- 229 名前:(,,゚Д゚)ミカンを投げるようです ◆b4TbqqpIB2[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:09:02 ID:mb7C.Q.g0
(*゚ー゚) ミカンとって
しぃは、男みたいな女の子だった。髪が短くて、運動が得意で、それでいて度胸もある。いっつもシャツにズボンばっかりきていたから余計に女の子に見えなかった。
(*゚ー゚) ねぇ、ギコ。ミカンとって
でも、今僕の目の前にいるしぃは違った。肩に届いた髪の毛がサラサラフワフワしていて、動きにくそうな洋服を着ていて、日焼けもほとんどしていない。もう、女の子にしか見えない。
(*゚ー゚) ねぇってば
それでいて、中身は。粗野で女の子にしては下品で。今だって、剥いたミカンの皮は僕よりも散らかしている。
この、あまりに奇妙な差異にどうしようもなく戸惑っている僕がいる。なんだかしぃと話すのがやけに怖く感じられた。
(#゚д゚) いいかげんに返事くらいしろやぁ!!
僕の鼻にしぃの投げたミカンの皮が当たる。僕はしぃを睨み、傍の箱からミカンを引っつかんで投げつけた。
僕の投げたミカンはまったくしぃに向かわなかった。あわや壁に当たってミカンが潰れるかと思った瞬間、しぃが全身を伸ばしてそれをキャッチしていた。
僕は、流石だ、と感心してしまっていた。
(#゚ー゚) どこ投げてんのよ下手くそ!
(#,゚Д゚) うっさいな!だったら自分でとればよかったろ!!
(#゚ー゚) コタツでたくないもん!
しぃが理不尽なことを胸を張って言った。こういうところも変わってない。
でも、張った胸の盛り上がり方はやっぱり少し違う。僕の知っているしぃはもっとこう、本当に男みたいなんだ。
変わったのは見た目だけなのか、僕が気付かないだけで中身も変わっているのか。僕にはもう分かる気がしない。
- 230 名前:(,,゚Д゚)ミカンを投げるようです ◆b4TbqqpIB2[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:09:48 ID:mb7C.Q.g0
- しぃは僕の投げたミカンをせっせと剥いていた。外の皮を剥がし、白い筋を一本一本几帳面に取る。取った筋は皮の上に捨てるが、結果的には散らかっている。
変なとこだけ、細かいんだ。こいつは。服の汚れは気にしないくせに、ボールがドロ塗れになると凄く怒るし。
(*゚ー゚) …なに?
(,,゚Д゚) ……え?
(*゚ー゚) さっきから人のことジロジロ見てる
(,,゚Д゚)、な、なんでもないし
目が合ってギクリとした。しぃのいう通りだった。さっきどころか、しぃが来てからずっと、僕はしぃから目が離せない。ずっとしぃのことばっかり考えている。
そう自覚して、僕は急に恥ずかしくなった。凄くムズムズして、なんだか落ち着かない。
(,,゚Д゚)、向こうの学校、友だちとか、できた?
(*゚ー゚) …うん、まぁ
咄嗟の、話題を逸らす為に言い放った質問に返ってきたのは、そん返事だった。妙に歯切れの悪い「らしくない」答え。
まさか、イジメられているのだろうか。見た目の変化は友だちが変わったからだと勝手に思って居たけれど、そうしないとイジメられてしまうとか、そういう理由なのかもしれない。
(,,゚Д゚) なんか、あったの?
(*゚ー゚) んーん。でも、ギコたちみたいに遊べる友だちはいないからさ
(*゚ー゚) ちょっと寂しいかな
寂しい。その言葉が嬉しかった。しぃは僕が嫌いになったり、不要になった訳じゃ無い。時間がたって少し変わってしまっただけなんだ。
僕だって背が伸びたし、足も速くなった。それと同じなんだ。しぃだけが変わったわけじゃない。そして、僕たちが友だちじゃなくなったわけじゃない。なんだか、安心した。
- 231 名前:(,,゚Д゚)ミカンを投げるようです ◆b4TbqqpIB2[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:10:23 ID:mb7C.Q.g0
- (*゚ー゚) そっちのみんなはどうしてる?ギコ全然言ってくれないから聞くけど
(,,゚Д゚) え?ああ、みんな変わらないよ。ドクオはよくウンコ踏むし、ブーンはデブだし…
ツンはしぃと違っておっぱい大きくならないし、と言いかけてやめた。言ってはいけない気がした。そしてたぶんその予感は正解なんだと思う。
(*゚ー゚) そっかぁ、懐かしいなぁ
(,,゚Д゚) 春休みに来ればいいじゃん。みんなとも遊べるよ
(*゚ー゚) …たぶん、無理かな。お父さん忙しいから
(,,゚Д゚) 一人でだって…
言いかけて、またやめた。しぃが引っ越した街からここまでは中々に遠い。小学生の女の子が一人で来るには怖い距離だ。不可能では無いのかもしれないけど、しぃを困らせたく無い。
(,,゚Д゚) じゃぁ、次はいつ来れる?
