( ゚∀゚) 前奏曲嬰ハ短調3-2 のようです

4 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:22:20.91 ID:x5ANhHns0


  _  
( ゚∀゚)「―――鐘を鳴らそう」


 時期は、卒業式を間近に控えた3月の朝。

白い息を盛大に吐き出しながら、ジョルジュは唐突に言った。


从 ゚∀从「はぁ?」


 中学から3年以上、彼の突拍子もない言動に付き合っていた悪友も、
さすがに己の耳を疑った。

5 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:23:17.01 ID:x5ANhHns0



( ゚∀゚) 前奏曲嬰ハ短調3-2 のようです


6 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:24:59.92 ID:x5ANhHns0
 ジョルジュの言った「鐘」とは、彼らが通う学校の屋上にある、鐘つき塔の事である。

一昔前までは、その美しい音色が、学校中によく鳴り渡っていたらしい。
当時を知っている老人たちが口を揃えて言うのだから、
その音色の美しさは、相当なものだったのだろう。

だが、時代が進むにつれ、どこの学校も、危険防止の為に屋上は閉鎖されていった。
二人が通うヴィップ高校も、無論、例外ではなかった。

屋上が閉ざされると、鐘を鳴らす者もいなくなった。
今では、屋上へ繋がる扉や階段は固く閉ざされている。

好奇心旺盛な生徒が何度か屋上への侵入を試みても、大体が失敗に終わっているようだ。

前途多難。
そんなことは、ジョルジュも充分承知していた。

  _  
( ゚∀゚)「鐘、鳴らしに行こう」

 それでも彼は、目を輝かせて、同じ事を繰り返した。

从 ゚∀从「何言ってんの、お前どっかに頭でも打ったか?」

  _  
(;゚∀゚)「そこまで言うことねぇだろ……」

从 ゚∀从「だってさぁ、確か鐘って屋上だろ? 学校の中で一番侵入が難しい場所じゃねぇか。
     何でまた、そんなめんどくせぇモンに目ぇつけたんだよ?」

7 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:26:42.55 ID:x5ANhHns0
 ハインの疑問も、当然だ。

卒業を3日後に控えた今、彼は何故、鐘に興味を示したのか。

この高校に入ってから今まで、彼の興味が鐘に向いた事はなかった。
だからこそ、突然「鐘を鳴らしに行く」と言い出したのが不思議だった。

  _  
( ゚∀゚)「いやぁ、実はさ、ちょっとした事情があるんだ」

 彼の話は、こうだった。

 _  
( ゚∀゚)「内藤、いるだろ? アイツが、卒業する前に津出に告白したいんだと。
     でもそんな勇気なんかねぇってんで、親友のこの俺様が一肌脱ごうと思った訳だ」

从 ゚∀从「ほー、……で、何で鐘?」
  _  
( ゚∀゚)「女子から、ウワサを聞いたんだよ」
  _  
( ゚∀゚)「『屋上の鐘が鳴ってる間に告白すれば、必ず成功する』っていうウワサ」

从 ゚∀从「うっわ、なんじゃそりゃ。何年前の少女マンガだよ……」

 大して興味がなさそうに、ハインは息を吐く。
真っ白な息が風に流され、やがて掻き消えていった。

しばらく無言のまま、北風が吹き付ける道を二人は歩く。

登校するには少々遅い時間なので、二人以外に制服を着た人間はいなかった。

8 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:27:40.63 ID:x5ANhHns0

从 ゚∀从「でも」

从 ゚∀从「……そのウワサが嘘でも本当でも、成功すりゃーいい演出にはなりそうだな」
  _  
( ゚∀゚)「だろ?」

从 ゚∀从「―――で、そのウワサでくっついたカップルはいるのか?」
  _  
( ゚∀゚)「いや、知らね」

从 ゚∀从「だよな。オレらがいる間、鐘が鳴ったことなんか一回もないし。
     何で今もそんなウワサ残ってんだか」
  _  
( ゚∀゚)「でも、2,30年前に一回だけ鳴ったって話は聞いた事あるぜ」

从 ゚∀从「何だそれ。誰かが屋上忍び込んで、鐘鳴らしたって?」

从 ゚∀从「嘘くせー……。つーか、んなもんに頼ってねぇで自分の力で告白すりゃーいいじゃん」

从 ゚∀从「内藤とツンだろ?
     心配なんかしなくても絶対成功するぞ、あいつらなら」
  _  
( ゚∀゚)「……告白が出来てたら、もう今頃らぶらぶちゅっちゅしてると思いますが」

从 ゚∀从「それもそうか。じゃあまぁ、鐘を鳴らすのは分かったけど―――」

从 ゚∀从「どうやって屋上に忍び込むか、考えてあんの?」

9 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:28:48.91 ID:x5ANhHns0
 ハインの質問を受け、彼は黙り込んだ。

嘘か本当か、今まで一度しか侵入を許していない屋上に、どうやって行けばいいか。
それが、唯一にして最大の問題なのだ。
 _  
( ゚∀゚)「いや、考えてない」

从 ゚∀从「んなこったろーとは思ったわ」
 _  
( ゚∀゚)「その、昔鐘を鳴らした人ってのは、どうやって屋上に行ったんだろう?
     それが分かれば、どうにかなりそうだよな」

从 ゚∀从「さあ……。ずっと昔からいる先生とかに聞いてみるとかは?」
  _  
( ゚∀゚)「2,30年前だぞ? さすがにそんな昔からいる奴はいねぇだろ」

从 ゚∀从「でも、このままウダウダ喋ってるよりかはマシだろ」
 _  
( ゚3゚)「まぁ……そうだけどさ」

从 ゚∀从「じゃあ決まりだ。あとは、そうだなー……」

从 ゚∀从「……あ、昔の学級日誌みたいなのに、鐘が鳴ったこと書かれてないかな?」
 _  
(;゚∀゚)「2,30年前の学級日誌なんか残ってるか?!」

10 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:29:34.26 ID:x5ANhHns0

从 ゚∀从「知らね。図書室辺りに保管されてんじゃね?
     3年間図書室とか一回も行った事ないけど、なんかそういう黴臭いの残ってそうじゃん」

  _  
(;゚∀゚)「お前は図書室を一体なんだと思ってんだ…」

 _  
( ゚∀゚)「まぁいいや。じゃあ、学校着いたら、その学級日誌? 調べといてくれよ」

从 ゚д从「えぇー? めんどくせー……」

  _  
( ゚∀゚)「卒業前だ、最後にどでかい事やろうぜ!」


 期限は、卒業式までの3日間。
それまでに何かしらの手がかりを見つけ、鐘を鳴らすための手立てを考えなければならない。

クラスメイトの恋路を助けるため。
今までやったことのないくらい大きな悪戯のため。

これが最後の大仕事だと言わんばかりの満面の笑みで、彼は隣にいたハインの髪をぐしゃぐしゃに掻き回した。

11 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:30:47.77 ID:x5ANhHns0
―――――――――――

――――――

―――
  _  
(メメ゚∀゚)「よし、じゃあ図書室は頼んだぞ!」

从 ゚∀从「おう、なんか分かったらメール寄越せ」

 学校に着くと、二人は一度別れ、鐘を鳴らす方法についての手がかりを捜しに行った。

ハインは図書室へ。
その後ろ姿を見送ったジョルジュは、職員室へ。

昇降口で3年間履き潰した上履きに換え、職員室へ向かう。
今は授業中のため、廊下にはジョルジュ以外の人影は見当たらない。

教室がある上階からは、賑やかな笑い声や話し声が遠く聞こえた。
その喧噪から離れるように、彼の足は真っ直ぐ職員室へと向かう。

普段は説教でしか呼ばれたことのない場所に、自ら赴くのだ。
あまり気は進まないが、それでも彼は、職員室の扉を開けた。

人もまばらな部屋からは、暖房の熱気が流れてくる。
扉の一番近くにいた教師が、職員室を覗き込んでいるジョルジュに気付いて近寄ってきた。

ちなみに彼は、ジョルジュたちの担任の教師だ。

12 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:31:38.77 ID:x5ANhHns0

( ・∀・)「おうジョルジュじゃねえか、どうかしたか?
     また誰かに説教されにきたか?」
  _  
( ゚∀゚)「いやー、今日は違うんだ。
     この高校の卒業生を探しに来たんだよ」

