- 383 名前:娘のようです。:2011/10/29(土) 18:42:55 ID:yIjvHprI0
十五の娘が、腹に子を入れて帰ってきた。
痩せぎすの娘の、棒のような体の真ん中には、不自然な曲線が浮かび上がっている。
川 ゚ -゚) 勝手な事をしてごめんなさい父さん、でも……
私の娘は、腹を愛おしげに撫で摩りながら、
十五の小娘らしくないような意思の強い目でこちらを見据えている。
私に対する謝罪の言葉はあっても、
その表情からは少しの反省の色も見られない。
まだ子どもだと言うのに、
不憫でならない。
('A`) いい。父さんに理由を話しなさい。
娘は、生まれつき子宮にボタンがついていた。
娘が、生まれたばかりの、ほんの小さい赤ん坊で、まだ皮膚の薄い時、
新生児室から、透けて見える娘の可愛らしい内臓を妻と一緒に眺めていた。
先にそれに気付いたのは、妻だった。
すわ病気でないかと不安になり、すぐに看護士を呼んだ。
大丈夫です今からご説明しようと思っていたところです、
時折こんなことがあるんです大丈夫何の心配もいりません。
- 384 名前:娘のようです。:2011/10/29(土) 18:44:22 ID:yIjvHprI0
そうして、妻との相談の末、娘の腹に細い銀のファスナーをつけることとなった。
いつか、子宮のボタンをはずして、何かを匿いたくなった時に、必ず必要になるだろうと。
それが、今なのだろう。
川 ゚ -゚) 学校の帰りに、会ったんだ。
泣いてた。
体中痣だらけで、顔も青く腫れてて、
聞いたら、言う事聞かないと、殴られるんだって、
母親が、ゴルフクラブで殴るんだって、
('A`) そうか
川 ゚ -゚) いくら背中をさすっても、泣きやまないんだ
こわいこわいって、うちに帰りたくないって
だから……
('A`) わかった。
好きになさい。
転ぶんじゃないぞ。
川 ゚ -゚) ごめんなさいお父さん。
娘はそれから、学校を休んで、一日中腹を撫でて過ごすようになった。
雑誌を開きながら、テレビを眺めながら、音楽を聞きながら、
いつだって、庇うようにその腹には左手が添えられていた。
そうして、それが4日ほど続いた夜、
娘は、その子を出してやる事にしたらしい。
- 385 名前:娘のようです。:2011/10/29(土) 18:45:23 ID:yIjvHprI0
ソファにゆったりと座った娘が、寝巻きの上着をはだけて、銀のファスナーに手をかける。
ゆっくりと腹を開けると、今にもボタンが千切れそうなほどに膨らんだ、娘の子宮が見えた。
(;'A`) 大丈夫か
そのあまりの痛々しさに、思わず声をかけると、娘は落ち着いた様子でなんでもないよ、と答えた。
川 ゚ -゚) 良かった。もう泣いてないみたい。
娘が丁寧に子宮のボタンを外す。
そうして出てきたのは、無地のシャツにジーンズを着た、娘よりも5つ6つ年上だろうか、
もう青年と呼んでも差し支えないような、大学生風の男だった。
( ∀ ) ごめんね、重かったろう。
男は、ソファに座り子宮のボタンを締めている娘に、跪くようにへたりこんだまま、言った。
川 ゚ -゚) 平気だよ。落ち着いた?
( ∀ ) うん。有難う。
生まれてから今まで、こんなに、安心して眠った事はなかった。
川 ゚ -゚) 良かった。もうこわくない?
青年は、その言葉に首を振った。
( ∀ ) いや、こわい。こわいよ。
いくら、慈しんでもらっても、だめだ。
ぼくは、このままだときっと、いつか、母を殺してしまう。
- 386 名前:娘のようです。:2011/10/29(土) 18:46:46 ID:yIjvHprI0
娘は、その言葉にショックを受けたようだった。
川 ゚ -゚) そっか……。
( ∀ ) 君の腹の中で、ずうっと、考えてた。
こんなぼくにやさしくしてくれる、君はかみさまじゃないかって。
それで、生まれ直ったら、せかいの何もかもがちがっていて、
ぼくの、うらみも、にくしみも、全部なくなってるんじゃないかって。
川 ゚ -゚) ……。
( ∀ ) だめだ。だめだね。ぼくは……。
川 ゚ -゚) ごめん、ね
娘がその言葉を吐き出すと、青年はパッと顔をあげて、
先ほどの様子からは想像も出来ないような声を張り上げた。
( ・∀・) それは駄目だ!
娘の、大声に驚いて見開かれた目から、涙がこぼれはじめる。
( ・∀・) 君に謝れたら、ぼくは、本当に、このまま駄目になってしまう……。
今、やっと、わかった。ぼくは、ぼくは……。
口にするのも恐ろしいのだろうか、
青年は、ちいさいちいさい声で、言った。
( ・∀・) どんなに母になぐられたって、おどされたって、家を、でなければならないんだ……。
- 387 名前:娘のようです。:2011/10/29(土) 18:47:44 ID:yIjvHprI0
まだ痣の残る全身を使って、青年は息をしていた。
その、荒い息遣いが、私には彼の産声のように聞こえていた。
('A`) そうなさい。それが一番だと思う。
今まで黙って見守っていた私がそう言うと、青年はこちらを向き直った。
そうして息を整えながら、ゆっくりと年相応の青年に成長していく。
すっかり、大人びた顔つきになった彼は、床に座り直すと、私に頭を下げた。
( ・∀・) 無断で、大切なお嬢さんの身体をお借りして、申し訳ありませんでした。
わたくしには、お詫びのしようも御座いません。
どんな形でも、責任をとるつもりでおります。
川 ゚ -゚) お父さん!
娘が、青年をかばうように声をあげた。
('A`) 顔をお上げになって下さい。
娘のお腹にファスナーをつけることを決めたのは、私です。
これが娘に与えられた役割なんです。
青年は、再び深々と頭を下げた。
十五の娘が、腹に子を入れて帰ってきた。
お前はまだ子どもだから、そんなことをしなくてもいいんだよと、
もう言えなくなってしまったことが、酷く寂しく感じられた。
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