( ^ω^)は児童文学者のようです

4 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 22:54:43.22 ID:Hiq2SAgE0


(*゚∀゚)「しぃちゃん、大きなショートケーキだよ!」

(*゚ー゚)「おいしそう!いっしょにたべようね」

ブーンは走らせていた万年筆を下ろし、下品に音を立ててコーヒーを啜った。

( ^ω^)「カフェインを摂ると、余計イライラする気がするおね」

カップをがちゃんと乱暴に下ろすと、ガクガクと貧乏ゆすりを始めた。
ジャージが擦れ合う音が、静かに部屋に響く。
彼女は、この癖を嫌っていた。

でも今は気兼ねなく貧乏ゆすりが出来る。

携帯電話から、無機質な着信音が流れる。

起伏のない単調なリズムが、ブーンの不安や焦燥をかき鳴らした。
そんな不安を拭うように、ブーンは通話ボタンを押した。

( ^ω^)「僕だお。何だ、締め切りのことかお。
あと少しで終わるから、僕の家の前で待ってろお」

携帯電話を破壊せんばかりの強い力で畳むと、不機嫌そうな貧乏ゆすりを再開した。
擦れる音は成程、耳に障る。

6 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 22:56:16.73 ID:Hiq2SAgE0


最近、ついてない。
ただし、その理由は全く分からないのだ。

(*゚∀゚)「おいしいね。あとで紅茶をいれるよ」

(*゚ー゚)「わーい!じゃああたし、家からマグカップを持ってくるね」

ブーンの荒んだ心境に反して、和やかな光景が展開されていく。

( ^ω^)「むかつくお」
( ^ω^)「僕のお話のキャラクターたちはみんな幸せなのに、何で僕は幸せになれないんだお」

背後で陶器の弾ける音が聞こえた。

7 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 22:57:23.96 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「なんだお!?」
( ^ω^)「あ…ツンに貰ったコーヒーカップが…」

( #^ω^)「最近こんなのばっかだお!僕が何したっていうんだお!!」

ブーンは机にこぶしを叩きつけた。
固い木製の机に、ブーンのこぶしが悲しい皮膚を擦り付けた。

( ^ω^)「痛いお…」

とんとん。
編集のヤツが来た!

(´・ω・`)「内藤さん!早く原稿を!」

( #^ω^)「うるさいお!」

ブーンは書きかけの原稿を、投げつけるように編集へ渡した。
無理矢理、編集を追い返すと、
ブーンはそそくさと分厚い羽根布団に潜り込み、
最近、別れてしまった彼女のことを考えた。

( ^ω^)「ツン…結婚まで考えていたのに何でだお…」
( ^ω^)「僕が…僕がいったい何したっていうんだお…
僕はツンのことを愛していたお…」

9 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 22:59:11.43 ID:Hiq2SAgE0


薄く開いた窓から、細く風が吹き込んできた。

( ^ω^)「おお。寒いお…窓、空きっぱなしじゃないかお…」

身震いして立ち上がると、机の端に積み上げられた原稿が目に入った。

(*゚ー゚)「あ、クーお姉ちゃんとドクオお兄ちゃん!どうしたの?」

('A`)「ああ、俺達結婚するんだ」

(*゚∀゚)「えー!ほんと!?すごいすごーい!赤ちゃんが生まれたら、私が名前を考えてもいい?」

川 ゚ -゚)「つーは気が早いな。ふふ、生まれたら、一緒に考えようか」

ブーンは児童書専門の作家である。
子供が読むんだから、バッドエンドなんて書けないし、書かない。

( ^ω^)「僕は、バッドエンドは書かない主義だお。登場人物はみんな幸せになってほしいんだお」
( ^ω^)「でも…」
( ^ω^)「ムカつくお。こいつらは幸せになれても、僕はちっとも幸せになれない」
( ^ω^)「むしろ、どんどん不幸になっていくお」

