- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:52:57 ID:NB/NICp6O
「从 ゚∀从夏を待っていたようです」
原曲・amazarashi 『夏を待っていました』
http://www.youtube.com/watch?v=9QnFFpyDGgs&fmt=18amazarashi
.,、
(i,)
|_|
- 3 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:55:30 ID:NB/NICp6O
- ***
『スタンド・バイ・ミー』ごっこしようぜ!そういって、俺を引っ張ってくれた同級生、ジョルジュ長岡が死んだ。高い、高いビルの屋上から、真夜中に墜ちた。
1・从 ゚∀从夏を待っていたようです
***
- 4 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/10(金) 23:57:45 ID:NB/NICp6O
- 六月初旬の空は瑞々しい青色で、陽射しの強さが夏の始まりを嫌という程に伝えていた。
ぽつぽつ浮かぶ、どこか遠くに感じる雲は漂白したかのように白くて、雨の気配は露ほども無い。
時折吹き抜ける風に慰められながら、俺とモララーは登山用のリュックサックを背負い、大人の膝丈程もある雑草や生い茂る広葉樹を蹂躙している古びた廃線にそって、ひたすら歩いていた。
民家など一切見当たらない郊外と言うよりかはド田舎で、子供の頃に通った時は、ちょっと変わった形の大木や点在する沼、図鑑でしか見たことの無かった昆虫などにいちいち心を躍らせていたのだが、大人になった今の自分では、かつてほどワクワクしない。
残念ではあるが、仕方のない事でもあるし、今でも綺麗な花や派手に倒れた巨木などを楽しむ若さを失ったわけではないのだ。全くの無感動でないだけ良しとすべきだろう。
…それともやはり、粛々と歩むべきなのだろうか?今の俺は、特に。
- 5 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:00:06 ID:ZfYdkgz2O
( ・∀・) いいんじゃないか?自分に嘘を吐いても、無意味だろう
('A`) そうかな
( ・∀・) そうさ。事実、僕は今楽しいよ。はたから見れば不謹慎ともとれるだろうけどね…君はどうだい
('A`) 俺か?まあ、少しは楽しいな
( ・∀・) そうだろう、そうだろう。何せこの道は、僕らが純粋無垢だった頃の、最初で最後の大冒険をした道だ
('A`) だがなあ。目的がなあ…
かつて、この線路を先陣きって歩いていたジョルジュは死んだ直後から、あろうことか俺の枕元に立ちまくっていた。
最初は本気で体の芯から怖気と寒気を感じたものの、一週間目あたりで寝不足の限界を迎えていた俺は無視して寝るようになり、以後は、おやすみの挨拶を叩きつけてさっさと寝ていた。
- 6 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:03:08 ID:ZfYdkgz2O
***
_
( #゚∀゚) おいテメエ、幽霊無視してんじゃねえ!
(#゚A゚) うるせえ、こちとら眠いんじゃい!睡眠薬飲んで耳栓してやる!
_
( #゚∀゚) いいもんねー、夢に出て直接喋ってやるもんねー!幽霊ナメんなゴルァ!寝てみろよオラ!オラァ!
(#゚A゚) ざけんな、味塩くらいやがれえ!あと俺夢はろくに覚えてないから意味ねえよバーカ!
_
( ;゚∀゚) うわっバカ塩やめろバカマジでやめろよ!
(#゚A゚) おら頭から塩かぶったぞ夢出れるもんなら出てみろや!
_
( #゚∀゚) あってめえ卑怯だぞ!
(#゚A゚) るっさいバーカおやすみ!
_
( #゚∀゚) ちっくしょこんにゃろオヤスミ!
***
…人間、特に知り合いが相手となると、馴れてしまえるらしい。そんな扱いにもめげず毎晩現れるジョルジュにしつこく頼まれた結果、俺は七年前の軌跡を辿っている。
( ・∀・) あいつらのことだ、気にしないさ…
('A`) そうだな
気にしないといえば、そうだ。モララーに云いたかった事が。
- 8 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:09:54 ID:ZfYdkgz2O
('A`) なあ、あの日、おまえは俺の青あざには触れなかったよな
( ・∀・) ああ、今でもはっきりと思い出せるよ。あの時ドクオが何ていったのかもね
('A`) え、まじか。俺忘れたよ。七年前だぞ?
