- 1 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:10:40
- 〜〜〜〜〜〜
・原作有
・静
〜〜〜〜〜〜
- 2 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:12:22
-
午前四時。
刑事という仕事柄、この時間に起きることすら、もはや義務になっているのかもしれない。
顔を洗い、食事をとり、背広を着る。
そのまま玄関に向かおうとしたが、男は何となく、妻のいる寝室を覗いてみた。
川 - )
('A`)「……」
行ってきます、と心の中で呟く。
静かな妻の姿を見つめ、男は寝室を閉めた。
- 3 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:12:53
-
外はまだ暗い。
敷地を出て、我が家へと振り向く。
数十年前に建てたマイホーム。
一階建ての造りに、妻の夢だった家庭菜園のできる庭。
幸せだった。
自分という人間や人生如きでは、引き合いを感じないほどに。
前方へ視線を戻し、ゆっくりと歩き続ける。
東の空が明るくなってきた頃、男は目的地に着いた。
自身の職場である、柔即警察署へと。
- 4 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:13:54
-
( ^Д^)「おはようございます…あれ?宇津さん、まだ有休のはずでは?」
('A`)「自首だ」
( ^Д^)「は?」
長年の仕事仲間は、男の言葉に目を丸めた。
それに構うことなく、男は続ける。
('A`)「俺を逮捕してくれ。家に行けばわかる」
('A`)「俺は──」
- 5 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:14:35
-
──妻を、殺した。
.
- 6 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:15:42
-
('A`)その殺人はどこまでも生きるようです
原作:映画・小説「半落ち」
- 7 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:17:13
-
──
柔即警察署、捜査一課。
全体的に慌てているオフィス内で、二人の男が話を進めていた。
( ´∀`)「…ってことだモナ」
( ^ω^)「信じ難い話ですお…それで、僕が呼ばれた理由は?」
( ´∀`)「君に宇津刑事の取り調べを担当してもらいたいんだモナ。同僚だからやりやすいはずだモナ」
同僚だからやりづらいのですが、という台詞を飲み込み、内藤は頷いた。
宇津のことはよくわかる。何度か酒を酌み交わした仲だ。
物静かで温厚。とても警察官とは思えない人間だった。
妻は病気を患っており、七年前に娘を病で亡くしている。
宇津を知る内藤だからこそ、内藤にとっても非常に気になる事件ではある。
この署のベテラン刑事が、妻を殺した。
マスコミも既に騒ぎ出す用意をしている。
友人とはいえ、いや、友人だからこそ。
慎重な取り調べをする必要がある。
- 8 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:18:36
-
上司の茂茄と共にオフィスを出て、取り調べ室へと向かう。
どうやら正午に記者会見を控えていて、急いで供述を取らなければならないらしい。
早足で進みながら、茂茄が事件の概要を語り始めた。
( ´∀`)「宇津刑事の妻は寝室で発見。遺体には素手で絞殺された跡があったモナ」
( ´∀`)「今のところ、犯行日時、殺害状況、宇津刑事の供述はすべて検視の報告と合致しているモナ」
( ^ω^)「…じゃあ事件は既に"完落ち"では?僕が取り調べる必要はないですお」
( ´∀`)「いや、実はまだ完落ちではないモナ」
- 9 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:19:10
-
え?と聞き返す。
茂茄は困ったような顔をしながら、話を続けた。
( ´∀`)「実は、犯行が行われたのは三日前の夜なんだモナ」
( ^ω^)「三日前?」
( ´∀`)「三日前に犯行に及び、今朝自首してくるまで、二日間の空白があるんだモナ」
( ^ω^)「二日間の空白…」
犯行から自首までに期間を置くことは、ケースとしては珍しくない。
しかし、内藤は「空白の二日間」に妙な違和感を覚えた。
( ^ω^)「宇津は物事を先延ばしにするような男じゃないですお。二日間も空けるなんて…」
( ´∀`)「それを本人から聞き出してほしいモナ」
- 10 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:20:58
-
取り調べ室の前に着く。
茂茄が隣の控え室に入り、内藤は取り調べ室の扉を開けた。
取り調べ室の中は、いつもより暗いものに感じた。
扉の近くでメモの用意をする二人の男と、部屋の中央に座る宇津の姿が、そこにある。
宇津と対面するように座りながら、内藤が口を開いた。
( ^ω^)「取り調べ担当の内藤ですお」
('A`)「……」
友人に使う、業務上の敬語。
本来は容疑者に使うこの言葉が、その場の空気を重く沈ませた。
( ^ω^)「十一月六日午前十一時十分。取り調べを開始します」
( ^ω^)「あなたの名前と年齢を教えてください」
('A`)「宇津ドクオ。49歳です」
- 11 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:21:51
-
それに応えるように、宇津も敬語で返す。
( ^ω^)「被害者の宇津クーさんは、病気を患っていましたね?」
('A`)「……はい」
突如、宇津の顔が一瞬だけ変化を見せた。
何かを悲しむような表情が少しだけ現れたのを、内藤は見逃さなかった。
( ^ω^)「何の病気ですか?」
('A`)「……アルツハイマー病、です」
内藤の後ろで、必死にメモを取る音が聞こえた。
構うことなく取り調べを続ける。
( ^ω^)「それでは、犯行時の様子を詳しく教えてください」
- 12 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:23:18
-
視線を下に向け、表情を固めたまま。
宇津は、静かに語り始めた。
('A`)「その日は、娘の墓参りに妻と出かけました。ところが、夜になると妻が暴れだしました」
('A`)「墓参りにいくのを忘れた、私は娘のことすら忘れてしまいそうなのか、と…何度行ったと言っても妻は聞きませんでした。…アルツハイマーの症状です」
('A`)「……"殺して"、"娘を覚えているうちに殺して"と泣き喚く妻が懇願するので…」
('A`)「……私は、妻の首を絞めました」
後ろの二人がメモをとり続ける。
その用紙に「嘱託殺人」と書かれた直後、一方の男が勢いよく取り調べ室を出て行った。
恐らく、記者会見の連中に手渡すのだろう。
( ^ω^)「本人に頼まれて殺した、嘱託殺人ですね」
('A`)「…その通り、です」
- 13 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:24:14
-
( ^ω^)「それと、あなたが犯行に及んでから今まで、二日間の空白があるのですが」
('A`)「……」
( ^ω^)「この二日間、あなたは何をされていたのですか?」
宇津の表情が、またも一瞬だけ変わった。
今度は何かを言いたそうな、もどかしい表情。
喋るつもりだ、と気を引き締める。
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
('A`)「……」
( ^ω^)「……」
- 14 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:24:58
-
しかし、いつまで経っても何も語ろうとしない。
内藤の後ろでメモをとる男が、苛立ちからか溜め息をついた。
( ^ω^)「……それは、黙秘権の行使、と捉えてもいいのですか」
('A`)「……」
重く黙り込む宇津。
暫くの後、宇津は小さく「はい」と呟いた。
後ろの男が、舌打ちをしながら取り調べ室を出て行った。
( ^ω^)「急いでいるので、今のところはこれで切り上げますお」
('A`)「……申し訳ございません」
二人の警察官が宇津を抱える。
そのまま、宇津は取り調べ室から移動させられていった。
──
- 15 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:26:29
-
──
正午を迎える頃。
記者会見の会場に、先ほど取り調べ室でメモをとっていた男が現れた。
会見する警察側の席に座る茂茄がメモを受け取ると、茂茄は眉間を狭めた。
