鬼の棲む山のようです

2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:43:51 ID:2MpaaWgU0

「今日は何して遊びましょう」

「鬼ごっこがいいです!」

「ぽ」


 三人の子どもは、ずっとずっと遊んでいた。

花のつぼみが膨らみはじめた、春先のその山で、
≪鬼≫の伝承が色濃く残るその忌まわしき地で、


「―――じゃあ、今日の鬼はワカッテマスくんなんです!」


 彼らは、今宵の「鬼」を決める。

3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:44:53 ID:2MpaaWgU0

鬼の棲む山のようです

4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:45:45 ID:2MpaaWgU0
(;^ω^)

( <●><●>)

( ><)

(*‘ω‘ *)

(;^ω^)「えーと…」

(;^ω^)「僕、お金持ってないですお…」

( <●><●>)

( ><)

(*‘ω‘ *)

( ><)「旅人さん」

(;^ω^)「あ、はい」

( ><)「僕らと一緒に遊ぶんです」

(;^ω^)「はい?」

5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:46:30 ID:2MpaaWgU0

( ><)「鬼ごっこして遊ぶんです!」

(;^ω^)「お、鬼ごっこ?」

( ><)「そうなんです! 旅人さんが鬼なんです!」

( <●><●>) 「ちゃんと10数えてくださいね」

(*‘ω‘ *) 「ぽっ」


 其れは、まだ肌寒さの残る陸奥の、とある山での事でございます。

ほのかに春の息吹が訪れたその山で、旅人は、三人の子供の遊びに巻き込まれました。
あまりにも突然のことに、旅人が戸惑うのも無理はございません。


(;^ω^)「えーと…」


 勿論、旅人には、子供の遊びに付き合ってやる義理などありません。
ですが、考えてもみてくださいませ。

この緑深い山の中、散り散りになった子供たちを、誰が放っておく事が出来ましょうか。
里が近くにある訳でなし、親が見守っている訳でもなし。

それに―――

6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:47:24 ID:2MpaaWgU0

( ^ω^)「……よし、ちょっと付き合ってやるかお」


 子供の遊びに付き合えぬほど、急ぎで目指す場所がある訳でもなし。

旅人は、背負っていた鞄を降ろしました。
三人の子供の遊びに乗ることにしたようでございます。

幼い子どもの足ならば、そう遠くへは行っていないでしょう。
各地を回り歩いた旅人の足ならば、あっと言う間に全員捕まえる事もできる筈。

―――間違った勝算と共に、子供の遊びに付き合ってやった事を後悔したのは、大分、陽が傾いた頃でありました。


(;^ω^)「おーい…どこまで行ったんだおー…」


 子供たちを探し始めて、かなりの時間が経とうとしておりました。
あっちの木の根、こっちの草の影を探してみても、子供の服の切れ端すら見つかりません。


(;^ω^)「これ以上、山を登ったら…僕が探される羽目になりそうだお」


 賢明な判断と言わざるをえません。
慣れない地、それも、黄昏色に染まりつつある山の中でございます。

これ以上は、子供を探すことは不可能だと、旅人は決断を下しました。
そうとなれば、彼が取るべき行動はただ一つのみ。

腹にめいっぱいの空気を取り込み、山中に響き渡らんばかりの大音声で、旅人は叫びました。


( ^ω^)「降参だお!!」

7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:48:10 ID:2MpaaWgU0

 すると、どうでしょう。
そこら辺の木陰から、花の褥の中から、萌えはじめた木々の上から、
あんなに探しても見付からなかった子供たちが現れたではありませんか。

ああ、けれども、彼らは少し臍を曲げているようでございます。


( <●><●>) 「全然探されていないことは分かってます」

( ><)「これじゃ鬼ごっこじゃないじゃないですか!」

(*‘ω‘ *) 「ぽぽぽぽ!」

(;^ω^)「あのね、突然鬼ごっこに巻き込まれても…」

( <●><●>) 「すみません。ここに人が来るなんて、珍しかったので。
       ……お兄さんは旅人さんですか?」

( ^ω^)「そうだお。僕は内藤。君たちは?」

( ><)「ぼくはビロードなんです!」

( <●><●>) 「ワカッテマスです」

(*‘ω‘ *) 「ちんぽっぽ」

( ^ω^)「三人とも毎日ここで遊んでるのかお?
      なら、もしかして人里が近くにあるのかお?
      人が住んでなくとも、屋根さえ貸してくれる所があればそれでいいんだけど」

( ><)「村は、山を越えなければ無いんです…。でもちょっと遠いから、
      今日は上にあるお茶屋さんで休んだ方がいいんです」

8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:48:56 ID:2MpaaWgU0

 ビロード、と名乗った子供が、山の中腹を指しました。
確かに、木々の隙間からは、茶屋と思わしき建物の屋根が見えます。

もう陽は落ちてしまいましたし、彼らの云う通り、
今日のところは、あの茶屋の屋根を借りた方が良さそうでした。


( <●><●>) 「良かったら、僕たちが案内します。
        こんな時間まで遊んでもらったお礼です」

( ^ω^)「それは助かるけど、君たちもそろそろ家に帰った方がいいんじゃないかお?
      ご両親が心配するお」

( <●><●>) 「僕たちは、大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう。
        いい近道があるんです」


