彡 l v lミ Wr Mn Ou Xa のようです
1 名前: ◆mtKAQR6eRA[sage] 投稿日:2017/08/20(日) 22:19:47 ID:s7M8ZC4Q0






                  Wr





.

2 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:20:38 ID:s7M8ZC4Q0






                  Mn

3 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:21:37 ID:s7M8ZC4Q0






                  Ou

4 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:22:25 ID:s7M8ZC4Q0






                  Xa




.

5 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:23:20 ID:s7M8ZC4Q0




電子音は連続する。
僕はその音で目が醒める。
午前6時。朝の。


彡 l v lミ「よし」

僕は強い方だ。





.

6 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:24:06 ID:s7M8ZC4Q0
朝食はシリアルだ。
ミルクは、まあ、近くのスーパーマーケットで買った物だが、不味くもないし上手くも、ない。
母と父はもう少し後に起きる。僕が家を出る頃に。

僕は朝食を食べながら、テレビの電源をOnにする。


『おはようございます。VIP連邦放送局のモララーです。今日も素晴らしい朝です。さて、残念ながら、悪いお知らせです。』

『ソーゴーシティーのテンプレ・パークで前日から行われていた政府反対デモは暴徒と化し、昨夜未明に警察隊によって鎮圧されました。これによる死者は13人。負傷者は76人に上りました。』

『テンプレ・パークは、我が国建国の礎となったEs戦争において、西国と協定を結んだ我々の勝利のシンボルでもありますが、今朝の様子ですと、すっかり人も居なくなり、珍しく閑散とした雰囲気が流れています。』

7 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:24:54 ID:s7M8ZC4Q0
『続きまして――――』


彡 l v lミ 「ご馳走様でした」


使い終わった食器を食洗機に入れる。

壁にかかっている時計を見る。
6時、20分。

8 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:28:10 ID:s7M8ZC4Q0

僕は、この町で生まれてきて、なんどもなんども同じ景色を見てきた。


彡 l v lミ 「ふぅっ、ふっふっふっふっ、」

町は昇り始めたばかりの太陽が放つ、オレンジ色の光を受けて輝いている。
まだ湿気が強く、あたりの街路樹からは雨の匂いがする。

僕は、朝にこうして町を走ることが日課になっている。
僕は家のある通りを曲がり、大きな道路へと出る。

かなり、暖かくなってきた。
死のような冬は去り、やってきた春も去った。

9 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:28:49 ID:s7M8ZC4Q0
今日も、7時くらいまでそこらを走って、家に帰った。

彡 l v lミ「父さん」

リビングには、父が居て、新聞を読んで居た。

( "ゞ)

彡 l v lミ「早いね。どうかしたの」

( "ゞ)「……生き物なら、朝早く起きることもある」

彡 l v lミ「そろそろ行くからね」

( "ゞ)「ああ」



家の玄関には、愛用の自転車が置いてある。
事業所まではそう遠くない。この町にある。

10 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:29:40 ID:s7M8ZC4Q0


ミ,,゚Д゚彡 「おはよう、鈴木。早速だが、依頼だ」


この、VIP首都ソーゴーの郊外にある小さな町の、小さな害虫駆除業者。
それが、今のところ、僕の人生だ。

彡 l v lミ 「どこです」

ミ,,゚Д゚彡 「ウィンタード通りに空き家があったと思うんだが、そこに昨日新しく越してきたら家族からで」

ミ,,゚Д゚彡 「ゴキブリが酷いようだ。前から巣が出来ていたんだろうな」

ミ,,゚Д゚彡 「依頼者はジョルジュ・ラージヒル氏だ」

彡 l v lミ「わかりました」


更衣室で作業着に着替え、準備を済ませる。

11 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:30:13 ID:s7M8ZC4Q0


( ><)「行きましょう」

同僚のビロードが車で待って居た。
助手席に乗る。まだはじまったばかりの一日だ。車は朝の光の中へ出発する。


( ><)「週末はどうでしたか?」

ビロードが、僕にそう聞いた。


彡 l v lミ「……特に何もないよ。読書でも、してたかな……」

( ><)「そんな、まだ若いのに、しおれてちゃあ、ダメですよ」

彡 l v lミ「この前、27の誕生日だった」

( ><)「まだ若いですよ。いけますって」

12 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:30:57 ID:s7M8ZC4Q0
彼は、私よりもずっと若い。
もう妻子を持っていて、この前子供が生まれたとか、
事業所で小さなお祝いパーティーも開いてやったと記憶している。

彼は、彼なりに僕を気遣ってくれたんだろう。
まあ、特に大した思いは湧かない。

彡 l v lミ「楽しいことでもあった?」

( ><)「まあ。妻と子供と、海に行きましたね。近所も連れてって」

彡 l v lミ「あ、そう……」

彡 l v lミ「もう、ビーチ開放してるんだ」


彼は何も答えない。いかにも独り言らしいからか。

13 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:32:34 ID:s7M8ZC4Q0
( ><)「鈴木さんは、小さい頃、どんな暮らししてたのかなあ、って」

彡 l v lミ「え」

( ><)「僕は、わかんないですよ。あなたがどんな気持ちか、なんて。応援はしてますけどね」

( ><)「着きましたよ」


車から降りる。
私は家の方へ先に向かい、ビロードは、トランクから道具を持ってくる。

ああ、確かに。
新しく住んだのだ。長いこと空き家になっていたから、そんな雰囲気だった。

私は、庭を渡り、扉を叩く。

14 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:33:00 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「FSサービスですが。駆除に参りました」

中から、足音が近付いてくる。

扉が開く。

  _
( ゚∀゚)「ああ。入って」

15 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:33:29 ID:s7M8ZC4Q0


彡 l v lミ「ゴキブリが大量発生していると聞きましたが……」

  _
( ゚∀゚)「ああ、次から次へと出てきてね」

('、`*川「こんな朝からご苦労様です」

彡 l v lミ「いえ」

('、`*川「何かお茶でも……」

彡 l v lミ「ああ、いえ。結構です」

彡 l v lミ「そうですね……まあ、長い間空き家でしたからね。巣があることは間違いないでしょう」
  _
( ゚∀゚)「そうですか」

彡 l v lミ「身内にお子さんや、薬物が弱い方はいらっしゃいますか?」
  _
( ゚∀゚)「ええ。娘が二人いますよ。今は二階で眠ってますがね」

16 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:34:00 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「そうでしたら、薬物の散布ではなく、毒を使った設置型の方法で駆除する方が安全かと」

  _
( ゚∀゚)「ああ、それについては大丈夫ですよ。気兼ねなくどうぞ」

彡 l v lミ「……そうですか。分かりました。どちらにせよ、薬品では卵までは効果が及ばないので、設置型の罠を仕掛けさせて頂きますが、よろしいですか?」

  _
( ゚∀゚)「構いません」

彡 l v lミ「分かりました」

彡 l v lミ「ビロード、行くぞ」

( ><)「はい」





.

17 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:34:32 ID:s7M8ZC4Q0




こんな事を、もう、長いことやっている。
それだけに、慣れている節はある。
害虫は、特にゴキブリのような奴が気に入って棲みつく場所は直ぐに検討が付いた。

彡 l v lミ「多いな」

( ><)「ですね」

もう朝の早いにも関わらず、奴らは忙しなく壁を這い回っていた。

彡 l v lミ「あと何ヶ所か回ろう」




30分程で、大方検討は付けたので、家具などにカバーをかけて、家中に薬品を撒いた。

18 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:35:17 ID:s7M8ZC4Q0

その間、ラージヒル家と僕たちは、庭に退避していた。

川 ゚ -゚)lw´‐ _‐ノv

娘二人も、起きてここに居た。

  _
( ゚∀゚)「暑くなってきましたねえ」

彡 l v lミ「そうですね」

  _
( ゚∀゚)「……都会は、やはり騒がしいし、返って治安も悪いんですよ。だからここに引っ越してきたんです。その方が、娘の為になると思って」

('、`*川「そうなんです」

( ><)「確かに、この町は静かでいいです」

川 ゚ -゚)lw´‐ _‐ノv

( ><)「娘さん、可愛らしいですね」

19 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:36:19 ID:s7M8ZC4Q0
  _
( ゚∀゚)「ああ、いや。そろそろ3つになるんですよ」

( ><)「そうなんですか」

彡 l v lミ

この新しい家族は、こうして僕たちの町に住み、根を広げていくのだ。
困難もあるだろうが、その度幹を太くしていくのだ。
僕は、そんな事を想像していた。それも、僕には、どこか遠い感覚だ。


lw´‐ _‐ノv「あついね」

彡 l v lミ「………暑いよ。君は大丈夫?」

lw´‐ _‐ノv「あんまり」

('、`*川「まあ。何か飲む?」

  _
( ゚∀゚)「これは、きつい一日になりそうだな……」

ジョルジュ氏は、どこか、遠い目をしながらそう言った。
僕はその時、どういう意味だろう、と一瞬思った。

20 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:36:54 ID:s7M8ZC4Q0





彡 l v lミ「一応、生きてる個体は大体殺したと思いますが、何せ空き家でしたから……罠を仕掛けて、暫くは様子見しながら駆除を行っていきます」

  _
( ゚∀゚)「どうもありがとうございます」

彡 l v lミ「では、またのご利用を」

僕たちが立ち去ろうとした時、一台のトラックが家の前に停まった。
一人の男が車から降りて、トラックから何箱か持って来た。


( ・-・ )「ジョルジュさんですか?電子機器のお届けものです」

  _
( ゚∀゚)「ああ」

  _
( ゚∀゚)「タイミングが悪かったね。すまん」

21 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:37:22 ID:s7M8ZC4Q0

帰り道、もう太陽は昼の高さへと近付いていた。
光の中を、今度は、僕が運転している。

彡 l v lミ「僕がどんな気持ちかって」

( ><)「え」

彡 l v lミ「朝、行ってたじゃない」

( ><)

彡 l v lミ「セパレートされてるんだ」

彡 l v lミ「何もかもが」


僕がそう言うと、車内の空気が停まったみたいになった。

22 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:37:50 ID:s7M8ZC4Q0
( ><)「…………そんなの、聞きたかったわけじゃ」

彼が、そういう事を煩わしがる性格なのはわかってたし、人格形成に成功した人間の感覚も理解しているつもりだった。
彼らは、自分と異なる物に深く踏み込もうとしない。
僕が、どんなにそれを求めていたとしても。

彡 l v lミ「僕は君たちと人種が違う、NEO人の血が流れてる」

彡 l v lミ「でも、この町で生まれてきて、この町にこうして生きている」

彡 l v lミ「なんとなくだよ。君も分かるだろ。なんとなく、ぼんやりとした距離感………」

( ><)「わかんないです」

彡 l v lミ「………そうか」



.

