('A`)echappee!のようです
- 1 名前: ◆FdAaxXTkkg[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 00:09:00 ID:B7c3z6TA0
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえる。
この音が聴こえると、ああ集団に戻ってきてしまったなと何とも言えない感情に襲われてしまう。
全く、クソ暑い。
集中がぷっつり切れた俺がふと思ったのは、そんなとても人間らしい言葉だった。
オオカミ市街地、1周約11キロを14周、約154キロを走る今回のレース。
残り2周半、約27キロを残して俺はメイン集団に吸収された。
 ̄Z_ 『よくやったドクオ、いい逃げだった』
右耳に嵌めたイヤホンから、無線にのって監督からのお褒めの言葉が聴こえてくる。
- 2 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:09:35 ID:B7c3z6TA0
('A`)「そりゃどうも」
そう返すと『あとは不測の事態に備えておけ』と言われて無線は終了した。
約70キロを全力で引いて逃げた選手に対する言葉はこんなもんかい?
少し不満もあったが、まぁいい。
とにかく今日もうちのエースが勝ってくれればそれでいいのだ。
('A`)「なんてったって、それが俺の仕事だからな」
そうつぶやいて、俺は同じく仕事を果たしたチームメイトから受け取ったボトルから水を飲む。
前の方ではここからゴールへ向けたエースとアシストのアタックが始まっていた。
俺は少し取り残されたメイン集団後方で、他のアシスト組とこのレースの行方を見守る状態へと移行した。
- 3 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:10:38 ID:B7c3z6TA0
──【自転車ロードレース】
100キロ、長い時は200キロという道のりを、己の身体と自転車のみで走り、時間や順位を競う過酷なスポーツである。
そんな自転車ロードレースは大まかに2種類の人間で構成される。
アシストとエースだ。
アシストは、勝者たちがひしめき合うロードレースの中で自分たちのエースを他の勝者たちより先へと引っ張り上げる存在。
ゆえにアシストは献身しなければならない。
ゆえにアシストは犠牲にならなければならない。
今日も俺たちアシストは尽くし、エースを送り出した。
バッチリ送り出したと確信を持って言える。今日のレースは貰っ……
(,,゚Д゚)「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
『やはり強い!グラウグリッツ・AA所属、ギコ選手がゴール前スプリントを圧倒的な速さで勝利しました!!』
('A`)「あーあ」
まぁ、こういう事もある。
- 4 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:11:13 ID:B7c3z6TA0
【('A`)echappee!のようです】
.
- 5 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:11:57 ID:B7c3z6TA0
試合が終わると俺たちはマッサーによるマッサージや食事をとる。
身体が資本である俺たちにとって、それらは絶対に欠かすことの出来ないものだ。
特に食事は重要だ。
自転車は競技時間が長いため、道中の水分・栄養補給は欠かすことが出来ない。
その消費の度合いはマチマチだが、中には4時間で7000キロカロリー近く消費する選手もいる。
なので補えていない部分のエネルギーの補給をすぐに行う事が出来ないと、身体がどんどんとやせ細って行ってしまう。
その為、試合前後のメニューは簡単にエネルギーを摂取できる炭水化物や糖質・タンパク質の高いメニューが中心となる。
目の前に山のように盛られた白パスタが次々と運ばれてくる光景は正直何度見ても慣れない。
今日も例にもれず、アシスタント達が大皿を持ってあわただししく選手の前に置いて回っている。
そして俺の前に大皿が置かれたその瞬間、バンッという音と共にその皿が揺れた。
- 6 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:13:05 ID:B7c3z6TA0
(#・∀・)「クソが……」
その音は、どうやらモララーが机を叩きつけた事により生じたらしい。
皆の視線が彼の方へと集まる。
(´・ω・`)「モララー、負けた八つ当たりはホテルに帰ってからやってくれ」
(´・ω・`)「ま、あれだけ大口叩いて無様に負けた後だから気持ちは分からないでも無いけど」
(#・∀・)「ああ!? 本来俺があんな奴に負けるわけがねえんだよ!!」
(#・∀・)「テメェらクソアシストが仕事をまともにしねえから、俺が足を使うハメになったことにムカついてんだよ!!」
(´・ω・`)「はぁ? 仕事をしなかったのは君だろう? あれだけガチガチに守ってもらって、更に発射台を2枚つけてもらったのに。
踏み切れなかった事までアシストに責任は取れないよ」
(´・ω・`)「勝てないエースはいらないって、そう言ってなかったかい?」
(#・∀・)「ショボン、テメェこのやろ……」
(;^ω^)「ちょっ、二人ともやめるお!!!」
('A`)「……」
- 7 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:14:14 ID:B7c3z6TA0
『チーム・ビップ・ファイナー』内の雰囲気は最悪だ。
スポンサーの「ファイナー」撤退騒動から始まり、その後の買い取り手を巡る様々な出来事に振り回された今シーズン。
どうやら解散が濃厚となったという事が地元新聞の誌面を賑わした頃、
選手たちの意識もいかに他チームへの売り込みをかけるかへとシフトしていった。
それからと言うもの、チームプレーとはなんとやらといった具合で、スタンドプレーに走る選手が増えた。
今日に関してはまだちゃんとロードレースをした方である。
俺が必死に逃げて集団の脚を使わせ、今日のエースであるモララーをショボン・ブーンの二枚体制でしっかりと守り、
そして最後はその2人のアシストでモララーをゴール前でしっかり勝負まで持っていかせた。
他の参加メンバーは落車、もしくは来季に向けての大事を取ってDNS、もしくはアピールのために前半で脚を使い切って後方に落ちていた。
今のウチはハッキリ言って弱い。
数年前まではグランツールでのステージ優勝もあったが、それも遠い過去の話だ。
ここ最近はスポンサーアピールで俺が逃げまくっていた。
しかしスポンサーが撤退する事が決まったのにアピールで逃げる事に最早何の意味もない。
なので最近はスプリントに強いモララー・ブーンの優勝を狙わせるのがもっぱらの展開だ。
- 8 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:14:57 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「全くこのチームはクソみてえなやつしかいねえな!」
そのモララーはオールラウンダーに近いスプリンター。凄まじいスプリント力が持ち味。
しかし如何せん性格がアレなため、チーム内に不協和音を起こしやすいタイプである。
(´・ω・`)「ホント君、減らず口だけはマイヨ・ジョーヌクラスだね」
こいつのアシストをよく務めているショボンは、一応区分としてはルーラーという事になっている。
が、山も登る、平地は引く、TTもそれなりに強いという、あまり欠点の無い選手だ。
しかし、イマイチ能力的に突き抜けられない部分があり、貧乏器用の域を抜け出せていない。
(;^ω^)「おっおっ……」
さっきから2人の間で右往左往してるブーンはスプリンター。
俺より10歳も下の若い選手だが、スプリント力はそん所そこらのスプリンターには負けないレベルだ。
うちのチームのアシスト陣が貧弱過ぎて、今季はイマイチ勝ちきれるシーンが少なかった。
('A`)「……」
ちなみに俺はパンチャー。
平地も行けるが山でもそれなりにアタックは決めれていると思う。
この脚質と無駄に多いスタミナのおかげで俺はもっぱら逃げ専門。
時たまエースのアシストをすることもあるが、ここ最近は殆ど記憶にない。
- 9 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:16:05 ID:B7c3z6TA0
あと他にも選手が数名……いたはずだが、半数は今回の大会への参加をキャンセルした。
理由としては「コンディション不良」「身体の怪我・不調」ということになっている。
来年の契約先に行く前に怪我なんてしてられるか! という事なのだろう。
それはそれでプロとしては正しい。
チーム解散が決まり、若手が多いチームだったウチは選手の行き先がすぐに決まっていった。
特にモララー、ショボン、ブーンの3人はウチのような弱小プロコンチネンタルチームからプロチームへの移籍が決まった。
栄転と言ってもいいだろう。
ただ……俺みたいな年寄りはどうも需要がないようで、今のところパッとしたオファーは来ない。
あったとしてもヨーロッパ以外のチームだったりする。
こんな状況をどうにかしないといけない。
昔ならそう自分を奮い立たせていただろう。
- 10 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:17:27 ID:B7c3z6TA0
- しかし、最近はそういった沸々とした闘志が湧いてこないのだ。
それは俺がこのチームに毒されたせいなのか、それとも歳を喰ってしまったせいなのか。
それは分からない。
だが、まだシーズンは終わっていない。
1ヵ月後にはシーズンラストのシベリア~ビップのクラシックレースが控えている。
このレースを終えると、うちのチームの参加予定の試合は無くなり、いよいよもって解散だ。
スプリンターレースのこのレースでは、ウチのチームもモララーとブーンの二頭体制で優勝を狙う事になるだろう。
('A`)「(あいつらのアシストをしっかり決めてやるだけ……それが俺の仕事だろ……)」
やり合う2人と右往左往する1人。
そして全く無関心な他のメンツの光景を見ながら、俺は何とも言えない気持ちを燻らせていた。
- 11 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:18:05 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
シーズン最後のレース、シベリア~ビップの前日。
