つーのようです
- 1 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:07:46 ID:.gBSEWac0
- うららかな昼下がり。
厳めしい顔の青年と、可愛らしい少女が一人。
(*゚ー゚) 「ギコくん、問題解けたよ」
(,,゚Д゚) 「おー。うん、正解だ」
差し出されたノートを採点してやり、花丸をつける。
胸を張る少女の微笑ましさに男はそっと頭を撫でた。
(*゚ー゚) 「すごいでしょ!」
(,,゚Д゚) 「ああ、よく頑張ったな」
(*゚ー゚) 「うん! 頑張ったからご褒美、くれる?」
ことり、と首を傾げる少女はいつか見た幻想。
あまりの愛らしさに微笑みを返し、男はもう一度誉める。
食後の約束の為に頑張ったのだとしても
、頑張ったことに代わりはない。
(,,゚Д゚) 「約束だからな。今日の夕飯はデザートつき(*゚∀゚)「いよっしゃ俺様大勝利いいいいいいぃぃぃ」(#,,゚Д゚) やっぱ抜きだ馬鹿野郎!!!」
青空に、男の怒声が木霊する。
つーのようです
- 2 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:08:22 ID:.gBSEWac0
- (#,,゚Д゚) 「お前は! いつになったらその言葉遣いを直すんだ!」
(*゚ー゚) 「ごめんなさい」
ギコくんに叱られながら素直に謝った。
悪いことをしたら直ぐ謝るのは大事なことだ。
だってあんまり怒られなくて済むし。
でっかいため息つかれるけど。
(,,゚Д゚) 「あのな、何回目だツー」
(*゚ー゚) 「覚えてないです」
(,,゚Д゚) 「俺も覚えてないわ。それくらい繰り返してるってことだそ」
(*゚∀゚)「ははっ、懲りねーやつだな」
(#,,゚Д゚) 「お前がな!?」
けたけた笑えばギコくんは頭を抱え込む。
ああ、こんなはずじゃなかった。
もっとおしとやかに、女性らしく育てるはずだった。
一体何処で間違えたのか。
そんなことをぶつぶつ言ってる。
- 3 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:08:52 ID:.gBSEWac0
- (,,゚Д゚) 「がさつで男勝りで言葉遣いも悪い。しぃはそりゃあ淑やかで大和撫子だったってのに」
(*゚∀゚)「だって俺知らねーし」
(#,,゚Д゚) 「俺ぇ?」
(;*゚ー゚) 「わ、わたし! 私!」
やっべ。
うっかり口が滑ったのを慌てて言い直した。
このままではデザート処か夕食が野菜まみれになりかねない。
あんな不味いもん何で食わなきゃいけねーんだよ。
スイカなら大歓迎だけどな!
(*゚ー゚) 「私、知らないもん。ねーちゃんずっと前に死んでんだぞ」
事故で死んだ俺のねーちゃん。
俺は小さすぎて覚えてないけど、事故はギコくんのせいだったらしい。
それで責任感じて、身寄りの無い俺を男手一つ、一生懸命育ててるってわけだ。
よくやるなーギコくんは。
- 4 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:09:37 ID:.gBSEWac0
- (,,゚Д゚) 「覚えて無くても昔のビデオとか見ただろーが」
(*゚∀゚)「そんだけじゃわかんないって。無理があるって」
(,,゚Д゚) 「……たとえそうだとしても諦めないからな。お前を立派な大和撫子にしてやる」
(*゚∀゚)「頑張るなーギコくんは」
よっぽどねーちゃんのこと好きだったんだな。
何か面白くないけど仕方ないか。
(*゚∀゚)「なあなあ、次は何するんだ。私的には外でキャッチボールとかやりたいんだけど」
(,,゚Д゚) 「喧しい次は行儀作法だ。徹底的にその
言葉遣い直してやる」
(*゚Д゚)「うげぇ」
(#,,゚Д゚) 「今のでノルマ倍な」
容赦無さすぎるだろ。
- 5 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:10:09 ID:.gBSEWac0
- _____
(,,゚Д゚) 「今日は町に行くぞ」
(*゚∀゚)「やったー!」
ギコくんの言葉に思わずガッツポーズをする。
町から離れた丘の上が俺たちの家。
町までの距離がかなりあるから、この日だけはめんどくさい行儀作法の勉強も無しだ。
ふつうの勉強だけなら楽しいんだけどなあ。
理科とか数学とか特に楽しい。
そう言うとギコくんは喜んで、どんどん難しいことを教えてくれるからやりがいもあるし。
車に乗り込んだら後は揺られるだけ。
町に着いたら何しようかな、なんて考えてれば長い距離もあっという間だ。
(,,゚Д゚) 「着いたぞ」
車を止めたギコくんに連れられ日用品の買い出しに行く。
( ^Д^) 「よぉツーちゃん。元気にしてたかー?」
