(=゚д゚)BulLet!!のようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 21:51:00.41 ID:4WRFigfX0
それは、凍えるように寒い12月24日の夜の事であった。
安アパートの横にある明滅を繰り返す街灯の下に、黒い外套に身を包んだ一人の若い男が立っていた。
男の瞼は深々と降ろされ、呼吸は静かで、そして深かった。
口元から立ち上がる白い湯気は、一定のリズムを刻んで闇に溶けて消える。

両手を外套のポケットに入れ、頬に二本の疵を持つ男は静かに待っていた。
足元に置かれた黒くて大きなギターケースは、あたかも兵器にまで訓練された軍用犬の様に見えた。
鬣の様に短く刈り揃えられ、夜空と同じ色をした髪が、風に靡いた。

(=゚д゚)「……」

男が瞼を開けた。
瞼の下から世界を見たのは、蒼穹色の碧眼だった。
両眼は凪いだ海の様に静かだったが、その奥に宿る炎の強さは煉獄の炎を彷彿とさせた。
腕時計に目を向け、直ぐに正面に目を向け直した。

視線の先にあるのは、明日オープン予定となっている高層ビルアルカトローネ・ビルディング=B
巨大な影は周囲の建物の明かりによって根元から照らし出され、異様な雰囲気を醸し出している。
男の関心は、明らかにその高層ビルに注がれていた。
音も無く、男は足元のギターケースを持ち上げた。

それと同時に、一つの偶然が起こった。

从;'ー'从「……っ、助け、誰か助けて!」

赤いロングドレスに身を包んだ二十代後半の女性が、男の横にあるアパートから飛び出してきた。
派手な化粧を施した顔は哀れな程にひきつり、恐怖の色が滲み出ている。
ドレスの胸元は大きく開けて形の良い胸の谷間が覗き、太股の上の方までスリットが入り、艶めかしい太股が露わになっていた。
手には何も持っておらず、靴は履いていなかった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 21:54:04.75 ID:4WRFigfX0
若い男は黙ってその女性を見たが、興味を失った猫の様に視線を外した。

/ ,' 3「ちっ、待たんか、この女郎!」

女性を追って建物から出て来たのは、髪の薄い中年の男だった。
その男はスーツを着用していたが、ネクタイは締められておらず、ワイシャツは半分ズボンからはみ出し、ズボンのチャックは開いていた。
一瞥だけして、若い男は女性とは反対方向に歩き出した。

从;'ー'从「待って、助けて、お願い!」

(=゚д゚)「……」

声を掛けられたので仕方なく若い男は立ち止り、気だるげに振り返った。
何も言わずに、女性は素早く若い男の後ろに隠れた。

/ ,' 3「その女をこっちに渡せ」

从;'ー'从「お願い、助けて……」

若い男は無言で、背中に隠れている女の首根っこを掴んで前に差し出した。
女は必死に抵抗したが、若い男の腕に込められた力は圧倒的で、抵抗は無意味だった。

(=゚д゚)「理由は?」

初めて、若い男が口を開いて声を発した。
その声は凛としていて、一点の濁りも無かった。
依然として女の首根っこを掴んだままで、女はどうにかその手が離されない事を祈った。

/ ,' 3「ビジネスの問題だよ、さぁ、こっちに渡しな」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 21:56:12.46 ID:4WRFigfX0
从;'ー'从「腕を折るのなんて嫌だって言ったじゃない! この変態オヤジ!」

女性は娼婦で、中年の男はその客と考えて間違いなかった。
トラブルの原因は、客が要求した行為を娼婦が許容しなかったと云う、よくある話の様だ。

(=゚д゚)「交渉は成立していない様に聞こえるが?」

/ ,' 3「手前には関係ないだろうが、失せろ!」

中年の男は、懐に右手を突っ込んだ。
それが意味するところを、若い男は理解している。
懐にあった不自然な膨らみに、若い男は最初から気付いていた。

(=゚д゚)「面倒は嫌いだ」

/ ,' 3「だったら渡せ!」

遂に、中年の男は懐から右手を出した。
右手が掴んで構えたのは、クロームメッキが眩しい、45口径のセミオートマチックピストル。
銃口は娼婦に向けられているが、装填されている弾の種類によっては後ろにいる若い男も重傷を負う事になる。
巻き添えを喰らって怪我をする事程愚かな事はないと、若い男は内心で呟いた。

从;'ー'从「お願い、何でもするから、助けて!」

/ 。゚ 3「さぁ、面倒は嫌いなんだろう? さっさとその売女を渡せ。
言っておくが、俺の後ろにはカーネル・ファミリーが付いてるんだ!」

カーネル・ファミリーと云う単語を聞いた瞬間、若い男は目を細めた。
偶然にも、若い男が興味を注いでいたアルカトローネ・ビルディングを建設したのは、そのカーネル・ファミリーだった。
裏社会の一組織として成長し、今では表社会の事業に手を出して成功を収めている巨大な組織である。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:00:04.67 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「……渋沢は元気か?」

/ ,' 3「え?」

首領の本名を出され、中年の男は一瞬怯んだ。
だから、気付けなかった。
若い男が手に持っていたギターケースを地面に置き、右手を自由にしている事に。

/ ,' 3「渋沢さんを知ってるのか?」

(=゚д゚)「あぁ。 これから奴に新品の鉛弾を届けに行くところだ゙。
あいつもたまには、新品の物が欲しいだろうと思ってな。
いつも人から取った物しか持ってないからな、ささやかな気遣いが無駄にならずに済みそうで何よりだ」

若い男は、途端に饒舌になった。
まるで、楽しい玩具を見つけた肉食獣の様に、その眼が残忍な輝きを放った。
逆に中年の男は、若い男の放った言葉を理解できず、丁度三秒間考えた。

/ 。゚ 3「て、手前!」

(=゚д゚)「先に向こうに行って、奴の椅子でも磨いてな」

言い終わる直前、若い男は娼婦を前に突き飛ばした。

―――娼婦が悲鳴を上げる。
―――中年の男が、照準を若い男に合わせる。

二人の人間が起こした行動は、若い男の手元から銃声が響いた直後に続いたものだった。
銃弾は娼婦の髪を掠め、中年の男の右目から脳に達し、脳髄が後頭部から吹き出した。
仰け反る様に後ろに倒れ、その男が喋る事は二度と無くなった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:03:03.66 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「怪我はないだろ? じゃあな」

銃を懐に収めた若い男は、足元のギターケースを持ち上げてその場を立ち去ろうとした。

从#'ー'从「あ、あんた、私を殺すつもり!?」

(=゚д゚)「殺すつもりはなかったが、殺されても仕方が無い状況だっただろ。
だけどラッキーだったな、死なずに済んで」

从#'ー'从「そうじゃないわよ、人の事を何だと思ってるのよ!
楯? それとも人形? お生憎様、私は人間よ!」

(=゚д゚)「図々しい女だな。 助けてもらったのに、感謝の言葉一つ言えないのか。
楯も人形も、感謝はしないが文句も言わないぞ」

怒りのあまり、娼婦は歯ぎしりした。
若い男の言う事は正論だった。
ぐぅの音も出ない正論であった。

从#'ー'从「あ・り・が・と・う! これでいい? これで満足?」


(=゚д゚)「どういたしまして」


満足そうに男は言い残して、その場を去った。
大都市フェクトの路地裏の闇に、娼婦の罵詈雑言と男の姿が溶けて消えた。

* * *

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:06:15.18 ID:4WRFigfX0
一ヶ月前。
フェクト市の大通りに沿って建つ、三番目に古い歴史を持つアパートに、仲の良い姉弟がいた。
血の繋がりはなかったが、心の繋がりは誰よりも強かった。
姉弟の名は、姉がトソン・ステッチダウン、弟はトラギコ・ステッチダウンと言った。

亜麻色の髪と瑠璃色の目を持つ姉はトソン、黒髪と碧眼の弟はトラギコと呼ばれ、近所でも評判の姉弟であった。
二人の両親が再婚したのは、トソンが5歳、トラギコが3歳の時だ。
トソンの母親は夫を、トラギコの父親は妻を同じ事件で失った。
二人の親を奪ったのは、大型スーパーマーケットでドクオ・ティンバーランドと云う18歳の青年が起こした、銃乱射事件だ。

ドクオは特殊部隊に全身ハチの巣にされるまでの一時間で、50名以上の死者と170名を越す負傷者を出した。
多くの死者と負傷者を出した最大の原因は、機関銃だった。
事件の概要はこうだ。
M2重機関銃を搭載した黒いピックアップトラックでスーパーマーケットに到着したドクオは、弾帯三つ分を店に向けて斉射。

('∀`)「ほら、逃げろよ、叫べよ、死んじまえよぉ!!」

泣き叫んで逃げる子供でさえ、銃弾は容赦なく命を奪った。
目の前で子供を肉塊にされた母親は、本能的に子供に駆けより、撃ち殺された。

('∀`)+「はははぁっ!! 死んじゃったねぇ、死んじゃったよねぇ!
神に祈りなよ!! あっははは!!
愉快! 痛快! 爽快! 快感だ!!」

笑いながら発砲された人差し指程の太さを持つ銃弾は人体を引き千切り、バラバラにした。
続いてドクオは、そのピックアップトラックで店内を爆走、轢殺を繰り返した。
予め用意していた軽機関銃で、店内で息をしている人間を撃ちまくり、虐殺を始めた。
トソンとトラギコの親も、その際に撃ち殺された。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:08:16.27 ID:4WRFigfX0
到着した特殊部隊の狙撃手はドクオが窓際に近付いた一瞬を狙い、一発の銃弾を彼の心臓に撃ち込んだ。
それに続いて、他の隊員が一斉に銃弾を撃ち込み、鉛弾で体重を一キロ増やして虐殺を終わらせたと云う訳だ。
家族を悲惨な事件で失った二つの家族は、一つになる事でその悲しみを和らげた。
事件の被害者同士だったからこそ、彼等は本当の意味で悲しみを分かち合う事が出来た。

母親と父親を失った幼い二人は、失った感情を補い合うかのように、直ぐに親密な関係になった。
風呂を共にし、寝床を共にした。
二人は、いつも一緒だった。

(゚、゚トソン「いいか、トラギコ。 男の子は、強くないと駄目なんだ。
弱い男の子は、いつかヘタレになっちゃうんだ」

(,,゚д゚)「どれぐらい強くなればいいラギ?」

(゚、゚トソン「お姉ちゃんがピンチの時に、直ぐに助けてくれるぐらいでいい。
自分と私を護ってくれたら、それでお姉ちゃんは嬉しいな」

(,,゚д゚)「うん、僕、頑張るラギ!」

(゚ー゚トソン「ふふ、約束だぞ」

小指を絡めて交わした幼少期の約束は、生涯忘れられる事はなかった。
二人は中学校に進学してからも、一週間の内に二回は一緒に風呂に入っていた。

(,,゚д゚)「うぅっ……」

(゚、゚トソン「ほら、どうした?」

(,,゚д゚)「恥ずかしいラギよ、お姉ちゃん……」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:11:05.95 ID:4WRFigfX0
(゚、゚トソン「何を今さら言ってるんだ。 さ、前を向いて」

(,,゚д゚)「ま、前はいいラギ。 自分でやるラギ」

(゚ー゚*トソン「良いではないか、良いではないか!
あっはっはっは!! 愛い奴、愛い奴だ!」

寝床の共有は、高校生になっても変わらなかった。
寒い時は足を絡め合わせ、抱き合った。
ただ、抱き合うだけ。
それが最上の愛情表現であり、最愛の気持ちの表れである事を二人は理解していた。

心を許し合っているからこそ、最も近い距離で共に寝る事が出来るのだ。
体を求め合う必要には迫られなかったのは、互いを信頼し、信用し、愛しているからであった。
トソンに抱かれて、トラギコは最高の安らぎの中で眠る事が出来た。
トソンもまた、トラギコを抱きしめて安心して眠る事が出来ていた。

ある日、二人だけで海に行った時の事である。

(,,゚д゚)「あ、暑いラギ……」

大勢の海水浴客で賑わうビーチに、トラギコとトソンは自転車でやって来ていた。
荷物はトラギコが背負い、自転車の前かごと荷台に乗せ、トソンは自分の荷物以外運んでいなかった。

(゚、゚トソン「大丈夫か?」

(,,゚д゚)「男の子だから、大丈夫ラギ」

(゚、゚トソン「そうか」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:13:04.52 ID:4WRFigfX0
服の下に水着を着ていたので、二人は荷物を砂浜に置くと直ぐに服を脱いだ。
複数の男の眼が、トソンに注がれていることに、トラギコは気付いた。
腹立たしさが込み上げてきたが、折角楽しみに来たのだからと、それを表に出さなかった。

(゚、゚トソン「……っと。
これでよし」

あっという間に服を脱いだトソンを見て、テリーは衝撃のあまり口が閉じなかった。

(゚、゚トソン「どうした?」

傷一つない肌を隠すのは、白いビキニの水着だった。
ほっそりとくびれた腰、豊かな胸。
危うく、卒倒するところだった。

(,,゚д゚)「い、いや、なんでも……」

(゚、゚トソン「おい、鼻血」

Σ(,,゚д゚)「えっ?!」

(゚、゚トソン「ふふ、冗談だ。
そこまで動揺する事はないだろう?
私達は姉弟なんだから」

そう言ったトソンの目に、邪悪な光が灯ったのを、トラギコは確かに見た。
トソンは動揺するトラギコの腕に、まるで恋人の様に腕を絡ませて手を繋いだ。
心臓が爆発し兼ねない勢いで鼓動を刻む。
耳まで真っ赤にしたトラギコを見て、トソンは満足そうに笑った。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:16:04.93 ID:4WRFigfX0
この日以降、トラギコはトソンを一人の女性として見る様になった。
だが、その事は悟られない様に務めて日常を過ごした。
今の関係を壊したくなかったのだ。
この時、トソンの心臓の鼓動も同じぐらい早まっていた事に、トラギコは気付いていなかった。

トラギコは18歳の時に海兵隊に入隊し、狙撃兵として世界中の戦場を駆け巡った。
自分と姉を護る力を身につける為には、必要な経験だった。
トラギコが入隊する旨を家族に伝えた際、両親は本人の意思を尊重すると言ったが、トソンは静かに反対した。

(゚、゚トソン「兵隊なんて止めておけ。 お前の様な腑抜けに務まる訳がない」

(,,゚д゚)「俺はその腑抜けを直したいラギ」

(゚、゚トソン「戦場に腑抜けが行って五体満足で帰って来れると思わないから、私は反対しているんだ。
何に憧れているかは知らないが、悪い事は言わん。 腑抜けを直すのならボクサーでもいいだろ」

(,,゚д゚)「ボクシングみたいな格闘技じゃ駄目なんラギ。 いざって時に戦える様な、強い人間になりたいんラギ、俺は」

(゚、゚トソン「人を殺せる事が強い人間の証明だと思っているのか?」

(,,゚д゚)「違うラギ。 そうしなければいけない状況になった時、何も出来ないのが嫌なんラギ。
戦う技術や護る技術を、俺は実戦で学びたいラギ。 家族を護れれば、俺はそれで十分ラギ。
家族を護る為に殺す必要があるのなら、俺は迷わずに家族に危害を加える奴を殺せるようになりたいラギ。
そうじゃなきゃ、何かあった時に誰も護れないラギ」

