川 ゚ -゚)は帰るようです
- 1 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:16:53 ID:iIE3KEJ60
- 作品内推奨BGM
https://youtu.be/d6ItrROosYw
- 2 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:17:39 ID:iIE3KEJ60
- 『こんにちは』
『お昼のニュースの時間です』
『まずは最初のニュース』
『第99回全国高校野球選手権大会S県予選、
VIP学園がしたらば高校に4-2で勝利』
『本選出場を果たしました』
『VIP学園が本選に出場するのはおよそ4年ぶり』
『注目選手は6番投手の内藤くん』
『投手だけでなく打者としても彼の活躍は、
試合を重ねるに連れてどんどん増えています』
『本選にも期待できますね』
『それでは続いてのニュースです』
- 3 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:18:07 ID:iIE3KEJ60
- 『S市にて、イベントの最中50代男性が突然倒れ
病院へ緊急搬送されました』
『男性の命に別状は無いそうです』
『原因は熱中症と見られています』
『最近暑い日が続きますね』
『皆さんも熱中症対策はしっかりしてお過ごしください』
『続いてのニュースです』
『2日前にA市のラウンジ駅で起きた転落事故の……』
- 4 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:18:54 ID:iIE3KEJ60
.
- 5 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:19:34 ID:iIE3KEJ60
- ツクツクボウシが鳴いている。
じりじりと照り付ける日射しが全身を焼いていく感覚。
川;゚ -゚)「あぁっつぅいぃ………」
別に夏は嫌いではないけれど。
何処までも続く田園風景をのろのろと歩きながら、私は着ているセーラー服のスカートをばたばたとあおいだ。
終業式の終わった後に荷物をまとめて寮を出て。
寮の最寄り駅から少し電車に乗って。
駅から新幹線に乗り込んで。
新幹線を下りたらローカルな電車でごとごと。
最寄りの駅からバスを乗り継いで1時間。
さらにそこから歩いて30分。
頬からぽたぽたとたれた汗が、制服をじっとりと濡らしていく。
川;゚ -゚)「お迎えでも頼みたい気分だな……」
まぁ、私の帰省は完全なるサプライズなのでどうにも言えないのだが。
- 6 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:20:26 ID:iIE3KEJ60
- 日射しに焼かれ、足取りが少しずつ重くなっていく。
出かける前に塗った日焼け止めは多分もう落ちているんだろう。
ニュースで熱中症には気をつけるように言われていたし、
今日は相当暑いのかもしれない。
川;゚ -゚)「そもそもこんな濃い色してるセーラー服が悪い……」
赤茶けた色のセーラー服の胸元を掴み、バサバサと振って風を取り入れる。
それで、幾分かましになった。
やがてエンドレスに続いていた田園風景に変化が生じる。
ぱらぱらとまばらに建つ、古ぼけた家達。
何ヶ月かぶりにみた故郷に目頭がじんわりと熱くなる。
- 7 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:20:59 ID:iIE3KEJ60
- 「クー!」
不意に呼ばれた名に、少し肩が跳ねた。
恐る恐る声の聞こえた方に目を向ければ、肩でぜぇぜぇと息をする日に焼けた幼なじみ。
(;'A`)「………」
幼なじみ……ドクオは驚いたように私の顔を見つめていたが、
やがて目を閉じ額に滲んだ汗をふるふると頭を振って払った。
そして再び私を見つめにぃ、と口角を吊り上げた。
(;'ー`)「……おかえり」
笑うのが苦手だというドクオの、精一杯の下手くそな笑顔。
私はきっと、この顔を見るために帰って来たのかもしれない。
川;゚ -゚)「……うん」
川*- -)「……ただいま」
妙に頬が熱いのは、きっと気のせいだ。
都会からの長い旅路を経て。
私は、懐かしき故郷に帰って来たのである。
- 8 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:21:25 ID:iIE3KEJ60
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- 9 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:22:07 ID:iIE3KEJ60
- ドクオの後について、畦道を歩いている。
ゲロゲロと鳴くウシガエルの声と、時折ぱしゃりと跳ねる水の音。
都会の喧騒とは比べ物にならない心地の良さに私はほぅ、と息を吐いた。
川 ゚ -゚)「なんだか懐かしいな。な、ドクオ」
('A`)「でも実質4ヶ月強くらいしか離れてなかったじゃねえか」
川;゚ -゚)「別にいいだろ!寂しかったのは寂しかったんだし!」
寮に入ってすぐは寂しさに枕を濡らしたのは内緒の話なのだ。
('A`)「そういえば」
川 ゚ -゚)「うん?」
('A`)「学校はどうだったんだ?」
くるりと振り向き、そう問いかけるドクオ。
広くもない畦道で後ろを向いて歩いているというのに、
その足取りに危なげは一切無くむしろ楽しそうにも見える。
- 10 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:22:54 ID:iIE3KEJ60
- 川 ゚ -゚)「楽しかった、田舎者の私にもクラスの皆すごく優しかったし」
('A`)「おぉ、良かったじゃん」
川 ゚ -゚)「そういや聞いてくれドクオ、
私5月の体育祭でパン食い競争にでたんだ」
('A`)「ほぉ」
川*> -<)「それでな!私なんと、
1位を取ることができちゃったんだ!」
(;'A`)「えぇっ!お前が!?」
川 ゚ -゚)「あ、その顔は信じてないな!