(*゚∀゚)「元気だぜおっちゃん! おっちゃんも元気そうだな!」
(#,,゚Д゚) 「ツー」
(*゚ー゚) 「はい、元気です。おじさんも元気そうでよかった」
(;^Д^) 「お、おう相変わらずだな……」
- 6 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:10:39 ID:.gBSEWac0
- おっちゃんは引き気味に笑う。
ギコくんの教育方針は他の人から見ると結構怖いらしい。
まあ、うん、容赦ないもんな。
一回町の人の真似してギコって呼んだら速攻で目茶苦茶怒られたもんな……。
あれは怖かった。
少し前の出来事を思い出していると、向こうの方から緑色が走ってくるのが見えた。
手を振りながら大きな声で俺の名前を呼ぶ。
ミセ*゚ワ゚)リ 「ツーーーちゃーーーーんんん」
(*゚∀゚)「ミセリだ! ギコくん!」
(,,゚Д゚) 「遊んできて良いぞ。危ないことはすんなよ」
(*゚∀゚)「はーい!」
許可を貰ってミセリの元に走っていく。
今日は何をするんだろう。
ミセリや町の子は俺の知らない遊びをたくさん知ってるから楽しみだ。
- 7 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:11:18 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「ほっ、ほっ」
ミセ*゚ー゚)リ 「そうそうその調子。上手いねツーちゃん」
ミセリに教えて貰った縄跳びでぴょんぴょん飛ぶ。
腕を交差させたり、素早く回したり。
時々足に縄が当たって痛いけど、中々楽しい。
ξ゚⊿゚)ξ 「ツーは運動神経良いわよね。足も速いし」
(*゚∀゚)「動くの得意だぞ。良く悪戯してはギコくんとおいかけっこするからな」
ミセ;゚ー゚)リ 「ツーちゃん、そんなしょっちゅう怒られてるの……?」
(*゚∀゚)「うん、まあ……」
怒られるのは怖いけど、ついやってしまう。
ギコくんの怒った顔面白いんだよな。
- 8 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:12:02 ID:.gBSEWac0
- (,,゚Д゚) 「ツー」
(*゚∀゚)「あ、ギコくん」
ξ゚⊿゚)ξ 「ギコおじさんこんにちは」
ミセ*゚ー゚)リ 「こんにちはー」
(,,゚Д゚) 「おう、こんにちは。ツー、そろそろ帰るぞ」
(*゚∀゚)「はーい」
ミセ*゚ー゚)リ 「「えーもう?」」ξ(゚△゚ξ
ミセリとツンがぷーっと膨れる。
滅多に遊べないからか、この二人はいつも俺を引き留める。
そうされると俺もまだ遊びたくなるんだけど。
(,,゚Д゚) 「ごめんな、また今度な」
(*゚∀゚)「また今度な! ばいばい」
ギコくんに手を引かれるとそっちが気になってしまう。
何でだろうな。
ギコくんは知ってるかな、でも何か聞くの恥ずかしい気がする。
何でだろ。
「どうしたツー」
此方を見たギコくんが首を傾げる。
「……ううん、なんでもない」
いいや、今度ミセリとツンに聞いてみよう。
- 9 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:12:51 ID:.gBSEWac0
- ミセ*゚ー゚)リ 『それはね、ツーちゃん、恋よ』
そう言われてからどれだけ経っただろう。
年頃のって言われるようになった俺は、今日もミセリ達とコイバナを繰り広げていた。
(*゚∀゚)「で、また喧嘩したのか?」
ξ*゚⊿゚)ξ 「だってブーンが怒らないから! 私が何言っても怒らないんだもん……」
ミセ*゚ー゚)リ 「そんだけブーン君がツンちゃんのこと好きなんだと思うけどね」
しょっちゅう幼馴染みと喧嘩するツン。
ミセ#゚ー゚)リ 「あの朴念仁キスの一つもしてこないんだけど!」
(*゚∀゚)「手を繋いでくれるだけ進歩じゃないか?」
ξ゚⊿゚)ξ 「フィレンクトさん奥手っぽいもんね」
最近近所のお兄さんと付き合い始めたミセリ。
そして最後は
ミセ*゚ー゚)リ 「相変わらずお姉さんばっかりなの?」
(*。_。)「うん……」
死んだねーちゃんに勝てない戦いを挑み続ける俺だ。
- 10 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:13:24 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「ギコ、って呼び捨てするのは折れてくれたんだけどな」
ξ゚⊿゚)ξ 「言葉遣いとか行儀作法とか、徹底的にやらされてるわけね。お姉さんのビデオとか見つつ」
(*゚ー゚) 「うん……」
あんまりにもねーちゃんはこうだった、ねーちゃんみたいにと言われ続け、反発した俺はおよそねーちゃんのしないだろうことをやり続けてきた。