 旅人の袖を引きつつ、昏くなった山中をワカッテマスが先導します。

この山へ足を踏み入れてから、旅人はこの子供たちに流されるばかりでございました。
けれど、近道であると云うであれば、案内を断る理由はありません。

戸惑いながらも、旅人は彼らの後を大人しく着いてゆきました。
ほそい細いけもの道をひたすら登ること、約半時。

隈笹の藪を掻き分け、旅人たちが辿り着いたのは、さきほどの茶屋でした。
こんな場所だからか、店に客はおりません。

人が住んでいると思えないほどの、静けさです。


( ^ω^)「ここ、誰か住んでるのかお?」

(*‘ω‘ *) 「ぽ!」

( ><)「お婆ちゃんが一人、住んでるんです!」

9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:49:50 ID:2MpaaWgU0

 言いながら、ビロードは茶屋の暖簾をくぐって店の中へと入ってゆきました。
その後に続く、ワカッテマスとちんぽっぽ。

旅人が、彼らの後を追うか迷っていたところ、店の中から一人の老婆が出て参りました。
銀の混じった白髪を結った老婆は、旅人の姿を認めると、柔らかく微笑みます。


('、`*川「こんな辺鄙な場所へ、ようこそおいで下さいました。
     ここら辺は山が多いですし、お疲れでしょう。
     大したおもてなしも出来ませんけれど、休む場所はございます」

('、`*川「どうでしょうか、泊まって行かれては……」

( ^ω^)「僕こそ、何のお礼も出来そうにないですけれど、
      一晩泊めて頂ければ幸いですお」

('ー`*川「ええ、もちろんですとも。ささ、狭いですけれど、中へどうぞ。
     ……それから、あなた達。もう夜になりますよ。早く帰りなさいな」

(;><)「えー、旅人さんのお話、色々聞きたかったんです…」

(*‘ω‘ *) 「ぽ!!」

( <●><●>) 「夜になったら大変なのは分かってます。
        二人とも、帰りましょう」

(;><)「うう…仕方ないんです…。
      旅人さん、遊んでくれてありがとうなんです!!」

(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」

( ^ω^)「お、気をつけて帰るんだお」


 手を振った旅人と、元気そうに笑いながら山へと姿を消した子供たち。

山を越えねば村は無し、とビロードが言っておりましたが、彼らは一体何処へ帰るのか。
気にはなれども、答えを知る術はなし。

10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:50:41 ID:2MpaaWgU0

老婆ならば、彼らの帰る場所を知っているやもしれませんが、旅人はそこまでは踏み込みませんでした。
人里から離れて暮らす一族があるのやもしれませんし、
それに何よりも、旅人は長旅と山登りで疲れてもおりました。


('、`*川「さぁさ、炬燵へどうぞ。
     ただいま、お茶を淹れて参ります」


 店の中は、お世辞にも広いとは言えません。
それに、あちこちにガタが来ているようでありました。

割れた窓から入る冷たい隙間風が、旅人の肩を震わせます。


( ^ω^)「すみませんお、失礼します」


 老婆の言葉に甘え、旅人はぼろぼろの炬燵に身を寄せました。
あぁ、この仄かな温もりの、なんと安らぐことか。

一つ所に長く居付かなかった旅人にとって、これはとても嬉しいものでありました。


( ^ω^)「…お?」


 ほう、と息をついた旅人の目に、とある絵が留まりました。
大層昔に描かれたようなその絵は、傷だらけの壁に貼りついています。

墨で描かれた少女の絵で、長く美しい髪を持っておりました。

絵師の名はなく、ただ、和紙の中に少女が佇んでいるだけの絵。
それが、旅人の目を惹きつけているのでした。

11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:51:34 ID:2MpaaWgU0

『 川д川  』

( ^ω^)「(娘さん、だろうか)」

('、`*川「すみません、お待たせしました」

(;^ω^)「お、どうもすみません。ありがとうございますお」

('、`*川「いいえ。……あの絵、気になりますか?」


 盆を胸に抱えた老婆が、僅かに目を細めました。

湯気の立つ湯呑で暖を取っていた旅人は、慌てて首を振ります。


(;^ω^)「あ、いや、そういう訳じゃ」

('、`*川「彼女はね、私の親友だったんです。
     ……もう、何十年も前に亡くなったんですけれどもね」

(;^ω^)「お……」


 故人の絵姿と聞いては、気まずい事この上ありません。
どうにかこうにか話題を変えようと、旅人はなんとか話題を作ろうと口を開きました。


(;^ω^)「えっと ('、`*川「時に、旅人さん。あなたは、どうしてこんな山に?」

('、`*川「≪鬼≫の噂を聞いて来たのであれば、止めておいた方が賢明です。
     あれは面白半分に見るものではございません」

( ^ω^)「≪鬼≫? いえ、僕はただふらりと立ち寄っただけで、
      ここら辺のことはさっぱり……」

('、`*川「あら、そうですか。……では、さっきの子ども達の事もご存じないのですね」

( ^ω^)「ビロードたちの事ですかお。
       何か、あるんですかお?」

('、`*川「えぇ、ありますとも。旅人さんから見てみれば、恐らくは奇妙に映る事だと思います。
     ……お聞きになりますか?」

12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:52:42 ID:2MpaaWgU0

 茶屋の外は、夜闇に包まれておりました。
隙間から入ってくる風は、生暖かさを孕んでおり、
不気味さを掻き立てるには丁度いい塩梅でございます。

灯りは、老婆が付けた蝋燭だけ。
しばらく迷っていた旅人でありましたが、
人間というものは、好奇心に抗うことは出来ぬようになっているもの。

老婆の細い瞳を見つめ、旅人は、こくりと頷きました。


('、`*川「そうですか……。では、まず最初にお聞きします。
     旅人さんは、≪鬼≫というものをご存じですか?」

( ^ω^)「鬼って、あの…凶暴で恐ろしい力を持った、あの鬼ですかお?
      でも、あれは架空の話であって、実在はしないんですおね?」

('、`*川「ええ。けれど、これから私がお話するのは、その≪鬼≫のお話です」

('、`*川「≪鬼≫が生まれたのは、山向こうの村が出来て直ぐの事であったと聞いています。
     ≪鬼≫は十年に一度、神無月に生まれた赤子一人に取り憑いて、
     その赤子は、やはり十年の歳月を置いた春先に、≪鬼≫になるのでございます」