今ケータイ持ってないから見せられないが、
1位の旗持ってる写真とか撮ってもらったんだから!」
(;'A`)「いや、信じてないわけじゃないけど……、すごいと思うぞ」
川*゚ -゚)「ふふーん」
- 11 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:23:35 ID:iIE3KEJ60
- 腰に手を当て、胸をはる。
はれるほど胸もないんだが。
あ、やべ、ちょっと哀しくなってきた。
川 ゚ -゚)「(そういや高校の友達みんな胸凄かったなぁ……)」
川 ゚ -゚)「(ドクオはどっちのほうが好きなんだろうか………)」
川 ゚ -゚)「…………」
川∩-∩)
(;'A`)「ど、どうしたんだよ……」
川∩-∩)「別に、なんでもねーし……」
うん。
涙が出そうだから、そろそろ考えるのを止めようか。
- 12 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:24:15 ID:iIE3KEJ60
- ('A`)「そうだ、ニュースで見たんだけどお前の高校、
ギリギリの所でVIPに負けて甲子園の予選落ちたんだって?」
川;゚ -゚)「うごぁああああ」
川;゚ -゚)「やめてくれーぃ………とくに野球部関係ないけど
その場のノリで必死で応援したのに
すっげー点とられた話はやめてくれぇい……」
('A`)「最初の2回3回で1点ずつ取れたから行けると思ったのにな」
川;゚ -゚)「まさか7回裏でエラー起こってランニングホームラン
とか予想してなかったし!!!」
('A`)「結局VIP学園本選出場だしな」
川;∩ -∩)「あぁあああああもっと頑張ってくれよ
したらばぁああああああああ」
(;'A`)「VIPになんの恨みがあるんだよ……」
川;∩ -∩)「うるせーー!!
負けた時点で恨みいっぱいじゃーー!!」
- 13 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:25:01 ID:iIE3KEJ60
- 「あ!ドク兄だー!」
そんな無邪気な声がふと聞こえてきた。
顔を覆っていた手を外し、正面を見るとドクオが子供達に取り囲まれているのが目に入った。
(,,゚Д゚)「ドークーにーいー!」
( ・∀・)「なーにしてんだー!」
(;'A`)「ちょ、バカ押すなってギコ!モララー!
お前ら俺見るたびちょっかいかけてくるんじゃねぇよ!」
川 ゚ -゚)「おー、ギコもしぃちゃんもモララーも
しばらく見ない間に大きくなった気がするな。
みんな何してるんだ?」
(*゚ー゚)「これからあたしたちザリガニ取りするんだよー!
