- 2 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:46:59
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手塚漫画に出てくる未来都市を具現化したような、この都会には、事件が決して絶えることはない。
日本の警察は優秀だと言うが、それでも犯罪が撲滅されない理由は、警察が劣っているからではない。
ただ、人の心に自尊心が宿る限り、皆が皆、犯罪者の素質が備わっているのだ。
それは、警視総監でも、最高裁裁判長でも、総理大臣でも例外はない。
鳥山漫画に出てくる少年悟空などの例外はあるが、それは漫画やアニメの世界でも適用される。
どこの世界にも、必ず人の心に悪は宿るのだ。
犯罪者かそうでないかの違いは、理性が強いか弱いかの違いである。
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- 3 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:48:10
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ここ、大阪でも、大小問わず事件が発生するため、警官が忙しなく動いている。
そんな都会の片隅に、そんな喧騒から解き放たれ、閑寂とした建物があった。
そこに、ひとり、軟弱そうな男が立ち入ったところから、歯車は廻りはじめる。
( ´∀`)「ほう、ストーカー被害を」
( ><)「そうなんです」
( ´∀`)「大変でしょうね」
( ><)「え、あの僕じゃないですよ。僕の彼女です」
( ´∀`)「えっ」
飴色のガラステーブルを挟み、二人の男が向き合っていた。
初老の男は、向かいの男の話を聞いていた。
さて、ここがどういう場所なのか、おおかた今の会話の内容でつかめるだろう。
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- 4 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:49:31
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( ><)「探偵事務所開くくらいなんですから、解決できますよね?」
( ´∀`)「もちろんですよ」
探偵事務所を営む老人は、笑った。
一方で、疑り深い視線を送る依頼者、稚内は、彼の笑顔が信じられなかった。
少しして、裏のほうからぱたぱたと走ってくる足音が聞こえた。
从'ー'从「粗茶ですが」
( ><)「どうもです」
( ><)「(……ほんとうに不味い)」
( ´∀`)「しかし、災難ですなあ」
( ><)「ほんとうですよ」
と言って、稚内は出された茶をすすった。
前屈みになり話す老人の顔は、すごく晴れやかだった。
ひさしぶりの依頼ということで、たいへん喜んでいるのだ。
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- 5 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:50:39
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しかしこの老人、ただの探偵ではない。
彼は、元刑事であり、四十にして刑事を辞職後、ここ大阪にて探偵事務所を開いた。
警察とは別の方面から事件を解決しよう、と考えたと聞く。
元刑事の探偵事務所というだけで、瞬く間に評判になった。
あくまで評判になっただけで、依頼人は一人として来たことはなかったが、評判だった。
( ><)「そうそう、おじさんのお名前聞かせてほしいんです」
( ´∀`)「私ですか?」
老人はきりっとして、言った。
( ´∀`)「昭和の名探偵、モナーロック・モナーズですよ!」
(*><)「凄い! なんて頼もしい名前なんだ」
从'ー'从「本名、佐々木一徹ですけどね」
( ><)「え」
( ´∀`)「あ、ばか、言うな」
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- 6 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:51:57
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× ( ´∀`)昭和の名探偵「モナーロック・モナーズ」のようです
○ ( ´∀`)昭和の迷探偵「佐々木一徹」のようです
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- 7 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:55:02
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( ><)「なんか興醒め」
从'ー'从「私は、ワターロック・ナーベズです!」
( ´∀`)「ぱくんな、おい!」
( ><)「(……帰りたい)」
稚内の視線に気づき、佐々木はすぐに補足説明をした。
あくまで士気をあげるための方針だよと言い、帰ろうとする稚内を宥めた。
稚内自身、恋人がストーカー被害に遭っているため、それさえ解決されれば
あとはどうでもいいのだから、仕方なくではあるが、立ち止まった。
( ´∀`)「それに、私の仕事はカンペキですよ。元刑事の経験を生かして、
素行調査から張り込みまで、カンペキにこなしてみせます!」
( ><)「元刑事なんですか!?」
( ´∀`)「ええ。四十まで刑事を勤めたのち、探偵業に転職したのです」
( ´∀`)「あなたのような、個人的なトラブルに困る人を、助けるためにね……」
(*><)「なんて、かっこいいんだ!」
从'ー'从「元刑事と言っても、ストーカー疑惑で懲戒免職、
やむなく探偵になっただけですけどね」
( ><)「え」
( ´∀`)「それは言うな!」
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- 8 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:57:29
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( ><)「あの……」
( ´∀`)「でも、ほら、あくまで疑惑ですよ!?
私は、前科はありません! 誓います!」
从'ー'从「確かに、その後の捜査でストーカーの事実が発覚され刑事を辞めて
一週間後に留置所行ったけど、示談金を支払い土下座しまくって
無罪放免になったから結局前科はないんだよね叔父さん!」
( ´∀`)「ええい、しゃべんな!」
( ><)「思いっきり前科あるじゃん……」
( ´∀`)「ほら、言い換えればですよ?
