- 3 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:43:00.58 ID:qqziK8yS0
これでもかと葉をつけた木々が、ところ狭しと並び立っている。
陽光も大地まで届かないほどに、空は葉で覆い隠されていた。
要するに、誰がどうみても樹海である。
そんな樹海を歩く、二つの影。
「お腹すいたぞ……」
「さっき食べたよね? 私の分も」
「足りない!!」
「ああ、なんて素直なのかしら……」
あまりに軽い会話のノリからして、
どうやら、樹海に迷い込んでしまった人間ではないようだ。
これほどポジティブな遭難者など、存在するはずがない。
この世界では、これがわりと普通なのだ。
「何か、捕まえる?」
「肉! 肉がいい!」
「またー? 私はお魚がいいなぁ」
「ニクー!」
- 4 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:44:58.52 ID:qqziK8yS0
- 国土の九割が森。
森の中に生まれ、森の中で育つ。
この国に生まれた者は、そんな運命を背負う。
こういうと過酷っぽいが、全く大したことはない。
そこに住むものたちには、それが普通なのだから。
「もう……それじゃ、そうだなぁ……」
「イノシシ、いっとく?」
実にサバイバーな提案をしたのは、意外にも華奢な女だった。
森を歩くのに不便ではないかと思わされるほどの、腰まで伸びた黒髪。
目は前髪に隠されよく見えないし、むしろ見えているのか心配になる。
そんな女が手袋をした右手の人差指をぴんと立て、イノシシいっとく?と提案していた。
漫画かアニメであれば、人差し指の上にイノシシの絵が描かれていたところだ。
体には黒いローブを纏い、どんだけ黒いねんと突っ込み待ちしているようなこの女。
川д川「確か……丁度この先が生息地だったと思うよー」
名を、サダコ=ヴィレッジ。
彼女の外見で白い部分は、手袋と、唯一露出している肌、つまり顔だけだ。
不釣合い極まりない白黒が言った言葉に、もう一人の少女が目を輝かせ、
ノハ*゚听)「行こう! イノシシ! 丸焼きだー!!」
一秒未満で調理方法まで言ってのけた。
サダコと同じく、この少女も約二色でしかない。
間近に迫った食事に、通常の三倍の速度で腕を振り回し、張り切っている。
- 5 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:47:01.15 ID:qqziK8yS0
- 言うまでもなく、これまた長い髪は赤。
手袋、というよりも革製のグローブも赤。
マントも赤、膝上までの丈の半ズボンも赤、服も赤、下着は知らない。
露出している腕、足、顔は、サダコよりは健康的な肌色をしていた。
真紅の瞳をらんらんと輝かせ、先陣を切る。
彼女の名はヒート=ミークリィ。
赤と黒のコンビは、色も正確も全く異なる二人だった。
ヒートはうきうきと腕を振り歩き、サダコはしずしずと続く。
ひたすら続く森の景色は、木や草の位置が変わるだけだ。
その中を、二人は一切迷わずに旅を続けている。
ノパ听)「そういえばさー」
川д川「なーに?」
ノパ听)「そろそろ、着くんでしょ?」
川д川「そうだね。後二日くらいかな」
ノハ*゚听)「まじかぁぁぁぁぁぁ!!」
どうやら二人の旅は、そろそろ終わりを迎えるらしい。
サダコのテンションは変わらず、ヒートの瞳は更に輝きを増した。
ノハ*゚听)「でもさ」
川д川「うん?」
- 6 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:49:34.33 ID:qqziK8yS0
- ノパ听)「結構余裕だったね。このミッション、Bランクだっけ?」
川д川「そうだね。一応Bランク」
ノパ听)「ちょっと物足りないなー」
川д川「まぁ、ランクはあくまで基準だからね。旅には不確定要素が多いし。
出現する魔獣も、運が悪ければランク外の奴も出るから」
川д川「それに……このミッションは冒険者のステータスみたいなもの、だからね」
森に覆われたこの国は、未開拓地が多い。
更に、この国の外の世界は、未だ解明されていない。
解明されていない、と言っても、何があるかは先人たちの調査で明らかになっている。
答えは、『この国は膨大な水に囲まれている』、だ。
その水は口に含めば塩辛く、内地の水と明らかに異なるという。
別世界の人間は、その水を海と呼んでいた。
時は遡り、三十年前。
この森に閉ざされた国の全域調査を、当時の国王が命じた。
未開拓地、未発見生物の調査を、だ。
この国には争いがない。
木々に囲まれ育った人々は、実に平和的であった。
しかし、国民の敵は存在した。
魔獣である。
ノパ听)「もうちょっと強いのでてこないかな?」
- 9 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:51:16.75 ID:qqziK8yS0
- 川д川「とは言ってもね、ヒーちゃん」
ノパ听)「?」
川д川「Bランクは結構上のランクだよ。この辺はもう国の管理外だし」
川д川「未発見生物がいても、おかしくないよ」
国は、魔獣の手から国民を守らなくてはならない。
その為に、各地へ兵士を派遣している。
当然人手不足に陥り、国が主立って未開拓地を調査することができなくなってしまった。
そこで民間に助力を求め、設立された機関が『冒険者ギルド』だった。
定められた試験をクリアし、ギルドに認められた者をそのまま『冒険者』と呼ぶ。
ヒートとサダコは、その冒険者であるのだ。
二人は二年前、念願の冒険者試験に合格した。
幼馴染であった彼女たちは、小さな頃から冒険者を夢見て育ってきた。
そして二人には、どうやらその才能が充分に備わっていたらしい。
お察しの通り、ヒートは馬鹿だ。
筆記など滅茶苦茶だった。問題文がたまに読めないレベルだった。
それでも合格したのは、実技試験の成績がずば抜けて高かったからだ。
サダコは筆記、実技とも優秀な結果を残し、文句なしの合格だった。
余談だが、ヒートの合格にサダコが一枚噛んでいた事実がある。
自分がサポートするので、どうか彼女もと、個人面接の時に頼み込んだのだ。
規定に、安全性を考慮し、冒険者は二人以上のパーティーで行動する、というものがある。
じゃあ丁度いいし二人で組めばよくね? とのことで、ヒートの合格が認められたというわけだ。
- 11 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:54:05.80 ID:qqziK8yS0
- そうして二人は二年の下積みを終え、今、Bランクのミッションに挑戦中なのだ。
ノパ听)「おぉっ! じゃあめっちゃくちゃ強いのが出てきたり……!?」
川д川「あるかも。それはそれで困るけど」
ノパ听)「早く出てこないかなー!」
散々フラグを立てているが、そんなものは出てこない。
川д川「あ、あったあった。スタンプマーク」
サダコが指差した先では、大木がそびえ立っている。
大木の、地面から一メートルほど上った箇所の幹が、大きく削られていた。
川д川「この辺りに住むイノシシタイプの魔獣、『ワイルドスタンプ』
マーキングの後がここにあるから、そのうち出てくるかも」
喋っている間に、目標の生息地に入ったようだ。
スタンプマークが示すものはつまり、ここが縄張りだということ。
その中に侵入すれば、嫌でも魔獣は現れるだろう。
樹海の中は、とても静かだ。
時々、木々が互いの葉を擦らせる音が立つ。
今も二人の耳に、その音が聴こえている。
その音が、別の音に掻き消された。
ノパ听)「おっ!!」
- 12 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:56:04.81 ID:qqziK8yS0
- 川д川「あれ?」
二人にとって、それは意外な音だった。
魔獣の足音でもなければ、咆哮でもない。
いや、咆哮というのは、あながち間違っていない。
ただ、それは魔獣のものでなく、人間の叫び声だった。
川д川「悲鳴?」
ノパ听)「だったね」
川д川「こんなとこに人間いるんだね」
ノパ听)「そうみたいだね。いこっか」
川д川「うん、いこー」
全く緊張感がないのだが、二人を動かしたのは使命感だった。
冒険者の規律の中に、国民を守る義務が含まれている。
そんなものがなくても、二人なら無条件で助けているのだったが。
口調とは裏腹に、声がした方角へ実に俊敏に駆け出している。
なびく髪も、衣類の裾も、木や葉に決してかすりもしない。
常人であれば足下を確認しなければ歩くこともままならないような道を、駆け続ける。
十数秒、走ったところで、
ノパ听)「人だ!」
- 13 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 19:58:02.62 ID:qqziK8yS0
- 人間の存在を、ヒートが目視した。
('、`;川「イヤアアアアアァァァァァァァ!!! ちょ! くるな!!」
盛大な悲鳴を上げる女、と。
その女の、前方にいる、魔獣。
( ノ●W●ノ「ボアアアアアアアアア!!」
体高は一メートルほど、全長はニメートル程だろうか。
全身を覆う焦茶色の体毛は、触れれば金属と見まごうほどに硬い。
特徴的なのは脳天まで反り上がった白い牙に、岩を砕くにまで進化した鼻だ。
大木のマーキングは、その鼻でつけら
ノハ#゚听)「ヒーーーーーット!! キーーーーーーーーーーーーック!!!」
恐ろしい魔獣ワイルドスタンプは、説明されている途中でヒートの蹴りを食らい、盛大に吹き飛んだ。
このサイズなら、体重は四百キロに達するだろう。
それを、ナチュラルな飛び蹴りで吹き飛ばしたのだ。
('、`;川「またバケモノがでたあああああああああああああ!!!」
襲われていた女の悲鳴も、納得のいくものであった。
ワイルドスタンプはそのまま数メートル先の木にぶつかり、動かなくなる。
襲われていた女も腰を抜かし、動かなくなる。
川д川「あのー、大丈夫ですかー?」
('、`;川「ウギャアアアアアアアアアアアアア!!」
- 14 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:00:24.38 ID:qqziK8yS0
- 突然、目の前にぬっと現れたサダコに、女は次なる悲鳴を上げた。
悲鳴女はこの数分で寿命を五年は縮めたであろう。
ノパ听)「あっれー? もう終わり?」
( ノ×W×ノ
沈黙。
魔獣(笑)ワイルドスタンプはヒートの一撃で昇天してしまっていた。
拍子抜けしたヒートは、ワイルドスタンプの腹をツンツンとつついている。
川д川「もしもーし、落ち着いてくださーい」
('、`;川「な、なななななななな、なっ」
川д川「うーん……」
サダコは少し首を傾げた後、ショルダーバッグの中に手を入れて、ごそごそと何かを探す。
さっと取り出したものは、手のひら大の、厚目の紙だった。
川д川「ほら、私たち、冒険者です。冒険者」
('、`;川「ぼ……ぼうけん……」
川д川「そうそう。ぼうけんしゃ。おーけー?」
('、`*川「お、おーけー……」
冒険者という単語に、女は幾分か落ち着きを取り戻したようだ。
それでも時折、というか分りやすすぎるほどに、ヒートをチラ見している。
- 16 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:01:41.19 ID:qqziK8yS0
- ヒートの関心が完全にワイルドスタンプに向いていると知ると、
女はサダコが提示した紙をまじまじと見つめ、
('、`*川「冒険者認定証……サダコ=ヴィレッジ……」
上から順に、読み上げた。
川д川「冒険者認定証は見たことある?」
('、`*川「えぇ……まぁ……」
川д川「じゃあ、ほら」
('、`*川「? ……あれっ?」
ほら、とサダコが言うと、認定証に書かれていた文字が全て消えてしまった。
川д川「ほい」
('、`*川「あれ!?」
ほい、とサダコが言うと、消えていた文字が再び浮かび上がった。
川д川「ね? これが本物の証拠」
('、`*川「はぁー……噂には聞いていたけど……」
認定証には特殊な魔法がかけられており、本人の魔力に反応して文字を映し出す。
魔力を絶てば、文字は消える。
サダコはこの手順を見せ、本物だと証明してみせたのだ。
- 17 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:02:51.73 ID:qqziK8yS0
- 川д川「あれ? 認定証は見たことあるのに、今のは見たことないの?」
('、`*川「うん」
川д川「おかしいなぁ……身分証明の時は必ずしなくちゃいけないのに」
('、`*川「私に見せてくれた冒険者は、文字だけ見せてドヤァしただけだったよ」
川д川「それって偽物なんじゃ……」
('、`*川「まじでか……」
川д川「まぁ、私たちは本物だよ」
('、`*川「たちって……あの……子? も?」
川д川「も」
('、`*川「でたらめなキック力に納得したわ……」
少し落ち着くと、女の抜けた腰もハマったようだ。
手をついて立ち上がり、尻をぱんぱんとはたいた。
女の背はサダコよりも少し高い。一般的な女性よりも、少し高い部類だ。
('、`*川「助けてくれて、ありがとう」
川д川「いいえー。冒険者なら当たり前です」
('、`*川「私はペニサス。ペニサス・イトーよ」
- 18 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:04:47.15 ID:qqziK8yS0
- 川д川「ペニ、え?」
('、`*川「言いたいことはわかるけどペニサスよ。ペガサスの一字違い」
川д川「いきなりライトなセクハラされたかと思った」
('、`*川「この名が憎い……」
サダコが、それはおいといて、とジェスチャーを混じえ、
川д川「こんなところで何を?」
('、`*川「薬草を取りにきてたら気づかない内にワイルドスタンプの縄張りに……」
川д川「なるほどー」
川д川「って、え? こんなところまで薬草とりに?」
('、`*川「そう。私の村、近くだから」
川д川「……村? Village?」
('、`*川「Yes」
ペニサスの返答に、サダコは顎に人差し指を当て、思考する。
さっき彼女も言っていたが、ここは既に国の管理外である。
その時点で、既におかしいのだ。
村があれば、当然この地域は管轄内となるはずだ。
サダコが疑問を持った起点が、それだった。
- 19 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:06:56.02 ID:qqziK8yS0
- 川д川(このミッションは、百人以上の冒険者がクリアしてる)
脳内で順を追って、整理していく。
川д川(そのはずなのに、村がまだ未発見だなんて考えられない)
川д川(最新版の地図にも、村なんて載ってないし)
川д川(……嘘をついてる?)