23 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:38:16 ID:s7M8ZC4Q0

その日の仕事も終わり、僕は自転車に乗って家へと向かう。
業務が終了して、家に帰れるのは4時半頃だ。

見慣れた道。
小学校から子供らは帰った頃だろうか。
近くの公園には楽しげな声が響いている。



彡 l v lミ 「ただいま」

J( 'ー`)し「お帰りなさい」

母は、リビングで静かに本を読んでいた。
まだ明るいから、電気は点けていなかった。
外からの暖かい光が、カーテンに揺らされている。

J( 'ー`)し「今日も何もなかった?」

24 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:38:44 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ「……特になかったよ」

J( 'ー`)し「そう……」

母は本をそっと閉じて、僕の方を見た。
彼女の後ろの、窓際からの光が彼女の顔の輪郭だけを照らしている。
風に彼女の髪が揺れる。

J( 'ー`)し「あなたも、27になったのよ。そろそろ、巣立ちをしてもいいと思うの」

J( 'ー`)し「あなたが母さんたちの事を心配してるなら、それは問題ないわ」


無理だ。
すぐにそう思ってしまう。だから実際に、無理なんだ。


彡 l v lミ「………僕も、そうだと思うよ」

25 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:39:10 ID:s7M8ZC4Q0
J( 'ー`)し「出会いなんて、何処にでもあるわ。この小さい町の向こうには、たくさんの世界がある」

J( 'ー`)し「なにも、気が合わない人たちと一緒に居ることはないのよ」

彡 l v lミ「わかってるよ」

J( 'ー`)し「……オスロ。今日、やっぱり何かあったの?」

彡 l v lミ「……あったかもね」


僕は、その場から消失するようにバスルームへと向かった。

26 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:39:47 ID:s7M8ZC4Q0
夜。
僕はいつも11時に寝ていたけれど、もう40分もベッドの上で目を開けている。


オスロ・ビクター・鈴木。
NEO人の父と、VIP人の母の間に生まれた唯一の子。
その名は、世界と僕を隔てる、仕切りそのもの。

この小さい町の向こうには沢山の世界がある。
この小さい町………

ビロードの顔が思い浮かんだ。
所長の顔が思い浮かんだ。

そして、今日越してきた人々の事も、浮かんできた。
皮肉にも、それが僕の一部なのだ。

27 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:40:21 ID:s7M8ZC4Q0



天井を、一匹のゴキブリが通り過ぎた。
真っ黒な身体に、角のような触覚。

それは、まるで悪魔のようだった。

部屋にあったスプレーを吹きかけると、ゴキブリは一瞬暴れまわったあと、ひっくり返って死んだ。

何が違うというんだろう。そんな気持ちが湧き上がってきた。
これ以上は考えないことにした。






.

28 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:40:48 ID:s7M8ZC4Q0




電子音は連続する。
僕はまた6時に目を醒ます。

彡 l v lミ


僕は強いのか?







.

29 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:41:19 ID:s7M8ZC4Q0
僕が朝食にシリアルを食べていると、所長から電話が来た。
「今日は急用につき業務を停止する」
との事だった。

急にできた空きというのは、困惑するものだ。
読書でもしようと、そう思った。


『おはようございます。VIP連邦放送局のモララーです。今日も気持ちの良い朝ですね。さて、今日一番のニュースですが――』



そして、僕はいつも通りそこらを走っていた。
朝の光を浴びて。

昨日の出来事が、嫌に心にひっかかる。
それを振り落とすつもりで走っていたのだが……逆効果だった。

30 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:42:05 ID:s7M8ZC4Q0





From:斉藤
To:You
Title:久しぶり。

元気にしてるか?
前に会ったのはいつ頃だ?19の頃かもな。
俺はまだ家族を持てていないが、お前の方はどうだ?

できるだけ早く会いたい。
適当なレストランか何かで落ち合わないか?
話したい事があるんだ。

斉藤



.

31 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:42:28 ID:s7M8ZC4Q0
部屋に戻り、パソコンを見ると、一通のメールが来ていた。
斉藤。彼の事を、忘れていた。
忘れていたというよりは、彼の気配に気づかなくなっていたのか?

斉藤。
僕の唯一の友人だ。
僕がハイスクールに上がる頃にこの町に越して来た。彼もNEO系移民の子孫だった。
思えば、彼と会わなくなった頃から、どのくらいの時が過ぎただろう?
いつの間にか、心は凍ってしまったような。
とにかく、僕は直ぐにでも彼と会うことにした。

32 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:42:51 ID:s7M8ZC4Q0
午後の2時頃。
僕は都市寄りの方に適当に用意されたレストランで、数年ぶりに彼と会った。


(・∀ ・) 「久しぶりだな」



彡 l v lミ「ああ」


久しぶりに会う彼は、少し痩せていた。


(・∀ ・)「お前も、変わったなあ」

彡 l v lミ「そうか?」

(・∀ ・)「おう。変わったよ」

彡 l v lミ「お前は同じだね」

(・∀ ・)「まあね」

33 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:43:21 ID:s7M8ZC4Q0
ウェイターに二人席を案内される。
窓際の席だったから、真昼の真っ白な光が、彼を照らしていた。

(・∀ ・)「今、何してる?」

彡 l v lミ「地元で、小さな害虫駆除業者を」


(・∀ ・)「そうか」

(・∀ ・)「落ち着いちまったなぁ」


まあ、その通りだ。
思い返すと、僕は落ち着いてしまった。

だが、彼のその言葉は、
僕の心には受け入れがたい、怖いことだ。

彡 l v lミ「……そうかもね」

彡 l v lミ「お前は」

(・∀ ・)「ソーゴーの企業でシステムエンジニアやってるよ。ついこの間まで忙しくてね」

彡 l v lミ「凄いじゃないか」

34 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:43:50 ID:s7M8ZC4Q0

(・∀ ・)「そうか?」

彡 l v lミ「だって君は……」

(・∀ ・)「NEO系VIP人だから、か?」

彼は、僕の言葉を先に言ってしまうと、ただニヤニヤと笑い、僕の事を見ていた。

(・∀ ・)「移民だってそんなクソじゃないぜ、頑張って生きてるんだから」

(・∀ ・)「………まあ、誰にでも言える事だけど、大事なのは、前向きな心だよ」


光に照らされ、白く輝く彼を、僕は直視できなくなっていた。

彡 l v lミ「……まぶしいな」

(・∀ ・)

(・∀ ・)「カーテン閉めようか」

彡 l v lミ「お願いするよ」





.

35 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:44:17 ID:s7M8ZC4Q0
(・∀ ・)「それでだ」

(・∀ ・)「本題に入ろうと思うが」

彡 l v lミ

(・∀ ・)「最近、ある技術が密かに開発されててな」

(・∀ ・)「RMNっていうのは、聞いた事あるか?」

彡 l v lミ「ない」

(・∀ ・)「……これは、言ってしまうと、記憶を操作する技術だ」

彡 l v lミ「は?」

(・∀ ・)「突拍子も無い話だと思うだろ?本当なんだ」

(・∀ ・)「それで、」


光のかからなくなった彼の顔は、不気味に、紫色に染まって見えた。
僕は少し、嘘を吐いたかもしれない。
彼は、こんな風に続けた。

36 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:44:51 ID:s7M8ZC4Q0

(・∀ ・)「RMNは、人の記憶を出し入れする機械なんだ。抜き出した記憶は、RMNチップと呼ばれてる端子に保存される」

(・∀ ・)「これを裏で取引する闇の経済がある」

彡 l v lミ「で、どうするって」

(・∀ ・)「お前の町で、このチップの大規模売買を行なってる人間が居るんだ」

彡 ;l v lミ「おい」


隣の机で、フォークを落とす硬質な音がした。


(・∀ ・)「インターネット上で見つけたんだ。いつからそのビジネスが始まったかは分からない。俺はそいつを捜してるんだけど」

37 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:45:28 ID:s7M8ZC4Q0
彡; l v lミ「やめてくれよ、」

(・∀ ・)「もし、怪しい人物か何か居たら、俺に教えてくれ」

(・∀ ・)「お前の事を頼ってるんだ」

彡; l v lミ「僕の周りには、そんな奴、居ない………」

(・∀ ・)

(*・∀ ・)「は、はははっ!すまんすまん、急にどうしたって感じだよな」

(*・∀ ・)「あーーー………」

(*・∀ ・)「どうかしてた。ビビらせてごめん。でも、本当なんだ」

(*・∀ ・)「今度の土曜、ここの近くにあるナイトクラブに行かないか」

彡 l v lミ「ナイトクラブ?」

(*・∀ ・)「そっち系に詳しい人がそこのオーナーでな、一応面識あるんだ」

38 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:46:02 ID:s7M8ZC4Q0
僕の知らない世界へ、彼はどんどん進んでしまっているようだった。
何がそうさせたのだろう?
僕と彼の違いは何だったのだろう?

知らない世界。僕は知らず知らずのうちに、そこへ行くためのチケットを手に入れてしまったようだった。

彡 l v lミ「………分かった」

(・∀ ・)「お、意外とあっさりだな」

僕がそう答えて、
彼は、安堵しているように見えた。

この時も、僕の頭の中で、昨日の母の言葉が蘇っていた。
小さい町。
この、小さい町で…………

39 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:46:35 ID:s7M8ZC4Q0

僕と斉藤は間も無く別れ、その帰り道で、僕はバス停に居た。
酷い暑さだ。眩暈がしてきそうなほどに。

………この町でも、非日常が蠢いているという感覚。
長い間忘れていた。
いつからだ?

いつから、僕はそんな勘違いを、していたんだ?


ミ;,,゚Д゚彡

道の向かいに所長が歩いて居た。
急いでいて、僕のことには気付かないようだった。
そのうちに、バスが向こうからやって来た。





.

40 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:46:58 ID:s7M8ZC4Q0




(・∀ ・)「どうも、阿部さん」

N| "゚'` {"゚`lリ「久しぶりだな」


(・∀ ・)「今日は、少し話がありましてね」


毎日はいつも通り過ぎていき、土曜の夜になった。

僕と斉藤はExpelというクラブの、上階にある1つの客室に居た。
ソファーに腰掛けているNEO人の男は、僕たちとは目を合わせずに、紫煙を吹いている。

N| "゚'` {"゚`lリ「言ってみろよ」

41 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:47:46 ID:s7M8ZC4Q0

(・∀ ・)「ここがドラッグや銃器の密売所になっていることは知ってます」

(・∀ ・)「最近ですけど、ドラッグや銃、そういった物以外にやり取りされている物は、ありますか」

N| "゚'` {"゚`lリ「金、女………あとは知らないな」

(・∀ ・)「……そうですか」

斉藤は、特に顔色を変えずに、そう言った。
彼には、想定済みだったのだろう。

「阿部さん」は、僕の事を見た。
一瞬見て、目を伏せた。

N| "゚'` {"゚`lリ「何か追ってるんだろ?調べさせてやるよ」

(・∀ ・)「ありがとうございます」

N| "゚'` {"゚`lリ「もういいか?」

(・∀ ・)「はい。お邪魔しました」

(・∀ ・)「鈴木。行こう」

彡 l v lミ「……ああ」

42 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:48:45 ID:s7M8ZC4Q0

廊下を歩いている途中、反対から来た一人の女と擦れ違った。
大方、そういうことなんだろうと思った。


(・∀ ・)「クラブに来るのは初めてか?」

彡 l v lミ「まあ、そうだね」

彡 l v lミ「何で僕を、」

(・∀ ・)「……頼れるのは、お前しか居ないんだ」


彼は変わってしまった。
そして、僕はもう、とっくに戻れない所まで来てしまったのかもしれない。
そう思った。

43 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/20(日) 22:49:13 ID:s7M8ZC4Q0
一階のフロアに入る。
湿っぽい空気が、僕に纏わりついた。
紫色の光が、ルームを包んで居た。

なんというか、何かが始まりそうな感じだ。
中は、酷く感傷的なムードを醸し出していた。

彡 l v lミ「どうするつもりなんだ」

(・∀ ・)「何とかして、手がかりを掴まないと」

僕と斉藤は、とりあえず、端の方へ寄っていこうとした。
人々は、何か、その始まる物への期待にはち切れそうになっていた。
瞬間、凄まじい重低音が辺りに響き渡った。
そして、周りの雰囲気が一変した。
爆発。そう言った感じだった。

紫色のライトは消され、辺りが暗闇に包まれる。
僕は彼を見失った。

44 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/20(日) 22:49:44 ID:s7M8ZC4Q0
再び点灯し、音楽が始まった。
人々は狂乱し、大きなエネルギーの流れを生み出した。

僕は、その中に完全に取り残されてしまった。
斉藤の姿は、見えなくなった。


僕は、彼を探して人の海を彷徨う。
湿っていて、とても暑い。
興奮が、狂気が、悲しみが、喜びが、全部が混ざり合って燃え上がっている。

気付くと、涙が出ていた。


理由なんていうのは、分からなかった。
とにかく、それが収まらなかったのだ。

暫し停止しながら、人の流れに流されて居た。
群衆の高く見上げる視線の先には、今夜のオープニングアクトが君臨していた。
儀式か何かのようだ、

45 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/20(日) 22:50:09 ID:s7M8ZC4Q0

「ねえ」


女の声。
僕を、呼ぶ声。





.

