終わる世界を旅するようです
- 1 名前: ◆1d/TyX49hk 投稿日:2017/08/26(土) 23:56:26 ID:1crbb7mo0
- 「あれはなぁに?」
ぼくは思わず大声をあげた。
指をさした先、数十日ぶりに晴れた空を、巨大な魚が悠々と泳いでいた。
ぷかり、ぷかり。
長さ数百ゼスタはあろうかという白い体躯に、大きな鰭。肉眼で確認できるほど大きな眼球は、夜を映したかのような、黒曜の瞳。
ぼくは子供ゆえの好奇心をもって、その魚を見上げた。
『……鯨』
「くじら?」
ぽつり、言葉が落ちる。それにぼくは首をかしげて、声の主を見た。
同じく隣に座って空を見ていた青年(名前はとっくに失くしてしまったので、暫定的に青年、と呼んでいる)はぼくを見て笑った。
それが少し、子供心に馬鹿にされているような気がして、ぼくは思わず頬を膨らませた。
青年はごめんね、と再び笑ってぼくを撫でる。
- 3 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/08/27(日) 00:13:11 ID:EJlpVWY20
- 『××は鯨を見るの、はじめてだったかな』
「……魚とは違うの?」
『違うさ。鯨はね、魚じゃなくて、哺乳類……えぇと、人間とか……犬……は知らないか。えぇと、まぁ…動物の仲間で……いいや、もう、魚でいいか』
ぼくの言葉に、青年はひとつふたつ、よく分からない言葉を吐いてから、ううんと唸って誤魔化すように笑った。青年はぼくよりずっと賢かったけれど、偶に言葉を濁すように笑う癖があったのを覚えている。
「……へんなの。空をとぶ魚なんて、見たことない」
縁側から足をぶらぶらさせて、ぼくは鯨を再び見上げた。鯨は一匹、時折背中から白い雲を吐き出しながら、青い空を回遊していく。
やがて鯨はか細い声でひとつ鳴くと、すぅ、と空の青に溶けて消えていった。
青年もぼくも、黙ってそれを見つめていた。
- 4 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/08/27(日) 00:43:45 ID:EJlpVWY20
- 『あの鯨が出たから、今度は沢山消えるだろうね』
「あの魚…くじらは、わるいやつなの?」
ぼくは驚いて拳を握りしめた。けれど、青年はその言葉に、違うよと首を横に振った。
『鯨はただ、寂しがりやなだけなんだ。寂しいから、沢山連れていってしまうんだ』
ぼくは納得できなくて、ぐっと押し黙る。目頭が熱くて、ひどく、胸の裡がつっかえそうだった。
唾を飲み込んで、言葉を飲み込んで、ぼくは青年の顔を見た。
「……ぼくだって、寂しいよ」
青年はぼくの言葉に少し驚いた顔をしてから、優しくーーー本当に優しく笑って、ぼくを抱きしめた。温かな雫が、肩を濡らした。
それに、ぼくはまた泣き叫びたくなる。
ふざけるなとか、やめてくれだとか、そんな言葉を飲み込んで、ぼくは歪んだ青空を睨みつけた。
だって、もうすぐ青年は消えるのだ。
この世界からも、ぼくの記憶からも。
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- 7 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 01:01:37 ID:O1AdCc3.0
終わる世界を旅するようです
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- 8 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 01:06:22 ID:O1AdCc3.0
- ざわざわと。人。雑踏。
街の中央部に位置する広場の片隅。
青年は小綺麗なベンチに座り、深刻な表情をしながら唸った。