川д川(確証はないけど、怪しいのは確か、かなぁ)
川д川(それにしても変な名前……)
サダコが十秒ほど固まったままだったので、
('、`*川「? どうかしたの?」
不審に思い、ペニサスが声をかけた。
川д川「なんでそんな名前なのか考えてたなんて言えない(あ、ごめん、ちょっと考え事)」
('、`*川「多分本音と建前が間違ってるんだと思うけど喧嘩売ってんのか」
川д川「あらっ? 気のせいじゃない?」
('、`*川「もういいわよ……慣れてるから……グスっ」
川д川「違う違う、ごめんねー?」
- 21 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:07:58.36 ID:qqziK8yS0
- 川д川「あのね」
('、`*川「はい?」
川д川「もしよかったら、あなたの村に連れて行ってほしいなーなんて」
('、`*川「いいわよ」
川д川「だよねー」
川д川
('、`*川
川д川
('、`*川
川д川「ん?」
川д川「いいの?」
('、`*川「いいわよ? 一応、恩人だしね」
川д川「そっかぁ、ありがとー」
('、`*川「あー……でもね」
川д川「うん?」
- 22 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:10:40.18 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「ちょっと面倒なことになる、かもしれない」
川д川「面倒なこと?」
('、`*川「うん」
川д川「どんなこと?」
('、`*川「それは言えないけど……あなたたちなら大丈夫、かも」
川д川「ふーん……まぁいいよー」
('、`*川「ごめんね、言えなくて」
川д川「いいっていいって」
川д川「それじゃあ、話もまとまった所で、ヒーちゃーん」
ノパ听)「おっ!?」
('、`*川「すっかり存在を忘れてたわ……」
ヒートは二人が話している間、ずっとワイルドスタンプをつんつんしていた。
というか、サダコが会話に夢中になっていた為、少しいじけていた。
なぜならヒートは料理ができないからだ。
食材を調達したのに食べられない悲しみを背負っていたのだ。
しかし実は、人と話してる時は邪魔しないで、というサダコの言いつけをしっかり守っていただけだったりする。
ヒートは、とても良い子だった。
- 23 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:11:26.64 ID:qqziK8yS0
- 川д川「ごめんねヒーちゃん。この人の村にいくよー」
ノハ*゚听)「おおっ! ご飯ある!?」
('、`*川「大したもてなしはできないけど……」
川д川「あんまりがっついちゃだめ。それ、持っていけばいいよ」
ノパ听)「わかった!」
('、`*川「も、もってく……?」
やっと食事にありつける喜びと、サダコに相手された嬉しさで、彼女の瞳はキラキラしている。
サダコの瞳は窺えないが、ペニサスの瞳は対照的に、畏怖で染められていた。
ヒートがワイルドスタンプを、軽々と持ち上げたからだ。
('、`*川「アイツの体どうなってんのよ……」
川д川「冒険者の嗜み」
ノパ听)「たしなみ!」
('、`*川「私の知ってる冒険者じゃない……」
川д川「あ、ヒーちゃん、地盤ゆるいから気をつけてね」
ノパ听)「了解っ!」
ヒートなりに注意して、二人の傍まで歩み寄る。
小さな足跡が、点々と生まれていた。
- 24 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:12:17.80 ID:qqziK8yS0
- ────村。
「天狗じゃ! 天狗の仕業じゃ!!」
「やべえなんだあれ!? 逃げろおおおおおおお!!」
「ついにこの時がきたか……」ガタッ
三人は村についた。正確には、村の手前についた。
そして、平和な村に混乱をぶち込んだ。
川д川「……面倒な事って、これ?」
('、`*川「違うわよ……私も気付くべきだったわ……」
ノパ听)「?」
この地に住む者ならば、ワイルドスタンプのことは知っていよう。
一般人には恐るべき魔獣であるワイルドスタンプが、宙に浮いている。
唐突極まりない、恐るべき進化である。
取り乱し、わけのわからない事を言う者や、
逃げ出す者、厨二病をこじらせる者まで出現し、村は大パニック状態だ。
('、`*川「それよ! その子が持ち上げてる魔獣!!」
川д川「あ、そっか」
- 25 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:13:49.53 ID:qqziK8yS0
- 川д川「ヒーちゃん、それ下ろして。ゆっくりね」
ノパ听)「おっけー!」
置いた。
彼女なりに精一杯配慮して置いた結果、震度2程度で済んだ。
サダコが釘を刺さなければ震度4はかたいだろう。
どちらにしても、村人たちが溺死する勢いで油を注いだことに変わりはない。
村人たちの目には、
ついに人間たちの住処を見付け出した魔獣は大地に降り立ち、獲物を吟味している。
ように見えている。
('、`*川「ああああああああ! 先に私がいけばよかったのよ!」
川д川「大変ね、あなたも」
('、`*川「なんか、恩があったんだけどチャラになった気がするの」
川д川「気のせい気のせい」
('、`*川「はぁ……誤解、解いてくる……」
o川д川o「ふぁいとっ!」
顔の両端で握り拳を作り応援したサダコを疲れきった目で一瞥すると、
ペニサスは周囲の背景をどんよりとしたトーンに変えながら、村へと歩いていった。
サダコは未だポージングを続け、ヒートは頭の上にハテナマークを浮かべていた。
- 26 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:14:46.07 ID:qqziK8yS0
- o川д川o「ね、ヒーちゃん」
ノパ听)「ん?」
o川д川o「この村、地図に載ってないの」
ノパ听)「……記載ミス?」
o川д川o「ああっ。ヒーちゃんらしからぬ真っ当な推理だけど、それは違うの」
ノパ听)「むーぅ」
o川д川o「あのね、国民を守る義務が国と冒険者にあるでしょ?」
ノパ听)「だね!」
o川д川o「だから、普通、人間が住んでいる場所は、ちゃんと記録されるはずなの」
ノパ听)「じゃー、まだ見つかってない村なんじゃ?」
o川д川o「惜しい! 有り得そうだけど、ちょっとそれは有り得ないの」
ノパ听)「なんで?」
o川д川o「気になって調べてたけど、この村、ミッションのルート上にあるの」
o川д川o「だったら、とっくに発見されているはずだよね」
ノパ听)「あ、そっか」
- 27 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:15:56.71 ID:qqziK8yS0
- o川д川o「もし、もしかしたら、ここに移民してきた人たちがいて、つい最近村を作ったのかも知れない」
o川д川o「でもそれもちょっと、強引かなーって思うの」
ノパ听)「そうだねー」
o川д川o「だからちょっと、探ってみよう」
ノハ*゚听)「す、スパイ?」
o川д川o「うん、スパイ大作戦」
ノハ*゚听)「わかった! 私は何をすればいい!?」
o川д川o「このことは絶対に口に出さないで良い子にしてて」
ノハ*゚听)「了解だ!」
不安の極みである。
しかし、ヒートはサダコの言うことを必ず守る。
会話の邪魔をしないこともそうだし、魔獣を置いた時もそうだ。結果はどうあれ。
二人にしか見えぬ信頼が、確かにある。
だからサダコは、今この丁度良い機を利用して、ヒートに告げたのだった。
彼女としても、ヒートに隠し事をしたくなかったということだ。
それから少しして、ペニサスが更にぐったりとした表情で戻ってくる。
("、"*川「疲れたわ……」
- 28 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:16:35.36 ID:qqziK8yS0
- 川д川「うまくいった?」
("、"*川「いったわよ……人が少ない村でよかった……」
_,
ノパ听)「……誰?」
川д川「急速に老化が進んだペニサスさんだよ」
("、"*川「今わかった。お前ら救世主と見せかけて疫病神だな」
川д川「まぁまぁ、元気だしてっ!」
と言いながら、ばん、とサダコがペニサスの背中を叩いた。
('、`*川「いった! 何すんのよ!」
川д川「スキンシップ?」
('、`*川「強すぎるわよ! ……って、あれ?」
ノパ听)「戻ったー」
('、`*川「え? あれ?」
川д川「元気になった? それじゃーいこー」
ノパ听)「お腹すいたー!」
('、`*川「一体何を……」
- 29 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:17:55.59 ID:qqziK8yS0
- 納得のいかない表情を浮かべて、ペニサスは二人に続く。
失敗を学び、ワイルドスタンプは放置されたままだ。
決して、急にシリアスになったから忘れたというわけではない。
ペニサスが光速で誤解を解いた甲斐あって、村は平和に包まれていた。
意味不明の言葉を発していたものは洗濯物を干し、
逃げ出した者は口笛を吹きながら散歩しだし、
厨二病をこじらせた者は「ふっ、俺にはわかっていたさ」とこじらせたままだ。
三人はそんな静かな村に入る。
実にのどかな村だ。
ちなみにというか、村にもやはり緑の天井があった。
樹海の国ならではの光景だ。
人の手で伐採できる木は全て倒されている為に、村の内部は若干明るい。
実に、幻想的であった。
('、`*川「一応……村長に挨拶するのが決まりだから」
川д川「はーい」
ノパ听)「はーい」
('、`*川「ほら。あの真ん中にあるのが村長の家よ」
ペニサスが指差した先に、小さな煉瓦造りの家があった。
見ればどの家も、煉瓦を基礎に造られているようだ。
どの家も大木の間をぬうように、無理矢理建てられた印象を受ける。
- 30 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:19:30.47 ID:qqziK8yS0
- しかし、その村長の家だけは違った。
家の周囲は完璧に整地されている。
ヒートとサダコが平らな地面を見たのは、実に十数日ぶりだった。
家だけで偉そうである。
('、`*川「村長ー」
ノックもせずに、ペニサスがいきなり入り口の扉を開けた。
彼女の両肩から、サダコとヒートがそれぞれひょこっと顔を出す。
三人が見た室内は、至って平素なものだった。
ベッドがあり、テーブルがあり、椅子がある。
生活に必要最低限なものだけが揃っているといった感じだ。
内装の色は白。乾くと白くなる泥で、煉瓦を固めているようだった。
天井の所々が煤けているのが、初見の二人に生活感を感じさせている。
三人が室内を見回していると、右奥の部屋から人が現れた。
( ∵)「なんだ騒々しい……だれ」
川д川
ノパ听)
('、`*川
( ∵)
- 31 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:20:49.82 ID:qqziK8yS0
- (;∵)「キャーーーーーーーーー!!!」
川д川
ノハ*゚听)「わァ……」
現れた男はとてもつぶらな瞳で、おちょぼ口で、それらが中心に寄っており、