46 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/20(日) 22:50:39 ID:s7M8ZC4Q0








彡 ;v ;ミ「………え」


爪゚ー゚)「私と、踊らない?」








.

47 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/20(日) 22:51:01 ID:s7M8ZC4Q0

彡 ;v ;ミ「君は………」

爪゚ー゚)「なんで泣いてるの?」

彡 ; v ;ミ「分からない」

彡 ; v ;ミ「涙が、勝手に………」

爪゚ー゚)「……大丈夫」

爪゚ー゚)「初めてでしょ?私もここに来るの、初めてなんだ」

爪゚ー゚)「踊ろうよ」


第一印象は、赤髪で、筋肉の引き締まった身体をしているな、ということ。


彡 ; v ;ミ

僕は、足が地面から離れて、ふわふわと漂っているような、そんな気分になった。

48 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:51:55 ID:s7M8ZC4Q0
暫くして、僕と彼女はバーに立ち寄って、話し出した。
彼女は、ジーと名乗った。

爪゚ー゚)「もう大丈夫そうだね」

彡 l v lミ「うん」

彡 l v lミ「君は、何でここに」

爪゚ー゚)「………まあ、いろいろとあって。気晴らしに」

爪゚ー゚)「失恋………しちゃったんだよね」

彡 l v lミ「……へえ」

僕は、持ち寄る駒に乏しかった。
だから、こんな返事しかできなかった。

爪゚ー゚)「名前、なんて言うの?」

彡 l v lミ「……オスロ。オスロ・ビクター・鈴木」

爪゚ー゚)「オスロ、ね。良い名前だね」

49 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:52:20 ID:s7M8ZC4Q0
゚ー゚)「君の話が、聞きたいな」

彡 l v lミ「僕の話なんて、」

爪゚ー゚)「いいじゃん、話しちゃえば」

彼女に促されるままに、僕は自分の話をした。

ある使命があって、ここに来ていること。普段は、地元の町で働く小さな業者であること、NEO人であること、など。

爪゚ー゚)「……なんか、落ち着いてていいなあ」

それが、彼女の感想だった。

彡 l v lミ「話すことなんか、何もないよ」

爪゚ー゚)「そんなことないよ」

彡 l v lミ「………ありがとう」

50 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:52:50 ID:s7M8ZC4Q0
近くに、斉藤の姿が見えた。
この状況を彼に知られたら、多分、不味いんだろうなと思った。
僕は、一度彼女から離れることにした。

彡 l v lミ「ごめん、そろそろ行かないと」

爪゚ー゚)「また来るよね」

彡 l v lミ「多分」

爪゚ー゚)「また、ね」

彡 l v lミ「じゃあ、また……」

51 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:53:17 ID:s7M8ZC4Q0



(・∀ ・)「お、やっと見つけたぞ。よかった」

(・∀ ・)「何かに巻き込まれたかと」

彡 l v lミ「そちらこそ」

(・∀ ・)「なにか、収穫はあったか?」

彡 l v lミ「………特に」

(・∀ ・)「そうか。これからも、付き合ってくれるよな」

彡 l v lミ「もちろん」



最初、僕は、夢だと思った。

それから彼女とは、いつも土曜の夜にクラブで会うようになった。
僕は一応、斉藤との約束もあるし―――彼女からも何も言われないから、ずっとそうしていた。
そして、一週間前から、斉藤はプロジェクトが忙しくなったとかで、来れなくなった。
父や母には、町の成人バスケのチームに誘われて、家に帰るのが遅くなると言った。

まだ、僕がそれを知るには早過ぎるのかもしれない。彼女は僕の事は色々聞きだそうとするが、自分のことは話したがらなかった。

52 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:53:53 ID:s7M8ZC4Q0

機械製のビートが、フロアに響き渡り、肉体を切り刻まれるような気がする。

彡 l v lミ「鍛えてるの?それ」

爪゚ー゚)「うん」

そう言って、彼女は自分の身体を見る。

爪゚ー゚)「ちょっと、ね。ジム行ったりしてる」

爪゚ー゚)「なんか、変な質問」

彡 ;l v lミ「い、いや、べつに、そんなつもりは」


僕が弁明しようとすると、彼女は笑った。
冗談だと言っていた。
冗談なのは分かるが、困る。

爪゚ー゚)「今まで、ガールフレンドとか居なかったの?」

53 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:55:44 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「居なかったよ。友人も殆ど」

爪゚ー゚)「なぜ?」

何故か?
僕が、ビロードに言ったのと同じ事だ。
だけど、それをそのまま彼女に伝えてはいけないような気がして、こう答えた。

彡 l v lミ「何故って………」

彡 l v lミ「世界が、僕には広過ぎたんだ。きっと」

やっと出た一言だった。
僕がそう言うと、彼女はまた笑った。

爪゚ー゚)「面白い事言うんだね」

彡 l v lミ「………そう?」

爪゚ー゚)「でもそれ、私もちょっと賛成」

爪゚ー゚)「世界は本当に広いよ」

爪゚ー゚)「だって、私たちは、自分の事すら、全然分かってないんだから」

ああ、彼女はそうなんだ。
ビートが止まり、サイレンのような音が響く。

54 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:56:19 ID:s7M8ZC4Q0
゚ー゚)「ごめん、ちょっと席外す」

彼女は腕時計を見ると立ち上がり、僕に言った。

彡 l v lミ「何か用事でも?」

爪゚ー゚)「うん……まあ、ちょっとね」

爪゚ー゚)「すぐ戻るから、待ってて」


僕は一人になった。
周りを見回してみると、実に沢山の人が居た。
最初に感じていた不安だとかは、もう慣れてしまって消えた。
今は、彼らの姿がよく見える。

僕よりもずっと若い、10代くらいの若者の集団。
僕くらいの歳の男女のグループ。
彼らが集団の中心となっている。
特に羽目を外しているのは、前者のグループだ。

それを取り巻くように居る、人間達。
彼らが、恐らく売人の類なのだろう。

RMNチップがここで売買されているとしたら、彼らの動きに注目する必要がある―――。


(,,゚Д゚)「ねえ、そこのお兄さん」

55 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:56:49 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ「………なに」

(,,゚Д゚)「イイモノ持ってるんだけど、興味ない?」


18くらいの男と、その取り巻きが僕に近付いてきた。
彼が、この集団のグループらしかった。

彡 l v lミ「必要ないよ」

(,,゚Д゚)「そう言わないでさ。クラブに来てキメないなんて」

从 ゚∀从「うちらお金が欲しいんだよね。お兄さん、お金いっぱい持ってるでしょ」

取り巻きのうち、髪を銀色に染めた派手な女が僕にそう言うと、リーダー格の男は手で制した。

(,,゚Д゚)「どう?やってみない?今なら安くするよ」

彡 l v lミ「いいものって、薬?」

56 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:57:26 ID:s7M8ZC4Q0
(,,゚Д゚)「そう」

彡 l v lミ「君もやってるの?」

(,,゚Д゚)「勿論。いつもキメたあと、セックスしまくるんだ。最高だよ」

僕は、彼の台詞を聞いて、憐れみにも似た感情が芽生えた。
……こいつは、どうしようも無い人間だなと。

彡 l v lミ「ああ、そう……」

彡 l v lミ「例えばそこの女とかと?」

(,,゚Д゚)「……今それは関係無えだろ」

(,,゚Д゚)「調子乗ってんじゃねえぞ、NEO人が」

男は僕の近くに詰め寄り、拳を握り締める。
その時、取り巻きの中から、別の女が前に出て、彼を制止した。

(*゚ー゚)「ねえ、そのくらいにしておいた方が……」

57 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:57:50 ID:s7M8ZC4Q0
(,,゚Д゚)「お前は黙ってろ」

そう言って彼女を見るとき、男の顔からは一瞬、怒りが消えた。


彡 l v lミ「ドラッグだったら、必要ないよ」

(,,゚Д゚)

(,,゚Д゚)「………チッ、そうかい。じゃあな、NEO人」


彼はその顔に浮かべた苛立ちの表情を、軽蔑するような物に変えて、僕の元を去った。
銀髪の女は、複雑な表情で男の事を見やると、仲間達と共に、遅れて僕に背を向けた。

58 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:58:16 ID:s7M8ZC4Q0
|゚ノ ^∀^)「災難だったわね」

近くの席に居た女が、僕に話しかける。

彡 l v lミ「……まあ」

彡 l v lミ「あいつらは、蜂とか、蟻とか、そんなのと同類だと思うよ」

|゚ノ ^∀^)「確かに!ちょっと上手い事言うわね」

|゚ノ ^∀^)「女王の言いなり、ってね」

彡 l v lミ「よく分かったね」

|゚ノ ^∀^)「うふ。でも惜しい」

女は、一杯注文し、話を始めた。

|゚ノ ^∀^)「私、レモナっていうの」

|゚ノ ^∀^)「男よ」

59 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:58:49 ID:s7M8ZC4Q0
彡; l v lミ「は、」

|゚ノ ^∀^)「驚いた?まあそうよね」


男、と彼女は言ったが、外見はどうしても女性だ。
それに、十分美しかった。
胸の膨らみだとか、生理的特徴も完全に女だ。


|゚ノ ^∀^)「あのリーダー格の男は、ロアーって呼ばれてるわ。Expelでまあ、色んなドラッグを売ってる連中よ」

|゚ノ ^∀^)「あんたに突っかかってきた銀髪の女は、ハインって言ってね。あの男のガールフレンドだった。でも今は違う」

|゚ノ ^∀^)「シィ、って言うんだけどね、もう一人の方。今は彼女に溺れてる」

彡 l v lミ「……乱れてるね」

|゚ノ ^∀^)「若い子なんてみんなそうよ。面白いのは、シィは、ハインのボーイフレンドだったこと」

|゚ノ ^∀^)「けど、今度は彼がシィに溺れてるってわけ」

60 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 22:59:34 ID:s7M8ZC4Q0


彡 l v lミ「待てよ、あいつも、男?」

|゚ノ ^∀^)「そうよ」

|゚ノ ^∀^)「……変態ってことよ。あのグループでは、シィが王様」

彡 l v lミ「……理解できない世界だ」

|゚ノ ^∀^)「それはそうと」

レモナは、左手で、そっと僕の手を握った。


|゚ノ ^∀^)「………あなた、何か危険な事をしようとしてるんでしょ?私も、何か手伝えることがあれば協力するわ。勿論、危なくない範囲でだけど」

彡 l v lミ「………ありがとう」

彡 l v lミ「君は何者なんだ」


|゚ノ ^∀^)「応援してるわ」

レモナは僕に微笑むと、その場を立ち去った。

入れ替わりに、ジーが戻って来た。

61 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:00:00 ID:s7M8ZC4Q0

爪゚ー゚)「ごめん。待たせて」

彡 l v lミ「……いや、全然大丈夫」

爪゚ー゚)「よかった」

彡 l v lミ「あのさ、」

爪゚ー゚)「ん?」

彡 l v lミ「失恋した、って言ったけど。良かったらその時の話、聞いていい?」

爪゚ー゚)「……その話は、また今度でいい?」

彡 l v lミ「やっぱり、ダメかな、そういう話」

爪゚ー゚)「いや。全然、そんなのじゃないんだけど……」

爪゚ー゚)「ちょっと、考えさせて」

62 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:00:52 ID:s7M8ZC4Q0




気付くと、夜は一層深くなっていた。


爪゚ー゚)「楽しかった」

彡 l v lミ「僕もだ」

彡 l v lミ

爪゚ー゚)