( ´∀`)「…空白の二日間は何も語らなかったモナか?」
黙秘権を行使された旨を伝え、そそくさと出て行く男。
その姿を見ながら、参ったなと小さく漏らす。
( ´∀`)「マスコミ側は空白の二日間の話を掴んでるモナ…」
- 16 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:27:00
-
どうにか茶を濁すしかない、と決める茂茄。
その直後、時計が正午を指した。
それでは会見を始めたいと思います、と隣の荒巻署長が切り出す。
事件の大まかな概要を語った後、その詳細を茂茄が話を始めた。
( ´∀`)「えー、十一月三日午後九時頃、アルツハイマー病を患っていた妻、クーが暴れ出しました」
( ´∀`)「もう殺して、と懇願する妻を不憫に思い、宇津容疑者は両手で妻の首を絞め、殺害に至りました」
( ´∀`)「その後、宇津容疑者は職場である柔即警察署に自首しました」
( ´∀`)「…事件の詳細は以上です」
/ ,' 3「市民の皆様に多大な迷惑と不安を与えてしまったことを、深くお詫び申し上げます」
- 17 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:28:08
-
荒巻署長が謝罪の言葉を並べると、茂茄と共に頭を下げた。
途端、数多ものフラッシュが二人を襲った。
二人が席に座り、記者の質問の時間になる。
ほぼ全員が手を挙げ、まだ若い女性が質問の権利を得た。
(*゚ー゚)「二茶新聞の椎名です。犯行が行われたのは三日前との事ですが」
(;´∀`)「!」
(*゚ー゚)「それから今朝自首してくるまでの二日間、宇津容疑者はどこで何をしていたのですか?」
やはりというべきか。恐れていた質問が降りかかってきた。
冷や汗をかきながら、茂茄が応える。
- 18 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:28:41
-
(;´∀`)「えー、それに関してはまだ供述が取れていませんので、また次の会見で…」
しまった。完全な逃げ口上になってしまった。
そう思った途端、記者達から怒号が上がった。
(`∞´/)「何ふざけてるんですか!」
("`Д´)「警察は何をやってるんですか!」
(;´∀`)「いえ、容疑者が黙秘を…」
あくまで、これは世間を揺らがしてしまう、警察による殺人事件なのだ。
情報収集に必死になるマスコミと、どうにか地位を保たなければならない警察。
暫くの間、記者会見は荒れに荒れた。
──
- 19 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:30:32
-
──
その日の夕方。
後輩の指差が、内藤と茂茄の元にやってきた。
( ^Д^)「茂茄さん、内藤さん、ちょっといいですか」
( ´∀`)「どうしたモナ?」
( ^Д^)「宇津さんのジャケットから、こんなものが」
小さな袋を茂茄に手渡す。
そこには、街で配られているポケットティッシュが入っていた。
( ^ω^)「…歌舞伎町のものかお?」
( ^Д^)「ええ。空白の二日間で、歌舞伎町に出かけたようです」
- 20 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:31:02
-
( ´∀`)「歌舞伎町ね…」
茂茄の顔が曇る。
その表情が何を示しているか、内藤はすぐに理解できた。
同時に、嫌な予感が内藤を襲った。
( ´∀`)「妻の遺体を置いて、歌舞伎町…」
( ^Д^)「宇津さんには女がいたってことですかね?」
( ^ω^)「それはないと思うお。…じゃあ何故歌舞伎町なのかは全くわからないけど」
( ´∀`)「いずれにしても、妻を殺して歌舞伎町に繰り出したなんて知られたら、警察の威厳に響くモナ」
内藤と指差が一斉に茂茄を見る。
嫌な予感が、的中してしまった。
- 21 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:32:04
-
( ´∀`)「宇津は死に場所を探していた可能性が高いモナ。ストーリーとしても無難だモナ」
( ´∀`)「内藤。"死に場所を探していた"可能性を踏まえて、宇津を取り調べてほしいモナ。これでマスコミへの対応は…」
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待ってくださいお!それじゃ誘導尋問になってしまいますお!」
( ´∀`)「内藤!!」
茂茄が怒声をあげる。
捜査一課のオフィスが、一気に静まり返った。
( ´∀`)「これは全警察に関わる問題だモナ。警察関係の全職員と、その家族に影響するんだモナ」
(;^ω^)「……」
- 22 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:33:32
-
( ´∀`)「仕方のないことなんだモナ。お前の正義と、万人の生活。どちらを守るべきかよく考えてみるモナ」
(;^ω^)「……」
唇を噛み締め、拳を震わせる。
確かに茂茄の言う通りだ。
全警察と、その家族の生活を、どうして脅かさねばならない。
それでも、真実は追求したい。
宇津の同僚として、友人として。
( ^ω^)「…わかりましたお」
( ´∀`)「しっかりやるんだモナ」
(;^Д^)「……」
だが、どうすればいいのかわからない。
オフィスから去っていく茂茄の背中を、二人はただ見続けるしかなかった。
──
- 23 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:34:13
-
──
( ^ω^)「あなたの事件で、今、県警は揺れてますお」
('A`)「…申し訳ございません」
( ^ω^)「責めるつもりはありませんが、夜の会見までにはきちんとした供述を取りたいんですお」
( ^ω^)「どうか、話してくれませんか。空白の2日間のことを」
('A`)「………」
この日二回目の取り調べ。
内藤はこれほど担当を断りたい取り調べは初めてだった。
「死に場所を探していた」という供述をとれ。そう上から言われてしまっては、正義もクソもない。
宇津がまた何も喋らない気なら、内藤はやむを得ず「誘導」するつもりでいた。
だから、どうしてもその前に宇津に真実を語って欲しかった。
- 24 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:35:16
-
しかし。
('A`)「………」
( ^ω^)「……」
('A`)「………」
喋らない。
何かを押し殺しているかのように、静かな佇まいで固まっている。
とうとう、内藤は意を決した。
( ^ω^)「…あなたは事件の後、自らも死のうと考えた」
後ろでメモをとる男が、驚いて顔を上げた。
平静を装っていても、内藤が葛藤に震えているのは明らかだった。
( ^ω^)「2日間、死に場所を探しまわった。しかし、死の決断ができず、自首に乗り切った」
( ^ω^)「…違いますか?宇津さん」
- 25 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:35:48
-
('A`)「はい、その通りです」
宇津の反応は至ってスムーズだった。
まるで、最初からこの誘導になるのを望んでいたかのように。
「死に場所を探していた」なんて馬鹿げたストーリーを、警察が決めつけてくれるのを望んでいたかのように。
後ろでメモをとる男が、取り調べ室を出て行った。
(; ω )「……」
('A`)「あの…?」
唇を噛み締め、俯く内藤。
葛藤というより、怒りが全身に走っていた。
(; ω )「どうして…」
- 26 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:37:20
-
(#^ω^)「どうして隠すんだお!!自分のためか、殺した女房のためか!それとも…」
それとも、死んだ娘さんのためか。
その台詞が漏れる前に、内藤は口を噤むことができた。
目の前には、驚いている様子の友人がいた。
('A`)「内藤…?」
(#^ω^)「…いずれにしても、真実を隠している限り誰も救えないお」
宇津が目を伏せる。
途端、何名もの一課の職員が入り込んできた。
宇津の体を立たせ、外へと誘導する。
これから検察へ一時的に身柄を送るらしい。
内藤とすれ違う瞬間、宇津が口を開いた。
('A`)「……救えるさ」
- 27 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:38:10
-
(;^ω^)「え?」
驚いて目を合わせる。
宇津の瞳は、内藤を固まらせるほどに、ひどく澄んでいた。
('A`)「お前には、守りたい人がいるか?」
どういう意味だ。
そう返す前に、宇津の身は取り調べ室から消えてしまった。
