- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:39:39 ID:YJtPiSP20
「お忙しいところ、どうもすいません」
「いいえ。それで用と言うのは?」
「ちょっと、見てもらいたいビデオがあって」
「ビデオ?」
「はい、先生なら何か分るんじゃないかと」
「……よく話が見えないけれど、いいわ見てみましょう」
「ありがとうございます、いま、準備してるので、適当なところにどうぞ」
「ええ」
.
- 2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/08/17(金) 23:40:20 ID:YJtPiSP20
「オカルト研究会、だっけ?」
「はい」
「理科室で活動してるんだ」
「今のところはそうです」
「…理科室って、何だか不気味ね」
「そうですか?僕は結構好きです」
「人体模型とか、苦手だわ」
「……出来ました、じゃあ再生しますね」
─────────────────────―――――――――――
- 3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/08/17(金) 23:41:14 ID:YJtPiSP20
( 百
) ) 物
( :( 語
)::) り
,,,,,(/ チリリ… の
, '´;;;;,.、゙ヽ, よ
/w、ソ ) 丿 う
_〈 i_ で
i´  ̄ `i す
{゙ ̄ ̄ ̄ ̄'}
_{ー‐==―}_ 二
!´ ! ! `! 第 ○
,..‐''"~゛ 、,,. ヽヽ .,, '' `~"'' 、 一
/ `'''''''''''''、´、 ヘ 4 二
i ヽ ヽ i 2
|ヽ _ ) 〉 _ノ | 本
! ` 、、,,__, ,- ‐''"~ ノー''´ ...:::! 目
ヾ ミ::xXXX_ , -‐''"~´ ...:::::::/ 之
\_;;...´`゙゙゙´...............,,,,,,,,,,,,.;;;;;;_/ 噺
ミ二二二二二二二二彡 °
- 4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/08/17(金) 23:41:56 ID:YJtPiSP20
,'
(:'
', )) み
} /(
,' ノし'::: :ヽ
,イ: :: : :: ::V) え
、ゝ: : : ::(ノ} ボ゚ッ…
ヽ: ::, '´::; :: :/
/w、ソ ゞ''/ た
_〈 i_
i´  ̄ `i
{゙ ̄ ̄ ̄ ̄'} よ
_{ー‐==―}_
!´ ! ! `!
,..‐''"~゛ 、,,. ヽヽ .,, '' `~"'' 、 う
/ `'''''''''''''、´、 ヘ
i ヽ ヽ i
|ヽ _ ) 〉 _ノ | で
! `、ー、___, - ‐''"~ ノー''´ ...:::!
ヾ ミ::xXXX_ , -‐''"~´ ...:::::::/
\_;;...´`゙゙゙´...............,,,,,,,,,,,,.;;;;;;_/.::::::::::::.... す
ミ二二二二二二二二彡.::::::::::::::::::::::::. °
- 5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/08/17(金) 23:42:40 ID:YJtPiSP20
- ─────────────────────────────────
v( ^ω^ )v 『イェーイ』
数秒間青い画面が続いた後、初めに映し出されたのは小太りの男子学生だった。
カメラに向かい両手をピースにし満面の笑み。はしゃいでいるのが一目でわかった。
その後も、カメラチェックのつもりなのか、妙な動きをする彼が映り続けている。
『おいブーン、仮にも肝試しなんだから、あんまりはしゃぐなよ』
カメラマンだろうか。画面外のごく近くから放たれた声が彼、ブーンを諌める。
細いが低い、暗い印象を受ける声だった。
( ^ω^ ) 『そんなこと言っても、こんな真昼間じゃムードも何も無いお』
『だから、せめてお前がムード作るんだろ、馬鹿』
( ^ω^ ) 『えぇ…ドクオが夜はイヤだって言うから昼に来ることになったのに…』
『それをいうな。馬鹿』
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:43:29 ID:YJtPiSP20
カメラマンのため息のあと、なにやらカメラを操作するノイズが入る。
大きくぶれた視点がぐるりと向きを変え、ブーンとは別の少年の顔を映し出した。
被写体の近さ、角度の度合いから見て、自分で自分を撮っている画だろう。
('A`) 『えー、どうも。ビップ高校、映研部のドクオです』
『ブーンだおー』
('A`) 『えー、本来は泣く子も黙るミステリー映画を撮る予定だったんですが』
『部長も黙る低予算の都合により、肝試しの実況を撮ることになりましたお!』
(;'A`) 『お前は画面の外から余計なことを言うんじゃねーよ!』
ω^)『ブーンだってうつりたいお!』
(;'A 『馬鹿ッ!いきなり割り込んでくんな!』
カメラの奪い合いが始まったのか、画面が大きく左右にぶれる。
手や、ストラップがぶつかっているのかゴトゴトと耳障りの悪い音が続いた。
見るに耐えない時間だったが、妙に周囲が映りこんだため
この撮影現場がどんな場所であるかはなんとなく察しがつく。
- 7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:44:33 ID:YJtPiSP20
雑木林、あるいは山の中だろう。