ギコを呼び捨てにし、嗜められてきたギコの喋り方を真似し、町ではそこら中走り回る。
それでも町の人には「しぃちゃんが生きてるみたいだね」って言われるんだ。
ギコの車にそっそり乗り込んで、初めて町に来た時も速攻で叫ばれたな。
『ちっちゃなしぃちゃんがいる! 妹なんて居たのか!』って。
俺がやってることは実は無意味なんじゃなかろうか。
憂鬱になって思わずため息が漏れた。
そんな俺と一緒に溜め息を吐くツンとミセリ。
それがいつもの光景だったのに今日は違った。
二人は顔を合わせて悪戯っぽい笑みを浮かべている。
(*゚∀゚)「ツン? ミセリ?」
ミセ*゚ー゚)リ 「あのねツーちゃん。私たち考えたの」
(*゚∀゚)「うん?」
ξ゚⊿゚)ξ 「ギコおじさんは、ツーがあんまりにもそっくりだから、ずっとお姉さんの妹扱いなんじゃないかって」
そう言って二人が差し出してきたのは染髪剤だった。
それもド派手に真っ赤に染めるやつ。
- 11 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:13:59 ID:.gBSEWac0
- ミセ*゚ヮ゚)リ 「これでバーンと染めちゃって、お姉さんとは違うんだぞって言ってみたらどうかな?」
ξ*゚⊿゚)ξ 「そしたらきっと妹扱い脱出よ。其処から落としましょ!」
(;゚∀゚)「そんな上手く行くかなぁ」
魅力的な提案だと思う。
けれど今まで企てが成功した試しがないし、楽観的にはなれそうもない。
ξ゚⊿゚)ξ 「まあ駄目なら駄目なときよ。試してみる価値はあるんじゃない?」
(*゚∀゚)「うーん」
(,,゚Д゚) 「おいツー」
(*゚∀゚)「あ、ギコ」
唸っているとギコがやってきた。
声をかけられて、慌てて受け取った染髪剤を鞄にしまう。
ミセ*゚ー゚)リ 「もうそんな時間か」
ξ゚⊿゚)ξ 「仕方ないわね。頑張りなさいよツー」
(*゚∀゚)「うん、ありがとう」
ばいばい、と別れの挨拶をしてギコに連れられていく。
- 12 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:14:41 ID:.gBSEWac0
- いつからだろう手を繋がなくなったのは。
俺がギコを呼び捨てにし始めた頃からな気がする。
俺がねーちゃんと違うことをすればするほど、ギコが冷たくなっていく気がする。
だから髪を染めたりとか、怖いんだよな正直。
( ^Д^) 「よおギコ。そうしてっとお前さんがしぃちゃんとよく買い物してたの思い出すなぁ」
(,,゚Д゚) 「そうか?」
( ^Д^) 「ああ、しぃちゃんの幽霊かと思っちまうくらいそっくりだからな!」
(*,,゚Д゚) 「そうか」
道行く人に言われてギコが笑う。
うっとりと、それはそれは幸せそうに。
ああ、面白くない。
つまらない。
逆に俺の機嫌は最高に悪くなって、車の中ではギコと一つも喋らなかった。
- 13 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:15:12 ID:.gBSEWac0
- 次の日、髪を染めた。
ねーちゃん譲りの柔らかい茶色を真っ赤に染める。
刺激的なその色は、以前よりずっと俺に似合って見える。
(*゚∀゚)「ついでに髪も切ってみるかー」
鋏を持ってザクリザクリ。
肩甲骨位まであった髪を肩より上で切り揃える。
切り終えてありとあらゆる方向から鏡で確認した。
素人にしては中々良い出来だと思う。
(*゚∀゚)「おー、良く似合ってんじゃん」
見た目だけは淑やかなレディだった俺が、中身通り勝ち気そのものの見た目になった。
うん、これぞ俺。
これでもうねーちゃんには見えまい。
楽しくなって何度鏡を覗き込んでも飽きない。
ギコは何て言うだろう。
部屋に込もって仕事中のギコを思う。
そうしたらいてもたってもいられなくて、早速見せに行くことにした。
後片付けは、まあ後でやればいいや。
そろそろ夕飯の時間だしな。
- 14 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:15:45 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「ギコー、ギコー」
ドアを何度かノックする。
仕事中は邪魔されたくないからってんで鍵閉めてるんだよな。
理想としてはガッと開けて、バーンと登場したかったんだけど。
(*゚∀゚)「ギコー、夕飯そろそろだぞー」
「おう、ちょっと待ってろ」
暫くノックを続けていると、やっとギコの返事があった。
仕事に集中してるのかギコはノックに気付かないことが多い。
最近は特にそうだから、今日は早い方だ。
「悪い、待たせたな」
さあギコが出てくるぞ。
どんな反応をするのか楽しみだ。
