- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:18:04.19 ID:G/0nelF+O
だって、そうしなきゃ。
殺されてしまうから。
だから、だから。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:18:36.67 ID:G/0nelF+O
# # #
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:20:06.36 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)
あるアパートの一室。
横座りをしている少女と、胡座をかいている女性が、テーブルを挟んで向かい合っている。
横座りの方、鬱田クールは、あちこちに視線を彷徨わせていた。
端から見ると挙動不審だろう。
だが、クールだって、好きで不審者になっているわけではない。
ξ゚听)ξ「へえ。鬱田クールちゃん、ね」
この、目の前の女が――全裸なのが悪い。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:20:53.98 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)冬の迷い子のようです
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:22:00.94 ID:G/0nelF+O
時間を戻し、この状況に至った経緯を説明しよう。
クールは迷子だった。
高校生にもなって登校中に迷ったというのも情けない話だが、間違いなく迷子だった。
原因らしい原因といえば、視界が真っ白になるほど吹雪いていたこと。
そのせいで道を確認出来なかったため、曲がる場所を間違えたのかもしれない。
気付けば、大きな樹の傍に立っていた。
川 ゚ -゚)(どこだ、ここ……)
吹雪は止んでいる。
おかげで周囲を見渡すことが出来た。
真っ先に目に入ったのは、数メートル先にある赤い屋根のアパート。
2階建て。ドアの数から見て、4部屋程度。
周りには、似たようなアパートや一軒家ばかり。
どうやら、いつの間にか住宅地に迷い込んでいたようだ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:24:00.17 ID:G/0nelF+O
手袋越しに樹を撫でる。
こんなものが住宅地の真ん中に突っ立っているというのも、妙な光景だ。
この樹の周辺だけアスファルトが敷かれていない。
振り返る。
真っ直ぐ伸びる、塀に挟まれた道。
ここを引き返せば、知っている場所に戻れるだろうか。
『――あ』
川 ゚ -゚)『ん……んんっ!?』
横から声がした。
と、同時。何者かが勢いよくぶつかってくる。
その衝撃で、転んでしまった。
川;゚ -゚)『いたた……』
打ちつけた腰を摩りながら、上半身を起こす。
はっとして、急いで手袋を確認した。汚れはなさそうだ。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:26:03.24 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)『ごめんなさいお、前見てなくて。大丈夫かお?』
息をついていると、先程の声の主が手を差し伸べてきた。
少年だ。クールと同い年くらいの。
彼の顔を見たクールは、むっとした。
にたにた、薄気味悪い笑みを張りつけている。
「にこにこ」や「にやにや」ではない。にたにた。それが相応しい。
そんな表情で謝られても、反省しているようには感じられない。
川 ゚ -゚)『何だ、その顔は』
文句をつけてやると、少年は小首を傾げた。
それから、「ああ」と頷く。
( ^ω^)『生まれつきだお。これでも、本当に申し訳ないとは思ってるお』
納得はしなかったが、そうか、と返してクールは彼の手をとった。
立ち上がる。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:27:48.39 ID:G/0nelF+O
そのとき、左足に痛みが走った。
川;゚ -゚)『いっ……!』
( ^ω^)『どうしたお?』
川;゚ -゚)『足……――捻ってしまったみたいで』
( ^ω^)『あら』
少年が、クールの足と顔を順に見て、一言。
( ^ω^)『困ったおね』
川;゚ -゚)(誰のせいだと)
怪我の具合を確認することもなく、少年はクールの頭や肩を叩いた。
雪が落ちる。
( ^ω^)『そこに僕の知り合いの家があるから、手当てしてもらうお』
川 ゚ -゚)『……うん。ありがとう』
彼はクールから雪を払い終えると、手を握ってきた。
驚いたクールが口を開くより早く、
ぐいぐい、赤い屋根のアパートへと引っ張っていく。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:28:41.74 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)『ちょ、こら、足が痛っ……!』
( ^ω^)『数歩の我慢』
川;゚ -゚)『本当に怒るぞ!』
右足だけで跳ねるように、アパートの1階、奥から2番目の部屋の前に移動した。
「津山」という表札が掲げられている。
少年はコートのポケットから鍵を取り出すと、それでドアを開けた。
川 ゚ -゚)『……君、学校は?』
( ^ω^)『今日から冬休みだお』
川 ゚ -゚)『そうなのか。早いんだな』
12月も中旬に入ったばかりだ。
羨ましい。
少年がドアノブを引くのを、ぼうっと眺める。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:30:14.48 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)『どうぞ』
川 ゚ -゚)『ん……』
お邪魔しますと小声で言って、中に入った。
少年に手伝ってもらいながら靴を脱ぎ、渡されたスリッパを履く。
短い廊下を進むと、広めのLDKがあった。
その真ん中でストレッチをしている女性に、少年が声をかける。
( ^ω^)『ツンさん、お客さん』
ξ゚听)ξ『んあ?』
川;゚ -゚)『!』
彼女が全裸なことに気付き、クールは顔を背けた。
クールが裸族に出会った。脳内でどうでもいいナレーションが流れる。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:32:18.46 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ『誰それ』
( ^ω^)『樹のところでぶつかっちゃって。
捻挫したみたいだから、湿布か何か貼ってあげてくださいお』
ξ゚听)ξ『ああ、はいはい。やってあげるから、あんたは温かい飲み物用意して』
おいで、と手招きされ、クールは恐々と裸族のもとに近付いた。
少年はキッチンに立ち、やかんをコンロにかけている。
棚から薬箱を持ってきた裸族が手早く処置をしてくれた。
それはありがたいのだが、何度見ても、目を凝らしても、裸族は裸族だった。
首に引っ掛けたタオルのおかげで薄い乳房は覆われているが、
だから大丈夫、とは言えないレベルで裸だ。
あまり関わりたくない。
礼を言って帰ろうとしたクールだったが、腕を裸族に掴まれる。
ξ゚听)ξ『まあまあ。折角だし、お茶でも飲んでったら? ほら、コートなんか脱いで』
川;゚ -゚)『えー……』
――という感じに、誘われるままテーブルの前に座り、
少年が入れてくれたココアを飲む羽目になってしまった。
そして裸族に名前を訊かれ、今に至る。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:35:39.62 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「クールちゃん。クーちゃん。どっちがいい?」
川;゚ -゚)「……どっちでも」
ξ゚听)ξ「じゃあクーちゃんね。あ、私はツン。あっちのは内藤よ」
ツンと名乗った裸族は、すぐ後ろのソファに腰掛けた少年を指差した。
少年――内藤が、読んでいた新聞紙から目を離して会釈する。
やはり、にたにたと笑ったまま。
クールは内藤に視線で訴えた。必死に訴えた。
内藤はしばらくクールを見つめ、それから、ツンに言い放つ。
( ^ω^)「ツンさん。見苦しいから服を着てほしいそうですお」
川;゚ -゚)「みぐっ!?」
ξ゚听)ξ「あ?」
いや、あながち間違っていない。間違っていないけれども、「見苦しい」は駄目だろう。
クールはぶんぶん首を横に振った。
物事には動じないたちだと自負していたが、ここに来てから調子が狂いっぱなしだ。
川;゚ -゚)「言い方……!」
( ^ω^)「見苦しいレーズンをしまってくださいお」
悪化した。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:37:27.96 ID:G/0nelF+O
ξ#゚听)ξ「はあ!? 誰のナニがレーズンじゃい! 綺麗なピンク色だっつの!
見るか? お? 見るか!?
この薄いタオルで辛うじて隠されている豊かな膨らみの頂点を見るか!?」
( ^ω^)「薄っぺらなタオルが隠してくれている薄っぺらな胸の
薄っぺらな価値もないレーズンは見せてくれなくて結構ですお」
ξ#゚听)ξ「てめえええ! やらはた迎えかけて焦り出した頃に
土下座して『乳首舐めさせてください』っつっても絶対舐めさせてやんねえからな!!」
( ^ω^)「今時やらはたって」
ツンがココアを飲み干し、腰を上げる。
ぷりぷりと怒りながら、奥にあるドアを開けた。
向こうに、ベッドやクローゼットがあるのが見えた。寝室だろうか。
ξ#゚听)ξ「風呂上がりに訪ねてきた方が悪いんじゃないの!」
( ^ω^)「朝っぱらから風呂に入るのはいいけど、そのまま全裸でいる方が悪いですお」
ξ#゚听)ξ「黙れ小僧!!」
内藤の正論を叩き落とし、ツンは寝室に消えた。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:39:27.20 ID:G/0nelF+O
怒鳴り声の余韻がリビングに残る。
クールはココアを一口飲んだ。
川 ゚ -゚)(うえっ)
舌と喉が、ぴりぴりと痛む。
何だか不愉快な後味が残った。渋いというか、えぐいというか。
それ以上飲む気になれなくて、カップを横に寄せる。
( ^ω^)「いやあ、あの人は恥じらいってもんがないお」
川 ゚ -゚)「そうみたいだな」
改めて室内を眺め回す。
何の変哲もない、一般的な「女性の部屋」だ。
殺風景すぎず、派手すぎず。
落ち着いた色合いの家具やカーペットは、存外クールの趣味に合った。
時計が目に入る。9時。クールの腕時計とも一致した。
もう授業が始まる。
罪悪感はあるが、今日はサボってしまえ。内藤とツンのせいで、既に一日分の疲れが溜まっている。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:41:53.77 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「美女、登場」
川 ゚ -゚)「あ」
そこへ、元裸族が戻ってきた。しっかり服を着ている。
ようやく、クールの視線が定まった。
それをどう解釈したのか、「似合う?」とポーズをとりながら訊ねてきたので、
適当に頷いておく。
ξ*゚听)ξ「ああ、そう? やっぱり? まあ私はどんな格好も似合うからね」
( ^ω^)「裸は似合わないみたいですけど」
内藤の顔面にスリッパが衝突する。
ツンは何事もなかったかのようにクールの向かいに腰を下ろした。
ξ゚听)ξ「クーちゃん、この辺の人?」
真っ直ぐに見つめられる。
瞳が赤い。真っ赤だ。
例えるなら、陳腐な表現だが、炎のような。そんな色。
カラーコンタクトだろうか。
見とれてしまいそうになるのを耐え、クールは自身が迷子だったことを話した。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:43:49.03 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「――なので、ここはよく分かりませんけど……まあ近所だと思います」
ξ゚听)ξ「あら、そうなの。
……登校中だっけ? どこの学校? 見慣れない制服だけど」
川 ゚ -゚)「シベリア学園の高等部です」
ξ゚听)ξ「シベリア?」
川 ゚ -゚)「中高一貫の」
ξ゚听)ξ「へえ……ごめんなさいね、知らないわ。
中学の頃に入ったの? それとも高校から?」
川 ゚ -゚)「中学から」
シベリア学園は、県内でも有数の進学校だ。
知らないというのも珍しい。
ξ゚听)ξ「何年生?」
川 ゚ -゚)「2年生です」
ξ゚听)ξ「内藤も高2だから、じゃあ、あなたと同い年ね」
内藤が再び会釈する。
彼は新聞紙を畳むと、胸ポケットからボールペンを取り出した。
ツンが卓上のメモ帳を内藤に手渡し、彼が、そこに何か書き込んでいく。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:45:56.21 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「学校行かなくていいの?」
川 ゚ -゚)「今日はもう、行く気が起きませんので」
ξ゚听)ξ「まあ、足も怪我してるしね。サボっちゃえ。
――ねえ、趣味とかある? 最近ハマってることとか」
やけに質問してくるなと思いつつ、
クールは足元に寄せていた鞄を開けて、中から「それ」を出した。
川 ゚ -゚)「……これ」
作りかけのマフラーが掛かっている編み針。
ツンの顔が綻んだ。
ξ゚ー゚)ξ「あら、可愛らしいマフラーね。上手だわ。
それは自分で使うの?」
川 ゚ -゚)「母にあげようと思ってます」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:47:33.32 ID:G/0nelF+O
丸めて置いておいたコートの上から、手袋を持ち上げた。
水色を基調とし、白のラインが入ったシンプルなもの。
綺麗な色ね、と褒められ、クールは僅かに頬を染めた。
川*゚ -゚)「昔、母が作ってくれたんです。手芸とか好きな人なので。
だから私も、母のためにマフラーを作ろうかと」
ξ゚ー゚)ξ「そう。仲がいいのね」
ツンがマフラーを撫でる。
今度はクールの方から口を開いていた。
川 ゚ -゚)「ツンさんは何をしてる方なんですか」
ξ゚听)ξ「ん? 私?」