お兄ちゃんは?」
(;'A`)「え、えーと、ただの散歩だよ」
- 14 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:25:52 ID:iIE3KEJ60
- しどろもどろと答えたドクオをじっと見ていたモララーくんが、
閃いたとばかりに目を輝かせ口を開く。
( ・∀・)「わかった!彼女とデートなんだろー!」
(;'A`)「ばっ………!!ちげーよ!!」
川*゚ -゚)「ふふー、そうそうデートなんだ!」
(*゚ー゚)「デート!いいなー!」
(;'A`)「だから違うっての……」
川*゚ -゚)「私とドクオ、付き合ってるみたいに見えるか?」
( ・∀・)「らぶらぶー!」
(;'A`)「違う!」
(*゚ー゚)「彼女さんとたべてー!」
そう言いながらしぃちゃんがドクオの手にアメを2つ握らせる。
条件反射で思わずそれを受け取ったドクオは、
アメを手の中で転がしながら眉間にシワを寄せた。
- 15 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:26:49 ID:iIE3KEJ60
- _,
(;'A`)「あのな!あんまり大人をからかうもんじゃないの!」
(,,*>Д<)「わー!ドク兄が怒ったー!」
( *>∀<)「にーげろー!ほら行くよしぃ!」
(*>ワ<)「きゃー!!」
捕まえようとしたドクオの手をすり抜け、私をすり抜け、
子供達はきゃっきゃとはしゃぎながら畦道をぱたぱたと走り抜けていく。
しぃちゃんの手に握られたバケツの軽快な音が、
カタカタと響きだんだんと小さくなっていく。
(;'A`)「あー……なんかごめんな……」
川 ゚ -゚)「別に構わんさ。
よっぽどドクオは子供達に好かれてるんだな」
('A`)「好かれてるっつーか、舐められてるっつーか……」
川 ゚ -゚)「いいんじゃないか?私はお前のそういうところ、好きだよ」
('A`)「あっそ……」
どうにも煮え切らない返事を返して、
ドクオは先程しぃちゃんからもらったアメを口に含んだ。
('A`)「ハッカだこれ」
そう言ったきり黙り込むドクオ。
やけに煩い蝉の声が、晴天の青空に吸い込まれて、消えていく。
- 16 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:27:28 ID:iIE3KEJ60
.
- 17 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:28:37 ID:iIE3KEJ60
- 川*゚ -゚)「なつかしい!子供の頃よく遊んだよなぁ、ここ!」
('A`)「あぁ、二人で暗くなるまで遊んでたっけな」
二人で、人気の無い神社にいる。
何かの神様を祀っていると聞いたことがあったような、なかったような。
何の神様だったかは、もう思い出せない。
川*゚ -゚)「そうそう!秘密基地とかつくって!」
('A`)「夜遅くまで遊んでてお互い親に拳骨くらったもんな」
川 ゚ -゚)「痛かったなぁ、あれは」
('∀`)「ああ、めちゃくちゃ痛かった」
俺ちょびっと泣いたもん、とドクオが笑いながら言う。
川 - -)「泣いた泣いた、私なんかギャン泣きだったよ」
('A`)「でもお前泣きながら『ドクオのことおこらないで~!』なんて言っててさ」
川;゚ -゚)「え?言ってないぞそんな事」
ちょいとドクオさん。
私の記憶には一切無いのですが。
- 18 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:29:34 ID:iIE3KEJ60
- ('A`)「言ってた言ってた。超言ってた。」
川;゚ -゚)「うっそだぁ」
('A`)「嘘ついてどうすんだよ」
川;゚ -゚)「そ、そりゃあそうか……えーと……」
あれ、おかしいな。
なんか顔が熱くなってきた。
川;^ -^)ノシ「よ、よーし!話変えよっか!!」
(;'A`)「相変わらず笑うのへったくそだなお前……」
川;゚ -゚)「えー……」
腕をぱたぱたと振って言うと、ドクオに呆れたように口を挟まれた。
だが正直言ってもいいか。
ドクオにだけは言われたくない。
- 19 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:30:33 ID:iIE3KEJ60
- 川 ゚ -゚)「あ、そうそう。
ドクオはもう家の仕事は慣れたのか?」
('A`)「慣れたっつーか、嫌でも筋肉ついて楽になったよ。
ほら、日焼けもすごくて」
川 ゚ -゚)「わぁ……」
ドクオに見せられた腕の日に焼けた跡が
Tシャツに合わせてくっきりと色濃く出ており、
昔から細い細いと散々馬鹿にしてきた体つき
も
心なしか力強くなったような気がする。
('A`)「今ならお前も持ち上げられるんじゃね?」
川;゚ -゚)「え、遠慮しておこう……」
学食だのお店だのと美味しいものをルームメイトにいっぱい教えて貰ってから、
