( ^ω^)百物語のようです2012 in創作板( ω  )

153 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:02:54 ID:iRUeS2nI0

最もポピュラーな心霊現象のひとつ。それが心霊写真である。


心霊写真の歴史は驚くほど古い。

実用的な写真技術の発明は1839年。七月王政時代のフランスでの、画家ルイ・ジャック・マンデ・ダゲールの『銀板写真法』の発明によるものだ。
そして1884年に写真フィルムが発明され『写真』というものが大衆化する以前、19世紀の中ごろには既に「幽霊の写り込んだ写真」が話題となった記録が残っている。

20世紀になり写真機の普及がさらに加速し、撮影される写真の数が増えると、当然ながら『心霊写真』の数も増大した。
もっともそれらのほとんどはインチキやイタズラ目的のトリック写真か、20世紀当時の未熟な写真技術・現像技術による偶発的な『ミス』が原因の写真であったのだが。


そして21世紀に入った現在――。


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从 ゚∀从『暗い部屋』のようです

156 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:03:58 ID:iRUeS2nI0


深夜1時。
都市部の狭っ苦しい6畳の学生用ワンルーム。
無駄に良い日当たりのお陰で昼間は(少なくとも体感的には)サウナ顔負けの温度と湿度を誇るこの部屋も、この時間帯ともなれば流石に昼間ほどの暑さはない。

とはいえ。

从;゚∀从「なーんでこの時期にエアコンが壊れっかなー……」

根っからの現代っ子であるところのこの部屋の主、ハインリッヒ高岡にはヒートアイランド現象真っ盛りの熱帯夜を冷房ナシで乗り切るというのは無理な相談だった。

窓を全開にしてみたところで入ってくる風は生暖かく、じっとりと肌にまとわり付く汗が不快感を倍増させる。

从;゚∀从「あー……駄目だこりゃ。全ッ然眠れねぇ」

このままベッドに転がっていても徒にシーツを濡らすだけだろう。潔く眠ることをすっぱりと諦めた彼女が採った戦略は、

从;゚∀从「うおっ、すげー。これなんかもうモロじゃねーか」

昔ながらの夏の納涼術。すなわち怪談である。

157 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:05:41 ID:iRUeS2nI0

ふいんきを盛り上げる為に部屋の灯りを消し、ノートパソコンを開いて、適当な怪談系のサイトを探す。
表示された検索結果の中から適当に、心霊写真をメインとしたサイトを開いた。
上下にずらりと並ぶ『心霊写真』。赤文字を基調にしたなかなかに凝ったサイト装丁がまた、真っ暗な部屋と相まって恐怖感を煽るのに一役買っている。
画面をスクロールして、順番に写真と説明文を読んでいく。

从 ゚∀从「それにしても面白いもんだ。この科学万能のご時世でも、この手の心霊写真ってもんは無くならないんだからな」


21世紀に入り、フィルムを使った従来の写真機に替わってCCDなどの映像素子を使用したデジタル式のものが広く普及するに当たり、いわゆる『心霊写真』は消えてゆくかに思われた。

フィルム送りのミスによる多重露出がなくなったこと、受光部がフィルムカメラよりコンパクトなためレンズフレアやゴースト(レンズフレアの一種で光の輪や玉のように見えるもの)等の暗室内面反射が減ったこと、レンズがコンピュータ設計され精度が格段に向上していること、オートフォーカスによりピンぼけなど発生しにくくなったこと、自動露出の高度なプログラム化により光量不足がなくなったこと。
これらの写真技術のハイテク化が、前述の「偶発的な『ミス』が原因の心霊写真」を駆逐していったのだ。

しかし逆に、高性能なパソコンの普及とPhotoshopやGIMPといったフォトレタッチソフトの高性能化によって一般個人でも比較的簡単に写真を加工できるようになった。
そのため、もう一方の「トリック心霊写真」の量は増えているようだ。

結局世に出回る『心霊写真』の総量に、そう変わりはないように見える。


从 ゚∀从「需要と供給、って奴かね。案外、科学技術とオカルトは相性が良いのかも知んねーな」

宗教と同じように、いくら科学が発達して技術が進歩しても人間がスピリチュアルな物を心の何処かで信じ、求め続ける限りは、こういったオカルティックな物もまた無くならないのかも知れない。

