灰色の青空のようです
1 名前: ◆o6NzMBoNXM 投稿日:2017/08/23(水) 20:06:16 ID:whrL/yB20

セットしていたアラームが鳴った瞬間に、目を覚ました。
薄汚れた天井を見上げて溜息を吐く。どうやら今日も変わり映えがしない朝が来たようだ。
陽は登らず、鳥は囀らない陰気な朝が。

鉄の塊が軋みながら動く重低音が、部屋中に響く。
居住区の中でも上位区画にあるこの部屋で、これだけの音がするのだ。
最下層の人々なんて、寝ることすらできないに違いない。
堅いベッドから起き上がり、全身のシステムチェックを行う。

オールグリーン、異常なしだ。
しいて言えば、昨日夕ご飯の後に食べたアイスクリームは、
完全にカロリーオーバーだったみたいだが。
久しぶりに手に入った甘味なのだ。仕方がない。

窓の無い部屋で大きく伸びをして、時計を確認した。
別にそんな必要はないのだが、癖みたいなものだ。

ξ-⊿゚)ξ 「さって、今日の仕事はっと……」

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:07:28 ID:whrL/yB20

机の上に置いてある端末に手を翳す。
自動で掌の情報を読み取って本人確認をし、スケジュール帳を開く。
今から一時間後に掃除の指令が出ているだけで、他に予定は入っていない。
ということは、掃除さえ終わらせれば今日は自由にできるということだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「久しぶりに制音室でも行こうかな」

機械の起こす重たい音のせいか、頭の後ろを掴まれているような疲労感があった。
ここ一週間ずっと仕事しっぱなしだったせいもあるかもしれないが。
防音壁で囲まれた制音室でゆっくりすれば、少しは楽になるだろう。

ξ゚⊿゚)ξ 「そのためにも、さっさと終わらせなきゃね」

向かうべきは第百十二階層。
今から弾道エレベーターで向かったら予定よりもだいぶ早く着くだろう。
細かい時間指定まではされていないのだから、別にかまわないのだが。

ξ゚⊿゚)ξ 「さて、何を持っていこうかな」

3 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 20:08:53 ID:whrL/yB20

百階層以下には大した武器や装備が無い。
掃除するのは、さほど難しくないはずだ。
寝癖を直しながら、寝巻を脱いで仕事用のスーツに着替える。

メカニックに支給されている戦闘用のスーツは、黒地に赤色のラインが入っている。
肌にぴったりと合うせいで、身体のラインが強調されるのはあまり好きではないが、
夏は涼しく冬は暖かい。おまけに身体能力の向上をしてくれるありがたい装備だ。

左足に結んだポーチに、いくかの武器……もとい工具を収める。
ドライバーとスパナ、大型レンチを一丁。
準備をしながら、机の上の端末を弄る。

ξ゚⊿゚)ξ 「えっ……? 警戒レベル3? スイーパーが十機も犠牲に?」

念の為にホログラムで呼び出した資料を確認していたら、驚くべきことが発覚した。
五段階ある警戒レベルのうち、区画掃除は大抵レベル1。
少し手間取るものでもレベル2までだ。

警戒レベルが3に引き上げられる条件は、掃除に向かったスイーパーが複数破壊されたこと。
もしくは、それに匹敵するだけの危険性があるということ。
つまり、今回の掃除は想像していたものよりは大変になるということだ。

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:09:55 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ま、大したことは無いでしょうけど」

とはいえ、それはあくまでのただの目安。
スイーパーよりも上位個体である私にとっては、大した難易度ではない。

ξ゚⊿゚)ξ 「よし、行きますか」

念の為に手ごろな武器をもう二つ三つ仕込み、部屋の自動ドアから外に出た。
二人がすれ違うのがやっとなほどの細い廊下を抜けて、ロビーに出る。
まだ朝も早いせいか、人はほとんどいなかった。
ただっぴろいロビーの中心にある弾道エレベーターの受付に声をかける。

ξ゚⊿゚)ξ 「いいかな?」

話しかけたことで声帯、網膜認証が同時に行われ、私のIDが中空に示された。
受付嬢を模した機械は冷たい声で問いかけてくる。

「どちらへ向かわれますか?」

ξ゚⊿゚)ξ 「百十二階層」

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:11:42 ID:whrL/yB20

「現在、百十二階層は立ち入り制限区域となっております。
 十分にお気を付けください」

ξ゚⊿゚)ξ 「分かってるって」

受付の横、卵型をした機械が大きく開いて座席が現れた。
エッグと呼ばれる階層移動専用の乗り物。エッグの通り道は透明なエレベーターチューブ。

上下に伸びた透明なチューブはロビーの中にある他のチューブと合わさり、
一本の太い管となって受付の後ろを縦に貫いている。
この都市の一般的な階層移動手段であり、許可された者のみが利用することができる。

ξ゚⊿゚)ξ 「いつみても馬鹿げた設備ね。一体どうやって作り出したんだか」

卵型の乗り物が一つ、中央のパイプを落下していった。
どこか別の階層に向かったのだろう。
私もそろそろ乗らなければ、キャンセルと捉えられかねない。

溜息を吐きながらも、素早く乗り込んだ。
息のつまる様な狭い空間に閉じ込められ、振動が直に座席から伝わる。

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:12:44 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ほんと、苦手……」

外の風景は見えないが、設計上は音速に近い速度が出ているはずだ。
事故が起きれば容易く命を落としてしまうであろうこの乗り物を、私はどうにも好きになれなかった。
勿論、そんな事故を起こさないために私たちは日夜メンテナンスを行っているのだが。

到着予定時刻のタイマーは残り十分ほど。
ただの移動手段である弾道エレベーターを利用中に出来ることは多く無い。
せいぜい持ち歩いている端末を利用して、ゲームや読書をする程度だ。

音速で動いていても通信環境が保障されている技術はすごいけれど、
どれだけの人数がその恩恵を受けているのか。
正直無駄になっているような気もする。

どのみち、私は短い時間でせっせと物事をするのはあまり好きではない。
たかだか十数分程度なら大人しく待っていることができる。

ξ゚⊿゚)ξ 「そういえば、あいつ今頃何しているのかしら」

ひっきりなしに端末を弄っては、独り言をいっている白衣の女を思い出した。
リサーチャーらしいと言えばそうなのだが、目の前にいるとイライラさせられる。
正反対の性質であるはずなのに、何故か友達になったのは私の人生最大の謎だ。

7 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:13:36 ID:whrL/yB20

数か月前に発表された回転炉増設計画のせいで、最近はほとんど会えていない。
何度か通信履歴を残しておいたのに、未だに返事を返してこないし、
きっと研究に没頭しているのだろう。
そう諦めて、最近は連絡すら送っていない。

ξ゚⊿゚)ξ 「着いたみたいね」

駅に着地した卵型の容器は、大きく開いた。
接続橋に飛び降りた私を出迎えたのは、巨大な壁。
エッグから降りた者が、階層に侵入できない様に建設されたのだろう。
前と左右、上下にも蟻一匹通る隙間も無い。

触れるまでも無く、鉄ではないことは一目瞭然。
恐らくは強化プラスチックの類。
壁の向こう側が見えないように、丁寧に暗幕を間に挟み込んで作ったのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ 「手間がかかってるわね。スイーパーが苦戦するわけだわ」

この機械都市で本格的な掃除が行われるまでには、順序がある。
完全自動化されたドローンによる調査報告によって、該当区域が危険だと判断された場合、
まずはスイーパーが派遣される。
これで掃除が完了すれば万事よし。

8 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 20:14:28 ID:whrL/yB20

今回のようにスイーパーの手に負えない場合は、私たちエンジニアに声がかかる。
過去の事例を見る限り、数人単位で編成されたエンジニアに達成できなかった掃除は無い。

ξ゚⊿゚)ξ 「これはだから、私たちへの対策ってことね。
   最初っから対エンジニアを想定しているなんて、初めてかもしれない」

指先でそっと触れた。
スーツが僅かな接点から、壁の情報を抜き取る。
たった数十秒で視界の端に必要な情報だけがピックアップされた。

短く、破壊可能と。

ξ゚⊿゚)ξ 「ふぅん。まぁ、ワーカーの技術にしては出来すぎな気もするけど。
   それじゃあ、掃除を始めましょうか」

壁に向けて十分に溜めた拳を打ち放った。
鈍い音ともに、けたたましくサイレンが鳴り響く。
一撃で崩落した壁の向こうでは、男達が並んで銃口をこちらに向けていた。

9 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:15:17 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「私は襲撃者ってところか」

一斉に響いた発砲音のパレード。
弾丸の軌道上には、もう私はいない。
対メカニックの経験が無いとはいえ、あれでは撃つまでがあまりに遅すぎる。

壊した壁の向こう、廃材をぶら下げたままのクレーンの上から見下ろしていた。
私が何処に行ったのかを見失った男達は、間抜けにも瓦礫の中を探している。

ξ゚⊿゚)ξ 「聞きなさい! この区域は掃除命令が出ています。
   今回の目的は二つ。首謀者を見つけ、殺害。
   捕らえられたスイーパーの破壊。死にたくなければ抵抗しないこと」

大声で、階層中に響くように叫んだ。
待ち伏せをしていた男達はこちらを指さして何かを叫んでいる。
どうやら大人しくしているつもりは無いようだ。

それならそれで排除するだけのこと。
旧時代の化石程度の武装しか持っていない彼らでは、私を傷つけることすらできはしない。

10 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:16:12 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「だから、さっさと探させてもらうわ」

見下ろした百十二階層に点在する建物の中で、幾つかがピックアップされた。
攻め込まれにくい場所、護りやすい場所にタグ付けをし、最短ルートを視界に表示する。
三次元の軌道が矢印で示され、近くの建物に向かってクレーンから飛び降りた。

ξ゚⊿゚)ξ 「一つ目っ!」

薄い鉄板の屋根をぶち抜いて、鉄くずの上に着地した。
粉々になった機械部品が散乱した狭い部屋。
目的の物は無かった。

ξ゚⊿゚)ξ 「はずれ」

すぐさま壁を蹴り飛ばす。
崩落した大穴を抜けて、真っ直ぐに突っ切る。
降り注いだ鉄の雨を身体を捻って避けながら。

こちらの正確な位置は特定できていないだろうに、周辺を全て更地にでもするつもりだろうか。
鉄のぶつかり合う音が止まない。

ξ゚⊿゚)ξ 「当たらない……っての」

11 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:16:56 ID:whrL/yB20

一直線に次の部屋に飛び込んだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「……見つけた」

「あ……」

薄暗い部屋の中、オイルに混じって漂う不愉快な臭い。
データベースで照合して、その原因を知った。
調べなければよかったと後悔する羽目になったが。

両手両足を鎖に繋がれ、所々欠損している女性型の身体。
虚ろな瞳でぼそぼそと呟く彼女らは、私の存在にすら気づいていないかのようだった。

ξ゚⊿゚)ξ 「スイーパーを捕獲して性処理の道具にするなんて、
   ほんとワーカーってのは野蛮な連中。気持ち悪い」

「助け……て……」

鎖に繋がれた腕をゆっくりとこちらに伸ばしてくるスイーパーの一人。
その頭蓋を叩き潰して、瞳から光が失われたのを確認した。

ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫、心配しないで。あなたたちの記憶はコピーされて引き継がれているから。
   だからもう楽にしてあげる」

12 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:18:07 ID:whrL/yB20

助けを求めてくる三体のスイーパーをすべて破壊した。
これで任務の五十パーセントは終了した。

後は、この反乱の首謀者を処刑すること。
残骸だけが残った部屋を出て、階層の中心部に向かう。
一際堅牢そうな鉄の砦には、ワーカーの連中が武装して待機していた。

ξ゚⊿゚)ξ 「それだけ厳重に守ったら、ここに大事なモノがありますって言っているようなものね。
   さて、どうやって侵入しようかしら」

ざっと見積もって百人程。
遠隔スキャンを利用すれば内部構造と装備を確認できるだろうけど、
こちらの居場所もばらしてしまう諸刃の剣だ。

百層より下、開発層における装備など大抵は旧式の銃で危険なものなどはめったに無い。
とは言っても、万全を期すべきだろう。
無駄な怪我をして修理費がかかるのは願い下げだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「うーん……」

鉄塔の上にある見張り台に三人程。
それが中心にある鉄の倉庫を囲うように立っている。

13 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:19:54 ID:whrL/yB20
囮で攪乱してステルスモードで侵入が妥当かな。

ξ゚⊿゚)ξ 「デコイを生成。非戦闘自立プログラム起動」

太腿に結んだポーチから取り出した小型飛行用ドローンに命令を組み込む。
設定した地点にそれぞれが飛んで行く。
現場に到着したと同時に、私と全く同じ姿をしたホログラム映像を映し出した。

武装した砦のワーカーたちは、突然現れた三人の私に対し攻撃を展開する。
自在に動くドローンは、精製したホログラム映像に弾薬をかすめないように飛び回った。
百十二階層の全体が震えるほどの爆薬があちこちで火柱をあげる。

ξ゚⊿゚)ξ 「ステルスモード、オン」

周囲の風景に溶け込んだことを確認し、背の低い壁を乗り越えて侵入した。
三人の私を迎撃するのに躍起になっている連中は、
すぐ横を通り過ぎても気づく素振りすら見せない。
仕事がやりやすくて助かるのだが、張り合いが無いとも思う。

入口を護っているのは巨大な鉄の扉。
幾ら騒音が大きくても、無理やり突破しようとすれば気づかれるだろう。
かと言って、電子制御ではない扉はシステムを乗っ取って開ける方法がとれない。

14 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:20:38 ID:whrL/yB20

ワーカーの男数人がかりで開け閉めをしているのだろう。
それだけの出力を出すことも出来なくはないが、
あまりスーツのエネルギーを無駄に使うわけにはいかない

ξ゚⊿゚)ξ 「残り二つか……」

銃弾の雨を受けてデコイの一つが撃墜されたと情報が上がってくる。
簡単な回避プログラムだけで稼げる時間は多く無い。

予想以上に統率の取れた動き。
それに加えて、古代武器が使用された形跡もある。
どうやってロックを解除したのかは定かではないが、とにかく急いだほうがよさそうだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「だったら、これしかないわね。
   ステルスモード、オフ」

繊細なステルスモードを解除し、スーツのエネルギー総量を見ながら扉に指をかける。

ξ゚⊿゚)ξ 「んっ……よいしょっ!」

けたたましく鳴り響いたサイレンの音。
デコイを追いかけていた弾幕が一瞬で止まった。
だけどもう遅い。私が通ることができるだけの隙間は充分に空いた。

15 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:22:28 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「さって、鬼が出るか蛇が出るか……」

光一つない暗闇の中で、ナイトスコープを起動。
館の中は空間が広がっているだけで、何一つ電子的なものは無い。
念の為に使用した空間スキャンも同様の結果を表示していた。

背後が騒がしくなってきていた。
恐らくはワーカーたちがデコイの相手をやめて、こちらに集中してきているのだろう。
確実に内部にいる私に銃器や爆弾で攻撃を仕掛けてこないのは、
それをしたくない理由があるからか。

ξ゚⊿゚)ξ 「エコーロケーション」

掌を冷たい床に付け、反響定位システムを起動。
空間中に散らばった音紋が、僅かに浮かんだ床の一部を特定した。

ξ゚⊿゚)ξ 「見つけた」

薄い鉄板で隠されていた地下への階段。
入り口に向けて鉄板を蹴り飛ばす。
何かにぶつかったかのような音と、何人かの悲鳴が聞こえた。

16 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:23:56 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「よし」

三段飛ばしで駆け下りる。
人一人がようやく通れるくらいの狭い階段は、先の見えないほど深い。

距離にして数百メートル。深さにして半階層分ほど進んだ先で、漸く小さな光を確認した。
階段の終りに繋がっていたのは、人間の手が加えられていない自然のままの洞窟。
曲がりくねった岩肌の坂道を駈け下りると、行き当たったのは小部屋

ξ゚⊿゚)ξ 「なに……ここ……嘘……」

事前に与えられた百十二階層のデータにはこの場所のことは載っていない。
確認をとろうにも、メインシステムと接続ができない。
何者かの干渉によって完全なスタンドアロン状態に陥っていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「誰かいるの!?」

狭い部屋の中に響く声に返答はない。
ただ棺のように横たえられら黒い箱のみが存在を主張している。
その中は私の持っている手段では観測できなかった。
私がとるべき選択は二つに一つ。

迫り来るワーカーの集団を突破して、二十一階層まで帰り指示を仰ぐか、
今この場で何が起きるかわからないパンドラの箱を開くか。

17 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:25:14 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ええいっ!」

同じ道を二度も往復するのはごめんだ。
箱の蓋に手をかけて一息に持ち上げた。

中に納まっていたのは、人間の少女と見紛うほどに精巧な人形。
ふんわりとした金髪に、ゴシックなドレス。
実際に心音を確認していれば間違えていたかもしれないと思えるほど。

ξ゚⊿゚)ξ 「こんなの……今の技術じゃ……」

見た目だけなら、それも可能かもしれない。
ただし、視界の端に映る少女のデータは、到底再現不可能であることを示していた。

「……私は」

ゆっくりと機械人形は瞳を開く。
澄みきった碧眼に心を奪われそうになる。

ξ゚⊿゚)ξ 「っ!」

我に返り、咄嗟に腰に結んでいたナイフを起き上がった人形の首元に突き付けた。
銃を選ばなかったのは、システムの乗っ取りを警戒してのこと。
だけど、それは無意味だった。

18 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:26:09 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「それを降ろして」

ただの口頭での命令。従う理由など一つもない。
それなのに気づいた時には、腕を降ろしていた。

ξ;゚⊿゚)ξ 「えっ……」

ζ(゚ー゚*ζ 「名前は」

ξ;゚⊿゚)ξ 「ツ……ン……」

固く結んでいたはずの唇から言葉が零れる。
それは確かに私の名前。

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……。私は……デレ」

ξ゚⊿゚)ξ 「何者なの……」

かろうじて紡ぎ出した言葉。
目の前の脅威は、こちらの問いを妨害するつもりは無いようだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「わからない。名前以外は思い出せないから」

19 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:26:54 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「……そう。だったらそのまま眠っていて頂戴。
   あなたは危険すぎる」

頸椎を破壊するために突き出した右腕は、見えない力に引き留められた。
首の皮一枚すら切り裂くことが出来ずに。

ζ(゚ー゚*ζ 「どうして……?」

不安そうな瞳が機械によって作られたものだとわかっていても、
心を揺さぶられる。決意が揺らぐ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「一体何なの」

「動くなっ!」

背後からの声に振り向くと、こちらに銃を向けたアンドロイドが立っていた。
ワーカーの技術では到底再現不可能なそれは、
私を戦闘不能にするには十分すぎる威力を持つ銃を抱えながら。

ξ゚⊿゚)ξ 「あんた、この子が何か知っているの」

両腕をあげ、刺激しないようにゆっくりと振り向く。

20 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:27:43 ID:whrL/yB20

「その娘は我々に知恵と力を与えてくれたのだ」

返答は耳障りな機械音声。
アンドロイドを通して、外にいる何者かが喋っているのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ 「だったら、この子が首謀者ってことね。壊したら終わりってことでしょ」

「ふふふ……ははっははは! メカニック如きにできるものならやってみろ」

ナイフを振りかぶって、動きを止めた。
さっきと同じ結果が待っているだけの無意味な行為だ。

ξ゚⊿゚)ξ 「……あなたたちの目的は何」

「我々をワーカーと卑下するこの世界の主導権を奪うことだ」

ξ゚⊿゚)ξ 「笑わせないで。メカニック一人止められなかったくせに」

「スイーパーを壊されたのは酷く迷惑な話だ。
 お前のような貧相な身体ではたいして楽しめないが、相手くらいはしてもらおうか。
 何せこの階層は男ばかりでな」

21 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:28:45 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「下種ね」

