- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:11:55 ID:CcEdq1rY0
.,、
(i,)
|_|
.
- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:13:20 ID:CcEdq1rY0
近くに、田んぼがぽつぽつと並ぶ、住宅街。
('A`) ?
今年高校一年生になるドクオは、本屋からの帰り道でふと後ろを振り返った。
何もいない。
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:14:24 ID:CcEdq1rY0
●>●>
?('A` )『オキナ』のようです●>●>
●>●>
●>●>
.
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:15:09 ID:CcEdq1rY0
('A`)(なんだろう……?)
視界に映る光景は実に味気なかった。
アスファルトと呼ぶには少しお粗末な舗装がされた道路、
視界の右には柿の木が一本、左には大きな家が一軒。
それだけ。
いつも通りの帰り道だ。
('A`)<あー、気のせいか、うん
頭をぽりぽり、とかきながら、ドクオは再び帰り道を歩き出す。
音が、聞こえた気がしたのだ。
何人もの人間が、歩く足音。
合わせて、大勢の人間が念仏を唱えるような声も。
('A`)(遠くの方から聞こえた、ような気がしたんだ、けど……)
振り返ったとたん、音は聞こえなくなってしまった。
だから、きっとあれは気のせいだったんだろう。
そう判断した少年は、足を速める。
「かいワア ワタかた クいきマ……タナおた べおノベ ルるこル……」
ざっ…ざっ…ざっ…ざっ…
「おカキか のわヨラ コクきだ……タなおタ べオのベ るルコる……」
また、どこか遠くから音が聞こえた気がした。
少年は、振り向かなかった。
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:18:24 ID:CcEdq1rY0
(-A-)=3
自宅。
小さな土間から台所にあがったドクオは、冷蔵庫から麦茶をとりだして一息ついていた。
('A`)<どっかで葬式でもやってんのかね
透明なグラスに注がれた、茶色の液体を飲み干し、ドクオは廊下の方に目をやる。
田舎町の家独特の、長い木の廊下。
窓が無いため、薄暗いそこは夏でも涼しい。
廊下の壁の一角には、有線放送を聞くための黒いスピーカーがある。
ご町内で死者が出た場合、この有線放送で告別式の日取りなどが放送されるのだ。
('A`)(放送は、特にない、か)
少しの間スピーカーを眺めていたドクオが、視線を戻そうとしたとき、
がららっ、と横開きのドアが開く音がした。
(;'A`)<<うおっ!?
(;^ω^)<<おおっ!?
音に驚くドクオの目線の先には、頭に麦わら帽子をかぶった老人の姿があった。
(;-A-)<じ、じいちゃんか……おどかすなよ
(;^ω^)<び、びっくりしたのはじいちゃんのほうだお!
老人の心臓とか、案外簡単に止まっちゃうんだお?
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:22:11 ID:CcEdq1rY0
- 言いながら、ドクオの祖父、ホライゾンが台所に上がってくる。
('A`)<ごめんごめん、はい、おつかれさん
テーブルに付くホライゾンに、ドクオは麦茶を注いでやった。
(*^ω^)<おー、ありがとうだお、ドクオ
麦わら帽子を脱ぎ捨て、ドクオの注いだ麦茶を一気に飲み干すホライゾン。
家の裏にある畑の手入れでもしていたのだろう。
最近になってしわの増えてきた顔には、玉のような汗が浮き出ていた。
(*^ω^)=3プッハー<この一杯のために生きてるおー!
('A`)<そりゃまあ、随分と分かりやすい生存理由で
呆れたように笑うドクオの前で、ホライゾンはおっおっ、と声を出して笑う。
(*^ω^)<いやいや、ドクオ。案外バカにはできないお?
人間は抑圧から解放されるときの、一瞬の幸せを求めて生きているといっても過言じゃない。
じいちゃんはそう思うおー
('A`)<抑圧……? あー、畑仕事で水分を欲してる身体に鞭打って働いて、
そのあとに水を飲むと異常にうまいってことか。
(*^ω^)<簡単に言えばそういうことだお。ドクオはものわかりよくて、じいちゃんうれしいお
('A`)<ふーん
- 7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:23:30 ID:CcEdq1rY0
- 抑圧。
抑え込まれている状態。
自分にとって、それはどういうものの事を言うのだろうか?
('A`)(なんだろ、宿題出された日とか、それに当たる感じはするな)
宿題が終わるまで遊びにいけない。
宿題が終わるまでゲームができない。
宿題が終わるまで眠れない。
なるほど、つまり抑圧とは宿題のある状態ということか。
('A`)(……ん? あれ、なんか忘れてるような)
「あ」、とドクオは改めてホライゾンに顔を向けた。
('A`)<なあじいちゃん。今日さ、どっかで葬式とかあった?
聞かれたホライゾンは首を傾げる。
( ^ω^)<お? おー……いや、たぶん今日は誰も死んでなかったと思うお?
どうしてだお?
不思議そうに訊ねるホライゾン。
('A`)<いや、さっき遠くの方から、大勢の人が歩く足音と、念仏みたいのが聞こえたから。
そっか、じゃあ、あれは俺の気のせいだな
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:24:56 ID:CcEdq1rY0
- 聞いた老人はおっおと笑う。
( ^ω^)<『オキナ』にでも出くわしたんじゃないのかお?
('A`)<はは、そんなバカな
からかうように笑う老人に、困ったように笑う少年。
『オキナ』というのは、この辺りに伝わる民話に出てくる妖怪である。
神社の境内に住み着いて、近づく子どもを取って食っていた。とか言われている。
それが由来になって、この辺りでは不思議なことが起ったり、誰かが変なことを言ったりすると、
「『オキナ』にでもあったんだろ」とからかうのが一つの風習になっている。
ゆえに彼らのこの会話は、しごくいつも通りのやり取りなのである。
( ^ω^)<いやいや、シューばあちゃんが『オキナ』に詳しかったから、
じいちゃんも『オキナ』には詳しいんだお
('A`)<へえー、ばあちゃんが?
自分が生まれる前に死んでしまった祖母の話になり、ドクオは少し身を乗り出した。
( ^ω^)<ばあちゃんはほんとそういうの好きだったから、
じいちゃんも昔は結構付き合わされたもんだお? 夫婦でツチノコ探しに行ったりとか
('A`)<ほー、で、見つかったの?
