作品投下スレ

124 名前:午前五時の裏側で のようです ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:48:40 ID:0s/SuyB.0

部屋には彼女の残り香が
ふわふわ漂っているそれを吸い込む度に
頭の奥がぐるりぐるりと

彼女が部屋を出て行ったのはもう数時間も前の事
それでも彼女の香りは未だ此処に
逢瀬の余韻に浸らせてくれる

('A`)「…………」

ベッドに倒れたのは午前零時を過ぎる前
そのとき彼女は隣にいたのだったか
部屋を出て行く姿だけは覚えていた

音も無くしなやかに歩く様は猫のようで
一度振り返り此方を見た彼女は静かに
ただ静かに微笑んでいた

デスクの上では手付かずのウヰスキィ
氷が融けて嵩の増したグラスが二つ
僕から目を逸らさす事無く睨んでいる

('A-)

身体の端からだんだんと冷たくなっていくのを感じながら目を瞑る
そんな午前五時

125 名前:午前五時の裏側で のようです ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:50:25 ID:0s/SuyB.0

('A`)

時計の鳩がくるっぽくるっぽ泣いていた
ルーレットは全て「起床」「起床」「起床」のラッキーセヴン
ベッドから降りて窓を開ければ空が燃えていた

ぼとぼと落ちてく空の炎で煙草を点ければ
揺蕩う紫煙がほとんど消えかかっていた彼女の香りを食べていく
窓の方では外気が不味そうに煙を食べていた

その様子をぼんやりと眺めていればじりりじりりと電話が喚く
受話器を取ってみればそれは彼女で
電話によって歪められたノイジィな声が僕の中に木霊する

『もしもし』

('A`)】「おはよう」

『おはようと言うにはまだ早いような気がしますが』

('A`)】「そうかな」

『ええ』

('A`)】「ところで何かあったのかな」

ちらりと時計を見れば未だに鳩がくるっぽくるっぽ泣いていた
時刻は変わらず午前五時

126 名前:午前五時の裏側で のようです ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:51:43 ID:0s/SuyB.0

彼女の返答は直ぐには聞こえず代わりにやはりノイジィな呼吸音が聞こえてきた
その一つ一つが僕の耳朶を打ち頭を揺さぶる
視界のブレが大きくなり早打ちのメトロノームのようになったところで彼女が口を開いた

『ちょっと来週まで逢えなくなりまして』

('A`)】「どうしてか聞いてもいいかい」

『今日は両足を捜しに行かなくてはいけなくて
 明日には身体を捜さなくてはいけなくて
 明々後日には右手を
 水曜日には左手を
 木曜日には頭を
 金曜日には心臓を
 そして土曜日には両目を捜しに行かなくてはいけないのです』

('∀`)】「君のそういうちょっと抜けているところが僕は好きだよ」

僕がそう言うと受話器から淡いピンク色の煙がもくもくと
どうやら彼女が照れるとこういう事が起きるらしく
僕は何度もこの煙で溺れそうになった

『とにかくそういうことですので』

('A`)】「楽しんでいっておいで」

その言葉を最後に音を発しなくなった受話器を戻してウヰスキィを呷る
針は午前五時から動かない

127 名前:午前五時の裏側で のようです ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:53:07 ID:0s/SuyB.0

('A`)

それからの僕はというといつもと変わらない生活を送っていた
テレビはよく喋るし掃除機は手当たり次第に何でも吸い込み
キッチンに置いたトースタァはパンを勢いよく吐き出しては粉微塵にしていた

約束の日が近づくにつれて浮付きを抑えきれなくなっていた
それは空気を伝わり他の物にも影響して
気が付けば部屋中がそわそわしていた

ソファは揺り籠のように左右にゆっくりと揺れて
彼女も気に入っていた木製のいすは一人でステップを刻んでいた
僕は唯一寡黙なベッドの上に浅く腰を掛ける

そのまま体を倒せば
燃える空の上で未だに居残っているお月様と目が合った
彼はニヤニヤと此方を見下ろしている

ξ*゚ー゚)ξ

そのまま黙って見ているとお日様が慌ててやって来た
彼らは二人でくるくるワルツを踊り出す
その二人に僕らを重ねて一人で踊れば躓き転んだ

(メ'A`)

上から響く楽しげな声を聞きながら顔を上げる
時計は逃げ出し何処かに消えていた

128 名前:午前五時の裏側で のようです ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:55:19 ID:0s/SuyB.0

(*'A`)

ようやく彼女に逢える日が来た
浮付きは最高潮で部屋の中は祭りの後のような状況だった
僕の心臓なんかはブラストビートを刻んで今か今かと彼女を待っていた

不意に聞こえるピンポーンという間抜けな声
ドアのチャイムが久しぶりにその存在を僕に教えてくれた
急いでドアへと駆けつけたかったけど生憎とそれどころではなかった

チャイムに驚いた拍子に飛び出した両目がころころと床を転がる
うろうろしつつもそれを追って行くと柔らかい物にぶつかった
顔を上げれば両の窪みに目玉がすぽんと収まった

(゚、゚トソン「貴方は相変わらずですね」

目の前には一週間前と変わらぬ彼女
どうやら捜し物は全て見つかったらしい
その後ろには所々ぼこぼこしている黒い袋

部屋はいつの間にか整然としていて彼女の来訪を歓迎していた
デスクの上にはやはりウヰスキィのボトルとグラスが二つ
彼女は僕をベッドへと運んでいく

(゚ー゚*トソン「それじゃあ始めましょうか」

黒い袋の口からは僕の頭が僕を見ている
消えたはずの時計は針を午前五時から進めていた

129 名前: ◆zfe4VYIPbk 投稿日:2011/10/28(金) 23:56:19 ID:0s/SuyB.0
投下終了

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