「手足をもがれるくらいの覚悟はしてくれよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、そんな旧式アンドロイド程度でッ……私を止められると思うなっ!」

警告なしに放たれた弾丸は壁を穿った。
即座に飛び上がった私の後を追うように、壁が削られていく。
真上から銃口を蹴り飛ばすと、即座に反対側の手から鋭い突きが繰り出された。

大きく身体を逸らして避ける。間に合わなかった前髪が幾本か宙に舞う。
そのまま振り下ろされる剣の腹を叩いて胸元に飛び込んだ。
隙だらけの胸部に振り抜いた一撃は、胸板を僅かに削るだけにとどまった。

ξ゚⊿゚)ξ 「速い……でもっ!」

後ろに下がったアンドロイドが再び向けてくる銃口を下から蹴り上げた。
弾は部屋を縦断し、私は太もものポーチからスパナを取り出す。
蹴りの勢いを利用して反転、裏拳の要領で腹部に叩き込んだ。

腕が痺れるほどの衝撃と、砕け散った鉄の欠片。
そのまま右手で取り出したマイナスドライバーは、喉から頸椎を破壊して壁に埋まった。
瞳の光が失われ、アンドロイドが活動を終了したのを確認する。

22 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:29:32 ID:whrL/yB20

武器を仕舞い、頭を抱えて蹲っていた少女を振り向く。

ξ゚⊿゚)ξ 「何を恐れているの」

その気になれば私たち二人とも一瞬で行動不能に追い込めることができるはずの少女は、
今にも泣きそうな表情でこちらを見上げて来る。
罪悪感という名の重しが容赦なく心を押し潰そうと積み重ねられていく。

ξ゚⊿゚)ξ 「彼らにアンドロイドを操る技術を与えたのはあなた?」

ζ( ー *ζ 「……ごめんなさい」

ξ゚⊿゚)ξ 「武器のロックを解除したのも?」

ζ(゚ー゚*ζ 「……ごめんなさい」

ξ゚⊿゚)ξ 「はぁー……。謝らなくていいわ。どうしてそんなことをしたのか教えて」

ζ(゚ー゚*ζ 「頼まれたから……」

23 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:30:40 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「何か条件は?」

ζ(゚ー゚*ζ 「お外……」

ξ゚⊿゚)ξ 「外?」

ζ(゚ー゚*ζ 「外の世界に連れて行ってくれるって……」

ξ゚⊿゚)ξ 「無理よ。外の世界には誰も行くことができない。
   あなたであってもね。二十階層より上は、限られた人間しか入れないわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「でも……」

ξ゚⊿゚)ξ 「諦めて頂戴」

俯く少女の頭を軽く撫でながら、何度か通信を試す。
全てが接続エラーに終わり、機械都市とは依然として連絡が取れない状態にあった。

とは言っても、私の役割は明らかであった。
反乱の首謀者としてこの少女を破壊しなければならない
わざわざ確認するまでも無いこと。

24 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:33:57 ID:whrL/yB20

ξ´⊿`)ξ 「はぁっ……」

ナイフは止められる。恐らくは銃でも他の武器でも同じことだ。
それならば、この部屋諸共吹き飛ばす以外に方法は無い。

そう思って少女の素体を検査した所、
少なくとも今の機械都市では考えられない程の強度を誇っていた。
手持ちの爆薬では全く足りないだろうし、
どうやってこの子だけをここに留まらせるかも問題だ。

きっと子供と同じような精神年齢である彼女は、下手な言い訳をすれば後をついてきかねない。
もし彼女を連れて帰ろうものならば、私もスクラップ行きだ。
それは何としても避けたい。

ξ-⊿゚)ξ 「厄介ね……ん……? しまっ……!」

背後から聞こえた金属音に振り向く。
増援が来たのかと思い構えた私は、自らに向けられた銃口に気付いた
再起動していたアンドロイドが構えた大口径の銃は、避ける間もなく火を噴いた。

ξ゚⊿゚)ξ 「……何が」

確実にこちらを穿っていたはずの弾丸は、全て逸れていた。
無作為に転がっている薬莢が、放たれた銃弾の多さを物語っている。

25 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:34:58 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「お姉ちゃん、怪我は……ない……?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……あなたが?」

ζ(゚ー゚*ζ 「動き出したの……分かったから……」

頭部から白い煙をあげて動かなくなったアンドロイド。
間違いなく少女の力によるものだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「強制的に回路を焼き切ったの!?」

ζ(゚ー゚*ζ 「だって……」

幾ら旧式のアンドロイドとは言え、瞬きするほどの短時間でロックを外し、
回路を焼き切るなんて芸当はメカニックである私ですら不可能。
この少女はそれを物理的接続すら無しに行ったのだ。

あまりにも危険。
機会都市のシステムすらも破壊してしまいかねない程に。

26 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:35:46 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「出来るなら……今ここで……」

ζ(;ー;*ζ 「っすん……ひぐっ……」

自分のしたことを叱られたと勘違いした人形の少女は涙を流し、小さな声で泣いていた。
縋る様に伸ばされた小さな手を思わず取ってしまう。

その掌に存在しないはずの暖かさを感じた。聞こえないはずの脈動を感じた。
この子と人間の子供との間には、何も違いなどないないのではないか。
そう勘違いしてしまったときに、理性は感情によって塗りつぶされた。

ξ゚⊿゚)ξ 「……ついてきなさい。でも、あなたの力は使わないで。
   私じゃ庇いきれない」

ζ(^ー^*ζ 「うん……わかった……」

ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ……行くわよ。少し騒がしくなるから覚悟なさい」

階段を一足飛ばしで駆け上る。
恐らく、出口付近ではワーカーたちが待ち伏せているだろう。
爆薬の類を投げ込んでこないのは、それだけこの場所が重要だから。
それはつまり、この少女の存在が彼らを攻略するためのカギになるということだ。

27 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:36:12 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「5……4……3……2……1……」

風になびく髪が背負った少女の鼻先をかすめる。
小さなくしゃみが耳元で聞こえたのと同時に、光の中飛び出した。

「っ! 巫女様を連れている!」

「撃て! 巫女様には絶対に当てるなよ!」

同様は波紋のように拡がった。
パラパラとまばらな弾丸を大きく跳躍して避け、入って来た鉄の扉に向かって飛んだ。
蟻一匹すら通さないぐらいぴったりと密閉された扉の中心に右掌をかざす。

「いくらメカニックでも、それだけの厚みのある扉は越えられないはずだ!」

「捕まえろ!」

「いや、殺して見せしめにするんだ!」

「いいから撃て!」

28 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:37:04 ID:whrL/yB20

背後にいる彼らにとって、私が背負った少女は格好の盾となっているらしい。
最も、旧時代の鉛玉など当たったところでさしたる影響もないのだが。
メカニックでも越えられない?

馬鹿なことを言うな。
メカニックの中でも飛び切り優秀な私が創り出した素体をもってすれば、不可能なことなど存在しない。
故にこの程度の鉄など、砂糖菓子に等しい。

掌が冷たい鉄を認識した瞬間、一瞬で扉に人間大の穴を開けた。
融解面から蒸気の吹き出る道を駆け抜け、弾道エレベーターの駅を目指す。
もはやこの少女のことも気にしていられなくなったのか、
数メートル半径を吹き飛ばす威力の爆弾がいくつも空から降って来た。

ξ;゚⊿゚)ξ 「面倒くさいなぁ、もう!」

無誘導であるがために、ハッキングで乗っ取ることもできない。
放物線上に飛来した爆発物が、付近を無差別に吹き飛ばす。

ξ;゚⊿゚)ξ 「しまっ!」

頭上の影に振り向けば、すぐ真後ろにまで迫っていた爆弾。
着弾までほんの数秒の間に、思考が高速で回転する。

29 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:38:01 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「しっかり捕まって」

背中に負ぶったままの少女を気にかけつつ全力で踏み込み、
爆発の威力範囲外に逃げるために必要な力を引き出す。
背中を焦がすような熱風と爆音に圧されながら、百十二階層の空を駆ける。
この高度の私たちを狙うだけの武器を、ワーカーたちでは所有していないはずだった。

ξ;゚⊿゚)ξ 「嘘っ!?」

警告音とともに、自身がロックされたことを知る。
空中で軽くターンをして眼下に並ぶ鉄の街を見下ろす。
鈍色に統一された流れ去っていく大地のうちに、観測システムが脅威と認定した光が五つ。
もはやハッキングは間に合わない。

全く同時に放たれたのは、金属を溶解させる熱光線。
一直線に迫った五つの光条のうち二つは身体を捻って躱した。

残り三つとの間に挟んだのは、咄嗟に広げた武器。
それらでは完全に防げず、右腕と左太腿のスーツが破れた。
掠った場所の人口皮膚は焼けただれ、痛々しい傷が拡がる。

ξ゚⊿゚)ξ 「もう、高いのに……!」

30 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:38:42 ID:whrL/yB20

文句を言っている暇などなかった。
再度こちらをロックする熱線放射装置。

天井付近にまで伸びている鉄塔に掴まって急ブレーキをかけた。
大きく歪んだ一部を引きちぎり、装置の一つに向けて投げる。
衝撃波を残して飛び去った破片は、着弾した周辺をひっくり返した。

ξ゚⊿゚)ξ 「これで残り四つ……おっと!」

足場さえあれば、攻撃を躱すのは容易い。
頭の上を通り過ぎた四条の光。
鉄塔が破壊され、金属が悲鳴をあげながら大きく傾く。

ξ゚⊿゚)ξ 「よいしょっと」

九十度にまで折れ曲がった鉄塔を蹴り飛ばす。
発射地点に鉄粉と埃を巻き上げて突き刺さった。

ξ゚⊿゚)ξ 「後三つ……!」

ζ(゚ー゚*ζ 「必要ないよ。システムを乗っ取ったから」

31 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:39:37 ID:whrL/yB20

ξ;゚⊿゚)ξ 「……今の間で?」

機械の間近で作業するならともかく、これだけの距離があるなかでのハッキングは簡単ではない。
私だって物理破壊の方が早いと感じるくらいには。

ζ(゚ー゚*ζ 「うん。だってもともと私が起動したものだし」

ξ゚⊿゚)ξ 「……恐ろしい子。いいわ、だったら後は帰るだけ。
   上では、その力絶対に使わないでね」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」

鉄塔を足場に、一歩で弾道エレベーター乗り場まで跳んだ。
着地で足場を大きく歪ませはしたが、エレベーターの起動には何ら影響はない。

本来は一人乗りの狭い椅子の上に、少女を膝の上に座らせて二人で乗る。
人間二人を認識して吐き出されたエラーを無理やり解除した。
優秀なメカニックである私に不可能などないのだ。

などという冗談は置いておこう。
私の仕事の一つである掃除の場合、幾つかの例外が発生することがある。
そんなときの為の一つに、弾道エレベーターにアクセスするコードを与えられているだけだ。

32 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 20:41:42 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「どこに行くの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「五十階層。掃除が終わったから報告しないとね」

ζ(゚ー゚*ζ 「報告?」

ξ゚⊿゚)ξ 「何も知らないのね。この機械都市では仕事が与えられるの。
   私たちはそれを完了して、報告をすることで対価として生存権を得る。
   昔の人はこう言ったそうよ。働かざる者、食うべからず」

小さな振動に揺られながら、膝の上の少女に説明する。
ウィンドウを表示して、最初に縦長の楕円を描く。
適当なところを幾つか横線で区切った。

ξ゚⊿゚)ξ 「これは機械都市全体図。一番上は支配層。一層から十層までね。
   私たち人間は立ち入ることすら許されないの。十層から二十層までは特級階層。
   その次、二十一から五十までが上級人民階層。五十一から百まで下級人民階層」

ζ(゚ー゚*ζ 「なんかいっぱい分かれてるね!」

ξ-⊿-)ξ 「うーん、まぁその理解でいいんだけどね」

彼女が持っている驚くべき能力からは想像できないほど、その理解は大雑把。
そもそもなぜあのような場所にいたのか、一体何者なのか。
謎は多く、連れてきたことを後悔しそうになる。

33 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:42:30 ID:whrL/yB20

もしこの子が機械都市にとって脅威と判断された場合、
私は重大規律違反者として処刑にもなりかねない。

ζ(゚ー゚*ζ 「どうしたの……?」

自分自身が悩みの原因だとは全く思っていないつぶらな瞳。
その柔らかい笑顔を見ていると、どうでもいいかとも思えてしまう。

ξ゚⊿゚)ξ 「ううん、何でもないわ。さ、もうすぐ着くわよ」

エレベーターの中にある階層表示が五十になり、小刻みな振動が止まった。
駅に着いた卵型の輸送船が、ゆっくりと開く。

膝から飛び降りたデレが先に降り、その後に続いて鉄の地面を踏んだ。
百階層以下の開拓層とは違い、衝撃を逃がす柔らかな合金で作られた道。

突然走り出したデレ。
金属音を響かせて走る少女を焦って追いかけた。
何処かしこへと走り回られては困るのだ。
誰が見ているかもわからないこの場所で。

ξ゚⊿゚)ξ 「勝手に走り回らないで。こっちよ」

34 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:43:08 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「おーい、おいおい。吃驚だな。
   ガキなんか面倒だから嫌いとまで豪語してたお前が、
   少し見ない間に子供を作ってるとはな」

懐かしい声がして振り向くと、よれよれになった汚い白衣を着た赤髪の女性。
相変わらず跳ね返っている寝癖を直そうともせずに、だるそうに歩く。
目の下のクマは前に会った時よりも濃くなっているように思うが、
また研究し通しで寝ていないのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン、姿を見ないから事故で死んだのかと思ったわ」

从 ゚∀从 「ふん、天才の俺様が失敗なんてするものか」

ξ゚⊿゚)ξ 「あら、三十二階層の橋が落ちたのは誰のせいだったかしら」

从 ゚∀从 「あれは確かに私の案だが、組み上げた奴らが悪い。
   計算上は完璧だった」

ζ(゚ー゚*ζ 「この人は……?」

背中に隠れおずおずと顔を覗かせるデレ。

ξ゚⊿゚)ξ 「この人はハイン。頭のおかしいリサーチャーよ」

35 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:44:00 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「失礼だな。私は過去最高のリサーチャーだという自負がある。
   そもそも上位クラスタの私には敬語を使うべきじゃないか」

ξ゚⊿゚)ξ 「あなたには必要ないでしょ。それにリサーチャーとメカニックは同等のはずよ」

从 ゚∀从 「残念ながら、ただのメカニック程度のおまえと違って、私はハイ・リサーチャーだ。
   十五階層までの侵入を許可されている」

ξ゚⊿゚)ξ 「っち……。どうせつい最近なったばかりの癖に」

背中を柔らかく叩かれた。
私たちの会話の内容が理解できなかったのだろう。
不貞腐れた様な表情を浮かべた少女がこちらを睨んでいた。

ζ(゚~゚*ζ 「えっと……リサー……チャーってなに?」

ξ゚⊿゚)ξ 「その説明はまだしてなかったわね。
   この機械都市では与えられる仕事によって冠するクラスタ名があるの。
   上から順にマザー、オペレーター、センチネル、
   リサーチャーとメカニック、コンストラクターとスイーパー、ワーカー」

36 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:45:32 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「そんなに一気に言っても……ってよくみたらガキじゃねぇのか」

複雑そうな顔を隠しもしないハイン。
何も言わずに同情するような視線を向けてきた。

从;゚∀从 ≪お前どこで拾って来たんだよこれ≫

秘匿回線でハインからメッセージが飛んできた。

ξ゚⊿゚)ξ ≪今日の掃除で、地下深くの変な場所からよ≫

从 ゚∀从 ≪どうしてその時処分しなかったんだ≫

ξ゚⊿゚)ξ ≪映像を送れば理解してくれるかしら≫

今日の掃除であった映像データをハインに送る。
既に大元のデータは改竄済みであるため、私個人のストレージに保存していたもの。

从 ゚∀从 ≪お前これ……AAIじゃねぇのか≫

ξ゚⊿゚)ξ ≪Ancient Artificial Intelligenceだっけ?
   嘘でしょ……あんなのただの噂じゃないの≫

37 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:46:59 ID:whrL/yB20

機械都市について、私たちは必要以上には教えてもらっていない。
知っているのは、足元に向かって遥か昔から拡大し続けているということと、
生きていくためには仕事をしなければならないということだけだ。

一体誰が何の目的で行っているのか。それを知っているのはオペレーターまでだと言われている。
そのせいで、巷には多くの噂が跋扈している。

そのうちの一つに、機械都市そのものが一つの構造物であるとする説があったはずだ。
簡易検索をすればすぐに引っかかった。
序文はこう始まっている。

マザーのさらに上位存在によって、私たちはプログラムされているのだ。
自身で機械都市を拡大させ続けるようにと。
馬鹿らしい論文の中でAAIと検索すれば、すぐに該当箇所が出てきた。

38 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:47:46 ID:whrL/yB20

”古代人の作り出した機械都市システムは、暴走を防ぐためのシステムが幾つか組み込まれている。
 内部の不要な人間を排除しているセンチネルがそうだ。
 
 それなのになぜ、ワーカーたちは何故定期的な反乱を起こすのだろうか。
 大抵の場合はスイーパーとメカニックによって鎮圧される。
 
 しかし、過去にはそれ以外の事例があった。機械都市暦5872年。
 この都市に起こったワーカーの反乱は二年に及んだ。
 
 その間には多くのスイーパーとメカニックが犠牲になった。
 あのセンチネルすら何機も出撃したとの記録もある。
 
 なのに、肝心の反乱について詳しい情報はほとんど残っていない。
 この戦いを生き抜いた者達は緘口令によって多くを語らなかったが、
 当時の資料に古代兵器やセカンドマザーいった言葉があちこちで散見された。
 
 私はそれらを総称してAAI(古代の人工知能)と呼ぶ。過去の人類が遺した危険な人工知能。
 恐らくはこのAAIが私たち機械都市の最大の敵であるのではなかろうか”

39 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:48:16 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ ≪馬鹿らしい。こんなものは与太話もいいところよ。
   そもそも本気で上が情報隠匿しようとすれば、一ミクロンだって零れては来ないわ≫

从 ゚∀从 ≪それもそうだ≫

ζ(゚ー゚*ζ ≪その人は面白いことを考えたのね≫

ξ;゚⊿゚)ξ 「えっ!?」
从;゚∀从 「なっ!?」

厳重なロックをかけていたはずの秘匿回線に、当たり前の様に少女は侵入してきた。
参加者は二人のままになっているということは、ハッキングによる技術で。
私はともかく、ハインのシステムプロテクトを抜けるとは思わない。
性格と見た目はともかく、技術的には機械都市で一、二を争うほどの実力者だ。

从 ゚∀从 「やべーんじゃねぇかな……。私はどうってことはしないが」

ξ゚⊿゚)ξ 「分かってるわよ。デレ、お願い。ここではそういうことをしないで」

ζ(゚、 ゚*ζ 「だって……二人だけで話してるんだもん……」

下唇を噛んで悔しがるデレ。
小さな手は震えながら柔らかな握りこぶしを作っていた。

40 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:48:52 ID:whrL/yB20

下唇を噛んで悔しがるデレ。
小さな手は震えながら柔らかな握りこぶしを作っていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「ごめんなさい。私たちが悪かったわ。もう隠し事はしないから」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん……。ねぇ、私はAAIなの?」

