(=゚ω゚)ここは魔法の国のようです
1 名前: ◆yowCKuRaWY 投稿日:2017/08/20(日) 21:09:58 ID:dib3C/W.0
むかし、むかし。
まだ竜と飛行機が
仲良く空を飛んでいた頃。

世界には、数多の国がありました。
光の国、音楽の国、科学の国……
名を挙げれば、キリがありません。

人々は好きな国へと移り住みながら
楽しく暮らしておりました。

2 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:14:50 ID:dib3C/W.0
さて、星の数ほどもある国々。
今回の舞台となるのは、
とある小国、『魔法の国』です。

ここでは、住めば誰でも
魔法を使うことが出来ました。
人口は少ないものの、
知る人ぞ知る場所です。


(=゚ω゚)


この物語は
魔法に魅せられた少年が
魔法の国に移り住み
ーーそして、去るまでのお話。

それでは
はじまり、はじまり。

3 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:15:49 ID:dib3C/W.0



 (=゚ω゚)ここは魔法の国のようです

 ー ブーン系紅白2017 夏の陣 参加作品 ー

4 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:16:45 ID:dib3C/W.0


 第1章 魔法の花と少年

.

5 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:18:17 ID:dib3C/W.0

魔法の国のはずれにある、小高い丘。
快晴な空の下、2つの家がありました。

どちらも年季が入った家で、
外見も非常に似ています。

その丘を進む人影が1つ。
背中には、身長よりも
大きなリュックです。

えっちらおっちら、影は進みます。
そして、家の片方に到着すると
カバンをドサリと おろしました。

(=>ω<)「到着だよぅ!」

人影ーー少年は大きくのびをし、
空気を思いっきり吸います。

少年の胸は、期待と酸素で
大きく膨らみました。

6 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:20:06 ID:dib3C/W.0

* * *

彼の名は伊陽。

伊陽は、太陽の国 生まれの
ごくごく普通の少年です。

強いて言うならば、
彼は植物を育てることが大好きでした。

例えば、小さな花を育てて両親に贈ったり。
例えば、果物を作っては友達に分けたり。
幼い頃は、土いじりに明け暮れていました。

成長するにつれ、植物から離れていった伊陽。
しかし彼はある日、
路地裏の屋台で一冊の写真集に出会います。
表紙には、草木が写っていました。

7 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:21:25 ID:dib3C/W.0
興味を持った伊陽は、本をパラパラめくります。
そして、 一枚の写真に目を止めました。

(=゚ω゚)(!)

それは、一輪の花。

幾重にも重なる花弁は、
不思議なことに1枚1枚
色が異なっていました。

赤、橙、黄、黄緑……
ちょうど時計回りに
虹色のグラデーション。

鮮やかな花は
青空に向かって大きく、
どこまでも真っ直ぐに咲いていました。

凛とした姿に、彼は心を奪われます。

8 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:23:10 ID:dib3C/W.0

(=*゚ω゚)

感嘆の息を漏らす伊陽。

詳細が気になった彼は
説明文をつぶさに読み始めます。

(=゚ω゚)(『この「天空の大輪」は魔法の国で撮影されたものだ』)

(= -ω-)(魔法の国……初めて聞く名前だよぅ)

(=゚ω゚)(『製作者は不明。魔法の国では住めば魔法が使用できる』)

(=゚ω゚)(『七色の花弁は、魔力を込めて実現したものと)

(=;゚ω゚)(え、品種改良じゃないのかよぅ!?)

(=゚ω゚)(じゃあ、長い年月掛けずに、思い通りの植物を作れるのかよぅ?)

9 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:24:49 ID:dib3C/W.0
(=-ω-)(魔法、スゴイよぅ)

(=゚ω゚)(これなら、なんでもできる……)

彼は、自分の血が沸き立つのを感じました。

それは小さい頃におぼえた、
植物を育てる前のワクワク。

何の種を植えよう?
無事に芽が出るかな?
どんな花を咲かすだろう?
どんな実をつけるだろう?

そんな、ささやかながら胸躍る感覚を
彼は十数年ぶりに感じました。

10 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:26:05 ID:dib3C/W.0
(=*゚ω゚)(……よし!)

伊陽は早速、不動産屋へ向かいます。
調べるは、魔法の国の空き物件。

幸い、最も安い家ならば
彼の貯金でも手が届く金額でした。

こうして伊陽は家を買い、
魔法の国へと やってきたのでした。

11 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:28:19 ID:dib3C/W.0

* * *

荷物を家に運び終えると、
彼は庭へ向かいます。

そこには、ボウボウに荒れ果てた畑……
ではなく、綺麗に整えられた畑がありました。
状態の良さに、伊陽は目を丸くします。

(=*゚ω゚)(この土、とっても良いよぅ! )

(=*゚ω゚)(何年も放置されてたはずなのに……)

12 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:29:05 ID:dib3C/W.0
(゚ω゚*=)(あっちは、川かよぅ!?)

(゚ω゚*=)(なら、水辺の植物もつくれるよぅ!!)

(=*゚ω゚)(逆に丘の上は、水はけがいいから……)

(=*>ω<)(ここなら何でも作れるよぅ!!)