('、`*川「何故、十年の歳月を経て≪鬼≫になるのか。
     何故、春先に≪鬼≫へと変貌するのか。
     詳しい事は、全く分かりません」

(;^ω^)「…続けてくださいお」

('、`*川「≪鬼≫となった子は、腹の虫が収まるまで人を喰らい、村を荒らします。
     ですから、山向こうの村では、十年に一度、神無月に生まれた子供を村から引き離すのです」

(;^ω^)「じゃあ、もしかしてビロードたちは」

('、`*川「えぇ」

(;^ω^)「…神無月に生まれたってだけで、≪鬼≫の疑いをかけられて、
      こんな山中へ隔離された子たち、ですかお」

13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:56:28 ID:2MpaaWgU0

('、`*川「……あの子たちは、天運に見放されたと思うしかありません。
     あの三人の中の誰に、≪鬼≫が憑りついているのか、誰にも分からないのです。
     ≪鬼≫の誕生を止める手立ても、無いのです」

(;^ω^)「…もし、あの三人の中の誰かが≪鬼≫になった時…
     他の二人は、逃げられるのかお?」

('、`*川「……。ここは、鬼の棲む山でございます。
     人が住んで良い場所では、なかったのやもしれません。
     今更気づいたって、もう遅いのですけれどもね」


 そう言って、老婆は一遍の昔話を語り始めました。

神無月に生まれ、≪鬼≫の疑いをかけられ、
山中へと隔離された、とある二人の少女のお話しでございます…


* * * * *
 * * * * *

14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:57:21 ID:2MpaaWgU0

 昔むかしの話である。

―――春先の山の中で、二人の少女は、とある男に出会った。
男は旅人で、≪鬼≫の伝承を知らぬままに、その地を訪れたのだという。

その旅人は、二人の少女の良き遊び相手になったそうな。


「旅人さんは、鬼って知ってる?」

「…え、知らないんですか?」

「鬼っていうのはね、私達のうちのどっちかのことなの」

「大きくなると、村を襲うようになっちゃうんだそうです。
 だから、私たちは村から離れた所に二人で住んでるんですよ」

「でもね、たとえ≪鬼≫になっても、私たちは大丈夫よ」

「私たちは親友ですから、万が一どちらかが鬼になったとしても…
 そんな事しちゃダメだよって、止められますから」


 旅人は、人が人を喰らうなどという話がある訳がないと笑い飛ばした。
自分が見て回った地で、そんな話を聞いた事は一度もなかったと。

だが、彼は知らなかったのである。


「……やめて、やめてよ……。お願い…」


 二人の少女の話は全て本当で、
そして、≪鬼≫が≪鬼≫になる日が、ひどく近かったという事を。

15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:58:08 ID:2MpaaWgU0

太陽の光が山へ届かなくなり、山に闇が訪れた頃。
≪鬼≫へと変貌した少女は、ずっと一緒にいたもう片方の少女を襲った。

≪鬼≫を必死に止めようとしていた彼女の腕を掴み、
その白く柔らかな肉にかぶりつく。


「あああああああああああああああああああああああ!!」

「うう、うぅ、ぐ」


 ≪鬼≫は、痛みに絶叫する少女の喉に噛み付き、周囲の皮膚ごと喰い千切った。

涙を流し、穴の開いた喉から血と息を吐いた少女は、絶望のままに事切れた。
≪鬼≫は、親友であった少女の肉塊を夢中で貪る。

少女の血で身体中が赤く染まることも厭わず、骨の髄までをも啜った。

その様子を為す術なく見つめていた旅人の男は、≪鬼≫の名を呼んだ。


『…○○○○…』


 少女を喰った≪鬼≫の餌食が、決まった瞬間であった。


「ふ、うっ、ふーっ、う、う、」

「お前、どうして…! お前ら、あんなに仲が良かったじゃないか!」


 逃げ出した旅人を、≪鬼≫が追う。

腹を空かせた≪鬼≫から逃れられる者など、いやしない。
足をもつらせ転んだ旅人に飛びかかるは、生まれたての小さな赤い鬼。

その腹の中に親友を収め、ぎらぎらと目を光らせ嗤う其れはまさしく―――


「……≪鬼≫…」


 哀れ、旅人は≪鬼≫の腹に収まる運命を辿った……。

16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 21:59:21 ID:2MpaaWgU0

(;^ω^)「……」

('、`*川「あの三人がここへ来て、10年経ちます。
     ≪鬼≫だと疑われ、両親の愛情を受けられなかった彼らが不憫でね…。
     私は、≪鬼≫の子たちの身の回りの世話をしてあげているのですよ」

('、`*川「旅人さん。あなたはさっき、言いましたね。
     『…もし、あの三人の中の誰かが≪鬼≫になった時、他の二人は、逃げられるのか?』と」

('、`*川「恐らくは、逃げられません。
     昔話の大人ですら、鬼からは逃れられませんでしたから。
     でも、あの子たちは、≪鬼≫から逃げられると思っているのですよ」