チームミーティングで監督が言った。
(´・_ゝ・`)「このチームは解散する」
本来ならば衝撃的であるはずのその言葉も、やけに陳腐に聞こえてしまう。
('A`)「……」
とは言え、物事にはタイミングというモノがある。
そう思ったのは俺だけでは無かったようだ。
- 12 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:18:49 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「あのさぁ、それって今言わなきゃいけない事か?」
(´・_ゝ・`)「もう既定路線ではあったが、今日撤退が確定したからな」
( -∀・)「俺たちのモチベーションはどーでもいいって訳だ」
(´・_ゝ・`)「……もうスポンサーにもチームにも縛られる必要は無くなった、自由に言って何が悪い」
( ・∀・)「……まぁそうだな、一理ある」
( ・∀・)「嫌いじゃないよ監督のそう言うところ」
(´・_ゝ・`)「そいつはどうも」
( ・∀・)「俺たちは良いんだぜ、行き先が決まってる組はよぉ」
( ・∀・)「でもよぉ、ドクオさんみたいな人に現実を突きつけちゃうのはどうかなーって……」
('A`)「!」
(#´・ω・`)「モララー! お前……」
( ・∀・)「ショボンが怒ってどうするよ、お前は決まってるだろ行き先」
- 13 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:19:37 ID:B7c3z6TA0
- (#´・ω・`)「そういう問題じゃない!」
いきなり立ち上がったショボンがテーブルを叩いた。
乗っていたペットボトルの中の水が跳ねて揺れる。
(#´・ω・`)「今まで散々アシストをしてもらった相手に対して敬意は無いのか!」
(#´・ω・`)「いくら明日もお前がエースの役割だからって調子に乗るなよ!」
( ・∀・)「あのなぁ、アシストはエースを助ける事が仕事、エースは勝つことが仕事」
( ・∀・)「ロードレースの基本の『キ』だぜ? そんな事を理解して無い訳じゃないだろ?」
( ・∀・)「俺たちは仕事をこなしてるだけなんだ……お前は息をする人間を偉いと褒めるか?」
( ・∀・)「そこに敬意とか感謝とかそういうモノは無い」
(#´・ω・`)「そういう問題じゃ……」
('A`)「もういい、よせ」
(#´・ω・`)「でもこいつはアシストを……ドクオさんを馬鹿に……」
- 14 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:20:14 ID:B7c3z6TA0
('A`)「モララーのいう事がもっともだ、アシストはエースを勝たせるのが仕事」
('A`)「それ以上の価値は無いし、それ以上の至福は無いよ」
(#´・ω・`)「……」
('A`)「それにチームが見つからないっていうのも俺の実力不足だからな」
('A`)「俺は何も言えないし、言わない」
(´・ω・`)「そんな……」
('A`)「ただなぁ、モララー、覚えておけよ」
( ・∀・)「あ?」
('A`)「今日も俺はお前を運ぶ、言われた事はやる……仕事はしっかり完遂する」
- 15 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:20:52 ID:B7c3z6TA0
('A`)「だからお前は勝て、絶対に勝て」
('A`)「俺がアシストに誇りを持つように、お前も誇りをもってエースとして勝て」
('A`)「……例えそれが消えてなくなるチームのためだとしても」
( ・∀・)「へっ」
( ・∀・)「言われなくても分かってますよ」
(´・_ゝ・`)「……もういいだろ、明日に備えろ」
そう言って監督は部屋を出ていった。
それに続くようにぞろぞろと出ていく選手たち。
最後に部屋に残された俺は、先ほどショボンが倒したペットボトルを拾い上げ、一口飲む。
『俺はもう、引退さ』
その言葉は、どうしても言えなかった。
- 16 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:21:47 ID:B7c3z6TA0
- ………
……
…
(´・_ゝ・`)「……以上が今日のオーダーだ。勝ちを狙えそうなら狙え」
レース当日。
いつにもまして適当なオーダーの打ち合わせを終えたチームカーの中は、微妙な雰囲気が漂っていた。
行き先が決まってやる気なさげな者。
このチームで走るラストという事で少し感慨深げな者。
新チームに向けてアピールをしようと気合いを入れている者。
他者多様の雰囲気が混ざり合うこの空間は、まさにカオスと呼ぶに相応しい気がする。
俺は変な空気になっているチームカーを降り、正面にあるチームのバイクラックから自分のロードバイクを降ろした。
青地に白の差し色が入ったバイク。
そしてダウンチューブに大きくプリントされている、メーカーロゴの『FOCOS』の黒い文字。
これがチーム・ビップ・ファイナーのバイクだ。
この見慣れたチームカラーも今日で見納めかと思うと、なんとも言えない気持ちになる。
さて、ローラーでも回そう。
そう考えてバイクを押すと、聞き覚えのある懐かしい声に呼び止められた。
- 17 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:22:37 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「ドクオ! 久しぶりだな」
('A`)「アニジャ!」
その声の主は、以前に所属していたチームの同僚、アニジャ・サスーガだった。
( ´_ゝ`)「出場チームにビップの名前を見かけたから、今度こそお前がいると思ってきたんだが正解だったな」
('A`)「地元だしな、そりゃあ走るさ」
こいつは俺と同期という事で色々と組んでレースにも何回か出たし、色々と遊んだりもした仲だ。
その後俺はビップに、アニジャはチーム・ラウンジに移籍して別々の道を歩んだ。
参加するチームが違えば当然参加するレースも異なる。
同じレースに参加したりしなかったりで会う機会が無かったから、実に数年ぶりの再会だ。
( ´_ゝ`)「今日はもちろん狙うんだろ? 優勝さ」
('A`)「地元だし狙いたい気持ちもあるけどな、今日もうちの奴らを勝たせようと思ってる」
( ´_ゝ`)「おいおい、なに日和ってるんだ」
('A`)「まぁそういうけどな、俺も色々と身の振り方を……」
- 18 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:23:22 ID:B7c3z6TA0
(´<_`;)「アニジャーっ!!!」
俺がアニジャに今の自分の考えを言いかけたその時、
アニジャそっくりな顔の若者が血相を変えて、叫びながら駆けてきた。
( ´_ゝ`)「おや、どうしたオトジャ」
(´<_`;)「どうしたもこうしたも無いだろう! いきなり消えやがって……監督がお怒りだぞ」
( ´_ゝ`)「ほう、あいつも一丁前に怒るようになったのか」
(´<_`;)「早く戻ってくれ、俺が代わりに怒鳴られるのはもうウンザリしてるんだ」
( ´_ゝ`)「と、いう訳ですまんなドクオ、俺は戻る」
('A`)「おう、さっさと帰れ帰れ」
( ´_ゝ`)「……なぁ、お前はまだやれるさ」
('A`)「……お前みたいな一流の選手とは違うんだよ」
( ´_ゝ`)「俺から言わせりゃ、お前も十分一流だよ」
- 19 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:24:12 ID:B7c3z6TA0
そういうとアニジャは手をヒラヒラと振りながらチームカーの方へと歩いていった。
その後ろに着いていこうとしたオトジャは一旦こちらを振り向き、軽く会釈するとアニジャの元へ駆けて行く。
アニジャはうちのチームを移籍してからと言うもの、エースのアシストを受け持つことが多かった。
勝たせるための献身的な姿勢と、何より自分でも勝てるだけの能力があったからに他ならない。
そんなアニジャが最近アシストしているのが、実弟のオトジャだ。
オトジャは今期のグランツールで新人賞を獲得した新進気鋭の選手で、早くも来季のマイヨジョーヌ筆頭とまで呼ばれている。
オトジャは他のレースでも圧倒的な存在感を見せつけ入賞・優勝をかっさらていたが、唯一今季出場していないのがクラシックだ。
サスーガ兄弟の最強体制で勝って、今シーズンを締めようという考えなのだろう。
最強の弟を引くスーパーアシストとして働くアニジャ。
そんな誇りと自信を持って歩くアニジャの後ろ姿は、昔よりも幾分大きく見えた。
- 20 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:24:51 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
レースの開始時間が近づき、スタートに続々と選手が集まってきた。
うちのチームの位置は真ん中前よりと言ったところか。
いつもどおり俺はトップチューブを跨いだ状態で、腕組みをしてコラムの辺りを見つめる。
そして息を強くフッと吐くのだ。
別にレース前のコンセントレーションという訳ではないが、自分のルーティーンとなっている。
(´・ω・`)「……ドクオさん」
息を吐いて一拍置いた瞬間、ショボンに話しかけられた。
普段、こんな時に話しかけてくるような選手では無いので、ビックリして顔をジッと見てしまう。
(;´・ω・`)
どうやらコンセントレーション中に話しかけられて睨まれていると思ったのか、ショボンが引いてしまった。
('A`)「いや、大丈夫続けて」
(;´・ω・`)「あ……すいません」
- 21 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:25:35 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「……ドクオさん、勝ちたくありませんか?」
ショボンの口から出たのは、あまりに唐突な提案だった。
('A`)「何言ってんだ、勝つのはお前らの仕事だろう」
(´・ω・`)「でもドクオさん、僕らの事在籍してからずっと引いてくれてたじゃないですか」
('A`)「それは俺の仕事だからだ。チームが勝つなら俺は喜んで逃げるし、脚も使うよ」
(´・ω・`)「……」
('A`)「だからそんな事気にしなくていいんだ」
(´・ω・`)「……じゃあ、単刀直入にいいます。あなただけ次のチームが決まってないのは目覚めが悪い」
('A`)「……」
(´・ω・`)「いつだってあなたはアシストとして最高の仕事をしてきたはずだ! 力だってある!
