( ^ω^)百物語のようです2012 in創作板( ω  )

61 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:04:13 ID:onL6wdm6O



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夏の幻のようです

62 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:05:34 ID:onL6wdm6O


青い空に白い雲、そしてうだるような熱気。
そんな嫌な時間は終わりを告げ、今は蜩の声が彩る夕刻。

J( 'ー`)し「いってらっしゃい。お土産にはたこ焼きとりんご飴を頼むわよ」

('A`)「わかってるって」

呑気に手を振るかーちゃんが恨めしい。
唯一の友は俺を裏切り、彼女と仲良くデート。
本当は夏祭りなんか行く気はなかったが、かーちゃんに行けと言われたら断れなかった。
きゅうりの馬と茄子の牛に見送られて、俺は家を出た。


近所の神社までは徒歩三分。
すれ違うのは家族やら友達やら恋人やらと楽しそうに歩く奴らばかりだ。

('A`)「一人夏祭りって……どう時間を潰せと……」

見渡す視界いっぱいのリア充。
居たたまれなくなった俺は、神社の端、ひとけのないエリアで座り込む。

('A`)「やってらんね」

「もし、君は一人か?」

俯く俺に降ってきたのは凛とした声。
反射的に顔を上げた。

63 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:06:51 ID:onL6wdm6O

川 ゚ -゚)

美少女だった。
艶やかな黒髪を一部を残して上に上げている。
紺の地に薄い紫と水色の紫陽花の描かれた浴衣と、鮮やかな黄色い帯は、彼女によく似合っている。
俺は見惚れていた。

川 ゚ -゚)「一人か、と聞いているのだが」

(;'A`)「え!? は、はい、一人ですよっ!?」

緊張のあまり声が裏返る。
我ながら気持ち悪い。

川 ゚ -゚)「私も一人なんだ。良ければ、一緒に回らないか?」

('A`)

('A`)「へ?」

聞き間違いじゃなければ、目の前の美少女は言った。

川 ゚ -゚)「一緒に祭りを楽しもうじゃないか」

(*'A`)「は、はい!」

俺にもついに春が来た。
さよなら、十三年間の冬。

64 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:07:55 ID:onL6wdm6O


川 ゚ -゚)「金魚すくいか……」

('A`)「やります?」

川 ゚ -゚)「そんな丁寧な言葉じゃなくていいよ。
     まずは君に、見本を見せてもらおうかな」

彼女に言われた俺は店主に代金を払う。
右手には薄い網、左手には器。神経を集中する。

('A`)「よっ、と」

縁で掬う。こうすれば網が破れようと関係ない。
コツがいるが、金魚たちを簡単に掬えるのは気持ちがいい。

川 ゚ -゚)「おお……」
  _
(;゚∀゚)「ちょっと、君! そこらで勘弁してくれ!」

店主の必死の制止。
彼女の驚く様子が見たかった俺は、店主が実力行使、
つまりは力ずくで俺を止めるまで、金魚すくいをやめてやらなかった。

65 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:09:23 ID:onL6wdm6O

川 ゚ -゚)「よし、次は私の番だ」

財布を持っていないという彼女の分の代金は俺が払った。
彼女は店主から網と器を受け取り、早速網を水に浸ける。

川 ゚ -゚)「あ」

赤い小さな金魚を掬い損ねて、網は破けてしまった。

川 ゚ -゚)「……場所を移すか」

彼女は店主に網と空の器を返す。
俺の方はというと、器いっぱいになった金魚のうちの二匹だけを引き取った。
大量の金魚なんか持って帰ったらかーちゃんは返すよう言うだろうし、何より店主が泣き付いてきた。
しかし、かといって一匹も貰わないのは寂しい。