('、`*川「遊びの鬼ごっことは違うと、彼らは知らないのです」

(;^ω^)「そんな…! じゃあ、見殺しにするつもりなのかお!?」

('、`*川「……どうすることも、できないのです。
     あの三人の中の誰に≪鬼≫が憑りついているのか、誰にも分からないのですから」

(;^ω^)「でも、」

('、`*川「あの子たちの中から、≪鬼≫が生まれたら、
     私は、この家に篭って≪鬼≫がいなくなるのを待つ事しか出来ません。
     旅人さん、あなたは明日にでも直ぐ、この忌地を立ち去った方がよろしいかと」

(;^ω^)「そんな…。見殺しにして、去ねと言うんですかお?」

('、`*川「……あの子たちを救う方法があるのなら、とうにやっていますとも。
     けれども、こんな老体では、どうすることも……。
     こんな辺鄙な場所に、≪鬼≫を退治してくれる桃太郎は来てはくれないのです」

17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:01:10 ID:2MpaaWgU0

 老婆の昏い瞳が、蝋燭の炎に揺らぎました。

旅人は、それ以上何も言えませんでした。

話を聞けば聞くほど、山から≪鬼≫に変貌したあの子供たちが降りてくるような…
そんな想像ばかりが頭に浮かんでは、消えてゆきます。


('、`*川「まぁ、今日はもう≪鬼≫は誕生しないと思います。
     根拠はないですけれど、恐らくは」

(;^ω^)「……」

('、`*川「けれども、明日あさっては危ないかと。
     ですから、旅人さん。命が惜しくば、明日の昼のうちに、この山を降りてくださいませ」

(;^ω^)「……」

('、`*川「山向こうまで行けば、大丈夫です。
     ≪鬼≫も、絶対に向こうまでは行きませんから」


 ふ、と微笑んだ老婆が、机に手をついて立ち上がります。

今まで茶屋の中を包んでいた重い空気が、軽くなったようでありました。
今までの生臭い話とは打って変わって、老婆は明るい口調で呟きます。


('、`*川「お布団の準備、しますね」


* * * * *
 * * * * *

18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:01:50 ID:2MpaaWgU0

 暗くなった天井を見上げ、旅人は色々と考え事をしておりました。

話に聞いた、≪鬼≫のこと。
昼間出会った、あの三人の子供たちのこと。

命は惜しいけれども、無邪気に遊ぶあの三人を見捨てて、
また旅を再開させることも、なんだか胸に残るものがあるようでございます。

この地から去れと言われ、大人しく従う事も、最初は考えました。

……旅人も、心のどこかでは≪鬼≫の話など、信じていなかったのかもしれません。
だから―――


( ^ω^)「(明日、また、あの三人と会いに行ってみよう)」


 ≪鬼≫の子に、会いに行く。
そう、心に決めてしまったのでした。


* * * * *
 * * * * *

19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:02:54 ID:2MpaaWgU0

 太陽の光が、鬼の棲む山を明るく照らします。
一晩、泊めてくれた老婆に篤く礼を言って、旅人は山を下りました。

彼の向かった先は、ビロードたちと出会った、山の中腹。
どうやら、今日もビロードたちは仲睦まじく遊んでいるようです。

木の棒で地面に絵を描く三人は、茶屋から下りてきた旅人を見て、
その幼い顔を輝かせました。


( ><)「どうしたんですか、旅人さん!
      また僕たちと一緒に遊んでくれるんですか!?」

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」

( <●><●>) 「何かあったんですか?」


 嬉しそうに駆け寄ってくる子供たちと目線を合わせ、
旅人は早速、話を切り出しました。


( ^ω^)「あまり時間がないようだから、単刀直入に聞くお。
     僕は、≪鬼≫の子と話をしたい」

( ^ω^)「君たちの中の、誰が≪鬼≫なんだお?」


 尋ねられた三人は、質問の意味がよく分かっていないようです。
怪訝そうに顔を見合わせ、彼らは、何かイタズラを考えたように笑みを浮かべました。


( ><)「旅人さん。旅人さんが≪鬼≫の子が誰かを知らないように、
      僕たちも、誰が≪鬼≫か知らないんです」

( <●><●>) 「僕たちも知らないし、僕たちの親も知らないんです。
        でも、僕たちはそれでいいんですよ」

(*‘ω‘ *) 「ぽ」

20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:03:53 ID:2MpaaWgU0

( ><)「約束したんです。たとえ誰が≪鬼≫になっても、
      僕たちは親友です。親友を食べたりしません。
      傷つけたりも、しません」

( <●><●>) 「きっと、お婆ちゃんは無理だって言うと思います。
        でも、僕たちなら、出来るのは分かってます」

( <●><●>) 「だって、毎日ずっとこうやって遊んでいるから」

(;^ω^)「お…」

( ><)「十年、ずっと一緒だったんです。
      ワカッテマスくんのお母さんより、ぽっぽちゃんのお父さんより、
      僕の方が二人のことをよく知ってるんです」

