川 ゚ 々゚)( "ゞ)悪魔の居る教会のようです(・∀・ )

4 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:34:14.86 ID:o6WtwqH1O








 ――町の外れの教会には、近付いちゃいけないよ。

 あそこはもはや神様の家じゃない。今や『悪魔の住処』さ。









5 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:35:23.50 ID:o6WtwqH1O



 3ヶ月程前、突如やってきた2人の悪魔に、神父様が殺された。
 酷いモンだ。首をねじ切られ四肢を砕かれ、祭壇に叩きつけられたんだから。

 それ以来、あの教会は悪魔2人に乗っ取られちまった。
 夜な夜な仲間を連れて大騒ぎ。祭壇は穢れ、ステンドグラスはひび割れる。
 そのせいかな、今やこの町に神を信仰する奴なんざいやしない。懺悔なんて以ての外だよ。
 少しでも教会に近付けば、悪魔に何されるかわかったもんじゃないからな。

(;´ー`)「だから、アンタが何者かはシラネーけど、教会には近付かない方が身のためだヨ」

(  )「……お心遣い感謝します。ですが私は行かねばなりません」

(;´ー`)「ハァ!? 聞いてなかったのかヨ、行ったら悪魔に殺されちまうヨ!?」

7 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:36:48.77 ID:o6WtwqH1O
(  )「お気持ちはわかります。ですが、荒廃した教会を放置など出来ません」

(  )「教会は神のおわす家。神のために町民のために、教会は必要なのです」

(  )「だから私は悪魔を駆逐し、教会を再興させます。その際には是非ミサにいらして下さい」

(;´ー`)「……どうなってもシラネーヨ……? 俺はもう行くからな」ザッ

(  )「あ、すみません。道案内ついでにもう一つ尋ねても宜しいでしょうか?」

(;´ー`)「ハァ、何だヨ……俺今買い出しの帰りなんだヨ、早く帰りたいんだけど……」

(  )「いえ、あくまで念の為に尋ねておきたいのですが……」



( ・∀・)「2人の悪魔とは、どんな姿をしているのですか……?」

(;´ー`)「あぁ、男女の悪魔だヨ。悪魔っぽい格好だからすぐわかるはずだヨ」

( ・∀・)「なるほど……ありがとうございます……」



( ・∀・)「……男女か……」

8 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:37:47.50 ID:o6WtwqH1O








川 ゚ 々゚)( "ゞ)悪魔の居る教会のようです(・∀・ )









9 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:39:43.97 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

川 ー 々ー) スースー

( "ゞ)「……」

 町の外れの丘の上。そこにポツリと佇む、淀んだ雰囲気の教会。
 仄かに光る月明かりに照らされたその光景は、さながら化物屋敷のようだった。
 そんな今や人々の恐怖の対象でしかないその教会に、『2人』はいた。

川 ー 々ー)「すぅ……ムニャムニャ、内臓引きずり出すの楽しい……」ムニャムニャ

 かつて神が祀られていた祭壇の上で、物騒な寝言を呟きながら不躾に眠る少女。
 漆黒の艶めいた神や幼い体型、そのあどけない表情はただの子供に見える。
 だが、神父の血がこびりついた祭壇で幸せそうに眠るその姿から、彼女の異常性はわかるだろう。

川*ー 々ー)「……えへへ……そぉだよ、そのお墓を荒らしたのクルウだよ……」スヤスヤ

( "ゞ)「……」コツコツ

10 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:42:57.80 ID:o6WtwqH1O
 幸せそうに眠りに耽る彼女に、コツコツと足音を立てながら1人の長身の男が近付く。
 白磁のような顔色をした20代半ばの男は少女の真横に立つと、手慣れた手つきで彼女の体を揺すった。

( "ゞ)「クルウ、そろそろ起きろ。もうすぐ2人が来る時間だ」ユサユサ

川 う々ー)「……ん、んん……? 何なのぉデルタぁ、セクハラぁ……?」ゴシゴシ

( "ゞ)「濡れ衣にも程があるぞ」

 クルウと呼ばれた少女は、不機嫌そうに寝ぼけ眼を擦り、体を起こした。
 開かれたその瞳は美しく煌めきながらも、狂気的な魅力を孕んでおり、とても危なっかしい。
 一方デルタと呼ばれた男は、クルウの憎まれ口をいつものこととばかりに受け流した。
 その表情はまるで絵画のように無機質で、固く、冷たい。

川 う々ー)「じゃあ何なのー……何ハラ……?」

( "ゞ)「何ハラでもない。『準備』出来たんだよ」

 デルタとクルウ。一見して人間の兄妹のように見えるこの2人が、教会の住人。
 前任の神父を残虐に殺し、町民全てから恐れられる『悪魔』である。

11 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:45:07.48 ID:o6WtwqH1O

( "ゞ)「パーティの主催者はお前だろう。毎度毎度準備を任せられる俺の身にもなれ」

川 ー 々゚)「にゅー……涙の数だけ強くなれる夢を見た……」ウトウト

( "ゞ)「よくわからん。いいからシャンとしろ、今日も夜明けまで騒ぐのだろう?」

川*゚ 々゚)「うん! クルウね、モノマネ覚えたの!
      『もしもデルタがイソギンチャク』だったらっていう!」ピカーン

( "ゞ)「そうか、永遠に人前ではやるなよ」

川;゚ 々゚)そ「ガビーン!」

( "ゞ)=3

 子供のような純粋な狂気を持つクルウを、デルタがあやす。
 これが2人の関係性。利己的な者ばかりの悪魔の中で、2人は長く信頼関係を築いてきた。
 戦いにおいてもそうだ。ナイフを使って虐殺するクルウを、デルタが術式でフォローする。
 恋愛感情や損得勘定では無い、繋がり。真逆の2人はそれを武器に、数多くの罪を重ねてきた。

12 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:46:13.23 ID:o6WtwqH1O
( "ゞ)「それにしても、翼と角はどうした? アレが無いとただのヤバい子供にしか見えないぞ」

川 ゚ 々゚)「アレあると寝づらいんだもん! てかデルタこそ角と翼しまってんじゃん! 責任転嫁!」

( "ゞ)「俺は作業してたからな。壁とかにぶつかるから邪魔なんだ」

川 ゚ 々゚)「悪魔のアイデンティティ全否定したね! やめちまえ!」

( "ゞ)「やかましい。っと、そろそろだな……」

「おーしゃ、邪魔するぜーい」バン

( "ゞ)「ほら来た。あがってくれ」

ミ,,゚Д゚彡つ「よぉ。今日はいい酒持ってきたぜ。上級のワインが手に入ったからな」ギィッ

从'ー'从「ウフフぅ、手に入ったってか、酒蔵を襲ったんだけどねぇ〜」クスクス

川*゚ 々゚)ノ「フサ君ナベちゃん! おいっす!!」

 ふとデルタが汚れた壁掛け時計を見上げたと同時に、扉が音を立てて開いた。
 そこには、立っていたのは、全身を毛に包んだ筋骨隆々な男と、妖艶な雰囲気の美女。
 一見すると普通だが、頭にある山羊の角と背中の蝙蝠の翼が、2人の正体を主張している。
 フサとワタナベ。デルタとクルウの知り合いであり、言うまでもなく悪魔である。

13 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:47:49.21 ID:o6WtwqH1O
ミ,,゚Д゚彡「いやぁ、酒蔵の主人の顔は笑えたぜ。酒あらかた持ち出して酒蔵燃やした時の顔っつったら」ゲラゲラ

从'ー'从「最期は大好きな酒蔵と一緒に燃やしてあげたから、本望よねぇ〜?」クスクス

( "ゞ)「フッ、そいつぁ見て見たかったな……その主人も運が悪いな、お前らに目を付けられるとは」フッ

川*゚ 々゚)「ナベちゃんの炎はなかなか消えなくてタチ悪いもんね! 使い手にピッタリんこ!」ニコニコ

 胸糞の悪くなるような話をしながらズカズカと教会に入る2人を、デルタもクルウも咎めない。
 これが普通だからだ。毎日適当な仲間を適当に呼び出し、朝まで滅茶苦茶に騒ぐ。
 神聖な教会で酒を飲み、残虐な話に花を咲かせる。この背徳感、快感。悪魔にとっては最高のつまみだ。
 それこそが、この教会に住み着いてからのデルタとクルウのマイブームなのだ。

( "ゞ)「フフ……まぁ続きはワインを分けてからだ。グラスは用意してある」

川*゚ 々゚)「そーしよそーしよー! クルウちゃん未成年だからコウモリの生き血ね!」ジュバジュバ

ミ,,゚Д゚彡「カカッ、もう飲んでんじゃねぇよ。大体悪魔に年齢もクソもねぇだろ」

从'ー'从「ウフフ、まぁ座りましょうよぉ〜。今夜も楽しい夜になりそうだねぇ〜」

14 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:49:10.32 ID:o6WtwqH1O





「残念ながら、楽しい夜は今日が最終夜です」バタン





( "ゞ)「!!」クルッ

川 ゚ 々゚)「にゃっ!?」クルッ

从'ー'从「?」クルッ

ミ,,゚Д゚彡「……誰だテメェ?」クルッ






15 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:52:00.09 ID:o6WtwqH1O

 浮かれる4人に水を差すかのように、礼拝堂の入口から見知らぬ声が響いた。
 不意に呼ばれたのだ、当然悪魔達4人全員の視線は声の方向に注がれる。
 そこに悠然と立っていたのは、まさに『招かれざる客』。

「誰だ、ですか……まぁ、悪魔の最期の問い掛けに答えてあげるのもいいでしょう」

「僕は教皇庁から、この教会の件を解決すべく派遣された、この教会の新しい司祭」



( ・∀・)「モララーと申します。悪魔祓いをしに来ました」ザッ

( "ゞ)「……悪魔祓い……」

川 ゚ 々゚)「……にんげん……」

从'ー'从「……へぇ……」

ミ,,゚Д゚彡「……」ニヤッ




16 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:54:18.98 ID:o6WtwqH1O
( ・∀・)「連絡が遅れて3ヶ月も放置してしまいましたが、これでおしまい。貴方達を地獄に帰します」

( "ゞ)「……」

 目を刺すような金髪に、子供のように緩みきった笑顔。
 一見覇気は一切見受けられないが、纏った黒いキャソックと首に掛けた十字架が、彼が神父だと主張している。
 初めは何故神父が、とデルタは逡巡したが、よく考えたら当たり前だ。
 この教会をデルタとクルウが乗っ取って3ヶ月。当然町民から教皇庁へのヘルプは届いただろう。

( "ゞ)(……まぁ、祓われることは無いだろう)

 それを踏まえても、デルタは自分達がこの男に殺されることは無いと結論付けた。
 まず単純に数の利。向こうは1人でこちらは4人、しかも全員それなりに力は持っている。
 クルウとフサにかかれば普通の人間はすぐに細切れだし、デルタとワタナベも控えている。
 そのアドバンテージは全員理解しているようで、悪魔達4人は一切怯えることなくモララーに向き直った。

ミ,,゚Д゚彡「ヒャハッ、ツいてんな。まさかつまみの方から来てくれるなんて」ザッ

从'ー'从「ゴメンね神父さぁん、今回のパーティにゲストは呼んでないのよぉ〜」サッ

( ・∀・)「……」

17 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:55:22.28 ID:o6WtwqH1O
 自分達の負けが薄いことを理解したうえで、フサとワタナベはモララーに向かい歩き出した。
 2人はもとより悪魔らしい好戦的な性格だ。人間なんて彼らには遊び道具と変わりない。
 そして好戦的な悪魔は、この場にもう1人いる。

ヾ川*゚ 々゚)ノ「やぁだズルい、クルウも……!!」ハキハキ

( "ゞ)「まぁ落ち着けクルウ、今日は2人に任せよう。トマトやらんぞ」ボソッ

川;゚ 々゚)「みゅー……大好物をひけあいに出されたら引っ込むしかない……」スゴスゴ

 興奮気味で戦列に加わろうとするクルウを、デルタは冷静に抑えた。
 別にクルウに戦わせても構わないのだが、彼女はやりすぎるため後始末が面倒だ。
 3ヶ月前だって、ハシャぎすぎたクルウのせいで神父の死体が教会に散らばってしまった。

( "ゞ)「まぁ、たまには大人しく見ていろ。また教会中に散らばった肉片拾い集めるのはゴメンだぞ」

川;゚ 々゚)「きゅー、わかった……グチャグチャにするためには他人のグチャグチャを研究せねば……」ウズウズ

( "ゞ)「いい子だ。さぁ、パーティの前座を楽しもうじゃないか」

::川;゚ 々゚)::「うきゅー……紙テープを回収する要領で内蔵引きずり出したい……」ウズウズズーッ

18 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:57:03.11 ID:o6WtwqH1O
ミ,,゚Д゚彡「ヘヘッ、神父様さっきから一言も喋ってねぇじゃん。ビビっちまったか?」ニヤニヤ

从'ー'从「ウフフ、何それ情けなぁい。私達を追い払いに来たんでしょ〜う?」ケラケラ

( ・∀・)「……」

 クルウが自分の欲望との戦いを繰り広げる一方、フサとワタナベは悪い笑みを浮かべつつモララーに近づいた。
 沈黙を続けるモララーを恐怖していると考えたのだろう。
 もはや彼らにとって目の前の神父は、いたぶって壊すための玩具でしかない。

 ――その誤解が、彼らのケチのつき始めだった訳だが。

( ・∀・)「……勘違いするなよ……糞悪魔共……!!」ジャラッ

ミ,,゚Д゚彡「あ? 何だ急に口調変わりやがって。高校デビューじゃねぇんだから……」

从'ー'从「なぁにその錫杖、武器のつもりぃ? そんなのフサにとっちゃ小枝同然よ、お菓子の方の小枝よぉ〜?」

( ・∀・)「……私は、別に貴様等を追い払うつもりなんか無い」シュッ

ミ,,゚Д゚彡「ハッ、じゃあ何のためにここに……」

ミ,,゚Д/゚彡「………んあ?」ツーッ

19 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:58:25.54 ID:o6WtwqH1O





( ・∀・)「―――貴様等を、殺すために来たんだよ」キンッ

ミ,,゚Д\.:::「あっ」ブシュアッ

川;゚ 々゚)そ「くにゃっ!?」ビクッ

从;'ー'从「………え?」キョトン

(;"ゞ)「………っ!!」

( ・∀・)「……哀れな魂に救済あれ……アーメン」ジャラッ

 教会の中に満ちていた、強者が弱者をいたぶる構図は一瞬で消し飛んだ。
 今、この状況だけを切り取って人に見せたら、誰しもが手品の類と思うだろう。

 ――2メートルはあろうという大男の頭が、突然半分吹き飛んだのだから。




20 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 21:59:36.46 ID:o6WtwqH1O