( ー トソン「……く、くっくく。 それが理由か……そうか、そう云う理由だったのか」

くつくつと笑い、トソンはトラギコの頭に手を乗せた。

(゚、゚トソン「ならば、二つだけ約束をしろ。 そうしたら、私は何も文句を言わない」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:18:23.35 ID:4WRFigfX0
(,,゚д゚)「二つ?」

(゚、゚トソン「一つ目は、戦争に無関係な人間を傷付けるな、そして傷付けさせるな。
味方がそうしようとしていたら、お前が止めさせろ。 それも強さだ。 ただし、ちゃんと見極めてから判断を下せ」

声のトーンを落として、トソンは真面目な顔で言い足した。

(゚、゚トソン「二つ目は、五体満足で生きて帰って来い。 いいな、無理はするなよ」

頷いたトラギコの頭を、トソンはぐしゃりと撫でつけた。
翌週、トラギコは海兵隊に入隊し、才能を見出した上官の推薦によって海兵隊第一師団第七連隊司令部中隊の偵察・狙撃小隊に配属された。
入隊後初の任務は60年以上内戦が続く中東の無政府国家での治安維持で、現地入りから三日と経たずに駐屯基地が襲撃され、報復攻撃の時に初めて作戦に参加した。
作戦の初日で14人の敵兵を殺し、トラギコは自分が兵士となった事を自覚した。

狙撃の対象は民兵の時もあれば、敵軍の将軍の時もあった。
女子供も撃ったが、それは、彼等が手に武器を持っていた時に限られた。
味方が無関係な民間人に対する暴力行為に及んだ際は、例え上官であってもトラギコは止めさせた。
その後も世界各地の戦場を転々とし、狙撃の腕は歴代の狙撃兵の中でも最高の物であると称賛された。


―――紛争の絶えない某国にて。

ξ゚听)ξ「で、トラギコ。 貴方、この後どうするつもりなの?」

観測用の望遠鏡を覗き込みながら観測手のツン・ディーケイドがそんな事を呟いたのは、照準器の向こうに54匹の羊が見える穏やかな昼下がりの事だった。
首の辺りまで伸び、そこで外に向けて跳ねた赤い髪。
目尻はやや吊り上がり、灰色の瞳は輝きを失う事を知らない宝石の様に美しく、夜の海の様に優しげだった。
押し殺されたハスキーな声は、伏せて照準器を覗きこんでいるトラギコにしか聞こえない。

仮に周りに聞こえるぐらいの声量だったとしても、山の中腹、鬱蒼と茂る木々の間に設けた偽装掩蔽壕にはトラギコとツンの二人しかいないのだが。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:21:40.03 ID:4WRFigfX0

(=゚д゚)「この後って?」

目にかかったギリースーツの草を退かしながら、トラギコが聞き返す。
ビルトングを噛み千切り、ツンが続ける。

ξ゚听)ξ「将来の話よ。 貴方、このまま軍人になる訳じゃないんでしょ?
私はこの任務が終わったらさっさと帰って、大学にでも行こうかしら。
貴方もフェクトに住んでるんだから、私と一緒に行かない? そうしたら、私一人だけ浮かないで済むから」

ツンは手に持っていたビルトングをトラギコに渡し、トラギコは一口噛み千切って、ビルトングを返した。

(=゚д゚)「ありがたいお誘いだけど、俺は職でも探すよ。 学校は苦手なんだ。
だけどその前に、この任務を終わらせて生きて帰るのが先だ。
それに、五日も干し肉だと流石に飽きてくる。 基地に帰ったらまずはシャワーを浴びて、冷たいビールを一杯飲もう」

ξ゚听)ξ「そうね、それがいいわ。 そう云えば貴方、向こうに恋人がいるんでしょう?
結婚とかは考えていないの?」

(=゚д゚)「恋人?」

ξ゚听)ξ「あら? 懐に写真が入ってるじゃない。
あの人が恋人でしょ、亜麻色の髪の綺麗な人よ」

(=゚д゚)「あぁ、あれは姉さんだよ。 恋人なんて、産まれてから一度も出来た事はない」


ξ゚听)ξ「へぇ、意外な話ね。 ねぇ、トラギコ……
……っ、三時の方角」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:24:17.00 ID:4WRFigfX0
陽気な雰囲気は跡形もなく消え去り、二人の間に、極限の緊張状態が訪れた。
光学照準器の向こうに羊と羊飼い以外の新たな存在が出現しているのを見咎め、トラギコは視線の先に意識を集中させた。
武装車両を先頭に、五台の車が列を成して砂埃を巻き上げながら整備されていない道路を走っているのが見える。
二人が五日間ここで待ち伏せていたのは、二台の武装車両に挟まれた一台の高級車に乗っている男を捕獲する為。

車の速度は時速70キロ程。
距離は約1000メートル。

ξ゚听)ξ「乗ってると思う?」

ツンが早口で尋ねる。
チャンスはそう何度も訪れない事を、二人は知っていた。
仕損じれば、次のチャンスは数年後と云う事もあり得る。
民族浄化を掲げる武装集団に武器を売る武器商人、標的のモララー・デモンと云う男は、非常に用心深いのだ。

あの一行を狙撃して、モララーが乗っていなかった場合、余計な警戒心を植え付けてしまう。
しかし、今回の情報は信憑性が高いらしい。

(=゚д゚)「撃てば分かる」

ξ゚听)ξ「一台目、前輪。 西からの風、プラス2度。 いつでもいいわ」

大口径のボルトアクションライフル、チェイ・タックM200のコッキングレバーを引いて初弾を装填し、トラギコは狙点を先頭車両のタイヤに合わせた。
銃爪を引くと、大砲の様な巨大な銃声が響き、遅れて照準器の先にあったタイヤが軸ごと吹き飛んだ。
前輪を一つ失った車が横転して、二台目、三台目と続いて全車が急停車する。
武装車両から黒服の男達が姿を現し、銃声から方角に見当を付けて適当に撃って来たが、弾は当たらない。

素早い手つきで装填作業を行い、狙点をずらす。

ξ゚听)ξ「三台目、運転手。 撃って」

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:27:31.63 ID:4WRFigfX0
言われる前に銃爪は引き絞られ、銃弾は防弾ガラスの向こうにあった運転手の頭を肉塊に変えた。
標的が他の車に逃げる前に、トラギコは後続の二台のエンジンを撃った。
慌てて車外に飛び出した運転手を撃ち、無線機を片手に何かを喋っている男の頭を無線機ごと破壊した。
車に搭載していたのだろう、軽機関銃を持ち出した男に狙いを移し、軽機関銃を貫通させて男の内臓をズタズタにした。

弾倉を交換し、次の指示を待つ。

ξ;゚听)ξ「糞っ! ジャベリンミサイルを持った奴が二台目の後ろに隠れた!」

(=゚д゚)「慌てるな。 ただのデカイ花火だ」

分離した照準器が物陰に引っ込められ、後は発射すれば上空150メートルからミサイルが降ってくる。
発射される前に、トラギコは隠れている位置を考えるのではなく、車のガソリンタンクの位置を一瞬の内に確認した。
そして、一発。
銃弾はガソリンタンクに穴を開け、飛び散った火花が引火し、派手な爆発を引き起こした。

車の影に隠れていた人間も吹き飛び、誘爆したジャベリンミサイルによって数人が巻き添えを食らった。

ξ゚听)ξ「いいわ。 三台目のエンジンも壊しておいて」

(=゚д゚)「惜しいな、イイ車なのに」

そう言いつつも放たれた銃弾によってエンジンは破壊された。

ξ゚听)ξ「……後六分で捕獲隊が来るらしいわ。 何か注文はあるかしら?」

(=゚д゚)「キンキンに冷えたビールだ。 ツマミはあると言っておいてくれ」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:30:17.94 ID:4WRFigfX0
車は全てエンジンを破壊された為、敵は逃げる事を許されなかった。
銃を持っている敵兵を淡々と撃ち殺し、気が付けば、黒服の男達は全員血溜に沈んでいた。
三台目の高級車から、一人の中年男性がゆっくりと両手を頭の後ろに組んで出て来た。
額に負った深い一筋の切創、ワニの様な大きな目。

何日もずっと見て来た顔写真と一致する。

(=゚д゚)「モララーだ。 あの野郎、相当怯えてるな」

ξ゚听)ξ「……ねぇ、トラギコ」

(=゚д゚)「ん?」

照準器から顔を外さず、トラギコは答える。
ツンもまた、望遠鏡を覗き込んでいた。

ξ゚听)ξ「貴方、どうして軍人になったの?」

(=゚д゚)「強くなりたかったからだよ」

ξ゚听)ξ「ジョン・ランボーみたいに?」

(=゚д゚)「そうじゃない。 正義の味方やヒーローを気取る野郎は、軍にはいらない。 そうだろう?
ただ、俺は大切な人と自分を護る力が欲しかったんだよ。
護る為に戦って、必要なら躊躇わずに危害を加えてくる奴を殺せるぐらいに」

ξ゚ー゚)ξ「……はっ、呆れた。 でも、貴方らしいわね。
貴方、自覚がないんでしょうけど、結構単純よ。 まぁ、そこがいいんだけど」

(=゚д゚)「よく言われるよ」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:33:34.89 ID:4WRFigfX0
ξ゚听)ξ「ねぇ、トラギコ。 その大切な人って、どんな人なの」

(=゚д゚)「家族や友達だな。 勿論、お前は相棒だ。 当然、お前の為にも俺は戦うさ」

ξ゚听)ξ「そう……相棒、か」

(=゚д゚)「いつも言ってるけど、俺はお前に感謝してる。
いろんな面で支えてもらって、正直、お前がいなければ俺は生き残れなかったよ」

ξ゚听)ξ「大げさね」

顔を見なかったが、トラギコはツンが照れ笑いを浮かべているのだろうと思った。
ようやく到着した捕獲部隊がモララーを捉え、車に押し込んでその場を後にした。
トラギコとツンは同時に顔を上げ、撤収の準備を始めた。
掩蔽壕の近くに掘った簡易トイレを埋め、壕を潰して痕跡を消した。

(=゚д゚)「よし、帰ろう」

ξ゚听)ξ「えぇ、そうね」

その時である。
鳥が鳴き声を上げて背後の森から飛び立ち、二人は顔を見合わせ、同時に伏せた。
トラギコはライフルを袈裟がけに背負い、ツンからサプレッサーの装着されたH&K社のMP5Kと予備弾倉を二つ受け取った。
彼女は、肩に架けているスコープ付きのM14をこの状況では使わないとの判断を下した。

アイコンタクトとハンドサインで、二人は音も無く会話を始めた。

(=゚д゚)(敵か?)

ξ゚听)ξ(きっとね)

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:36:20.98 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)(数は?)

ξ゚听)ξ(不明。 予定通りの退路は使えないわ。 他のルートを使いましょう)

(=゚д゚)(遠回りのルートで行こう)

ξ゚听)ξ(了解)

中腰でMP5Kを構えたツンが前に歩み出て、その後にトラギコが続く。
二人は山を上る道を選んだ。
先程、二人は鳥が侵入者を告げた音を聞いた。
友軍のいるキャンプまでは、20キロ以上も距離が離れている。

山を下っても、既に待ち伏せされている可能性は非常に高い。
ならば、15キロ程遠回りになるが気付かれない様に山沿いに移動し、山頂でもう一度友軍に通信を試みた方が賢明だ。
ツンの足取りは慎重だったが、早かった。
木々の間を巧みに移動し、トラギコは二人分の足跡を木の葉を使って隠蔽した。

途中の三か所で、トラギコはセンサーで起爆する指向性対人地雷クレイモアを、二人が進んだ道とは逆の場所に仕掛けた。
地図とコンパスを頼りに山道を進み、その日の夜、二人が交代で仮眠をしていると。
山の奥で、爆発音が響いた。
クレイモアに何者かが引っ掛かったのだ。

爆発はその夜だけで三回あり、敵が迫っているのが分かった。
しかし、逆方向に進んでいる。
友軍に連絡したが、救援は断られた。

ξ;゚听)ξ「糞っ、何で、何で救援が来ないのよ……」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:40:05.17 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「二人の為に部隊を動かすわけにはいかないんだろうよ。
リスクが高すぎる。 ヘリが山で落とされたら、それこそ問題だ。
俺達は相当入りこんじまってる。
なぁに、ツン、俺達なら大丈夫だよ」

ξ゚听)ξ「……頼りにしてるわよ」

それから二日間、二人は数枚のビルトングを分け合い、水筒の水を口にしながら、山道を歩き続けた。
二日目の夜に、遂に追手が追いついた。
追手の第一陣は、軍用犬が二頭。
月明かりの下、殿を務めていたトラギコは野生の殺気を感じ取り、振り返った。


黒い体毛に覆われ、赤い宝石の様な目が二人を見ている。
ツンの肩を叩いて状況を説明する間にも、二頭は二人との距離をじりじりと縮めていた。
軍用犬は低い唸り声を発して、姿勢を低くした。
いつでも襲いかからんばかりの気配に、だがしかし、二人は臆さなかった。

銃を構え、二人は同時に銃爪を引き、二頭は同時に死んだ。
撃つ直前に二頭が吠えた事により、事態は大きく変化した。

(=゚д゚)「マズイ…… ツン、急ごう」

ξ゚听)ξ「えぇ、死骸はどうする?」

(=゚д゚)「こうなったら、放っておくしかない。
誤魔化しても時間稼ぎになるかどうか…… ちょっと待ってろ」

トラギコは撃ち殺した犬の下に、手榴弾を利用した罠を仕掛けた。
死骸を動かすとレバーが外れ、爆発する仕組みだ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:43:29.91 ID:4WRFigfX0


(=゚д゚)「よし、行こう」

二人は再び移動を開始した。
山を下った先、約5キロの地点に基地がある。
方角は完璧で、ペース配分も完璧だった。
だが、敵はこの山を知りつくした現地の兵隊だ。

二人は優秀だったが、その上を行く優秀さで、二人に追いついた。
夜明け前に追いついた兵は、二人の姿を視認するや否や無警告で発砲した。
銃弾がトラギコの耳元を掠め、木に穴を開け、灌木を砕いた。
姿勢を低く、二人は木を遮蔽物にして応戦した。

ただし、二人は二、三発しか撃ち返さず、相手はその数十倍撃って来た。
スモークグレネードを投げ、煙幕を張って姿を隠し、二人は走った。
雨の様に激しい銃弾が背後から撃たれるも、駆ける速さは変わらなかった。
下り道に差し掛かった時、ツンが小さな悲鳴を上げて転倒した。