(,,゚Д゚) 「……!」
(*゚∀゚)「驚いたか? どうだ、結構似合(#,,゚Д゚) 「今すぐ戻せ!!」ひっ」
物凄い剣幕で怒られた。
- 15 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:16:50 ID:.gBSEWac0
- (#,,゚Д゚) 「今すぐだ、今すぐ戻せ」
(;゚∀゚)「そ、そんな怒らなくてもいいじゃん。ちょっとしたお洒落だし、似合ってるしだろ?」
(#,,゚Д゚) 「ふざけるな全く似合ってない。こんなのは違う、絶対に違う」
違う違う、と譫言の様に繰り返すギコは、俺ではない何処かを見ているようだった。
俺を見ながら俺を見てない。
その姿に段々苛々し始める。
そりゃ怒られるだろうとは思ったけど、そんな全否定しなくてもいいじゃないか。
(#゚∀゚)「違うって何と違うんだよ。ねーちゃんか」
(#,,゚Д゚) 「そうだ。しぃの髪は赤くなんてなかった。短くなかった。柔らかく風になびく茶色だった」
思い出すように言って、遠い目がやっとちゃんと俺を見る。
(#,,゚Д゚) 「なのにお前はどうしてそんなことをするんだ。口が悪い、がさつ、大雑把。どころか姿形までしぃと変えてきた。何でだ、どうしてしぃと違うことばかりするんだ」
ギコの言葉に、ぷっちーんと何かがキレた。
散々言いたい放題された言い返しが口からぼろぼろ出てくる。
(#゚∀゚)「そっちこそふざけんな! 何で俺がねーちゃんみたいにしないと怒るんだよ! 毎回毎回しつこいんだよ!」
(#,,゚Д゚) 「何だと!?」
(#゚∀゚)「俺がやりたいことやって何が悪いんだよ。あれ駄目これ駄目ってうんざりだ!」
(#,,゚Д゚) 「それじゃあしぃにならないだろうが!」
(#゚∀゚)「そりゃそうだろ俺はねーちゃんじゃない!」
(#,,゚Д゚) 「……!」
苛立ちが募り感情の赴くままに叫ぶ。
(#゚∀゚)「俺はねーちゃんじゃない! 俺はしぃじゃない! 俺は、つーだ!」
そうだ、俺は俺だ。
ねーちゃんには一生なれない。
ねーちゃんの代わりになんてなれるわけがない。
それを、ギコにわかって欲しい。
ずっとそう言いたかったんだ。
- 16 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:18:03 ID:.gBSEWac0
- 怒りのあまり声も出ないのかギコの口がはくはくと動く。
それから手で顔を抑えて唸り声をあげはじめた。
言いたいことは言った。
わかって貰えるだろうか。
ゆっくりとギコが手を下ろす。
(,,゚Д゚) 「…………そうだな」
(*゚∀゚)「!」
(,, Д ) 「お前は、しぃじゃない」
喜びはは一瞬だった。
わかってもらえた、嬉しくて思わず笑みを浮かべて。
けれど向けられたギコの顔からは表情が消えていた。
ストン、と全て抜け落ちてしまったかのよう。
そんな顔を見るのは初めてで、なんだかとても恐ろしくて。
(;゚∀゚)「ギ、ギコ……」
くるりと背を向けたギコに、それ以上声をかけられなかった。
- 17 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:18:31 ID:.gBSEWac0
- あれからギコは部屋から出てこない。
何回ドアを叩いて呼んでみても、返事一つ返ってこない。
暫くドアの前で待ってみても、出てくる気配はさっぱりだ。
毎日毎日待つ内に、不安な気持ちが大きくなる。
(*゚-゚) 「倒れてたり、しないよな」
一度考えるとそうとしか考えられなくなった。
ギコはねーちゃんが好きで、だから俺をねーちゃんみたいにしたかった。
俺をねーちゃんの代わりにしたかったんだ。
ねーちゃんの世話をして、そうやって償いをしてるつもりだったんだと思う。
けれど、俺がそれを拒否したらギコはもうどうしようもない。
ねーちゃんは何処にもいない。
代わりの俺も拒否をした。
ギコはもう何も出来ない。
あの時の顔はその事に絶望したからなんじゃないだろうか。
もしかしたらギコは、ギコは。
- 18 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:19:04 ID:.gBSEWac0
- ギコの部屋のドアを殴るようにノックする。
そんなのは嫌だ。
俺はそんなことの為に宣言したんじゃない。
ねーちゃんよりも俺を見て欲しくて。
過去に縛られてるギコに、今を一緒に生きて欲しくて言ったんだ。
ギコが好きなんだって。
ねーちゃんじゃない俺を好きになってくださいって。
そう言いたくて。
ドアは開かない、鍵は閉まってる。
一端外に出て、ギコの部屋の窓を見据える。
手には工具箱から取ってきたトンカチ。
分厚いカーテンの引かれた向こうの様子はわからないから、ギコが怪我をしないようにって、それだけ祈った。