ミ,, Д\.::::: サラサラ

川;゚ 々゚)「……フ、フサ君……クッキーパウダーみたいになっちゃった……」ビックリ

 さっきまで誰よりも騒がしかった同朋が、灰になって消えていく。
 その事実は悪魔達にモララーの圧倒的実力を知らしめるには、些か十分過ぎた。
 特に長年フサとつるんでおり、彼の力に信頼を寄せていたワタナベにとって、その衝撃は言うに及ばない。

::从;'ー'从::「ちょ、何よ……アンタ、フサに何したのよ……そんな錫杖なんかで……」プルプル

( ・∀・)「ああ、この錫杖は聖水で磨き、銀で固めてある。貴様等悪魔にとっては剣より効く代物だよ」シャン

(;"ゞ)「……だからって……」

 それにしても、だ。

 錫杖が普通じゃないことはわかった。だがしかし、それを高速で振り下ろしたモララーも普通じゃない。
 少なくとも、モララーが錫杖を振った瞬間を3人は視認出来なかった。
 この時点で、モララーは「遊び道具」では無くなった。「脅威」だ。

22 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:01:34.91 ID:o6WtwqH1O

( ・∀・)「さて……次はお前だな。安心していい、直ぐに仲間に逢えるから」スッ

从;'ー'从「ヒィッ!」ビクッ

 錫杖を向けられ、ワタナベは反射的に後ずさった。もはや狩人と獲物の立場は逆転している。
 彼女はフサの実力を知っている、それゆえ自分がフサより弱いことも知っている。
 殺される。自分もフサのように、或いはフサより酷く殺される。

从;'ー'从つ「い、嫌だ……そんなの、そんなのぉ……!!」スッ

从;'д'从つ.::::''「冗談じゃないわよぉぉぉぉぉっ!!!」ゴォォォォッ

( ・∀・)「!!」ブァッ

 発狂状態のワタナベの左腕から、モララー目掛けて炎が放たれた。
 それに焦ることなく、モララーは錫杖を器用に操って炎を受け流していく。
 更に彼は、この炎が自分を殺すためのものじゃないことも理解していた。

( ・∀・)「攪乱……逃げるつもりか」

W从;'д'从W「当然! アンタみたいなバケモンに付き合ってらんないわよぉぉぉぉぉ!!」バサァ

23 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:02:32.26 ID:o6WtwqH1O
 燃え盛る炎を潜り抜け、ワタナベは禍々しい羽を広げて飛び上がった。
 相棒の仇を討ちたくない訳ではない。だが、そんなことより死にたくない。

W从;'ー'从W「ハッ、そこで炎と遊んでなさいよバカ神父! あわよくば死ね!」

( ・∀・)「……仲間の弔い合戦をするつもりは無いのか……?」

W从;'ー'从W「ハァア!? バカじゃないの、そんなくだんないことして死んでたまるもんですか!」

( ・∀・)「……そう……」スィン

 ワタナベの返事を聞くと、モララーは哀れむような調子で炎を振り捨てた。
 彼女の回答は悪魔としては模範的なものだ。例えそれが誤答でも。

( ・∀・)「わかった……じゃあ、逃がしてあげる代わりに代償を貰うよ」フゥン

W从;'ー'从W「アハッ、何よ代償って、この距離じゃ何も出来n」::,つブチィッ

W从;'ー'从W「     えっ    」::::,,,つ

24 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:03:55.62 ID:o6WtwqH1O

::W从; ー 从W::「……アハッ、嘘でしょ……!? あ、あれれ〜、う、うで、うで……?」::::,,,つ

( ・∀・)「腕1本。裏切りと断罪の代償には少し安すぎるかな」

::W从; Д 从W::「いっ、いぎゃあああああああああっ!!! ひ、ひだりうでっ、うでっ!!
          な、ない!? なんで、いた、やだ、ひやっ、やだ、ああああああああああああっ!!!
          う、いやっ、いだひっ、うでっ、ひやっ、ぎゃひぁあああああああああっ!!!
          ふっ、ふざけんなふざけんなやだやだいたっ、い、ひィィィィィあァァァァァ!!!
          いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいィィィィィィィィィィっ……!!」キィィィィィン

( ・∀・)「……下劣な……」

 ワタナベのしなやかな左腕が、血飛沫をあげて教会の隅に転がる。
 その瞬間、耳をもつんざかんばかりの断末魔が静まり返った丘に響いた。
 悪魔の体は、致命傷でなければ時間をかければ治る、しかし銀で付いた傷は治らない。
 かつ聖水まで纏っているのだ、何も考えずに頭を吹き飛ばされたフサの方がどれだけ楽だったか。

25 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:05:01.42 ID:o6WtwqH1O

W从; Д゚从W「ひぃああああああっ……こ、殺すっ!!
        モララー、名前覚えた……!! 絶対殺してやる……!!」ジタバタ

 今やワタナベに、端正かつ蠱惑的だった美貌の面影を覗くことは不可能だった。
 そこにいるのは、神をも呪わんばかりの醜悪な顔で睨む、1人の悪魔だけだ。
 デルタとクルウでさえ、これほどまでに歪んだ表情のワタナベは初めて見る。

( ・∀・)「あぁ、また来なさい、出来れば懺悔をしに。それが叶わないなら今度こそ滅してやる」

W从;゚Д゚从W「抜かせ! 絶対殺してやる、骨さえ残さず焼き殺してやるぅぅぅぅぅっ!!」バッサバッサ

( ・∀・)「……神の国に栄光あれ……」

 呪詛の言葉を吐き捨て、ワタナベは夜の闇に消えていった。
 それを見送るモララーにとって、彼女の報復などどうでもいい。
 彼にはやらなくてはならないことがある。それはすぐそばにあることだ。

( ・∀・)「さて……」チラリ

(;"ゞ)そ「っ!!」ビクッ

川;゚ 々゚)そ「ひゅゆっ!!」ビクッ

26 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:06:30.81 ID:o6WtwqH1O

 フサが殺され、ワタナベが蹂躙されている間、デルタとクルウは押し問答を繰り返していた。
 議題は「このまま逃げるか、戦うか」。シンプルかつ、究極の難題である。

 デルタとしては、住処など捨てて今すぐ逃げたかった。彼もまた悪魔だ、自分とクルウの命を第一に守りたい。
 しかし、悪魔としては幼いクルウにとって、その選択はまだ難しすぎる。
 仲間が目の前で酷いことをされている。ならば自分も戦いたい。
 命を守りたいデルタ、誇りを守りたいクルウ。どちらも間違ってはいないのだろう。
 ただ、間違っていたことが2つある。1つは、論戦の時間配分。

( ・∀・)「……」ザッザッ

 張り付いた笑顔をぶら下げて、モララーは2人のもとに向かう。
 どうしてこうなってしまったんだ。数分前まで、パーティに心を弾ませていたのに。

川;゚ 々゚)「デルタぁ……もう逃げらんないって、やるっきゃない……!!」ザッ

(;"ゞ)「チィッ……まだまだ長生きしたかったんだがな……」バッ

 2人は一応の戦う意志は示したが、その実自分達に勝ち目の無いことは理解していた。
 ただ、ここで2人にとっての2つ目の間違いが作動する。

( ・∀・)「……さぁ……」スッ

27 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:07:42.43 ID:o6WtwqH1O





( ・∀・)「もう大丈夫ですよ、この教会の悪魔は滅ぼしました」

川 ゚ 々゚)

( "ゞ)

川;゚ 々゚)「………えっ?」キョトン

( ・∀・)「兄妹ですか? 可哀想に……悪魔に連れさらわれたのですね……」

(;"ゞ)「…………あっ」





 ―――翼と角をしまっている悪魔は、人間にしか見えない―――






28 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:09:25.91 ID:o6WtwqH1O

 デルタとクルウにとって、奇跡的な偶然は多々あった。

 まず1つ目。モララーは、教会の悪魔の特徴を「悪魔らしい男女」としか聞いていなかった。
 そんなモララーが教会に入って見た「悪魔らしい男女」は、フサとワタナベに他ならない。
 そんな悪魔と一緒に人間が2人いる、しかも片方はまだ幼い少女だ。
 何も知らないモララーにとって、デルタとクルウは「助けねばならない存在」になっていたのだ。

 さらに、フサとワタナベの暴言、そして戦いは、上手くデルタとクルウの論戦を掻き消していた。
 モララーからすれば2人の姿は、混乱する兄妹にしか見えなかったろう。

 結果、2人の悪魔と神父の間に、とんでもない誤解が生まれた。

(;・∀・)「ああ、妹さんなんて吐血しているじゃないですか……くっ、なんて卑劣な……」フキフキ

川;゚ 々゚)「うんにゃ、こ、これコウモリの生き血……」ゴシゴシ

(;・∀・)「いいんです、皆まで言わなくていいんです、怖かったでしょう心細かったでしょう……!!」

(;"ゞ)(ははーん、さてはコイツとてつもないバカだな!?)

29 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:10:44.11 ID:o6WtwqH1O

 先程フサとワタナベに見せた冷酷な雰囲気を一転させ、モララーは2人に語りかけた。
 恐らく彼の本質はこの温和な性格なのだろう。もし2人が悪魔だと知っていれば、こんな態度のはずが無い。

(;・∀・)「さぁ、こんなところに長居は無用です。早く家にお帰りなさい……」

(;"ゞ)そ「おぉっ!?」ビクッ

 デルタにとって、この展開はまさに願ったり叶ったりと言ったところだ。
 この馬鹿な神父は自分達を完全に人間と思い込んでいる、つまり逃げても追ってこない。
 それどころか、堂々と扉から手を振って出ていける。神父の方も手を振って見送ってくれるだろう。

(;"ゞ)「よ、よし……クルウ、行くぞ……!?」グッ

川;゚ 々゚)「……」グッ

(;"ゞ)「……クルウ……?」

 一刻も早くこの危険地帯から逃れたい、その気持ちからデルタはクルウの手を引いた。
 しかし、クルウは動かない。どれだけ引いても、ガッチリと踏ん張って聞かない。
 それどころか、クルウはデルタにとって最も避けたかった選択肢を選び始めた。

川;゚ 々゚)「……ねぇ、神父……さまぁ……ちょっとお願いしてもいい……」

(;・∀・)「はい……?」

30 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:12:34.20 ID:o6WtwqH1O





川;゚ 々゚)「クルウ達を、ここに一緒に住まわせてほしいの」





(;・∀・)「ここに……!?」





(  ゝ)   " ¨






31 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:15:04.13 ID:o6WtwqH1O

::(;"ゞ)::「なっ……ちょ、おま……ぅええ……っ!?」プルプル

 クルウの予想だにしない発言に、デルタは痙攣がごとく震えだした。
 デルタとしては1秒だってここにいたくない、出来るなら今すぐワタナベのように飛び出したい。
 しかしそんなデルタの思いを知ってか知らずか、クルウの口からはどんどん予期せぬ言葉が紡がれていく。

ヾ川;゚ 々゚)ノ「え、えっと、クルウとデルt、お、お兄ちゃんにお家は無いの!
        何かこう、悪魔にボーボーにされちゃって! パパもママもボーボー!
        だ、だから住ませて! なんかいろいろ手伝うし! 遣唐使!」アタフタ

(;・∀・)「……」アゼン

 見た目年齢相応の稚拙すぎる演技力を、クルウはまざまざと見せつけた。
 言うまでもないが、デルタとクルウは兄妹でもなければ家も両親も燃やされていない。

(;"ゞ)「ちょ、何やってんだクルウ、変なことしてないで逃げるぞ……」ボソボソ

川;゚ 々゚)「待ってぇ! 後で説明するから今はクルウにお任せ! 大女優クルウにお任せ!」コソコソ

(;"ゞ)「……任せろと言われても……」

32 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:17:12.61 ID:o6WtwqH1O
 モララーに悟られない程度の声量で諭すデルタに、クルウは慌てつつもしっかりとした意志を示した。
 しかし、何か考えがあることはわかったが、デルタにとってその案は死路でしか無い。

(;"ゞ)(それどころかあんな三文芝居を繰り広げられたら、いくらバカな神父でも気付く……)チラッ

( ;∀;)「ひぐっ……そ、そんな悲しいことが……いけない、涙腺は母胎に置いてきたはずなのに……!!」ボロボロ

(;"ゞ)(泣いてるよ―――――ぃ!!)