なのにまともなオファーが来ないなんて馬鹿げてる!」
- 22 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:26:17 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「見る目の無い他のチームのオーナーの奴らに力を見せつけてやるには優勝するしかないんだ! 勝つしかないんだ!」
(´・ω・`)「だから勝って下さい! そのためだったら今日はあなたのアシストだって水運び役だってなんだってしますよ」
こいつから、こんな言葉が聞けるとは予想外だった。
ショボンは、日頃から冷静沈着なクレバーな人間だ。
走りも性格と一緒で賢い走りをする選手で、その冷静さ故人間味が欠けていると思う事もしばしばある。
そんな人間から、全く思ってもみなかった言葉が飛んできたことで、自分は少し面食らってしまう。
('A`)「……ショボン、ありがとな。気持ちは受け取った」
(´・ω・`)「じゃあ……」
('A`)「でもな、俺はあまりに年を取りすぎた」
('A`)「もうとてもじゃないが若い頃の走りなんてできないし、何よりお前らを引っ張るだけで精一杯なんだよ」
(´・ω・`)「そんな事!」
- 23 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:27:09 ID:B7c3z6TA0
(ア゚口゚)『スタート1分前!』
スピーカーから流れたアナウンスが会場内に響いた。
今度こそ集中しなければいけない。
それは俺もショボンも同じで、ショボンは俺の脇からスッと離れて行った。
ショボンは才能あふれたいい選手だ。それは間違いない。
だが彼も若さゆえ、色々なモノが足りていない。
だが、その足りなさが心を動かすこともあるらしい。
さっきまでモヤモヤと燻っていた俺の中の何かの火種が、少し強くなった気がした。
俺は大きく息を吐き、空を見上げる。
空は鈍い鉛色の雲に覆われていた。
- 24 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:28:31 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「ロードレースファンのみなさんこんばんは! 本日はシベリア~ビップ、シーズン最後のクラシックレースをお届けします」
(実´∀`)「実況はワタクシ、モナオーと」
(解^∀^)「解説はゲーラでお送りします」
(実´∀`)「レースは先ほどスタートしまして、今はシベリア市中心部で約2キロのパレードランが行われています」
(実´∀`)「では、本日のコースを確認しておきましょう」
(実´∀`)「全長172キロ、シベリア市からビップ市中心部に向かって走ります。」
(実´∀`)「基本平坦基調のこのコースですが、だいたい120キロの地点に小さい山岳があります。ここが勝負のポイントになる事が多いですねゲーラさん」
(解^∀^)「そうですね、やはり平地が基本になっているので最後はスプリント勝負になりやすいこのレースなんですが、
ここの山岳地点でうまく逃げが決まると逃げ切りもありえますね」
(実´∀`)「ゲーラさんも現役時代シベリア~ビップで走った経験があるとか」
(解^∀^)「ええ、クオリ・ラ・NS時代に。最後にハット・ウシンに踏み負けて2位だったんですが……」
- 25 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:29:47 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「なるほど。現役時代スプリンターだったゲーラさんにお聞きしますが、あの山岳、どのように攻略していくべきでしょうか」
(解^∀^)「そうですねー……やはり先ほども言った通り、スプリントに自信の無いチームはここで逃げを打ってくるパターンが非常に多いです」
(解^∀^)「ですので、ここで逃げ集団とメイン集団の差をどれだけ離さないかが重要になってくると思われます」
(実´∀`)「そうですか、スプリンター勢を引き上げるアシスト陣にも注目ですね」
(実´∀`)「では今日のレースの注目選手を紹介していきましょう」
【 各チームの有力選手 】
・グラウグリッツ・AA ギコ・ファーマン (,,゚Д゚) age:26
・チーム・ラウンジ オトジャ・サスーガ (´<_` ) age:23
・ロッソ・ベルテール ロマネスク・スギラ ( ФωФ) age:24
・チーム・ビップ・F モララー・ボーネ ( ・∀・) age:23
- 26 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:31:00 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「全体的に若い選手が揃いましたね!」
(解^∀^)「多くの有力選手はジロ・ディ・ニーソクディア、いわゆるモニュメントのクラシックレースに参加しましたからね」
(実´∀`)「優勝候補として多く名前が挙がっているのはやはりこの人、オトジャ・サスーガ」
(解^∀^)「ええ、今年のツール・ド・フランスでもステージ2勝、さらに新人賞も獲得しました」
(実´∀`)「涙のマイヨジョーヌとなった第5ステージでの表彰台も記憶に新しいですね」
(解^∀^)「他のスプリンター陣に負けず劣らずなスプリント力もありますし、これは注目ですよ」
(実´∀`)「他の選手もミーラ~サシーモで勝利したギコを筆頭に、
ロマネスク、モララーといった若手有力スプリンターがずらりと並んでいます」
(実´∀`)「特にモララーは来シーズンにUCIプロチーム、DMC・サイクルチームへの移籍が発表されました」
(解^∀^)「あそこはギコが移籍してから有力なスプリンターがいませんでしたからね、
若手の有望株であるモララーの移籍は大きいと思いますよ」
(実´∀`)「なるほど。今回のレースは有力若手選手、特にスプリンターやパンチャーの脚質の選手の力試しといった感じでしょうか」
(解^∀^)「そうですね、逆にアシスト勢は酸いも甘いも知るベテラン勢が名前を連ねていますから、
かなり面白い展開が期待できるのでしょう!」
(実´∀`)「さぁ、そろそろパレード区間が終わり、レースが動き始めます!」
- 27 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:31:52 ID:B7c3z6TA0
- ………
……
…
パレードラン区間が終わり、スタートしてから既に40キロ近くは走っただろうか。
(;'A`)「フッフッフッ!!」
俺は今、逃げていた。
まず、パレード区間終了の合図であるフラッグが降られると同時に4人が集団から飛び出した。
その逃げに反応したのは俺を含めて3人。
集団はこの逃げを容認してくれたようで、この7人での逃げが今のところ成立している。
現在のメイン集団との差は2分弱。
どうやら大分スローペースで集団が進んでいるようで、この調子でいくともう少し差は開きそうだ。
このシベリア~ビップのレースは、シーズン終盤の秋に行われることもあって大分冷え込む。
更にシベリア山脈から吹き下ろす冷たい風が選手たちの気力をガンガン奪っていく。
そのため、序盤はスローペースで進むことも多いのがこのレース。
- 28 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:32:44 ID:B7c3z6TA0
(;'A`)「(しかし……おかしい、明らかに集団のペースが落ちすぎている)」
(;'A`)「(こっちがそんなに高速で飛ばしているわけでも無いし、分差が開くペースがおかしい)」
 ̄Z_ 『ドクオ、集団のペースが一向に上がらん。逃げ集団をもっと上げてくれ』
右耳のイヤホンから無線を通じて監督の指示が聴こえる。
(;'A`)「了解!」
逃げ集団は基本的に、一列に並び先頭を交代しながら進む。
受ける空気抵抗をなるべく少なくし、少ない体力の消耗で高速走行をするためだ。
勿論、俺も先頭で引くことになる。
このタイミングで、ジリジリとスピードを上げていく。
- 29 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:33:35 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「おっ、逃げ集団ペース上がってきましたかね?」
(解^∀^)「先頭の選手がエライ引いてますねー」
(実´∀`)「チーム・ビップ・ファイナー所属、ドクオ・ウッツ選手ですね」
(実´∀`)「ゲーラさん、このペースアップはどういう意図で行われているのでしょうか?」
(解^∀^)「そうですね、これは後続の集団のペースアップを狙っているのではないでしょうか」
(実´∀`)「逃げ切りを狙っているわけでは無いと」
(解^∀^)「ええ、距離もありますし。このペースで逃げ切っちゃうよ? というアピールのようなモノでしょうか」
- 30 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:34:30 ID:B7c3z6TA0
(解^∀^)「このコースでは中盤で山岳地帯が控えています。山岳ではスプリンターを引っ張るために若干集団の速度が落ちる」
(解^∀^)「さらに逃げ集団にはダウンヒラーのビコーズも入っていますし、下りが苦手な選手もいません」
(解^∀^)「このペースで分差が付けばこの協調体制が解消される理由も特にありませんから、尚更逃げ切られる可能性が高くなります」
(解^∀^)「なので、どうしても山岳手前で逃げは吸収したいのがスプリンターチームの思惑でしょう」
(解^∀^)「逆に、逃げ集団は山岳地帯までにある程度時間差をつければ、逃げ切りが見えてきますね」
(実´∀`)「あぁー現在4分弱の差で残り120キロ、集団もペース上げてきましたね」
(実´∀`)「この調子でいくと丁度山岳手前で集団が吸収される計算になりますね」
(解^∀^)「10キロ=1分の法則ですね。メイン集団は10キロで1分差を詰めていく計算で先頭を泳がせているというやつです」
- 31 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:35:15 ID:B7c3z6TA0
 ̄Z_ 『よーしよくやったドクオ。あとはい……手前……れるよ…にコントロー……』
(;'A`)「フッ、フヒッ……了解」
さっきから出てきた霧のせいだろうか?
聞こえづらい事この上ない無線から監督の声が聞こえる。
ま、これで一旦俺の仕事は終わり。
あとは上手い事この逃げ集団を沈めていくだけだ。
- 32 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:36:12 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
ドクオが必死で逃げているその頃。
ショボン、モララー、ブーンは集団の真ん中前方寄りに位置していた。
ドクオが逃げに入っているため、集団を引く義務も発生しないチームビップ・ファイナーは涼しい顔で脚を溜めつつ集団を走っている。
( ^ω^)「チームカーからボトル貰ってきますお」
そういって集団の後方へブーンが下がると、モララーが隣のショボンの方を向いてしゃべり始めた。
( ・∀・)「ショボン」
(´・ω・`)「モララー、なんだいきなり」
( ・∀・)「いやー、あの負け犬を勝たせようとするアホの会話がスタート前に聞こえてきてな」
( ・∀・)「てっきりお前がゴール前で『エース様を差し置いて引っ張ろうかなー』とか考えてないかなと思ってよ」
(;´・ω・`)「……聞いていたのか」
( ・∀・)「へっ、いつもクソマジメな顔したショボン君がより一層マジメな顔してたモンだからね、つい立ち聞きしちまったよ」
( ・∀・)「で、なんかすっげー馬鹿な話してるから途中で聞くのやめたけど」
(´・ω・`)「何がおかしいっていうんだ?あの人を他のチームに評価させるには勝たせるのが一番だろ」
- 33 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:37:05 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「……もうあの人は『自分が勝とう』なんて考えすら持てねえんだよ」
( ・∀・)「『他者が勝つためのアシスト』という考えに執着しすぎて勝ち方を忘れちまってる」
(´・ω・`)「……」
( ・∀・)「そしてずーっとあの人は燻ってきた」
( ・∀・)「燻って燻って、腑抜けになっているのがあの様だよ」
(´・ω・`)「……でも」
( ・∀・)「そんな人間が他のチームからも魅力的に見えるわけがねえだろ」
( ・∀・)「よって、オファーは来ない」
(´・ω・`)「だから勝たせなければ……」
( ・∀・)「そう、だから勝たせる」
(´・ω・`)「……!」
- 34 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:37:52 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「勝たせたいなんて、抽象的な希望を持たせずに、勝たせるために動く」
( ・∀・)「それが一番だろ」
(´・ω・`)「……ありがとう、君の考えはよく分かった」
( ・∀・)「テメエのその中途半端な偽善が治れば幸いだよ」
(´・ω・`)「……ふん、ご忠告どうも」
( ・∀・)「はん、どうせ俺の忠告なんて聞かねえだろうがよ」
(´・ω・`)「じゃあ忠告ついでに僕からも一つ言っておくよ」
( ・∀・)「なんだ?」
(´・ω・`)「膝、痛めてるんだろ?」
( ・∀・)「……どっから聞いた、その話」
(´・ω・`)「聞かなくても君のペダリングで分かるさ、いつもアシストしてる人間を舐めてもらっちゃ困る」
( ・∀・)「……チッ」
(´・ω・`)「無理だけはしない事だ、今後の事も考えたらね」
- 35 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:38:45 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「分かってるよ……でも勝たなきゃならねーからな」
( ・∀・)「あの牙の抜けた老犬に最後の一仕事を……」
( ・∀・)「……ん?」
ラチェット音とペダルを回す音で包まれていた集団の中で、どこからかカチ、カチとギアを切り替える音がした。
(;´・ω・`)「なんだ? あのチームがなんで……」
( ・∀・)「……穏やかじゃなくなってきやがったな」
( ^ω^)「ボトルもってきましたおー! ……おっ?」
( ・∀・)「おいブタ、気合い入れろよ」
(;^ω^)「おっ!?」
(´・ω・`)「どうやらここからが本当の地獄になりそうだ」
- 36 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:39:47 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「現在テラ峠の入り口付近でメイン集団と逃げ集団の差は10秒、吸収は時間の問題ですね」
(解^∀^)「ドクオ選手のペースアップで思ったより脚を使ってしまった選手もいたようですからねー。
途中から完全に諦めてペース落としてましたし」
(実´∀`)「ドクオ選手の仕掛けは見事成功したと」
(解^∀^)「そうですね、上手くハマりましたね」
(実´∀`)「ドクオ選手の所属しているチーム・ビップ・ファイナーには先ほど注目選手にも上がりましたモララー選手が所属しています」
(実´∀`)「モララー選手を何とかしてゴール前のスプリントに送り込むのが今日のビップのオーダーでしょうか」
(解^∀^)「でしょうね。このチームにはモララー選手以外にも、
先日のクリテリウムで入賞したブーン選手のようなスプリンターもいますし、侮れませんよ」
(実´∀`)「今季での解散が決定したチーム・ビップ・ファイナー、有終の美を飾れるでしょうか!」
- 37 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:41:11 ID:B7c3z6TA0
ちらりと振り返る。
霧が出てきているためはっきりとは見えないが、黒い影がうごめいていた。
('A`)「あーあ、集団来ちまったよおい」
(;∵)「ゼェ……ゼェ……おまえが……ブレーキと加速と……」
('A`)「イヤーメンゴメンゴ、めっちゃ引こうと思ったらバテちゃってさー」
('A`)「あーあー俺も逃げ切らなきゃいけなかったのになー」
(:∵)「ゼェ……もう……ゼェ……いいわ……」
俺はそいつを見るふりをして逃げ集団にいる奴らの顔をざっと眺めた。
コントロールしたおかげで全員疲れた顔をしているように見える。
('A`)「(おうおう全くみんなお疲れちゃんね)」
('A`)「(でも分かってるぜ……こいつらの誰かが集団を落とすのに協力したってな……)」
この逃げ集団、俺が上手い事コントロールなんて事は出来るはずがない。
何かしらの意図をもって隠れながら協力した奴がいるはず。
あの最序盤から逃げるという事は先行逃げ切り、
もしくは俺のようにスプリンターチームから意図をもって送りこまれたかだ。
- 38 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:42:23 ID:B7c3z6TA0
今逃げているチームの内4人は目立つスプリンターがいない事は知っている。
残りの俺を含めた3人は、有力スプリンターを揃えたチームだ。
なので容疑者は必然的に2名に絞られる。
チーム・ラウンジか、ロッソ・ベルテールだ。
(;><)
ロッソ・ベルテールのビロード・イーデスは強烈な逃げを打てる選手。
あの集団のペースが上がらない状況だったらエースを変え、
逃げ集団をそのまま活かして、逃げ切りを目指すことも可能だったはずだ。
特にロマネスクはこの前の落車の怪我の回復具合がイマイチ。
スポンサーの指示での強行出場らしいし、こいつがエースだった可能性も十分ある。
| ;^o^ |
と、なると怪しいのはこいつだ。チーム・ラウンジのブーム。
今日のレースは間違いなくオトジャのためのレースにするはずだ。
こいつが勝ちに来ることはまず無い。
- 39 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:43:16 ID:B7c3z6TA0
('A`)「(いやでもしかし……)」
ペダルを回しながら思考の糸を張り巡らせていると、
先ほどからノイズを発する装置と化していた右耳のイヤホンから微かに声が聴こえてきた。
('A`)「こちらドクオ、なんだどうした?」
 ̄Z_『……が……ース……あげ……てる……さ……』
('A`)「??? 良く聞こえない、もう一回頼む」
 ̄Z_『……ソっ! もう遅い! ラウンジが来たぞ!!! 』
その無線を聴いた瞬間、俺たちは飲み込まれていた。
黒と水色のジャージに操られた、さながら亡者の群れのようになったメイン集団に。
(;'A`)「ウソだろおい!!」
ドクオ率いる逃げ集団は、見事に吸収される。
下手をすればそのまま置いて行かれそうな勢いを保ちながら走り続ける彼らに、圧倒された。
- 40 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:44:13 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「残りゴールまで78キロ、テラ峠入り口で逃げ集団吸収!