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:25:55 ID:CcEdq1rY0
- 「見つかってたら、こんな暮らしはしてないお」と笑う老人に、「ですよねー」と少年は笑う。
( ^ω^)<で、地元の妖怪ってことで、ばあちゃん『オキナ』についてはすごく色々調べてたんだお。
たしかあったお? 「大勢の人間の足音が聞こえた」とか、
「人間が集まって念仏唱えてる声がした」とか、そういう話
('A`)<ほーん……そういや、『オキナ』って名前は聞くけど、具体的にどんなもんなのかはよく知らないな。
当たり前に使う表現に対して、人間は驚くほど無頓着である。
知らないうちによく使う『オキナ』という言葉に対し、
ドクオは「なんとなく悪いもの」くらいの認識しか持っていなかった。
( ^ω^)<お、それはみんなそうだと思うお。
『オキナ』については、「そんなのがいる」くらいの民話しか残ってないから
どんな姿をしてて、どんな風に人を食ってたのか、みたいなことは殆ど伝わってないんだお。
('A`)<なんかそう言われてみると、たしかに俺も聞いたことないな、そういう話。
でも『オキナ』なんて名前なんだし、なんかこう、じいさんみたいな姿なんじゃないの?
( ^ω^)<そういう話もあったお。今で言うこじきのじいさんが、
ひもじさのあまり神社に捨てられた子どもの肉を食って、人間の味を覚えた、とか。
と、そこで何かを思い出したようにホライゾンは席を立った。
「ちょっと待っててお」と、廊下に入ってすぐ右にある自分の部屋に引っ込む。
( ^ω^)<あったあった、これだお
しばらくして、再び台所に顔をだした老人の手には、表紙がプラスチック製の白いファイルが握られていた。
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:27:33 ID:CcEdq1rY0
('A`)<? なにこれ、『オキナ研究』……スナオ、えーと「スナオアキ」さん?
ファイルの表紙に、マジックで直接書かれていたタイトルと著者名を読むドクオ。
それを聞いたホライゾン老人は訂正する。
(;^ω^)<「すなおしゅう」だお。自分のばーちゃんの名前くらい覚えといて欲しいお
('A`)<え? でも「素直」って
言われた少年は首を傾げた。ドクオたちの名字は「内藤」なのである。
( ^ω^)<おー、旧姓だお。『オキナ』に関してはじーちゃんと結婚するずっと前から調べてたみたいだお
「へえ」と呟いて、ドクオは白いファイルを開く。
バインダーに閉じられているのは、ルーズリーフとそれに貼られた新聞の切り抜き。
('A`)<結構本格的なんだ
開いた資料の文面からは、祖母がかなり気合を入れて『オキナ』について調べていたことがうかがえた。
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:29:22 ID:CcEdq1rY0
- [『オキナ』という妖怪についての伝承は、この地方に古くから伝わっている。
「ずっと昔に、あすこの森にひとりですんどった偏屈じじいが
何を思うたのか捨て子の肉を喰ろうて、それ以来人の味を覚えたんやと」
―――加倉 キンさん(72)
「森を歩いとったら、大勢の人間が念仏唱えとるような声が聞こえてきての、
こら昔ばあさまに聞いた"オキナ"っちゅう化けもんに違いないと思うた」
―――大沢 権蔵さん(89)
「オキナか? 俺はあったことないけど、なんやものっそい臭いっちゅう話は聞くな」
―――西 慶さん(17)
「これ、そこん坊主。こんな遅うまで遊んどったらオキナに喰われるど」
―――朝倉 葵 巡査(36)
「オキナはな、目がな、8つあるんやって」
―――素直 弓さん(6) ]
('A`)<あ、また素直……ゆみ、さん?
( ^ω^)<おっお、「きゅう」さんだお、キューばあちゃんだお
('A`)<え、キューばあちゃん!? そっか、ばあちゃんにも6歳のころがあったのか……
キューというのは、ドクオの祖母の一番下の妹である。
たまに家に来てはこづかいをくれる人だが、しわの多く刻まれた容貌しか知らないドクオには、
彼女に若き日があったということを実感することができなかった。
('A`)<昔はこの辺の人ってこんな風に喋ってたんだ……
よく考えたらキューばあちゃんってこんな感じの喋り方だよね。
じーちゃんはこんな感じに喋んないの?
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:31:08 ID:CcEdq1rY0
( ^ω^)<じーちゃんは仕事でこの町に引っ越してきたんだお。
てゆうか、ドクオはじーちゃんやとーちゃんの喋り方うつってるからおかしく感じるだけで、
ドクオ以外の若い子たちもこんな風に喋ってるんじゃないのかお?
('A`)<や、みんなたしかに訛りはあるけど、ここまでじゃないと思うよ?
(;^ω^)<おー、テレビの影響ってすごいおー……
わき道にそれながらも、ドクオは祖母の研究に目を戻した。
[いずれにしても詳細な姿などは伝わっておらず、
今は子どもたちへの説教の中にその名前を残すのみである。
しかし、古くからオキナが住むと言われる『オキナの森』は不吉な場所とされ、
今でも付近の住民たちはそこには近づきたがらない。]
('A`)<『オキナの森』?
地元のはずなのに聞き覚えのない名前が出てきて、ドクオは首を傾げた。
( ^ω^)<お、そういえばドクオが生まれたころにはもう無くなってたのかお。
ほら、『翁』って地名あるお? 神社がある辺り。
あそこら辺って、昔は大きな森だったんだお。
言われてドクオは記憶を探ってみる。『翁』と言えば、友人の家がある辺りだ。
やたらと住宅が密集している以外は、特に何もない場所だった気がする。
( ^ω^)<あの辺に住んでるのって、バブル時代に新しく移住してきた人らなんだお。
木が切り倒されて森が無くなっても、やっぱり不吉だっていうんで、
昔はあそこに住んでる人とは関わらない方がいいとか、そんなのもあったんだお?
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:33:02 ID:CcEdq1rY0
('A`)<それって、「部落差別」みたいなこと?