 さっきまでフサやワタナベを冷酷に睨みつけていたその目から大粒の涙を落とすモララー。
 この時、デルタはこの場に自分以外ボケしかいないことを悟った。

( ;∀;)「おぉう……辛かったのですね大変だったのですね……分かりました、共に暮らしましょう……!!」エグエグ

(;"ゞ)そ「えぇっ!?」

川;゚ 々゚)ノシ「ありがとー神父様! そんじゃクルウ達眠いから適当な部屋見つけて寝るね! グッナイ!」タタタタ

( ;∀;)ノシ「ええ、そうしましょうそうしましょう、ヒグッ、神の御加護がありますように……!!」

(;"ゞ)「ええぇぇぇぇぇ……!?」ズルズルズル




33 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:19:23.75 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

(;"ゞ)「……ハァ、どういうつもりだ……説明しろぉ……」ゼェゼェ

川;゚ 々゚)「………」プイッ

 咄嗟の嘘でモララーから離れた2人は、教会の2階にある空き部屋に来ていた。
 普段は荒れた教会の中で適当に過ごしていた2人なので、部屋は蜘蛛の巣や埃にまみれていた。
 もっとも、悪魔である2人にとって汚れなどむしろ喜ぶべきものだが。
 しばらくそっぽを向いてデルタの視線に耐えていたクルウは、やがてポツポツと語り出した。

川;゚ 々゚)「……わかるでしょぉ、あの神父クルウ達を悪魔って気付いてないよぉ……。
      このまま油断させて、隙を見て殺っちゃおうよ……やっちゃん……!!」ポツポツ

(;"ゞ)「ハァ……やはりそんな感じか……そんな危ない橋を渡る必要なんざ……」

川;゚ 々゚)9m「じゃあデルタは、フサ君達がやられて何とも思ってないのかー!?」ビシッ

(;"ゞ)「……」ドクン

35 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:21:51.38 ID:o6WtwqH1O

川;゚ 々゚)「クルウは、あの神父許せない! フサ君もナベちゃんもお友達だもん!」

川;゚ 々゚)「こんなミラクル無いよ、これは仇を取るべきっていうメッセージだよ!」

ヽ川;゚ 々゚)ノ「デルタだって悔しいでしょぉ!? 一緒に2人の無念晴らそうよぉ!!」ユッサユッサ

(;"ゞ)「……」

 いつもは狂気に満ちている瞳を潤ませて、クルウはデルタに掴みかかった。
 我が儘で、隙あらば何かを切り裂いていないと気が済まないクルウの懇願。
 長い付き合いの中でも、これほどまでに必死なクルウは見たことが無い。

(;"ゞ)「……仇か……」

 デルタの脳裏に、かつてのパーティの情景が浮かぶ。二度と戻らない、4人の宴。
 フサは柄が悪かったが話の面白い奴だったし、しょっちゅう酒を持ってきてくれた。
 ワタナベは個人的には馬が合わなかったが、クルウは髪をとかしてもらったりとよく懐いていた。
 しかし、もうフサはいない。ワタナベもあの腕じゃ満足な美貌は保てないだろう。

(;"ゞ)「……わかったよ……」ハァ

川;゚ 々゚)「みゅん……!?」

36 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:23:33.39 ID:o6WtwqH1O

 デルタはムチャクチャにすり寄ってくるクルウをどかし、息を整えた。
 自分らしくない、悪魔らしくない選択だとは思う、だがもう乗りかかった船だ。

(;"ゞ)「お前を放置すると草木も残らないことは知ってるからな……俺もとことん苦労性だな」

川*゚ 々゚)「デルタぁ、それじゃぁ……!!」ニパァ

(;"ゞ)「ああ、もう行くとこまで付き合ってやる。『約束』したしな……!!」

川*゚ 々゚)「デルタぁ……!! 表情読みにくいくせにツンデレ……!!」ニコニコ

(;"ゞ)「ただ、もしも神父にバレたら逃げるからな!? あくまで最優先は自分の命だ」

ヽ川*゚ 々゚)ノ「悪魔だけにね! ありがとデルタぁ、一緒に神父の首をちょんぎろうね!」ダキッ

(;"ゞ)「……ハァ……」

 感極まって抱きつくクルウを受け止めながら、デルタは諦観にも似た脱力感を味わっていた。
 どうせクルウが神父に同居を言い出した時点で後戻り出来ないとこまで来てるんだ。
 だったら無茶してやる。大丈夫、ムリなら1人だって逃げてしまえばいい。

40 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:26:08.61 ID:o6WtwqH1O





 ―――こうして。





(;"ゞ)「あーあ……そもそも何でお前とつるんでるんだろうなぁ……」

川*゚ 々゚)「それはアレだよぉ! クルウに惹きつけられてんだよぉ、光に集まる蛾のように!」

(;"ゞ)「そんな本能あってたまるか!」





 まるで、神の悪戯のような偶然によって。






42 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:28:30.41 ID:o6WtwqH1O





 狂った悪魔の少女と、苦労性の悪魔の青年と、人の話を聞かない神父の。





(*・∀・)「3人暮らしかぁ……2段ベッドとかお揃いのお皿とか買っちゃおっかなぁ……」ルンルン





 奇妙な同居生活は始まった―――






43 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:30:04.71 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

W从; ー 从W「……ハァ、ハァ……痛ぅ……っ!!」バサッバサッ

 とある森の、誰も立ち寄らない腐った泉。クルウ達の教会のように、ここはワタナベのお気に入りだった。
 しかし、今のワタナベに落ち着く余裕は無い。なんせ左腕を奪われたのだ。
 憎い、憎い。目を閉じるほど、息をするほど、あの神父の憎らしい笑みが浮かぶ。

::从; ー 从::「ハァ、ハァ……殺す……首もいで、内臓千切って、これ以上無いほど飯給って殺す……!!」ワナワナ

 彼女の怒りに呼応するように漏れ出した魔力が、森の木々に着火し、燃え盛る。
 あっという間に周囲は火の海と化し、ワタナベを取り囲んだ。

从; ー 从「モララー……!! ククッ、魔力が回復したら、すぐにアンタ灰にしてやるわ……!!」

 地獄と化した森の隅で、ワタナベは狂ったように笑い出した。
 全ては復讐のために、全てはあの神父を殺すために。
 麗しい美貌を湛えた可憐な悪魔は、既に死んでいた。彼女は復讐鬼として生まれ変わったのだ。

从 ∀ 从「ア――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!」




44 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:31:55.35 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

 翌日。

( ーゝー)「……スー……スー……」

 悪魔という生き物は基本的に夜行性だ。夜中に遊び、昼間に眠る。
 デルタにとってもそれは例外では無く、ベッドにくるまりながらいつもより長めの睡眠をとっていた。

「……デルタさん……」ガチャッ

( ーゞ)「スー……う、うぅん……?」モゾッ

 ――しかし、そんな悪魔の習性など。



\(*・∀・)/「あっさでっすよーっ! グッモーニンエンジュー!?」ブワッサ

(;"ゞ)そ「どぎゃおっ!?」ビクッ

 規則正しく生きるモララーに関係あるわけがない。


45 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:34:46.74 ID:o6WtwqH1O

(*・∀・)ゝ「いやっはー、いい朝ですね! 僕が朝顔だったら満開ですよ! きゃはっ!」キャピッ

(;"ゞ)「ちょ、朝っぱらからテンション高いわ! こちとら低血圧だぞ!」ガサゴソ

\(*・∀・)/「なーに言ってるんすか、朝の元気は1日の元気! 神に仕える者としては当然です!」ニコヤカ

(;"ゞ)「……はぁ……」

 チラリと時計を確認すると、まだ午前6時。モララーの大声が未だに目覚めきっていない頭に響く。
 生活リズムが違いすぎる。今更ながら、デルタはモララーとの同居を心底後悔していた。

))川;´ 々`)「みゅー……デルタ、おはよー……」ノッソノッソ

(;"ゞ)「あれ、クルウ起きていたのか。お前俺より寝るのに」

川;´ 々`)「……親父の寝込み襲おうとしてたらぁ、アイツ徹夜で教会復興計画立ててた……」コソコソ

(;"ゞ)「バカなんだな? どっちもバカなんだな?」コソコソ

(*・∀・)「おやおや2人とも何をコソコソと! 早く朝御飯を食べましょう、スクランブルエッグ作りましたよ!」ウキウキ

川*゚ 々゚)「スクランブルエッグ! クルウスクランブルエッグ好き、グチャグチャしてるから!」シャキッ

(;"ゞ)=3「……俺、やってけるかなぁ……」ハァ

48 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:37:15.79 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

( ・∀・)「さぁて、エネルギー補給完了したところで、早速仕事に取りかかりましょうか」

川*゚ 々゚)「ましょかましょーかマトリョーシカーっ!!」ダバダバ

(;"ゞ)「さっきまでの夜更かしの虚脱感に襲われてたお前はどこに行ったんだよ……」

 食事を終え、食器を片付けた3人は礼拝堂に集合していた。
 デルタにとって、ちゃんとした食事をとったのは久々だ。今までは適当な物を適当に食べてきたから。
 そうこうしているうちに、モララーが徹夜明けとは思えぬ調子で話し始めた。

( ・∀・)「さて、教会を復興させるにあたり、やらなくてはならないことが2つあります」

川 ゚ 々゚)「死体処理と証拠隠滅?」

(;"ゞ)「それ殺っちゃったあとやることだろ……教会修復と宣伝だな?」

( ・∀・)「その通り。いくら教会に神父がいても集う人と環境がなければなりません。
      今日は私が町に出て宣伝をしますので、お2人は簡単な修復をして頂けますか?」

( "ゞ)「修復……」

49 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:38:29.04 ID:o6WtwqH1O

 因果な事もあったものだ。まさか悪魔が自分達で荒らした教会を修復するとは。
 教会を乗っ取る悪魔は珍しくないが、教会を直す悪魔など前代未聞だ。

( ・∀・)「破損部分はいいので、とりあえず礼拝堂と教会内の清掃をお願いしても宜しいでしょうか」

( "ゞ)「ああ、わかった。わかったから出来るだけ早く町に繰り出せ」

))( ・∀・)ノシ「やだ酷い。それではお昼には戻ります」スタスタ

( "ゞ)ノシ「その辺で行き倒れても俺は一向に構わんぞー」ヒラヒラ

川*゚ 々゚)ノシ「おみやげ買ってきてね! 出来れば鋭利な物ー!」ブンブン

( "ゞ)=3「……」フゥ

川 ゚ 々゚)=3「……」ハフー

( "ゞ)「さて、俺はこのまま教会ほったらかして逃げることを推すがどうだい?」

川 ゚ 々゚)「却下。ほーきとぞーきんってどこにあったっけ?」

(;"ゞ)ノそ「やんのかよ! 掃除やんのかよ!」ズビシ

52 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:40:31.51 ID:o6WtwqH1O

 町へ向かうモララーの後ろ姿が見えなくなると同時に、悪魔達の内緒話は始まった。
 デルタとしてはクルウの案に乗りはしたが、逃げられるなら逃げたい。
 なんせ神父に見つかる可能性は皆無だ、律儀に掃除をする意味なんか無いのだ。

(;"ゞ)「……とはいえ、お前だって考え曲げるつもりは無いよな……」

┗川#゚ 々゚)┛「当然! クルウは神父にえげつないくつぢょく与えたいの!!
      だからあえて言うこと聞いといて信頼得て最後にグチャグチャチャラスチャーッ!!」ムキーッ

(;"ゞ)「……わっかりましたーっ……」ハァ

 だが、ここまで興奮したクルウを否定する方がよっぽど危険だ。
 仕方ない、もう腹は括ってる。抵抗を諦めたデルタは、枯れ葉も吹き飛びそうな溜め息を吐いた。

(;"ゞ)「仕方ない……俺は礼拝堂をやるから、お前は部屋の掃除をしててくれ」

川*゚ 々゚)ゝ「オッケー! バックレないでよ、居なくなったらナイフ片手に探し回るよ!」ビシッ

(;"ゞ)「言われなくても逃げねぇよ……お前のおっかなさは誰より知ってるからな……」

 あぁ、なんて流されやすいんだろう。なんでこんな子供に逆らえないんだろう。
 まぁ、全て『約束』のせいか。クルウと出逢ったことから、全ては始まったんだな。
 ほとほと自分に呆れながら、デルタは礼拝堂に足を進めた。




53 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:41:52.48 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

ヽ(;・∀・)ノ「ですから、あの教会にはもう悪魔はいないんですって! 僕がぶっ飛ばしましたから!」アタフタ

(;^Д^)「うるせぇよ! 仮にそうでもな、あんなとこ二度と行きたくねえからな!!」グイッ

(;・∀・)「あぁっ、ちょっ、あぁん……いけずぅ……」

 無碍に立ち去る町民の後ろ姿を見送りながら、モララーは肩を落とした。
 予測はしていたが、町民は教会を忌み嫌っている。当たり前だ、悪魔が住んでいたのだから。

(;・∀・)「だけど、何とかしなきゃなぁ……」

 ここで諦めてしまったら、教皇庁からやってきた意味がない。
 教会というものは人々が安らぎ、心を落ち着けるためになくてはならない場所だ。
 神に仕える者として、自分には教会を復旧させる義務がある。

(;・∀・)「ぃよっし、もうちょっと粘ってみるかな……」テクテク

 そう自らを奮い立たせると、モララーは再び町民が行き交う道に繰り出した。
 「兄妹」が綺麗にしてくれているであろう教会に思いを馳せながら。

54 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:42:46.29 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

(;"ゞ)「ハァ……随分散らかしたなぁ、俺……」サッサッ

 礼拝堂に散乱する醜悪なゴミを箒で蹴散らしながら、デルタは1人呟いた。
 ステンドグラスの破片、剥がれた壁の塗装、鼠や小虫の死骸。
 これら全て自分達が出した汚れだが、流石に後始末は骨が折れる。
 とはいえ、そこは根が生真面目なデルタ。ぶつくさと文句を言いながらも、礼拝堂の汚れを着実に消していった。

( "ゞ)「……」ピタッ

 しかし、とある箇所の拭き掃除に移ると、その手はピタリと止まってしまった。
 彼の目の前にあるのは祭壇。そこにべっとりと痕を残す、前任神父の血。

( "ゞ)「……神父……」

 ――自分達が殺した神父の血。


55 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:44:04.09 ID:o6WtwqH1O

( "ゞ)「……前の神父ってどんな顔してたっけかな……」

 思い出せない。いや、特に覚えておくつもりもなかった。
 デルタにとって人間は障害物であり、それをどかすことはあれど覚えておく必要など無い。
 ゆえに、前任の神父の顔なんざ初めから特に注目もしていなかった。

( "ゞ)「……んで、別にそれでいいんだ」

 自分は悪魔だ、人間とは根本的に違う。
 人間達だって殺した害虫の区別なんてしない、だから自分達悪魔が人間の区別なんか必要ない。
 祭壇に残る血の痕を、強く、強くこする。血痕と共に、何かを消し去るように。

( "ゞ)「……こんなもんでいいか。そうだ、念の為ここにこれを……」ゴソゴソ

 デルタが雑巾を持ち上げると、祭壇の血痕は跡形もなく無くなっていた。
 まるでそこに血など無かったかのように、初めから神父の死体など無かったように。


 ―――神父を殺した事実が消えることは無いけれど。



56 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:46:07.24 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

川;゚ 々゚)「よいしょ、よいしょ……う、うーっ!」ズリズリ

 礼拝堂から離れた教会の一室。クルウはそこで慣れない雑巾掛けに一苦労していた。
 もとより不器用な上に飽き性。単調な反復作業が延々と続く掃除は、クルウにとって拷問に近い。
 それでもクルウは頑張った。全ては神父の信用を得るため、神父を殺すため。

川;゚ 々゚)「今に見ててよクソ神父ぅ……フサ君とナベちゃんの仇ぃ……!!」ズババ

 神父への怒りを両腕に込め、発散させるように雑巾を滑らせる。
 クルウの脳裏にフサとワタナベの姿が浮かぶ。一緒に悪い話をした、クルウの友達。
 そんな大事な友達を、あの神父は殺した、腕を切った。許せない、あの神父は許してなるものか。

川 ゚ 々゚)「……神父……」ピタッ

 ふと、神父の顔も頭に浮かんだ。


57 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:47:28.76 ID:o6WtwqH1O

 クルウとデルタを人間だと思って、優しくしてきたバカな神父。
 教会に人を呼び戻すために、ワクワクと一晩中汚れた机に向かい続けた神父。
 そのままキッチンに向かい、美味しいスクランブルエッグを作ってくれた神父。