( ・∀・) 随分恨みのこもった、泣きそうな声だったからな
('A`) まて、気になるな…教えてくれ。マウンテンバイクを自慢したのは覚えてる
( ・∀・) 『けどな、俺はおじちゃんが嫌いなんだ。母ちゃんをいつも泣かせてばかりいるから』そんなこと言われたもんだから、その痣どうしたの、なんて聞けなかった。だから僕は目をそらしたんだ
('A`) …そっかあ、俺そんなこと言ったか
( ・∀・) 悪かったな、何も訊かなくて
('A`) え?あ、別に責めるつもりで訊いたんじゃないんだ、むしろ感謝してる
- 9 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:11:46 ID:ZfYdkgz2O
- ( ・∀・) どうして
('A`) 俺、よく家の事でからかわれてたからな。触れないでいてくれるのが一番ありがたかったんだよ
( ・∀・) …いやでも、ごめん。愚痴を聞くぐらい、できたのに
やれやれ、溜め息がでる。モララーは昔からこうだった。
('A`) おまえは昔から、謝りすぎなんだよ。あの日だってそうだった
言っているうち、前方に無人駅が見えた。
('A`) ちょうどいい、座って休もうぜ
( ・∀・) そうだな…って、座れるのか?あれ
七年前に雨宿りをした際すでにボロボロだったが、今は更に酷く、適当に壁を蹴ったら崩壊するんじゃないかと思わせるほどだ。
('A`) …まあ、基礎のコンクリートの上なら、そこらの地べたよりマシだろう
( ・∀・) 熱くないか?
('A`) 日陰なら大丈夫だ
- 10 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:13:54 ID:ZfYdkgz2O
- 埃やら得体の知れないゴミやらが積もった屋内には、入る気にすらなれなかった。
いったん荷物を置いて水分補給をしながら、先程の話を再開する。
('A`) おまえ、この先もうちょっと歩いた所で、体力が尽きたよな
( ・∀・) そうだったな
('A`) あの時も、おまえは謝る必要がないのに、すっげえ悲壮な顔して謝ったろ
( ・∀・) …だってさ。足手纏いだったじゃないか、どう考えても
('A`) ちげえよ。そもそも、足手纏いっていう発想が間違ってる
( ・∀・) じゃ、なんだってんだよ
('A`) …あれは皆で歩くから意味があった。期限もノルマも何もない、歩くことすら、ついでみたいなもんだった。誰かが歩けなくなっても、歩けるようになるまで、そこで遊べばよかったんだよ
- 11 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:16:32 ID:ZfYdkgz2O
- ('A`) だから、あの時の俺らは笑っちまったんだ。そんな事、誰も気にしちゃいないのに、ってな
( ・∀・) …そっか
あの日、運動が一番苦手だったモララーは、体育の時間で見学者がするように、膝を抱えて座り込んでしまった。
けど皆はむしろ、称えていたように思う。
体の弱いモララーはそもそも参加できないと考えていたから。
だからこそ、『僕はいつもみんなに置いてきぼりで、本当にだめなやつで、ごめんな』と言われた俺らは、笑ってしまったのだろう。
だめな奴だなんて風に考えているのはモララー自身だけだぞ、と。
( ・∀・) ありがとな
('A`) 礼を言うほどの事でもねーよ…さ、行こうぜ
鳥や虫のさえずりと、遠くから聞こえてくる川のせせらぎとに癒された事だし、尻が黴びそうな無人駅を発つ。
- 12 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:22:40 ID:ZfYdkgz2O
- ('A`) おまえも、あんまり変わんないな
( ・∀・) お互い様さ
('A`) それはどうかな…おまえ、夏は好きか?
( ・∀・) ああ。ワクワクするね
('A`) 俺はもう、嫌いだよ
( ・∀・) …なあ、それは罪悪感のせいなのか?
('A`) いいや
( ・∀・) じゃ、なんでだよ
('A`) …
( ・∀・) なあ、ドクオ
('A`) まてモララー、あれだ
( ・∀・) え?…あっ
('A`) ついたぞ
モララーが、息を呑んだと、はっきりわかった。
無理もない。なにせ七年前、目印にした苔だらけの岩の側に。
( ;・∀・) …ジョルジュ、本当に…
それはとても奇妙な光景だ。
ジョルジュは一見、生首だけとも、地面から頭だけが出ているともとれる。
しかし二、三歩み寄ってみれば、彼の首から下が上から圧縮されたかのように、ぺちゃんこで有ることが分かった。
- 13 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:25:37 ID:ZfYdkgz2O
さらに、その潰れた体は当然ぐちゃぐちゃとした肉塊となっており、どす黒い汚物の固まりが首を中心に飛び散って、体液の水溜まりと、肉骨片の小山とに分かれていた。
首から上は、まるで事前に切り取っておいたものを後から乗せたかのように、綺麗なままである。
モララーはその場で吐いた。
(||| ∀ ) っえ、ごぼぇえええっ!