伊陽は、くるくる畑を走り回ります。
それは、まるで子犬のよう。

きっと彼に尻尾があれば、
ちぎれんばかりに揺れるでしょう。

(=*゚ω゚)「最高だよぅ!」

空を仰ぎ、彼は叫びます。



すると ふと、彼は視線を感じました。

13 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:30:57 ID:dib3C/W.0
川 ゚ 々゚)

(=゚ω゚)「あ」


振り帰ると、女性が1人。
畑を囲う柵に、だらりと寄りかかっていました。
身にまとうは、灰色のローブと三角帽子。
どちらも、穴が空くほどボロボロです。
瞳は夜の谷底のように、黒々としています。



この家が魔法の国で最も安い理由。
それは、狂った魔女が
隣に住んでいるためでした。

14 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:33:50 ID:dib3C/W.0

(=゚ω゚)「はじめまして。僕、ここに越してきた伊陽と申しますよぅ!」

川 ゚ 々゚)

(=*゚ω゚)「どうぞ、よろしくだよぅ」

川 ゚ 々゚)

(=;゚ω゚)

彼女は、ぼぅと彼を見つめたままです。
でも伊陽は、なお言葉を紡ごうとします。
折角ならお隣さんと、
仲良くしたかったのです。

15 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:37:00 ID:dib3C/W.0

(=゚ω゚)「この後、街に行くつもりなんだよぅ」

(= -ω-)「ついでに、街を見て回ろうと思ってて」

川 ゚ 々゚)

(=゚ω゚)「街でオススメの場所、ありますかよぅ?」

(=*>ω<)「ここだけは絶対知っておくべきだよぅ!」

(=*゚ω゚)「みたいな、場所!」


川 ゚ 々゚)


(=;゚ω゚)「あ、えっと、街に限らず、魔法の国全体で」

(=;゚ω゚)「素敵な場所があれば……よかったら……その……」

もしかして、言葉が通じないのかな?と
伊陽が不安になりだした頃

川 ゚ 々゚)「私は」

魔女の唇が、動きました。

16 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:38:58 ID:dib3C/W.0

川 ゚ 々゚)「貴方が、どんな人か、知らない」

川 ゚ 々゚)「どこが、貴方に合うか、分からないわ」

少々掠れた声で、彼女は喋ります。
どうやら、コミュニケーションは取れそうです。
伊陽は、ほっと胸をなでおろしました。

(=゚ω゚)「じゃあ、あなたのお気に入りを聞きたいよぅ!」

(=゚ω゚)「この国で、一番好きな所はどこですかよぅ?」

川 ゚ 々゚)「……全部大好きで、全部大嫌い」
 _、
(=゚ω゚)「大好きで、大嫌い?」

(=゚ω゚)「どういう意味ですかよぅ?」

17 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 21:40:44 ID:dib3C/W.0
魔女はくるりと背を向けます。
そして、ふらふらと魔女自身の家へ。
その足取りは、まるで重力に見放されたよう。

(=;゚ω゚)「え、あの」

魔女は自宅の玄関を開けると、
中へと消えてゆきました。

あっという間の出来事に、伊陽は困惑します。

(=;゚ω゚)(変な人だよぅ……)


(=;-ω-)


(= -ω-)(でも)

(=゚ω゚)(悪い人じゃ、なさそうだよぅ)

少なくとも、呪いを掛けられることは無さそうです。

畑の確認を終えた伊陽も、荷解きのために
家の中へと消えていったのでした。


21 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/21(月) 23:59:34 ID:d/WNGbbc0


 第2章 お菓子の家は大騒ぎ

.

22 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:00:39 ID:91nvLQzE0
さて、家の片付けを終えた伊陽。
彼は丘から西へと進み、街に来ておりました。

日は若干傾いたものの、大通りは賑わっています。

(=゚ω゚)(この時間なら、まだ役所も開いてるよぅ)

伊陽が街へ降りた理由。
それは、引っ越しの手続きを済ませるためでした。

(=゚ω゚)(出来れば今日中に終わらせるよぅ!)

23 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:01:56 ID:91nvLQzE0
彼はレンガ畳の道をズンズン歩きだします。
すると伊陽は、奇妙なことに気づきました。

同じ場所にあれば、建物の外見は
たいがい似るもの。
しかし、魔法の国の街は、違いました。

(=*゚ω゚)(わぉ……!)

てんで、バラバラなのです。

屋根が尖った建物の隣には
ドーム状の建物。
乳白色もあれば、ビビッドカラーもありました。
吸血鬼が住みそうな古びた館。
妖精が好みそうなメルヘンな家。
かと思えば、都会のビルが顔を出し。
居酒屋の提灯と並んだ、白銀の宇宙船。

道を進む度に
めまぐるしく変わる風景は、
まるで遊園地のようでした。

24 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:02:45 ID:91nvLQzE0
伊陽は飽きることなく、
くるくると回りながら進んでゆきます。

ふわりと漂う、異国情緒のスパイス。
白い教会からは、うっとりするような歌声。
ヒヤリと風を感じ振り返れば、
果てしなく続く朱の鳥居。

どれもが、彼にとっては新鮮でした。


(=*゚ω゚)(魔法の国は、素敵なモノが、沢山あるよぅ!)
 _,
(=*゚ω゚)(どうしてあの人は、大嫌いなんて言ったのかよぅ?)

全部大好き、ならわかるのに。

丘での会話を思い出し、伊陽は首を傾げます。
魔女の謎は、深まるばかりです。

25 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:04:29 ID:91nvLQzE0
と、突然。
ドンと前方から、強い衝撃を感じました。

(=;゚ω゚)「わ」

バランスを崩し、伊陽は勢い良く尻もちをつきます。

ミセ*;゚ー゚)リ「ごめんね!大丈夫!?」

前には、不安そうに顔を覗き込む少女。
どうやら、彼女と ぶつかってしまったようです。

(=゚ω゚)b「平気だよぅ!」

伊陽は立ちあがり、元気に親指をたてます。

まだ痛みがありましたが、
この程度なら すぐに消えるでしょう。

26 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:06:01 ID:91nvLQzE0
ミセ*;゚ー゚)リ「本当に?」

ミセ*;゚ー゚)リ「私、魔法で湿布とか包帯を作れるよ」

(=゚ω゚)「本当に、全然、問題ないよぅ!」

伊陽は、その場で数回、飛び跳ねてみせます。

ミセ*´ー`)リ「良かったぁ……」

安心したのか、へにゃりと顔を緩める少女。
歳は、伊陽よりも幾らか幼いようです。

彼女は赤い頭巾を被り、
片手には麻のカゴを持っていました。

27 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:06:47 ID:91nvLQzE0
ミセ*゚ー゚)リ「あ、そうだ!」