(=゚д゚)「どうした?!」

ξ;゚听)ξ「先に行って!」

(=゚д゚)「挫いたのか?」

ξ;゚听)ξ「いいえ、右足を撃たれた。
弾は貫通してるけど、もう走れない。 ほら、少しぐらいなら時間を稼いであげるから」

(;=゚д゚)「ちっ、ランボーは嫌いだって言っただろ」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:46:45.26 ID:4WRFigfX0
周囲を素早く見渡し、元来た道に都合の良い木を見つけ、ツンを担いでそこに移動させた。
その場所は小高い丘の上にあり、大きく成長した木の根が天然の仕切りを作っていた。
根の間にツンを座らせ、右足の銃創を消毒し、包帯で押さえて止血した。
ツンの装備からクレイモアを取り出し、自分のバックパックにしまった。

(=゚д゚)「弾は?」

ξ゚听)ξ「バックパックにあるわ」

(=゚д゚)「そいつをくれ。 援護を頼めるか?」

ξ゚听)ξ「どうするつもり?」

(=゚д゚)「俺のチェイ・タックを使うんだ。 弾倉が後五つある。
流石に、100人はいないとは思うけど、弾はあればあるだけいい。 お前の援護があればもっといい」

袈裟がけにしていたライフルを下ろし、素早くサプレッサーとサーマルスコープを装着して手渡し、弾倉も全て預けた。
サーマルスコープを装着する事によって、夜間でも狙撃を行う事が出来る。
二人が共通して使用しているベレッタM84の弾倉を一つ渡し、代わりにトラギコは、MP5Kの弾倉をバックパックごと受け取った。
トラギコは自分のMP5Kからサプレッサーを外した。

ξ゚听)ξ「……馬鹿」

着ていたギリースーツをツンに預けると、ツンがそんな事を呟いた。

(=゚д゚)「お前も馬鹿だよ、ツン。 さぁ、始めよう」

ξ゚听)ξ「無事に帰ったら、一緒にビールを飲みましょう」

(=゚д゚)「俺が驕るよ。 約束だ」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:49:18.62 ID:4WRFigfX0
無言で頷き合い、トラギコは振り返らずに来た道を戻った。
クレイモアを設置しながら、まだ暗い森の中を静かに二分程移動して、トラギコは追手の先陣を発見した。
生い茂る木が狙いの邪魔をして、直ぐに撃つ事は出来なかった。
発見から二秒後、トラギコは発砲した。

野戦服を着ていた男の首に穴が開き、断末魔の叫びさえ上げられずに男は崩折れた。
現地語で叫び合いながら、追跡部隊は一気に散開する。
トラギコが次の敵を撃ち殺した時、司令官らしき男の頭が下顎を残して吹き飛んだ。
銃弾は遥か後方から飛んで来たのだと、トラギコは分かっていた。

散開した部隊の内、最も手練の動きをしている人間を集中して撃った。
瞬く間に三人の男が倒れ伏し、怒号が飛び交う。
指示を出している人間は真っ先にツンによって狙撃され、体の一部を失って絶命した。
足元の土を銃弾が耕し、森に銃声が響き渡る。

こうなると、どこから銃声が聞こえているのかが分からなくなり、慣れていない者はノイローゼを起こす。
弾倉を交換して、トラギコは敵の死体を目掛けて走った。
死体から武器を奪い、その武器で近くにいた敵を殺した。
殺意は全てトラギコに向けられ、ツンの存在は敵に察知されていない様子だった。

左腕に突き刺すような痛みが走り、持っていた武器を取り落としてしまった。
幸いにもそれは敵から奪った武器だったので、失っても構わない物だった。
痛みを殺し、トラギコは足元の死体を楯にして敵を撃った。
死体を貫通した銃弾が腹部を掠め、トラギコはその場に膝をついた。

一発の銃弾がMP5Kを破壊した。
銃把だけを残して砕け散ったMP5Kを捨て、トラギコは腰のM84をホルスターから抜き、構えた。
古い型の銃だが、トラギコとツンは小型で扱いやすいのでこの銃が気に入っていた。
生け捕りにしろとの命令が出ているのだろうか、敵の銃声は次第に数を減らした。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:52:43.36 ID:4WRFigfX0
近付いて来る敵は、トラギコの腕や足を狙って撃ってきた。
左膝の肉が穿たれ、倒れた。
倒れながらも、トラギコは撃った。
ツンの援護によって、腕を狙っていた敵の心臓が消し飛んだ。

しかし、そのせいでツンの存在に気付いた男が、遠回りでトラギコの後ろに向かった。

(=゚д゚)「行かせるかよ!」

目の前の敵ではなく、後ろに向かって走る敵を一人撃ち殺した。
その隙に、トラギコに接近した敵は手にしたAKの銃床でトラギコの顔を殴った。
腹を蹴られ、顔を踏まれた。
一人だけその場に残し、辛うじて生き残った四人の兵士が、ツンのいる方向に向かった。

(;;・∀・;;)「お前、しない、殺す。 話、する、しない、殺す」

血走った目と、怒りに燃える浅黒い顔は、トラギコと殆ど同年代の青年の物だった。

(=゚д゚)「悪いが……」

敵意を剥き出しにして、トラギコは断言した。

(=゚д゚)「断る」

もう一度銃床が振り下ろされるかと思われた瞬間、仕掛けていたクレイモアが爆発した。
と、同時に。
目の前の青年の頭の一部が無くなり、遅れて響いた銃声の後、仰向けに倒れた。
M14を使い始めたと云う事は、遂にM200の弾が切れたと云う事を意味している。

(;=゚д゚)(まだ、ツンは援護を続けてくれてる)

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:55:36.09 ID:4WRFigfX0
彼女は自分に脅威が迫っていても尚、トラギコに手を貸している。
激痛に耐えて立ち上がり、トラギコは転げるようにして走りだした。
クレイモアがもう一つ爆発して、敵の悲鳴が聞こえて来た。
残るクレイモアは一つだけ。

ツンには拳銃があるが、移動が出来ない。
急がなければ、ツンが危ない。
その一心で、トラギコは負傷した足で走った。
再びクレイモアが爆発し、三人を仕留めた事が判明した。

追手は後一人だけ。
血を失いすぎて、トラギコの視界が霞み、体に力が入らなくなった。
肌寒くなり、思う様に足が動かなくなる。
遂には倒れてしまった。

止血をして、木を頼りに立ち上がる。
後少しで、ツンの元に辿り着ける。
ようやく到着した時、そこには体中を血だらけにした一つの死体があった。

(;=゚д゚)「……怪我は?」

ツンは硝煙の上るMP5Kを持っていた。
銃声がしなかったのは、その銃口にサプレッサーが装着されているからだ。
どうやら、無事らしい。

ξ;゚听)ξ「見ての通り、無事よ。 ……貴方、撃たれたの?」

(=゚д゚)「ファンが多すぎてね。 見かけほど酷くはない。
一先ず、一陣は凌いだ。
まだ追手が来るかもしれない。 ツン、行こう」

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 22:58:46.50 ID:4WRFigfX0
ξ;゚听)ξ「二人とも怪我してるのよ、それも、足に」

自嘲気味に笑ったツンであったが、試す様な視線がトラギコに向けられていた。
彼はその視線に気付いており、答える事は既に決まっていた。

(=゚д゚)「だけど、片足だけだ。 二人揃えば二本になって歩けるさ」

差し伸べられたトラギコの手を、ツンは力強く握り返し、ライフルを杖に立ち上がった。

ξ゚听)ξ「薬莢はどうする?」

(=゚д゚)「ここまで撃ったんだ、このままでいい。
本部の馬鹿共を少しは困らせてやる。
基地までの距離は?」

ξ゚听)ξ「7キロってところね。 下り道は2キロ、基地まで5キロ」

(=゚д゚)「余裕だな。 ビルトングでも食べながら行こう。
無線機は使えるか?」

ξ゚听)ξ「えぇ、さっき、迎えの車を頼んでおいたわ。
麓にまでなら来れるって」

(=゚д゚)「上出来だ」

互いに肩を組んで、山を下り始めた。
下る時間は短かったが、足に掛かる負担は上る時よりも大きかった。
その間、二人は無言で互いの体温と存在を感じていた。
視界が開け、山の麓に一台のハンヴィーが停まっているのが見えた。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:01:14.53 ID:4WRFigfX0
ξ゚听)ξ「ところでトラギコ」

(=゚д゚)「ん?」

ξ゚听)ξ「約束、忘れてないわよね?」

(=゚д゚)「あぁ、勿論だ。 ビールを驕るよ。 暫くはゆっくりできそうだ」

ξ゚听)ξ「そうね」

山道を下って来る二人の姿を見咎めた味方の兵が、歓声を上げた。
山の方から、手榴弾が爆発する音が響いた。
追手が犬の死骸を調べたのだ。
だが、もう遅い。

ξ゚听)ξ「一ついいかしら?」

(=゚д゚)「今か?」

ξ゚听)ξ「えぇ、今。 トラギコ、貴方、今好きな人っているの?」

(=゚д゚)「……あぁ、いるさ」

ξ゚听)ξ「その人の事、後悔しない様に、精一杯大切にしてあげなさいよ」

(=゚д゚)「何だ、突然。 頭でも打ったのか?」

ξ゚听)ξ「相棒からのお願いよ。 それと、何か困った事があればまず私に相談する事。
少なくとも貴方よりかは女性の事が分かるから。
勿論、女性関係以外でも貴方よりも察しがいいつもりよ」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:04:16.11 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「そうだな、困った時には相談するよ。 帰ろう、相棒。
冷たいビールで乾杯しよう。 幸い、ビルトングはまだあるぞ」

ハンヴィーで基地に向かう間、ツンはトラギコの肩に寄りかかって眠っていた。
トラギコは輸血パックを高い位置に持って、窓の外の景色を眺めていた。
基地に到着してから二人は直ぐに治療を受け、ベッドの上で氷の様に冷えたビールを飲んだ。
三本目のプルタブを開けた時に、丁度入室してきた内藤・ホライゾン司令官が二人に掛けた最初の言葉は、深い謝罪の言葉だった。

救援チームを送れなかった事、敵の山岳部隊が接近している事を察知できなかった事。
誠意が滲み出る謝罪の言葉が終わり、ホライゾンが退出した後、二人は彼に対する誤解を解いた。
今までは無愛想な人間だと思っていたが、決してそうではなく、感情を表に出すのが苦手なだけだったのだ。
翌月、二人は海軍を除隊し、ホライゾンもその次の週に現役を引退した。

空港に降り立ち、別れの際、二人は固い握手と抱擁を交わした。

(=゚д゚)「また会おう、相棒」

ξ゚听)ξ「えぇ、また会いましょう、相棒」

生死を共にした二人は、それぞれの道を進んだ。
二年ぶりに再開した姉と抱き合い、トラギコは改めて、自分が生きて帰って来た事を自覚した。
怪我の痕は残っていたが、約束通り、五体満足で帰って来れた事がトラギコは嬉しかった。
約束は、守られたのだ。

二年の間に、トソンはまた一段と美しくなった。
トラギコは自分がトソンに惹かれ、家族以上の感情を抱いている事に気付いた。
家族愛ではなく、異性として、トラギコはトソンを愛していたのだ。
想いを伝えようか帰国後から迷い続けたが、トラギコは四日目の夕方、両親が買い物で家を開けている時に決断した。

夕食の下ごしらえをしているトソンに、トラギコは声をかけた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:07:36.19 ID:4WRFigfX0

(=゚д゚)「姉さん」

(゚、゚トソン「ん? なんだ、どうした?
今日の夕飯はグラタンだ」


(=゚д゚)「俺、姉さんの事が好きなんだ」


(゚、゚トソン「私も好きだぞ」

(=゚д゚)「そうじゃなくて、異性として好きなんだよ」

(゚、゚トソン「……頭を負傷したとは聞いていなかったが、大丈夫なのか?」

(=゚д゚)「俺は真剣だよ、姉さん」

(゚、゚トソン「ふむ……」

下ごしらえをしていた手が止まり、トソンがトラギコを見た。
不安そうな表情をしていた。
まるで、何か恐ろしい事を聞いたかのように。

(゚、゚トソン「……本気か?」

(=゚д゚)「ほ、本気だよ」

(゚、゚トソン「私達は、姉弟なんだぞ。 他の人が今の台詞を聞いたら、お前は変人扱いされるぞ。
訂正するなら今の内だ」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:11:20.14 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「俺は変人扱いされてもいい。 昔からの気持ちに嘘を吐くぐらいなら、俺は変人でも構わない」

沈黙が訪れる。
気まずい沈黙の後、トソンの唇が僅かに動いた。

(゚、゚トソン「……る」

一瞬にして、トソンの顔が耳まで赤く染まる。

(=゚д゚)「え?」

消え入りそうなか細い声で、確かにトソンは言った。
確かに、トラギコは返事を聞く事が出来た。

(゚、゚*トソン「私も、お前を愛しているぞ」

文字通りトラギコの胸に飛び込み、トソンは情熱的な口付けをした。
二人の姉弟は抱きしめ合い、暫くそうしていた。

(゚、゚*トソン「帰って来て何を言うかと思えば、お前と云う奴は……」

(=゚д゚)「呆れた?」

(゚、゚*トソン「ふふっ、正直、見直したぞ。
あの臆病者が、よくもまぁここまで大胆になれたものだ」

(=゚д゚)「俺は今でも臆病者だよ。 だけど、肝心な時に逃げない臆病者なんだ」

(゚、゚*トソン「軍の影響か?」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:13:46.15 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「いいや、少しだけ違うよ。 俺の相棒の影響さ」

(゚、゚*トソン「いい相棒を持ったな」

(=゚д゚)「最高の相棒だよ」

今一度、二人は背中に回した腕に力を込め、より体を密着させた。
心臓の鼓動は高鳴り、二人分の鼓動が体を伝わる。


帰国してから七日目の夜、トラギコとトソンは一般的な姉弟の関係を越えた。
一線を越えると云う事に対しては何の罪悪感も無かったし、肉体関係を築くと云う事が早すぎるとも思わなかった。
二人は出逢った時から血の繋がらない家族として暮らしており、一般的な恋人達よりもずっと深い仲にあったのだ。
その日の夜は、二人にとって忘れる事の出来ない夜となった。

トラギコが先にシャワーを浴び、次にトソンがシャワーを浴びた。
シャワーを浴びた後、トラギコは先に明かりを消したトソンの部屋に行き、ベッドの縁に座って待っていた。
まだ髪が濡れているトソンの姿は魅力的で、トラギコは目を丸くして驚いた。
二年間女とは無縁の暮らしをしていたからと言っても、トソンの美しさはトラギコの心を掴んで離さなかった。

バスタオルで体を隠し、緊張の為か、それとも興奮の為か、彼女の頬は上気していた。

(゚、゚*トソン「……いざとなると、恥ずかしい……な」

(;=゚д゚)「お、俺だって……恥ずかしいよ」

トラギコは、頭がクラクラとしてきた。
聞きなれた筈の声は福音の響き。
自分を見つめる瑠璃色の瞳は夜の宝石。
腰まである亜麻色の髪は理想郷の草原の如く。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:16:03.80 ID:4WRFigfX0
白磁器の様にシミ一つ、傷一つない柔らかそうな白い肌。
彫刻の様に整った美しい顔。
石鹸とシャンプーの香りに隠れて漂う、甘い姉の香り。
トソンの全てが、トラギコを狂わせた。