爪゚ー゚)「じゃあ、ね」

彡 l v lミ「うん」




クラブの出入り口まで僕たちは一緒に歩くと、彼女はそう言って、僕に背を向けて、歩いていった。
彼女の背中は寂しい夜の通りで、橙色の街灯の下を何回か潜っていきながら、通りの突き当たりで左に曲がって消えた。

63 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:01:17 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ

僕は分からない。
でも、このくらいの距離感が、一番平和なのかもしれない。
彼女は、きっと何かを隠しているのだから。

僕も帰路に着こうと、反対の道へと歩き出す。


ミ,,゚Д゚彡

所長が、クラブの入り口の前に立ち、看板を見上げていた。

彡 l v lミ「所長、」

ミ;,,゚Д゚彡 「な、なんでお前が!?」

彡 l v lミ「そちらこそ」

ミ;,,゚Д゚彡 「お、俺は、別に、何でもないぞ」

彡 l v lミ「………そうですか」

ミ;,,゚Д゚彡 「おう」

彡 l v lミ「別に、深くは聞きませんよ……」

ミ;,,゚Д゚彡 「本当に、何でもないから、な」

64 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:01:45 ID:s7M8ZC4Q0





誰にでも、秘密がある。
レモナのように、それを知っている人も居るし、
僕のように、気付かなかった人も居る。

僕の世界観の、狭さ浅さに、自分を恥じたい気持ちだった。

「この小さい町の向こうには、たくさんの世界がある」、
この「小さい町」の中でさえ、知らない事が山程あるのだと、思った。







.

65 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:02:08 ID:s7M8ZC4Q0



電子音は連続する。

彡 l v lミ

僕は、朝に強い。
……が、流石に疲れが残っている感触がする。





『おはようございます。VIP連邦放送局のモララーです。今日も気持ちの良い朝ですね。さて、今日一番のニュースです』

ミルクは、朝食の分で丁度切れてしまった。

66 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:02:32 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ 「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、」


僕は、明けたばかりの町を走る。
無理して、今日は、少し先まで走ってみた。







彡 l v lミ「行って来ます」

67 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:02:59 ID:s7M8ZC4Q0

ミ,,゚Д゚彡 「今日の依頼だが、またジョルジュ氏からだ」

彡 l v lミ「そうですか……」

ミ,,゚Д゚彡 「ビロードは、今日は休みだ。体調不良らしい。で、非番の奴も遅れて来るらしいから、お前一人で出来るな」

彡 l v lミ「はい」

僕が準備にかかろうと歩き出すと、「それと」と言って所長は僕を呼び止めた。

彡 l v lミ「なんです」

ミ,,゚Д゚彡 「今日、業務が終わった後、少し時間をくれるか?話したい事がある」

彡 l v lミ「……昨日の事ですか」

ミ,,゚Д゚彡 「まあな」

彡 l v lミ「分かりました」

所長のこめかみには、小さな痣が青黒くあったが、理由は聞かないことにした。

68 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:03:25 ID:s7M8ZC4Q0
更衣室で作業着に着替え、用具を揃えて、車を出発させる。
ジョルジュ氏の家は、事業所のある通りの5本先に平行した通りの中にある。

車を右折し、主要道路に乗る。そのまま進んでいき、暫く進んだ後に、再び右折。
住宅の広がるその通りに入っていくと、彼らの、白い家が見えてくる。

途中で彼の家の前からやって来た運送トラックとすれ違った。

69 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:04:28 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ「FSサービスですが」

扉が開き、ペニサス夫人が出て来た。


('、`*川「あ、中にどうぞ……」

彡 l v lミ「失礼します」










彡 l v lミ「なるほど……まだ多く出現すると」

('、`*川「ええ……」

彡 l v lミ「前に罠を設置してから、数週間は経ちますから……もしかしたら生き残っている巣があるか、罠がもう使い物にならないのかもしれませんね」

70 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:05:04 ID:s7M8ZC4Q0

('、`*川「そうですか……」

彡 l v lミ「とりあえず、罠の様子を見てみます」


想像通り、捕獲型の罠には死体が溢れていた。
毒を使った罠の方も、食い尽くされている。
毒を食らった個体は巣に毒を持ち帰ることを考えると、そこまで残っている個体が残っているとは考えにくいが……。

彡 l v lミ「とりあえず、もう一度薬品を撒いて、罠も取り替えます。それで様子を見ましょう」

('、`*川「はぁ………」

彡 l v lミ「長い間人の気配のない家でしたから、今年いっぱいは度々見かけることがあると思いますよ」

('、`*川「わかりました」

71 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:05:29 ID:s7M8ZC4Q0

朝の風に、ラージヒル家の庭の植込みが音を立てて揺れている。
ペニサス夫人は娘2人と手を繋ぎ、家を眺めている。

彡 l v lミ「ご主人はもう?」

('、`*川「ええ……今日は急ぎの用事があるからって、直ぐに」

('、`*川「主人は在宅でプログラマーをやっておりまして、私も詳しくは知りませんが……」

彡 l v lミ「そうなんですか」


lw´‐ _‐ノv「風が気持ちいいね、クー」

川 ゚ -゚)「うん」

lw´‐ _‐ノv「ママ、クーと遊んでていい?」

('、`*川「いいわよ。庭からは出ないでね」

lw´‐ _‐ノv「はーい」

72 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:06:00 ID:s7M8ZC4Q0
ラージヒル家の娘二人は、はしゃぎながら、庭の片隅まで走っていき、縄跳びを始めた。


彡 l v lミ「娘さんの名前、なんていうんですか?」

('、`*川「あの髪の長い方がクールで、短い方が姉のシュールです」

彡 l v lミ「……お姉さんは、しっかりしてますね」

('、`*川「シューは、頑張り屋ですから。新しい環境になって、娘たちに悪影響が無いといいんですけど」

('、`*川「周りの子に馴染めるか、心配で」

73 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:06:43 ID:s7M8ZC4Q0
さっきからずっと吹いていた風が止んだ。
子供達も静まり、一瞬、辺りは静寂に包まれた。


彼女の言葉に対して、こういうことを、言うために今日はここに来たような気がした。

彡 l v lミ「大丈夫ですよ、きっと……」

彡 l v lミ「……全ては、我々の予想外の方へと向かいたがるものなんです」



ペニサス夫人は、僕の事を見ながら微笑んだ。

('、`*川「随分、哲学的な事をおっしゃるのね」

彡 l v lミ「……最近、思うことでしてね」

('、`*川「素敵だと思いますわ」

彡 l v lミ「どうも」

74 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:07:19 ID:s7M8ZC4Q0


彡 l v lミ「では、またのご利用を」

('、`*川「今回も、ありがとうございました」

彡 l v lミ「いえいえ、それでは」


lw´‐ _‐ノv「またね、おじさん」

彡 l v lミ「うん。元気でね」




今、ビロードが車内に居たらどうしたろうか。
そんなことをふと考えると、笑いが漏れた。
車を左折させ、ラージヒル家の通りを出る。
1日は、始まったばかりだ。

75 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:08:38 ID:s7M8ZC4Q0


( ´W`) 「では、いい夜を」

ミ,,゚Д゚彡 「おう。お疲れさん」


午後4時。
所長と僕だけになった部屋。
傾いてきた太陽の黄色い光が、差し込んでいる。

彡 l v lミ「……それで、話というのは」

ミ,,゚Д゚彡 「何で、お前があのクラブに」

彡 l v lミ「……友人の付き合いで」

ミ,,゚Д゚彡 「……そうか」

ミ,,゚Д゚彡 「……俺の息子はだな」

所長は立ち上がり、窓際まで歩いていくと、そこで止まって話を続けた。

76 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:09:18 ID:s7M8ZC4Q0
ミ,,゚Д゚彡 「親として、何とかしなきゃいけないと思ってるんだが、どうも難しい年頃なんだ」

ミ,,゚Д゚彡 「もう何ヶ月も家に帰って来てないんだ。ついこないだ暴力事件を起こしてからは、学校にも現れない」

ミ,,゚Д゚彡 「どうやら、毎夜あのクラブに行っているようなんで、説教を食らわせようとしていたんだが……」

彡 l v lミ「それで、その痣を」

ミ,,゚Д゚彡 「ああ。親に向かって、拳を上げやがった。勿論、俺もボコボコにしてやったけどな」

所長は窓際から離れ、自分のデスクへと戻ると、一枚の写真を取り出し、僕へ見せた。




[(,,゚Д゚)]




ミ,,゚Д゚彡 「ギコって言うんだが………何か見覚えはないか?」

77 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:09:41 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「あ」

そこまで言って、僕は葛藤した。
写真に写る彼は、紛れもなくあの男、ロアーだった。

所長は、彼が何をしているのかも、知らないようだった。

彼が同年代の人間をまとめて、薬物の売買グループを結成していることや、彼のこじれた人間関係の事も。
僕は果たして、全てを彼に話してしまって、いいもだろうか?
この男は、もう「難しい年頃」の範疇には収まっていない。

ミ,,゚Д゚彡 「なんだ」

彡 l v lミ「……ああ、確かに見たことはありますよ。ただ、面識はありません」

78 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:10:07 ID:s7M8ZC4Q0
ミ,,゚Д゚彡 「………そうか」

ミ,,゚Д゚彡 「いや、時間をかけたな。今日はもう帰っていいぞ」

彡 l v lミ「……分かりました」


所長はデスクに座り、息子の写真を見ている。
僕は、所長の不幸に同情した。そして、少しの罪悪感を覚えた。
どうせ、いずれ分かる事だ。何故今伝えなかったのか?
理由は、僕の弱さだと思った。






.

79 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:10:34 ID:s7M8ZC4Q0







From:斉藤
To:You
Title:今度の土曜、落ち合おう

忙しかったプロジェクトが終わった。土曜、Expelで落ち合わないか?
良い情報があるんだ。お前の話も聞きたい。

斉藤







.

