- 117 名前:(-、-トソン あなたと出逢った薔薇月夜、のようです ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:36:16 ID:TeKCiOmY0
- ( ・∀・)「姫よ、姫。新しいドレスを持ってきたぞ」
(-、-トソン「魔王様魔王様。攫われた時から言いたかったのですが、人間界では黒は淫靡なイメージを持つ色です。姫である私には似合いません」
( -∀-)「姫よ姫、そう言ってくれるなよ。黒は俺の好きな色なのだ」
(゚、゚トソン「魔王様魔王様。あなたがたとえばピンクが好きだったらドン引きですよ。百年の恋も一夜にして冷めるでしょう」
( ・∀・)「姫よ、姫。考えてみれば分かることだが黒だと返り血を浴びた時に目立たなくて済むのだ」
(゚、゚;トソン「魔王様魔王様、そういう庶民的な理由で黒い服を着ていたのですか。あなたは魔族の王でしょう。着替えなんて気にしないでください」
( ・∀・)「姫よ姫、蝶よ花よと育てられた君には分からないだろうが、質素倹約が俺の国のスローガンなのだ」
(-、-トソン「魔王様魔王様。それは奇遇ですね、あなたの軍と戦っていたという隣国もそんなスローガンを標榜していました。魔族も人間も変わりませんね」
( -∀-)「…………姫よ姫。ところで、もしかしてで訊くのだが」
(-、-トソン「魔王様、魔王様。一体なんでしょうか」
( ・∀・)「―――君が黒を着たがらないのは、その慎ましやかな胸が余計に小さく見えるからか?」
(゚、゚トソン「ぶっ殺しますよ魔王様」
- 118 名前:(-、-トソン あなたと出逢った薔薇月夜、のようです ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:37:15 ID:TeKCiOmY0
- ( ・∀・)「姫よ姫、そんな物騒な言葉を使ってはいけないな。大体スプーンよりも重い物を持ったことのないような君がどうして人を殺せよう」
(゚、゚トソン「魔王様、魔王様。あなたは魔族の王の魔王であって人間ではないでしょう?」
( -∀-)「……姫よ、姫。そういう揚げ足取りは嫌われるからやめなさい。とにかく非力な君では俺を殺すのは無理だろう」
(-、-トソン「魔王様魔王様。しかしこの身とてあなたと同じく王族の身、生まれた時より背には国が乗っています。それに比べれば刃なんて羽毛に等しい」
( ・∀・)「姫よ姫。君がどう思っているのかは知らないが、ここでの君は俺の姫。人間共のことなど考えなくても良い」
(、 トソン「魔王様魔王様。独占欲の強い男は嫌われますよ。……それに、どうせ私以外の女にも同じようなことを言うんでしょう?」
( -∀-)「姫よ姫、俺の姫。馬鹿なことを言ってくれるな、俺にとっての姫は君だけだ」
(゚、゚トソン「……魔王様、魔王様、本当ですか?」
( ・∀・)「姫よ、姫。もちろんだ。君は出会ってきたどの女よりも美しい。残虐でもなく、触覚もなく、なにより生きたままの人を貪り食わない」
(゚、゚;トソン「魔王様魔王様、なんだか消去法で選ばれたみたいで酷く釈然としないのですが」
( ・∀・)「姫よ姫、聞いてくれ。とにかく俺は君のことを愛しているのだ。君のためにならこんなちっぽけな国は捨てても良い」
- 119 名前:(-、-トソン あなたと出逢った薔薇月夜、のようです ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:38:06 ID:TeKCiOmY0
- ( ・∀・)「けれど、君こそそうだろう? 姫よ、姫。俺はまあ、一目惚れのようなものだが……君は俺を消去法で選んだ」
( ・∀・)「あの紅い月が輝く夜に、人の言い伝えでは願いが叶うと伝わるあの夜に、君は『誰か私を攫ってください』と願ったのだ」
(、 トソン「違います、魔王様、私は―――」
( -∀-)「ほら、聞こえるだろう俺の姫。人間達がこの城の、この廃墟の門戸を叩く音。どんどんと、がんがんと」
( ・∀・)「さあ夢から醒める時間だよ。もう残る魔族は俺一人。最早滅ぼすにも値しない。ならばアレは……君の迎えなのだろう」
