ノパ听)が鮫島事件に巻き込まれたようです [無断転載禁止]©2ch.net
- 2 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:38:50.318 ID:rnOeHQJa0
- ――都市伝説。
実しやかに囁かれ、人々の間で伝播する物語。
口頭で。
紙面で。
インターネットで。
様々な媒体を介して広がる内、その物語は元の形を失い、暴走し、自壊する。
あらゆる時代の歴史的事件に現れる男。
万人の夢に現れる男。
玉石混交の物語は、荒唐無稽な物ばかりだ。
それらはただの物語ではあるが、中には真実を語る物もあっただろう。
語り継がれる内、その原型は失われ、やがては別の物に変わり果ててしまう。
例えば、“八尺様”という都市伝説がある。
特徴的な笑い方をする身の丈二メートルを超える女性が男児を誘惑し、憑き殺すというものだ。
だがこれは、事実とは異なる。
確かにその女性は身の丈二メートルを超え、多くの話に出てくる通り、白いワンピースと麦わら帽子を身に着けていた。
しかしながら、男児を誘惑したことも、憑き殺すという非科学的な行いも全くの事実無根である。
( ;ω;)「おーん…… ひぐらしこわいおー……」
川д川そ 「な、なん、何で子供…… こんなとこに……」
( ;ω;)「おーん…… おかーさーん…… おとーさーん……」
川д川「えっと、あの、き、きき、君」
( ;ω;)「おー? おっきなおねーさん?」
川д川「あ、あの、どど、どうし、どうしたた、の?」
( ;ω;)「まいごになったお……」
川д川「そ、そそそ、そりゃ、そう、だだ、だろうね……」
吃音に悩まされていた女性は迷子になった少年をあやすため、人付き合いが苦手な性格でありながらも、どうにかしようとしただけだった。
少年は都会から田舎へと帰省していたため、自らの行動の危うさを知らなかった。
森の奥深くに偶然その女性が居合わせていなければ、少年は腐乱死体となって発見されていた事だろう。
( ;ω;)「もうあるけないお……
ぼくにかまわず、さきにいってほしいお」
川д川「だ、だめ。 ここの森、夜になったら、ひひ、光がないから……」
( ;ω;)「おーん…… でもぼく、もうあるけないおー」
川д川「じ、じゃあ、肩、肩車してあげるよ」
( ;ω;)「お……」
川д川「ぽ、ぽぽぽ……」
(〃^ω^)「おー! でんしゃさんだおー!」
- 3 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:39:49.570 ID:rnOeHQJa0
- 女性は電車の音を口で真似ることで少年の涙を止め、笑顔にすることが出来た。
道中で転んで歩けなくなった少年を背負い、遠く離れた交番まで背負っていったのも彼女。
それを目撃した多くの地元民は、異様な光景に慄き、出鱈目な情報を流布した。
無論、少年にとってその思い出は一生の宝物として残ることになるが、それを聞いた人間達の伝達方法が誤ったためにこのような物語と化しただけなのだ。
こうした都市伝説の内の一つに、かなり特異な物が存在する。
それは、語られる内容の全てがばらばらであり、誰もが多くを語らないという物。
ある者は国家ぐるみの犯罪だと言い、またある者は異常者の犯罪だと言う。
その整合性の無さから、結果としてそれは根も葉もないただの出鱈目だと断じられ、昨今では忘れ去られている。
気付いた者はごく少数だった。
その都市伝説がインターネット上にのみ存在し、決して口頭で広まることの無い物語であることを。
その都市伝説にはたった一つだけ、共通点が存在することを。
その共通点とは――
‥…━━ 8月19日 ━━…‥
ノパ听)「はぁ……」
ヒート・フランクリンは自らのデスクに積み上がった書類の山を見て、盛大に溜息を洩らした。
そこにあるはずのラップトップコンピューターは書類に埋もれ、事務仕事が出来る状態ではない。
置かれている書類については概ね見当がついた。
経理関係の差し戻し書類や始末書。
どれもこれも目を逸らしたくなる様な書類ばかりで、目を逸らしてきたからこそ、この光景が現実のものとして今ヒートの前に立ちはだかっているのだ。
48の州で構成されるニュー速国の中でも、ヴィップ州警察署は最も混沌とした場所だろう。
荒くれ者や変態の巣窟として知られるヴィップの中心街に位置する建物が、ヒートの勤務先だった。
十代で警官として採用されてから五年経つが、書類仕事だけは好きになれなかった。
特に、若年で警官となったことで常識が欠如していると言われ、庶務の人間からは疎まれた。
それでも逮捕率は年々数を増し、今月はトップの成績を収めている。
同数以上の報告書の山さえなければ、エリートとして胸を張れたことだろう。
( `ハ´)「また書類が溜まってきたアルね。
そのまま世界記録目指すつもりアルか?
今のところ、ウチの始末書の多さはお前が歴代トップアルね」
隣の席で夜食のカップラーメンをすするシナー・ライバックは皮肉たっぷりにそう言った。
アジア系の血を引く彼は仕事熱心な性格だが、皮肉屋の節があった。
最初はその皮肉に腹を立てていたが、今ではそれが彼なりの親愛表現であることを知っている。
ノパ听)「まぁ、世界一を目指すつもりなんで。
そういうシナーさんは痛風を目指してるんですか?」
( `ハ´)「いいや、もう痛風アル。
痛風の向こうを見たいだけアルよ」
ノパ听)「病院に行ってくださいよ……」
( `ハ´)「行きたいのはやまやまアルが、どっかの馬鹿が依頼してきた書類整理で忙しいアルよ」
ラーメンの汁を全て飲み干し、シナーは溜息を吐いた。
コンビニのビニール袋に入っていた惣菜パンを取り出し、今度はそれを頬張り始める。
ノパ听)「この時期に? 夏季休暇の申請書類じゃないですか?」
- 4 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:41:32.364 ID:rnOeHQJa0
- ( `ハ´)「最近こんな事務仕事ばっかりアルよ……」
ノパ听)「一発解決する方法を教えてあげましょうか?」
( `ハ´)「シュレッダー送りにするのは無しアルよ」
冗談を交わし、ヒートは席に着いた。
時刻は夜の十時近くだった。
残業代が出る仕事とはいえ、体力には限度がある。
目頭を押さえつつ、引き出しの中にしまっていた栄養剤を取り出し、一気に飲み干す。
空になった瓶をゴミ箱に投げ捨て、椅子に背を預けた。
椅子からは軋んだ音が上がった。
ノパ听)「くっそ面倒くせぇ……」
( `ハ´)「言葉に出せば余計面倒なだけアル」
山となった書類の一番上から紙を眺め、適当にサインをしていく。
理由を書かなければならない書類はレターケースに出来た僅かな隙間に乱暴に突っ込み、一枚ずつ書類に目を通していった。
全ての書類を机の上からとりあえず一掃したのは、日付が8月20となった頃だった。
( `ハ´)「お疲れさん」
いつの間にか買ってきたアイスコーヒーをシナーに手渡され、ヒートはそれを両手で受け取った。
節電の影響で冷房の温度が高めの職場には嬉しい差し入れだ。
ノパ听)「あ、ども」
( `ハ´)「頑張るのもいいけど、休むのも仕事だって何度も言っているアル。
お前達の人種は皆働いて死ぬのが美徳アルか?」
ノパ听)「まさか。 あたしはこの仕事が好きなだけですよ」
( `ハ´)「ならいいアル。
過労死はつまらないアルよ」
それだけ言って、シナーはタイムカードを押して職場を後にした。
同じ部屋の隅では宿直を担当する人間がポーカーに興じているだけで、他にはヒートだけだった。
もらったコーヒーを一口飲んで、そろそろ帰るべきかと席を立とうとした、その時だった。
レターケースに見慣れぬ色の封筒が挟まっていることに気付き、それを摘み上げた。
ノパ听)「……ん?」
糊付けされた黒い封筒には何も書かれていなかった。
こういった手紙は普通、仕分けの段階で弾かれるはずなのだが、どうにも事務方の嫌がらせの可能性が高かった。
それと言うのも、先ほど机上整理をしていた時に意味のないDMを100通近く捨てており、彼女の席だけ届けられた全ての手紙が積まれていることが分かったからだ。
開く前に中身をライトで照らし、危険物が入っていない事を確認する。
針やカッターの刃を封筒で送り付ける輩はどの国にもいる。
ただでさえ恨みを買いやすい警察に嫌がらせでそう言ったものを送ってくる人間は枚挙にいとまがない。
いつもであれば、そんな封筒は即座にシュレッダーで処分をしていただろう。
だが今日に限って、ヒートは連日の張り込みと最後の銃撃戦の疲労から、思わずその封筒を開けていた。
ノパ听)「招待状…… 真実の探求者の集い?
