作品投下スレ

300 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:54:10 ID:wWsi3PJ20

=二三( ゚∋゚)
                      トリビト
私の名前はクックル。しがない鳥人の郵便屋。
私は今、ある依頼を受けて、ニューソク平原の上で自慢の翼をはためかせている。

(*゚ -゚)『……夫にこの手紙を届けてくれませんか』

綺麗な奥方にそう頼まれ、私は腰のポーチに手紙の入った白い封筒を入れ、
ニューソク国とパーソク国の国境付近にある防衛の要、ワロス砦を目指して空を滑る。

聞けば、旦那さんは兵隊としてとられて以来、定期的に手紙を送ってきてくれていたのだが、
ここ最近になってその手紙が途絶えてしまったのだという。
軍に問い合わせてもわからないの一点張りで、そのため私に手紙の配達を依頼してきたのだ。

=二三( ゚∋゚)

私の担っている業務は普通の配達業務ではない。
宛先人の所在が分からない手紙を届ける、捜索配達業務という。
私に配達を頼んだということは、奥方は既に覚悟を決めているのかもしれない。
……杞憂であるといいが。

     '_
( ゚∋゚) 、

おっと、そうこうしているうちに、山々の間に建つワロス砦が見えてきた。
私は少しずつ減速し、旦那さんの行方を聞きこむためにワロス砦へと降りて行った。

301 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:54:47 ID:wWsi3PJ20

――

ミ,,゚Д゚彡「……こちらです、どうぞ」

(; ゚∋゚)

兵士の一人に旦那さんの行方を尋ねると、私は衛星兵の一人にある部屋へと案内された。
そこは数多くの負傷兵がすし詰めになっている、医療室のような場所だった。
私たちは、寝転がりながらうめき声をあげている兵士たちを踏まないように部屋の奥へと歩みを進める。

ミ,,゚Д゚彡「ギコさん、わかりますか? 俺です、フサです。
      郵便屋さんが来てくれましたよ」

(;;/ Д ) ハァ……ハァ……

(; ゚∋゚)

奥にあった、木箱にシーツをかけただけの簡素なベッドの上に寝ていた人物の様子を見て、私は言葉を失った。
体の所々に巻かれた包帯は血塗れで、そのうちのいくつかの部分は腫れあがっている。
目は焦点があっておらず、虚ろ。ほとんど見えていないだろう。
聞けば、たくさんの刀傷が膿んでしまい、もう手がつけられないのだとか。

もう彼は、長くはないだろう。

(; ゚∋゚)

逃げ出したい気分だった。
死にゆく人を目の前にして平静を保っていられるほど、私の心は強くはない。
ポーチの中にある手紙をその場にそっと置いて、ここから逃げ出したい気分だった。

302 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:55:19 ID:wWsi3PJ20

(; -∋-)

腰のポーチに手を突っ込み、手紙を取り出そうとする私。
だが、その手が奥方から託された手紙に触れたとき、私の頭をある人物の言葉がよぎった。
    
N| "゚'` {"゚`lリ『いいか、手紙を届けるだけなら伝書鳩だってできる。
            オ .ト .コ
         いい郵便屋ってのはな、差出人の“想い”もしっかり届けるもんなのさ』

(; ゚∋゚)

尊敬する先輩配達員、阿部さんからよく聞かされている言葉だった。
その言葉をかみしめ、私は自分に問う。

このままでいいのか、と。

手紙を届けるだけなら、この場に手紙を置いて去るだけでいいだろう。
しかし、今の状態の旦那さんに手紙が読めるとは思えない。
そうすると、この手紙に込められた奥方の想いは伝わらないままだ。

( ゚∋゚)

私は心を決めた。
ポーチから封筒を取り出し、封に指をかける。

( -∋-)

そして心の中で奥方に謝罪をし、目の前の旦那さんに言う。
“私が手紙を読み聞かせます”と。

303 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:56:03 ID:wWsi3PJ20

封筒の中から出てきたのは、綺麗な字が丁寧に書かれたシンプルな便せん。

( ゚∋゚)
. つ□と

私はそれの両端を大事に手で持ち、ゆっくりと読み上げ始める。

手紙の内容は、旦那さんの安否を気遣うものに始まり、
自分は大したことなく元気でやっているという近況報告が続き、
最後には、旦那さんへの“愛しています”の言葉で締められていた。
     ソッ…
( ゚∋゚)つ□

私は手紙を読み終えると、封筒に便せんを戻して、旦那さんの寝ているベッドの上に置こうとした。
そのとき旦那さんが、少しだけうめき声をあげてから、今にも消え入りそうな声で私にこう言った。

(;;/ Д )「……あ、りが、とう」

そして、旦那さんは自分の胸元へと震えながら手を動かし、
そこにあった小さな物をつまんで、私の方へと掲げる。
それは、少しくすんだ銀の十字架のネックレスだった。

(;;/ Д )つ†「こ、れを……妻に……」

(; ゚∋゚)

私は戸惑いながらもそれを旦那さんの首からそっと外し、ネックレスを受け取る。
すると、旦那さんは少しだけ嬉しそうな表情をして、息を引きとった。

304 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:56:33 ID:wWsi3PJ20

――

あれから私は、依頼主である奥方の家へと足を運んだ。
依頼の報告をするためだ。

(; -∋-)

(*゚ -゚)

客間に通され、テーブルにつく私。
口をきつく結び、何かに耐えているかのように正面に座る奥方。
     コト…
(; -∋-)つ†

覚悟を決めた私は、旦那さんから預けられたネックレスをテーブルの上に置き、
今回の仕事の全てを奥方へと打ち明け、頭を下げて謝罪する。

依頼完了の報告が受取人の死亡確認というだけでなく、差出人の手紙を勝手に読み上げると言う暴挙。
怒鳴られて当然だと、そう思っていた。

(* ー )「頭をあげてください」

だが、奥方はそうはせず、私に優しく言葉をかけてくれた。

(*;ー;)「あなたは私の想いを主人に伝えてくれた。
.       感謝こそすれ、どうしてあなたを責めることなどできましょうか。
     クックルさん……あなたにお願いして、本当によかった……」

奥方の目からは、熱い涙があふれ出ていた。

305 名前:( ゚∋゚)しがない空飛ぶ郵便屋さんのようです:2011/10/29(土) 14:57:23 ID:wWsi3PJ20

――

=二三( ゚∋゚)

奥方の家を後にした私は、局へと戻るため西に向かって翼をはためかせていた。
時刻はもう夕方、太陽は既にその身の半分を、遥か彼方の大地に沈めている。

私が今回した行為は、郵便屋としては許されない行為だろう。
だが、奥方も、旦那さんも、その行為に感謝をしてくれた。
私は空を滑りながら自分に問う。

あれでほんとうによかったのだろうか、と。

=二三( ゚∋゚)

きっと、いくら考えても答えは出ないだろう。今は……まだ。

=二三( ゚∋゚)
                      トリビト
私の名前はクックル。しがない鳥人の郵便屋。

=二三( ;∋゚)

今日の夕陽は、何故かいつもよりも目に染みる。

                                                  〜おわり〜

306 名前: ◆I4/F9DIjv2:2011/10/29(土) 14:57:56 ID:wWsi3PJ20
以上、投下終わり
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