( ^ω^)百物語のようです2012 in創作板( ω  )

92 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:19:12 ID:3AupHe.cO

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 (i,)
  |_|

93 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:20:07 ID:3AupHe.cO

 目を覚ました俺は、まず右足の激痛と、全身の鈍痛に舌打ちした。
 体の下に大小の石があって、身じろぎする度に背中が痛んだ。
 起き上がるのにも時間が掛かる。

 何とか上半身を起こし、視線を上げた。

( ・∀・)「……くそっ」

 辺りは、すっかり夜の闇に覆われている。二度目の舌打ち。
 ヘッドライトのスイッチを入れようとして、ライトが帽子ごと無くなっているのに気付いた。

 手で地面をあちこち叩く。慣れた感触に当たった。
 俺の愛用しているザックだ。
 中からハンディライトを取り出す。

( ・∀・)「……どこだよ、ここ」

 目の前を水が流れていた。
 体を捻り、後ろを照らす。
 土や石で出来た壁。随分高い。

 頭の中を整理する。至ってシンプルな状況だ。
 俺は登山をしていた。途中で足を滑らせ、転落した。
 その二言で済む。

 再び前方を照らす。
 水は然程深くない。川というよりは沢。

94 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:21:45 ID:3AupHe.cO

 そうこうしている内に右足の痛みが増してきたので、俺は靴と靴下を脱いだ。
 足首が赤く腫れ上がっている。
 折れているかもしれない。

 骨折の応急処置といえば副木だが、代わりになりそうなものがない。
 俺は、しばらく途方に暮れた。

( ・∀・)(何時だ、今)

 携帯電話を見る。
 午後8時を回っていた。
 圏外なので、これで助けを求めるのは期待出来ない。

 ぼうっと座り込んだまま、10分近くが経過した。体が冷える。

 このまま座っていても仕方ない。だが、この足では動けない。
 そもそも、暗い中を歩き回るのは危険だ。

 ザックに括りつけていた、テントの部品が入った袋を外す。
 女や子供でも短時間で組み立てられる簡単さが売りのテントだったので、
 足を動かせない俺でも、多少手間取ったが何とか組み立てることが出来た。

 這いずるようにして中に入り、マットの上に横たわる。
 開いた寝袋を掛け布団代わりにして、俺は目を閉じた。

 ひとまず明るくなるまで待たなければならない。
 不安や焦燥を押し込め、俺は眠ることに専念した。

95 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:22:31 ID:3AupHe.cO


 ──先程から、ふとしたときに異臭を感じるのが気になっていた。
 生臭いような、嫌な臭い。

 登山客が放り投げたゴミか、もしくは動物の死骸か。
 まだ前者の方がマシだ。

 足の痛みにくらくらしながら、半ば気を失うように眠りに落ちた。



     ( ・∀・)滑落、ふたりぼっちのようです



 朝になり、臭いの原因が判明した。

 人間の死体だった。

96 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:24:26 ID:3AupHe.cO

 ──目が覚めたとき、外はまだ薄明かり程度の明るさだった。
 だが、周囲の状況を確認するには充分だ。

 顔や腕の擦り傷に絆創膏を貼ってテントから這い出た俺は、
 近くに落ちていた木の枝を杖として使った。
 裸足の右足は軽く曲げ、左足と杖に体重をかける。

 そのまま、じっと沢を観察した。
 水は右手側に向かって流れている。

 こういう場合、水の流れに従って進むのは危険だ。
 どこに出るか分からないし、最悪、滝になっている恐れもある。

 それよりは上流を目指して歩くべきなのだが──

( ・∀・)「……無理だよなあ」

 傾斜が厳しく、今の俺には無茶が過ぎる。
 崖を登って元の道に戻るなんて、もっと無理。
 どうやら、俺はここで救助を待つしかないらしい。

 幸い、それなりに人の出入りが多い山だし、
 ここに来ることは友人や家族にも事前に話してある。
 希望はゼロではない。

 食料はそこそこ。水は目の前にたくさん。
 生き延びさえすれば、いつかは助かる筈だ。

97 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:25:08 ID:3AupHe.cO

 しかし。

( ・∀・)(何の臭いなんだ?)