80 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:11:07 ID:s7M8ZC4Q0

民族音楽を思わせる音色の上に、呪術的なリズムが繰り返される。
薄暗い照明の下、人々が踊り狂っている。
ジーはいつものバーで待っていたが、斉藤の隣に僕が座ると、そっと席を外した。


彡 l v lミ(ごめんよ)

(・∀ ・)「で、どうだった。何か収穫はあったか」

彡 l v lミ「ロアーってやつが居た」

彡 l v lミ「ティーンのグループを取りまとめてる薬物の売人で、僕の勤務先の所長の息子だった」

僕がその事を言うと、斉藤は爆笑した。

81 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:11:35 ID:s7M8ZC4Q0

(*・∀ ・)「マジかよ、それは傑作だな」

彡 l v lミ「マジだよ」

(・∀ ・)「その他に、何かあったか?」

彡 l v lミ「特に」

(・∀ ・)「………そうか。ありがとう」

(・∀ ・)「俺の方からも、良い情報がある」

(・∀ ・)「ここらでチップの密売を始めた奴のホームページは、大体一ヶ月前に作られてた」

(・∀ ・)「つまり、奴はここでビジネスを始めたばかりだ」

82 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:11:59 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ「そうか」

僕は、ジーの事を言おうか迷っていた。
この場で彼女のことを言うということは、彼女をRMNの話題に引っ張り出すということだ。
要らない危険が彼女に及ぶかもしれない。それは、流石に憚れた。

……しかし、彼女が何かを隠している事には違いない。
それが何なのか。それを知ってからでも、斉藤に言っても遅くはないだろう。

(・∀ ・)「………どうかしたか」

彡 l v lミ「いや、なんでもない」

83 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:12:30 ID:s7M8ZC4Q0

「あああああああああッ、離れろッ、離れろよぉおおおおおおおおッ!!」





女の喚き散らす声。
見ると、あの銀髪の女――ハインが、錯乱状態で暴れまわって居た。


从|| ゚∀从「あ、あああああああああっ、虫がっ!虫が体からああああ!誰か助けて!」

(,,゚Д゚)「止まれ!………クソッ、早くクラブから連れ出せ」

(*゚ー゚)「ハイン、大丈夫かな……」

(,,゚Д゚)「ただのバッドトリップだよ、クスリが切れれば元に戻る」

84 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:12:58 ID:s7M8ZC4Q0

ハインの手を引く仲間たちを振りほどき、彼女はロアーに詰め寄る。

从|| ゚∀从「ねえ、ギコ、私の事愛してるって言ってよッ!」

(,,゚Д゚)「おい、静かにしろ。目立つぞ」

从|| ゚∀从「あ、あああああああああッ!!」

彼女がロアーに�拙みかかろうとする。
仲間が彼女を押さえ付けて、連れて行った。

85 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:13:54 ID:s7M8ZC4Q0
騒然となったクラブの中も、程なく元の状態を取り戻してきた。


(・∀ ・)「若さだな」

彡 l v lミ「あの男が、例の息子」

(・∀ ・)「なるほどねえ」


|゚ノ ^∀^)「いいかしら」

レモナが、どこからともなくやって来て、僕の隣に座った。

(・∀ ・)「えーと……」

彡 l v lミ「知り合い」

86 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:14:36 ID:s7M8ZC4Q0

(・∀ ・)「あ、どうも」

|゚ノ ^∀^)「こんばんは。レモナって呼んでね」

(・∀ ・)「斉藤って言います。鈴木の親友です」

|゚ノ ^∀^)「よろしく」

|゚ノ ^∀^)「……貴方達に協力したいのだけれど、許してくれるかしら?」


レモナがそう切り出すと、
斉藤の表情が変わった。

(・∀ ・)「どういうつもりです?」

|゚ノ ^∀^)「興味があるのよ。貴方達に」

87 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:14:59 ID:s7M8ZC4Q0
|゚ノ ^∀^)「……私はずっと昔から此処に居るし、ここの事はそれなりに知ってるつもりよ」

(・∀ ・)「……鈴木」

斉藤は、どうやら彼女の事を信頼していないようだった。
決定は、僕に委ねられたのだ。
レモナも、僕の事を見つめる。

長かった曲が終わる。
次の曲に向かって、フロアには緊張感が生まれる。

彡 l v lミ「……信じて、良いと思う」

レモナが笑った。
斉藤は、険しい表情を解いた。
交渉は、成立した。

88 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:15:28 ID:s7M8ZC4Q0
|゚ノ ^∀^)「何を追っているの?」

(・∀ ・)「……詳しくは言えませんけど、ドラッグとか、拳銃とか、金とか、そういう類じゃない物、」

(・∀ ・)「その、流れを追ってます」

|゚ノ ^∀^)「……正直言って、私には分からないけれど」

|゚ノ ^∀^)「それが便利な物だったら、いずれ大衆にも広がっていく物よ」

(・∀ ・)「……そうですか」

|゚ノ ^∀^)「……申し訳ないけど、そんなに力にはなれないかもしれないわね」

|゚ノ ^∀^)「Expelの人間の事なら、任せて。コネも持ってるし」

(・∀ ・)「……はい」

|゚ノ ^∀^)「じゃあ、また会いましょう」



そう言って、人混みの中へ優雅に消えていくレモナの姿を見ながら、斉藤は、「美女だったな」と言った。
笑った。
そもそも、その事だ。彼女は何故、斉藤に話さなかったのだろう。
このまま黙っていても仕方がないので、僕が教えてやった。

彡 l v lミ「彼女、男だけどね」

89 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:15:58 ID:s7M8ZC4Q0
(;・∀ ・)「はぁぁぁっ!?」

(;・∀ ・)「ニューハーフか」

彡 l v lミ「うん」

(;・∀ ・)「……本当に信頼できるんだろうな」

彡 l v lミ「……分からない」

(;・∀ ・)「様子を見よう。核心に触れる事は伝えないように」

核心。
その言葉が僕の心に引っ掛かった。
核心とは何だ?
そもそも、何故彼はこんなことをしているんだ?

彡 l v lミ「そこまでして、お前が、RMNチップを追う理由、聞かせてもらってないんだけど」

(・∀ ・)「……そうだったな」

(・∀ ・)「すまんが、今は言えない」

彡 l v lミ「何故。親友だろ?僕は」

(・∀ ・)「本当にごめん。でも今は、その時じゃない」

(・∀ ・)「時が来たら、話すよ」






.

90 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:16:21 ID:s7M8ZC4Q0


(・∀ ・)「じゃあ、また」

彡 l v lミ「うん」


結局、その後進展はなく、斉藤と、クラブの前で別れた。



「オスロ」


振り向くと、そこにはジーが立っていた。
寂しい、夜の通り。

91 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:17:06 ID:s7M8ZC4Q0
彼女と二人。夜風が吹く。


爪゚ー゚)「ずっと、待ってたよ」

彡 l v lミ「ごめん、無視しちゃって」

爪゚ー゚)「いいの。大事そうだったから」

彼女は、僕の方に近付いて来て、僕の胸に、顔を埋めた。

彡 l v lミ「ジー、」

爪 ー)「暖かいね」

92 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:17:51 ID:s7M8ZC4Q0
……暖かい。
僕の方は、産まれてから人の暖かさに初めて触れたような気分すらした。
彼女と話す度、彼女と触れ合う度、凍った心が、溶けていく。


彡 l v lミ「クラブは好き?」

彼女は、僕の背に手を回す。
それだけで、何も答えなかった。

いつもの様にクラブで会っては、すぐに別れてしまう。きっと、そんな関係であってはいけないのだ。もう僕たちは、その段階ではないのだから。

彡 l v lミ「僕は、好きになれそうにないよ」

彡 l v lミ「………海に、行かない?」

爪 ー)「……うん」


Expelの在る通りから、港湾地区まではそう遠くなかった。
徒歩で20分くらいだろうか、そのくらいかけて、僕たちはデッキに着いた。

93 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:18:18 ID:s7M8ZC4Q0
夜の海、といってもそこは貿易港だった。
水平線の向こうに、工場や倉庫の灯りが見える。

僕とジーは、デッキに腰掛け、遠くで点滅する光を眺めている。

爪゚ー゚)「……ねえ、」

彡 l v lミ「なに?」

爪゚ー゚)「何故オスロは、あの夜、クラブに来たの?」

波が打ち寄せてきて砕け散る。
僕はそれを眺めていた。

ジーの問いには、答えようと思っていた。

彡 l v lミ「………RMNチップを追ってる」

でももっと、抽象的に言おうと思っていたのに、口から出てきた言葉は、こうだった。

94 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:18:59 ID:s7M8ZC4Q0




彼女の動きが止まる。



爪 ー)「………そう」




ああ、



彡 l v lミ「ジー?」



彼女の声は、震えていた。







.

95 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:19:31 ID:s7M8ZC4Q0
爪 ー)「……ごめんなさい」

爪 ー)「私、嘘吐いた」

爪 ー)「あのクラブに来たのは、失恋したからじゃない」










爪 ー)「私が、チップの運び屋だからなの」







波が打ち寄せる。
砕け散る。
そして、引いていく。

96 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:20:00 ID:s7M8ZC4Q0
……心の片隅では、なんとなくわかっていた。
だけど、なんとなく、認めたくなかったのだ。
だから斉藤にも言えなかったのだ。

爪 ー)「私は、ドラッグの売人をやってて……各地を転々と旅してるの」

爪 ー)「数ヶ月前に、この街にやって来て……運び屋の仕事も請け負うようになった」

爪 ー)「…私は毎夜、Expelに行って、薬を売ってる」

爪 ー)「………軽蔑した?」

でも、それがどうしたというのだ。
軽蔑だなんて、そんな訳、ないじゃないか。


彡 l v lミ「……まさか。そんな訳、ないだろ」

97 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:20:28 ID:s7M8ZC4Q0
彡 l v lミ「なんとなく、そう思ってた。だから」

彡 l v lミ「全然、受け止めるし、軽蔑なんて、しない」

爪 ー)「………ありがとう」

彼女はそう言った後、声をより一層か細くして、言った。

爪 ー)「この街の仕事が全部終わったら、私は、どこか遠くへ行かないといけない」

爪 ー)「……ごめんね。その時が、きっと私達の最後」


それから、彼女は僕に身を寄せて、静かに泣いた。

98 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/20(日) 23:20:59 ID:s7M8ZC4Q0

彡 l v lミ「家まで、送っていくよ」

爪゚ー゚)「……駄目。私にこれ以上関わったら、あなたが危ないから……」

彡 l v lミ「……分かった。気を付けて」

彼女は、立ち止まり、僕の方を見る。

爪゚ー゚)「じゃあ、また会おうね」


――その顔に弱々しい笑みを浮かべて。

そう言って、彼女は後ろを向いた。
彼女の寂しげな背中が、闇へと消えていく。


彡 l v lミ「………なんで」


僕は、どうすればいいのか、分からなかった。

102 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:17:35 ID:J3DrZlj60






そうして、毎日が過ぎていった。
また、金曜日がやって来た。
早すぎると、思った。


( ><)「それでは、いい週末を」

ミ,,゚Д゚彡 「おう。お疲れさん」

ミ,,゚Д゚彡 「鈴木も、楽しい週末を」

彡 l v lミ「はい」

103 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:18:21 ID:J3DrZlj60


事業所を出、自転車で通りを走り出す。
後ろから、ビロードの車が近付いてくる。
彼は、車で僕を追い越しざまに、こう言った。

( ><)「良い顔になってますよ。鈴木さん」

彡 l v lミ「え………」

僕は何かを答えようとしたが、そうする暇もなく、車はスピードを上げ、行ってしまった。



帰り道、いつもの公園は珍しく閑散としていた。
これは、僕が小さい時からあって、良く遊んでいたものだ。
僕は、公園に入り、ブランコに乗った。

彡 l v lミ「………懐かしいな」

104 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:20:04 ID:J3DrZlj60
僕はいつもこうして、一人でブランコ遊びをした。
友達が居なかったからだ。クラスにも、何処にも。

ブランコを漕いでいる時、それは誰にも邪魔されない僕の世界だった。
……僕は、そうやって自分の世界に閉じこもったまま、今まで生きて来てしまった。

この一か月の事を考える。
この短い期間に、全てが一変しようとしている。
僕は、覚悟しなければいけない。

運命の強靭な力には、逆らえない。
今、僕の勇気が試されている。

僕は―――。






.