筋骨隆々テッカテカで、ふんどし一丁だった。
───あんなにも焦茶色の肌に驚きの白さでたなびくふんどしを見たのは、初めてでした。 サダコ。
('、`*川「服を着ろおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
(;∵)「ハイイイイイイイイイイイイ!!」
ペニサスの一喝で、男は神速で引っ込んだ。
川д川
ノハ*゚听)(ドキドキ……)
川д川
ノハ*゚听)(ドキドキ……)
('、`*川「今日は厄日かしら……そういえば厄年だっけ……」
- 32 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:21:42.54 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「……おーい?」
川д川
ノハ*゚听)(ドキドキ………)
('、`*川「うおーい!」
川д川「……………………はっ」
('、`*川「いやまぁ、うん、ひどい事件だったわね」
川д川「何か見てはいけないものを見たような……」
('、`*川「うん。今のは見てはいけない世界ランキングTOP10に入ると思う」
川д川「で、今のこけし筋肉が……村長さん?」
('、`*川「そうよ」
川д川「はぁー」
('、`*川「まぁ……初対面の人は顔と体のギャップに驚くから……」
('、`*川「いきなりほぼ全裸見ちゃ、放心しちゃうのも無理ないわよ」
川д川「いやぁ、不覚にもちょっとびっくりしちゃった」
('、`*川「そっちの子はまだ立ち直れてないみたいだけど」
- 33 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:23:02.23 ID:qqziK8yS0
- 川д川「あれ? ヒーちゃん?」
ノハ*゚听)「……」
川д川「ヒーちゃん?」
ノパ听)「え?」
川д川「大丈夫? 悪夢は去ったよー」
ノパ听)「あ、うん、大丈夫」
川д川「あれ? 微妙に大丈夫じゃないよ?」
ノハ;゚听)「な、なんでもないって!」
川д川「そーぉ? まぁ、ヒーちゃんがそう言うなら」
明らかに様子がおかしいヒートに、サダコは首を傾げっぱなしだった。
ペニサスはと言うと、勝手に家に入り椅子に腰掛けている。
('、`*川「ほら、こっちおいで」
川д川「あ、お邪魔しまーす」
ノパ听)「お邪魔しまーす!」
テーブルに備え付けられている椅子は、丁度三つあった。
ヒートとサダコはペニサスの向かいに座る。
三人が出会ってから、最も落ち着けた瞬間であった。
- 34 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:24:08.96 ID:qqziK8yS0
- 川д川「……ほんとにこんなところに村があったんだー」
('、`*川「? 信じてなかったの?」
川д川「ぶっちゃけると」
('、`*川「どうして?」
川д川「だってここ、地図に載ってないよね?」
('、`*川「へ? そうなの?」
川д川「え? 地図見ないの?」
('、`*川「村からあんまり離れないからなぁ……」
川д川「そっかぁ……」
理由としては、弱い。サダコはそう判断した。
それ以前に、サダコが疑問を抱いていることがある。
ペニサスが、あの場にいたことだ。
彼女は、薬草を探していて、いつの間にか魔獣の縄張りに入り込んだ。
これが、サダコには不自然に思えて仕方がなかったのだ。
先述したが、この周辺に住む者ならば魔獣の脅威は知っているはずだ。
現に、村人たちは魔獣を見るなりパニック状態に陥った。
あの動揺は即ち、村全体の脅威であることの、現れだ。
生死に関わることなのに、薬草採取でうっかり、などということが有り得るのか。
- 35 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:25:54.90 ID:qqziK8yS0
- 人、そして村の天敵であることは、教えられているはずだ。
だからこそ、サダコは疑念を抱いている。
ペニサスがあの場にいた事。そして、地図にない村。
何か、裏があるはずだ。
サダコにはそう思えて、仕方なかった。
しばらくして、
( ∵)「先程は失礼おい何くつろいでやがる」
('、`*川「黙れほぼ全裸」
( ∵)「服着たし!」
('、`*川「だからってタキシードとか……張り裂けそうだし……」
みっちみちになった村長らしい男が再び現れた。
( ∵)「コホン……先ほどの失礼、お詫び申し上げたい」
川д川「いえー」
( ∵)「私はビコーズ。この村の村長をしております」
そう言いながら、こけしタキシードが椅子に座ろうとして、
( ∵)「おい、俺の椅子がねーぞ」
- 36 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:27:07.22 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「あら、そういえばそうね?」
川д川「すみません、使っちゃってます」
ノハ*゚听)「すすすすすすすすみません!!」
川д川「ヒーちゃん……?」
( ∵)「いえ、お客人はそのままで結構です。だがペニサス、てめーはダメだ」
('、`*川「そんだけ鍛えてあるなら空気椅子でいいじゃん」
( ∵)「天才現る」
そう言って村長はペニサスの隣に立ち、その場で空気椅子を始めた。
何やら盛大に布が裂けた音がしたが、誰も気づかないふりをしている。
( ∵)「ようこそ我が村へ。私、村長のビコーズと申します」
川д川「サダコです」
ノハ*゚听)「ヒ、ヒートですっ!」
( ∵)「いやしかし、こんな辺鄙な村へこんなに可愛らしい方々がおいでになるとは」
ノハ*゚听)「か、かわっ……!」
( ∵)「それで、何故こんな村にいらしたのか、聞かせていただいてもよろしいかな?」
- 37 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:27:52.56 ID:qqziK8yS0
- 川д川「えー、実は私たち、冒険者なんです」
(;∵)「なんと! お若いのに……いや、失礼を」
川д川「いいえぇ。よく言われます。認定証、見せます?」
ヒートが嬉しそうな顔をしてぱっと懐に手を入れ、
( ∵)「その必要はありませんよ。ここに辿り着いただけで、実力者であるとお見受けします」
しょんぼりした。
( ∵)「では、この村へはミッションか何かで?」
('、`*川「あ、それはね」
( ∵)「なんだ?」
('、`*川「私がワイルドスタンプの縄張りに入っちゃって、襲われてたところを」
(#∵)「またかよお前どんだけ迷惑かけてんだよ」
('、`*川「うるっさいなー。薬草切らしちゃってたんだから仕方ないじゃない」
( ∵)「またあの薬草汁かよ」
('、`*川「そうよ……お肌の為に飲み続けるのよ……」
( ∵)「無駄だと思うが」
- 38 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:28:44.00 ID:qqziK8yS0
- ('、`#川「なんだとコノヤロウ!」
( ∵)「あれ、村の皆なんて呼んでるか知ってるか?」
('、`*川「知るかカス」
( ∵)「ペニ汁」
('、`*川「」
川д川(予想はついてた)
ペニサスはそのまま固まっている。
ビコーズは彼女見て、よし、と頷き、再びサダコを見た。
( ∵)「いやはや……うちの馬鹿がご迷惑をおかけしました」
川д川「いいんですよ」
ノハ*゚听)「冒険者の義務ですからっ!」
川д川「ヒーちゃん……?」
( ∵)「はははっ。いやはや、素晴らしい心構えだと思います」
ノハ*゚听)「へへ……」
川д川(ヒーちゃんがおかしい……)
- 40 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:29:20.87 ID:qqziK8yS0
- 川д川「ところで、ビコーズさん」
( ∵)「はい」
川д川「この村、地図に載ってないですよね?」
空気が、変わった。
( ∵)「……」
川д川「なんでかなーって思ってるんですけど」
( ∵)「仰る通りですよ」
川д川「どうして?」
( ∵)「……」
- 41 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:32:00.60 ID:qqziK8yS0
- ビコーズはペニサスと話している時以外、常に笑顔だった。
その笑顔が、サダコの問いを受け別の笑顔に変わっている。
それはまさに、
( ∵)(……かかった)
と言わんばかりの笑顔だった。
川д川(キモッ)
サダコにはキモい笑顔にしか見えなかったようだ。
ビコーズは自分のポーカーフェイスに絶対の自信を持っていた。
胸の内を悟られていないと確信して、続ける。
( ∵)「それに答えるには……条件があります」
川д川「条件?」
( ∵)「二年ほど前から、この辺りを荒らす者がいるのです」
川д川「? こんなところを?」
( ∵)「いるのですよ。人の道を外れ、野党まがいのことをしている……」
( ∵)「冒険者が、ね」
川д川「冒険者が、野党……?」
- 42 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:32:48.48 ID:qqziK8yS0
- ( ∵)「その者は月に一度ここに現れ、我々の食料を強奪していくのです」
川д川「国か冒険者ギルドに要請は?」
( ∵)「見張られているので、不可能です」
川д川「その割には平和そうでしたけど」
( ∵)「平和ですよ。この村は、平和そのものです」
川д川「そんな事情なのにどうして?」
( ∵)「皆、諦めているからです」
川д川「?」
( ∵)「食料さえ渡せば、誰も死ぬことがない。食料で命が助かるのなら……とね」
川д川「はぁー」
( ∵)「しかし、私は納得がいかない! 何故我々が丹精込めて作った食物を……」
川д川「そうですよねぇ」
( ∵)「わかりますか!? 私の気持ちが!!」
川д川「わかノパ听)「わかります!!」
ノパ听)「わかります! すっっっっごくわかります!!」
- 43 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:35:08.18 ID:qqziK8yS0
- ( ∵)「おお! ヒートさん! わかってくれますか!」
ノパ听)「もちろんですともおおおお!」
川д川(ヒーちゃん……まさか……)
先程からヒートの様子が変だと思っていたサダコが、気付いてしまったようだ。
ビコーズが言っていた通り、見た目でもわかるほど、二人は若い。
まだ二人とも、十七歳なのだ。
年頃である。年頃の女の子である。ちなみに、冒険者試験は満十五歳から受けることが出来る。
それはさて置き、そんな年頃の女の子である、ヒートの変貌。
これはやはり、どう考えても、
川д川(ついに……ヒーちゃんが反抗期に……)
川д川(会話中は静かにっていう約束を完全に無視してる……)
川д川(間違いない……そんな……ヒーちゃんが……)
こ、そう、反抗期らしい。いや、反抗期である。
サダコがそう言っているのならそうなのだろう。
( ∵)「というわけで条件とは……その冒険者くずれを退治していただきたいのです」
ノパ听)「いいですとも!!」
川д川(ヒーちゃんんんんんんんん!!)