(*゚ー゚) わかんない。今日だって、何とか休み取ったみたいだし、私も、塾に行かなきゃ
(,,゚Д゚) そっか…
(*゚ー゚) ……ねぇ、ギコ
(,,゚Д゚) ん?
(*゚ー゚) あの水晶、頂戴。
しぃが指差したのはサイドボードの上に飾ってある水晶を模したガラス玉。丁度、ミカンと同じくらいの大きさがある。昔、家族旅行の記念に自分で自分の名前を掘った僕の宝物だ。
- 232 名前:(,,゚Д゚)ミカンを投げるようです ◆b4TbqqpIB2[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:10:56 ID:mb7C.Q.g0
- (,,゚Д゚) ダメだよ、宝物だもん
(*゚ー゚) ……そっかそうだよね。ごめん
(,,゚Д゚) …えっと……
気まずい沈黙だった。僕が悪かったのだろうか。しぃはあの水晶が僕の一番の宝物だって知っているはずなんだから、僕が断わるなんて分かっていただろうに。
そのままなんとなく沈黙が続いた。しぃがミカンを欲しがって、僕が投げて渡して「下手くそ」と言われる以外、話らしい話は出来なかった。
夕陽が差し込む時間になってしぃのお父さん、僕にとってのおじさんと、僕の母さんが帰ってきた。兄妹で親戚回りに行って来たのだ。しぃと僕はその間の留守番だった。
ミ,,゚Д゚彡 それじゃぁしぃ、帰ろうか
(*゚ー゚) …うん
おじさんは急いでいるようにも見えた。多分、明日も仕事があるんだろう。帰って休むことも考えれば、時間はギリギリかもしれない。
だからしかたないのだ。しぃが帰ることを快諾したことも、僕と改めて言葉を交わす暇もなく、帰り仕度をすることも。
でも、なんでだろう。その姿に一時の別れ以上の寂しさを覚えたのは。二度と会えないような不安を感じたのは。
そんなことあり得ないと、思っているのに。
玄関先で車に乗り込む二人を見送る。車に乗り込む直前、しぃは僕の方を向いて小さく手を振った。
それは初めて見る、あまりにも寂しげな笑顔だった。夕日の作る影のせいだと、思うことも出来た。
でも、僕はそれで気付いたのだ。しぃも、二度と会えなくなるかもしれないと感じていたことに。あるいは、もっと明確に確信していたのかもしれないことに。
だから、僕の宝物を欲しがった。僕がそうであるように、せめてどこかで、なにかでかつての友だちと繋がって居たいと思って。
僕は、すぐさま家の中へ戻った。母さんが驚くのも気にしない。
靴を脱いでリビングに急ぐ間に、車のエンジンがかかる音がする。先に「待って」と言うべきだった。でもそんなの関係無い。
サイドボードの上、黒い台座に居座る水晶をひっ掴む。そのまま窓を網戸ごと一気に開いた。
車はもう敷地を出て行こうとしていたところだ。
- 233 名前:(,,゚Д゚)ミカンを投げるようです ◆b4TbqqpIB2[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:11:34 ID:mb7C.Q.g0
(,,゚Д゚) しぃーー!!
叫ぶ。車が留まる。しいが窓を開けて、不思議そうな顔をしている。
(,,゚Д゚) これ!!
手に持った水晶を掲げた。しぃは、少し考えて僕が何をするつもりか気付いたよう。慌てて車から降りる。
僕は、水晶を投げた。ミカンくらいの大きさのそれは、夕日を反射しオレンジに輝きながら弧を描いて飛んでゆく。
そして、しぃが精一杯伸ばした手の中に、すっぽりと収まった。しぃは手の中のそれを見て、ギュッと抱きしめる。
(,,゚Д゚) それ!貸すだけだからな!ちゃんと、返しに来いよ!
(*゚ー゚) …へたくそー!!
(,,゚Д゚) うっせー!!
しぃとおじさんの乗った車を見送る。
僕の投げた水晶がちゃんと戻って来るかはわからない。あの水晶を渡してからって、おじさんが休みを取れたり、しぃが塾に行かなくてすむわけじゃないんだから。
でもきっと、遠くない未来でしぃに会える。そんな気がする。
だなら僕は、遠くに消えた車に一度もさよならを言わなかった。またいつか、一緒にミカンを食べる日を信じて。
(*゚∀゚) 次までにはピッチングもプロポーズも練習しようね。へ・た・く・そ・さん☆
(*,,゚Д゚)、 う、うっせ!!茶化すなクソババァ!!
おわり
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