((川;ー 々ー)))「……にゃーっ!!」ブンブンッ

 頭に浮かんだ変な考えを散らすように、クルウは頭を振った。
 あの神父は敵、優しくしてきたのも神父がバカだから。ならばさせておけばいい。
 クルウの精神はまだ幼い。悪意と善意の折り合いを付けるにはまだ早い。

≡≡≡川;゚ 々゚)「……あ゛ーっ!! 神父め絶対に許さないんだからぁーっ!!
      みぁーっ!! ビビってなんかいないんだからぁーっ!!!」ドタドタ

 混乱も怒りも全て振り切りたくて、クルウは雑巾掛けを再開した。
 途中何度も「許さない、許さない」と口に出しながら。

 まるで自己暗示でもかけるように。


58 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:49:47.09 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

( "ゞ)「……まぁ、とりあえず大体は綺麗になったな。クルウにしてはよくやった」

川;´ 々`)「ぷにゅー……もう2度と廊下とあんな近距離で接したくない……」ヘトヘト

( "ゞ)「そんなに疲れるならやめれば良かっただろ。ただでさえ今なら逃げられるし……」

川;´ 々`)「ふくしゅー……ぐちゃぐちゃ……」ハフゥ

(;"ゞ)「……はいはい……」

 太陽も既に昇りきった頃、2人の掃除も完了した。
 割れたステンドグラスや壊れた壁などはまだまだだが、汚れに関しては見る影も無い。
 教会に関しては、後半完全に飽きたクルウによって雑にあしらわれた箇所もあるが。

( "ゞ)「さて……そろそろ神父が帰ってくる時間だな。落とし穴でも作っときゃよかったな」

川;´ 々`)「そだねー……人呼ぶための宣伝とか、町民くんのかなぁ……」

(;"ゞ)「……人呼ぶ……?」サーッ

59 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:51:45.90 ID:o6WtwqH1O

川;´ 々`)「みゅ? どうしたのデルタ青ざめて、色白が青くなったから不健康なのは変わってないよ……」

(;"ゞ)「いや、よく考えてみろ!? あの神父が教会復興させて、人が集まるとするだろ!?」

川;´ 々`)「そだねー……人がゴミのように集まるんだろねー……」

(;"ゞ)「……そうしたら、当然俺達も人の目に触れるんじゃないのか……!?」

川;゚ 々゚)「……あ゛」サーッ

 ようやくデルタの発言の意味を理解したクルウは、真似のように顔色を悪くした。
 教会に男女の悪魔が住んでいることは町民は殆ど知っている。
 2人は今でこそ人間に見えるが、大きな違いは羽と角が無いだけ。
 もしも悪魔の時の自分達の姿を見ている人間が、自分達の姿を見たら。

川;゚ 々゚)「ややややヤバス! ギザヤバス! クルウ結構一度見たら忘れらんない口してる!」アワワアワワ

(;"ゞ)「おおおおもちつけ、そんな簡単に教会に人が来るとは思えんし、来るにしても今日中には……」アワワアワワ

(*・∀・)ノ「2人ともただいまーっ! 定食屋のネーヨさん夫妻が見に来てくれましたよーっ!」ギィッ

(;´ー`)「まさか本当に追い出せるとは思ってなかったヨ……」トコトコ

('、`*川「お邪魔します。あらあら、随分と綺麗になったのね」テトテト

(;"ゞ)「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」(゚々 ゚;川

60 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:53:18.84 ID:o6WtwqH1O

 タイミングが良いのか悪いのか、モララーは丁寧にも町民を連れて帰ってきた。
 しかも2人がいたのは礼拝堂の真ん中。隠れる隙も時間も無い。
 結果、2人はモララーの後ろの夫婦にバッチリ顔を見られた。

(*・∀・)ノ「あ、ちょうどいた! この2人がさっき言ったデルタさんとクルウさんですどどーん!」

( ´ー`)「ほぉ……この2人が悪魔にさらわれたって言う……」ジロジロ

(;"ゞ)「……すげぇ見られてるよ……スラムの観光客並みに見られてるよ……」ボソボソ

川;゚ 々゚)「ク、クルウ視線苦手……あの垂れ目、二刀流で潰していい……?」コソコソ

(;"ゞ)「今はイカン、だがバレるなど、場合によっては許そう……」ヒソヒソ

 2人にとって、今の時間はフサやワタナベの蹂躙を見る以上に生きた心地がしなかった。
 あの地味な夫婦の一挙手一投足で自分達の正体がバレ、場合によっては殺されるかもしれないのだから。
 そうこうしてる間に、夫婦のうちの妻が何かを思い出したように口を開いた。

('、`*川「……あら? あらあらまあまあ、何てこと……」

(;"ゞ)(ヒィぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!)(゚々 ゚;川


61 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:55:41.96 ID:o6WtwqH1O



ヾ('、`*川「話に聞いていた以上に可愛いわね。私はペニサス、これからよろしくね?」ナデナデ

川;゚ 々゚)「ふ、ふにゅん!?」フワフワ

( ´ー`)「俺はシラネーヨ、話は聞いたヨ、大変だったな」グッ

(;"ゞ)「んっ!? え、はいぃ!?」ガッ

 悪魔2人の緊張は、夫婦によって想像以上に簡単に取り払われた。
 夫はデルタの手を強く握り、妻に至ってはクルウの頭を丁寧に撫でる。
 その行動に恐怖や敵意はおろか、一切の警戒も見当たらない。

(;"ゞ)「……えっと、お2人はここの教会の悪魔は……」

( ´ー`)「あぁ、おっかなかったな。関わりたくネーから近寄らなかったし、顔もシラネーけど」

('、`*川「多分この町のみんな、ろくに悪魔の顔も知らないと思うわよ」

(;"ゞ)「……マジっすか……」

川:゚ 々゚)「……やだ、くるう達ったら自意識過剰……」

62 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:57:25.03 ID:o6WtwqH1O

( ´ー`)「この教会は結構好きだったからな、俺達も復旧手伝うヨ」

('、`*川「わからないことや助けが欲しい時は遠慮せずに呼び寄せちゃってね?」

(*・∀・)「ありがとうございます! ほら、クルウちゃんとデルタさんも! セイ!」

(;"ゞ)「あ、ありがとうございます……」

川;゚ 々゚)「あ、ありがとみゅ……」

(*・∀・)ノシ「そうだ、こっちからもありがとうございます!
       クルウちゃん頑張ってお掃除してくれたんですね!」

川;゚ 々゚)「……ゆゆ……」



 なんと、まぁ。

 ここまで天運に愛された悪魔がいただろうか。






65 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 22:59:55.06 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

川;ー 々ー)「むきゅー……疲れたー……」ボフッ

(;"ゞ)「最近2、30年とひけをとらない密度の2日間だったな……」ハァ

 その夜。
 度重なる作業と緊張から解放された2人は、自室で一気に疲労を解き放った。
 一応それぞれに部屋は割り振られたのだが、長年いるだけに一緒の方が落ち着く。
 クルウはベッドに顔から飛び込み、デルタは壁にもたれて座り込んだ。

(;"ゞ)「まさか町民にすらバレないとはな……どんだけ自意識過剰なんだ俺達……」

川;ー 々ー)「あの2人明日れーはいどーの修理手伝ってくれるんだよね……今日より楽かにゃ……」

( "ゞ)「……クルウ、今日は神父殺さなくていいのか? 多分今日は寝てるぞ」

川;ー 々ー)「はうー……今日はいい……疲れきってる……切り刻んでる……」ゴロゴロ

( "ゞ)「……わかった」


66 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:01:41.25 ID:o6WtwqH1O

 顔をベッドにうずめたまま返事をするクルウに、デルタは素っ気なく返した。
 この計画の発起人はクルウだ、彼女がやらないのに自分がやる必要は無い。
 あくまで自分はクルウの付き添い。いつだってそうだった。

( "ゞ)「じゃあ、俺は自分の部屋で寝るぞ。くれぐれも眠れなくて家具を切り刻むなよ」ヨイショ

川;ー 々ー)「……ちょっと待ってぇ……」

( "ゞ)「?」

 ゆっくりと立ち上がるデルタの方を見ないまま、クルウは彼を呼び止めた。
 間延びした口調は彼女の特徴だが、今の言葉にはほのかに真剣味が混ざっている。

( "ゞ)「どうした、言っておくが俺は幼女と同じベッドに寝る趣味は……」

川;ー 々ー)「……神父に、誉められた……」

( "ゞ)「!! ……」

川;ー 々ー)「あの斜に構えた口の人間も、クルウのこと、可愛いって……」

( "ゞ)「……おい」

67 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:04:47.68 ID:o6WtwqH1O

川;ー 々ー)「デルタの言いたいことはわかってるよぉ……大丈夫、ちゃんと殺すもん……」

( "ゞ)「……ならいいが……」

 普段、デルタはクルウを誉めたり可愛がったりはしない。それが2人の距離感だからだ。
 ワタナベには可愛がられていたが、彼女は自分の美貌が一番だと思っていた。
 それゆえ、シンプルに自分に誉め言葉を向けられることに、クルウは慣れていない。
 その不慣れさがクルウを混乱させていることに、デルタはすぐに気付いた。

( "ゞ)「……俺達がここにいるのは、神父を殺すためだ。その気が無いなら居る意味も無い」

川;ー 々ー)「だから殺す気はあるって……許せないもん、フサ君とナベちゃんを……」ブツブツ

( "ゞ)「……わかっているなら俺は口出ししない。今日は寝るからな」ギィ

川;ー 々ー)ノシ「ひみぃ、おやすみ……」

( "ゞ)「……おやすみ……」パタン


68 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:07:47.85 ID:o6WtwqH1O

( "ゞ)「……フゥ……」

 うわごとのように恨み言を繰り返すクルウから逃げるように、デルタは部屋を出た。
 別にクルウに幻滅も怒りも感じてはいない。彼女は子供だ、誉められれば気持ちくらい揺らぐ。
 そのことについてデルタは攻めるつもりはない。彼女に振り回されるのはよくあることだ。

( "ゞ)「……」

 問題は、自分の心の中にも似たような謎の混乱があることだ。

( "ゞ)「……寝るか……」

 寝よう、眠ってしまおう。
 ややこしい話は、後回しにしてしまえ―――






71 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:09:53.26 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇


 それから、モララー、クルウ、デルタの共同生活は続いた。


(*・∀・)「さぁお2人とも、今日は外壁の破損を直しますよ!」ツヤツヤ

川;´ 々`)「うゆー……今日は神父、一晩中聖書朗読して楽しんでた……」

(;"ゞ)「アイツ、寝なくても済むタイプのバッテリー積んでんのか……?」


 その間、クルウは何度もモララーを殺そうとした。睡眠中や余所見中など、幾度と無く。


(;"ゞ)「今神父寝てるぞ、大チャンスだぞアタックチャンスだぞ?」

川;´ 々`)「ムリぃ……今日はカナヅチトントンして腕がバカになってるからムリぃ……」バタンキュー

(;"ゞ)「……鈍器とかすげぇ振り回すじゃん……撲殺悪魔クルウちゃんじゃん……」


 しかし、タイミングが悪いのか手際が悪いのか、なかなか上手くいかない。



72 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:11:17.31 ID:o6WtwqH1O
 そして、2人が嫌々付き合った結果、教会の補修は進み。


(;^Д^)「懺悔させてくれ……俺、また彼女に酷いこと言っちまって……」

( ・∀・)「リア充かよ! そのAAでリア充かよ!」

(;^Д^)「!!? 今何か神に仕える者っぽくないこと言わなかったか!?」

( ・∀・)「それは貴方の罪がもたらす幻聴です。反省し、祈りながら爆発しなさい」

(;^Д^)「明らかにそっちからもたらされてねぇか!?」


 神父の努力と口コミの影響か、教会を訪れる人々も増えて。


(;´ー`)「あーあ、また焦がしちゃった。こんなハンバーグお客さんに出せネーヨ」

(;"ゞ)「ぬぅっ、し、仕方ないだろう! 料理とかしたことないし!」

('、`*川「あらあら、それでも働いて貰いますよ。神父様に『デルタさんがニートだから働かせてや』と頼まれましたからには」

(;"ゞ)「ニートじゃねえし! 働く必要なかっただけだし、あ、それがニートか!」


 やがて2人は、自分達を悪魔と知らない町民達と馴染んでいった。



76 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:12:49.78 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

( ・∀・)「えーっと、野菜とお米と、あと今日発売の週刊ヤング聖書と……」ヒョイヒョイ

川*゚ 々゚)つ━┛「神父様、あったよ! バールのようなもの!」ヒョイ

( ・∀・)「アッハッハ、買いませーん。バールじゃないならなんなんでしょうねー」

川;゚ 々゚)「ぎゃふん!」

 神父が教会にやってきて約1ヶ月。
 この日、クルウはモララーに連れられ、町まで買い出しに出ていた。
 普段は基本的にクルウは留守番なのだが、今日はデルタのバイトが休み。
 そんな訳で駄々をパンのごとくこね回した挙げ句、留守番をデルタに任せてついてきたのだ。

川;゚ 々゚)「きゅー……素敵な鈍器を物色出来ると思ってついて来たのに……」

( ・∀・)ノ「ツッコミ不在なのでツッコみますね。そんな目的ありまへんがな!」ビスッ

川 ゚ 々゚)「神父様のツッコミって素人以下だね」

(;・∀・)「私は素人ですが!?」

78 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:15:11.35 ID:o6WtwqH1O

( ・∀・)「全く……でもクルウさんが楽しそうで何よりです」

川*゚ 々゚)「うん、楽すぃーっ! クルウお買い物と殺傷沙汰大好き!」バタバタ

 クルウは右手の買い物袋を振り回しながら、にこやかに答えた。
 本当に楽しい。町は色んな刺激や人、娯楽に溢れていて、飽き性なクルウが全く飽きない。
 ここ1ヶ月、時々連れて行ってもらったことで町の人々にも慣れた。
 それにこうやって神父様と買い物することもとても楽しい――

