それぞれの恐怖のようです(百物語)

74 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:10:36 ID:/gEHtAPkO

「('A`)前を向くようです」


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75 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:13:45 ID:/gEHtAPkO

原曲・amazarashi『未来づくり』

http://www.youtube.com/watch?v=kvPTniLUAh0&fmt=18amazarashi

関連・( ^ω^)百物語のようです2012 告知

http://www18.atwiki.jp/librariberia/pages/240.html

***

彼、ドクオは呟いた。

('A`) 人多すぎだろ…

彼、ドクオはブーン系百物語の会場に在って、全くの独りぼっちであった。
ドクオはブーン系小説シベリア図書館の職員であり、過疎には馴れている。馴れすぎているのだ。
図書館内ですら存在感の薄い彼が孤独感に襲われるのは当然であり、それは彼自身も自明であった。
では何故、ドクオは会場に独りで立っているのか。待ち人が、来ないからである。

('A`) (四人揃って遅刻とか…謀ったとしか思えねえ)

ブーン系小説シベリア図書館の館長であるブーン、司書のアサピー両名は、恋人を連れ会場に行き、ドクオと合流するはずであった。

76 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:15:42 ID:/gEHtAPkO

しかし、単独で直接会場へと向かったドクオと違い、恋人と一緒に向かうブーンとアサピーはドクオとは別ルートで向かい。
結果、交通機関の乱れに巻き込まれ遅れている。

('A`) (…この賑やかな雰囲気の会場内、ぼっちの奴は意外と多い。知り合いさえ見つかれば、同じくぼっちの奴らと差を付けられるのだが…)

ドクオの頭には、同じく独りの者に声を掛けよう、などという発想は無い。
ドクオは、故にドクオである。

('A`) おっ?

気配を消し会場にすっかり溶け込んでいたドクオは、声をかけられる程度には知っている人物を発見した。

( ・∀・) あっ、どうも

('A`) こんばんは。来ていたんですか

( ・∀・) 今し方着いたばかりです。お一人ですか?

77 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:17:35 ID:/gEHtAPkO
('A`) はい。来るはずの同僚達が遅れているので合流するまで、一人です

( ・∀・) よければ御一緒させていただいても宜しいですか?

そうして、ドクオは、モラと名乗る若い男性と一緒に、会場を巡ることに。

( ・∀・) そういえば、以前そちらの図書館の館長さんに栞を貰ったんです

('A`) ああ、うちの司書の提案で配ってたやつですね

( ・∀・) あれ、とても気に入りまして。肌身離さず持ち歩いているんですよ

二人はとりとめのない会話を挟みつつ、貪るように作品群を読んでいった。

恋愛要素の含まれる作品を読んだドクオは、恋人の居るやつが羨ましいですよ、と言うと。

( ・∀・) じゃあ、その指輪

モラは、ドクオがネックレスにして下げている、銀の指輪を指摘する。

78 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:19:19 ID:/gEHtAPkO
小さなダイヤモンドのあしらわれた、ドクオの指には入りそうにないサイズである。

( ・∀・) やはり、何か事情があるものなんですか?以前はしてませんでしたし、最初から気になってはいたんですが…

('A`) …あー、まあ、なんと言いますか…今日は、ちょっと約束がありまして

( ・∀・) 約束ですか

照れ隠しに頭を掻いたドクオは、おそるおそる話始める。

('A`) 自分、図書館で働くずっと前に、軍隊にいたんです。その当時、上司だった年上の女性に、惚れてまして

兵として、上官として、指揮官として、人間として、友人として、女性として。
ドクオは憧れていた。

('A`) 彼女は有能で、それでいて可憐な人でした。自分は強く惹かれましたが、彼女の家柄もあり、言い出すことができませんでした

( ・∀・) 辛いですね

79 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:25:44 ID:/gEHtAPkO
('A`) ありがとう…ですが、在る程度仲良くなれました。よく傍にいて、たくさん話して…それで良かった。この指輪は

ドクオは、無意識に指輪を握りしめた。

('A`) 俺が、色々あって辞める事になったら、彼女に渡されたんです

***

ハソ ゚−゚リ ドクオ、これを預かってはくれまいか?