盲目の中に真実を見出す方のみお越しください……」
そして最後に書かれていた言葉に、ヒートの心臓が高鳴った。
- 5 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:42:00.317 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「鮫島事件の真相を、お話いたします……?」
ノパ听)が鮫島事件に巻き込まれたようです
- 7 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:44:10.864 ID:rnOeHQJa0
- 鮫島事件。
その始まりはインターネット上による書き込みであり、鮫島、という言葉以外には共通の情報はない。
くれぐれもその詳細を書き込んではならないという言い伝えと共に、その結末まで書かれている物が存在しない空想上の産物だ。
そのはずだった。
だが、果たしてそれは本当に創作物の領域に留まるものなのだろうか。
例えば最初はただの創作だったのかもしれないが、それがやがて現実の事件となる可能性はゼロと断言できるのだろうか。
答えは否。
噂はやがて別の形で事件となり、模倣犯の手によって現実化してしまう可能性は決して否定できない。
そして、この鮫島事件は表出していないだけですでに現実化してしまっているというのがヒートの見解だった。
それがどのような事件なのかは分からない。
鮫島と言う名前が果たしてどのような役割を果たしているのかも分からない。
世界地図を広げればその島を見つけることが出来るが、遠く離れたアジアの地にしかないため、鮫島と言うのはあくまでも隠語であると考えるのが自然。
この世界には多くの事件があり、それは時に人間の想像をはるかに超える時がある。
幼い子供を犯すためだけに教師になった人間もいる世界なのだ。
鮫島事件をインターネットで見て触発された人間がいてもおかしくはない。
ノパ听)「中身は……っと」
同封されていたのは何一つ描かれていない、透明なプラスチック製のカード。
ノパ听)「……ふむ」
問題は、この紙のどこにも日時と場所が書かれていない事だ。
プラスチックのカードを指で撫でてみると、微妙に凹凸がついていることに気が付いた。
昔ながらの方法を試してみれば、そこにどのような模様が描かれているのかが分かる。
鉛筆の芯をやすりで削り、その粉をカードに振りかけ、ティッシュで擦る。
すると、浮かび上がってきたのは無数の小さな点だった。
それは規則性のある点の羅列。
ノパ听)「点字か」
これが盲目の中に真実を見出す、ということを意味しているのであればとんだ馬鹿話だ。
推理小説の読みすぎで頭のネジが足りなくなった人間の戯言だ。
浮かび上がってきた点字を書き写し、インターネットでその意味を調べる。
ノパ听)「今度は数字かよ、面倒だな」
数字の羅列。
電話番号ではない。
パスワードや暗号の類でもなさそうだ。
すぐにヒートはそれが座標と時間を表している数字だと察した。
最後の8桁の数字は西暦と日付に合致しており、自動的にそれ以前の数字が座標であることが分かる。
そのため座標の数字と時間を表す数字を分けるのに、そう時間はかからなかった。
ノハ;゚听)「って、今日かよ……!!
やめやめ、こんなの時間の無駄だってんだ」
表示されたのは今日の午後4時に、署から離れた場所にある埠頭に向かうという指示だった。
ここまで調べて最後に出てきた結果に、ヒートは目頭を強く抑えて自制した。
戯れはここまでにするべきだ。
これはただの悪戯。
それ以上でもそれ以下でもない。
暇のない仕事柄、このような戯言に付き合うのはこれ以上よくない。
- 8 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:46:09.475 ID:rnOeHQJa0
- クロスワードパズルをやったのだと思えばいいだろう。
手の込んだ悪戯で時間を浪費してしまったが、久しぶりに楽しめた。
ノパ听)「おつかれさんでーす」
手紙の事を忘れるためにそれを備え付けのゴミ箱に捨てようとしたが、すでにゴミ――主に軽食のゴミ――で溢れかえっていた。
仕方なくそれを丸めて、少し離れた席のゴミ箱に投げ捨て、ヒートは退勤することにした。
ぼろアパートの一室に戻り、ヒートはシャワーを浴びてすぐに布団の上に倒れ込んだ。
連日の疲労感はいつからか抜けなくなり、眠るというよりも気絶するようにして時間が過ぎることが多くなった。
たまには休暇を申請してもいいのかもしれないと思いながら、すぐに深い眠りについた。
‥…━━ 8月20日 02:00 ━━…‥
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..
――冷たい風の吹く冬の事だった。
「それでは、被告人。 最後に何かありますか?」
白髭を蓄えた老齢の裁判長が、いつになく険しい視線を向ける。
言葉には感情を込めないように中立であろうとする響きがあったが、皺だらけの表情の奥には怒りに近い感情が渦巻いている事だろう。
声をかけられた男は手錠のはめられた両手で服の皺を正し、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
傍聴席に並ぶ人々の表情は皆、一様にこわばっている。
質問に対する最低限の回答だけしか口を開かなかった男が、空間の視線を独占した。
ただ、立ち上がっただけで。
静まり返る中。
誰かの心音が聞こえる程の静寂の中、男はゆっくりと口を開いた。
「彼女は勝手に自殺しただけです。
死なないでほしかった、というのが本音です」
法廷内がざわつく。
これ以上の発言は駄目だ。
だがこれは記憶の話。
駄目だと言っても、この男は発言するのだ。
遺族に対して最も辛辣で心無い一言を。
「静粛に!! 静粛に!!