('A`) やれやれ…悪趣味な奴だな。俺の枕元に立つ時は、ちゃんと五体満足だったくせに…
_
( ゚∀゚) ニヤニヤ
※※※※
※※※※
( ;∀;) お゛え゛っ…げほっ…う゛べえぇ…ぺっ、ぺっ、ぺっ
('A`) ほら、これで口ふけ、それから水だ
( ;∀;) うぇっ…ドクオ…おま…なんで平気…う゛っ
- 14 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:28:22 ID:ZfYdkgz2O
('A`) さてな…ほら、画面越しに見るブラクラって、馴れると何ともないじゃん。あれとおんなじなんだろ
確かに其処に存在するのに、確かに気配があるのに、確かにこの目で見えるのに。
よくできた合成映像みたいに、現実感があやふやだ。
夢を見ているかのような非現実感と、全身全霊で捉えている現実感との矛盾。
乗り物酔いのように不快だ。
('A`) こいつは確かにジョルジュだよ。でも今俺が目にしているのは、間接的に観測しているジョルジュなんだと思う。だから、テレビで見ているような、鏡に写った世界を見ているような感覚なんだ、俺は
( ;∀;) …わけわがんね゛…げふっ…
('A`) こいつはジョルジュ長岡だが、俺が捉えているこいつの姿は俺の作る虚像としか見えなくて、こいつ自身の本質とは思えないってことさ
ここには肉塊がある。
でもそれは肉塊を上から合成されただけなように思える。
ひょっとするとジョルジュ長岡は何も思わずただそこにいるだけで、俺たちが無意識に抱く勝手なイメージで、姿形や行動を変化させているのかもしれない。
('A`) そんな、わけわかんない事を考えながら見れば、気も紛れるぞ
( ;∀;) …それ、たぶん、ドクオだけ…
- 15 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:29:22 ID:ZfYdkgz2O
('A`) …そうかもな。とにかく行くぞ。ジョルジュのやつが知っているのは、ここまでだ。ここからは、俺しか知らない
( ;∀;) う…わかった…
('A`) いい加減、ハインを見つけてやらなきゃな
- 17 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:35:06 ID:ZfYdkgz2O
- 七年前に廃線を歩いていた、俺とモララーとジョルジュとそれからもう一人、ハインリヒ。
今生きているのは、俺とモララーだけになってしまった。
それはきっと、俺のせいなのだ。
( ・∀・) ドクオ
ジョルジュがいた岩から、獣道すらない鬱蒼とした藪に突っ込む。
( ・∀・) ドクオはどうして、警察に言わなかったんだ?