少女は手をぽんと叩くと、
カゴからガサゴソ、何かを取り出します。

ミセ*^ー^)リ「お兄さん、これどーぞ!」

差し出してきたのは、マッチ箱。
とりあえず、伊陽は受け取ります。

(=゚ω゚)「これは……?」

ミセ*゚ー゚)リ「みんなに配ってるの!」

ミセ*^ー^)リ「まんまる大会を、よろしくね!」

彼女はペコリと頭をさげると、
トテトテ走り去って行きました。

28 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:08:08 ID:91nvLQzE0
あっという間に彼女の姿が見えなくなります。
しかし、彼女が張り上げた声は、
伊陽の耳にもよく届きました。


「まんまる大会ぃ!まんまる大会だよー!」

「まあるいものなら、何でもござれ!」

「猫も杓子も、大歓迎!」

「大会は2ヶ月後だよー!お忘れなくー!」


もらった箱を裏返すと、「RoundFestival」の文字が
印字されています。
彼女は まんまる大会とやらを 宣伝するために
マッチ箱を配っているようです。

29 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:09:24 ID:91nvLQzE0
(=゚ω゚)(これが、大会ってやつかよぅ)

伊陽は、引っ越し前に図書館で読んだ
ガイドブックを思い出します。

魔法の国では、大会と呼ばれる催しが
よく開催されます。
頻度は数ヶ月から半年に1回で、
時期や内容も大会によって様々。
基本的には、誰でも参加できるものでした。

大会が始まる日になると、
住人たちは魔法で作った品々を持ち寄り
街の大通りへ飾ります。

国が華やぎ賑わう様子は、
コンテストよりもお祭りに近いそうです。

30 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:10:07 ID:91nvLQzE0

(=゚ω゚)(今回は「丸い」が大会のテーマらしいよぅ)

丸いものなら、何がいいだろう?

(=゚ω-)(まんまるといったら、ほうき草かよぅ?)

魔法を使えば、今からでも間に合うかも。

(=゚ω゚)(ワイヤープランツも、葉が丸いから条件に合うよぅ)

あの家みたいに、パステル色にしたら綺麗かも。

(=-ω-)(普通は尖っているものを、魔法で丸くしたら面白い?)

例えば、薔薇の棘とか!

31 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:10:33 ID:91nvLQzE0

伊陽の頭の中でアイディアが次々弾けます。
それはまるで、ポップコーンのよう。

(=*゚ω゚)(ああ……早く育てたいよぅ!)

伊陽は、衝動に駆られます。
けれど、今の彼には用事があるのです。
植物は、家に帰るまでのお楽しみ。

(=*゚ω゚)(魔法の国、やっぱり素敵な所だよぅ)

彼はスキップしながら、目的地へと向かうのでした。

32 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:13:05 ID:91nvLQzE0

* * *

さて些細なハプニングがあったものの、
伊陽は無事、役所へ到着します。


魔法の国の役所は、不思議な建物でありました。
なんと、お菓子で できていたのです!

ただ道中で散々奇妙なモノを見たためか、
伊陽はさほど驚きませんでした。

(=゚ω゚)「失礼しますよぅ」

ウェハースのドアを、
崩さないよう細心の注意で押し開きます。

33 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:15:21 ID:91nvLQzE0
施設には甘い香りが充満していました。
広さは、子供が走り回って遊ぶのには、
やや狭いくらい。
長い長いチョコレートの机が
役所内を横断しています。

その中央に、1人の男が座っていました。

彼はボールペンで、せっせと書類を書いています。
両脇には、紙が、座高より高く積まれていました。

(´<_` )「今日はどんなご用件で?」

(´<_` )「建築物撤去申請なら右で」

(´<_` )「大会設営申請なら左の紙だよ」

この男が、役所を管理している人間のようです。

34 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:21:06 ID:91nvLQzE0
(=゚ω゚)「僕、引っ越しの手続きに来たんですよぅ」

(´<_` )「……なるほど」

すると役人は手を止め、
ドーナツの椅子から立ち上がりました。

胸元には星型のバッチ。
色は、ややくすんだ金色です。

(´<_` )「ではまず、名前を聞いてもいいかな」

(=゚ω゚)「はい、ここから東にある丘に越してきた、伊陽と申しますよぅ!」

(´<_` )「東の丘?」

(=゚ω゚)「 三角帽子を被った女性のお隣の……」

(´<_` )「ああ、東の魔女ね」

まだ生きてたのか、と彼は呟きます。

35 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:22:24 ID:91nvLQzE0
なるほど、彼女は街では”東の魔女”と
呼ばれているらしい。
折角なので、伊陽は隣人について
尋ねることにしました。

(=゚ω゚)「あのぅ、東の魔女さんって、どんな人なんですかよぅ?」

(´<_` )「さぁ……」

役人は顎をさすります。

(´<_` )「俺も前任者から名前を聞いただけ だからなぁ」

(´<_` )「街にも全く来ないから、てっきり死んだのだとばかり……」

(´<_` )「詳しく答えられず、悪いね」

どうやら、彼女は影の薄い人物のようです。

36 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:23:10 ID:91nvLQzE0
(´<_` )「ともかく、伊陽くん」

(´<_` )「魔法の国へようこそ」

右手を差し出す役人。
それは握手を求める仕草でした。

(´<_` )「新たな住人を、この国は歓迎するよ」

(=゚ω゚)「ありがとうですよぅ!」

伊陽はその手を固く握ります。
役人の手は伊陽よりも二回りほど大きく、
とてもゴツゴツしていました。

デスクワークをする人のものとは、
あまり思えません。

37 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:24:18 ID:91nvLQzE0
(´<_` )「この国での大ルールは、ただ1つ」