( ^ω^)「こんなもの…」



10 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:00:19.65 ID:Hiq2SAgE0


ブーンは、クーとドクオが幸せそうに微笑むシーンを、
ビリビリに破り捨てた。

そして、こう書き添えた。

『ドクオは、離れた町に妾を作り、クーを捨てました。
妾が出来たころでしたか、クーのお腹には新しい命が宿っていました。
ドクオは知っていた。

でも、それでも、秤にかけた結果、重かったのは妾のようでした。
クーと、クーのお腹の中の赤ちゃんは捨てられたのです。』

( ^ω^)「ふん。皆不幸になっちゃえお」

ブーンは再び布団にもぐりこみ、深い眠りについた。

11 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:01:12.62 ID:Hiq2SAgE0


翌朝、けたたましい電話のベルでブーンは目を覚ました。

( ^ω^)「なんだお」

ξ゚听)ξ「私」

別れてしまった恋人だった。

( ^ω^)「ツ…ツン…なんだお…慰謝料でも取ろうっていうのかお…」

ξ゚听)ξ「違うの。これから、そっちに行っていい?」

( ^ω^)「突然何なんだお…」

ξ゚听)ξ「いいか悪いか答えてよ」

( ^ω^)「いいお。丁度今、洋菓子があるから、食うといいお」

ξ゚听)ξ「うん。じゃ、またあとで」

12 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:03:00.33 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「意味が分からないお…」

( ^ω^)「…ツンが来るまでにここの原稿を片付けるお」

ばさばさと埃っぽい原稿たちをまとめながら、
やはりブーンは、お話の中の幸福なキャラクターたちに嫉妬した。

( ^ω^)「…バカバカしいお。
これみんな僕が自分で書いたお話なのに、嫉妬なんて馬鹿みたいだお」

( ^ω^)「昨日の原稿のコピーだお。しぃのカップも割ってやるお」

『しぃは、青い目の女の子たちが使うような、可愛いカップを持ってきましたが、
つーが手を滑らせ、床に落として割ってしまいました。

カップはしぃの宝物でした。』

( ^ω^)「僕って陰気な奴だお」

( ^ω^)「でも、これも一種のストレス発散だおね。別に誰かに見せるわけでもないし」

とんとん。
美しい元婚約者がやってきた!


14 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:04:31.64 ID:Hiq2SAgE0


ξ゚听)ξ「ブーン…」

( ^ω^)「久しぶりだお。ツン」

ξ゚听)ξ「そうね」


( ^ω^)「何か用かお」

ξ゚听)ξ「私から、あなたを振ったのに可笑しいわよね。
でも、やり直してほしいの」

( ^ω^)「突然…どういうことだお」

ξ゚听)ξ「ごめんなさい。可笑しいこと言ってるのは分ってるわよ。でも…」

まったく、意味が解らない。
女心は、山の天候のように変わりやすいとはよく言ったものだが…

何か裏があるんじゃないか?
また、こいつはブーンを裏切るつもりじゃないか?

15 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:05:42.86 ID:Hiq2SAgE0
いや、でも、すでに彼はどん底にいる。
この数か月で、空き巣に入られ、有り金はほぼ無くしてしまった。
ツンには愛想つかれ、両親は病床に伏してしまった。

もう、これ以上酷いことなんて無い!
今更、ツンに裏切られたぐらいじゃ、ビクともしない。

( ^ω^)「…いいお。また一緒に居るお」

ξ゚听)ξ「うん…」

ツンはブーンに抱き着くと、ポロポロ涙を零した。


16 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:06:42.08 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「あ、そうだお。ツンに貰ったカップ…」