('A`) 怖かった。本当にそうだとしたら、俺が悪かったとしたら…そんなくだらない事が怖かった。それに大人達ならあそこも捜しただろう、なんて、根拠なく思ってた
藪の密度が薄くなり、ブナの森に入る。
下草にシダ類が増え始め、蛇でも出てきそうだ。
- 18 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:37:02 ID:ZfYdkgz2O
('A`) あの時、かくれんぼを提案したのは俺だ。ハインに、あそこを勧めたのも俺だ。トイレしに行ったとき見つけた、他に気付いてるやつがいなかった場所だ
不意に、林が途切れる。見上げればぽっかりと青空の見える、小さな窪地に出た。
どういうわけか、ここだけ木が生えていない。代わりに下草はどこよりも茂っている。
( ・∀・) なんだか、不気味だな
('A`) 本当だよな。よくもまあ、こんなとこに入って行けたもんだよ
慎重に、記憶を辿りながら歩く。
('A`) 一人でここに入ったとき…なんだろうな、考える前に動いてた。ふらふらと、自然に
( ・∀・) それって…
('A`) さて…おっ、あったぞ、この木だ
眼下の草をかき分け、踏みつぶす。さらに、枝が左右に伸びている腰くらいの高さの若木をへし折ってどかすと。
- 19 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:38:59 ID:ZfYdkgz2O
- 子供一人がやっと入れるくらいの、四角い穴が姿を表した。
コンクリートで四方を固めた、井戸にも思える穴の底は二メートル程の深さで、土の上に木の板が幾枚か重なっている。
内壁は上から三十センチほどまではコンクリートだがその下は積まれた大石で構成されているため、足掛かりは十分にあり、子供なら体重も軽いので、上り下りは容易いように見える。
('A`) …やっぱり、か
( ・∀・) …
今は昔。
俺とモララーとジョルジュと一緒に遊んでいた、ハインリヒという女子がいた。
ハインは人一倍元気で、男子との喧嘩だってした。
七年前、俺はそんなハインに、こう言われた。
- 20 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:41:39 ID:ZfYdkgz2O
***
从 ゚∀从 な、ドクオ。かくれんぼ得意だろ?良いところないかボクに教えてよ
从 ゚∀从 ボク、ジョルジュ君だけには負けたくないんだ。ジョルジュ君はボクの目標だから
***
俺は好きな女子に頼られた嬉しさと、ハインがジョルジュを見ていたことの悲しさとが綯い交ぜになった嫉妬心をなんとかねじ伏せ、ここを、教えてしまった。
遊ぶ前に決めた範囲内のギリギリ、かつ、絶対に見つからなそうなポイントとして、草と枝葉の下に隠れていたこの穴を。
('A`) 途中まで一緒に行ってたが、入るのけっこうためらってたよ。あの時止めていたらな…
( ・∀・) ハインは、でも何で登れなかったのかな
- 21 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:48:39 ID:ZfYdkgz2O
- ('A`) 本人に訊いてみよう。おーい、ハイン
从 -д从 …
穴の底、じめじめと朽ちた木の板でハインリヒは膝を抱えたまま、横になっている。彼女は不思議な事に当時のままの姿格好で、泣き疲れたのか、すやすやと眠っていた。
( ・∀・) ハイーン!おきろーっ!
从 ゚д从 ふごっ!
('A`) おま、小石て…
( ・∀・) 峰打ちだ
('A`) どこが峰なんだよ今の石
从#゚∀从 いってーな、なにすんだ!
('A`) 起きたか
从 ゚∀从 あ
( ・∀・) よう
从 ゚∀从 …
('A`) もういいかい
从 ゚∀从 ま、まだだよ
( ・∀・) もう、いーかーい
从 ゚∀从 まーだだよ
_
( ゚∀゚) もーいーかーい
从 ;∀从 もう…もう、良いよ…
_
( ゚∀゚) ハイン…見つけた
あの日に聞くことができなかった、ハインの返事を、俺らはやっと受け止めた。
- 22 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:51:31 ID:ZfYdkgz2O
_
( ゚∀゚) ようハイン、なんでそんな所に隠れたんだ?
从 ゚∀从 …ドクオに、教えてもらった場所だから…
( ・∀・) どうして、出られなくなったんだ?
从 ゚∀从 えっと…確か蛇に噛まれて、ふらふらってなって、それで…
('A`) ハイン
从 ゚∀从 ドクオ…まった、あやまるな、怒らないから
('A`) どうしてだよ。怒れよ、呪えよ、俺が言えた事じゃ無いが赦せるもんじゃねえだろ
- 23 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:52:34 ID:ZfYdkgz2O
从 ゚∀从 じゃあ怒らない理由、聞いて
('A`) …うん
从 ゚∀从 ドクオは、ボクを解ってくれた。家族を好きになれないボクとドクオは、似てると思った。家に居るとき、親にぶたれている時いつもドクオのことを考えてた
从 ゚∀从 みんなと遊んでると幸せだった。ドクオの隣にいると幸せだった。たくさん遊べる夏が楽しみで、夏になると部屋の窓から空を見上げて、考えたんだ。みんなと何をして遊ぼうかって。でも来年に引っ越すって言われて…
从 ゚∀从 ボクは来年まで、できるだけみんなと居たかった。でも時間が迫ってるのを意識し出したら、ただ居るだけじゃ我慢できなくて…ドクオに、言いたいことがあって…ジョルジュ君にお願いしたのも、その事なんだ
('A`) ジョルジュ?