室内には、立ち尽くす内藤だけが残った。
自分にはいる。愛する妻が、娘がいる。
守りたい命が、そこにある。
だが、宇津の表情からは別のものが読み取れた。
- 28 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:38:42
-
「お前にとって、自分より大切なものは何だ」と。
そう投げかけていたように思えてならなかった。
──
- 30 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:41:09
-
──
川 ゚ー゚)♪〜♪〜
庭に植えたトマトの葉に、鼻歌を歌いながら水をかける。
暖かい日差しが気持ち良く、全身に染み込んでいくような日。
気分良く水をかけていると、突然、ホースの水が止まった。
川 ゚ -゚)「ん?」
不思議に思ってホースを覗く。
途端、大量の水がクーの顔を襲った。
川;゚ -゚)「うお!?な、なん、」
原因はすぐにわかった。
誰かがホースを踏んづけて水を止め、タイミング良くホースを離した──人為的なイタズラだ。
- 31 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:41:41
-
そして、この家でそんなイタズラをするのは一人しかいない。
ノハ*゚听)「ざっまあああああwwwwwwwww」
川;゚ -゚)「こ、こらヒート!気持ち良く家庭菜園を楽しんでいるところを!!」
ノハ*゚听)「お母さんwwwwwwビショ濡れですよwwww」
一人娘のヒート。
この物静かな夫婦の間で生まれた子とは思えないほど、活発で元気な女の子に育っていた。
川 ゚ー゚)「よーし、私にケンカを売るつもりだな?」
ノハ;゚听)「え、ちょ、うわああああ!!」
ホースの水をヒートに向け、全身に浴びせる。
庭中を駆け回るヒートと、笑いながら追いかけるクー。
そこに、夜通しの勤務を終えた宇津ドクオが帰ってきた。
- 32 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:42:26
-
(;'A`)「お前ら朝から何やって…うおおお!?」
クーの放った大量の水が、宇津の全身を襲った。
何事だ、と二人を見る。
そこには、笑い転げる妻と娘の姿があった。
ノハ*゚听)「お父さんクリーンヒットwwwwwwww」
川 ゚ー゚)「背広ドンマイwwwww」
(;'A`)「貴様ら!!」
鞄を投げ捨て、背広を脱ぎ捨て、庭に飛び込む。
しかし、その前に二人は庭の奥へと逃げていった。
ノハ*゚听)「ねえお母さん…あの人キモいんだけど…」
川 ゚ -゚)「そうだな…くれぐれもあんな男には近づくな」
(゚A゚)「うるせえ!!」
- 33 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:42:58
-
近所でも評判の、仲の良い家族。
幸せだった。
本当に、幸せだった。
愛する娘が、病魔に冒されたことを知るまでは。
──
- 34 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:44:27
-
──
('A`)「……」
護送車に揺られながら、宇津は家族のことを思い出していた。
だが、もういない。
七年前に、まだ十三歳だった娘を亡くし。
三日前、アルツハイマーに冒された妻を殺した。
それでも。
まだ守りたい命が、守りたい人がいる。
検察に到着する頃、待ち構えていた記者達から何百ものフラッシュを浴びた。
殺人者である自分を、宇津はそこで再認識してしまった。
──
- 35 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:44:59
-
──
(*゚ー゚)「……」
二茶新聞に勤める女性記者、椎名しぃは、この宇津事件に疑問を抱いていた。
宇津は妻を殺した後、2日間死に場所を探し、自首に踏み切ったとしている。
だが、この警察の発表には妙に引っかかる点がある。
まず、どうして2日間も時間を要したのか。
死に場所を探すだけなのに、それだけ考える必要が果たしてあったのだろうか。
次に、「死に場所を探していた」という供述を、何故最初の会見で発表できなかったのか。
この供述を取るだけなのに、警察は何を手こずったというのか。
この疑問点が揃うと、流石に疑ってしまうことがある。
もしかして、警察は宇津の供述を──
- 36 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:46:53
-
♪〜♪〜
(*;゚ー゚)「!」
突如、椎名の仕事用の携帯電話が鳴った。
少し驚いてしまったが、幸いオフィス内には椎名一人しかいないので、恥をかかずに済んだ。
着信中の画面を見ると、「柔即警察 内藤刑事」と表示されていた。
内藤から、というより警察から一記者にかかってくる電話も珍しい。
(*゚ー゚)「はい、椎名です」
( ^ω^)『久しぶりだお椎名さん』
(*゚ー゚)「内藤さん、お久しぶりです」
十以上も年上の刑事に、臆することなく話を続ける椎名。
若い女性にしては強気で凛としている。そんな印象を内藤は持っていた。
( ^ω^)「宇津事件のことだお」
(*゚ー゚)「情報提供、ですか?」
- 37 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:47:24
-
二茶新聞を贔屓するわけじゃないんだお、と内藤が念を押す。
( ^ω^)『洞察力のある君なら気付いてると思うんだお。空白の2日間、宇津は──』
(*゚ー゚)「死に場所を探していたわけではない、ってことですか」
椎名は薄々、そう感じていた。
そう感じていながらも、それを記事にしようとは思わなかった。
まだ仮定の段階なのだ。警察の発表に疑いを持っているだけだ。
確証のない話を書いたところで、編集部に鼻で笑われるのは目に見えている。
だが、これから内藤と話す内容は、椎名の正義感を熱くさせていった。
- 38 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:49:05
-
( ^ω^)『宇津は死に場所を探していたわけではないお。だからと言って、何をしていたかは不明だけど…』
( ^ω^)『わかっていることは二つ、自宅の柱で見つかったロープの跡から、宇津は本当に死ぬ気でいたこと。これは恐らく妻を殺した直後だお』
( ^ω^)『もう一つ、宇津は空白の2日間、或いは両方で、新宿歌舞伎町に出かけているお』
(*゚ー゚)「ちょっと待ってください」
頭を落ち着かせ、今の話を整理する。
おかしい。今の話には矛盾がある。
(*゚ー゚)「自殺を計ったのは明らかなのに、どうして死に場所を探していたわけではないと断言できるのですか」
宇津が死ぬ気だったと証明できる跡が見つかった。
ならば、宇津が空白の2日間で「死に場所を探していた」という話は、かなり現実味を帯びてくるはずだ。
- 39 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:49:38
-
( ^ω^)『本当に死ぬ気なら、未遂に終わらせずその場で死ぬこともできたんだお』
(*゚ー゚)「!」
( ^ω^)『でも、宇津は命を捨てることをやめた。多分、途中で何かに気付いたか、何かを思い出したんだお』
そうか。
確かに最初で自殺を思いとどまった時点で、死ぬ気が失せたととも捉えられる。
( ^ω^)『それで、宇津は2日間彷徨ったんだお。歌舞伎町も含めて、もしくは歌舞伎町のみを』
(*゚ー゚)「そう考える根拠は?」
その考えはわかる。だが、「死に場所を探していたわけではない」と断言できる材料は足りない。
内藤が何を根拠にそう考えるのか。そこまでが知りたかった。
- 40 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:50:50
-
( ^ω^)『実際に宇津に会ってみればわかるお』
(*゚ー゚)「?」
内藤は思い出していた。
まるで人を殺したとは思えないほど、静かで、澄んだ瞳。
そして。
( ^ω^)『椎名さん…君には、守りたい人がいるかお?』
宇津の言葉が、そのまま零れ落ちた。
(*゚ー゚)「…どういう、意味ですか」
わからない。
内藤の言葉の意味が。
内藤の伝えたいことが。
- 41 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:51:20
-
(;^ω^)『いや、なんでもないお。とにかく捜査に協力してほしいんだお』
(*゚ー゚)「…わかりました。後日また連絡します」
電話を切る。
何故か、内藤の台詞が頭から離れない。
──あなたには、守りたい人がいますか。
宇津容疑者は、何かを守っている?