(#゚∀゚)「せーの」
ガンッ ガンッ ガシャン
鍵の周りを狙って窓ガラスを割る。
怒ったギコが出てこなくて余計に不安が募る。
鍵を開けて破片に気を付けながら中に入った。
(*゚∀゚)「あれ?」
ら、ギコは居なかった。
- 19 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:19:52 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「ギコ?」
ギッシリと本の詰まった本棚。
パソコン。
やたらとでっかい机。
ベッド。
以外に誰もいない。
もしかして俺の気付かない内に家を出ていったんだろうか。
そんなはずはない。
いつも町に行くために使ってる車はちゃんとガレージに止まっていた。
徒歩で町まで行くには距離がありすぎる。
(*゚∀゚)「取り敢えず、家の中探すか」
部屋を出て、手当たり次第全部ドアを開けて行く。
大して大きくない家だから探すのは簡単だった。
一回全部見て回って、二回クローゼットも開けて、倉庫も勿論見に行ったけど居ない。
すごすごとギコの部屋に戻ってきた俺は、何か手掛かりは無いかとギコの机を漁ることにした。
怒られたら謝ればいい。
見つけることの方が優先だ。
- 20 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:20:33 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「ねーちゃんの写真と、何だこれ『良い子の育て方』……育児本て。問題集に俺の体調チェック記録」
ねーちゃんの写真以外は全部俺の為のものだった。
勉強指導計画、行儀作法の本、病気をした時のカルテ。
やり過ぎだとも思うけど、ギコがどれだけ俺のことを考えていてくれたのか分かる。
たとえねーちゃんの代わりだったとしても、大切にしてくれていたことに代わりはない。
(*。_。)「酷いこと、言っちまったかな」
少し後悔した。
あんな喧嘩腰に言わなくてもよかったかもしれない。
(*゚∀゚)「見付けたら謝ろう」
許してもらえるまで謝って、それからちゃんと話をしよう。
きっと時間は掛かるけどわかってもらえるはず。
そう決めて一番下の引き出しを開けた時だった。
(*゚∀゚)「なんだこれ」
机の大きさ見合った引き出し、その中には何も入っていなかった。
というか蓋を嵌め込んであるだけで引き出しですらなかった。
代わりにその奥にぽっかりと穴を空けて、梯子と地下に続く階段を晒している。
- 21 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:21:06 ID:.gBSEWac0
- (;゚∀゚)「マジか。マジか」
予想しなかった光景に思わず呆然とする。
耳を澄ましてみるが、下からは何も聞こえてこない。
ギコはこの下に居るのだろうか。
いや多分此処以外に居ないわな。
(*゚∀゚)「よし、行くか」
そうと決まれば話は早い。
空いた穴にゆっくり体を滑り込ませ、転げ落ちないようにゆっくり階段を下っていく。
長い階段は、所々でぼんやりと灯りに照らされているけれどかなり薄暗い。
壁を伝いながら慎重に、出来るだけ急ぐ。
ギコはこんなところで何をしているんだろう。
一朝一夕に出来るような階段じゃない。
少なくとも、ギコが居なくなってからじゃ無理だ。
じゃあ一体何時から此処はあったのか。
何のために作られたのか。
謎は深まるばかりだ。
- 22 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:21:43 ID:.gBSEWac0
- (*゚∀゚)「とと」
急に階段が終わって前につんのめる。
顔を上げれば、目の前にはこじんまりとしたドア。
この向こうにギコは居るだろうか。
少し緊張しながらドアを開ける。
(*゚∀゚)「ギコ!」
ギコは、居た。
もう一つ、ナニかも。
そのナニか。は置いておこう。
それよりギコが見つかって良かった。
当のギコはナニかに向かって黙々と作業をしている。
もう一度呼び掛けると、チラリとだけこちらを見て、直ぐに元の作業に戻った。
どうしよう。
どうしよう。
怒ってるんだ。
呼んでも応えてくれないなんて初めてだ。
(;゚∀゚)「ギコ、ギコ! ごめんなさい!」
駆け寄って白衣の背を掴みながら謝る。
何に怒ってるのかは心当たりが有りすぎてわからない。
けど取り敢えず謝る。
だって無視されるのは辛い。
とにかくこっちを向いてほしい。
キーボードを叩き続ける手を掴んだ、ら。
(,,゚Д゚) 「ちっ」
舌打ちと共に、べしゃっと、床に倒れ込む。
一瞬何が起きたかわからなくて、遅れて理解する。
ギコに振り払われた。