105 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:21:54 ID:J3DrZlj60

彡 l v lミ「ただいま」

( "ゞ)「おかえり」

家に帰ると、リビングでは父が静かに読書していた。

父は本をそっと閉じて、僕の方を見た。
彼の後ろの、窓際からの光が、彼の輪郭を黄色く描く。

( "ゞ)「母さんは、今、体調を崩してる」

( "ゞ)「今は二階で寝てるよ」

彡 l v lミ「え、大丈夫、なの」

( "ゞ)「疲れてしまったようだ。休めば、きっと良くなる」

( "ゞ)

106 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:23:18 ID:J3DrZlj60
( "ゞ)「………………オスロ。女が出来たな?」

彡 l v lミ「………そんな、」

( "ゞ)「土曜の夜、本当はバスケなんかやってないんだろ。母さんも、なんとなく分かってるよ」

( "ゞ)「親に嘘は通じないものだ」

彡 l v lミ「……ごめん」


父は、僕から視線を外し、窓の向こうを眺める。


( "ゞ)「―――俺は、NEO国の内戦が酷かった頃、料理人だった父と、教師の母の間に生まれた」

107 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:24:36 ID:J3DrZlj60

( "ゞ)「両親は、多くのNEO人がそうしたように、VIPに亡命した。そこでは、まともな仕事は一つもなく」

( "ゞ)「母と俺はレストランの給仕として働き、父は下水管の整備をした。それでも、貧しい暮らしには違いなかった」

( "ゞ)「ある日、母が病に臥せった。間も無く死んだよ。父も、事故死した」

( "ゞ)「確かにあの時、俺は絶望の底に居た」

( "ゞ)「そんな時、お前の母さんに出会った」

( "ゞ)「彼女はVIP人、俺には到底届かない夢のような存在だった」

( "ゞ)「……色々あったがね。俺と彼女は駆け落ちして、結婚した。ソーゴーにはNEO移民の働き口があったから、二人でそこを目指した」

( "ゞ)「――時代は変わり、NEO人に対する社会の扱いは随分良くなった。お陰で、こうして家を構えて、穏やかな生活を送ることが出来ている」

108 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:26:15 ID:J3DrZlj60
( "ゞ)「………人間の営みというのは、神秘的な物だ」

彡 l v lミ「父さん……」

( "ゞ)「NEO国からの貧しい移民の一人だった俺が、こうして奇跡的に満ち足りた生活を送ることができている。おまけに子供まで授かることができたのだから」

( "ゞ)「それに、こうも思うよ―――人は、混沌の中を旅しなければならない、とね」

彡 l v lミ「父さん、どうしたの」

( "ゞ)「………ふう」

( "ゞ)「……どうしたものかね。もう、疲れた」

そう言って、
父は、目をゆっくりと閉じた。

( "ゞ)「少し、休む……」

109 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:27:00 ID:J3DrZlj60

彡 l v lミ


母の部屋に行った。

J( 'ー`)し

彼女は、安らかに眠っていた。
何の不安も、葛藤もなく、ただ幸せそのものの表情で。

父の言葉を思い出す。
人間は、混沌の中を生きなければいけない。
彼女は、父は、混沌の中を充分さまよったのだ。

大海原に投げ出された流木のように。
そして偶然、この幸せに流れ着いたのだ。


彡 l v lミ「………ごめんなさい」

僕は、彼女に謝らなくてはならない様だ。

110 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:27:24 ID:J3DrZlj60


電子音は連続する。

彡 l v lミ



僕は、朝食にシリアルと食べようとしたが、昨日でミルクが切れてしまったことを思い出した。生憎、外は雨だ。
ひとまず朝食は抜きにして、斉藤へメールを送る。

111 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:27:58 ID:J3DrZlj60






To:斉藤
From:Me
Title:昨日、話しそびれたこと

おはよう。
昨日、お前に伝え忘れていたことがある。
僕がクラブで知り合った一人の女の事だ。
最初にクラブに行った日からずっと関係はあったのだけど、
昨日、彼女が、RMNチップの運び屋だったことを知った。
これから、僕はどうしたらいい?
彼女から、何を聞き出せばいい?

鈴木







.

112 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:29:01 ID:J3DrZlj60


返答は、直ぐに来た。


From:斉藤
To:You
Untitled

わかった。
俺たちの一先ずの目標は、RMNの密売をしてる奴が誰か特定する事だ。
そのために必要な情報はいくらあっても足りないくらいだ。
とにかく、その女からなるべく沢山の事を聞き出してくれ。
俺は、チップの取引場所の一つを特定したから、今日はそっちへ向かう。
お前も、今日行動した方がいい。








.

113 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:29:30 ID:J3DrZlj60

彡 l v lミ「……行って来ます」


夕暮れ、日が落ちかけ、辺りが薄暗くなる頃、僕は家を出た。
雨は上がり、通りに湿っぽい雨の匂いが立ち込めている。
濡れたアスファルトや、街路樹の色が、より一層鮮やかさを増している。

見ると、彼方に見事な虹が架かっていた。
子供達が、虹を見てはしゃいでいる。

虹の架かる方へ、僕は歩いていった。




.

114 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:30:37 ID:J3DrZlj60




いつものバーに、彼女は居なかった。
人混みの中に僕は入っていく。
彼女を探しながら。

直後、凄まじい重低音が鳴り響いた。
周囲が暗闇に包まれる。

歓声が巻き起こる。
初めてここに来た時以来の、湿っぽい空気。

人間の美しい所も、醜い所も、全部がごた混ぜで。
スープのようになって煮えたぎり、泡を吹いているような。

ハイテンポのビートのきつい音楽が流れ始める。
祭司は祭壇の上で両手を挙げていた。

僕はなす術も無く、人の流れを漂う。







.

115 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:31:37 ID:J3DrZlj60






爪゚ー゚)






僕はそんな中、彼女を、見つけた。
踊り狂う民衆の少しだけ外側で。

彼女は、見知らぬ男に何かを手渡し、金を受け取っていた。取引の最中だった。


男がその場を立ち去る。
彼女が、僕に気付いた。

驚きの表情の少し後に、彼女の顔に、深い影が差した。

116 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:32:12 ID:J3DrZlj60

彡 l v lミ「ジー、」

爪 ー)「君には、こんな姿見て欲しくなかった」

彡 l v lミ

爪 ー)「オスロ」

彡 l v lミ「出よう。僕と一緒に」

彡 l v lミ「君と話したいんだ」

爪 ー)「……うん」

117 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:33:25 ID:J3DrZlj60


僕とジーは、昨日と同じ場所に行った。
潮風が、今日は強い。

俯いた彼女の赤髪が、それに吹かれて揺れる。

彡 l v lミ「君が、好きだ」

彼女が顔を上げて、僕の事を見る。


爪゚ー゚)「……そんな事言わなくても、」

爪゚ー゚)「私達、もうとっくに恋人だったよね」

彡 l v lミ「え?」

沈黙が流れる。
ジーが吹き出した。

118 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:35:08 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「おもしろいね。君は」

彡; l v lミ「……そう?」

爪゚ー゚)「でも、嬉しいよ。ありがとう」


彼女は、そう言って間を空けたあと、口を開いた。
声は、少し震えていた。


爪゚ー゚)「………私に、付いてきてくれるの?」


彡 l v lミ「…………ああ」


彡 l v lミ「付いて行くよ。どこまでも」

119 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:35:35 ID:J3DrZlj60
僕は、その覚悟をもう終わらせていた。
――この先、何があるか分からない。それでも僕は。
彼女と一緒に居たい。そう思う。


一際強い波が打ち寄せて、水飛沫を立てた。

爪 ;ー;)「………ありがとう。私、嬉しい」


お互いに身を抱き寄せ、触れ合う。

彡 l v lミ「もう大丈夫だ。僕が君を幸せにする」

彼女は、混沌の中に居る。
僕は、彼女を助け出すと、心に決めた。
そのためには、どんな混乱に身を捧げても、構わない。

彼女は暫く、僕の腕の中で、泣き続けた。

120 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:36:22 ID:J3DrZlj60

彡 l v lミ「チップの事……教えてくれるかい?」

爪゚ー゚)「……今夜、別の取引場所でチップの受け渡しがある」

彡 l v lミ「わかった」

彡 l v lミ「チップを流通させてる大元の人物が誰なのか、探してる。心当たりはある?」

爪゚ー゚)「……分からない。依頼人と顧客の名前しか」

爪゚ー゚)「依頼人はギャシャ。顧客は、ジョーンズ」

彡 l v lミ「ありがとう」

僕とジーは、デッキを発ち、駅へと向かっている。彼女と手を繋ぎながら。
僕は、元には戻らない。


キューエー駅から地下鉄で数駅行った先で降り、暫く歩くと、高層ビル街はなりを潜めて、住宅地へと緩やかに変わって行く。
ベッドタウンというにはまだ近すぎるくらいの所、そこには
Liquefactionというバーがあった。

121 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:37:46 ID:J3DrZlj60

ピンク色のネオン灯が、レンガの壁に掛かってチカチカと点滅している。
入り口の扉には、「Closed」の看板。

爪゚ー゚)「……ここから先は、私だけ行かせて」

扉の前に立つ彼女は振り返り、僕にそう言った。

彡 l v lミ「わかった。気をつけて」

彼女は頷く。
僕は、バーのある通りの向かいに移動し、そこのベンチに腰掛けた。
僕がそうするのを見ると、彼女は扉を二回、少し間を開けて一回叩いた。

扉が開いて、中からスキンヘッドの男が出てくる。
彼に迎えられて、彼女は店内へと入っていった。
そうして、僕は一人、街灯の灯る寂しい夜の通りに残された。

風が吹いて、張り紙が道路を転がっていく。
見上げると、見事な満月が空に浮かんでいた。

122 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:38:12 ID:J3DrZlj60

暫くすると、バーの扉が開かれて、中から人が出て来た。
それは、斉藤だった。

彼は向かいの道に居る僕を見つけると、驚いた顔をして、こちらにやって来た。

(;・∀ ・)「鈴木、何故ここに」

彡 l v lミ「お前が言ってた取引場所って、ここだったのか」

(;・∀ ・)「そうだぜ。ってことは……」

(・∀ ・)「さっき店に入って来たあの女が、例の?」

彡 l v lミ「そうだ」

(・∀ ・)「尾行して来たのか?」

彡 l v lミ「いや」

(・∀ ・)「………そうか」

123 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:38:49 ID:J3DrZlj60
斉藤が、僕の隣に座った。そして、懐から取り出した一枚のチップを、僕に見せてきた。

(・∀ ・)「……チップを入手した。ある殺人犯の、獄中の記憶だ」

彡 l v lミ「殺人犯?」

(・∀ ・)「いや、記憶そのものに特に意味はない。チップそのものの構造を解明しようと思ってな」

(・∀ ・)「それに、実際の取引の場所がどうなってるのかも確かめたかった」

そのチップは、黒く、曲線を描いていた。
ラベルが貼ってあり、そこには手書きの字で「Kuckle 0283」と書いてあった。
彼は、そのチップを懐に戻すと、バーの方へ向き直った。

(・∀ ・)「運び屋の名前、なんて言うんだ」

彡 l v lミ「ジー」

(・∀ ・)「……ジー、の取引してる相手が出て来たら、尾行してみよう」

彡 l v lミ「分かった」

彡 l v lミ「因みに、そいつの名前は、ジョーンズだ。彼女が言ってた」

124 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:39:29 ID:J3DrZlj60
また、暫く経つとジーが出て来た。
僕たちの方へ歩いてくるが、斉藤の事に気づくと、困惑した表情を浮かべる。

