作品投下スレ

236 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:46:15 ID:aPWATFGY0

 ストーカーがいるかもしれない、そう彼女に相談されたのは半年前のことだ。
電話先の声が震えていたのを覚えている。

 僕の彼女は確かに魅力的である。
どうして自分なんかと付き合っているのだろうと、僕自身時々そんなことを考える。
運命だといえば聞こえはいいが、偶然と済ましてしまうのが現実的だろう。

 とにかく僕たちはたまたま出会い、たまたま恋に落ちたのだ。
今まで生きていた中でこの出会い以上の幸福はなく、上手くやってきていると思っていた。
半年前の相談だって何とか乗り切れるだろうという甘い考えがあったのだ。


(*゚−゚)「真剣に考えてる?」


 カフェのテーブルで向かい合った彼女の顔は、怒りと緊張に満ちていた。
日々増していくストーカーの恐怖に、眠れない日々が続いているそうだ。


(,,゚Д゚)「ちゃんと考えてるけどさ」


 生返事にまたいらつき始めているのがわかったが、どうすることも出来なかった。
実害が出れば警察が動いてくれるのだが、ゴミ袋を漁られたり、筆跡を誤魔化した
不気味な手紙が届くくらいでは、警察の腰は重いままであった。

237 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:47:14 ID:aPWATFGY0

(,,゚Д゚)「俺の方でさ、探偵に頼んで調査してもらうつもり」

(*゚ー゚)「本当?」

(,,゚Д゚)「うん。でもあんまりお金が払えないから、三日くらいで調査が終わっちゃうっぽいけど…」


 学生の身分でそうそう大金は払えない、ということだが、それでも彼女は満足そうだった。
自分の為に彼氏が動いてくれている、それが彼女の安心に繋がっていた。


(,,゚Д゚)「それと、良かったら一緒に暮らさない?」


 突然の提案に彼女は驚き、一瞬目を丸くした。
嫌ならいいけど、と続けたが、別段嫌そうな顔はしておらず、ただ驚いているようだ。


(*゚ー゚)「…いいよ。ていうか、嬉しいな」


 就活も終わり、就職が控えている状況での同棲というのは、結婚へのビジョンが
今まで以上に固いものになるということだ。
僕らは互いに笑い合い、同棲の準備に向けてにこやかに会話を始めた。
ただし僕はこのとき、心中で確固たる決意を固め、その実行について思いを巡らせていた。

238 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:48:46 ID:aPWATFGY0


 ◆―――◆



 探偵を名乗る者が僕の家にやってきたのは、それから三週間後のことだった。
ちょうど夕飯の仕込みをしていた所で、一旦手を洗ってから玄関を開けると、その男がいた。
見た目はサラリーマンのようだが、目つきが異様に鋭く、ガタイのいい男であった。


(-@∀@)「話があります。出来れば中で話したいのですが」


 何やら身の危険を感じ、出来れば玄関先で話したいというと、男は周りを確認してから
せめて扉を閉めて話したいと言ったので、渋々ではあったが扉を閉めて話すことにした。


(-@∀@)「実は最近、あなたのことを見ていたのですよ」


 女性に言われたら胸がときめきそうな台詞だが、屈強な男から言われたのでは不快でしかない。
どうしてそんなことをしていたのか、刺々しい物言いにならないように気をつけて尋ねた。


(-@∀@)「ある人から相談を受けててね。最近誰かに見られているような気がすると。
     監視を始めてすぐにわかりました。学校内のカフェ、よく行く本屋、何処にでもあなたがいる。
     依頼人が何か喋ったとき、あなたは小さな声で一人言を喋っていた。
     いや、まあ、あなたにとっては会話なんでしょうけどね。
     もしかしてあなた、依頼人のしぃさんと自分が付き合っている、という妄想をしているのではありませんか?」

239 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:50:22 ID:aPWATFGY0

('A`)「僕が、ストーカーってことですか?」

(-@∀@)「ええ。まさか依頼人と同じアパートにいるなんて、私も驚きましたけれど。
     とにかくあなたは電話の盗聴、会話の盗み聞き、ゴミの中身を漁ったりなどして、
     まるで彼女と恋仲になったかのような妄想をしていた。わかりますよ。
     探偵やってるとね、そういう人とたまーに出くわすんですよ」


 彼の言っていることは支離滅裂のように感じたが、何処か心を狂わせるものを持っていた。
信じてしまえば、今まで見ていたもの、聞いていたもの、世界そのものが壊れてしまいそうな戦慄があった。


(-@∀@)「そこでね、取引しません? あなたがストーカーしていた事実を隠す代わりに、私に金を払う。
     お互い得する取引だと思うんですがね。もし駄目なら依頼人に証拠を渡します。
     そうなったらあなたはすぐに刑務所行きだ。はっきりいって、物的証拠は山ほどありますよ」

('A`)「……少し、待ってて下さい」


 足下がおぼつかない。彼が何を言っているのか理解できない。
とにかく彼は危険だった。僕が僕であるためには、彼が僕の前からいなくなってもらうしかない。
いや、それでも駄目だ。この世界から彼の存在を消すしかないだろう。

240 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:51:26 ID:aPWATFGY0


(-@∀@)「返事は待てませんよ。今日中がリミットです。何せ明日が調査の報告日ですからね」


 奥の部屋に行き、頭痛のする頭を抱えて、クローゼットの中を開けた。
夕飯の仕込みが途中だったので、中途半端にさばかれた食材が一体と、
僕のことが心配なのか、泣きそうな目で僕を見つめる大切な人がそこにいた。


('A`)「…お金、払います。こっちに来て下さい」

(-@∀@)「はいはい。じゃあ今行きますよ」


 昨晩にも使った金属バットを手に持ち、男が現れるのを待った。
今日は彼女との同棲初日なのだ。どうせなら二体の食材を使って、盛大に祝おうと決めた。

241 名前:マジックアワーのようです ◆82n1WOL9uo[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 04:52:28 ID:aPWATFGY0
終わりです

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