被告人は軽率な発言を慎みなさい!!」
「異議あり。 先ほども私が申した通り、被告人には精神疾患が認められています。
これは彼の倫理と言動が一致しない何よりの証拠です。
発言の自由を阻む権利はありません」
「意義あり! それは詭弁だ!」
「それにあれは人間の姿をした野菜です。
僕がレイプをしたのは野菜であり、人間ではありません。
だから僕は、悪くありません」
男の発言は、全てのTVチャンネルでただ一つの例外なく速報となって広まり、全ての新聞社によって街中に号外が配られることとなった。
皮肉なことに、これがこの国から死刑が消えてから最初の大きな事件となり、死刑廃止について大きな波紋を呼ぶことになった。
だが何も変わらなかった。
ノハ--)
- 9 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:46:49.950 ID:rnOeHQJa0
- 嗚呼。
これは記憶だ。
悪夢の記憶だ。
ヒートの姉が誘拐され、凌辱の限りを尽くされた挙句、自ら命を絶った事件の結末だ。
死刑制度が世界から廃止された翌月に起きた悪夢だ。
男は用意周到だった。
小学生の通学路を把握し、姉の通学経路を数パターンにも渡って調べ上げ、一人になるその瞬間を狙った。
スタンガンによる一撃で気絶した姉は車に乗せられ、遠く離れたハンカク州に連れ去られた。
民家がキロ間隔で並ぶハンカク州で姉の悲痛な叫びを聞いた人間はいなかった。
男は姉を凌辱する様子を全てビデオに収め、反応を事細かにノートに書き記していた。
そして全ての歯を失い、誇りだった髪を失い、生きる気力さえも奪われた姉は自ら命を絶った。
腐乱した姉の死体が発見され、体に残されていた体液から男の正体が判明して逮捕されるまで、約三か月の時間が必要だった。
人権保護の観点から男の名前は伏せられ、執行猶予つきの判決を言い渡され、今はもう名前を変えて出所している頃。
司法の無力さを嘆くよりも、これ以上同じように嘆く人間が出ないようにとヒートは警官を志したのだ。
今、あの男がどうなっているのかは知らない。
見つけたら殺しているだろう。
今でもなお恨みの気持ちはヒートの中から消え去ることはない。
姉の死で両親は正気を失い、離婚した。
ヒートを引き取った母は自ら命を絶ち、父は出張先で交通事故に巻き込まれて死んだ。
姉が死ななければ。
あの事件が無ければ、今頃は別の道を歩んでいたかもしれないと思うと、悔しさで胸が苦しくなった。
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..
‥…━━ 06:55 ━━…‥
目覚ましが鳴る数秒前に不快な気分で目を覚まし、スマートフォンのアラーム機能を停止させた。
心臓の鼓動が早い。
気が付けば全身に汗をかいていた。
べたつく汗が気持ち悪い。
ノハ;゚听)「……くそっ、何だってんだよ」
シャワーを浴び、シリアルとコーヒーの朝食を済ませて職場へと向かった。
職場は今日も朝から慌ただしく、深夜に起きた交通事故や麻薬中毒の強盗の処理で怒号が飛び交っている。
( ´∀`)「ヒート巡査長、トラギコ警部がお呼びだモナ」
デスクにつくなりモナー・ボリメタック巡査部長からそう声をかけられ、ヒートは深い溜息を吐いた。
この肥満体系の男はいつも不吉なニュースしかヒートに伝えてこない。
優秀な男なのだが、如何せんヒートとは相性がよくなかった。
ノパ听)「はぁ…… 分かりました」
( ´∀`)「おいおい、元気がないモナよ。
後で饅頭分けてやろうか?」
ノパ听)「いえ、遠慮しておきます」
そしてヒートはトラギコ・キャラハンの座る席へと向かい、その鋭い眼光に睨み上げられて思わず身を竦めた。
警官として現場の第一線で働き続ける男の目に出世と言う文字は入らず、事件を解決することに心血を注ぐ警官らしい剣呑な雰囲気が常に付きまとっている。
- 10 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:48:52.884 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「お呼びとの事で」
(=゚д゚)「あぁ、呼んだラギ。
ちょっと面ぁ貸せ」
有無を言わせぬ口調でそう告げ、トラギコと共にヒートは人のいない応接間へと歩き出した。
(=゚д゚)「また発砲したらしいな。
今度はどんな相手だったんだ?」
歩く速度の速いトラギコに追いつくため、ヒートは半歩離れた位置から早歩きで付き従う。
ノパ听)「ナンジェイ州のヤキュー・ギャング共たちです。
撃たなければ撃たれていた状況でしたので」
(=゚д゚)「それならいい。 安心したラギ。
だが殉職しても得しない事は忘れるな」
トラギコは昔からヒートに目をかけてくれている数少ない上司で、不器用ながらも気遣ってくれていることがありがたかった。
それでも彼の迫力には慣れることはない。
応接室の扉を開いて、トラギコは柔らかいソファに腰かけた。
(=゚д゚)「さて、俺に隠し事が何かあるんじゃねぇのか?」
ヒートも腰を下ろしたのを待ってから、トラギコは確信めいた口調でそう言った。
嘘を吐いて誤魔化すまでもない。
こうして話を振ってきているという事は、トラギコがあの手紙に気が付いたという事だ。
ノパ听)「手紙の事でしょうか?」
恐らく、ごみ箱に捨てた不審物を偶然見かけたのだろう。
今時黒い封筒など人目を引くだけだ。
(=゚д゚)「分かってんじゃねぇか。
お前、どうして黙ってるラギ?」
ノパ听)「荒唐無稽な悪戯です。
相手にする必要はないと判断しました」
(=゚д゚)「……ほぅ。
それはお前の意見か? それとも、他の誰かの意見か?」
ノパ听)「世間一般的な意見です」
(=゚д゚)「前にも言ったが、頭のいい言葉を使うな。
お前はお前の言葉で語ればいいラギ」
ノパ听)「……正直、鮫島事件というものに興味はあります。
ですがあれは、インターネット上の単なる悪戯で……」
(=゚д゚)「それが実際に起きた事件だとしたら、どうする?」
トラギコの口調がより険しさを増した。
まるで氷でできた剣先を向けられているかのように、ヒートは背中に冷や汗が浮かぶのを感じた。
これは冗談やブラフの類ではない。
ノハ;゚听)「まさか、あんな統一性のない情報。
事件と呼ぶのであれば、何が起きたのかが分からなければなりません。
被害者、加害者、場所、日時、内容もそうです」
- 11 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:50:34.089 ID:rnOeHQJa0
- (=゚д゚)「だから、頭のいい言葉を使うんじゃねぇ。
内容については分からねぇが、鮫島事件は実際に起きた事件ラギ。
いや、違うな。
今もまだ起きている、と言った方が良いだろうな」
ノハ;゚听)「進行中の犯罪ということですか?」
(=゚д゚)「俺の見立てだとな。
詳細は知らねぇが、前に署の報告書にその文字を見たことがあるラギ。
その資料は破棄されたが、俺は確かに見たラギ」
トラギコは憶測で物を言わない。
特に、事件に関連することで彼が発言をする際には必ず裏打ちされた情報があり、その情報の信頼度は極めて高い。
ノパ听)「それで、私にどうしろと?」
(=゚д゚)「お前、振休が山のように溜まってるだろ。
上には俺から口添えしておいてやるから、あの手紙の誘いに乗ってみろ」
ノハ;゚听)「悪戯だったら?」
(=゚д゚)「その時ゃ、旅行でも行けばいいラギ。
夏だからテンゴク州にでも旅行に行けばいいさ」
娯楽の街で栄えるテンゴク州。
美しい海と穏やかな空気で観光地としても有名で、国外からも多くの旅行者が訪れる場所だ。
警官が訪れるためにはその地にあるカジノに踏み入るか、引退して隠居の身となるぐらいしか手段がない。
ノパ听)「……経費は?