- 24 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 00:55:00 ID:ZfYdkgz2O
- _
( ゚∀゚) …鉄橋を渡る前に、俺が遊びを提案したろ。あれだよ
それはあまりにも、無茶な遊びだった。
『この鉄橋に一番長くぶら下がった奴の言うことは何でも聞かなきゃだめだぜ』
あの時は、映画の真似事だけだとばかり思っていたのだけれど。
( ・∀・) …結局、ぶら下がれたのはジョルジュだけだったな
从 ゚∀从 まさかあんな事するとは思わなかったよ
_
( ゚∀゚) おかげで打ち合わせ通りになんなくて、悪かったなあ…ちょっと格好付けたくてよ
从 ゚∀从 いいよ。ありがとね、ジョルジュ君。かっこよかったよ…
_
( *゚∀゚) そうか?へへっ…
('A`) それで?ハインは、誰に、何をさせるつもりだったんだ?
从 ゚∀从 ボクはドクオと、二人だけになりたかったんだ
('A`) 二人?
- 25 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:01:34 ID:ZfYdkgz2O
从 ゚∀从 ボクはね、ドクオ。君が好きだった
('A`) …俺はてっきり、ジョルジュかと
从 ゚∀从 ジョルジュ君にあこがれてはいたよ、でもそれは、ドクオと一番仲が良くて、いつも傍にいたからなんだよ
('A`) …そうだったのか
从 ゚∀从 ボクは夏になるといつも空を見上げていた。この穴がボクの部屋になってからも、毎年。ボクはドクオを待ってたんだ
ハインはゆっくり立ち上がり、子供が親に甘えるように、両手を掲げた。
俺は罪悪感を隠すつもりで、穴の中に向け身を乗り出し、ハインの両手を力の限り掴む。
从 ∀从 …ドクオ
('A`) ハイン?
- 26 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:02:54 ID:ZfYdkgz2O
――― お そ い よ ―――
('A`;) あっ!
異常な剛力。
前のめりになっていた体が、ずるりと、穴へ。
( ;・∀・) ドクオッ!?
- 27 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:05:59 ID:ZfYdkgz2O
引きずり込まれ…ふわりと、浮き上がった。
从*^∀从 なーんてね。びっくりした?
穴の底から地上へと軽々跳躍したハインに押し倒された形で、俺はハインを抱き締める。
从*゚∀从 ちょっとだけ、仕返し
('A`) …ごめんよ、ハイン。俺が、俺さえ…
从*゚∀从 でも今日来てくれたじゃん。ドクオは覚えてた。それで良いよ、赦してあげる
( ・∀・) …そんな理由で本当に、赦せるもんなの?
从*-∀从 モラ君、小説で見つけた良いセリフを教えてあげる…『好きっていうのは、それだけで理由になると思うんだ』
('A`)
( ・∀・) …そっか
( A ) ハイン…俺も、俺も好きだった
从*^∀从 うん
(;A;) でも言えなくて…俺、どうしようもないやつだから…ハインのこと、助けられなくて…
- 28 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:09:41 ID:ZfYdkgz2O
- 从*-∀从 気持ちはわかるよ。私だって、子供だったもん。おんなじことしてたよ
(;A;) ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
从*^∀从 だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。また会えたから。最後にちゃんと助けてくれたから
じゃあね。言って、彼女は骨になった。
白骨化した死体は、とても軽くて。
モララーの助けを借りるまでもなく横たえた俺は、警察を待つ間、廃線から見える木陰に座り込む。
( ・∀・) ところでジョルジュ
_
( ゚∀゚) おう
( ・∀・) おまえ、なんでまだ居るんだよ
_
( ゚∀゚) うるせえ。タイミング逃したんだよ
( ・∀・) あいかわらずだな
('A`) …ジョルジュ、ありがとな
_
( ゚∀゚) なにが?