川 ゚ -゚)「失礼かもしれませんけど、あの、仕事とか」
見たところ、彼女は20代だと思われる。
今日は平日だ。
どこかに勤めているなら、こうして家にいるような時間ではない。
ああ、とツンが声を漏らす。
ξ゚听)ξ「勤務日とか不定期なの。先週ちょっと働いたけど、それ以降は今日までずっと暇」
「でも給料はいいのよ」。
底意地の悪そうな顔で付け足した。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:50:25.80 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「内藤……君とツンさんは、どういう関係なんですか。
姉弟とかじゃなさそうですけど」
ξ゚听)ξ「んー? 内藤は、ううん、助手?」
( ^ω^)「まあ、そんなもんですおね」
川 ゚ -゚)「何の仕事なんです?」
ξ゚听)ξ「ええ?」
ツンが眉根を寄せる。
困っているようだ。
人に言えない仕事なのだろうかと怪訝に思っていると、内藤が横から答えた。
( ^ω^)「ツンさんは他人の幸せをぶっ壊して奪ってやるのが仕事なんだお」
川;゚ -゚)「ぶっ……」
何だそれは。かなり不穏な内容だが。
もしや、物凄く危ない仕事なのではないか。
よく分からないが、裏稼業とか。そういう類の。
クールは、マフラーを鞄にしまった。
コートと鞄を抱える。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:52:26.54 ID:G/0nelF+O
ξ#゚听)ξ「怯えちゃったじゃないのよ」
( ^ω^)「間違ってはいませんお」
ξ#゚听)ξ「語弊があるでしょ語弊が」
ツンに睨まれ、内藤は肩を竦める。
溜め息をついたツンは、警戒するクールの隣に移動した。
ξ゚听)ξ「恐いとか思ってる?」
川 ゚ -゚)「怪しすぎます」
ξ゚听)ξ「ああ、うん、正直ね。いいことよ」
ツンの手が、クールの左足、湿布が貼られた場所に触れる。
かと思えば、いきなり湿布を引っぺがした。
川;゚ -゚)「あ、あの……?」
ξ゚听)ξ「立ってごらん。普通に」
川;゚ -゚)「はあ」
テーブルに手をついて立ち上がる。
すると、何の違和感もなく直立出来た。
痛みなど欠片もない。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:54:40.45 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「あれ?」
ξ゚ー゚)ξ「ん。治った治った」
ツンを見る。
彼女は人差し指を立てると、くるりと指先で円を描いた。
ξ゚ー゚)ξ「私の魔法のおかげね」
川;゚ -゚)「……魔法?」
いよいよもって、怪しさが頂点に達する。
思わず後退りをすると、立ち上がったツンがクールの横を過ぎ、
リビングの入り口に向かった。
ξ゚听)ξ「へいへいクーちゃんびびってるぅ。
……怯える子を無理に留まらせる趣味はないわ。
足も治ったし、お家に帰った方がいいんじゃない?」
玄関まで見送るからおいで、とリビングを出ていく。
クールは内藤と入り口を交互に見てから、コートと手袋を身に着け、廊下に出た。
玄関へ足早に進む。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:56:14.40 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「じゃあね。縁があったら、また会いましょう。
――あの樹の向こうに行ってしばらく歩いたら、多分、知ってる道に出ると思うわ」
ドアを開けて、ツンが大木を指差す。
クールは逡巡し、ぺこりと頭を下げて礼を言った。
川 ゚ -゚)「ありがとうございます。……お邪魔しました」
ξ゚听)ξ「気を付けてね。
あ、そうだ、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「はい」
ξ゚听)ξ「今日って、何日だったかしら」
突拍子もない。
半ば呆れながら、クールは答えた。
川 ゚ -゚)「12日ですよ。――それじゃ、さようなら」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:58:24.82 ID:G/0nelF+O
アパートを後にする。
こつこつ、靴底がアスファルトを打つ音が響いた。
やはり、足に痛みなど生じない。
大木の前で、一度振り返る。
ツンはもう部屋に戻ったらしく、ドアは閉められていた。
川 ゚ -゚)(……あの人達は、何なんだろう)
悪人ではなさそうだった。
もしかして医療関係に携わる人だったのだろうか。
クールの怪我は、ただ単に、少し時間が経てば治る程度のものだったのかもしれない。
それを見抜いていた上で、「魔法」で治ったのだとおちゃらけた。そんな可能性もある。
だとしたら、逃げるような真似をして申し訳ない。
彼女の言うように、縁があって、また会えたら。
そうしたら、あの発言の真意を訊いてみよう。
決意したと同時に、角を曲がる。
数メートル進むと、見覚えのある道に出た。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 21:59:23.75 ID:G/0nelF+O
# # #
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:02:48.05 ID:G/0nelF+O
川д川「――まあ、魔法だなんて」
洗濯物を干していた母は、クールの話を聞いて、くすくす笑った。
そんなことあるわけないじゃない、と。。
川 ゚ -゚)「やっぱり、そうだよな」
川д川「きっと、クーが思った通り、大した怪我じゃなかったのよ」
川 ゚ -゚)「でも、一時間もしないで治るような痛みでもなかっ――」
川д川「それより、クーは学校サボるつもりなのかしら?」
川;゚ -゚)「んぐ」
まだ10時を少し過ぎたばかりだ。
今から学校に行っても、授業には充分間に合う。
だが、今日はもう行く気になれないというか、そういう気分ではないというか。
クールが言い訳を考えていると、母が吹き出した。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:04:49.98 ID:G/0nelF+O
川ー川「今日だけよ」
川;゚ -゚)「はい……」
額を小突かれる。
母はいつも優しい。
クールは2階の自室へ向かった。
部屋に入ると、まずは制服から部屋着に着替える。
コートと制服をクローゼットにしまい、ベッドに腰掛けた。
手袋は机の上へ。
川 ゚ -゚)(……続きをしよう)
鞄から、編みかけのマフラーを引っ張り出す。
クリーム色の毛糸を見下ろし、母の顔を思い浮かべる。
川 ゚ -゚)(母さん、気に入ってくれるかな……)
カレンダーを確認した。
今日は12月12日。
器用な方ではないので進行速度は遅いが、あと数日もあれば完成するだろう。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:06:22.99 ID:G/0nelF+O
('A`)「――いいや、きっと魔法だ。
クーは魔法使いに会ったんだよ」
夜。
ソファの上で、クールの隣に座った父がそう言った。
クールは編み針を止めないまま、冷めきった瞳で父を見遣る。
アパートでのことを父にも話したところ、前述のような答えが返されたのだ。
川 ゚ -゚)「何を言ってるんだ」
(;'A`)「娘の目が恐い! 母さん娘の目が恐い!!」
川д川「はいはい、どうしたの」
洗い物を終えた母が、手を拭いながらリビングにやって来た。
慌ててマフラーをソファと背中の間に隠す。出来上がるまで、彼女には内緒にしたい。
いかにも微笑ましいと言わんばかりの顔で父が見つめてくる。
クールが睨みつけてやると、彼は肩を竦めてみせた。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:08:50.81 ID:G/0nelF+O
母が、床に置いたクッションの上に座る。
リモコンでテレビの電源を入れる彼女に、父が先程の会話について語った。
川д川「お父さんってば、馬鹿なこと言っちゃって」
('A`)「魔法使いだったら面白いじゃないか。
魔法じゃなくても、ヒーリングってやつでもいいな。
父さん、オカルトな話とか好きだぞ」
川 ゚ -゚)「父さんが結婚出来たことからしてオカルトだものな」
(;'A`)「母さん怒って! クーのこと怒って!」
川д川「今テレビ観てるから」
母の意識がテレビに向かっている内に、クールは立ち上がった。
後ろ手にマフラーを持つ。
川 ゚ -゚)「部屋に戻るよ。おやすみ」
川д川「おやすみなさい」
('A`)「おやすみー」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:10:34.95 ID:G/0nelF+O
ふと、奥の壁が目に入った。
クールの家のリビングには暖炉がある。
煉瓦造りで、子供が丸まって入れる程度の大きさだ。
両親の趣味で取り付けたらしいが、使われることは滅多にない。
ほとんど飾りのようなものである。前面の扉も閉められているばかり。
川 ゚ -゚)(今年も使わないのかな……)
想像する。
ぱちぱちと薪が立てる音、橙色の明かり、その前に座って編み物をする自分。
絵本なんかでよく見るような光景に、少し、憧れた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:11:31.31 ID:G/0nelF+O
# # #
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:13:08.95 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「あっさり帰しちゃって、何のつもりですかお。勿体ない」
――窓の外、大木に目をやりながら、内藤は言った。
ξ゚听)ξ「んー?」
( ^ω^)「クールさんって人」
ξ゚听)ξ「ああ……」
ツンはソファに寄り掛かり、メモ帳を弄んだ。
うつだくーる、しべりあ学園、など、お世辞にも綺麗とは言えない字が並んでいる。
メモ帳を床に置き、内藤の足を抓った。
ξ゚听)ξ「……あんた、クーちゃんにぶつかったっての、わざとでしょ」
( ^ω^)「普通に誘ったって、ついてきそうにないから。
なら、怪我でもさせた方が連れてくるには手っ取り早いかなって」
ξ゚听)ξ「野蛮」
( ^ω^)「そんな僕の苦労も知らないで、ツンさんってばクールさんを追い出しやがって」
足を抓るツンの手を、さらに内藤が抓る。
ツンは手を離し、内藤へメモ帳を押しつけた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:15:19.99 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「はーああ、勿体ない勿体ない。折角ご馳走にありつけると思ったのに」
ξ゚听)ξ「しつっこいわねえ。……大丈夫よ。あの子、ココア飲んでたんでしょ?」
( ^ω^)「一口だけですけど」
ξ゚ー゚)ξ「充分。
それならいずれ、また来るわ」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:16:10.40 ID:G/0nelF+O
# # #
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:17:47.59 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)(また来てしまった)
あれから3日間は、特に何もなかった。
迷うこともなく、彼らに会うこともなく、普通に日々を過ごしていた。
なのに。
川 ゚ -゚)(……あのアパート……だよな?)
4日目の今日。
クールの眼前には、大木と、赤い屋根のアパートがあった。
――今朝も吹雪だった。
視界が悪い中、歩いて、歩いて、気付けばここにいたのだ。
今は吹雪も止んでいる。
川 ゚ -゚)(戻るか……)
踵を返そうとしたクール。
彼女の肩を、誰かが叩いた。
川;゚ -゚)「うわあああっ!?」
( ^ω^)「クールさんかお」
飛び上がるクールの耳元で囁く声。
振り返ると、あの、にたにた男が立っていた。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:19:29.07 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)「な、あ、あ、ない、ないとう、内藤君」
( ^ω^)「よく言えましたおー」
内藤がクールの頭から雪を払う。
かと思うと、いきなり腕を掴まれた。
何か言うでもなく、アパートへ引っ張られていく。
川;゚ -゚)「おい」
( ^ω^)「ちょっとお茶していかないかお。わあ、人生初のナンパ」
川;゚ -゚)「ナンパというより、拉致か人さらいじゃないのか。
第一、君は冬休みらしいが、私は学校に行かなきゃいけないんだぞ」
( ^ω^)「まあまあ」
川;゚ -゚)「あのなあ……」
同じ年頃の男女ともなれば、大抵、男の方が力は強い。
そういうわけで、クールは例の部屋に連れ込まれてしまった。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:21:14.18 ID:G/0nelF+O
ξ;;)ξ
今日のツンは、ちゃんと服を着ていた。
着ていたが、さめざめと泣きながら蹲っていた。
寝室とリビングの境目で丸まるツンに、内藤は溜め息を漏らす。
( ^ω^)「何してんですかお」
ξ;;)ξ「な、な゙、に゙ゃいとぉおううう……」
脱いだコートと鞄をソファに投げ、彼はツンの前に立った。
ツンが内藤に縋りつく。
ξ;;)ξ「たんす、たんすぅうう……小指ぃいい……」
( ^ω^)「気持ち悪い」
川;゚ -゚)(こいつ鬼か)
内藤がしゃがみ込み、「よちよち」などと言いながらツンの頭を撫でた。
馬鹿にしている。本気で泣く20代女性を、こいつは間違いなく馬鹿にしている。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:24:04.97 ID:G/0nelF+O
ξ;;)ξ「あばぶあばぶあばぶ」
( ^ω^)「タンスに小指ぶつけましたかお?」
ξ;;)ξ「あうあうあ」
こくこくと何度も頷くツン。
そんなべたな。
ξ;;)ξ「タンスの角に、角に、ごつって……。
爪割れた、つ、爪、先っちょ割れ、おごごごご」
( ^ω^)「血は? 出てませんおね?