握手を解き、役人はピンと人差し指を立てます。

(´<_` )「『他者を傷つける行為を意図的に行わない』だ」

(´<_` )「これは肉体面だけでなく、精神面でも適応される」

(=゚ω゚)「つまり、人を殴ったり、悪口言っちゃダメ、ってことですよぅね」
_,
(=゚ω゚)「当たり前のことですよぅ?」

伊陽は怪訝そうに首を傾げます。

(-<_- )「……そう、当たり前のことだ」

(´<_` )「そして『当たり前』を守ってくれれば、何をしてもいい」

(´<_` )「どこに住もうが、はたまた国から出て行こうが、君の自由」

(´<_` )「よって、この国では引っ越しの手続きは必要ないんだ」

(=゚ω゚)「なるほど……」

38 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:25:51 ID:91nvLQzE0
ここで伊陽の脳裏に、一つの疑問が浮かびます。

(=゚ω-)「じゃあ税金はどうするんですよぅ?」

(=゚ω゚)「住民税の扱いや」

(´<_` )「魔法の国では税金を徴収していない」

(=゚ω゚)「……え」

(´<_` )「国の運営は、ボランティアだ」

すごいだろう? と役人はニヤリと笑います。
信じられない!と伊陽は頭を振りました。

(=*゚ω゚)「こんな素敵な国に、タダで住めるのかよぅ!?」

(´<_` )「みんな、好きでやってるからな」

(=*゚ω゚)「魔法みたいだよぅ……」

(´<_` )「ああ、魔法だね」

静かに微笑む役人は、
こころなしか誇らしげに見えました。

39 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:27:10 ID:91nvLQzE0
(´<_` )「従って、伊陽くんは何も申請する必要はないんだ」

(´<_` )「また別の用事があったら、ここへおいで」

(=゚ω゚)「わかりましたよぅ!」

お礼と共にお辞儀をし、扉へと進む伊陽。
砂糖がまぶされたノブへ手をのばした時

(=;゚ω゚)そ「わっ!?」

ドアがバンと開きます。
後ろへと倒れる伊陽。
本日2度目の尻もちです。

40 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:28:43 ID:91nvLQzE0
(# ゚д゚ )「邪魔するぞ!!」

入ってきたのは、大柄な男。
あまりの大声に、
伊陽の耳の奥が痛みました。

(´<_` )「今日はどんなご用件で?」

役人は涼しい顔で応対します。

(# ゚д゚)「どんなご用件か?」

(# ゚д゚)「耳の穴をかっぽじって、よく聞け!」

男はドシドシと足を踏み鳴らし、
チョコレートの机へと詰め寄ります。

男の背中から、無数の長い棘が生えているのが
見えました。
……身長よりも長い、ナタを引きずっているのも
見えました。

(=;゚ω゚)

とても穏やかな雰囲気では、ありません。

41 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:29:48 ID:91nvLQzE0
男の怒鳴り声を聞きつけ、
野次馬が役所入り口へ集まり出しました。

(# ゚д゚)「テメーは傲慢な野郎だ!」

(# ゚д゚)「役所?役人?糞食らえ!」

叫びながら、男は両腕でナタを持ち上げ

(# ゚д゚)「魔法の国は、もっと自由であるべきだ!」

振り降ろします。

スパンと割れる机。
チョコの欠片に混じって、
円柱の何かが宙を舞います。

ーー真っ二つになったボールペンです。

(´<_` )

(=;゚ω゚)「ひぃ」

42 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:30:50 ID:91nvLQzE0
小さく悲鳴を漏らした途端、
後ろから口をギュッと抑えられました。

ミセ*゚ー゚)リ「ヤマアラシの相手しちゃダメ!」

それは、通りでマッチをくれた少女でした。

(=;゚ω゚)「相手?ヤマアラシ?」

伊陽は男を刺激しないよう、小声で返します。

ミセ*゚ー゚)リ「あいつ、時々ここに現れるの」

ミセ*゚ー゚)リ「放っておけば、そのうち帰るわ」

(=;-ω゚)「あんな乱暴者が、野放しなのかよぅ?」

少女は微笑むと、首を横に振りました。

43 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:31:45 ID:91nvLQzE0
ミセ*-ー-)リ「『他者を傷つける行為を意図的に行わない』」

彼女が唱えたのは、さきほど役人から聞いたばかりの言葉でした。

ミセ*゚ 、゚)リ「『乱暴者』だなんて悪口、言っちゃダメだよ?」

(=;>ω<)「そんなこと言ってる場合じゃないよぅ」

ミセ*゚ー゚)リ「ダメなものは、ダメなの!」
 _,
(=;゚ω゚)

釈然としない伊陽が反論しようとした時、
彼女の体がぐぃと離れます。

44 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:33:52 ID:91nvLQzE0

(#゚д゚)「てめぇも腹が立つ!フザけた箱、配りやがって」

男ーーヤマアラシが、少女の胸ぐらを掴んでいました。

(=;゚ω゚)

(# ゚д゚)「魔法の国、舐めてんのか」

少女は、無言のままです。
表情も、こちらからは、わかりません。
でも伊陽には、彼女の手が
僅かに震えているのが見えました。

(# ゚д゚)「てめぇみたいなガキが、大会なんて余計なことするから」

(# ゚д゚)「この国が腐るんだ」

彼女の体がぶわりと浮き上がります。

次の瞬間、男は少女を地面へ叩きつけました。

45 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:35:14 ID:91nvLQzE0
ゴッ、と嫌な音。
ビスケットの床に、亀裂が入ります。

けれどヤマアラシは飽き足らず、
少女の腕を掴み上げます。
そしてハンマー投げのごとく、
体を振り回し、

ダン。

彼女を壁に打ち付けました。
ーー右脚が、妙な角度に曲がっていないか?