唾を飲み込む音が、いやに大きく聞こえた気がした。


(゚、゚*トソン「……あぅ」

普段は凛々しい姉が、この時ばかりは一人の女性として、トラギコの前にいた。
ベッドの縁に腰かけていたトラギコの傍に、トソンがそっと並んで座った。
タオルを腰に巻いているだけなので、トラギコは何故かそれが唐突に恥ずかしくなり、体の向きを変えた。
そして、タオルの下では彼の一物がこれまでに見た事が無いぐらいに膨張していた。

早くも緊張の汗が噴き出したトラギコの肩に、トソンの胸が押しつけられた。

(゚、゚*トソン「大丈夫か?」

(=゚д゚)「え?」

心配してくれているトソンの声に、トラギコはとりあえず頷いた。
肩から伝わるトソンの鼓動が、自分の心臓と同じぐらい早い事に、直ぐに気付いた。


(゚、゚*トソン「私も……結構、緊張してるんだ。 分かるだろ?」


(=゚д゚)「……うん」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:19:17.25 ID:4WRFigfX0
トクン、トクンとタオル越しに伝わる鼓動は、子供の背中を叩くかのように優しく、トラギコの心を落ち着かせる。
伝わるのは鼓動だけでなく、温もりも同様だった。
じわりと染み出してくる温もりは、あまりにも心地よすぎた。
このまま眠ってしまえば、きっと、明日の昼まで熟睡できるだろう。

しかし今は、トラギコの別の感情の方が勝っていた。
トソンがトラギコの肩に頭を乗せる。
髪はしっとりと濡れていた。
細くて長い、白蛇の様な指がトラギコの胸を這う。

(゚、゚*トソン「……トラギコも、緊張してる、よね」

嬉しそうに、うっとりとした口調で、トソンは爪を立てた。
トラギコの胸は傷だらけで肌は硬く、痛みには耐性があったが、耐性が無くてもそれは痛いとは感じなかった。
それは痛めつける事が目的ではなく、逆に、痛みと快楽の狭間をくすぐる様な行為だった。

(゚、゚トソン「なぁ、怖いか?」

首を横に振り、トラギコは俯いたまま言った。

(=゚д゚)「怖くはない、怖くはないんだ、姉さん。
だけど、その……俺、どうしたらいいのか、分からないんだ」

告解するように、トラギコは続けようとした。

(゚、゚トソン「じゃあ」

軽く指で押されただけで、トラギコはベッドの上に倒れ込んだ。

(゚ー゚*トソン「少しずつ、一緒に頑張ろう」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:22:03.81 ID:4WRFigfX0
返事をしようとしたトラギコの口を、トソンの柔らかい唇が塞いだ。
少女の様なあどけなさを残したトソンの美しい顔を前にして、平常心が保てる男は、恐らくこの世にいないだろう。
最初の口付けは軽く、次第に、互いを求め合う様に唇を何度も重ねた。
どちらからともなく舌を絡ませ、唾液を交換し、口内を舌で弄り合った。

(´、`トソン「んっ、ちゅっ」

湿った音を立てながら二人は激しい口付けを交わし続け、自然と、トソンの体がトラギコの上に折り重ねられた。
頭を優しく撫でながら交わされた口付けは、トラギコから時間感覚を消し去った。
両手をトソンの背に回し、トラギコはお礼とばかりに背中を撫でまわした。
名残惜しげに唇が離され、唾液が糸を引いた。

二人はとろんとした表情を浮かべ、もう一度、唇を重ねた。
トラギコの興奮は、最高潮に達していた。

(゚、゚トソン「……おやおや?」

体を密着させていた影響からか、トラギコの腰に巻いてあったタオルはどこかに行っていた。
トラギコは文字通り一糸纏わぬ姿となっていて、彼の下腹部がギンギンに膨張している事に、トソンは直ぐに気付いた。
極上の肉を前にした肉食獣と同じ欲望を、トラギコは強靭な精神で押さえ込んでいた。

(゚ー゚*トソン「ふふ、それじゃあお姉ちゃんも一肌脱ぐとするか」

しゅるり、と音をさせてトソンの体を覆い隠していたバスタオルがトラギコの体の上に落ちた。
呼吸を忘れるほどに、美しかった。
思わず息をのんだ。


(;=゚д゚)「……っ」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:25:06.38 ID:4WRFigfX0
これまで見たどの絵画よりも、どの美術品よりも、トソンの裸体は美しかった。
小振りな胸の先端は桃の様な淡いピンク色で、突起していた。
トソンの呼吸に合わせて、その胸は上下した。
腹部には筋が一つ、胸骨の辺りにまで伸びている。

ほっそりとした体は、非の打ちどころがないくらいに均衡が取れ、女性としての魅力に溢れていた。
トラギコの腹の上に座り直し、トソンは恥ずかしげに微笑んだ。
無意識の内に、トラギコはトソンの腰に手を伸ばしていた。

(´、`*トソン「くっ……ん」

触れただけなのに、トソンの口から甘い声が洩れる。
指先に伝わる柔らかな肌の感触。
意識しなくても、指が勝手に肌の上を滑る様に移動した。
指は太股の上に乗せられ、昔自分がそうしてもらったように、ゆっくりと撫でる。

(´、`*トソン「あっ、んんっ……」

指を動かす度、トソンの声は熱を帯びた。

(゚、゚*トソン「こらっ。 ちょっと、まっ、待てっ!」

次にトラギコは、上下する胸に手を移した。
先端の突起に触れた瞬間、トソンは体を僅かに震わせた。

( 、 *トソン「んぁっ!」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:28:41.95 ID:4WRFigfX0
馬乗りになられた状態で、トラギコは上体を起こし、薄桃色のそれに吸い付いた。
まるで、赤ん坊の様な姿だった。
トソンは慈母の様にトラギコを胸に抱きしめ、後頭部を撫で、込み上げてくる快楽に口から熱い息が溢れた。
その熱い息はトラギコの耳朶をくすぐった。

(゚、゚*トソン「ふふっ……可愛い奴だ」

互いの存在を肌で感じる内、二人の体に汗が滲み出た。
乳房にジワリと浮かんだ汗をトラギコは舐め、首筋に浮かんだ汗を舐め取った。
トソンはこそばゆそうな、気持ちよさそうな反応を示し、トラギコは項も舐めた。
首の後ろに回された手に力を込められ、ぐい、と引き寄せられた。

やがて、トソンは小さな悲鳴を上げ、体を僅かに痙攣させて軽く絶頂に達した。
荒く息をするトソンを、トラギコはそっとベッドの上に押し倒した。
今度はトラギコが上で、トソンが下になった。
長くて細い脚の間にトラギコが入り、トソンは両足をトラギコの腰に回した。

(゚ー゚*トソン「っ、く、くふふ」

突如、トソンが笑いだした。
何を思って笑ったのか、トラギコも分かった。


(゚、゚*トソン「初めてだな、こんな風にトラギコが私の上に来るなんて」


そう。
いつも、トラギコは護られていた。
どんな時でもトソンの腕の中に護られ、トソンが上で、トラギコは下の関係だった。
それが今、初めて逆転した。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:31:27.77 ID:4WRFigfX0
兵士として戦場を戦い抜き、トラギコは並みの男よりも実力と自信を身につけていた。
腕の下にいるトソンは、トラギコを誇らしげに見上げた。
頬にそっと手を伸ばし、トソンがトラギコの頬を撫でる。

(゚、゚トソン「でも」

撫でていた手を止め、トソンは悪戯っぽく言った。

(゚、゚*トソン「私が、トラギコのお姉ちゃんなのは、変わらないぞ」

トラギコは思わず笑んだ。
例え姉弟の一線を越えたとしても、姉弟と云う関係が消えてなくなる事はない。
いつまでも弟でいられる。
感極まって、トラギコは唇をトソンの唇に重ねた。

熱く、濃厚な口付けをしながら、二人は互いの体を愛撫した。
トラギコがトソンの秘部に手をやると、そこはとろりとした蜜で溢れていた。


(゚、゚*トソン「エッチなお姉ちゃんは嫌いか?」


返事の代わりに、トラギコは自らの一物を秘部に押し当てた。
トラギコの一物は焼き鏝の様に熱く、脈打っていた。

(=゚д゚)「スケベな弟は嫌いかな?」


(゚、゚*トソン「いいや。 それでこそ、私の弟だ」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:34:31.27 ID:4WRFigfX0
ゆっくりと、自らの一物をトソンの中に侵入させる。
体内に侵入してくる弟の存在を、トソンは恍惚とした表情で受け入れた。
しかし、少しずつ痛みを感じ、眉を顰めた。
トラギコはトソンを抱きしめ、トソンもまた、両手をトラギコの背中に回して強く抱きしめた。

徐々に進み、やがてトラギコは、自分の一物が何かを無理やりこじ開けたかのような感触を覚えた。
それと同時に、背中に回された手に力が込められ、二人の体はますます密着した。
背中に爪が食い込む痛みよりも、トラギコは今までに感じた事のない快楽を感じた。
一物を包み込むトソンの肉壁は、吸いつく様に一物の先端を刺激した。

一瞬でも気を抜けば、トラギコは絶えることなくトソンの中に放出してしまう。
今は動く事は出来ず、トソンの喘ぎ声を耳元で聞く他、なす術が無かった。
背中の手から力が抜けて行くのが分かると、トソンがトラギコの耳元で擦れたような、湿っぽい声で囁く。

(゚、゚;トソン「きっ、気にしなくていい。 トラギコ、お前の好きなように動いていいぞ」

腰を前に動かし、可能な限り奥に進んだ。
ヒダは一つ一つが別の意志を持った生き物の様に動き、締め付けた。
身を引き裂くような痛みに耐える為に、トソンは意図せず太股に力を込め、一際深い場所にトラギコを侵入させた。
突き抜けるような快楽がトラギコの背を走った。

快楽を放出するのを押さえたのは、トソンの爪が背中の肉を浅く抉ったからだ。
痛みが顔に出ない様に努力したが、トソン自身が自らの行為がトラギコを傷付けた事に気付いた。


(゚、゚;トソン「ご、ごめん。 痛いか?」


(=゚д゚)「大丈夫、姉さん」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:37:15.20 ID:4WRFigfX0
この程度、銃弾と比べたらご褒美だ、と心の中で呟いた。
少しの間だけトラギコは思考し、トソンの腰を浮かせ、ベッドに置かれていた枕を引っ張り出してそれを腰の下に敷いた。
これなら、少しはトソンの負担が減るだろうと考えての事だ。

(゚ー゚トソン「ありがとう、トラギコ」

薄く笑って、トソンはトラギコに口付けた。
トラギコは自分の力で腰を引いた。
湿った音が結合部から上がる。
今一度、今度は自力で腰を前に進めた。

水っぽい音から分かる通り、抽送作業は驚くほどスムーズに進んだ。
痛みに歪んでいたトソンの顔に、喜びの色が浮かび始めた。
トラギコの動きを助けるかのように、トソンは腰に絡めた脚に力を込めた。
やがて、トラギコは自分が耐えられないと悟った。

もう、そう長くは保たない。
それを体で感じ取ったトソンが、荒い息で囁く。

(゚、゚*トソン「いっ、いいよ。 私も、そろそろ……っ」

唇を重ね、下を絡め、トソンの脚に一際強い力が込められるのと同時に、トラギコはトソンの中に放出した。
それは何度も痙攣するかのように注がれ、トソンの中を満たした。
トソンは喉の奥で小さく悲鳴を上げ、体を弓なりにして、絶頂に達した。
暫くの間、二人は繋がったまま、体を重ねあって荒い呼吸を整えていた。

一物を引き抜くと、こぽり、と音を立てて血で淡く染まった二人分の体液が零れ落ちた。
それから何度も、二人は体を重ね、愛を交わした。
全てが終わり、二人はシャワーを浴びてから眠りについた。
トラギコはトソンの胸の中で、心底幸せそうな寝顔を浮かべていた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:40:38.29 ID:4WRFigfX0
夜が明けた、翌11月30日。
トソンとトラギコの夢見た平穏な生活は、非情にも奪われた。
裏社会の組織間で起きた抗争の果て、大通りにある三階建のビルが爆破された。
高性能爆薬は建物の三階を吹き飛ばし、崩落したコンクリートの床は二階にいた客に石の雨となって降り注いだ。

三階にあった婦人服店にいた客は全員死亡し、二階の宝石店にいた客の多くは瓦礫の下敷きとなって死ぬか、重傷を負った。
重傷者の数が多すぎ、高度な手術を必要とする一部の患者は隣接するファレルド市の大病院に移送された。
死傷者は78名。
そしてその中には、トラギコの誕生日プレゼントを密かに買いに来ていたトソンも含まれていた。

爆破によって死んだ組織の人間は、僅か一人だった。
犯人の男は直ちに逮捕されたが、誰の目から見ても、その男が組織のスケープゴートである事は明らかだった。
この痛ましい事件の遺族は皆、この抗争を引き起こした忌々しい裏社会の組織に対して強い恨みを抱いた。
しかし、報道されたのは、男が裏社会の組織の人間で、単独でこの事件を起こしたと云う物だった。

司法は組織の名前については一切触れず、逮捕から六日後、犯人の男に無期懲役の判決を言い渡した。
遺族会はこの判決を不服として死刑を求刑したが、最高裁でも判決が覆る事はなかった。
多くの人間が理不尽に命を奪われ、男は生き延びた。
辛うじて命を取り留めた患者も、手足の一部を切断せざるを得ない者が殆どで、最悪の場合は四肢切断だった。

忌まわしい事件から一ヶ月近く時が流れた今となっても、人々の頭から事件の記憶が薄れる事はなかった。
これが後に言う、アニック・ゲイター事件である―――





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       →
          (=゚д゚)BulLet!!のようです

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:43:09.46 ID:4WRFigfX0
―――事件から一週間後、トラギコは判決が出るよりも速く、この事件について警察よりも詳しく調査を進めていた。
犯人の本名、家族構成については一日で調べが付いた。
男の名前はアニック・ゲイター、報道や警察は独身の男だと発表していたが、それは家族を護る為の嘘であった。
調査を始めて二日目には家族の居場所を突きとめ、人気の少ない夜遅くを狙って訪問した。

インターホンは鳴らさず、塀を越えての訪問だった。
男の家族は、市内でも指折りの高級市街地に住んでいた。
家は購入してから一ヵ月程しか経っておらず、最新の警備システムが設けられていた。
一ヵ月前まではトレイラーハウスに住んでいたと云うのに、今では番犬を飼う余裕さえ出来ているのは、実に不思議な話だ。

室内を照らすのは裸電球の頼り無い明かりではなく、シャンデリアの煌びやかな明かりであった。
リビングにある新品の暖炉では薪が燃え、隣接するキッチンにも温かな空気を送っていた。
キッチンの中央で椅子に座っている中年の女性の顔は、涙と鼻水で化粧は崩れていた。
二時間前の顔と比べると、パイを投げつけられたピエロの様である。