こげ茶色の木の幹や、屋根のように頭上を覆う枝葉が確認できた。
ついでに、ブーンとドクオ以外に人がいないことも分かる。
(;'A`) 『ゼェ…はぁ』
『コポォwww、貧弱なドクオにブーンが負けるわけないおwww』
(;'A`) 『あー、もういいよ。お前そのままカメラマンな』
『えっ?』
('A`) 『カメラ持ってる奴が持ってない奴を撮るに決まってんだろ』
『そんなことって、ないお……ブーンは誰よりも目立ちたかっただけなんだお……』
('A`) 『いいから、ちゃんとカメラ構えろ』
どうやら、茶番は終わったらしい。
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:45:23 ID:YJtPiSP20
('A`) 『ええ、ん、ん』
画面中央、腰程から上だけ映されたドクオが、口元に拳を当てわざとらしい咳払いをした。
夏仕様の学生服に隠した身体は頼りなく、その大人気取りの動作がまったく似合っていなかった。
('A`) 『俺たちは、学園祭に上映する企画映像として肝試しの実況撮影を行います』
('A`) 『場所はこちら。備布市佐下町の雑木林にあります、あの一軒家』
ドクオが視線を誘導するように右手で自らの後ろを指した。
カメラがそれに従い、ドクオの後方をズームアップ。
すると、鬱蒼と茂る草むらの向こうに確かに家らしきものがあるのが見えた。
画像が荒く手振れが酷いため、具体的な様子が分らないまま、焦点はドクオに戻る。
('A`) 『備布市に住んでいる人間ならば、聞いたことがあると思いますが…』
ドクオの声が一段低くなり、含みを持ったものに変わる。
どうやら先ほど彼自身が言っていたムード作りに挑戦しているらしい。
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:46:20 ID:YJtPiSP20
('A`) 『今から八年前。僕らと同じ十代の女の子が三人誘拐され、数ヶ月の監禁の後殺害されました』
('A`) 『その殺害方法は凄惨で、鈍器のようなもので顔を、元が分らなくなるほど殴ったんだそうです』
('A`) 『犯人は未だ捕まらず事件は迷宮入りとなってしまいました……』
('A`) 『……察しのいい皆さんならば、もうお分かりだと思いますが』
('A`) 『そう。あの家こそが、少女達が監禁され殺された、事件現場なのです』
ドクオが真剣な顔でカメラを睨み、押し黙った。
風が吹き背後の草が僅かに揺れた。ボボボ、とノイズが入る。
('A`) 『じゃあ、いこう、ブーン』
ドクオがカメラに背を向け歩き始めた。
カメラを持つブーンもそれを追い動き出す。
草や小枝を踏みつける音が響き、画面が大きくぶれた。
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:47:05 ID:YJtPiSP20
('A`) 『ついた』
独り言のようにドクオが呟く。
草木を踏み倒し進むこと五分弱、件の廃屋の前にたどり着いた。
カメラには木に覆われ朽ち果てた木造の廃屋の様子が映し出される。
錆びて虫食いのように穴の開いたトタン屋根。
黒ずんだ壁は今にも自重で崩れてしまいそうなほど頼りない。
ガラスの保護か別の理由か、窓はベニヤで塞がれていた。
絶好だ、と言いたくなったのだろう。
一瞬だが、カメラの端でドクオが会心の笑みを見せた。
鬱蒼とした木々の中、シミのように佇む虚ろな廃墟。
映像作に残す肝試しの撮影場所としては、中々趣がある。
('A`) 『以前からここでは女の子の助けを求める声を聞いたなど……』
『前置きはそこそこにしないと、テープと電池がもたねーお』
('A`) 『……わかったよ』
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:48:00 ID:YJtPiSP20
( 'A) 『以前から、ここでは女の子の声を聞いたり、謎の人影を見かけたりと……』
ブーンに諭されてもやはり前置きは入れておきたかったのか、ドクオは廃屋に近づきながらも
半身をカメラに向け、この場にまつわる「いわく」を話し続けた。
その内容は、何かしらの怪談で聞いたことのあるありがちなモノばかりで
大仰に語るドクオの口調のせいか余計に胡散臭く聞こえる。
('A`) 『…じゃあ、入るぞ』
ガタガタと、建て付けの悪そうな音を立てながら引き戸が開く。
錠をかける金具があったが鍵はかけられていないようだ。
入ってすぐの土間こそ入り口から入る外の光で明るいが、家の中は暗かった。
まっすぐ家の奥に見える台所らしいが、よく見えない。
ドクオが靴を履いたまま板間に上がる。慎重な足運びだったが、ギシギシと木の軋む音が立つ。
( 'A) 『大丈夫みたいだ。来いよブーン』
『待ってお、今明かりつけるお』
携帯電話のライトだろうか、先に立つドクオを白い光が照らした。
それを見て思い出したようにドクオも携帯電話を取り出し、ライトを点す。
ぼんやりとして頼りないがが狭い室内であれば十分足りそうな明かりだ。
カメラがゆっくりと壁を映す。屋内だからだろうか。外観に比べればまだ無事のようだ。
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:48:58 ID:YJtPiSP20
('A`) 『えっと、事前情報の情報によると、犯行が行われたのは、奥の和室らしい』
ドクオがカメラに向かって見取り図を見せた。
手書きのようだが、どこか草臥れた古い印象を受ける。
────────────────────────────────────
見取り図: 裏口
┏━━──━━┳━━──━━━┳ ━━───━━┓