次は、髪を鷲掴み、顔面を。
キャンディの窓ガラスが割れ落ちます。

46 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:36:42 ID:91nvLQzE0
癇癪を起こした子供のごとく。
ぬいぐるみを振り回すように、
男は少女を何度も叩きつけました。

野次馬たちも、触らぬ神に祟りなしと
ほうぼうへ逃げてゆきます。

(=;゚ω゚)

伊陽は、ただ、立ち尽くしました。
まるで、体が麻痺したようでした。

47 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:44:41 ID:91nvLQzE0
半壊した屋根から、
夕日が差し込んだ頃でしょうか。
役所に響いていた、鈍い音が止みます。

(´<_` )「度が過ぎる。今回をもって処刑する」

(# д゚ )

いつの間にか、ヤマアラシは縄でぐるぐる巻きになっていました。
どうやら、役人のおかげのようです。

伊陽は、弾かれたように
少女の元へ駆け寄りました。

48 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 00:50:34 ID:91nvLQzE0
(=;゚ω゚)「大丈夫かよぅ!?」

ミセ*^ー^)リ「平気、だよぅ!」

少女は寝転がったまま、元気に親指をたてます。

ミセ*゚ー゚)リ「大会には、つきものだしね」

ミセ*゚ー゚)リ「魔法で治るから、ヘッチャラだよ!」

(=゚ω゚)「……そうかよぅ」

彼女の指は、先程と同じ様に、
僅かに震えていました。

49 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 01:03:48 ID:91nvLQzE0
(´<_` )「お二人さん、そろそろ役所を締める時間だ」

(´<_` )「外に出てもらって良いかな?」

役人は、ギリギリと縄を締めながら、伝えます。

ミセ*゚ー゚)リ「はーい!」

少女は匍匐前進で、ズリズリ出口へ進みます。

(=゚ω゚)「……分かりましたよぅ」

伊陽も、そそくさと役所を出てゆきます。

外に出ると、もうすっかり夕暮れ時。
魔法の国の街並は、宝石のように輝いています。

(=*゚ω゚)(やっぱり、綺麗だよぅ)

(= -ω-)(……ここは、素敵な国だよぅ)

伊陽は漠然とした”何か”をおぼえながらも、
お菓子の役所を後にしました。

50 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/22(火) 01:04:44 ID:91nvLQzE0
第2章は、ここまで。

次は、明日……ではありませんが、
22日の夜から。
どうぞ、お付き合い下さいませ。

52 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:03:45 ID:e2b40RME0
伊陽が魔法の国に越してから、
一晩が経ちました。

日の光が丘の斜面を照らしだし、
星々が水色の空に
溶けるように消えてゆきます。

(=゚ω゚) ~♪

そんな明け方、伊陽は畑で作業をしていました。
鼻歌まじりに、クワで土を整えてゆきます。

53 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:09:53 ID:e2b40RME0
次に伊陽は、地面にしゃがみ込みました。
伊能の左手には、小瓶。
中には、彼が昔 育てた花の種が入っていました。

記憶が正しければ、これはガーベラ。
夕焼けを吸ったようなオレンジ色の花弁が
伊陽のお気に入りでした。

土に指を差し入れ、穴を作ると
そっと1粒、落とします。

(=゚ω゚)(確かこれ、10年前のだよぅね)

(= -ω-)(どうか元気に、芽を出してくれよぅ!)

伊陽は祈りを込め、土を優しく被せます。

そうして彼は20個ほどの種を埋めていきました。

54 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:11:34 ID:e2b40RME0
あとは、早く芽吹くよう
魔法をかけるだけです。

そこで伊陽は、はたと気づきます。
  _,
(=゚ω゚)(どうやって、魔法を掛けるんだよぅ?)

魔法の国では誰でも魔法が使えるはずです。
でも彼は、方法を知りませんでした。

(=゚ω゚)(それっぽくやれば、出来るのかも!)

(=-ω-) スゥ

伊陽は両手を広げ、大きく深呼吸します。

(=*>ω<)「ちちんぷいぷいー!」

(=*゚ω゚)「アブラ、カタブラー!」

(=*>ω<)「ビビデバビデブー!」

そして、呪文(ぽい言葉)を精一杯唱えました。

(=*゚ω゚)「これで、どうだよぅ!?」

しかし、地面はウンともスンとも言いません。

(= -ω-)(うーん)

(=゚ω゚)(杖が必要なのかよぅ?)

55 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:14:30 ID:e2b40RME0
川 ゚ 々゚)「何、しているの」

(=゚ω゚)「あ、おはようございますよぅ!」

伊陽が奮闘していると、
隣の家から魔女が姿を現しました。

相変わらずの灰色ローブと三角帽子。
黒々とした瞳は、虚ろながらも
しっかり開いています。

伊陽の声で起きた、というより
元々早起きなようです。

(=゚ω゚)「ここに種を植えていたんですよぅ」

川 ゚ 々゚)「種」

魔女の瞳孔が、きゅぅと開きます。
ぼんやりしていた表情が、
幾らか引き締まったように みえました。

川 ゚ 々゚)「どうして」

(=゚ω゚)「街で、再来月にまんまる大会があるらしくて」

(=*゚ω゚)「僕、植物育てるのは得意な方だし、好きなんだよぅ!」

(=*゚ω゚)「だから、丸い植物つくって、大会に参加する予定だよぅ」

56 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:21:28 ID:e2b40RME0

川 ゚ 々゚)「何つくるの」

(=゚ω゚)「まずは、ガーベラを植えましたよぅ」

川 ゚ 々゚)「色は?」

(=*-ω-)「たしか、橙色のはずだよぅ」

川* ゚ 々゚)「どれくらいで咲くの?大きさは?」

段々と、彼女の声が大きく、早くなっていきます。
同時に、表情が柔らかくなっていきます。
伊陽の中で、ある予感が生まれます。

(=゚ω゚)(もしかして……!)

(=*゚ω゚)「魔女さんも、植物 好きですかよぅ?」

伊陽としては、かなり自信のあった予想。
しかし尋ねた途端。
  _,
川 - 々-)

魔女は眉間に皺を寄せ、ぎゅぅと目を瞑りました。
気まずい沈黙が流れます。

(=;゚ω゚)(あれ?)