こんなもん放っときゃいいんですお」
ξ;;)ξ「ひゃぶぶう……う……うう?」
ツンがクールを視認する。
しばらく硬直していたが、はっとしたかと思うと、涙を拭って立ち上がった。
きりりと顔が引き締まる。
ξ゚听)ξ「こんにちは、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「どうも……」
( ^ω^)「取り繕っても無駄ですお」
ξ;;)ξ「いたたたたた小指押すな馬鹿あ!!」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:26:41.43 ID:G/0nelF+O
無事な方の足で内藤を蹴飛ばし、ツンはリビングのテーブルへ移動した。
クールに手招きする。
ξ゚听)ξ「今日はどうしたの?」
川 ゚ -゚)「また間違ってここに来てしまって」
ξ゚听)ξ「そう。縁があったのね」
クールは肩を竦めると、コートを脱ぎ、ツンの向かいに腰を下ろした。
小指をぶつけた程度で泣きじゃくる彼女を見て、すっかり警戒心が解けてしまった。
というか、警戒するのが馬鹿らしくなった。
川 ゚ -゚)「訊きたいことがあるんですけど」
ξ゚听)ξ「んー。お姉さんに答えられることなら、何でも訊いて。
内藤、お腹すいたー」
( ^ω^)「僕はツンさんの奴隷じゃねえっつうの」
おどけてみせながら、内藤が台所に立つ。
戸棚を物色している内藤に向かって舌を出し、ツンは頬杖をついた。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:28:45.29 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「あの」
ξ゚听)ξ「ん?」
川 ゚ -゚)「この間の、魔法のことなんですけど」
ξ゚听)ξ「……うん、なあに?」
本当に魔法が使えるんですか、と問うのも恥ずかしいので。
軽傷なのが分かっていたからクールを冷やかしたのではないかという、
母と自分の推論を説明した。
川 ゚ -゚)「――ってことだと思ったんですけど……」
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ
ξ゚听)ξ「うん、そう」
その間は何だ。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:30:19.67 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)(……まさか本当に魔法使いなわけじゃないだろうな)
しゅんしゅん。台所のやかんから音がする。
ツンの緋色の瞳が、クールから窓へ向けられた。
彼女は何も言わなかった。
やがて、唐突に沈黙を破る。
ξ゚听)ξ「クーちゃん、お母さんへのマフラーは出来た?」
川 ゚ -゚)「……まだです」
話を逸らされていると感じつつも、クールはツンの問いに素直に答えた。
下手に深追いしない方が良さそうだ。
鞄から出したマフラーを、ツンに見せる。
ξ゚ー゚)ξ「完成が楽しみね」
川 ゚ -゚)「はい」
ξ゚ー゚)ξ「お母さんにあげるんだっけ。お父さんには?」
川 ゚ -゚)「父には特に作る気ないですね」
ξ^ー^)ξ「あら、お父さん可哀想に。……家族みんな仲いいの?」
川 ゚ -゚)「悪くはないと思います」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:32:18.22 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)(……いい人そうではあるんだよな)
マフラーの端を軽く持ち上げるツン。
やはり、悪人には見えない。変人だとは思うが。
そんなことを考えていると、目の前に、2つのマグカップと一つの皿が現れた。
( ^ω^)「はい、どうぞ」
ξ゚听)ξ「ありがとう内藤、……これだけ?」
( ^ω^)「文句があるなら自分で用意してくださいお」
マグカップの一つはクールの前に、残りのカップと皿はツンの前に置かれた。
スプーンが添えられたカップの中にはコーンポタージュ。
皿には、2枚のトーストが乗せられている。
程よく焦げたトーストの匂いが、クールの鼻を擽った。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:34:08.60 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「クールさんも食べるかお、トースト」
川 ゚ -゚)「いや、」
「いらない」と言おうとした瞬間。
ぐう。クールの腹の虫が、ささやかな自己主張をした。
一応、朝食はとった筈なのだが。
ほんのりと頬を染め、クールは俯いた。
ツンが皿を守るように腕で隠す。誰が取るか。
内藤のにたにた笑顔が深くなる。
( ^ω^)「いるかお」
川*゚ -゚)「……一枚だけ」
台所へ戻った内藤が、トースターに食パンをセットした。
3分ほど経って、軽快な音が鳴る。
何か付けるかと訊かれたので、マーガリンと苺ジャムを塗ってもらった。
皿が運ばれてきて、クールに手渡される。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:36:34.45 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「ありがとう。……いただきます」
( ^ω^)「召し上がれ、お嬢さん」
内藤はわざとらしく恭しい態度でお辞儀をし、ソファに座った。
図々しい真似をしたとクールが詫びると、彼は両手を振った。
( ^ω^)「食パン焼いただけだお。コーンポタージュはインスタントだし」
ξ゚听)ξ「そうそう、遠慮しないで」
千切ったトーストをコーンポタージュにつけながら、ツンが言う。
それを口に運び、彼女は内藤に振り向いた。
ξ゚听)ξ「あんたは食べないの? どうせ、面倒だからって今日も朝食抜いてんでしょ」
( ^ω^)「僕は結構ですお」
内藤は腹を摩り、クールに視線をやった。
じろじろ、不躾に眺め回す。
( ^ω^)「そんなもんより、もっと――肉とか、そういうのが食べたいですし」
どこか含みのある言い方に、クールは寒気を覚えた。
元から不気味な人ではあるが、より一層気味が悪い。
内藤の眉間に、ツンがぶん投げたスプーンが当たった。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:39:00.36 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「冷蔵庫のソーセージでも食ってろ。
クーちゃん、あのアホは無視しなさい、無視」
川;゚ -゚)「はあ」
内藤は溜め息をつくと、ソファに乗せていた鞄を開けた。
土産でもあるのかと問うツンに、冬休みの課題をやるだけだと答える。
それを横目に見ながら、クールはトーストに齧りついた。
ざくりという食感、ジャムの甘味。
まあ、想像通りの味だ。
咀嚼して飲み込み、今度はカップに手を伸ばした。
息を吹き掛け、控えめに口に含む。
こちらも、特に変わった味付けは感じられない。
ξ゚ -゚)ξ「何かスープ薄いわよ内藤。お湯が多かったんじゃないの」
ツンが文句を垂れ、内藤が「なら飲むな」と反論した。
薄味が好きなクールとしては、これくらいの方が丁度いい。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:41:07.45 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「……クーちゃん、美味しそうに飲むわね」
川*゚ -゚)「え」
ξ゚听)ξ「ちょっと一口ちょうだい」
マグカップを引ったくられる。
スープの味を比べ、ツンは顔を顰めた。
ξ;゚听)ξ「……若干クーちゃんの方が薄いわ」
( ^ω^)「レーズンさんもクールさん見習って、
出されたもんに文句つけずに黙って食ってくださいお」
ξ#゚听)ξ「レーズンさんって何よ。ツン様とお呼び」
( ^ω^)「レーヅン様」
ξ゚听)ξ「うわーい風呂場の蛇口で背中がりっとやれ馬鹿」
カップを返しながら、ツンが今度はクールの手元に目を落とした。
そこにあるのはトースト。
物欲しげ、とは、まさに今のツンの表情を言うのだろう。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:43:50.53 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「……食べます?」
ξ*゚听)ξ「えー! そんなつもり全然なかったけど、えー! いいのー?
悪いわー、悪いわよー、でもありがたく半分もらうわ。
私のトーストに何も付けやがらなかった内藤の気の利かなさったらないわよねー」
( ^ω^)「あんたがパンにスープつけるの好きだから気を遣ってやったのに」
クールのパンと自分のパンを半分に割って交換するツンを、内藤が足蹴にする。
互いに扱いがぞんざいすぎるので仲が悪いのかと疑ってしまったが、
よくよく考えれば、寧ろ、仲はいい部類かもしれない。しかもかなり。
クールは、ツンから分けられたトーストを手に取った。
先の方を少しだけスープに浸し、齧る。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:45:24.66 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「クールさん、いきなりで悪いんだけど」
川 ゚ -゚)「ん?」
( ^ω^)「七宝散りうせて、玉の扉風にやぶれ、
金の柱霜雪に朽ちて――って知ってるかお?」
川;゚ -゚)「……はあ?」
ξ゚听)ξ「何それ」
( ^ω^)「奥の細道ですお」
内藤は、課題らしきプリントと古典の教科書をツンに渡した。
流し読みしながら、知ってる知ってるとツンが間の抜けた声で言う。
知っていたら「何それ」とは訊かないだろうに。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:47:37.87 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「で、クールさん分かるかお?」
川 ゚ -゚)「いや、知らないが」
( ^ω^)「そうかお。……変だお、調べたところによれば
僕の学校とクールさんの学校、使ってる教科書は同じらしいけど」
ξ゚听)ξ「授業の進め方が違うだけでしょ」
( ^ω^)「ふうん……」
これまた、言外に何かしらの含みを持たせている。
彼の意図はクールには分からないが。
クールの僅かな苛立ちを察したのだろうか。
あ、とツンが声をあげた。
コーンポタージュを覗き込む。
ξ゚听)ξ「そういえば、何でコーンって形状保ったままうんこに混じって出てくるのかしら」
川 ゚ -゚) ポバッ
口の中のものが勢いよく噴出された。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:50:00.78 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「気になるわよね」
川;゚ -゚)「いや……」
( ^ω^)「脈絡なさすぎな上に食事中ですおツンさん」
ξ゚听)ξ「いいじゃない。別に、うんこの話をしたからってご飯がうんこに変わるわけじゃないし」
( ^ω^)「ほんと、クソみたいな女でしょう。これ」
内藤がツンを指差しながらクールを見る。
うっかり頷きそうになったが、すんでのところで思い留まった。
ξ゚听)ξ「だって気になるんだからしょうがないじゃないのよ。コーンとかもやしとか。
どうしたら、あのまま出てくるのを防げるのかしらね」
( ^ω^)「僕はツンさんほど上品じゃないんで、その話題には参加したくないですけど。
まあ、よく噛んだらいいんじゃないですかね」
ξ゚听)ξ「クーちゃん、どう思う?」
どうもこうも。
何とも思わないので、こっちに振るな。
無言のまま、首を傾げておく。
――ふと、目眩がした。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:51:47.37 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「……顔、真っ青よ」
川;゚ -゚)「え……」
ツンに指摘されると同時に、再び目が眩む。
腹から迫り上がる吐き気が喉をひくつかせた。
口の中で唾液が増える。
気持ちが悪い。
クールは、口元を手で覆った。
( ^ω^)「ツンさんがうんこの話なんかするから」
ξ;゚听)ξ「ああっ、クーちゃん!」
ツンが駆け寄ってくる。
袋を要求しようとした瞬間、彼女の手が、クールの手を押さえ込んだ。
川;゚∩゚)「んくっ、」
ξ;゚听)ξ「ええっと、待って! 吐いちゃ駄目よ。我慢して」
川;゚∩゚)「ん、んん……?」
ξ;゚听)ξ「大丈夫よ、ちょっと我慢したら治まるから」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:53:35.90 ID:G/0nelF+O
背中を撫でられる。
そういえば、昨日も、ココアを飲んだときに妙な感覚があった。
もしや何か混入させられていたのか?