ストーカーする側の経験はあるわけですから、それを犯人逮捕に用いることができるのです。
過去の汚点など、なんのその! 仕事を見ていただければ納得できるでしょう!」
( ><)「そ……それもそうですね! あなたに委せ」
从'ー'从「ストーカー以外にも、万引き、食い逃げ、
あと女風呂覗きの前科もあるから、きっと役にたつね!」
( ´∀`)「おい、黙れ!」
从'ー'从「ごめん、痴漢を言い忘れてたよ叔父さん」
( ><)「帰らせてください!」
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- 9 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 18:58:32
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( ´∀`)「待って! 今は反省している身ですぞ!」
( ><)「というと?」
( ´∀`)「それらは全部、私の考えが浅はかな、青二才だった頃の汚点です。
今は、汚れなきイッピキの探偵です!」
( ><)「そうなんですか、お嬢さん?」
訊かれて、少女は「うん」と肯いた。
稚内が納得しかける頃、少女は続けた。
从'ー'从「前科六犯のくせして、未だに執行猶予だけで許されてるんだもんね!」
( ´∀`)「てめえおれになんの恨みがあるんだ!」
.
- 10 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:01:09
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( ><)「あの、帰っていい?」
从'ー'从「どうぞ」
( ´∀`)「どうぞじゃねえよ! あの、これを見てください!」
( ><)「はい?」
稚内が扉に手をかけると同時に、佐々木が呼び止めた。
なにを言われようと帰る気でいたが、見てくれと言われると、つい立ち止まってしまった。
仕方がないから、見るだけ見て帰ろうとした。
もう一度ソファーに座り、佐々木の手に持つ紙袋を見つめた。
从'ー'从「あ、これ、ロンドンに行ったときのお土産」
(*><)「え? いやあ、悪いですよ」
( ´∀`)「依頼料はいりません。ひとまず、私の仕事を見てほしいのです。
その暁には、粗品もプレゼントしましょう。
とにかく、私の仕事を見てほしいのです。お願いします」
(*><)「そこまで言われちゃあ……」
と言い掛けたのを、少女が遮った。
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- 11 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:02:12
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从'ー'从「ロンドン旅行の帰り、伊丹空港で買った赤福餅、まだ残してたんだ!
どうせ腐ってるよ!」
( ><)
( ´∀`)「ばれた」
( ><)
≡( ><)「帰る!!」
稚内は、玄関の傘立てからさしてあった傘を抜いた。
透明なビニル傘と、少し高そうな黒い傘だった。
二本を片手で持ち、扉に手をかけた。
( ;´∀`)「ちちちちちがいます、当時の袋に代わりの粗品を詰めただけですからあ!」
(>< )「じゃあ、失礼しま――」
( ´∀`)「――あなた、ここにくる前に、職場に行ってきたでしょう。しかも、道中でコンビニに寄った」
(><; )「!」
.
- 12 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:04:14
-
稚内は、開きかけた扉を閉めた。
こそこそと室内に入り、ソファーに腰掛けた。
( ;><)「どうしてそれを!」
( ´∀`)「簡単ですよ。その傘を見て、ね……」
( ><)「傘……」
( ´∀`)「確かに雨、降ってますね。窓を強く叩いている。しかし、それで傘を
二本持ち歩くとは、言うまでもないがおかしいですよね。
更に、一本がビニル傘で、片方が高そうな傘だ。
そうなると、見えるのですよ、ストーリイが」
( ´∀`)「昨日、午前中は降って、午後からはやんだ雨。それが解決の鍵です。
あなたは、昨日職場に、傘を差して向かった。
ところが、帰り、それを忘れてしまったのです!
今朝になって、それを思い出した。
だから、職場に取りに向かったが、向かうための傘がない」
( ´∀`)「そこで、コンビニに寄って、傘を買った」
.
- 13 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:05:03
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( ;><)「―――」
稚内は絶句した。
佐々木は、黒いほうの傘を手に取り、言った。
( ´∀`)「どうです? この推理力、現役の刑事でさえ得難いものですぞ」
( ;><)「あの……」
( ´∀`)「なんでしょう?」
稚内は恐る恐る言った。
( ;><)「この傘……間違えて、二本取っちゃっただけです」
( ´∀`)
( ´∀`)「え」
.
- 14 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:06:41
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≡( ><)「さよなら!」
( ´∀`)「あ、ちょ」
稚内は事務所を抜け出した。
今度は止めようとしなかった。
佐々木は、ただ駆けてゆく稚内を見送るだけだった。
从'ー'从「いいの? せっかくの客逃がして」
( ´∀`)「かまわん。彼は、戻ってくる」
从'ー'从「なんで?」
( ´∀`)「彼は、彼女がストーカー被害に遭っていて、非常に困っている。
当然、ストーカーをやっつけたいと思うだろうが、立ち向かうのが自分一人だけでは適いっこない。
私は、そんな孤独な人を助けるために探偵になったんだ」
( ´∀`)「彼も、薄々それに気づいているに違いない。
きっと、帰ってくるんだ。それを、信じなさい」
从;ー;从「叔父さん……言ってることだけかっこいいよぅ」
( ´∀`)「んふ」
.