( ^ω^)<おー、近いかもしれないお。
どっちかって言うと、「自殺があった部屋に越してきた人」とかに近い感じだったけど。
近寄ったら祟られるかも、って恐怖があったおね。
('A`)<ほーん、んで、実際あったの? タタリみたいなやつ
( ^ω^)<おっお、全然。だからこそ、そういうのも忘れ去られちゃったんだお。
あとは、『オキナ』の伝説そのものが
あまりにぼんやりしすぎてた、っていうのも原因だおね、きっと
('A`)<自分たちが、何の祟りを怖がってるのかもはっきりしないから、ってことか
昔は色々あったんだなと、ドクオは再び資料に目をもどし、そしてある文章が彼の目に映った。
[昭和十三年 五月二十日 地方紙要約
本日未明、翁の森付近で男児の死体が発見された。
死体は損傷著しく、現在身元の特定が急がれている。
死体のあまりのむごたらしさから、付近住民の間では
この地方に古くから伝わる妖怪"オキナ"のしわざではないかと騒がれている。
翌二十一日に発生した津山事件のこともあってか、
現在、この事件のことを覚えている人間はほとんどいないようだ。]
('A`)<え……? 殺人事件とかあったの、この町で?
( ^ω^)<お? ああ、それかお。じーちゃんがまだ生まれてもないころの話だお?
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:37:32 ID:CcEdq1rY0
('A`)<じーちゃんが生まれる前とかどんだけ昔だよ……
( ^ω^)ムッ<失礼な。じいちゃんまだ64歳だお?
('A`)<うん、16年しか生きてない俺にとっては途方もない歳月だよ、それ。
いや、てことはこれって少なくとも64年以上前の出来事ってこと?
……えーっと、昭和って何年で終ったんだっけ?
(;^ω^)<おー……なるほど、ドクオは平成生まれだったおね。
昭和は64年で終わったんだお。
だから昭和13年は西暦1938年、今から74年前ってことになるお。
74年前、と、ドクオは想像を張り巡らしてみる。
パソコンはない。携帯情報機器なんてもちろんない。たぶんテレビとかもない。
自分も、目の前のホライゾンですら、生まれてさえいない。
そして、町には、今は無き不吉な『オキナの森』が、どっしりとたたずんでいる……
(;'A`)<だめだ、想像できない
( ^ω^)<おっお、じいちゃんもちょっと難しいお。
そんなもんだお、自分が生まれる前の話なんて。
頭を抱える孫に対し、老人は優しく微笑む。
とりあえずドクオは手元にあった麦茶を一口啜り、クールダウンすることにした。
('A`)プハァ<ところで、この事件の犯人って、結局捕まったの?
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:38:56 ID:CcEdq1rY0
( ^ω^)<おー……捕まってなかったと思うお、たしか
(;'A`)<え……? それまた物騒な
( ^ω^)<もう74年も前の話だお? もう犯人だってヨボヨボになっちゃってるお。
あと、この事件って、実際のところ殺人事件なのかどうかも曖昧なんだお。
('A`)?<どういうこと?
( ^ω^)<見つかった時点で、死体が結構野犬に食い荒らされちゃってたんだお。
飢え死にした子どもが、野犬に喰い荒されて凄惨な死体になっちゃったんじゃないか、
って説が強かったんじゃないかったかお……そう書いてないかお?
言われて資料に目を戻すと、なるほど、先ほど見つけた文章のすぐ下に、そのような考察が載っていた。
('A`)<子どもが飢え死に、ねえ。マジで想像できない。これって日本の話だよね?
( ^ω^)<おー、そういうのが当たり前にあった時代もあった、ってことだお
つくづく『昔』というものは想像できない、と少年は実感し、
そして彼は祖母のファイルを閉じた。
――――
―――
――
―
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:43:51 ID:CcEdq1rY0
- 静かな夜。ぼんやりとした意識の中、時計の針の動く音がかすかに聞こえる。
<○>
―――――重圧。
(;'A`) ?
自室のベッドの中で、少年は目を覚ました。
(;'A`)(なんだ、この感じ……)
何か、全身に重いものがのしかかっているような感じがする。
自分の上に人でも乗っかっているかのような、”重さ”。
しかしドクオがおそるおそる身体を起こしてみると、予想に反して半身はあっさりと持ちあがる。
暗がりの中で、少年は自分の姿を確認した。
薄いタオルケットが一枚かかっている以外は、別段身体に何かが乗っているということはない。
しかし、まだ感じる。
―――何かが、”重い”。
(;'A`)(なんだこれ……体中に絡みつくみたいな、気持ち悪い感触)
身体にのしかかっている”重いもの”の正体が
”部屋の空気”であることに少年が気付くまで、さほど時間はかからなかった。
(;'A`)(エアコンが壊れたのか? いや、それにしちゃ、なんかおかしいような)
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:47:56 ID:CcEdq1rY0
- 怪訝に思ったドクオが、エアコンの方に目をやると正常に稼働している。
つまり、これはエアコンの不具合のせいではない。
(;'A`)(これ、なんだ? すっごい嫌な感じ)
そう、それは”嫌な感じ”としか表現しようのない感覚だった。
部屋の中に障害物になるようなものはほとんどない。
なのに、今この部屋にいるドクオは、まるで自分が小さな箱の中に閉じ込められているかのような、
嫌な”閉塞感”を感じていた。
(;'A`)(あれ、この感じ、なんか知ってるような……)
そのときドクオの脳内に浮かんだのは、なぜだか小学校の発表会の風景だった。
発表内容はたしか桃太郎の劇で、
ほんのワンシーンだけだったが、村人を演じる自分が一人で喋るシーンがあった。
大勢の人間が、ステージ上の自分を見ている。
襲ってくる、ひどい緊張感。
この嫌な感じは、あれに似ているのだ。
(; A )(……まてよ、今あれと同じ感じがするってことは、
ひょっとして、今も誰かに”見られてる”ってことなんじゃないのか?)
<○> <○> <○> <○>
一体、誰に?
周りを見回すが、部屋の中にはもちろん誰もいない。
しかし、確実に今、誰かが自分のことをを見ているという気がする。
それも、一人ではなく複数。
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:50:50 ID:CcEdq1rY0
(;'A`)
エアコンの音だけが、いやに大きく聞こえる。
半身を起こしたままのドクオは、どうすることもできずにそのままの体勢で固まっていた。
(; A ) !