( ・∀・)「へ? 卒業生?」
  _  
( ゚∀゚)「2,30年くらい前に、この学校卒業してる先生いない?」

( ・∀・)「30年前? あー……どうだろうな、さすがにそんな人いないと思うけど」


 担任が、職員室を見渡す。
残っている教師はほとんどが定年ギリギリの高齢者だが、他校から赴任してきた者ばかりだ。

鐘が鳴った時の様子を知っている人は、いなさそうだった。
  _  
( ゚∀゚)「そっか、じゃあモラでもいいや。屋上にある鐘についてさ、なんか知らねえ?」

( ・∀・)「モララー先生とお呼び。……で、鐘について?
     いや、相当昔からあるって事くらいしか知らないな」

( ・∀・)「……なんだぁ? 今度は何しようっての?」
 _  
( ゚∀゚)「ちょっとな。じゃあ、いいや。また後で来る!」

13 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:32:13.79 ID:x5ANhHns0

 担任に軽く手を振り、ジョルジュは職員室を後にした。

冷えた空気が流れる廊下に戻り、誰か暇そうな教師を探すために、宛てもなく歩き出す。
だが、一応授業中のこの時間にふらふら出歩いている教師なんている訳がない。

広い校内を一周し、教師どころか生徒とすら、誰とも会わなかった。

図書室にいるハインからは、まだ何の連絡もない。
途方に暮れて、ジョルジュは窓の外に視線を移した。

ここからでは鐘のある塔は見えない。
その代わり、いつも季節の花が咲いている中庭の花壇が見えた。
今は何も植えられておらず、剥きだしの土がどこか寂しく映る。

そんな狭い中庭に、誰かいた。
 _  
( ゚∀゚)「ん?」

 よく見てみると、誰かが花壇の手入れをしているようだ。
制服ではなく作業着で、生徒ではないのは確かだった。

恐らく、用務員だとかそこら辺だろう。

暇なのも手伝い、ジョルジュは中庭へ向かうことにした。
一段飛ばしで階段を下り、上履きのまま中庭へ出る。

そこには、寒い中黙々と花壇の土を弄っている者がいた。

14 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:32:56.48 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「ようおっさん! 何してんだ?」

(,,゚д゚)「あ?」


 ジョルジュの声に反応して顔を上げたのは、やはり教師ではなかった。

顔に土汚れをつけたその男は、用務員のギコ。
面倒なイタズラをするジョルジュに何度か拳骨を落としたこともある、寡黙な男だ。

 _  
( ゚∀゚)「土いじりなんかして、何してんだ?」

(,,゚д゚)「……花植えてんだ、見て分かるだろ」

 _  
( ゚∀゚)「大変そうだな、手伝おうか?」

(,,゚д゚)「……いや、別n」

  _  
( ゚∀゚)「まぁそう言わずに。この枯れた草とか、そっちに捨てればいいのか?」

(,,゚д゚)「…………ん」

15 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:33:51.40 ID:x5ANhHns0

 突然仕事を手伝う、と言い出したジョルジュに、ギコは胡散臭そうな目を向けていた。

当然といえば当然である。
今までイタズラばかりしていた悪ガキが、面倒な仕事を文句ひとつなく、
それも自主的にやっているのだから。

今まで、ジョルジュに地味に手を焼かされていたギコが不審がるのも、無理はない。

(,,゚д゚)「……お前、何が目的だ?」
 _  
(;゚∀゚)「何が目的って……俺が手伝っちゃいけねぇのかよ……」

(,,゚д゚)「お前、自主的に人の手伝いなんかするタマじゃねぇだろ」
  _  
( ゚∀゚)「ったく…たまにいい事するとすぐコレだもんなぁ」
 _  
( ゚∀゚)「ま、話が早くて助かるよ」
  _  
( ゚∀゚)「おっさんってさ、この学校の卒業生?」

(,,゚д゚)「……まぁ、そうだけど……それがどうかしたか?」


 思わぬところで、このヴィップ高校の卒業生とコンタクトが取れた。

ガッツポーズをしそうになるのを抑え、ジョルジュは口笛で喜びを表すだけに留める。
両腕いっぱいに抱えていた枯れ葉や雑草を捨ててから、話を続けた。

16 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:34:37.65 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「じゃあさじゃあさ、屋上のあの鐘の音、聞いた事あるか?!
     30年くらい前に一回鳴ったらしいんだけど!」

(,,゚д゚)「…………まぁ……あるけど……」

 その返事を聞いたジョルジュが、目を輝かせる。

すでにギコの頭には、「嫌な予感」が踊り狂っていた。
ジョルジュが絡むとろくな事がないのは、この3年間の間で充分知っていたからだ。

廊下中にぶちまけられた消火器の処理をした事は、まだ記憶に新しい。

(,,゚д゚)「お前、何企んでるんだか知らねえが、頼むから消火器とかぶちまけてくれるなよ」

 _  
( ゚∀゚)「今回は消火器なんか使わねえよ!
     そうだよな、おっさんの年齢的に考えたら、知ってそうな歳だもんな!!」
 _  
( ゚∀゚)「そんなことより、鐘の音聞いたのって何年前の話だ?!
     おっさん今いくつ?!」
 _  
( ゚∀゚)「おっさん、鐘を鳴らした人って誰だったんだ?!
     どうやって鳴らしたのかな、っつーか、どうやって屋上に行ったんだろう!」

(;,゚д゚)「……知らねえよ、とりあえず落ち着け……」

 矢継ぎ早に色んな質問をぶつけてくるジョルジュに、答えが追い付かなかった。

鼻息も荒く答えを迫るジョルジュを宥め、ギコは作業をしつつ、改めて答える。

17 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:35:45.54 ID:x5ANhHns0

(,,゚д゚)「……鐘が鳴ったのは……今から確か、30年くらい前だったか……。
     細かいところまでは覚えてねぇけど……」

(,,゚д゚)「それに……お前の聞きたい事には答えられねぇ。
     誰がどうやって鐘を鳴らしたか、知らないからな」
 _  
( ゚∀゚)「なんだ……」

 がっくりと肩を落とし、大きなため息をついた。
せっかく手がかりを知っている人物を見つけたのに、その人は何も知らないのだ。

振り出しに戻ったようなものだった。

あからさまに落ち込んでみせたジョルジュの横で、ギコは黙々と花の種を植えていく。
長い事やってきたのか、その手つきも慣れたものだった。

鐘について、ギコは何も知らないようだ。
それでも、ジョルジュは次の質問を吹っ掛けた。
 _  
( ゚∀゚)「じゃあさ、鐘の鳴ってる時に、誰か告白とかした奴っていたか?」

(,,゚д゚)「は?」
  _  
( ゚∀゚)「なんだよ、おっさん、ウワサ知らねえのか?」

(,,゚д゚)「何だそりゃ、あんな鐘にお前ら、何の願掛けしてんだよ」

18 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:36:35.75 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「『鐘が鳴ってる間に告白すれば、必ず成功する』っていうウワサ。
     知らねえか? おっさんの時代にはなかったのかな」

(,,゚д゚)「……いや、知らねえな。初めて聞いた。
     誰が作ったウワサなんだ、鐘が鳴ったのなんて一回しかないのに」
 _  
( ゚3゚)「何だよ、おっさん何も知らねえな!」

(,,゚д゚)「ただの用務員に何の期待してたんだよ……。ほら、ガキはさっさと教室戻れ」
 _  
( ゚∀゚)「ちぇっ」

 不満そうなジョルジュが、渋々ながら立ち上がった。
制服についた土汚れを手で払い落としている音を聞きながら、ギコはただひたすら花の種を植える。

「―――おっさんさぁ」

(,,゚д゚)「……まだいたのかよ……」

「もしも俺が鐘を鳴らしに行くっつったら、どうする?」

 いつになく、真面目な声だった。

思わずギコは作業を止め、振り向く。
そこには、真顔のジョルジュが立っていた。

たっぷりと時間をかけ、ギコは、正直な答えを言った。

20 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:37:42.95 ID:x5ANhHns0
(,,゚д゚)「……ほっとく。どうせ止めても無駄だろうし、それに」

(,,゚д゚)「……お前みたいなガキには無理だろ」
  _  
( ゚∀゚)「そうかな? おっさんには無理だろうけど、俺は出来ると思う」

(,,゚д゚)「…………」

(,,゚д゚)「……なんだ、告白でもしたい女がいるのか」
 _  
( ゚∀゚)「俺じゃねぇけどな。でも、卒業前の最後のイタズラとしては派手でいいだろ?」

(,,゚д゚)「……」

(,,゚д゚)「だから、鐘の事なんぞ聞いてきたのか」
 _  
( ゚∀゚)「そういうこと。アレだ、せーしゅんってやつ」

(,,゚д゚)「青春の遣いどころを間違ってるような気がするが……。
     まぁ、せいぜい頑張れよ」
  _  
( ゚∀゚)「お? ほんとに止めないのか?」

(,,゚д゚)「……止めたって実行するんだろ。
     それに、鐘鳴らすだけなら、俺に迷惑はかからない」
  _  
( ゚∀゚)「へぇー……」

21 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:38:46.46 ID:x5ANhHns0
 ギコの後ろ姿を見るジョルジュは、どこか嬉しそうだった。

あらかた土埃を払い終わると、携帯にハインからの連絡があったことに気付く。

『図書室来い』。
絵文字や顔文字もなく、たったそれだけのそっけないメールが来ていた。
 _  
( ゚∀゚)「おっさん! 俺やるぜ、絶対に鐘鳴らしてみせるからな!
     そんで、30年振りにおっさんに鐘の音聞かせてやんよ!」

(,,゚д゚)「……俺、告白したい奴なんかもういねぇよ……」
 _  
( ゚∀゚)「そんな細けぇこたぁどうでもいいんだよ! 楽しみに待ってな!」

 嵐のように去って行ったジョルジュを、ギコはじっと眺めていた。

立ち上がり、固まった身体をほぐすようにうんと伸びをする。
校舎に囲われ、四角く切り取られた空を見上げると、屋上が見えた。

そして、呟く。

(,,゚д゚)「……鐘、か……」

23 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:39:51.25 ID:x5ANhHns0
――――――――――――