- 15 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:07:41
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程なくして、ゆっくり、事務所の扉が開かれた。
こっそりと、稚内が顔を見せた。
そして、ゆっくり歩み寄ってきた。
从;ー;从「叔父さん凄い! ほんとうに戻ってきたよぉ!」
( ´∀`)「んふ」
( ;><)「あの……」
( ´∀`)「依頼ですか? 大丈夫で」
( ;><)「傘、返して……」
( ´∀`)
从'ー'从「おい、ジジィ!」
( ´∀`)「んだガキぃ!」
( ><)「醜い争いはやめて!」
.
- 16 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:08:47
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稚内は佐々木の持っていた黒い傘をひったくった。
佐々木は、今度こそ稚内は帰るだろうな、と思った。
せっかくの依頼人を帰すのはかなしいが、それが依頼人の要望なら、拒むわけにはいかなかった。
そんな時だ。
( ><)「……」
( ;´∀`)
( ´∀`)「ん? まだいたのですか?」
( ><)「……」
稚内は、なにか思いつめた表情をしていた。
佐々木がもう一度尋ねようとしたとき、稚内は応えた。
( ><)「依頼、させてください」
( ´∀`)「!」
.
- 17 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:10:09
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( ><)「なんだかんだ言って、ぼくの行動を推理したじゃないですか。
. ほんとうは、凄い探偵なんじゃないかなって思って……」
从'ー'从「そんなぁ。偶然だよ」
( ´∀`)「そうです、私はスゴいのです!」
从'ー'从
( ><)
( ´∀`)
( ´∀`)「……」
( ´∀`)「あの、えっと、すんません」
( ><)「じゃあ、細かな事を言いますね」
( ´∀`)「どうぞ」
.
- 18 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:10:51
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そして、稚内は、自分の恋人が受けているストーカー被害の詳細を話した。
恋人の容姿や職業、最近の動向なども細かく話した。
ひとしきり話し終えて、佐々木は立ち上がった。
( ´∀`)「モナーロック・モナーズ、この事件を見事解決に導いてみせますぞ!」
从'ー'从「行ったれ佐々木一徹!」
( ><)「佐々木一徹さん、期待してますよ!」
( ´∀`)「佐々木一徹はあかんて」
.
- 19 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:11:52
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( ´∀`)「では、行きますか」
(*><)「早速なんですね! お供します!」
从'ー'从「はい叔父さん、かばん」
( ´∀`)「おう」
( ><)「それは?」
( ´∀`)「これですか」
少女が佐々木に手渡した、革の鞄を見て、稚内が訊いた。
すごく重そうで、中にはいろいろ詰まってそうで、気になったのだ。
すると、佐々木は「んふふ」と笑って、説明した。
( ´∀`)「私の探偵七つ道具≠ナす」
(*><)「なんてかっこいいんだ! 教えてください!」
.
- 20 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:12:45
-
( ´∀`)「まず一つ目、金属探知機」
( ><)
( ´∀`)「二つ目、釣り竿」
( ><)
从'ー'从「三つ目は、このコ!」
っ▼・ェ・▼と
( ><)
(>< )
▼・ェ・▼ わん!
(>< )
(>< ) ……。
( ´∀`)「四つ目が……あれ、なんやっけ……」
( ><)
( ><)「鞄のなかがスゴく見たいんですが」
( ´∀`)「いいですよ」
( ><)「(最初から見せろよ!)」
.
- 21 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:13:58
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そういって、佐々木はかばんの蓋を開けた。
はちきれんばかりの鞄を開いた瞬間、中からなにかが飛び散った。
稚内が不審に思い、それらのうちひとつを手に取り、見てみた。
それは、女性用の肌着や下着だった。
( ><)
从'ー'从
( ;´∀`)「わっ、これ探偵七つ道具≠カゃない! ぱんちーや! ぱんちーや!」
( ><)「……ん?」
.
- 22 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:15:56
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衣類が飛散し、ずいぶんと中身がすっきりした鞄の中には、まだなにかがあった。
これはなんだろう、と稚内は思って、ひとつを手にとってみた。
( ><)「オペラグラス?」
从'ー'从「盗聴器もあるよ」
( ><)「ポラロイドカメラだ……」
从'ー'从「写真もあるよ」
( ´∀`)「それはあかん!」
( ><)「どれどれ……」
.
- 23 名前: ◆KUBNWpSKlU:2011/12/26(月) 19:20:29
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中には、遠くから撮ったであろう女性の後ろ姿ばかりが写っていた。
公園だったり、街角だったり、裏道だったりと場面は様々だったが、被写体はどれも一緒だった。
( ´∀`)「そうやねん、これはとある依頼の内容やねん!」
( ><)「………ぼくの彼女」
( ´∀`)
( ´∀`)
( ><)「しかもこのうさぎさんの下着……ぼくが買ってあげた、彼女の下着」
( ´∀`)「げっ」
( ><)
( ;´∀`)「違う、椿なんて女、おれは知らんぞ!」
( ><)「『言い忘れて』ましたが、ぼくの彼女、椿って言うんです」
( ´∀`)「しまった」
( ><)
.
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