( <●><●>) 「喧嘩もしました。仲直りも、たくさんしました。
        どんなに怖い≪鬼≫だって、僕たち三人の間を壊すことは出来ないと思います」

(*‘ω‘ *) 「ぽ!」


 ちんぽっぽが、他の二人の袖を引いて旅人から少し離れました。


( ><)「さぁさ、旅人さん。鬼ごっこして、遊びましょう」

( <●><●>) 「僕たちですら分からない≪鬼≫が誰か、あなたに分かりますか?」


 それだけを言い残し、三人は、
服の裾をはためかせて、山の中へと走り去ってしまいました。


「鬼が見つけた人、それが≪鬼≫かもしれません」

「鬼が見つけられなかった人、それが≪鬼≫かもしれません」


 鬼が≪鬼≫を捕まえる鬼ごっこが、始まりました。

時間制限は、≪鬼≫が生まれる時間―――
日没まで。

21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:04:49 ID:2MpaaWgU0

*  *  *  *

 三人が山の中へと消え、もうかなりの時間が経ちました。
太陽を見上げると、もう木々の中へと隠れてしまっています。

大体、申の刻ほどでしょうか。
完全な日没まで、あと僅かです。
休まずに山の中を歩けど、三人はどこにもおりません。

あちらの茂みの中、こちらの草の褥を捜してみても、やはり着物の裾すら見かけないのです。
それなのに、時間は刻一刻と過ぎてゆきます。

けれども、何としてでも誰かを捕まえて、彼らの中から≪鬼≫を探さねばならないのです。
何故ならば、鬼の子が≪鬼≫になるのには、もう時間がないのですから。


( ^ω^)「……」


 闇雲に山中を歩きまわっていた旅人は、足を止めました。

どこかで息を潜めているであろう彼らを見つけ、捕まえるのも、少々骨が折れそうです。
彼らには、十年、この山で暮らしてきた地の利があります。

このまま歩き回っていても、無駄に体力を消耗するだけです。

そもそも、彼らを一人ひとり捜しまわる時間だってないのです。
なので、旅人は一計を案じました。


( ^ω^)「よし」


 手頃な斜面を見つけ、彼は派手な音を立てて、転がり落ちました。
柔らかな草の上をわざと転がり落ちたので、
どこにも怪我はありません。

22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:05:46 ID:2MpaaWgU0

けれど、旅人が転がり落ちる音を聞きつけたのか、


(;><)「だっ大丈夫ですか!?」

( <●><●>) 「転んだのは分かってます」

(*‘ω‘ *) 「ぽ?」


 やはり、どこからともなく、三人が現れました。
子供たちを騙したようで、あまりいい案であったとは言えませんが、
背に腹は代えられません。

近寄ってきた三人の肩を叩き、


( ^ω^)「やっと捕まえたお」


 旅人は、遊びを終わらせることができたのでした。


(;><)「もっもしかして、騙したんですか!?」

(#*‘ω‘ *) 「ぽぽぽぽぽ!!」

( <●><●>) 「卑怯ですよ、そこまでして勝ちたかったんですか?」

( ^ω^)「全くこの山を知らない僕に、
       鬼ごっこを吹っ掛けるのは卑怯じゃないのかお」

(;><)「そ、それは…」

( ^ω^)「とにかく、日没までに三人とも捕まえられて良かったお。
      さぁ、君たちの中から≪鬼≫を探すお」

( <●><●>) 「それは別にいいんですけど、
        一体どうやって探すつもりなんですか?」

(;^ω^)「え? それは…」

( <●><●>) 「多分、≪鬼≫を探す方法なんて、
        山向こうの村人が散々考えて実践してきたと思いますよ」

23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:06:52 ID:2MpaaWgU0

 そう言われ、本格的に困ったのは旅人でございます。
当然といえば、当然でありました。

長い間、≪鬼≫に悩まされてきていた、この地の人たちが何もしなかった訳がありません。
何世代にも渡って、≪鬼≫の子から≪鬼≫を追い出す方法を考えてきていたでしょう。

それでも、どうする事も出来なかったのであれば、
旅人に一体何が出来ると言うのでしょうか。

困った旅人が空を仰げば、もう日没の時間が迫っていました。
夕陽に染まっていた山に、夜の帳が降りようとしています。


( ><)「大丈夫ですよ! 僕たちは、明日も明後日もみんなで遊ぶんです。
      旅人さん、明日はきっと負けないですよ!」

(;^ω^)「え…明日も僕、君たちの鬼ごっこに付き合うのかお…」

( <●><●>) 「もう日暮れですしね。
       カラスもきっと、家に帰った頃ですし、今日は帰りましょうか」

(*‘ω‘ *) 「ぽぽぽぽーん」

( ><)「そうですね、明日は騙されないんです!」

(;^ω^)「毎日まいにち鬼ごっこで、よく飽きないおね…」


 太陽が、地平線に沈んでゆきます。
木々の隙間から山中を照らしていた橙色の光が、


( ><)「鬼ごっこは、楽しいんですよ! 僕らはそれで―――」


 夜の墨色に、塗り替えられてゆきました。
薄闇に包まれた山に、刹那、静寂が訪れます。

そして、それと同時に―――

24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:07:44 ID:2MpaaWgU0



三人の中から、≪鬼≫が、生まれました。




_

25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:09:19 ID:2MpaaWgU0

それに最も早く気付いたのは、誰だったでしょうか。
跳ね上がった≪彼≫の手で弾き飛ばされた、ワカッテマスでしょうか。
それとも、目を丸くさせてそれを見つめていた、ちんぽっぽでしょうか。

それとも、異変が起きた彼自身だったのでしょうか。

それとも―――


(;゚ω゚)「!?」


 この中で最も異質である、旅人でしょうか。


(;*‘ω‘ *) 「ぽ!!?」

(;゚ω゚)「まずいお、早く逃げるお!」


 三人の中の≪鬼≫は、ビロードの中に宿ったようでございます。
≪鬼≫の咆哮を間近で聞きながら、旅人は、倒れているワカッテマスを抱え上げ、
腰を抜かしているちんぽっぽの手を掴んで走り出しました。