 昨夜から漂っている臭いが気になる。
 俺は辺りを見渡した。

 ふと視線が留まる。
 沢を挟んだ向こう、下流の方向に数メートル進んだところに、何かが転がっている。

 俺の位置からは何なのか分からない。
 転ばないよう気を付けながら、俺は右側へ進んだ。

 「それ」に近付くにつれ、臭いが濃くなる。

 ある程度距離を詰めたところで、その正体に気付いた。

 人間だ。
 うつ伏せに倒れたまま、ぴくりとも動かない。
 生きているとは思えなかった。

98 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:26:04 ID:3AupHe.cO

(;・∀・)「……マジかよ……」

 放心する。

 嘘だろ、なんて呟いても、相変わらずそこに死体は転がっている。
 たぶん女だ。髪が長い。
 服装からして登山者。

 恐らく──俺のように滑落したのだろう。
 打ち所が悪くてそのまま死んでしまったのかもしれない。

 手袋まできっちり装備している上に顔が見えないから
 腐敗の具合までは分からないが、臭いからして、結構経っているのではないだろうか。

(;・∀・)(うわー……よりによって、何でここなんだよ……。
      ……なんまいだぶなんまいだぶ)

 俺は、心持ち急いでテントに戻った。
 それでも普通に歩くよりは遅かったが。

 こんな場所に死体と2人きりなんて、冗談じゃない。
 何とかしてここを離れられないかと思ったが、やはり、左足と杖だけでは危険すぎる。

 食欲が湧かず、テントの中で横になった。

99 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:27:19 ID:3AupHe.cO


 その後、誰かが近くを通りかかることもなく、日が暮れた。
 山は暗くなるのが早い。

( ・∀・)(……大丈夫だよな)

 テントの中でスニッカーズを齧りながら、ぼんやりとザックを見つめる。

 きっと助かる。
 誰かが来てくれる。
 まだ1日しか経っていない。大丈夫。絶望するのは早い。

 不意に、あの女の死体が脳裏を掠めた。

 俺も、あんな風に野垂れ死ぬのだろうか。
 食欲が失せる。
 半分も食べていないスニッカーズをビニール袋に入れ、ザックにしまった。

 腹が鳴ったが、それ以上食べる気にならなかった。
 横になる。

 足の痛みは相変わらずだったが、慣れてきたのか、睡眠を妨害するほどではなかった。

.

100 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:28:07 ID:3AupHe.cO



 ぼうっとしながら目を開けた。
 暗い。

 しばらくして、テントの中で目を覚ましたのだと気付いた。

 手探りで携帯電話を掴み、時間を見る。
 日付が変わる頃だった。

 変な時間に起きてしまったと思いながら、身を起こした。
 ぶるり、背中が震える。

( ・∀・)(小便してえ)

 テントに持ち込んでいた木の枝を掴み、俺は、外へと這い出た。

 適当な場所で立ち止まり、右手に持った杖に体重を預け、左手でジッパーを下ろす。
 放尿しながら、何気なく、あの死体の方へ視線をやった。

 近付いている気がした。
 朝に見たときより、上流側へ寄ってきているように見えた。

101 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:29:31 ID:3AupHe.cO

 気のせいだと思い込もうとしたが、それにしてはあまりにも近い。
 こんな真夜中に、相手の姿と距離を把握出来るほど。

 俺は用を足し終えると、真っ直ぐテントに戻った。
 閉じた瞼に力を込める。


 ざくざく、小石を踏みながら歩き回るような音がしていたが、
 外を確かめる勇気はなかった。



*****

102 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:30:48 ID:3AupHe.cO

 朝になりテントを出ると、沢を挟んで真向かいに死体があった。

 息を呑む。
 女は微妙に体勢が変わっていた。

 テントの方へ顔が向いている。
 ぐずぐずに崩れた顔には虫がたかっていた。
 臭いが強い。

 俺は腰が抜けそうになるのを堪えながら、
 テントを一旦閉じて、離れた場所で組み立て直した。

 それから、ベルトに括っていたICレコーダーを取った。
 登山中の記録をとるのに、手帳より便利だと聞いて買ったものだった。

(;・∀・)「──助けてくれ! 足を滑らせて落ちた! 助けてくれ!──」

 大声でSOSを叫び、録音する。
 これを大音量で流せば、普通に叫び続けるより、喉にかかる負担も少ないだろう。

 録音を終えた。再生する。

 俺の声に被さるようにして、所々に「ああああ」と、若い女の声が入っていた。

 レコーダーを取り落とす。
 頭を抱えた。

.

