僕たちだけしかいない街
1 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:51:10 ID:CNmZDZZk0
閲覧注意で

2 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:52:13 ID:CNmZDZZk0
二日目


帰るまでが遠足らしい。
要するに、俺たちはまだ修学旅行をしていた。

.

3 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:52:40 ID:CNmZDZZk0
現に、今朝起床した場所には布団が敷き詰められていた。
昨夜のままだ。違うのは、ここが教室の中という事か。

('A`)「はぁ……」

上体を起こした俺は、顔を手で覆い、前日の出来事を思い出した。

ガタン、という音で世界は少しだけ姿を変えた。
最初は乗っているバスが急なブレーキを掛けたのだと思った。
しかし、一瞬の暗転が終わり、開けた視界からは違和感を覚えた。

景色が大きく変わった、という訳では無い。
ただ、どこか空虚なものに変貌したような、そんな錯覚があった。
実際、錯覚ではなかったのだが。街は作りかけのマップだった。

4 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:54:07 ID:CNmZDZZk0
建造物や、道路は出来ていても、行き交う人物が存在していない。
有り体に言えばゴーストタウンというものになるのか。
それだけに留まらず、乗車していた運転手も教師も消えていた。

残ったのは、俺と三十名弱のクラスメイトだった。

最初はパニックにはならなかった。
あまりにも現実味が無い故に、脳の処理が追い付かなかった。

いち早く動いたのは、委員長のトソンだった。
まずは中学に向かいませんか、という提案に、俺たちはあまり抵抗もせず従った。
バスはすぐ近くまで迫っていたし、そこに行けばいつも通りの喧騒があるはずだと、
そう信じていたかったのかもしれない。もしくは、指示を仰ぐ人間に縋っていたかったのかもしれない。

5 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:54:31 ID:CNmZDZZk0
結果を言えば誰もいなかった。
特に驚くべき話でも無い。そこにあるのは小奇麗な廃墟だった。

なにが出るか分からないという理由で、グループを作って探索をしても結果は同じだった。
収穫と言えば、ブーンが掻っ攫って来た食料品ぐらいか。
確かに食わねば生きていけないのは事実ではあるが、
多分そこまで考えていなかった。小腹が空いたとか、その辺だろう。

結局俺たちは胃を満たし、校舎を宿にする事になった。

そうして到ったのが現在だった。

6 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:55:25 ID:CNmZDZZk0
川 ゚ -゚)「まあ、建前だろうな」

身支度を終えると、相も変わらず向かった図書室で、視線を本に向けるクーは言った。
ルールとして、グループとして固まらざるを得なくなっている俺たちは、
彼女が座る椅子に隣接した長方形の机を囲み、腰を下ろしていた。

( ^ω^)「建前ってなんの事だお?」

川 ゚ -゚)「なにが出るか分からないなんて理由でここで固まっているのは。要は相互監視というやつだろう」

ξ゚⊿゚)ξ「……怖いのは、人間の方って事?」

普段より、少し縮こまった声でツンが言った。

7 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:56:00 ID:CNmZDZZk0
('A`)「そりゃな。秩序の名残が残っている内に付け焼刃の秩序を作って起きたかったんだろ」

( ^ω^)「でもそんなあくどい奴ってここにいるのかお?」

('A`)「知らねぇよ。このクラスが仮に和気あいあいとしたものだとしても、今の状態が続けばなにが起こるかわかんねーだろ」

( ^ω^)「そんなもんかお。僕は結構楽しんでるけど」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたは能天気ね。いやただの馬鹿ね」

( ;^ω^)「ひっでぇお。普通こんなシチュエーションは味わえないのに」

ξ゚⊿゚)ξ「普通味わいたくもないわよ」

ツンの声色は言葉とは裏腹に柔らかいものだった。
日常の延長にいるブーンは確かに場の空気を穏やかなものにしていた。
恩恵を受け、俺も少し緊張の糸が解けた。

8 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:56:46 ID:CNmZDZZk0
川 ゚ -゚)「まあ確かに味わえないな。スマートフォンも時計は進むが日付は変わらないとは驚いた」

クーに限った事では無いから、機械の故障という理由は考えにくかった。
明らかに俺たちだけが世界から断絶されていた。サイトの更新も、
俺たちの視界が暗転したと思われる時刻で止まり、他者への連絡も繋がらなかった。

進んでいるのは肉体の時間ぐらいだった。
昨日負ったちょっとした擦り傷が残っていた。
治癒は進んでいるが、綺麗さっぱり無くなってはいない。

9 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:57:13 ID:CNmZDZZk0
( ^ω^)「でも実際どうするんだお?」