とにかく、この場所から離れなければなりません。
≪鬼≫と化したビロードが、襲い来る前に。

なんとか、この二人を守ってやらなければなりません。


(;^ω^)「はぁ、はぁ」


 けれど、子供とはいえ、人間二人を抱えて走るのは、とても骨が折れます。
≪鬼≫との距離を知りたくとも、後ろを振り返る余裕すらありません。

振り向いたら最後、三人まとめて≪鬼≫に喰われてしまう…
そんな想像が、旅人の手足をもつらせました。

それに何とか耐え、旅人は、闇の中をしっちゃかめっちゃかに走り回ります。
先ほどまでの≪鬼≫の咆哮は、聞こえません。

恐らく、獲物を捜しているのでしょう。

26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:10:23 ID:2MpaaWgU0

今いる場所が何処なのか、旅人には分かりません。
老婆の言葉が本当ならば、山向こうまで行けば≪鬼≫は追ってこないようです。

けれど、その山向こうへの行き方を、旅人は知りません。
子供二人を抱える彼の体力も、もう限界に達しています。


(;^ω^)「山向こうへの行き方は…?
      どうやって行けばいいんだお…」


 滝のように汗を流す旅人に、ちんぽっぽが反応しました。
旅人の袖を引き、彼女はぐいぐいと木々の中へ分け入ってゆきます。


(;^ω^)「?」

(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ…」


 引かれるままに彼女の後をついていくと、見慣れた場所へと辿りつきました。
ぼろぼろの家屋の窓からは、
ぼんやりとした蝋燭の微かな灯りが漏れております。

それは、昨夜、旅人が一晩泊めてもらった、あの老婆の茶屋でした。


(*‘ω‘ *) 「ぽ!! ぽぽ!!」

(;^ω^)「あ…ちょっ……!」


 旅人が止める間もなく、ちんぽっぽは茶屋へと駆け込んで行ってしまいました。

その後を追おうとして、旅人はふと足を止めます。


( ^ω^)「……」

27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:11:53 ID:2MpaaWgU0

 思えば、おかしな事ばかりでした。

人里離れた場所へ居を構えている、あの老婆も。
≪鬼≫が生まれたタイミングも。
過去、幾度に渡って生まれて来たであろう≪鬼≫が徘徊する山で、
あの老婆だけが無事に生きていることも。


(;^ω^)「……もしかして…」


 疑い出せば、もう止まりません。

―――ここにいるのは≪鬼≫の一族で、老婆も、ビロードやワカッテマスたちも、
全員が≪鬼≫なのではなかろうか。
偶然迷い込んできた旅人を騙し、喰らおうとしているのではなかろうか。

旅人の足が、茶屋から一歩、遠ざかりました。


(;^ω^)「……」

('、`*川「何してるの! 早く入って!」


 提灯を持った老婆が、茶屋の暖簾をくぐって、外へ出てきました。

けれど、旅人の足は動きません。
老婆が≪鬼≫であるかもしれないと思えば、用心深くなるのも当たり前といえるでしょう。

なかなか動こうとしない旅人に、何かを察したのか、
老婆は、ゆっくりと旅人へと近づいてゆきました。


('、`*川「旅人さん、≪鬼≫がいる外よりも、屋内に入った方が安全です。
     それに、怪我人もいるんでしょう?」

(;^ω^)「……」

('、`*川「…あなたの考えていることは、何となく分かります。
     でも、考えてみてくださいな。もしも私が≪鬼≫であれば、
     昨日の時点であなたを喰っていたでしょう」