いや、ツンはクールのスープもトーストも口にしていた。
具合を悪くしているのはクールだけだから、薬やら何やらの可能性は薄い。多分。恐らく。
ξ;゚听)ξ「静かに息吸って。鼻からね。そしたら、ゆっくり息吐いて」
言われた通りにする。
何度か繰り返すと、吐き気は引いていった。
クールが落ち着いた頃、ツンは手を離した。
ξ゚听)ξ「どう?」
川;゚ -゚)「……何とか」
ξ゚ー゚)ξ「ん。良かった」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:55:50.73 ID:G/0nelF+O
マグカップと皿を見遣り、「どうする?」とツンが問う。
吐き気が治まったとはいえ、食欲はどこかへ吹き飛んでしまった。
川;゚ -゚)「……無理そうです」
ξ゚听)ξ「じゃあ、私が食べとくわ。勿体ないし」
川;゚ -゚)「ごめんなさい……」
ξ゚听)ξ「いいのよ」
私はお腹すいてるしね。
そう言って、ツンが笑う。やはり出された食事自体には問題なさそうである。
考えすぎか。
単に、元から具合が悪かっただけだろう。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 22:58:22.38 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「あの、ツンさん」
ξ゚听)ξ「ん? 帰りたい?」
川 ゚ -゚)「はい、……すみません、あんまり体調良くないみたいで」
( ^ω^)「もう平気なんじゃないかお? 顔色も戻ったし」
ξ゚听)ξ「帰りたいならしょうがないわよ」
ツンが、この間のようにリビングの入り口に歩いていく。
タンスにぶつけたという小指が痛むのか、右足を庇うような歩き方だ。
( ^ω^)「ステップの練習ですかお、ツンさん。
心配しなくても誰もツンさんをダンスには誘いませんお」
ξ#゚听)ξ「けっ! 高校の体育祭じゃ、ダンスの時間は男子生徒で私の取り合いしてたわ!!」
( ^ω^)「押しつけ合いじゃなくて?」
ξ#゚听)ξ「朽ち果てろ!!」
ツンの両手の親指が、元気に下方へ向けられる。
本当に仲がいい。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:01:07.59 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「大丈夫ですか? 見送りなんてしなくていいのに」
ξ゚听)ξ「だいじょぶ。痛みも弱まってきたし」
2人で玄関へ。
クールがローファーを履くのをツンが眺める。
足元を爪先で軽く蹴り、クールは顔を上げた。
ドアノブを捻る。
川 ゚ -゚)「お邪魔しました」
ξ゚听)ξ「また来てね。……そうだわ、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「はい?」
ξ゚听)ξ「これあげる」
ツンが、何かを差し出した。
掌に収まるサイズ。白くて四角い。
カイロだ。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:03:25.58 ID:G/0nelF+O
ξ゚ー゚)ξ「使い捨てだけど。おうちに帰るまでは、あったかいでしょ」
川 ゚ -゚)「……ありがとうございます」
ξ゚ー゚)ξ「どういたしまして。――帰り道は分かる?」
川 ゚ -゚)「大丈夫です」
ξ゚ー゚)ξ「それじゃ、またね」
川 ゚ -゚)「はい、また今度」
歩き出す。
敷地を抜け、大木の横を過ぎた。
カイロを揉みほぐし、コートの内ポケットに入れる。
じわじわ、熱が胸元に伝わり始めた。
川*゚ -゚)(あったかい……)
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:04:14.86 ID:G/0nelF+O
# # #
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:06:13.74 ID:G/0nelF+O
('A`)「ふむ……ふむむ……」
夜。鬱田家のリビング。
カイロを様々な角度から観察し、父が唸る。
('A`)「見た限り、特に変わったところはないな……」
川 ゚ -゚)「そりゃそうだろう」
またアパートへ行ったことを両親に話してカイロを見せたところ、
魔法使いの道具か、と父が言い出したのだ。
いかにも興味深いといった表情の父に、母が呆れたように溜め息をつく。
('A`)「ううううーむ」
川д川「お父さん、どんなに見てもただのカイロよ」
('A`)「でも、これ触ってると何か変な感じがするんだよなあ」
川д川「思い込みじゃないの?」
('A`)「いや、何か大事なことを忘れてるような気になってくるんだ。
……あれー? 俺、何忘れたんだっけ……?」
川д川「私が分かるわけないでしょ」
馬鹿にした口調ながら、母の頬が少し綻んだ。
お父さんの子供っぽいところが好きなのよ、といつぞや言っていた気がする。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:08:20.32 ID:G/0nelF+O
父は思い出すのを諦めたのか、クールの手にカイロを戻した。
まだ暖かい。
('A`)「しかし、吹雪の日にだけ会える魔法使いか……。何だかロマンチックだな。
いや待てよ、魔法使いじゃなくて雪女――」
川 ゚ -゚)「母さん、ホットミルクが飲みたい」
川д川「はあい。お母さんも飲もうっと」
(;'A`)「せめて最後まで聞いて!」
川 ゚ー゚)「はいはい、雪女が何だって?」
吹き出して、クールは父に向き直った。
妻と娘にないがしろにされがちだが、勿論、嫌っているわけではない。
こういう下らないやり取りが楽しいし、心地よくもある。
生き生きと話し出す父に返事をしながら、クールは思う。
幸せだと。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:10:24.22 ID:G/0nelF+O
リビングから部屋に帰ったクールは、机の上にカイロを放り投げた。
ストーブのスイッチを押す。
ぶうん、と音がした。
ベッドに寄り掛かり、編み針を持つ。
川 ゚ -゚)(ペース上げなきゃな……)
マフラーを渡したら、母はどんな反応をするだろう。
自分が手袋を貰ったときのように、喜んでくれたら嬉しい。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:12:54.10 ID:G/0nelF+O
――。
恐い。
――。
鋭い声がする。
――。
寒い。
嫌だ。
――。
殺される。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:14:23.27 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)
瞼を上げた。
ぼうっとしたまま辺りを見渡し、記憶を整理する。
カーペットの上に横たわっていた。クッションが頭の下にある。
手元に編み針とマフラー。寒気が一瞬走り、くしゃみをした。
編み物の途中で寝てしまっていたようだ。
変な夢を見た気がする。
時計に目をやった。
6時半。
川;゚ -゚)「……あれっ、もう朝なのか」
起き上がり、カーテンを開ける。
眩しい。
紛うことなき朝だ。
うたた寝して、そのまま夜を明かしてしまったらしい。
風邪を引いていないといいのだが。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:16:47.69 ID:G/0nelF+O
髪を手櫛で梳かし、パジャマの裾を引っ張った。
朝食をとってから学校に行く支度をしよう。
マフラーを拾い上げ、机の上に置く。
川 ゚ -゚)「……ん?」
違和感。
その正体はすぐに見付かった。
昨晩そこに置いたカイロが、破れていた。
中身が零れ出てしまっている。
川;゚ -゚)(……何でだ?)
自分で破いた記憶はない。
どこかに引っ掻けて穴をあけた覚えもない。
とりあえず下敷きを箒代わりにして、カイロをごみ箱に放り込む。
川;゚ -゚)(何か――安物だったとか。そういうのだろう。……多分)
己を無理矢理納得させ、部屋を出た。
リビングへ下りる。
カイロのことを父に話したら、大喜びで考察を始めそうだ。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:18:18.83 ID:G/0nelF+O
川 ゚ -゚)「なあ、父さ――」
父は既に席に着いていた。
コーヒーカップから口を離した父の顔を見て、クールは絶句する。
('A )「ああ、おはようクー」
――左目が、なくなっていた。
眼球が消えたとか、そういう話ではない。
本来ならば左目がある筈の場所が、肌に覆われているのだ。
そこだけ、のっぺらぼうみたいに。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:20:21.53 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)「……父さん?」
('A )「ん? 何かあったのか?」
川;゚ -゚)「目……左目は……」
('A )「左目?」
川;゚ -゚)「左目、な、ない……」
恐々、彼の顔を指差す。
すると、苦笑した父が首を傾げた。
「何を今更」と口を開く。
('A )「※※※※※じゃないか」
川;゚ -゚)「え……?」
('A )「※※※※※だよ」
分からない。
声は聞こえるのだけれど、まるで馴染みのない異国の言葉のように、その意味が理解出来ない。
それも、一部分だけだ。
他の言葉は、ちゃんと日本語に聞こえる。
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:22:15.43 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)「父さん、何言ってるんだ……?」
('A )「だから※※※※※だってば。どうしたんだ、何か変だぞ? クー」
意味は分からないが、その単語の響きは同じだ。
何かの名称なのだろうか?
クールが立ち尽くしていると、キッチンから、皿を持った母がやって来た。
川д川「あ、起きたのね、クー。おはよう」
川;゚ -゚)「母さん! 父さんが……!」
川д川「あらやだ、なあに、お父さんったらまた変なこと言ったの?」
(;'A )「『また』って何だよ母さん!? 俺はいつも真面目なことしか言わないよ!」
川д川「はいはい、そうですね。お父さん、パンに何つける?」
母は普段通りに接している。
気付いていないのか。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:24:15.95 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)「何で……」
川д川「クー、座ったら?」
椅子を引き、母が微笑む。
クールは、椅子、母、父を順繰りに見た。
父の右目と視線が絡む。
('A )「おーい、クー」
左目がない。
左目。
川;゚ -゚)
その平らな肌を見ていると、段々、クールの鼓動が早まりだした。
どくどく、どくどく。
呼吸が乱れる。苦しい。
目を逸らす。
その先に暖炉があった。
瞬間、悪寒が走る。
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:26:09.72 ID:G/0nelF+O
何か、妙な光景が脳裏を過ぎった。
真っ暗な。
川; - )「……っ!!」
――恐い。
クールは踵を返した。
呼び止める両親に、「出掛けてくる」と大声で答える。
自室からコートだけを持ち出したクールは、家を飛び出した。
あのリビングに、あの家に、いたくない。
無性に恐ろしい。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:28:28.80 ID:G/0nelF+O
ざくり、靴が雪を踏む。
今日は曇り空。雪は降っていない。勿論、吹雪いてもいない。
川; - ) ハァ、ハァ…
ふらふら、学校への道を歩く。
何故だか足が勝手に動いていた。
色々なものが頭の中を巡る。
両親。マフラー。暖炉。父の左目。
それらが混ざり合おうとして、結局交わることなく霧散し、散ったそばからまた浮かぶ。
両親、マフラー、暖炉、左目、手袋。
ああ、手袋を嵌めてくるのを忘れた。
戻る気にはなれないから、両手をポケットに入れる。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:30:15.38 ID:G/0nelF+O
――不意に、周囲の空気が変わった。
唾液を飲み込み、顔を上げる。
川;゚ -゚)
大きな樹。
赤い屋根。
また、あの場所に来た。
川;゚ -゚)「……今日は、吹雪じゃないぞ……」
吹雪いていない。
道を間違える筈もない。
無意識に来ていたのだろうか。
樹に凭れ掛かる。
しばらくすると、こつこつと足音が近付いてきた。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:32:10.75 ID:G/0nelF+O
( ^ω^)「あれ、クールさん」
川 ゚ -゚)「……内藤君」
( ^ω^)「今日も来たのかお、――って何か顔色最悪だお」
クールを見付けた内藤は、ゆったりとした足取りで向かってきた。
顔を覗き込まれる。
川 ゚ -゚)「……ツンさん」
( ^ω^)「お?」
川 ゚ -゚)「ツンさん、私に何か……してないよな? 変な、ま、」
川 ゚ -゚)「……魔法、でも、かけたとか」
言ってから、あまりの馬鹿らしさに気付いたクールは、顔を赤らめて俯いた。
内藤は沈黙している。
突飛な発言に面食らっているのかと思ったが、彼は出し抜けにクールの肩を掴んだ。
川;゚ -゚)「ひ」
( ^ω^)「何かあったのかお?」
川;゚ -゚)「……い、いや、ごめん、何でもない……」
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:34:53.28 ID:G/0nelF+O
視界の端に白いものがちらついた。
上から下へ、ひらひら落ちる。
雪。
内藤が空を見上げた。
( ^ω^)「雪が降ってきたお」
川;゚ -゚)「あ、ああ、そうだな」
( ^ω^)「……初雪だお」
川;゚ -゚)「――は?」
はつゆき、と言った。今。
何を馬鹿なことを。
ここ最近は、毎日雪が降っていたではないか。
それとも自分が知っているのとは違う意味合いなのか。
怪訝な顔をするクール。
だが、その直後、はたと思い至る。
足が竦んだ。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:36:27.15 ID:G/0nelF+O
こつこつ。先程、内藤の足音が鳴っていた。
この間は、こつこつ、クールの足音も鳴っていた。
靴が、剥き出しのアスファルトを打つ音だ。
川;゚ -゚)「……あ……」
見下ろす。
雪など積もっていない。
振り返る。
大木の向こうも同様に。
そんなわけないだろう。
ここら辺は雪が多い地域で。
初雪など、とっくに迎えていて。
毎日、雪が積もっている筈なんだから。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:38:07.50 ID:G/0nelF+O
顔を前へ向け直す。
内藤と目が合った。
( ^ω^)「……クーさんの方じゃ、雪が降ってるんだおね。
昨日もこの間も、雪がくっついてたから」
川;゚ -゚)
肌が粟立つ。
――ここは、どこだ。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:40:19.89 ID:G/0nelF+O
川;゚ -゚)「……放せ!!」
(;^ω゚)「ぶげっ!!?」
クールは内藤の腹に膝をぶち込んだ。
内藤が腹を押さえる。
その隙に、身を翻して駆け出した。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:41:36.00 ID:G/0nelF+O
(;^ω^)「……あンの、アマ……!」
内藤は腹を摩りながら、走り去るクールを睨みつけた。
口元だけは相変わらずにたにたと笑っていたが、若干引き攣っている。
小走りでアパートへ向かう。
ドアを開けて部屋に入り、リビングに飛び込んだ。
ξ゚听)ξ「あら内藤」
(;^ω^)「ツンさん!」
コンビニの弁当を食べていたツンに、今さっきの出来事を話す。
聞き終えると、ツンは緑茶のペットボトルで内藤をぶん殴った。
ξ#゚听)ξ「余計なことしてんじゃないわよ!