川д川(いやいいけど、いいけどさ……)
- 44 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:36:22.20 ID:qqziK8yS0
- ヒートが話を進めている。
サダコはショックで立ち直れない。
ペニサスも固まったままだ。
川д川(あぁ……ヒーちゃんがオトナになっていく……)
この状況、サダコにしてみれば奇跡以外のなにものでもない。
もっとも、サダコがこの状態でなくても引き受けることに変わりないのだから、
特に不都合はなかった。
( ∵)「ありがとうございます!」
( ∵)「そして……丁度明日が食料の引渡しの日なのです」
ノパ听)「丁度いいですね! さっくさくだぁ!」
川д川(明日?)
( ∵)「引渡し場所までは、ペニサスに案内させましょう」
('、`*川(ピクッ)
('、`*川「え、私?」
川д川「この村じゃないんですか?」
( ∵)「はい。村人たちが怖がるので、こちらの条件として別の場所を指定しております」
川д川「はぁ……なかなか優しい野盗さんですね」
- 46 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:37:19.49 ID:qqziK8yS0
- 違和感が、サダコとペニサスを覚醒させた。
ペニサスの場合は単に驚いただけだったが。
( ∵)「野盗としても、我々がいなくなれば困る。そういうことでしょう」
川д川「まぁ、そうですねぇ」
( ∵)「では、お願いします!」
川д川「はーい」
ノパ听)「任せてください!!」
( ∵)「お客人用の家がありますので、そこへご案内します。ペニサスが」
('、`*川「それも私かよ」
( ∵)「では……くれぐれもお気をつけて」
('、`*川「拒否権はないのね……」
ぶつぶつ言いながら、ペニサスが立ち上がる。
サダコとヒートがそれに続き、挨拶も程々に村長宅を後にした。
三人が家を出る間、ビコーズがしきりに尻を気にしていたことには、誰も触れなかった。
外は既に薄暗く、夜が近いようだ。
元々、空を覆う葉の所為で薄暗いのだが、外は夕暮れのそれを思わせる色をしていた。
村には人間の姿が見えない。皆、家に入っているのだろう。
- 48 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:38:32.31 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「そういえばあなたたち、食事は?」
川д川「あ、忘れてた」
ノパ听)「お腹すいた……」
('、`*川「まぁ、私が何か作ってもっていくよ」
川д川「ペニ汁はやめてね」
('、`*川「それは言わないで」
川д川「あのワイルドスタンプ、食べていいよ?」
('、`*川「……食べられるの?」
川д川「意外とおいしいんだよ?」
ノハ*゚听)「丸焼きがおすすめ!」
('、`*川「ダイナミックな……」
川д川「じゃあ、下ごしらえしておくから、お肉は勝手に使って」
('、`*川「はいよー。んじゃ、まずは予定通り案内するわね。つってもすぐ近くだけど」
('、`*川σ「ほら、あれよ」
そう言って、ペニサスは親指を立てて振り向かずに後方を指差した。
- 49 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:39:51.53 ID:qqziK8yS0
- そこには、ビコーズの家よりも二回りほど小さな家が。
やはり、他の家と同じ様に周囲を木に囲まれていた。
川д川「わ。意外と普通だった」
('、`*川「そりゃーお客さんをもてなす家だからね。それなりには」
ノパ听)「早くごっはーん!!」
('、`*川「あー、ハイハイ」
川д川「じゃあ、場所はわかったから。イノシシ、さばいてくるね」
川д川「ヒーちゃん、私の荷物も持ってって」
ノパ听)「了解っ」
川д川ノ「ありがとー。それじゃ」
しゅた、と片手を上げて、サダコは村の入口方面へ歩いていった。
('、`*川「……え? 何も持たずに……?」
ノパ听)「サダコなら余裕だぞー」
('、`*川「どうやって調理するのよ……」
ノパ听)「水で」
('、`*川「……水?」
- 50 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:40:35.06 ID:qqziK8yS0
- メージュ
ノパ听)「『魔術』だよ。サダコのメージュは水を使うんだ!」
('、`*川「メージュ……それが冒険者が使うっていう……噂の」
ノパ听)「私もよくわかんないんだけどね!」
('、`*川「わかんないって……ヒートちゃんは使えないの?」
ノパ听)「使えるよ」
('、`*川「どんな……メージュなの?」
ノパ听)「秘密!」
('、`*川「えー」
ノパ听)「サダコに、人に教えちゃダメって言われてるんだもん」
('、`*川「ふーん……」
ヒートをまじまじと見つめ、少しした後に、
('、`*川「ヒートちゃん、これ、家の鍵ね」
ノパ听)「お?」
('、`*川「ちょっと興味あるから、サダコさん見てくる」
ノパ听)「ほーい」
- 51 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:42:43.32 ID:qqziK8yS0
- ───村の入り口。
既にご臨終のワイルドスタンプの前に、サダコが立っている。
右手の人差指と中指を立てて。
それが、サダコに追いついたペニサスが見た光景だ。
そして、次の瞬間。
川д川「───……」
('、`*川「!!」
サダコが、縦横無尽に手を振り回す。
彼女の手の軌跡と同じ様に、ワイルドスタンプが切り刻まれていった。
川д川「いやぁ、グロ注意グロ注意」
('、`*川「すご……すご……グロっ!」
ワイルドスタンプは頭と四肢を切断されている。
当然血が噴出しているし、切断面など言えたものじゃない。
川д川「あれ? ペニサスさんいたの?」
バラバラショーを行なっているサダコが振り返り、わかっていてもペニサスがビクっとした。
色んな意味で、サダコは絵になり過ぎていた。
- 52 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:43:34.57 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「(あーびびったマジびびった)う、うん……」
川д川「ヒーちゃんは?」
('、`*川「一人で家にいるはずよ」
川д川「大丈夫かなぁ」
('、`*川「ところで……それが、サダコさんの……?」
川д川「ん?」
('、`*川「メージュ?」
川д川「そうだよ」
('、`*川「なるほど……って、何してたのか全く分からないけど」
川д川「うん。わかったらすごいと思う」
───魔術《メージュ》
冒険者となるには相応の実力が必要である、ということは前述の通りだ。
実の所、身体能力などといった基礎体力は、その相応の実力に大した関係はない。
全てはメージュに適合できるか否か、が重要であった。
筆記試験に至っては一般的な常識力を把握する程度のものだ。
ヒートはそれに躓いたのだが、それはどうでもいいことにする。
- 53 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:44:08.08 ID:qqziK8yS0
- 川д川「私のメージュは、水、かな」
('、`*川「水?」
川д川「そう。簡単に言うと、水を操ったり呼び出したりする」
('、`*川「わかりやすい……のはあるんだけど……」
それでは、バラバラショーの説明にはならない。
('、`*川「解体は……どうやったの?」
川д川「簡単だよ。水圧を利用して切ったの」
ほら、とサダコが人差し指を立てると、そこには、
('、`*川「……水の……棒?」
川д川「そう。この中で、水がすっごく回転してるの。そりゃもう恐ろしいくらい」
('、`*川「それで切ったのね……」
川д川「そういうことだよ」
('、`*川「うーん、いまいちよくわからないけど……」
('、`*川「メージュって、何かを操ったりするんだ?」
川д川「いや、それは人それぞれかな」
- 54 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:44:40.31 ID:qqziK8yS0
- 川д川「単純に肉体強化する人もいるし、なんかややこしい能力とかの人もいるよ」
川д川「私にとって水は、一番使い勝手が良いから」
('、`*川「ほうほう」
川д川「この国には、水が溢れてるしね」
('、`*川「そうなの?」
川д川「そうだよ。こんなにたくさんの木が生えてるのは、そのおかげ」
川д川「この国の地下には、膨大な水源があって、水脈もたくさんあるんだよ」
('、`*川「そうなんだー」
川д川「だからいつでも、どこでも水を呼び出して、操ることができるの」
('、`*川「ところで、肉体強化って言ってたけど、ヒートちゃんがそうなの?」
川д川「ヒーちゃんは違うよ。単純だけど、そういうのよりは複雑」
('、`*川「え? そうなんだ……」
川д川「で、ペニサスさんはなんでここに?」
('、`*川「メージュを見てみたいなぁって」
川д川「そっか」
- 56 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:45:31.28 ID:qqziK8yS0
- サダコは軽く流したが、探られている気がしてならなかった。
ついぺらぺらと自分の能力のことを話してしまったのは、ただのうっかりだ。
内心、探られているという予感よりも、あちゃーという気持ちの方が強かった。
ま、どうせ見られるのだし、と思考を切り替えて、ワイルドスタンプに向き直した。
サダコが手をかざして、
川д川「むんっ」
と念じると、ワイルドスタンプから流れ出ている血液が一斉に上昇しだした。
('、`*川「なっ!?」
見れば、体外に流れだした血液だけでなく、
四肢と首からも次々と血液が溢れ出し、上昇している。
異様な光景が少しの間続き、ついに魔獣の上方で赤黒い血の球体が出来上がった。
川д川「血抜き完了〜」
('、`;川「あわ、あわわわわわわわわ」
とかしている内に、辺りは薄暗くなってきている。
グロい獣の死体の前に、真っ黒な服の長髪女が血の塊を見上げている。
この光景、ホラー以外のなんであろうか。
ペニサスが恐れおののくのも無理はない。
そして、本番の皮剥ぎ、部位解体が始まる。
- 57 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:46:07.92 ID:qqziK8yS0
- ( 、 *川 チーン
その間、彼女の意識はなかった───
───その後、家。
ノハ*゚听)「ごちそうさま!」
色々あって、食事を終えた。
ヒートとサダコだけでなく、ペニサスも一緒に食事を摂っていた。
川д川「ごちそうさまでした。ペニサスさん、料理上手ー」
('、`*川「あらありがとう。あんまり言われたことないわ」
川д川「またまたー」
('、`*川「いやマジで」
ノパ听)「ワイルドスタンプって、丸焼き以外でもおいしいんだね!」
( 、 *川 フッ
川д川「ああっ。ヒーちゃん、その名前は出さないで上げて」
- 58 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:46:58.45 ID:qqziK8yS0
- 解体ショーは、ペニサスにトラウマを植え付けていたようだ。
たしかにあれでは無理も無い。
川д川「それじゃあ確認だけど、明日の朝出発でいいよね?」
('、`*川「ええ」
川д川「ある程度相手のことを教えてくれると助かるんだけど」
('、`*川「うーん……不思議な力を使うってことくらいしか……」
川д川「それって、メージュ?」
('、`*川「多分そうだと思う。じゃなきゃ説明つかないし」
川д川「何人?」
('、`*川「一人よ」
川д川「一人?」
ノパ听)「楽勝だね!」
川д川「まぁ……そうかなぁ……」
('、`*川「頼もしいわ。それじゃ、私はそろそろ帰らないと」
川д川「あら。泊まってくかと」
('、`*川「無理無理。子どもたちが待ってるし」
- 59 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:47:35.50 ID:qqziK8yS0
- 川д川「既婚者!?」
('、`*川「違うわよ。村の子どもたち」
川д川「なんでペニサスさんが?」
('、`*川「親がいない子たちよ」