チーム・ラウンジ、そのままペースを落とすことなくまだ引きます!」
(解^∀^)「完全に集団をふるい落としにかけてますね!」
(実´∀`)「これまでの流れを振り返ります」
(実´∀`)「残り100キロ地点、テラ峠まで残り約20キロというところ。
メイン集団が逃げ集団を吸収するため本腰を入れようとしていました」
(実´∀`)「しかし、このタイミングでスルスルっとチーム・ラウンジがメイン集団先頭に上がってきまして一気にペースアップ」
(解^∀^)「あまりペースの上がらなかった集団に業を煮やしたのかと思いましたが……」
(実´∀`)「そのままラウンジが鬼引き! 逃げ集団のペースが落ちてきたのもありまして一気に飲み込みました」
(解^∀^)「ロッソのビロード、ラウンジのブーム、ビップのドクオ。
各々異なった意志を持って集団のペースダウン、もしくは切り離しを狙っていました」
(解^∀^)「確かに逃げ集団での目的は果たしましたが、結果としてラウンジの術中にハマってしまいました」
(解^∀^)「先ほどから無線の電波状況が悪いという情報が入っていましたが、
そのせいでうまく情報伝達が出来なかったのでしょうね」
(実´∀`)「と、いうよりむしろその混乱に乗じてチーム・ラウンジがペースアップを図ったという可能性は……」
(解^∀^)「うーん、どうでしょう。しかし……チーム・ラウンジほどのチーム力があると、考えられなくもないというのが恐ろしいところです」
- 41 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:45:01 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(;^ω^)
ブーンは戸惑っていた。
先ほどまで目の前で死にかけていた動物が、急に目覚めて暴れ始めたような混乱が頭の中を駆けていた。
チラリと後ろを振り返る。
白い霧の中に点々と見える黒い影、そして霧の中へ飲み込まれていく選手。
『次はお前だ』
霧の中からそう聞こえた気がして、慌てて前を向きなおす。
すると、斜め前を走っていたモララーさんがこちらを見てこういった。
( ・∀・)「おい豚、ビビんなよ」
相変わらずの言葉が飛んできた。
こんな山登ってる最中に……とも思ったが、口答えする勇気も余裕もないので黙って頷いた。
それを見て満足したのだろうか。フンッと鼻で笑ってモララーさんはまた前を向いた。
イラッと来たが、おかげで少し動揺していた頭も落ち着いた。
- 42 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:46:09 ID:B7c3z6TA0
今の状況を確認してみよう。
現在の位置は先頭を引くチーム・ラウンジよりやや後方と言ったところだ。
30キロ前と比べると、集団の選手は2/3程までに減っただろうか。
手元のサイクルコンピュータの表示を見ると、時速51~2キロあたりを前後していた。
先ほどまでのペースが時速35キロだったことを考えると、約15キロほど加速していることになる。
ハイペースで走る事を放棄した選手、最初からモチベーションが低かった選手……
今のところ千切れて行った選手はこういう選手が大半だ。
しかし、このペースが長く続けば千切れる選手が続々と出てくるだろう。
そう、例えば脚を使ったアシスト陣。
集団の恩恵があるとはいえ、このペースが続けば疲れ切った身体には相当な負担となる。
(;^ω^)「(このままだとブーンも結構キツイお)」
テラ峠に入り、道が徐々に平坦さを失い、徐々に斜面へと姿を変えてきた。
スプリンターにとって、山岳は難敵である。
比較的大柄、尚且つ速筋の固まりのような肉体をしているスプリンターにとって、
延々と坂を登るのは重荷を背負いながら登山をするが如し、である。
ブーンも例外では無く、山は苦手だ。
今回のような軽い山ならまだいいが、グランツールのような超級山岳などが待ち構える山岳コースではいつでもグルペットだ。
- 43 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:46:55 ID:B7c3z6TA0
( ^ω^)「(そう、スプリンターってのは山が大嫌いなんだお)
(;^ω^)「(でも……)」
( ・∀・)「おらっ、ここで千切れたら置いてくぞ!」
(´・ω・`)「引いてるのは僕なんだから、黙って引かれてくんないかな?」
(;^ω^)「(モララーさんはどんな山でもスイスイ登っていくお)」
(;´ω`)「(僕よりスプリント強いのに……)」
ブーンは顔を上げて汗を拭う。
その時、斜め前にいた黒と水色のジャージがチラリと目に入った。
彼、オトジャも反則的と呼ぶに相応しい選手である。
スプリント力もさることながら登坂力もあり、加えてTTが得意という、天性のオールラウンダー。
彼も化け物という称号が相応しいそんな1人だ。
- 44 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:48:02 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「どうしたブーン君、チーム・ラウンジのジャージがそんなに羨ましいか」
(;^ω^)「おおっ!?」
後ろからいきなりかけられた声の主がスルスルと自分の脇まで上がってくる。
あれ……この顔は……
( ´_ゝ`)「ああ、いきなり驚かせてすまんな」
(;^ω^)「おっ……」
( ´_ゝ`)「自己紹介がまだだった」
(;^ω^)「おー……」
( ´_ゝ`)「俺こそが今季ツールで2勝、そして新人賞に輝いた超新星!」バン!
( ´_ゝ`)「そしてイケメン過ぎる兄貴には及ばないがそれなりなルックス!」ババン!
( ´_ゝ`)「聞いて驚け見て笑え、我はチーム・ラウンジ最強のエース」バババン!
( ´_ゝ`)「オトジャだ」ババァーン!
- 45 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:48:37 ID:B7c3z6TA0
(;^ω^)「…………」
( ´_ゝ`)「…………」
.
- 46 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:49:40 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「あれっ、反応薄くね?」
(;^ω^)「ア……アニジャさん……」
(;´_ゝ`)「あらら、俺の事知ってるのか」
(;^ω^)「おっおっ、ドクオさんからレース前に言われましたお」
('A`)『多分、オトジャと顔そっくりな奴がアホなこと言ってくるけど、乗ってやらなくていいからな』
( ^ω^)「あと」
('A`)『あの兄弟は鼻見りゃ分かる。少し反ってるのが兄貴で、真っ直ぐなのが弟さ』
(#´_ゝ`)「ど……ドクオめ……俺の渾身のネタ潰しを……」
(;^ω^)「な、なんかすいませんお……」
(#´_ゝ`)「く、クソッたれぇ! 許さんドクオ!」
『あったまきた! ぶっ飛ばしてやる!』
と、言い残して後ろに下がって行こうとして速度を落としたその瞬間、アニジャの顔が歪んだ。
- 47 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:50:51 ID:B7c3z6TA0
痛みとかといった怪我の類で無い事はすぐに分かった。
なんせさっきから飄々としていたアニジャが必死に無線のマイクに向かって
(;´_ゝ`)「スンマセン、スンマセン」
と謝っている。
おおよそ、監督もしくはオーナーに怒号を飛ばされて、焦っているのだろう。
あ、でも監督のいう事は気にしないってドクオさんが言っていたから、多分オーナーじゃないだろうか。
ひとしきり「スンマセン」を言い終えると、ようやく説教が終わったのか、ふうーと長い息をついた。
( ´_ゝ`)「オーナーに怒られちった☆」
そういってウインクを僕の方に飛ばしてきたアニジャさんから反省の色は全く伺えなかったが。
(;^ω^)「……」
- 48 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:51:38 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「と、いう訳で楽しい楽しいトークの時間は終わり」
( ´_ゝ`)「ここからは仕事の時間だ」
そう言ったアニジャさんの顔から、先ほどまでの飄々とした雰囲気が消える。
ピッと前を見つめたその瞳は完全に、勝負師のそれへと切り替わった。
今までののんびりとした空気から一変して、一気に張りつめていくのが分かる。
( ´_ゝ`)「ではなブーン君。ゴールラインの先で会おう」
その言葉だけ残してアニジャさんは先頭から一気に抜けだした。
後ろに最強のエースを乗せて。
.