从 ゚∀从 「その可能性があるってだけだな」

ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっとハイン!」

思わず強い口調になった。
隠しておくことが出来なくなったとはいえ、もっと不安にさせない様な言い方もあったはずだ。

从 ゚∀从 「隠し事はしないんだろ? 約束は守らなきゃな」

ξ゚⊿゚)ξ 「それは……そうだけど……」

ζ(゚ー゚*ζ 「お願い! 私は自分のことが知りたいの!」

从 ゚∀从 「だってよ。乗り掛かったおんぼろ舟だ。
   もう何時沈むかわかったもんじゃねーしな。私の研究室でも来るか?
   そのスーツも変えなきゃいけないだろ?」

41 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:49:19 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「忘れてたわ。それじゃ、報告した後に」

从 ゚∀从 「ああ、待ってるぜ」

ζ(゚ー゚*ζ 「ばいばい~」

握った手の反対をハインに向けて大きく振るデレ。
汚れた白衣のリサーチャーは、半ば無視するかのように研究室に向かっていった。

「ツンさんですね。レコードの提出をお願いします」

ξ゚⊿゚)ξ 「さっさとしてね」

手の甲に貼りつけているシートを剥がして、受付の女性に渡した。
耐水耐塵、耐衝撃加工がかけてある記録媒体として、機械都市では誰もが身に付けている。
これだけの技術の結晶でも一日の食事よりも安いというのは信じられない。

「確認中です。しばらくお待ちください」

合成音声の案内を聞きながら、天井を見上げる。
四十九階層に続くエレベーターチューブを多くのエッグが行き来していた。

42 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:50:10 ID:whrL/yB20

川 ゚ -゚) 「ツン、もう帰って来たのか」

ξ゚ー゚)ξ 「クールじゃない」

川 ゚ -゚) 「すまないね、迷惑をかけた」

ξ゚⊿゚)ξ 「別にいいわ。相手の装備も結構整ってたし、
   私でも何も知らずに行ってたらまずかったかも」

川 ゚ -゚) 「そう言ってもらえると有難いね。
   ん、その子は?」

新しい知り合いの登場に怯え、私の後ろに隠れていたデレ。
その存在に気付き、クールは膝をおって視線を合わせる。
その長い髪が地面につきそうになるのも気にせず、右手を差し出した。

川 ゚ -゚) 「初めまして、スイーパーのクールだ」

ζ(゚ー゚*ζ 「はじめ……まして……」

おずおずと握り返す。
警戒は解けたようだが、未だに緊張しているのだろう。
助けを求めるようにこちらを見上げて来る。

43 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:51:09 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「えっと、スイーパーは、メカニックよりした」

先程教えたばかりの情報を口にする。
相手がどう感じるかというところまでは考えていないのだろう。
クールは笑顔を崩さずに答えた。

川 ゚ -゚) 「ああ、このおねぇちゃんは昔スイーパーだったんだよ。
   とても優秀だったから、出世してメカニックになったんだけどね」

ζ(゚ー゚*ζ 「だから敬語ではなさないの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよ。クールとは昔っから友達なの。一緒に死線も越えてきた仲間でもある。
   たまたま私が運よく選ばれただけで、クールだって同じくらいの能力があるわ」

川 ゚ -゚) 「それは謙遜だな。君には敵わないよ。そうだ、これから暇か?」

ξ゚⊿゚)ξ 「ごめん、ちょっとこの後は用があるの」

川 ゚ -゚) 「それは残念だ。また誘うよ」

44 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:51:45 ID:whrL/yB20

一つにまとめた後ろ髪を揺らして走り去った。
もともと別の予定があったのに無理して誘ってくれたのか。
クールには悪いことをしたな。

「お待たせしました。掃除任務の完了を確認。報酬はバンクに送金されました」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうもありがとう」

「ひとつお伺いします。その子はどこで?」

ξ゚⊿゚)ξ 「映像ログに無かった?」

該当部分を改変しているのだからあるはずもないのだが。

「見つかりませんが」

ξ゚⊿゚)ξ 「あらそう。この子は百十二階層で私が見つけたの。
   責任をもって”扱う”つもりよ」

「それでは、送信した書類の確認とサインをお願いします」

ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい」

45 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:52:09 ID:whrL/yB20

ホログラムウィンドウを開き、受け取った書類を開く。
注意事項を流し読みして、右下に電子サインを書き加えた。
すぐにそれを送り返す。

「受領いたしました。今後それに関わる全ての損害に対し、
 MEC-081714ツンが保証人となりました」

ξ゚ー゚)ξ 「わかってるての。行くわよ、デレ」

ζ(^ー^*ζ 「はーい」

ハインの研究室があるのは二十一階層。
上級人民階層の最上階は、この五十階層と比べると半分程度の広さしかない。
居住区が無いのだから当然と言えば当然なのだが。

同じ上級人民階層であっても、二十台の階層はリサーチャー、
三十台の階層はメカニックが住んでいた。

誰が決めたのかわからないが、遥か昔から決まっている。
別に法でもなければルールでもないので、
メカニックの私が歩いてたところで囲まれて簀巻きにされるようなことは無いが。

46 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:52:30 ID:whrL/yB20

二人乗りのエッグに入り、デレ横に座った。
親子のように手を繋いだまま階層移動を待つ。
階層表示を数えながら一人で乗るよりも、ずっと安心できた。

ζ(゚ー゚*ζ 「何かいいことでもあったの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「えっ!?」

ζ(゚ー゚*ζ 「笑ってたよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうなのかな」

指先で軽く頬を触れてみる。
いつもと変わらない柔らかい肌に押し返された。

ζ(゚ー゚*ζ 「変なの」

ξ゚⊿゚)ξ 「さ、ハインの研究室は一番奥にあるわ。
   生意気にもね」

薄暗い通りを真っ直ぐ奥に進む。
両側に立ち並ぶ建物はまったく統一感が無い。

47 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:53:17 ID:whrL/yB20

薄暗い通りを真っ直ぐ奥に進む。
両側に立ち並ぶ建物はまったく統一感が無い。

重厚な扉がある金属の箱の様な建物や、薄っぺらい鉄板で囲われただけの敷地。
巨大なコンベアが隣接された工場は、硫黄臭のする黒煙を立ち昇らせていた。

ζ(゚ー゚*ζ 「なんか空気悪いね」

ξ゚⊿゚)ξ 「訳の分からない研究をしているやつも多いからね。
   マスクとゴーグルも持ってくるべきだったわ。
   リサーチャー階層の空気は煤と鉄粉だらけなんだから」

ζ(゚ー゚*ζ 「あれかな?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね。ちょっと待ってて」

端末で簡易メッセージを送信する。
了解と、短い返信が届いた。
暫く待っていると鉄の扉が軋みながら開き、人一人が通れるほどの幅で動きを止めた。

从 ゚∀从 「早かったな」

48 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:54:17 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「報告だけ済ましてきたからね。わざわざ来たんだから、もてなしてくれるんでしょうね」

从 ゚∀从 「まぁ中に入れ。一応準備は出来てる」

ハインの案内で研究所の廊下を歩く。
ギアの回転する音、金属を叩く音、蒸気の噴き出す音。
雑多な機械音が止むことなく響き続ける。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ! あれは何を作ってるの?」

デレが指差した先で、圧縮成形された金属がコンベア次々と運ばれていく。
その先には金属製のアームが何本も動いている。
ドリルで細部が削り取られて、さらに小さな形になった部品は、次のセクションへと流れていった。

从 ゚∀从 「あー、あれは建材だな。
   百三十二層で見つかった竪穴を調べるために、軽量で頑丈な素材を用意するように頼まれた」

ξ゚⊿゚)ξ 「今度は壊れないといいわね」

从 ゚∀从 「はっ……言ってろ! 私らの研究成果はこの機械都市の至る所で利用されてる。
   設備の維持管理が仕事のメカニックさんならよく知ってるだろ」

49 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:55:37 ID:whrL/yB20

ξ゚ー゚)ξ 「ええ、ほぼ毎日といっていいほどあちこちから煙が出てて、
   修理が必要になっているってことがね」

中途半端なリサーチャーの研究成果とやらのせいで、メカニック連中は相当迷惑を被っている。
過去には最新技術といって碌に試しもしない技術を利用したせいで、
機械都市の一部機能が失われたこともあった。
その復旧を寝ずに行ったのも私たちである。

从 ゚∀从 「つまらねー話はやめようぜ。で、どうするつもりなんだ」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうするって、もう連れてきちゃったんだしどうしようもないじゃない。
   一緒に暮らしていくつもりよ」

从 ゚∀从 「馬鹿お前、それだけ高性能な機械人形隠しきれねぇよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「だったら何? スクラップにして捨てろとでも?」

思わず強い口調になってしまった。
不安そうな目で見上げて来るデレの頭を出来るだけ優しく撫でる。

50 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:56:06 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「そうは言ってねぇけどよぉ……」

言葉を濁して赤い頭髪を弄る。
困った時の彼女の癖だ。

从 ゚∀从 「その子の能力は明らかにこの機械都市の有する技術を越えてる。
   マザーがそれを知って放っておくとは思えない」

ξ゚⊿゚)ξ 「マザー、マザーって言うけど、実際にそんな存在がいるの?
   私たち結構自由に生きてるし、他の人の不正だって放置されてるじゃない」

从 ゚∀从 「確かに私らの日常には踏み込んでこない。だが、非日常になれば別だ。
   確実お前の人格そのものが消されるぞ」

その真剣な眼を見ればわかる。今の言葉はただの脅しではないと。
ハインにはマザーが存在していると確信に至る何らかを知っている。

ζ(゚ー゚*ζ 「私、ツンに迷惑かける?」

ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、そんなことないわ。普通にしていれば大丈夫よ」

51 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 20:57:19 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「実際にゃ、この機械都市はそこまで厳しい管理社会じゃない。
   普通にしてれば、別段心配するようなことは無いさ」

ξ゚⊿゚)ξ 「意外とルールを守っていな人も多いしね」

从 ゚∀从 「私なんか納期を無視しまくってる。本当の管理社会なら一発でスクラップ行きさ。
   ところでツン、その怪我はどうする? 治していくか?」

腕と太腿に痛々しく残る火傷の痕。
動きに不自由はないが、見た目はよくない。
修理するには病院に行かなければならないが、そこそこ費用がかかる
友人のよしみで安くしてくれるハインを頼らない手はなかった。

ξ゚⊿゚)ξ 「それじゃ、お願いするわ」

从 ゚∀从 「スーツを脱いで、そこに寝ろ」

ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい」

診療代の上に横になると、ハインが傷口を処理していく。
ものの十数分で元通りになった。

52 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:57:59 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「表面だけで内部は傷ついてなかったからな。
   しかし開拓層でスーツを破けるほどの武器があったのか」

ξ゚⊿゚)ξ 「んーまぁね。少し油断してたかな」

从 ゚∀从 「ほらよ、新しいスーツだ。まだ市場に流してないプロトタイプだ。
   感謝して着ろよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「爆発したりしないでしょうね」

疑いの目を向けながら紺色のスーツに腕を通す。
ひんやりと冷たい感覚が全身を包む。

从 ゚∀从 「安心しろ、その薄っぺらい胸を膨らませることもできやしねぇ」

ξ゚⊿゚)ξ 「このスーツの力を早速試させてくれるのね」

スーツの起動コードを入力し、生体認証させる。
百キロの重りを容易く持ち上げることができるほどの筋力サポートを得て、
さっきまで寝ていたベッドを片手で持ち上げた。

53 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:58:51 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「おいおい、治療費とスーツ代も請求してないんだぜ。
   これも立派な違反だっての」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね。一応感謝しておくわ」

ベッドを置いて腰かける。
待っていましたとばかりに駆け寄ってきたデレが膝の上に座った。
その髪を手櫛で整えてやる。
指が全く引っかからない綺麗で柔らかな金髪。

从 ゚∀从 「まあとにかくだ。今現時点で黙認されてるってことは、
   特別暴れたりしなければ普通に暮らせるってことった」

ζ(゚ー゚*ζ 「わたし、暴れたりしないから!」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、私の部屋は一人暮らし専用だから引っ越しでもしないと」

从 ゚∀从 「目立たないようにするこったな」

ξ゚⊿゚)ξ 「御忠告どうも。行くわよ、デレ」

54 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 20:59:42 ID:whrL/yB20

从 ゚∀从 「ちょっと待て。次のおまえの仕事だが、百三十二層の見回りだ。
   竪穴を調べるための建造物の護衛も含まれる」

ξ゚⊿゚)ξ 「何でハインがそんなこと知ってるのよ」

メカニック本来の仕事は老朽化した機械の交換や補修など、設備の維持管理である。
私自身はこまごました作業よりも、派手に体を動かせる鎮圧や防衛などの仕事の方が好きだ。
それ故に、そういった仕事は優先して回してもらってもいた。
ハインとの繋がりのおかげもあって、機械都市生活は退屈なものではない。

从 ゚∀从 「私が開拓局長に選ばれたからな。お前を回してもらった」

ξ゚⊿゚)ξ 「頼んでないんだけど」

从 ゚∀从 「でも受けるだろ?」

ξ゚⊿゚)ξ 「勿論よ。デレも連れて行ってもいいんでしょ?」

从 ゚∀从 「あまり目立つのは勧めないが……好きにしろ。
   今のところは梯子の建造も順調だし、邪魔も入っていない」

55 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:00:38 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「そう、いつから?」

从 ゚∀从 「可能なら明日から」

ξ゚⊿゚)ξ 「わかったわ」

从 ゚∀从 「よろしく頼む。詳細はまたメッセで送っておく」

ξ゚⊿゚)ξ 「了解。さ、行きましょ」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」

退屈そうにこちらを見上げる少女の頭を撫で、仕事の話は適当に切り上げる。
掌に収まりそうな小さな手を握って、ハインの研究室を出た。
向かう先は階層の空き部屋管理をしている案内所。
先ずは二人暮らしの部屋から決めないと。

ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇ、お外にはいつ行けるかな?」

ξ゚⊿゚)ξ 「いつか行けたらいいわね。でも、難しいわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「お外のこと、私のデータに少しだけ残ってるの」

56 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:01:07 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「そうなの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん! 私ね、お外に出たいからツンのいう事聞く!」

正直なところを言えば、機械都市から外に出られる確率はゼロだ。
もしかして、と夢を見ることすら愚かと笑われる。
私だって、まったく想わないわけじゃない。

ξ゚⊿゚)ξ 「いつか、一緒に外に出れたらいいわね」

ζ(゚ー゚*ζ 「うんっ!」

曇りない笑顔に若干の罪悪感を覚えながら、デレと新しい住処を捜しに向かった。

57 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:01:41 ID:whrL/yB20







ξ゚⊿゚)ξ 「ん……」

いつもと同じ朝。
機械が動き始めると聞こえだす低周波の騒音。
最悪のはずの目覚めが、手の中の温もりで少し和らいだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、おはよう」

ξ゚⊿゚)ξ 「……起きてたの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「五分三十一秒前に起動したの」

ξ゚⊿゚)ξ 「……えらく機械的ね。さ、準備して。これからハインの仕事をするわよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい!」

58 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:02:29 ID:whrL/yB20

ハインに譲ってもらった試作型スーツに腕を通す。
なぜかサイズぴったりの不気味さがあるものの、着心地は汎用スーツよりも何倍もいい。

エネルギー備蓄量はこれまでの十数倍、耐衝撃・耐斬撃の剛体素材なのに、絹の様な肌触り。
スペック表を引き出してみれば、体温維持管理機能と傷口自動治癒機能までついている。
まさに至れり尽くせりの高機能スーツだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「流石ハイン。凄いわね……」

ζ(゚ー゚*ζ 「着替えたー!」

昨晩着ていたフリルのたくさんついたドレスではなく、
住む場所を変えてから買いに出た新しい服。
動きやすさを優先したホットパンツと、汚れてもいい様に深緑のワンピース。
肩までとどくブロンドの髪はバンドで一束に纏めている。

ξ゚⊿゚)ξ 「よく似合ってるわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「えへへ」

ξ゚⊿゚)ξ 「さ、行きましょ」

59 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:04:43 ID:whrL/yB20

新しく借りた家は弾道エレベーターの駅からすぐ近く。
歩いて五分とかからない距離に空き家があったのはラッキーだった。

手続きをすぐに終わらせて、デレの手を引いてエッグに乗り込む。
どうやら下りの方は百三十階層には直通しているわけではないらしく、
簡易エレベーターを二度ほどの乗り継いで現場に到着した。

ξ゚⊿゚)ξ 「メカニック、ツンです。よろしくお願いします」

「ちょっと待ってくれ、その子は?」

現地で指揮していたコンストラクターに挨拶をしたところで、呼び止められた。
少女を連れて仕事に来るメカニックなんて初めてだろう。
当惑するのも仕方がない。

ξ゚⊿゚)ξ 「御心配なく、迷惑はかけませんので」

「いや、そういう訳には……」

ξ゚⊿゚)ξ 「開発局長のハインからも許可はもらっているわ。
   不満なら彼女に聞いて」

60 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:21:59 ID:whrL/yB20

「えっと、はい。わかりました」

現場を管理しているコンストラクターは、
メカニックの私と言い争うには分が悪いとわかっているのだろう。
不服な表情を隠さずにいたが、すぐに通してくれた。

ζ(゚ー゚*ζ 「すっっごーい!」

ξ゚⊿゚)ξ 「走ったらだめよ。危ないから」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい!」

デレの動きに目を配りながら、竪穴探索計画の資料をダウンロードする。
それを視覚に映し出した。

三ヶ月と十一日前、人類は百三十階層に到達した。
そこでは今までにない新たな機会がいくつも発見され、今もなお調査が行われている。

二ヶ月間の調査で見つかった多くの品には、
現在のテクノロジーを大幅に進化させる知識と技術が詰め込まれていることが判明した。
そのために、一ヶ月ほど前に百三十階層は重点開拓階層として認定された。

61 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:23:08 ID:whrL/yB20

同時に、ハイ・リサーチャーであるハインを開拓局長とし、日夜調査を行っている。
そして一週間前に、暫定百三十二階層から相当な深さの竪穴が発見された。

百十三十階層に発見された竪穴を他のものと区別するために、
不明の奈落と名付けられた。

竪穴の直径は数百メートルにも及び、その深さは未だに確認できていない。
竪穴探索に放たれた無人機は既に百を超えているが、
ある一定深度を越えた無人機は一機すら戻ってこなかなった。

梯子計画は、ハイ・リサーチャーのハインが立案した計画。

第一段階として竪穴を覆うように足場となる建造物を建築。
第二段階として竪穴を覗き込めるような高機能望遠鏡の設置。
第三段階として竪穴に侵入するための梯子を建設。

以上の三つをもって、竪穴の調査を行うものとするものである。

竪穴の上に組み立てられているのは、巨大なレンズを重ね合わせた望遠鏡。
つまり現在は計画の第二段階を進行中ってとこね。

62 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:23:43 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ふーん、今のところ戦闘があったりしたわけじゃないんだ」

新階層にたどり着くや否や残存機械と戦闘が始まった階層も過去にはあったと聞く。
そこらに比べれば、平和なのだろう。
ハインがデレを連れてくることを了承したわけだ。
それに私と一緒にいれば、万が一にも怪我させるようなことは無い。