20代の前半だろうか。フードのついた厚手のジャケットを羽織り、首からゴーグルを掛けた、街には些か似合わない風体の青年だ。
青年はその長身痩躯をだらりとベンチに凭れさせ、恨めしげに空を見上げる。
( ´_ゝ`)「腹減ったなぁ」
(#゚;;-゚)「あら、大変ね」
青年の足元、しゃがみ込んで公園の鳩にパン屑をやりながら、少女は他人事のように言い放った。
こちらの少女の風体はふんわりとしたワンピースにストールを羽織った、特に目立つものではない。しかし、ぞっとするほど整った顔の左半分は包帯でぐるぐる巻きにされており、ほんの隙間から辛うじて左目が覗いている。
何処か浮世離れした少女だが、鳩に楽しそうに餌をやっている無邪気な姿はちぐはぐにさえ見えた。
- 9 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 01:17:29 ID:O1AdCc3.0
- ( ´_ゝ`)「労いはいいからさ、でぃさんも何か手伝ってくれよ」
(#゚;;-゚)「面倒臭いから嫌よ。それに、食料を調達するの、いつだって兄者の役目じゃない」
( ´_ゝ`)「食料を調達するのも飯作るのもキャンプ張るのも全部俺の仕事ですけどね」
でぃと呼ばれた少女の言葉に、青年―――兄者が大きくため息をつく。
この街に入ってから、すでに丸一日が経った。
今までの旅路でも、旅人をよく思わない人間と出会ったことはある。しかし、今回に至っては宿どころか露店で物すら売ってもらえそうにない雰囲気だ。さ
すがにちょっとばかし、まずい。
この街から出るにしろ、次の街がまだ存在するかどうかも分からない。補給をしないで出るのは、危険な賭けだ。
野垂れ死ぬのだけは、できれば御免蒙りたい。
兄者は再び空を見上げて唸った。
( ´_ゝ`)「せめて食料さえ手に入ればなぁ…。これだけ人の多い街、滅多にあるものじゃないし。クーパーちゃんの燃料も、出来たら手に入れときたいし」
(#゚;;-゚)「私、あのクーパーボロっちいから別のがいいわ。どうせ外には、色んな車が棄てられてるんだから。いいじゃないの」
( ´_ゝ`)「やでーす。俺はあのクーパーがお気に入りなの」
(#゚;;-゚)「あっそう。…それにしても、本当に人の多い街ね」
( ´_ゝ`)「まぁ、そうだな」
- 10 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 01:49:59 ID:O1AdCc3.0
- (#゚;;-゚)「この間行った街は、みんなおばけみたいな足取りでのろのろ亀みたいに歩いてたから、なんだか逆に新鮮ね」
( ´_ゝ`)「……まぁ、そうだな」
でぃの言葉に対して、「まぁ、」とひとつ付け足そうとした言葉を飲み込んでから頷いた。
こんな世界で、活力がある方が異常なのだ。
世界は緩やかに終わっていく。
そんな当たり前の事実、今時子供だって知っているんだから。
( ´_ゝ`)「…ところででぃさん」
(#゚;;-゚)「何よ?」
( ´_ゝ`)「俺の昼飯を損壊して鳩と遊ぶの楽しい?」
(#゚;;-゚)「失礼ね。遊んでると見せかけて、鳩を集めていたのよ。ほら、いつもみたいに捕まえて食べればいいのだし」
( ´_ゝ`)「猟銃なら入街手続きのとき没収されたよでぃさん…」
(#゚;;-゚)「………」
パンを千切る手が止まる。ぐーぐーぽっぽー。
能天気な鳴き声をあげて、でぃに鳩と呼ばれた生き物がでぃの手からパンをつついた。
(#゚;;-゚)「…困るじゃない」
( ´_ゝ`)「だからそう言ってるよね俺?」
はぁー、とため息を吐いて立ち上がる。
どうせ、ここでだらけていたところで解決するわけでもないのだ。
最悪、金を多めに叩きつけてでも糧を得るしかないか。
( ´_ゝ`)「まぁ、とりあえず車に戻るぞ。もっかい泣きそうな顔作って店訪ねていけば、哀れんだ店主が何か売ってくれるかもしれん」