┃ ┃ ┃ ┃
│ 和 室 ┃ 洋 室 ┃ ┣━━┳━─━━┓
│ 【犯行現場】 ┃ ┃ 台 所 ┃脱衣│ 風呂┃
┃ ┃ ┃ ┃ 所┃ 場┃
┃ ┣━━━━━─━┛ ┗─━┫ ┃
┃ │ ┗┳━━━┫
┣━━━━━━┻━──━┳━━━━━──━┓ │ W.C ┃
┃ ┃ ┃ ┏━──┻━━━┫
┃ 座 敷 ┃ 居 間 ┃ ┃ ┃
┃ ┃ │ │ 和 室 ┃
┃ ┃ │ │ ┃
┣━━┳───────━┫ ┃ ┃ ┃
┃収納│ ┗━━─────━┫ ┣━━──━━━┛
┃ │ ┠──┨
┗━━┻───────━━────────┫玄関┃
────────────────────────────────────
('A`) 『……ここはメインディッシュだな、まず和室からにしよう』
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:49:38 ID:YJtPiSP20
ドクオは見取りを畳んで学生服のポケットにしまう。
玄関から見て右手に襖があり、見取り図が正しければ和室に通じているはずだ。
そろり、とドクオが慎重な足運びで襖に近づく。
襖は茶色く滲んだ色をいていた。
ドクオがゆっくり襖を開ける。
バーン!っと、何かが出てくるということも無く、極普通の、暗い和室がそこにはあった。
左手にもう一つ襖があるが、そちらは空いたままになっており、奥にトイレの扉が見えた。
ドクオとカメラは和室の中へ。
畳みに靴底がすれる音が、小さく反響する。
( 'A) 『……入る前から思ってたけど、こんだけミッチリ塞がれてると不気味だよな』
ドクオの視線をカメラが追う。
そこには家の正面を向いた窓があるが、表で見た通り板で塞がれている。
ガラスは無事なようで、ライトをかざしてしてカメラを構えるブーンの姿を映していた。
『…特別何もないおね』
ガラス越しに自分を見るのが不気味だったのか、ブーンがカメラをドクオに向けた。
ドクオは天井を見上げていたが、視線をカメラに向け顎で「次に行くぞ」と促す。
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:50:24 ID:YJtPiSP20
二人は入ったのとは別の襖から出て、次にトイレの扉の前に立った。
ドクオの指示でブーンがその扉を開くことになる。
開けた瞬間何かがあればカメラに写るから、という理由だ。
『それならドクオがカメラ持てばいいじゃないかお…』
雰囲気に気おされたからか、余裕の様子だったブーンの声に力が無い。
ライトに照らされたトイレの扉はいかにも不気味だ。
ブーンは大きく「ふー」と息を吐くと、ノブに手を掛け、一気に開こうとした。
が。
『…あれ、あかないお』
ブーンが何度か扉を引いてもがちゃがちゃと金具のぶつかる音がするだけで開く気配が無い。
ドクオが代わってみるも結果は変わらず。結局開くことは無かった。
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:51:06 ID:YJtPiSP20
( 'A) 『鍵が壊れてんのかな。仕方ないし次行こうぜ』
『なんか気味わるいお……』
( 'A) 『気味悪くない肝試しなんて無いだろ』
そうぶっきらぼうに返すドクオの声にも緊張している気配がある。
二人はその後も風呂場、台所、居間、収納、座敷と肝試しを続けたが、
心霊の類と出くわすことは無かった。
それぞれの部屋も、家具の類はほとんど残っておらず、見る場所も少ない。
手に汗を握って進むも結局何も無い展開が続き、見ている側としては少々飽きが出始めた頃。
座敷の探索を終え洋間へと向かう。
洋間前の廊下から、玄関の光が見える。
いくらか反射しているらしく座敷よりは少々明るい。
しかし、洋間の中はライトがなくては何も見えないほど暗かった。
ブーンはライトを回し部屋の中をカメラに収める。
カーペットが敷かれ、和室側に備え付けらしい大きなクロゼットが一棹ある以外に家具は無い。
クロゼットを慎重に開いたものの、やはり何も入っていなかった。
('A`) 『……仕方ない、次行くぞ』
『……ちょっと待っておドクオ』
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:51:48 ID:YJtPiSP20
洋間を出ようとしていたドクオをブーンが引きとめた。
ドクオが近づく音がした、カメラはカーペットを写している。
ブーンは携帯電話を床に置き、空いた手でカーペットの表面を摘まむ。
ゆっくりと持ち上げたその指には長い髪が一本、垂れ下がっていた。
普通に考えて、男では珍しい長さだ。
─────────────────────────────────────
『僕らと同じ十代の女の子が三人誘拐され、数ヶ月の監禁の後殺害されました』
─────────────────────────────────────
ブーンが咽を鳴らしたのがカメラ越しにも聞こえるようだった。
カメラに髪の毛をしっかりと映した後、ブーンはそれをそっと床に戻す。
二人は洋間を出て、ついに件の和室の前に立った。
扉は襖だが紙が剥がされ中の板がむき出しになってる。
家の中の他の場所に比べてもあまり状態が良くない。
(A` ) 『開けるぞ』
ドクオが取っ手に手を掛け半身をカメラに向ける。
表情は硬く、額の汗がライトを反射していた。
ここまで率先して先導してきたドクオだが、彼も恐怖を感じないわけではないらしい。
カメラが縦に小さく動く。
ブーンが頷いたのだと予想がついた。
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:52:29 ID:YJtPiSP20