- 49 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:52:18 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)解^∀^)「「いったー!!」」
(実´∀`)「見事なカウンターアタック炸裂! 逃げ集団を吸収と同時にアニジャ・オトジャの最強コンビが飛び出していきました!」
(実´∀`)「いやぁ、まさかですね! ここでチーム・ラウンジがカウンターアタックをしかけてくるとは!」
(解^∀^)「今日のレースはゴール前のスプリントになると思ったのですが……いやはやこれは」
(実´∀`)「あー、グングン離れていきます! ここで逃がすのはマズい! レースが決まってしまいます!」
(解^∀^)「先ほどまでの高速ペースが効いてるんですかねー、少し動きが鈍い……」
- 50 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:53:08 ID:B7c3z6TA0
 ̄Z_『ドクオ、モララー! 行ってくれ! このまま逃げ切りを許すとヤバイ!』
(;'A`)「分かってるよそんな事は!!!」
ドクオが睨んでいた通りだった。
逃げも本集団もコントロールしきった、チーム・ラウンジが一気に勝負を仕掛けてきた。
しかし想定外だったのはサスーガ兄弟のアタックである。
無理はしてこないだろうと考えていた当てが外れてしまった。
 ̄Z_『ショボン……ブーン……引いて……! 万が一……場合はブーンを……でいく!』
(;・∀・)「何が万が一だ! このままだと完全に振り切られるぞ!」
 ̄Z_『…………』
(#・∀・)「クソッ、無線がまた切れやがった!」
- 51 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:53:48 ID:B7c3z6TA0
(;'A`)「行くぞモララー、霧で前が見えないだけでまだ10秒差くらいだ」
(#・∀・)「うるせー! 分かってるよ!」
( ・∀・)「おいオッサン、疲れ切ってるかどうか知らねーが気張って引いてくれよ」
(;'A`)「……分かってるさ、それが俺の仕事だ」
ここまで逃げ集団を引いてきた身には中々しんどいものがあった。
しかし、アシストはエースを勝たせるために動かなければいけない。
エースが鳴けと言えばワンと鳴く。
エースが3回まわってお手をしろと言えばする。
今日もエースは勝利をご所望だ。
ドクオはギアを1つ上げると、そのままダンシングで一気に坂道を駆け上がる。
( ・∀・)「いいぞ……俺のアシストさんよ……」
その後に続くようにモララーも坂道を登る。
まだ、サスーガ兄弟の後姿は見えなかった。
- 52 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:55:23 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「あ、追走でますね! チーム・ビップ・ファイナー! グラウグリッツ・AAからも!
……あぁ、ロッソ・ベルテールもいますね!」
(解^∀^)「逃げ切られたらマズいチームがこぞって送り込みましたね」
(実´∀`)「逆に言うとここで送り込めないチームは今日の勝ちの目は殆ど潰えたと言えます!」
(解^∀^)「この後あのサスーガ・コンビに追いつけるとはとても思えませんから」
(実´∀`)「残り60キロ弱となりました! ここからはテラ峠に入っていきます」
(実´∀`)「スプリンターのいるチームは運搬で多少遅れますし、送り込んだ逃げの選手の手腕次第で展開が変わりそうです」
(解^∀^)「いやー、オトジャは登りもいけますからねー、これスプリンターチーム、キツイかもしれませんよ」
(実´∀`)「様子を見守りましょう! 集団は今、テラ峠を登り始めたばかりです!」
- 53 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:56:12 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(´<_` )「なぁ、アニジャ」
( ´_ゝ`)「なんだいきなり」
(´<_` )「試合の前に話してたドクオって人……」
( ´_ゝ`)「余計な事を話さないでさっさと前を見て走れ」
( ´_ゝ`)「……あいつがやってくるぞ」
(´<_` )「おお怖い、まるで鬼みたいな選手なんだな」
( ´_ゝ`)「少なくとも俺とチームメイトの時はそういう選手だった」
サイクルコンピューターへと視線を落とす。
ケイデンスが少し落ちていた。
視界が悪く、坂の起伏が自分の体感でしか分からない今の状況下では貴重な情報源だ。
- 54 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:56:48 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「アシストではあったが……『勝たせるため』の執念は凄まじいものがあった」
(´<_` )「ほう? 自分で勝ち切るわけでも無いのにか?」
( ´_ゝ`)「自己犠牲の精神が強いんだ。チームが勝つためなら自分を犠牲に躊躇なくする」
(´<_` )「ほう、正しく献身的な人間なんだな」
( ´_ゝ`)「勝つためにでは無く、勝たせるために生まれた……天性のアシストなんだよ、アイツは」
( ´_ゝ`)「あいつもエースと一緒さ、チームを『勝たせるため』ならなんだってする」
(´<_` )「……そんな天性のアシスト様、ご到着のようだぜ」
その言葉を聞いて、アニジャは思わず振り返る。
そこには、霧の中から現れた、ドクオを含む追走集団の姿があった。
(;'A`)「ハァッ、ハァッ」
(;・∀・)「ヒュー、ようやくお会いできました!」
( ´_ゝ`)「ここからが勝負だぞ……オトジャ」
(´<_` )「分かってるよアニジャ」
- 55 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:57:34 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「追走集団、ようやく逃げ集団に追いつきました!」
(解^∀^)「結構かかりましたね……もうそろそろテラ峠も真ん中くらいですか?」
(実´∀`)「現在ゴールまで残り63キロ! そろそろ一番の難所である峠もピークです!」
(実´∀`)「どうですかね、これは……逃げ集団で決まっちゃいましたか」
(解^∀^)「うーん……メイン集団はチーム・ラウンジが完全に抑えちゃいましたから」
(解^∀^)「トラブルが無ければ逃げ集団が有利だと思いますね」
(実´∀`)「なるほど、では現在の逃げ集団のメンバーを確認してみましょう」
- 56 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:58:17 ID:B7c3z6TA0
【 逃げ集団 】
・グラウグリッツ・AA ギコ・ファーマン (,,゚Д゚) age:26
・ロッソ・ベルテール ビロード・イーデス ( ><) age:27
・チーム・ラウンジ オトジャ・サスーガ (´<_` ) age:23
・チーム・ラウンジ アニジャ・サスーガ ( ´_ゝ`) age:32
・チーム・ビップ・F モララー・ボーネ ( ・∀・) age:23
・チーム・ビップ・F ドクオ・ウッツ ('A`) age:32
(実´∀`)「……グラウグリッツ、キツイですねえ」
(実´∀`)「アシストが反応しきれず、いまだ集団内でゴチャゴチャしています」
(解^∀^)「ギコは結構純粋なスプリンター脚質だったと思うんですが……」
(実´∀`)「ええ、ですのでアシスト無しでよくこの集団に追いついて、食いついたなと」
(解^∀^)「……勝利への執念ですかねぇ……」
- 57 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 00:59:11 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(,,゚Д゚)「うおおおおおおおおおおおお」
(;><)「(なんでこの人こんな勢いあるんだろう)」
( ・∀・)「おい、ちゃんと前引けよ」
(,,゚Д゚)「分かってるぞおおおおおおおおおおおお」
そろそろ峠を登りきる。
今のところ離脱者はいない。
ギコがついてきたのは想定外だったが、まぁそれ以外は順当だ。
('A`)「(そろそろ下りが始まる……)」
('A`)「(どちらにしても一番やばいのはあいつ等)」
( ´_ゝ`)(´<_` )
('A`)「(マークしておかないとダメだ! 何をしてくるか分かるもんじゃねえ)」
( ´_ゝ`)「ようドクオ」
('A`)「……なんだ? 今は話す余裕は無い」
( ´_ゝ`)「そんなピリピリすんなよ、もう変な事は仕掛けねえよ」
('A`)「ウソつけ」
- 58 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:00:05 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「本当さ、もう小細工は無い」
(´<_` )「ただ純粋に力で勝負させてもらうぜ」
(;・∀・)「はっ、どうだか」
ドクオの後ろを走っていたモララーがしんどそうに顔を上げる。
流石にいくら山がある程度得意だと言っても辛い部分があるのだろう。
(;・∀・)「いきなり集団でスピード上げてカウンターアタック仕掛けてくる奴らの事を信頼できるか」
( ´_ゝ`)「あれはチームオーダーだからな」
(´<_` )「ああ、俺たちに何の罪もない」
('A`)「結果としてお前らのためだけどな」
( ´_ゝ`)「ま、いいだろ? 最終的に勝つのは俺たちの誰かになったわけだ」
( ><)「……そうなんですか?」
集団を引き終え、後ろに下がってきていたビロードが会話に割り込んだ。
(´<_` )「うちのチームが簡単にメイン集団を突破させると思うか?」
( ><)「……思わないんです」
霧のかかった視界が一瞬パァっと晴れた。
その先に見えるのは下りだ。
峠の登りが終わる。
- 59 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:00:52 ID:B7c3z6TA0
(#><)「だからここで仕掛けさせてもらうんです!!」
その瞬間、ビロードが集団から飛び出していった。
(,,゚Д゚)「!! 邪ッ!」
それに反応するようにギコもついていく。
(#'A`)「クソッ……」
それに食らいついていこうとしたドクオをアニジャがスッと止める。
( ´_ゝ`)「なぁドクオ、お前勝ちたいか?」
(#'A`)「当たり前だ! 俺のエースを勝たせなきゃいけねえんだよ」
( ´_ゝ`)「よし、じゃあ俺たちの『特急列車』に乗っていけ」
(´<_` )「アニジャ、いいのか?」
( ´_ゝ`)「どうせコイツらはついてくるよ」
('A`)「……駄賃は?」
( ´_ゝ`)「……お前との勝負」
- 60 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:01:44 ID:B7c3z6TA0
(;'A`)「はぁ? 俺はコイツのアシストだ、それにお前はオトジャのアシストだろう!」
(;'A`)「勝負もクソもあるかよ!」
( ´_ゝ`)「……誰が今日のエースがアイツだと言った?」
(;'A`)「……は?」
( ´_ゝ`)「俺だよ、俺が今日のエースだ」
(;'A`)「おいおい、どうかしちまったのかお前のチームは!」
(´<_` )「認めたくないが、こういうクラシックレースではアニジャの方が速いのでな」
(;・∀・)「おーい! このままだと逃げられちまうぜ!」
( ´_ゝ`)「どうせお前らのチームは解散だ、最後くらいオーダーを無視しても構うまい?」
('A`)「それとこれとは話が……」
( ・∀・)「分かった! 駄賃の話は下る最中に考える! だから頼む乗せてくれ!」
(;'A`)「おいモララー!」
( ・∀・)「このままだと逃げ切られちまう! 迷ってる暇はねえ! 俺は何もせずに負けるのだけは嫌だからな!」
( ´_ゝ`)「よし、とりあえず成立だ」
(´<_` )「我々の『特急列車』、存分に乗っていけ」
- 61 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:03:57 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
霧に包まれていた風景が、一瞬にしてパァっと晴れた。
先の道も壁のように立ちふさがっていた坂道から、下りに変わる。
中々晴れないこの霧と、延々と続く峠の坂道にうんざりし始めていたブーンにとってはようやくといった感じだ。
(;^ω^)「はー長かったお……」
(´・ω・`)「良かったね、後は下りと平坦だ」
(;^ω^)「ギコさんが飛び出していったっきり落ちてこないのが予定外すぎましたお」
(´・ω・`)「うーん、あの人は正直よく分からないからなあ」
そんな時、先ほどまで雑音発生器となっていた右耳のイヤフォンから無線が聞こえた。
- 62 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:04:49 ID:B7c3z6TA0
 ̄Z_『…………逃げ集団とは1分弱の差が付いている』