(#゚;;-゚)「私、貴方のプライドの低いところ嫌いじゃないわよ」
( ´_ゝ`)「うっせ」
- 11 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 02:09:58 ID:O1AdCc3.0
- 結論から言うと、土下座作戦は失敗に終わったし、ただでさえ排他的な住民からは恐れられたし子供は泣いた。ついでに、でぃに『みっともないわよ、あなた』と言われて脇腹を蹴られた。解せぬ。
ぶすっとした顔のまま車を郊外に飛ばす。
郊外の人間なら、少しは人当たりがマシじゃないか…などというでぃの発言に乗っかって。
しかし、郊外に出ると、人の波はぱたりと止んだ。
どころか、長閑すぎる田園風景がひたすら広がっているだけだった。
( ´_ゝ`)「……本当に人いるの?でぃさん?」
(#゚;;-゚)「何よ兄者だって賛同したでしょ」
( ´_ゝ`)「俺が失敗したら脇腹蹴られるから不可抗力なんだよなぁ…」
悪かったわよ、と対して気にしてもいない風のでぃを横目で睨んで、兄者は何度目ともしれぬため息を吐く。
( ´_ゝ`)「…まぁ、こないだバラしたバイクのジャンクパーツとかも余ってるし、話さえまともにできりゃ喜んで買い取ってくれそうなんだがな」
(#゚;;-゚)「私、お肉が食べたいわ」
(;´_ゝ`)「俺の昼飯を鳥の餌にしといてよく言うよ。まぁ、うまく食料が手に入ったらね…っと、おぉ!?」
(#゚;;-゚)「!」
⌒*リ;´・-・リ「あっ」
- 12 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 02:21:10 ID:O1AdCc3.0
- 急に道路脇から飛び出してきた小さな人影に、兄者は慌ててハンドルを切った。
ブレーキが悲鳴をあげ、車体が大きく蛇行する。
そのまま道の脇の茂みに突っ込んで止まった。
(;´_ゝ`)「いってぇ…おい、でぃ!大丈夫か!」
(#゚;;-゚)「大丈夫よ」
ぶつかった時に勢いはあまり無かったが、慌てて声をかけると助手席から不機嫌そうな声が上がった。
平気そうだが、頭を押さえて涙目で唸るでぃの額に触れる。微かに赤くなっていた。
(;´_ゝ`)「あぁ~…あぁ…すまん…」
(#゚;;-゚)「たんこぶできそう」
(;´_ゝ`)「悪かった。と、さっきのは…」
(#゚;;-゚)「女の子だったわ」
( ´_ゝ`)「子供?」
でぃの言葉に首をかしげて車から降りる。
先ほど影が飛び出したあたり、5、6歳くらいの女の子が道端に座り込んでいた。
怪我でもしたのだろうか。慌てる兄者が声をかけるが、女の子は戸惑うばかりだ。
(;´_ゝ`)「わ、大丈夫か?怪我は?」
⌒*リ;´・-・リ「あ、あ、えと、」
(;-_-)「リリ!」
- 13 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 02:22:35 ID:O1AdCc3.0
- すぐさま少女の声に被さるように、少年の声が響く。
10歳前半だろうか。
リリと同じような服、恐らく何かの制服だろうか、を着ており、柔和な表情を酷く狼狽させてリリを庇うように抱き起こした。
(;-_-)「すみません、お怪我はありませんか?!」
⌒*リ´・-・リ「ご、ごめんなさい!飛び出しちゃって」
( ´_ゝ`)「あ、いや、ええと。大丈夫だ、そんな怯えなくて大丈夫だから逆に傷付くから」
(#゚;;-゚)「兄者、顔が怖いからしょうがないわよ」
( ´_ゝ`)「でぃさんは黙ってて?」
年端もいかぬ子供達から只ならぬ怯えを感じ取り、若干気圧されつつも兄者はできるだけ柔和な声を出す。
少年と少女はじっと兄者とでぃを見つめて、恐る恐る口を開いた。
(-_-)「…あなたたちは、この街の人ではないんですか?」
⌒*リ´・-・リ「……?」
( ´_ゝ`)「あ、うーん。実はそう。旅人なんだが、まぁ悪意とかはないから叫んだりはしないでくれ。捕まる」