扉は、するりと開いた。
ドクオが携帯電話で足元を照らしながら部屋へ入る。
カメラもドクオの背中を映しながら中へ。
中は相変わらず暗い。ライトの光が無ければカメラには何も映らなかっただろう。
ブーンがライトを当てながらぐるりと部屋を撮る。
他の部屋に倣い家具の類は一切無く、窓も同様に塞がれている。
壁も全体的にくすんではいるが特に不審なところは無い。
残るは、入って右手、洋間側にある押入れだ。
入り口同様、襖の紙は剥がされていた。カメラが近づくと所々ささくれ立っているのが分る。
('A`) 『ブーン、開けるから、よく撮っとけよ』
そう言うドクオの声は堅く、緊張が伝わってくる。
ブーンは襖がよく映るように数歩下がった。
ドクオは右手に携帯電話を持ち左手を襖にかけた。
ゆっくりと、押入れが口を開ける。
ドクオが恐る恐る中を覗く。
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:53:11 ID:YJtPiSP20
( 'A) 『……ブーン、来いよ』
カメラがドクオに近づく。
ドクオは顎で押入れの上段を指した。
二人のライトで照らされる中を、カメラが映し出す。
押入れの中で黒い何かがとぐろを巻いていた。
一見すると蛇にも見えたが近づくと年季の入ったロープであることが分る。
他にも、ロープより奥にライトの光を反射する何かがあった。
ドクオが身を乗り入れ、それを取り出し、カメラに向けた。
『……手錠?』
ブーンの言葉通り、それは手錠だった。
銀色で造りの確りした本物の拘束具だ。
ドクオの手がぶれる度に、金属の擦れる小さな音をマイクが拾う。
『こんなもんがあるって事は…』
心なしか、ブーンの声は震えていた。
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:53:55 ID:YJtPiSP20
( ') 『ああ、このロープといい、この押入れに監禁してたんだろうな』
ドクオの声のトーンが明らかに下がっていた。
ブーンが身を揺すったのか、ガサリとノイズが入る。
重たげにとぐろを巻くロープを映すカメラは、手振れが増え、どこを映すか迷っているようにも見えた。
『ブーン、ここ』
ドクオが今度は下の段に潜り、ブーンを呼ぶ。
カメラが下段へ。
膝をついて上半身を押入れに突っ込んだドクオの指が押入れの奥の壁を指している。
ドクオと入れ替わるようにブーンが中へ。
先ほどドクオが指差していた押入れの奥にカメラを向ける。
白いライトに照らされている中、はっきりと黒い滲みがあるのだ
『それって、もしかしてさ……』
ドクオは最後を濁したが、恐らく何を言いたいのかは伝わったのだろう。
カメラはやや急ぐように押入れから抜け出す。
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:54:56 ID:YJtPiSP20
『ドクオ、なんか気味が悪いお。バッテリーも無くなっちゃうし早く帰ろうお』
('A`) 『いや、もう少しさ……』
がたんっ
突然の物音。
ドクオの言葉が途中で止まり、視線は部屋の入り口の方へ。
カメラもそれに倣う。
携帯電話の弱い明かりでは光が届かず、廊下の先はまったく見えない。
しばし黙って入り口を撮り続けていたが、何も怒らず焦点はドクオに戻る。
ドクオは額から汗を流しながら、未だに廊下を見ていた。
『今の、玄関の方からしたおね』
( 'A) 『…ああ』
『風かおね』
( 'A) 『さあな』
『もう帰ろうお』
('A`) 『…そうするか』
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:55:41 ID:YJtPiSP20
二人の意見が一致した瞬間、ピピと電子音が響く。
どうやらドクオの携帯電話の充電が尽きたようだ。
『あー、やっぱりもたなかったか』とドクオが呟く。
和室前の廊下で相談し、ブーンが先に行きドクオが後ろをついていくことになった。
来た道とは別の、台所へ直通する廊下をブーンはゆっくりと進む。
片手にライトを、片手にカメラを持っているせいか、妙に慎重だ。
床の軋む音、衣擦れの音、そしてブーンの鼻息らしき音が聞こえる。
行く先も暗く、ライトの光が間に合わない。
踏みしめるような歩みで台所の前に着いた。ここまでくればすぐである。
来るときに開け放しにしていたため、玄関付近はライトが無くとも明る――――くない。
間違いなく、玄関から伸びていたはずの光が無い。
そういえば、部屋を出た時点から、廊下の先に光は無かった。
『……あれ?』
ブーンもそれに気がついたのだろう。
台所は一瞥もせず、足早に玄関前の廊下へ出て、玄関をライトで照らした。
扉は、閉まっていた。
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:56:37 ID:YJtPiSP20
「ひっ」と息を呑んだ音。
ここに来たのは彼ら二人。どちらかが閉めに戻る時間は無かった。
恐らくは奥の和室にいた時のあの音だ。あの時に、「何者か」が扉を閉めたのだろう。
その目的はまったく持って不明だが、この状況では楽観的な発想には至らない。
閉じ込められた。
ブーンもその考えに至ったのか、途端にカメラの動きに落ち着きが無くなる。
『ドクオ、なんかやばい―――――お…?』
カメラは玄関に向いたまま、ブーンがドクオに話しかけるが、それは消えるように途切れた。
ライトとカメラの焦点がぐるりと切り返す。
そこには、誰もいなかった。
どこから、いつからいなかったのか定かではないが、ブーンが焦った様子で探し出しても
すぐに見つからなかったことを考えると、今いなくなった訳ではないらしい。