ふいに、音がした。
小さな、音。
段々と大きくなっていく、それは大勢の人間が歩く足音。
とたとた…ぱたぱたぱた…とたとた……
同時に、声も近づいてくる。
「ミかスみ つラすつ ケダロけ タオうた……おくチみ のラにつ こオクけ オうおタ……」
大勢の人間が、念仏を唱えているような、声。
その中に、かすかに念仏とは違う、意味の分からない言葉が混じっている。
(; A )
やけにぬめり気のある汗が、頬を流れる。
悲鳴を上げたかったが、声が出ない。
(; A )
そして、少年は気がついた。
昼間に比べて、ずいぶん音が”近い”ということに。
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:54:40 ID:CcEdq1rY0
- ぱたぱたぱた…とたとた…ぱたぱた…ひたひた……
聞こえてくる足音も、地べたを踏んでいるというよりは、木製の床を踏んでいるような音で、
つまり―――
(; A )(―――ひょっとして、もう、”家の中にいる”……?)
いやに喉が渇いた。
背筋に、生温かい液体が流れている。
ベットの上でドクオが動けないでいる間にも、大勢の足音と念仏の声は、段々と大きくなっていく。
「ミかスみ つラすつ ケダロけ タオうた……おくチみ のラにつ こオクけ オうおタ……」
音の主は、確実にこちらへと、この部屋へと近づいているのだ。
迫ってくる、大勢の足音と、念仏、声。
音はだんだんと大きくなり、そして
―――あろうことか、それは平然と部屋の中に入ってきた。
.
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:56:32 ID:CcEdq1rY0
- とたとた…ぱたぱたぱた…とたとた……
「ミかスみ つラすつ ケダロけ タオうた……おくチみ のラにつ こオクけ オうおタ……」
ぱたぱたぱた…とたとた…ぱたぱた…ひたひた……
大小様々な”足音”が、次々とドアの方から入ってくる。
しかし、周りを見回しても音源となる人間の姿などどこにもない。
ただ”音”だけがどんどん部屋の中へ入ってくる。
とてとて……ひたひた…ぱたぱた……
「ミかスみ つラすつ ケダロけ タオうた……おくチみ のラにつ こオクけ オうおタ……」
とことことこ…ひたひたひた……ぱたぱたぱた…
入ってきた足音たちは、やがてドクオのいるベットの周りを回りはじめた。
ドアは一切開いていない。
足音の主の姿も見えない。
(; A )
なのに、大勢の人間の足音だけが自分を取り囲んでいる。
とたとた…ぱたぱたぱた…とたとた……
「わニタマ らオべぶ しウルい……タチまあ べニぶカ るくいイ……」
とことことこ…ひたひたひた……ぱたぱたぱた…
なんの経なのかも不明な念仏と、気味の悪い足音、そして意味の分からない声が、部屋中に反響する。
頭が、くらくらした。
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 00:59:21 ID:CcEdq1rY0
(; A )
たまらず、ベットに倒れ込む。
目の前が、ひどく霞んでいる。
(; A ) !
その、霞んでいる風景の中。
天井を眺めるドクオは、確かに見たのだった。
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
―――天井からこちらを見下ろす、巨大な8つの目を。
一瞬、視線があった彼に対し、”それら”は一斉に目を細めた。
(; A )<ぁ……
血走った白目に、淀んだ色の黒目。
それはドクオ少年が、16年の生涯で一度も見たことがない、背筋の凍るような『笑顔』だった。
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:00:39 ID:CcEdq1rY0
- ―
――
―――
日の光を感じた。
(; A )<っ!!
少年は、自室のベッドの上で身を起こす。
(; A )
カーテンから、日の光が漏れこんでいる。
ちゅんちゅん、とどこかからスズメの鳴く声が聞こえてくる。
朝である。
(; A )<ゅ……め……?
はああ、と今までの人生でしたことがないような大きなため息。
(;-A-)=3(もし、あのまま、目が覚めなかったら……)
考えたくもない、とドクオは思った。
というより、彼にはその先を想像することができなかった。
あんな訳の分からない、物だか者だかの境も曖昧なモノに捕まって、そのあと自分がどうなるのか?
そもそも、あれは自分を捕まえるつもりだったのか?
そうだとしたら、自分はいったいどこであれに目をつけられたのだろう?
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:02:17 ID:CcEdq1rY0
- なにも分からない。
ただ「分からない」ということが、これだけ恐ろしいことだとは思いもしなかった。
(;'A`)(とにかく、あれは夢だったんだ)
頭をぶんぶんと左右に振って、考えを振り払うと、ドクオはベッドから出る。
今の今まで気付かなかったが、あの夢のせいか、身体が汗まみれになっている。
シャワーをあびよう。
( ^ω^)<おー、ドクオ。おはようだお。今日は随分早いおね?
浴室と隣接している台所に入ると、今まさに畑仕事に行くところといった様子のホライゾンに出くわした。
('A`)<ああ、うん。ちょっと怖い夢見ちゃってさ
(*^ω^)<おっお、ばーちゃんの形見が効いたかお?
('A`)<はは、そうかも……いや、シャレになんないくらい怖かったけど
脱衣所に入り、服を脱ぎながら、ドクオは「あ」と一言呟いた。
('A`)<じーちゃん。俺、ちょっとわかったかも
脱衣所から、顔だけひょいと出して、ドクオは老人に言った。
( ^ω^)<お?
('A`)<じーちゃん、昨日言ってたじゃん。
人間は抑圧から解放されるときの一瞬の幸せ目当てで生きてるって。
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:03:37 ID:CcEdq1rY0
( ^ω^)<おー、たしかに言ったかもしれないお
老人はそんなにはっきりと自分の発言を覚えていたわけではないようで、
少し考えてからそう言った。
('A`)<俺、それちょっとわかった。たぶん
( ^ω^) ?