じっくりやってこうと思ったのに――この馬鹿!」
弁当に蓋をして、ツンは寝室へ移動した。
しばらく向こうで何かしていたかと思うと、
大きな鞄を引っ提げて戻ってくる。
その鞄を内藤に押しつけた。
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:43:27.05 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「こうなったら仕方ないわ。
予定より早いけど、とどめを刺さなきゃ」
( ^ω^)「とどめですかお」
ξ゚听)ξ「不幸のどん底に叩き落とすのよ」
ツンが険しい表情を浮かべた。
真っ赤な瞳に、強い意志が篭る。
その目が好きだ。
内藤は彼女を見つめ、しっかりと頷いた。
( ^ω^)「……そんじゃ、行きますかお、レーズンさん」
ξ゚听)ξ「ええ、行きましょう、チェリー君」
( ^ω^)「うるせえババア」
ξ゚听)ξ「じゃあレーズンさんってのやめろ地味に傷付くから」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:44:04.79 ID:G/0nelF+O
# # #
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:46:03.01 ID:G/0nelF+O
角を曲がり、走る。
ざくざく、靴底が雪を踏みつける。
息が荒い。
冷気が喉に潜り込む。
川;゚ -゚)
クールは、足を止めた。
白い呼気が、ゆるりと漂い、消えていく。
川;゚ -゚)「何だ……これ……」
銀世界。
多分、みんな、そう表現するだろう。
真っ白だった。
辺り一面を雪が覆っている。
その雪原の真ん中に、ぽつんと我が家が一軒。
辺りを見回す。
すぐ傍にあった筈の隣家は、随分離れたところにある。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:48:18.82 ID:G/0nelF+O
こんな光景知らない。
クールが知っているのは、もっと、家々が密集した住宅地だ。
こんな広々とした土地、知らない。
知らないのに――懐かしい。
川;゚ -゚)「あ、う……」
体が冷え、震え出す。
寒さだけが原因ではなく。
どうしようもなく、恐い。
ここは、この場所は、恐い。
逃げなければ。
でないと。今にも。あの家から、あいつが、
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:53:21.01 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「みーつけた」
川;゚ -゚)「わ……!」
冷えた手が、クールの耳を引っ張った。
振り払い、距離をとる。
ξ゚听)ξ「おはよ」
( ^ω^)「さっきぶりだお、クールさん」
ツンだ。
赤いコートを纏っている。
彼女の斜め後ろには、鞄を背負った内藤。
川;゚ -゚)「な、何で、ここ……っ」
ξ゚听)ξ「何でもなにも、歩いてきたらここに出たわよ」
ツンが後方を親指で示した。
2人の後ろに真っ直ぐ道が伸びている。
その先に、大木とアパート。どちらも見覚えがある。
クールは目を疑った。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:54:56.08 ID:G/0nelF+O
どうして。
自分は角を曲がって、しばらく走ってきた筈なのに。
どうして。すぐそこに、アパートが。
おかしい。
おかしい。
分からない。
川; - )
頭が痛い。
意識がぐらぐら揺れる。
意識がぐるぐる回る。
後ずさろうとしたが、足が震えて、その場に尻餅をついてしまった。
ツンが近付いてくる。
来るな。寄るな。
彼女がいると、駄目だ。
彼女がいたら――おかしくなってしまう。
ξ゚听)ξ「クーちゃん」
ツンの手がクールへ伸びる。
冷たい指先に、頬を撫でられた。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/28(水) 23:56:45.84 ID:G/0nelF+O
ξ゚听)ξ「子供ってね、危ないのよ。
大人には見えないものが見えたり、
大人には行けない世界に行けたりするの」
指も声も優しい。
聞きたくもないのに、彼女の話が耳から流れ込み、頭に溜まっていく。
「だからね」と、ツンは言葉を繋いだ。
ξ゚听)ξ「あまりにも辛くて苦しくて悲しいことがあったら――」
ξ゚听)ξ「別の世界に逃げ込んじゃう子が、たまにいるのよ」
地面が揺れる。
遠くにある隣家が、雪のように、すっと溶けて消えた。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:00:06.39 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「うー、うう……」
恐怖と不安が込み上げてきて、クールの目から涙が零れた。
聞いてはいけない。
彼女の話を聞いてはいけない。
だが、目の前にしゃがみ込んだツンは、優しく喋り続ける。
ξ゚听)ξ「ここまで『世界』が崩れてきたってことは、
あなたは現実に近付いてきてるってことなのよ。
落ち着いて話を聞いて、現実を受け止めてちょうだい」
川 ; -;)「やだ……」
ξ゚听)ξ「……内藤」
( ^ω^)「はいお」
内藤が鞄から雑誌を何冊か取り出した。
それを確認して、ツンが再び口を開く。
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:02:22.83 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「鬱田クール。調べてみたら、たくさん情報が出てきたわ。
雪国の田舎に住んでる、小学……5年生だったかしら?」
( ^ω^)「6年生ですお」
ξ゚听)ξ「ああ、6年。『事件』当時で6年生だから、今は高校生くらい。
どうやら時間だけは現実世界と同じように流れてるみたいね。
日付は変わらないようだけど」
ξ゚听)ξ「クーちゃん。今日は何日?」
川 ; -;)「……?」
唐突な質問に、思考が止まる。
ゆっくりと意味を咀嚼して、震える声で答えた。
川 ; -;)「12日……」
ξ゚听)ξ「……うん」
既視感。
前に、似たような応答をした。
あのときも、たしか、
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:04:32.30 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「この間も、12日って答えたわね、クーちゃん」
川 ; -;)
ξ゚听)ξ「現実じゃあ、もうクリスマスだって過ぎてるのよ」
パジャマに、溶けた雪が染み込む。
冷たい。
クールはツンの台詞について考えることを放棄して、雪の冷たさにだけ意識を注いだ。
ξ゚听)ξ「クーちゃん、冬以外の季節に何をしてたか思い出せる?」
ξ゚听)ξ「いつからマフラーを編んでたか思い出せる?
……この間見せてもらったときと、昨日見せてもらったとき、
マフラーの長さは変わってなかったわ」
ξ゚听)ξ「あなたは、ずっと12月12日の中にいるのよ。
事件の前日のね」
ああ。
雪が、冷たい。
直接触れている掌から、感覚がなくなってきた。
しもやけになってしまう。
手袋をつけてくれば良かった。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:08:07.88 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「ねえクーちゃん。あなたの家に、暖炉はある?」
川 ; -;)
耳に入った単語に、冷たさを忘れた。
問いに答えるのを待たず、ツンはクールの家を見遣る。
煙突、と呟いた。
ξ゚听)ξ「あるわね」
川 ; -;)「し、知ら、な、……知らない、そんなの知らない……」
否定する。
認めてはいけない気がして。
ξ゚听)ξ「それなりの大きさなんじゃない?
たとえば――子供が入れるくらいの」
川 ; -;)「知らない!! だ、だん、ろ、なんか、」
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:10:42.37 ID:wopw5YpwO
ツンが後ろに手をやり、内藤が雑誌を一冊渡す。
週刊誌らしい。随分色褪せている。
ツンは、付箋の貼られたページを開いた。
表紙には芸能人のスクープやら何やらの文字が踊っている。
その中でも一際大きな文が、クールの目を引いた。
ξ゚听)ξ「あなた、暖炉の中に閉じ込められることが多かったそうね」
――「小6女児、父親殺害の真実」。
- 104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:12:36.97 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「……さつ……」
ξ゚听)ξ「扉付きの暖炉で。
父親がちょっとでも気に入らないことがあったら、
そこに入れられて扉を閉められて、彼の気が済むまで出してもらえなかった」
ξ゚听)ξ「時には、あなたが何もしていなくても、
ただの八つ当たりとして閉じ込められる日もあったわね。
当時のニュース番組や雑誌でそのことが報じられているわ」
ξ゚听)ξ「母親と、……あなたの証言としてね」
じわじわと、奥底から記憶が滲み出てくる。
怒りの形相を浮かべた父に抱えられ、暖炉の中に入れられて、扉を閉められて、鍵がかけられる。
真っ暗で、寒くて、狭くて、苦しい。
泣きながら謝っても彼は聞いてくれやしなかった。
翌朝になってようやく解放されることだって、何度も。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:14:50.99 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「……しない……」
ξ゚听)ξ「ん?」
川 ; -;)「父さんは、そ、……そんなことする人じゃない!」
ツンから雑誌を奪い取り、表紙を破く。
クールがページを引き千切っていくのを、ツンも内藤も、黙って眺めていた。
紙が舞う。
膝の上の紙片に涙が落ちて、染みが出来た。
ξ゚听)ξ「記事なら他にもあるわよ。内藤が持ってる鞄に、たくさん」
川 ; -;)「ま、まほ、う……」
ξ゚听)ξ「魔法?」
川 ; -;)「これだって、ぜ、全部、あんたの魔法なんだ……。
……魔法使っておかしくさせてるんだろ!?」
雑誌の残骸を、ツンに叩きつける。
肩で息をしながら、クールは彼女を睨んだ。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:16:13.85 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「私は魔法なんか使えないわ」
川 ; -;)「嘘だ! だって、私の足、怪我、」
ξ゚听)ξ「あれは――」
ξ;゚听)ξ「ぷぎゃっ!!」
( ^ω^)「あ」
答えようとしたツンを、突き飛ばす。
珍妙な悲鳴をあげて後ろに倒れ込んだ彼女に、丸めた紙を投げつけた。
腰を上げ、家に向かって駆ける。
一度振り返ると、追いかけようとしたツンが雪に足をとられて、内藤を巻き添えにして転んでいた。
川ぅ -;)
我が家に入り、涙を拭いながらリビングへと急いだ。
両親を連れて逃げよう。
嫌な記憶も、消えた隣家も、父の左目も、全部ツンの「魔法」の仕業なのだ。
あの女から離れれば、きっと、いつも通りの日常に戻る。
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:18:06.53 ID:wopw5YpwO
川;゚ -゚)「父さ……」
リビングに飛び込んだクールは、口を開いたまま、硬直した。
そんな彼女に、朝食をとっていた両親が微笑む。
川ー川「どうしたの、クー」
母の顔は、あちこちが変色していた。
頬や口の端、目の周りに赤と紫の痣。
('A゚)「おいおい、この寒いのに、汗なんかかいてるじゃないか」
家を出る前とは打って変わって、父の左目は定位置にあった。
だが、目玉が潰れ、だらだらと多量の血が流れ落ちている。
('A゚)「風邪引いたら大変だ、汗拭いたらどうだ」
川д川「そうね。待ってねクー、タオル持ってくるから」
母が、テーブルに手をついて腰を上げた。
左手の小指が不自然に曲がっている。
まるで、骨でも折れたみたいに。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:20:31.20 ID:wopw5YpwO
川;゚ -゚)「め、目、……母さんも……」
('A゚)「何だ、またそれか?」
('A゚)「『お前のせい』だって、何度言ったら分かるんだよ、クーってば」
川; - )「――」
叫びもあげられない。
クールはリビング横の階段を駆け上がった。
自室に入り、ドアを閉める。
ドアノブを握ったまま、ずるずると座り込んだ。
おぞましい光景が脳裏を巡っていく。
こんなの、ツンの「魔法」が作ったものだ。
なのに、いやに現実感を伴って、ずしりと心の中に積もっていった。
- 113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:22:34.40 ID:wopw5YpwO
――からからと。
背後から音がした。
窓が開くような。
川;゚ -゚)「えっ」
ξ゚听)ξ「よっこいしょういち」
死語を放ちながら、ツンが窓枠を乗り越えてきた。
土足のまま室内に降り立つ。
さらに、続けて内藤までやって来た。
部屋に入るや、窓の外から梯子が引き上げられる。
( ^ω^)「お邪魔しますおー」
梯子を折り畳む内藤。クールは何も言えなかった。
彼らへの恐怖よりも先に、呆れが沸き上がる。
そこまでするか。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:25:19.88 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「ニュースでやってた間取りが合ってて良かったわ。
……駄目よクーちゃん、鍵はちゃんと閉めなきゃ。不用心よ。
こんな風に侵入されちゃうんだから」
( ^ω^)「どうせ鍵閉まってたら窓割ってたでしょうに」
ξ゚听)ξ「まあね」
クールがドアに背を押し当てる。
ツンは部屋の真ん中に立つと、腕を組み、クールを見据えた。
ξ゚听)ξ「クーちゃん、話を聞いてくれないかしら」
川;゚ -゚)「話って、何の……」
ξ゚听)ξ「そうね、まずは『この世界』の話」
内藤、と言ってツンが顎をしゃくる。
呼ばれた内藤は、巻物のように丸められた紙を顔の横に掲げた。
ツンの隣に立ち、紙を広げる。
ξ゚听)ξ「ツンちゃんの解説コーナー!」
何か始まった。