('、`*川「私を信じてください。旅人さん」

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:13:54 ID:2MpaaWgU0

 柔和に微笑んだ老婆が、旅人の元へと近づきました。
旅人は逃げることもせず、自分よりも遥かに小さな老婆を見下ろします。

老婆は旅人が抱えていたワカッテマスを抱きかかえ、
店へと入っていきます。
しばらく逡巡した後、旅人もそのあとを追いました。

狭い茶屋に人間4人が入れば、もう身の置き所がありません。
老婆はワカッテマスを畳に横たえ、その額を撫でてやっておりました。

ちんぽっぽは、一向に目を覚まさないワカッテマスの顔を心配そうに覗いています。

外からは何の音も聞こえません。
ビロードは、この暗い山をひとり彷徨っているのでしょうか。


('、`*川「旅人さん。この山から去った方がよろしいと、言った筈です」

(;^ω^)「……面目ないですお。
     どうにか助けられないかと、思ったんですお…」

('、`*川「…そうでしょうね。無理もないお話です。
     けれども、もうどうしようもありません」

(;^ω^)「どうするんですかお…?」

('、`*川「……」

(*‘ω‘ *) 「……」


 誰もが黙りこくってしまった、狭い茶屋の中。
重苦しい空気を破ったのは、畳に寝ていた、ワカッテマスでした。


「うう…」

( ^ω^)「!」

( <●><●>) 「…ここ…お婆ちゃんの家…?」

(;<●><●>) 「…! ちんぽっぽ、ビロードは?!」

(;*‘ω‘ *) 「ぽぽ…」


 悲しそうに首を振るちんぽっぽに、ワカッテマスはうなだれました。
彼の黒目がちな瞳は、旅人と老婆に向けられます。

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:15:29 ID:2MpaaWgU0

( <●><●>) 「…助けてくれて、ありがとうございます」

('、`*川「お礼なら、私じゃなくて旅人さんにね」

( ^ω^)「僕なんて…」

( <●><●>) 「…ビロードが≪鬼≫だったなんて、本当に知らなかったんです。
        お婆ちゃんが作った、ただの作り話だと思ってた」

('、`*川「…」

( ^ω^)「僕は今まで、色んな所に行ったけど…
     ≪鬼≫なんてものが本当に居て、人を襲っているような所に来たのは、ここが初めてだお」

(  ω )「こんなの…絶対におかしいお」

( <●><●>) 「……」

('、`*川 「…そういう呪われた地も、あるのですよ。旅人さん」

( ^ω^)「…理解していたつもりでしたお」

( <●><●>) 「……旅人さん。お婆ちゃん。僕は、ビロードを捜しにいきます」


 血が流れる頭を振って、ワカッテマスが立ち上がりました。
ふらつくその身体を、ちんぽっぽが慌てて支えます。


(;^ω^)「ダメだお! もうビロードはビロードじゃない、≪鬼≫だお!」

( <●><●>) 「でも…僕の友達です。毎日ずっと遊んだ、僕の友達なんです。
        きっとビロードも、分かってくれるはずです」

( <●><●>) 「ビロード、臆病なんです。夜の山で一人じゃ、きっと寂しくて泣いてます。
        誰かが居てあげなくちゃ」

(;^ω^)「ダメだお、そんなの危険すg ( <●><●>) 「それに―――」

( <●><●>) 「僕、もう…逃げられないですから」


 そう言って笑ったワカッテマスの頭からは、まだだくだくと血が流れておりました。

そして、旅人が止める暇もなく―――


(;゚ω゚)「ワカッテマス!」

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:16:53 ID:2MpaaWgU0

 ワカッテマスは、茶屋の扉を開けて外へと飛び出してしまいました。
それを追いかけるのは、ちんぽっぽ。

旅人が提灯を持って外に出たときには、既に2人の姿は闇に溶け、見えません。
耳を澄ませてみても、虫や梟の鳴き声が聞こえるばかり。


('、`*川「……旅人さん…」

(;^ω^)「お婆さん、僕、あの二人を連れ戻して来ますお!
     お婆さんは危ないから、ここで待っててくださいお!」


そう言い残し、旅人は夜の山へ向かって走りました。
暗い山の中から聞こえる音に細心の注意を払いながら、旅人は夜の山を彷徨います。

木の根につまづいて、何度も何度も転びました。
よく分からない獣の声に追いかけられました。

けれども、二人は見つかりません。

いつ≪鬼≫に見つかるかと、神経をすり減らしながら彷徨うのは、
とても疲れました。

雲間から月が覗き、金色の光が山の隅々を照らします。


(;^ωメメ)「……」


 立ち止まった旅人が途方に暮れていると、近くから、葉を踏む音が聞こえました。
その音に、旅人は、思わず提灯の明かりを吹き消します。

警戒しつつ音に近づくと、どうやら、茂みの奥に誰かがいるようです。
そっと茂みを覗き込むと、そこには、足を震わせながら立ちすくむちんぽっぽの後姿。

赤い着物はぼろぼろで、怪我もしているようでした。

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:18:12 ID:2MpaaWgU0

(;^ωメメ)「ち―――」


 彼女を呼ぼうとした旅人は、思わず口を閉ざしました。
生ぬるい風に乗って流れて来たのは、濃い血の臭い。


(  皿 )


 ちんぽっぽの前には、ひどく小さな身体の≪鬼≫が蹲っておりました。
≪鬼≫の足元には、ぐちゃぐちゃになった何かが―――

恐らく、≪鬼≫に喰い殺された、ワカッテマスが居ます。
血で赤く染まった体を揺らし、食事を終えた≪鬼≫は、
恐怖に震えて動けないちんぽっぽの頭を、鷲掴みにしました。


(;゚ω゚)「止めろお!!」


 たまらず、旅人は茂みから飛び出しました。

……けれども、どうやら手遅れだったようでございます。


(* ω *)

(;゚ω゚)「…ああ…」


 ずっと佇んでいたちんぽっぽの両目は、≪鬼≫の口の中。
ぐちゅりぐちゅりと音を鳴らし、≪鬼≫は親友の眼球を喰らいます。

月明かりに照らされたその光景は、あまりにも凄惨なものでした。


( ゚ω゚)「……」


 旅人は、ぼりぼりと骨をかじる≪鬼≫を見つめました。
何もかけてやれる言葉がありません。

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:20:02 ID:2MpaaWgU0
自分の身すらも危ないというのに、
彼には≪鬼≫を見ていることしか出来ませんでした。

老婆が話してくれた昔話の『旅人』も、きっとこんな気持ちだったのでしょう。
全身から力が抜け、草の上にへたり込んだ旅人の後ろに―――


('、`*川「あぁ、ひどい」


 茶屋に置いてきた筈の、老婆がぼんやりと佇んでおりました。


(;^ω^)「! お婆さん、何でここに……」

('、`*川「居ても立ってもいられなくて…。
     あなたを追いかけたら、ひどい血の臭いが…」

(;^ω^)「此処は危ないですお、早く逃げてくださいお!」


 立ち上がった旅人が、老婆の背を軽く押しました。

けれども、老婆はゆっくりと首を振るばかり。
そして、彼女は、骨を齧る≪鬼≫を眺めながら、口を開きました。


('、`*川「逃げるのはあなたの方です。
     朝を待たず、この地からどうか離れてくださいませ」

(;^ω^)「……どういう事ですかお?」

('、`*川「……」

('、`*川「旅人さん。今から私が話す事は、絶対に他の誰にも話してはなりません。
     約束、していただけますか?」


 ごり、ごり、という音の前で、老婆は旅人を見上げました。

あの柔和な笑みは何処へか、今の老婆は能面の如き無表情。
その表情に圧され、旅人は何度もうなずきます。

(;^ω^)「……分かりましたお」

('、`*川「…それなら、本当の事をお話します」

 そう前置きして、老婆は、ぽつりぽつりと話し出しました。
旅人には言わなかった、≪鬼≫についての、お話でございました。

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:26:53 ID:2MpaaWgU0

('、`*川「昨夜お話した≪鬼≫の話…。あれは、私のことです。
     私は、この子と同じ、≪鬼≫なのですよ」

( ゚ω゚)「……え…」

('、`*川「≪鬼≫である時、理性は働きません。
     ただただお腹が空いて、目の前で動くものを全て食べたいと思うのです」

('、`*川「私は、今まで数えきれないほどの人間を食い殺しました。
     山向こうの人たちも、ここにやって来た≪鬼≫も、山に捨てられた子もみんな。
     ですから、此処に留まれば、危ういのは旅人さんなのですよ」