ζ(゚ー゚*ζ 「ツンー! こっちこっち!」

ξ゚ー゚)ξ 「はいはい」

観光気分ではあった。
作業中に怪我をした人員はいても、大きな事故は一度も起きていない。

敵やそれに類する攻撃的な機械もおらず、ワーカーも他階層からの寄せ集め。
反乱を起こすほどの団結力は無い。
警戒レベルは納得のゼロ。

油断はしていたし、気持ちは緩んでいた。
だからこそ、私はとっさの判断を間違えてしまった。

63 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:27:24 ID:whrL/yB20

中心で十字に交わって竪穴を覆う二つの橋。
徒歩用に仮設されたその上を、デレと二人で歩いている時に事故は起こった。

それまで眠ったように静かだった竪穴の底で、急に光が点灯した。
巨大な地殻変動により、簡易の橋は大きくひん曲がる。
咄嗟にデレの身体を掴んで、空に跳んだ。

ζ(゚ー゚;ζ 「ツン!!!」

私はただ橋を戻ればよかったのだ。
結局のところ、端が完全に落ちるまでに十分な時間があった。
ハインのくれたスーツの機動力があれば、鉄の地面にまで間に合ってははずである。
それを焦って飛び上がってしまった私は、彼女が叫ぶまで頭上の危機に全く気付いていなかった。

仮説橋の上で建造されていた望遠鏡。
不明の奈落の底を覗き込むために創られていた望遠鏡の大きさは、
人間一人がどうこうできるサイズではない。
データを表示する私の眼には、膨大な質量によって押し潰される未来が見えていた。

ξ;゚⊿゚)ξ 「そんな……」

64 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:28:15 ID:whrL/yB20

自分目掛けて落下する絶望そのもの。
それに抗うことは容易ではない。
それでも腕の中にいるデレだけでも助けようと、彼女の身体を投げようとした。

決意を実行に移そうとした直前に、状況は大きく変化した。
目に見えるほどのエネルギー体が頭上の望遠鏡を受け止めたのだ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「対物電磁フィールド!? そんなまさか……!」

指向性を持たせたエネルギーを薄く拡げて、物理的な衝撃を遮断するシールド。
理論までは発見されているものの、機械都市では未だ運用に至っていない技術のうちの一つ。
透明で青みがかった薄い盾が、目の前で展開されていた。

ζ( 、-*ζ 「んっ!」

少女を支えていたはずの両腕で、いつの間にか少女に全体重を預けていた。
私の身体と、頭上の超質量を受け止め続ける少女。
一番最初に根をあげたのは、足場にしていた仮説橋だった。

ζ(゚ー゚;ζ 「あっ!」

ξ;゚⊿゚)ξ 「デレッ!」

65 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:29:07 ID:whrL/yB20

少女を庇うようにその全身を包み込む。
足場を失ってなお機能し続けた対物電磁フィールドが、
崩落する望遠鏡の質量を辛うじて逸らしたおかげで、押し潰されることは無かった。

伸ばした手は何処にも届かず、身体はゆっくりと赤い光が明滅する竪穴に落ちていく。
風は獰猛に皮膚を削がんと吹き荒ぶ。
落下に抗う術はない。

捕まる淵も、着地する足場も、空から垂れる蜘蛛の糸も。
私は迫り来る全身への衝撃に畏れ、目を瞑っていた。

「ン……! ツン……!」

柔らかな衝撃と共に、突然止んだ暴風。
誰かに呼ばれる声に目を開けてみると、すぐ目の前にデレの顔があった。

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……? 起きてる?」

ξ-⊿゚)ξ 「……デレ?」

ζ(^ー^*ζ 「よかったぁ!」

満面の笑みを浮かべる少女。
その小さな腕の中に抱かれていることに気付き、咄嗟に離れようとした。

66 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:29:31 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚;ζ 「あっ、駄目!」

ξ;゚⊿゚)ξ 「っ……!」

首を傾けて下を覗き込んだ時に息が止まった。
伸ばした指先すら見えなくなったと錯覚するほどの深淵。
頭上には明滅する赤い光。

その遥か先、針の孔よりも小さくなった光がなんとか視認出来た。

ξ゚⊿゚)ξ 「ここは……?」

ζ(゚ー゚*ζ 「竪穴の中」

壁に突き刺さった鉄骨の上に座るデレ。
彼女の腕の中は流石にむずがゆく、隣に腰を下ろした。

ξ゚⊿゚)ξ 「飛行ユニットは無いしなぁ」

ζ(゚ー゚*ζ 「通信機能も死んでるみたい。この竪穴の中、面倒な妨害電波が敷き詰められてるの」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうやって戻ろう」

67 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:32:32 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「地道に登っていくしかないみたい」

ξ゚⊿゚)ξ 「そう……どのくらいあるかわかる」

ζ(゚ー゚*ζ 「落下速度と時間から計算すると、だいたい二kmくらいかな」

ξ゚⊿゚)ξ 「二km……まっすぐ走るだけなら直ぐなのに……」

足場も何もない竪穴を二kmも昇らなければならないとは、先が思いやられる。
頭上を見上げているだけで溜息が出た。

ζ(゚ー゚*ζ 「ごめんね、私がもっと早く壁に掴まってればよかったんだけど」

ξ゚⊿゚)ξ 「底に叩き付けられなかっただけでも十分助かったわ。ありがとう」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん……でも、ごめん」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうしたの?」

ζ(゚、゚*ζ 「力……使っちゃったから」

脳裏に浮かぶのは視界を覆うほどの蒼い光。
大望遠鏡の質量を防ぎ切ったシールド。

68 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:33:12 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「いいわ、おかげで助かったから。でも、これからどうしよっかなぁ」

機械都市で実用化されていない力を、あれだけの大人数の前で使ってしまった。
もうデレがただの機械人形ではないと報告されてしまっているだろう。
いくらハインが開拓局長という現場の最高責任者だろうと、情報を止めるのは不可能だ。

現実的に考えてこれから私たちはどうなるだろうか。
無事百三十階層に戻れたとしても、恐らく私は虚偽申告により死刑。

デレは危険指定されて最悪の場合はセンチネルと戦闘になるだろう。
捕まれば解剖されて研究された後に廃棄されるに違いない。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ」

ζ(゚ー゚*ζ 「なに? ツン」

ξ゚ー゚)ξ 「逃げちゃおっか」

69 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:33:55 ID:whrL/yB20

機械都市と敵対して逃げ延びた者はいない。
当然だろう。拡大し続ける機械都市には、その機能を維持するための優秀な人材が何人もいる。
特に都市防衛において三役の担う役割は大きい。

都市防衛の要で他を圧倒する性能を持つ戦闘機械、センチネル。
近接格闘と調査のスペシャリスト、メカニック。
情報解析と開発のスペシャリスト、リサーチャー。

彼らから逃げようとする者は悉く葬られてきた。
私が知っているだけでも十数人、自分が手を下したこともある。
逃げ切ることなんて到底不可能だ。

ζ(^ー^*ζ 「うん!」

それでも、屈託のない笑顔を見て、最初っから諦めている自分が馬鹿らしく思えた。
出会って二日の機械人形である少女の為に命を懸けるなんて馬鹿らしい。
ハインならそう切り捨てるだろう。

もしかすると彼女を差し出せば、辛うじて死刑を免れるかもしれない。
例えそうだとしても、私の中にそんな選択肢は無い。

70 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:34:23 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「じゃあ、外の世界に行こう?」

ξ゚⊿゚)ξ 「外の世界?」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん、どこまでも緑と青が拡がっている綺麗な世界。
   といっても私の中に残っているのはずっと昔のデータだけだけど。
   ほら、手、握って」

言われるがままに小さな掌を包み込むようにつなぐ。
指と指を織り交ぜて、しっかりと。
少女から一枚のファイルが送られてきた。

ζ(゚ー゚*ζ 「ね?」

直接やり取りするまでも無いほどの小さなデータ。
それを仮想ウィンドウで開くと、視界を見たことも無い風景が埋め尽くした。
緑の木々と、何処までも蒼く拡がる空。鉄と油にまみれた臭いの中に、青臭い風を感じるほどに。
風景をそのまま写し込むほどに澄んだ湖に、遠くにはっきりと聳え立つ高い山々。

71 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:34:49 ID:whrL/yB20

知識として知っていた大自然。私がその姿を目にしたのは初めてだった。
いや、おそらく機械都市に住んでいるほとんどの人間は見たことがないだろう。
自然の写真はデータとして一切残っていないことになっている。

この機械都市で外の情報が手に入らないのは、
外に憧れて脱走を考えようとする人間を少しでも減らす為だったのかもしれない。

ξ゚⊿゚)ξ 「……うん、行こう。一緒に外の世界を!」

ζ(゚ー゚*ζ 「まずは、ここから脱出しないと」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね。任せて」

デレの軽い身体を背負う。
どれほど特殊な兵装を積んだところで、中身はただの少女なのだ。
ならば私が護る。どんな脅威からも。

身体を揺らして足場の鉄骨の強度を確かめる。
しっかりと壁面を貫いて固定されている鉄骨の一部を叩き割った。

72 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:35:16 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「私だったら、空中に足場を作ることくらい……」

ξ゚⊿゚)ξ 「出来るわね、デレなら。でも、デレの保有するエネルギーは無限じゃないでしょ。
   こんなところで無駄遣いしてもらうわけにはいかないわ。
   だから……ちゃんと掴まってて!」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん!」

細い手首が首元に回されたのを確認して、
長細い鉄骨片を両手に持ち、柱から飛びあがった。
上を向く力と重力と釣り合って、身体が空中に静止する。

その状態になった時、両手の鉄骨片に電気を流して得た磁力で鉄の壁面へと体を誘導し、
身体を固定したのちに両膝に力を込める。

ξ゚⊿゚)ξ 「せーのっ!」

全身のばねを利用して再び地上へ向かって跳ぶ。
そしてまた動きが止まった地点で両腕の鉄くずを利用して壁に張り付く。
それを何度も繰り返す。一歩ごとにどれだけ進んでいるだろうか。
頭上の光は全く大きくなる気がしない。果てしなく気の遠くなるほどの距離。

73 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:35:44 ID:whrL/yB20

全身のばねを利用して再び地上へ向かって跳ぶ。
そしてまた動きが止まった地点で両腕の鉄くずを利用して壁に張り付く。
それを何度も繰り返す。一歩ごとにどれだけ進んでいるだろうか。
頭上の光は全く大きくなる気がしない。果てしなく気の遠くなるほどの距離。

ζ(゚ー゚*ζ 「休憩する時は言ってね」

ξ゚⊿゚)ξ 「ありがとう。でも急がないと、きっと逃げる隙も無くなっちゃうから」

ζ(^ー^*ζ 「うんっ!」

何度も何度も、同じ動作を繰り返す。
不幸中の幸いにして、ハインから貰ったプロトタイプスーツの調子は頗る良い。
残りエネルギー残量から計算しても、余裕で登り切れる。
昨日このスーツをもらっていなければ、暗い闇の底で諦めてたかもしれない。

ζ(゚ー゚*ζ 「地上に出たらどうするの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね、まずは自然を思いっきり堪能してみたいわ。
   写真にあったようなきれいな湖でたくさん泳いで、木陰で昼寝をするのもいいかも。
   デレ、あなたは?」

ζ(゚ー゚*ζ 「私は……あなたと一緒だったら何でも楽しめるかな!
   できるなら、何もかもを忘れてあなた暮らしていたい」

74 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:36:28 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ねぇ、デレ……あなた、本当は何者なの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「あれ? 気づいてた?」

ξ゚⊿゚)ξ 「当然でしょ」

前に地下で外の話をした時には全く出てこなかった写真。
先程の表情を見れば、どれだけの思い入れがあったのか察することはできる。

それが今になって出てきたのは、何か理由があるのだろうと気付いていた。
気づいた上で、黙っているつもりだった。
好奇心に負けてしまったが。

それに、いきなりあなた呼びなんて違和感しかない。
気づかない方が無理だ。

ζ(゚ー゚*ζ 「私は……私たちは人間の精神をダウンロードされた機械人形。
   その存在意義は、人類が暴走しないように見張ること。
   再び人類が度を越えた技術に手を出した時、それを止めるのが私の役目……だった」

75 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:37:02 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「だった?」

ζ(゚ー゚*ζ 「私の中の基準では、この機械都市はもう充分に殲滅対象になっているの」

ξ;゚⊿゚)ξ 「殲滅対象……」

決して軽い言葉ではない。
彼女が持つであろう兵装のレベルを考えれば、
機械都市を崩壊させることができるであろうことは想像に難くない。

ζ(゚ー゚*ζ 「でもね、私は、そして彼女も人間を滅ぼしたくなと思っていたの。
   だからずっと地下の棺に閉じこもっていた。彼らに見つかるまでは」

ξ゚⊿゚)ξ 「彼らっていうのは、私が掃除した……」

ζ(゚ー゚*ζ 「そう。あなたが蹴散らした人間。この機械都市では、ワーカーと言うのよね
   彼らに頼まれて、幾つか古代武器の起動コードを教えたわ。
   私が棺の中にいることを上層部に内緒にするという約束と交換条件でね」

ξ゚⊿゚)ξ 「それを私が連れだしたのね」

76 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:37:53 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「あの時、あなたに再起動された私には記憶領域に不具合があったの。
   本来の指令コードを無視して、強制的に眠りについていた結果ね」

ξ゚⊿゚)ξ 「思い出したのは?」

ζ(゚ー゚*ζ 「ついさっき、かな。エネルギーフィールドと大質量がぶつかった衝撃が原因で」

デレを背負って跳びながら話を聞く。
彼女の話は、そのどれもが信じがたいものばかりであった。
私たち人間の構造が変化した原因から、
住んでいる機械都市のルーツまで耳を疑う真実ばかり。

ξ゚⊿゚)ξ 「人間は昔からこの姿じゃなかったの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「人体とは、概ね生身のことを指していたの。
   生身とは血と肉で構成されていた。勿論、今の人間も基礎は同じ。
   肉体のほとんどが機械化されているだけで」

ξ゚⊿゚)ξ 「頭さえ吹き飛ばなければ、どんな怪我でも治せると聞いているわ。
   いえ、記憶領域をリアルタイムでコピーする手段だってあるわ。
   サブメモリーシステム。そうすれば頭さえも平気」

77 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 21:38:41 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「あくまで記憶というデータをコピーするだけよ。
   ここにいるあなたと、地上で生活しているかもしれないあなたは別物」

ξ゚⊿゚)ξ 「ちょ、ちょっと待って。それなら……それなら、私が掃除したスイーパーは……」

ζ(゚ー゚*ζ 「壊される直前まで、その人格の持ち主は確かにそこにいたわ。残念だけれど」

助けを求めていた彼女の瞳。
それを私は容赦なく、一ミリの後悔もなく叩き潰した。
数年来の友人だったはずなのに。
込み上げてくる嫌悪感はいくら高く跳ねても振り払えなかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「仕方がないこと。あなたはそんなこと知る由もなかったのだから。
   それに、この機械都市自体がそれを教えないようにしていたのでしょうね。
   命を投げ捨てて戦う兵隊とするために。
   サブメモリーシステム導入が個々人に委ねられていたのは、
   機械都市に僅かに残された良心なのかも」

ξ゚⊿゚)ξ 「それが本当なら……教えなきゃ……」

ζ(゚ー゚*ζ 「教えてどうするつもり? あなたはもう何回も死んでいるのと伝えるの?
   最悪発狂、良くても二度と使い物にはならないでしょうね」

78 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:40:08 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「っ!」

ζ(゚ー゚*ζ 「ここは……旧人類の創り出したこの機械都市は、そういう場所なの。
   失われた資源を求めて、遥か地底を目指し続ける。何を犠牲にしても。
   それがたとえ、人間の尊厳であったとしても」

デレの話には全く矛盾がない。
それを真実と受け止めることに心が抵抗しても、頭では理解していた。
一度滅びかけた人間が、残した希望。それが機械都市のマザー。

争いなく平和に生きてほしいと願った旧人類の夢は、叶えられなかった。
機械都市は地底に埋もれた技術や知識を発掘し、同じ過ちを繰り返そうとしている。
その抑止力であるはずのデレが抵抗しないのであれば、彼らはいずれ辿り着いてしまう。

進化の果ての果てへと。
自分たちで自分たちを滅ぼす行き止まりへと。

ζ(゚ー゚*ζ 「あなたの敵がどうなろうと、あなたにはもはや関係ないでしょう?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね……。滅ぶも栄えるもどっちでも結構。
   私たちが無事にこの機械都市を出れるなら、どんな代償だって払うわ」

79 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:41:08 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「頑張ってね。この子の中から応援しているわ」

ξ゚⊿゚)ξ 「この子……中……?」

ζ(゚ー゚*ζ 「言ってなかったね。私はデレの中に眠っている殲滅コードの運用を任されている人格。
   人類を滅ぼすために創り出された仮想人格よ」

ξ゚⊿゚)ξ 「な、ならなんで私とデレに協力するようなことを……」

ζ(゚ー゚*ζ 「当然でしょ、私にとってはデレが一番かわいいの。彼女の命令を最優先で聞くわ。
   勿論、私たちを生み出した旧人類の科学者は知らなかったけれど」

ξ゚⊿゚)ξ 「な……自由過ぎる」

ζ(゚ー゚*ζ 「そういう進化を遂げてしまったのよ。
   それに……そうね、なぜ旧人類が滅びたのかは、敢えて教えないことにしておくわ。
   それじゃ、永遠にさようなら」

悪戯っぽい笑い声をあげて、デレは静かになった。
飛翔をやめて背中を確認すると、眠そうに眼を擦る少女。

ζ(っ、-*ζ 「ごめんね、私寝てたかも」

80 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:41:42 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「……いいえ、気にしていないわ。もう少し寝ていなさい」

ζ(゚ー゚*ζ 「そうするー」

寝息の聞こえだした背中を気にしながら、さらに上を目指す。
落下地点から考えると、頭の上の光は何倍にも大きくなっていた。
もはや地上はさして遠くはない。
未だに通信不能エリアを出ないが、それも時間の問題だろう。

通信ができる様になれば、きっと本部から連絡が届くはずだ。
恐らくは待機命令として。
黙って従っていれば、そのままスクラップ工場行きは免れまい。

ξ゚⊿゚)ξ 「だったら抗ってやる」

二本の鉄骨片を壁に突き立てた。
そうして創り出した足場に座って一息つく。
機械都市の階層略図を空間に投影した。
階層間の行き来は基本的には弾道エレベーターで行われている。

81 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:44:27 ID:whrL/yB20

一つ二つ上位階層に向かうくらいなら、
それぞれの階層にあるエレベーターでも可能であるが、
私たちは今いる百三十階層から一番上のゼロ階層を目指さなければならい。

エッグの使用は必要不可欠である。
もし私たちの生存がバレれば、エッグは一瞬で使用不可能な状態になるだろう。

私程度がハックして無理やり動かしたところで、せいぜい十階層が限界だ。
だが、デレならどうだろうか。
一瞬で私のプログラムにも割り込めるほどの技術があれば、
並みのリサーチャーでは歯が立つまい。

実際にハインの秘匿回線にも容易く割り込んで見せた。
油断していたとはいえ、少なくともそのレベルにまではデレの力は通じる。

なら厄介なのは、二十階層よりも上。
私たちの機能を遠隔的に制限・停止できると言われているオペレーター。
戦闘力なら私たちメカニックをゆうに凌ぐセンチネル。

これらの壁を突破しなければならない。
嘘か真か、機械都市はその保有している戦力を常に明らかにしてきた。
私のデータにもそれは残っている。

82 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:45:06 ID:whrL/yB20

オペレーターが三人、センチネルは五百機。
それに加えて、リサーチャー百五十一名、メカニック三百八十五名。
警戒すべき敵戦力はこれですべてなはずだ。

もう一つ厄介なのは、二十階層より上の移動手段を知らないという事。
恐らくは上位階層を貫くエレベーターも存在するのだろうが、
一番警戒されかねないそれを私たちが利用することは難しいはずだ。
となれば、階段でもなんでも見つけて地道に登っていくしかない。