('、`*川「魔獣に襲われて……ね」
川д川「……」
('、`*川「だから私が面倒見てるわけ」
川д川「私たちのことなんてよかったのに……」
('、`*川「いやまぁ、一応村長に任されたし、十五歳の家事をこなしてくれる子がいるから」
川д川「!」
('、`*川「でも遅くなっちゃうのはね。だから今日はもう帰るわ」
川д川「……わかった」
ノパ听)「ごちそうさまでした!」
('、`*川「おそまつさまでした」
- 60 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:48:21.18 ID:qqziK8yS0
- 川д川「ヒーちゃん、ペニサスさんを見送ってくるからお風呂入っちゃってて」
ノパ听)「はーい」
('、`*川「別にいいのに」
川д川「いいのいいの。じゃ、いきましょうか」
サダコはそそくさと立ち上がり、ペニサスをはやし立てた。
入り口の扉を開けると、まずペニサスが外に出て、サダコが続く。
('、`*川「あなたまで外に出ることは……」
川д川「ペニサスさん!」
('、`*川「ひっ!」
肩を掴まれ、顔を寄せられトラウマがフラッシュバックしたが、持ち堪えた。
ギリギリの所で。
('、`*川「ナ……ナニカナ?」
川д川「相談があるの」
('、`*川「ホワイ?」
川д川「十五歳の女の子って言ったよね?」
('、`*川「……う、うん」
- 61 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:49:00.07 ID:qqziK8yS0
- 川д川「その子って、反抗期とかあった?」
('、`*川「あー、言われてみればあったかも」
川д川「そんな時、どうしてた?」
('、`*川「別に? 普段通り接してたわよ」
川д川「……そんなのでいいの?」
('、`*川「まぁ、そういう時期は仕方ないわよ。時間が解決ね」
川д川「時間かぁ……」
('、`*川「それがどうしたの?」
川д川「実は……ヒーちゃんが反抗期なの……」
('、`*川「え? あの子いくつ?」
川д川「十七歳。私も十七歳」
('、`*川「そんな若かったの……でも反抗期にしては、遅いわね」
川д川「あの子ちょっと幼いから」
('、`*川「それはなんとなくわかるわ……」
川д川「で、どうしよう?」
- 62 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:49:45.72 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「どうしようって言われても……解決法なんかないだろうし……」
('、`*川「私みたいに、普段通りでいいんじゃない?」
川д川「普段通りでいられるかどうか……」
('、`*川「あなたがそれでどうするのよ」
川д川「だって……」
('、`*川「あなた、ヒートちゃんのお姉さんみたいなものでしょ?」
川д川「!!」
('、`*川「お姉さんならちゃんとしなきゃ、ね?」
川д川「お姉さん! 私がヒーちゃんのお姉さん!!」
('、`*川「いきなりどうした……」
川д川「そ、そんな風に見えるの!?」
('、`*川「見えるわよー」
川д川「……!!」
('、`*川(二人揃って変な子ね……)
川д川「ありがとう! 私、がんばる!」
- 64 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:51:33.33 ID:qqziK8yS0
- ('、`*川「はいはい、頑張って頂戴」
('、`*川「明日も、頑張ってね」
川д川b「任せといて!」
気合が入ったサダコに苦笑して、ペニサスは背を向けた。
そのまま二歩、歩いた後、
('、`*川「そういえば、ヒートちゃんは反抗期なんかじゃないと思うわよ」
川д川「え?」
('、`*川「少しだけ二人でいた時、あなたの言いつけをしっかり守ってたからね」
川д川「……そうなの?」
('、`*川「そうよ。じゃ、おやすみ」
ペニサスは振り向かずに、手をひらひらと振って歩いていった。
彼女の姿が宵闇に溶けるまで、サダコはずっと見つめていた。
川д川(そういえば……お風呂入っててって言ったら素直に返事してた……)
川д川(なんだー。気のせいかー)
サダコは思考の切り替えが早かった。
別に、ヒートのことを軽く考えていたわけではない。決して。
むしろ、彼女は割りと頑固な性格であった。
- 66 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:52:54.92 ID:qqziK8yS0
- 自身が納得することが出来れば、このようにコロっと思考を切り替えることができる。
執念深そうに見えて、実はとことんサバサバした性格だったのだ。
ただ、一つのことが気になると、他のことが目に入らなくなったりもする。
現に、ヒートを風呂へ促した時、彼女は素直に応じていたのだが、すっかり忘れている。
そして、疑っている人物に人生相談めいたことを話したのも、その証拠。
サダコは器用そうで不器用な少女であった。
川д川(さて、私もお風呂はいろーっと)
そう思い、家へと戻っていった。
───夜が更け、二人の寝室。
川д川「……」
獣が、鳴いている。
魔獣ではない。ある意味魔獣だけど。
これはヒートのイビキだ。
二人でおやすみをして、ベットに横たわった。
ものの数秒で、ヒートは眠りに落ちていた。
私は、ただただ天井を見つめている。
- 67 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:54:05.95 ID:qqziK8yS0
- この屋根の、更に上には木の屋根がある。
おかげで室内は、夜目に慣れていても、真っ暗で何も見えない。
ただ、何も見えないことはどうでもよかった。
この村について考えることができるなら、それでいい。
よく訓練された私にとって、ヒートのイビキは癒しのBGMだ。
さて、考える。
ペニサスが言っていた。
冒険者くずれの野盗は、一人だと。
どう考えてもこれはおかしい。
小さな村といっても、村単位で育てた作物を一人で奪うなんて。
明らかに量が多すぎる。食いしん坊は現実的じゃない。
他に仲間がいるとしても、初めて現れた時も一人という点に違和感がある。
彼女は言っていないけど、その時に複数人だったのなら、そう言ったハズだ。
作物を売って収入を得る……そんな回りくどいことをするなら、最初から金品を強奪する。
やはり、何かがおかしい。
最初からそう思っていたが、この村にきてますます懐疑心が膨れ上がっていく。
川д川「……」
盗賊の討伐は明日。
とするなら───
- 68 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:55:01.28 ID:qqziK8yS0
- 「ククク……よく寝ているな……え、これイビキ? やばくね?」
きた。
やはり、行動を起こすなら今晩しかないだろう。
この男の声、聞き覚えがある。
この村にきて、私が記憶している男の声と言うと、それは一人しかいない。
( ∵)「まさかこんなに若い女がきてくれるとはな……楽しませてもらおう」
村長、ビコーズ。
こいつは大体、会った時から違和感の塊だったのだ。
こんな小さな村の村長が、あんなに筋骨隆々なわけがない。
いやそういう人もいるだろうけど、あの筋肉は普通の生活では絶対に作れない。
川д川「やっぱり、そういうことだったのね」
( ∵)「おや、まだ起きていたのか。夜更かしは肌に悪いぞ?」
川д川「大きなお世話。私は最初から疑ってたんだから、警戒してるに決まってるでしょ?」
( ∵)「これはこれは……勘のいいお嬢さんだ」
( ∵)「しかし、相手が悪かったね」
- 69 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:55:49.55 ID:qqziK8yS0
- 川д川「!?」
いきなり、何かに体を押さえつけられた。
( ∵)「あまり自分を過信しない方がいいぞ?」
動けない。
川д川「……っ!」
メージュを発動しようとする、が、なぜかうまくいかない。
川д川(まさか……こいつのメージュ……!?)
( ∵)「ククク……今夜はたっぷり、楽しませてもらおうか」
( ∵)「村の男たちは、欲求不満なんでな」
川д川「いや……いや!」
( ∵)「なに、快楽に溺れ、すぐに素直になるさ……ペニサスのように」
川д川「!!」
川д川「いやああああああああああああああああああああああ!!!」
- 70 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:56:26.06 ID:qqziK8yS0
- ノハ;゚听)「何!? サダコどうした!?」
川д川「あああああああ………………あ?」
ノハ;゚听)「サダコ……?」
川д川「あ? あー……」
俗に言う、夢オチである。
川д川「あー夢かーそっかーどうりで私視点になったと思ったら」
ノハ;゚听)「大丈夫……なの?」
川д川「うん、大丈夫。おはよー」
ノパ听)「おはよう!」
悪夢から目覚めたサダコの頭は、実にさっぱりしていた。
久々のベッドは、二人に快眠をもたらせたようだ。
サダコは確かに、村のことを考えていたのだが、ものの十秒で眠りに落ちていた。
既に窓の外は、朝のそれになっている。
川д川(あれぇ……何も起きなかった……)
おかしい、と思いつつも、
ノパ听)「サダコ! 早く着替えようよ!」
- 72 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:58:03.56 ID:qqziK8yS0
- ヒートに急かされ、出発支度に取り掛かるのであった。
───村の入り口。
( ∵)「どうかお気をつけて。ついでにペニサスのこともお願いします」
ノハ*゚听)「はいっ!」
川д川「はーい」
('、`*川「はぁ……」
出発前。筋肉に三人が見送られる。
気が滅入っているのはペニサスだ。無理もないだろう。
( ∵)「ペニサス。頼んだぞ」
('、`*川「わかってるわよー」
やる気がないのは確定的に明らかだ。
川д川「お願いね、ペニサスさん」
('、`*川「……まぁ、元々こっちのお願いだしね」
- 73 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 20:59:26.17 ID:qqziK8yS0
- ノパ听)「早く行こう!」
('、`*川「はいはい。じゃ、いってきますよ」
( ∵)「戦士たちに幸あれ……」
川д川「おお、それっぽい」
( ∵)「村長たるもの、一度は言ってみたかった」
('、`*川「ほら! いくわよ!」
ペニサスが声を荒らげて、広い歩幅で歩き出す。
ヒートはあっという間に彼女に並び、サダコは後方で落ち着いた。
というわけで、やっと三名は村を出発したのである。
彼女たちが進む道は、最初に彼女たちが出会った場所へ戻るようなルートだった。
村を少し離れるだけで、険しい森の様相を呈してきた。
常人では、歩くことすら困難だろう。
川д川「私たちが会った場所へ?」
('、`*川「ううん。ここから少し道が変わるわ」
川д川「ほうほう」
直進していたペニサスが、右へと曲がる。
このように方角を見失うことなく、難なく歩いているのは慣れのせいだろうか。
決して、そうではない、とサダコは考えている。
- 74 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:00:27.41 ID:qqziK8yS0
- ノパ听)「ねぇねぇ、悪いやつって強いの?」
('、`*川「私たちからみれば、そりゃ強いわよ。メージュ使うし」
ノパ听)「まじ!? さっすが元冒険者!」
('、`*川「なんで張り切るのよこの子……」
川д川「ヒーちゃんはそういう子だから。ところで」
('、`*川「?」
川д川「その人のメージュって、どんな能力だかわかるかな?」
('、`*川「ううん……素人にはよくわからないんだけど……」
('、`*川「魔獣を操る力……だと思う」
川д川「魔獣を?」
('、`*川「うん。いつも魔獣を従えてるの」
川д川「へぇ……」
('、`*川「もしかすると、ただのペットかもしれないけど、でも」
川д川「相手は魔獣。だから、そのセンは薄いかも?」
('、`*川「そうね」
- 75 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:02:05.45 ID:qqziK8yS0