―――――

―――

从 ゚∀从「もうさぁ、ほんとに大変だったんだって」
 _  
(;゚∀゚)「「いや、しかしよく見つけたな……。
     こんな古いの残ってるなんて思わなかったよ」

 中庭から図書室へ移動したジョルジュの前には、古いファイルがどっさりと積まれていた。
紙は劣化しているものが多く、そのほとんどが黄ばんでしまっている。

ハインは、積まれていたファイルの一冊を取って、ジョルジュに渡した。

从 ゚∀从「ぶっちゃけ、司書? が手伝ってくれなかったら諦めてた」
 _  
( ゚∀゚)「「司書? さんいてくれて助かったわ」

24 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:40:43.61 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「「えーと、これいつのだ? ……29年前か、あのおっさんの時代だな。
     3月…あぁ、文字掠れちゃってんじゃん」

从 ゚∀从「そりゃー29年もずっと埃かぶってたら、文字も掠れるわな」
 _  
( ゚∀゚)「『屋上の鐘が、沈黙を破った―――』、か。多分この記事だろうな」

从 ゚∀从「ほとんど文字読めねえじゃん。どうすんの」

 ハインの言う通りだった。
こんな膨大な量の学級日誌を綺麗に保存するのは、不可能に近い。

黄ばんだ紙に、細くて薄い文字。
保存状態も良くなかったため、印刷された文字なんて、ほとんどが読めなかった。
  _  
( ゚∀゚)「うーーーーーーーーーーーーん……」

 日に透かしたり、裏側から覗いてみたり、なんとか記事の内容を解読しようと試みた。
だが、それも全て無駄だった。

こんな記事を丸々覚えている者などいる訳がないし、
話し合った結果、仕方なく二人は、なんとか読める単語だけを抜き出して繋ぎ合わせる事にした。

26 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:41:25.80 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「最初の文は、なんとか読める……な。
    『沈黙を貫いていた鐘が、卒業式当日、突如鳴り響いた』」

从 ゚∀从「次の文は全く読めねぇな。飛ばすぜ。
     その次の文は『……卒業式前から屋上への行き方を』じゃね?」

从 ゚∀从「その次も読めねぇ。次の文はえー……と、『3年6組の』でいいのかな」
  _  
( ゚∀゚)「多分、この次の文は名前、だよなぁ。全く読めん」

从 ゚∀从「どれ、オレが解読してやんよ」

 ファイルをハインに預け、ジョルジュは顔を上げた。
小さな文字を懸命に読み取ろうとしているハインの横顔を見る。

そして、思った。
  _  
( ゚∀゚)「(……こいつ、よく見たら……)」
  _  
( ゚∀゚)「(悲しいほど絶壁じゃねぇか……)」

 具体的にどこが、というのは伏せておこう。

ハインだって、気にしているのである。

27 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:42:17.81 ID:x5ANhHns0

从 ゚∀从「―――ダメだ、わかんね」

 乱暴にファイルを投げ出し、ハインは机に腰かけた。
そして、続ける。

从 ゚∀从「わかんねぇけどさ、29年前の3年6組のクラス名簿、探してみようぜ」
  _  
( ゚∀゚)「お? あ、あぁ」

 図書室の奥にいた司書に声をかけ、二人は別の書架を探す。

歴代の在校生のアルバムがある書架は、割と簡単に見つけられた。

時代が古ければ古いほど、分厚く積もった埃はアルバムに積もる。
それを手で払いのけながら、29年前のアルバムを探した。

从 ゚∀从「あ、これじゃね?」
  _  
( ゚∀゚)「でかした」

 ハインが、引きずり出した立派な装丁のアルバムを、繰る。

薄い色のついた写真が載っていた。
学校を上から写した写真や、誰もいない教室を撮った写真。

それらの風景は今と変わりないが、どこか古い空気を感じさせた。

28 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:42:59.83 ID:x5ANhHns0

从 ゚∀从「えーと、3年6組3年6組……と」


 ページを繰るハインの手が止まった。

そこには、3年6組全体の集合写真が一枚と、当時の生徒の個人写真が載っていた。

  _  
( ゚∀゚)「見つけたはいいけど、こんなもん見ても何も分かんねえよな……」

从 ゚∀从「鐘鳴らしそうな顔した奴探せばいいんじゃね?」
 _  
( ゚∀゚)「どんな顔だよ」

从 ゚∀从「おめぇみたいな顔だよ」

 内心、なるほど、と思いながら、ジョルジュは個人写真を眺めた。

40人分の顔写真は、どれも笑顔。
「鐘を鳴らしそうな顔」を探すも、誰も彼も真面目そうな人ばかりだった。

从 ゚∀从「鐘鳴らしたのが女子っつー可能性だってあるんだよなぁ……。
     そうなると、もう全然分かんねえぞ」
 _  
( ゚∀゚)「この3年6組の人が鐘鳴らしたとも限んねえしな。
     何か関係はあるんだと思うけどよ……」

29 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:43:40.30 ID:x5ANhHns0

从 ゚∀从「寄せ書きんとこに何か書いてねぇかな?」
 _  
( ゚∀゚)「書いてねぇと思うけど、まぁ……見てみるか」

 一気にページを進め、アルバムの後方にある寄せ書きのページを開いた。

そこにはやはり何も書かれておらず、劣化を忘れた白い紙しかなかった。
念のために全てのページを捲ってみたが、それでも手がかりになりそうな事は何一つ見つからない。

完全に行き詰まり、ハインが机に突っ伏しながら、ぼやいた。

从 ゚∀从「なぁ、やっぱ無理なんじゃね?」

从 ゚∀从「なんかやるんなら、違う事しようぜ」
 _  
( ゚∀゚)「……」
  _  
( ゚∀゚)「いや、絶対に鐘を鳴らす」

 だが、ジョルジュの決意は、固かった。

その答えに呆れたように大きなため息をつき、ハインはまた最初からアルバムの写真を眺めていく。
何度見ても変わった個所は見つからないし、時間はいたずらに過ぎていくだけ。

二人は、一ページずつじっくりと手がかりになりそうなものを探した。

やはり変わったものは見つけられなかったが、
とあるクラスの写真を見て、ジョルジュが声を上げた。

31 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:44:27.26 ID:x5ANhHns0
  _  
( ゚∀゚)「これ、おっさんの若い頃か。3年7組だったんだな」

从 ゚∀从「あ? 誰だこれ?」
  _  
( ゚∀゚)「用務員のおっさんだよ、こないだ消火器ばら撒いた時に―――」

从 ゚∀从「あぁ、すっ飛んで来た人か」
 _  
( ゚∀゚)「あん時に引っぱたかれた、たんこぶまだ残ってるぜ」

从 ゚∀从「だから止めとけっつったのに、お前人のいう事聞かねえんだもんよ」

 二人の視線の先には、

【 (,,゚д゚) 】

 仏頂面でカメラを真っ直ぐ見つめている、ギコの若い頃の写真があった。
周りの生徒が笑顔なのにもかかわらず、ギコだけが仏頂面だった。

結局、アルバムに手掛かりはなかった。
仕方なく二人は図書室を開放してくれた司書に礼を言ってから、ギコを探しに中庭へと向かう。

何か小さな事でも思い出してくれれば、それが手がかりになるかもしれないという、ハインの意見だった。

上履きのまま、二人は中庭へ出た。
だが、そこにギコはいなかった。

作業が終わってしまったのだろう、何も咲いていない花壇は綺麗に均されていた。

32 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:45:07.97 ID:x5ANhHns0
  _  
( ゚∀゚)「あっれー? さっきまでここにいたんだけどな」

从 ゚∀从「寒いし、いつまでもこんなとこで作業したくねぇだろ。
     違う所行っちまったんじゃね?」
 _  
( ゚∀゚)「仕方ねぇ、探すか」

从 ゚∀从「手分けして探すか?」
  _  
( ゚∀゚)「だな。おっさんいたら連絡寄越せ」

从 ゚∀从「あいよ」

 北風にスカートをはためかせ、ハインは正面玄関の方へと去っていった。
ジョルジュは、裏門の方へ向かう。

体育の授業中らしい1年たちを横目に、狭い通路を通って裏門へ着いた。
教師たちの車が停めてあるここに、ギコの姿はない。

ぐるりと一周してから、ジョルジュは裏門から立ち去った。
それから、駐輪場と柔道場のある東門へと移動した。

そこにも、ギコはいない。

そもそも、ギコが外にいるとも限らないのだ。
校内で何か作業をやっているかもしれない。

ハインからの連絡が来ていないことを確認して、ジョルジュは一度、校内に戻ることにした。

33 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:45:45.51 ID:x5ANhHns0
3つの棟が繋がる校舎の、A棟から見て回る。
職員室や定時制の教室、購買や生徒会室にもギコはいない。