大分机に書類が溜まっていて、それを処理していたら指定の時間に間に合わないのですが」
(=゚д゚)「……俺がやっておくラギ。
だからお前はもう今日は帰れ」
ノパ听)「銃を持って行ってもいいですよね?」
(=゚д゚)「あぁ、許可する。
だがSMGは持って行くなよ。
いつも使ってるベレッタで我慢しろ」
支給されているベレッタ・ストームの45口径モデルであれば、大体の状況に対応できる。
流石に短機関銃を持って歩くわけにはいかない。
(=゚д゚)「この件はくれぐれも他の奴には言うな。
知ってるのは俺とお前だけラギ」
ノパ听)「承知いたしました」
2人の話はこれで終わり。
席を立ち、部屋を出ていく前にトラギコが振り返った。
(=゚д゚)「あぁ、後な」
ノパ听)「?」
(=゚д゚)「書類、次からは溜めるなよ」
苦笑しつつ返事をし、ヒートは職場へと戻った。
それからヒートは弾と弾倉を密かに持ち出し、自宅へと戻ったが、誰も彼女を引き留めようとはしなかった。
- 12 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:53:05.473 ID:rnOeHQJa0
- 自宅に戻ってヒートが用意したのは工具や武器だけで、アタッシュケースには十分すぎる程の空きスペースが生まれた。
財布と現金は持ったが、間違っても身分を証明するような物は持たないことにした。
薄手のジャケットとスラックスに着替え、指定された埠頭へと向かう。
‥…━━ 13:05 ━━…‥
黒いルミノックスの腕時計で時間を確認しつつ、予定の5分前には現場にいられるようにした。
予定の2時間前に到着したヒートは遅めの昼食を埠頭のすぐそばにあるレストランで軽く済ませ、甘辛いタレで味付けされた魚料理に思わず舌鼓を打った。
オリーブをつまみにノンアルコールビールを軽く一杯飲みながら、時間を潰す。
( ´W`)「むにゃむにゃ」
(*゚∀゚)「でさぁ、そいつが本当にピーナッツを目で噛んでんのよ。
まじパなくね?」
( ,,^Д^)「マジぱねぇ」
店内にはヒートと白杖を持つ男が一人だけ。
愛想のないウェイトレスは店の奥にあるキッチンで店員と談笑し、ヒートの前にある空いた皿を下げようともしない。
ラジオから流れてくる音楽だけが、店内の雰囲気をそれらしく仕上げていた。
‥…━━ 15:50 ━━…‥
DJが地元のニュースを紹介し始めたあたりで、時間が大分過ぎたことを認識した。
もう間もなく時間だ。
チップを込めた金を机の上に置いて、ヒートは席を立った。
ノパ听)「……っ!」
だが。
不意にヒートは立ち上がったままの姿勢で立ち止まり、白杖を持つ男が指で机を叩いている姿に目が留まった。
店内には音楽はない。
自分の中で流れている音楽に合わせて動かしているのだとしたら、リズムが妙だ。
すぐにそれは別の動きだと気付く。
モールス信号だ。
トン・ツーによって言葉を表し、伝えるための太古の暗号。
何度も同じ音を繰り返していることに気付き、その始点と終点を聞き分ける。
奏でているのは短い言葉。
ノパ听)「ケンモウゴウ ね」
盲目の中に真実を見出す、という言葉を今思い出した。
目が見えずとも音は聞こえる。
音が聞こえれば言葉を理解できる。
実に面倒な事を仕掛けてくる相手だと思う一方、どうやら、あの話は完全な悪戯だと断じるのは難しいだろうと感じた。
ノパ听)「じいさん、あんたは?」
( ´W`)「むにゃ」
聞こえていたとしても、聞こえていないふりをするのだろう。
それ以上話をすることもなく、ヒートは店を出た。
- 14 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:55:32.646 ID:rnOeHQJa0
- ‥…━━ 15:59 ━━…‥
埠頭に並ぶ船の中にケンモウ号という名前の船を見つけるのは簡単だった。
その船は他の船と比べて真新しく、船の前には5人の男女が立っていた。
(゚、゚トソン「おや……」
30代後半だろうか。
フレームの無い眼鏡をかけ、綺麗な立ち姿とスーツに身を包む姿が自然なことから、厳格な職場で働いている人間だと分かる。
言い換えれば、神経質そうな人間でもある。
/ ,' 3「ほっほっほ、ようやく来たの」
還暦は間違いなく越えている男性。
剣呑な雰囲気の老犬、といったところだ。
(´<_`;)「……」
怯えた犬のような目をした長身の男。
僅かな物音に反応して体を振るわせ、その姿は一回り小さく見えた。
恐らくは40代だろうが、丸まった背と長く伸びた髪、そして人間的な幼さが顔に出ている。
(´・ω・`)「よかった、これで全員だ」
一見すれば気弱そうな男だが、浅黒く焼けた肌と拳の皮が剥けて硬化していることから、堅気の職業ではない事が判断できる。
素手での殴り合いを生業としているか、それを隠さなくても済む職業のどちらかだろう。
ξ゚听)ξ「遅刻ギリギリじゃない」
恐らくはこの中で最も若い女は、鋭い眼光をヒートに向け、憎まれ口を叩いた。
自信過剰な人間にありがちな目だ。
となると、高学歴で尚且つそれなりの仕事に就いている人間と言う事だ。
ノパ听)「間に合ってるんだ、文句を言うなよ」
合計6人の男女。
ばらばらに見えるが、男女比率は同数。
これは偶然ではなく故意に揃えられ、集められた人間達だ。
皆、鮫島事件の真相を知るために集まった人間。
(´・ω・`)「揃ったなら船に乗ろう。
さっき見たけど、この船、オートクルーズ機能が付いてる。
僕らはただエンジンをかければ目的地まで自動で行ける優れものだ」
自信に満ちた男の言葉に従い、全員が乗船した。
エンジンがかかり、船は静かに海の上を疾走し始める。
男の言葉の通り、誰も舵輪を握っていないにも関わらず船は迷うことなく大海へと進みだす。
船倉に降りて来た男は周囲を見渡し、腰に手を当てて咳ばらいをした。
(´・ω・`)「自己紹介をしないか?
このまま知らない者同士で目的地についても居心地が悪い。
僕はショボン・アナホリだ。 ショボンと呼んでくれ」
社交的な姿を見せた男は、周囲にも自己紹介を促した。
ξ゚听)ξ「私はツンで結構」
- 16 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 19:58:47.512 ID:rnOeHQJa0
- フルネームを名乗らず、すぐに自己紹介を済ませた女。
ヒートはこの女のフルネームを知っていた。
ツン・ディアブロ・レイ、名うての検事だ。
そして、次に名乗った男の名前も知っている。
この老人は荒巻。
かつては裁判長として多くの判決を言い渡してきた男で、今は引退して年金暮らしをしている男だ。
/ ,' 3「荒巻・スカルチノフ・クォルフスキー。
ま、好きに呼んでかまわんよ」
荒巻が自己紹介を終えた途端、都村・ストリクトルール・トソンが偽名を名乗った。
(゚、゚トソン「エマワ・トソンです」
弁護士として悪名も名声も獲得しているこの女。
ヒートはこの女の顔や声を忘れることはなかった。
ノパ听)「ヒートだ」
ツン並の短い自己紹介を終え、最後の一人に全員が視線を注ぐ。
(´<_` )「ぼ、ぼくは……
オットーです、オットー・ローリングストーン」
こうして自己紹介を終え、それ以降の会話は一切ないまま船は進んでいった。
必然的に男女は別の場所で時間を過ごすことになり、男性は操舵室、女性陣は船倉にあるベッドルームを使う事となった。
ヒートはこの人間達が意図的に集められていることに薄々気づいていた。
ツンもトソンも荒巻もそうだが、恐らく他の二人もそうだ。
彼らはヒートの姉が自殺した一件に関わっている人間だった。
ツンは事件の検事を、トソンは弁護士だった。
荒巻は裁判長を務め、幼い記憶の中にショボンの姿も警察側に見た様な気がした。
そして、オットー。
この男は、事件を起こした男に似ている顔立ちをしている。
目元や口元が正にそうだが、本人ではない事は分かっている。
声もそうだし、背丈がかなり小さい。
背を伸ばすことは出来ても縮めることは無理だ。
だが、あの事件の犯人と無関係と言うわけではなさそうだ。
鮫島事件と姉の事件。
集められた人間の共通点から、この2つが何かしらの繋がりを持っていると考えるのが自然だ。
恐らくそのことに気付いているのはヒートだけ。
ここは慎重に立ち回った方がいい。
余計な情報を口にすることは止め、ヒートは寡黙に徹することにした。
‥…━━ 20:00 ━━…‥
船が静かに停まり、上からショボンの声が聞こえてきた。
(´・ω・`)「おーい、到着したぞ」
無言のまま3人は甲板に上がり、夜空の下に浮かぶ巨影に圧倒された。
それは巨大な城。