ギコは何事もなかったように作業を続けている。
- 23 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:22:22 ID:.gBSEWac0
- (;゚∀゚)「ギコ」
ギコは作業を続けながら、時折うっとりと目の前にあるナニかを見る。
見覚えのある顔だ。
ギコの課題をこなせた時や、ねーちゃんの真似が上手に出来たときに俺を見る顔だ。
その顔で、俺が見ないようにしていたナニか。
液体に満たされた筒の中で揺蕩う"俺そっくりの女"を見る。
(;゚∀゚)「なあギコ何だよそれ。なあ。此方見ろよ!」
嫌だ嫌だ。
よくわからないナニかにギコを取られそうになっている。
それがわかる。
大量の管に繋がれて、時折泡を吐き出すそれ。
そんなものにギコを奪われてなるものか。
(;゚∀゚)「ギコ!」
(,, Д ) 「……」
ゆっくりとギコが此方を向く。
その顔は険しく、心底鬱陶しいとでも言うように眉間には深い皺が刻まれている。
(#,,゚Д゚) 「出ていけ」
冷たい刺すような声だった。
それでも此方を向いてくれたことに安堵する。
- 24 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:23:20 ID:.gBSEWac0
- (;゚∀゚)「 ギコ、どうしていきなり居なくなったんだよ。怒ってるなら俺謝るから」
(,,゚Д゚) 「要らん」
バッサリ切り捨てられて、どうすれば話を聞いてくれるか考える。
(;゚∀゚)「っ、おれ、私、頑張るよ。ちゃんと言うこと聞くよ」
(,,゚Д゚) 「それも要らん」
(*;∀;)「じゃあ、どうしたら帰ってきてくれるのギコくん!」
(#,,゚Д゚) 「黙れ!」
怒鳴り付けられて縮こまる。
悪戯して叱られるときの比じゃない。
お前が嫌いだって全身で言われてるみたい。
(#,,゚Д゚) 「しぃじゃないやつが、そうやって呼ぶな。俺をそう読んでいいのはしぃだけだ」
(*;∀;)「……そう呼ばせてたじゃんか」
(,,゚Д゚) 「そうだな。けどお前はしぃじゃないんだろ」
(#゚∀゚)「そんなの昔っからそうだよ! 俺がねーちゃんだった時なんて一回も無い!」
(,,゚Д゚) 「ああそうだ失敗した。無駄な時間を使っちまった」
そう言えばギコは忌々しそうにまた舌打ちをした。
吐き捨てるように言葉を投げつけてくる。
(,,゚Д゚) 「失敗した時間は取り戻せない。だからお前なんかにかかずらってる暇はないんだ。新しくしぃをつくるには幾ら時間が要ることか」
今、何かおかしな言葉がきこえて。
(*゚∀゚)「ねーちゃんを、新しく作る?」
- 25 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:24:06 ID:.gBSEWac0
- 思わず聞き返した。
つくるって何だ。
ねーちゃんを作るってどういう意味だ?
(,,゚Д゚) 「聞こえた通りだ。邪魔をするな」
(;゚∀゚)「聞こえた通りも何も……。ちゃんと説明しろよ」
(,,゚Д゚) 「解る必要はない。出ていけ」
(;゚∀゚)「嫌だ」
拒否するギコと、説明を求める俺。
ギコは知られたくない、というよりもその説明する時間を惜しんでいるようだった。
本当に、俺に時間を使うのが無駄だと思ってるんだ。
俺はそれに酷く傷付いたけど、此処で帰ったら二度とこの部屋には降りてこられない。
恐ろしくて。
また此処に来ればギコに拒否される。
冷たい目で見られて邪険にされる。
その証拠にさっきから名前すら呼んでもらえない。
そう解っていて再びギコに会う勇気は、きっと出ない。
だから今全部聞くんだ。
それで仲直りするんだ。
何度も言い合いを繰り返して、ギコが折れた。
俺が居ると集中できないから、説明したら出ていけだそうだ。
勿論そんなつもり更々無いけど、取り敢えずはうなずいて見せる。
- 26 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:24:42 ID:.gBSEWac0
- (,,゚Д゚) 「何を説明してほしいんだ」
(*゚∀゚)「ねーちゃんを作るってどういう意味だよ」
(,,゚Д゚) 「……此処にしぃの身体があるだろ」
ちらりとナニかを見やって、ギコは話し出した。
俺にそっくりのコレはやっぱりねーちゃんだったのか。
事故って聞いてた割には綺麗だけど、死体保存するってどんだけだよ。
(,,゚Д゚) 「此処にしぃとしての記憶、感情、行動をインプットする」
(*゚∀゚)「? 死体にそんなことしてどうすんだ?」
(,,゚Д゚) 「誰が死体だって言った。この身体は生きてる、此処から出せば動く」
(;゚∀゚)「えっ、えっ? ねーちゃん実は死んでなかったのか?」
じゃあ何でギコは今までそれをしなかったんだ。
治療中だったとか?