ふと、椎名の脳裏に、婚約者のギコの顔が頭に浮かんだ。
──
- 42 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:52:32
-
──
宇津刑事の親族関係で、今すぐ接触できる人物。
その枠でピックアップできたのは、僅か一人だった。
( ^ω^)「ごめんください」
('、`*川「はい…?」
小さな木造の家から出てきたのは、五十を越えたあたりの歳に見える、やせ細った女性だった。
( ^ω^)「伊藤ペニサスさんでしょうか」
('、`*川「そうですが…」
( ^ω^)「私、柔即警察署の内藤と申しますお」
伊藤ペニサス。宇津事件の被害者、宇津クーの実姉である。
客が警察の人間だと知っても、顔色一つ変えない。
肝の据わった人間だと内藤は感じた。
- 43 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:53:08
-
( ^ω^)「妹さんの件で、お話が聞きたいのですが」
('、`*川「……」
妹という言葉にピクリと反応するペニサス。
その表情に、内藤は大きな違和感を感じた。
('、`*川「お入りください」
( ^ω^)「…お邪魔しますお」
この表情は何だ。
妹を失った悲しみではない。妹を殺された怒りでもない。
自責のような、後悔のような。
事件直後の遺族にはあまり見られないこの反応が、ある種の「疑い」を想像させた。
('、`*川「……」
- 44 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:54:46
-
家の中に入り、ペニサスの誘導通りに歩いていく。
気を抜かずに家中に目を向けていると、空きっぱなしの和室に、気になるものが見えた。
( ^ω^)「あの、伊藤さん」
('、`*川「はい?」
( ^ω^)「あのノートは何ですかお?」
和室のちゃぶ台に置かれている、一冊の白いノート。
家計簿では無さそうだった。
('、`*川「…あれは日記です。気にしないでください」
( ^ω^)「伊藤さんの日記ですかお。もしよろしければ拝見したいのですが…」
('、`*川「それはちょっと…人に見せられるような内容ではございませんので」
- 45 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:55:22
-
そうですか、と笑って流す。
事件に関わる内容があればと思っていたが、拒否されてしまえばどうしようもない。
後で椎名に探ってもらおう、と頭の中のリストに書き込んだ。
('、`*川「こちらでお待ちください。今お茶を入れます」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
畳の敷かれた客間に座り、辺りを見渡す。
すると、内藤のすぐ左手に十ほどの写真立てを見つけた。
どこかに旅行に行った時の写真だろうか。
ペニサスだけでなく、宇津とその妻クーの写真、娘のヒートが写っているものも数枚ある。
('、`*川「旅行に行ったんです。十年程前に」
( ^ω^)「!」
- 46 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:56:51
-
驚いて顔を上げる。
ちょうど、ペニサスが茶を並べるところだった。
懐かしむような笑みを浮かべ、ペニサスが続ける。
('、`*川「本当はクー達の家族旅行だったのですが、せっかくだからと私も誘っていただいて」
( ^ω^)「…いい家族ですお」
('、`*川「ええ、本当に」
どうぞ、と茶をすすめる。
飲みやすい温度の茶を喉に流し、内藤も宇津一家の話を始めた。
( ^ω^)「僕は宇津刑事の同僚でして。奥さんもヒートちゃんも、一応は面識があるんですお」
('、`*川「まあ、そうでしたか」
- 47 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:57:21
-
嬉しそうに笑顔を浮かべるペニサス。
妹家族の話をすると喜ぶ。その感情に嘘偽りは無さそうだった。
( ^ω^)「妹さんと宇津刑事の仲はどうでしたか?」
('、`*川「いつも良好でした。ヒートちゃんを亡くしてからも、お互い支え合っていて…」
( ^ω^)「良好…妹さんのアルツハイマーの病状はどうでしたか?」
('、`*川「今年に入ってから特に悪化し始めて…とにかく、物忘れが尋常ではありませんでした。時計が読めなかったり」
( ^ω^)「なるほど…」
娘のヒートを亡くしてから、母親のクーは少しずつ壊れ始め、今年に入ってそれは酷くなった。
その結果が、嘱託殺人ということか。
- 48 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:58:40
-
( ^ω^)「ついでにお聞きしたいのですが」
('、`*川「はい…」
( ^ω^)「ヒートちゃんの死因は何ですかお?」
ペニサスの瞳が揺れた。
言うか言わないか。少し迷ったあと、ペニサスは小さく呟いた。
('、`*川「…急性骨髄性白血病、です」
( ^ω^)「…なるほど」
急性骨髄性白血病。年齢に関係なく、誰もがかかる恐れのある病気だ。
骨髄移植──ドナーさえ見つかれば、治る見込みはある。
しかし、またしても疑問が浮かぶ。
何故ペニサスはそれを言うのを渋ったのか、ということに。
- 49 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 00:59:13
-
ここに来て浮かんだ、数々の疑問。
最初に見せた後悔の表情や謎の日記、ヒートの白血病について、そろそろ攻めてみるべきか。
内藤が思案をめぐらしていると、ペニサスが泣きそうな顔で身を乗り出してきた。
('、`;川「内藤さん…!」
(;^ω^)「は、はい」
かなり驚いたが、冷静を装って返す内藤。
その腕を掴みながら、ペニサスは顔を下に向けた。
その体は、小さく震えている。
( 、 ;川「内藤さん…宇津さんと親交のあるあなただから言います」
( ^ω^)「……」
( 、 ;川「…………宇津さんを、助けてください」
( 、 ;川「宇津さんは、死ぬつもりです」
- 50 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:00:52
-
──何だって?