煌々と明かりの灯る不夜城。
- 17 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:00:19.879 ID:rnOeHQJa0
- その堂々とした姿は、かつて王が住んでいたと言われても信じられる威風堂々とした佇まいだった。
果たしてこの国にこのような城があっただろうか。
いや、ニュー速国内なのかも分からない。
波止場に停まった船から降り、唯一の街灯の下、6人はその場で固まった。
誰もが固まっても仕方がなかった。
( ∵)
暗闇の中から音もなく表れた仮面の男。
その体つきは筋骨隆々としており、用心棒を兼ねた従者と見るのが自然だ。
(´・ω・`)「あー、君達が案内してくれるのかな?」
( ∵)″
頷いた男は、恭しく腰を曲げてついてくるように指示をした。
従う他ない。
木組みの波止場を歩き、ヒートは不意に背後を振り返った。
海の向こうに浮かぶ黒雲。
嵐が来そうだった。
それも、かなり悪質な嵐が。
重々しい鋼鉄の扉が、軋みを上げて開いた。
城の中は外見同様に絢爛としており、空調が効いているのか、ひんやりとしていた。
柔らかな絨毯がまっすぐに続く長い廊下を歩き、城の奥へと案内された。
大きな扉を押し開き、その先に広がっている空間に息を呑む。
高い天井から釣り下がるシャンデリアが淡く照らすのは、殺風景な空間だった。
机、椅子、そして床に敷き詰められた絨毯。
それ以外に装飾的な品はなく、先ほどまでの豪華な内装と比べて、この部屋は異質すぎた。
ここが、どうやら大広間の様だ。
( ^ω^)「やぁ、ようこそ。
待っていたお」
そして、6人を招き入れたのはタキシード姿の若い男。
(´・ω・`)「君が招待状を?」
( ^ω^)「そうだお。 鮫島事件の真相。
それが君たちの望みだおね?」
ノパ听)「そう言うお前は、あたし達に真相を話すのが目的なのか?」
( ^ω^)「まぁそう言う事だと解釈してもらって構わないお。
……だが妙だお。 僕が呼んだのは2対1。
何ゆえ1対1になっているんだお?」
首を傾げ、男は全員を睨め回した。
温厚そうな表情の影に、蛇のような狡猾さが垣間見える。
声の中に含まれている響きには殺意に近い物も含まれており、何かのきっかけでそれがさく裂しないとも限らなかった。
ξ゚听)ξ「どういうこと? 2対1って、男女比の事?」
確かに、人間を見て比率を述べるのであれば男女比についてと考えるのが最も自然だ。
では、それは男と女、どちらが妙なのだろうか。
- 18 名前: ◆n8vcLxTNN6[htt] 投稿日:2017/08/25(金) 20:02:55.974 ID:rnOeHQJa0
- ( ^ω^)「……ふむ」
男はツンの言葉を無視して考え始めた。
次に何が起こるのか、まるで想像がつかない。
( ^ω^)「どうやら君たちの中に、僕が呼んでいない人間がいるようだお。
その人間を消したら、真実を話すお。
むしろ、それに気付けないような人間に鮫島事件の真相を知る価値はないお」
ξ゚听)ξ「ちょっと、そんなの私達の知った事じゃないわよ。
約束通り鮫島事件について話しなさい」
( ^ω^)「異議はないようだおね。
猶予は今から24時間。 明日の夜8時30分に答え合わせをするお。
それまでの間に君たちの中から僕の招待していない人間を見つけ出せなければ、君たち全員には死んでもらうお」
ξ#゚听)ξ「……この!!」
頭に血を上らせたツンが男に掴みかかろうとするが、男はそれを難なく避けて見せた。
それだけでなく、ツンの腹部に強烈な膝蹴りを放ち、その戦意を喪失させた。
ほんの一瞬の出来事だったが、この男は躊躇いなく人を殺すという姿勢を確かに全員に知らしめた。
地面に転がるツンは胃の中の物を吐き出し、体をくの字に曲げて悶絶している。
ξ )ξ「ぐっ、げっ……!!」
( ^ω^)「何か意見でも?」
男の顔には笑顔が張り付いているが、声は全く笑っていない。
誰も何も言わなかったが、ツンに同情する者はいなかった。
真相を知る人間が条件を提示した以上、それに正論をぶつけたところで相手の気分次第で真実は永遠に開示されないこともある。
身の程を弁えていない人間に同情するのはよほどの博愛主義者か馬鹿だけだ。
これで男の本気が少しは分かった。
( ^ω^)「それまでこの城にある部屋を好きに使っていいお。
食事も衣類も、好きなだけ使えばいい。
この島から逃げたりするようなことがあれば、その人物には鮫の餌になってもらうお」
(゚、゚トソン「……なるほど」
( ^ω^)「あぁ、ここは圏外だからどこかに電話をしようとしても無駄だお」
/ ,' 3「ほっほ、そのようじゃの」
さりげなくスマートフォンの画面を見ていた荒巻が苦笑した。
外部との連絡手段はどうやら断たれたようだが、それがあらゆる電波を遮断する装置によるものなのか、それとも城の構造がそうさせるのか。
後で調べる必要がありそうだ。
ノパ听)「どこか集まって話せる場所はあるのか?」
( ^ω^)「10人以下であればどこの部屋を使っても同じだお」
ノパ听)「分かった。 食事についてはどうすれば?」
( ^ω^)「内線で呼べばすぐに持って行くお。
あと、部屋の冷蔵庫に酒と肴が入っているお」
- 19 名前: ◆n8vcLxTNN6[ps://] 投稿日:2017/08/25(金) 20:04:07.167 ID:rnOeHQJa0
- (´・ω・`)「分かった。 じゃあ、すぐそこの部屋を使わせてもらうよ。
皆、まずは話し合いをしよう。
それから部屋に散ればいい」
いつの間にかこのグループのリーダーはショボンになっていた。
だがこれでいい。
指揮に慣れている人間に任せておけば、少なくとも面倒な進行を考えなくていい。
(´・ω・`)「ところで、貴方の名前は?」
( ^ω^)「そんな事はどうでもいいんだが、そうだな、ブーンと呼んでくれればいいお」
ブーンは爪先でツンの顔を上に向かせ、笑顔のまま言った。
( ^ω^)「覚えたな、雌豚?」
ξ )ξ「くっそ……!!」
‥…━━ 21:00 ━━…‥
倒れたツンはショボンが運ぶこととなり、6人は客間へと集まった。
置かれていたポットの中に入っていたアイスティーを手に、話し合いが始まったのは夜9時のこと。
一つの長机を囲んで座り、話を進めるために口を開いたのはやはりショボンだった。
(´・ω・`)「ここに来ている皆は、鮫島事件の真相を知りたくてここにきた、という認識であっているかな?」
無言の肯定が5つ返った。
(´・ω・`)「あの男、ブーンの言葉――僕たちの中に招かれざる者がいる――が本当かどうかは分からない。
だが恐らくは、僕たちが鮫島事件の真相を知りたがっていることは紛れもなく事実だ。
どうだろう? 皆で話し合い、ここにいる資格の無い人間を探すというのは」
なるほど。
誘導が実に巧みな男だ。
自分が負けることの無い条件を提示し、あたかもそれが平等であるかのように振る舞っている。
そしてその方法で導き出せるのは招待されていない人間ではなく、知識が最も浅いと思われるプレゼンテーションをした人間だ。
つまり、向こうの意図とは異なる形で1人を排除するという方法。
時間をかけずに相手の要求を満たす方法だが、あまりにも乱暴だ。
と、ほとんどの人間が思うだろう。
それが罠。
ここで意見すれば疑いの目で見られることになり、後の言動の全てが不利な物になる。
再び無言の肯定が5つ。
(´・ω・`)「じゃあまず、どうして君たちは鮫島事件の真相を知りたいのか。
それを話し合おう」
挙手をして開口したのはトソン。
(゚、゚トソン「この世の中に未解決の事件があることが我慢ならないからです」
それに続いて荒巻が淡々と述べる。
/ ,' 3「死ぬ前に知りたいことがこれぐらいしかなくてのぅ」
ξ゚听)ξ「知りたいから、それだけよ」
- 20 名前: ◆n8vcLxTNN6[goo.] 投稿日:2017/08/25(金) 20:05:17.492 ID:rnOeHQJa0
- (´・ω・`)「ちなみに僕はこの事件に昔から興味があった、という理由さ。
オットー君とヒート君の意見は?」
ノパ听)「あたしはこの件に関して取材をしていてね。
その影響だ」
最後の一人、オットーの順番となった。
目線を落ち着きなく彷徨わせながら、彼は口を開いた。
(´<_`;)「べ、べつに、僕は……鮫島、事件なんて……どどど、どうでもいい」
何やら様子がおかしい。
この手の類をヒートは何人も見てきた。
普段抑圧している物を怒りと共に吐き出し、周囲に多大な迷惑をかける輩だ。
(´<_`;)「ぼ、僕はほほ、本当は来る予定じゃなかったんだ……っ!!
