作品投下スレ

15 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:06:54 ID:UbalpkMo0

 龍の子は人間だった。

 勿論、ほんとうの子ではない。
 人里離れた岩山にある龍の巣に、
 ある日、生まれたばかりの人間の子が投げ入れられていたのだ。

(,,゚Д゚)「わざわざここまでやってきて、子を投げ、捨てたというのか」

(*゚ー゚)「いいえ。この山まで辿り着ける人間はおりませぬ。
    きっと、人里に出た悪い鷲が、生まれたばかりの子を攫い、それを落としていったのでしょう」

 成程そう考えれば道理は付く。

 とまれ、龍の夫妻は難儀した。
 自分たちの子ではないとはいえ、
 ぎゃあぎゃあと泣く赤子を、まだ生きている子を、打ち捨て殺すも忍びない。

(,,゚Д゚)「お前、乳は出ぬのか」
 
(*゚ー゚)「馬鹿を言うではありません。一寸、お待ちなさい」

 龍の妻はばさりと羽根を広げて飛び去ると、二刻ほどして飛び戻った。
 その鈎爪には丸々とした牛を抱えている。

(,,゚Д゚)「なんと。人里から牛を攫ったと申すか」

(*゚ー゚)「人聞きの悪い。子を育てるのに乳牛(ちちうし)を借りて、悪い道理があるものですか」

16 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:08:20 ID:UbalpkMo0

 子は育ち、這い、立つようになった。

( ^ω^)「あー。あー。」

(*゚ー゚)「おお、よしよし」

 声を発する人間の子を、
 龍の妻は目を細め、わが子のようにかわいがる。

(,,゚Д゚)「お前、そろそろこいつにも、言葉を教えねばなるまいぞ」

(*゚ー゚)「はい、旦那様。でもねえ」

(,,゚Д゚)「うむう」

 龍の言葉は龍の音。
 人間の耳には聞き取れぬ部分の音も使って、龍はたがいに話をする。

(*゚ー゚)「人の言葉を、如何にして?」

(,,゚Д゚)「こればかりは、師を攫うてくるわけにもいくまいが」

(*゚ー゚)「と言うて、我らが里に下りるというのも」

(,,゚Д゚)「うむ、この姿成りでは、叶わぬことよ」


18 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:09:59 ID:UbalpkMo0

(,,゚Д゚)「お前、この子を返してくるのだ」

(*゚ー゚)「えっ」

 龍の妻は眉を固くし、我がの体で子をかばう。

(,,゚Д゚)「仕方なかろう。人の子には、人の言葉が必要なのだ」

 子を慈しむ龍の妻は、嫌だ嫌だと渋ったが、
 夫のたっての畳言に、ついに、妻も心を決めた。

(*゚ー゚)「わかりました。して、どこの人里に?」

(,,゚Д゚)「そこよ。身寄りのないこの子のこと、めったな所には送り返せぬ。
    お前、何か良い知恵はないか」

 龍の夫妻は、腕組みをしてうんうん悩んだ。

(*゚ー゚)「食うや食わずの貧しい村では、この子の食い扶持はございますまい」

(,,゚Д゚)「ならば、街か」

 龍の夫妻は飛び立った。

 龍の夫は乳牛を抱え、龍の妻は大事にくるんだ子を抱え、
 夜中にひっそり空を行く。

19 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:12:19 ID:UbalpkMo0

 やがて二匹の龍は、国一番の王都、パリサイの街に辿り着いた。

(,,゚Д゚)「ここなど、どうだ」

(*゚ー゚)「よろしいかと存じます。
     ただ、子を降ろすに、どこでも良いというわけには参りませぬ」

 町にはきらびやかな通りもあれば、貧民の暮らす汚い路地もあった。

(,,゚Д゚)「どうせなら、綺麗で、子に仇をなさぬところが良いな」

(*゚ー゚)「あれ。あの場所が開けております」

(,,゚Д゚)「ほう、これは雅じゃ」

 二人が向かった先は、王宮の中庭。
 大理石の回廊に囲まれた、四角い水辺のほとりに、
 龍の夫は乳牛を置き、龍の妻はその上に子を置いた。

(,,゚Д゚)「これ、妻よ泣くでない」

(*;ー;)「馬鹿を。泣いてなどおりません」

 龍の妻の大粒の涙は、牛の背に乗せられた子に降り注ぎ、
 地に落ちて、きらきらと輝く水晶の玉になった。

 龍の夫妻は誰にも見られず、夜空を羽ばたき帰って行った。

20 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:13:53 ID:UbalpkMo0
 時が経ち、岩山の龍の夫妻も、老いた。

 あれからはるかな時を経ていたが、
 それでもまだ、年に何度かは、二人の話の中に、あのときの人間の子のことが出る。

(,,゚Д゚)「ちゃんと拾われたかな」

(*゚ー゚)「可愛い子です。ちゃんと拾われ、育てられます」

 二匹の龍は、あれからめっきり、人にやさしくなった。
 時折迷い込むようになった人間たちにも、二匹は炎を吐きかけたりすることなく、
 水と肉を与え、帰る方向を示してやったりしていた。

 あるとき、龍の巣のそばで行き倒れていた、旅の詩人というやさな男が、

('A`;)「た、助けてもらったお礼に」

 と、龍の夫妻の前で歌を歌ったことがある。

 はるか昔 龍の涙という宝石を身につけた気高い王子が、
 運命に翻弄されて世界を巡り、ついに大帝国の王となるまでを歌った詩であった。

(*゚ー゚)「これ、あの子のことかしら」

(,,゚Д゚)「そうかもしれんね」

(*゚ー゚)「大変だったのねえ。幸せだったのかしらねえ……」

 訳知り顔に頷きを交わす龍の夫妻を前に、
 旅の詩人は、ただわけもわからず、かしこまっていたという。

21 名前:龍の子のようです ◆OAklXfSBAA 投稿日:2011/10/28(金) 21:14:47 ID:UbalpkMo0
以上だぜ!>>15->>20
タイトルは『龍の子のようです』


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