不思議そうな顔をしているホライゾン老を尻目に、ドクオは浴室へと入る。
あの、夢の中で感じた恐怖。
大勢の視線と、大勢の声、そして足音。
その中で、自分一人がそれらの正体も分からずに動けないというあの状況。
あれはまさに『抑圧』そのものではなかったか。
('A`)(あのとき感じていたのは、『怖い』ってのから解放されたいって気持ちと、
一分一秒でも早くここから逃げ出したいって気持ち。
解放されたかったり、逃げ出したかったりっていうのは、
逆に言えば、その状況に『抑圧』されてるからって言えるんじゃないかな)
シャワーが、汗と、そして恐怖に満ちた、おぞましいあの夢を洗い流していく。
これが、『抑圧からの解放』か、と少年は思った。
('A`)(うん、たしかに悪くない)
―――
――
―
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:05:04 ID:CcEdq1rY0
- ―
――
―――
午後の住宅街を、ドクオ少年は歩いていた。
('A`)(この辺だよな、『翁』って)
近くの電信柱に貼ってあるプレートを確認してみると「翁3丁目」とある。
どうやら間違いなさそうである。
('A`)(さて、散歩がてら話題の『翁』に来てみたわけだけど)
きょろきょろ、と周りを見回すドクオ。
(;-A-)(やっぱり、っていうか。なんにもないなあ)
360度見渡すところ、すべて家、家、家。
その昔、不吉な森だったという面影は、見事に消え失せている。
('A`)<あ
いや、少し離れてはいるが、森らしいものはあった。
家々の屋根が並ぶ向こう側に、少しだけ残った、緑。
('A`)<行ってみるか
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:07:52 ID:CcEdq1rY0
- 歩き出すと、案外早くその場所に着くことができた。
('A`)<ああ、なんだ、神社か
木々の向こうに見えるのは、初詣などで見慣れた建物の姿。
いつもは車で来るので、近くの道に見覚えは無かったが、なるほど、歩くとこういう道になっていたのか。
そんな風に納得しながら、少年は正門側にまわり、神社へと入っていく。
中はそれなりに見慣れた景色が広がっていた。
初詣のときに比べれば、少々飾りっ気が少なかったが、しかしそれ以外は毎年見ている風景である。
('A`)(ここに、『オキナ』が……)
言い伝えでは、『オキナ』という妖怪は、この神社の境内に住み着き、
たまに子どもがくると捕まえて食べていたという。
('A`)キョロキョロ
今、この境内には、ほとんど何もない。
社の右の方に大きなご神木があるくらいで、それ以外は特にこれといったものがないのだ。
いったい、『オキナ』はこの境内のどこに潜んでいたのだろう?
「よう」
(;'A`)<<うおっ!?
突然、後ろから声がかかり、ドクオは思わずその場で飛び上がる。
- 27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:09:29 ID:CcEdq1rY0
- _
(;゚∀゚) <おお、ごめんごめん。驚かしたか?
振り返れば、そこには50代半ばといった風体の、ジャージ姿の男性がいた。
なんだろう、どこかで見た気がする。
(;'A`)<ああ、ひょっとして、神主さん……?
男性の手に握られている竹箒を見て、やっとドクオは彼が誰なのかに思い当った。
そういえば、何かの行事で見た顔だ。
もっともそのときの彼の服装は和服で、もう少し神主らしいオーラが出ていた気がするけど。
_
( ゚∀゚)<おう、よく分かったな。正装してないと、みんな神主だって分かってくんねーんだよ
からから、と男性は笑う。
なんだか爽やかな印象の男性である。
たしか正装しているときは、もっと厳格で、近寄りがたい感じがしていたのだけど。
('A`)<あ、と。こんにちは。えっと、なにか……?
他人に比べれば、かなり人見知りするほうなドクオは、おどおどと神主に訊ねる。
ひょっとして、自分はなにか粗相でもしただろうか?
_
( ゚∀゚)<ああ、いやいや。この神社に平日昼間からの参拝客が来て、
しかも見たところ若いから、興味が湧いてな
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:10:36 ID:CcEdq1rY0
- そういうことか、と、ドクオはほっと胸をなでおろした。
('A`)<あ、そうですか。あの、俺、ちょっと『オキナ』のこと調べてて
聞いたジョルジュは、ほほーん、と感心したように自分の顎を撫でる。
_
( ゚∀゚) <このご時世に『オキナ』とは、物好きだねえ坊主。
学校のレポートか何かに使うのかい?
('A`)<いえ、俺の個人的な、興味っていうか
_
( ゚∀゚) <ほー。それはまた。シューさんの再来かね
('A`)<へ? ばーちゃんのこと、知ってるんですか?
きょとん、とした顔になるドクオ。
それと同じように、向かい合っている神主もきょとん、としている。
_
( ゚∀゚) <お、おー……なるほど、お前さん、シューさんとこのお孫さんか?
ほうほう、なるほど、そういや目元がよく似てんなー
じろじろ、と神主はドクオの顔を見てくる。
何をどうしたものかわからず、固まったまま見られるがままのドクオ少年。
神主は、ふと我に帰ると、社務所の方を指さしながら、にかっ、と笑った。
_
( ゚∀゚) <そういうことだったらあがってきな。『オキナ』の話はウチが本家本元だ
- 29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:14:18 ID:CcEdq1rY0
- 社務所の中は、畳敷きになっていた。
ちゃぶ台のそばに正座しながら、ドクオはがっちがちに固まってしまっている。
_
( ゚∀゚) <はっはっは、まあ、足崩せよ。それじゃすぐにしびれちまうぞ
からから、と笑う神主。そんなこと言われても……
('A`)<や、あの、すみません。ちょっとこういうの、慣れてなくて
_
( ゚∀゚) <おおう、シューさんのとこの孫っつーから、どんなのかと思ったら。
お前さん、かなり謙虚だねえ、ああと……ドクオくん、だったかな?
('A`)<あ、ええと、はい。あの、神主さんはばーちゃんとは親しかったんですか?
_
( -∀-)<うーん……そうだな、どうだろう。
あの人は、いつも嵐のように現れて、嵐のように去って行ったからな
湯気の立つ湯のみを手に、神主はしみじみ、と目を閉じる。
遥か昔の大切な記憶を、探っているようだ、と、なんとなくドクオは感じた。
_
( ゚∀゚) <最初あの人にあったのは、たしか俺がこの神社に婿入りした日だったな。
出会いがしらに、「おまーさん、米は好きかいの?」って聞いてきて……
(;'A`)<米、ですか?