にしてもそれじゃ作るとは言わない気がする。
混乱する俺にギコはゆっくり首を振る。
(,,゚Д゚) 「しぃは俺が殺した。色々やったけどな、どうやってもしぃは生き返らなかった」
(*゚∀゚)「でもそれ生きてるねーちゃんの身体なんだろ?」
(,,゚Д゚) 「古い身体は墓の下だ。これは俺がしぃのDNAから造り出した、クローン体だ」
くろーん。
ギコがおかしなことを言い出した。
(;゚∀゚)「くろーんとか簡単に作れないだろ?」
(,,゚Д゚) 「幸い設備も理論も此処にあったからな。時間は掛かったがどうにかなったさ」
さ
ギコに釣られて辺りを見回す。
深く気にしてなかったけど、この部屋は変なものばかりだ。
パソコン、よく解らない機械、くろーんたいの入った筒とそっくりなもの。
- 27 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:25:40 ID:.gBSEWac0
- (,,゚Д゚) 「身体が用意できたから後はそれを心までしぃにするだけだ。普通の子供と同じように育てたC-2の失敗を踏まえやり方を変えることにした」
(,,゚Д゚) 「次はこの装置の中でしぃにする。しぃになるまでこいつの仮称はでぃ、だな」
(,, Д ) 「はやく、はやく会いたい。しぃ」
悲痛な顔でそれを見つめる。
ギコの姿を眺めながら俺は、突然与えられた大量の情報を一つ一つ整理していた。
多すぎて訳がわからない。
訳の解らない問題に出会ったら、一つ一つ解ることから確認しろってギコに言われたんだ。
ギコはねーちゃんを殺した。
ねーちゃんのクローンを造った。
普通の子供と同じように育てたC-2は失敗した。
だから今度は装置の中でねーちゃんにする。
クローンの名前はでぃ。
途中で引っ掛かりを覚える。
普通の子供と同じように育てたC-2。
いつ育てたんだ?
俺とギコ以外にこの家には誰も住んでいない。
ギコが家を留守にすることも無い。
ギコに育てられたのは俺一人。
C-2。
しぃ、ツー。
- 28 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:26:31 ID:.gBSEWac0
- ぐるぐると嫌な考えは綺麗に纏まっていく。
だってそう考えれば全部納得がいく。
ギコが俺にねーちゃんの真似を押し付けたのも、髪を染めたことに激怒した理由も。
俺がしぃじゃないって言ってからの行動も。
(,,゚Д゚) 「これで全部話したぞ。約束は守れ」
( ∀ )「……ギコ、もう少しだけ聞きたいことがあるんだ」
(,,゚Д゚) 「あん?」
( ∀ )「C-2って、俺のことか?」
(,,゚Д゚) 「そうだった」
( ∀ )「俺をしぃにするために育てたのか?」
(,,゚Д゚) 「そうだ」
( ∀ )「しぃじゃない俺に興味無いのか?」
(,,゚Д゚) 「当たり前だ」
( ∀ )「俺の名前って」
(,,゚Д゚) 「仮称C-2。それもお前がしぃであることを放棄した時点で相応しくない。今のお前に名前なんぞ無い」
( ∀ )「じゃあ、じゃあ俺は誰なんだ?」
足元が崩れていくようだった。
俺が自分の名前として主張してきたのは、ただの2という数字だった。
最初から俺は、俺としての存在を認められていなかったんだ。
そりゃギコが"俺"としての行動を受け入れるわけがない。
しぃとして造られたんだから、俺のしてきたことはプログラムに起きたバグのようなものだ。
バグは修正しないといけない。
(,,゚Д゚) 「知らん。俺はお前をしぃだと思ってたが違った。お前が誰かなんぞ知るか」
- 29 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:27:02 ID:.gBSEWac0
- バグだらけの俺はしぃでは無く、その写し"2"ですらない。
俺を作った人間が言うんだからそうなんだろう。
じゃあ俺は誰なんだ。
俺は確かに此処に居るのに。
(,,゚Д゚) 「話は済んだろ。出ていけ」
そう言われても動けなかった。
示された事実があまりに重すぎて、自分の意思で動くことを拒否していた。
苛立ったギコが俺の手を掴み、引きずるように部屋の外へ連れ出す。
しぃの為の部屋の前に居られるのも嫌なのか、そのまま階段も上っていく。
ああ、いつぶりだろう手を引かれたのは。
大きな手が好きだった。
温かくて優しくて安心した。
その手が俺の手首を掴んで罪人のように引き連れていく。
地上に向かう道のはずなのに、むしろもっと深い場所へ落ちていくみたいだ。