 ̄Z_『残りは50キロ、思ったより逃げ集団とのタイム差が開かなかったな』
(´・ω・`)「集団はチーム・ラウンジにコントロールされていて抜け出せません」
 ̄Z_『平坦に差し掛かった瞬間に飛び出すくらいしか後は無い』
( ^ω^)「了解ですお」
(´・ω・`)「もし、追いつくならば合流地点は残り10キロ?」
 ̄Z_『……そこまでに他の奴らを振り切って追いつけるならばな』
(´・ω・`)「……了解」
そう言うと、プツンと無線が切れる。
それと同時にショボンさんはため息をついてヤレヤレといった感じで首を振った。
- 63 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:05:28 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「ダメだな、僕たちの今日のレースはこれで終わりだ」
( ^ω^)「? でもさっき監督からの指示が……」
(´・ω・`)「僕たちがアタックをかけたら、何処が反応してくると思う?」
( ^ω^)「そりゃー逃げ集団のアシストを増やしたくないラウンジとか……」
(´・ω・`)「そう、だからダメ」
(´・ω・`)「結局僕たちがアタックをかけて前の集団と合流しても、
それに追従してきた他のチームのアシストを増やすことになるだけだ」
(´・ω・`)「そうなれば地力で劣る僕たちは負ける、絶対に」
- 64 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:06:32 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「今日出場している他のチームのメンバーもチーム・ラウンジ以上の戦力を上回る選手はいない」
(´・ω・`)「ロマネスクが万全ならあるいはという感じだったけど、今はメイン集団からも千切れてる」
(;^ω^)「おっおっ……」
(´・ω・`)「だから僕たちにできるのは逃げ集団がヘタれて、10キロくらいでメイン集団に吸収されるのを祈るだけ」
(´・ω・`)「そうなったらカウンターアタックで僕らは喜んで飛び出す」
( ^ω^)「じゃあ今日の仕事は」
(´・ω・`)「まぁ、ほぼ終わりだな」
( ^ω^)「後は祈るくらいかお……」
(´・ω・`)「あの2人なら上手い事やってくれるさ、きっとね」
- 65 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:07:13 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(;'A`)「ぐおおおおおおおお」
(;・∀・)「ふおおおおおおおお」
( ´_ゝ`)(´<_` )
俺たちはサスーガ兄弟の『特急列車』に乗っていた。
右に左にうねうねと曲がる急こう配を物凄い速度で下っていく。
視線をサイクルコンピューターに落とす。
時速100キロはゆうに超えていた。
- 66 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:08:04 ID:B7c3z6TA0
(´<_` )
一瞬で路面のギャップや障害物を判断し、コース取りを瞬時に判断していく姿は流石である。
それでいてほぼノーブレーキ。
ジリジリとした忍耐力と気力を求められるのがヒルクライムだとしたら、
頭のネジのぶっ飛び具合と度胸を求められるのがダウンヒルだ。
心臓に毛が生えているくらいの度胸が無ければ、この能力は身に付かない。
(;'A`)「(オトジャ、ダウンヒラーだったとは……
やはりあそこで逃していれば逃げ切りが決まっていたな)」
( ・∀・)「(ひぇー、末恐ろしいぜ……平地も行ける、山も行ける、加えて下りも速いときた)」
( -∀・)「(才能持ってる人間ってのは、とことん持たされるらしいな)」
( ´_ゝ`)「どうだ? 速いだろうウチの『特急列車』は」
(;'A`)「ああ、かなりな……話してたら一瞬で飛んじまいそうなくらいだぜ」
(´<_` )「おい! 余裕ぶっこいて喋ってると落車するぞ」
- 67 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:09:19 ID:B7c3z6TA0
しばらくすると、先ほど飛び出していった二人の姿を捉えた。
( ´_ゝ`)「どうする? 捕まえていくか?」
(´<_` )「ダメだ、あいつらは『遅い』! 合わせてたら後ろのメイン集団に飲み込まれちまう」
( ´_ゝ`)「了解!」
(;><)(,,゚Д゚)
時速80キロ超で下っていく彼らをパスし、我々は更に加速して下っていく。
( ´_ゝ`)「このまま一気に行くぞ! 平地もガッツリ飛ばしていく!」
(´<_` )「おう!」
(;'A`)「……スリリングだ」
(;-∀・)「……」
先ほどまで感じていた恐怖はいつの間にかぶっ飛んでいて、
どうやって彼らに食らいついていくか、それだけを考えるようになっていた。
坂も登れる、平地も速い、加えてダウンヒルもできる。
やはりオトジャは異次元の存在である。
末恐ろしい奴が現れたもんだと、切る風の音を聴きながら思った。
- 68 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:10:36 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「あーっと! 現在峠の下りが終わってゴールまで残り40キロの地点!
ここで逃げ集団からアタックしていた2名が捕まりました」
(解^∀^)「オトジャが異様な速さで捕まえに行ってましたからねえ」
(解^∀^)「ダウンヒラーとしてまた新しく才能を開花させたと」
(実´∀`)「あ、パスしますね! キャッチした2名、ビロードとギコを置き去りにしてそのまま走っていく!」
(解^∀^)「彼らも下りでは時速80キロ超で走行してたにも関わらず簡単にパスされていくとは……」
(実´∀`)「このまま高速体制でレース残り40キロも飛ばしていくのでしょうか?」
(解^∀^)「先ほどから一向に集団のペースが上がりませんし、
時折下りでかかるアタックにもチーム・ラウンジが徹底的にマークして潰しています」
(解^∀^)「逃げとメイン集団の差も2分に開きそうですし、これはこのままいってしまいそうですね」
(実´∀`)「いやー恐ろしい23歳! オトジャ・サスーガ!」
(実´∀`)「そういえば兄のアニジャ・サスーガはクラシックハンターでしたね」
(解^∀^)「そうですね、まあ近年は成績に陰りが見えていますしアシストに回る機会が多くなりましたが」
- 69 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:11:30 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「弟もその血を引き継いでいるんですかね」
(解^∀^)「そうかもしれませんねー、ステージレースもクラシックも行ける、
ある意味完全なオールラウンダーとして戦うための前哨戦として名が残る戦いになりそうですよ」
(実´∀`)「そんなサスーガ兄弟に喰らいついているのがチーム・ビップ・ファイナーの2名!」
(解^∀^)「来季DMCに移籍する有望な若手スプリンター、モララー・ボーネと、酸いも甘いも知るアシスト、ドクオ・ウッツの2名ですね」
(実´∀`)「この2人の選手についての見解をお聞かせ願えますか?」
(解^∀^)「モララーは言わずもがなですが、ドクオもグランツールでアシストを立派に勤め上げた経験もあります」
(解^∀^)「『やれ!』と言われれば『ハイ!』と全てをこなすタイプのエースアシスト、それがドクオです」
(実´∀`)「なるほど、その2人が残っているのはサスーガ兄弟にとってはかなりの脅威になりそうですね?」
(解^∀^)「展開を面白くしてくれることは間違いないでしょう!」
(実´∀`)「なるほど! 今後もレースの様子を見守っていきましょう!」
- 70 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:12:36 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
峠を越えてどれほど走ったか。
運営のバイクがボードで伝えてくれた@20km、1:24という数字が教えてくれる。
我々は先ほどから走り続けて残り20キロ時点までやってきた。
メイン集団とは1分24秒差がついているらしい。
逃げ切りが現実味を帯びてきた。
もちろん、10キロ=1分の法則から考えればまだまだ油断は出来ないのだが、
現在もチーム・ラウンジがコントロール出来ているという事なら中々厳しいだろう。
俺たち4人はローテーションを繰り返しながら集団で走行していた。
先頭をグルグルと変えつつ、1列で走行していく。
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえるのは、大人数でも少数でも変わらない。
- 71 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:13:29 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「おいドクオ」
引き終えたアニジャが最後尾に降りてくると、前にいたドクオへと話しかけた。
('A`)「なんだ?」
( ´_ゝ`)「いや……この風景が懐かしく思えてな」
( ´_ゝ`)「ソウサク・シュガーハウスにいた頃を思い出した」
('A`)「昔、あのチームでも俺はアシストだったな」
('A`)「お前がエースで、俺がアシスト……」
( ´_ゝ`)「そうだな、その組み合わせで何レースも走ってきた」
( ´_ゝ`)「懐かしいな、何もかも」
( ´_ゝ`)「色々時間が変えちまった、俺たちも含めて」
('A`)「それはしょうがない事だ、過ぎ去る時間は誰にも変えられない」
( ´_ゝ`)「……お前、まだまだ出来るよ」
('A`)「どうした、いきなり」
- 72 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:14:24 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「『戦える』と言ってるんだ」
( ´_ゝ`)「数年ぶりに一緒に走ってみて、なおさら確信したよ」
('A`)「……俺はエースの踏切台、それ以上でもそれ以下でもねえ」
( ・∀・)「だからアンタは牙の抜けた老犬なんだ」
前で引いていたモララーが、降りてきたと思いきやドクオと並走し始める。
( ・∀・)「アンタはアシストという名分に頼って、自ら勝負することから逃げてるだけ」
( ・∀・)「自分で踏み切れる能力があるにも関わらずだ!」
(;'A`)「おい、どうしたモララー」
( ・∀・)「これまでのレースでも今日のレースでも、逃げた後にもう一度抜群の逃げを打てる選手がショボい訳ねーだろ」
( ・∀・)「おっさんが何考えてるかは知らねー! でも今日みたいな最後の日はいいんじゃねーのか!」
( ´_ゝ`)「……」
- 73 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:15:17 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「おいアニジャさんよ、さっきの駄賃払うぜ」
(;'A`)「おい!?」
( -∀・)「おっさんを勝たせる! お前と勝負させる!」
( ´_ゝ`)「グッドだ」
(;'A`)「バカ野郎! お前が勝てるかもしれねえレースだぞ!」
( ・∀・)「もうどーせ無くなるチームでの勝ちなんて数える意味なんて無いね!」
( ・∀・)「このあとプロチームで勝ち星を稼げばそれでいい!」
(;・∀・)「それに……俺の膝も結構キテるんだ、どうせこんなんじゃ踏み切れねえ」
('A`)「お前……!」
( ・∀・)「だから今日は、今日だけは、勝つのを手伝ってやる!」
( ・∀・)「俺のアシストなんだろ!? 何でもするんだろ!? だったら俺のために勝ってくれ!!」
- 74 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:16:09 ID:B7c3z6TA0
 ̄Z_『……おい、モララー何言ってるんだ?』
( ・∀・)「あ、チクショウ、無線入りっぱなしだったか」
 ̄Z_『お前の仕事が勝つことだ! ドクオなんかに情をかけている場合じゃ……』
( ・∀・)「うるせー」
モララーは右耳からイヤフォンを引っこ抜く。その顔は満足気だった。
( ・∀・)「俺の仕事が勝つことなら、今日はおっさんを勝たせることがお前らに対する『勝ち』だ」
( ・∀・)「よーく覚えておけよ?」
( ´_ゝ`)「おう、しかと聞いたぞ、その言葉」
(´<_` )「ああ、確かに聞いた」
(;'A`)「……まったくよお」
- 75 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:16:48 ID:B7c3z6TA0
ドクオはやれやれとため息をつくと共に、心の奥にフッと火がつくような感覚を覚える。
それはなんだか懐かしいような、あるいは今まで燻っていたものが一気に盛り上がったのか。
それは未だに分からない。
が、確かに感じたことが一つだけある。
身体が、そして自らが勝利を求めていた。
.