言葉が出て来ない。
自らを襲ったのは、驚きというより、一種の恐怖のような感情だった。
暫くも経たないうちに、ペニサスは急に顔を上げて手を離した。
その表情からは、明らかに焦りが見えた。
('、`;川「……ごめんなさい、今のは聞かなかったことにしてください」
(;^ω^)「いえ、そんなわけには…」
('、`;川「今日はお引き取りください…お願いします」
(;^ω^)「……」
宇津は死ぬつもり?
何故だ。
本当に死ぬつもりなら、何故空白の2日間で死ななかった。
そして、それはいつ起こるんだ。
ペニサスの家を出て、内藤はすぐ指差に電話をかけた。
──
- 51 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:01:24
-
──
内藤と組むようになって十年は経つ。
しかし、電話の向こうでの内藤の焦り様は、今まで見たこともなかった。
(;^ω^)『指差!ヒートちゃんが入院していた病院とクーさんの通っていた病院を今すぐ調べるお!』
(;^Д^)「は、はい!」
ただ事ではない。
いつになく激しい内藤の口調が、指差の動きを速めた。
一課で用意していた被害者の資料に目を通す。
二人の経歴はすぐに見つかった。
- 52 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:02:59
-
宇津ヒート。
急性骨髄性白血病により十三歳で亡くなっている。
宇津クー。旧姓は伊藤。
アルツハイマーだと診断されたのは五年前。娘を失って二年後だ。
そして、世話になった病院は二人とも一致している。
(;^Д^)「内藤さん、二人とも病院は市内の中央病院です」
『助かったお!』
短い連絡を終え、指差は自らのデスクに座った。
思わず、溜め息が出る。
宇津は最も尊敬する刑事だった。
現場の指揮も、取り調べも、部下への配慮も。
全てが人一倍丁寧で、仕事は確実に成功させていた。
- 53 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:03:33
-
なのに、どうして殺人という愚かな罪を犯したのか。
一体何が彼をそうさせたのか。
何故、妻の死体を放って歌舞伎町に出かけたのか。
( ^Д^)「…歌舞伎町だ」
そうだ。全ての答えは歌舞伎町にあるはずだ。
コートを取り、オフィスを飛び出す指差。
何としても真実を知りたい。
事件の謎を解く為に。
宇津刑事を、助ける為に。
──
- 54 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:05:22
-
──
内藤から連絡を受けたのは、指差だけではなかった。
(*゚ー゚)「お忙しい時にすみません。私、クーさんの後輩の椎名といいいます」
('、`*川「クーの…」
女性記者の椎名。
内藤から連絡を受け、ペニサスからなるべく情報を取るよう頼まれた。
自らの身分を偽っているのは、記者だと話しづらいものがあるからという内藤からのアドバイスだった。
もちろん、普段は絶対に犯してはならないタブーなのだが。
(*゚ー゚)「クーさんが亡くなったと聞いて、信じられなくて…せめて、最近のクーさんのお話を聞かせてもらえたらと」
('、`*川「……お上がりください」
- 55 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:05:54
-
二人目の来訪者に、流石に疑いを持ったか。
ペニサスは怪訝な顔で椎名を受け入れた。
(*゚ー゚)「娘さんの葬儀から、連絡もとれなくて。新聞にはアルツハイマーだったとか…」
('、`*川「その通りです」
(*゚ー゚)「……信じられません、本当に…」
客間に入り、遠慮がちに座る。
すぐにペニサスが茶を持ってきた。
演技の上手さなら自負している。
平静を装っている女を装い、ペニサスとの駆け引きを始めた。
(*゚ー゚)「私、宇津さんとの面識は一切ありません。…でも、とても良い夫だとペニサスさんから聞いていました」
('、`*川「……」
- 56 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:07:16
-
辛辣な表情を浮かべながら、椎名が話を続ける。
対するペニサスの表情が、見てわかるほどに緩まっていった。
(* ー )「私…わからないんです。自分の妻を、なぜ殺してしまったのか」
('、`*川「……」
顔を俯かせ、肩を震わす。
万人の心を揺らがせてしまいそうな演技。それを見て、ペニサスは「お待ちください」と立ち上がった。
勝った。
心の中でガッツポーズを決めていると、何やら白いノートを持ったペニサスが現れた。
('、`*川「お読みください」
(*゚ー゚)「これは…?」
('、`*川「内緒にしてくださいね。これは妹の…クーの日記です」
- 57 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:07:57
-
なるほど、これが内藤の言っていたノートか。
ペニサス本人の日記だと聞いていたが、刑事である内藤への警戒心で嘘をついたのだろう。
一ページ目を捲る。
新聞の切り抜きと、弱々しい字が目に留まった。
その内容を読み、全てを悟った途端。
椎名は頭を打たれたような衝撃を感じた。
全身が震える。
目から溢れる涙が、幾つもの筋となって零れ落ちる。
それは、決して演技などではなかった。
(*;ー;)「そ…んな……」
( 、 *川「……」
ペニサスも目を伏せる。
そこに書かれた真実は、椎名がこれまでに想像もしたことのないような、確かな「絆」だった。
──
- 58 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:17:06
-
──
役者は揃った。
しかし、辛い。
握った真実は、まるで命の如く重い。
凍えそうな寒空の下、内藤は静かに留置場へと入っていった。
事件から、三週間が経った。
( ^ω^)「柔即署の内藤ですお。十五時から宇津との面会予定がありますお」
係の男に告げ、面会室まで進む。
その道中、内藤は指差にメールを打った。
すべて上手くいけばいいのだが。
第三号面会室。
ガラスで隔たれた室内に、内藤は踏み入った。
- 60 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:17:45
-
('A`)「……」
( ^ω^)「…お久しぶりですお」
久しぶりに見る友人の姿は、事件前と変わりないように見えた。
それほどまでに、彼の心は落ち着いている。
( ^ω^)「今日から、あなたは検察に身柄を置かれますお。こうやって面会できるのも最後ですお」
('A`)「…残念です」
本当に残念そうに漏らす宇津。
その姿に、胸が痛む。
( ^ω^)「だから、宇津さん。今日こそ真実を語ってほしいんですお」
('A`)「……」
- 61 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:19:40
-
静かに俯く。
真実を語る気にないのは、目に見えて明らかだった。
('A`)「真実なら、既に話しました」
( ^ω^)「……これを見てくださいお」
鞄を漁り、一枚の白紙を宇津に突きつけた。
( ^ω^)「あなたの骨髄ドナー登録証のコピーですお」
(;'A`)「!!」
宇津の瞳が、大きく揺れた。
( ^ω^)「クーさんとヒートちゃんの担当医に聞いて知ったんですお」
( ^ω^)「あなたはドナー登録をしていた。間違いないですね?」
(;'A`)「……」
- 62 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:20:13
-
口を強く結び、顔を背ける。
内藤の少し横に視線をずらしたまま、宇津は動きを止めた。