(*゚−゚)「あんた、金がほしいの? だったらあげるから、さっさと出てってよ!」

アニック・ゲイターの妻、アニック・シィーが、屠殺所への出荷を待つ豚の様に喚き散らす。
椅子に有刺鉄線で縛られ、左手の甲には親指ほどの太さの杭が打ち込まれていた。
杭は木製の椅子の肘かけを貫き、左手をそこに固定していた。
彼女の口に引いている口紅よりも赤黒い血が、シィーの足元に血溜を作っている。

傷口から一滴の血が滴り落ち、血溜に波紋を生んだ。

(=゚д゚)「金? そんな物はいらない。
俺が欲しいのは情報だ。 あんたの旦那は、誰に雇われて羊になった?」

黒い衣装に身を包んだトラギコが、足元に転がる番犬の死骸を爪先でつつきながら問いかけた。
音も無く番犬を殺した男に、シィーは恐怖した。
何より、トラギコの手には銃が握られていたのだ。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:46:13.03 ID:4WRFigfX0
(*゚−゚)「し、知らないわよ。 第一、私はあの人とはもう別れているのよ。
最初に言ったでしょ! つまり、私は無関係なの」

(=゚д゚)「ほう?」

ガス台に寄りかかっていたトラギコは、これ見よがしに新たな杭を持ち上げた。
人は銃よりも、より痛みを連想できる物に恐怖する。
例えばナイフやハンマー。
今トラギコが手にしている杭もそうだ。

実際、彼女の左手を貫いている杭の痛みは想像を絶する物であった。

(*゚−゚)「ほ、本当よ!」

(=゚д゚)「いい指輪だ」

無事な右手の薬指に嵌められたサファイアの指輪を見て、トラギコはそう言った。
そして、シィーの顔には動揺の色が浮かんでいた。

(=゚д゚)「だが、指輪は指がなきゃ意味がない」

銃が火を噴き、右手の薬指が、根元から千切れ飛んだ。

(*;д;)「ぎゃあああ!?」

耳をつんざく様な叫びは、豪邸の外に漏れる事はなかった。

(=゚д゚)「あんたが弁護士に言われたんだろう? だから、事件当日に離婚した。
それだけじゃあない。 その指輪を一ヵ月前に、あの店で買ってもらったな。
あんたの元・旦那に」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:49:28.51 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「羊飼いの名前を言えと、俺は言っているんだよ。
無駄な時間は使いたくない。 勿論、銃弾も。
早死にしたいのか? 早く救急車を呼ばないと、あんた、死ぬぜ」

(*゚−゚)「に、に、二ヶ月ぐらい前よ。 変な小包が届いたの。
500ドルと手紙が入っていたわ」

(=゚д゚)「手紙は破棄したのか?」

(*゚−゚)「い、いいえ。 何かあったら使えるかもって思って。
そこの金庫に入ってるわ」

シィーの視線の先には、ダイヤル式の耐火金庫があった。
トラギコは杭を机の上に置いて、空いている手で懐から新たな銃を取り出した。
黒く、輝きとは無縁の無骨なシルエット。
50口径の大型自動拳銃、デザートイーグル。

装填された強装弾は、金庫の扉を易々と撃ち砕いた。

(=゚д゚)「この方が早い」

デザートイーグルをしまって、トラギコは金庫の中にあった純金や現金には目もくれず、一枚の手紙をそこから取った。
手紙はパソコンで打ち出された物だった。
仕事の内容と、承諾した際の次の行動について書かれていた。
次の行動は、指定された場所と時間で詳細についての話し合いだと書いてある。

内容を軽く読んでから、トラギコは手紙から顔を上げた。

(=゚д゚)「これ以外に、何か情報は?」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:52:22.54 ID:4WRFigfX0
(*゚−゚)「私は、こ、これ以上は何も知らないわ」

(=゚д゚)「だろうな。 この手紙は、あんたも読んだんだろう?」

(*゚−゚)「そ、そりゃあ読んだわよ。 それより、救急車を早く」

(=゚д゚)「あー、その話はやっぱり無しにしよう」

明日の天気の話でもするかの様にさらりと、トラギコはそう言った。
当然、シィーは動揺した。

(*゚−゚)「な、何で!? 私の知ってる情報は言ったわ!」

(=゚д゚)「あんた、爆破する事を知ってたんだろう?
だとしたら、一般人が巻き込まれる事も知ってたって訳だ。
無関係な人間を巻き込んでおいて手前みたいな豚がブクブク肥えるって云うのは、どう考えてもおかしいだろ。
筋が通らない」

トラギコは懐から煙草を取り出し、火をつけた。
ゆっくりと紫煙が漂うそれを、シィーの口に咥えさせた。

(=゚д゚)「まぁ、一服してなよ」

台に繋がるガスの元栓を銃床で破壊し、トラギコは裏口を開けた。
ガスの漏れる音が、シィーに恐怖心を植え付ける。
ガタガタと震えだし、遂には失禁した。
咥えていた煙草を、自ら作り出した尿の溜まりに落とした。


じゅっ、と音を立てて煙草の火が消える。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:56:40.47 ID:4WRFigfX0
(*゚−゚)「ま、ま、待って、助け、助けて!!」

(=゚д゚)「助ける? 何で俺がお前を助けるんだ?」

(*゚−゚)「私は関係ないでしょ! 殺しても意味はないわ!」

(=゚д゚)「意味ならある。 あんたも、巻き添えで殺された人間の気持ちを味わえる。
理不尽だろう、納得できないだろう。 そう云うもんだ」

(*゚−゚)「お願いよ……お願いだから、助けて……」

(=゚д゚)「一ヵ月はいい思いが出来ただろ? じゃあな」

裏口の戸を閉めて、トラギコは早足でその家を後にした。
トラギコが家を出てから数分後。
匿名の通報を受けた消防隊が到着するのと同時に、暖炉の火にガスが引火してアニック家の豪邸は家主もろとも吹き飛んだ。
翌日の新聞には、強盗殺人事件として大きく掲載され、一部では裏社会の口封じだとも報じられた。

―――次にトラギコが訪れたのは、手紙に書かれていたレストランだった。
防犯カメラの映像や店員の証言を元に、トラギコはゲイターと共にいたのが、遠く離れた島国のベルネット国籍を持つ男だと調べ出した。
その男の名前はマホガニー・バルケン。
30代半ばの大男で、バーテンダーをする傍ら、情報屋としての仕事を持っている男だ。

夕刻、バルケンが仕込みの為に店に来た時、背中に氷柱を突っ込まれている様な嫌な寒気を覚えた。
何の確信も無かったが、バルケンは手に持っていた紙袋をカウンター席に置いて、店内を見回した。
物音一つ、怪しげな影もない。
ただし、異様な気配が店全体から感じられた。

カウンターに入ろうと、バルケンは一歩を踏み出した。
首筋に、冷たい物が押し当てられた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/27(火) 23:59:06.81 ID:4WRFigfX0
(=゚д゚)「動くな、そして喋るな」

( ,'3 )「……物取りかい?」

冷たい物が首筋から離れ、それはバルケンの頬を撫でた。
熱い、と脳が感じた時、深く切り裂かれた頬から血が溢れだした。

(=゚д゚)「喋るなと言った」

切られたことで、バルケンは恐怖せず、激怒した。
嘗ては、チンピラの間で狂犬の名で恐れられたバルケンは、振り向きざまに拳を旋回させた。

( ,'3 )「るぁ!!」

戦槌の様な一撃は隙が大きく、背後にいたトラギコは余裕を持って回避した。
回避するついでに手首を掴み、指を四本切り落とした。

(; ,'3 )「あっ、がああああ!?」

殴られ慣れていても、指を切り落とされる経験はバルケンにとって初めての経験だった。
痛みに悶えるバルケンの背後に回り込み、首を軽く手刀で叩き、気絶させた。
バルケンが目を覚ましたのは、気絶してから30分後の事だった。

(; ,'3 )「って、てて……」



(=゚д゚)「よう、お目覚めか?」


71 名前: ◆VnfvP.QFYU 投稿日:2011/12/28(水) 00:01:11.80 ID:pcTqzMal0
声は背後からして、バルケンは振り向こうとした。
しかし、体が椅子に有刺鉄線で固定されていて、身動きが取れなかった。
両腕は針金で痛いほどに縛られた上に、手錠で体の前に固定され、指先の感覚が無くなっていた。
指が切り落とされた右手を見ると、傷口は焼いて塞がれていた。

(; ,'3 )「何が、目的だ?」

(=゚д゚)「俺は酒が好きでね。 だが、情報はもっと好きだ」

( ,'3 )「だったら、大人しく入ってくればいいだろ。
そうしたら、両方くれてやるのに」

(=゚д゚)「お前は、アニック・ゲイターを知っているだろう。
奴と接触して、何を話した?」

( ,'3 )「株の話だ」

バルケンの頭に、酒瓶が振り下ろされた。
瓶は砕け、中の酒がバルケンの体を濡らした。

(; ,'3 )「ぐっ、この野郎っ……!」

(=゚д゚)「少しはウォッカでシャキっとしたか? あの日、ゲイターと会って何を話した? 誰に依頼された?」

(; ,'3 )「奥さんの浮気調査について」

溜息と共に、跫音が近付いて来た。
そして、頭に何かが垂らされた。

(; ,'3 )「あづぁぁぁぁ!!」

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:04:27.95 ID:pcTqzMal0
蝋だ。

(=゚д゚)「で、目は覚めたか?」

喋っている間にも、蝋は一滴、また一滴とバルケンの頭に垂らされた。
悲鳴を押し殺し、バルケンは震える声で悪態を吐いた。

(; ,'3 )「くそ、クソ野郎が!!」

(=゚д゚)「喋れば止めてやる」

(; ,'3 )「手前の目的はなんだ? それによっては、協力してやるよ!」

蝋を垂らすのを一旦止め、トラギコは告げる。

(=゚д゚)「報復だ。 あの爆破事件に関わった全員に、俺は罪を償わせる。
お前はあの事件に関わった人間を喋ればいい」

(; ,'3 )「執行者気取りのキチガイ野郎か」

(=゚д゚)「キチガイで結構だが、執行者じゃない。 ついでに言っておくが、俺は正義の味方でもない。
この世に正義を求める程、俺は落ちぶれちゃいないんだ。
吐き気がするね」

(; ,'3 )「……っ!」

バルケンは戦慄した。
背後から聞こえた声はあまりにも冷たく、血の通う人間の声とは思えなかった。
地獄を見て、地獄を生きた獣の声だ。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:07:12.55 ID:pcTqzMal0
(; ,'3 )「アヒャ、アヒャ・マッケンローに頼まれたんだ。
足が付かない様に物を揃えて、計画の手筈をゲイターに教えてくれって」

(=゚д゚)「なるほどね。 つまりお前は間に入っただけじゃなくて、道具を揃えたのか。
何を用意した?」

(; ,'3 )「C4と雷管、起爆装置。 そいつを用意して、俺が組み立てて爆弾を作った。
鞄に入れて、それをゲイターに渡した。 起爆は携帯電話で出来る様にしろと注文があったんだ」

(=゚д゚)「手筈は?」

(; ,'3 )「レジの前に鞄を置いて、店を出てから10分後に電話をするように言った。
そうすれば、店員が鞄を預かる為に店の奥に持っていくからな」

(=゚д゚)「アヒャは今何処にいる?」

(; ,'3 )「さぁな。 あいつはメッセンジャーだ。
だが、今日この店に必ず来る」

(=゚д゚)「理由は?」

(; ,'3 )「報酬を渡しに来る事になってるんだ。
判決も出たし、ゲイターは打ち合わせしていた事を全部吐いた。 警察がそろそろ落ち着いて来る頃合いだからな」

(=゚д゚)「アヒャもあんたも、つまりは中継点か。
依頼元は分かっているのか?」

(; ,'3 )「それは……知らない」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:10:26.12 ID:pcTqzMal0
トラギコは嘘を見抜いた。
一瞬の間に隠されていたのは、別の何かに対する恐怖。
ならば、その恐怖をここで上塗りすればいいだけである。
無言でカウンターに行き、棚から一本の酒瓶を持ってトラギコは戻ってきた。

(=゚д゚)「もう一度聞く。 元は誰だ?」

(; ,'3 )「知らないって言っただろ」

瓶の蓋を開け、中身をバルケンの頭から注いだ。
酒が目に入り、バルケンは苦悶の声を上げた。
80度以上のアルコールが目に入れば、大の男でも叫ばずにはいられない。
店の外に声が漏れたかどうかは、トラギコは全く気にも留めていなかった。

空になった酒瓶を床に叩きつけ、懐からマッチ箱を取り出した。

(=゚д゚)「喋りたくなる音を聞かせてやる」

マッチを一本擦る。
バルケンの全身の毛穴が開き、冷汗が大量に染み出した。

(; ,'3 )「ま、待て、待ってくれ!」

(=゚д゚)「このマッチが燃え尽きる前に話せ」

(; ,'3 )「そ、それは……!」

(=゚д゚)「後5秒」

(; ,'3 )「頼む、喋る、喋るからマッチを消してくれ!」

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:13:20.28 ID:pcTqzMal0
(=゚д゚)「大変だ、後三秒しかない」

泣く様にして、バルケンは一つの名前を口にした。

(; ,'3 )「渋沢、カーネル・ファミリーだよ!」

火を吹き消し、トラギコはもう一度問う。

(=゚д゚)「カーネル・ファミリーが、あの爆破の依頼主か。
目的は?」

(; ,'3 )「あぁ、そうだよ! シキーズ・ファミリーの首領が来るって情報が入ってたからな。
シキーズの首領が来る予定だったらしいが、代わりに来たのは使い走りのガキだった。
本当だったら、あれで抗争は終わる筈だったんだ。 裏社会で、無駄な流血をしないで済む筈だったんだよ!」

(=゚д゚)「ところが失敗、渋沢は無駄に人を殺して終わったわけだ」

(; ,'3 )「仕方ないだろ! ファミリーの首領だぞ、相手は!
四六時中護衛いるんだ、風呂でも、便所でも、ファックする時でもだ!
吹き飛ばす以外に方法が無かったんだ!」

日頃から溜まっている憤りを、バルケンはこの時爆発させた。

(; ,'3 )「いいか、シキーズは俺達からしても糞の塊の組織だったんだよ。
手前等には分からないだろうが、こっちは毎日暴力の中で生きてるんだよ!」

表社会と裏社会。
生きる場所が違うだけで、考え方も価値観も大きく変わってしまう。
環境の違いは、人を変える。
軍で戦場を転々としてきたトラギコにも、その事は分かる。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:17:24.68 ID:pcTqzMal0
違う場所に生きている人間が、他人の生き方を否定できる筈がない。
しかし。
共通している事がある。

(=゚д゚)「だが、ついで≠ナ家族を傷付けられ、奪われた人間にその言葉は通用しない。
そっちでもこっちでも、何処でもそれは同じだろ」

理不尽に傷付けられたのなら。
理不尽に奪われたのなら。
人は、復讐に身を焦がす。


(=゚д゚)「さて、無駄な話をしたな」


新たにマッチを擦ると、バルケンの顔に再び恐怖の色が浮かんだ。
マッチをバルケンの頭に近付けると、バルケンは必死に首を動かしてそれから逃れた。

(; ,'3 )「お、おい、冗談だろ? よせよ、止めろ、止めろって!」

(=゚д゚)「じゃあ、アヒャを呼べ。 連絡先ぐらい、知ってるだろ。
今、俺は腹が立ってるんだ。 電話番号を喋るんだ」

直ぐに十ケタの電話番号を口にしたバルケンの頭から、マッチを遠ざけた。
しかし代わりに、別の酒を棚から出してそれを浴びせかけた。
店の電話をバルケンの傍に持ってきて、番号を入力し、受話器をバルケンの耳に当てた。