- 115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:27:18.64 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「はい注目ー。さっき言ったことの復習みたいなもんなんだけどね」
場違いに明るい声で言い、彼女は紙を指差した。
そこには、二つの円が並んでいた。
左側の円には「現実」、右側の円には「逃げ場」と書かれている。
コートのポケットからペンを抜き取り、ツンは、「現実」のところに棒人間を描いた。
ξ゚听)ξ「子供ってのは不安定な存在なの。
この世のものではない――幽霊とか、そういうのを見やすいってのはよくある話ね」
ξ゚听)ξ「まあ要するに、異界とチャンネルが合いやすいってこと。
ここまではいい?」
( ^ω^)「断言出来るけど、絶対呆気にとられてますお」
川;゚ -゚)(うん)
ξ゚听)ξ「マジで? まあいいわ。
で、現実で、ものすごーく嫌なことが起きたとするわよ」
棒人間の傍に、真っ黒い、妙にとげとげしたものが描かれる。
線のブレっぷりから判断すると、多分、彼女は絵が下手だ。
- 117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:29:55.51 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「するとね、ごく稀にだけど、現実から異界へ逃げちゃう子が出てくるの。
よく聞く神隠しってやつの中には、この現象が原因と見られるものも多いわね」
「現実」から「逃げ場」に矢印が引かれた。
「逃げ場」の方に棒人間を描き込む。
ξ゚听)ξ「これを、エクストリーム現実逃避と言うわ」
( ^ω^)「言いませんお」
ξ゚听)ξ「今日から言うことにするわ」
( ^ω^)「言いませんお」
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:31:46.28 ID:wopw5YpwO
――ものすごく、嫌なこと。
胸が、早鐘を打つようだ。
暑くもないのに汗が滲む。
ξ゚听)ξ「……この『逃げ場』は、子供の――まあ何ていうか、理想の世界なわけ」
卵に罅が入るイメージが、クールの頭に浮かぶ。
割れてしまう。壊れてしまう。
ξ゚听)ξ「たとえば現実での『嫌なこと』が両親の不仲なら、逃げ場には仲良しな両親がいる。
貧乏で苦しい生活が『嫌なこと』なら、逃げ場ではお金持ちになれる」
罅が広がる。
ぴしぴし。きしきし。
ξ゚听)ξ「つまり」
ああ、ああ。
ξ゚听)ξ「その子が幸せに暮らせる世界を、自分で作っちゃうの」
幸せが零れ落ちる。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:34:14.96 ID:wopw5YpwO
川 - )
ξ゚听)ξ「内藤、あれ、何だったかしら。こがねのはしら?」
( ^ω^)「金の柱霜雪に朽ちて、既に頽廃空虚の草村となるべきを」
ξ゚听)ξ「それ。四面新たに囲みて、甍を覆ひて風雨を凌ぐ――ね。
たとえるなら、そういうこと。
放っておいたらぼろぼろになっちゃうから、心を守るための防御壁を張るのよ」
ξ゚听)ξ「……クーちゃんのお父さん、元々は普通の人だったのよね?」
ξ゚听)ξ「だけどリストラにあって、再就職も上手くいかなくて、荒れていった」
川 - )
首を横に振る。
関係ない。
そんなの、この家には、何も。
- 122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:36:08.92 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「あなたが警察の人に自分で話したことでしょう?」
川 - )「……ちが……」
ξ゚听)ξ「違わないわ。
……お父さんは暴力を振るうようになった。
あなたにも、お母さんにも」
父に殴られる記憶が、浮かんでは沈む。
どれも、状況が別々だ。
何度も、殴られた。
ξ゚听)ξ「暖炉に閉じ込めるのも虐待の一種だったのよね。
……そんな日々が何年も続いて。
今から5年前に、あなたは――」
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:37:16.84 ID:wopw5YpwO
# # #
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:39:23.35 ID:wopw5YpwO
12月13日。
その日は、マフラーが完成した日だった。
手芸が好きな母は、そういったことに使う道具をいくつも持っていた。
クールは一組の編み針をこっそり借りて、
なけなしの小遣いで買った毛糸でマフラーを編んだ。
最近は父の暴力が激しさを増していたから。
少しでも、母を喜ばせたかった。
川*゚ -゚)『出来た……』
夜。自室。
マフラーを翳し、クールは、ほっと息をついた。
商品のように綺麗に、とはいかなかったが、不格好というほどではないだろう。
用意していた紙袋にマフラーを詰め、編み針を抱える。
母は、明日の朝早くからパートに行かなければならない。
今の内に渡した方がいい。それで、勝手に編み針を借りたことを謝ろう。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:40:31.71 ID:wopw5YpwO
川 ゚ -゚)『……?』
部屋を出ると、階下から、母の悲鳴が聞こえた。
ぎょっとしたクールは、急いで階段を駆け降りた。
声はリビングから響いている。
父の怒鳴り声もしたから、何が起きているのか、容易に想像出来てしまった。
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:42:52.74 ID:wopw5YpwO
(#'A`)『俺のこと馬鹿にしてんだろ!? 邪魔者だって思ってんだろ!!』
川;д;川『ご、ごめ、なさ、っあう……!』
そこに広がる光景に、クールは慄然とした。
床に横たわる母を、父が殴る。
その力と勢いが、いつにもまして凄まじい。
母の顔中に痣が出来て、辺りには、血痕らしきものがあった。
拳から庇うように伸ばされた左手は、小指が有り得ない方向に曲がっている。
(#'A`)『死ね! 死んじまえ!!』
川;д;川『ああああっ……!!』
左手を踏みつけ、父が母の髪を引っ張り上げる。
悲鳴の合間に、ぶちぶち、痛々しい音が混じった。
母が泣いている。
血が散っている。
父への恐怖よりも、母が死んでしまうという不安の方がクールの頭を占めていた。
川;゚ -゚)『母さん――』
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:43:51.54 ID:wopw5YpwO
# # #
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:45:35.68 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「あなたは父を止めようとしたけれど、
邪魔されたことに怒った彼は、標的をあなたに変えた」
ツンの言葉に引き上げられた惨状の記憶が、クールの体を震えさせた。
力が入らない。
ξ゚听)ξ「さぞ恐かったでしょうね。
今度は自分が同じ目に遭わされると思ったかもしれないわ」
川 - )「……やめて……」
ξ゚听)ξ「だからあなたは、父が掴み掛かってきたとき、咄嗟に、」
川 - )「……言わない、で」
ξ゚听)ξ「持っていた編み針を、彼の目に刺した」
視界に広がった鮮血。掌に伝わった感触。
臭い。音。
あのときの感覚が蘇る。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:47:10.68 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「うあ、ああ……」
ξ゚听)ξ「あなたは父から離れて、家を飛び出した。
血のついた編み針を持ったまま」
川 ; -;)「やめて、や、やめて、くださ、お願い、お願いだから、もう、やだ、やだ……」
近付いていく。
一番嫌な場面へ近付いていく。
目を瞑り、耳を塞ぐ。
そんなことをしても、彼女の中では、既に全ての場景が姿を現していた。
ツンの話を聞いても聞かなくても、もはや、現実がすぐそこまで迫っている。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:49:07.52 ID:wopw5YpwO
――左目を突き刺した後、外に逃げたクールは、足の震えにより転んでしまった。
父が追いかけてくる。
彼は倒れているクールに手を伸ばした。
殺してやるという声が聞こえる。
雪原の上で争い、もみ合い、そして。
折れた編み針を、今度は。
父の首に。
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:51:22.24 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「あ、あ、」
耳から手が引き剥がされる。
目を開けると、滲んだ視界に内藤が映った。
( ^ω^)「運悪く動脈が傷付けられ、彼は死んだお。
君は父を殺してしまった。
その『現実』に耐え切れなくなって――ここに逃げてきたんだお」
ξ゚听)ξ「ここは幸せだったでしょう。
優しいお父さんがいて、家族の仲が良くて」
言わないで。
もう何も、これ以上。
ξ゚听)ξ「でもね、クーちゃん。今がチャンスなのよ。
今ならクーちゃんは『ちゃんと』戻れる筈だわ」
川 ; -;)「……ちゃ、ちゃんと……?」
ξ゚听)ξ「この世界は、いずれ、あなたが成人すれば消え去るの。
そのときになっていきなり現実に放り出されるより、
全てを受け入れて現実へ帰った方がいいでしょう?」
きょろきょろ、ツンが辺りを見渡す。
ごみ箱を見付けると、その中から破れたカイロを持ち上げた。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:53:08.31 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「やっぱり壊れてたわね」
川 ; -;)「それ、昨日の、……」
ξ゚听)ξ「……ここの世界はね、現実で受け取ったものは破壊したり排除したりするの。
現実のものがこっちにまで来てしまったら、ここが現実に近付いてしまうから」
ξ゚听)ξ「『受け取った』と見なされるのは、たとえば飲食したものだとか装飾具だとか、
……傷だとか」
手を広げる。
カイロは、ごみ箱の中に落ちていった。
ξ゚听)ξ「食べたパンを吐き出そうとしたわね。
怪我もすぐ治った」
川 ; -;)「……魔法は……」
ξ゚听)ξ「あれはちょっとしたジョークみたいなもんよ。
魔法が使えるなら、自分の足だってさっさと治してるわ」
ツンが右足を前に出す。
彼女が小指を痛めて泣いていたのを思い出し、クールは脱力した。
それは、たしかにそうだ。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:55:49.90 ID:wopw5YpwO
「――クー」
川 ; -;)「!」
ドアの向こうから、母の声がした。
内藤がクールの口を塞ぎ、引きずるようにドアの前から離れる。
川 ; -;)「ん……!」
「何だか、今日は変よ。具合でも悪いの?」
ξ゚听)ξ「……」
ツンがドアへ歩み寄った。
コートのポケットから出したものを、右手に構える。
クールの背に、冷や汗が流れた。
――ナイフ。
ξ゚听)ξ「幸せに浸かりたいのも分かるけどね。放っておいたら、後々不幸になるかもしれない。
……だから、今の内に――」
ドアを乱暴に開け、ナイフを振りかぶる。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:57:11.93 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「あんたの幸せ、ぶっ壊してやるわ」
内藤の手が、クールの口から目元に移動した。
言葉にもならない呻きのような声が聞こえる。
直後、ごぽりと、くぐもった音が響いた。
何かの倒れる音。ドアの閉まる音。
遠ざかる、靴底が鳴らす硬い足音。
耳からしか得られぬ情報が、嫌な想像を掻き立てた。
内藤の手が下ろされる。
室内には、既に、ツンはいなかった。
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 00:59:09.56 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「母さっ……」
( ^ω^)「見ちゃ駄目だお」
ドアに駆け寄ろうとしたクールを、内藤が押し留める。
クールは内藤を睨みつけた。
川 ; -;)「刺したのか? ――母さんのこと殺したのか!?」
( ^ω^)「あれは君のお母さんとは違う。
君が作った、母親もどきだお」
息を呑む。
「もどき」という、たったそれだけの言葉が、胸を引き裂いた。
川 ; -;)「……何で……母さん、刺さなきゃいけないんだ……」
( ^ω^)「この世界を壊すためだお。
クールさんを完全に現実に戻すためにも、
こっちの世界を――幸せをぶち壊すんだお」
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:01:13.59 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「君は寧ろツンさんに感謝するべきだお?
世界の崩壊を実感させるために、子供本人に親を殺させる奴もいる。
そいつらに比べりゃ、代わりにやってくれる分あの人の方が優しいんだから」
川 ; -;)「……ツンさん以外にも、こんなことする奴がいるのか」
( ^ω^)「だお。同業者ってやつ」
同業者。
以前、ツンの仕事について訊ねた際、人の幸せを壊すことだと言っていた。
これが――彼女の仕事なのか。
( ^ω^)「世の中には、異界と交わりやすいスポットってもんが存在するお。
たとえばツンさんが住んでるところとか。
多分、あの無駄に御利益ありそうな樹のせいだおね」
( ^ω^)「たまに、そのスポットに引っ掛かって、
異界から現実に足を踏み入れる子がいるんだお。君みたいに」
そういった「迷子」を捕まえて現実に戻すのがツンの役目なのだと。
内藤が説明する。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:03:20.73 ID:wopw5YpwO
川 ; -;)「……なら……」
( ^ω^)「お?」
川 ; -;)「お前たちの話が本当なら――何で放っといてくれないんだ!
どうせ成人したら、『あっち』に戻るんだろう!?
