作品投下スレ

186 名前:みずたまりのようです ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:52:57 ID:PIW7JlxM0
昔から、わたしは水溜まりが怖かった。
わたしが歩道を歩いているときに車がそこを通ると、宿命的に水を引っ掛けられた。
時には、友達と楽しくお喋りしているわたしの足元にやってきて、新品の靴を泥水で汚した事もあった。

だがそういう嫌な思い出と、わたしが水溜まりを恐ろしく思うことにはあまり関わりがない。
とにかく、それに触れるのを想像すると、私は例えようのないような恐怖を感じるのだ。
それになんだか、見ているとそこに吸い込まれてしまいそうな気分になる。

何が「吸い込まれる」のか、そう思っているわたしにも説明はできない。
でも本当に理屈抜きで水溜まりはすごく怖い。

特に、今みたいな曇ってる日の夕方には。

从;゚∀从「うおっ」

(゚、゚トソン「ちょっと、どうしたのよ」

从;゚∀从「ほらそこ!水たまりが……水たまりだ!」

(゚、゚トソン「……そうね、水溜まりね。水深2センチくらいかな?」

水深2センチ、直径がおよそ60センチの水溜まり。
それが、私達の行く手を遮っている……水の上には一枚の落ち葉が浮かんでいた。
ただの落ち葉だったが、わたしはそこから目が離せなかった。たぶん、怖くて。

(゚、゚トソン「なにしてるの」

从;゚∀从「へ?」

気がつくと、友達はすでに水溜まりの向こうにいた。

187 名前:みずたまりのようです ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:53:48 ID:PIW7JlxM0

(゚、゚トソン「……ねえ、早く行きましょうよ。
     もうそろそろ日が暮れてきたわよ?」

从;゚∀从「話してなかったっけ?」

(゚、゚トソン「……多分聞いてないと思うけど」

从;゚∀从「今日みたいな日の水溜まりが、わたしはすげー怖いんだよ」

(゚、゚;トソン「へえ、初めて聞いた。変わってるね」

意外そうな友達が、足元にあるどろりとした色の水溜まりを覗き込む。
そして、少し納得したような顔をする。

(゚、゚トソン「分かる気がする。なんかこういう時って鏡みたいに見えるね」

从 ゚∀从「でしょ?見てると吸い込まれそうっていうか、なんか出てきそう」

(゚、゚トソン「だから怖いの?」

从 ゚∀从「そう、なんだろうな」
  _,
从;゚∀从「……ん?」

自分で発した言葉の中に私は違和感を感じる。
……何かが出てきそう?そんな事、今までに考えただろうか。
しかし自分でも分からないうちに、その言葉が自然と口をついていた。

(゚、゚トソン「そうかぁ……分かった」

188 名前:みずたまりのようです ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:55:06 ID:PIW7JlxM0
从;゚∀从「……なんだよ」

(゚、゚*トソン「その水溜まり恐怖症、今日で克服しない?」

从;゚∀从「はぁ!?」

(゚、゚*トソン「まあまあ、そんな驚かないでよ」

从;゚∀从「つってもさ!もうそろそろ行かないともう時間もないし!」

(゚、゚*トソン「大丈夫よ!時間なんていくらでもあるんだから」

从;゚∀从「お前にあってもわたしには無いの!もう行こうよ!」

(゚、゚*トソン「帰りの方向的にこっちしか道はないんだけどね」

从;゚∀从「おい……」

友達の突然の提案にわたしは混乱する。そろそろ電車が来てしまう時間だし……。
それより何よりなんでこいつはこんなにノリノリなんだ?

(゚、゚トソン「さあ、こっちに来ようか」

从;゚∀从「うう」

わたしは仕方なく水溜まりの方にゆっくりと、一歩ずつ近づいた。
そして、わたしは水溜まりの縁に立った。なんというか崖っぷちにでも立っている気分だ
もう一歩先は水の中、というよりローファーの先がもう水溜まりの中に入っている。

从;゚∀从「……」

189 名前:みずたまりのようです ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:55:37 ID:PIW7JlxM0
水溜まりにわたしの顔が写っている。
鏡像は風に歪み、それを見たわたしは身震いした……でもやっぱり目がそこから逸らせない。
わたしは水溜まりが発しているその重力を無理やり振り払って、目の前にいる友だちの顔を見ようとした。

だがそこに彼女はすでにいなかった。その代わり、髪をつかむ濡れた指の感触がした。
そして何かを考える間もなく、わたしはその場に引きずり倒されていた。

从  ∀从(は?)

そう思ったときには、すでには水溜まりに顔を押し付けられていた。
悲鳴をあげようとしたわたしは泥水を吸い込み、それが気管に入り込んだ。

从; д从(水!?水たまりの水か!?)

体を起こそうともがいたが、頭を抑えつけられて身動きがとれない。
長い爪が、後頭部に食い込んでいる。女だ、とわたしは思った。
わたしはそれを振りほどこうとして手首を掴んだ。でもびくともしない。

从; д从「うぶ…――ヘ√レv!!!」

がぼがぼと水を吸い込みながら、女の手首から腕を辿って顔を引っ掻いてやろうとした。
最初は顔を叩けば離してくれると思った。が、その直後に私はその行動を心底後悔した。

私の伸ばした手が女の顔に届くことはなかった。
深さが二センチも無いような水の底から、女の腕だけが一対生えていた。

从 ; ∀从(すご、く冷たい……これ人間の、手じゃ、ない……!)

頭がぼおっとしてきて、それまで必死にもがいていた体が重くなっていく。
―――――わたし、ここで死ぬんだ。

190 名前:みずたまりのようです ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:56:47 ID:PIW7JlxM0

諦めかけたその時、何の予兆もなく手がすっとわたしの頭を離した。
その隙に、わたしは地面の上を転がるようにして水溜まりから離れた。

从;゚д从「ゲホッ!ゲホッ!」

激しく咳き込みながら、わたしは泥水を顔から拭う事もせずに目を開ける。
水溜まりはまだわたしのすぐ横にあった。わたしは腰が抜けたままそこから後ずさる。
……その時、視界の端に見えた水溜まりがごぼりと泡立つのが見えた。

从;゚∀从「!!」

何とか立ち上がって、わたしは反対方向に走った。とにかく明るい方へ、明るい方へ。
そして近くの商店街のアーケードに駆け込んで、その場にへたりこんだ。

从;゚∀从「……あっ!」

はっとして周囲を見渡した。あの子は、友達はどこに行った?まさか置き去りにしてしまったか!?

从;゚∀从「……あれ?」

友達の名前を叫ぼうとして、わたしは気がついた。あの子、なんていう名前だっけ。
そもそも、あの子は誰だ?そういえばあの水溜まりの手前で、今日初めて会ったんだよな。
じゃあ、友達でも何でもないじゃないか。なぜいままであの子を友達だと思い込んでたんだろう?

从; д从「……誰だよ、あいつ」

後頭部に、わたしは手をやった。あの手に掴まれていたところに。
そこはまだぐっしょりと濡れていて、爪が食い込んでいた感触がはっきりと残っていた。
そしてあの細くて、まるで滴るような手の冷たさが……。

191 名前: ◆SMzx8VoNRs 投稿日:2011/10/29(土) 01:57:24 ID:PIW7JlxM0
以上です 次の方土蔵

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