(=゚д゚)「妙な事を口走るようなら、分かってるな?」

(; ,'3 )「分かってる、分かってるよ」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:20:21.89 ID:pcTqzMal0
忌々しげに呟いて、バルケンは受話器の向こうに意識を集中させた。
4コール後、反応があった。

(; ,'3 )「お、おう。 俺だ、バルケンだ。
例の金だが、今すぐ持ってこれるか? あぁ、そうだ、今すぐだ。
……あぁ、悪いな。 それじゃ」

通話が終わり、トラギコは受話器を置いた。

(=゚д゚)「時間は?」

(; ,'3 )「後五分で来る」

(=゚д゚)「もう少し早めよう」


(; ,'3 )「は?」


答えの代わりに、トラギコはマッチを擦り、バルケンの足元に火のついたマッチを落とした。
火は瞬く間に酒を伝って引火し、バルケンの足を焼き始めた。

(; 。゚3 )「ぐっ、ぎゃあああ!! て、手前ぇぇぇ!!」

(=゚д゚)「そうだ、そうやって叫んでろ。 馬鹿が食いつく」

トラギコの予想は正しかった。
五分で来ると言われたアヒャは、バルケンの絶叫を聞いたのか、三分で到着した。
拳銃を片手に店内に踊りこんだアヒャの目に映ったのは、生きながらにして焼かれている仕事仲間の姿だった。
一瞬の間に脳に去来したのは怒りだった。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:23:38.16 ID:pcTqzMal0
酒を飲み交わし、冗談を言い合ったバルケン。
彼にこんな仕打ちをしたのは、何処の誰だと、アヒャは激怒した。
それと同時に冷静な思考が、彼に消火器を探させた。
入口のすぐ脇に、錆びた消火器があるのを見咎めた。

(; ゚∀゚ )「待ってろ、今助けるぞ!」

銃を懐にしまって消火器に手を伸ばした時、逆方向から強烈なパンチが彼の顎を捉えた。

(; ゚∀゚ )「ほぶぁっ?!」

一発で気を失ったアヒャの体は床に崩れ落ち、消火器に指は届かなかった。
代わりにトラギコが消火器を手に取り、栓を抜き、燃えているバルケンに向けて消火剤を噴射した。
白い煙が濛々と店に充満する。
バルケンは全身に重度の火傷を負ったが、死んではいなかった。

瀕死の状態であった。
トラギコは針金を使ってアヒャの両手足を後ろで縛り、爪先で顔面を蹴り上げた。

(=゚д゚)「起きな」

(; ゚∀゚ )「う……ぐ、って」

(=゚д゚)「時間が惜しい。 お前のボスの事について、お前の知る限り話せ」

(; ゚∀゚ )「ば、バルケン!! 手前、ブッ殺してやる!」

(=゚д゚)「立場が分かっていて言っているのなら、お前は救えない阿呆だな」

(; 。'3 )「うっ……あっ、い」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:26:56.21 ID:pcTqzMal0
バルケンが呻く。

(=゚д゚)「御覧の通り、まだ生きている。 今すぐ病院に連れて行けば、助かるかも知れないぞ。
カーネル・ファミリーの首領の事について話せば、救急車を呼んでやる」

(; ゚∀゚ )「喋れるか、尻穴野郎!」

(=゚д゚)「少し、正直になってもらおうか」

銃声と共に、アヒャの太股に激痛が走る。

(; ゚∀゚ )「あっがあああ!?」

(=゚д゚)「で、返事は?」

二発目の銃弾が、もう片方の太股を撃ち抜いた。

(; ゚∀゚ )「言う、言う、喋る!!」

(=゚д゚)「それでいい。 12月24日の、奴の行動は?」

(; ゚∀゚ )「アルカトローネ・ビルディングで……パーティの予定が、ある」

(=゚д゚)「護衛は何人で、装備は?」

テープレコーダーを再生するかのように、アヒャは素直に詳細を語り始めた。
オープニングを翌日に控えたビルで、各界の著名人や大富豪を招待した豪華なパーティがある事。
そしてそのパーティ会場はビルの最上階、渋沢は愛人と共に出席する事。
護衛は100名以上で、武装は拳銃から短機関銃まで、何でもありだそうだ。

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:29:21.83 ID:pcTqzMal0
トラギコは固定電話を空いている手で取って、電話をかけた。

(=゚д゚)「コッペリアンで人が二人殺されてる」

手短に用件を告げ、受話器を置いた。
銃口を虫の息のバルケンに向け、心臓と額に一発ずつ撃ち込んだ。
叫ぼうとしたアヒャの頭に一発撃ち、店内に静寂が戻った。
五分後に救急隊員が到着した時には店の中には二つの死体しかなく、組織間の争いと云う事で、事件は処理された。

―――二人を殺した翌日、トラギコの元にツン・ディーケイドが訪れていた。
久しぶりの再会に心が和んだが、トラギコは彼女の目的がそれとなく分かっていた。

ξ゚听)ξ「例の事件、全部貴方がやったんでしょ?」

開口一番、ツンは単刀直入な質問をした。

(=゚д゚)「……そうだと言ったら、警察に通報するか?」

嘘を吐いても看破されるのは見えているし、何より、トラギコはツンに嘘を吐きたくなかった。
心を許した相棒に嘘を吐くのは心苦しく、トラギコは肯定の代わりに質問し返した。
大げさに溜息を吐いて、ツンは答えた。

ξ゚听)ξ「まさか。 でも、怒ってはいるわね」

(=゚д゚)「……すまない」

ξ゚听)ξ「謝ってる理由は分かってるの?」

(=゚д゚)「分からん」

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:32:51.40 ID:pcTqzMal0
ξ゚听)ξ「だと思った。 あのね、私は貴方の事を咎めている訳じゃないの。
むしろその逆よ。 よく決断したと思うわ。
私が怒っているのは、貴方が相棒の私を真っ先に頼らなかった事よ」

(=゚д゚)「俺個人の復讐なのに、相棒を面倒に巻き込む訳にはいかないだろ」

ξ゚听)ξ「はぁ……貴方ね、今まで何度私が貴方を巻き込んで来たと思ってるのよ?
それに比べれば、こんなのは巻き込まれた内に入らないわ。
迷惑とも思わないしね」

(=゚д゚)「お前が関わっていると知ったら、色んな所から恨みを買うぞ」

ξ゚听)ξ「見つかる様なヘマはしていないんでしょ?」

(=゚д゚)「当然だ」

ξ゚听)ξ「なら大丈夫よ。 貴方がそう言うのなら間違いないし、私もヘマをするつもりはないわ」

笑いながらそう言ったツンは、どこか誇らしそうだった。
数分の間無言で考え、トラギコは協力の申し出をありがたく受けることにした。
あらゆる感謝の意を込め、トラギコは礼を言った。

(=゚д゚)「……すまない」

ξ゚听)ξ「次に謝ったら蹴るわよ。
それで、標的は渋沢でしょ?
決行日と場所は?」

(=゚д゚)「12月24日、アルカトローネ・ビルディングに奴が現れる。
ヴェンデッタ・ポートパークからやろうと思ってる」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:35:31.31 ID:pcTqzMal0
ξ゚听)ξ「遠いわね。 プランは?」

(=゚д゚)「出来てる。 今、道具を揃えている段階だ。
……これが必要な道具だ」

常に携帯しているメモ用紙をツンに見せると、ツンの眉が動いた。
メモ用紙に書かれている道具には、復讐とは縁が遠そうな物も書かれている。
10秒程推考し、ツンは答えに辿り着いた。

ξ゚听)ξ「なるほど、踊らせる≠ツもりなのね。 じゃあ、私が道具を揃えてあげるわ。
ついでに、これのセッティングもね」

(=゚д゚)「正直な話、凄く助かる。 セッティングする場所は……」

ξ゚听)ξ「私の住んでるアパートの屋上に設置するわ。
後は白い布を用意しておく。
それでいい?」

(=゚д゚)「ありがとう、ツン」

ξ゚听)ξ「あぁ、それと。
貴方は知らないと思うんだけど、例の事件にホライゾンさんの奥さんも巻き込まれたのよ。
話をしてみれば、きっと協力してくれるわ。
武器の調達が楽になると思うわよ」

(=゚д゚)「……分かった、そうしてみよう」

ξ゚听)ξ「貴方の復讐だから私は手は出さないけど、手を貸す事ぐらいは相棒に任せなさい。
それと当日、私の家に来なさいな。 非常階段の横の部屋よ」

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:38:29.29 ID:pcTqzMal0
(=゚д゚)「分かった。 イイ酒を持って行くよ」

ξ゚听)ξ「そうね、そうして」

最後に二人は握手と抱擁を交わして、作戦行動に移った。

―――12月14日。
トラギコは海兵隊時代の上官であるホライゾンを頼って、狙撃銃とその他必要な武器を入手した。
事件の遺族会の中にホライゾンがおり、彼は40年以上連れ添った妻を失っていたと涙ながらに語ってくれた。
彼はトラギコの復讐に協力的で、その見返りに事件に関わった人間を皆殺しにするように頼んだ。

そしてそれが、遺族会の総意であるとも告げた。
目には目を、歯には歯を≠ナさえ生ぬるいと、トラギコを含める被害者の家族全員は考えていた。
装備と計画を整え、トラギコはもう一人に対する復讐を始める事にした。
金の為に事件を起こした、アニック・ゲイターである。

―――12月19日、深夜。
サハリン刑務所の警備網を掻い潜り、トラギコは所員の変装をして、誰にも気付かれることなくゲイターの収監されている独房に近付いた。
眠っているゲイターの体に無痛針を使って毒薬を注射し、トラギコは刑務所を後にした。

(゚芸゚)「……ゲェイ」

注射の痕は残らない為、何が起きたのか、一目では分からない。

打ち込まれた毒薬の効果は直ぐには現れないが、時間を掛けてゲイターの脳を蝕む。
やがてゲイターは植物人間の様に全身が動かなくなるが、脳は活動し続ける。
何もできないのに生きていると云う苦痛。
死にたいのに、それさえも伝えられない恐怖を、ゲイターは残された人生を使って味わい続ける事になる。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:42:36.79 ID:pcTqzMal0
そして、復讐の日が訪れた。
12月24日の、凍える様に寒い夜の事である。

* * *

アルカトローネ・ビルディングの周囲800メートルの建物の屋上では、一軒の例外もなく武装した男が目を光らせていた。
三人一組の態勢を敷き、ライフルとサブマシンガン、そしてショットガンで武装していた。
コートの下には防弾チョッキを着込み、彼等は狙撃手を警戒していた。
彼等の首領が外に出る機会は一度だけで、彼等が最も神経を尖らせるのはその一瞬だけだった。

その一瞬は随分前に終わっており、彼等は煙草を吸いながら雑談に興じていた。
最も厳戒な警戒態勢を敷いていたのは、アルカトローネ・ビルディングよりも高いヴェンデッタ・ポートパークだ。
このビルはアルカトローネ・ビルディングから1500メートルも離れていたが、万が一に備えて、屋上に5人、そこに続く階段に5人の組員がいた。
他の組員とは違って、首領の食事中を警戒するのが彼等に与えられた仕事で、今がその時だった。

10人の組員の内、ただの一人も、襲撃がある事を予期していなかった。
そもそも、1500メートルの距離から狙撃を行おうとする輩はいないだろうし、第一、狙撃しても当たらなければ意味がない。
誘導ミサイルでも使うのなら話は別だが、そんな物騒な物を持ち込む人間は、このビルに入る事は出来ない。
むしろ、入る以前に警察に捕まえられるに違いない。

屋上からの狙撃は、風との戦いである。
ビルの間を縦横無尽に駆け巡る風を読み、弾道の歪みを調整しなければならない。
で、あるからして、余程腕に自信のある者でも、一撃必殺の狙撃を行う事は距離が離れるほどに難しくなる。
ましてや、1500メートルの距離。

無風だとしても、当てる事は困難極まりない。
このビルを警戒するのは、正直、無駄骨ではないだろうかと云うのが、組員の感想であった。
階段の警備を担当していた5人がポーカーをして時間を潰していたのも、頷ける話だ。

(´・ω・`)「へっへっへ、悪いな、ロイヤル・ストレート・フラッシュだ」

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:45:40.97 ID:pcTqzMal0
(#`・ω・´)「手前、絶対イカサマしただろ!」

(´・ω・`)「シャキン、俺がそんな卑怯な男に見えるのかよ?」

(#゚д゚ )「おい、ショボン。 お前、袖をちょっと振って見ろ。 両手を広げて、大きく振るんだ」

(´・ω・`)「おいおいミルナ、俺がイカサマなんてするかよ。 幸運の女神が俺を見て股を濡らしてるだけさ。
ほら、何も落ちて来ない。 どうだ、納得したか?」

(・∀ ・#)「ふざけんな! さっきはフルハウスで、今度はロイヤル・ストレート・フラッシュだぞ!
どう考えたってイカサマじゃねぇか!」

(´・ω・`)「またんき、ばれなきゃイカサマじゃないって言葉、知らないか?
ネタが分かってから、イカサマだって言いな。 まさか、ヒッキーも俺がイカサマをしたって言うんじゃないだろうな?」

(-_-)「ちっ、ネタが分かればとっくに手前のアソコをぶっ飛ばしてるよ」

5人がそれぞれにポーカーを楽しんでいる所に、警備員の男が近づいて来た。
面識も何度かあり、組織の息が掛かった男である。
この中年の男が手引きをしたから、彼等はこのビルで独自の警備が出来ていた
男の手には紙袋があった。

( "ゞ)「あんたらのボスから、差し入れだってさ」

先程、仲間にイカサマ扱いされていたショボンと云う男が、紙袋を受け取った。

(´・ω・`)「へぇ、こいつは嬉しいね。 中身は何だ?」

( "ゞ)「さぁな。 使いのもんが持って来たんだ」

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:48:21.16 ID:pcTqzMal0
(´・ω・`)「使い?」

紙袋の中身を覗きこむと、そこには小さな箱があった。
文星堂のカステラである。

(´・ω・`)「おっ、俺の好きなカステラじゃねぇか!」

嬉々として箱を取り出し、包装紙を破った。

(´・ω・`)「へぇ、限定味か。 1、2……よし、一人一個食えるぞ。
あんたの分もあるぞ、デルタ。 まぁ、警備なんて少し休んで俺達と一緒にポーカーしながらカステラ食おうぜ」