置いて逃げるという発想は元から無いのか、ブーンは来た道を戻りドクオを探した。
最早泣き出しそうな声で必死に友人の名前を呼ぶ。
しかし、その努力虚しく、ドクオが再びこのカメラに映ることは無かった。
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:57:36 ID:YJtPiSP20
ドクオを探すためカメラの視点が振り回される間、
この映像を見ていた者はもう一つ気付くことがあった。
友人を見失った焦りからか、ブーンは中々それに気付かない。
やっと彼がそれを認識したのはドクオを探すあてを失い、
再び玄関前の廊下へ戻った時のことだった。
『ぁあ』
その絶望が気体になって漏れ出したような声と、
カメラの映す光景を見れば彼がそれに気付いたことは簡単に推測できる。
トイレの扉が、開いていた。
あの時、二人がかりで開けようとしてもびくともしなかった扉が、だらしなく開いている。
中は何の変哲も無い和式便所だったが、問題は何故それが開いているのか、だ。
『……ドクオ?』
声になりきらない声でブーンが呼んだ。
カメラがぐるりと動き、台所へと向きを変える。
相変わらずそこには誰もいない。
が。
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:58:36 ID:YJtPiSP20
-
ぎしっ
床板の鳴る音。ただの家鳴りではない。
明らかに誰かが歩いてきている。居間の角が邪魔で何かは分らない。
ぎしっ
ブーンは硬直しているのだろう。カメラは、ブレはしても動かない。
緊張が心臓の音に変わり聞こえそうなほどだった。
ぎしっ
.
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/17(金) 23:59:22 ID:YJtPiSP20
『ドクオ、かお…?』
ぎしっ
返答は無い。足音はもうすぐそこだ。
頼りない明かりは、壁で見えない足音の主を照らそうと虚しく光る。
ぎしっ
見えないが、いる。
すぐそこだ。
壁からチラリと何かが覗いた。
どすん。
ブーンが後ずさろうといて尻餅をついた。視点が低くなる。
そして。
- 27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:00:09 ID:MLgFQMn60
-
ぎしっ。
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:00:57 ID:MLgFQMn60
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|::::| ト:::::::::::|:::::| :;韆鬱爨鸚欟驤顳蠶鱶靉籬齶廳髓驗: |::::::::::::::|:|::|:::::::!
ヽ| !:ヽ::::::ヽ::| ;艷呪齧齶鑿饕霾鉤s攪*巖讌顯欒轤 |:::::::::::;/::|::|:::::::|
ヽ|::|\:::::::ヽ! ;廳籥O韈靨鷸讎黐櫺囂蠡麝辯鬱爨矚 |::::::::::/::::|::|:::::::|
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|::::|:::::::::::::::ヽ 鸛欟驤顳蠶鱶鸞鬱G鑿靉籬齶黌驫;|/:::::::::::::::::|::::::|
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『――――――――――ッ!!!』
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:01:42 ID:MLgFQMn60
意地か気合か無意識か、辛うじて構えられたカメラは、「彼女」を確りと映していた。
腰ほどまである長い髪に、白い布を巻いただけのような服。
力なく垂れ下がった手は、布に負けぬほど白い。
何より特徴的なのはその顔。
肉をこそぎ落とし血で塗り固めたようにのっぺりとしている。
少なくとも、目も鼻も口も、そこには無かった。
───────────────────────────────────
『鈍器のようなもので顔を、元が分らなくなるほど殴ったんだそうです』
───────────────────────────────────
ぎしっ
一歩、顔の無い女が近づく。
ごとりと音がして、明かりが急激に弱くなる。
ブーンが携帯電話を落としたのだ。
『あ、あ、』
声で分る。ブーンは限界だった。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:02:31 ID:MLgFQMn60
『ああああああああああああああああああ!!!!』
叫びの後、激しいブレと衝撃音が走る。
ブーンがついにカメラを手放したのだ。
視点はぐるぐると回った後、ライトを下に伏せるようにして落ちている携帯を映し出した。
僅かな隙間から漏れる光と、携帯電話が映し出される。
同時にバタバタと慌しいノイズが直下で響く。
ブーンが逃げる音、床を伝ってカメラに直接届いている。
がたた、と扉を開ける音がした。光の筋がカメラの前に浮かび上がる。
少し開いた隙間に身体をねじ込んでいるのか、開けるのとは別種の激しくぶつかる音も聞こえた。
『ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!』
扉の音が止んだ。ブーンの悲鳴が遠くなっていく。
ぎしっ。
足音。置き去りにされた携帯電話の間に、白くか細い足が現れた。
映像は、ここ終わっている。