それ、そそ、それなのに、あ、あああ、あいつのせいでっ!!」
(´・ω・`)「落ち着きたまえよ、オットー。
あいつとは誰のことだ?」
(´<_`;)「そ、そんなのきま、決まってるだろ!!
あ、アニジャだよ!!
いいいいいい、いつも、いつもいつもいつもいつも!!
あい、あいつのせいで、わわ、悪いのは僕になるんだ!!」
ノハ;゚听)「アニジャ? アニジャ・スコットピルグリムか?!」
その名前を忘れたことは1日たりとも無い。
ヒートの人生に於いてその名前は最も忌避され、彼女の一生を変えた人間の名前だ。
ヒートの姉を死に追いやった生粋の屑。
その屑の弟がここにいる。
最初に感じた通り、この男は関係者だったのだ。
(´<_`;)「あ、ああ、そうだ、そうだよ!!
あいつ、あいつに招待状が来て、っぼぼぼ、僕に行って来いって、めめ、命令したんだ!!」
(´・ω・`)「何だ、随分とあっけなく分かったな。
彼にオットーを引き渡せばこの話は終わり、だな」
(´<_`;)「ま、まって、待ってくれ!
そ、そそ、そしたら僕はこここここ、こ、殺されるんだろ?
た、助け……」
(´・ω・`)「うーん、残念だけどその意見は聞けないな。
まず、君が殺されるかどうかなんて分からないし、僕らは真相を知りたいんだ。
君を助けるメリットが無いんだよ」
一言一句その通りである。
この男が死んだところでここにいる人間は誰も悲しまない。
それよりもあの場で潔く名乗り出ていれば時間の短縮にもなったのに、この男のせいでヒート達は折角の真相を前にお預けを喰らっている状態だった。
(´<_`;)「し、しし、知ってるんだ。
ぼぼぼ、僕も、鮫島事件の、しし、真相を!!」
(゚、゚トソン「見苦しいですね。
さっさと電話で呼んでしまいましょう」
- 21 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:12:41.201 ID:rnOeHQJa0
- (´<_`;)「ほほ、本当だ!!
あ、アニジャもかか、関わってたんだ!!」
ξ゚听)ξ「いっそ私達で黙らせるって言うのも出来るのよ、永遠にね」
この流れは不味い。
ショボンのシナリオ通り、実に自然な流れでオットーは処分されようとしている。
だが、アニジャが関わっていた、という話を聞かなかったとは出来ない。
ノパ听)「待てよ。 おい、オットー。
話してみろよ。 それで、その話が聞く価値があるかどうか判断する。
それから引き渡してでも遅くはないだろ」
/ ,' 3「わしも賛成じゃ。 諸君、焦っては真実を見落とすだけ。
どれ、話してみろ」
荒巻の援護もあり、ツンとトソンは肩をすくめてそれを不承不承受け入れた。
ヒート確信しつつあった。
この場にいる人間には鮫島事件以外にももう一つ共通点があり、それは偶然ではないという事を。
アニジャ・スコットピルグリムの事件に深く関係しているという、決して無視できない共通点。
(´<_`;)「あ、ありがとう……
アニジャは、はは、犯罪者で……」
ノパ听)「家族紹介はいいからさっさと要点を言え。
あたしは我慢強い方じゃないんだ」
(´<_`;)「ごご、ごめん……
あに、アニジャの精神鑑定をしし、した医者が、ささ、鮫島ってなな、名前だったんだ。
よ、よくおおお、覚えてる。
くく、薬を飲ませて、そそそ、そしたら……
いいい、いきなり、か、かかか、壁とかを爪でひっかきはじ、始めたんだ」
/ ,' 3「薬を飲ませた?
どうしてそれを君が見ているんだね?」
(´<_`;)「そ、そそ、そりゃあそうさ。
か、家族はもも、もうぼ、僕しかいないから。
つつ、爪が剥がれてもアニジャはそ、それを止めなかった」
(´・ω・`)「……聞いたことはないな、そんな話。
隠すつもりはないんだが、僕はあの事件の捜査指揮を執っていてね。
そんな報告は聞いていない。
聞いていれば精神鑑定は覆った可能性が高い」
(´<_`;)「え? ぼ、僕、ちち、ちゃんといい、言ったのに……」
ξ゚听)ξ「私も、検事としてあの事件に関わったけど、そんな証言は来ていないわ。
……弁護士さんはどうなのかしら?」
ついに動き出した。
初めて会った風を装っていた仮面が剥がれ、本性が露わになる。
だがこの流れに乗ってはいけない。
ここでの言動が後に大きな影響を及ぼすことをヒートは本能で察した。
(゚、゚トソン「私も聞いていません」
- 22 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:17:17.902 ID:rnOeHQJa0
- ξ゚听)ξ「……ふぅん。
荒巻裁判長は?」
/ ,' 3「記憶が定かではないが、わしも聞いていないはずじゃ」
これで、ヒート以外の全員が顔見知りであることが確認された。
どうやらヒートがその事件に関わっているとは気付かれていないようだった。
やはり、素性は隠しておいた方がいいだろう。
(´<_`;)「そ、そ、そんな馬鹿な……!!