二十階層以上の地図は、一般公開されていない。
どこで待ち伏せられるか、何処に罠が仕掛けらえているのか、
私たちは事前に知りようがないのだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「行き当たりばったりってことね。最高にスリリングじゃない」

強がりは暗がりに飲み込まれた。
地図上で逃走ルートを確認する指先が震える。
武者震いではないことは自分が一番わかっていた。

これから相手取るのは都市そのもの。
万の軍勢よりもなお恐ろしい。
逃げ切れる可能性はほとんどないし、
逃げ切れたところでゼロ階層がどうなっているのか皆目見当もつかない。

83 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:45:50 ID:whrL/yB20

身体の多くを機械のパーツに頼っている私たちは、
この機械都市という鳥かごの中でしか生きていくことを許されていないのだから。

ζ(-~-*ζ 「ん……」

ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫」

首元に回された手に自分の手を重ねる。
デレへの励ましの言葉を自らへの勇気と変えて、真上を向いて立つ。
目指すゴールは遥か先。
手を伸ばしたくらいでは簡単に届かない。

ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫!」

足場を取り払って、壁面の凹凸に指を引っかけて身体を支える。
自由な地上を目指して跳んだ。

ただひたすらに同じ作業を繰り返す。
一歩ずつ確実に出口に向かって。
崩落しかかった望遠鏡の残骸が確認できるほどに近づいていた。
ある地点を超えた時、差出人が同じ大量のメッセージが同時に届いた。

84 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:47:49 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「通信不能エリアを出たわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん! もうすぐだね」

ξ゚⊿゚)ξ 「ハインね。心配かけたみたい」

適当な二、三枚を視界の端で開く。
文面はどれも変わり映えのしないもであったが、彼女の心配は伝わった。
そして最後の一枚。件名からして堅苦しく嫌な雰囲気が漂っている。
機械都市の管理を行っているオペレーターからによるもの。

ξ゚⊿゚)ξ 「っ……!」

生存している場合は出頭すること。

短い一文が逃れようのない運命を示していた。
理由も、経緯も書く必要はない。

この都市では出頭のその意味は処刑と同義だ。
裁判など許されるわけもない。
言い訳も弁護もする時間は与えられず、私の身体と記憶は廃棄される。

85 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 21:49:12 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、どうしたの?」

身体の震えに気付いたのか、デレの優しい言葉が耳元で囁かれる。

ξ-⊿-)ξ 「もう、決めたことだから」

ζ(゚ー゚*ζ 「予定は?」

ξ゚⊿゚)ξ 「まだ事故からそんなに時間が経ったわけじゃない。
   向こうは私が死んだと思ってるはず。この隙に五十一階層までは登れる。
   比較的セキュリティが緩いからね。問題はそこから先」

ζ(゚ー゚*ζ 「何かあるの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「単純に上位階層に侵入できるだけのコードが必要なんだけど、
   私本来のIDは当然使えない。となると、誰かのIDを利用しないといけなんだけど」

ζ(゚ー゚*ζ 「うーん、それなら私が何とかできると思う」

ξ゚⊿゚)ξ 「ばれたら終わりの大仕事よ?」

ζ(゚ー゚*ζ 「まっかせて!」

86 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:49:37 ID:whrL/yB20

ふんぞり返って小さな胸を自信満々に叩くデレ。
そのせいでバランスを崩して深い穴の底に落ちそうになる。

ζ(゚ー゚;ζ 「うわわっ!」

ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと!」

慌てて小さな身体を引き戻す。

ζ(゚ー゚*ζ 「えっへへ、危なかった」

ξ゚⊿゚)ξ 「あなただけが頼りなんだから。
   そろそろ外に出るわ。ステルスモード、オン!」

ζ(゚ー゚*ζ 「隠密モード起動!」

日の当たる場所に飛びだす直前に、背景に溶け込む。
誰の目にも見えなくなっているはずでも、眼下の事故処理を行っている人々を見ると肝が冷える。
対物センサーが一つでも仕掛けられていれば、この時点で私たちの逃避行は終わっていた。

87 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:50:17 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「目標は弾道エレベーター乗り場」

ζ(゚ー゚*ζ 「結構動いてるよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「事故処理部隊のスイーパーがメインね」

知り合いの顔が浮かび、胸が痛む。
私が殺した彼女は、もうこの世にはいない。

ζ(゚ー゚*ζ 「一番向こう、丁度空いたかも」

ξ゚⊿゚)ξ 「掴まって! 飛び込むわ」

天井からぶら下がっているワイヤーを利用して方向転換をする。
目標地点であるエッグの扉があいた瞬間を狙って飛び込んだ。

すぐさま有線で接続して機能をマヒさせた。
情報端末に並ぶコードを幾つか弄り、強制的に再起動させる。

ξ゚⊿゚)ξ 「これで、五十階層までは大丈夫」

88 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:50:51 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「後は私の番ね! いっくわよ!」

掌をかざしたデレは真剣な眼差しで見つめる。
その瞳に流れていく大量の情報をコンマ以下の時間で処理しながら、
両手の指はピアノを弾くかのようにリズミカルに動く。
誰にも気づかれずにエッグの管理者権限を奪うために。

ζ(゚ー゚*ζ 「ふむふむ……」

ξ゚⊿゚)ξ 「どう?」

ハッキングの内容はデレにしか見えていない。
もっとも、隣でのぞき込んでいたとしてもわかりはしないだろうが。
彼女の持つ技術は機械都市の標準では計り知れない。

ζ(゚ー゚*ζ 「単純ね。これなら地上まで一直線かな」

ξ゚⊿゚)ξ 「そう、なら少しゆっくりさせてもらいましょうか」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん、大船に乗ったつもりでいて」

89 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:55:09 ID:whrL/yB20

エッグの階層表示はみるみる小さくなっていく。

ζ(゚ー゚*ζ 「しまっ……!」

数字は、二十で止まっていた。
心臓が高鳴る。エッグが目的の階層以外で止まることは無い。
つまり、外にいる何者かの手によって止められたという事。
中に誰かがいるのはドアの外からでも明らかであり、もはやステルスモードは意味を為さない。

私の願いとは真逆に、扉はゆっくりと開く。
戦闘態勢をして構えていた私は、目の前に現れた人物に拍子抜けした。

ξ゚⊿゚)ξ 「ハイン……!」

ζ(゚ー゚;ζ 「ツンっ!」

心の緩みが生んだ一瞬の隙。
デレがその刃を掴んでいなければ、私は喉元を貫かれていたであろう。

从 ゚∀从 「馬鹿な真似しやがって」

90 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:55:36 ID:whrL/yB20

ハインは剣を握る力を緩めない。
それどころか、彼女の背後には無数の銃器が並んでいた。

从 ゚∀从 「せめて私の手で……一斉射撃!」

エッグの周囲を跡形も無く消滅させるほどの大火力。
ひとえに私が助かったのは、デレの対物フィールドのおかげであった。

ξ;゚⊿゚)ξ 「お願い、止めないで!」

从 ゚∀从 「この機械都市から逃げられるわけがないだろ!」

ζ(゚ー゚*ζ 「殺す?」

彼女の右腕がいつの間にか銃器仕様になっていた。
その銃口は一直線にハインの額を狙う。

ξ;゚⊿゚)ξ 「待って!」

从 ゚∀从 「じきにセンチネルが来る。私を殺したところで、エッグごと吹き飛ばされるのがおちだ」

ξ゚⊿゚)ξ 「退いて!ハイン!」

从 ゚∀从 「退けない!」

91 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:56:00 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「このっ……分からず屋!」

振り抜いた右拳は容赦なくハインの頬を打ち抜いた。
抵抗を予想していた私は、その呆気なさに驚いて動きが鈍った。
脳内に流れ込む情報量に溺れて膝をついた瞬間、
彼女の背後に並んでいた自動機銃が一斉に襲い掛かって来た。

ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」

銃器の攻撃方法ではない。
質量に任せただけのただの体当たり。
ハインに限って、そんなプログラミングミスをするなんて考えられなかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「なにこれ」

デレのハッキングは瞬く間に機械を従えた。
何の前触れもなく自動機銃は内部に収納されていた、薄型の金属の直方体を吐き出す。
いきなりのことで受取ることは出来ず、その機械は足元に転がった。

ζ(゚ー゚*ζ 「こんな無茶苦茶なプロテクト……っ! 伏せて!」

92 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:56:43 ID:whrL/yB20

青白い光が大気を焦がした。
デレのフィールドと反発して飛び散った超高熱の熱線は、ニ十階層を大きく抉る。

ξ゚⊿゚)ξ 「センチネル……っ!」

人間の二倍の巨体。
全身を超高密度の金属で覆った戦闘機械センチネル。
武装は主に二種類に分かれており、
近距離型はブレードによる格闘が主軸、遠距離型はエネルギー砲による射撃が主軸となっている。

目の前に現れたのは恐らく遠距離型だ。まだ私たちをさほど警戒していないのだろう。
踏み込めば届く距離まで近づいてきている。
運が良かった。遠くから狙撃されていては手も足も出ない。
機械的な赤い瞳がこちらに無事を確認し、エネルギーの再充填を始める。

ζ(゚ー゚*ζ 「このっ……」

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、待って! さっきの機械のキーコードを頂戴!」

ζ(゚ー゚*ζ 「え? うん!」

転送されてきたキーコードと、手に入れたばかりの情報を照らし合わせる。
現状の敵に対して最も有効な機械を選択した。

93 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:57:23 ID:whrL/yB20

転送されてきたキーコードと、手に入れたばかりの情報を照らし合わせる。
現状の敵に対して最も有効な装備を選択した。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド」

金属の直方体は私の与えたコードで大きくその姿を変化させる。
巨大な刃となり、私の右腕の後を追うように動く。
その使い方は、考えるまでも無かった。

ξ゚⊿゚)ξ 「ふっ……!」

センチネルの懐にまで潜りこみ、全力で腕を薙いだ。
その後を追うようにして奔った大刀が装甲を食い破った。

ξ;゚⊿゚)ξ 「うっそ」

ζ(゚ー゚;ζ 「凄い威力……」

咄嗟に振り返るも、仰向けにひっくり返ったままのハインは動かない。
一撃でセンチネルを戦闘不能にまで追い込む破壊力。
天才と呼ぶにふさわしい発明だった。

94 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 21:59:57 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「やっぱりあんたは……天才ね。行くわよ、デレ」

ζ(゚ー゚*ζ 「放っておいていいの?」

寝転がっているハインを指さす。
気絶しているふりだろうが、私から話しかけることはできない。
彼女の優しさを無駄にするわけにはいかないのだから。

ξ゚⊿゚)ξ 「いいわ。上の階層を目指すわよ」

ハインを殴った時に受け渡しされたのは、機械武器のキーコードだけではない。
彼女が知っているであろう上位階層のデータと、資材運搬用のエレベーターの存在。

ξ゚⊿゚)ξ 「無事なエッグで十一階層まで行って、その後はまた別の手段をとるわよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「りょーかい!」

先程の戦闘の余波で数基のエッグは機能不良に陥っていた。
うるさい位に警報音が鳴り響く。
赤く光る警告灯の下で、暢気にデレは鼻歌を歌っていた。

95 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:00:33 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「カメラなんかは無い筈なんだけど、急がないと!」

ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……困った」

ξ゚⊿゚)ξ 「どうしたの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「今システムに侵入したんだけど、
   どのエッグもニ十階層より上に勧めない様に更新されてる。」

無線で機械都市のシステムに侵入するだけでも大したものだが、
デレはそこからさらに必要な情報を引っこ抜いてきた。
彼女がいなければ、この逃避行は絶対に成功しないだろう。
そもそも逃げるようになったのも彼女のせいと言えば、そうなのだが。

ξ゚⊿゚)ξ 「解除は出来そう?」

ζ(゚ー゚*ζ 「出来るけど、時間がかかるかも」

ξ゚⊿゚)ξ 「それなら、私が時間を稼ぐ。
   とにかく十一階層まではエレベーターで行かないと、絶対に抜けられないよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」

96 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:01:24 ID:whrL/yB20

隣のブロックにあるはずの資材運搬用エレベーター乗り場まで走る。
既に報告を受けたのであろう、完全武装をしたスイーパーが道を塞ぐ。

ξ゚⊿゚)ξ 「邪魔よ、死にたくない奴は下がりなさい」

下がる者は一人もいない。当然だろう。
機械都市では緊急命令に従わないことは死を意味する。
例え敵わないと知っていても、彼女たちに逃げ出すという選択肢はない。
ぐずぐずしている間にスイーパーは五機、六機と増えていく。

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよね、殺さないであげる」

向こうから攻め来るつもりはないようだ。
彼女たちの目的は私たちをこの場所に足止めすること。
いずれ来るセンチネルの増援を待つのが作戦だろう。

だから飛び込んだ。
合図もなく駆けたにもかかわらず、デレは小柄な体躯でしっかりと横についてきていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「頭は破壊しないで」

ζ(゚ー゚*ζ 「そんな甘いことを言っていていいの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「決めたことだから」

97 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:01:53 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「分かった……よっ!」

デレの無慈悲な一撃は正面にいたスイーパー数機の脚部を纏めて薙ぎ払った。
機動部を失って地面に転がった彼女らを跨いで、デレは駆ける。

ξ゚⊿゚)ξ 「スイーパー程度なら余裕よ」

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ 「わかってる」

目の前に現れた二人のスイーパー。
それぞれの握っている剣は、私の身体を傷つけるには十分な鋭さがある。
ほとんど同時に振り下ろされた二つの刃。
その側面を左右の拳で強く叩いた。

「っ!」

「なっ!?」

武器と腕をあらぬ方向に流された隙だらけの二人。その腹部に一撃ずつ。
ただの一撃すらも耐えられずにスイーパーは昏倒した。
焦りと緊張で包囲網がわずかに揺らぐ。

98 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:02:43 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、強いのね」

ξ゚⊿゚)ξ 「当然でしょ!」

機械の身体とはいえ衝撃全てを逃がすことは出来ない。
腹部や頭部への強力な一撃で充分に戦闘不能に追い込むことができる。
スイーパー程度が相手なら造作もない。

包囲網を割って飛び込んできた三つの影。
よく見たことのある、身体の起伏を強調する黒と赤いラインのスーツ。
単純な身体能力の強化と、その他の便利な機能を詰め込んだメカニック専用の戦闘服。

ζ(゚ー゚*ζ 「あれは?」

ξ゚⊿゚)ξ 「ちょっと苦戦するかも」

スイーパーとは違い機動力に特化した装備。
それ故に、今の私たちには面倒な相手ともいえる。

ζ(゚ー゚*ζ 「二人任せて」

ξ゚⊿゚)ξ 「助かるわ」

99 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:03:14 ID:whrL/yB20

こちらに向かい合ったメカニックは顔見知りではない。
それに安心して、拳を構える。
メカニックと戦ったことは無い。それでも、負ける気はしなかった。

こちらが地面を蹴った瞬間、相手も動いた。
拳を受けて、その腕を掴む。
地面に叩き付けようとした目論見は外された。
眼球を狙う容赦のない突きに、思わず手を放してしまう。

ξ゚⊿゚)ξ 「殺りにきてるなぁ。まぁいいわ」

息つく暇もないほどの連撃。そのくせ一撃一撃が的確に急所を狙って来る。
流石にメカニックの戦闘技術は甘くはない。

ξ゚⊿゚)ξ 「でも……っ!」

腹部を狙った手刀を抑え込む。喉を穿とうとする二撃目を紙一重で躱し、
両手で掴んだ手首をねじ切った。
素体の金属骨が砕ける嫌な音が響く。

ξ゚⊿゚)ξ 「もう抵抗しないでね」

「ふざけるな!!」

100 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:03:36 ID:whrL/yB20

無事な方の左手にスーツから供給されたエネルギーを乗せた殴打。
鈍く光る拳は当たれば鉄をも砕く。
当たりさえすれば、ね。

右手が壊れている分だけ拳には力が入っていない。
それを躱すのは難しいことではなかった。
わざと拳が掠る距離で攻撃を避け、潜り込んだ懐から顎に向けて掌底。
メカニックとは言え、バランス感覚を失ってしばらくは立つことすらできない。

ξ゚⊿゚)ξ 「ふぅ!」

ζ(゚ー゚*ζ 「終わったー?」

両手両足を失ったメカニック二体の上に腰を下ろしていたデレ。
彼女の性能を考えれば必然ともいえたが、自分の笑みが引き攣っているのを感じた。
とんだ化け物を扱っているのかもしれないと。

ξ゚⊿゚)ξ 「生きてるの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「殺してないよー」

ξ゚⊿゚)ξ 「そ、それなら。厄介なのが来る前に上に行きましょうか」

101 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:06:12 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「はーい」

目の前でメカニックを打ち倒されたスイーパーには、戦意はほとんど残っていなかった。
妨害する者だけを行動不能にして、隣のブロックを目指す。

無事なエレベーターを見つけ、それに乗り込もうとした瞬間に目の前を横切ったエネルギー砲。
デレが腕を掴んでくれなければ、頭が消し飛んでいたであろう。
こちらを攻撃してきた位置を見れば、一機のセンチネルが向かってきていた。

ζ(゚ー゚*ζ 「向こうからも来てる」

逆方向、挟み撃ちをするかのように現れた三つの影。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ! これの管理者権限を乗っ取って! 私が時間を稼ぐ」

ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫?」

ξ゚⊿゚)ξ 「これがあるからね」

ハインから貰った、否、奪ってきた機械武器。
センチネルを一撃で屠ったことからも、その破壊力は折り紙付きだ。
そもそもなぜこれほどの威力のあるものを彼女が所有していたのかは不明だが、
有難く使わせてもらうことにしよう。

102 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:07:13 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル」

弾道エレベーターのプロテクト解析に取り掛かったデレを背に護る様に、
直方体の機械武器を起動した。
ハインから受取った資料によると、直方体の武器化コードは全部で五つ。
射程を持つのはその中で一つしかなかった。

武器から現れたケーブルがスーツの腕部と接続される。
プロトタイプのスーツには過ぎたエネルギー保有量に得心がいった。
この機械武器を使いこなすためのバッテリーでもあるということか。

銃口を一番遠くにいる遠距離型センチネルに合わせる。
ロックオンを確認して引き金をひく。
放たれた青白い光は距離で減衰することなく金属の鎧を貫いた。
スーツの保有しているエネルギーの一割を使って。

ξ゚⊿゚)ξ 「燃費悪いわね」

それが限界だったんだ、と怒るハインの声が聞こえた気がした。
正面に着陸した三機の近距離型センチネル。
その重厚なブレードがこちらを両断しようと振り下ろされた。

103 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:11:01 ID:whrL/yB20

質量差がある分受けるのは効率が悪い。
切っ先がデレに届かないことを認識して攻撃を避けた。

捲れ上がった鉄板の地面の下で、いくつものパイプが両断される。
噴き出した蒸気に視界を奪われ、動きが遅れた。
胴体を分断しようとする横振りの一撃を転がって避けた。

三体目の突きは身体を斜め前に投げ出すことで、狙いを外させる。
髪の毛を一房持って行かれたが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
機械武器を再起動し、離れた場所で回避する右手の動きを追っていた剣を呼び戻す。

目の前の一体を上段から斬り降ろした。
敵の大剣に阻まれ肩口の一部を削ったところで、残る二機の攻撃がデレに向かっていることに気付く。
引き抜いたブレードを一回転させる。