川 ゚ 々゚)「……あれ……?」ピタッ

( ・∀・)「ん? クルウさん?」

 その時、クルウは自分の思考の違和感に気付いた。
 神父様と買い物することはとても楽しい、だけど。


79 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:16:39.50 ID:o6WtwqH1O





 クルウ、神父様を殺したいんじゃなかったっけ。





川;゚ 々゚)「……あぅ……」

(;・∀・)「あや、本当に大丈夫ですか? あの日ですか? 早熟ですな!」

川;゚ 々゚)「だ、大丈夫だよ神父様、ただ単にイチゴのこと考えてただけ……」

( ・∀・)「なんだ、それなら良かった」

川;゚ 々゚)「………」

83 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:18:47.73 ID:o6WtwqH1O

 咄嗟の嘘で誤魔化しては見たがクルウの顔色はさっきまでと一変して悪くなっていた。
 そう、自分達が神父様と暮らしているのは神父様を殺すため。
 神父様は友達であるフサを殺し、ワタナベの腕を切り落とした。
 それが許せなくて、わざわざ危険を冒してまでクルウはモララーと同居しているはず。

川;゚ 々゚)(……そう、神父様は敵……フサ君を殺した……)

 例えば、今ならクルウは一切手こずらずにモララーを殺せるだろう。
 相手は自分を小さい子供だと油断しきっているし、なおかつ心を許している。
 今殺せば、1ヶ月前の自分が望んでいた『屈辱的な死』を与えられる。

川:゚ 々゚)(……でも……)

( ・∀・)「?」マヌケヅラッ

 だけど、自分が神父様を手に掛けると思うと、神父様をぐちゃぐちゃにすると思うと。
 とても嫌でたまらない。人間をぐちゃぐちゃにすることは大好きなはずなのに。


85 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:20:07.28 ID:o6WtwqH1O

川;゚ 々゚)「……ねぇ神父様ぁ……神父様は何で神父様なのぉ……?」

( ・∀・)「? 何ですか、ロミジュリ的なそれですか?
      モラオとクルウットみたいな、モラクル!」

川;゚ 々゚)「いやいや……神父様は、どうして神父様ってお仕事を選んだの……?」

( ・∀・)「ああ……」

 心の中の混乱、迷い。それら全てを吹き飛ばすため、クルウは疑問を投げかけた。
 幻滅がしたかった。今の迷った自分の心じゃ、決して仇討ちなんか出来ない。
 だから質問することでモララーの汚れた面を引き出し、殺すことを自分の中で納得させたかった。

( ・∀・)「そうですねぇ……私って悪魔がゲロ吐くほど嫌いじゃないですか」

川;゚ 々゚)そ「はひん!」ガビーン

(;・∀・)「何故ショック受けてるんですか!?」

川;゚ 々゚)「い、いや、何でもナッシング……続けてクレヨン……」ヨロッ

(;・∀・)「あ、はい、わかりマシンガン……」


86 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:21:29.25 ID:o6WtwqH1O

( ・∀・)「まぁ悪魔は嫌いなんですけどね、人間は好きなんです。善の生き物ですから」

川 ゚ 々゚)「……そんなことない。人間にも悪い子はいるよ……」

( ・∀・)「それでも、生まれた時からの悪人はいません。みんな環境や悪魔の囁きで罪を犯してしまう」

( ・∀・)「ですから私は、救済の手伝いがしたいんです。少しでも多くの人間が神の国へ行けるように」

( ・∀・)「それを惑わす悪魔を退け、人を導く。そのために私は神に仕えたのです」

( ・∀・)「……なんて、退屈な話でしたね」

川 ゚ 々゚)「……」

( ・∀・)「……クルウさん?」


88 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:22:56.26 ID:o6WtwqH1O



 ―――あぁ、やっぱり。
    神父様は、お馬鹿さんだ。



 人間全てが最初から善なんて有り得ないのに。

 自分にとっての善が他人にとっての悪だったりするのに。

 なのに神父様は、この世界は善で満ちていると思い込んでいる。
 悪魔を退ければ世界は慈愛で包まれると思い込んでいる。
 そんなこと無いのに、人間なんて勝手に悪事犯す奴ばかりなのに。



川 ゚ 々゚)

 神父様の目の前にいるクルウは、悪魔なのに。




91 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:24:54.34 ID:o6WtwqH1O

(;・∀・)「あっれー想像以上につまんなかったですか?
      こうなればこの横ジマのハンケチを縦ジマに……」

 お馬鹿な神父様は、クルウを人間だと思い込んでいる。
 悪魔で、悪い心の持ち主であるクルウを善だと思い込んでいる。
 クルウは悪魔なのに、何人も殺してるのに、神父様を殺そうとしてるのに。



川 ゚ 々゚)



 ―――そんなの。






92 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:25:45.68 ID:o6WtwqH1O





川 ; 々;)

(;・∀・)「ふぉお!?」





 ―――殺せるわけないじゃん。






94 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:28:22.84 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

( "ゞ)「……よし、いい味だな……」コトコト

 教会の留守を任されたデルタは、2人の居ぬ間に昼食をこしらえていた。
 1ヶ月前まで料理なぞする気もなかったが、バイトの成果か人並みの調理は出来るようになった。
 最初はモララーに「怠惰は罪」などと言われて始めたバイトだが、こうして食事を作る程度には役立っている。
 きっともうじき2人も帰ってくるだろう。クルウの好きなスープをかき混ぜながら、デルタは考え始めた。

( "ゞ)「……クルウ……」

 いつからだろう? クルウがモララーがいない時でも『神父様』と呼ぶようになったのは。
 クルウの心がフサ達よりモララーに傾いているのはもはや明白だ。
 一応夜になるごとに神父を殺さないか尋ねているが、いつも適当に先延ばしにされている。
 昨日なんか『明日買い物に行くから』なんて、理由にもなっていなかった。

( "ゞ)「……俺は、どうしようかな……」

 鍋をかき混ぜながら、デルタは1人ポツリと呟いた。

95 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:31:00.42 ID:o6WtwqH1O

 デルタ自身、神父を好んでいないかと言えば嘘になる。
 初めは馬鹿な敵としか思っていなかったが、意外と話も合う。
 だが、自分は大人だ、割り切れないわけではない。辛くはあるが、その気になればモララーを殺せる。
 しかしクルウは出来ないだろう。浅はかにも、神父に懐いてしまったから。

川  々 )「……デルタ……」

( "ゞ)「ん?」クルリ

 不意に背後から聞こえた声に振り向くと、クルウが俯きながら立っていた。
 珍しいこともあるものだ、普段ならドタバタと廊下を走ってくる音で気付くのだが。

( "ゞ)「どうしたクルウ、そんなにクラムチャウダーが待ち遠しかったのか……」

川  々 )「……デルタぁ……!!」ギュッ

( "ゞ)「!! ……」


97 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:32:24.67 ID:o6WtwqH1O

 デルタが声を掛け終わるより先に、クルウは胸元に抱き付いた。
 その時感じた胸の冷たさにより、クルウが泣いていることに気付くのにそう時間は要しない。

( "ゞ)「……クルウ、お前……」

川  々 )「デルタ、デルタぁ……!!」



川 ; 々;)「どうしよう、デルタ、どうしよぉ……神父様、殺せない……!!」グジュグジュ

( "ゞ)



 ああ、もう、言ったこっちゃ無い。




98 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:34:31.95 ID:o6WtwqH1O

川 ; 々;)「デルタぁ……私、デルタが世界で一番好きだよ……!!」グジュグジュ

( "ゞ)「……知ってる。そうじゃなきゃ困る」

川 ; 々;)「……でもぉ……神父様が2番目に好きになっちゃった……!!」グジュグジュ

( "ゞ)「……知ってる。そうだったから困ってる」

川 ; 々;)「フサ君もナベちゃんも好きだよ? パーティ凄く楽しかったよ?
      でもぉ……神父様と一緒にいるのも凄く楽しいのぉ……悪魔なのに……!!」グジュグジュ

( "ゞ)「……」

川 ; 々;)「デルタぁ……クルウ、どうすればいいのかなぁ……!!
      殺せないんだから、ここにいちゃダメなのかなぁ……!!」グジュグジュ

( "ゞ)「……」ギュッ

 自分達は、神父を殺すために教会に住んでいる。だが、神父を殺すつもりが無くなってしまった。
 そのジレンマが、クルウの未発達の心をキリキリと締め付けている。

99 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:36:08.78 ID:o6WtwqH1O

 泣きじゃくるクルウの頭を撫でながら、デルタはふぅと息を吐いた。
 モララーの気配がしないことから、きっとクルウはモララーを置いて走ってきてしまったのだろう。
 これなら自分も『悪魔』として話をすることが出来る。

( "ゞ)「クルウ……お前はどうしたい……? お前の願いを聞かせてくれ……」

川 ; 々;)「うゆ……クルウ、神父様とデルタと、まだまだ3人で暮らしたい……」

 涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃになった顔を上げて、クルウは呟いた。
 こうしてみるとただの泣き虫な女の子だ。いや、悪魔だってだけで、クルウはただの女の子だ。

( "ゞ)「なら、今はそうすればいい。俺は何も言わない、『約束』しただろ?」

川 ; 々;)「やくそく……うん、やくそくした……」

( "ゞ)「そうだ、だから今はお前の好きなようにやればいい。その後のことはその後考えろ」

川 ; 々;)「デルタ……わかった……」

( "ゞ)「よしよし……」


100 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:37:36.76 ID:o6WtwqH1O

 取り出したハンカチでクルウの顔を拭きながら、デルタは優しくクルウをなだめた。
 問題は解決していない、しかしこれはクルウが決める問題だ、自分はフォローに徹すればいい。
 自分達は出逢った日に、そう『約束』したのだから。

(;・∀・)ノ「ゼェゼェ……ク、クルウさんどうしたんすか……。
       急に泣き出して走り出すから町民の蔑視が乱れ撃ち……」バン

( "ゞ)「おお、遅かったな神父様。クルウなら俺の腕の中だ」

川 ; 々;)「ヒグヒグ……デルタの腕、ガリガリのくせにあったかい……」メソメソ

(;・∀・)「兄妹抱き合う姿……まさか、『禁断の愛−エデン・ラヴァーズ−』!? その感情は悪ですぞ!」

(;"ゞ)「美しき兄妹愛という解釈は出来ないのか!?」

 息を荒げながら飛び込んできたモララーを加え、いつものような騒がしい掛け合いが始まった。
 これでいい、今はこれでいい。どうしようも無くなった時に、また考えればいい。
 まくしたてる2人に昼食を勧めながら、デルタは出来る限りこの関係性の継続を望んでいた。




102 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:38:32.02 ID:o6WtwqH1O







W从メー 从W



 窓から覗く1人の悪魔の視線なんて気付かずに。








105 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:42:54.46 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

( ーゝー)



 ―――その晩、デルタは夢を見た。



『……おじちゃん、だれ……?』

『……おじちゃんと呼ばれるほどには老けてないと思うんだけどな……』

『……どうやって、この地下室にきたの……? おじちゃんよわそうなのに……』

『だからおじちゃんって……召還術ってものがあってだな……』

『……おじちゃん、なまえは……?』

『あー、もうおじちゃんで構わん。自己紹介だけ済ませるぞ』




106 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:44:08.12 ID:o6WtwqH1O





( "ゞ)『俺はデルタ。クルウだな、お前と仲良くなりに来た』

川 ゚ 々゚)『……なかよし……?』





 2人が、出逢った日の夢を。






109 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:46:45.48 ID:o6WtwqH1O

( "ゞ)『聞いたぞ、悪魔貴族スナオ家の一人娘にして、生粋のシリアルキラー。
     物心つく前に母親を殺害、その後使用人を幾度となく殺してきた問題児』

川 ゚ 々゚)『……しょうがないじゃん、ぐちゃぐちゃにしたかったんだもん……』

( "ゞ)『昔から戦闘ではなく知略で支配をしてきたスナオ家にとって、お前は邪魔だった。
     故にお前の父は賢い養子をとり、スナオ家の恥部であるお前をこの地下室で教育していた』

川 ゚ 々゚)『……そうだよ、クルウ悪い子だもん、表に出るとみんなぐちゃぐちゃにしちゃうもん……。
      おとーさまもおにーさまもみんなキライ、でも、いい子にならなきゃ……』

( "ゞ)『……我慢しなくていいと言ったら……?』

川 ゚ 々゚)『にゅん?』

( "ゞ)『俺についてくればこの家から解放してやる。好きなように悪魔も人もぐちゃぐちゃに出来る』

川*゚ 々゚)『みっ!? マジ!?』

( "ゞ)『マジマジ。すげぇマジ』

110 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:48:06.57 ID:o6WtwqH1O

( "ゞ)『俺についてくれば基本的にお前の好きなように行動していい。
     ただし、俺やお前の命に関わるような状況では意見させてもらう、それだけだ』

川;゚ 々゚)『うゆぅ……魅力的だけど、おとーさまやおにーさまにお願いしないと……』ウニュウニュ

( "ゞ)『おとーさまもおにーさまも、使用人全員もぐちゃぐちゃにしていいぞ』

川*゚ 々゚)『マジぃでぇ!? 出来るならおにーさまはばきばきにしたい!』ニパァ

( "ゞ)『そこのこだわりは知らんが。ともかく、来てくれるな? カムヒア』

川*゚ 々゚)『にゅー、そこまでされたら行くっきゃないけど……。
      どうしておじちゃんはそこまでしてくれんの?』

( "ゞ)『次おじちゃんつったらチョップだかんな。なぁに、さっきも言ったろ……』




112 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:49:24.93 ID:o6WtwqH1O





( "ゞ)『俺は、クルウと仲良くなりたいのさ』ニヤッ

川 ゚ 々゚)『なかよし……?』

( "ゞ)『そう、なかよし』





 ―――彼は、自分の自由に動かせる『力』が欲しかった。






113 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:51:23.52 ID:o6WtwqH1O

 デルタの頭脳、魔力は悪魔の中でも有数だが、体力は高くなく、戦闘は得意では無い。
 基本的に避けてはいるが悪魔として荒事も必要。逃げてばかりだとナメられる。
 悪魔にとってナメられたら死だ。故に力はなくてはならない。

川*゚ 々゚)『わかった! じゃあこれからクルウとおじc……デルタは「あいぼー」ね!』

( "ゞ)『相棒? ああ、そうだな。俺達はこれから相b……』

 故に、好きなように操れる強大な力が必要だった。その点、クルウはうってつけだった。
 狂気と力は申し分なく、その上子供だけに扱いやすい。
 その力を得るためにスナオ家の屋敷に乗り込んだのだ。それだけのためだ。
 子供なんて仲良くなりたいだのとのたまえば直ぐに心を開く。
 それが親に半ば監禁されたような子供ならばなおさらだ。