だだ、だって……」
(´・ω・`)「続きを話してくれ。 それからだ」
(´<_`;)「しゅ、出所してからも、そのさ、鮫島って医者がアニジャを訪ねて、くく、薬をくれたんだ。
その薬をの、飲むといつもおおお、おかしくなって。
そそ、その薬をを、もも、も、持ちだして、け、警察に持って行ったんだ……
それ、それから、鮫島はこ、来なくなって、か、かわ、代わりにしょ、しょ、招待状がきたんだ」
ノパ听)「警察に薬を渡した後はどんな対応をされた?」
(´<_`;)「しし、知らないよ。 ぼ、ぼぼぼぼ、僕はわ、わた、わたし、渡しただけだもん」
違法薬物の類であれば嬉々として対応班が動くだろう。
だがこの男の言動を見て、真っ当な対応をされなかったことも考えられる。
ノパ听)「で、アニジャから代わりに行くように言われた、と」
(´<_`;)「そ、そう、そうだ!!」
(´・ω・`)「興味深い話ではあったけど、僕らが君を見逃すにはいまいちだな。
だって、僕らが君を助けてもメリットがないからね」
(´<_`;)「そそそ、そんな!!」
ξ゚听)ξ「第一、証拠がないでしょ。
その薬、予備は持ってるの?」
(´<_`;)「あ、ああ、あるよ。
いいい、いつも、ぼぼ、僕がアニジャの薬のかか、管理をしているから……」
(゚、゚トソン「なら、その薬を飲んでみてください。
その効果が本当かどうか実証して、それで本当であれば、私は見逃すメリットがあると思います。
こちらでこの男を消した、と言っておけば、ブーン氏もそれで納得するでしょう」
まるでいじめのような構図になってきた。
だが弱い者がこうして利用されるのは社会の縮図であり、弱肉強食の世の中では頻繁に起こる事。
見過ごすことは勿論できるが、それでは寝覚めが悪い。
ノパ听)「なぁ、今すぐにそいつをどうこうしても仕方ねぇだろ。
あの男は言っただろ。
明日の8時30分に答え合わせだ、って。
あたしたちはそれまでに見つけておけばいいだけだ。
消せとは言われたが、殺す必要もない。
適当な船に乗せて帰せばいいさ」
- 24 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:31:29.579 ID:rnOeHQJa0
- 例え敵の弟であっても。
例え早急に事態が収束するとしても。
ここで見過ごしては、ヒートの警官としての大切な物を失ってしまう気がした。
(´・ω・`)「ま、それもそうか。
……そうか、明日の答え合わせの場でこいつに薬を飲ませればいいのか。
そうすれば説得力も増す」
この男は本当に警察官だったのだろうかと、ヒートは本気で疑ってしまう。
人間は残酷になる事の出来る生き物だが、それまでの生き方で抑制することも出来る生き物だ。
法と秩序の番人だった人間が、ここまで堕ちてしまったのは何故だろうか。
いくら考えても仕方がないが、今は一刻も早くこの場所から抜け出したかった。
ノパ听)「ってことで、あたしは適当な部屋に行くよ。
じゃあな」
(´・ω・`)「あぁ、ちょっと待って。
どの部屋にするのか話し合いをしないと。
何かあった時に連絡を取り合うためにも必要なことだと思うんだ」
ノパ听)「それはあんたらだけでやってくれ。
あたしには必要ない」
ξ゚听)ξ「ちょっと、それは無いんじゃない?
少なくとも鮫島事件の真相を聞くまでは協力し合うのが当たり前でしょ」
(゚、゚トソン「その通りです。
ブーンが我々に対して何らかの行動を起こさないとも限りませんし、何より、そこにいるオットーが襲ってこないとも限らない。
ここは一丸となるべきです」
/ ,' 3「うむ、一理ある。
どうじゃ、ヒートさん。
話し合いをしてはくれんかの?」
4人がヒートの説得に動き出す。
まるで女社会のように腐った考え方だ。
協調性を求め、それに応じなければつまはじきものにする。
それで大いに結構。
こんな人間達と同じ価値観を持たなければならないのであれば、ヒートは喜んで孤独を選ぶ。
ノパ听)「断る。 今さっきまで一緒のグループだった男を寄ってたかって殺そうとした連中とつるむ気はねぇんだ。
一丸となるだぁ? 糞みたいな連中と一緒になるなんて、あたしは御免こうむるね。
第一、そこの枯れ木見てぇな腕の男に何が出来るんだよ」
ξ゚听)ξ「調和って言葉を知らないのかしら?
流石はハイエナのジャーナリストね」
ノパ听)「ルールを押し付けるのと人に喧嘩を売るのは商売癖らしいな。
だから検事と弁護士ってのはどうにも好かねぇんだ」
(´・ω・`)「ちょっと、言い争いは止めるんだ。
ヒート、どうしても駄目かい?」
ノパ听)「あぁ、どうしても駄目だ。
お前らみたいな人間はどうしても信用できないんだよ。
だからどうしてもお断りだ。 どうしても、だ」
(´<_`;)「あ、ありが」
- 25 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:33:06.453 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「うるせぇ、黙れ」
ヒートは足早にその場を去り、城の内部を調べることにした。
これだけ広いのだから、部屋はその後で決めればいい。
何より、この場所と持ち主があまりにも怪しすぎる。
自動操舵の船を用意し、これだけの人間を動かし、これほどの城を根城にする人間。
鮫島事件の真相を知るという人間の正体も何も分からないのに、そう簡単に眠る部屋を決められるはずがない。
まずは全貌を知り、それからでも遅くはない。
ブーンと言う男の正体が難しければ、この城の場所だけでも把握できればいい。
‥…━━ 21:45 ━━…‥
城は5階建てで、各階の構造は1階を例外とすれば全く同じだった。
上の階に向かうための階段は一つだが、隠し部屋のような物はなさそうだった。
家具も全く同じで、最新式の冷蔵庫やケトルは勿論、ミニバーに並んでいる酒の種類も同じだった。
同じ間取りの構造をしているという事は、この城の歴史はあまり古くなさそうだ。
屋上へと出ると、夜空はすでに黒雲に覆われ、星は1つも見えなかった。
星が無くては場所を割り出すことはできなかった。
スマートフォンを起動するも、電波は勿論、GPSまでもが使用不可となっていた。
プリインストールされていた電子コンパスを起動し、方角を探る。
どうやら北の方にいるらしい事が分かった。
ノパ听)「ニュー速の北っつたら……
シベリアの国境近くか」
シベリア国はきらびやかなニュー速とよく比較される共産主義の国で、その世界最大の大地は常に凍てつく風によって荒涼としている。
国民の大半が酒を娯楽として生きている国だが、それだけに、裏社会の発展は目を見張るものがあった。
金さえあれば人、薬物、禁輸品など、この国で手に入らない物はないと言われている。
船での移動時間を考えると国境を越えてはいないだろうが、その近くであることは十分に考えられた。
あまり成果を得られないまま、ヒートは5階の角部屋へと向かった。
部屋に入り、すぐに鍵とチェーンをかけてそれがしっかりと機能していることを確かめた。
窓の鍵を確認し、カーテンを閉め、あらゆる扉の開閉と不審物の確認をする。
コンセントカバーは持ち込んだドライバーを使って分解し、盗聴器の類がないことも調べた。
外部への通信手段は何もなく、電話も内線専用の物だった。
ミニバーにあるグレンフィディック21年のボトルを開封し、それを直に飲んだ。
熱い液体が体の奥へと染み渡る。
喉を通る琥珀色の液体は官能的なまでの豊かな香りで、溜息を吐く事にさえ快感を覚えた。
ノパ听)「はぁ、とんだ糞旅行だ」
溜息交じりに毒づく。
全員が例外なくあの事件の関係者であるということは、偶然ではないだろう。
ノパ听)「……」
何かを見落としている気がしたが、ヒートのスマートフォンの振動音がそれを阻害した。
ノハ;゚听)「あれ?」
画面を見ると、メールの受信に失敗したという通知があった。
電波は無く、代わりに、非常に微弱なWi-Fi電波を受信していることが分かった。