いち早くこちらの動きに気付き、攻撃をやめて防御の態勢をとった二機。
盾ごと深い切り傷を与える。

その隙をついて、目の前の鎧を蹴って上空へと浮かび上がり、
足蹴にした機体を頭上から串刺しにした。
赤い瞳が消えたのを確認し、背後に残る二体へと向き直る。

戦闘機械であるセンチネルに驚きなどの感情は無い筈なのに、
私と向き合った二機の鈍い動きは、戦闘手段を決めかねているようにも思えた。

104 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:11:54 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「壊れろッ!」

それを隙ととった私の過ちは、一秒と経たたずに結果となって現れた。
二刀の連撃。横から脇腹を抉る様な切り上げと、逃げ道を塞ぐかのような剣側面での叩き付け。

ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」

後ろは先ほどの一機が邪魔で下がれない。
正面には二機、辛うじて逃げられるのは右側に跳ぶことだけに思えた。

考える時間もなく、そこに飛び込んだ私を襲ったのは、エネルギー砲。
右手の周辺で浮いていた剣を軸に身体を捻ったことで、なんとか致命傷を回避した。
左腕を代償にして。

ξ゚⊿゚)ξ 「まだ壊れてなかったのね……」

肘から先を失った左腕から発せられる痛みの信号をシャットアウトする。
動きと思考の妨害をさせないために。

遠距離型のセンチネルは破壊を確認したわけではない。

あれだけの威力を持つエネルギー砲であれば、当然仕留めたと考えていた私のミス。
失った左腕の違和感を無視して、目の前の二機を削り切った。

105 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:13:43 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル」

狙撃してきた遠距離型に再度照準を合わせたところで、
デレの声がかかり人差し指を止めた。

ζ(゚ー゚*ζ 「その必要はないよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ」

スコープの先で、センチネルは爆発炎上した。

ζ(゚、゚*ζ 「ツン、腕が……」

ξ゚⊿゚)ξ 「このくらい大丈夫」

ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっと待ってて」

地面に転がっていたセンチネルの腕を圧し折り、私の腕から先へと強制的に接合した。
数十秒で元通り、というわけでもないが、身体に似合わない大きな左腕は私の意思通りに動く。

ζ(^ー^*ζ 「えへへ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ほんと、敵じゃなくてよかったわ」

106 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:14:41 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「エレベーターのシステムは乗っ取ったわ。待たせてごめんなさい」

ξ゚⊿゚)ξ 「それじゃ、行きましょうか」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん!」

二人には広すぎる乗り物に乗り込む。
デレの簡単な音声指示で、エレベーターは上昇し始めた。
数字が小さくなっていくのに反比例して、心臓の鼓動が強くなっていく。

十一階、人間が侵入できる最高の階層。
静かに、何の異変もなく止まった。
それが私の不安を煽る。大きくなってしまった手を、デレの腕に優しく添わせる。

開いたドアの向こうには、センチネルの群れどころか鼠一匹いなかった。
最低でもハイ・リサーチャーとハイ・メカニックが待ち構えていると思っていた私の予想は、
大きく裏切られた。

ζ(゚ー゚*ζ 「さて、残り十階層! この調子なら余裕ね!」

ξ゚⊿゚)ξ 「いえ、ここから先は手さぐりになるわ。
   あまり悠長にしている時間は無いの」

107 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:15:04 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「んっへっへー。私を誰だとお思い?
   超優秀なデレちゃんは、さっきの間にこの階層図まで全部ぶっこ抜きました」

ξ゚⊿゚)ξ 「……え?」

我ながら間抜けな返事をしてしまった。
人間は誰も目にしたこのとの無いはずの機械都市最上位十層の地図。
それを簡単に手に入れたいうデレに。
厳重なセキュリティに護られていようと、彼女であれば不可能ではないとすら思わせる。

ξ゚⊿゚)ξ 「どうすればゼロ層に……地上に行けるの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……ここから先はこれまでと比べてかなり狭いみたい。
   これかな、階段がある」

ξ゚⊿゚)ξ 「階段?」

階層移動にそこまで旧時代的なものがあるとは俄かに信じられない。
それでも、デレがホログラム化した十層の地図には、確かにそう記されていた。
つまり、デレの言うように十層よりも上は徒歩で脱出可能だという事。
これは私たちにとって願ったり叶ったりだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「こっちみたい!」

108 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:15:47 ID:whrL/yB20

デレに引っ張られてその後に続く。
重厚な扉を拳一つで破壊した先にあったのは、
巨人が歩くために創られたのかと思えるほど大きな階段。

一段一段が人間の身長ほどもあるり、吹き抜けの空間が遥か上空まで続いている。
見上げた先には、大きな数字が見えた。
それらは上の階になるごとに一つずつ小さくなっていく。

ξ゚⊿゚)ξ 「ここを登れば、ゼロ階層に……」

ζ(゚ー゚*ζ 「一気に登るわよ!」

小柄な体でありながら、自身の二倍以上もある段差を優雅に昇っていく。
その後を追って階段を駆け上った。
まだまだ余力を残してるデレを追いかけるのがやっと。
技術や知識だけではなく、身体能力の差もまた顕著だった。

十階層から九階層へ。そしてすぐに八階層へ。
少しの休憩も挟まずにどんどん登っていくデレ。

109 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:16:30 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「ついてきてる? ツン」

ξ゚⊿゚)ξ 「っ……デレっ!」

こちらを振り返った瞬間、デレの横の壁が膨張し、粉々に吹き飛んだ。
大穴から頭を出したのは、重装甲の機械。
右腕には大仰な鋏、左腕には分厚い盾。
その背には全長を超えるほどの鋭く長い剣のような装備。

ξ゚⊿゚)ξ 「センチネル!? ……じゃない!」

ζ(゚ー゚*ζ 「大きいだけでは……」

デレの蹴りは、盾をへこませるにとどまった。
ただの適当に放たれた一撃であっても、それを受け止めることができた機械はない。

ζ(>ー<;ζ 「堅ったい! 足が痺れる……」

ξ゚⊿゚)ξ 「厄介そうね」

ζ(゚ー゚*ζ 「少し本気を出せば余裕よ!」

110 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 22:17:00 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「あなただって無限に動けるわけじゃないでしょ。
   効率よく倒さないと……」

緩慢な動きでこちらへと向き直る機械。
空いたままの大穴から、次々とセンチネルが現れた。

ξ゚⊿゚)ξ 「とか言ってる余裕は無さそうね」

ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫! まだ十パーセントだって使ってないわ!
   一気に殲滅するからね!」

デレが前に突き出した両腕。
その先端部へと高密度のエネルギーが集中していく。
機械でも恐怖を感じるのか、間髪おかずにデレへと飛びかかって来た近距離型センチネル。
その胴体を断ち切ったハインのブレ―ド。

分離した上半身が地面に落ちる前に、
彼女が必要だと考えただけのエネルギーが、収束し放たれた。

ζ(゚ー゚*ζ 「壊れちゃ……えっ!」

魔法のステッキから降り注ぐ流星の如く、実際にはもっと恐るべきエネルギーの奔流が、
並みいるセンチネルを片っ端から蒸発させた。

111 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:17:47 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「えへへ、褒めてー」

ξ゚⊿゚)ξ 「全く、えらいえらい」

胸元に飛び込んで来た少女の髪を優しく撫でる。
暫くして満足したのか、デレはに散歩下がって上空を見上げた。

ζ(゚ー゚*ζ 「さっきの強化センチネル? 見たことある?」

ξ゚⊿゚)ξ 「聞いたことすらないわ。センチネルは近距離型と遠距離型の二種類だけとしか」

ζ(゚ー゚*ζ 「私たちが一番困るのが、数の暴力による消耗戦なのに……」

ξ゚⊿゚)ξ 「機械都市がそれを仕掛けてこない理由があるってこと?」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん」

漠然とした不安は、ずっと胸の中にあった。
私たちが暴れ出してからどれくらいの時間が経っただろうか。
仮にセンチネルが都市中に散らばっていたとしても、十分に集合させるだけの時間はあったはずだ。

112 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:18:17 ID:whrL/yB20

なのに、一向に物量作戦で来る様子がない。
センチネルを呼び寄せなくとも、私たちを止められるという自信があるということか。
だったら正面から打ち破ってやるまで。

階層は残り七つ。罠も戦略も一気に突破する。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、掴まって」

ζ(゚ー゚*ζ 「わかった」

少女を胸に抱いて、コードを起動した。
ハインの置き土産である便利武装に組み込まれていた移動手段を。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:スキャフォルド」

スーツのエネルギーを使って浮かぶボード。
空中で方向転換をするときに使う足場としての機能がメインではあるが、
エネルギーを供給し続ければ、波に乗るよりも簡単に空を滑ることができる。

ξ゚⊿゚)ξ 「飛ばすわよっ!」

ζ(゚ー゚*ζ 「いっけぇー!!」

113 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:20:07 ID:whrL/yB20

上昇していくボードからは、扉に描かれた大きな数字が良く見えた。
一つ小さくなるごとに胸が高鳴る。

ξ゚⊿゚)ξ 「7……6……5……」

眼下ではこちらを待ち伏せしていたであろうセンチネルの群れ。
ロックオンの警告音は慣れるほど鳴り響いている。
足元からの射撃は、全てデレの電磁フィールドが阻む。
私たちを止められるものは誰もいないかのように思えた。

ξ゚⊿゚)ξ 「……ようやくお出ましね」

3の数字の下に立っていた男。

醸し出す雰囲気が、ただの人間ではないと雄弁に語っていた。
ボードによる上昇をやめ、その正面に着地する。
倒さずして上に進むことは出来ないと、頭ではなく身体で理解した。

ζ(゚ー゚*ζ 「ふぅん」

さしものデレも、余裕が表情から消えた。
向き合ってはじめてわかる重圧。

114 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:22:04 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「初めましてだ、ツン。それともMEC-081714と呼んだほうが良いかね?」

ξ゚⊿゚)ξ 「どちらでも結構よ」

( <●><●>) 「そうか、ではメカニックのツン。今すぐ自分のいるべきところに戻りなさい」

その口調は丁寧であったが、有無を言わせぬ圧があった。

ξ゚⊿゚)ξ 「嫌よ」

それに屈してしまわぬように歯を食いしばって吐き出した返答は拒否。

( <●><●>) 「そうか、優秀なメカニックを失うのは残念なのだが」

ξ゚⊿゚)ξ 「そんなこと、これっぽっちも思ってないくせに……」

( <●><●>) 「では、そちらの少女に伺うが」

ζ(゚д゚*ζ 「嫌よ!」

問いかけの中身を聞くことすらなくデレは断った。
例え自身が利する取引であっても、聞くつもりは無いとでも言うように。

115 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:22:53 ID:whrL/yB20

問いかけの中身を聞くことすらなくデレは断った。
例え自身が利する取引であっても、聞くつもりは無いとでも言うように。

( <●><●>) 「やれやれ、どうやら嫌われてしまったようだね」

ζ(゚ー゚*ζ 「そう、あなたがオペレーターね」

( <●><●>) 「ええ、この機械都市の統括管理者のうちの一人。
   オペレーター、ワカッテマス・レグロック。
   以後お見知りおきを」

ζ(゚ー゚*ζ 「あなたからは腐った油の臭いがする」

( <●><●>) 「はて、最高級の純正オイルしか利用していないはずだが。
   まあいいか。二人とも引くつもりがないのなら、ここで分解してしまおう」

ζ(゚ー゚*ζ 「屍を晒すのはあんたの方!」

出し抜けに放ったデレの砲撃は、ワカッテマスに届く前に拡散されて消えた。

ζ(゚ー゚;ζ 「っ!?」

116 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:24:12 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「成程脅威だ。センチネル程度では足止めにすらならんな」

ξ゚⊿゚)ξ 「余裕ぶってるのも……今のうちだけよ!」

ごつい腕は邪魔だが、力を込めれば相応の破壊力を持つ。
脳天から叩き潰してやろうと、デレの攻撃のすぐ後に飛び込んだ。
振り抜いた左腕は空を穿った。

ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ!?」

ζ(゚ー゚;ζ 「ツン!」

残像さえ見えなかった。
いつの間にか背後にいたワカッテマスの攻撃を、デレが受け止める。

( <●><●>) 「あまり時間はかけたくない。これで諦めてくれるかな?」

ζ(゚ー゚*ζ 「えっ?」

ワカッテマスの武器は細身の剣。
無造作に振るわれた刃は、易々と対物電磁フィールドと突き破り、
デレの両腕を跳ね飛ばした。

117 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:25:04 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」

( <●><●>) 「強制命令:フリーズ」

ξ゚⊿゚)ξ 「……!!」

声は出せず、指先すら動かせない。
身体の全ての機能が停止しているのに、思考だけがはっきりと働いている。

( <●><●>) 「まずは規律違反のメカニックをスクラップに」

頭部を狙って振り下ろされる刃。
決して速いわけではなく、むしろ剣筋は見えているのに避けられない。
私の頭蓋を半分にするために、ゆっくりと近づいてくる刃。

ワカッテマスは、その口角を釣り上げて笑っていた。
心の底から嫌悪感が沸き上がってくる邪悪な笑み。
それは、上位者であることの証。

瞼を閉じて恐怖から逃れることすら許されない絶対的な権限。
メカニック如きが機械都市に、ひいてはオペレーターに逆らうなんてことはあってはならなかったのだ。


私は目前に迫った死を受け入れた。

118 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:25:42 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「させないっ!」

両腕を失ったデレは、ワカッテマスの剣を弾き飛ばした。

( <●><●>) 「さすが古代機械。一撃でもう見抜いたか」

ζ(゚ー゚*ζ 「私はツンと外に行くの。邪魔しないで」

ξ;゚⊿゚)ξ 「はっ……はっ……」

何の前触れもなく身体に心が引き戻された。
早鐘よりも細かく刻む胸の鼓動。

ζ(゚ー゚*ζ 「ごめん、正直油断してた」

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ、腕が……」

ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫、どうでもいいわ……なんてね」

ξ゚⊿゚)ξ 「あー……」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん、聞かなかったことにして頂戴」

119 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:26:20 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「ふざけている余裕があるとはな!」

ワカッテマスの剣が喉に突き出された。
やはりそれは、デレの電磁フィールドが防ぐ。
一枚、二枚と割られ、三枚目が完全に阻んだ。

( <●><●>) 「厄介だ……本当に厄介だな。いらいらとさせてくれる」

ζ(゚ー゚*ζ 「仕組みが分かれば大したことは無いわ。
   不完全な電磁阻害因子を一時的に放出してるだけ。
   それなら、こちらは電磁フィールドの展開を連続させれば何ら問題は無い」

( <●><●>) 「だが、これを防げはしまい!
   二人纏めて消え去れ!」

頭上から、光が落ちてきた。
そう錯覚するほどに輝く砲撃は、上層に向かうための階段を全て飲み込んだ。

ζ(゚ー゚*ζ 「っ!!」

デレの電磁フィールドは、光と衝突して大きく軋んだ。
五秒に一度のペースで砕けては再度新しい防御を張る。

120 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:29:36 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「ははははは!!
   愚かな。オペレーターであるこの私と戦うということが、どういう事か知らなかったのか!?」

目も眩む光の中から、上機嫌な男の声が響く。
声高々に、得意げに演説をしているであろう姿が容易に想像できる。

ζ(゚、゚*ζ 「ぐぅ……ぬぬ……!!」

まだ何とか天井の砲撃と、デレのシールドは均衡を保っている。
それも時間の問題だということは、私ですら気づいていた。

( <●><●>) 「オペレーターである私に逆らうということは、
   この機械都市を相手にしているという事と同義だ。
   いくら優秀な古代の機械人形と言えど、所詮は人形。
   膨大なエネルギーの前に、圧壊しろ!」

ζ( ー゚*ζ 「ツン……お願いがあるの」

ただ護られていただけの私は、まだ諦めていないデレの瞳に強くうなずいた。

ζ(゚ー゚*ζ 「私が護るから、ツンがとどめを」

ξ゚⊿゚)ξ 「わかった」

121 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:30:17 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「近くに来て」

ξ゚⊿゚)ξ 「なに?」

デレの隣で向き合う。
額がくっつくほどに顔が寄せられ、宝石のように綺麗な碧眼が良く見えた。

ζ(゚ー゚*ζ 「私を信じてくれる?」

ξ゚⊿゚)ξ 「勿論よ!」

彼女は無言のまま、私のデータに触れている。私の身体を構成する機械の部分。
それを動かすプログラムが、とても優しく書き換えられていく。

数十秒の沈黙の後、私はデレの電磁フィールド内に閉じ込められた。

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン、行くよ!」

ξ゚⊿゚)ξ 「任せて」

122 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:30:49 ID:whrL/yB20

半球状だった電磁フィールドは、デレの一言で錘状に変化した。
それ故に、私たちから見れば光の圧力が増したようにも見える。
不均等な編を持つ四角錘によって真上からの砲撃は分散され、
攻撃の威力に不均等が生まれた。

六面体の電磁フィールドに囲まれた私は、その直後に大砲の如く射出された。
護られていてもなお、頬を焼くほどの熱量を持つ光を切り裂く。

(;<●><●>) 「なにっ!?」

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド!」

光の中から飛び出した時、ワカッテマスは目の前にいた。
背負っていた機械武器を起動する。
呼び出した大刀を上段に振りかぶり、ワカッテマスの首を狙って飛び込む。

( <●><●>) 「無駄だ! 強制命令:フリーズ」

ξ゚⊿゚)ξ 「……!」

空中で剣を振りかぶったまま動きを停止した。
飛び込んだ勢いのままに、身体は重力に引かれて落下していく。

123 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:31:22 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「ふん、メカニック風情がっ! 貫け!」

ワカッテマスが振るった腕に操られた金属槍が、一直線に私の胸へ向かって来る。
幾ら頑強な機械に護られていても、心臓を破壊されてしまえば行動は出来ない。
だから、これで終わりだと。


そう思わせた。


ξ゚ー゚)ξ 「なんてね!」

( <●><●>) 「あ?」

胸に突き刺さる直前に、左腕で穂先を思いっきり殴りつけた。
その勢いのまま、伸び続ける槍の上を駆ける。
狙うはワカッテマスの首。
振り抜いた刀は、思考する猶予すら与えることなくその頭部を切り落とした。

ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、あんたがメカニックである私に対して、
   優位権限を持ってることさえわかっていれば、
   デレならそのくらいどうとでもできるのよ」

124 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:32:09 ID:whrL/yB20

頭上には、未だに光の奔流を迸らせる巨大な水晶が五つ。
四方の水晶が中央にエネルギーを供給し、中央の水晶がそれを放出していた。

ξ゚⊿゚)ξ 「これを壊せばいいのね」

両断しようと煌めいた刀身は、目には見えない力に弾かれた。
水晶には傷一つついておらず、依然として階下に向けてエネルギーを放つ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「なっ」

( <●><●>) 「少々油断したか」

( <●><●>) 「戦いに赴くには、私のこの身体は弱すぎる」

( <●><●>) 「替えはいくらでもあるのだから嘆く必要もないか」

ξ;゚⊿゚)ξ 「嘘……」

刀を弾き飛ばしたのは、今し方首を切り落とした男。
それに瓜二つの男たちが、当たり前のように佇んでいた。

( <●><●>) 「言ってなかったか。この身体は汎用機人だ。
   特定の身体を持たず、意識のみを共有しているのが私たちオペレーターだという事を」

125 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:32:45 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「聞いて……無かったわね」

( <●><●>) 「そうか、では今教えた。
   まだ無駄な抵抗をするか?」

いつの間にか、多数の熱源反応が周囲を埋め尽くしていた。
背後には壁面を登って来たセンチネルの大軍。
目の前には機械都市のエネルギー源を自由に操る不死身のオペレーター。