(;^ω^)「……!」

(;^ω^)「じゃあ…じゃあ、どうして…?
     どうして、あなたは昨日、僕を喰わなかったんだお…?」

('、`*川「…単純な話です。
     大人の男は、肉が固くて不味いのですよ。
     もしもあなたが女なら、もしくは、子供であれば…」

('、`*川「私は、あなたの事も喰っていたと思います」

(;^ω^)「……!」

('、`*川「あなたは、天運に守られていますよ。旅人さん。
     さぁ、私があなたをも喰らう前に、逃げてください。
     そしてどうか、もう二度とこの地へ近づかないでください」

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:27:59 ID:2MpaaWgU0

 ―――其れは、老婆が最後に見せた微笑みでした。


「今までの鬼の子たちも、私が喰ってきた」。

その言葉が真であるならば、親友二人を喰ったビロードの運命も、
≪鬼≫である老婆に喰われる事となるのでしょう。

笑った老婆は、旅人の背を押しました。


('、`*川「このままひたすら、真っ直ぐ進んでください。
     休まず進めば、明朝には山向こうの村に着くと思います」

(;   )「……」

('、`*川「……さようなら、旅人さん」


 歩き出した旅人を見送り、老婆は、血に濡れた足元を見やります。
そして軽く肩を竦め―――


('、`*川「―――やれやれ」


 疲れたように、溜息をつきました。

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:30:05 ID:2MpaaWgU0

* * * * *
 * * * * *

 旅人が去って、半刻ほど。

二人分の肉を喰らった≪鬼≫は、新たな獲物へと視線を移しました。
ゆっくりと近づいてくる≪鬼≫を見下ろし、彼女は言います。


('、`*川「お腹が空いてるのね」

(  皿 )「うう、ふ、あう、あ、あっ」


 老婆の前で、≪鬼≫はぼろぼろと涙を流しました。
友達だった骨を喰らいながら、悲しそうに涙を流しました。


('、`*川「……かわいそうに」

('、`*川「私にも、あなたの気持ちが分かるわ。
     口減らしで山に捨てられた友達を食い殺したとき、私はあなたと同じ事を思った」

( 、 *川「≪こんな思いをするくらいなら、私が≪鬼≫に喰われた方が良かった≫って」

( ー *川「……そう、思ったわ」


 老婆の口の端が吊り上りました。
彼女の目が、暗闇の中で不気味に光りました。

≪鬼≫になりたてのビロードは、まだ老婆の異変に気づいていません。


「だからね―――」

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:31:34 ID:2MpaaWgU0

( 皿 *川「―――だから、私があなたを喰ってあげる」


 気づいたときには、もう手遅れでございました。

≪鬼≫になった老婆は、ビロードの頭を鷲掴みにして、
自分の方へ引き寄せます。

耳まで裂けた口を開け、暴れるビロードの頭を丸のみにしました。

包丁の先のように尖った歯が、首と体を切り離します。
時折、髪の毛を吐き出しながら、老婆は、小さな≪鬼≫を、その老いた身に収めました。

返り血を浴びたそれは、まさしく≪鬼≫の姿。
骨と肉を咀嚼する老婆は、ぼそりと呟きます。


「ああ……。≪鬼≫の肉は、本当に美味しいわ」

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:37:02 ID:2MpaaWgU0

 それから―――

あの悪夢の一夜を経て、旅人は「山向こう」の村へと辿りつきました。
彼は決して、そこで何を見たかは語ろうとしませんでした。
ただ、山の中腹で茶屋をやっている≪鬼≫を見た。

それだけを言って、後は黙ってしまったそうです。

事情を察した老人たちの話によれば、

「山の中腹に、茶屋などない。
 大昔にはあったようだが、今となっては、何処にその茶屋があったか、
 場所すらも、誰も知らない」 との事でございました。

古くからその村に住む老人は、言いました。

昔むかし、育てられなくなった子供が山中に捨てられた。
その捨てられた子は飢えと乾きに苦しみながら、死んでいった。

その子の恨みの念が、≪鬼≫の子という形で現れ、この村を苦しめている。

旅人が出会った老婆は、その子が、本物の≪鬼≫として化けているものであると。
茶屋は、時折訪れる旅人を喰らうための疑似餌なのではないかと。
≪鬼≫の怨念は、恐らくこれからずっと先も続くのではないかと…。


/ ,' 3「この村では、十年に一度の神無月に生まれた赤子はみんな生贄なんです。
    山に連れていかれた時点で、彼らはもう『鬼』の生贄に捧げられたも同然なのです」


 村の老人が、言いました。


それならば、と、旅人は返します。

(  ω )「それが分かっているのなら、どうして他の地へ移住しないんですかお」

/ ,' 3「そんなの、決まっておりますよ!」


 老人が、答えます。

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:39:38 ID:2MpaaWgU0



/ ,' 3「≪鬼≫がいない地へ行ったら、
   口減らしも厄介者払いも出来なくなってしまいます。
   ここなら、汚れ仕事も死体の処理も、全て鬼がやってくれるのだから―――」

/ ,' 3「十年に数人の生贄など、安いものですよ」

39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/19(日) 22:40:18 ID:2MpaaWgU0


鬼の棲む山のようです



おしまい


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