それならその日までここで暮らさせてくれよ、……ここにいさせてくれよ!!」
内藤の胸ぐらを掴む。
だが、すぐに力が抜けた。
顔を伏せる。未だ止まらない涙が、ぽたぽたと落ちた。
( ^ω^)「……普通の体のままで帰れるとは限らないお」
川 ; -;)「え……?」
( ^ω^)「異界に長く居すぎた場合、何かしらの後遺症が残ることがあるんだお」
( ^ω^)「時が進まない世界を望んで、そこに10年も住んでいた人がいたお。
彼は現実に戻った後、何年経っても何歳になっても、
10歳の少年の姿から成長することがなかった」
( ^ω^)「逆に早く大人になることを望んだ少女は、
まだ20歳も迎えていないのに、顔も体もお婆さんになってしまったお」
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:06:37.21 ID:wopw5YpwO
クールの顔を持ち上げ、内藤は目線を合わせた。
そして、笑みを浮かべ続ける自身の口元を指差す。
( ^ω^)「……僕も、ずっと笑っていられる世界を望んだおかげで、このザマだし」
「僕も」。
その台詞の意味を理解するのに、数秒かかった。
それは。要するに。
彼も、クールの仲間だったということ。
( ^ω^)「そりゃ、君の気持ちも痛いほど分かるお。
だけどクールさん、これ以上ここにいたら、
君も何かしらの後遺症に苦しめられることになるかもしれないんだお」
川 ; -;)「……」
( ^ω^)「……だから」
( ^ω^)「ツンさんを、信じてあげてくれお」
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:07:54.11 ID:wopw5YpwO
# # #
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:10:42.53 ID:wopw5YpwO
('A゚)
リビングの床に崩れ落ちた男を見下ろし、ツンは眉根を寄せた。
男の首から吹き出る血が、靴を汚す。
ξ゚听)ξ「……きもちわる」
呟き、舌打ちした。
近くにあったソファにナイフを擦りつける。
この男も先程の女も、人間に似てはいるが、本物のそれではない。
クールが作り上げた世界で生み出された、まったくの別物だ。
だからといって――やはり、殺すことに対して何も思わないわけでもない。
ナイフを畳み、ポケットにしまう。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:12:37.90 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ(……)
室内の様子を視界に収めた。
テーブルや椅子、壁が、ぐにゃぐにゃと形を変えている。
この歪みは、クールの動揺に同調していることによるもの。
放っておいても、やがて壊れるだろう。
ツンが壊すべきなのは、
ξ゚听)ξ(あれね)
微動だにせず、そこにどっしりと存在している――暖炉。
扉には閂が掛かっている。
ツンは、暖炉の前に立った。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:13:06.91 ID:wopw5YpwO
# # #
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:15:09.56 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「じょっきじょっきじょっき」
川;゚ -゚)「ちょ……」
開いた口が塞がらない。
いきなり内藤が鋏を取り出したかと思うと、
クローゼットの中の制服を切り刻み始めたのだ。
( ^ω^)「シベリア学園ってのは、君の住んでるところじゃ有名な学校らしいおね」
川;゚ -゚)「あ、ああ……」
( ^ω^)「……君は、あの学園に入りたかったのかお?」
川 ゚ -゚)「そりゃあ、……入りたかったよ」
――シベリア学園に憧れていた。
奨学金を申し込んで進学するつもりだった。
いい学校に入れば、将来、幸せになれると。
母も幸せに出来ると。
そう思ったから。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:18:20.83 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「そういう、こっちに未練が残りそうなもんは壊すんだお」
制服を粗方切り終えると、内藤は机へ歩いていった。
手袋を切り開く。
川;゚ -゚)「あああああ!?」
( ^ω^)「じょっきん、と。はい」
川;゚ -゚)「母さんが作っ……おま……え、……え?」
驚愕しているクールの手に、鋏が乗せられた。
マフラーを掴んだ内藤が、向かいに座る。
( ^ω^)「切るお」
川;゚ -゚)「なっ……」
( ^ω^)「全部受け入れて、それで、これを切ってしまうんだお」
何ともあっさりと編み針からマフラーを抜き取ってくれた。
何てことを。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:22:49.47 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「ほら真ん中からばっさりと。ほれほれ」
川;゚ -゚)「ばっさり……」
それは、クールが母のために作ったものだ。
こう言っては恥ずかしいが、心を込めて。
なのに、切るなんて、そんな。
躊躇うクールに焦れたか、内藤が深々と息を吐き出す。
( ^ω^)「甘えんなお」
川;゚ -゚)「あ、甘えてるとかじゃ……!」
( ^ω^)「これは、いわば決別だお。
君がこの世界を否定しなきゃ、現実に戻っても
いつかまた、ここに来てしまうかもしれないんだお」
( ^ω^)「……頼むから、ツンさんの努力を無駄にしないでくれお」
川;゚ -゚)「でも」
( ^ω^)「……」
川; - )「だって、……だって」
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:23:46.89 ID:wopw5YpwO
# # #
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:26:38.16 ID:wopw5YpwO
ξ#゚听)ξ「壊れNEEEEEEEEEEEEEEE!!」
苛立ちを込めて、ツンは暖炉の扉を蹴飛ばした。
が、びくともしない。
痺れる足に涙目になりながら、その場にしゃがむ。
ξ;゚听)ξ「くっそー、扉さえ開けば何とかなるんだけど……」
閂が動かないのだ。
これを外せられたら、決定的な「破壊」を行えるのだが。
ξ;゚皿゚)ξ「んぎぎぎぎっ……!!」
閂を握り、引っ張る。
ざらざらした表面のせいで、皮膚が僅かに裂けた。
ξ;゚皿゚)ξ「ぃいいっっっ……てえええええなあああああ! おんどりゃあ!!」
渾身の力を込めたが、手が滑っただけだった。
後ろに向かって思いきり倒れ込む。
男の顔面に後頭部を打ちつけた。
ξ;゚听)ξ「ぴぎゃあああああ!!」
髪から頬まで、べったりと男の血が付着する。
コートの袖で必死に顔を擦った。
やはり人間の血液とは少し違う。
数回拭っただけで、髪も顔も綺麗になった。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:30:27.06 ID:wopw5YpwO
ξ;;)ξ「あーん、もうやだあ、内藤助けてぇえ……」
思わず、情けない独り言が漏れた。
自分は女なのだ。か弱いか弱い女なのだ。
こういうのは男の仕事なのだから、内藤に任せるべきである。
本気でバトンタッチしてやろうか。
いや、あの生意気なクソガキに泣きついたところで、馬鹿にされて終わりだ。
2年前に異界から連れ出してやったというのに、恩を感じる素振りなど欠片も見せない。
きっと今もクールにツンの悪口でも言っているのだろう。
絶対にそうだ。後で殴ろう。
濡れ衣を着せて満足したツンは、内藤への怒りを力に変えて、再び閂を握り締めた。
開かない暖炉。
これも、クールの望みの一つ。
開かなければ、中に入れられることがないのだから。
ξ#゚听)ξ「絶対にぶっ壊したる……」
- 161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:31:34.38 ID:wopw5YpwO
# # #
- 163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:34:29.60 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「……クールさん」
しばらく沈黙していたクールは、内藤の声に、びくりと肩を跳ねさせた。
( ^ω^)「君はただの殺人犯じゃないんだお」
川;゚ -゚)
ぎゅう、と心臓が痛む。
殺人という響きがのし掛かる。
( ^ω^)「自分や母親を守るための行動だったんだから」
内藤は、鞄から青いファイルを出した。
開き、クールに見せる。
ファイルには、新聞の記事や、インターネットの掲示板を印刷したものなどが挟まれていた。
内藤がページを繰っていく。
( ^ω^)「どこにも君を非難する声はないおね」
川 ゚ -゚)「……ん」
( ^ω^)「ああするしかなかったんだお。
正しいかは知らないけれど、少なくとも、あのときは、それしか手段がなかった」
- 164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:35:48.91 ID:wopw5YpwO
彼の言葉は、とても甘美なものに思えた。
責められずに、寧ろ褒められているような気さえしてくる。
けれど。けれども。
( ^ω^)「そういうことでいいじゃないかお、クールさん」
川 ゚ -゚)「……それを」
( ^ω^)「お?」
川 ゚ -゚)「それを、受け入れたら」
川 ゚ -゚)「……私が父を殺したのを、認めるってことじゃないか」
ぽつり。
呟き、唇を噛み締めた。
( ^ω^)「……クールさん」
川 ゚ -゚)「分かってる。分かってるよ。君たちが正しいんだ。
ここは現実世界じゃない。それはもう理解したんだ」
川 ゚ -゚)「でも」
川 ; -゚)「……でも、駄目だ、恐いよ、まだ――こ、恐い……」
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:37:45.13 ID:wopw5YpwO
鋏を取り落とす。
視界が歪む。
カーペットの柄が、ベッドが、机が、曲がって、揺れる。
その中で、内藤と彼の持ち物、マフラー、そして自分だけが、元の形を保っていた。
自分も歪んでしまえたらいいのに。
そのまま、崩れて、潰れられたら。
( ^ω^)「僕は、別に、君の中にある罪悪感を忘れろとは言ってないお」
川 ; -;)
内藤が囁いた。
鋏を拾い、もう一度クールに握らせる。
( ^ω^)「忘れなくていいお。向き合わなくてもいいお。
悩みたいなら悩んでいいし、苦しいのが嫌なら目を逸らしていていいお。
ただ、全てをなかったことにして、自分だけの世界に閉じこもるのは駄目だお」
クールがしっかり鋏を持ったのを確認すると、マフラーを広げた。
クールの手元に差し出す。
- 166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:41:24.92 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「大丈夫だお」
川 ; -;)
( ^ω^)「『あっち』に戻ったら、ツンさんが君の暮らしを作ってくれるから」
その瞬間。
内藤のにたにたした笑顔が、少しだけ。
にっこり、柔らかなものに変わった。
川 ; -;)「……」
内藤とマフラーを交互に見て、クールは、
マフラーの真ん中に、鋏を入れた。
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:43:04.49 ID:wopw5YpwO
ξ;゚听)ξ「ほげっ!!」
すっぽ抜けた。
何がって、閂が。
またすっ転びそうになったのを、何とか踏みとどまる。
ξ;゚∀゚)ξ「いよっしゃあ! ナイス私! イェア! さすが! さすがよ私!
流石私者! 流石だよな私ら! 私しかいねえわ!!