次は、B棟だ。
音楽室やPC教室、美術室があるが、ここのほとんどは鍵がかかっていて、担当の教師以外は入れない。
やはりここにも、ギコはいなかった。

最後はC棟に行った。
1年から3年の教室が集まるこの棟が、一番ざわついている。

だが、ここにもギコの姿はなかった。
  _  
(;゚∀゚)「っかしーな、どこにいるんだ? あの人」

 一階から四階までを何度も往復して、ジョルジュもいい加減疲れていた。

探していないところと言えば、各棟にある、屋上へ繋がる階段。

屋上へ繋がる階段は、使われなくなった机や椅子の墓場となっている上、
階段すら登れないように柵と鍵がついている。

鍵を外さずとも柵は簡単に超えられるが、そんな面倒な場所にギコがいるとは思えない。

さて、どうしようかと考えあぐねているギコの携帯に、メールが入った。
差出人はハイン。

『おっさん見つけたから第三校庭まで来い』

その連絡を受け、ジョルジュは慌てて階段を駆け下りていった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 20:46:27.13 ID:x5ANhHns0

―――――――――――

―――――

―――

(,,゚д゚)「……で?」

从 ゚∀从「おっちゃん、どんな小さい事でもいいから、なんか覚えてることねぇの?」
 _  
( ゚∀゚)「おっさんだけが頼りなんだよ!」

 ギコは、第三校庭の隅の物置を整理していた。
倒れたハードルやサッカーボールを元ある場所に戻しつつ、面倒そうに二人を見る。

(,,゚д゚)「……何も覚えてねぇっつったろ」
 _  
( ゚∀゚)「どんな些細なことでもいいんだって、なんか思い出してくれよ!」

(,,゚д゚)「………んな事言ったってなぁ……」

从 ゚∀从「じゃあさ、29年前に鐘を鳴らしたその「誰かさん」は、
     どうして鐘を鳴らしたんだと思う?」

36 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:47:11.64 ID:x5ANhHns0


 ハインの質問に、ギコは首を振った。
負けじと、ハインは次の質問をぶつける。


从 ゚∀从「どうやって屋上に行ったんだと思う?」

(,,゚д゚)「……知らねぇっつってんだろ」

从 ゚∀从「おっちゃんさ、鐘が鳴ったとき、どこで何をしてた?」

(,,゚д゚)「……覚えてない。部活見に行ってたかも」

从 ゚∀从「部活? 何部だったんだ?」

(,,゚д゚)「野球部」


 それを聞くと、ハインは薄く笑みを浮かべた。

37 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:47:57.00 ID:x5ANhHns0


从 ゚∀从「……おーけー、情報提供ありがとう! おっちゃん!」

 _  
( ゚∀゚)「えっ?」

从 ゚∀从「行くぜジョルジュ!」

 _  
( ゚∀゚)

 _  
( ゚∀゚)「あ、はい」


 何を思いついたのやら、校舎の方へと走っていった二人。
その後ろ姿を見て、ギコは、


(;,゚д゚)「……何か余計なこと言ったか……?」


 少し、焦っていた。

38 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:48:40.66 ID:x5ANhHns0

――――――――――――

――――――

―――

 第三校庭から校舎へ一直線に走っていったハインは、とある場所を目指していた。
 _  
(;゚∀゚)「どこ向かってんだよ?!」

 後ろの方から、ジョルジュの声が聞こえる。
それを無視し、ハインは、B棟の一階へと急いだ。

二人が目指していた場所、それは、
  _  
( ゚∀゚)「―――図書室? なんかまだ用あんのか?」

从 ゚∀从「あぁ、オレの予想が当たってれば、あのおっちゃん、ぜーんぶ知ってるはずだ」
 _  
( ゚∀゚)「ぜんぶ?」

从 ゚∀从「鐘を鳴らしたのが誰か、どうやって屋上に行ったのか、全部だ」

39 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:49:11.55 ID:x5ANhHns0

 答え、ハインは、司書に声をかけた。

歴代のアルバムが眠る書架へ行き、一冊だけ埃の溜まっていないアルバムを取る。
それを捲り、目当てのページを探しだした。

それは、部活紹介のページだった。

サッカー、テニス、バレーボール、吹奏楽……
様々な部活の紹介ページの中に見つけた、野球部のページ。

ボールを追う生徒たちのむさ苦しい写真の中に、若かりし頃のギコの姿があった。
だが、それが目当てではない。

从 ゚∀从「―――ほら、やっぱりいた」
 _  
( ゚∀゚)「お?」

 ハインが指した写真は、部員や顧問が写った集合写真。

そして、その中のひとり。
マネージャーであろう女子が、こっちを見てにっこりと笑っていた。

ハインの目的は、この女子生徒だった。

40 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:49:52.01 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「この人が、どうかしたのか?」

从 ゚∀从「お前、このアルバムの何見てたんだよ」

 ページを少し戻す。
何度も見た、当時の3年6組の写真の片隅に、その女子はいた。

【 (*゚ー゚) 】
「箱入 しい」
 _  
( ゚∀゚)「……」

从 ゚∀从「これで分かったろ?」

从 ゚∀从「多分あのおっちゃん、この「箱入」ってマネージャーが好きだったんだ。
     でもあんな性格じゃ告白なんか面と向かって出来ねぇだろうから、」
 _  
( ゚∀゚)「鐘の音に、想いを託した……って事か」

从 ゚∀从「ま、大体そんな感じだろうな! しっかし、めんどくせー性格だな。
     あんな顔してチキンかよ」

(,,゚д゚)
  _  
( ゚∀゚)「…………」

42 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:50:45.07 ID:x5ANhHns0
从 ゚∀从「ったく、しょうもねぇ嘘つきやがって。
     最初から正直に知ってること洗いざらい吐いてくれりゃーこんなに苦労しなかったってのにさ」
 _  
( ゚∀゚)「高岡」

从 ゚∀从「あ?」
 _  
( ゚∀゚)b「お前、マジ最高」

从 ^∀从「……だろ? ハインちゃんは天才だからな」

(,,゚д゚)

(,,゚д゚)「……屋上は」
  _  
(;゚∀゚)从;゚∀从「うおおおおおおおお!!」

 突然後ろからかけられた声に、飛び上がらんばかりに驚いた二人が、振り向いた。

そこにはギコがいて、どこか呆れたように二人を見下ろしていた。
ジョルジュの手元にあるアルバムに視線を落とし、やれやれと首を振る。

どうやら、知っている事を話してくれる気になったらしい。

43 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:52:13.05 ID:x5ANhHns0
(,,゚д゚)「……C棟の屋上階段の窓から行った」

(,,゚д゚)「屋上に行けるルートはいくつかあったが、どれもこれも溶接されてた。
     だから、C棟の屋上階段の横の窓から屋上に降りた」
  _
( ゚∀゚)「お! なんだよ、話してくれる気になったのか!」

(,,゚д゚)「……まさか昔の小っ恥ずかしい話を引きずり出されるとは思わなかった……。
     俺ですらもう忘れかけてたのに……」

从 ゚∀从「分かりやすいヒント、教えてくれたからな!」

(,,゚д゚)「…………」

(,,゚д゚)「……今まで、何度かお前みたいな奴が屋上行こうとしてたよ。
     ……でも、そいつらは結局、鐘鳴らせずに卒業してった」
  _
( ゚∀゚)「俺とそいつらを一緒にすんな! 俺はちゃんと鐘鳴らすっつったろ!」

从 ゚∀从「そうだぞ! こいつはバカだけど、やるときはやるんだ! 多分!」
  _
( ゚∀゚)「今さら止めたって無駄だからな!!」

(,,゚д゚)「…………」

44 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:52:57.28 ID:x5ANhHns0

 アルバムからジョルジュに視線を移し、それでもギコは何も言わなかった。

ただぼんやりと、昔の自分を思い出していた。
きっと、あの頃の自分はジョルジュと同じ目をしていたのだろう。

そんな淡い思い出に、口元が軽く緩むのも、時間はかからなかった。
  _ 
(;゚∀゚)「な、何だよ、何で笑ってんだよ」

(,,^д^)「いや……懐かしくなった」
 _  
(;゚∀゚)「ああ?!」

(,,゚д゚)「……ま、今はもう難しくなってるとは思うが、頑張れよ」

 そう言うと、ギコは図書室から出て行った。

残った二人は、全くもってギコの言った意味が分からない。

从 ゚∀从「えーと……アレか? なんか、お咎めなしっぽい?」
 _  
( ゚∀゚)「……わっかんね」

45 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:53:59.44 ID:x5ANhHns0
 「頑張れよ」の言葉から考えて、
二人がこれからやろうとしている事についてのお咎めはないと思っていい、らしい。

気を取り直し、二人は、作戦を練ることにした。

从 ゚∀从「決行するのは、いつだ?」
 _  
( ゚∀゚)「卒業式の後のHRが終わったら、すぐに行こう」

从 ゚∀从「よし、じゃあ内藤のケツ蹴りに行くぞ。
     あいつもそれなりに覚悟する時間が欲しいだろ」
 _  
( ゚∀゚)「よしきた。邪魔が入らないといいな」

从 ゚∀从「どうだろうな、屋上登ったの知られたら止めに来る奴いそうだぞ」
 _  
( ゚∀゚)「止められる前に鐘鳴らしちまえば、こっちのもんだ」

从 ^∀从「ちょっとワクワクしてきたな」
  _  
( ^∀^)「だな!」

 そんな能天気な話を交わす、ジョルジュとハイン。

しかし、物事はそう簡単には進まないことを、彼らはまだ知らなかった。

ギコはちゃんと、言っていたのだ。

――――「今は」難しくなってると思うが、と。

46 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:54:33.28 ID:x5ANhHns0

―――――――――――

―――――

―――

(;^ω^)「え?! 卒業式に?!」

 教室に帰った二人はまず、内藤を探した。

ツンに密かな想いを寄せておきながら、あと一歩の勇気がなくて告白までは出来なかった悲しい男。
友人と談笑していた内藤を攫って、二人は、卒業式当日に鐘を鳴らすことを告げた。