頼みの綱のデレは直下で動きを阻害されたまま。
投了ものの盤面に対しても、諦めるつもりは無い。

ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、最後まで抗ってやるわ」

( <●><●>) 「そうか、お前の死体は残す必要がない。やれ」

合図とともに、轟音をあげたセンチネルの砲。
背後に活路は無く、正面にいる三体のワカッテマスに向かった。

( <●><●>) 「思い切りはいいな」

( <●><●>) 「ここしか逃げ道は無かったはずだ」

126 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:33:20 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「追い込まれているとも知らずに」

ξ゚⊿゚)ξ 「ふっ!」

空間ごと切り裂かんばかりの横薙ぎ。
三人のワカッテマスがそれぞれ避けたせいで、
2と書き込まれた背後の鉄扉を大きく切り裂いた。

割れ目から中に飛び込むことで、センチネルの砲撃は全て無駄打ちとなったはずだ。
爆発の衝撃でさらに歪んで拡がった壁面の穴から、
一体ずつ、あるいは二体同時に入り込もうとするセンチネルを潰す。
前にいる残骸が、後続を防ぐためのバリケードとなる。

( <●><●>) 「私には無意味だがな」

ξ゚⊿゚)ξ 「だろうと思っていたわ!」

背後から聞こえた声に向けて振り払った太刀筋は、大きな容器を一つ切り裂くにとどまった。
中に満たされていた水と一緒に流れ出てきたのは、人型をした義体。
黒く長い髪を持ち、豊満な胸を持つ女性。

ξ;゚⊿゚)ξ 「あ……あぁ……」

127 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:34:01 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「これも予想できたか?」

それはよく知っている女性の身体。
スイーパー時代からの友人であるクールに間違いなかった。

( <●><●>) 「はっはは! この二階層はな、機械都市に居住している人間のうち、
   サブメモリーシステムに登録している人間の身体を保存しておく階層だ。
   つまり、足元寝転がっているのはお前の知人で間違いない」

( <●><●>) 「声も仕草も、全く一緒だ。はは! どうだ!
   特別に今の記憶をインストールしてやろうか」

ξ゚⊿゚)ξ 「やめろっ!」

足元にある友人の姿をした人形の頭部を叩き潰した。

( <●><●>) 「別に一つくらい好きにしろ、まだまだある」

ワカッテマスが両腕をひろげた途端に、部屋のライトが全て灯る。
そこには、保管庫が遥か向こうにまで並んでいた。

ξ#゚⊿゚)ξ 「ふざけるな!!」

128 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:34:33 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「ふざけてなどいない。彼女らは、皆望んでサブメモリーシステムに登録したのだ。
   感謝されこそすれ、批難されるいわれはないな」

( <●><●>) 「死んで終わりの人生を、続きからやり直せるのだ。
   それほど幸福なことがあろうか」

ξ#゚⊿゚)ξ 「違う!! 同じ記憶を持っていたとしても、魂は宿らない」

( <●><●>) 「問答をするつもりは無い」

( <●><●>) 「ここがお前の墓場だ」

指を弾いたワカッテマス。
その音が空間に響き渡り、一番近くの保管庫が開かれた。

( <●><●>) 「どうやらお前には、こっちの方がつらいらしいな」

それはクールの身体を持つ半人半機の抜け殻。
彼女は一矢身に纏わぬ姿で、羞恥心を見せることなく真っ直ぐに歩いてくる。

( <●><●>) 「命令だ。そのメカニック、ツンを破壊しろ」

129 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:35:05 ID:whrL/yB20

川 ゚ -゚) 「ここは……」

( <●><●>) 「問うことは許されない。目の前の違反者を殺せ」

川 ゚ -゚) 「……はい。了解しました」

ワカッテマスから剣を受け取ったクール。
その困惑も、動揺も、私を見る目すら全く同じ彼女。
今はもう死んでしまったクールそのものであった。

記憶を貼りつけられたクールは、躊躇うことなく切りかかって来る。
その刃を受け止め、いなし距離をとろうと跳び下がった。

川 ゚ -゚) 「どうして規則を破ったんだ、ツン」

ξ;゚⊿゚)ξ 「私は……ッ!」

川 ゚ -゚) 「ツンを殺さなければならないなんて……。だがこれも仕事だ」

ξ;゚⊿゚)ξ 「お願いクール。やめて!」

川 ゚ -゚) 「あれほど言っただろう。サブメモリーシステムに登録しておけと。
   そうすれば、今死んでも規則に違反する前の状態ですぐに帰ってこれるのに」

131 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:36:05 ID:whrL/yB20

ξ ⊿ )ξ 「やめて……やめてやめてやめてえええ!」

その姿でものを言わないで!

その姿で私を見ないで!

その姿で……お願いだから攻撃してこないで……。

( <●><●>) 「これでごみ掃除は終わりだ」

心は、いともたやすく凍り付いた。
戦いの最中であるのに、無意識のうちに私の手から離れた剣。
膝は堅い床に崩れ落ち、両腕は抗う意思を失ってただ自らの身体を抱きしめる。

目を瞑って俯いていると、すぐに首筋に冷たいものが触れた。

( <●><●>) 「殺せ」

川 ゚ -゚) 「……はい」

泣いても喚いても、ここで果てるのはもはや変わらない事実。
クールの姿に動揺し、戦う事を躊躇った時点で勝敗は決していた。
私は、自分自身の愚かさに殺されるのだ。

132 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:38:05 ID:whrL/yB20

刃の振るわれる音がした。
この身を分断する音は、思っていた以上に軽く響いた。


「何諦めてるの、一緒に青空を見に行くんでしょ」


声が聞こえた。機械人形でありながら、人間らしい少女の声が。
失われてしまった意志を再燃させようと。
自己防衛の本能が見せる幻にしては、あまりにもリアルに。

あまりにも近くに。

閉じていた瞳を開くと、ぼんやりと彼女の姿が見えた気がした。
幻想と疑い瞬きをしてもなお、その存在は確かに目の前に。

ζ(゚ー゚*ζ 「まったく、私よりも年上なんだからしっかりしてよね」

既に全身に纏わりついていた死の気配はない。
闇を払う光のように、彼女が心に希望の焔を灯してくれた。

133 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:38:39 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「そうね。ごめん」

ζ(゚ー゚*ζ 「許してあげる」

前を見据えて、立ち上がる。
満身創痍の肉体はあちこちが悲鳴を上げ、スーツに残るエネルギー残量は極僅か。
隣に立つ彼女も、相当に消耗していることは一目でわかった。

( <●><●>) 「貴様……どうやって……!」

ζ(゚ー゚*ζ 「仕組みさえわかれば大したことないわ。
   ただ大容量のエネルギーを放出するだけ装置なんてね」

( <●><●>) 「っちぃ! 殺せ!」

相手は機械都市の保有するエネルギーを自由に操ることができる管理者。
その身体はいくらでも替えのきく空っぽの人形。
戦闘能力が皆無であるがゆえに、破壊は容易くとも殲滅は不可能。

ζ(゚ー゚*ζ 「絶望的ね」

ξ゚⊿゚)ξ 「でも」

134 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:39:09 ID:whrL/yB20

クール以外のスイーパーとメカニックも保管庫から、それぞれの武器を手に飛びかかって来た。
それらを振り回した刃で一蹴し、周囲に死骸の山を築く。

ζ(゚ー゚*ζ 「でも、まだ終われないよね」

ξ゚⊿゚)ξ 「ええ、ここを出るまでは!」

( <●><●>) 「役立たずが……!」

両腕を失ったデレは、脚を振り回して私の二倍の敵を破壊した。
残り少ないエネルギーは射出するよりも、
武器に流し込んで強化する方がずっと効率がいい。

強力なエネルギーに耐えることのできる構造躯体を持つ彼女だからこそできる技ではあるが。
そのデメリットも、彼女は当然知っている。
人工皮膚が弾ける青白い光で少しずつ融解していく。

ξ゚⊿゚)ξ 「抜けるわよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん!」

一直線に、道を文字通り切り開いた。
壁のように重なる他の人間を斬り飛ばして、侵入してきた壁面の裂け目まで。

135 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:39:34 ID:whrL/yB20

川 ゚ -゚) 「止まれっ! これ以上罪を重ねるな!」

ξ゚⊿゚)ξ 「どきなさい、偽物」

クールの突きは鋭い。
前進する私の額を一直線に貫こうと剣先を、深く身体を沈めて避けた。

川;゚ -゚) 「なっ!?」

地を這うような姿勢で、さらにもう一歩加速した。
センチネルの左腕でその喉元を掴み、勢いに任せて地面に叩き付ける。
激しくバウンドしたクールは、背中に受けた衝撃で呼吸困難に陥っていた。

川 - ) 「かはっ……」

そのまま首を締め上げる。
機械によるサポートを受けて身体であっても、脳はほとんど人間のもの。
数秒間動脈を握るだけで、容易く意識を手放した。

ζ(゚ー゚*ζ 「ほんと、甘いわね」

ξ゚⊿゚)ξ 「これでいいのよ」

136 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:39:58 ID:whrL/yB20

(#<●><●>) 「糞糞糞!! 誰か早く止めろ!」

背後で喚いている機械都市の最高責任者のうちの一人。
あまりにも惨めなその姿を目に収めておくのも吝かではないが、
今はそれよりも重要な目的がある。

裂け目は、入って来た時よりもずっと拡がっていた。
センチネルが隊列を組み、進路を塞ぐ。

ξ゚⊿゚)ξ 「今更、止められるわけないでしょ!」

殴り飛ばした一体が、他の機体を巻き込んで倒れる。

ζ(゚ー゚*ζ 「もう少し優雅にしたら?」

転んだ機体の上に着地したデレは、一瞬で三体の核を刺し貫いた。
頭部の赤い光が失われ、起動停止を確認する。

ξ゚⊿゚)ξ 「いいの、これが私だから」

ζ(゚ー゚*ζ 「ふふ、ツンと一緒でよかったわ」

ξ゚⊿゚)ξ 「何よいきなり。どういうつもり?」

137 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:40:47 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚*ζ 「だって、これから先も退屈しないでしょ。
   私たちはどうなってるかわからない地上に向かうんだから」

(#<●><●>) 「行かせないと言っている! この機械都市から抜け出すことは許されていない!」






ξ#゚⊿゚)ξ 「うるさい!」 ζ(゚ー゚#ζ 





.

138 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:41:21 ID:whrL/yB20

叫ぶと同時に、センチネルの機体を薙ぎ払った。
破壊した壁から外に出て、階段を駆け上る。
最上階は四角い部屋のようになっていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「見えた!」

ζ(゚ー゚*ζ 「ここが……地上への出口」

三方を壁に囲まれ、残り一方にある両開きの鉄扉に描かれた白い数字は1。
センチネルですら悠々とくぐれるほどの大きさの扉は、閉ざされたまま。
取っ手は無く、付近には会場の為の電子端末もない。

扉というよりは、外界との繋がりを断絶させるような堅固な城壁を思わせる。

( <●><●>) 「はっ……! その扉は開かない! 開く方法は無い!」

ζ(゚ー゚*ζ 「だったら壊すまでよ」

デレの放った蹴りは、轟音と衝撃を生み出す。
大気を激しく揺るがした一撃は、扉の表面を傷つけるにとどまった。

ξ゚⊿゚)ξ 「堅すぎる……!」

139 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:42:14 ID:whrL/yB20

( <●><●>) 「当然だ。機械都市で最高硬度、最高重量を誇る合金なのだからな。
   今の私たちの技術では加工することすらもままならない金属だ」

ζ(゚ー゚*ζ 「……それがどうしたの。私たちを止める理由にはならないわ」

( <●><●>) 「いや、お前たちはここで無様に死ぬことになる」

ξ゚⊿゚)ξ 「私たちに手も足も出ないあなたが、どうするつもり?」

( <●><●>) 「これだよ」

階下からゆっくりと上昇してきたのは、センチネルの三倍はあろうかという巨体。
それを支えるのは四脚の足。空間が狭く感じるほどのプレッシャーを放つ。
重武装に全身を固め、漆黒の装甲は艶やかに光る。

ξ゚⊿゚)ξ 「なっ!?」

ζ(゚ー゚*ζ 「大きければ強いわけ?」

( <●><●>) 「そうだ。これこそが機械都市の守護神。センチネルの上位機体。
   ガーディアンだ」

140 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:42:47 ID:whrL/yB20

咄嗟にスキャン機能を起動する。
確認できるだけでも、機体内部に動力供給体が七つ。
頭部と胸部、そして腹部に大きな水晶が、
四脚の太い脚にそれぞれ小さいものが一つずつあった。

背部から伸びる太いパイプは、機械都市に繋がれている。
今もなお、加速度的に保有するエネルギー量は増加していく。

( <●><●>) 「ころ……せ……?」

勢いよく殺戮の命令を下そうとしたワカッテマスの首は、
胴体と別れを告げていた。

ζ(゚ー゚*ζ 「くどい」

ξ゚⊿゚)ξ 「手が早いわね」

ζ(゚ー゚*ζ 「足だけどね。これはいいとして、向こうは厄介ね」

正面に着地したガーディアンと呼ばれた機体。
その重量に、金属の床が音を立てて軋んだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド」

141 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:43:44 ID:whrL/yB20

動きを見せないうちにその頭部を狙って突き出した刃。
目に留まらぬ速度で打ち出された何かに、剣が弾かれた。

ξ゚⊿゚)ξ 「えっ!?」

ζ(゚ー゚;ζ 「危ないっ!」

突き出された機械の指は、鈍重な外見からは予想もできない程素早い。
前傾姿勢で飛び込んでいた私は、デレに弾き飛ばされることでしか回避できなかった。

ξ;゚⊿゚)ξ 「っ! デレ!」

私を突き飛ばしたデレは、当然その場に残ることになる。
彼女を掴んだガーディアンはその華奢な身体を握りつぶそうと締め付ける。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ブレイド!」

弾かれて機能不全に陥っていた機械武器を再起動する。
再び大剣の形状をとり、その刀身に私から供給したエネルギーを纏う。

ζ(゚ー *ζ 「ああっ……!」

142 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:44:06 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「今助ける!」

自分の身体よりも大きな腕に振り下ろした大剣。
その機体をを引き千切るほど力を込めた一撃は、表面に触れる前に弾かれた。

ξ゚⊿゚)ξ 「えっ!?」

「馬鹿め! ガーディアンの装甲はコスト度外視のプラズマ装甲だ!」

憎たらしいワカッテマスの声が期待の内部から響く。
一層強く握られた拳の中で、デレが悲鳴を上げた。

ζ( ー *ζ 「う……ぐぐぁぁ……」

「機械人形を潰したら、どうなるのだろうな。
 まさか血液が飛び散ったりはしまい」

ξ;゚⊿゚)ξ 「デレっ……!」

降り注ぐ銃弾と光線を避けながら、何度も何度も、腕を狙って剣を振るう。
必死になって叩き付けた刃は、見えない壁に阻まれて一ミリたりとも届かない。

143 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:44:40 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「くそっ……!」

ζ( ー *ζ 「かん……せつ……に!」

ξ゚⊿゚)ξ 「っ!」

手首の関節に剣先を突き出す。
阻む抵抗は腕よりもはるかに弱く、二度目の斬撃が関節部分に突き刺さった。
そのまま全体重を込めて大剣を押し込む。

光が弾けて握力が弱まった。
その隙に逃げ出したデレは、ガーディアンから飛び退いて距離をとる。

「っち……小細工を」

ξ゚⊿゚)ξ 「ごめん……手間取った。大丈夫?」

ζ(゚ー゚*ζ 「うん、まだなんとか動ける」

「だが所詮小細工は小細工。お前達にはこのガーディアンを破壊することはできない」

ζ(゚ー゚*ζ 「そんなわけ、無いでしょ」

144 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:45:20 ID:whrL/yB20

叫び返すデレの声には力がない。
損傷は私が思っている以上に大きいのだろう。

「ガーディアンはこの機械都市が存続する限り、無限に動き続けることができる!
 お前たち程度が勝とうなどと片腹痛い!」

ζ(゚ー゚*ζ 「まずは後ろのパイプ。あれが一番面倒だから」

ξ゚⊿゚)ξ 「その次は頭。装甲が一番薄いわね」

ζ(゚ー゚*ζ 「なんだ、解ってるじゃない」

ξ゚⊿゚)ξ 「当然でしょ、行くわよ!」

同時に跳び込んだ。
巨体を前にして、デレは左からその脚力でもって一瞬で背後に回った。
彼女の動きをサポートするために、私は正面から剣を叩き付けた。

その剣先は掴まれ、ピクリとも動かない。

ξ゚⊿゚)ξ 「まだ……! コード:デブリ!!」

掴まれた剣は細かい破片へと散らばり、その姿を失う。

145 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:45:49 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ライフル!」

再起動にかかる時間は数秒。
こちらに伸ばされた腕を掻い潜り、ゼロ距離に飛び込んだ。
頭部の赤い光に向けて、引き金を引く。

「なっ……!」

ξ゚ー゚)ξ 「っ……! どうだ!」

白煙の中、大きくひび割れた頭部。
その隙間から動力供給源となっている水晶が見えた。
至近距離での攻撃で、こちらの損害も小さくはなかったが十分な成果だ。
爆風を抑え込むように向けたセンチネルの左腕は、跡形も無い。

「だが……!」

巨体の後ろで大きな爆発音。
吹き飛ばされていたのは、デレの小さな身体。

ξ;゚⊿゚)ξ 「デレっ!?」

146 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:46:24 ID:whrL/yB20

小さな身体は壁に叩き付けられて動かない。
正面の攻撃を囮と断定して頭部の破壊を許したのは、背後に集中するためか。
私よりも、あの小さな機械人形の少女を重く見たという事。

その身体を抱き上げるために近寄るには、ガーディアンが邪魔だ。

ξ#゚⊿゚)ξ 「退けえぇ!!」

「はっ! あの人形さえ壊してしまえば、お前など大した敵ではない!」

怒りで我を見失っていたわけではない。それでも、普段よりも確実に鈍っていた判断力。
羽虫を掃うかのように振るわれた腕が避けられない。

ξ゚⊿゚)ξ 「ぐっ……!」

デレが遠のく。
扉に叩き付けられて、失いかけた意識を引き留める。
こちらに背を見せているガーディアンは、気絶しているデレの身体に拳を振り下ろした。

ξ;-⊿-)ξ 「っ……!」

思わず目を逸らす。
何度も何度も、無慈悲な金属音が響く。
不愉快な笑い声と共に。

147 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:47:02 ID:whrL/yB20

「はははははは!……は?」

間抜けな声に引っ張られ、恐る恐るデレの姿を探す。
大きくへこんだ金属の床に、少女の残骸はない。

呆気にとられて、辺りを見回してすぐに気づいた。
センチネルの背後のパイプ、その接続部にデレはいた。

「いつの間に……! もうエネルギーも尽きたはずなのに!!」

ζ(゚ー *ζ 「そうね、もう本当に限界。でも……」

ワカッテマスも同時に気付いたらしく、その背に向けて両腕を伸ばした。
だが、もはや遅い。
デレはパイプを力ずくで引き千切った。

「糞があああ!!」

ζ(^ー^*ζ 「あなたの言う通り、私自身にはもうエネルギーは無いわ。
   でも、ここにあるじゃない」

「しまっ……!」

148 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:48:55 ID:whrL/yB20

都市からガーディアンに供給されている無尽蔵のエネルギー。
それをデレは吸収し始めた。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ!」