浮かれて食べていた反動が半端ないので勘弁して欲しい。
主に体重とか体重とか。
でも胸囲はそんなに成長しなかったような。
毎日牛乳とか飲んでたのだがな……。
あ、やべ、涙が。
- 20 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:31:41 ID:iIE3KEJ60
- (∪^ω^)「わんわんお!!!」
川;゚ -゚)そ「うひゃあ!?」
(;'A`)そ「うぉお!?」
とその時。
突如境内に転がり込んできた子犬。
リードが付いているのを見るに散歩中だったのだろうか。
川;゚ -゚)「ひゃー……」
(∪^ω^)「わんわんお!わんわんおー!」
私に向かって遊ぼ遊ぼと吠えたてる子犬。
ドクオが跳ね回る子犬のリードを掴もうとおろおろしていると、
男性が慌ただしく境内へ滑り込んできた。
( ;^ν^)「あー、こら!吠えるな!やーめーなーさーいブーン!」
(∪ ´ω` )「わんおー………」
わたわたともたつきながらも子犬のリードを捕まえ、落ち着かせた男性は、
私たちに向かってぺこりと頭を下げる。
- 21 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:32:30 ID:iIE3KEJ60
- ( ;^ν^)「ごめんなさいね、うちの子が……」
川 ゚ -゚)「そんなそんな、元気でいいじゃあないですか」
('A`)「いえ……気にしてないんで……」
そう答えると、リードを掴み直した男性は
申し訳なさそうに再びぺこりと頭を下げた。
( ;^ν^)「本当にすみませんお兄さん。
一人でゆっくりしていたところを邪魔してしまって……」
そう言って、彼は「ほら、行くよ」と
子犬のリードを引き、鳥居をくぐって去っていった。
ふとドクオの方を振り返った。
黙ってこちらを見つめるドクオの顔は、今にも泣きだしそうだった。
私は、黙ってドクオから目をそらす。
いつの間にか、辺りは暗くなっていた。
もう日が落ちたのだろうか。
蝉の声が妙に喧しい。
- 23 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:35:28 ID:iIE3KEJ60
.
- 24 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:35:48 ID:iIE3KEJ60
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- 25 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:36:18 ID:iIE3KEJ60
- 終業式が終わった後だった。
私が里帰りをするということで、寮のルームメイトのツンが見送りに来てくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「寂しくなるわぁ、クーのお土産話いっぱい聞かせてよね」
川 ゚ -゚)「うん、大して面白い話は無いと思うんだけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「あらー、言うじゃない」
ξ^⊿゚)ξ「お・さ・な・な・じ・みとの関係、進展したら教えてね?」
川;゚ -゚)「げほっ!!!」
おおう。
いきなり何を言いよるか、このルームメイトは。
- 26 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:37:17 ID:iIE3KEJ60
- ξ゚⊿゚)ξ「そりゃ地元の話するときに必ず幼なじみのこと話すし、
幼なじみの話してるときのクーってすっごい幸せそうな顔してるわよ?」
川;゚ -゚)「うっそー……」
ξ*´⊿`)ξ「こーんな顔してさー」
川;゚ -゚)「そんな顔してない……」
ξ゚⊿゚)ξ「してるわよー」
そんな他愛のないことをやいのやいのと言い合って、
電車の時間が近くなったのでツンに一時の別れを告げて改札をくぐった。
来た頃は要領悪くバシンバシンと引っ掛かって笑われていたものだが、
4ヶ月経った今となればすんなりと通ることができていた。
こういうのを、都会に染まってきたっていうのかしら。
- 27 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:37:53 ID:iIE3KEJ60
- がたごと、がたごと。
向かい側のホームを電車が通過していく。
時計をちらりと見れば、電車が来るまであと10分程。
もう少し、ツンと話していても良かっただろうか。
『2番線、通過列車です』
無機質なアナウンスが耳に届く。
カンカンと遮断機の音が鳴りだす。
そして私は、夏の空気の熱さを振り払おうと軽く首を捻った時。
- 28 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:38:35 ID:iIE3KEJ60
とんっ
.