('A`) 大尉、これは…

ハソ ゚−゚リ 母の形見だ…近く、長い作戦に駆り出される。もし、生きて帰れたら必ず取りに行く。だから、預かっていて欲しいのだ

( A ) …

ハソ ゚ー゚リ 辛く、寂しそうな顔だな、嬉しいぞ。貴様には、できれば泣きついて欲しかったが

('A`) 大尉…こんな大事な物をお預かりする自信が、自分にはありません

ハソ*゚∀゚リ ぷっ…はーっはははっ!やはりドクオはドクオだな。くふふ…

80 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:29:50 ID:/gEHtAPkO

ハソ*゚ー゚リ そんなんだから、ドクオに持っていて欲しいのだよ

***

( ・∀・) …

('A`) その日から、持っているんです。似合わないから、普段は服の下に隠していますが、渡された日だけはこうしているんです…偶然、百物語の開催期間と被るなんて、なんだか妙な話ですけどね

( ・∀・) そうでしたか…いや、なるほど。納得しました…

深く頷くモラは、ドクオの肩に手を置いた。

( ・∀・) 安心しました。そういう理由なら、大丈夫そうですね

('A`) えっと、話が見えないのですが…

( ・∀・) ああ、すみません。ちょっと一人で感動しすぎちゃいました…ドクオさん、いいですか、良く聞いて下さい

('A`) ?

82 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:32:16 ID:/gEHtAPkO

( ・∀・) この会場、百物語という方式も相まって、僕らのような存在には、実に居心地が良いのです。だから、何があっても驚いて、取り乱してはいけません。ありのままを、事実を、受け止めて下さい

急にまくし立てるモラを不審がりつつ、ドクオは頷く。

( ・∀・) それでは、あちらを御覧になって下さい

モラが指し示した方向。

その先には、人垣の間に独りで立つ女性がいた。
男心を擽るよう計算された、大胆かつ控えめな露出の、黒を基調としたドレスに身を包むその優美な女性は、ドクオと目が合うとにっこり微笑んで見せた。

('A`) …大尉

気付けばドクオは、その女性の手を取っていた。

ハソ ゚ー゚リ ひさしぶりだな、ドクオ

彼女は悩ましげに溜め息をつくと、ドクオの頬に優しくふれた。

83 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:37:57 ID:/gEHtAPkO

ハソ*゚ー゚リ くふふ…不思議なものだな。貴様とこうして会うなど、不可能だと思ったが…諦めきれなかったのだろうな、私は

('A`) 大尉…

ハソ ゚−゚リ ナチと呼べ。私はもう、昇進してしまった。だから貴様には名前で呼んで欲しい

ドクオは胸が強く締め付けられたように感じる。

ドクオは、去年ようやく、彼女の死体の一部が奇跡的に発見された事を知っていた。

モラの言葉から、ひょっとしたら、と覚悟はしていたのだが、生きていない存在として再会するのはやはり辛いのだった。

('A`) ナチ…さん

ハソ*゚ー゚リ …変わらんな、ドクオは。安心したぞ…ああ、本当に、物語のように、ドクオに会ったら話そうと考えていた事がどうでもよくなって、忘れてしまった。
分かるかドクオ、私は感極まって、今にも泣き出してしまいそうだ。この私が、両手どころか全身返り血まみれの私が無垢な生娘のようにはしゃいでいるのだよ

84 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:43:35 ID:/gEHtAPkO
ドクオはたまらず彼女を抱き締めた。彼女もそれに応える。

('A`) ナチさん…すみません、俺は、何があっても、何を犠牲にしてでも、貴女の部下であるべきでした

ハソ ゚−゚リ 馬鹿なことを言うな。貴様が民間人に戻ればこそ、私は最期まで戦えたのだ。一番大切な貴様に戦死されたら、私はまともに指揮できなくなる

('A`) しかし、自分は後悔しました。自分は昔から逃げてばかりで、そんな情けない自分を支えてくれた貴女からさえも、逃げてしまった…

ハソ ゚−゚リ ドクオ。それは私も同じだよ。私は家を捨て、貴様に逃げ込むべきだったと悔やんでいる。私の見ていた夢はな、ドクオ。
貴様に「ただいま」と言って、「おかえり」と返してもらう…ただそれだけだった