57 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:22:59 ID:e2b40RME0
慌てて伊陽は話題を変えます。

(=;゚ω゚)「1個、質問したいことがあるんだよぅ」

(=゚ω゚)「魔法って、どうやって使うんですよぅ?」

(=゚ω゚)「この国の人なら、みんな魔法が使えるんだよぅね?」

(=;-ω-)「でも僕、やり方が分からなくて」

魔女は、さらに顔をしかめます。
  _,
川 - 々-)「……わたしが」
  _,
川 - 々-)「貴方に、教えられることは、ない」

(=;゚ω゚)「そ、そうですかよぅ」

(=;-ω-)「ごめんなさい、自分でちゃんと、調べてみますよぅ……」

彼女の強い口調に、たじろぐ伊陽。
彼は、魔女を怒らせてしまったのでしょうか?

58 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:23:56 ID:e2b40RME0

川 - 々-)「南に、壁がある」

(=゚ω゚)「え」

いえ、違うようです。

川 ゚ 々゚)「そこで、尋ねると、いいわ」

川 ゚ 々゚)「誰か、居る、だろうから」

川 ゚ 々゚)「タマゴには、気をつけてね」

魔女の表情は和らぎ、いつも通りに戻っていました。

(=*゚ω゚)「……はいですよぅ!」

朝日を受けたその顔が、
なんだか伊陽には
笑っているように見えたのでした。

59 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:24:31 ID:e2b40RME0



 第3章 ハンプティダンプティ落っこちろ

.

60 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:33:00 ID:e2b40RME0
さて、魔女に勧められた伊陽は
街のある西ではなく、南へと向かいます。

伊陽はまもなく、石積みの壁に突き当たりました。

(=゚ω゚)「ここかよぅ?」

その壁は伊陽の背より少し高く、
左右に向かって果てしなく伸びています。
塀、と表現する方が正しいかもしれません。

伊陽は壁の先を目で追います。

61 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:33:33 ID:e2b40RME0
壁の先端には人影がありました。
白いターバンを被った男性が、
あぐらを組んで座っています。

話しかけようか、
伊陽が考えあぐねていると
  _
( ゚∀゚)「そこのにぃーちゃん!『材料』をくれないかい?」

男の方から、声を掛けてきました。

(=゚ω゚)「材料って、何のですかよぅ…?」
  _
( ゚∀゚)「『壁』の材料さ!」

(=゚ω゚)「でも僕、石なんか持ってないですよぅ」

伊陽が断ろうとすると、男はニカッと笑います。
健康そうな白い歯が、浅黒い肌に映えました。
 _
( ゚∀゚)「石じゃあ、練習にならないだろ」
  _
( ゚∀-)「壁とは かけ離れたモノをくれ。何でもいい」

62 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:38:36 ID:e2b40RME0
伊陽は首を傾げながらも、ポケットを漁ります。
指先に当たったのは、
昨日もらったマッチ箱と
種の詰まった小さな小瓶。

(=゚ω゚)「どちらか、使えるますかよぅ……?」

彼はマッチ1本と、
小瓶に目印として巻いていた
緑の針金を差し出しました。
  _
( ゚∀゚)「把握した。両方もらおう」

男は2つの材料を恭しく受け取ります。
  _
( ゚∀゚)「では、始めようか」

63 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:39:25 ID:e2b40RME0
まず男は緑の針金を指でつまみます。
そしてメトロノームの針のごとく、
左右に揺らし始めました。
伊陽はそれを、じぃと見守ります。

(=゚ω゚)「…?」

そのうち伊陽は、あることに気づきました。
針金が往復するたびに、少しずつ針金が
大きくなっているのです。
長く、太くなるにつれ、
”針金"の表面はてらてら光り出します。

それがボトンと地へ落ちた時、
伊陽は”針金”の正体を理解しました。

(=*゚ω゚)「ヘビだよぅ!」

伊陽が驚きの声を上げると、
男は不敵ににウィンクします。
  _
( ゚∀-)「本番は、ここからだぜ」

64 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:39:59 ID:e2b40RME0
地面で静かに待つ蛇に、マッチをこすりました。
すると、蛇の体に炎が走ります。

蛇は、しかし熱さに悶えることはなく、
ゆったりと動き続けます。
どうやら、魔法の炎は熱くないようです。

翡翠色の身に紅の炎を纏った蛇は、
宝石で出来た彫刻のようでした。

(=*゚ω゚)「綺麗だよぅ…!」

うっとりと伊陽が眺めているうちに、
炎は姿を消してゆきます。
単色だった翡翠の皮膚に濃淡が生まれ、
マーブル模様となっていました。

65 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:40:42 ID:e2b40RME0
男が、パチンと指を鳴らします。
するするとトグロを巻く蛇。
最後に中央へ顔を埋め、
ガラスのような眼を閉じました。

男は、手で蛇の体を直方体へ整えます。
再びパチンと指を鳴らす音。
すぅと消えていく、蛇の体の境目。

針金だった蛇は、緑色のブロックとなったのでした。
  _
( ゚∀゚)「完成だ。最後まで付き合ってくれて、ありがとな」

男はブロックを持ち上げ、
塀の一部に載せます。
伊陽は、手が腫れんばかりに拍手をしました。

66 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:44:04 ID:e2b40RME0
(=*゚ω゚)「すごいですよぅ! あんなのが、こんな綺麗になるなんて!」

(=*゚ω゚)「魔法みたいですよぅ!!」
  _
( -∀-)「そりゃ、魔法だしなぁ」

(=*゚ω゚)「もしかして……練習って魔法のかよぅ!?」
  _
( ;゚∀゚)「お、おう」

きっと、男にとっては
当たり前のことなのでしょう。
伊陽の質問に、彼は困惑します。

(=*゚ω゚)「よかったら、僕に魔法の使い方、教えてくださいよぅ!」
  _
( ゚∀゚)「は?」

(= -ω-)「僕、昨日 越してきたばかりで……」
  _
( ゚∀゚)そ「え!?」

伊陽の言葉に、男は眼を丸くします。
  _
( *゚∀゚)「新しく越してきた!?マジかよ!!」

そして伊陽の手を握ると、
ちぎれそうな程、ぶんぶんと上下に振ります。
ターバンがずり落ちそうな程の勢いです。

(=;゚ω゚)「わ、わ」

次は伊陽が 戸惑う番でした。

67 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:47:48 ID:e2b40RME0
  _
( >∀<)「かーっ、嬉しいね!!最近は住人が減る一方だからさ!!」
  _
( *゚∀゚)「なあ、どこで魔法の国を知ったんだ!?」