- 76 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:17:44 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(実´∀`)「さぁ! 残りレースも5キロ切りました!」
(解^∀^)「レースも最終盤といった感じですね」
(実´∀`)「逃げ集団とメイン集団の差は14秒まで縮まりました! こちらもまだ分かりません!」
(解^∀^)「ええ、チーム・ラウンジが完全にコントロールしきれず、でしたね……」
(実´∀`)「途中、メイン集団に復帰したロッソ・ベルテールのロマネスクがアタックを仕掛けて決まりかけましたが!」
(実´∀`)「そう簡単には行きませんでした!
同じく逃げ集団に送り込んでいるチーム・ビップ・ファイナーのショボンとブーンのコンビが上手く反応!」
(実´∀`)「その後追い上げてきたチーム・ラウンジと共闘して上手く潰す場面もありました」
(解^∀^)「あれは流石でした!!」
- 77 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:19:00 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「しかしやはりスプリンターチームが黙っていません!
3チーム、グラウグリッツとロッソ・ベルテール、そしてTCRモバイルの3チームが協調!
チーム・ラウンジの組織力を数で粉砕し、集団は大きくペースアップ!」
(実´∀`)「既に逃げ集団の後方を捉えるかという位置までやってきています」
(実´∀`)「一方のメイン集団はマシントラブルも無く、順調にローテーションを組みながらここまで走ってきました」
(解^∀^)「地力のある4人ですからねー、これは順当と言っていいですね」
(解^∀^)「スプリンターと言えど、オールラウンダーとしてチームで役割をこなしているモララー」
(解^∀^)「ルーラーとしてもパンチャーとしても行けるドクオ! 今日の前半も活躍しました!」
(解^∀^)「そして元々クラシックレースが得意なアニジャ、そして最近売り出し中のオールラウンダーのオトジャ!」
(解^∀^)「熱いメンバーですよ」
(実´∀`)「しかし今日は少し様子が異なる! オトジャがアニジャを引き、モララーがドクオを引くという場面が目立ちます!」
(解^∀^)「これは正直想定外ですねー!」
(実´∀`)「しかし今日はアシスト同士のゴール前争いという珍しいモノが見れそうです!」
(解^∀^)「市街地での走り、期待してみていきましょう!」
- 78 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:20:01 ID:B7c3z6TA0
最後の残り5キロのバルーンが見えた。
ここからはビップの市街地だ。
先ほどまでの視界一面に広がる平坦の世界から、今度は細やかな路地に入り込んでいく。
観客の数も徐々に増え始め、コースの脇を賑わす。
街中で見通しのきかない石畳の路地が、一面に敷き詰められている。
ここからが、更なる地獄の始まりの入口だ。
(;'A`)「ぬうううん……」
ガタガタと揺れる車体に身体。路面に取られるハンドル。
これまでの整地されていた路面とは異なり、ギャップに苦しむことになる。
一般人の自転車乗りなら落車するか、はたまたサイクリング程度に速度を落とすことで対応するだろう。
しかし、俺たちはプロだ。
そして今はレースだ。
時速は40キロを超えるか超えないかくらいで突き進む。
路面の変化に急速に対応できるように下ハンドルを握り、敏感にギャップを察知する。
- 79 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:21:03 ID:B7c3z6TA0
それだけでも大分神経はすり減っていく。
加えて相手との駆け引きもある、凄まじい世界がここから始まっていくのだ。
( ・∀・)「落っこちるなよオッサン!」
そう言ってガンガンと踏み込んでいくモララー。
普段引いている相手の背中を見るのはなんだか新鮮な感じだ。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
サスーガ兄弟は静かに、それでいて淡々と走り続けていた。
先ほどから協調体制は解消されている。
いつもなら、ここからどう勝たせるかを考える時間帯に入っていく。
しかし今日は違う。
『エース』として勝ちに行くことを考える。
- 80 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:21:59 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「さあ残り3キロを切った! グングンとスピードを上げていくモララー・ドクオ組!」
(解^∀^)「早速動いてきました!」
(実´∀`)「それに反応するサスーガ兄弟! あぁ、後ろに集団も見えてきた!」
(;・∀・)「やっべ! 集団来てる!」
(;'A`)「分かってる! 焦るな! 必死に踏め!」
(;'A`)「臆せば死ぬぞ!」
(;・∀・)「ちっくしょ、このエース様のぶっちぎりの引きを見せたかったのによぉ!!」
( ´_ゝ`)「オトジャ、行くぞ」
(´<_` )「あぁ、行こう」
(解^∀^)「おっ! ここでサスーガ兄弟最後のアタックですね」
(実´∀`)「吸収されるかと言わんばかりに抜群の伸び! ここに食らいついていけるかモララー・ドクオ組!」
- 81 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:22:52 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「奴ら動いた! 行くぞオッサン! ここで行く!」
('A`)「分かった!」
( ・∀・)「後ろから結構なペースで集団が迫ってる、加えて普通にサスーガの兄弟とやりあっても勝てない!」
( ・∀・)「だからそれまでにある程度両集団と離れて、残り1キロでロングスプリントをかけろ!」
( ・∀・)「オッサンのパンチ力なら十分勝てる余裕はあるはずだ!」
( ・∀・)「分かったか『エース』!!」
('A`)「……ああ!」
( ・∀・)「今日は俺の日じゃない、あんたの日だ!」
( ・∀・)「絶対に勝てる!」
('A`)「……ありがとよ」
( ・∀・)「……よっしゃ行くぞ!!」
(実´∀`)「モララー・ドクオ組もついていくー!
集団からは20キロ地点で吸収されたギコがチームメイトとトレインを組んでやってきた!」
- 82 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:24:07 ID:B7c3z6TA0
ミ,,゚Д゚彡「うおおおおおおおおおおおお」
(,,゚Д゚)「うらあああああああああああああ」
(実´∀`)「豪快な雄たけび!! ものすごい速さだ!!」
(解^∀^)「数々のスプリントレースを制しているフッサールとギコのコンビです、これはゴール前が楽しみになってきましたよ!」
(実´∀`)「今残り2キロのゲートを通過! 右コーナー! 曲がりくねった石畳!」
(実´∀`)「後続との差はわずかに4秒!」
(;´・ω・`)「チィッ、ギコが出た!」
( ^ω^)「抑えますかお!?」
(´・ω・`)「いやここで反応しても集団が一気に上がるだけだ!」
(;^ω^)「祈る事しかできないのかお!!」
(´・ω・`)「ここに居る全員が勝とうという意思を持っている」
(´・ω・`)「それをより強く、大きく思う人間こそが勝利を得られる……」
( ^ω^)「……『誰よりも今日、強ければ勝ちますお』」
(´・ω・`)「……それ、誰からの受け売り?」
( ^ω^)「読んだマンガに書いてありましたお」
- 83 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:24:52 ID:B7c3z6TA0
(,,゚Д゚)「うがあああああああああああああああ」
ミ,,゚Д゚彡「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
(実´∀`)「ギコが逃げ集団の後方を捉えた! 集団もすぐ後ろに迫ってきている!!」
(;・∀・)「いくぞおおおお!」
(;'A`)「おう!!!」
(実´∀`)「ここでモララーがロングスプリントをかける!! 後ろにドクオも続く!!」
(;´_ゝ`)「喰らいつけ!!」
(´<_`;)「言われなくても仕留める!!」
(実´∀`)「逃がしてはならない! 逃がしてはいけない! サスーガ兄弟も反応!」
(実´∀`)「残り1キロ!!」
- 84 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:25:42 ID:B7c3z6TA0
(;・∀・)「いけええええええええええ!!!!!!」
(#'A`)「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
(実´∀`)「ここで今日のエース、ドクオが飛び出していったああああ!!!」
(解^∀^)「良い飛び出しです!! 切れのいいスプリント!!」
(;´_ゝ`)「どけっ! オトジャ! 俺も行く!!」
(´<_`;)「おう!! 行ってこい!!」
(#´_ゝ`)「しゃあああああああああああああああ!!!!」
(実´∀`)「アニジャも飛び出していった!!! ギコは!!! ギコはまだ来ない!!!」
ミ;゚Д゚彡「ひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
(#゚Д゚)「覇っ!!!!!!!!」
(実´∀`)「残り500メートル!!」
(実´∀`)「ここで弾丸のように飛び出していったギコ!! グングンと差を詰めていくゥー!!!」
(実´∀`)「まだ吸収されない! 逃げ集団!! 集団ものすごい速度で追う!!」
- 85 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:26:21 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「残り100メートル!!! 3人とも踏む!! 踏む!!」
(;´_ゝ`)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
(実´∀`)「スピードは緩む事無く3人ともゴールへと向かって突っ込んでいく!!」
(;'A`)「だりゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
(実´∀`)「ドクオ、必死に逃げる! しかしアニジャが追い上げるぅ!! ホイール1個分程度の差だ!!」
(;゚Д゚)「ちょああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
(実´∀`)「そして大外からギコがまくる!! とんでもない速度だ!!」
- 86 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:27:03 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「残り50メートル!!!」
(実´∀`)「まだだ! まだ分からない!!」
(実´∀`)「ホイール半分まで詰めてきたか!! ギコが、ああ!!! 伸びてくる!!」
(;゚A`)「っらああああああああああああああああああ!!!」
(;゚_ゝ`)「だあああああああああああああああああ!!」
(;゚Д゚)「ごおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
(実´∀`)「そしてゴールラインに飛び込んだあああああああああ!!!」
.