当然、それを聞いた内藤は困ったように目を泳がせて口ごもった。

(;^ω^)「いや、そんな急に言われても」
 _  
( ゚∀゚)「お前何年前からそんなこと言ってチャンス逃して来てるんだよ、
     もうこれで最後の大大大大チャンスなんだぞ?!」

从 ゚∀从「つーか、お前とツンの場合なら失敗とかねーから!
     今ここで告白しても成功するって!」

(;^ω^)「で、でも……」

47 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:55:08.21 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「お前これ以上津出を待たせんなよ!
     お前ら絶対いけるって、何を恐れてんだ?!」

(;^ω^)「でも……」

从 ゚∀从「でももだってもいい加減聞き飽きたぞ」
 _  
( ゚∀゚)「いいか、お前は卒業式の日、鐘が聞こえたら津出に言えばいいんだ。
     2文字か5文字か、好きに選べ」

(;^ω^)「そんな」
 _  
( ゚∀゚)「俺らが保証するって! お前と津出は絶対に合う!」

从 ゚∀从「いいか、内藤」

从 ゚∀从「その脂肪しか詰まってねぇ頭フル回転させて、想像してみろ。
     ツンが他の得体の知れねえ男と一緒になったら嫌だろ?」

( ^ω^)「それは、まぁ……」

从 ゚∀从「あいつが何で他の男子から告られても頭縦に振らねぇか、考えてみろ。
     お前待ちなんだよ! あの性格じゃ自分から告白なんかする訳ねぇ
     だから、お前が言ってやるんだ」

48 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:55:58.56 ID:x5ANhHns0
从 ゚∀从「たまにはカッコいいとこみせてやれよ!」

( ^ω^)「……」

( ^ω^)「……ツン、OKしてくれるかおね……」
 _  
( ゚∀゚)「そりゃーもう二つ返事でOKだろ!
     まぁ最初の一回くらいは渋られるかもしんねぇが、そいつはただの照れ隠しだ」
 _  
( ゚∀゚)「傍から見てて付き合ってないのが不思議なくらいだぜ!」

( ^ω^)「……分かったお」

 決意を込めた声で、内藤は言った。

( ^ω^)「卒業式の日に、ツンに告白するお」

从 ゚∀从「そう来なくっちゃな! 直前で逃げ出すなよ?」
 _  
( ゚∀゚)「最っ高の演出してやるからな!」

 少々過激な背中押しが功を奏し、内藤は卒業式の日に告白をすると決めた。

これで、二人が当日やることは、鐘を鳴らすことだけ。
ジョルジュもハインも、成功を確信していた。

49 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:56:42.14 ID:x5ANhHns0

そして、―――卒業式、当日。

空は晴れ渡り、寒さも普段よりは幾分か和らいだ。
まるで天気も、ヴィップ高校3年生の卒業を祝っているかのようである。

紅白の垂れ幕に縁取られた体育館にはパイプ椅子が並び、既に父兄たちが座っていた。

/ ,' 3「卒業生、入場」

 校長の声を合図に、吹奏楽の演奏が始まる。

荘厳な行進曲と合わせ、外に待機していた3年生たちは、
体育館の中央に敷かれた赤絨毯を二人一組で歩く。

式の数日前から練習していただけあって、
その動きもスムーズで、私語を話す生徒もいなかった。

(,,゚д゚)「…………」

 この日ばかりはギコも、作業服ではなくスーツ姿で体育館の隅に立っていた。

どんどん入場していく卒業生たち。
その中に、散々手を焼かされてきた悪ガキ(ジョルジュ)の姿を見た。

50 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:57:19.70 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)

 恐らく、向こうは気付いていない。

ギコが見ている前で、ジョルジュは指定された自分の椅子の前に立った。
「着席」の声で、彼らのクラスの生徒は全員座る。

式典は、滞りなく進んでいた。

卒業証書もなんら問題なく全員に行き渡り、PTAや校長の長ったらしい話も、
在校生と卒業生による校歌の合唱も、終わった。

/ ,' 3「起立」

 校長の言葉を以って、卒業生たちが立ち上がる。

在校生や教員たちの拍手に包まれながら、卒業生たちは退場。
赤絨毯を歩く3年生たちの顔は、長ったらしい式のせいで誰もが眠そうだった。

(,,゚д゚)
 _  
( ゚∀゚)b

51 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:57:50.87 ID:x5ANhHns0

 ギコの前を通ったジョルジュは、小さく親指を立てた。
恐らく、「計画実行」の意図を持った合図だ。

ギコは見なかった振りをして、卒業生たちに拍手を贈った。

これから卒業生たちは、自分らのクラスに帰って、ホームルームを始める。
そこで名残惜しみながらも、最後の授業を受けるのだ。

ジョルジュたちは、そのホームルームが終わった後に鐘を鳴らすと決めていた。

彼らだって一応は卒業生で、クラスに愛着もある。
今日、この日を以って、クラスの面々ともお別れだ。

気に喰わない奴がいても、結局想いを告げられなかった人がいても、
この場所で会えるのは今日が最後。

次の日からは、それぞれ全く別の道が用意されている。

だから―――
 _  
( ゚∀゚)「wwwww」

从 ゚∀从「wwwwwwww」

 涙が出そうでも、彼らは笑う。

52 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:58:43.97 ID:x5ANhHns0

普段はくだらないことで生徒をおちょくっていた担任も、ホームルームでは涙声だった。
それにつられて、何人かの瞳も潤む。

そんなありふれた卒業式の光景を、何度も見てきたはずのベテラン教師ですら、
この季節は物寂しいものがあるらしい。

アルバムの後ろの寄せ書きページを埋めていく生徒たちに、
号泣する女子生徒。

そんな彼らの前で、担任は最後の挨拶を始めた。

( ;∀;)「―――俺は、このクラスを受け持てて、幸せくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」

 既に言葉になってないモララーに、クラスの一同がカンパして買った大きな花束が渡された。
それを受け取ったモララーは、もうひたすら涙を流すばかり。

何を言ってるか全く分からない話も、
学級委員の裏返った声での高校生活最後の「礼」も、ほとんどがグダグダではあったが、終わった。

さっさと荷物をまとめて帰る者も中にはいるが、
大半の生徒は、名残惜しそうにクラスに残る。

この年も、まぁ、例外ではなかった。

53 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 20:59:39.35 ID:x5ANhHns0
ただし、いつもと違うのは―――
 _  
( ゚∀゚)

 教壇の前に立つ、生徒が現れたこと。

涙で目蓋を腫らしたモララーを押しのけ、彼はクラス中に向かって、話しだした。
 _  
( ゚∀゚)「お前ら、鐘のウワサは知ってっか?
    『屋上の鐘が鳴ってる間に告白すると、必ず成功する』ってウワサだ」
 _  
( ゚∀゚)「嘘かホントかは分からない。
     でも例えそれが嘘だったとしても、これからこのウワサを「本当」にする事は出来るんだ」
 _  
( ゚∀゚)「俺は、今から、このクラスのとある奴のために、鐘を鳴らしに行く」
 _  
( ゚∀゚)「必ず、鳴らしてみせる」
 _  
( ゚∀゚)「だから、もしも告白を諦めて帰ろう、って思ってる奴がいるなら、
     ちょっとだけ待ってくれ!」
 _  
( ゚∀゚)「鐘の音が聞こえたら、ほんの少し勇気を出せばいい。
     そしたら、絶対に成功する」
 _  
( ゚∀゚)b「絶対にだ!」

54 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:00:19.79 ID:x5ANhHns0

 誰もが、呆気にとられていた。

ジョルジュがこんな奇抜な事を言うのは大して珍しくはないが、
それでも、先生がいる前で堂々と「イタズラ」宣言をするのは初めてだった。

そんな視線を浴びながら、ジョルジュは教室から出ていった。
その後ろを、ハインが追った。


―――――――――――

―――――

―――


 屋上へ続く階段に、笑い声が響いていた。
  _  
从 ゚∀从「『絶対にだ』wwwwwwwwww」
 _  
(;゚∀゚)「うっせーな、別におかしくもなんともねぇだろ?」

55 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:01:34.00 ID:x5ANhHns0

 「C棟の階段の窓から屋上に行ける」というギコの言葉を真に受けた二人は、
机や椅子の墓場と化した階段を登っていく。

階段の手前にあった柵は、二人で協力して乗り越えた。

こんな調子で、何の苦もなく鐘を鳴らせる。
少なくとも、今は、そう思っていた。
 _  
( ゚∀゚)「それにしても、暗いな……。電気とか付けてくれば良かった」

从 ゚∀从「……?」

 ハインは、ジョルジュのぼやきと同じ事を思っていた。

ギコの話によれば、階段を登った先に窓がある。
なら、もっと光が差し込んでいてもいいはずだ。

窓から光が直接入ってこなくても、外は快晴で充分に明るいのだから、
もっとここも明るいはず。

だが、階段を登っても、光は見えて来ない。

―――試練は、ここから既に始まっていた。

57 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:02:08.74 ID:x5ANhHns0
  _  
( ゚∀゚)「……窓?」