- 30 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:27:36 ID:.gBSEWac0
ああぐらぐらする。
俺は誰だ。
私は誰だ。
しぃか。
ツーか。
2か。
バグか。
失敗作か。
俺は。
何か一つでも良い。
これが俺だと胸を張って言えるもの。
それさえあれば。
……ああ、あるじゃないか。
- 31 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:28:11 ID:.gBSEWac0
- ひたすら悩んで答えを見つけた時、丁度部屋に戻る梯子の前に着いた。
此処を登ればギコとはお別れだ。
仕方がない仕方がない。
必死に思い込む。
これだけあれば俺は生きていける。
(,,゚Д゚) 「じゃあな」
くるりと背を向けてギコが階段を降りていく。
その背中にちゃんとお別れをしよう。
一度息を吐いて、もう一度吸う。
(*;∀;)「ずっと好きだったよ、ギコくん」
ねーちゃんと、しぃと、違うことをしたくて呼び捨ててたけど、本当はずっとそう呼びたかった。
物心つく前からギコくんはギコくんだったから。
ギコくんが好き、それだけは誰にも譲れない本当のこと。
こんなことになってもギコくんが好きなのが俺だ。
- 32 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:28:54 ID:.gBSEWac0
- このまま別れて俺の失恋話で終わる、はずだった。
ギコくんが、ギコが、俺に抱きついてきたりしなければ。
(,,;Д;) 「ずっとそれが聞きたかったんだ。……しぃ」
反射的に俺はギコを突き飛ばしていた。
やっと見つけた俺を、それすらもしぃのレプリカ扱いされて目の前が真っ赤に染まったんだ。
気持ち悪い。
ギコが転がり落ちていく音を聞きながらえずく。
違う、これは俺の感情だ。
ギコくんを好きなのは俺だ、しぃじゃない。
そうだろう。
そうじゃなきゃ"俺"は消えてしまう。
(# ∀ )「俺は俺だろ! なぁギコ!」
ギコから返事はなく、代わりに階段の下をゆっくりと赤く染めていた。
- 33 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:29:44 ID:.gBSEWac0
- それからの事は全部淡々と進んでいった。
ギコの死体を引きずって部屋に戻し、
引き出しを元に戻した。
あの部屋を誰にも見られたくなかった。
見られて、俺という存在を疑われたくなかった。
車は運転できないから町まで延々と歩いて交番行って自首したら皆とんでもなく驚いていた。
(*゚∀゚)「喧嘩して、ギコを殺しました」
自分達のせいだって泣いてたミセリとツンには悪いことしたな。
それで家に戻って現場検証があって、俺は今刑務所の中にいる。
何か色々聞かれたけれど覚えてない、わからないで通した。
何も喋りたくなかった。
此処での生活は穏やかだ。
毎日決まった時間に食事をして、運動して作業して。
少しあの家での生活に似ている。
ギコが居ないだけの生活。
日々をぼんやりと過ごしている俺は、近々模範囚として仮釈放されるらしい。
お陰で最近は昔のことばかり思い出す。
(*゚∀゚)「出たらどうしようかな……」
そう呟きながら頭にあるのはあの地下室だ。
あの地下室で、筒に揺蕩うしぃのクローン。
あそこを調べればギコにまた会えるんじゃなかろうか。
あれを使えばギコに会えるんじゃなかろうか。
今度こそ、俺を好きになってくれるギコに、会えるんじゃなかろうか。
- 34 名前: ◆DuBE89A7Sg 投稿日:2017/09/01(金) 23:30:32 ID:.gBSEWac0
- 俺は今、あんなにも苦しんだことを別の誰かに押し付けようとしている。
寂しいから、ギコに会いたいから。
俺みたいなやつを産み出そうとしている。
最低の屑だ。けど
(*゚∀゚)「ギコくん……」
ギコに会えるかもしれないと思ったら、そんなことは些細なことに見えてしまう。
ギコもそうだったんだろうか。
悩んで、苦しんで、それでも他の全てを犠牲にしてしぃに会える可能性を選んだんだろうか。
(*゚∀゚)「同じ穴の狢だな」
自嘲する。
その代わり最大限に気を配ろう。
大丈夫、バレないようにすれば良いんだ。
ギコより上手くやって、ギコに俺を好きになってもらおう。
うん、そうだ、そうしよう。
(*゚ー゚) 「ふふ、俺もずっと好きだよギコくん」
いつか来る未来を思って、胸に幸せが満ちた。
おわり
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