爪゚ー゚)「え、」


(・∀ ・)「こんばんは。彼の親友の、斉藤だ」

(・∀ ・)「彼と一緒に、RMNを追ってる」

彡 l v lミ「……ごめん、偶然なんだ」

爪゚ー゚)「……そうなんだ」

彼女が、僕の隣に座る。

爪゚ー゚)「さっき、店に居たよね」

(・∀ ・)「ああ、ちょっとね」

爪゚ー゚)「君は、あのチップについて、何か知ってるの?」

(・∀ ・)「え?」

(・∀ ・)「君は、知らないのか…。あれには、人の脳みそから抜き出した記憶が入ってる」

爪゚ー゚)「記憶!?」

(・∀ ・)「本当だよ。もう科学はそこまで進んでる」

(・∀ ・)「ジョーンズ、だっけ?俺たちは、彼を尾行しようと思う」

爪゚ー゚)「……私も行く」

(・∀ ・)「そうか」

125 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:39:50 ID:J3DrZlj60



僕達は、斉藤の乗って来た車の中で、ジョーンズの出てくるのを見張っていた。
僕は助手席、後ろにはジーが座った。

その間も、何人かの人間が出たり入ったりしていたが、1時間程すると、一人の男がバーの扉を開け、階段を降りて来た。


爪゚ー゚)「あの男」

(・∀ ・)「オッケー」


彼は車に乗り、そのまま曲がり角を曲がっていった。それを皮切りに、僕たちも出発した。出来るだけ近付かないように、車は彼の車をゆっくりと追った。

しばらく通りを走り続けると、遠方、左手に大きな建物がぽつりと建っているのが見えて来た。
ジョーンズの車は、その中に入って行った。

126 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:40:21 ID:J3DrZlj60
(・∀ ・)「止めるぞ」

車は、建物の数十メートル先で停車した。
暫くすると、その建物から、一台のトラックが出てきた。
コンテナには「VIP Induatrial」の文字が刻まれている。


(・∀ ・)「運送業者………」

(・∀ ・)「なるほどね」

(・∀ ・)「……今日はこれくらいにしよう」

127 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:40:41 ID:J3DrZlj60
念のため、その夜、僕はジーの家に泊まる事になった。
斉藤が、僕たちを送ってくれた。


爪゚ー゚)「ありがとう」

(・∀ ・)「どういたしまして」

(・∀ ・)「鈴木」

彡 l v lミ「?」

(・∀ ・)「いい夜を過せよ」

彡 l v lミ「……お前もな」

(・∀ ・)「俺は徹夜だよ。クソめ」

そう言って、斉藤の車は出発した。

128 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:41:03 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「……こっち」


ジーは、ソーゴーの小さなアパートの二階に住んでいた。

彡 l v lミ「……お邪魔します」

彼女の部屋は、机と椅子、ベッドがあるだけの、小綺麗な部屋だった。

爪゚ー゚)「いつでも離れられるように、最低限の物しか買ってないの」

爪゚ー゚)「シャワー、先浴びてくるね」


彼女はそう言って、バスルームに入っていく。


彡 l v lミ「ふう………」

僕は、先の斉藤の言葉を思い出す。
彼は、今夜、何をするつもりなのだろう?

そして、あのVIP Industrialのトラック。何処かで見覚えがあったような―――。
しかし、それを思い出す事が出来ないくらいに、僕の頭は疲れ切っていた。

ジーが出て来て、僕も続いてシャワーを浴びた。

129 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:41:47 ID:J3DrZlj60

爪゚ー゚)「……今日は疲れたね」

彡 l v lミ「うん」


彼女の家の冷蔵庫には、冷えたコーク瓶がいくつかあったので、今はそれを片手に、部屋の中にいる。

爪゚ー゚)「……この先、どうなっちゃうんだろう」

彡 l v lミ「……分からないけれど、きっと大丈夫だ」

爪゚ー゚)「君は………」

彡 l v lミ「うん?」

爪゚ー゚)「なんでもない」

ジーは、瓶の中身を全て飲みきってしまうと、それをテーブルの上に置いて、立ち上がった。
彼女はクローゼットの方まで歩いて行き、その中を僕に見せた。

130 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:42:17 ID:J3DrZlj60
そこには、
細かくパッケージされた粉末状の薬物や、錠剤が、竿にぶら下がった衣服の下で積み上がっていた。

爪゚ー゚)「これ全部が無くなった時、私たちはここを離れる」

彡 l v lミ「……凄いな」

彡 l v lミ「何故、僕にこれを?」

爪゚ー゚)「オスロは私に全部教えてくれた。私も、それに答えないといけないかなって」

彡 l v lミ「……そうか」

彼女はクローゼットを閉じ、僕の隣に座る。
まだ微妙に湿った髪から、彼女の匂いがした。

おもむろに、彼女は、僕にキスした。

彡 l v lミ「ジー、」

131 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:42:49 ID:J3DrZlj60










爪゚ー゚)「ねえ……」

爪゚ー゚)「セックス、しない……?」














.

132 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:43:23 ID:J3DrZlj60







朝になった。

彡 l v lミ「う………」

時計を見る。
朝6時。
いつも通りの時間だ。

彡 l v lミ「今日は………月曜か」

朝の白い光が、部屋に満ちている。
隣で、ジーが目覚めた。


爪゚ー゚)「……おはよう」

彡 l v lミ「おはよう」

僕は、彼女の額にキスをする。

爪゚ー゚)「今日、オスロはどうするの?」

133 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:43:57 ID:J3DrZlj60
彡 l v lミ「……仕事に行かなきゃ」

爪゚ー゚)「そうだよね……」






爪゚ー゚)「お腹減ったね。どうする?」

彡 l v lミ「どうしようか……」

爪゚ー゚)「いつも私が行ってるホットドッグの店があるんだけど……もし良かったらそうする?」

彡 l v lミ「うん」

134 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:44:29 ID:J3DrZlj60

彼女のアパートを出て、数分の所にその店はあった。
通りに面する部分が全てガラス張りになっており、店内には光が満ち溢れていた。
また、月曜の早朝ということもあり、それなりに空いてはいた。

そこの、ガラス張りになっている窓際の席に座った。
お互いのトレーには、ホットドッグと、アイスコーヒーが一つずつ。

爪゚ー゚)「私の話、してなかったね」

彡 l v lミ「うん」

爪゚ー゚)「……どこから話したらいいか、分からないけど」

彡 l v lミ「君が、その仕事を始めたきっかけとか?」

爪゚ー゚)「あー」

爪゚ー゚)「それはね」

135 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:44:58 ID:J3DrZlj60

爪゚ー゚)「私、世界を旅する、っていう夢があったの」

爪゚ー゚)「こんな狭い場所に収まって死ぬなんて、耐えられないっていうか」

爪゚ー゚)「大学を卒業して、バックパッカーとして生活を始めてみて、一番困ったのはやっぱり生活のことだったんだけど」

爪゚ー゚)「……だから、移動しながらでも沢山のお金が得られる、この仕事になったんだ」

彡 l v lミ「そうだったんだ……」

彡 l v lミ

彡 l v lミ「ジー、君はまるで、僕と真逆だね」


僕とは、今までの僕、という意味だった。
あの小さい町の中ですら、自分の殻を作ってきた僕。

彼女は、僕を見て微笑んだ。

136 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:45:27 ID:J3DrZlj60

爪゚ー゚)「そうだね――でも、旅を続けてくうちに、大切な事も分かってきた」

爪゚ー゚)「結局、人は、自分の暮らして来た場所が一番好きなんだって」

彡 l v lミ「……そうかな」

爪゚ー゚)「そうだよ」

そう言う彼女は、真っ白な朝の光をいっぱいに浴びている。
心底、楽しそうな様子だった。
―――きれいだ。
美しいとかじゃなくて、人として、きれいだと思った。

爪゚ー゚)「……だから、いつかこの仕事はやめないと、って思ってる。人の為にならないから」

爪゚ー゚)「もっと色んな所に行って、最後はどこかに行き着いて、暮らせたら幸せだなあって、思う」

彡 l v lミ「……そうだね」

彡 l v lミ「そう、思うよ」

137 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:46:00 ID:J3DrZlj60

その時、僕の携帯に、斉藤からメールが来た。

彡 l v lミ「あ、斉藤からだ……」













From:斉藤
To:You
Title:大収穫だ

おはよう。
彼女といい夜は過ごせたかな?

俺は昨日、知り合いのハッカーの力を借りて、例の「VIP Industrial」の顧客データに入ってみた。
それで、最近の物の配達を調べてみたんだが、チップを流通させてる奴の居場所が特定できたかもしれない。
例のサイトが立ち上がった時期とほぼ同時に、大量の「電子機器」がウィンタード通り 23-1番地にある家から出入りしてる。俺たちの町だ。
しかも、この物資の流れを辿っていくと、『グロリア・インスタンツ』っていう犯罪グループの関係組織に流れてた。

ここからは仮説だが、この流通の目的は「肉体の乗り換え」じゃないか?
『グロリア・インスタンツ』の要人か何かの記憶を細かく分けて、別の肉体に移動させようとしてるとか。
この仮説が本当なら、ヤバい感じになってきたよな。
お前も、覚悟しておいてくれよ。
とにかく、俺はもう少し探ってみる。

斉藤









.

138 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:46:44 ID:J3DrZlj60



爪゚ー゚)「……オスロ?」

彡; l v lミ「………そんな、」

心臓の脈動が、これ以上ないくらい速くなっていた。
まさか、そういうことだったなんて!
僕の頭の中で、全てが繋がった。

ウィンタード通り 23-1番地。
紛れもなく、あの、ラージヒル家の事だ!

139 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:47:17 ID:J3DrZlj60

だとすると、恐らく僕たちが追っている人物は、ジョルジュ氏だろう。
最初ラージヒル家から引き揚げるとき、二回目にすれ違ったトラック、それは確かにVIP Industrial社のトラックだった。
僕は、大きな闇の動き出す瞬間を、目撃していたのだ。

爪゚ー゚)「……オスロ?大丈夫?」

彡 ;l v lミ「……大丈夫」

彡 ;l v lミ「僕たちの追いかけてた人間が誰か、分かったよ」

爪゚ー゚)

彡 ;l v lミ「僕は彼に、会ったことがある……!」

爪゚ー゚)「………これから、どうするの、」

彡 ;l v lミ「あとは、斉藤次第だ。どうなるか分からない」

140 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:47:41 ID:J3DrZlj60

僕とジーは、ショップを出た。
朝の光が黄色く照らす道を、彼女のアパートへと歩いていく。

彡 l v lミ「僕は、これから仕事に向かうよ」

爪゚ー゚)「分かった」


彡 l v lミ「家まで、送る」

爪゚ー゚)「ありがとう」

141 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:50:47 ID:J3DrZlj60
暫く行くと、建物と建物の間に、曲がり角が現れる。そこを曲がる。
先の道には、カラスが群れて、ゴミにたかっていた。

大きな音を立てながら、ヘリが、僕たちの上に飛び出してきた。

爪゚ー゚)「……あのさ、」


彼女が、僕にそう言ったその瞬間、
後頭部に強烈な痛みが走った。

142 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:52:00 ID:J3DrZlj60



気づくと、視界には一面の空。




ジーの、叫ぶ声が、ぼんやりと聞こえる。






何が、どうなった??
霞む視界の中に、いくらか、男が入って来た。



(’e’)


そのうちの一人、多分、あれは、ジョーンズ、だった。


腹に衝撃を感じ、体が転がっていく。
また、意識が―――遠く――――――

143 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:52:23 ID:J3DrZlj60

















.