从 ゚∀从「……」

 階段を登り切った二人の視線の先には、窓なんてなかった。

いや、正しく言うと、窓らしきものはあった。
ただしそれは頑丈な板で、完璧に封鎖されていた。

光が差し込んでこなかったのは、この板のせいだった。

完全に予定が狂った。
屋上へ行けるルートは、ここしか残っていない。

その窓が、閉鎖されていた。
もう、二人に成す術はない。

こんな事態を想定していなかった考えが、甘かった。
そう言わざるをえないだろう。

从 ゚∀从「どうする?」
  _  
( ゚∀゚)「……」
  _  
( ゚∀゚)「他に、行けるところがないか探して―― 从 ゚∀从「今から、か?」

58 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:02:51.75 ID:x5ANhHns0
 冷静なハインの言葉に、ジョルジュは思わず言葉を切った。

クラスメイトたちの前で「待ってろ」と言ったのに、これからその方法を探す。
それをいつまでも待ってる奴なんていない。

よく考えれば、当たり前の事だった。
ギコが29年前に通った道を、いつまでも放っておく訳がないのだ。
 _  
( ゚∀゚)「板、壊せるかな」

从 ゚∀从「やめとけ、結構頑丈だ」
 _  
( ゚∀゚)「……どうしよう、このままじゃ鳴らせねぇじゃん…」

 このまま鐘を鳴らせるものだと思っていた。

それが、たった一枚の板のせいで全てが台無しだ。
今から他に策を考え、すぐに案を思いつけるほど頭もよくない。

自信に満ち溢れていたジョルジュの口から、ここで今初めて弱気な言葉が出た。

これからどうやって屋上へ行けばいいのか、全く分からなかった。

从 ゚∀从「……」

从 ゚∀从「……」

60 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:03:28.58 ID:x5ANhHns0

 ギコのついた嘘を見抜いたハインも、妙案は思いつかないようだった。

29年前から既に完全封鎖されていた屋上への扉が、開いているとも思えない。
さすれば、残された方法は二つしかなかった。

从 ゚∀从「方法が二つあるぜ」

从 ゚∀从「鐘鳴らすの、諦めるか」

从 ゚∀从「ギコのおっさんのとこに行って、泣きついてみるか」

 前者は、最も簡単だ。
今からクラスに引き換えし、「やっぱりできなかった」と言うだけで済む。

後者も簡単ではあるが、ギコに泣きついてみたところで、
彼がこの状況を何とかしてくれるとも限らない。

ジョルジュが前者を選ぶことはないと、ハインは分かっていた。
何があっても、自分で言ったことは必ず遂行するのがジョルジュだ。

中学生の頃から今まで、彼はずっとそうだった。
 _  
( ゚∀゚)「……おっさんには、頼らねえ。鐘を鳴らすことも、諦めない」

从 ゚∀从「じゃあ、どうすんだ?」
 _  
( ゚∀゚)「…………どうしよ」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 21:04:14.34 ID:x5ANhHns0
 窓を塞いでいる板に、軽く拳をぶつけた。
ごつん、とその拳を弾き返す板は、ちょっとやそっとじゃ外れそうにない。

薄暗い階段に腰かけてしまったジョルジュの横で、ハインは呆れたように頭を振った。

从 ゚∀从「諦めたくない、おっちゃんにも頼らない、じゃあ、どうすんだって」
 _  
( ゚∀゚)「……」

从 ゚∀从「黙ってるだけじゃ分かんねーよ」
 _  
( ゚∀゚)「……」

从 ゚∀从「なぁ」
 _  
( ゚∀゚)「……」

 ハインは、生来気が長い方ではない。

何度話しかけても答えないジョルジュに、苛立っていた。
用意した二つの選択すら選ばないジョルジュに、苛立っていた。

なよなよと悩む姿なんか、見たくなかった。

从 ゚∀从「その口は飾りか?」
 _  
( ゚∀゚)「……」

从#゚∀从「なんとか言ったらどうだこのボケ!」

63 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:04:49.18 ID:x5ANhHns0

 ハインの苛立ちが、あっという間に頂点に達した。
階段で膝を抱えるジョルジュを引っぱたき、胸倉を掴んで揺さぶる。

そして、怒りをぶつけた。

从#゚∀从「おっちゃんに頼るのも嫌、鐘鳴らすの諦めるのも嫌、じゃあどうすんだ!
     どっちも嫌だってんなら、何か案はあるんだろうな?!」

从#゚∀从「色んな奴巻き込んどいて、今さらなに立ち止まってやがんだ!
     ふざけんじゃねーぞこの野郎!」

从#゚∀从「鐘鳴らすって、お前あのおっちゃんにも内藤にもクラスの奴らにも宣言しただろーが!!
     こんなときくらい、その回転の悪い脳みそ働かせろよ!!」
 _  
(#);∀゚)「ち、ちょ、苦し 从#゚∀从「肝心な時にシカト決めやがって、何様なんだよてめぇ!」

从#゚∀从「思い通りにいかなかった? そんなことも覚悟して、鐘鳴らすっつったんじゃなかったのかよ!
     腑抜けたツラしやがって、ふざけんなよ!」
 _  
(#);∀゚)「分か、分かったごめん、手を離せ! お願いだから!」

 やっとハインの怒りから解放されたジョルジュは、大きく息を吐いた。

そして、自分の両頬を思い切り叩き、気合を入れ直す。

64 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:05:36.49 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「―――お前の言う通りだ。まだ、何も終わっちゃいねぇよな!」
 _  
( ゚∀゚)「とりあえず、ちょっと考えがある。
     一回、下に降りよう」

 ハインに喝を入れられ、何やら案を思いついた様子。

ジョルジュが階段を下りて行き、その後ろを、ハインは着いていった。


――――――――――

―――――

―――
 _  
( ゚∀゚)「こっちの窓は、閉鎖されてないな」

 そう言ったジョルジュは、光が差し込む窓の前にいた。

ここは屋上階段の真下、生物室の前の窓だ。

窓から少し身を乗り出して上を見れば、屋上が見える。
窓の下には、プラスチック製の雨どいがあった。

65 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:06:18.12 ID:x5ANhHns0
从;゚∀从「……何する気だ?」
 _  
( ゚∀゚)「―――お前、さっき言ったよな。
    『二つ、方法がある』って」
 _  
( ゚∀゚)「俺はそのどっちも選ばない! 誰にも頼らないし、諦めもしねぇ!」
 _  
( ^∀^)「三つ目の方法くらい、自分で作り出してやる!」

 そんな言葉を残し、ジョルジュは窓の桟に足をかけた。
それを見て、さすがのハインも焦ったように、ジョルジュの所へ駆け寄る。

4階の高さから落ちれば、タダでは済まないだろう。
最悪の場合は死ぬかもしれない。

今までいろんなイタズラをしてきたが、
命を危険に晒すようなことはやってこなかった。

越えてはならない一線は、二人とも分かっていた。

だが、ジョルジュはそのラインを超えようとしているのだ。
止めない訳が、ない。

从;゚∀从「おいそれはさすがにヤバいって!!
     おっちゃんに泣きついたって別にいいじゃねぇか! な、こっち戻ってこいよ!」
 _  
( ゚∀゚)「思った通りだ! 雨どいから登っていける!
     大丈夫だ、でもお前は危ないから来るなよ!」

从;゚∀从「おい、ジョルジュ!!」

66 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:06:56.60 ID:x5ANhHns0
 ハインの制止も聞かず、ジョルジュは窓の向こう側へ、慎重に移動した。

脆いプラスチックの雨どい一本に、全体重を預けるのは少々不安がある。
ただでさえ毎日太陽に焼かれ、雨風に晒されているのだから、劣化もしているだろう。

壁に手をついて3メートルほど横に移動してから、真っ直ぐ屋上へ伸びる雨どいを登る。
言葉にすればこんなに簡単なのだが、真下は冷たいコンクリート。

足を滑らせ、落ちれば、ただでは済まない高さだ。

ジョルジュが一歩一歩足を横へずらす度、雨どいはギシギシと嫌な音をたてた。
それを窓から身を乗り出して見ているハインも、気が気じゃない。

ジョルジュの姿が少し離れると、窓のすぐ横にあった生物室へと走っていった。
ベランダの鍵を開け、外に出る。

从;゚∀从「……」
 _  
(;゚∀゚)

 ベランダから数メートル先で、ジョルジュが雨どいを登っていた。
だが、これがまた難しい。

足をかけるところもなく、つるつるとした雨どいは、手汗で滑る。
それでも、ほんの僅かずつではあるが、確かにジョルジュは屋上へと近づいていた。

ベランダでそれを見守るハインも、手に力が入っていた。

67 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:07:32.06 ID:x5ANhHns0

ここまで、なんとか順調に事は進んでいるかに思われた。

だが、しかし。

「お前ら何やってんだ!」

 下から飛んできた鋭い声が、ジョルジュの集中を一瞬、切った。
足と手にかけていた集中が切れ、左足が滑る。
 _  
(;゚∀゚)「うわ!」

 大きくバランスを崩し、ジョルジュの両足が雨どいから外れた。
なんとか落下は免れたが、まだ危険な状態であることには変わりない。

ハインはもう、そんなジョルジュを見ている余裕なんてどこにもなかった。
目をぎゅう、と瞑り、彼が落ちないように祈るだけ。

寿命が縮むような場面ではあったが、ジョルジュはなんとか体制を持ち直した。
あとは、また雨どいを登るだけだ。

しかし、

「降りなさい! 今そっちに行くから、おとなしく降りろ!」

 空気を読めない邪魔者は、いる訳で。

68 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:08:58.97 ID:x5ANhHns0

なんとか早く屋上へ、と急ぐジョルジュに、真下にいる教師をベランダから見下ろすハイン。
およそあと1メートルで、屋上へと着くのに、
これ以上邪魔されてはたまったものではない。

从;゚∀从「っ頑張れ、ジョルジュ!」

 あの教師が来る前に、なんとか屋上へ辿り着かせてやりたかった。

どたどたと誰かが生物室へ近付いてくる足音を聞き、ハインは急いで教室を横切り、
教室の鍵を中から閉めた。

なんとか扉を開けようと奮闘している音が響く中、

<着いた!!