川 ゚ -゚)「原理なんて掴みようが無いからな。
     動機を持ってそうな奴を探すしか無いんじゃないか? まあこの空間にいればの話だがな」

( ^ω^)「動機?」

川 ゚ -゚)「この状況を望んでいるような奴を探す」

ξ゚⊿゚)ξ「楽しそうにしてるそこの奴とか?」

川 ゚ -゚)「そうだな。最悪の場合殺す」

( ;^ω^)「物騒な事言うなお!」

川 ゚ -゚)「実際解除方法も掴みようが無いからな。術者が死ねば或いはという希望に縋ってみても良い」

( ;^ω^)「そんなんするなら浦島太郎にでもなるお!」

ξ゚⊿゚)ξ「竜宮城から帰れる日が来るといいわね」

( ;^ω^)「えーっと……じゃあアダムとイブにでもなるお!」

('A`)「馬鹿なのか大物なのかわかんねーわ。つーか別に殺さないでも説得すりゃいいだろ」

川 ゚ -゚)「拷問でもするか」

('A`)「それこそ最悪の場合だな」

10 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:57:45 ID:CNmZDZZk0
五日目


膠着状態はこの日まで続いていた。

.

11 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:58:34 ID:CNmZDZZk0
最初はブーンのように非日常を楽しんでいる様子の人間もいたが、
徐々に活気は無くなり、薄暗い膜がクラスメイトたちを覆っていた。

探索の成果はあまり無かった。
吉報は飢え死は当分先の話というぐらいか。
日付が進まない副産物で食べ物は腐らないのは収穫ではあった。
結果として、俺たちの首は真綿で絞められていたのかもしれないが。

いや、俺たちと一括りには出来なかった。

12 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:59:03 ID:CNmZDZZk0
目覚めの合図は金切り声だった。
隣接している教室から聞こえた叫びに耳を劈かれ、
意識が少し明瞭になった後、女子生徒の宿泊所になっているそこに向かうと、
入り口からも教壇からも離れた隅で、長い髪を掻き毟りながら立っている貞子と、
唖然とした様子で彼女から距離を取るクラスメイトの姿があった。

今までも涙を零す人間はいたが、ここまで暴れる奴はいなかった。

川 ゚ -゚)「……おい、どうしたんだ?」

そのせいか、貞子に問うクーの佇まいは安定していなかった。
表情は大きく崩さないものの、声色や所作に綻びがあった。
当然と言えば当然の話だった。普段は冷静沈着とはいえ、
日常から切り離されていく現在においては同様には行かない。

13 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 17:59:36 ID:CNmZDZZk0
川д川「……死なせてよ」

掠れた声だった。喉が潰れる程の負荷が掛かったのか、
普段からこんなものだったのかは分からない。

つまりのところ、貞子はそういう人間だった。
隅が定位置の孤立した人間。修学旅行でも大して思い出は作れない、
それどころか負の感情を抱えて帰って来るような人種の一人だ。

貞子の振り乱した髪は無造作に伸ばしただけで、
清潔感が感じられない。そこから覗かせる充血した一重瞼は、
お世辞にも可憐さという概念に合致しているものでは無かった。

容姿が良ければ性格も良いとは限らない。
ただ経験則として、悪ければ歪んで行きがちな事も否めない。

14 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:00:28 ID:CNmZDZZk0
それでも今は周りのお陰で、俺には悪い椅子は回って来なかった。
だがこいつは違う。表立って標的にされる事は無いものの、
女子の中では明らかに下層の人間として扱われている事は確かだった。

だから、非日常なんて必要としていないのだ。
高揚感など最初から無く、ただ過ぎ去ってしまえば良い。
集団行動に心を削られながら彼女は耐え忍び続けていた。

それなのに、いつまで経っても終わらない。
自宅に帰って、平穏を得る事が出来ない。

川д川「もう死なせてよ! どうせ私なんて生きてる意味が無いでしょ!」

従って、こうなるのは当然の帰結と言えば帰結だった。

( ・∀・)「じゃあ死ねよ」

とはいえ、後ろから聞こえた声には困惑を隠せなかった。
聞こえた方へ振り向くと、二重瞼を人差し指の甲でなぞっているモララーがいた。

15 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:00:55 ID:CNmZDZZk0
川д川「え?」