- 川д川「うーん……冒険者ギルドでも、そういう能力は聞いたことないなぁ」
('、`*川「そうなの?」
川д川「うん。でも、冒険者って結構多いから、全員は把握できてないんだけどね」
と、元冒険者の話題から段々とそれて、同じ様にルートもそれていった。
サダコは会話をしつつも、膨らむ疑惑にも集中している。
川д川(うーん……)
川д川(なんで夜に襲われなかったんだろう……)
村のことは怪しいと、今でも思っている。
それなのに、何故普通に一夜を過ごすことが出来たのか。
彼女はどうしても、その点が気になっていた。
川д川(まさか……本当に……)
だとすれば、考えられることは一つ。
ペニサスとビコーズの話が、真実だということだ。
川д川(うーん……微妙かも)
今ひとつ、信用できない。
だが、真実でなかった場合、サダコの予想は破綻する。
結局は、
川д川(ペニサスさんの話に賭けるしか、ないかなぁ)
- 76 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:05:04.79 ID:qqziK8yS0
- 全てが済めば、全てを話す。
ビコーズが言った言葉だ。
結局は、信用できない者を信用するという選択しかなかった。
歩き始めて十五分ほど過ぎた頃だろうか。
景色が、変わり始めた。
空を覆う葉の密度が、薄らいできたのだ。
川д川「ねぇ、ペニサスさん」
('、`*川「ん?」
川д川「受け渡し場所って、もしかしてヒートスポット?」
('、`*川「そうよ。よくわかったね?」
川д川「うん。葉っぱ減ってきたし」
森に囲まれたこの国で、天を木々に塞がれていない地。
そんな場所が、いくつかある。
小さいものは人の歩幅ほど、大きいものはちょっとした空き地ほどの広さだ。
数少ない、日差しが降り注ぐ土地。それをヒートスポットと呼ぶ。
ヒートスポットがある土地には大概、街、村などが造られている。
それは当然だった。人は陽の光を求めるものだからだ。
それが時に、争いの温床になってしまったりもした。
光在るこの地を統治するという、よくある大義名分でだ。
- 77 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:07:06.98 ID:qqziK8yS0
- 実際、その場所特有の効能などがあるわけではない。
神秘性だけで、そういったことが起きていたのだ。
だから、新たに発見されたヒートスポットは国が管理することになっている。
川д川「未発見の村に、未発見のヒートスポットかぁ」
('、`*川「……」
サダコの呟きに、ペニサスは反応しなかった。
話を振ったのか判別しづらい言葉ではあったが、ノーコメントとも受け取れる。
ペニサスは、じっと前だけを見て歩き、サダコはその背をただ、見ていた。
ノパ听)「っ!」
三名の視界が、開く。
川д川「これは……」
そこは、あまりにも広大なヒートスポットだった。
ペニサスの村がすっぽりと、三つは入りそうな面積。
サダコの記憶の中でも、最たる規模を誇っていた。
そこに佇む、一人の男。
(,,゚Д゚)「遅かったな。……って、手ぶらか……?」
('、`*川「今日は何も持ってないわよ」
(,,゚Д゚)「ほう……どういうことだ?」
- 78 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:08:50.96 ID:qqziK8yS0
- 背は、それほど高くない。汚れた白地の長袖に、黒のズボン。
なんの変哲もない、村人C辺りの風貌だった。
しかし、彼の言葉から、サダコたちのターゲットであることは明白だ。
ノパ听)「お前が悪い奴だな!」
(,,゚Д゚)「はっ。そういうことかよ」
('、`*川「そういうことよ。覚悟しなさい」
ノパ听)「覚悟しろ!」
(,,゚Д゚)「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」
(,,゚Д゚)(でもただの小娘にしか見えんが……)
(,,゚Д゚)(まぁいいや。一回言ってみたかったし)
('、`*川「ギコ! あんたの横暴も今日までよ!」
(,,゚Д゚)「何度目かね、その台詞。だが、あまり調子に乗っていると……」
(,,゚Д゚)「そろそろ、村も潰すぞ」
('、`;川「……っ!」
- 79 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:10:38.62 ID:qqziK8yS0
- (,,゚Д゚)「お前ら、こんな依頼をされたということは、冒険者だろ?」
川д川「そうだよ」
(,,゚Д゚)「返り討ちにしてやるよ。他の奴らと、同じようにな」
川д川「……そういうことだったの」
(,,゚Д゚)「地図にない村。違和感をもっただろ?」
(,,゚Д゚)「そうだ。この村に辿り着いた冒険者は、俺が全て始末した」
(,,゚Д゚)「だから報告もされず、あの村は地図に載ることがない」
川д川「元々あんまり信じてなかったけど」
川д川「まぁ、今もあんまり信じてないけど」
一拍の、間を挟んで、
川д川「とりあえず、あなたを倒すことが決定したよ」
(,,゚Д゚)「やってみろ。お前らのような小娘、すぐに」
ギコが台詞を言い終える前に、ヒートが地を蹴った。
疾駆、とは言うが、駆けるというよりも地面スレスレを滑空しているような形だ。
一足、二足で、十メートル以上開いていた間合いを、数瞬で詰めてしまった。
- 81 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:12:02.08 ID:qqziK8yS0
- 三歩目は、着地であり、踏み込み。
左足を大きく前に出し、地を抉りながら慣性を止めていく。
しかしその運動エネルギーは、振りかぶった右腕に集束され、
ノパ听)「ふっ!」
放つのは、右ストレート。
高速で打たれたヒートの拳は、勿論威力も兼ね備えられている。
ノパ听)「!」
だが、ヒートの拳が捉えたのは、何も無い空間だった。
即ち、空振り。
(,,゚Д゚)「おいおい、最後まで言わせろよ」
涼しい顔で言い放つ。
真正面からだったが、不意をついたような一撃は、あっさりと躱されていた。
ヒートの側面に移動する形でだ。
川д川(速い……!)
数多の冒険者を返り討ちにしたという話、どうやらブラフでないようだ。
川д川(でも……今のは……)
同時に、違和感がサダコを包む。
ギコにではなく、原因はヒートにあった。
- 82 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:13:09.15 ID:qqziK8yS0
- それでも、
川д川「……!」
ギコは自分たちを甘く見ている。
そう判断したサダコは、追撃の一手を放つ。
屈み、地に手をつけて、
川д川(行って!)
【水】に干渉。
すると、ギコの足下、左右から、巨大な錐のような形をした水が伸びた。
伸びきれば、彼の脇腹を串刺しにする挟撃だ。
(,,゚Д゚)「おっと」
冷静に、後方へ飛ぶことで、それを躱した。
川д川「……!」
今回は完全な不意打ちの上、錐が放出される速度もこれまた高速。
が、焦る素振りすら見せずに、避けられてしまっている。
ノパ听)「このー!」
水の錐を迂回して、ヒートが更なる追撃にかかる。
拳と蹴りを繰り出すものの、ギコの表情が変わることはなかった。
- 83 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:14:03.97 ID:qqziK8yS0
- 川д川(うーん……強い)
川д川(かどうかは、まだわからないなぁ)
川д川(あの身のこなしは確かに脅威だけど)
川д川(なんで反撃しないのかな? あれだけ余裕があればできそうなのに)
川д川(……よし)
サダコが思考する間も、ヒートが猛攻を仕掛けている。
つまり、状況は変わっていない。
川д川「ヒーちゃん! タックル!!」
叫んだ。
ヒートの耳がぴくりと動き、サダコの指示を遂行するための挙動へ移る。
(,,゚Д゚)(丸聞こえだぞ……馬鹿か)
ノパ听)「とおおおおおお!!」
右肩を押し出すように、ギコへと向けて。
猪突猛進が、地を蹴った。
ノハ;゚听)「あわっ!?」
案の定、躱される。
- 84 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:15:54.99 ID:qqziK8yS0
- サダコの、予想通りに。
既に彼女は、水への干渉を終えている。
(,,゚Д゚)「!?」
ギコはヒートの突進を、真横に移動して避けていた。
ヒートは勢いを殺すことが出来ず、慣性のままギコを通り過ぎてしまう。
それもサダコの、計算内だ。
(,,゚Д゚)「ちっ……!」
ギコの足首までが、地に沈んでいる。
サダコがしたことは、ギコ周辺の土に水を混ぜ、泥を作った。
その泥に、ギコは足の自由を奪われた。
彼を中心に、周囲五メートル程が泥の沼に変化している。
ヒートを突進させたのは、どうせ避けられるからそのままギコから離れてもらうためだった。
結構ひどいが、どちらも気にしていないというか、ヒートは意図に気づいていない。
川д川「ちゃーんす」
(,,;゚Д゚)「おいおい!」
ずぶずぶとギコの足が沈んでいく。
サダコはこのまま、泥の中へ沈める気だ。
そこにきて、ようやくギコの顔から余裕が消えた。
(,,;゚Д゚)「なかなかエグイことするじゃねぇか」
川д川「悪人には死を!」
- 85 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:17:28.56 ID:qqziK8yS0
- (,,゚Д゚)「……やれやれ」
余裕から焦燥に変わった表情は、次に、
(,,゚Д゚)(意外と、早かったな)
笑みへと、変わった。
川д川「!!」
(,,゚Д゚)q ピィィィィッ!
ギコは手で笛を作り、鳴らす。
すると、すぐに大きな影が、ギコに覆いかぶさる。
ノパ听)「魔獣!」
影の正体は、鳥の魔獣。
ギコは、頭上付近まで高度を下げた魔獣の足を掴むと、魔獣は示し合わせたように上昇していった。
泥から脱出し、ギコは空へと逃げてしまう。
川д川「あれがペニサスさんが言ってた……間違いなさそう」
魔獣を操る能力だと思う、とペニサスが言っていた。
目の前で起きたことに、間違いないとサダコは確信した。
ノハ#゚听)「降りてこい! 卑怯だぞ!」
- 86 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:18:27.91 ID:qqziK8yS0
- (,,゚Д゚)「2対1は卑怯じゃないのか?」
ノハ#゚听)「あたしたちはいいの!」
(,,゚Д゚)「わかった。お前馬鹿だろ」
事態も討論も収集がつかない。
川д川(うーん……)
('、`;川「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」
川д川「あれ? まだいたの?」
('、`*川「いるわよ!」
川д川「危ないから離れててほしいなぁ」
('、`*川「う、うん……そうする……」
川д川(さて……どうしよう)
さすがのヒートも、あの高さまでは飛べないし、飛んだとしても動きがとれない。
水を伸ばしたとしても、余裕で躱されるだろう。
負けることはないだろうが、倒せない。
川д川(うーん、困った)
- 87 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:21:18.15 ID:qqziK8yS0
- しかし、状況はすぐに変化する。
意外にも、ギコの手によって。
(,,゚Д゚)「さて、このままじゃ俺が逃げてるみたいだからな」
ノハ#゚听)「逃げてるじゃんか!」
(,,゚Д゚)「あーわかったわかった。ということで───」
(,,゚Д゚)q ピィィィィィ!
また、手笛を吹いた。
先程の音よりも、少し低い。
川д川「……!」
サダコが身構えた。
段々と大きくなっていく、地響きに警戒したのだ。
川д川「ヒーちゃん! こっち!」
ヒートに合流を促す。孤立していては危険だと判断したためだ。
地響きは尚も続き、サダコたちに近づいてきている。
川д川(何かが走って向かってきてる……って……)
ここはヒートスポット、即ち障害物は何も無い。
だが、周囲は森だ。当然、障害物だらけである。
その中を、地響きを起こしながら何かが近づいてきている。
- 88 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:22:38.64 ID:qqziK8yS0
- 川д川(まさか、木をなぎ倒して!?)