( "ゞ)「まぁ、一回ぐらいなら」

(`・ω・´)「気をつけろよ、そいつ、イカサマ使うぜ」

(#゚д゚ )「あぁ、アバズレ女神の胸にカードを仕込んでやがる」

( "ゞ)「ははっ、なぁに、この俺も昔はタップマン≠チて呼ばれてたんだ」

(´・ω・`)「タップマン?」

( "ゞ)「タップ・シティ・マネーってことさ」

何の事だか分からないまま、ショボンはカステラの箱を開けた。
直後。
太陽が生まれたかのような強烈な閃光が、全員の網膜を漂白した。
光は程なくして収まったが、六人の男達は皆目を押さえて身悶えていた。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:52:08.83 ID:pcTqzMal0
サプレッサーによって押さえられた銃声が六つ。
六発の弾で六人の急所を撃ち抜き、即死させた。

(=゚д゚)「賭けは俺の勝ちだ。 そしてそいつが、俺のタップ・シティ・マネーだ」

物陰から姿を現したトラギコは六つの死体を跨いで、屋上に向かった。

* * *

屋上で煙草をふかし、愚痴っていた5人は、正体不明の悪寒に身を震わせた。
確かに今日の夜は一段と冷え込んでいるが、それとは別。
厚いコートで身を包んでいるのに、寒さは体の内側から湧き出て来た。

(‘_L’)「……冷えるな」

熟練の組員、フィレンクト・ウォルコットが呟く。
ショットガンの動作を確認し、四方に目を向け、フィレンクトは隣でライフルを持つ男に目を向けた。
ノーネ・チェルノは、ライフルの照準器を調整しながら答えた。

( ノAヽ)「嫌な予感がします、フィレンクトさん。 俺の祖国じゃ、こんな日は外に出ない」

(‘_L’)「だろうな。 俺が若い時も、きっと中に籠ってただろうさ。
玄関先にニンニクを吊るして塩をまいてな。
シーン、何か見えるか?」

うつ伏せの状態で狙撃銃の照準器を覗いているシーン・マードックは、返事をしなかった。

(‘_L’)「おい、シーン、どうなんだ? イシ、何が見える?」

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:56:29.29 ID:pcTqzMal0
観測手のイシ・ウォールケニッヒも、返事をしなかった。
ただしこちらは、俯いていて、まるで眠っているかのようだった。

(‘_L’)「おい、ノーネ。 二人を起こしてやれ」

何かが倒れる音がして、フィレンクトは振り返った。
そこには、額から血を流して倒れているノーネの亡骸があった。

(;‘_L’)「の、ノーネ!」

多くの戦闘を生き残ってきたフィレンクトは、本能的に横に跳んだ。
直後、空気が抜ける様な音と主に、それまで立っていた地面が爆ぜた。
遮蔽物に身を隠し、銃撃が止むと同時に立ちあがって叫んだ。

(;‘_L’)「クソッたれ!」

ショットガンが唸りを上げる。
獣の威嚇の声にも似た音が、一つ。
散弾は屋上に続く唯一の扉に向けて放たれ、蝶番ごと扉を吹き飛ばした。
続けて二発目を放つ。

(#‘_L’)「はっはぁっ!
出直して来やがれ、この糞野郎が!」

三発、四発と続けて撃つ。

(#‘_L’)「YEAHHHH!!
死ね、死ね、死ねぇぇぇぇ!!」

フィレンクトの計算でいけば、散弾の乱射でそこに隠れている人間に傷を負わせることができる筈だった。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 00:59:21.36 ID:pcTqzMal0
(#‘_L’)「HAHAHA!! ショットガンの味はどうだぁっ、スゥィート!!」

銃弾がフィレンクトの側頭部から侵入し、米神から脳漿と共に吹き出した時でさえも、彼はそれを信じていた。

(‘_L’)「ホュー」

物言わぬ骸と化したフィレンクトの傍に、トラギコの姿があった。
彼が遮蔽物に隠れた隙に、素早く屋上を移動していたのだ。
拳銃をしまって、トラギコは遥か1.5キロ先にあるアルカトローネ・ビルディングを見た。

背負っていたギターケースを地面に置いて、トラギコは準備を始めた。

* * *

アルカトローネ・ビルディングの最上階では、世界を代表する大富豪達に囲まれて、渋沢・カーネルが気さくな笑みを浮かべていた。
彼は今、シャンパンを片手に中東の石油王と90億ドルのビジネスの話を進めていた。
話はまとまり、交渉は僅か一分足らずで終了した。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「それではミスタ・オイラ、今後もよろしく」

マフィアの首領でありながら、渋沢はやり手のビジネスマンでもあった。
麻薬と売春で得られる金はたかが知れているし、何時廃業の危機に追い込まれるかも分からない。
だとすれば、こうして安全な品物を取り扱う方が遥かにリスクが少ない。
利益は少ないが、副業としてなら十分な額を得る事が出来る。

渋沢は幾つもの副業と、ビジネスマンとしての顔を持っていた。
最近、最も利益を上げているのが誘拐と人身売買だ。
金持ちの娘を誘拐して身代金を取るのもいいが、それに失敗した場合、娘は麻薬に溺れさせて何処かの変態に高額で売り飛ばされる。
先程話していたトレイラー・オイラ・マクスウェルにも、二人のブロンド娘を売った経験があった。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:02:34.40 ID:pcTqzMal0
どちらにしても金になるこの誘拐と云うビジネスに注目したのは、つい最近の事である。
問題だった高いリスクを解消する為に誘拐は国外で行い、渋沢はその国の警察を買収し、彼の配下を誘拐対策班に入れた。
まさか身内が誘拐犯に手を貸しているとは、警察も思わないだろう。
買収に掛かる金は誘拐が成功した際の利益に応じて変動するので、積極的な協力が得られた。

予定よりも金が掛ったが、パーティは成功と言えた。
様々な方面のコネクションをより強くして、地盤を固める為に金を使ったと思えば、安い買い物だった。
こうする事で得たコネクションが役立つ事を、渋沢は知っていた。
先月の爆破でも、マスコミと司法に強力なコネクションがあったからこそ、組織に捜査の手が及ぶ事は無かったのだ。

面倒な事態が起きた時こそ、コネクションが有効なのだ。
男でも女でも、コネクションを作るのには金が掛る。
若くて美しい女を用意したり、幼い少女を用意したりするのには金は当然だが、時間も手間も掛かる。
そう云う点で見れば、女を扱うのは簡単だ。

目に見え、誰もが羨む物を買い与えればいい。
彼の愛人、フォクシー・ツブロフクもまた、そう云った物に目が無い女の一人である。
フォックスの愛称で親しまれる彼女は美人でスタイルも良く、男の扱い方と云う物を心得ている。
少しサディストの気があるが、そう云う女を力で屈服させるのが渋沢の性的な趣味だった。

彼の腕に蛇の様に腕を絡めていたフォックスは、物欲しげな眼を渋沢に向けた。
彼女はシルクのドレスに身を包み、下着はつけていなかった。
渋沢は彼女が嫉妬と羨望の眼差しで見つめている事に気付き、そっと腰に手を回した。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ハニー、どうしたんだい?」

爪'ー`)「あのお酒、今日はないの?」

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:06:31.55 ID:pcTqzMal0
内心、渋沢は舌舐めずりをした。
性交する際、催淫薬と共に微量の麻薬を酒に混ぜて飲ませていた成果が現れている。
酒は中東の友人からの贈り物で、飲むと気分が良くなる高級な物だとしか説明していない。
フォックスは自分が軽度の麻薬中毒者であると気付けないまま、渋沢の虜となるだろう。

気丈な女が完全に屈服するまでの工程を、渋沢は楽しんでいた。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「済まない、あれは中々手に入らなくてね。 でも大丈夫、まだ少し残っているから。
明日にでも、部下に買いに行かせるよ」

爪'ー`)「そうしてちょうだい」

麻薬の力にフォックスが屈すれば、渋沢の目論見通り、彼女は従順なペットとなる。
薬の為にはあらゆる行為を受け入れる、ただの雌犬。
そう云った雌犬の末路を、渋沢は幾度も見て来たし、楽しんで来た。
今の内に次の雌犬候補を部下に探させようと、渋沢は密かに決意した。

年代物のシャンパンを飲み干し、グラスをボーイに預けた。
会場内に視線を巡らせ、腕時計に目をやる。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「悪いね、ハニー。 そろそろスピーチの時間だ」

名残惜しげに別れ、渋沢は一段高く作られたステージに上った。
ざわついていた会場が、水を打ったように静まり返る。

 _、_
( ,_ノ` )y●━「皆さん、お忙しい中、本日は私の為にお集まりいただいて誠に感謝しております――」

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:09:01.89 ID:pcTqzMal0
五分ほどでスピーチは終わり、最後に渋沢は付け加えた。

 _、_
( ,_ノ` )y●━「――では、心行くまでパーティをお楽しみください」


* * *

ギターケースにしまっていた狙撃銃の光学照準器から、トラギコは目を離した。
会場が明るいので、夜間用の物に付け替える必要は、今のところなかった。
トラギコはコンクリートの地面に腹這いになって、巨大な狙撃銃の銃床を肩につけていた。
銃から身を離し、傍らに置いてあった風力計を使って測定し、アルカトローネ・ビルディングの手前にあるビルの屋上を見た。

黒服の男達が数人いるが、誰一人として屋上のアンテナに結び付けられた白いリボンに気付いていない。

(=゚д゚)「流石、相棒だ」

湿度、気温をメモ帳に書き記し、照準器にサーマルスコープを取り付けた。
覗きこんで、視界がモノクロの映像なのを確認する。
コッキングレバーを引いて、弾丸を装填。
時計で時間を確認して、トラギコはコピーの携帯電話を使ってある場所に連絡をした。

連絡を終えたトラギコは再び照準器を覗きこんで、狙点の調整を始めた。
1500メートルの狙撃を成功させるには、まず、それを可能にする銃と弾が必要だった。
そこでトラギコが選んだ銃は、随所に改造を施した対物ライフルM82A3。
銃弾は、スチール・コア弾を選んだ。

ゆっくりと酸素を肺に送り込んで、トラギコは意識を集中させた。
再び電話を手に取り、最後の連絡を始めた。
この連絡が終われば、後は、石の様に固まって機会を待つだけだ。

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:11:49.61 ID:pcTqzMal0
* * *

丁度その頃、渋沢はパーティ会場の中央で、女優のクー・ライラックと話に花を咲かせていた。
話題は芸能界のゴシップで、丁度、話が山場に差し掛かった時だった。

「渋沢様、お電話が」

黒服の男が話を中断させ、渋沢は笑顔の下で舌打ちをした。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「失礼、ニコルさん」

黒服の男を従えて、渋沢は目立たない様に会場の隅に移動した。
顔はそのままだったが、声は怒りの色を孕んでいた。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「誰からだ?」

「それが、ボスにプレゼントを見せたいと云う男からでして」

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「何? 名前は」

「ジョン・メイスンと名乗っています」

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「知らんな。 まぁいい、電話を寄こせ」

差し出された携帯電話を乱暴に受け取り、渋沢は声色を外交用に切り替え、応じた。
部下の男は傍に無言で控える事にした。

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:14:50.52 ID:pcTqzMal0
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「もしもし?」

『渋沢さんですか?』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「そうですが。 あなたは?」

向こうから聞こえて来たのは、まだ若い男の声だった。
南米の訛りが強い言葉で、男は答えた。

『ジョン・メイスンです。 あなたは知らないでしょうが、あなたに大変お世話になった者です』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「多すぎて覚えていないだけかも知れないですな」

『ははは。 ところで、明日はオープニングセレモニーがあると聞きまして。
今日の内に、あなたにプレゼントをお渡ししたくて、こうしてお電話いたしました』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「直接お越しになればいいのに」

『申し訳ないのですが、私がこの場所から動くわけにはいかなくて。
しかし、このプレゼントはあなたも気に入ってくれると確信しています』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ほほう、どの様なプレゼントでしょうか?」

『それは言えませんが、私の言う通りにしていただければ、会場中の皆さまもお楽しみいただけます。
どうか、私の言う事を信じていただけないでしょうか?』

107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:17:25.23 ID:pcTqzMal0
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ふむ、一応聞いてみましょう。 あなたの指示とは?」

『簡単です。 会場の電気を消して、東の窓辺に皆様を移動させてください。
出来れば折り重ならずに、窓から二、三歩離れた位置に横一列に並ぶのが最上だ。
無論、あなたが列の中央、そして一番窓際にいてください。
あなたは私が指定した時間に、指揮者の様に両手を上げてくだされば、事は完璧です』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ますます内容が気になるが、本当にそれだけでいいのですか?」

『えぇ、それだけです。 お時間は、そうですね……
三分程いただければ、それで十分です』

渋沢は思案した。
電話の向こうのジョンの言葉通り、三分で客を楽しませられるなら、文句のない話だ。
問題は、ジョンと云う男が信用できるかどうか。
時間通りにプレゼントが拝めないと、恥を晒すことになる。

『いきなり顔も見えない相手を信用するのは難しいでしょう……』

心を見透かしたように、ジョンが言った。
その時に、渋沢は気付いた。
受話器の向こうから、風の音がする。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「ミスタ・ジョン。 まさかとは思うが、今、外にいられるのですか?」

『ははは、お察しの通りです。 私は現場主義でしてね、部下だけに仕事をさせたくはないのです。
自分の仕事は自分でやり遂げたいのです』

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:21:14.46 ID:pcTqzMal0
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「……分かりました、ミスタ・ジョン。 私の負けだ。 あなたを信用しましょう」

『……っ! 感謝します、渋沢さん』

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「それで、時間は?」

『早ければ早い程いい。
数秒のラグがあるでしょうが、そうですね……
24時丁度にしましょう、今から約五分後です』

渋沢は腕時計を見て、頷いた。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「了解しました。 五分後、24時丁度ですね。
それでは私はこれから、サプライズの準備を進めさせていただきます」

『ご協力、感謝します。 期待には決して背きません。
それが私のルールでございますから』

電話を切ってから、渋沢は傍に控えていた部下を見た。
部下は不審げに渋沢を見たが、その顔に笑みが浮かんでいるのを見て、安堵した。

 _、_
( ,_ノ` )y━・~「マイクを持って来い。 それと、59分になったら電気を消すんだ。
一秒だって俺は待たないぞ、いいな」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:24:15.17 ID:pcTqzMal0
照明の電源を管理している場所に早足で向かった部下から視線を外し、渋沢はマイクのある壇上の近くへと向かった。
ジョンと云う男の事は何一つ知らないが、会場にいる人間を楽しませるのであれば好都合だ。
ましてや、こちらが一切労せずに、と云うのなら尚更好都合。
渋沢がジョンを信用したのは、電話の向こうにいるジョンが冷たい風の吹く中で待機しているのが分かったからである。

口先だけでなく、ジョンと云う男は行動に移す男らしい。
だから、渋沢はジョンが気に入った。
プレゼントを拝んで満足できれば、是非とも一度会ってみたいものだった。
残り三分。

今の内に移動させておけば、演出的にも丁度いい時間になるだろう。
マイクを手に取り、静かに、渋沢は喋りはじめた。

 _、_
( ,_ノ` )y●━「皆さま、どうか東の窓辺にお寄りください。 素敵なサプライズが用意してあります。
窓から三歩下がって、横一列に広がってお待ちください」