貞子の声は、明らかに不意を突かれたものだった。

( ・∀・)「もうさ、遅かれ早かれ誰かがこうなるのは分かってたんだよ。
      でもな、お前のやり方は気に喰わねーわ。魂胆が見え見えなんだよな」

重さを感じさせない長めの髪を手で梳きながら、
モララーは教室の中に足を踏み入れ、貞子の近くまで歩いた。
こんな状況でも飄々と輪に入っていく姿は普段と同じだった。
女子生徒も、然して拒絶反応を起こさなかった。

彼は自然なままで四角形の空間に身を置いていた。
恐らく俺には許されないような行為だった。

川д川「……ふ、ふざけないでよ! こ、魂胆ってなに!?
     余裕とか、あるわけ、無いでしょ! なんで!? ねぇなんで!?」 

細い目を見開いた貞子が発する言葉は一本の線になっていなかった。
声も文脈も途切れ切れだった。確かに魂胆を持てる状態では無いと思った。

16 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:01:29 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「まあ、それはこの際置いておくけどな。
      お前周りがどう思ってるのか分かってないだろ」

川д川「分かってるわよ! 迷惑に思われる事ぐらい……でもどうしようも無いの!」

( ・∀・)「そんなん当たり前だろ。こっちまで響いて来るしよ。
      でもただうるせーからとかそれだけだとでも思ってんのか」

川д川「ど、どういう意味よ……」

( ・∀・)「もうはっきり言ってやるよ。お前に構ってる暇なんて無いんだよばーか」

(゚、゚;トソン「ちょっとモララーくん、それ以上は」

モララーは背後から近づいたトソンを伸ばした右腕で制した。

( ・∀・)「はいそれ以上ね。出汁に使って悪いが一番神経使ってるトソンがこれなんだよ。
      あっ、そうだ。お前のやりたかった事はこいつがやったら成立したかもな」

貞子は膝を抱えてうずくまり始めたが、モララーは気にも留めなかった。

17 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:02:32 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「お前さ、トソンと自分の顔を比べて見ろよ。
      雲泥の差だろ。それに天は二物を与えないとは言うが、
      お前は性格もゴミだから完敗じゃねーか。悲劇のヒロインを演じるには役者が足らないわ」

川д川「……ゴミって、なんで?」

顔を膝に押し付けたまま、貞子は幼子のように言った。

( ・∀・)「俺たちはお前のママじゃねーんだよ。
      わざわざ全員が固まってる時に駄々をこねるような奴を慰めたくなんて無いの。
      こっちだって泣き喚きたいような状況で一人だけ楽になってる奴に同情なんてしないの。
      はぁ……もう分かっただろ。死にたきゃ勝手に死ねよ。……ん?」

モララーは背後で鳴る足音に気づいた。
男子生徒は廊下で呆然と立ち尽くしていたが、一人、例外がいた。

ブーンだった。教室の中へゆっくりと歩みを進めていく彼に、
モララーは振り向き、睨みを利かせた。そして、なにかを口走ろうと、
唇を微かに動かしたその時だった。ブーンは固まっている女子生徒の中で足を止めた。
貞子が顔を上げたのもその時だった。彼女の瞳は少しの期待をはらんでいた。

18 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:03:09 ID:CNmZDZZk0
しかし、一瞬にして貞子の瞳は色を失った。
彼女の視界に映ったものは、ぎこちない笑みを作るブーンが、
微かに震えていたツンの背中を擦っている姿だった。

やがてツンは床に膝を付き、頬からは涙が伝い始めた。
彼女と一緒に座り込んだブーンは無言で寄り添い続けていた。

貞子にとってそれは理不尽な、あまりにも理不尽な光景だった。

滑稽な劇を見たモララーの失笑が零れた少し後、
貞子は重心の取り方を忘れた足で立ち上がった。

貞子の場合、絶望に呑まれて取った行動は静かな自死だった。
彼女が教室を出てからしばらく経つと、なにかが潰れる音が聞こえた。

19 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:03:52 ID:CNmZDZZk0
八日目


空気は淀んでいた。

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20 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:04:19 ID:CNmZDZZk0
貞子の死が決壊の合図だった。一人が泣き始めると、
クラスメイトたちは連鎖反応を起こし、溜め込んでいた涙を流した。