オンリーワン! 美女!!」
人に聞かれたら恥ずかしいレベルの独り言をかましながら、扉を開ける。
暖炉の中は真っ暗だ。
ここに閉じ込められるのは、さぞかし不安だったろう。
ξ゚听)ξ「さあーて、いきますかあ」
後ずさりをして、充分に距離をとる。
ナイフが入っていたのと同じポケットから、あるものを取り出した。
ちょっとした「準備」をし、それを暖炉の中に放り投げる。
楕円形。
まあ、所謂、
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:43:33.54 ID:wopw5YpwO
――手榴弾だ。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:44:10.19 ID:wopw5YpwO
# # #
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:46:12.76 ID:wopw5YpwO
川; - )「う……うう……」
クールは、くらくらする頭を摩りながら上半身を起こした。
マフラーを切ってから数秒後に、凄まじい爆音が響いたのだ。
その余韻で、耳と頭が痛い。
( ^ω^)「……何使ったんですかお」
ξ++)ξ「手榴弾……荒巻さんからもらったやつ……弱めのだけど……」
( ^ω^)「あのじじい、そんなもんまで支給するんですかお……」
横を見ると、クールと同様に、起き上がっている内藤とツンがいた。
内藤は耳に突っ込んだ指を前後に動かし、ツンはしょぼしょぼと瞬きしている。
手榴弾とか何とか、とんでもない単語が聞こえた気がするが、無視することにした。
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:48:04.11 ID:wopw5YpwO
川 ゚ -゚)
川 > -<)「……ぺぷしっ!」
くしゃみが出た。
身震いする。
何だか、やたら寒い。
体を見下ろし――クールは凍りついた。
川 ゚ -゚)「え」
一糸纏わず、だとか、生まれたままの、だとか、色々表現はあるが。
単刀直入に言えば、全裸だった。
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:49:46.27 ID:wopw5YpwO
川;゚ -゚)「えええええええええええええええ!!」
真っ先に浮かんだのは、「全裸って伝染するっけ」という馬鹿らしい発想とツンの阿呆面。
勿論そんなものは伝染しない。
ξ゚听)ξ「あら」
川;゚ -゚)「えええええええええええええええ!!」
( ^ω^)「クールさんが着てた服は『向こう』の世界のものだから、
『向こう』が消えれば、服も消えるおね」
(゚- ゚;≡;゚ -゚)「ええええええええええええええええええええ!!?」
ξ゚听)ξ「大丈夫、クーちゃん結構スタイルいいから」
( ^ω^)「スタイルいいから大丈夫、の意味が分かりませんお」
内藤が、自身のコートをクールにかけてくれた。
慌ててコートの前を掻き合わせる。
彼ら以外に見られていないか、周囲を確認した。
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:52:11.18 ID:wopw5YpwO
川 ゚ -゚)(……樹だ)
大木と、赤い屋根が前方にあった。
ツンのアパート。
現実に、戻ったのか。
ξ゚听)ξ「――クーちゃん」
いつの間にか、ツンが隣に寄り添っていた。
抱き締められる。
川 ゚ -゚)「わぷ」
ξ゚听)ξ「思うところがあるわよね。
私を恨んだりもするでしょうけど」
恨みは、していない。
彼女がクールを思うが故の行動だと、内藤に散々言われたのだから。
だが――まだ、「ありがとう」と言う気にもなれなくて。
クールは複雑な感情を持て余しながら、ツンに身を預けていた。
ξ゚听)ξ「でも、ゆっくりでいいから、全部受け止めていって。
私も手伝うから」
ξ゚听)ξ「少しずつでも、しっかり噛み砕いていけば、きちんと消化出来る筈よ」
川 ゚ -゚)「……ツンさん……」
- 178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:53:03.70 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「うんこの中の、コーンのように」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「あ、はい」
この女、色々と駄目だ。
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:55:15.66 ID:wopw5YpwO
( ^ω^)「ツンさん、一回死んで生まれ変わった方がいいですお」
ξ゚听)ξ「え? ああ、そうね、たった一度きりの人生じゃ、
私の魅力は存分に発揮しきれないものね」
( ^ω^)「その今世じゃ存在し得ない魅力とやらを手に入れるためにも、生まれ変わってくださいお」
ξ゚听)ξ「あれ、もしかして馬鹿にされてる?」
( ^ω^)「あれ、もしかして馬鹿にしてるの伝わってない?」
ξ゚听)ξ「お? やるか? お?」
( ^ω^)「あ?」
川;- -)「……はあ」
クールの口から零れた溜め息。
それは、自分の現状へのものだったのか、
言い合いを始めた2人へのものだったのか。
多分、両方だ。
- 180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:55:51.69 ID:wopw5YpwO
# # #
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:57:37.55 ID:wopw5YpwO
一週間ほど、クールはツンのアパートでぼんやりと日々を過ごした。
過去を思い返したり、テレビやインターネットで世間について学んだり。
母は、クールが行方不明になってから約一年後に自殺したらしい。
その事実を知って、また精神的に不安定になったが、
慰めようとするツンの空回りぶりを見ていると、少し気が楽になった。
そうして年を越して。
クールは、とあるビルへ連れてこられた。
ξ゚听)ξ「はい降りてー。内藤はどうする?」
( ^ω^)「待ってますお」
ξ゚听)ξ「あっそう」
ツンが車を降りる。
後部座席に座っていたクールは、ドアを開けて車外に出た。
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 01:59:35.54 ID:wopw5YpwO
ビルに入りながら、ツンに訊ねる。
川 ゚ -゚)「……ここは?」
ξ゚听)ξ「本部」
川 ゚ -゚)「本部って」
ξ゚听)ξ「クーちゃんみたいな子を保護する組織の本部」
川;゚ -゚)「……組織でやってる仕事なんですか」
ξ゚听)ξ「そうよお。表向きは調査会社みたいなもんだけど」
川 ゚ -゚)「へえ……結構大きいですね」
ξ゚听)ξ「子供が行方不明になった事件に関するニュースや資料を、全部保存してるからね」
小綺麗なビルだ。
ロビーの受付にツンがカードのようなものを提示する。
受付嬢と何かを話し、一礼すると、ツンは奥のエレベーターにスキップしていった。
クールが追い掛ける。
- 185 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:03:16.33 ID:wopw5YpwO
ξ*゚听)ξ「んふふーん」
川 ゚ -゚)「……嬉しそうですね。何しに行くんですか?」
ξ*゚听)ξ「クーちゃん保護しましたよーって報告して、ご褒美もらうの」
川 ゚ -゚)「ご褒美?」
ξ*゚听)ξ「お金」
以前言っていた収入か。
エレベーターに乗り込み、ツンが最上階のボタンを押す。
扉が閉まった。
若干の圧迫感。
少しして、ぴんぽん、と軽やかな音が響いた。
扉が開き、ツンがクールの手をとってエレベーターから降りる。
(*><)「こんにちは!」
川;゚ -゚)「うわっ!」
そこに、小学生ほどの少年が突撃してきた。
思いきり抱き着かれ、危うく転びかける。
小学校高学年になるかならないかだろうか。可愛らしい。
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:04:49.26 ID:wopw5YpwO
(*><)「初めまして! 鬱田クールさんですね?」
川 ゚ -゚)「ああ、うん」
(*><)「よろしくなんです!」
川 ゚ -゚)「よろしく」
ξ゚听)ξ「クーちゃん、それ三十路のオッサンよ」
川;゚ -゚)「ええっ!!」
思わず引っぺがす。
少年は、一瞬、凶悪な面で舌打ちした。
そういえば、成長しなくなった子供の話を内藤がしていたような。
( ><)「余計なこと言いくさりやがって貧乳があ……」
ξ゚听)ξ「愛しい恋人はどうしたのよ、ぽっぽちゃんとかいう」
( ><)「何のことだか分かんないんです! ぷっぷー」
少年――厳密には違うのだが、便宜上こう呼ぶ――は踵を返した。
赤い絨毯の上を歩いていく。
ツンが彼を追ったので、クールも後に続いた。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:07:11.93 ID:wopw5YpwO
一番奥の部屋に案内される。
思いのほか質素なドアが開けられ、ツンとクールは中へ足を踏み入れた。
真っ黒な机が一つ。
その向こうに、老人が1人。
/ ,' 3「やあ」
ξ゚听)ξ「あ、長居する気ないんで、早くお金ください」
/ ,' 3「ツンちゃんのそういうとこ嫌いよワシ」
机の前に、ツンとクールが並んで立つ。
老人は、柔和な顔でクールを見上げた。
いかにも気のいい感じがする。
/ ,' 3「クールさんだね。今回は大変だったろう」
川 ゚ -゚)「……まあ、それなりに」
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:09:18.21 ID:wopw5YpwO
/ ,' 3「それで――どうするかね」
川 ゚ -゚)「どうするって言われても」
はて、何のことやら。
首を傾げる。
老人は、クールからツンへ視線を滑らせた。
/ ,' 3「君、何も言ってないの?」
ξ゚听)ξ「荒巻さんが全部説明してくれるかなって」
/ ,' 3「そういうとこも嫌いよ? 何でもワシ任せなそういうとこも嫌いよ?」
多分一番偉い人なのだろうが、貫禄というものが感じられない。
八割方ツンのせいだ。
咳払いをして、老人はゆるゆると首を振った。
/ ,' 3「君が見付かったことは、警察には言っていない。
もし発表すれば、大層騒がれて、色々面倒なことが起きると思う」
それは嫌だ。
正直なところ、そっとしておいてほしい。
思ったことをそのまま伝えると、老人は「そうだろう」と何度か頷いた。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:11:15.37 ID:wopw5YpwO
/ ,' 3「で。これからどうしたい?
誰かの養子にでもなるか――」
/ ,' 3「……うちの組織の厄介になるか」
川 ゚ -゚)「厄介?」
ξ゚听)ξ「まあ要するに、私のお手伝いをするってことね。内藤みたいに」
川;゚ -゚)「えっ、ツンさんの?」
ξ゚听)ξ「何で嫌そうなのかしら。すごく不思議」
/ ,' 3「養子を選んだ場合、どんな人が親になるかワシには分からん。
もしかしたら『外れ』かもしれん」
/ ,' 3「ただ、ツンの手伝いなら――多少は気心も知れてるだろうし、なあ?」
川;゚ -゚)「はあ」
何というか。
ほとんど、誘導ではなかろうか。
- 192 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:13:16.05 ID:wopw5YpwO
川;゚ -゚)「……いいんですか。私が、そういうのに首突っ込んで」
/ ,' 3「君だからこそ、首を突っ込んでいいんだ。
一度は当事者になった身なんだから」
ツンみたいにね。
老人が最後に付け足した一言に、クールはぎょっとした。
ツンを見る。
/ ,' 3「あれ、もしかして知らんの?
本当に何も話してないのかよツンちゃんってば」
川;゚ -゚)「……ツンさんも?」
ξ゚听)ξ「まあね」
いたずらっぽく笑って、ツンは自分の目を指差した。
赤色。
――それも、後遺症なのだろう。
/ ,' 3「ほんで、クールさん。答えは?」
川 ゚ -゚)「……」
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:15:08.54 ID:wopw5YpwO
川 ゚ -゚)「ツンさんのお手伝い、やります」
/*,' 3「おっほう! 偉いぞ偉いぞー。
よしよし、すぐに住居を手配しよう。お望みなら学校への編入も許す」
ビロード、と老人がドアの方へ声をかけた。
例の少年が頭を下げ、退室する。彼はビロードという名前らしい。
/ ,' 3「念のため、名前を変えた方がいいかもしれんね」
川;゚ -゚)「な、名前ですか?」
/ ,' 3「どっから嗅ぎ付けられて騒ぎになるか分からんし。
とは言っても、苗字くらいでいいかな、変えるのは。
どんな苗字にする? 荒巻とかおすすめだけど」
ξ゚听)ξ「耄碌じじいを彷彿とさせるから、荒巻は却下ね」
/ 。゚ 3「耄碌してまーせーんー!! じじいだけど耄碌してませんー!!
ツンちゃん何なの? 何でワシに辛辣なの? 好きな人には意地悪しちゃうタイプなの?
素直になろうね! あ、『素直』でいいじゃん苗字。素直クール。いいよこれ!」
川;゚ -゚)(ええー)
完全に、その場のノリで決まった。
その場のノリで「鬱田クール」から「素直クール」に改名させられた。
しかし文句を言える立場なのかどうか怪しいので、クールはもやもやしたものを抱えつつ、
「いいよね」と問う老人に頷いて返した。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:17:22.50 ID:wopw5YpwO
/ ,' 3「それじゃあ後は、耄碌してないじじいが金とコネを駆使して何とかしておこう。
んで、そーれーかーらー……はい、報酬」
ξ*゚听)ξ「待ってました!」
引き出しから、2つの封筒が取り出された。
厚い。中身が札束なら、結構な額になりそうだ。
/ ,' 3「こっちがツンちゃん、こっちが内藤君にね」
ξ*゚听)ξ「きゃっほい! これでじじいは用済みだわ! さあ帰りましょうクーちゃん!!」
川;゚ -゚)「あ、えっ、え、は、はい」
/ ,' 3「もうホント嫌いそういうとこ」
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:19:09.28 ID:wopw5YpwO
エレベーター内。
ほくほく顔で1階のボタンを押すツンを、クールは横目に見た。
ξ*゚听)ξ「欲しい靴と鞄があんのよねえ。うしゃしゃしゃしゃ」
川 ゚ -゚)「……」
こちらの気も知らないで、呑気なものだ。
真面目に悩むのが億劫になる。
ξ*゚听)ξ「あ、クーちゃん」
川 ゚ -゚)「はい?」
返事をするや否や、右手が差し出された。
その手とツンの顔を見比べる。
握手、とツンが言った。
- 198 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:20:21.41 ID:wopw5YpwO
ξ*^ー^)ξ「これからよろしくね!」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「……ツンさん」
ξ*゚听)ξ「はいはい何かしらー?」
まあ。
何だかんだ、世話になったし。
素直という苗字も貰ったし。
折角だから、素直になってみるとするか。
右手を伸ばし、微笑む。
川*゚ー゚)「ありがとうございました。……これからよろしくお願いします」
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:22:22.67 ID:wopw5YpwO
――車に乗り込む。
助手席の内藤に、ツンは封筒を渡した。
( ^ω^)「どうもですお」
ξ*゚听)ξ「さあて、どうしましょ。どっか行く?」
( ^ω^)「ご馳走食べたいですお。高級肉のステーキとか、すき焼きとか」
ξ゚听)ξ「あんた、前からそればっか言ってたわね。自分の金で食べなさい」
( ^ω^)「奢ってくれてもいいじゃないですかお。
どうせツンさんの方が、いくらか多く貰ってるんだし」
ξ゚听)ξ「そうだけどー……」
ツンがシートベルトを締めながら振り返る。
クールと目が合った。
ξ゚ー゚)ξ「……ま、たまにはいいか」
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:24:50.63 ID:wopw5YpwO
ξ゚听)ξ「んじゃ、いいもん食いにいくわよー」
( ^ω^)「いえー」
ξ゚听)ξ「クーちゃんも一緒にね」
川*゚ -゚)「……はい」
――不安や恐怖は、未だ胸に積もったまま残っている。
けれども、いくつもの明るい感情が、それらをゆっくりと溶かし始めていた。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 02:27:25.15 ID:wopw5YpwO
などと綺麗なままでは終わらない。
この後。
エレベーターの中で、ツンが内藤の封筒からお札を数枚抜き取っていたことがクールの証言から発覚し、
内藤がツンの尻をバットで打ち据えることとなる――
終わり
- 207 名前: ◆FX4J7E6cek 投稿日:2011/12/29(木) 02:31:37.26 ID:wopw5YpwO
- おわりんこ
使用したお題は
真面目お題【編み物】【初雪】【金の柱霜雪に朽ちて】【大木】【暖炉】
厨二お題【雪原の戦い】【隻眼】【灼眼の魔法使い】【幻影】【鮮血】
クソ題【全裸】【消化されなかったコーン】
【箪笥の角に小指ぶつけた】【「あれ、オレ何忘れたんだっけ?」】【ケツバットエンド】
全部使いました
これだけ頑張ったので、きっとみんなが票を入れてくれて、
いつしか僕が出馬したときにもたくさんの票が集まり、日本、そしてゆくゆくは世界を支配することになると思います
ありがとうございました
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