そうだというのなら。
どれほどの力を持った魔獣だというのだ。
サダコの心に生まれた疑問は、すぐに解決することとなる。
彼女らが立つ位置の、正反対の位置の木が、一際大きな音を立て抉り倒された。
地響きの正体が、ヒートスポットに現れた。
刧
ミノ○W○ノ「ボアアアアアアアアアア!!!」
(,,゚Д゚)「スタンプ属の中で最も巨大で、最も獰猛な魔獣、キングスタンプ」
川д川「なっ……!」
(,,゚Д゚)「魔獣ランクは……AAだったか? 俺を殺す気なら、こちらも殺す気でいかせてもらおう」
高さはざっと四メートル、全長はおよそ七メートルはあるだろうか。
言うだけならば巨大な四足獣だが、ワイルドスタンプと同じような、発達した牙もある。
大きさは、その比ではない。
ノパ听)「でっか! でっか!!」
川д川「AAランク……ちょっと、予想外すぎだなぁ」
('、`*川「なにあれ!! あんなの初めて見るんだけど!!」
- 89 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:23:52.11 ID:qqziK8yS0
- 川д川(私も初めて見たけど……うーん……)
川д川(大きさはワイルドの三倍? いや、四倍くらいかな……)
川д川(力は多分、それ以上だよね。ヒーちゃんでも厳しそ)
ノハ#゚听)「とおおおおおおおおおお!!」
川; д川「ヒーちゃん!?」
果敢とも言えるし、無謀とも言えるが、ヒートが先陣を切った。
強い魔獣と戦えるという喜びが、勝手に体を動かしたのだ。
(,,゚Д゚)「さて……キングスタンプ、いけ」
刧
ミノ○W○ノ「ボアアアアアアアアアア!!」
一言で言えば突進、なのだが、実状は規格外にもほどがある。
それでもヒートは、真正面から挑もうとしている。
(,,゚Д゚)(やっぱり馬鹿か)
ノハ#゚听)「ヒーーーーーーット! キーーーーーック!!」
疾駆の勢いを乗せ、全力を込められたヒートの足が、キングスタンプの頭に当たり、
ノハ;゚听)「あれええええええええええええええ!?」
ヒートは盛大に跳ね返った。
- 90 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:27:44.47 ID:qqziK8yS0
- キングスタンプは無傷。一瞬すら止まることなく突進を続けている。
サダコに、向かってだ。
('、`;川「私もいるわよ!! っていやああああああああああああ!!!」
川д川「あーもー」
サダコはわめくペニサスを抱えて、大きく横に走りだした。
キングスタンプを迂回するようにだ。
川д川「間近で見ると迫力あるなぁ」
言葉は呑気だが、実際、心は焦っている。
原因はキングスタンプが1割を占めていて、残りは全てペニサスだ。
戦いづらいことこの上ない、とサダコは思っていた。
突進を回避され、キングスタンプは地を揺らしながら止まり、悠々と振り返る。
大きな瞳は、サダコを捉えているようだ。
ヒートは遠くに吹っ飛んだままだった。
川д川(これは……)
魔獣は基本的に、性格が温和か凶暴かの二極で分類される。
温和な魔獣は人間に無害と判断され、特に管理はされない。
重要視されているのは凶暴タイプの魔獣で、スタンプ属はこれに分類されている。
スタンプ属の特徴は、知性が低く、無差別に人を襲う。
といった、非常に分かりやすい特徴で認識されていた。
- 91 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:29:04.87 ID:qqziK8yS0
- 一つ、その認識と食い違う点を、サダコが見出した。
無差別という言葉だ。
試しに、
川д川「とうっ」
('、`*川「いたっ!」
ペニサスをその場で捨て、
川д川「わー」
キングスタンプから思いっきり離れた。
('、`*川「ちょwwwwwwww置いてくな!!!」
ペニサスの言葉など思いっきり無視である。
とにかくサダコは走る。ペニサスを捨てて白状極まりなく走る。
刧
ミノ○W○ノ「ボボボボボボボ!!」
キングスタンプも走る。
('、`;川「みぎゃああああああああああああああ!!」
踏まれればそれはもう見事に死ぬだろう。
何もかもがぺしゃんこになって死ぬだろう。
そう、自身の胸と同じ様に、ぺったんこになって。
- 92 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:30:01.26 ID:qqziK8yS0
- (>、<;川「助けてええええええええええええええええ!!!」
死を覚悟した。
そして、キングスタンプは。
ペニサスの真横を、通過していった。
川д川(やっぱり)
間違いなく、サダコを追いかけている。
川д川(しっかりと私を狙ってる……ギコって人の命令を聞いてるわけだね)
川д川(能力は間違いないかぁ……どうやって操ってるかが、鍵かな)
つまりこの魔獣は、ギコの思い通りに行動できる可能性があるのだ。
この巨体に司令塔がついたら、厄介な事この上ない。
サダコの予感は当たっていたが、外れていたらペニサスは死んでいた気がする。
川д川(もうちょっと)
既に思考を切り替えて、サダコは次の手に移っている。
誘導、しているのだ。
ギコの足を捕まえた、あの泥へと。
- 93 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:31:52.08 ID:qqziK8yS0
- ギコから指示が出ている様子はない。
忘れているのか、それとも、
川д川(ダメもと、だけどね)
刧
ミノ○W○ノ「ボボボボオアアアアアア!」
咆哮を上げ、泥に足を踏み入れた。
川д川「……」
刧
ミノ○W○ノ「ボボボボボボボ!!」
全くもって問題なく、キングスタンプは走り続けている。
川д川(やっぱり浅い……ヒートスポットは地盤が固いんだよね)
それが、木が生えていない理由の一つであると、考えられていた。
解明はされていないが、全てのヒートスポットにその特徴が見られる。
加えて、地下の水源もその場所を避けるように、存在しないのだ。
ヒートスポットでは、彼女は全力でメージュを活用することができなかった。
(,,゚Д゚)(水使いとは、相性が悪かったな)
反対に、ギコは好きに魔獣を操れる。
森の中ならそれ用の魔獣もいるが、彼が扱う魔獣の中で、キングスタンプは最強。
実に都合の良い展開というわけだ。
- 94 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:32:36.75 ID:qqziK8yS0
- 川д川(もっと水の多いところまで行かないと……でも)
(,,゚Д゚)(森に逃げる気か。させるかよ)
ギコが、そうさせない。
また、今度は小刻みに指笛を吹いた。
すると、サダコが走っている森の入り口付近に、十数匹のワイルドスタンプが現れた。
川д川(うーん……厄介)
後方にはキングスタンプが迫っている。
普通であればワイルドスタンプなど、彼を見れば逃げ出してしまうだろうが、
ギコに操られている今では、連携をとることも有り得る。
サダコは一旦停止して、円を描くようにヒートスポットの内周を回るルートに変更した。
(,,゚Д゚)(袋の鼠、だな)
川д川(袋の鼠状態!)
同じことを思う。
そこへ、
ノハ#゚听)「リベーーーーーンジ!」
次の猪が追加された。
- 95 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:33:14.90 ID:qqziK8yS0
- ヒートがキングスタンプの尻に、思い切り蹴りを叩き込んだ。
ノハ;゚听)「ぐぬぬ……効いてない……」
川д川「ヒーちゃん! こっち!」
意気消沈しかけたところに、サダコの声。
ヒートはすぐに駆け出した。
二人が並走し、続ける。
ノパ听)「強いなーあれ……」
川д川「強い……っていうか、単純に頑丈だし、おっきいしね」
ノパ听)「うーん……」
川д川「ヒーちゃん?」
ノパ听)「やっぱり強い奴はいるんだなぁ……」
川д川「あー」
サダコの中で引っかかっていたものが、ようやく姿を表した。
最初の、ギコに攻撃を仕掛けた時から始まり、今のヒートの言葉が決定打だった。
これは、ヒートのメージュに深く関わることだ。
川д川「ヒーちゃん」
- 96 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:34:37.26 ID:qqziK8yS0
- ノパ听)「お?」
川д川「ヒーちゃんがいてくれないと、私だけじゃ勝てないよ」
川д川「だから頑張ってほしいなぁ」
ノパ听)「……」
川д川(……いまいちかぁ)
ヒートのメージュは、サダコのように何かに干渉するものではなかった。
【唯我独尊<ハイテンション>】
それが、彼女の能力。
己の力を信じ、テンションを高めれば高めるほど、彼女の力が上昇する能力。
単純だが、実に彼女らしい力だった。
そして、今の状態では能力の効果のほとんどが、得られないであろう。
簡単に効果を得られるが、簡単に劣化してしまうメージュであった。
川д川(変だなぁ……ビコーズさんに会ってから特に……)
川д川(……あれ? ビコーズさんに会ってから……?)
サダコが、何かに気づいた。
しかし、
(,,゚Д゚)「おいおい。逃げてばっかじゃつまらないだろ」
- 97 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:36:15.27 ID:qqziK8yS0
- 川д川「!!」
ひたすら続いていた鬼ごっこに、ギコが痺れを切らした。
ぞろ、と現れたのは、またもワイルドスタンプ。
ただ、ヒートスポットを囲う森全てから現れていた。
軽く見て、百をゆうに超えている。
川д川「あちゃー……」
ノハ;゚听)「やばいぞこれ」
状況は最悪だ。
ヒートがこの状態では、サダコがメージュを使う時間を作ることができない。
【水】に干渉するためには、一定の時間が必要なのだ。
それに、逃げ続けているだけで体力も消耗していく。
二人にとって幸いなのは、ペニサスをかばう必要がないことくらいだ。
(,,゚Д゚)「さて、悪い報せだ」
走りまわる二人の頭に、言葉を投げた。
(,,゚Д゚)「さすがにこの数の魔獣を操るのはキツイ」
川д川「げっ」
(,,゚Д゚)「何匹か……暴走するかもしれんな」
- 98 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:37:05.99 ID:qqziK8yS0
- 実にわざとらしく、そういった。
彼が言いたいことはつまり、
('、`;川「くるなああああああああああああ!!」
ペニサスに危害を加える、ということだ。
川д川「もー!」
サダコが初めて、言葉に苛立ちを乗せた。
切羽詰まった事態だ。
ペニサスに、数匹のワイルドスタンプが迫っている。
彼女は腰が抜けて動けないようだ。
というか、キングスタンプが真横を通過する時に、既に抜けていた。
川д川(止まったら私が死ぬし……一緒に死ぬ!)
サダコは混乱している。
(>、<;川「死んだ! はい死んだ! 今度こそ私死んだああああああああああああ!!!」
(>、<*川「ああああああああああ……」
('、<*川「……あ?」
- 99 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:38:17.60 ID:qqziK8yS0
- 宙を飛ぶ、ワイルドスタンプ。
物理法則を無視した彼らの動きは、圧倒的な暴力によるものだ。
つまり。
ノハ#゚听)「ペニサスさんには触らせないぞっ!!」
ヒート=ミークリィという暴力に、弾き飛ばされていたのだ。
('、`*川「ヒートちゃん! ありがとううううう!」
ノハ#゚听)「ビコーズさんと約束したんだ! ペニサスさんをよろしくって!」
('、`*川(それがなかったら死んでたのか私)
川д川(ヒーちゃんいつの間に!? というか、やっぱり……?)
サダコの予感は、当たっているようだ。
川; д川(まさか……こ、こここここここ───)
川; д川(はっ……恥ずかしがってる場合じゃない!)