 ベランダの方からは、ジョルジュの声が聞こえた。
やっと、屋上へと登れたのだ。
 _  
( ゚∀゚)「A棟の方に走れば、鐘つき塔だ!」

从 ゚∀从「よくやった!! 早く、鐘鳴らして来い!」
 _  
( ゚∀゚)「……お前も来いよ!」

 屋上のへりに腹ばいになって、ジョルジュが手を伸ばした。
だが、ジャンプしても手が届くような高さではない。

椅子を持ってきても、ギリギリ高さが足りなかった。

69 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:09:29.93 ID:x5ANhHns0

从;゚∀从「……無理だ、届かねえよ」
 _  
( ゚∀゚)「ベランダの手すりに登れ! 大丈夫だ、絶対に手離さないから!」

从;゚∀从「でも……」
 _  
( ^∀^)「大丈夫だ、俺を信じろ!!」

 生物室の外からは、「鍵を持って来ました!」と、応援の教師の声が聞こえる。
その扉が開くのも、もう時間の問題だった。

迷う時間も、隠れる場所も、どこにもない。

ジョルジュに言われた通り、ハインはベランダの手すりの根本のわずかな幅に足をかける。
そして、上から伸びるその手に、掴まった。

それと同時に、生物室の扉が開く。

「降りてきなさい!!」

 名前も知らない教師が、叫ぶのが聞こえた。

70 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:10:07.90 ID:x5ANhHns0
 _  
(;゚∀゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 何の訓練もされていないただの男子高校生が、女子高生ひとりを引き上げるなど、
無謀に近い話だった。

だが、ここで手を放す訳にはいかなかった。
絶対に離さないと、そう言ったのだ。

それに、ひとりで鐘を鳴らしても、このイタズラは意味がない。
 _  
(#゚∀゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ほとんど残っていない力を、極限まで振り絞った。
ハインの身体を屋上へ引き上げて、そこで限界だった。

力を使い果たし、倒れ込む。

時間がないのも、休憩してるヒマがないことも分かっていた。
だが、体の全てが悲鳴を上げていた。

「降りてこい!」

「何をする気だ!」

 ここまでくれば、教師たちもそう簡単に屋上までは追いかけて来られないだろう。
ほんの数分を体力回復に努め、ジョルジュはゆっくり半身を起こした。

腕全体が痺れて、感覚があまりない。

71 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:10:39.78 ID:x5ANhHns0

从 ^∀从「ほら」

 それを察したのか、ハインが手を差し伸べた。

その手首には、ジョルジュの手形がくっきりと残っている。
二人とも、ボロボロだった。
 _  
( ゚∀゚)「……行くか!」

从 ゚∀从「ああ!」

 立ち上がり、今いるC棟の屋上からB棟の屋上を通り、A棟の屋上へと走った。
振り向けば、教師たちがなんとか屋上に登ろうと奮闘しているのが見える。

やはり、時間はそんなにないらしい。
 _  
( ゚∀゚)「……これが、鐘つき塔か」

从 ゚∀从「間近で見ると、結構でかいな」

 二人の前には、高さ5メートルほどの煉瓦作りの『塔』があった。
塔の一番上には、29年鳴っていない鐘が、ちらりと見える。

あとは、その鐘を鳴らすだけだ。

しかし、ここでもまた問題が見つかった。

72 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:12:06.60 ID:x5ANhHns0
从;゚∀从「おい、これ鍵かかってんぞ!」

 鐘つき塔の内部にある梯子を登る扉が、施錠されていた。
いたって普通の南京錠だが、鍵はどこにもない。

目標はもう、手が届くほど近くにある。
それなのに、これ以上近づけない。

こんなに悔しい話があるだろうか。

ジョルジュは、目の前にそびえ立つ塔を睨んだ。
そんな彼の横では、ハインがなんとか南京錠を外せないかと、色々試行錯誤している。
 _  
( ゚∀゚)「……」

 ぐるりと塔を一周すると、あることに気付いた。
ある一か所だけ、煉瓦が大きく崩れているのだ。

それは、塔の裏側の、2メートルほどの高さ。
人ひとり分は入れそうな穴だ。

もう、その穴に飛び込むしかなかった。
痺れの残る腕を回し、足首をぐるりと回す。

そして、勢いをつけて、煉瓦が崩れて出来た穴に手をかけた。
不安定な手元の中、なんとかバランスを取りながら、ジョルジュは穴の向こう側、
つまり、梯子の前へ降りる。

梯子は問題なく、使えるようだった。

73 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:12:46.61 ID:x5ANhHns0


「何してるんだ、こんなところで!」

「放せよ! 鐘鳴らすだけだって!」


 塔の下では、ハインと教師たちが押し問答していた。

それを聞きながら、長い梯子を一心不乱に登る。
塔の上に登ると、大きな鐘が、ジョルジュの目の前に現れた。

金色の塗装も、もうほとんどが剥げている。
この学校が出来た頃から、ずっと歴史を見守っていたのだろう。

29年間、ずっと沈黙を続けてきた鐘。
29年前、ギコが鳴らした鐘。

  _  
( ゚∀゚)「……あんたが何で鐘を鳴らしたか、よく分かるよ。おっさん」


 ぽつり、零した言葉は、誰の耳にも届かない。

鐘の横に垂れさがるロープを掴み、ジョルジュはそれを思い切り引いた。

そして――――――

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/29(木) 21:13:22.53 ID:x5ANhHns0




『カーーーーーーーーーン、カーーーーーーーーン』



75 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:14:12.38 ID:x5ANhHns0
 29年ぶりに、鐘の音が学校中に鳴り響いた。

音色の良しあしなんて、ジョルジュには分からない。
だが、今まで聞いたどんな鐘の音よりも、一番綺麗な音だと思った。

(,,゚д゚)「…………」

 その鐘の音は、用務員室の外で屋上を見上げていたギコにも、よく聴こえていた。

(,,-д-)「……」

 目を閉じれば、29年前の淡い思い出がよみがえった。

口下手なせいで、密かに想いを寄せていたマネージャーと喋ることも、ほとんど出来なかった。
そんな自分への苛立ちを練習で打ち消し、ずっと気持ちをごまかしてきた。

部活を引退してから、マネージャーと話す機会は全くなくなった。
友達と話して、笑っているマネージャーを見るために、
休み時間になると、隣のクラスに足を運んだ。

話しかける勇気なんかなかった。
告白なんて、もっての外だった。

このまま卒業してしまえば、恋心なんて忘れられると思った。

でも、ふと気づいたのだ。

77 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:16:16.45 ID:x5ANhHns0
部活を引退してから、マネージャーと気軽に会えなくなった。
それが寂しくて、毎日毎日、わざわざ隣のクラスに足を運ぶほど、彼女が好きだと。
部活から離れたというのに、ちっとも彼女を忘れられていないと。
このままでは、卒業しても彼女を忘れられないと。

だから、決めたのだ。卒業してもう会えなくなる前に、彼女に想いを伝えようと。

だが、面と向かって告白は出来ない。
手紙に想いをしたためるのも、途中で恥ずかしくなって、結局最後まで書ききれなかった。

そんな時、あの鐘が目にはいった。
何十年も前から鳴らされていない鐘を、鳴らそうと思った。
何故、鐘に想いを託そうと思ったかは、もう忘れてしまった。

死ぬほど悩んだ挙句、手紙には一言だけを書いた。

その手紙を、卒業式当日の朝、彼女の下駄箱に入れた。
何が起きても、鐘を鳴らそうと思った。

そして―――

(メ,゚д゚)「……」

78 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:16:54.62 ID:x5ANhHns0

 ―――それは、誰も知らない苦労の果て。

屋上の鐘はその美しい音を響かせた。
反響する音は、学校中、地域まで鳴り渡った。

手紙を読んだ彼女にも、その鐘の音は聞こえていた。
細かい傷をたくさん作って現れたギコを見て、笑った。

大きな瞳には、涙がにじんでいた。
その表情は、今までギコが見てきたどんなものよりも綺麗に見えた。


(,,-д-)「……」


 そんな、学生時代の淡い思い出。
脳裏に浮かぶ鐘の音は、今流れている鐘の音と同じ。

79 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:17:48.19 ID:x5ANhHns0


―――何故、ジョルジュが鐘を鳴らすことに固執していたか、ギコには薄々分かっていた。


だから、屋上で雄叫びを上げているジョルジュに向けて、たった一言だけ、呟く。

そんな微かな声、聞こえはしないだろう。
それでも、ジョルジュは「最後まで」やり遂げると信じていた。

何故か?