適当なことを呟き、再び意識をサイト上の写真に集中させる。

158 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:07:37 ID:iRUeS2nI0

从 ゚∀从「ん……ああ、もうこんな時間か」

サイトに並んだ心霊写真に一通り目を通し終えると、かつて「丑三つ時」などと呼ばれた時刻になっていた。
その時刻を確認するのがコンピュータの画面であるあたり、やや風情に欠けるが。

从 ゚∀从「ちったぁ暑さもマシな気分になったし、そろそろ寝直しますかね」

パソコンをシャットダウンさせようと、マウスを滑らせてカーソルを移動させる。

从 ゚∀从(結構怖いのもあったな。夢にでも出てこなきゃいいけど)

そんな事を考えていたその時、

从 ゚∀从「……ん? 何だこりゃ」

動かしていたマウスカーソルが一瞬、普段の矢印から手のマークに変わった。
カーソルを戻してみると、どうやらサイトの片隅に小さく隠しリンクが貼ってあるようだ。

从 ゚∀从「隠しページか? 何でわざわざこんな……」

リンクをクリックする。

やや間を置いて表示されたページは、先程までの凝った装丁とは違って簡素なものだった。
黒地に白の文字で、中央にただ一文のみが書いてある。


「世界で最初の『心霊写真』」


.

159 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:09:38 ID:iRUeS2nI0

从 ゚∀从「世界で最初の『心霊写真』……?」

なかなかに興味をそそられる内容だ。

白文字にカーソルを合わせると、アンダーラインが表示された。
この文がその「心霊写真」とやらの入り口で間違いなさそうだ。

从 ゚∀从「はてさて、どんな写真なのかね〜?」

ここまで手の込んだことをするのだから、さぞかし興味深い一枚なのだろう。

期待に胸膨らませ、文字列をクリックする。


从 ゚∀从「…………んん? 何だこりゃ」

切り替わった画面に表示されたのは、ただ真っ黒な画像。
ちょうど真ん中あたりにコイン程度のサイズの白みがかった丸い円があるだけの、黒い画面だった。

从 ゚∀从「何だこりゃ。これが『世界で最初の心霊写真』?」

期待を裏切られ、ハインは軽く落胆した。
あれだけもったいぶっておいて、出してきたのはこんな意味不明の画像か?

160 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:11:16 ID:iRUeS2nI0

从 ゚∀从「……ま、ネットなんざ所詮こんなもんだよな。さーとっとと寝よ寝よ……」

そう言って改めてパソコンの電源を落とそうとして、気付く。

終了させるためのメニューボタンが無くなっていることに。

いや、それだけではない。下部のバーそのものや、マウスカーソルすら画面上から消えていた。
真っ黒な画面にあるのは、小さな白い円だけだ。

从;゚∀从「え? あたし全画面表示とかにしたっけ……」

マウスを動かしたりキーボードのキーを叩いてみたりしたが、なんら反応は無い。
強制終了さえも受け付けず、画面にはずっと意味不明の画像が表示されたまま。

从;゚∀从「フリーズか? これブラクラかよ、ちく――」

ブツブツと言いつつ、何とはなしに体ごと後ろに向き直り、そして目を疑った。

162 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:12:48 ID:iRUeS2nI0


振り返ったそこは、自分の部屋ではなかった。

ベッドやスチールラック、本棚などの家具が全て消えていた。

いや、それだけではない。

入り口や窓すら無くなっている。

あるのは、壁。

部屋にあった物、部屋を構成していた物。全てが消失して、床天井を含めた6枚の壁面だけが空間を覆っていた。


从;゚∀从「どう、なってんだよ、これ……」

真っ暗な部屋。あるのは今座っている椅子と、簡素な机と、その上に乗っているパソコンだけ。
壁のうち、さっきまで背を向けていた、真後ろの壁だけがパソコンの光を受けてぼんやりと浮かんでいる。

163 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:13:48 ID:iRUeS2nI0


从;゚∀从「どう、なってんだよ、これ……」

真っ暗な部屋。あるのは今座っている椅子と、簡素な机と、その上に乗っているパソコンだけ。
壁のうち、さっきまで背を向けていた、真後ろの壁だけがパソコンの光を受けてぼんやりと浮かんでいる。

从;゚∀从「ドアも、窓も、何も無い……? 閉じ込め、られた?」

椅子から跳ねるように立ち上がり、手近な右側の壁に取り付く。
ドンドンと壁を叩いてみるが、手に返ってくるのは冷たく硬い無機的な感触だけ。
蹴ってもみたが、とても蹴破れるようには思えなかった。