金魚すくいを諦めた彼女の後について、俺が次に向かったのはかき氷の屋台だった。

(´・ω・`)「いらっしゃい。可愛い子にはサービスするよ」

川 ゚ -゚)「サービスだって。私は練乳イチゴがいいな」

('A`)「俺は……どうするかな……」

66 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:10:21 ID:onL6wdm6O

一番好きなのは、誰が何と言おうとブルーハワイだ。
しかし、あれは食べると舌が青くなる。
紳士たる者、可愛い女の子の前でそんな間抜けな姿をさらすわけにはいかないのだ。

('A`)「……イチゴで」

よく値札を確認すると練乳イチゴは若干高い。
かーちゃんに貰った小遣いだが、余れば俺のものだ。節約するに越したことはない。

(´・ω・`)「はい。練乳イチゴとイチゴね」

代金を払って二人分のかき氷を受け取る。
白い練乳のかかった方を彼女に渡す。

川 ゚ -゚)「君の、少しだけ多くないか?」

('A`)「変わんないと思うけど……」

川 ゚ -゚)「そうかな。まあ、人の物は多く見えるものだしな」

俺から見たら若干、彼女のものの方が多く見えるが、それは言わない。
隣の芝は青い、とはこういうことなのかもしれない。

彼女はかき氷には必須の、ストローとスプーンの一体化したアレで氷を口に運ぶ。
スプーンが氷に刺さる度にさくさくという小気味良い音がする。

67 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:11:17 ID:onL6wdm6O

川 ゚ -゚)「なんだ、君も練乳イチゴが食べたいのか?」

じっと彼女の食事を観察していた俺に、彼女は言った。

('A`)「いや、そういうわけじゃ……」

ついつい彼女の食べるところに見惚れていただけだ。
しかし一口分のかき氷ののったスプーンを目の前に出されれば喉も鳴ってしまう。

川 ゚ -゚)「ほれ。一口くらいやるぞ。元は君が代金を出したものなんだから、遠慮することはない」

スプーンが迫る。
しかも、よく考えたらこれは間接キスというものじゃないか。

川 ゚ -゚)「口をあけろ」

全身から緊張の汗を流しながら、俺は彼女の指示に従った。

(*'A`)「……うめぇ」

川 ゚ -゚)「だろう? 君のも一口だけ分けてくれよ」

(;'A`)「あ……」

68 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:12:17 ID:onL6wdm6O

俺がゆっくり練乳とイチゴシロップの織り成すハーモニーを堪能する間もなく、
彼女は俺のスプーンを引ったくった。

川 ゚ -゚)「……うん。これはこれで美味いな」

上品に一口を口に収め、言う。

川 ゚ -゚)「ほら、早く食べてしまおう。まだまだ私は、この祭りを楽しみたいんだ」

('A`)「あ、ああ……」

どうにか返事をする。
彼女に返されたスプーンを取る俺の手は震えている。
今日はたぶん、今まで生きてきた中で一番のいい日だ。

69 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:13:54 ID:onL6wdm6O


それから射的をして、綿飴を食べて、ヨーヨー釣りをした。
射的とヨーヨー釣りの成果は良くなかったが、綿飴はおいしかった。

人ごみに疲れた俺達は、神社の裏手の展望台にいた。
喧騒と祭囃子が遠くに聞こえる。

('A`)「ここ、花火大会の時は特等席なんだ」

川 ゚ -゚)「花火は一人で見たのか?」

('A`)「いや、友達と」

七月末の花火大会、俺は唯一の友と二人寂しく夜空に咲く大輪の花を見物していた。
しかし、偶然会ったクラスの女子と流れで一緒に見ることになり、奴はあの子に告白された。
おかげで俺の夏休みの予定は大幅に狂い、
いつもはギリギリに手をつける夏休みの宿題さえ終わってしまった。