(=;゚ω゚)「路地裏で、写真集を読んだんですよぅ」

(=゚ω゚)「そこに載ってた、花の写真を、いいなと思って……」
  _
( ゚∀゚)「もしかして、『天空の大輪』か!?」

(=*゚ω゚)「そう、『天空の大輪』ですよう!!」
  _
( *゚∀゚)「俺もアレ、大好きなんだ」
  _
( *゚∀゚)「繊細さと大胆さが両立されてて、たまんねぇよな!」

(=*゚ω゚)「そうですよう!こう、空へ向かって堂々と咲いているのが」
  _
( -∀-)「わかる。俺、蕾が花開いた時、泣きそうになったわ」

(=゚ω゚)「実物を見たこと あるんですかよぅ!?」
  _
( ゚∀゚)+「ずーっと この国に居るからな。当時は国中が大盛り上がりだったぜ」

(=*゚ω゚)「羨ましいですよぅ!!」

68 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:48:27 ID:e2b40RME0
羨望の眼差しを向ける伊陽。
男は、ぽつりと呟きました。
  _
( -∀-)「さすが花の魔術師だ。未だに、人を惹きつけ続ける」

(=゚ω゚)「花の魔術師…?」
  _
( ゚∀゚)「俺が憧れてる、魔法使いの呼び名だ」
  _
( ゚∀゚)「『天空の大輪』を咲かせたのも、彼だ」

(=゚ω゚)(花の、魔術師……)

伊陽は心の中で、男の言葉を繰り返します。
自分を魔法の国へ導いた、人物の名です。

会ってみたい。

そんな気持ちが、伊陽のなかで じんわり広がりました。

69 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:52:09 ID:e2b40RME0
(=゚ω゚)「花の魔術師は、今、どこに居るんですかよぅ?」

伊陽の問いに、男は寂しそうに肩をすくめます。
  _
( -∀-)「行方不明なんだ」
  _
( -∀-)「もう何年も姿を表していない。異国へ移転したって噂する奴も多いな」
  _
( ゚∀゚)「でも俺は、まだこの国に居るって信じてるぜ」

(=*゚ω゚)「僕も……信じますよぅ!」

(=*゚ω゚)「花の魔術師を、探してみますよぅ!」
  _
( ^∀^)「いい心がけだ!」
  _
( -∀゚)「ただその前に、にぃーちゃんは魔法を覚えないとな」

70 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:53:57 ID:e2b40RME0

* * *

さて、男から一通り魔法を習った伊陽。
彼と別れ、壁の中腹へと歩いてゆきます。

(= -ω-)(あの人みたいに、材料を募ったり、壁をつくったりは、まだ難しそうだよぅ)

(=゚ω゚)(まずは、落ちてるもので、挑戦するよぅ!)

壁の近くを探索すると、
伊陽は小石を見つけました。
サイズは小指の爪ほどで、色はねずみ色。
植物の種みたいだと、伊陽は思いました。

(=゚ω゚)(そうだ!)

閃いた彼は、素手で地面をザクザク掘ります。
そこに小石をころんと置くと、土を被せました。

71 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:55:06 ID:e2b40RME0

伊陽は、両手を大地へつけます。

ターバンの男いわく、
魔法の力ーー魔力は手から発生しているらしいのです。
なので『慣れないうちは対象物に触れ』と
アドバイスされたのでした。

(= -ω-)(のびろーのびろー!)

彼は念じます。
すると、土は黄色に淡く光りはじめます。

(=*゚ω゚)(おお……!)

まもなくして。
地面から灰色の芽が、
ひょこりと顔を出しました。

(=゚ω゚)(きた!)

伊陽は指に力を込め、イメージを続けます。

(= -ω-)(すくすく伸びて……実をつける…!)

スルスルと、壁を何かが擦れる音。
音が止んだ時、伊陽はゆっくりと、目を開けます。

72 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:56:39 ID:e2b40RME0
そこにあったのは、細いグレーの蔦でした。
蔦は壁をつたい、茎には真紅の粒が なっています。

(=*゚ω゚)「成功だよぅ!」

伊陽は実を取ると、手のひらで優しくに転がします。

小さいながらも、
はじめて、自分の魔法で一から作った植物。

(=゚ω゚)(味は、どうだよぅ?)

実を、奥歯で噛みます。
口の中に、甘みと仄かな酸味が
じんわりと広がりました。

(=*゚ω゚)「うん、なかなか悪くないよぅ!」

伊陽は、満足気にひとりごちます。

73 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 00:58:20 ID:e2b40RME0
しばらくすると、
白い球体が蔦の周りに集まりはじめました。

(=゚ω゚)(?)

よくよく観察すると、
それは完全な球ではなく、
楕円の先が尖った形。

鳥のような細い足と手が
2本ずつ生えています。

( ∵) ( ∵) ( ∵)

大きさは、手の平に複数個
乗せられそうな程で
3つの穴が空いていました。

74 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:00:27 ID:e2b40RME0
三角形に並ぶ点は、顔のようにみえます。

(=゚ω゚)(これが、『タマゴ』かよぅ!)