この間も、彼女は全力疾走中である。
川д川「ヒーちゃん!! 私たちがここで負けたら、ビコーズさんたちがひどい目にあうんだよ!!」
ノパ听)「っ!!」
川д川「だから! 本気で! やっちゃってーーーーーーーー!!」
- 100 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:39:40.04 ID:qqziK8yS0
- ノパ听)「……」
恋した相手の事を想い。
ノパ听)「……い───」
己の力を振るう。
ノハ#゚听)「いっくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
【唯我独尊<ハイテンション>】、顕現。
(,,;゚Д゚)「んなっ!?」
ヒートスポットを縦横無尽に駆け巡る。
ワイルドスタンプを尽くなぎ倒しながら。
それは最初の、キングスタンプが木々を倒しながら登場した時の様に、似ている。
ノハ#゚听)「だあああああああああああああああああああ!!」
殴り、蹴り、走る。
ただのそれだけだ。
ただのそれだけで、魔獣は吹き飛ばされ、森へと強制送還されていく。
(,,;゚Д゚)(なんだアイツ!? どんな能力だ!?)
- 101 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:40:30.82 ID:qqziK8yS0
- (,,;゚Д゚)(まさか、天然系? そんな、あの能力はアイツの───)
(,,゚Д゚)(ちっ!)
ギコの舌打ちに同調するように、キングスタンプが進路を変えた。
標的は、既にワイルドスタンプの八割を掃除したヒートだ。
残りの二割は、森の中へと逃げ出していた。
ギコが焦ったと同時に、術が解けていたからだ。
我に返ったワイルドスタンプは、本能で危険を察知し、逃げたのだ。
恐れたのはキングスタンプにでなく。
ノハ#゚听)「くるか!?」
赤い悪魔に、だ。
刧
ミノ○W○ノ「ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ノハ#゚听)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
三度、一人と一匹が、ぶつかる。
魔獣は発達した牙を地面スレスレまで下げている。
ヒートはなんと、その牙を真正面から受け止めた。
牙の先端を脇に抱えるようにしてだ。
刧
ミノ○W○ノ「ボアッ!?」
- 102 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:41:28.11 ID:qqziK8yS0
- 最も驚いたのは当のキングスタンプだ。
このような小さき少女を、吹き飛ばすことができないのだから。
押せてはいる。
それも少しではなく、今も全力疾走に近い速度でヒートを押している。
だが、それだけなのだ。
刧
ミノ;○W○ノ「ボ……ボアアアアアアアアアアア!!」
牙───頭を、持ち上げることができない。
ヒートが牙を抱えているのなら、そのまま頭を持ちあげれば上空に投げ出すことが出来る。
しかし、できない。
小さな、小さなヒートに、押さえつけられているからだ。
ノハ#゚听)「負けないぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
押し合いでは負けている。
見たままの感想では、そうだ。
押し続けるキングスタンプの速度が、段々と落ちてきていることに気がついたのは、ギコだった。
(,,;゚Д゚)(……まじかよ)
ドン引きである。
もはや彼は見ているだけだ。
- 103 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:42:42.26 ID:qqziK8yS0
- そこまできて、ヒートの心境に変化が訪れた。
ノパ听)「お前、強いな!」
刧
ミノ○W○ノ「ボアアアアアアア!!!」
ノパ听)「久しぶりに楽しくなってきたぞ!!」
村(ビコーズ)を護る為に立ち上がった彼女が、戦いを楽しんでいる。
最初のそれは、切っ掛けにすぎなかった。
【唯我独尊】とは、非常に自分主義な力だった。
他を理由にして、今のようにテンションを高め、力に変換することができる。
しかし、【唯我独尊】の真骨頂はそこではない。
切っ掛けはどうでもいいのだ。
後は、その切っ掛けで得たテンションを、どこまで高めるかということ。
今回彼女は、強い相手と戦えた喜びをもって、
ノハ#゚听)「───ありがとう!」
ハイテンション
【唯我独尊】に、突入する。
- 104 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:43:51.02 ID:qqziK8yS0
- ヒートの赤い髪が、燃え上がる炎のように逆立った。
刧
ミノ;○W○ノ「ボボボボボボボア!?」
急激に、重みを感じた。
人間であればそんな感想をもっただろう。
魔獣の頭脳ではそれすら理解できない。
ノハ#゚听)「はあああああああああああああああああああああああああ!!!」
ヒートが押される速度が、急激に低下していく。
刧
ミノ#○W○ノ「ボ───ボアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
魔獣も意地を見せる。
が、
ノハ#゚听)「ここまでだああああああああああああああああああああ!!!」
意地と、力の象徴である牙が、ヒートによって叩き折られた。
- 106 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:45:03.92 ID:qqziK8yS0
- 刧
ミノ;○W○、「──────!?」
根菜を脇に抱え、土から引き抜くイメージだった。
ヒートは頭の中でそれをイメージして、実行した。
結果、キングスタンプを投げっぱなしジャーマンすることに成功する。
キングスタンプの視界が大地に変わった時、牙は折れていた。
後は勢いのまま、ヒートの後方、つまり森の中に投げ出されるだけだ。
巨体が地に触れた時、想像していた音と違う音が立つ。
水に落ちた音がしたのだ。
川д川「ふーっ。ヒーちゃんおつかれ!」
キングスタンプが墜落する箇所に、サダコが水を広げていた。
木々も沈んでいる、ちょっとした湖がそこに生まれていた。
ノハ;゚听)「はー……つっかれたー……」
へたりと、その場に尻をつく。
ちなみにペニサスはずっと尻をついている。
川д川「さて、これで一番厄介なのは終わったんだけど……」
(,,゚Д゚)「……」
- 107 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:45:52.50 ID:qqziK8yS0
- ギコは未だ空にいた。
(,,゚Д゚)「は……」
(,,゚Д゚)「ははははははははははっ!!」
そして、盛大に笑った。
川д川「……?」
笑いながら、ギコは地に降り立つ。
実に満足気な表情をして。
(,,゚Д゚)「まさかキングスタンプを倒すとは思わなかったぜ」
(,,゚Д゚)「いいな、お前たち。面白いぜ」
川д川「もうお仲間は呼ばないの?」
(,,゚Д゚)「呼ばないさ。もう、呼ぶ必要がないからな」
川д川「……どういうこと?」
(,,゚Д゚)「必要ないんだよ」
(,,゚Д゚)「俺より弱い魔獣を呼ぶ必要は、な」
川д川「……!」
- 108 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:47:01.71 ID:qqziK8yS0
- (,,゚Д゚)「その赤い子は、疲れちまったか?」
ノハ;゚听)「ま、まだ……っ」
川д川「ヒーちゃん、無理しなくていいよ」
(,,゚Д゚)「黒いお前も、まだ本気じゃないだろ?」
川д川「……」
(,,゚Д゚)「見せてもらおうか」
川д川「……いいよ」
川д川「でも、ね」
サダコの周囲にある葉や草が、ざわめいている。
呼応するように、サダコの髪が逆扇に広がっていき───
川゚ー川「本気を出した私は、ちょっと冷たいよ?」
(,,゚Д゚)「───!」
川゚ー川「私の力……【上───」
- 109 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:47:55.38 ID:qqziK8yS0
- 言葉とともに、右手を側方に上げて、
('、`*川「はーい、そこまで」
ペニサスに手を握られ、止まる。
川д川「……え?」
('、`*川「ちょっとギコー! 何調子に乗ってんのよ!」
(,,゚Д゚)「いや、わりぃ。ちょっと楽しくなっちまって」
川д川「はい?」
ノハ;゚听)「?」
('、`*川「ごめんねーサダコちゃん。でもよかったわよー」
(,,゚Д゚)「合格だ。まったく、これで冒険者二年目のルーキーだとはな」
川д川「……え?」
('、`*川「まぁ、積もる話は村でしよっか」
('、`*川「ほら帰るよー」
((((((川д川ノ ズルズル……
- 110 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:48:45.53 ID:qqziK8yS0
───それから。
川д川「疲れた……」
ノパ听)「どうした!? もう着くよ!?」
ヒートが言うように、二人はもうすぐミッションの目的地に辿り着く。
もっとも、真のミッションはクリアしていたのだが。
サダコが疲れている理由は、真のミッションにあった。
川д川「だって……だって……」
ノパ听)「んー?」
川д川「まさかあの村が冒険者の駐屯地だったなんて!」
地図にない理由がそれだった。
あの村の周辺は、先にも言ったように未開拓地である。
そして、未開拓地の調査のために設置された、駐屯地だったのだ。
実は住む者全員が冒険者で、つまり全員が演技をしていたのだった。
川д川「もう誰も信じたくない……」
ノパ听)「……あたしは?」
川д川「信じる」
- 111 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:49:30.37 ID:qqziK8yS0
- ペニサスが言っていた。
───('、`*川「ここは有望な冒険者を見つける為の駐屯地でもあるのよ」
───('、`*川「ほら、今あなたたちが受けてるミッションって、東を目指すじゃない?」
───('、`*川「地図どおり正確に東へ進まないと、この村には辿りつけないの」
───('、`*川「だから、ここに着けばまぁまぁ優秀、後は実力のチェック、ね」
───(,,゚Д゚)「それが俺の役目ってわけだ」
───('、`*川「そういうことー」
───川д川「あなた女優を目指せば?」
と。
川д川「私の活躍が……能力名すら言えなかった……」
ノパ听)「まぁまぁ!」
川д川「疑ってたけどさ……たしかに疑ってたけどさ……」
- 112 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:50:20.75 ID:qqziK8yS0
- そうしたら、
───('、`*川「ま、これがこのミッションが冒険者のステータスって言われてる所以」
───川д川「納得したけど納得したくない……」
───('、`*川「てへぺろ☆」
とも。
川д川「むかついてきた……」
ノパ听)「ほらーサダコー! 森を抜けるよー!」
川д川「うん……」
森を抜けて、二人の足が、止まった。
もう一歩踏み出せば、断崖絶壁に身を投じてしまう。
しかしそんな崖など、二人の目には入らなかった。
ノハ*゚听)「おおおーーー!」
川д川「……へぇ」
崖の下には、別世界で海と呼ばれる広大な湖が広がっていた。
そして、その、先。
- 114 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:51:23.12 ID:qqziK8yS0
大きな光の塊が、地平線から顔をのぞかせている。
水面に光が反射して、幻想的な世界を創り出していた。
数分経てば光の塊が上昇していることがわかる。
光は、太陽。即ち、日の出。
ノハ*゚听)「きれー……」
川д川「悪くないね、うん」
森の国で育った人間では、まず見ることができない。
冒険者になったら、いつかこのミッションをやろうと、二人は決めていたのだ。
ヒートとサダコは、念願の初日の出を見ることに、成功した。
ノパ听)「……」
川д川「……」
日の出を見て帰還した冒険者は、どこか雰囲気が違うと言う。
なんとなく、二人はその理由がわかった気がしていた。
太陽が、完全に姿を現した。
- 115 名前: ◆bqOrewof0c 投稿日:2011/12/29(木) 21:53:57.80 ID:qqziK8yS0
今回は騙されたが、いつかまた強大な敵に出会うこともあるだろう。
でもきっと、それは二人で、乗り越えていくのだ。
ノハ*゚听)(ビコーズさん……)
───( ∵)「立派な冒険者になったら、またここにくるといい」
川д川(……)
───(,,゚Д゚)「感情を力にする能力……もしかして、クール=ミークリィの……」
目標があり、目的がある。
ゴールは未だ見えない。
だから二人は、これからも。
どこまでも、冒険を続けていく。
終わり。
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