緩んだ。
車窓から見える海は今日も穏やかで。
透き通った瑠璃色を、どこまでもたたえている。
旅は何が起こるか分からない。
楽しい事があれば、苦しい事もある。
期待外れが続いたり、小さな不運に見舞われるかも知れない。
ただ、それら全てを受け入れて楽しめるようになれば、
自分の中にある世界と心はどこまでも広がってゆくだろう。
- 44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:25:31 ID:E.U.cefw0
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( ゚∀゚)「さーかっ飛ばせ! 海岸線を思いっきり走るぞ!」
( ^ω^)「はいはい」
旅はまだまだ終わらない。
未知の景色に心を躍らせ、胸を高鳴らせ。
怪奇に見舞われながらも、彼らはまだまだ走り続ける。
- 45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:27:01 ID:E.U.cefw0
( ^ω^) 旅中怪奇のようです
おわり
- 46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:31:29 ID:E.U.cefw0
- (
)
i フッ
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おそまつさまでした。
アルファベットで隠している地名は、全て現実世界に存在するものです。
もし時間があったら探してみるのも楽しいかも知れないです。
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