- 2 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/29(木) 23:41:10
- 扇風機が胡坐をかいた僕の目の前でぐるぐる回る。スイッチさえ押してやれば文句も言わずに回り続ける。夏の暑い盛りに窓の無い部屋でご苦労なことだ。文句の一つも言わない。
僕の背後にいる男は少し見習ってほしい。というか見習え。お前はいつまでそこを独占する気だ。少しは父さんみたいに母さんを手伝え。抗議の意味も兼ねて振り返って奴を睨むが全く反応しない。
一心不乱にキーボードを叩き続けている。その隣には季節外れの温かいココアが入ったマグカップがある。これはこの夏休みから日常的な風景になっているが、僕としてはもう終わってほしい風景だ。
そりゃあそうだ。
自分の兄貴が夏休みに入った途端、パソコンに四六時中噛り付いている……これをニート化の予兆と言わずして何という。
- 3 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/29(木) 23:42:54
僕と兄貴のようです
- 4 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/29(木) 23:45:56
- 兄貴はもともとパソコンは得意な方だった。高校の時はタイプのスピード検定なんかを楽々取ったり、簡単なプログラムを作る授業なんかではちょっとしたヒーロー状態だったらしい。
女の子にもわからない所を聞かれたりしたと散々自慢された。僕としては信じられなかったが、兄貴の友人から
( ^ω^)「いや、案外そうでもねーお。女子と友達って訳じゃないけど、先生より頼りにされてたし、あいつは学校では大人しいからおー」
……という言質が取れてしまった。なんてこったい。都会の女子はどうだか知らないが、少なくとも兄貴の高校の女子は極端にキモくなければいいらしい。そういうものか。
パソコンオタクだなんだと迫害されない環境だったようだ。どこからか恨みの声が聞こえてくるような気がした。気のせいだ。
そのかわり、兄貴は他の勉強や運動はさほど得意ではない。ただし底辺という訳ではないということを忘れてはいけない。だから他の生徒や先生からすると「パソコンがかなり得意で話しかけやすい男の子」
程度の印象しかないらしい。しかも友達もそこそこいる。たまに家へ連れて来てはスマブラで盛り上がっていた。僕もたまに混ぜてもらったが、これだけは兄貴に負けなかった。
……あまり誇れることでもないか。とにかく。兄貴はそこそこいい高校生活を送っていた、これだけは間違いない。
( ^ω^)「まあ彼女がいる分僕の方が勝ち組だがおねwwwwwwww」
と、余計なことも聞いた。ちょっとだけ悔しかった。この話を聞いた日のスマブラでは、この人の使う段ボール男に攻撃させなかったのを覚えている。あれは爽快だった。よく頑張った俺のオーバーオール弟。
大学生活はどうなのかといえば、これも悪いものではないらしい。相変わらず彼女はできないが、ゲーム研究会とやらで楽しんでいるようだ。
もっとも、今は部長が諸々の事情でいないので集まらないと聞いている。でなければこんなことにはなっていない。
ちなみにその部長さんとやらは何を隠そう兄貴の高校時代からの友人で、僕ともよく遊んでくれる人である。そういえば二日前にメールが来て
( ^ω^)「今彼女の実家にいるんだけど、お土産何がいいかお?」
とあった。兄貴に報告するべきか迷ったが、お土産次第にしようと思う。
- 5 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/29(木) 23:49:05
- ……とまあ、一見普通の男だ。
(-@A@)「パソコンたんの為なら俺は目を開けたまま寝れる」
というスケールの小さい宣言をしていることと、夏でも温かいココアを飲み続けること以外は。
前者は確かうちにパソコンが来た時からほざいている。訂正、ほざき続けている。コレについては父さんも母さんも
ζ(゚ー゚*ζ「よかったわね〜パソコンすごいもんね〜お兄ちゃんだもんね〜」
( ・∀・)「父さんの息子ならそれくらいしてくれないとな〜」
という調子なので手に負えない。物置だった場所をあっさりパソコン部屋にしちゃた。だけど最近は物が増えたからどこにしまおうかと言ってた気がする。
この話を聞いた日、俺の操るオーバーオール弟の頭突きのキレは悪かった。父さんの操る緑色の怪獣はいつもよりはしゃいでいるように見えた。
母さんのお気に入りの何でも吸い込むピンク玉は出力が上がってたんじゃないだろうか。思い出すのはやめよう。