(;、;トソン「やめてください、やめてください魔王様。そんなことを言うのは、だって、私は……っ!」
( ∀)「我が儘を言うなよ、俺の姫。俺は、君のことが本当に好きだった。だが元より叶わぬ恋だったのだ。君のためにもなりはしない、諦めることとしよう」
(;、;トソン「違うのです魔王様。私はあの夜あの時あの瞬間、ただ一目お逢いして分かったのです。私はあなたを愛するにために生まれてきたのだと」
(;、;トソン「あなたを愛する私の真は何よりも、激しく深くそして熱い。全身が燃えるようなこの想い、これが嘘なはずがありません」
(、 トソン「魔王様……。あなたがそうであるように、私だってあなたを愛しているのです」
( -∀-)「…………そうか。嬉しいよ、姫」
( ・∀・)「家族も、友も、皆殺され、せめて最後は復讐をと忍び込んだ城の中。君に出逢えたのは死ぬしかなかった俺にとって一番の幸運だった」
- 120 名前:(-、-トソン あなたと出逢った薔薇月夜、のようです ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:39:11 ID:TeKCiOmY0
- ( -∀-)「でも姫よ、人間達の姫。君は人間達を捨てられまい? 人間であることは捨てられても、自分を慕う人々は捨てられまい」
( ・∀・)「なんの自由も与えられず、政治の道具として使われ、好きでもない何処かの王子と結婚させられ、遂には子を成すだけのものに貶められるとしても、」
( ・∀・)「君のあまりにも美しく高潔な魂はきっと、自分に笑顔を向けてくれた民衆を裏切れまい」
(、 トソン「……その通りです、魔王様。私は何処にも行けやしない。私は私自身の奴隷です」
(、 トソン「だから魔王様―――私のことを、殺してください。私をあなただけのものにしてください。ここで私を、終わらせて」
(、 トソン「どうかその手で私の身体を抱き寄せて、どうかこの首を掴み、きつく締め上げてください。私が誰のものでもないうちに。誰にも穢されないうちに」
( ∀)「! 姫よ、だが、それは……!」
(^ー^トソン「良いのですよ魔王様、もう我慢はしなくても。私のためを思ったのですか? もう何十日も人を食していないのでしょう?」
(、 トソン「きっとあなたを愛するために私は生まれてきたのです。きっとあなたに死するために私は生まれてきたのです。それだけが私の真実だった」
( ;∀;)「ああ、俺の姫。どうして、君は。どうして君は俺だけの姫でなかったのか! ああ、ああ、ああ―――!!」
(;ー;トソン「……泣かないでください、私の最愛なる魔王様。私だけの王子様。あの紅い月夜にあなたと逢えて、私は幸せだったのですから……―――」
- 121 名前:(-、-トソン あなたと出逢った薔薇月夜、のようです ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:40:06 ID:TeKCiOmY0
とあるのどかな農道を一人の男が歩いていた。
出で立ちは旅人風なれど、貴族の出なのかその立ち振る舞いには不思議な優雅さがあった。
男は空を見上げ、いや今は見えない月を見るようにし、呟いた。
( ・∀・)「“どうして人を殺せよう”だと? 我ながら馬鹿なことを言ったものだ、俺こそが彼女に殺されたというのに」
( -∀-)「一目見た瞬間に、この胸を射抜かれてしまったというのに」
( ∀)「……ああ、俺の姫。魔王と姫でなければ俺達は出逢えなかった。だがそれでも、魔王と姫でなかったらと思わずにはいられないよ」
昔々の話です。
紅い満月が上る夜、月に向かって願いを懸ければ望みが叶うと誰かが言った。
話を聞いていた何処かの誰か、「それは違う」と哀しそうに言った。
“紅い月夜に恋に落ちた二人は燃えるような恋をして、けれどその恋は決して叶わない”と。
―――これは薔薇のように紅く美しい月の下、恋に落ちた魔王と姫の、誰も知ることのない物語。
- 122 名前: ◆QHbGnz0ysE 投稿日:2011/10/28(金) 23:41:10 ID:TeKCiOmY0
- 以上です。
次の方、どうぞ。
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