伊陽は、魔女の台詞を思い出します。

なるほど、確かに注意せねば
踏み潰してしまいそうです。

( ∵)" ( ∵)" ( ∵)"

小さなタマゴ達は蔦をのぼり、
果実をもぎ取ります。
そして口に あたる穴へと
赤い実を放りました。

75 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:01:18 ID:e2b40RME0
(=゚ω゚)「美味しいかよぅ?」

( ∵)「ぐっ!」( ∴)「ぐっ!」( ∵)「ぐっ!」

タマゴたちは、鳴き声のように
ぐっ、ぐっと繰り返します。

( ∴)丿「ぐっー!」

うち1体が拍手らしき動作をしたのをみて、
伊陽は「good」の意味だと理解しました

(=*^ω^)「ありがとうだよぅ!」

伊陽の顔がほころんでいきます。

自分が生み出したものを
誰かに認めてもらえる。

こんな嬉しいことがあるでしょうか。

伊陽は小躍りしそうなほど、
上機嫌でした。


けれど、

76 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:03:55 ID:e2b40RME0

「不味い」

頭上から、冷たい声が落ちて来ました。
伊陽はギョッとして空を見上げます。

(´・_ゝ・`)「クソ不味い。吐き気がする」

壁の上に、タマゴが1つ、座っていました。

他のタマゴと大きく違う点は、2つ。
1つは、大きさ。
そのタマゴは伊陽の背丈ほどありました。
もう1つは、服装。
そのタマゴは紺の燕尾服と赤の蝶ネクタイを纏っていました。

(´・_ゝ・`)「これを世に出す神経を疑うよ」

77 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:05:20 ID:e2b40RME0
(´・_ゝ・`)「恥ずかしくないのかな。俺なら一生、外を歩けないよ」

タマゴは淀みなく、伊陽を罵倒していきます。
心臓が、妙な早さで脈を打ち始めました。
頬をイヤな冷たい汗が伝います。

(=;゚ω゚)「あのタマゴ達は褒めてくれたよぅ?」

(´・_ゝ・`)「あいつらは馬鹿なんだ。舌も頭も」

(=;゚ω゚)「絶品ではないけど、不味くは」

(´-_ゝ-`)「あー、自分でソレ言っちゃう?」

肥大したタマゴはため息を尽きます。
伊陽は、胃を踵でグリグリと
踏み潰されたように感じました。

78 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:25:03 ID:e2b40RME0
(=;゚ω゚)「じゃあ、何が駄目なんだよぅ?」

(´・_ゝ・`)「そんな事も理解できないのか」

フゥーっと嫌味ったらしく、
長い息を吐くタマゴ。

(´・_ゝ・`)「もう1個、作ってみろ」

(´・_ゝ・`)「1回だけなら、失敗もあるからな」

(=;゚ω゚)「……分かったよう」

伊陽は足元の石を地面へと埋めます。
今度は黒い石です。

(=;-ω-)(おいしくなれー、おいしくなれー)

みるみる石は育ち、木炭のような低木に
桃色の実がなりました。

79 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:25:44 ID:e2b40RME0
(= -ω゚)「これで、どうだよぅ」

(´・_ゝ・`)「 味がボケてる」

(=;゚ω゚)「こっちなら」

別の石を埋め、育てる伊陽。

(´・_ゝ・`)「馬鹿にしてるのか?固くて食えねぇよ」

(=;`ω´)「これならどうだよぅ!」

(´・_ゝ・`)「論外」

(=;゚ω゚)

(´・_ゝ・`)「おい作業が遅いぞ。休むな」

ヒリヒリと喉が焼けていく感覚。
それでも伊陽は、とにかく作り続けました。

ある種の脅迫観念かもしれません。

80 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:31:33 ID:e2b40RME0
10個めの実を渡したときでしょうか。

(´・_ゝ・`)「お前、本当にセンスが無」

ベチャ。

湿った音が響きました。

(=゚ω゚)「へ」

硫黄のような臭いが、伊陽の鼻をツンと刺します。
  _
( ゚∀゚)「おい、大丈夫か?」

塀の上には、先程の浅黒い男がいました。
グーに握った拳には、黄土色の液体。

巨大タマゴのあった場所には
粉々の白い殻と生臭い液体が
溜まっていました。

81 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:32:15 ID:e2b40RME0
  _
( ゚∀゚)「汚ったねぇ」

彼は塀から飛び降りると、
手の甲を壁へ擦りつけます。

(=;゚ω゚)「あ、ありがとうございます…?」

状況は掴めないものの、
一先ず伊陽はお礼をいいます。
青年は、礼はいいよ、と
頭をボリボリ掻きました。
  _
( ゚∀゚)「あれはな、タマゴ”様"ってやつだ」
  _
( ゚∀゚)「まともに相手すると、精神やられるぞ」

82 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:32:46 ID:e2b40RME0
(=゚ω゚)「タマゴ様…? もしかして、タマゴ達の親玉かよぅ?」
  _
( #゚∀゚)「いや、全然」

ペッとツバを吐き捨てます。
  _
( #゚∀゚)「偉そうにふんぞり返ってるから、揶揄して呼んでるだけさ」
  _
( #゚∀゚)「性根が腐ってる、ゴミのような奴らだ」

どうやら、彼があのタマゴを叩き割ったようです。

(=;゚ω゚)「……マズイんじゃないかよぅ?」
  _
( ゚∀゚)「んあ? どうしてだ?」

青年は不思議そうに首を捻ります。
純粋に、伊陽の意図を測りかねているようです。

83 名前: ◆yowCKuRaWY[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 01:43:45 ID:e2b40RME0

(=゚ω゚)「この国のルールって『他者を傷つける行為を意図的に行わない』だよぅね…?」

脳裏に浮かぶのは、
お菓子の役所でボロボロになった少女の姿。
  _
( ^∀^)「にぃーちゃん、真面目だなぁ」
  _
( -∀゚)「だが、全員が聖人君子じゃないぜ」
  _
( ゚∀゚)「倒して然るべき、クズ野郎も居るんだ」
  _
( ゚∀゚)「役所だって、些細なこと相手してたらキリないし」
  _
( ゚∀゚)「ある程度は自衛が必要なんだよ」

男はニッと、爽やかに笑います。

(=゚ω゚)「そういう、ものかよぅ…」

ーー倒して然るべき、クズ野郎も居るんだ
男の言葉は、伊陽の脳に、
じっとり染み込んでいったのでした。



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