- 29 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:39:51 ID:iIE3KEJ60
- そんな小気味良い音と共に浮遊感が唐突に身体を襲う。
悲鳴があがった。
何事かと思わず辺りをキョロキョロ見渡した時、
背中に激しい衝撃を感じて私は呻き声をあげた。
線路に落ちたのだ、と理解するのに少し時間がかかった。
「おい!! 誰か緊急停止ボタン!!」
「もう押した!だが……」
「おいお嬢ちゃん! 大丈夫か!?」
構内の喧騒が更に増す。
夏の空気が全身を押さえつけているように私は、少しも動くことが出来ない。
ただただ誰かの喚く声と焦燥した声がこだましている。
私は――――――――。
- 30 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:40:34 ID:iIE3KEJ60
明日には帰るって言ったんだけど。
どうにも帰れそうにない、な。
「………………ごめんな」
- 31 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:41:23 ID:iIE3KEJ60
ぐしゃり。
- 32 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:42:05 ID:iIE3KEJ60
.
- 33 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:42:40 ID:iIE3KEJ60
.
- 34 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:43:06 ID:iIE3KEJ60
- まぁ、なんというか。
自覚はしていた。
物は意識をすることで触ることができたけれど、
生きた人間にはどうしたって触れなかった時に。
駆け抜けるしぃちゃん達が私の身体をすり抜けていった時に。
自分が既に死んでいることも。
この世のモノではないことも。
- 35 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:43:42 ID:iIE3KEJ60
- (;'A`)『ちょ、バカ押すなってギコ!モララー!
お前ら俺見るたびちょっかいかけてくるんじゃねぇよ!』
(*゚ー゚)『これからあたしたちザリガニ取りするんだよー!
お兄ちゃんは?』
(;'A`)『え、えーと、ただの散歩だよ』
(;'A`)『ばっ………!!ちげーよ!!』
(*゚ー゚)『デート!いいなー!』
(;'A`)『だから違うっての……』
( ・∀・)『らぶらぶー!』
(;'A`)『違う!』
しぃちゃん達の会話に無理矢理言葉を挟み込んで会話を
成立させようとしていた分、むしろ私の方がうんとタチが悪い。
- 36 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:44:26 ID:iIE3KEJ60
- ドクオが鼻を啜る音がやけに大きく聞こえる。
川 - )「………」
自分の血がべったりとこびりついて赤茶色になったセーラー服の胸元を掴んでみる。
元々は綺麗な紺色だったのだけれど。
手にはざらつく布の感触が残っている。
ここで疑問が1つ。
何故私はここにいるのだろう。
未練がましく現世にすがり付いて、
(; A )
大事な幼なじみを泣かせてまで。
私は何をしたかったのだろう。
- 37 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:45:51 ID:iIE3KEJ60
- ドクオのすんすんと鼻を啜る音が、
責め立てるように頭の中をこだましている。
(; A )「……クー」
川; - )
ふとドクオが口を開いた。
私はびくりと身体を震わせ、次の言葉を待つ。
(; A )「葬式な。お前の、友達が来てくれたんだ」
唐突に吐かれたその言葉に、私は思わず顔を上げる。
- 38 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:47:12 ID:iIE3KEJ60
- (; A )「こんな田舎まで、わざわざお前の為に来てくれたんだと」
(; A )「ずうっと泣いてたんだ」
(; A )「『あの時もう少し引き止めておけば良かった』って」
(; A )「『もう1分だけでも、10秒だけでも引き止めていれば、
クーは死ななかったのに』って」
(; A )「ずっと泣いていたんだ」
- 39 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:47:53 ID:iIE3KEJ60
ξ*^ー^)ξ
頭をよぎるのは高校で初めて出来た親友の顔。
『お土産話聞かせてね』と年頃の少女の顔でニコニコと笑っていた
彼女のあの笑顔を、私はもう2度と見ることは無いのだ。
川; Д )「あ、あぁあああぁあああああ」
決壊した。