103 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:32:41 ID:3AupHe.cO


 今日も日が暮れた。
 死体を視界に入れないようにしながら用を足した俺は、テントに潜り込んだ。

 腹が鳴る。そういえば朝から何も食べていない。
 昨夜の残りであるスニッカーズを腹に収め、沢で汲んでおいた水を飲む。

 食料はまだ充分にあった。だが、それで気が休まるわけがない。
 「あれ」さえ居なければ、まだ良かったのに。
 そうすれば、何日かかろうとも救助を待てる余裕があっただろうに。

 寝転び、痛む足を無理矢理動かして丸まった。
 この足さえ無事だったら。

 暗闇を睨む。
 恐ろしい想像ばかりが頭を巡る。

 今にも足音が聞こえてきそうな気がして、耳を塞いだ。


.

104 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:33:54 ID:3AupHe.cO


 ──聞き馴染みのある音楽。
 俺は瞼を持ち上げた。

 軽快なメロディーが響いている。
 何の曲だっけ。
 ああ、早く電話に出ないと。

(;・∀・)(──電話!)

 一気に覚醒する。
 俺の携帯電話の着信音だ。

 顔の横に置いていた携帯電話を引っ掴む。
 まさか電波が入ったのか?
 携帯電話を開き、俺は眉を顰めた。

 圏外。非通知。

 嫌な予感がした。
 しかし、けたたましく鳴る音楽に急かされているように思えて、
 俺は通話ボタンを押し、携帯電話を耳に当てた。

105 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:35:01 ID:3AupHe.cO

 相手は何も言わなかった。
 何の声も、音もしない。
 初めは、そう思った。

 しばらくしてから気付いた。
 さらさら、微かに音がする。
 水の流れるような。あの沢から聞こえるような。

 俺は通話を切った。
 電源を落とす。

 ざく、ざく。
 足音。
 何メートルか先から聞こえている気がする。

 少しすると足音が消えた。
 ほっと息をついた、瞬間。

 ──ざくり。

 すぐそこで鳴った。

106 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:36:37 ID:3AupHe.cO

 足音はテントの周りを、ゆっくり、ぐるぐると回る。
 2周ほどして、入口の前で止まった。

 心臓が壊れそうだった。

 じ、じ、と入口のファスナーが下げられる音。
 俺は縮こまり、きつく目を瞑った。
 音が途中で止まる。

 視界を閉ざしているのに、入口の隙間から、崩れた顔がこちらを覗き込んでいる光景が
 瞼の裏にありありと映し出されていた。



*****

107 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:37:48 ID:3AupHe.cO


 はっとしたときには、もう朝だった。
 気絶していたのか、それとも夢だったのか。

 そろそろと顔を上げ、俺は、全身から力が抜けるのを感じた。
 入口が中途半端に開いている。
 夢じゃなかった。

(;・∀・)「何だよ……何なんだよ……」

 しばらく、そのまま震えていた。
 外で鳥の鳴き声がして、ようやく俺は動いた。

 ファスナーを下ろしきって、恐々、外を窺う。

 沢の向こうには、何もなくなっていた。

(;・∀・)(死体は……?)

 テントを出る。
 杖をつきながら辺りを見回した。

 テントの真横で、死体が仰向けになって転がっていた。

 尻餅をつく。
 呼吸が浅くなり、「ひ、ひ」と情けない声が漏れた。

.