70 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:14:57 ID:onL6wdm6O

頭上には、すっかり暗くなった空が広がる。
星が見えればロマンチックだったろうに、残念だ。

川 ゚ -゚)「今日は、ありがとう。君のおかげで楽しい一時を過ごせたよ」

('A`)「え、いや……俺の方こそ、楽しかったよ」

川 ゚ -゚)「そう言ってくれると嬉しいな」

彼女は照れたように、白く細長い指で頬をかいた。

川 ゚ -゚)「最後に、君と会えたことに感謝を込めて、賽銭を入れてきたいんだが、いいか?」

俺は頷いた。
むしろ俺の方こそ感謝しなければならない。
唯一の友に裏切られた心の傷など一瞬で塞がるくらい、今日は楽しかった。

いるのかは知らないが。
ありがとう、神様。

71 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:16:07 ID:onL6wdm6O


神社本殿の正面の鳥居の前で、彼女に五円玉を渡す。

川 ゚ -゚)「『五円』と『ご縁』……また君と会えるように」

彼女は俺の手を握った。
突然の出来事に心臓が大変なことになっている。
ひんやりとした手に、彼女は力を込める。

川 ゚ー゚)「今日はありがとう、ドクオ」

彼女は、ぱっと手を放して鳥居をくぐった。

('A`)「え?」

開いた口が塞がらない。

(;'A`)「……え?」

鳥居をくぐった瞬間、彼女の姿は霞のように消えてしまったのだ。

72 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:17:21 ID:onL6wdm6O

(;'A`)「……」

何が起きたのか理解出来ない。
俺は彼女が最後にしてみせたように、鳥居をくぐってみる。
しかし何も起きない。
当然だ。

('A`)「……」

彼女は、本当に存在したのだろうか。
俺の右手には二匹の金魚の入った袋がぶら下がっている。
確認した財布の中身は、確かに減っていた。

俺は先程、彼女と一緒に立ち寄った露店に向かった。
  _
(;゚∀゚)「げっ!」

息を切らせた俺を見る金魚すくい屋の店主は露骨に顔をしかめた。

(;'A`)「あの! 俺、さっき、美少女と一緒にここに来ましたよね!!」
  _
( ゚∀゚)「え、ああ……君は確かに、巨乳美少女と一緒にここに来たよ。はぐれでもしたか?」

(;'A`)「いや、ありがとうございます」

やっぱり彼女はいた。
他の人達もちゃんと彼女を覚えていた。
しかし彼女は、俺の目の前で消えた。

73 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:18:29 ID:onL6wdm6O

('A`)「幽霊……」

俺の出した結論は、それだった。
そして口にした途端、背筋が凍るように寒くなった。

(;'A`)「帰ろう」

あの超常現象に説明をつけるなら、彼女は幽霊だったというしかない。
俺は、どうしてそんな得体の知れないものと楽しく過ごしていたんだ。

ふらり、歩きだす。
全身から血の気が引いているのが分かる。
ついうっかり、金魚を落としてしまった。
袋が破れ、水は溢れて地面に黒い染みが広がってゆく。

(;'A`)「……」

美少女と一夜を過ごせたのは喜ぶべきことだ。
しかし、幽霊となると話が違う。

あいつは、何で俺を誘ったんだ。
不気味だ。気持ち悪い。
俺は、よくある怪談みたいに、そのうち取り殺されるのだろうか。

地面に落ちた金魚を拾って、元の通りに袋に入れた。
まだ息はある。
例の店主のところに寄って、どうにかしてもらってから帰ろう。

生温い風を纏いながら、俺は走った。

74 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:20:35 ID:onL6wdm6O

***


J( 'ー`)し「あら?」

ぱたりと音を立て、遺影が倒れた。

J( 'ー`)し「……お帰りなさい、母さん」

普段は無愛想な母さんが珍しく、いたずらっぽい笑みを浮かべた写真を、そっと立て直した。

J( 'ー`)し「ドクオ、遅いわね」

暗くなった空を見て、呟く。
生温い風が、開け放たれた窓から入ってきた。

75 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/11(土) 23:22:07 ID:onL6wdm6O


  (
   )
  i  フッ
  |_|


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