从;゚∀从「おい……出せよ! 何なんだよ! どうなってんだよこれは!!」

怒鳴ってみるも、答える者はいない。出した大声さえも響きもせずに虚しく消えてゆく。

徒労と絶望に肩を落とし、ふらふらと力無く椅子に腰を落とす。
ギシリと椅子が軋んだ音を出したその時だった。ハインは変化に気付く。

164 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:14:54 ID:iRUeS2nI0

从;゚∀从「ありゃあ……『廊下』、か?」

パソコンの灯りを受けてぼんやりと光っていた後ろの壁に、古びた白黒写真のような景色が浮かび上がっていた。
壁面をスクリーンにした幻燈機のように投写された風景は、どこかの廊下だった。
ただ、映しだされた廊下らしき光景は天地が逆になった、逆さ写の状態だ。

慌ててパソコンに目をやる。画面に表示されているのは、相変わらず丸い円だけ。
いや、よく見ると、小さな円の中に廊下が映っている。さっきまではこんな風じゃなかったはずだ。
という事は、あの映像はこのパソコンから映しだされているのか?

从;゚∀从「バカな、どうなってるんだよ……プロジェクターじゃねえんだぞ」

まるでわけがわからない事の連続だ。
何度目かも分からない疑問を口にしながら、再び後ろの壁に向き直る。

すると、ハインの眼が何かを捉える。

166 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:16:33 ID:iRUeS2nI0

从;゚∀从「何か……『動いてる』?」

倒立した映像の真ん中あたり、廊下の向こうで動くものがある。

いや、違う。少しずつ大きくなって……。


『近づいてきてる』?



从; ∀从「う、うわああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

167 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:17:42 ID:iRUeS2nI0

ガタン、と椅子が倒れる。
床から立ち上がれず、ずりずりと机に寄り添うように壁と距離を取る。

白黒写真の背景の中、「それ」はゆっくりと近づいてくる。

だんだんと輪郭が明確になってくる。

从 ;∀从「嫌だ、嫌だ、来るな……来るなぁあああああああっ!!」

その時。ガクンと衝撃が襲った。

視界に占める壁の割合が大きくなっていく。急に、壁自体が近づいてきていた。

いや、違う。そうじゃない。

彼女の体の方が、壁に吸い寄せられているのだ。

168 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:19:34 ID:iRUeS2nI0

从 ;∀从「え? そんな、嘘……!」

床になんとか這いつくばって耐えようとするが、大した抵抗にもならなかった。
だからと言って周りに掴めるようなものは何も無く、為す術なく体は壁に吸われていく。

その姿は、必死にもがきながら蟻地獄に落ちてゆく小さな蟻のようにも見えた。

从 ;∀从「嫌……! 助け、」

そして、その言葉を最後まで言い切ることも叶わず、ハインは壁の中に消えていった。

誰もいなくなった暗い部屋。その壁にぼんやりと映る廊下に、彼女はいた。

逆さまの白黒写真の中、近づく「それ」から必死に逃げようとする彼女。
しばらく後、追いついた「それ」が彼女を呑み込むと、パソコンの画面はフッと消え、唯一の光源を失った部屋はすぐに完全な闇に沈んだ。

169 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:20:41 ID:iRUeS2nI0


翌朝。

いつもと変わらない部屋。差し込む朝日。

いつもと変わらないベッド。スチールラック。本棚。ドア。窓。パソコン。

いつもと変わったところなど何もなかった。


ただ一点。

部屋の主が消えたことを除いて。


.

171 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:23:01 ID:iRUeS2nI0




かつて、幕末から明治の中期くらいの日本では、写真に撮られることを忌避する風潮があった。

「写真に撮られると魂を取り込まれる」という迷信によるものだ。
だがその時代、写真を撮られることで不可思議な現象が起こった、という話もいくつも残っている。「魂を取られる」というのは、本当にただの俗信だったのだろうか。

はるか昔のカメラには、今の物にはない『何か』があったのかも知れない。

172 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/08/20(月) 01:24:03 ID:iRUeS2nI0



では、世界で最も古い『カメラ』とは何だったのだろうか。

19世紀前半にヨーロッパで銀板写真法が発明される以前、ルネサンス期の画家達がより正確な絵を描く為に用いた光学器械があった。

後世、写真撮影用の機械を「カメラ」と呼ぶ由来ともなったその器械の名は、『camerae obscurae』――カメラ・オブスキュラ。

ラテン語のその名の意味は。


『暗い部屋』。



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