( ^ω^)百物語のようです2012 in創作板( ω  )

906 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:02:43 ID:USnqYIBQ0



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     置き去り のようです

908 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:04:12 ID:USnqYIBQ0

(;´・ω・`)(やれやれ、まいったな……)

 仕事帰り。突然の夕立に、雨宿りせざるを得なかった。
 店が立ち並ぶ大通り、その一角にある喫茶店の屋根に隠れ、雨を凌ぐ。

 傘はない。
 天気予報で雨になると言われた時は勿論持ってくるが、夕立への備えなどわざわざしていないのだ。


 本当ならこんな場所で雨宿りなどしたくはないが、仕方がない。
 車が突っ込む事は無いだろうが、不安というものはしつこく付きまとう。

 見渡すと、僕と同じように雨宿りをしている人や、早く帰ろうと雨間を走り抜ける人が目につく。
 ばしゃばしゃと水が散る音が、雨粒が打ち付けてくる音が、絶え間なく聞こえてくる。


(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「?」


 おかしなものがある事に気付いた。
 街路の真ん中に、ずぶ濡れのダンボール箱が鎮座しているのだ。

 大きさは、人がしゃがめば入れる程。
 下を見ずに歩いたとしても、嫌でも視界に入る。

909 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:05:49 ID:USnqYIBQ0

 だが、誰も見向かない。
 そこに何もないかのように、怪訝な表情など全く浮かべず通り過ぎていく。


(´・ω・`)(何だか気になるな)

 今、雨足は弱まりつつある。少し濡れるくらいなら問題ないだろう。
 小走りでダンボール箱のもとへ向かい、箱を開ける。

 すると、


(;´・ω・`)「うわっ!!」

 しゃがみ込んだ子供が、そのままの姿勢でこちらを見つめていた。
 一点の光も感じさせない、真っ黒な目。

 思わず目を背ける。


(;´・ω・`)「……? あれ?」

 もう一度箱を見ると、そこには誰も居なかった。
 代わりに入っているのは、一枚の写真。拾い上げる。

910 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:06:51 ID:USnqYIBQ0

(´・ω・`)「……」

 写っていたのは、三人の親子だった。

 中央に、輝くような笑みをたたえた子供。
 その両脇には、同じく笑みを浮かべた父親と母親が、子供と手を繋いでいる。


 三人の顔を見て思い出す。

 ここで起きた、あの事故を。




 一ヶ月前の事だ。

 梅雨が明け、本格的な夏が始まろうとしていた頃。
 三人で歩いていた親子に、突然、車が突っ込んできた。

 交差点。街路樹も防いでくれない。


 父親、母親は重傷で意識不明。

 七歳の子供は――即死。

911 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:08:06 ID:USnqYIBQ0

 晴れ空の下で起こった痛ましい事故に、多くの人が子供の死を悼んだ。


 意識を取り戻した両親の気持ちは、想像を絶するだろう。
 まさに幸せの絶頂にあったというのに、無残にも破壊し尽くされてしまったのだ。

 独身である自分には、「可哀想に」「悲しいだろうな」という感情しか浮かばなかった。



(´・ω・`)「……」

 箱の中にいたのは、あの子供だった。
 何故、あそこにいたのだろう。


 ……分からない。
 だが、ただ一つ。

 寂しかったという事は、なんとなく感じ取れた。


 大切なものを落とし。道から外され、置き去りにされ。何もできずに。
 二度と歩むことのできない世界を、一人ぼっちで見つめていたのだろう。

913 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:09:07 ID:USnqYIBQ0

 時間は止まらない。
 何かを置き去りにしながら、誰かを取り残しながら、いつも前だけを向いて流れ続ける。

 取り残された者は、どう足掻こうが這い上がれない。
 前にも後ろにも、どこかに繋がる道は無い。

 ずっと暗い所で。一人ぼっちで。
 何もない場所をたゆたい、決して明けない闇の中を彷徨って。



(´・ω・`)「……」

 ふと見上げると、雲の切れ間から陽光が差し込んでいた。
 眩しさに目を瞑る。

 街路に視線を戻すと、ダンボール箱は既に消えていた。

914 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:10:03 ID:USnqYIBQ0

(´・ω・`)(これは……)

 ――後で、神社に持って行ってあげよう。

 僅かに濡れたカバンを開き、写真をしまい込んだ。
 歩き出す。


 自分が生きていた事を、どれだけの人が覚えてくれるのだろうか。
 何故だか、帰り道でそんな事を考えてしまった。

915 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 03:10:48 ID:USnqYIBQ0

  (
   )
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