( ^ω^)「割っちゃったお」

( ^ω^)「ごめんお。きっと、バランスの悪いところに置いていたんだお」

ξ゚听)ξ「ふぅ…しょうがないわね。新しいカップ、選んであげる」

( ^ω^)「ありがとお!」

ξ゚听)ξ「あんたがカップ如きに固執して、
仕事が手につかなくなったらたまったもんじゃないからよ。
勘違いしないでよ」

彼女は分れる前の彼女そのままだった。

ξ゚听)ξ「早く支度してきなさいよ。わたし、ここで待ってるから。」

( ^ω^)「分ったお」

ブーンは外行のジャケットに腕を通しながら、
久しぶりに肉付きの良い頬を緩ませた。

17 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:08:02.71 ID:Hiq2SAgE0
( ^ω^)「よかったお。ツンが戻ってきたし、カップも選んでもらえるんだお」

口に出して確認したことで、おかしなことに気が付いた。

( ^ω^)「婚約者とカップ…」

『ドクオはクーを捨てました』『つーは手を滑らせて…』

( ^ω^)「まさか…偶然だお」

今までキャラクターの幸せを書き続けたブーンに降りかかった災いが、
キャラクターの災いによって突然雪がれたというのか。

( ^ω^)「一見おかしな話だけど…」

ブーンは手元の原稿の中で微笑むキャラクターたちに対し、
俄かに残酷な感情が沸いた。

( ^ω^)「こいつらが不幸せになったら…」

( ^ω^)「僕は幸せになれる…?」

ブーンは赤い校正用のペンで、キャラクターたちの笑顔を蹂躙した。
以前よりも残忍さを増し、昏い笑顔で、踏みにじる。

18 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:09:32.04 ID:Hiq2SAgE0


ξ゚听)ξ「ブ―ン!まだ?」

( ^ω^)「フヒヒ…今行くお!」

ブーンは満ち足りた笑顔でツンの元へ向かった。

ξ゚听)ξ「どこに行こうか」

( ^ω^)「ヴィップ百貨店にでも行くかお」

携帯電話が単調なリズムで着信を知らせた。

( ^ω^)「あ、カーチャンからだお」

ξ゚听)ξ「そう言えばご両親、入院しているのよね」

( ^ω^)「うん…あ、カーチャン?どうしたお?
やっぱり体の調子戻らないのかお?」

J( 'ー`)し「いいえ!逆よ逆!お父さんも急性アルコール中毒で意識を無くしたまま、
回復の余地は無いって言われてたけど、さっき目を覚ましたのよ。
私も突然、体が軽くなって!不思議よね〜。
神様って本当に居るのかしらね?」

( ^ω^)「……」

笑いながらしぃの母親を病床に押しやった結果だった。

19 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:10:46.52 ID:Hiq2SAgE0
ξ゚听)ξ「良かったわね!!ブーン!すぐに顔を出してあげなさいよ」

( ^ω^)「うんお!」

( ^ω^)「あの、ツンもよかったら一緒に来てほしいお」

ξ゚听)ξ「もちろんよ。ブーンさえよかったら…また、ご両親に会いたいわ」


20 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:12:39.04 ID:Hiq2SAgE0


ブーンはツンを連れて実家へ向かった

「おお、内藤久しぶり!」

( ^ω^)「久しぶりお」

「ブーンちゃんお帰りなさい」

( ^ω^)「ただいまお」

下町の商店街の人懐っこい空気にブーンの心は弾んだ
ぼくはいましあわせなんだお

( ^ω^)「カーチャン、トーチャン、ただいまお」

J( 'ー`)し「お帰りブーン。あら、ツンちゃん久しぶりね」

ξ゚听)ξ「ご無沙汰してます」


21 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:13:15.24 ID:Hiq2SAgE0
悲しい物語を書く人が、必ずしも不幸な境遇なわけではない。
楽しい物語を書く人が、必ずしも幸福な境遇なわけではない。