_
(;-∀-)<ああ、とにかく米に対する愛着がすさまじい女性だったよ。お前のばあさまは。
そんで「それなりに」って答えた俺に、「そうか」ってあの人は言って、
そのあとあの人は言ったんだ。「『オキナ』伝説の継承者が米の好きな人でよかった」って
(;'A`)<ぇぇぇ……
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:16:53 ID:CcEdq1rY0
- 自分の祖母が相当な変人だったらしいと聞いて、ドクオは少し複雑な気分でもあり、
そして、それと同時に、祖母のことを知ることができるのが、少しうれしくもあった。
('A`)(そういや、今まで気にしたことなかったな。じいちゃんとか、ばあちゃんのこと)
ドクオにとって、祖父は、いつも自分と一緒にいてくれて当たり前の存在だったし、
祖母は、そもそもいなくて当たり前の存在だった。
自分のルーツにあたる人間の人生について、
彼はそんなものがあった、という実感さえいまいち持てなかったのだ。
_
( ゚∀゚) <『オキナ』のことについては、俺がここにくるだいぶ前から調べてたみたいだな。
だから、『オキナ』の話は、俺よりあの人の方がずっと詳しかった。
突然現れて「内藤秋の抜き打ち『オキナ』クイズ」とか、やられたこともあったなあ
(;'A`)<す、すみません。うちの祖母が、なんかご迷惑を……
_
( ゚∀゚) <いやあ、楽しかったぜ? いや、迷惑に思ってたこともあったのかもしれないけど。
けど、今思い返せば、あれは楽しい思い出だったって言える。
シューさんのおかげで俺は次の神主に『オキナ』を語り継げる、っていっても過言じゃないよ。
(;'A`)<そ、そうですか……?
内藤ドクオ、16歳。
自分のルーツに興味を持った彼は、確実に大人の階段を上り始めていた。
_
( ゚∀゚) <ああ、そうだ。『オキナ』の話だったな。お前さんが聞きたがってたのは
神主は思い出したように言って、手元にあった茶をすする。
もう少し祖母の話を聞きたい気もしたが、たしかに目的はそちらだったので、
ドクオは改めて姿勢を正した。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:18:57 ID:CcEdq1rY0
- _
( ゚∀゚) <『オキナ』伝説に関しちゃ、多少奇妙なことがある。
お前さんも知ってると思うが、『オキナ』は明確な姿が伝わってない。
ただそんなのが居て、神社に近づく子どもを食っていたって話が伝わってるだけだ。
ちゃぶ台の上に、湯のみを置く神主。
こと、という音が、いやに大きく部屋に響いた。
_
( ゚∀゚) <これに関しちゃ、二つほど仮説がある。
ひとつは、この神社に子どもを入れるのを防ぐために、そんな話を作ったってこと。
神聖な場所に、いたずら盛りの子どもを入れたくなかったのか、
あるいは、子どもに見られるとまずい神事でもやってたのかもしれない
('A`)<子どもに見られるとまずい……?
どういうことだろう、と、少年は首を傾げる。
それを見て、神主はにやり、と悪い笑顔を浮かべた。
_
( ゚∀゚) <そうだな、たとえば生贄、とか
(;'A`)<え!?
思わずびくり、とするドクオに、神主はひっひっひと意地悪く笑った。
_
( ゚∀゚) <あとは、性的な儀式とかな。実際、ある地方ではあったらしいぜ、そういうの
(*'A`)<せ、性的て……
思春期の青少年には、なかなかアレな話である。
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:20:06 ID:CcEdq1rY0
- _
( ゚∀゚) <そして、もう一つ。これは『オキナ』が実在したって前提の上で成り立つ話。
神主は、人差し指をぴっ、と立てた。
_
( ゚∀゚) <そいつにまともに出くわした者は、みんな食い殺されちまって、
だから姿は伝わってないって可能性があるよな。
('A`)<あー……なるほど
姿を見た者が全員死んでいるなら、たしかに明確な姿は伝わらないだろう。
_
( ゚∀゚)<これには、ちょっとした裏付けもあるんだ。
だいたいこういう妖怪のたぐいってのは、偉い坊さんがやっつけたとか、
神様の力で倒されたとか、そういう退治の話があるもんだが、
『オキナ』の伝説にはそれがまったくない。
(;'A`)<それが正しいとすると、『オキナ』がまだ生きてるって可能性がありますよね
おそるおそる、ドクオが言ってみると、神主は再び意地悪い笑みを顔に浮かべた。
_
( ゚∀゚)<ちなみに、ウチで祭ってる神様も、『オキナ』を退治してたりはしないみたいだぜ?
だから、退治した『オキナ』をこの神社で祭ってるなんてことも、当然ない。
もしかしたら、今もこの神社の境内にいたりしてな……?
ぶるるっ、と震えるドクオ。
それを見て神主はひっひっひ、と笑っている。
なんだか楽しそうである。
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:21:17 ID:CcEdq1rY0
- _
( ゚∀゚)<あと、『オキナ』の名前の由来についても諸説あってな?
『オキナ』はそのまんまじーさんって意味で、もとは人間の老人だったとか、
『オキナ』はとんでもなく大きいって話があって、
その話から、「大きな」が訛って『オキナ』になった、とか。
あとそいつに名前がないのに、姿が分からなくて名前がつけられないから、
とりあえず「名前を置こう」ってことで『置名』になったなんて話もあるな
ほうほう、と、ドクオは頷きながら、神主の話に聞き入っていた。
しかし、聞けば聞くほど分からない。
『オキナ』というのは、本当のところどんな姿をしていたのだろうか。
思い出されるのは、昨日の夢。
姿のない足音と、念仏、声、そして―――
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
―――自分を見ていた、8つの目。
('A`)<もしかすると……
_
( ゚∀゚)<お?
ぽつり、とドクオは呟いた。
('A`)<ああ、いえ。もしかすると、『オキナ』の姿ってのは、
口で説明できないほどへんてこだったんじゃないかなって
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:23:13 ID:CcEdq1rY0
- ふーむ、と、神主は自らの顎をなでた。
_
( ゚∀゚)<なるほどな、たしかにそうなのかもしれん。
……ほら、ヌエって聞いたことあるだろ?
一般には頭がサルで、しっぽがヘビで、胴がタヌキ、足がトラ、だったか。
あれって他にも色んな姿で伝わってて、いまいち姿がはっきりしないんだよ
('A`)<それも、元の姿がへんてこだったから、ってことですか?