108 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:39:07 ID:3AupHe.cO

 俺はまたテントを移動させた。
 ろくに力が入らなかったのと足が痛いのとで、大して距離はとれなかったが。

 沢で水を汲み、後はずっとテントに篭った。
 せいぜい尿意を催したときに外に出るくらいだった。

(  ∀ )

 ──俺は、以前インターネットだかテレビだかで見た怪談を思い出していた。

 雪山で遭難した男と、死亡した仲間の話だ。
 朝になると、埋めた筈の死体が横にいる。
 何度埋めても、目を覚ますと隣にいる。そんな話。

 その怪談じゃ、主人公(今の状況なら俺か)が、夜な夜な夢遊病のような状態で
 死体を自分の傍に運んでいた──というオチだった。

 俺もそうなのだろうか? 俺が無意識の内に死体を動かしているのか?
 だが、この足では不可能ではなかろうか。
 杖がないと満足に歩けないのに、死体を抱えたまま沢を行き来できるとは思えない。

109 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:40:24 ID:3AupHe.cO

 じゃあ、ここに第三者がいる可能性はどうだ?
 俺を怖がらせるために足音をたて、死体を運んでいる人間がいる。
 ──仮にそれが正解だとして、そんなことをする人間がいると思うと余計に恐い。

(  ∀ )(……でもそれじゃあ、あのとき、どうやってレコーダーに女の声を入れたっつうんだよ……)

 考えても考えても分からない。
 頭が痛い。

 俺の脳みそは、一日中同じ思考を繰り返した。


.

110 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:41:44 ID:3AupHe.cO


 ぱちぱち、瞬きを繰り返した。
 真っ暗。
 ああ、さっきまで寝ていたのか。

 夕方頃に、携帯電話の電源を入れて時間を確認したのは覚えている。
 以降の記憶があやふやなので、恐らく眠ったのだろう。

 じゃあ今は夜か。
 もう夜中に目覚めるのは勘弁してほしかった。

( ・∀・)(……寒)

 体が冷えている。身震いした。
 何も掛けずに寝ていたようだ。

 暗闇に目が慣れてくる。
 傍らに丸めた寝袋があるのに気付き、手を伸ばした。

 いつもの寝袋とは違う感触が返ってきた。

 俺の腕の重みで寝袋が沈み込み、ぶじゅ、と水っぽい音が鳴る。
 途端、つんとした異臭が鼻に突き刺さった。

111 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:42:39 ID:3AupHe.cO

(;・∀・)「──!?」

 手を離し、両腕の力だけで後ずさった。
 足に激痛。目眩がした。
 ザックの横に立てていたハンディライトで、寝袋を照らす。

 ごろりと寝袋ごと転がったのは、死体だった。

 頭が真っ白になる。
 ライトを投げ捨て、俺は叫んだ。

(; ∀ )「あああああ! わあああああ!!」

 もう、足なんてどうなってもいいから逃げたかった。
 右足で地面を蹴るようにして這う。
 涙が零れた。恐怖によるものなのか、それとも痛みによるものなのかは分からなかった。

 テントの入口は開いていた。
 そこから上半身を出す。



 その瞬間、左足を掴まれた。



*****

112 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:45:06 ID:3AupHe.cO



ξ゚听)ξ「ブーン」

 彼女は、パソコンを見ながら僕を呼んだ。

( ^ω^)「何だお?」

ξ゚听)ξ「この間、山に行こうって言ったじゃない」

( ^ω^)「ああ、そういえば言ったおね」

ξ゚听)ξ「その山について調べてたんだけど……。
      何かね、去年、そこで遭難した男の人の遺体が見付かったんだって」

( ^ω^)「遭難かお……可哀想に」

ξ゚听)ξ「で、その人に抱き着くような形で、女の人の遺体もあったらしいの」

( ^ω^)「恋人だったのかお?
       抱き着くようにって、もしかして心中だったんじゃ──」

 さあ、と彼女が答える。
 パソコンを食い入るように見つめ、彼女は言葉を続けた。

113 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:46:00 ID:3AupHe.cO

ξ゚听)ξ「恋人かどうかは知らないけど、
      その、女の遺体の方が男の遺体より古かったんですって」

 僕は、彼女の言葉を頭の中で繰り返す。
 10秒経ってからようやく理解して、震え上がった。



終わり

114 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/12(日) 00:46:54 ID:3AupHe.cO

  (
   )
  i  フッ
  |_|



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