144 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:52:46 ID:J3DrZlj60



―――気付くと、辺りは真っ暗闇だった。
空気が嫌に薄い。

隣で、ジーの喚く声がする。

僕は、口を何かテープのようなもので塞がれていた。
手足もだ。僕とジーは、身動き一つ取れずにいた。

145 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 22:53:07 ID:J3DrZlj60

振動を感じる。
恐らく、車のトランクか何かの中に閉じ込められているのだろう。

僕たちの事が、バレてしまったんだ。
僕たちは拉致されて、どこかの組織のアジトに連れて行かれて、そこで―――

――――きっと、殺されてしまう。

146 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:53:40 ID:J3DrZlj60



彡 l 三 lミ「う、ううううううううううううううううううううっ!」


嫌だ。
僕は、力の限りのたうちまわった。

でも、駄目だった。
拘束は強くて、びくともしない。

僕たちの抵抗は虚しく、車はどんどん進んでいく。
トランクの中に、呻くジーと、僕の声が充満していた。


彡 l 三 lミ「ふーーーっ、ふーーーっ!」

爪|| 三)「んーーーーーーーっ!んーーーーーーーーっ!」

147 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:54:25 ID:J3DrZlj60


その瞬間、
バリッ、と、何かが千切れる音がした。

直後、
尋常ではない衝撃が僕たちを襲った。
何度も、何度も、何度も、回転した。

焼けるような痛み。
僕の意識は薄らいでいき、爆音が耳を破壊していった。







.

148 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:55:01 ID:J3DrZlj60




「オスロっ!!」

僕を呼ぶ、ジーの声で目覚めた。


―――どのくらい、気を失っていたのか。

目を開く。
強い光が飛び込んできて、目の奥に鈍痛が走る。

ひどい、匂いだ。
何かが焦げたような匂い。

体が、空気が、熱い。

149 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:55:28 ID:J3DrZlj60
目が慣れてきた。
辺りは煙に包まれていた。

爪; ー)「こっち!」

ジーの伸ばした手につかまり、立ち上がる。

彡メl v lミ「一体、どうなって………っ」

痛む身体に鞭を打ち、僕はジーを追う。
煙を抜けると、そこは交差点だった。

僕たちが閉じ込められていた車は、右側から飛び出てきた車と衝突事故を起こし、炎上していた。
あの調子だと、中の人間は即死しているだろう。

僕たちは、衝撃で開いたトランクから投げ出され、助かったのだ。

人々が集まっている。
遠くから、救急車のサイレンも聞こえてきた。



爪; ー)「そこのタクシーッ!乗せて下さいッ!」

彼女が、一台のタクシーを止める。

150 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:56:00 ID:J3DrZlj60
爪; ー)「乗って!」

僕が先にタクシーに押し込まれ、それに続いてジーが乗った。

( ;・□・)「行き先は、どこへ!?」

爪; ー)「980モーテルまでっ!」

車が走り出した。
僕たちが、狙われたという事は―――

彡;メ l v lミ「………斉藤が、危ないっ!」

僕は、ポケットに手を入れる。
あった。

僕はそこから携帯を抜き出し、彼に電話をかける。

151 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:57:09 ID:J3DrZlj60

《どうした?》

彡;メ l v lミ「斉藤っ!僕たちは狙われてる、早く逃げろ!!

《………分かった!そっちは大丈夫か!?》

彡;メ l v lミ「大丈夫じゃないけど、なんとかなってる……!今、980モーテルに向かってる」


《了解ッ、車で向かうから、少しそこで待って居てくれ》


斉藤が電話を切る。
斉藤、なんとか無事で居てくれ――!

爪; ー)「はぁっ、はぁっ」

( ;・□・)「怪我、してますよ。病院には」

彡;メl v lミ「僕たちで何とかする!とにかく、急いでくれ!」

(; ・□・)「……知りませんからね!」

152 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:57:34 ID:J3DrZlj60


僕たちを乗せたタクシーは、980モーテルの前に止まった。



(; ・□・)「790レスですが」

爪; ー)「これ。釣りはいらない」

(; ・□・)「ま、またのご利用、お待ちしております!」


爪; ー)「急ごう」

彡;メl v lミ「ああ」

モーテルに入ると、受付があった。
受付には不透明な仕切りがあり、会話するための穴が空いて居た。


爪; ー)「空いてますか」

「そうですね、214号室が空室でございます」

爪; ー)「1時間30分コースで、お願い」

「かしこまりました。こちらが部屋の鍵です」

穴の向こうから、214と書かれた鍵が差し出される。

爪; ー)「ありがとう」

153 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:58:43 ID:J3DrZlj60

部屋に入る。


爪; ー)「とにかく、身体を、洗わないと……」

ジーは衣服を脱ぎ捨て、シャワールームへと向かう。


彡;メl v lミ「く、クソ………」

僕は、椅子に座り込む。
事故の衝撃で、体は痣だらけ。
ところどころ擦り切れ、服もボロボロだ。

頬の擦傷が赤く開き、痛々しかった。

154 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 22:59:40 ID:J3DrZlj60
一瞬のうちに、数分が経った。

爪゚ー゚)「オスロも、早く血を流した方がいいよ」

バスタオル一枚の姿で、ジーが出てくる。
彼女は顔に傷を負って居なかったが、腕や足には多くの傷が残っていた。

爪゚ー゚)「絆創膏か何か、探しておくから」

彡;メl v lミ「ありがとう」

155 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:00:12 ID:J3DrZlj60

シャワーの水を全身に浴びる。

彡;メl v lミ「つっ………!」

全身の傷に、シャワーの水が沁みる。
流された血で、僕の足元が赤く染まっていく。
こうなってしまっては、もはや父や母の元に、あの町に残る事は出来ない。
これから長い間、彼らから逃れる身だ。

僕がシャワーから出ると、彼女は医療セットを見つけていた。

156 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:00:38 ID:J3DrZlj60

爪゚ー゚)「動かないで」

彡;[]l v lミ「ぐっ………!」

爪゚ー゚)「……これでよし、ね」

彡[]l v lミ「ありがとう……」

彡[]l v lミ「今度、僕がやるよ」

爪゚ー゚)「お願い」

彼女の背中は、大きく擦り剥けていた。
僕は、消毒液を浸したガーゼを彼女の傷をあてる。

彼女から、うめき声があがる。
何回かそれを繰り返した後、背中から胸部にかけて、包帯を巻いてやった。

157 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:01:07 ID:J3DrZlj60
爪゚ー゚)「ありがとう」

彡[]l v lミ「いや………。一先ず、生きててよかった」

爪゚ー゚)「本当だね……奇跡みたい」

爪゚ー゚)「……でも、ここに何時までも居るわけにはいかない」

彡[]l v lミ「斉藤が迎えに来る」

彡[]l v lミ「一緒に、逃げよう。あいつらの手が届かない所まで」

爪゚ー゚)「……うん」

僕は、彼女を抱き寄せた。
彼女も、僕の背に手を回す。

158 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:01:33 ID:J3DrZlj60


斉藤から、電話が来た。

《今着いた。980モーテルで、いいか?》

彡[]l v lミ「ああ。すぐに向かう」

彡[]l v lミ「ジー、行こう」



僕とジーがモーテルから出ると、そこに斉藤の車があった。
後ろのドアが開かれ、ジーが先に、僕が後に乗った。

(;・∀ ・)「災難だったな。とにかく、生きててよかった」

彡[]l v lミ「そっちこそ、生きててよかった」

159 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/21(月) 23:02:02 ID:J3DrZlj60
(;・∀ ・)「それとだな。こっちが、例の人物さ」


斉藤の隣には、ジョルジュが、居た。

  _
(; ゚∀゚)「―――――ッ!」


彼は僕の事を見ると、驚きを隠せない様子だった。

  _
(; ゚∀゚)「あんたはッ!」

彡;[]l v lミ「ジョルジュさん、貴方が……」

  _
(; ゚∀゚)「全部、バレてたのか?俺の仕事も、全部」

彡;[]l v lミ「そんな……!完全に偶然です。僕と貴方が出会った事は………」

160 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:02:37 ID:J3DrZlj60

(;・∀ ・)「彼は、組織に見限られたんだ。彼が預かってたチップは全部回収されて、今は俺たちと同じ身の上ってこと」

  _
(; ゚∀゚)「家族は、安全な所に逃げさせた。組織の狙いは、俺の首だ」

  _
(; ゚∀゚)「俺たちは、協力して生き延びなければならない。愛する人の為に」


(;・∀ ・)「そういう事だ。急ごう!」

斉藤はそう言って、アクセルを踏んだ。

161 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:04:10 ID:J3DrZlj60






その後、僕らは街の反対側へ行くため、都心部へと車を走らせ続けた。









車は、ソーゴーの都心部を駆け抜けている。
ジーと僕は、互いに抱き寄せ合いながら、流れていく景色を、ただ、見る。

(   )「……今が、『その時』なのかもしれない」

その後も、ずっと車で走っていた。車は都心部を抜けかけていた。
静寂の車内で、彼はおもむろに口を開いた。

彡[]l v lミ「その時?」

162 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:05:12 ID:J3DrZlj60
(   )「俺が、RMNを追う理由。話すよ」

(   )「俺の家族は、NEO国で失踪した」

(   )「帰って来た時には、何もかも忘れてしまっていた」

(   )「今も、全員精神病院の中だよ」


(   )「……NEO国で、記憶の操作技術が開発されているのを知ったのは、その1年後だった」


(   )「そして、RMNの存在に気付いたのは、数年前だ」

(   )「……俺は、母の、父の――妹の、記憶を取り返す」



それは、ほぼ不可能だ、とジョルジュが言う。
彼は、答えない。


(   )「……やるだけの事は、やってみるさ。これが、俺がRMNを追う理由だ」

163 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:05:43 ID:J3DrZlj60

彡[]l v lミ「これからは、どうする?」


(   )「―――さあ、な。なるようになるさ」


彡[]l v lミ「なるようになる、ね………」

彡[]l v lミ「そうだな。そうに違いない」

(   )「そうだ」



ジーは、疲労からか、僕に首を預けて眠ってしまった。
僕は、窓の外に目をやる。

街では、朝の気配も消え、昼の力強い光が、高層ビルの数々を照らして居た。

164 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:08:49 ID:J3DrZlj60
ああ、
僕は、今この場に、確かに居る。
あの時まで死んでいた僕は、こうして再び、心を自由に動かして、生きる事ができる。

なんと素晴らしいことだろう!
生きるとは、なんと素晴らしいことなのだろうか!

父よ、母よ、僕を許して下さい。
少し遅過ぎたけれど、旅に出ることになりました。

いつまでかかるか、そんな事は分からない。
けれど、
いつか、ここに戻って来よう。


今はただ、眠ろう。
お前が生きるために。
お前の愛する者たちを守るために。


彡[]- v -ミ「少し、休む………」

(   )「………おうよ」










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165 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:09:22 ID:J3DrZlj60


















彡[]- v -ミ




















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166 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:10:00 ID:J3DrZlj60






                  Wr




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167 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:10:37 ID:J3DrZlj60






                  Mn





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168 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:11:09 ID:J3DrZlj60






                  Ou





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169 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:11:35 ID:J3DrZlj60






                  Xa





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170 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:12:27 ID:J3DrZlj60
























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171 名前: ◆mtKAQR6eRA 投稿日:2017/08/21(月) 23:12:49 ID:J3DrZlj60



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