( ^ω^)「あなたのドナー登録は、ヒートちゃんが亡くなってから僅か半年後のことです。ついでに、妻のクーさんの登録も確認できました」
(; A )「………」
握られている。
すべての真実を、内藤に。
構うことなく、内藤が続ける。
( ^ω^)「ヒートちゃんの死因は、急性骨髄性白血病。ドナーさえいれば助かるかも知れなかった。しかし──」
(; A )「……」
( ^ω^)「──骨髄の適合するドナーは、見つからなかった」
──
- 63 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:21:28
-
──
川 ; -;)「先生、お願いします!あの子を助けてください!お願いします!」
(´・ω・`)「奥さん、落ち着いてください。適合するドナーが見つかることを祈るしかないんです」
川 ; -;)「そんな!いやだ!……あの子が、どうして…」
(´・ω・`)「……」
薄暗い病院の待合室。
悲痛な声を響かせながら、クーが担当医のショボンにしがみつく。
川 ; -;)「私じゃ、私じゃダメなんですか…?」
(´・ω・`)「親子であろうと、骨髄はそう適合しません…祈ってください。気を確かに持ってください」
川 ;д;)「う、うわああああああ!!」
- 64 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:21:49
-
ショボンの両腕を掴みながら、崩れ落ちるクー。
その絶望の声が聞こえたのか。
六階の病室で、宇津に見守られているヒートが目を覚ました。
やせ細った体、弱々しい眼光。
信じたくない未来が、すぐそこにあるかのようだった。
ノハヽ゚听)「お父、さん…」
('A`)「…なんだ?」
今にも枯れそうな声が、それを更に助長させる。
少しでも気を抜くと、涙が溢れてしまいそうだった。
- 65 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:23:05
-
ノハヽ゚听)「私…死ぬの…?」
('A`)「……」
娘の小さな手を握る。
骨と皮だけの冷たい手。
もう、ドナーが見つかろうと──。
信じたくない未来が、頭をよぎる。
宇津は静かに、笑顔を向けた。
('∀`)「大丈夫、ドナーがすぐ見つかるさ。退院したらカラオケにでも行くか?」
ノハヽ゚听)「カラ、オケ……?」
('∀`)「ああ。お前は声が馬鹿デカいだけで音痴だからな。全部打ち負かせてやるよ」
ノハヽ゚听)「…へへ…お父さんに…言われたかないよ…この音痴オッサン……」
('∀`)「ほう?なんなら精密採点で勝負するか?」
ノハヽ゚听)「…望むとこ、だよ……フフ」
- 66 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:23:37
-
笑うということが、これほど難しいことだとは知らなかった。
笑うということが、これほど人を辛くさせるなんて。
想像もできなかった。
宇津ヒートが静かに息を引き取ったのは、それから四日後の話になる。
──
- 67 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:24:47
-
──
( ^ω^)「……骨髄の適合するドナーは見つからなかった」
( ^ω^)「そうですおね?宇津さん」
(; A )「……」
肯定の様子も、否定の様子もない。
ただ静かに、宇津は微かに揺れていた。
( ^ω^)「それから、あなた達夫婦はドナー登録を行った。自分達で救える命があるなら、救いたかった」
( ^ω^)「…ヒートちゃんの分も、誰かに生きてほしかった」
(; A )「………」
- 68 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:25:18
-
動揺を隠しきれない宇津。
内藤の仮説に、間違いは無さそうだった。
( ^ω^)「それから二年後。娘を失ったストレスから、クーさんがアルツハイマー病に冒された」
(; A )「………」
( ^ω^)「クーさんの病状は徐々に悪化していった。忘れもしないと思っていたものを、いとも容易く忘れてしまうほどに」
(; A )「!」
内藤が今度は何が言いたいのか、すぐに察することができた。
もうやめてくれ。
そう言いたいが、口から言葉が出てこない。
内藤が、静かに続けた。
( ^ω^)「クーさんは恐れていた」
( ^ω^)「自分自身を忘れてしまう恐怖。自分の娘を、忘れてしまう恐怖に」
──
- 69 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:26:29
-
──
川#;д;)「もういや!!ヒートは!?ヒートはどこなの!?」
(;'A`)「クー!もういないんだ!ヒートはもういないんだよ!」
川#;д;)「嘘よ!!ヒートは、ヒートは……」
宇津の制止もきかず、暴れ回るクー。
ちゃぶ台が、椅子が、痛々しい音をあげて倒れていく。
川 ;д;)「ヒート……は………あ…」
(;'A`)「…思い出したか」
クーの動きが止まった。
そのまま、大きく見開いた目を宇津に向け。
静かに、涙を落としていった。
川 ;д;)「私……」
- 70 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:27:12
-
('A`)「…大丈夫だ。もう──」
川 ;д;)「私は、ヒートのことも忘れようとしてるのか?」
慰めの言葉が、最後まで言えなかった。
クーの瞳は、それほどまでに、絶望に満ちていた。
川 ;д;)「私の中でも…ヒートが死のうとしてるのか…?」
(;'A`)「クー、そんなことは…」
川 ;д;)「ドクオ」
その絶望は、声にも現れていた。
川 ;д;)「……殺してくれ」
- 71 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:28:21
-
(;'A`)「………え?」
川 ;д;)「私を殺してくれ。お願いだから」
(;'A`)「何をバカな──」
川 ;д;)「お願いだから!私を殺して!!」
宇津の両肩を掴み、その胸に顔をあてる。
この瞬間、宇津は察してしまった。
その感情が、一時的なものではないことに。
「死にたい」という気持ちを、ずっと前から持っていたことに。
川 ;д;)「このままじゃ、ヒートが二回死んじゃう…私の中でもヒートが死んじゃう…」
- 72 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:29:28
-
(; A )「……」
川 ;д;)「私…どうすればいいんだ?大切なものを全て失って、自分自身すら忘れそうになって」
川 ;д;)「……死にたいんだ。まだ全てを覚えているうちに。私が私であるうちに」
(; A )「クー……」
川 ;д;)「…死ぬなら、愛する人の手で死にたいんだ」
なんだ。
いくらなんでも、それは反則じゃないか。
それが、夫婦として最後まで愛し合うための唯一の道だなんて。
あまりにも、卑怯じゃないか。
(;A;)「クー……」
川 ;д;)「……」
妻の首に、両腕が伸びていく。
- 73 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:30:03
-
川 ; -;)「…すまない、ドクオ」
(;A;)「……目、閉じるんだ」
目を閉じるクー。
その表情の少し下、細い首に、両手が触れた。
その首は、確かに温かかった。
そのまま、ゆっくりと。
宇津は、両手に力を込めた。
──
- 74 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:31:38
-
──
( ^ω^)「…そして、十一月三日の午後九時頃」