あの日は大よそ半数以上の生徒が頬に水滴を伝わせていた。
残りは俺のように表情が消え失せた奴と、モララー、そしてブーンだった。

( ^ω^)「我ながらひっでぇ奴だお」

二人しかいない待合室でぼうっとしていた俺は、声に反応して首を動かした。
椅子に座ったブーンが平らげたパンの空き袋を丸めている姿が見えた。

三日も経つとある程度は落ち着くものだった。
ようやくツンもブーンから少しだけ離れられるようになり、
今はクーの付き添いで奥の銭湯に身支度を整えに行っていた。

21 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:04:42 ID:CNmZDZZk0
('A`)「ツンと離れたら罪悪感が湧いて来たか」

( ^ω^)「別に。どうせ何回やってもツンの方に行っただろうし」

('A`)「ひっでぇ奴」

俺は精一杯に崩した声で言った。

( ^ω^)「そもそもツンと一緒にいる時の方が罪悪感があるお」

ブーンは椅子から降り、ズボンをはたいた。

('A`)「なんでだよ」

( ^ω^)「弱味に付け込んで好き放題する男となにが違うんだお?
      それに、ツンがすぐ近くにいる事を喜ばしく思ってしまうから。
      これをひっでぇ奴以外になんて呼べばいい……ってなに笑ってんだお!」

('∀`)「いや、似合わねーわ」

俺は自然と崩れた声で言った。

22 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:05:12 ID:CNmZDZZk0
('A`)「悪いと思うならお前らしく大らかに構えておけよ。
   ツンに安心を与えているのは間違い無くブーンなんだよ」

今に始まった話では無かった。
普段ツンが見せる気の強さはある種の防衛本能に近い。
人一倍神経質な彼女の内面は、周りより少し脆かった。
付き合いはここ二三年しか無い俺でも分かるのだから、
幼馴染であるブーンがその事を一番良く知っているはずだった。

しかし、彼の能天気とも言える性質が、
ツンの支えになっている事を知っているのかは怪しかった。

23 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:05:47 ID:CNmZDZZk0
素直になれないツンと、好意に疎いブーン。
そんな二人が境界線を取っ払った現在の姿からは、
複雑ながら俺やクーも喜ばしい感情を覚えていた。

だが、本当は止めなければいけないのかもしれない。
負の感情を溜めこんで来た俺の被害妄想かもしれない。
後ろ向きに捉えすぎているのかもしれない。

それでも、どうしても思ってしまったのだ。
幸せは見せびらかすものではないと。

モララーが貞子に言った事が脳裏を過った。

空気は淀んでいた。

24 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:06:09 ID:CNmZDZZk0
十日目


二人が死んだ。

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25 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:06:50 ID:CNmZDZZk0
発端は珍しくも無くなった諍いだった。
しかし行う場所と運が悪かった。少し強く押した手で、
身体は重力に負け、階段を転げ落ちた。ショボンは即死だった。

殺人者になったジョルジュは呆然としている間に取り押さえられ、
クラスメイトが集められた机が無い空き教室の中央で縛られていた。

(゚、゚トソン「……まず申し訳ありません。周りを見渡し切れていませんでした。
     ひりついた空気を察知した場所には人員を割くべきなのですが、今回はあまりにも手薄すぎました」

別に誰もトソンを責めようとは思っていなかったはずだ。
朝と夜は生徒全員を一塊にしてなんとか集団を維持し、
実際に火種が燻っていたグループにも目を利かせていた。

だが労うような余裕も無く、口を開こうとする人間はいなかった。

26 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:07:39 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「で、こいつは? どう裁くんだ?」

案の定と言うべきか、沈黙を破ったのはモララーだった。

(゚、゚;トソン「裁くって……私刑ですか?」

( ・∀・)「おー死刑ね。良いんじゃない? それで」

(゚、゚;トソン「違います! 正気ですか?」

( ・∀・)「しゃーねーだろ。警察なんていないんだから」

淡々とした足取りで近づいたモララーに、ジョルジュは言葉を失っていた。

( ・∀・)「でもさ、誰か一人に殺させるのも駄目だろ。
      みんな嫌でしょ。人殺しは。だからさ……」

モララーは躊躇無くジョルジュの腹に蹴りを入れた。
唐突な打撃を受けた彼は言葉になっていない声を零した。

27 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:08:06 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「こうやってこいつを撲殺しようぜ。みんなで。
      多分誰が殺したかなんて分かんねーだろ」

床に身を倒したジョルジュを指差し、モララーは生徒を見渡した。

( ・∀・)「なに、お前らやらなくていいの?
      後で恨むなよ。恨むぐらいなら止めるかやるかどっちかにしろよ」

モララーは再びジョルジュを蹴り始めた。
ゆっくりと、返答を待つような動作で彼は足をぶつけ続けた。

一人の男子生徒が歩き始めるまでの時間はひどく長かった。
目の前で起こっている事に、身動きが出来なくなっていた皆は、
モララーに近づいた彼を縋るような眼差しで見つめていた。