悲しい人は、自分が得られない幸せを、
縁日の型抜きのように慎重に穿り出すし、

楽しい人は、自分が被らなくていい不幸せを、
面白おかしく書きなぐるのだ。

ぼくはいましあわせなんだお
これからぼくは悲しい小説をかきます

22 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:14:24.42 ID:Hiq2SAgE0


ξ゚听)ξ「あら。せっかく実家に帰ったのに仕事なの?ブーン」

( ^ω^)「違うお。これは趣味で書いてるお」

ξ゚听)ξ「ふーん」

ξ゚听)ξ「あ、私、これからお義母さんと商店街に行ってくるの」

( ^ω^)「義母さんなんて、気が早いおねwww」

ξ゚听)ξ「うふふ、そうね。じゃ、行ってくるわね」

ブーンは机に向き直って物語の続きを綴り始めた。
そこには、大切なお母さんが病気になってしまった、悲しいしぃと、
夫に捨てられた悲しいクーと赤ちゃんが、いた。

こんなの偶然だなんてことは、ブーンも分っていた。
でも、折角手に入れた幸せ。

酷いお話によって、今のしあわせが手に入ったのなら、
ブーンはいつまでも悲しいお話を書くつもりでいた。

( ^ω^)「こいつらは僕の幸せの肥料だお」

( ^ω^)「どうせ架空のキャラクターだお。誰にも迷惑かけてないから問題ないおね」


25 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:15:50.22 ID:Hiq2SAgE0


ブーンの異変にいち早く気付いたのは編集者だった。

(´・ω・`)「内藤さん…こんな小説を本にするわけには…」

( ^ω^)「なんでだお?ガキどもも世の中の辛さが分るお。
人生の指南書みたいなものだと思ってくれればいいお」

(´・ω・`)「そんな本は子供たちは望んでいませんよ」

( ^ω^)「うるさいお。じゃあもうガキ向けの小説なんてやめるお」

(;´・ω・`)「そんなめちゃくちゃな」

( ^ω^)「今日はもうこの原稿もって帰ってほしいお。
これからツンとウエディングドレスを選びに行くんだお」

(;´・ω・`)「…………」


26 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:16:36.51 ID:Hiq2SAgE0
ぼくはいましあわせだお!
ぼくはいましあわせなんだお!!
こんなことで幸せになれるんなら、最初からこうしていればよかった!

ブーンの残酷な気持ちは、徐々に燃え広がっていった。
思い出が映りこんだ白黒写真が、燃えて、爛れていくように…

28 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:17:33.27 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「結婚費用として、お金が欲しいお」
( ^ω^)「宝くじ、買ってみるかおね」

緩んだ顔を、醜く歪ませ、ジャケットを羽織りながら、万年筆をふるう。

『つーのおじいちゃんはお金持ちの地主様。
だけど、戦争で土地をすべて失ってしまいました。
昨日まで、立派なスーツを着たおじいちゃんは、うすちゃけた国民服を身にまとって…』

( ^ω^)「あはは、はは、は」

( ^ω^)「僕はなんて幸せ者だお!!」

妙なテンポを刻みつつ、軽い足取りでブーンは家を飛び出した。

(゚、゚トソン「こんにちは」

( ^ω^)「3000円分くださいお」

(゚、゚トソン「はいまいどー。当たるといいですね」

販売員は興味なさげに言った。

( ^ω^)「発表は年末だおね。当たってるといいお。いや、当たるお」

31 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:19:34.97 ID:Hiq2SAgE0
宝くじを大事にジャケットの内ポケットへ仕舞うと、
行きつけのカフェに立ち寄った。

カランコロン

('、`*川「あら、内藤さんお久しぶり」

( ^ω^)「久しぶりお」

( ´_ゝ`)「よおブーン。最近どうよ」

( ^ω^)「めちゃくちゃ捗るお」

( ´_ゝ`)「最近お前の作品見かけないけど、どんなの書いてるの?」

( ^ω^)「みたい?」

( ´_ゝ`)「ああ。見せてくれよ」


32 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:20:04.84 ID:Hiq2SAgE0
( ^ω^)「ほら。このUSBに入ってるお」