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:03:13 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「ここまでです」
ビデオが止まって一分弱の沈黙を払おうと、出来るだけ明るい声でそう言った
しかし、重くなった視聴覚室の空気はその程度ではびくともしない。
川 ゚ -゚) 「……」
古く大きいブラウン管テレビの正面、青くなった画面を見つめ続ける女性。
椅子に几帳面に腰を落ち着け、背筋をぴんと伸ばした姿は美しい。
砂尾冷子。一週間前からこの学校に赴任した教育実習生だ。
彼女は僕らの先輩、つまりこの高校の卒業生でもある。
僕がこのビデオを彼女に見せた理由はそのへんの事情に起因する。
(´・ω・`) 「色々調べてみたところ、この人達は21期生、丁度クール先生と同期なんです」
クールというのは赴任二日目で彼女についたニックネームだ。
冷子という名前と、彼女の涼しげな態度からつけられた。
あまりにしっくりきたので今では教育係の先生まで彼女をそう呼んでいる。
(´・ω・`) 「知っていますか?」
川 ゚ -゚) 「……ええ、知ってるわ。二人とも、ね」
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:03:55 ID:MLgFQMn60
今、ここ、オカルト研究会の部室兼理科室には僕達しかいない。
僕は先生の座る最もテレビに近い実験台に向かい合うようにして座った。
先生の二重の目が僕を捕らえた。黒く大きな瞳に吸い込まれそうになる。
思春期の男して三分くらい見つめていたい気持ちになるが、本題を忘れるわけにもいかない。
(´・ω・`) 「ちなみに、ブーンさんは先生の恋人だったりしますか?」
川 ゚ -゚) 「?いいえ、そういうことはないけれど、なぜ?」
(´・ω・`) 「いえ、なんとなくそう思っただけです」
川 ゚ -゚) 「……恋人ではないけれど、仲のいい友達ではあったかな」
先生は視線を外し、窓の外を見た。夕方の朱色の陽光が頬に差す。
憂うような悲しんでいるような影を感じたのは恐らく日差しのせいではない。
(´・ω・`) 「このビデオが、廃部になった旧映研のビデオから発見された時、色々調べたんです」
川 ゚ -゚) 「オカルト研究会、だから?」
(´・ω・`) 「正確には僕が、オカ研に入るほどその手の話に興味があるから、です」
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:04:36 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「――でも、肝心のこのビデオについてはロクな情報は入手できませんでした」
川 ゚ -゚) 「そこに、当時を知る私がやってきたと」
(´・ω・`) 「はい。元映研だと聞いて胸が躍りました」
君は変わってるね、と小さく呟かれた。
特に否定もせず少しだけ笑い小首を傾げて見せる。
(´・ω・`) 「確認したいことは三つあります」
川 ゚ -゚) 「ええ、分る範囲で答えましょう」
(´・ω・`) 「では一つめ、『ブーン』さんは亡くなっているんですね?」
川 ゚ -゚) 「…ええ、そうよ」
(´・ω・`) 「…二つ、『ドクオ』さんがこの数日後、自殺したというのは…?」
川 ゚ -゚) 「本当よ。理由は母親も聞いたことがないそうだけれど」
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:05:37 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「三つ目。この『肝試し』はこの二人が他の部員に相談せず行ったこと、ですね?」
川 ゚ -゚) 「…ええ。このビデオ、初めて見たわ」
ここまでは、他の関係者に聞いたのと一致していた。
カメラには日付の設定がされておらず撮影が行われた日がいつか具体的にはわからない。
何人か連絡のついた旧部員の人たちも、日付どころかビデオの存在すら知らなかったという。
ブーンが死んだ理由も「何故か雑木林で転落死しているのが発見された」というだけだった。
遺書を残さず自殺したドクオについては仲の良かったブーンの死に起因するということになっているらしい。
ビデオを見た立場としては、これが絡んでいないとは考えにくいが。
(´・ω・`) 「ちなみに先生は、このビデオ、本物だと思いますか?」
川 ゚ -゚) 「というのは?」
(´・ω・`) 「このビデオに写っていた心霊現象と思しき事象は、本当の心霊現象だと思いますか?」
先生の目の色が僅かに揺らぐ。
その視線はそれまでの教師然とした優しいものから、僕の真意を探るようなものに変化した。
- 36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:06:21 ID:MLgFQMn60
川 ゚ -゚) 「君は、違うと?」
(´・ω・`) 「……想像の範囲を出ませんが、妙な点が幾つかあるんです」
川 ゚ -゚) 「妙な点?」
(´・ω・`) 「はい」
先生は無言で僕を見る。
促されていることを自覚して、僕は実験台に肘をつき、話す姿勢をとる。
(´・ω・`) 「まず、鍵です」
川 ゚ -゚) 「鍵…」
(´・ω・`) 「金具があったのに、鍵がないって言うのはおかしいとおもいませんか?」
川 ゚ -゚) 「単に放置されていたんじゃ?」
(´・ω・`) 「それは無いです。家の中は廃屋にしては綺麗でした。
時々管理者が手入れしている証拠です」
(´・ω・`) 「窓のベニヤも、窓ガラスを保護することが目的だったと考えると、