( ^ω^)「あなたは、クーさんの首を絞め……殺しました」
(; A )「………」
もはや、何も見えなかった。
淡々と語る内藤の声だけが、宇津の耳に響いていた。
( ^ω^)「クーさんを手にかけた後、あなたは自殺をはかろうとした」
( ^ω^)「その時なんですね?クーさんの日記を見つけたのは」
(; A )「!!」
- 75 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:32:26
-
宇津の瞳が、またも大きく動いた。
内藤は鞄から白いノートを取り出し、宇津の前に広げた。
( ^ω^)「この日記を見つけたから、あなたはまず自殺を思いとどまった。違いますか?」
(; A )「………」
少し顔を上げ、顎を上下する宇津。
やがて、大きく俯きながら、宇津は掠れそうな声を洩らした。
(; A )「……知りません…」
( ^ω^)「……」
弱々しく、それでも宇津は踏みとどまっている。
一つ深呼吸をして、内藤は話を続けた。
- 76 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:33:38
-
( ^ω^)「あなたはこの日記を見つけ、内容を読み、クーさんの全てを知った」
( ^ω^)「だからまず、この日記を伊藤ペニサスさんのもとに届けた」
(; A )「………」
( ^ω^)「そして、あなたは日記の内容に沿って、歌舞伎町へ出かけた」
宇津の顔が、ますます下がっていく。
( ^ω^)「この新聞記事の切り抜きを見てください」
(; A )「………」
日記の一ページ目。
小さな新聞記事の切り抜きを、宇津の前に広げる。
( ^ω^)「去年の記事ですお。二茶新聞の"みんなの声"のコーナーに投稿されたものですお」
( ^ω^)「この記事に、見覚えはありますか?」
- 77 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:34:10
-
(; A )「……知りません」
尚も、踏みとどまる。
辛いのはわかる。ここまでやっても宇津が口を閉ざす理由も、全てわかっている。
内藤は、あえて記事を読み上げ始めた。
( ^ω^)「タイトル、"命をありがとう"」
( ^ω^)「"僕は今年で二十歳になります。高校を卒業し、現在は歌舞伎町で一番小さなラーメン屋で働いています。"」
( ^ω^)「"でも、本当なら僕は十四歳で亡くなっているはずでした。六年前、僕は"──」
- 78 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:35:29
-
六年前、彼はある病気に冒された。
急性骨髄性白血病。
一刻も早く、適合するドナーを見つけなければならなかった。
そんなとき、彼の骨髄に適合するドナーが見つかった。
それが、宇津ドクオなのだ。
宇津の骨髄提供で、彼は命を得ることができた。
これにはクーも喜んだ。
ヒートの生まれ変わりみたいだと、しきりにはしゃいでいた。
彼に会いたい。
会って、自分達の分身を──ヒートの生まれ変わりを見てみたい。
しかし、骨髄移植の相手は互いに会ってはいけないと決められている。
そんなとき、クーがこの新聞記事を見つけたのだ。
- 79 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:36:07
-
手術の時期、家族構成、自分のドナーの僅かな情報。
記事に書かれたその全てが、宇津が骨髄提供を行った相手の情報と一致していた。
そして、彼は「歌舞伎町で一番小さなラーメン屋」で働いている。
( ^ω^)「……もう一度聞きますお」
(; A )「………」
( ^ω^)「あなたは、この記事を知っていますか?」
沈黙。
もはや顔が見えないほどに俯いた姿で、宇津は絞り出すように呟いた。
(; A )「…知りません……」
- 80 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:36:47
-
静かに、日記のページを指す内藤。
弱々しい妻の字が、そこにあった。
( ^ω^)「ここには、クーさんの行動と、クーさんの気持ちが綴られていますお」
(; A )「………」
( ^ω^)「この新聞記事を見つけたその日に、クーさんは歌舞伎町へ出かけていますお」
( ^ω^)「…読み上げますお」
(; A )「……」
ゆっくりと、内藤が日記の中身を読み始める。
宇津の肩が、微かに揺れた。
- 81 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:38:06
-
9月3日 晴れ
今日から私は日記を書きます。何故なら、この感動を
形にして残したかったから。この記事は間違いなく、ド
クオが骨髄提供をした男の子のものに違いありません。
「歌舞伎町で一番小さなラーメン屋」。禁止されてい
るのはわかっているけど、でも、私はそれを探します。
探して、ヒートの生まれ変わりを…ドクオとの絆を見つ
けます。
私はアルツハイマーに冒されています。このままだと
ヒートも、ドクオも、私自身も忘れてしまいます。もし
そうなってしまったら、ドクオは独りぼっちになってし
まうのです。ドクオの絆は、あっさり無くなってしまう
のです。
そうなる前に、見つけてあげたい。
彼の唯一の絆。新しい命を、歌舞伎町で。
- 82 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:38:37
-
( ^ω^)「これ以降の日記は、クーさんが歌舞伎町を探し回った様子が続いていきますお」
( ^ω^)「クーさんが"歌舞伎町で一番小さなラーメン屋"を見つけられたかはわかりません。ただ…」
一つ呼吸をおいて、もう一度口を開く。
何故か、宇津の姿を直視できなかった。
( ^ω^)「クーさんは、あなたとの絆を確かめるために…孤独になりかねなかったあなたの新しい絆を、見つけてあげるために」
( ^ω^)「歌舞伎町へ出かけ、歌舞伎町で一番小さなラーメン屋を探し回っていた」
(; A )「……」
- 83 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:39:45
-
( ^ω^)「そして、あなたは」
不意に、なにやら熱いものが込み上げてきた。
どうにかそれを堪え、宇津の全てを語り続ける。
( ^ω^)「殺害後の2日間、あなたも歌舞伎町へと出かけた」
( ^ω^)「妻の示してくれた、あなた自身の絆を確かめる為に」
( ^ω^)「妻との愛を…確かめ合う為に」
静寂。
どちらも言葉を発しないまま、ただ時間が流れていく。
- 84 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:40:41
-
( A )「………」
宇津は、相変わらず頑なに顔を上げない。
内藤の話は、すべてその通りだった。
だが、肯定してはならない。
もしも、宇津が歌舞伎町に出向いたと知れ渡ったら。
骨髄を提供した相手を探し回ったと知られたら。
殺人犯の骨髄が、その命を救ったのだと知られたら。
きっと彼は、自らの体を忌み嫌うはずだ。
自分には汚れた血が流れているのだと思うはずだ。
だから、空白の二日間を隠し続けた。
誰にも知られないことで、大切な絆に傷がつかないように。
娘の代わりとして、妻の願いとして、綺麗に生きてもらう為に。
- 85 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:41:52
-
( ^ω^)「…最後に、あなたに聞きたいことがありますお」
( ^ω^)「刑事としてではなく、友人として、答えてくれお」
業務上の敬語を棄て、生身で尋ねる。
そこでようやく、宇津はゆっくりと顔を上げた。