_
( ゚∀゚)<おう、少なくとも俺はそう思うね。
だいたい、ほんとに見たことない生き物を見たときって、
たいてい自分が見たことのある何かで例えるだろ?
ヌエの場合は、似ているものがいっぱいあった、ってことじゃねえのかなと。
('A`)<じゃあ、『オキナ』の場合は、何にも例えようがなかった、ってことになりますね
ふむふむ、と、神主は感心したように言って、ドクオの顔を覗き込んだ。
(;'A`)<え、あの、俺、なんか変なこといいました?
_
( *゚∀゚)<ああ、いやいや、そうじゃないよ。
やっぱシューさんの孫だなあと。なかなか面白いことを考えるよな
キラキラとした目で顔をのぞきこまれて、なんだか恥ずかしくなってしまったドクオは、
そのまま顔を赤くしてうつむいてしまった。
――――
―――
――
―
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:25:00 ID:CcEdq1rY0
- 夕方。
神主と話し終ったドクオは、帰宅し、今日の出来事を祖父に話していた。
(*^ω^)<おっお、そうかお。長岡くん、元気みたいで安心したおー
うれしそうに言う祖父。
どうやら彼のほうも神主とは面識があったようだ。
(*^ω^)<それにしても、ドクオが『オキナ』に興味持ってくれるなんて、
ばーちゃんもきっと喜んでるお
(*'A`)<そっかな? そうなら、いいんだけど
嬉しそうに言うホライゾンに、ぽりぽり、と頬をかくドクオ。
('A`)<朝も言ったけど、今日、怖い夢見ちゃってさ。
それで、『オキナ』のこと気になっちゃって
( ^ω^)<お、そういえばそんなこと言ってたおね。どんな夢だったんだお?
ドクオは、今朝見た夢の内容を祖父に話した。
祖父は、それを聞いて納得したように頷く。
( ^ω^)<おっお、『抑圧』がどうのって言ってたのは、その夢のせいかお
('A`)<ああ、うん。なんかすっごい窮屈で、逃げ出したくなる感じだったから
- 36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:26:44 ID:CcEdq1rY0
( ^ω^)<「『不自在』は『地獄』」、かお。
思い出したように、祖父はぽつりと呟いた。
('A`)<『ふじざい』? なんのこと?
( ^ω^)<おっお、昔ばーちゃんが何度か言ってたんだお。
たしか『娑婆論』って本の言葉だったと思うお。
「ふ」は「不幸」の「不」。「じざい」は「自由自在」の「自在」だお
『地獄』ってのは、『自在』を奪われることと同じだって、そういう意味だお。
ドクオは、祖父の横顔を見た。
しわの刻まれた、顔。今、どこか遠くを見ているようなその目は、今まで一体、何を見てきたのだろう?
( ^ω^)<ドクオ
ふいに老人は、自分の名前を呼んだ。
声は柔らかかったが、しかし、その声にはいつにない真剣さがあった。
(;'A`)<え、あ、何?
( ^ω^)<この先、きみはいろんなな理不尽に出会うと思うお。
きみが生きる現実の根本は、未だにいろんな”力”が支配していて、
だから、これから何度も、きみは力あるモノに『抑圧』されると思うお。
それはきっと、きみが夢の中で出会った『オキナ』のように、
容赦なく、突然で、何が悪かったのかも分からせてはくれない。
老人は、孫を見ている。
まっすぐに、やさしく、しかしその目はなにか、”強かった”。
- 37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:29:46 ID:CcEdq1rY0
( ^ω^)<そんなとき、絶対に見ないフリしちゃだめだお?
目をそらしたら、きっとそれは一瞬できみを飲みこんでしまう。
強いモノに狙われてしまったとき、どうしようもない状況に巻き込まれてしまったとき、
弱い人間に、できることはただひとつ、だお
老人は、目を閉じた。
ドクオにはその姿が、過去に出会った、何かを思い出しているように見えた。
( -ω-)<ただ、”諦めないこと”。それしかないんだお
('A`) ……。
( ^ω^)<いつかきみが”それ”と対峙するときのために、覚えておいてほしいお。
もちろん、きみが勝てる保証はないお。
でも、そうしないと、きみは未来を手に入れることはできないんだお
少しの間、部屋に沈黙が落ちた。
少年は、ゆっくりと言葉を探し、そして口を開く。
('A`)<……未来って、待ってればくるものかと思ってた
( ^ω^)<おっお、そうだおね。
でも、実際に『未来』ってものに到達するには、それなりの苦労が必要なんだお。
待ってるだけでは、けっして『未来』はやって来ない、だからときどき諦めたくもなる。
少なくとも、じーちゃんはそうだったんだお
あらためて、少年は思った。
この人は、どんな人生を歩んできたんだろう、と。
そして、この人の繋げた『未来』に産まれた自分は、一体どんな風に生きればいいのだろう、と。
- 38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:36:02 ID:CcEdq1rY0
- ―
――
―――
そして、また夜が訪れた。
部屋に深く落ちる、闇と、静寂。
その静寂を乱すのは、時を刻む時計の針の音だけ。
<○> <○>
<○> <○>
<○> <○>
<○> <○>
―――視線を、感じた。
(; A ) ッ!!
自室のベッドから、ドクオは跳ね起きる。
この視線は、間違いなく昨日の”あれ”だ。
”あれ”が、『オキナ』なのかどうかは分からない。
しかし、昨日以上の空気の重さを感じたドクオは、
直感的に、”あれ”が今度は本気で”何か”しようとしていることを悟った。
とたとた…ぱたぱたぱた…とたとた……
足音が、念仏が、近付いてくる。
空気が、どんどん重くなっていく。
- 39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:36:57 ID:CcEdq1rY0
(; A )
ドアから入ってくる、足音。
ひとり、ふたり、さんにん……
昨日より、ずっと多い。
<○> <○>
<○> <○>
<○> <○>
<○> <○>
感じる視線が、どんどん強くなっていく。
それと同時に、空気も重くなっていく。
潰されてしまいそうな、ずっしりと重い空気の中。
意味の分からない、何百人、何千人の人間の声が、念仏のように部屋中に響いている。
「「「アワい…たれタ…まルい」」」
「お………ノ………こ……」
「「「たイナ…べタお…ルイる」」」
聞き取れる声は、せいぜい4人分。それですら、ごちゃまぜになってしまって意味が分からない。
(; A )(うごけ……ない……)
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:39:30 ID:CcEdq1rY0
- 自分を包む空気が、ずっしりと重い。
いや、もうこれは”重さ”ではなく、”硬さ”に近い。
空気中に居ながら、地面に生き埋めにされているような重圧感。
1ミリも動けないドクオのひざに、何かが触った。
(; A ) ―――!!