川*^ 々^)『やったー! デルタぁ、これからよろしくねーっ!!』ダキッ

(;"ゞ)『ぬあっ! ちょ……お、おぉ……』ヨロッ

 ただ、クルウの狂気と無邪気さは、デルタの想像以上に純粋だった。

115 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:53:12.33 ID:o6WtwqH1O



川*゚ 々゚)『ひぇーい! おにーさまぁ、クルウは変な大人についていきまぁーっす!』グサグサ

( "ゞ)『死んでるよ死んでるよー。変な子供さん、おとーさま死んでるよー』



 結果的に、クルウはデルタの想像通りに動いてくれた。
 少しけしかければデルタの敵を簡単に排除してくれるし、よく懐く。



川*゚ 々゚)『デルタぁ! 言われた通り最近この辺で調子乗ってる悪魔のアジトで大暴れしてきたよ!』

( "ゞ)『よくやった。ご褒美に刺身をあげよう』

川*゚ 々゚)『やったー! ハマチだー!』




117 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:55:38.19 ID:o6WtwqH1O



( "ゞ)『……クルウ。クルウは俺といて楽しいか?』

川*゚ 々゚)『楽しいよ? おうちにいたら多分一生おそとに出れなかったもーん!』

( "ゞ)『……そうか……』



 それはもう、デルタの想像を凌駕するほどに懐いた。
 いつでも全力で自分の感情をぶつけてくるクルウ。
そんなクルウといるうちに。



( "ゞ)(……ただの道具のはずだったんだけどなぁ……)



 デルタの心を揺さぶっていくのに、そう時間は要しなかった。




118 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:57:37.87 ID:o6WtwqH1O


川*゚ 々゚)つ『デルタ! これあげる、もずのはやにえ!』


 無垢で、危険で、純粋。道具だった彼女にも、ちゃんと感情があって。


川*゚ 々゚)『この教会いいね! まさしくデルタとクルウの愛の巣! あいのり!』


 その感情に触れるうちに、その少女が自分にとって欠かせなくなっていくことに気付いて。


川 ; 々;)『デルタぁ……クルウ、デルタが世界で一番好きだよ……』


 ああ、そうか。俺は―――




119 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/29(木) 23:58:39.81 ID:o6WtwqH1O










( ーゝー)(今のクルウは、あの日の俺と一緒なんだ……)











123 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:00:12.26 ID:FDagK9vzO

◇◆◇◆◇◆◇

「……ルタ……デルタ…………」

( ーゝー)「……ん、んん……」モゾッ

「……デルタ、起きてよ……デルタ……」

川/;゚ 々゚)/「デぇぇぇぇぇルタぁぁぁぁぁんぷ!!」ドッシーン

(;"ゞ)「がしんしょうたんっ!!」ゲブッ

 懐かしい夢は、散々夢の中で愛でたクルウ本人のフライングボディプレスで目が覚めた。
 寝起きが悪いとはいえ全体重叩き込まれたら流石に目も冴える。
 飛びつくクルウを素早く押しのけると、デルタは息を整えながら詰め寄った。

(;"ゞ)「い、いきなりなんなんだ! 痛いことするなら痛いことするって言わなきゃ痛いだろ……」

ヽ川;゚ 々゚)ノ「そんなことよりぃ! 神父様が大変なのだ!」アワアワ

( "ゞ)「……あ……?」


124 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:01:58.69 ID:o6WtwqH1O

◇◆◇◆◇◆◇

(; ∀ )「……ハァハァ……あっつぅ……ハハ、風邪引いちゃいましたかね……」シュァァァァ

川;゚ 々゚)「し、神父様とてつもない熱で……氷おでこに乗せても溶けちゃう……」アタフタ

( "ゞ)「……」

 ベッドに横たわる神父は、今までに見たことが無いほど憔悴していた。
 息も荒く、目も開けられない様子。どう考えても普通の風邪ではない。
 何より、汗をかくなり蒸発するような高熱を出すような風邪があるものか。

川;゚ 々゚)「デ、デルタ、神父様大丈夫だよねぇ!? 死んじゃったりしないよねぇ!?」ワヤワヤ

( "ゞ)「大丈夫だ……看てみるからクルウはそこで見てろ」

川;゚ 々゚)「にゃ、わ、わかった……指くわえて凝視してる……」チュパッ

( "ゞ)「……どれ……」

125 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:03:44.94 ID:FDagK9vzO

 慌ててデルタにすがりよるクルウを落ち着かせ、モララーに近寄る。
 正直、モララーの症状に見当はついていた。しかしそれも聞いた話から積み上げた推測。
 頭脳と経験から導き出した推測を確証に変えるべく、デルタはモララーの額に手を伸ばした。

(;"ゞ)「……熱っ!!」バチッ

(; ∀ )「へへ……今の私ならとあるテニスプレイヤーを大人しく出来そうですね……」シュアァァァァ

 モララーの額に触れた手は、その熱量に1秒も耐えられなかった。
 まるで焼けた鉄板に触れたような高温。そして何より異常なのは。

( "ゞ)「……火傷……」

 モララーの額に触れたデルタの人差し指は、軽い火傷を起こしていた。
 はっきりわかった。これは風邪ではない、それどころか病気ですらない。

( "ゞ)「……神父様、すぐに戻るから待っててくれ。クルウ、来い」グイッ

川;゚ 々゚)「ぷにゃっ!? ちょ、肩外れりゅ!」トテテッ

(; ∀ )ノシ「……いってらっさーい……」




126 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:05:30.44 ID:FDagK9vzO

◇◆◇◆◇◆◇

川;゚ 々゚)「……のろい……!?」

( "ゞ)「ああ、あの症状はまず間違いない。しかもかなり高難易度の呪詛だ」

川;゚ 々゚)「……のろいって、そーなんとかした時に煙起こす……」

( "ゞ)「のろしだな。小ボケ挟む余裕は無いぞ」

 クルウを礼拝堂に連れ込んだデルタは、自分の見解をとつとつと述べだした。
 悪魔に関わることだ、モララーに聞かれると都合が悪い。
 ついでに自分の部屋に戻り、護身用の剣を持ってきておいた。『念の為』はデルタのモットーだ。

( "ゞ)「いいか? まず呪いっていうのは、悪魔にとって最終手段だ。何でかわかるか?」

川;゚ 々゚)「お腹がすくから?」

( "ゞ)「違う。程度にもよるが、呪いは対象の確実な苦痛と死を与えるが、術者は代償を支払わなければならない。
     つまり、神父に呪詛をかけた者はよっぽどの悪意と殺意を持つ者だ」

\川;゚ 々゚)/「この時点でクルウのキャパは限界突破! ボガーン!」

127 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:06:43.89 ID:FDagK9vzO

 淡々と小難しいことを語るデルタに対して、クルウは頭を抱えた。
 彼女は子供であることを差し引いても頭が良くない。理解するのも一苦労だ。
 それでも大好きな神父様の命に関わること。普段あまり使わない脳細胞を駆使して、クルウはデルタの話を聞いた。

川;゚ 々゚)「つ、つまり! その呪いを解けば神父様は助かるんでげしょ!? どうすれば解けんの!?」

( "ゞ)「……色々あるが、手っ取り早いのは術師自体が呪いを解くか、術師が死ぬかだ」

ヽ川*゚ 々゚)ノ「ぐちゃぐちゃ!? 神父様呪った憎いあんちくしょーをぐちゃぐちゃにすればいいの!?
      あらやだクルウに得しか無いじゃん! 今すぐ探そうすぐ殺ろう!」ルンルン

( "ゞ)「……」

 殺せばいいという趣旨の話を聞き、不安に歪んでいたクルウの表情は明るく輝いた。
 殺すことはクルウの本能だ。モララーと暮らすようになった今でもそれは消えていない。
 そんなクルウとは対照的に、デルタは複雑な表情を浮かべていた。

( "ゞ)「……クルウ、よく聞け。呪いっていうのは1種類じゃないんだ」

川;゚ 々゚)「んもー、また難しいお話ぃ? もーイヤぁ、クルウブレイン耐えられぬ!」

128 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:07:36.04 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「大事な話だからよく聞け。『呪詛』は悪魔が得意とする魔法によって症状が変わるんだ」

川;゚ 々゚)「えー、家庭によっておふくろの味が違うみたいなこと?」

( "ゞ)「ちょっと違う。例えば氷の悪魔なら体温が下がり体が凍結する。木の悪魔なら死ねないまま体が動かなくなる」

川;゚ 々゚)「おにぎりの悪魔なら体がおにぎりになる?」

( "ゞ)「そんな奴はいない。そして、体温が異常に上昇し、やがて発火し燃え上がる。この呪いに当てはまるのは……」





「炎の悪魔だよぉ〜?」バンッ

川;゚ 々゚)そ「にゅっ!?」ビクッ

( "ゞ)「……やっぱりお前か……」

131 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:10:03.50 ID:FDagK9vzO

 デルタの話を遮るように、礼拝堂の扉が乱暴に開かれた。
 そこに立っていたのは、2人にとっては見慣れた姿の、1人の女性。
 今まで何度も共にバカ騒ぎをした、妖艶で残酷な女悪魔。

从メー'从「ウフフぅ〜、デルタにクルウちゃんお久しぶりぃ〜♪ 元気してたぁ〜?」

川;゚ 々゚)「ナベちゃん!!」ハッ

( "ゞ)「……やっぱり来てたか……こっちにとっては好都合だがな……」

从メー'从「ウフフぅ、当然だよぉ、神父の間抜けな死顔拝まなきゃ気が済まないも〜ん♪」ニマッ

 そう軽口を叩きながら、煌めく月を背負ったワタナベは妖しく笑った。
 たなびく金の髪に、全ての男を魅了しそうなスタイル、気の抜けた笑顔。
 基本的な見た目は1ヶ月前と変わっていないが、明らかに違う点もある。
 まず、当然だが肘から下が無い左腕。そしてもう一つ、右目を潰すように付けられた大きな十字傷。

( "ゞ)「……左腕とその右目が呪いの代償か……」

从メー'从「そうだよ〜? 腕は神父に切られたのを代償にすれば良かったから楽っちゃ楽だったね〜」

川;゚ 々゚)「……」

132 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:11:18.98 ID:FDagK9vzO

从∩ー'从「まぁこれはこれで可愛いでしょぉ〜? 女は少し近寄りがたいくらいが丁度いいよね〜」スリッ

 そう言いながらワタナベは、生々しく残る傷をスリスリとさすった。
 以前の彼女は、顔に虫が留まっただけでも大騒ぎするほど自分の顔を愛していた。
 そんな彼女が自ら顔に傷を付けたのだ、彼女のモララーに対する恨みが伺える。

( "ゞ)「なるほど、この1ヶ月は呪詛の準備期間だったわけか。道理で行動が無かったわけだ」

从メー'从「ウフフぅ〜、ただ殺すだけじゃ許せなかったからねぇ、じっくり呪いを煮詰めてたんだ〜♪」

( "ゞ)「だろうな……神父は保ってあと1時間ってとこか……」

从メー'从「そうだね〜、それまで私が解呪するか死ななかったら、神父は灰になっちゃうね〜♪」

川;゚ 々゚)そ「はいっ……!?」ビクッ

从メー'从「そう、灰。生きてた証さえ残らないほどにね、サラサラにしちゃうの……!!」クスクス

 まるで冗談のようにワタナベの口から軽く発せられた冷酷な言葉は、クルウの心を揺さぶった。
 当然と言えば当然だ。大好きな友達が、大好きな神父様を殺そうとしているのだから。

133 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:12:51.58 ID:FDagK9vzO

从メー'从「さてと〜、ていうか2人とも殺されたと思ってたんだけど、何だか愉快なことになってるみたいだね〜?」

川;゚ 々゚)「ぎくっ!!」ギクッ

从メー'从「んー、私の敵討ちのために人間と偽って神父と暮らしたら、情が移っちゃったって感じ?
     自分の腕吹っ飛ばした奴と友達が仲良くしてると、何かイヤだなぁ〜」

川;゚ 々゚)「……にゅ……」

( "ゞ)「よく言うな、お前にとっての友達は『利用価値のある駒』だろう」

从メー'从「あれれ〜、バレたぁ〜? 私とデルタって考え方似てんのかな〜」

( "ゞ)「ハッ、史上最低の汚名をどうもありがとよ。反吐が出る」イラッ

从メー'从「ウフフ、どういたしまして〜、チンカス野郎〜♪」ニコッ

川;゚ 々゚)「……デルタ……ナベちゃん……」ズキッ

 デルタ、ワタナベ。クルウにとって、とっても大好きな2人。
 そんな2人が、自分の目の前でいがみ合っている。敵対している。
 クルウの心の中にどんどんと感情が満ちていく。悲しみだけじゃない、もっと悲しい何か。

134 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:14:49.72 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「さてと、無駄話はこれまでだ。駄目元で聞くぞ、神父の呪いを解いて帰れ」サラッ

川;゚ 々゚)「そ、そーだよ! お願いナベちゃん、さっさと帰ってクソして寝て!?」アセッ

从メー'从「……ウフフぅ……」

 デルタの平坦なトーンの通告に、クルウは慌てて同調した。
 ここでワタナベが退いてくれれば、誰も傷付かない。誰も死なない。
 いくら殺傷が本能のクルウとは言えワタナベは友達だ、殺したくなんか無いに決まってる。
 しかし、それに対するワタナベの返事は予想通りの最悪のものだった。

ヾ从メー'从「ウフフぅ、バカじゃないの〜?
     腕切られて1ヶ月準備して、それでやめるわけないじゃ〜ん♪」ニコニコ

( "ゞ)「……まぁ、そりゃそうだわな……」フゥ

川;゚ 々゚)「……うゃ……」タラッ

 2人の申し出を、ワタナベは右手をはためかせながら却下した。
 交渉決裂。これが何を意味するかくらい、頭の弱いクルウでもすぐにわかった。
 ワタナベが呪いを解く気がない以上、彼女が死ななければ呪いは解けない。

 すなわち、ワタナベかモララー。最低でも片方は死ぬ。


135 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:16:18.22 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「そうか、なら仕方ないな。悪いがその拾った命、ここで散らさせてもらうぞ」ザッ

从メー'从「ウフフぅ、悪魔のくせに人間庇うの〜? そんな面汚しこそ死ぬべきよねぇ〜♪」ジャリッ

川;゚ 々゚)「……あぅあぅ……」アタフタ

 臨戦態勢をとった2人を見て、クルウの焦燥はピークに達した。
 いやだ、そんなのいやだ。クルウは、みんな好きなのに。
 クルウは子供だ、大事なものに優先順位なんてつけられない。欲しいものはみんな欲しい。
 でも、名案なんか浮かばない。でも、どうしても争いをやめてほしい。