( ´_ゝ`)「サンキュー」

('、`*川「私にもみせて」

( ^ω^)「どうぞお」


33 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:21:08.88 ID:Hiq2SAgE0


ブーンのお話は、誰も不幸にならない素敵な物語だった。

しかし、今彼らの前にあるのは、小さな白い小部屋に、
白いもの寂しいカーペットが敷き詰められているような、
漫然とした悲しみだった。

( ´_ゝ`)「おい。ブーン。何だよこれ」

( ^ω^)「作風を変えたんだお。皆が皆幸せな物語なんて、今日日はやんないお」

( ´_ゝ`)「本気で言ってるのか…?」

( ^ω^)「そのUSBに入った作品全部読んだかお?僕は本気だお」

( #´_ゝ`)「ふざけんじゃねえ!!」

36 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:21:59.85 ID:Hiq2SAgE0


( #´_ゝ`)「お前の物語には、激情があった!活発なエネルギーがあった!そして何より」

('、`*川「血が通っていたわ。ほかの誰の作品よりも」


( ´_ゝ`)「いまのお前の文章は、無表情だよ!何も伝わって来やしねえ」

('、`*川「内藤さん」

( ^ω^)「なんだお?」

('、`*川「何かあったの?スランプなんでしょ?」

( ^ω^)「違うお。絶好調だお!!」

この連中にも、ブーンの幸せをお裾分けしようと考えていたのに、
心外だった。
何故批判される?

39 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:24:34.74 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「あんな奴らのことなんて知らないお!」

( ^ω^)「僕はツンと幸せになるんだお!!」

 ( ^ω^)「僕は幸せだお。幸せだお!もう誰にも邪魔されないお!!」

ブーンには最早、文壇の仲間などどうでも良かった。
今まで互いに伸ばしあって、腕を競った彼ら。

もう、どうだっていい。

この心境の変化はすなわち、ブーンの心が“小説”から離れた瞬間でもあった。

兄者の言ったことは的を射ている。
血の気を失ったブーンの物語は。ただの冷たくなった肉片も同じ。

そう、ブーンの書いているモノは、物語ではないのだ。

( ^ω^)「近道して帰るお。ドレス選びの準備をしなくちゃ」

40 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:25:26.63 ID:Hiq2SAgE0


ブーンは交通量の多いトンネルを駆け抜けた。
トンネルを飛び出た瞬間、目の前に大きなガラス玉が現れた。

ガラス玉は内側からぐにゃりと変形して、一つの風景を造りだした。

そこは都会だのに、荒廃した田園が広がり、薄汚れた服を着た住人達は、
虚ろな目で空を見上げていた。

( ^ω^)「あれ…道間違えたかお…?」

( ^ω^)「…そんなことないお。ここは、どこ…」

(*゚∀゚)「ブーン」

一人の小さな女の子が彼の後ろから声をかけた。


41 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:25:57.94 ID:Hiq2SAgE0
( ^ω^)「誰だお!」

( ^ω^)「あ…」

( ^ω^)「お前…つー、かお?」

(*゚∀゚)「うん、そう。しぃちゃんもいるよ」

ブーンは細い目をいっぱいに開いて驚愕した。
そこには、ブーンが蹂躙していった悲しき物語の住人がいたのだ。

42 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:27:05.05 ID:Hiq2SAgE0


「ブーン」

「ブーン」

川 ゚ -゚)「ドクオを返して」

うるさいお

(*゚∀゚)「おじいちゃんはお洒落だったの。でもね、今はお国から贅沢禁止って…」

うるさいお!