(#゚;;-゚)「きゃー」
(#´_ゝ`)「でぃさん?」
兄者がでぃの後頭部を軽く小突く。
鳩尾に肘を入れられた。全力だった。
- 14 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 02:33:21 ID:O1AdCc3.0
- (;´_ゝ`)「全力攻撃よくない」
(#゚;;-゚)「手が滑ったわ」
(;´_ゝ`)「嘘もよくない…」
そっぽを向くでぃと、腹を押さえて蹲る兄者に戸惑うように少年が声をあげる。
(-_-)「あ、えと、リリはたぶん大丈夫、です。失礼しました。…ほら、リリ。ちゃんとごめんなさいしよう?」
⌒*リ´・-・リ「…うん、ヒッキーおにいちゃん。えと、ごめんなさい、おにいちゃんたち」
リリと、リリにヒッキーと呼ばれた少年がぺこりと頭を下げる。
( ´_ゝ`)「…でぃさんより人間出来てるよやばいよ」
(#゚;;-゚)「煩いわよばか」
蹲ったまま感動すれば脇腹を蹴られた。痛い。
( ´_ゝ`)「…んじゃちょっとついでに聞きたいけどさ、この辺で旅人でも泊めてくれたり、食料売ってくれそうなとこない?人里だとほぼ駄目でね」
(-_-)「旅人…そうですね、この街だと、少し、厳しいかもしれません。良くも悪くも、排他的なんです」
(;´_ゝ`)「まじかぁ…」
- 15 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 02:49:20 ID:O1AdCc3.0
- 兄者が目に見えて落胆する。
補給が期待できないとなれば一か八か、次の街まで車を飛ばすしかない。
けれど、もし次の街が失くなっていたら、その次はもっと遠く……恐らく300メロゼスタはあるだろうその道のりを、果たして予備の食料無しで走りきることは出来るだろうか。
燃料は最悪、打ち捨てられた車から汲めばいい。
が、食事や水に関して、自分はともかく華奢なでぃが耐えられるかどうか。
兄者は眉間に皺を寄せて唸った。
_,
( ´_ゝ`)「…うーん」
(#゚;;-゚)「……」
(-_-)「…あの!
(-_-)「あの、良かったらうちに泊まりますか?食事、くらいならお出し出来ますし。買い物とか、館長…いえ、知人のお爺さん、もしかしたら街の人に口利きしてくれるかもですし」
(;´_ゝ`)「あ、いや、…いいのか?」
⌒*リ´・-・リ「リリは、いい、と思う」
(-_-)「リリもこう言ってますし。他にも人が沢山いますが、部屋は余ってますので」
にこりと、ヒッキーがリリの頭を撫でながら笑った。
それに、とヒッキーが笑顔で続ける。
(-_-)「車、大丈夫じゃないかもですし」
そ(;´_ゝ`)「へ?…んぁ!?クーパーちゃん!?」
⌒*リ´・-・リ「…けむり、でてる」
(#゚;;-゚)「お世話になります」
茂みに突っ込んで煙を吐き出す車を前に、兄者は再び崩れ落ちた。
- 16 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 03:11:57 ID:O1AdCc3.0
- のろのろ煙を吐き出しながら進む車が辿り着いたのは、山の麓に建った古い建物だった。
(;´_ゝ`)「あぁぁ…クーパーがこれ…煙…治るかなぁ…」
(#゚;;-゚)「もう、落ち込んでもしょうがないわよ。徹夜で整備すればなんとかなるわきっと多分分かんないけど」
( ´_ゝ`)「暗に寝ずにやれって言われた」
(-_-)「こっちですよ、二人とも」
ヒッキーに促されるまま、建物に入ってすぐ、おかえりなさい、と舌ったらずな声が響いた。
まとわりつく子供たちを一人一人撫でて、ヒッキーがただいまと声をかける。
(#゚;;-゚)「…ちびっ子がわらわらいるわ」
( ´_ゝ`)「本当だ。…図書館、か?」
(-_-)「…みたいなものです」
大量に並ぶ本棚に、その間に詰め込まれた机と椅子。