(,,゚д゚)「似てんだな、俺とお前」

 それだけを言うと、ギコは用務員室へと戻っていった。
その口元には笑みが浮かんでいた。

80 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:18:34.26 ID:x5ANhHns0

――――――――――

―――――

―――
 _  
( ゚∀゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 屋上では、ジョルジュが両腕を高く上げて叫んでいた。
苦労の果てに、鐘を鳴らすことができたのだ。

喜びも、大きかった。

从 ゚∀从「はは…… マジでやりやがったよ、あいつ……」

 塔の下でジョルジュを見上げているハインも、ただただ楽しそうに笑っていた。
恐らく、この鐘の音を聞いた内藤も、今頃はツンに想いを打ち明けているだろう。

そして、その告白が成功しているであろうことは、簡単に予想も出来た。

これでジョルジュの高校生活最後のイタズラは、成功という形で終わる。

―――少なくとも、ハインは、そう思っていた。

81 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:19:11.23 ID:x5ANhHns0

実際に、鐘を鳴らすことは成功した。

だが、これが「最後」ではないのだ。
 _  
( ゚∀゚)「はぁーーーーーー……」

 汗の滲む手を、固く握って、ジョルジュは塔の下にいるハインを見下ろした。
鳴り続ける鐘の音が消える前に、「最後」のイタズラを、ハインに聞いてもらいたかった。

―――3年以上、たった一人で計画していたイタズラだ。

こればかりは、ハインに手伝ってもらう訳にはいかなかった。
 _  
( ゚∀゚)「……」

 鐘の音よりも、自身の心臓の音の方が強く聴こえた。

こんなに緊張したのは初めてだった。
ぎゅう、と拳を作り、何度か深呼吸をした。

彼は、このイタズラが必ず成功すると信じていた。

そんな自信が、あった。
だから、彼は、声の限りに叫んでみせた。

82 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:20:23.85 ID:x5ANhHns0
 _  
( ゚∀゚)「ハイーーーーーーーーーン!!」

 だが、ここでも彼を試練が襲う。
鐘の音がうるさすぎて、彼の声がハインに届いていないのだ。

从 ゚∀从「あ?」

 塔の下で教師に囲まれていたハインが、上を見上げる。
ジョルジュが自分を呼んでいるのは分かるのだが、その内容までは聞こえない。

从 ゚∀从「何か言ったかー?!」

 手をメガホン代わりにしてハインも叫び返すが、その声もジョルジュには聞こえていないようだった。
その間も、ジョルジュは何かを必死に叫んでいるが、聞こえない。

从 ゚∀从「あ? 何? なんだよ、聞こえねーよ……」

 彼らの邪魔をしている鐘の音が、だんだん弱まってきた。
それが完全に止まってしまう前に、言わなければならない。
 _  
(;゚∀゚)「はぁーーーーーーーーーーー………」

 ジョルジュは、腹に大きく息をためた。

疲れた身体に鞭を打ってでも、鐘を鳴らそうとした理由。
誰にも言わずに隠し通してきたその、本当の理由。
「ハイン」が一緒でないと、意味がない。その、理由。

それら全ては、悪友に向けての「イタズラ」の為だった。

83 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:21:33.91 ID:x5ANhHns0
  _
( ゚∀゚)「……」

 そして、彼は叫ぶ。

ずっと伝えようと思っていた言葉を、

2文字でも5文字でも表せられる言葉を、

何よりも勇気が要る、その大切な言葉を、
 _  
( ^∀^)「――――大好きだ!!!!」

 最高の笑顔で、叫んだ。

今度ばかりは鐘の音も邪魔をせず、間違いなく、ハインに届いた。
唖然とした彼女の顔を見れば、それがよく分かった。

从 ゚∀从

从 ;∀从ブワッ

 大きな瞳からぼろぼろと涙をこぼし、わんわんと泣き始めた様子を見れば、
彼が全身から絞り出した言葉がちゃんと伝わったことも、分かる。

彼が「悪友」に向けてやった、最初で最後のイタズラだ。
こんなに頑張ったのだから、成功で終わらなければ困る。

だが、そんな心配はいらなかったらしい。

84 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:22:16.13 ID:x5ANhHns0

从*^∀从ノシ

 照れたように笑って言ったハインの答えは、ジョルジュの頑張りを裏切らないものだったから。

今まで困惑しながらその光景を遠巻きに眺めていた教師たちが、
塔から降りてきたジョルジュを叱る。

その様子を見て笑っていたハインが、自分を呼ぶ声を聞いた気がして、
屋上のふちから下を覗き込んだ。

帰宅する生徒たちの中に、こちらを見て手を振っている姿が見えた。

ξ*゚听)ξ(^ω^*)ノシ

 どうやら、二人も上手くいったようだ。
手を繋いで微笑み合うその顔は、少々ぎこちないものの、恋人同士の雰囲気を醸し出していた。

叱られているジョルジュの代わりに、ハインが手を振りかえす。
鐘を鳴らした張本人が、背中を押してやった友人とその恋人の姿を見られない。

間抜けな話ではあるが、彼自身に後悔の文字はないだろう。
ある訳がない。

何故ならば、
  _
(メ;゚∀゚)

 彼の最後の「イタズラ」は、大成功という形で終わったのだから。

85 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:22:57.10 ID:x5ANhHns0

――――――――――

―――――

―――

 教師からこってりと絞られた二人は、もう誰もいなくなった教室にいた。
夕日が差し込むこの教室に、もう通うことはない。

色とりどりのチョークで様々なメッセージが刻まれた黒板にも、もうお世話になることはないのだ。
多少の寂しさはあれど、それが卒業というもの。

屋上から降りた二人は、他愛もない話をしながら、教室に残っていた。
  _
( ゚∀゚)「いや、だからさ、あれはアイツが悪いんだって!」

从 ゚∀从「アイツけしかけたのお前じゃねーかwwww」

 廊下にも、他の教室からも、もう誰の声も聞こえない。
校庭からは、部活の練習で熱心な生徒の楽しそうな声が飛んでくる。

校内には誰もいないかに思われたが、

「―――早く帰れよ」

 そんな声がかけられて、話に夢中だった二人が、教室の入り口に視線を移す。

86 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:23:37.03 ID:x5ANhHns0

(,,゚д゚)「もう昇降口の鍵閉めるぞ」

 教室の入り口には、作業服に身を包んだ、ギコがいた。

何ら変わらない声で下校を促し、彼はその場を立ち去ろうと教室に背を向ける。
それを呼び止めたのは、ジョルジュだった。
  _
( ゚∀゚)「おっさん、俺、やったぜ。
     29年振りの鐘の音はどうだった?」

 その質問には答えず、ギコは教室に背を向けたまま、片手を上げた。
最後まで、言葉に頼らない男である。

ジョルジュも返事を期待していた訳ではないようで、
去って行ったギコの後ろ姿を見て、肩をすくめた。

从 ゚∀从「おっちゃんもああ言ってることだし、帰るか」
  _
( ゚∀゚)「だな」

 座っていた机から降りて、二人は教室から出た。
オレンジ色に染まるこの廊下に、もう戻ることはない。

階段を下りて3階に着いたとき、ジョルジュが大きな声を出した。

87 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:24:23.08 ID:x5ANhHns0
  _
( ゚∀゚)「鞄忘れたwwwwwwww」

从 ゚∀从「バッカじゃねwwwwwwww」
  _
( ゚∀゚)「ちょっと取ってくるわwwwwwww」

 言い終わらないうちに、ジョルジュが階段を駆け上っていく。

もう戻らないつもりで出てきた教室の扉を開き、
自分が使っていた机の脇に置いてあった鞄を取る。

ハインの元へ戻ろうとした時、彼の目に、黒板が映った。
  _
( ゚∀゚)「……」

 飾り文字で「卒業おめでとう!」と書かれた文字。
それを見て、ジョルジュは鞄を降ろす。

真っ白なチョークを手にとり、黒板に向かう。
そして、彼は黒板に、何かをさらさらと書き始めた。

<ジョルジュ―! 早く来いよー!
  _
( ゚∀゚)「お、おう、今行く!!」

 書き終えたチョークを置き、彼は鞄を持ってハインの元へと走っていった。

88 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:25:05.80 ID:x5ANhHns0

―――これは、沈黙の鐘に想いを託した男子生徒たちの物語。

   くだらない事に全てを費やせる、ほんの僅かな青臭い時期の物語。

   鐘はまたいつか、誰かの想いを乗せて鳴るだろう。

   そうして、鐘から始まる前奏曲は、受け継がれていくのだ。

89 名前: ◆FcMKHPE8AU 投稿日:2011/12/29(木) 21:25:46.99 ID:x5ANhHns0
   | |                               3| |
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   | | ( ゚∀゚)僕らの青春前奏曲 のようです从゚∀ 从  10| |
   | |                               日| |
   | |                     おしまい      | |
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