- 6 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/29(木) 23:57:05
- ……催促を兼ねて扇風機を独占してから早二十分経つが、兄貴はずっと同じ姿勢で画面をじっと見ている。またこれだ。
昨日も同じことをしてパソコンを譲るように働きかけたが、兄貴が席を立つ前に僕の腹が扇風機に負けた。今日も懲りずに同じ手を使ってみたが、やはり効くはずがなかった。
母さん特製のココアを飲んでやろうかとカップを手に取ったが、空だった。僕が扇風機に張り付いている間に飲んだらしい。後で僕も貰おうかな。
('A`)「おーい、兄貴。いい加減にしてくれよ」
(-@A@)「…………」
へんじがない ただのしかばねのようだ。肩を叩いても反応しない。
耳元でいま人気かっこわらいのアイドルの曲をかけた。反応しない。
働けニート!と言ってみた。学生はニートじゃねぇ!といういつもの返しが来ない。おかしい。
そんなにこの画面に集中しているのかと思って見てみると、ただの通販だった。
特に値段が高いわけでも奇抜なデザインでもないごく普通の革靴が写っている。そういえばもうすぐ就活だとか言ってた気がする。靴を買う気があるのなら一安心だ。
働く気はあるらしい。今はそういうことにしておこう。
('A`)「何だよ兄貴www就活スレに行く準備か?wwwww」
(-@A@)「…………」
- 7 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/30(金) 00:04:30
- ……どうしたもんか。
今の兄貴の不動っぷりは電池切れのラジコン、ぶっ壊れたラジオに匹敵するんじゃないだろうか。いつ壊れかけたかはわからんが。
まさかパソコンがフリーズしたから俺もフリーズしちゃいましたてへぺろ……なんてある訳ないか。一瞬信じそうになったがそんなことはありえない。
念のためマウスを動かしてみたが、きちんと反応した。これはチャンスだ。ありがとう神様。
椅子から兄貴をどかし、とりあえず宿題のための調べ物をさっさと調べ、ゲームのサイトとかを巡ってみる。
この手のものは兄貴がよく教えてくれるので、特に目新しい情報は無かった。僕がゲームやってる時に限ってパソコンをやめるのはどうにかならないものか。
ついでに某大型掲示板を見てみようと思い、どうせお気に入りにでも入っているだろうとフォルダを開くと、操作を間違えたつもりはないのに桃色と肌色だらけの画像が沢山でてきた。
健康的な男子の象徴ともいえよう。
(*'A`)〜♪
ひとしきり堪能した後、僕はそれを静かに閉じた。こういうのが嫌いな父さんに見つかったらこの桃源郷は破壊されてしまう。なら僕は何も見なかったことにする。当然の結果だ。
ちなみにこれを築き上げた当人はこの間約15分、ピクリとも動かなかった。枯れたラジオにクラスチェンジしたのか。
- 8 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/30(金) 00:09:38
- しかしまあ、ここまで反応が無いと多少心配になってくる。パソコンを独占する以外は仲良くしてくれる兄貴なんだから。
伝家の宝刀「母さんがネット回線切ろうかなって言ってたよ」も通用しなかった。いや、これは母さんが実際に言ってたんだけどね。
というかコイツ、目開けたまま寝るとかいうアホな宣言を実行しているのだろうか。くだらない話だ。
仕方ないので毛布でも掛けてやろうたまには感謝しろと思いつつ部屋を出ようとしたら
ドアが開かなかった。
- 9 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/30(金) 00:16:39
(;'A`)
どういうことだ。いくら回してもドアが開く気配はないし、押しても引いてもうんともすんともいわない。
仕方が無いから窓から出ようとしても、ここは元・物置だ。窓なんて無い。ドアが開かなくては出入り口なんて無い。
兄貴よりも運動ができない僕にドアが破壊できるわけも無い。携帯も充電中で二階にある。
どうしたらいいかわからない。すがるような気持ちで兄貴を見た。
_
( A )「…………」
(; A )
椅子からどかした時に眼鏡が落ちた。それ以外にさっきまでとの変化は無かった。
顔面蒼白となってへたり込む僕の耳に、聞き慣れた声が入ってきたが、僕はそれを拒絶しようと思う。
- 10 名前: ◆zVC/oputrY:2011/12/30(金) 00:26:04
「寝るなら仲のいいものが近くにあった方がいいでしょ〜?」
戻る