堪えていた涙が後から後からとめどなく溢れてくる。
きっと泣きたいのは私じゃないのに。
私なんかよりも、ドクオやツン達の方がうんと泣きたい筈なのに。
- 40 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:48:57 ID:iIE3KEJ60
- 川; - )「ごめんね……ごめん………」
言葉にならない声を呟きながら私は俯き嗚咽を漏らす。
頬を伝う生暖かいナニカはきっと私の気のせいなのだ。
死んだ人間に涙を流す権利なんて無い筈なのだから。
スカートにぽたぽたと水滴が流れ落ちて染みを作る。
ドクオがすん、とまた鼻を啜った。
そこからしばらく、二人で静かに泣いていた。
- 41 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:49:46 ID:iIE3KEJ60
- ('A`)「……クー」
川 ゚ -゚)「……うん」
行かなければならない。
何処にだかは分からないが、行ってしまえば私は
もう二度とドクオに会えることは無いだろう。
それだけはわかっている。
ドクオもどこか悟ったような瞳で此方を見ている。
川 ゚ -゚)「なぁドクオ」
('A`)「うん」
- 42 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:50:33 ID:iIE3KEJ60
- だから私は言おうと思う。
故郷に帰ったときに、
ドクオに会ったときに、
言いたかったこの言葉を。
ひょっとしたら、エゴかもしれない。
私が言った言葉が、一生ドクオを縛るかもしれない。
愛しい幼なじみを傷つけることになるかもしれない。
けれど私は。
- 43 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:52:39 ID:iIE3KEJ60
- 川 ゚ -゚)「抱き締めては、くれないだろうか」
(;'A`)「え?」
川 ゚ -゚)「確かに私は死んでいて、
お前が私に触れることは出来ないが、それでも」
川 ゚ -゚)「最後にお前に、抱き締めて欲しいんだ」
私からの精一杯の譲歩。
愛してる、なんて言えないから。
せめて貴方の温もりが欲しい。
ドクオは、少しためらいを見せたが、それでもおずおずと私に手を伸ばした。
私の身体を通り抜けた腕に一瞬びくり、と身体を震わせたものの、
手を引っ込めるようなことはしなかった。
- 44 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:55:12 ID:iIE3KEJ60
- 「嗚呼、ありがとうドクオ。お前は暖かいな」
「分かる……のか」
「感覚は無い。だが暖かさは感じるぞ」
「……そうか」
「うん」
ドクオの胸板が目の前にある。
手を触れようとしたが、つ、と通り抜けてしまった。
「なぁクー」
「なんだ」
「どうしてお前、死んじゃったんだろうなぁ」
ドクオの涙は私の肌をすり抜けて地面に落ちる。
私は答えなかった。
その代わり、笑った。
昔から、笑うのが下手くそだった私は今。
綺麗に笑えているだろうか。
- 45 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:56:31 ID:iIE3KEJ60
- 川 - )「さぁな、こればっかりは私にもわからん」
でもこれだけは言える。
もう死んだ身であっても、私は。
私が都会に出る前から。
一緒に秘密基地を作っていた頃から。
ひょっとしたら出会ったときからかもしれないけど。
ドクオの背中に腕を回して呟いた。
川* ー )「お前のことが、大好きだよ」
やはり、『愛してる』とは言えなかったけれど。
私はとても満足だった。
- 46 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:56:56 ID:iIE3KEJ60
.
- 47 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:57:16 ID:iIE3KEJ60
.
- 48 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:58:05 ID:iIE3KEJ60
ふっ、と目が覚めた。
妙に頭が冴えている。
膝の上に乗せていた花束が、いつの間にか座席の下に落ちていた。
無言で拾い上げる。
ぽたり、と水滴が花束に落ちた。
そこで初めて俺は、自分が泣いていたことに気がついた。
がたんごとんと流れうつろう窓の景色をちらりと見やり、もう一度目を閉じる。
薄荷の香りが鼻を掠めて、消えてゆく。
今、誰かの夢を見ていたような気がする。
- 49 名前: ◆tcnWsgmrys 投稿日:2017/08/21(月) 12:58:55 ID:iIE3KEJ60
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