('A`) …

85 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:45:31 ID:/gEHtAPkO

ハソ ゚−゚リ 私は臆病だ。複雑怪奇な自分の心を持て余し、それでも他人の心が欲しくなる。心をさらけ出すのは、私や貴様のような人間にとって、ひどく怖い

('A`) そう、ですね

ハソ ゚−゚リ だから、もう何も言わずに、せめてこの僅かな一時だけ、抱き締めてくれ

ハソ*^ー^リ それだけで、もう、いいんだ。満足できるんだ、私は

ドクオは強く、とても強く、彼女を抱き締めた。

ハソ ゚ー゚リ …ドクオ。貴様は、胸を張れ。貴様は胸を張り堂々と生きるべき人間だ。私が保証する。誰が否定しても私が肯定する。良いな、ドクオ

(;A;) …了解しました、ナチさん

ハソ ゚ー゚リ 涙をふけ。折角の良い顔が台無しじゃないか

彼女は指でドクオの涙を拭いとり、そのまま胸の指輪に触れた。

86 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:47:14 ID:/gEHtAPkO
ハソ ゚−゚リ よくぞ、預かっていてくれた。今、確かに受け取ったぞ。ありが
とう…それでは、な

('A`) …忘れません

ハソ ゚−゚リ だめだ、忘れろ

('A`) いえ、自分は…

ハソ ゚−゚リ と。言いたいところだが、やはり寂しい。そうだな…

('A`) …

ハソ ゚−゚リ では、忘れないで欲しい。その代わり…貴様は、前を向いてゆけ

('A`) 了解

ハソ*゚ー゚リ こらこら、民間人になったのだから、敬礼などいらんよ…じゃあね

毅然とした態度で出口へと歩く彼女を、ドクオは直立不動で見送る。彼女が、蝋燭の灯りを吹き消すが如く掻き消えてしまうまで、ドクオは見つめていた。

('A`) …

( ・∀・) ドクオさん

('A`) …モラさん、色々と分からない事だらけですが…ともかく、ありがとうございました

87 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:48:37 ID:/gEHtAPkO

( ・∀・) 指輪、返せたんですね

ドクオの首には、細い鎖だけのネックレスが下がっている。

( ・∀・) さて、それじゃあ僕もいきます。館長さん達が来るでしょうから

('A`) …せっかく知り合えたのに、残念です

88 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:53:36 ID:/gEHtAPkO

( ・∀・) ありがとう。でも、僕が選んだ事ですから

('A`) そうなんですか?意外だな

( ・∀・) 僕にとって最良の選択でした…そうそう、館長さん達には、僕の事黙っていてください

('A`) なにも、伝えなくて良いんですか?

( ・∀・) ええ。伝えない事が最善なんです

***

( ;^ω^) おーいドクオ、またせてすまんお

ξ;゚听)ξ ごめんなさいね、ドクオ

(-@∀@) 申し訳ない…

ハハ ロ -ロ)ハ すみません…

('A`) 良いさ、気にしてないよ。手を繋いでみせつけやがってバカップルどもめ

ハハ;ロ -ロ)ハ あの、本当ごめんなさい

(-@∀@) 大丈夫ですよハローさん。彼なりの冗談ですから

89 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:57:24 ID:/gEHtAPkO

('A`) (アサピーよ…ハローさんとよろしくし始めてから変わったな…そんな余裕そなえやがって畜生リア充め。才色兼備な眼鏡っ娘とかそれなんてエロゲ?)

( ^ω^) あれ?ドクオ、おまえ…泣いてたのかお?

ξ゚听)ξ あらやだ、あなた涙の痕があるわよ

('A`) え、まじ?バッカちげーし、ただの汗だし

ハハ ロ -ロ)ハ そんなに独りぼっちが嫌だったんですか?

ξ゚听)ξ 普段から馴れてるんだし、それは無いと思うわよ

('A`) さらっと抉るねキミ…そんなんじゃないんだ

( *^ω^) あっ!わかった、泣くほど怖い作品があったのかお?

(-@∀@) なるほど、納得ですね

('A`) まあ、そんな所かな

( *^ω^) あっ!泣くほど怖い作品があったのかお?

(-@∀@) なるほど、納得ですね

('A`) まあ、そんな所かな

( *^ω^) よし、僕らも早速読み始めるお!

ξ*゚听)ξ はいはい、わかったから待ちなさいってば

(*-@∀@) いきましょうか

ハハ*ロ -ロ)ハ はい

('A`) …

( ^ω^) ドクオ、早く来るお!

90 名前:('A`)前を向くようです 投稿日:2012/08/13(月) 01:59:26 ID:/gEHtAPkO
('A`)…



(*'∀`) ああ、今行くよ


ドクオは、鎖だけになったネックレスを外し、ポケットに突っ込んだ。




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