目だけを動かし、自分のひざに触っている、『それ』を見る。
まっ白く、異様に長い、人間の『手』が、ベッドの下から生えている。
くねりくねりとうねりながらそれは、ゆっくりとドクオのほほに伸び、そして撫でた。
それは冷たくもないし、温かくもない。
ただ、感触だけが、ドクオの肌に伝わってくる。
(; A )
もう、何を考えていいのかも分からない。
これがなんなのかなんてどうでもいい。
夢なら早く覚めて欲しい。
それで、この訳の分からない状況が終ってくれるなら。
ドクオがそんなことを考えているうちに、
一本、また一本と、ベッドの下から白い手が伸びてくる。
ベッドの下から延びる何百何千の、まっ白な『手』。
それらはドクオの体のあらゆる部位を掴み、そして下へとひっぱる。
- 42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:43:29 ID:CcEdq1rY0
(; A )
ベッドに磔にされるドクオ。
『手』に温度がないせいか、『空気』そのものが自分を押し付けているように感じられる。
(; A )<ぁ……
否応なしに天井を見ることになったドクオは、『それ』と目があった。
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
<●> <●>
天井からこちらを見る8つの目は、ドクオと目があうと、昨日と同じように笑う。
眼下にいる、無力な人間を嘲笑っている。
(; A )<ぁ……ぁ……ぁ
天井から手が伸びてきた。
何千、何百の、まっ白な『手』。
それらはドクオのあらゆる部位を掴み、そして今度は上へとひっぱる。
ドクオの体は引っ張られる。
下から延びる手には下へと。そして上から延びる手には上へと。
全く逆の方向へ、引っ張られる。
- 43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:44:25 ID:CcEdq1rY0
引きちぎられてしまう、と、ドクオは思った。
粉々にされてしまう。
こんな訳の分からないものに、自分は終りを与えられるのか。
それでもいいか、とドクオは思った。
この恐怖から解放されるなら、その逃げ先が『死』でも構わないか。
そう思った。
- 44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:46:04 ID:CcEdq1rY0
( -ω-)『ただ、”諦めないこと”。それしかないんだお』
.
- 45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:48:29 ID:CcEdq1rY0
(; A ) !!
ふいに頭をよぎった、祖父の言葉。
気付けば、ドクオは必死に身をよじり、もがいていた。
(; A )<<ああ、ああああああああ!!!
声にならない叫びをあげる。
じたばた、とみすぼらしく、あがく。
(; A )<<あああああ、ああああああああああ!!!!
気がつけば、目からは涙が出ていた。
鼻からは鼻水が、口からはよだれが、皮膚からは、汗が。
それでも、ドクオは抵抗をやめなかった。
たとえどんなに汚らしくても、みすぼらしくても、醜くても、
それでも、今、彼は生きようとしていた。
(; A )<<あああああああああああ、ああああああああああああああああ!!!!!
必死の抵抗も空しく、彼を包む『手』の群体は、上下から彼を掴んではなさない。
彼を見下ろす8つの目が、醜く生き永らえようとする彼を笑っていた。
- 46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:50:45 ID:CcEdq1rY0
(; A )<<ああ……ああああああ……!!
だんだん、身体に力が入らなくなってくる。
上下に引っ張られる力が大きくなる。
このまま、自分は終ってしまうのだろうか?
祖父や、祖母や、父や、母や、
自分に繋いでくれた、いろいろな人の『未来』は、ここで終ってしまうのか?
(; A )<<ああああああああああああああ!!!
最後の力を振り絞って、ドクオは自分に絡みつく手を振りほどこうともがいた。
その瞬間
(; - )ムグッ!?
―――口の中に、何かが入った。
(; 〜 )ポリポリポリ
硬くて、小さな、一粒。気がつけばドクオはそれをかみ砕いていた。
なんだろうこれは、覚えがある。
そう、たしか小さなころ遊びで生米をかじったとき、こんな味がしたような……
- 47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:51:54 ID:CcEdq1rY0
「腹が減っては戦はできぬ、っちゅうやっちゃな。気張りんしゃい、ドクオ」
どこかすごく近くから、聞いたことのない女の人の声が聞こえた気がした。
少年は、再びもがき始める―――
――――
―――
――
- 48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:53:10 ID:CcEdq1rY0
- どこかから、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
(;'A`) ―――ッ!!!
見慣れたベッドの上。
少年は、目を覚ました。
(;'A`)<いきて……る?
全身が汗でびしょびしょになっている。
それでも、彼は生きていた。
ゆっくりと、ベッドから身を起こす。
身体があちこち痛いが、とくに目立った外傷はない。
おそらく、ただの筋肉痛だろう。
('A`)<……うん
ドクオは部屋から出ていく。
向かうのは、浴室ではなく、仏間。
部屋に入ったドクオは、仏壇の前に座った。
('A`)
(-A-)
そっと、手を合わせる。
- 49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:54:04 ID:CcEdq1rY0
(-A-)(ばあちゃん)
目を閉じ、手を合わせながら、ドクオは心の中で祖母に話しかける。
(-A-)(俺、ばあちゃんたちの繋いでくれた『未来』、守れたよ)
ざっ…ざっ…ざっ…ざっ…
どこか遠くから、足音と、大勢の人間が念仏を唱えているような声が聞こえてくる。
しだいに遠ざかっていくその音を、
ドクオは、ただ、黙って聞いていた。
- 50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:55:11 ID:CcEdq1rY0
lw´* _ ノvポリポリ <●<●
( -A-)『オキナ』のようです <●<●
<●<●
<●<●
おわり
.
- 51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 01:59:07 ID:CcEdq1rY0
(
)
i フッ
|_|
.
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