まるで生気の抜けてしまったかのようなその表情は、少しだけ内藤を躊躇わせた。
( ^ω^)「そんなにクーさんを大切に思うなら…新しい絆を大切に思うなら」
( ^ω^)「……どうして、殺してしまったんだお」
殺してと頼まれたから、殺した。
それが果たして夫婦の在り方なのか。
それが、絆というものなのか。
殺してと頼まれて、本当に殺してしまうこと。
それはどういうことなのか。宇津の想いが知りたかった。
- 86 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:42:35
-
時間だけが流れていく。
やがで、宇津がゆっくりと口を開いた。
( A )「……クーは、アルツハイマーになってから自分の心配を辞めた」
( A )「あいつ、自分よりヒートや俺のことばっか考えるんだ……自分のことを忘れる恐怖よりも、俺が孤独になってしまう心配ばっかしてた」
( A )「そんなクーが……クーが初めて見せた"自分自身"が、あの日の夜だったんだ」
宇津の視線が、まっすぐ内藤に向けられる。
その瞳から、雫が零れ落ちた。
(;A;)「…俺は殺人犯だ。命を奪った……最悪の罪を犯した……」
(;A;)「でも………」
涙を拭くこともなく、ただ真っ直ぐ、内藤を見つめる。
その目には、確かな強さがあった。
- 87 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:43:19
-
(;A;)「…でも……俺は……」
涙が止まらず、出てくる言葉は掠れ声に変わる。
それでも、嘘偽りのない心が、そこに在った。
(;A;)「……俺は、クーとヒートを、愛していたんだ」
全ては、妻を愛した故に。
娘を愛した故に。
宇津は、殺人という罪を犯してしまったのだ。
確かな絆を、そこに感じながら。
- 88 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:45:06
-
( ω )「……」
暫くの間、内藤は何も言えなかった。
この感情を、言葉でどう表すべきかわからなかったのだ。
哀しみ、憐れみ。
そんなものではない。
ある種の怒りが、内藤の中で込み上げていた。
(# ω )「愛していたから…殺した…?」
頭の整理がつかない。
宇津の気持ちが、理解できない。
だが、ただ一つ言えることがある。
命さえも奪える愛など、在るはずがないじゃないか。
(# ω )「…そんな……」
- 89 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:46:15
-
(#;ω;)「そんな愛なんか、認められないお!!」
(;A;)「……」
(#;ω;)「愛の故に殺人だなんて…愛や絆の為に犯せる罪なんて……」
なら、何故。
どうして涙が溢れてくる。
自分への疑問を捨て、流れ落ちる涙に構うことなく、内藤は糾弾していく。
(#;ω;)「それを裁けるのは、法でも人でもない!お前でも僕でもないんだお!!」
一体、誰が「愛」を判断できるというのか。
誰が「絆」を認められるというのか。
またも静寂が訪れた途端。
面会時間の終わりを告げるノックが、第三号面会室に鳴り響いた。
- 90 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:46:59
-
宇津が静かに立ち上がり、開いたドアへと向かう。
室外へと出る直前。
無気力に座ったままの内藤に、宇津が小さく呟いた。
( A )「…誰にも裁けないさ、そんなもの」
向こう側の扉を閉める音が、重く響いた。
──
- 91 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:49:16
-
──
('A`)「………」
一時間後。
留置場を出て、護送車へと歩かされる宇津。
もうすぐ裁判が始まる頃だ。
判決はすぐに決まるだろう。
罪も認めている。空白の二日間については「死に場所を求めて近所を彷徨っていた」で話がついてる。
歌舞伎町に行った事実など、誰にも知られることはないだろう。
それでいい。
それで、新しい絆──守りたい人を、守ることができる。
護送車へと歩きながら、ふと留置場の門に目を向けた時だった。
- 92 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:49:51
-
(;゚A゚)「あ……」
門の外に、二人の影が見えた。
一方は、柔即署の後輩の指差。
そして。
( ・∀・)
二十歳ほどの、若い青年が見えた。
実は、指差は予め歌舞伎町を捜査に回っていた。
その道中で内藤から受けた「一番小さなラーメン屋」という連絡から、その店を見つけ出していたのだ。
宇津の新しい絆、骨髄を提供したその人物を特定し、事情を教え、留置場の門まで連れて来た。
全ては、内藤の指示通りだった。
- 93 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:51:07
-
( ・∀・)「やっぱり、あなただったんですね!」
優しい笑顔で、声を張り上げる青年。
固まる宇津に向かって、大声を続ける。
( ・∀・)「あの時、店に来てくれたの!やっぱりあなただったんですね!!」
そう、宇津は空白の二日間のうちに、「歌舞伎町で一番小さなラーメン屋」を見つけることが出来ていたのだ。
店に入り、あたかもラーメンを食べに来た客のように振る舞いながら。
確かな「絆」を、その目にしたのだ。
- 94 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:51:46
-
( ・∀・)「宇津さん!死なないでください!まだ、生きてください!!」
そして、ペニサスが「宇津は死ぬ気だ」と言った理由。
実は、骨髄ドナーの登録条件は「二十歳から五十歳までの健康な者」となっているのだ。
四十九歳の宇津には、まだチャンスがあった。
骨髄提供で命を救うためのチャンスが。
新しい「絆」を生み出す、最大のチャンスが。
しかし、五十一歳になればそれは無くなってしまう。
生きる意味が、一気に失われる。
ペニサスはそれを恐れたのだ。
事実、宇津は一度自殺をはかっているのだから。
- 95 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:53:02
-
(; A )「どうして…」
( ・∀・)「生きてください!生きて、また店に来てください!とびっきり美味しいラーメンをご馳走しますから!」
(; A )「違う…俺は人殺しなんだ……違う…」
目を逸らす宇津。
そのまま護送車に乗り込もうとした途端。
耳を疑うような台詞が、宇津の動きを止めた。
( ・∀・)「生きてください!……お父さん」
驚いて振り返る。
少し照れた様子で、青年は続けた。
- 96 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:53:33
-
( ・∀・)「家ではいつもそう呼んでるんです!僕にはお父さんが二人いる、って!」
(;'A`)「……」
遠くで見つめ合う二人。
小さく、自分に言い聞かせるように、宇津が呟いた。
('A`)「…生きて、ください…」
('A`)「生きてください……」
(;A;)「………お父さん」
その場に崩れ落ちながら、涙を零す。
お父さん。
本当は、ただそう呼んで欲しかっただけなのかもしれない。
新しい絆に。
守りたい命に。
- 97 名前:紅白の名無しさん:2011/12/26(月) 01:54:06
-
──生きるさ。
守りたいものが、まだあるのだから。
生きる理由が、そこに在るのだから──。
涙で滲む視界で、もう一度門の外を見る。
愛する妻と、愛する娘の姿が、そこに見えた気がした。
('A`)その殺人はどこまでも生きるようです 終
戻る