从メー'从「ウフフ、どっからでもど〜ぞ〜♪ 2人の首を投げつければ、神父は屈辱だよね〜♪」

( "ゞ)「うるせぇ喋んなくっせぇくっせぇ喋んなくっせぇ。
     クルウ、2人がかりで行くぞ。お前はアイツを祭壇に追い込んで……」

川  々 )「………ゃ………」ボソッ

( "ゞ)「? クルウ……」


137 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:18:27.01 ID:FDagK9vzO



 さて、ここで質問だ。
どうしても通したい願いがある時、無知な子供はどんな手段を取るだろうか。





川#゚ 々゚)「     や     だ     !     !     !     」ドゴーーーーーーン

(;"ゞ)「ぬぁっ!?」ビクッ

从メー'从「……」





 そう、答えは「絶叫」。






138 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:19:25.19 ID:FDagK9vzO

川#゚ 々゚)「何で殺すとかぐちゃぐちゃとか物騒なことしか考えらんないの! みんななまか!」プンスカ

(;"ゞ)「えー……いや、一番物騒なのお前……」

川#゚ 々゚)「シャラップ! とにかくクルウは誰にも死んでほしくないの、仲良しがいいの!」

川#゚ 々゚)「デルタはクルウをお屋敷から出してくれたし、何だかんだで優しいから大好き!」

川#゚ 々゚)「ナベちゃんは性格クソ悪いけど、可愛いお人形とかくれるから大好き!」

川#゚ 々゚)「神父様は話聞かないけど、クルウをとっても大事にしてくれるから大好き!」

川#゚ 々゚)「死んじゃったけどフサ君も、お話面白いから大好きだった!」

川#゚ 々゚)「大好き、みんな大好き! だから……!!」

川 ゚ 々゚)「……だから……」

川 ; 々;)「……だから、誰も死んでほしくないよぉ……!!」ブワッ

( "ゞ)「……クルウ……」

从メー'从「……」

142 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:22:05.17 ID:FDagK9vzO

 ずっとクルウの心を占めていたもの、それは、自己嫌悪。

 もしも自分がパーティを企画しなければ、フサもワタナベも傷つかなかった。
 もしもあの時逃げていれば、神父様がこんなに大切になることはなかった。
 もしもあの夜に神父様を殺していれば、こんなに苦しむことはなかった。

 でも、パーティは行われて、フサは殺されて、ワタナベは傷ついて。
 神父様と暮らして、神父様を殺せなくて、神父様が大切になって。
 その結果、デルタも、ナベちゃんも、神父様も、みんな苦しんでる。

川 ; 々;)「……ぜんぶ、ぜんぶクルウが悪いんだよぉ……だから、ケンカしないでぇ……」

川 ; 々;)「クルウから神父様にナベちゃんのこと許してもらえるようにお願いするから……やめてよぉ……」

川 ; 々;)「クルウ……みんな大好きだもん……!!」グズグズ

川 ; 々;)「うああああああん!! びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」アンアンアンアン

 嗚咽まみれになりながらも自分の思いを告げると、クルウはそのまま号泣した。
 全ては偶然、全責任がクルウにあるわけではない。しかし、クルウはそう考えてはいない。
 幼いクルウの心に芽生えた自己嫌悪の芽は、彼女にはあまりにも重すぎた。

143 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:23:38.78 ID:FDagK9vzO

川 ; 々;)「うゆぅ……デルタぁ……ナベちゃぁん……ごめぇん……!!」メソメソ

( "ゞ)「……」

从メー'从「……」

 昼間に見た時とはまた違うクルウの号泣は、デルタの心から毒気を抜いていった。
 今まで何人も虐殺してきたクルウの、初めての救命の懇願。
 デルタとしては、クルウさえ守れれば何でもいい。愛着がある分、モララーについているだけだ。
 それゆえ、クルウがこれほどまでに頼むなら、デルタも頼むほかない。
 ワタナベは情が通じるゆうなタマではないが、少なからずクルウに愛着はあるはず。
 だからこそ、デルタは一縷の望みをかけて剣を引いた。

( "ゞ)「ワタナベ……最後通告だ。解呪して帰ってくれないか……?」スッ

从メー'从「……そ〜ねぇ……こっちとしても興が削がれちゃったし……」

川 ; 々;)「!! じゃあ……!!」

从メー'从「ええ……」ニコッ

145 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:26:25.69 ID:FDagK9vzO





m9从メー'从「とりあえず真っ先に殺してあげるね〜♪」カァァァァッ

川 ; 々;)

(;"ゞ)「クルウ!!」バッ

m9从メー'从「ふぁいあ♪」ゴォォォォォッ

川  々 ) ゴォォォォォッ

(; ゝ)「――――――――っ!!!」ゴォォォォォッ





 クルウの涙も望みも、全てをくだらないこととあしらうように。
 ワタナベの右手から放たれた焔が、礼拝堂を埋め尽くした―――






147 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:28:03.92 ID:FDagK9vzO

◇◆◇◆◇◆◇

从メー'从「……ウフフぅ……2人とも燃えちゃったかなぁ〜? 礼拝堂もメチャクチャだねぇ〜……♪」メラメラ

 轟々と燃え盛る礼拝堂の祭壇に腰掛け、ワタナベは満足げに笑っていた。
 泣いていたクルウも彼女を庇ったデルタも、今頃焔の海の底だ。
 2人の灰を神父の顔に叩きつければ、きっと神父は悲しみ、最大の屈辱の中で息絶えるだろう。
 その間抜け面、想像しただけで堪らない。顔に傷を作ってもお釣りが来るというものだ。

从メー'从「ウフフ……バカだよ、本当にバカ……!! 何が大好きよ、気持ち悪い……!!」クスクス

 高揚する気分を抑えられぬまま、ワタナベは上機嫌に喋り出した。
 聞き手がいなかろうが関係ない。あの2人が生きてた頃には一応言わないでいたことが山ほどある。

从メー'从「こっちとしては、単にハシャぐのが好きだからわざわざつるんであげただけなのに……」

从メー'从「勝手に懐いてさ……アンタみたいなガキは私の引き立て役だっての……」

从メー 从「ウフフぅ……本当にバカ……本当に、本当に……!!」クスクスクス

152 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:30:08.67 ID:FDagK9vzO

从メ∀'从「バッカみたい! キャハ、キャハハハハハハハハハハっ!!!」ジタバタ

 足を振り回し、腹を抱えて。ワタナベはまるで狂ったように笑い出した。
 どうせ誰も見ちゃいない。そんなことより、あの2人が滑稽で堪らない。

从メ∀'从「命大事ぃ!? 何人もバカ丸出しで殺してきたアンタらが言うことぉ!? マジウケる!!」

从メ∀'从「ていうか前の神父殺したのテメェらじゃん!! そんで今更説得力無さ過ぎ!!」

从メ∀'从「アンタらもフサも、アタシが満足するための武器だってのに友達ヅラとか何それ!!」

从メ∀'从「デルタはどーでもいーや! 気取った面したただのロリコンっしょ、気色悪ぃ!!」

从メ∀'从「まぁありがとう玩具共! 私に出逢えただけ、アンタらは幸せなポンコツだよ!!」

从メ∀'从「お礼に墓でも作ってあげる! 土に埋めてさ、木の枝刺せば立派なお墓っしょ!! アハハハハ!!」

从メ∀;从「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」




153 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:31:23.86 ID:FDagK9vzO





「礼拝堂で騒ぐなよ。神様に失礼だろうが」





从メ∀ 从「ハハハハハハハハハ屑の幻聴だぁハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」ブスッ

从メ∀ 从

从メ∀ 从「………………ハ……?」グラッ





 こうして、ワタナベにとっての『終わり』が始まった。






155 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:33:52.97 ID:FDagK9vzO

从メー 从「……え゛、何コレ……剣、かなぁ、やだぁ鋭ぉい……」ツンツン

从メー 从「そんで、これは血かなぁ……あれれ〜、私の口からも流れてる……」ツンツン

从メд 从「………ハァ………?」

 初めは、彼女はその破滅を理解できなかった。いや、理解できっこない。
 誰もいない礼拝堂で笑っていたら、突如腹から刃が生えたのだから。

::从;メд 从::「………ハァ………!?」プルプル

 まるであの日のように。描いていたシナリオにペンキをかけられるように。
 ワタナベの復讐は静かに破綻していく。信じられない、意味がわからない。
 傷自体は大したことは無い。腹を貫かれたがただの剣だ、銀じゃなければ休めば治る。

 問題はそこじゃない。
そこよりもよっぽど不可解で、大問題だ。
 美の化身より美しい自分の死体をさらに傷物にした。刃の使い手。


157 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:37:15.27 ID:FDagK9vzO

从:メд 从「……ウソぉ……何でよ、アンタら、何で……!!」

 その正体はワタナベはすぐにわかった。そのわかることこそ問題だ。
 ソイツらが居るわけがない。確かに目の前で死んだはず。
 そんなはずはない。溢れる血を抑えて、ワタナベはゆっくりと振り返った。



( "ゞ)「うるせぇよ、子供の眠りを妨げんな。それでも女子か」グリグリ

川 ー 々ー)スースー

从:メд 从「ハァ――――――――っ!!?」ゴボォ

 ワタナベの後ろ、祭壇の陰にいたのは、予想と寸分も違わない2人。
 気を失ったクルウを抱えながら、デルタの剣はワタナベの胸元を抉っていた。


159 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:39:47.20 ID:FDagK9vzO

::从;メд 从::「………ァハッ……ぃやっ、あ゛っ、な、なんで、なんでぇ……っ……!!」ハァハァ

 天国から地獄。悪魔に相応しい表現かはわからないが、ワタナベの心境はまさしくそれだった。
 さっきまであれだけ幸せだったのに、今や血塗れだ。しかも、意味がわからない。

 百歩譲って生きていることはまだいい。運のいい2人だ、また都合良く生き延びることもあるだろう。
 ただ、2人が最後にいることがおかしい。ずっと祭壇に座っていたが、回り込む時間なんてなかった。
 なのに、2人は自分の後ろにいて、自分を刺している。

( "ゞ)「いやぁ、準備ってしとくもんだな。俺すらも存在を忘れてた」ズッ

从;メд 从「あ゛っ、あ゛っ……!?」ブシュッ

 デルタは無表情で剣を引き抜くと、そのまま祭壇を動かした。
 噴き出る血を押さえつつ、ワタナベはデルタの方向を見る。
 そこにあったものは、本来礼拝堂にあるような『もの』ではなかった。

从;メд 从「……しょ、召還陣……!?」

160 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:42:33.22 ID:FDagK9vzO

 そこには、祭壇に隠されるような形で1つの禍々しい図形が描かれていた。
 召還陣。図形を描くことでその場所に物体や魔物を召還出来る代物。
 無論、状況によっては自信をそこから召還する、『瞬間移動』も可能だ。

( "ゞ)「お前が都合良く祭壇に腰掛けてくれて助かったよ。マジでツいてんな俺達」

从;メд 从「ちょっ……いつから……!? そんなもの、なかった……!!」

 美貌も美声も歪ませて、ワタナベはデルタに問い掛けた。
 ワタナベはよく礼拝堂に来ていたが、以前来た時にそんな物はなかったはず。
 デルタが召還術を得意としているのは知っていたが、陣を作る時間は無いと高をくくっていたのだ。

( "ゞ)「いやぁ、1ヶ月前な、神父に礼拝堂掃除させられたんだよ。そん時に隠れて描いた。
     ミサとかの時に召還陣から何か召還して、不意打ち出来ないかなって。
     いやはや、消さなくて良かった。神父が今まで気付かなくて良かった」

从;メд 从「なっ……」

 ワタナベは絶句した。すなわちこれは、デルタの備えが功を成した、ただの幸運。
  自分が1ヶ月もかけて立てた計画が、同じ悪魔のラッキーで潰されようとしている。

164 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:45:05.49 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「さぁて……もう情けはかけねぇぞ、次は首を切って殺す。
     クルウには可哀想だが、お前というクソの存在はクルウの教育に悪いもん。
     クルウが気絶してくれて良かった、屑とは言え死ぬ姿見せたらショック受けるからな」ソッ

川 ー 々ー)スヤスヤ

从;メд 从「……」ハァハァ

 気絶したまま眠りこけるクルウを優しく祭壇に置くと、デルタは改めて剣を構えた。
 傷を負って憔悴したワタナベと、確固たる殺意を持つデルタ。
 どちらが優勢かなど火を見るよりも明らかだ。そして、それは本人が一番わかっている。

从;メд 从「……何でよ……!!」

( "ゞ)「あ?」

从;メд゚从「何でクルウのためにそこまですんのよ……逃げたりすればいいじゃん……!!
      クルウは強いけど、アンタのこだわりは力目当ての域を越えてる……!!」

( "ゞ)「……」

165 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:47:06.13 ID:FDagK9vzO

 まるで命を燃やすような絶望的な声で、ワタナベはデルタに詰め寄った。
 納得がいかない。自分の危機も相手の幸運もだが、何よりデルタの行動が。
 彼はクルウを優先しすぎる。昔そんな約束をしたとパーティで聞いたが、そんなもの破っても遜色ない。
 それこそ今だってクルウを置いて逃げれたし、そもそも神父と逢った時も見捨てられたはずだ。

从;メд 从「訳わかんない……アンタは神父にさほどこだわり無いでしょ……!?
      何でこんなことすんのよ、何でアタシを殺すのよ……!!」ギリギリッ

( "ゞ)「……」チラッ

 理解出来ない相手に殺されたくない。傷口を握り締めながら、ワタナベは言い切った。
 一方デルタは眠るクルウをチラリと一瞥すると、静かに語り出した。
 いつものように、無感情で、無表情で、淡々と。