そこまで管理された家の玄関に鍵が無いのはおかしくないですか?」
- 37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:07:03 ID:MLgFQMn60
川 ゚ -゚) 「…そうね」
先生の小さな肯定を食うように、僕は話を続けた。
(´・ω・`) 「そしてもう一つ、手錠です」
むしろ、これは僕がこのビデオに疑問をもつ切っ掛けになったものだ。
現場の彼らは雰囲気に飲まれたからか他の理由か疑問は無かったようだが、
客観的に見ていた僕からすれば違和感の塊だった。
(´・ω・`) 「まず第一に、なぜあそこに手錠があったんでしょう」
川 ゚ -゚) 「あそこが監禁現場だからじゃないの?」
(´・ω・`) 「事件当時からあったにしてはあの手錠はあまりにも新しい。
なにより手錠なんて重要なもの、証拠品として回収されるはずですし
川 ゚ -゚) 「なるほど」
(´・ω・`) 「この時点で、僕は狂言を疑いました」
川 ゚ -゚) 「狂言」
そう。この手の「実録」を気取るホラービデオでは決して珍しいものではない。
台本、あるいはある程度の段取りを組み、まるで心霊現象があったかのように捏造するのだ。
- 38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:08:08 ID:MLgFQMn60
川 ゚ -゚) 「…でも」
(´・ω・`) 「はい」
先生も、二人の死がこの『肝試し』に関係していると考えたのだろう。
言わんとするところは分る。
僕も実際に死人が出ているものをただの捏造ビデオだとは考えていない。
(´・ω・`) 「少なくとも『ブーン』さんは、アレが本当だと思いこんでいたんだと思います」
川 ゚ -゚) 「……」
(´・ω・`) 「……僕、気になって例の事件の現場に行ってきたんです」
その言葉に、クール先生の眉がピクリと動いた。
(´・ω・`) 「これがその写真です」
僕は自分で撮った、例の事件の犯行現場、犯人が少女達を監禁殺害したその家の写真を差し出す。
木造の古い家で、玄関は柵にガラスの嵌った引き戸。
窓は一部を除き雨戸が閉まっていて中の様子が分らない。
唯一雨戸が開いていた二階の窓も角度のせいで覗き込むことは出来なかった。
(´・ω・`) 「見て分る通り、ビデオの家とは違うんです」
- 39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:08:55 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「これで、確信しました」
(´・ω・`) 「このビデオは『ドクオ』と、もう一人の誰かがブーンに仕掛けたドッキリだったんです」
(´・ω・`) 「実際にあった事件の現場を偽って、あらかじめ幾つか仕込みをして、ね」
川 ゚ -゚)
(´・ω・`) 「そして恐らく、そのもう一人は同じ映画研究会の女子……僕の見立てでは……」
川 ‐ ‐) 「…ええ。私よ」
先生は、小さくため息を漏らした。
うな垂れ、長い髪が顔にかかる。
僕は思いの外あっさりと帰ってきた告白に少々面食らう。
(´・ω・`) 「詳しく聞かせていただけますか?」
川 ゚ -゚) 「詳しくも何も、あなたの想像でほとんど当たりよ」
川 ゚ -゚) 「私とドクオがブーンをドッキリにはめた。そうして、取り乱したブーンは、そのまま崖から…」
川 ゚ -゚) 「…落ちたときに朽木の先端で顔を抉ったらしくて、私たちが見つけたころには、もう」
(´・ω・`) 「……そのことを今まで誰かに言ったことは?」
川 ゚ -゚) 「いいえ。貴方が初めてよ」
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:09:59 ID:MLgFQMn60
白い指が、黒い髪をかきあげる。
ダークグレーのスーツの肩に落ちたそれは絹糸のように美しい。
撫でたくなる気持ちも、よく分る。
川 ゚ -゚) 「ドクオが言ったの。二人の秘密にして、ただの事故死って事にしようって」
事故とは言え、悪戯で人を死なせたと広まればただではすまない。
当時高校生だった彼らが責任から目を背け隠蔽を図った理由は理解できる。
勿論、その行動を正当化するわけではない。
川 ゚ -゚) 「でも結局、親友を殺した罪の意識に耐えられなかったのか、一人で死んでしまったわ」
(´・ω・`) 「理由を聞いたわけでは?」
川 ゚ -゚) 「ええ。唯一の共犯者だから、言わなくても分ると思ったのかもね」
(´・ω・`) 「…なるほど。それから一人で秘密を守り続けてきた、と」
川 ゚ -゚) 「そうよ」
あっさりと関係者であることを認めた背景には、そういった彼女の孤独もあったわけだ。
僕が責めるように追求しなかったため、つい打ち明けたとか、そんなところだろう。
- 41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:10:54 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「あの家は…?」
川 ゚ -゚) 「私が昔住んでいた家よ。街中に引っ越した後は手入れこそすれ誰も近寄らなかったの」
(´・ω・`) 「なるほど、心霊スポットとして偽るには絶好ですね」
川 ゚ -゚) 「ええ、ちょっとした拍子にあの家の話をドクオにしたのが全てのきっかけだった」
(´・ω・`) 「あれはどうやったんですか?あの顔」
正直を言えば、僕もかなり背筋を寒くした。
あの削り落としたような顔面はただのマスクでは再現できそうに無い。