28 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:08:58 ID:CNmZDZZk0
結局、ジョルジュを甚振る奴が一人増えただけだったが。

あそこが分岐点だったのだろう。
徐々にリンチを始める人間は増えて行った。
やりきれない、ぶつけきれない鬱憤を晴らすかのように、
その輪は拡大を続けた。もう、ここは地獄に近かった。

ただ鈍いだけの音と啜り泣きが混ざり合ったものが教室に響いていた。

トソンは虚ろな瞳で立ち尽くしていた。

ブーンは必死にツンの頭を胸に押し付けていた。

俺は胃が押し潰されそうになっていたから、
生死も分からないジョルジュを踏みつけた。

29 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:09:44 ID:CNmZDZZk0
十三日目


辛うじて繋がっていた糸は切れた。

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30 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:10:05 ID:CNmZDZZk0
三日前に集団が崩壊したのならまだ良かった。
各々が散り、密やかに震えるなり、命を繋ぐなり、断ち切るなりして、
そうしてそれぞれが安息の地を目指せるのならまだ良かった。

実際に群れから飛び出して行った人間もいた。
しかし、遠くへ逃げる事は叶わなかった。
どうやら思った以上にこの世界は歪んでいたらしい。

リセットの合図である十二時を指す秒針は、
個人には影響を及ぼさなくとも、集団には適応していた。

31 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:11:10 ID:CNmZDZZk0
外から校舎の中へ引き戻された彼らは悲惨だった。
気が触れ、輪というものに自己正当化を求めたトソンは、
脱走を図った人間を痛めつけに掛かった。私刑を与える彼女の笑みは壊れていた。
同様に大義名分が出来たとばかりに、残っていた人間は憂さ晴らし用のサンドバッグを叩き続けた。

( ^ω^)「もう、駄目だと思うんだお」

ブーンがそう言ったのはこの日の朝だった。
彼は自身の肩に身を寄せるツンの寝顔を、憑き物が落ちたような顔で眺めていた。

もう駄目、に込められた意味など分かり切っていた。

物言わぬツンと最後に話をさせて欲しい、
怪しい影が近づいたら教えてくれ、ブーンの望みはそんなものだった。
だから俺は屋上の扉に背中を預けていた。止めようともしなかった。

川 ゚ -゚)「良いのか?」

隣で立っていたクーが言った。

32 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:11:38 ID:CNmZDZZk0
('A`)「遅かれ早かれだろ。それならあいつらが寄り添える内に幕引きをさせた方が良い」

川 ゚ -゚)「まあそうだな。ある意味では幸せなのかもな。
     どうせなら勝ち逃げをした方が良い。分かっているさ。
     ただ、そうだな。どうしても似合わないだろう?」

('A`)「……ほんとにな」

押し込めようとしていた引っ掛かりが強くなった。
ブーンが取った行動は正解に近いのだろうが、
そんな妥協は認めたくない自分がいた。

誰かを殺すなら脱出しなくても良いと言っていたブーンだ。
貞子の時も本当に罪悪感は無かったのか? そんな彼に、
寄りによってツンを殺すような選択をさせる事は正しいのか?

それに、ブーンに取れなくても、俺になら取れる選択はあった。
薄々分かっていた事だ。すくんでいた足を動かし、やってからでも遅くは無いと思った。

33 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:12:00 ID:CNmZDZZk0
(;'A`)「なあ! やっぱりお前がこんな事をするのはおかしいわ!」

屋上への扉を開け、誤解を招かないように開口一番で俺は叫び、
呆気にとられているブーンとの距離を一気に詰めた。

(;'A`)「死ねば幸せとかそんなん俺に言わせとけよ!
    最悪アダムとイブになるんじゃねーのか!?」

( ^ω^)「……似合わねーお」

(;'A`)「だからそう言ってんだろ!」

柄にも無い事をしたせいで俺の息は上がった。
しばらく荒い呼吸と吹き付ける風の音だけが屋上を支配していた。
時間が引き延ばされ、空気が薄くなっているような錯覚を感じた。

もはやこの沈黙は破られないとすら思い始めた、その時だった。

34 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:12:30 ID:CNmZDZZk0
川;゚ -゚)「おい!」