- 87 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:27:38 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「GOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAALLLLL!!!!!」
.
- 88 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:28:35 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「……最後は横一線、誰が最初にゴールラインに飛び込んだかは微妙なところ!!」
(実´∀`)「判定は写真判定に委ねられそうです」
(実´∀`)「集団が続々ゴールしていきます……解説のゲーラさん、感想をお願いします」
(解^∀^)「いやー、そうですねー……スプリント勝負になるのは事前の予想からあったんですが」
(解^∀^)「最後の最後に予想外のメンバーでしたから!」
(実´∀`)「中盤でチーム・ラウンジが一気に逃げを飲み込んでからのカウンターアタックでオトジャが行くのかと思いきや……」
(解^∀^)「まさかのアニジャでの勝負、加えてチーム・ビップ・ファイナーの大健闘がありましたからね」
(実´∀`)「チーム・ビップ・ファイナーも新進気鋭のエース、モララーが行くのかと思いきやまさかのドクオ勝負!」
(解^∀^)「元々グランツールなどで強力な逃げを打てる選手としてマークされていた時期もありましたから、
能力は疑いようがないのですが」
(解^∀^)「まさか、まさか、ここでロングとは言えスプリント勝負を仕掛けてくるとは……」
(実´∀`)「老兵は未だ死なず! 健在をアピールしたという感じでしょうか!」
(解^∀^)「そうですね! 素晴らしい走りでした!」
(実´∀`)「それでは結果を待ちましょう!」
- 89 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:29:28 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
最早酸欠に近かった。
1キロほど全力でもがいていたのだから当然と言えば当然なのだが。
チリチリチリと、ラチェット音が響く。
もうペダルを漕ぐ気力はこれっぽちも残っちゃいない。
(;・∀・)「オッサン! やったな!!」
(;'A`)「勝ったか……?」
最後、ゴールの場面ではハンドルを投げてフィニッシュした。
後ろから迫っていたアニジャにも、加えて大外からまくっていたギコにも、
本当に勝っていたのだろうか。未だに確証が持てない。
しかし少なくとも、全力で踏んだ。
悔いは、無い。
(´・ω・`)「ドクオさん!」
( ^ω^)「お疲れ様ですお!」
そう言ってドリンクを渡してくれる2人からボトルを受け取ると、一気に飲みこむ。
そして残りを頭にぶちまけると、少し落ち着いた気分になる。
- 90 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:30:21 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「モララーがアシストに回ってドクオさんがスプリントするって無線で聞いて……」
( ^ω^)「少し驚きましたお」
( -∀・)「……駄賃だからな」
( ^ω^)「駄賃?」
( ・∀・)「俺は特急列車の駄賃を払っただけなんだ」
( ´_ゝ`)「そうだな、いいものを払ってもらった」
('A`)「アニジャ」
( ´_ゝ`)「いい勝負だった、感謝する」
そう言って差し出してきた右手、ドクオはそれをグッと握り返す。
('A`)「久々だった」
('A`)「……ここまで勝利に飢えたのは、久々だった……」
( ´_ゝ`)「お前が心の奥底でそれをずっと思ってたって事だよ」
( ´_ゝ`)「そんな思いを抱えたまま……引退しちまってもいいのかい」
('A`)「知ってたのか」
( ´_ゝ`)「あれだけ気力の失ったお前の顔を見たら、それは何となく分かったよ」
( ´_ゝ`)「ダメだ、お前はまだ終わるには早い」
('A`)「……」
- 91 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:31:05 ID:B7c3z6TA0
( ・∀・)「そうだな! 俺を差し置いてエースをやった人間が引退なんてするわけないぜ!」
( ・∀・)「俺がそんなポンコツにワンレースとは言えエースの座を渡すわけなんて無いんだからな!」
('A`)「モララー……」
(´・ω・`)「そうですよ、まだまだ引退なんて早いです。あなたは走るべきだ、それがどこであろうと」
(´・ω・`)「同じ道の上なら関係ないでしょう」
( ^ω^)「僕も……若造の身分であんまり言えないけど」
( ^ω^)「今日の走りを見て、辞めるなんてとても考えられないですお」
(´<_` )「全くだ、あんな逃げが打てる選手なんてそういない」
( ´_ゝ`)「おおオトジャ、今日は大儀であった」
(´<_` )「本当だよ、レース前にいきなり『俺に勝たせろ』なんて言うもんだから」
(´<_` )「スポンサー様も監督もカンカンだったじゃないか」
( ´_ゝ`)「おいおい、ちゃんと無線で謝ったからノーカンだぜ」
( ^ω^)「ああ、あの無線はそういう……」
- 92 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:31:50 ID:B7c3z6TA0
( ´_ゝ`)「……とにかくだ、ドクオはまだ諦めるには早すぎる」
( ´_ゝ`)「お前の中で燻ってる闘志が燃え尽きるまで、もがいてみろよ」
('A`)「……頑張るよ」
('A`)「こんなレースをさせてもらったんだからな、あっさり辞めるなんて申し訳が立たない」
( ´_ゝ`)「グッドだ」
( ・∀・)「それでいい」
('A`)「……ああ、ありがとよ」
そう言って俺は天を仰ぐ。
アシストは献身しなければならない。
アシストは犠牲にならなければならない。
今日も俺は『エースとして』アシストを尽くし、勝ちを手に入れるかどうか。
そう言うところまで連れてきた。
空は鉛色から透き通るような青空へと変わり、雲の合間から光が差し込んでいる。
- 93 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:32:25 ID:B7c3z6TA0
(実´∀`)「さあ、ゴールの結果が出ました!」
(実´∀`)「栄えあるシベリア~ビップ、シーズン最後のクラシックレースの覇者は──!」
.
- 94 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:33:01 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
(´・_ゝ・`)「……諸君らと過ごす時間もこれで最後だ」
(´・_ゝ・`)「私が率いた2年半、実にいろいろな事があった……」
(´・_ゝ・`)「中でも私の頭髪が一晩のうちに……」
( ・∀・)「おーい、いい加減にしてくれよ」
(´・_ゝ・`)「……ゴホン」
(´・_ゝ・`)「それでは乾杯しよう」
- 95 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:33:43 ID:B7c3z6TA0
(´・_ゝ・`)「今日のドクオの勝利を祝して……乾杯!」
そう言うと一斉にワイングラスが掲げられて、チリンチリンとグラスの当たる音が鳴り響く。
('A`)「ありがとうございます……乾杯!」
( ^ω^)「乾杯!」
(*・∀・)「かんぱーい!! うぇーい!!」
(´・ω・`)「何はしゃいじゃってんのさ……牙が抜けた犬とか言ってたくせに」
(*・∀・)「うるせーやい、勝った時くらいはしゃがせろ!」
( ・∀・)「今までアシストの気持ちなんて分かんなかったけどよー……今日何となく分かったよ」
( ・∀・)「全力で引いた奴が最後に勝つ! ……くぅー、たまんねえな!」
- 96 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:34:31 ID:B7c3z6TA0
(´・ω・`)「それを僕らはいつもやってるんだけど」
( ・∀・)「分かってるよ、だから感謝しますわー」
(´・ω・`)「何だよ気持ち悪い。最後まで素直じゃなくやってろよ」
( ・∀・)「へっ、こういう時まで減らず口はマイヨ・ジョーヌになれねえよ」
('A`)「……今日は感謝してるよモララー」
(;・∀・)「なんだよオッサンまで! 気持ち悪いな!」
('A`)「俺に勝ちの気持ちを思い出させてくれた、それだけで感謝だ」
( ・∀・)「はっ! 勝ちの味を知っちまったら後は地獄だぜ!」
('A`)「そうかもしれないな、ここまで心地のいい場所だとは思わなかった」
( ・∀・)「へへっ……それを味わいたくてエースをやってるわけよ」
('A`)「それを味わいにいくよ」
( ・∀・)「はっ?」
- 97 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:35:26 ID:B7c3z6TA0
('A`)「俺、来期から日本に行こうと思う」
(´・ω・`)「日本……!」
('A`)「ジップ・ファンディーニっていう日本資本のチームから誘いを受けててな」
('A`)「エースとして迎え入れたいという事だった」
(´・ω・`)「じゃあ、まだ続けるんですね!」
( ・∀・)「しかもエースだってよ、このオッサンが!」
('A`)「俺はまだ終われねえ、終わっちゃいけねえんだ」
('A`)「今日で決めた、俺は行く。そして挑戦する」
( ・∀・)「じゃあ今日からオッサンとはライバルだな」
( ・∀・)「同じエースとしてな」
('A`)「……またいつか、同じ道の上で会おう」
( ・∀・)「……へっ、引退してなきゃいいけどな」
(´・ω・`)「……お元気で」
( ^ω^)「今度日本に行ったときは是非スシとテンプラをおごってほしいですお」
('A`)「頑張れよ……お前らもな」
そう言って一人一人としっかり握手を交わした。
ここから、それぞれが新たな道へと挑戦していく。
別れと決意の握手だった。
- 98 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:36:12 ID:B7c3z6TA0
………
……
…
周囲からラチェット音とギアを変える音が聴こえる。
集団の中はいつもこの音で溢れている。いつだってそうだ。
 ̄Z_『ドクオ、そろそろ前の方に準備だ』
右耳に嵌めたイヤホンから、無線にのって監督からの言葉が聴こえてくる。
('A`)「へいへい」
とにかく今日エースが勝てば、それでいい。
('A`)「なんてったって、それが俺の仕事だからな」
そうつぶやいて、俺は逃げの仕事を果たしたチームメイトから受け取ったボトルから水を飲む。
前の方ではここからゴールへ向けたエースとアシストのアタックが始まろうとしている。
俺はメイン集団前方で、その駆け引きの中に加わる。
- 99 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:36:51 ID:B7c3z6TA0
自転車ロードレースは大まかに2種類の人間で構成される。
エースとアシストだ。
エースは勝者だ。
ゆえにエースは前進しなければならない。
ゆえにエースは勝たなければならない。
そしてアシストにエースとして送り出してもらうだけ。
今日のレースはもらった。
.
- 100 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:37:27 ID:B7c3z6TA0
(#'A`)「ウラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
『やはり強い! ジップ・ファンディーニ所属、ドクオ選手がゴール前スプリントを圧倒的な速さで勝利しました!!』
('A`)「っしゃああああああああああああああああああああああああ!!!」
こういう日も、ある。
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- 101 名前: ◆FdAaxXTkkg 投稿日:2017/08/20(日) 01:38:02 ID:B7c3z6TA0
【('A`)echappee!のようです 終 】
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