川 ゚ -゚) 「ドクオが作ったのよ。パーティグッズのマスクを加工してね」
川 ゚ -゚) 「明るいところで見れば一瞬ぎょっとしても、仕組みにはすぐ気付くと思う」
自嘲するような力の無い笑みが先生の顔に浮かぶ。
視線は何も無い黒い実験台の上に垂れていた。
- 42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:12:02 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「…真相を聞いてすっきりしました。ありがとうございます」
時計を見て、椅子から腰を上げた。
そろそろ五時だ。借りたテレビやビデオデッキを返却しなければならない。
先生が顔をあげ僕を見つめた。
請うような、普段の先生らしい堂々とした態度とはまったく違うその顔に、不覚にもドキリとする。
(´・ω・`) 「大丈夫です。これは僕の趣味なので、誰にも口外しません」
川 ゚ -゚) 「……」
気休めを言ってみたが、やはり不安なようだ。
僕が彼女の立場だったとしても、口だけで信用するのは難しい。
(´・ω・`) 「もし仮に口外したところで、先生の過失は罰に問われることは無いですし」
川 ゚ -゚) 「でも」
更なる気休め。これも効果は無い。
それはそうだ。
犯罪でなければ、悪いことではない、というわけには行かないこともある。
- 43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:12:54 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「……僕、人の噂を流せるほど友達いないんです」
川 ゚ -゚) 「」
僕の身体をはった自虐でやっと先生の雰囲気が変わる。
呆れたように笑った。
川 ゚ -゚) 「分ったわ。信じる。話したのは私の責任だしね」
(´・ω・`) 「はい。じゃあ、お手数おかけしました。僕は片付けてからかえるので」
川 ゚ -゚) 「そう。私もそろそろ帰らないと」
先生も席を立ち、理科室を出て行く。
彼女が僕の前を通り過ぎたとき、ついついその後ろに目が行く。
何度見ても綺麗な髪だ。さらさらと、触れたらさぞ心地いいだろう。
(´・ω・`) 「あ、最後に一つ、聞いていいですか?」
先生が立ち止まって振り返る。
無言ではあったが不快そうでは無く、続きを促しているように見えたので遠慮なく続ける。
- 44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:13:39 ID:MLgFQMn60
(´・ω・`) 「先生がこの街を出て草咲の大学へ進んだのは、やっぱりこの事件があったからですよね?」
川 ゚ -゚) 「それだけが理由とは言わないけれど、そうね…」
目を伏せて小さく間を取る。
川 ゚ -゚) 「ここにいると、どうしたって思い出してしまうから、逃げたいという気持ちはあったわ」
(´・ω・`) 「なぜ、またこの学校に?」
川 ゚ -゚) 「…自分でもよく分らないわ」
(´・ω・`) 「……」
川 ゚ -゚) 「私からも一つ聞いていいかしら」
先生の目に、なんともいえない光が宿った。
- 46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:14:30 ID:MLgFQMn60
川 ゚ -゚) 「貴方さっきから、いえ、私が赴任してきたときから、私の後ろをチラチラ見ていたわよね」
(´・ω・`)
川 ゚ -゚) 「素直に答えて」
(´・ω・`) 「はい」
川 ゚ -゚) 「何か、見えているの?」
(´・ω・`)
川 ゚ -゚)
( ;; ω;゙)
(´-ω-`)
川 ゚ -゚)
(´・ω・`) 「いいえ、何も」
川 ゚ -゚) 「…………そう」
- 48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:16:08 ID:MLgFQMn60
「帰るわね」と一言だけ言って先生は理科室を去った。
僕はもろもろの片づけを終え、理科室の電気を落とす。
時刻は五時を過ぎた。
夏の夕立の気配が空気に現れ、辺りは夜とは違う不穏な暗さに包まれる。
(´・ω・`) 「あれ、またか」
教室の後ろ、実験に使う用具を置いておく棚にあるアルコールランプの火がついていた。
薄暗い中、紅い光が怪しく揺れている。
いわゆるいわくつきのアルコールランプ。
心霊の類が近づくと勝手に火がつく厄介な代物だ。
今まで火事にならなかったのが幸いである。
僕は勝手に外れたと思われるランプの蓋を床から拾う。
黒いガラス製のそれを確かめると壊れてはいないようだ。
外からゴゴゴ、と雷鳴が響き始めた。
今日は傘を持ってきていない。急がないと帰りそびれる。
僕はランプに蓋を被せる。
火は、音も無く消えた。
- 49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/18(土) 00:17:28 ID:MLgFQMn60
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!´トー―---―‐ィ`!
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!ヽ _ .、,,,,__, ,- ‐''"~ ノ _ ノ!
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ミ========彡
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