('A`) おまえに言われなきゃ、俺は一生逃げていたかもしれん
- 29 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:11:50 ID:ZfYdkgz2O
- _
( ゚∀゚) ふん、てめーのヘタレっぷりも相変わらずだな
('A`) そうだな…だから俺は、おまえを尊敬していたんだ
_
( ;゚∀゚) はあ?なんだそりゃ
('A`) おまえの行動力や喧嘩の強さ、それに勇気は、俺に無いものだ
( ・∀・) 確かに…いっつも無茶な事考えて、しかも本当に実行しちまうのは、ジョルジュくらいだったな
_
( ゚∀゚) …なあ、ドクオ。そんな物は、要らないぜ。そんな勇気なんてもんがあるとな、自分を大事にしなくなっちまうんだよ
( ・∀・) …
_
( ∀ ) 実は俺、ドクオに憧れてたんだぜ…すっごく、冷静だったからよ…
('A`) なにいって…あ
( ・∀・) 一瞬、だったな
- 30 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:17:17 ID:ZfYdkgz2O
('A`) …あの野郎。勝手に消えやがって…自分の好きな子なんだから最後まで見届けろってんだよ…
( ・∀・) 気が抜けたんだろ
ハインを迎えに行って、ジョルジュが消滅して、これで七年前の続きは全部終わった。
モララーは、そう思っているようだった。
***
- 31 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:19:13 ID:ZfYdkgz2O
- 一段落した、六月下旬。
休日の朝にモララー君はドクオ君から一本の電話を貰います。
( ・∀・) どうした
「なあモララー。お前の考えを訊きたい。ジョルジュについてだ」
( ・∀・) 言ってみろ
「ジョルジュのような勇気なら、無い方が良かったと、本当にそう思うか?」
長年の付き合いからか、モララー君は何となく不安を感じました。
何故今そんな事を訊ねるのだろう?
そう思いながら、モララー君は答えます。
( ・∀・) 無い方が良いさ。決まってる
「そうか。それを聞いて安心したよ。ありがとうな、こんな瑣末な事で電話して」
( ・∀・) 気にするなよ
言葉を返している間も、モララーの不安は大きくなる一方です。
ひょっとするとジョルジュ君やハインリヒちゃんの事で思い詰めてしまっているのではあるまいか?
モララー君は提案することにしました。
- 32 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:20:57 ID:ZfYdkgz2O
( ・∀・) なあ、今から会おうぜ。何処にいる?
「…流石モララーだ…そうだなあ…」
不安が的中していると確信したモララー君は、返事を待たず携帯電話片手に身支度を始めました。
「モララーはまだ覚えてるかな…小さい頃、ジョルジュ達とした約束」
( ・∀・) それは七年前か?
「いや、もう少し前に冒険ごっこの計画を練っていたの、覚えてるか?」
( ・∀・) うーん…あ、思い出した
当時、まだまだ幼いモララー君達にとって、鉄筋コンクリートの高層ビルが建ち並ぶ都会は、好奇心を掻き立てるには十分すぎる、未知の世界でした。
( ・∀・) あの計画か、懐かしいな。結局ボツになったが、あれだとたしか高層ビルの下でかくれんぼするとか…
ここまで言ったモララー君は、ハッ、として乱暴に叫びます。
- 33 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:22:36 ID:ZfYdkgz2O
- ( ;・∀・) ドクオいまどこなんだ!教えろ、何処のビルにいる!?
「約束の場所…かな」
短い笑い声の後、ドクオ君は続けます。
「一生に一度で良いから、ドヤ顔で言ってみたかったのよ…あ、しまったこれただの通話じゃん」
モララー君は約束の場所と聞いて、全てを思い出し、ドアを押し破るかのように部屋から飛び出しました。
「随分派手な音がしたな。大丈夫か?」
( #・∀・) 自分の心配をしやがれ!
「ことわる」
通話を切られた携帯電話があげる、ミシリ、という悲鳴すらも無視して、モララー君は自分のバイクに跨ると、燃費や近所迷惑など気にも留めずに駆け出しました。
- 34 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:28:27 ID:ZfYdkgz2O
- 制限速度など眼中に無いモララー君はしかし、信号無視や一時停止の無視などはしません。
歯ぎしりを、ぎりぎり。
握りこぶしを、ぎゅうぎゅう。
信号待ちをする間、今すぐに飛び出して横断している歩行者と歩行者の間をすりぬけてしまいたい、そう考えるモララー君は、昔友だちから言われた言葉を思い返すことで、何とか衝動を抑え込みます。
( #・∀・) (ジョルジュ、君が褒めてくれた部分は今、僕にとって凄く邪魔だよ。僕も確かに、君のような無謀さが羨ましい)
モララー君は、目的の高層ビルに到着するまで時間が酷くゆっくり流れているように感じていました。
( ;・∀・) ドクオ…ドクオ!