クーの一声が背後から聞こえた。
反射的に振り向くと、飛び出して来たクーと、
その後ろから歩みを進めていたモララーの姿が見えた。

( ・∀・)「お前らなにやってんの?」

('A`)「お前こそ、なにをしに来たんだよ」

俺は、硬直した声帯から言葉を捻り出した。

35 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:13:27 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「やかましい声が聞こえたから。危ないから戻れば? ここ逃げ場ねーぞ」

('A`)「どういう風の吹き回しだよ……」

( ・∀・)「別に。お前みたいに悲しむ奴がいるなら死なない方が良いんじゃね?」

(#'A`)「散々この状況を楽しんでおいて今更だな」

( ・∀・)「楽しい訳あるかよ。ガスを抜いてただけ」

('A`)「……お前の仕業じゃないのか?」

( ・∀・)「なにが」

('A`)「この状況を作ったのは」

( ・∀・)「んな訳ねーだろ」

('A`)「じゃあなんでそんな平然としてるんだよ……」

( ・∀・)「なっちまったもんはしょうがないからじゃね?
      生き延びようとするのってそんなおかしいか?」

(#'A`)「そんなに簡単に割り切れる訳が無いだろ!」

36 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:13:58 ID:CNmZDZZk0
( ・∀・)「まあそこはおかしいらしいな。でも俺よりおかしい奴なんて他にいるだろ。
      トソンとかやべーぞ。それこそこの状況を楽しんでるじゃねーか」

(#'A`)「ただでさえ神経を擦り減らしてたトソンにとどめを刺したお前が言えた事かよ」

( ・∀・)「神経ねぇ……そういやなんか引っ掛かるな。
      あいつクソ程神経質な癖に貞子の時もジョルジュの時も失言してただろ」

('A`)「……お前が、悪意のある拾い方をしただけだろ」

( ・∀・)「さあな。ただ結果的には俺を止めるどころかスムーズな方へ誘導していたな。
      あっ、誘導といえば、最初に校舎へ誘導して一塊にしてたのもトソンだったか」

(;'A`)「……ちょっと、待てよ」

茹だった頭が機能を停止しそうになっていた。
説得は無理そうだな、というクーの声が辛うじて聞き取れた。

37 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:14:50 ID:CNmZDZZk0
十四日目


事の終わりは突然だった。

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38 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:15:35 ID:CNmZDZZk0
腹を決めた俺の意思など嘲笑うかのように、
十二時の針は始まりではなく終わりを告げた。

外から引き戻されたヒッキーの手にはガソリンタンクが握られていた、
らしい。言伝だから実際の姿は目視していなかった。
俺が知った時には、恐らく既に彼の身は燃えカスになっていた。

俺が悪い椅子に座らなくとも、結局そこは空席にはならず、
ヒッキーが埋めていた。小柄で華奢な彼は控えめに言えば舐められていた。
あるのか無いのかも分からない趣味を安直なレッテルとして貼られ、
たまに荒っぽい輪に入ったかと思えば、一人だけ無抵抗で痛めつけられていた。

39 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:16:01 ID:CNmZDZZk0
賢い選択だと思った。どうせ反撃しても空気が壊れるのがオチだ。
その後の顛末は俺が良く知っていた。そもそも、やり返し切れるような奴は、
そこには座っていない。逆に言えばヒッキーは退席出来ないはずの人間だった。
皮肉にも、身動きが取れず、ここまで生き延びてしまった事で解放されてしまったが。

ヒッキーの場合、絶望に呑まれて取った行動は発狂を伴った自死だった。

そんなところだった。校舎が火の海に包まれた理由や、
俺を突き飛ばしたブーンが柱の下で焼かれた理由は。

ブーンは最期になにかを言おうとしていたが、彼の声帯は碌に働かなくなっていた。

40 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:16:33 ID:CNmZDZZk0
一日目


酷い夢を見た。
残滓で意識は定まらず、心なしか喉も痛かった。

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41 名前: ◆v3sPQTU/Do 投稿日:2017/08/25(金) 18:16:57 ID:CNmZDZZk0
なんて都合の良い解釈を捨てるまでは数秒もいらなかった。

大人の悲鳴が聞こえた。

とても嗅いだ事が無い臭いがした。

視界の端でトソンが咳を繰り返していた。

友情も盲目だと思った。

屋上で止めなければまだマシだった。

死にたきゃ勝手に死ねよといつかの言葉が脳裏を過った。

だが今はそんなのどうでも良かった。

なっげぇ遠足だったなという誰かの声に耳を委ねていた。








僕たちだけしかいない街  終



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