招待客全員が移動を完了したのは、渋沢が予想した通り59分丁度であった。
部下がタイミングを合わせて消灯し、会場が闇に包まれる。
眼下の街明かりが幻想的な光景を作りだし、一人一人の眼を宝石箱の様に輝かせた。
渋沢は跫音を立てない様に静かに窓に近づき、待機した。

腕時計の秒針を見て、腕を上げる。
幻視するのは、100人体制のオーケストラの指揮者。
客に背を向け、優雅に腕を動かした。

秒針が動き、24時丁度になった瞬間、フェクトの夜空に、巨大な花火が打ち上がった。

連続して打ち上げられた花火は、星の様に輝き、散った。
背後で歓声が上がる。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:28:05.56 ID:pcTqzMal0
 _、_
( ,_ノ` )y●━(こう云う事か、ミスタ・ジョン)

最高の気分であった。
花火はビルのすぐ近くで打ち上げられているらしく、爆発音がガラスをビリビリと振動させた。

 _、_
( ,_ノ` )y●━(素晴らしい、素晴らしいぞ)

渋沢の動きに合わせるかのようにして花火が打ち上がり、暗いパーティ会場を明るく照らし出す。
中東の大富豪も、女優も、政治家も。
皆、その光景に見惚れていた。
指揮者のいる領域は聖域と化し、窓に最も近い位置には誰も近寄ろうとはしなかった。


 _、_
( ,_ノ` )y●━「ハッピィィィィィ・メリィィィィ・クリスマァァァァスッ!!」



それが幸いだった。
次の瞬間、渋沢の腕が何の前触れもなく爆ぜた。
飛び散った血と肉は、彼の愛人の顔を赤く染めた。

* * *

全ては、ジョン・メイスンこと、トラギコ・ステッチダウンの狙っていた通りの展開だった。
モノクロの視界の中で渋沢を見つけ出すには、他の人間とは違った行動をさせる必要があった。
標的が起こす行動の内容をこちらが把握しているのは当然として、問題は、どの様にしてそれを把握するかにあった。
マフィアの首領に短時間の内に指令を出し、実行させなければならない。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:30:42.13 ID:pcTqzMal0
そこで選んだのが、この、サプライズプレゼントと云う手段であった。
これなら突然の連絡も不信がられないし、渋沢の顔も立つ。
適当な偽名を使って、トラギコは見事に渋沢を動かす事が出来た。
憎むべき標的の声を聞いていて、トラギコは怒りが声に出ないか心配だった。

しかし、問題なく指示は終わり、渋沢は指示通りに動いた。
トラギコが次にする事は、風を読み、狙点を調整する事だった。
客がぞろぞろと窓辺に近付き、やがて、一人の人間がより近い場所に立ったのを見て、トラギコは全身をぴったりと固定させた。
呼吸は静かに浅く、微妙な調整を施し、精神を極限まで集中させて待った。

時間になった瞬間、協力者である上官の手によって、花火が打ち上げられた。
トラギコは銃爪に指をかけた。
肩と一体化した銃床の感覚は無くなり、狙撃銃はトラギコの体の一部と化していた。
右肩に狙いが定まった瞬間、トラギコは銃爪を引き絞った。

銃声はまるで、怒りに狂う獣の咆哮の様に響いた。

海兵隊で鍛え上げたトラギコの狙いは、完璧だった。
銃声から数秒後、一発目の銃弾は渋沢の右肩から先を吹き飛ばし、付け根は肉片と化した。
薬莢が排莢されると同時に、二発目を撃った。
二発目の銃弾は左肩から先を引き千切り、衝撃で渋沢が殴られたかのように背後に倒れた。

客が一気に渋沢の周りから引き、パニックを起こして逃げ始めた。
二つの薬莢が地面を転がった頃、ボディガードの男達が渋沢に走り寄った。
窓辺から非難させようと近付いた男の心臓を、トラギコは一発で肉塊に変えた。
死体は仰け反る様にして渋沢の傍に転がった。

十字線を動かし、渋沢の右足に狙いを定め、撃った。
千切れ飛んだ太股から先が宙を舞い、一回転して地面に落ちる。

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:32:55.95 ID:pcTqzMal0



『フィレンクト、おい、フィレンクト! 狙撃だ、ボスが狙撃されてる!
どこかの屋上糞野郎がいないか探せ! 急げ!』



後ろに落ちている無線機から、悲痛な叫びが聞こえる。
顔色一つ変えずに、トラギコは渋沢の左足を体から分離させた。
照準をずらし、渋沢の股に最後の一発を撃ち込んだ。
睾丸は血煙と化し、内臓が吹き出した。

狙撃銃から身を離して、トラギコは薬莢を回収し、武器をギターケースにしまった。


撤収に要した時間は一分にも満たず、狙撃と合わせても三分足らずの出来事であった。



117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:35:02.70 ID:pcTqzMal0
―――Epilogue―――


12月25日の朝刊は、見出しは異なったが全く同じ事が書かれていた。
最大手の新聞社、サンライズ誌の一面見出しは次の様に書かれていた。

◆暗黒街の首領、惨死
 【昨夜12月24日遅く、カーネル・ファミリーの首領である渋沢・カーネル氏が何者かに襲われ、出血多量により死亡した。
 使用された銃弾は着弾すると体内で暴れまわり、致命傷を与えるスチール・コアと呼ばれる物だと判明した。
 銃弾が発射されたと思われる場所には11人の死体が残されており、周囲を捜索したが今のところ証拠は発見されていない。
 凶器には大口径の狙撃銃が使用されたと思われ、警察では種類の特定を急いでいる。
 犯人に繋がる物は何一つ発見されず、警察当局はマフィア間のいざこざが原因であるとし、捜査を続けている。】

また、その記事の右下には、小さな記事が合わせて掲載されていた。

◇正義の鑑、安らかに
 【フェクト市の代表的な裁判長、シーブ・サアイファー氏(50)は昨夜、自宅で亡くなっているのが家族によって発見された。
 氏は過去にアルドマーニ事件やガルデロイ事件を担当した経歴があり、悪を許さない姿勢と容赦のない判決から、正義の鑑と謳われていた。
 同氏は一ヵ月前に起きたアニック・ゲイター事件も担当しており、突然の氏の訃報に、関係者は一様に涙を浮かべた。
 死因は心筋梗塞と見られ、氏の告別式は年明けに身内だけで行われる予定である。】

記事にされている二つの事件≠フ捜査を担当する事になったディ・ロングホーンは、広げていた新聞を折り畳み、溜息を吐いた。
昨晩、正確に言えば今朝からずっと捜査をし続け、昼前に一時的に戻る事が出来た。
マグカップに注がれている同僚が淹れた熱いコーヒーを啜って、ディは座っていた椅子に凭れかかる。
一挙に二つの事件を担当するのは当然初めての事だが、ここまで難しい事件も初めてだった。

警察としては渋沢の死は歓迎すべきもので、犯人が何者であれ、ディは感謝していた。
特に感謝しているのは現場主義の人間で、逆に上層部のキャリア組にとっては良くないニュースだった。
渋沢も含め、警察内部の多くの人間が、キャリア組と渋沢が裏で通じあっている事を知っていた。
今回渋沢が殺害された事によって、渋沢に協力していた人間のリストを捜索するチャンスが出来た。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:37:20.45 ID:pcTqzMal0
腐った上司達がいなくなるのも、時間の問題である。
凶器の狙撃銃だが、鑑識によれば対物ライフルのM82の系列だそうだ。
使用された銃弾の入手経緯は不明で、何処で販売されたのか、どの会社で製造されたのかも分からなかった。
狙撃地点と思わしき屋上を徹底的に探したが、死体は見つかったが薬莢や指紋は発見されなかった。

明らかにプロの犯行だった。
武器から犯人を特定するのは不可能と見たディは、狙撃に使われたビルの監視カメラの映像を入手し、分析班に回した。
有益な情報は無く、それどころか、事件当日は監視カメラが動作していなかった事が判明した。
恨みを持つ人間は山のようにおり、捜査は初日から難航していた。

渋沢が殺されてから一時間と経たずに死亡したサイファーだが、彼も渋沢と癒着していた。
死因は心筋梗塞とされているが、体内から微量の毒物が検出されていた。
最初は妻が保険金目当てで殺害したものだと考えたが、ディは直ぐにそれが違うと考え直した。
サイファーと渋沢の死はどこかで繋がっている気がしたのだ。

共通点と云えば、やはり、アニック・ゲイター事件だ。
渋沢が首謀者で、サイファーは無期懲役を言い渡した裁判長だ。
何かの口封じにサイファーが殺されたのならば頷けるが、渋沢まで殺されたとなると、話は複雑になる。
誰が何のために、二人を殺したのだろうか。

謎は深まるばかりで、ディはもう一度大きな溜息を吐いた。

(#゚;;-゚)「ふぅ……」

頭の中にあるピースでは、この事件を解決する事は出来ない。
鍵は、銃だけ。
そこからある程度、ディは自力で推理する事が出来たが、行き詰ってしまった。
狙撃地点と渋沢の位置は約1500メートルも離れており、風の強い夜の狙撃だった。

(#゚;;-゚)「約1600ヤードの長距離狙撃、しかも夜、か」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:40:05.45 ID:pcTqzMal0
それを成功させる狙撃手がどれだけいるのかと、信頼できる友人に尋ねたところ、性格と顔の良い女の数ぐらいだと答えが帰って来た。
フェクトにいる軍の関係者に話を聞いたところ、それはトラギコ・ステッチダウンと云う青年だけだそうだ。
彼にはこの事件を引き起こすだけの動機があり、先程事情聴取をしたのだが、完璧なアリバイがあった。
事件が起きた時間、海兵隊時代の相棒であるツン・ディーケイドの部屋で二人は酒を飲んでいたと、ツンの証言があった。

その証言だけではなく、アパートの入口に設置されている防犯カメラの映像に、事件の二時間前に訪れたトラギコの姿が記録されていた事が決め手となった。
トラギコに行きついたのはディだけで、他の同僚は渋沢の同業者が犯人だと断定して捜査を進めていた。
実を言うと、ディはこの事件に限っては犯人を検挙しようとは思っていなかった。
逆に、犯人を庇おうとさえ思っている。

法が必ず犯人を裁くとは信じていないし、アニック・ゲイター事件はその最たる例だ。
司法が腐っていた事を世に知らしめ、ディを初めとする心ある警官を落胆させた。
言うなれば渋沢もサイファーも死んで当然の人間であり、誰も犯人を咎められない。
恐らく、トラギコがこの狙撃を行ったのだとディは考えている。

ツンの家にトラギコが訪れたのは紛れもない事実だが、彼女の部屋が監視カメラの死角に位置していること。
そして、監視カメラの設置されていない非常階段の隣にあることが、どうにも引っ掛かる。
その気になれば、カメラに一切映ることなくアパートから出る事が可能だ。
だが、そこまで調べる気になれなかった。

個人的に集めた資料の束を手に取り、ディは立ち上がった。
シュレッダーに資料を突っ込み、細かく裁断され、他の裁断された紙屑と混ぜられるのを見守った。
刑事として失格だが、例えトラギコが犯人だとしても、彼を逮捕したくは無いし、逮捕されてほしくもない。
二つの事件はマフィアの仕業と云う事にしようと、ディは心に決めた。

誰だって、近所に落ちていたデカイ糞が無くなれば、気分が良くなる。
心が軽くなったディは自分の席に戻って、コーヒーを飲んだ。

(#゚;;-゚)「……ほぅ、美味いな」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:43:33.91 ID:pcTqzMal0
無意識の内にそんな事を呟くと。

( ФωФ)「味が分かる様になったのか?」

隣の席にいる同僚が、驚いた風に聞いて来た。
ディにとって、コーヒーは眠気を覚ます液体でしかなかったが、今日は違う。

( ФωФ)「淹れた甲斐があるってもんだ。 皆、俺のコーヒーの味を何とも言わないからな。
特に、お前だよ」

(#゚;;-゚)「しかし、苦いな。 砂糖が欲しい、たっぷりと。
にしても、疲れたよ、ほんと」

( ФωФ)「スティックシュガーでいいならやるよ。 それよりな、二、三滴ブランデーを垂らすんだよ。
ほら、これだ。 試しにやってみな」

机の下で差し出されたスキットルとスティックシュガーを受け取り、ディは言われた通り、マグカップにスキットルの中身を少量注いだ。
砂糖を足して、スプーンで混ぜると、今まで嗅いだ事のない芳香が漂った。
一口飲んでみると、満足げな溜息が思わず漏れた。

(#゚;;-゚)「いいな、これ」

( ФωФ)「だろう?」


ディは久しぶりに、コーヒーの味と香りを楽しむ事が出来た。


* * *

126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:46:24.85 ID:pcTqzMal0
フェクトに隣接するファレルド市は、フェクトに次ぐ国内で二番目の都市である。
大都市独特の喧騒は一箇所に集中し、そうでない場所は、未だにのどかな風景を残していた。
車で西に向かって20分程走ると、背の低い草の生える丘陵地帯に着く事が出来る。
開けた視界に映る民家は疎らで、民家よりも牧草を食む羊の数の方が多い。

先日新たに建てられた小さな家には、フェクトから越してきた二人の住人が増える予定となっている。
綺麗に舗装された道を看板に従って進むと、サン・エルマドル病院の大きな姿が見えてくる。
立派な門構えをしていて、建物は白亜の宮殿の様に美しかった。
一ヵ月前に起きたアニック・ゲイター事件で重傷を負った患者の一部は、この病院に運ばれていた。

その日の正午、サン・エルマドル病院に、一人の男が姿を現した。
看護婦達は顔馴染みとなった男とすれ違う際、自然な笑みを浮かべて挨拶した。
少し世間話をして、彼等はそれぞれ行くべき場所に向かった。
男は正面受付でいつものように手続きを済ませ、院内を移動した。

男の手には花束があり、毎回花の種類は異なった。
案内も見ずに病棟を移動し、男はとある病室の前に立ち止り、控えめに扉をノックした。
美しい女性の声が返って来て、男は扉を開けた。
白い個室は太陽の光で眩しいぐらいに輝き、窓辺にあるベッドの上には美しい女性がいた。

ベッドの上の女性は男を見ると嬉しそうに顔をほころばせ、男もまた、嬉しそうに笑って二人は抱き合い、唇を重ね合わせた。
女性の左腕は肘から先が無く、右足は膝から下が無かった。
顔には無数の瘡蓋があり、ガーゼが当てられている部分もあった。
それでも、女性の美しさは健在だった。

唇を名残惜しげに離した男は、懐から一枚の紙を取り出し、説明を始めた。
話を聞くにつれて女性の目に涙が浮かび、堰を切ったかのように泣き出した。
悲しみの涙では無く、喜びの涙であった。
再び二人は抱きしめ合い、今度は男も泣き出した。

128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 01:50:44.14 ID:pcTqzMal0









――それは、奇妙な光景であった。
   これから夫婦になると云うのに、男は女性の事を親しみを込めて姉さん≠ニ呼び、
   しっかりと抱き合う二人の姿はまるで、本当に姉弟の様だったのだから。











                                           The End


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