(*;ー;)「お、お母さん、おかあ、さんが、死ん…じゃう…!」

( #^ω^)「うるさいお!!!!!!!」

「ブーン!!」

( #^ω^)「うるさいおうるさいおうるさいお!!
お前らなんてどうせ存在しない人間だお!」

( ^ω^)「どうして、そんなお前らが僕の幸せを邪魔するんだお!?」


43 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:28:43.96 ID:Hiq2SAgE0


川 ゚ -゚)「違うぞ、ブーン」

川 ゚ -゚)「私たちは、不幸にされた腹いせをしているわけじゃない」

( ^ω^)「どういうことだお」

(*゚∀゚)「皆がブーンを待ってる」

(*゚∀゚)「それじゃ、あたし達行くね」

( ^ω^)「ま、待つお!説明しろお!」

展開したガラス玉が中央に集結する。
猫だましをされたように、ブーンは大きく瞬きした。


44 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:29:44.86 ID:Hiq2SAgE0


車道に面した細い道が広がっている。

( ^ω^)「誰が僕を待ってるんだお?」

ξ゚听)ξ「ブーン!」

( ^ω^)「ツン!どうしたんだお」

ξ゚听)ξ「あんまり遅いから迎えに来たのよ!馬鹿!早く行くわよ!」

( ;^ω^)「おごごごめんお!」

待ってる、ツンのことだろうか。
いや?そんなこと、あの物語の住人たちに聞かなくても分っていることである。
じゃあ、誰が、誰が誰が。

誰がブーンを待っている?

ξ゚听)ξ「最近、ブーンが元気で嬉しいわ」

( *^ω^)「おっ?そうかお?ツンが居てくれるからだお」

ξ゚听)ξ「馬鹿なこと言わないでよ」

( ^ω^)「ブヒヒwww」

45 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:30:29.36 ID:Hiq2SAgE0
ブーンが楽しく口を開いて笑った瞬間、
黒髪のスラリとした女性と、
手を引かれ歩く可愛らしい女の子とすれ違った。

女の子の腕の中には背表紙が黄色く日焼けし、所々破れた表紙の、
内藤ホライゾンのデビュー作が抱かれていた。


46 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:32:18.57 ID:Hiq2SAgE0


( ^ω^)「あ…」

「ママ、しぃとつーの物語、まだ新しいの出ないの?」

「キューがいい子にしていれば出てくるかもよ?」

女性の凛とした佇まいは、クーを思わせた。
女の子の愛らしさは、しぃとつーを思わせた。

( ^ω^)「僕は」

( ^ω^)「…大事なことを忘れていたお!」

( ^ω^)「ツン!僕、」

ξ゚听)ξ「行ってらっしゃいよ。
あなたの書きかけの作品、ちゃんと保管してるって
ショボンさんが」

( ^ω^)「え、な、なんで知ってるんだお…」

ξ゚听)ξ「お見通しよ。いいから行きなさい」


47 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:34:14.02 ID:Hiq2SAgE0


ああ、皆待ってる。
僕の、僕の、幸せな物語を皆が待ってる。

ブーンは木枯らしの吹く街を、滑るように駆け抜けていった。 


( ;^ω^)「も、もし、もし!僕だお!今すぐ書きかけの原稿を持ってきてほしいお!」

(*゚ー゚)「気付いたのね」

( ^ω^)「…し、ぃかお!?」

( ;ω;)「ごめんお、ごめんお…!お前のカーチャン、すぐに治してあげるから!」

(*゚ー゚)「ありがとね。じゃ」

( ;ω;)「お、ぉグスッ…」

(´・ω・`)「内藤さん!どうしました?原稿ですね!今持っていきます!」

50 名前: ◆iF7zVdcrZ. 投稿日:2011/12/28(水) 23:35:11.05 ID:Hiq2SAgE0


編集と年末のがらりとした小さなカフェで落ち合うと、
ブーンは無意識のうちに大事にしまっていた万年筆を取り出し、
住人達と真正面で向き直った。

悲しい物語を書く人が、”必ずしも”不幸な境遇なわけではない。
楽しい物語を書く人が、”必ずしも”幸福な境遇なわけではない。

なら、楽しい物語を書く人が、幸せになってもいいよね?
今度は、
ブーンだけじゃない
住人たちだけじゃない
読者だけじゃない
仲間やツン達だけじゃない

今度は、皆幸せになろう。

ブーンは、晴れやかな気持ちで万年筆を走らせていった。


戻る inserted by FC2 system