( "ゞ)「……俺もね、約束した時は破る気満々だったよ。悪魔だもん」

从;メд 从「ハァハァ……そりゃそうよ、律儀に守る必要無いし……」

( "ゞ)「だよな。だけどさ、そんな俺が扱うにはクルウは純粋すぎたんだ」

从;メд 从「ハァあ……!?」

167 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:48:17.32 ID:FDagK9vzO

『川 ゚ 々゚)』

( "ゞ)「ワガママで、狂気じみててさぁ。すぐ殺したがるんだよ、面倒ったらありゃしない」

『川#゚ 々゚)』

( "ゞ)「おまけに気分屋でさ。ぶっちゃけクルウ連れ出したことを後悔したこともあった」

『川 ´ 々`)』

( "ゞ)「……でもさぁ、そんなクソみたいな俺を、大好きって言ってくれるんだぜ」

『川 ; 々;)』

( "ゞ)「俺は武器としか見てなかったのに、クルウは俺を友達として見ていた」

『川;゚ 々゚)』

( "ゞ)「それが鬱陶しくて、こそばゆくて、なんか嬉しくて、居心地良かった」


168 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:49:43.94 ID:FDagK9vzO

从;メд 从「ふざけないでよ……そんな甘い理由なんか……」ギリッ

( "ゞ)「まぁ聞け。俺はお前と変わりやしない。ただの利己主義で残酷な悪魔だ」

( "ゞ)「俺にとっちゃお前も神父もフサも大して変わりやしない」

( "ゞ)「でも、クルウは別だ。アイツは俺にとって特別だ」

( "ゞ)「不思議なもんだろ? ただの道具だった女の子がさ、ただの武器だった女の子がさ」

( "ゞ)「俺のために表情を変え感情を変え、そんで俺のために泣いて」

( "ゞ)「そうしてるうちに、ソイツは」

( "ゞ)「ソイツは―――――」






170 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:50:52.53 ID:FDagK9vzO










       『川*^ 々^)』











172 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:53:33.05 ID:FDagK9vzO





( "ゞ)「ソイツのために生きてもいいと思えるような存在になってたんだよ」





川 ー 々ー)





川 ; 々ー)






177 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:56:35.53 ID:FDagK9vzO

从;メд 从「……ざけんな……」ボソッ

从;メд 从「ざけんなざけんな……何がソイツのためだよ……気分悪い……ざけんな………」

m9从;メД゚从「ざけんなざけんなざけんなざけんなざけんなざけんなざけんなざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」ブァァァァッ

( "ゞ)「っ!!」サッ

 デルタが語り終えると、ワタナベは徐々に、そして激しく発狂した。
 悪魔の風上にも置けないような、甘っちょろく、反吐が出そうな理由。
 そんな理由に自分が瀕死にまで追い込まれているという事実が許せない。
 ヤケクソのように乱射される火炎弾。デルタは、その炎に見覚えがあった。

( "ゞ)「……神父から逃げる時の炎……!!」

W从;メД゚从W「テメェら糞共はそこで永遠に乳繰り合ってろよぉぉぉぉぉっ!!!
      いいか、逃げていいんだよ、卑怯でいいんだよ!
      代わりにテメェら絶対殺すからなぁぁぁぁぁっ!!! ロリコンがァァァァァっ!!!」

( "ゞ)「おいコラ、ロリコンだけ訂正していけ」

180 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 00:58:56.45 ID:FDagK9vzO

 デルタが炎からクルウを守る隙を見て、ワタナベは翼を広げた。
 炎越しに2人を睨み付けるその形相は、悪魔と呼ぶに相応しい。
 そのままデルタに中指を立てると、ワタナベは振り返り、出口に向かい羽ばたいた。

W从;メд 从W(チッ、この傷じゃ戦えない、呪詛も中断しないといけない)

W从;メд 从W(許せない……!! あんな甘い奴らに負けるなんて……アタシが……!!)

W从;メд 从W(傷が癒えたらすぐ殺す……屈辱なんていらない、すぐ殺す、全員殺す……!!)

W从;メ∀ 从W(フフフ……そのためなら目や腕、足の1本や2本……!!)ニヤッ

「ああ……やっぱりお前か……」

W从;メ∀ 从W ピタッ

从;メ∀゚从 チラッ

从;メд゚从

::从;メд゚从:: ブルブルブルブル

185 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:01:28.07 ID:FDagK9vzO

::从;メд゚从::「う、ウソでしょ……有り得ない、アンタ、今頃血も沸騰しそうな高熱に犯されてるはず……!!」ガタガタ

 不意に目の前から飛び込んできた息も絶え絶えな声に、ワタナベは戦慄した。
 いることが予想出来たデルタ達とは違い、コイツはいるわけがない。
 皮肉にもその人物は、ワタナベが現れたときのように月光を背負っていた。

(;・∀・)「ハァハァ……礼拝堂から聞いたことある悪魔の笑い声が聞こえたら、そりゃ来ますよ……」ザン

 錫杖に突き刺さるように全体重を預けながら、モララーは笑った。
 呪いはまだ続いている。しかも今や終盤、全身が爛れるほど熱いはず。
 それでも彼は現れた。全ては自分を救おうとしている、大切な『兄妹』のために。

从;メд゚从「……バカばっかりかよ……!!」チッ

(;・∀・)「無知で結構……自己を正当化し人を呪う小賢しさに比べたら相当の善です……!!」ハァハァ

从;メд゚从「……話になんない……!!」

(;・∀・)「それでいい、私も貴様のような悪とは話をしたくない……」

187 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:06:00.38 ID:FDagK9vzO

(;"ゞ)「ちょ、神父様いんのかよ!? 畜生焔マジウゼェ前が見えねえ!」ブンブン

(;・∀・)ノシ「あ、いた。おーいデルタさーん、内臓が煮えたぎるほど苦しいですが私は元気でーす」ブンブン

(;"ゞ)「元気じゃねぇし! ムチャすんな、アンタのそれはのr……」

(;・∀・)「ノロウイルス!?」

(;"ゞ)「違うわ! ノロウイルスはそんなに禍々しくないわ!」

(;・∀・)「わかってますとも! コイツが全ての元凶なんですね、あの時情けなどかけなければ!」

(;"ゞ)「いや、そうなんだけど聞いて!? ソイツの炎は……」

(;・∀・)「嗚呼クルウさんが力無く寝ている! 悪魔の仕業ですな、許すまじ!」

(;"ゞ)「うっわぁ……元気だ……」

 呪われてるとは思えないほどの機敏さで、モララーはワタナベに立ち向かった。
 本当に神父は馬鹿だ。思い込みが激しい上に人の話を聞かない。
 なのに、モララーを嫌いになれない。性格は合わないはずなのに、何故だろう。

(;・∀・)「哀れな悪魔よ、願わくば清廉な魂に変われることを祈って散れ……!!」シャンッ

从;メд゚从「いやぁぁぁぁぁ納得がいかない納得いかない納得いかない納得いかないぃぃぃぃぃっ!!!」

(;"ゞ)=3「……あぁ……」フゥッ


188 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:09:07.75 ID:FDagK9vzO





(#・∀・)「アーメン!!!」スパァァァッ

从;メ/д 从 「ぢぐじょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァあ」スパン





( "ゞ)「バカさがクルウに似てるから嫌えないのか……」ナデナデ

川*ー 々ー) スヤスヤ






189 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:11:19.78 ID:FDagK9vzO

◇◆◇◆◇◆◇

川 ー 々゚)「みゅ、みゅう……何か冷たい……」パチッ

( ;∀;)「ぼちゃぁぁぁぁぁクルウさぁぁぁぁぁん!! 起きて良かったぁぁぁぁぁ!!」ダラダラドロドロ

川;゚ 々゚)「にゃあぁぁぁぁぁ!! 神父様の色んな液体が!!」ビクビクビクッ

( "ゞ)「おお、起きたかクルウ。どうだい、最悪の朝だろう」

 クルウが目覚めるとそこは自分の寝室で、朝日はとうに昇っていた。
 苦しんでいたはずの神父様は立ち上がり、逆に自分の心配をする始末。
 まだ眠りかけの脳を叩き起こし、クルウは聞かなければならないことを尋ねた。

川;゚ 々゚)「神父様……のろいは……」

\(*・∀・)/「ああ、あの悪魔を天に召したらすっかり元気凛々ですよ! まるで耳から音が出そう!」シャキーン

川;゚ 々゚)「……そっか……」

( "ゞ)「……」

191 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:12:43.62 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「……神父様、悪いが朝食を作ってくれないか? 俺は今朝食を作ると溶ける気がする」

≡≡(;・∀・)「マジっすか!? わっかりました朝からやたらカロリー高いもの作ってきまーす!」ビューン

( "ゞ)「……さて……」パタン

川;゚ 々゚)「……」

 モララーを適当な理由で追い払い、部屋には悪魔2人きりになった。
 このタイミングで2人きりでする話など、悪魔の話しかない。
 しばらく続いた沈黙を途切れさせたのは、クルウの呟きだった。

川;゚ 々゚)「……ナベちゃん、死んじゃったんだ……やっぱり……」ボソッ

( "ゞ)「クルウ……悲しむ気持ちもわかるが、アイツは……」

川;゚ 々゚)「わかってるぅ……友達だと思ってるのは、クルウだけだった……」

( "ゞ)「……」

193 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:14:39.35 ID:FDagK9vzO

 部屋全体に重苦しい沈黙が流れる。3人とも助かった、しかし後味が悪い。
 デルタが慰めの言葉の1つでもかけてやろうとした矢先、クルウが口を開いた。

( "ゞ)「なぁクルウ……ワタナベは……」

川;゚ 々゚)「ねぇデルタ! ナベちゃんとフサ君のお墓作ってもいい……!?」

( "ゞ)「!! 墓か……」

川;゚ 々゚)「えっと、2人が好きだった森に、神父様に内緒でさぁ……ダメ……?」オソルオソル

( "ゞ)「……いや、いいと思う。今度2人で作りにいこう」

川*゚ 々゚)「デルタ……!! ありがとう、お礼にアイアンクローをあげる!」ギリギリ

( "ゞ)「いらんいらんいらん痛い痛い痛い握力すげぇなあああああ」

 クルウの全力のじゃれ方に困った顔をしながらも、デルタはしみじみとクルウの提案を噛み締めた。
 なんだ、自分が心配しなくてもクルウはちゃんと乗り越えられる。
 こんなことを考えるってことは、とうに自分達は兄妹だったんだな。

195 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:21:37.49 ID:FDagK9vzO

( "ゞ)「なぁクルウ、墓を作るのもいいが、その前に墓参りに行かないか?」

川 ゚ 々゚)「お墓参り? 誰のさ、クルウ墓荒らししかしたことないゅ?」

( "ゞ)「……前の神父の」

川 ゚ 々゚)「!! ……うん」

 別に罪悪感が湧いたわけではない。罪滅ぼしなわけでもない。
 これはけじめだ。赦されるなんて思っちゃいないし、そんな気もない。
 ただ、消えない罪ならせめて背負おう。その覚悟をしようじゃないか。
 はしゃぐクルウをあやしながら、デルタはそう決意した。

川;゚ 々゚)ゝ「あう、ていうか礼拝堂燃えちゃったぁ……アチャー……」

( "ゞ)「直せばいいさ。全焼じゃないし、それに……」


196 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:22:27.51 ID:FDagK9vzO



( "ゞ)「……1ヶ月でも2ヶ月でも、時間はたくさんあるんだから」

川*゚ 々゚)「……うん!」バッ

 デルタの返事を聞いたクルウは、満面の笑みでベッドからデルタへと飛び込んだ。
 自分達は悪魔。利己的で狡賢く、自分達が楽しければそれでいい悪魔。
 だからこそ、今の楽しい時間を手放したくはない。ならそれでいいじゃないか。

 神父は優しい、下手すれば悪魔である自分達も受け入れるかもしれない。
 でも、それが怖いから騙し続けている。自分達は誰よりも狡猾で、幸せな悪魔だ。
 いつか罰が当たっても、それは散々貰った幸運のツケってもんだ。

( "ゞ)「……まぁ、何が何でもクルウだけは守るけどな……」ボソッ

川 ゚ 々゚)「? デルタ今なんて言ったの、下ネタ?」

( "ゞ)「どこかの誰かが前触れなく外国人と入れ替わる呪文を唱えた」

川;゚ 々゚)「マジで!? おっかなびっくり!」

198 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:24:01.09 ID:FDagK9vzO

「2人ともー、朝ご飯が出来ましたよー」

\川*゚ 々゚)/「ややっ!! 神父様だ! 病み上がりに朝ご飯作らせるってどうなんだ!」シュタ

( "ゞ)「いやわからんぞ、入れ替わった外国人かもしれない」

川;゚ 々゚)「マジかよー! 誰だ貴様!!」ダダダ

 いつものように軽口を叩き合いながら、幸せな悪魔達は食卓へと歩き出した。
 彼らの正解は違うところにあるのかもしれない。いつか破綻しそうな、危なっかしい幸せ。

 悪魔としての幸せか、それともまた違う何かしらの幸せか。
 ともかく、少しヒヤヒヤする程度の幸せが、危険な2人にはお似合いなのかもしれない。

川;゚ 々゚)「にゅー、見た目は神父様にクリソツだけれども……フーアーユー!」

( ・∀・)「西の国から来たマッコイデース」

( "ゞ)「柔軟性ハンパないなアンタ」

 まぁ、そんなことは3人にはあまり関係ないのかもしれない。


199 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:25:46.82 ID:FDagK9vzO





 だって、ほら。



(*・∀・)

川*^ 々^)

( *"ゞ)



 3人は、とっても幸せそうな笑顔を浮かべていて。






200 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:27:32.85 ID:FDagK9vzO










 ―――まるで天使のようじゃないか―――











203 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:29:24.64 ID:FDagK9vzO

◇◆◇◆◇◆◇

( ´ー`)「へぇ……アンタ旅人かヨ」カチャカチャ

('A`)「はい……ですので、宿屋の場所などを教えて頂けませんか?」

( ´ー`)「ああ、宿屋ならこの店を出て左行けばすぐだヨ。看板あるからすぐにわかる」

('A`)「なるほど……ありがとうございます。美味しかったです、それでは」ガタッ

( ´ー`)⊃))「あー、ちょいちょい。ちょっと待ちぃヨ」チョイチョイ

(;'A`)「はい……? 何ですか、お、お代足りませんでした! ヒィィィィィ!!」アワアワ

( ´ー`)「違う違う。この町に来たならな、丘の教会に行ってみろヨ」

('A`)「教会……? 元々立ち寄るつもりでしたが、わざわざ言うほどでは……」

( ´ー`)「いいから。この町の教会は、ちょっと他の教会とは違うんだヨ」

('A`)「違う……?」

( ´ー`)「ああ。神父様の他に、2人の兄妹が住んでてな……」




204 名前: ◆jX3VK9T18. 投稿日:2011/12/30(金) 01:30:32.75 ID:FDagK9vzO







 ――町の外れの教会には、是非とも行って損はない。
 あそこはもはや神様の家ってだけじゃない。今や『天使の憩いの場』さ。







川*゚ 々゚)( *"ゞ)悪魔の居る教会のようです(・∀・*)

         おしまい







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