モララー君の呼び出しに応じたドクオ君の携帯電話は、とても嬉しそうな声を伝えます。
- 35 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:31:10 ID:ZfYdkgz2O
「上から見えたよモララー。米粒みたいだったがモララーだと分かった。俺すごくね?」
( ;・∀・) 待ってろよドクオ、絶対待ってろよ!
数年前までは賑わっていた廃ビルの階段は螺旋を描くようになっていて、モララーはその歪な螺旋を辿ります。
「なあモララー、なんでだと思う。何で俺は、夏が好きじゃなくなったのかな。夏が来ると悲しくて、虚しくなる。どうしようもなくなるんだ。歌の歌詞にあったがな、楽しけりゃ笑えばいいんだろう、悲しいときは泣いたらいいんだろう。でも虚しい時はどうすりゃいいのか、教えてくれよモララー」
( ;・∀・) 教えてやる、教えてやるから降りてこい!
「螺旋の上下から、答えを求めて駆けるわけだ。哲学だな、夢枕獏か?」
- 36 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:33:02 ID:ZfYdkgz2O
- その会話の後しばらく、モララー君は足を動かす事に専念します。
会話をしていて、ドクオ君は自分を待つつもりなのだろうと気付いたからです。
( ; ∀ ) ぜっ…ひぃ…
それでもつい走って息も絶え絶えになったモララー君は遂に、屋上へと到着しました。
重苦しい扉を開けてすぐ倒れ込み、足は痙攣を起こしています。まさに満身創痍です。
('A`) …すげえな、おまえ本当に体弱かったのかよ
( ;・∀・) ドッ…クオッ…
ドクオ君は、既にフェンスを越えていました。
ドクオ君はモララーから目をそらすと、遙か彼方を睨みます。
空と雲と山と街並みを。
- 37 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:34:40 ID:ZfYdkgz2O
('A`) 明日は何して、明後日は何しよう。くだらない話で笑い転げて、嵐の予感には胸が高鳴った。あの頃の俺は…俺たちは、確かに、夏を待っていた。でも今の俺は…
モララー君は未だに立つこともできません。しかし両の腕で、はいずる事はできました。
('A`) 俺は思うんだ。人生における絶頂を過ぎた後、生き続けたところでしょうがないかなってさ。家族はいない、恋人はいない、ただ寝て起きて嫌な仕事して飯食って…
それがこの先何十年と続くんだ。嫌いになった夏が何度もやってきて、そのたび俺は寂しくて虚しくなるんだ…モララーには悪いけど、やっぱり寂しいんだ
( ;・∀・) ウサギか、おまえっ…思い出に殺される、なんて、悔しくないのかよ…
- 38 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:37:49 ID:ZfYdkgz2O
- ずるずる、ずるずる。形振り構わず這い寄るモララー君を、ドクオ君は見つめます。
ずるずる、ずるずる。這い寄るモララー君の指は、既に破れています。
( #・∀・) ふざけるなよ…おいてくなよ、俺をっ!あの時は、おまえ待っててくれたのに…なんで今、僕だけを置いてくんだよ!
( #・∀・) そりゃ、気持ちは分かる。ドクオの抱えてるものや、家の事情や、消したい記憶やら、自殺したくなるのも分かる
( #;∀;) でもドクオがいなくなったら、僕は…僕は、誰と思い出話をすればいいんだよぉ!
モララー君は必死に、自身を引きずり続けます。
それをドクオ君は嬉しそうに、そして同時に少しだけ、悲しげに見つめています。
('A`) おまえなら大丈夫だよ、モララー。おまえは強い。これからも生きて行けるさ
- 39 名前:从 ゚∀从夏を待っていたようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:41:31 ID:ZfYdkgz2O
- ( #;∀;) それは、ドクオやジョルジュがいたからじゃないかあああっ!ずるいぞっ!仲間外れなんて、いけないことなんだぞおっ!ドクオ!
ドクオ君は、フェンスに手を伸ばすモララー君に向かって。
('A`) ありがとう…でも悪いな、モララー
('∀`) ここから先は、三人用なんだ
そう、言い残しました。
( ;∀;) ドクオオオオオオ!!
ドクオ君はまばゆい太陽と、青い空を見上げます。
それは幼い頃、部屋で膝を抱えながら見上げていた時と、同じ空でした。
終
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 01:42:13 ID:ZfYdkgz2O
(
)
i フッ
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