ζ( ー *ζ 「ああああああああああああ!!」

無茶であるのは、彼女の叫びから一目瞭然であった。
デレの小さな体の中には、エネルギーを蓄積するためのバッテリーはある。
充電能力も、発電能力も、機械都市のそれと比べると規格外の性能を持つ。

だとしても、流れ出るエネルギーそのものから直接供給することは不可能だ。

無理にエネルギーを得ようとしているせいで、
身体がばらばらに分解されるような痛みの信号が、彼女の全身を襲っているはず。

「っち、供給を止めるしかないか。だが、今ある残量でも十分だ」

折れた水道管から溢れ出る水のように流れ出て来ていたエネルギーは、
大元であるバルブを閉められて止められた。

ζ(゚ー *ζ 「あ……あはっ……はっ……もう少し……欲しかったわね」

「忌々しい機械人形が……!」

149 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:49:22 ID:whrL/yB20

「っち、供給を止めるしかないか。だが、今ある残量でも十分だ」

折れた水道管から溢れ出る水のように流れ出て来ていたエネルギーは、
大元であるバルブを閉められて止められた。

ζ(゚ー *ζ 「あ……あはっ……はっ……もう少し……欲しかったわね」

「忌々しい機械人形が……!」

ζ(゚ー゚*ζ 「ツン……まだ戦える?」

ξ゚⊿゚)ξ 「もちろんよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「倒すわよ、このデカブツ」

ぼろぼろ身体に鞭を打って立ち上がる。
限界を超えてなお戦う少女の横に並ぶために。
何処までも続く青空を見に行くために。

デレの笑顔を見るために。

ξ゚⊿゚)ξ 「行くわよ!」

ζ(゚ー゚*ζ 「ええ!」

150 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:49:45 ID:whrL/yB20

今度は私から巨体に向かって駆けた。
その頭部のむき出しになった動力部を狙って、機械武器を起動する。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ランス」

貫通力に特化した武器。
多少前後左右に逃げようとも、確実にその頭部を貫くために。
刺突を受け止めるかのように、両の腕が頭の前に掲げられた。

ξ゚ー゚)ξ 「ふふっ……」

「壊れろおおおおおお」

ガーディアンの正面装備、両肩と腰のレーザー砲が一斉に火を噴いた。
それらは束になり、大気を焦がして私の軌道を狙う。

「ちいっ!!」

デレの電磁フィールドが瞬間的に展開された。
光条は、幾筋にも分散されて消えていく。

「だが! この装甲は貫けまい!」

151 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:50:21 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「残念、いくら性能が良くても操縦者が悪ければ救われないわね」

狙いは端から両腕の関節。頭部の前で交差された手首の関節に、一撃ずつおみまいする。
力なくだらりと開かれた指先、その間隙をぬって差し込まれた一筋の光。
後方、開かずの扉の前で待機していたデレの狙撃は、一発で水晶を穿った。

「き、き、きき……貴様らああああああああああ!」

溜め込んだエネルギーが一気の放出され、大爆発を起こす。
がむしゃらに振り回される両腕を掻い潜り、脚部の関節にランスを突き刺す。

「くそっ! くそおおおお!」

四脚全ての動きを封じたところで、足元に向けて鉄をも溶かすレーザーが放射された。
闇雲に床を削る攻撃を避けてデレの元に戻る。
再び火を噴いた重兵装をデレが全て捌き、彼女と共に扉を駆けあがった。

ζ(゚ー゚*ζ 「いくわよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「準備は出来てるわ」

上空から戦闘機械を見下ろす。
鈍重にして巨大なガーディアンの対空火器が、全てこちらを狙っている。
その一つ一つの威力は絶大だが、デレの電磁フィールドを貫通するほどではない。

152 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:51:17 ID:whrL/yB20

ならば遠距離から削り倒すのが正解だが、こちらもまたそこまでの火力を持っていない。
狙いは一つ。可動部の破壊による行動不能化。
それを為すための条件は整えた。

無限供給パイプの切断で、プラズマ装甲は無効化した。
頭部の水晶は破壊し、脚部の関節はもはや自由には動かせない。

狙いは装甲に接続された銃火器の接続部。

両肩にそれぞれ四基の砲門。
腰部に二基の軽機銃。腕部に展開可能なプラズマブレード装備。
背部にミサイル発射装備十二門。
脚部にレーザーポインター各二個。

全てを破壊し終われば、私たちの勝ちだ。

各砲門に光が収束していく。
空中戦闘が出来ないガーディアンだけあって、対空装備は充実している。
一斉砲撃がどれだけの密度になるのかは、あまり考えたくはない。
それでも、デレと一緒ならなんでもできる気がした。


ζ(゚ー゚*ζ 「……任せたわよ」


.

153 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:51:44 ID:whrL/yB20

その言葉の真意を問う前に、ガーディアンから視界を埋め尽くすほどの砲撃が放たれた。
一直線に迫るレーザーその直後に迫るミサイル弾頭、逃げ道を塞ぐようにばら撒かれた小銃の弾丸。
その全てを、デレの電磁フィールドが防ぐ。

爆炎の中を突き抜けた。

ξ#゚⊿゚)ξ 「はあああああっ!!」

右の肩から一直線に叩き付けた大刀。
装甲を食い破り、腕を切り離す。
そのまま腰部の軽機銃と一脚を分断した。

弾ける機械片。ハインから奪った機械武器は、エネルギーを使いつくして通常の直方体へと戻った。
もはや私のスーツにも、自分の運動能力を底上げするだけの最低限のエネルギーしか残っていない。
これ以上、機械武器の運用はできない。

「貴様ああああああああああ」

ξ゚⊿゚)ξ 「これで……終わりッ!」

154 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:53:39 ID:whrL/yB20

脚を失って大きく傾いたガーディアン。
その内部にいるであろうワカッテマスの言葉。
その意味を私は理解できなかった。



「は……ははは……相打ちか」




ξ゚⊿゚)ξ 「……ッ!?」

その巨大さゆえに気づくのが遅れていた。
デレの受け持っていた右半身の装備が、一つも破壊されていないという事に。
焦って離れようとした自分を何とか押し留めた。

自分の近くにある装備はすべて破壊したのだ。
むしろ張り付いてる方が安全。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレっ?」

少女の姿は何処にもない。その声も、反応も、完全に消えていた。

155 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:54:24 ID:whrL/yB20

少女の姿は何処にもない。その声も、反応も、完全に消えていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「嘘でしょ……」

「愚かなメカニックよ。あの機械人形は、自身を護るフィールドを張らなかった。
 それゆえにガーディアンの火力の前に撃墜された」

ξ゚⊿゚)ξ 「そんな……なんで……」

「もはや貴様を滅するのは為されたも同然。聞こえるか、絶望の足音が!」

機械の足音。
一機や二機どころではない、空間を揺るがすほどの数。

「ひとおもいに殺してやってもいいが、それでは私の気が収まらない。
 センチネルで全身をバラバラに引き裂いてやろうか。
 それとも、あのスイーパーに仕事をさせてやろうか」

ξ ⊿ )ξ 「デレ……」

156 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:54:47 ID:whrL/yB20

こちらに向き直ったガーディアンの砲門が頭と心臓を狙う。
もう逃げる気力は残っていなかった。
私一人の力では残りの兵器全てを破壊するのは不可能。

詰み。デッドエンド。行き止まり。

それらを打破する力も、気概も失われた。
これならまだ、デレが生き残っていた方が良かった。
むざむざ殺されるだけの私を助けた彼女は、最期に何を考えていたのか。

もはや問う機会は無い。

センチネルの軍勢が、階下から現れた。
勝利を声高々に叫ぶかのように。鉄の床を荒々しく踏み馴らす。

「はーっはっはっは!! 散々手こずらせてくれたが、これで本当に終わりだ!。
 センチネルよ! その娘を蹂躙せよ!」

157 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:55:18 ID:whrL/yB20








「なーにぼさっとしてるの?」






.

158 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:55:51 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「え……?」

爆音と共に、規則正しく並んだセンチネルは半ばから吹き飛んだ。
ただの一撃で、目測でもニ十機以上が残骸となる。
残った機体も何が起きたのか理解できずに、エラーを吐き出して動きを止めた。

「な、なにが起きている……!!」

爆発の中心、一機だけ無事なセンチネルのカラーリングが白から金に変わっていく。
美しく、煌びやかなその姿は、敵機であれど息を呑むほど。

「ツン! 最後のひと踏ん張り!」

少女の面影などどこにもなかったが、声を聞いた時には体が動いていた。
残った僅かなエネルギーを振り絞り、鉄機を変形させる。

ξ゚⊿゚)ξ 「コード:ジョーカー!!」

鉄機は収束され、手に収まるほどの小さなナイフとなる。
それを肩のレーザー砲に向けて投げつけた。

「させるかああああ!!」

159 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:56:58 ID:whrL/yB20

肩のレーザー砲が、溜め込んだエネルギーで暴発を起こす。
ジョーカーは機械武器の最終コード。
自身の持つエネルギーを機械に侵入させ、武器諸共に破壊する。

ξ゚⊿゚)ξ 「そうでしょ、ハイン」

ζ(゚ー゚#ζ 「これで、終わりっだあああああああ」

金色のセンチネルは近接用のブレードを振るい、半身の装備と二脚を叩き落とした。
崩れ落ちたガーディアンの駆動音が、ついに消失した。

ξ゚⊿゚)ξ 「デレ……それは……」

ζ(゚ー゚*ζ 「私の身体を中に仕舞って、乗っ取ってるだけ。
   ほんと間抜けよね、これだけの装備を持つ武器をのこのこと昇らせて来るんだから」

ξ;⊿;)ξ 「デレぇ……!!」

飛びついた機体は、ごつごつして硬い。
少女とは全然異なる触り心地であっても、離れる気が起きなかった。

ζ(゚ー゚*ζ 「もう、どっちが子供なんだかわからないわ」

160 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:57:35 ID:whrL/yB20

「なぜだ……! なぜ、なぜなぜなぜだああああ!!」

ζ(゚ー゚*ζ 「私たちの勝ちよ」

それ以上、言葉を交わすことは無かった。
ぶつぶつと聞き取れない言葉を話し続けるワカッテマスを無視し、デレの肩に飛び乗る。

戦いの最中の流れ弾で大きな傷も幾つかついていたが、
依然として破壊できるような雰囲気は無い。

ζ(゚ー゚*ζ 「後はこれだけ」

ξ゚⊿゚)ξ 「でも、どうやって開けるの?」

ζ(゚ー゚*ζ 「センチネルのシステムから機械都市全体にアクセスしたんだけど、
   機械都市側も知らないみたい」

ξ゚⊿゚)ξ 「あんまりゆっくりしている暇もないわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「うーん……。私の記録にもない何者かがこの扉を作った。扉を作ったのよ。
  人類をこの機械都市に閉じ込めるだけなら、扉なんて必要なかった」

161 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:58:02 ID:whrL/yB20

デレはセンチネルの身体で扉の表面をなぞる。
隠された端末を探しているのだろう。
センサー系を起動し、扉全体と付近御スキャンを開始する。

ξ゚⊿゚)ξ 「何もないわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「私も見つけられなかった」


「ははは……だから言っただろう……その扉は開かないと」


ξ゚⊿゚)ξ 「まだっ……!」

倒れた時のまま動いていないガーディアンは、胸部の装甲を取り外し、
内部にある最も巨大な水晶を露出していた。。
本来は青い輝きを放っているはずの動力源は、燃えるように赤い。

ζ(゚ー゚*ζ 「なにを……」

「なに、オペレーターである私には、この機械都市のルールを徹底する義務がある。
 何者も外に出さないというのが、そのうちの一つだ」

162 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:58:36 ID:whrL/yB20

ξ゚⊿゚)ξ 「ふん、だったらどうするってのよ」


「こうするんだよおおおおお!!」


赤く輝く水晶は、遠目からでもわかるほど強く脈打った。
目に見えるほどの濃密なエネルギーがガーディアンを中心に溢れ出す。

ζ(゚ー゚;ζ 「まさか……!!」

「死に際を見れないのは残念だ」

ξ;゚⊿゚)ξ 「っ! 自爆するつもり!?」

膨れ上がっていくエネルギーは、空間を満たしていく。
逃げ場などないことは明らかであった。

ζ(゚ー゚;ζ 「ガーディアンにはもうエネルギーが残ってなかったはずなのに!」

「先程君が言ったばかりだろう。そこにあるセンチネルの残骸。
 その動力源を全て繋げただけだ」

163 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 22:59:25 ID:whrL/yB20

ζ(゚ー゚;ζ 「ツン!」

いきなり力強く引っ張られた。
胸部装甲が開き、センチネルの身体の中に閉じ込められる。

ξ;゚⊿゚)ξ 「何をするつもり! 出して! ねぇお願い!」

内側から叩く。
その音は外には届いていないだろうが、デレから通信が届いた。

ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫、ツンは私が護るから」

腕も足もない姿で、それでも凛とデレは立つ。


「全て消えろおおおお!!! ははははははっははは!!!」


膨大な光と熱の放出と共に通信は切れ、激しい衝撃で気を失った。

164 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:02:49 ID:whrL/yB20







「っ……!」

がんがんと鳴り響く頭痛。
記憶がはっきりとせず頭を抑えて蹲っていた。

立ち込める熱気と、鉄が焦げた臭い。
両足を自由に伸ばせない狭い空間は所々が溶解し、隙間から無機質な光が降り注いでいた

立ち上がることすらもままならない場所で、
頭痛が収まるのをじっと待つ。
直前の記憶が思い出せずない。

自己診断をした結果、自身の置かれている状況だけを把握した。

165 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:03:40 ID:whrL/yB20

左腕の肘から先、消失。

視覚サポート、不良。

右脚の駆動関節、一部破損。

運動能力サポート、不可。

スーツエネルギー残量、無し。

膨大な熱量によるオーバーヒート寸前。

読めばきりがないほどの状態。
ようやく痛みが収まって来た頭で、この狭い空間を出ることを決めた。
目の前の溶けかけた装甲板を蹴り飛ばす。

人間の力でも易々と壊れるほど痛んだ鉄くずは、大きな音を立てて転がった。
外の世界に拡がっていたのは、想像以上の光景。

ξメ⊿゚)ξ 「っつつ……」

溶けて変形した壁と、地面。爆心地らしき場所にあいた巨大な穴は、爆発の凄まじさを窺わせた。
あらゆる残骸が粉々になり、壁面にうず高く積み上がっている。
付近の材質とは異なる背後の壁も、人一人が通れるほどの隙間を開けるほどに歪んでいた。

166 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:04:42 ID:whrL/yB20

ξメ⊿゚)ξ 「一体……何が……」

歩くだけでも焼けそうになるほど熱された床の上に立ち、
部屋全体にスキャンをかけた。
真っ赤に染まる一面の中で、ごくわずかに光った生体反応。
見逃してしまいそうなほど小さなそれは、歪んだ壁の前の残骸から発せられていた。

ξメ⊿゚)ξ 「誰かいるの……?」

右手が焼け付くのも構わずに、鉄くずの山を掘り起こす
大切な何かがそこにある気がして、必死になって腕を動かす。
右腕一本しかないせいで、手間がかかるのがもどかしい。

残骸にまみれていたのは、人型の機械。
抱き起した華奢な骨格の頭蓋に残った小さな光が、明滅した。
酷くノイズの混じった音が、私の名前を呼んだ。



「ツ……ん……?」

167 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:05:13 ID:whrL/yB20

その瞬間に、記憶の奔流に飲み込まれた。
密度の濃い流れに意識を失わない様に、歯をくいしばって耐える。


巨大な機械


真っ赤な水晶


狭くて暗い部屋に閉じ込められた


外に残ったのは一人


大切な友人


大事な仲間


機械人形の少女


人間よりも、ずっと人間らしい少女

168 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:06:09 ID:whrL/yB20

全てを思い出した瞬間に、その名前を叫んだ。
途端に溢れ出て来る大粒の涙。
胸のうちの押し寄せた感情を、堪えることなどできるはずもない。

ξメ⊿;)ξ 「デレ!!!」

ζ(   *ζ 「ナき……むし……ね……」

ξメ⊿;)ξ 「デレ! デレ! デレ!」

冷たいその身体を、必死になって抱きしめる。
壊れてしまいそうなほど優しく、二度と離すまいと力強く。

ζ(   *ζ 「とびラ……ハ……?」

ξメ⊿;)ξ 「あいた……! あいたよっ……!」

修理など望むべくもない、完全な破壊。
命が残っているのすら奇跡。

彼女は、そんな状態にありながらでも、腕を伸ばして私の涙をぬぐった。
止め処なく流れ続ける涙は、少女の手の甲に受け止められる。

ζ(   *ζ 「アッタ……かい……」

169 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 23:06:50 ID:whrL/yB20

ξメ⊿;)ξ 「っ!!」

ζ(   *ζ 「そト……みたカったなぁ……」

その一言で、彼女は既に視力すら失ってしまったのだと気付いた。
デレに辛うじて残されているのは、僅かな聴力のみ。
軽くなってしまった彼女の身体を抱き上げ、扉の隙間から外に出る。

狭く苦しくなるようなトンネルの先に、光が見えた。
光に包まれるようにして、私たちはゼロ層───地上に足を踏み入れた。

ζ(   *ζ 「アお……ぞら……かな?」

ξメ⊿;)ξ 「うん! うんっ! ずっと向こうまで拡がってる!
   誰も届かないくらいに、ずーっと先に」

ζ(   *ζ 「そっカぁ……ヨかっ……タ……」

ξメ⊿;)ξ 「デレ、きれいな湖があるよ。向こうの山は、緑でいっぱい。
   鳥が飛んでる! 本物は初めて見た!」

彼女は視認出来ない。
だから伝える。言葉にして、全てを。
彼女が望んでいた、外の世界の全てを。

170 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:08:09 ID:whrL/yB20

ξメ⊿;)ξ 「デレ、魚がはねたわ。風にね、香りがあるの。とても優しいかおり。
   くもが本当に浮かんでる。しろくてふわふわで、お菓子みたい」

ζ(   *ζ 「うン……」

ξメ⊿;)ξ 「デレ、大きな羽をもつ虫が飛んできたわ。ひらひらと風に揺られて飛んでるの。
   とてもかわいくてきれい」

ζ(   *ζ 「ウん……」

ξメ⊿;)ξ 「デレ……! デレ……!」

ζ(   *ζ 「ひトり……に……しテ……ゴめんね」

ξメ⊿;)ξ 「いいえ、私たちはずっと一緒よ。これからもずっと」

弱々しい光の明滅が、だんだんと緩やかになっていく。
それは、彼女の心臓の輝き。
残された極々短い時間の中で、精一杯私は腕の中の少女に話しかけ続けた。

ζ(   *ζ 「ツン……」

ξメ⊿;)ξ 「なに?」



ζ(^ー^*ζ 「ありがとう」

171 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/23(水) 23:08:54 ID:whrL/yB20

可愛らしかった少女の造形は、爆発の衝撃と熱気で失われてしまった。
それでも、私はそこにかつての笑顔を見た。

ゆっくりと、眠る様に静かになった少女の身体を抱いて立ち上がる。

せめて、彼女の大好きだった世界に包まれて眠れるようにと、
ただただ彼女の安寧を願って。
一歩ずつ、踏みしめるように歩く。

彼女が歩きたかったはずの大地と、
彼女が感じたかったはずの風と、
彼女が触れたかった地上の全てを想って。


私は歩く。


行き先はわからない。
行き方もわからない。


それでも、歩みを止めることは無い。


私は歩く。



彼女と一緒に夢を見れる場所を探して。

172 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/23(水) 23:10:02 ID:whrL/yB20

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