散らばった紙は堆く積み上げられ、古い本特有のカビ臭い匂いとインクの香りが鼻腔を刺激する。
ヒッキーとリリと同じ服を着た子供たちが机に向かっていくのをぽかんとした表情で見送った。
(-_-)「部屋は、えぇと、二階のを使ってください。普段あまり使っていないので」
( ´_ゝ`)「いや、お世話になります…と」
ヒッキーの声に心ここに在らず、といった雰囲気の兄者が、机の上の紙の束を手に取る。
並ぶ本棚を見て、それから机の上に雑多に置かれた紙を捲って、兄者は感嘆の声を出した。
( ´_ゝ`)「…すごいな。これ、本か」
(-_-)「えぇ、そうです」
(#゚;;-゚)「本の何が凄いの?」
( ´_ゝ`)「でぃはお嬢様だから知らないだろうけど、本なんて旧世紀の遺産だぞ。なんせ、俺たちが本を書いたところで、大抵は死んだらただの真っ白い紙に成り下がるんだから。だから、影響を受けない旧世紀の本だけが残る。希少だ」
(-_-)「あぁ、ええと、そうですね。まぁ、そんな感じです」
歯切れ悪く笑うヒッキーだが、兄者は本棚を見回しては驚くばかりで気付かない。
でぃだけが、じっと二人を見つめていた。
- 17 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 03:20:15 ID:O1AdCc3.0
- 堅いパンと蒸したジャガイモ。
鳥肉の欠片が浮かぶ塩味のスープ。それから茹でたキャベツの千切りが少し。
ヒッキーたちが提供した食事はお世辞にも豪華とは言い難いが、それでも兄者の空きっ腹には酷く贅沢なものに思えた。
( ´_ゝ`)「いや悪い。すっかりご馳走になった」
(#゚;;-゚)「足りないわ」
( ´_ゝ`)「だまらっしゃい」
(-_-)「すみません、僕たちに与えられる配給からだと、これが限界なんです」
( ´_ゝ`)「(子供の配給を平らげてしまった)」
(#゚;;-゚)「大変ね。おかわり」
( ´_ゝ`)「ぎゃーん」
自己嫌悪に陥る間もなく、隣の馬鹿娘に内心目を剥いた。とりあえず、テーブルの下のでぃの足を踏みつけておいたが、思いっきり脇腹を抓り返された。この野郎。
そんな様子を見て、ヒッキーはくすくす笑った。
( ´_ゝ`)「…ごほん。しかし配給制なのか、ここ。大きい街だから、もっと自由に流通がきいてるのかと」
(-_-)「あぁ、いえ。この街ではきちんと買い物は出来ますし、お金さえあれば娯楽も可能です。よく大人が言っていますが、この街はとても豊かだから」
( ´_ゝ`)「?ならなんで」
(-_-)「僕は人間ではありません。本なのです」
- 18 名前: ◆1d/TyX49hk[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 03:29:34 ID:O1AdCc3.0
- ( ´_ゝ`)「…なんて?」
(-_-)「兄者さんは、旅をしているんですよね」
( ´_ゝ`)「…あぁ」
(-_-)「なら、僕よりもっと分かっているはずです。世界は、もう、死にかけているのだから」
( ´_ゝ`)「……」
この世界は、とある流行り病によって死につつある。
名前はない。元より、付けたところで名付け親が死んでしまえば名が失くなってしまうのだから。
或る日突然あらわれたその病は、瞬く間に世界中に広がり、世界の全てを変えてしまった。
動物にも、植物にも罹りはしない。人だけに罹る病。
老若男女問わず、その病に罹ったものはみな透けて、溶けて、いつの日か存在自体が消えてしまう。そう、他人の記憶からすらも。
ーーーそんな、病だ。
(-_-)「兄者さんは、この世界に意味があると思いますか?どうせ、死んで忘れ去られていくだけの世界に、意味があると思いますか?」
( ´_ゝ`)「……」
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