電話は出来ないが、この状態であればインターネットに接続することは出来る。
- 27 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:35:45.515 ID:rnOeHQJa0
- 急いでインターネットのページを開こうとしたが、制限がかけられているのか、検索エンジンさえ開けない。
そして閃く。
匿名掲示板のURLを直接入力し、接続を試みる。
数秒して、シンプルな掲示板のトップ画面が現れた。
ノパ听)「鮫島事件そっくりじゃねぇか」
語り継がれる鮫島事件の共通点の一つ。
それが語られるのは口頭ではなく、全て同じインターネットの匿名掲示板上であるという点。
ある意味ではそれが目くらましの効果をもたらしているのだが、今のような状況があったとしたら、合点がいく。
彼らはここにしか書き込めなかったのだ。
インターネットの坩堝。
もしくは、痰壺のような、そういった混沌とした場所に書きこむことで希望を見出そうとしたのだろう。
いきなり真実を書き込んだとしても、それを信じる人間はまずいない。
だから彼らは自分の状況を書き込み、少しでも、一人でも多く話を聞いてくれる人間を作るための努力。
そしていざ真実を書き込もうとした時、何かが起きたのだ。
いや、恐らくは、書き込むところまで誘導され、真実を書き込む直前で遮断されたのだろう。
人は希望を失う瞬間と同じぐらい、他人の希望を奪う事に悦びを見出す生き物なのだ。
なるほど。
ブーンと言う男。
実に食わせものだ。
ここまでは全て計算されており、次にヒート達がどう動くのかを見ようとしている。
実に悪趣味極まりない男だ。
ならばその想像通りに振る舞い、最後に打ち砕く。
酒と肴を貪るように胃に収め、ヒートは眠りにつくことにした。
‥…━━ 23:56 ━━…‥
――女は深い眠りについていた。
エアコンの効いた部屋は少し寒いぐらいだ。
そのためか、薄手のタオルケットをかけて眠っていた。
どうやら酒を飲んだらしく、侵入者に気付いた様子はまるでない。
哀れな姿だ。
傲慢な態度は所詮起きている時だけの話。
覚醒していなければただの肉の塊だ。
肉の塊。
人間を自然の一部と考えれば野菜と同じだ。
だからこれからするのは収穫と同じ。
その命を刈り取る作業。
それはこの女がよく分かっているはずだ。
「……」
では。
命をもってそれを証明してもらおう。
注射器を使って即効性の麻酔を注射し、体の自由を奪う。
- 28 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:37:23.563 ID:rnOeHQJa0
- 2分後。
女の顔を拳で殴って効力を確認した。
起きる気配はない。
切れ味の悪いナイフで女の喉を一閃。
力任せの一撃で女の喉元は抉れ、鮮血が噴出した。
血が白いシーツを染め上げ、次なる一閃が女の口を切り裂く。
声を奪った。
口を奪った。
さぁ、次は何を奪おう。
昆虫の四肢を千切るように、ナイフは女の関節の付け根に乱暴に差し込まれ、抉り、そして肉を千切った。
目を見開き、女が驚愕のまなざしを向けてくる。
嗚呼。
その目だ。
その目が見たかった。
怒りと絶望が入り混じり、どうしようもないと悟った時の目。
実に美しい。
この世の何よりも美しい。
まるで宝石の様だ。
2つある宝石の1つをナイフで抉り取る。
涙と血が混じった液体が溢れ出る。
まだ温もりの残る眼球を口に含み、飴のように舐める。
そして。
前歯で噛み砕く。
噴き出す汁が女の顔にかかった。
まだだ。
まだこの女は使える。
知的好奇心を満たすための貴重な道具である人間には、使い道がまだまだあるのだ。
足を広げて下着を剥ぎ取り、恥部を露わにさせる。
麻酔で四肢が弛緩している人間を犯すのは初めてだが、それ故に、実験のし甲斐がある。
濡れていない膣にナイフを差し込み、抉った。
柔らかい肉が削れ、血が出た。
これで潤滑油の代わりになる。
女の声が無いのが残念だ。
これで悲鳴が聞こえればよかったのだが、最初に声を奪ってしまったのだから仕方がない。
まだ時間はあるため、出来る事と楽しめることを少しずつ探していこう。
嵐の夜は、今始まったばかりなのだ。
‥…━━ 8月21日 06:50 ━━…‥
朝。
ヒートはゆっくりと体を起こし、静かに目覚めた。
割れんばかりの勢いで窓を叩く雨粒の音と風の音は間違いなく嵐のそれ。
島の散策は出来なさそうだった。
ノハ>听)ノ「んっ……くぅ」
体を伸ばし、肩の凝りをほぐす。
- 29 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:39:53.658 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「いい酒が二日酔いにならないってのは本当らしいな」
昨夜飲んだ高価な酒はヒートの舌に実によく馴染んだ。
一瓶全部飲んでも二日酔いの気配がないのはいい酒の証拠だ。
内線電話の受話器を取り、朝食を頼む。
ノパ听)「ホットサンドだ。
具はチーズとハム、それとレタスだけでいい」
「かしこまりました」
まるでホテルのように返答した男の声は、明らかにボイスチェンジャーによって声色が変えられていた。
このまま本当に全てが終わるとは思えない。
警官としての勘がヒートに伝えるのは、嵐の中に潜んだ別の気配。
事件の気配が目覚めた時からヒートのうなじを逆立てさせ、落ち着かせない気分にさせていた。
修羅場をくぐり続けてきた人間にだけ分かる空気の変化。
この島で、何か大きな事件が起ころうとしている。
これが考えすぎであればいいのにと思うが、朝食後、その期待は裏切られることとなる。
‥…━━ 08:30 ━━…‥
(;´・ω・`)「ヒート! 起きてるか!?」
ドアを破壊するぐらいの勢いで叩かれれば、例え寝ていても起きるだろう。
ベッドの上で読み途中だったジョン・グリシャムの小説に栞を挟み、ヒートは苛立ちの籠った声で返答した。
ノパ听)「煩いな、起きてるよ」
(;´・ω・`)「す、すぐに来てくれ! 大変なことになった!」
ノパ听)「誰か寝小便でもしたのか?
ならそっちで処理してくれ、あたしは忙しいんだ」
そう言いつつ、ヒートは拳銃を腰のホルスターに収め、ジャケットで隠した。
いつでも部屋から出て行ける。
例えショボンの言葉が偽りでヒートを襲おうとしたとしても、返り討ちに出来る。
チェーンは外さずに扉を開けると、そこには血相を変えたショボンの顔があった。
(;´・ω・`)「トソンが殺されたんだ! それに、繋いでおいたオットーもいなくなってる!」
これが目覚まし代わりにならなくて心底よかった。
人が殺されたことで警官が狼狽してどうするというのか。
警官であれば現場保全に力を割くべきであり、こうして混乱の種を広めるのは過ちだ。
ノパ听)「分かった、今行く」
一旦扉を閉じる、目頭を指で押さえた。
朝食についてきたオレンジジュースを一気に飲み干し、紙ナプキンで口元を拭ってからヒートは扉を開けた。
(;´・ω・`)「現場がとにかくひどいなんてもんじゃない……
あんなに酷い死体は初めて見た」
ノパ听)「何であたしがそんなグロイところに呼ばれないといけないんだ?」
(;´・ω・`)「君、ジャーナリストだろ?
何か気付くことがあれば力を貸してほしいんだ」
- 30 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:44:08.452 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「嘘吐くなよ。
あんた、あたしも容疑者として考えてるんだろ?
大方、全員を呼んでアリバイを確認し合うって算段か」
ショボンが押し黙る。
腐っても警官。
容疑者が逃げないように固めておくという鉄則は守るらしい。
立ち回りは流石だ。
自分は絶対に疑われない位置に立ち、周囲を平等に扱っている風を装っての意志操作。
悪人そのものの動きだ。
(´・ω・`)「……ヒート、君は大分頭が回るようだね」
ノパ听)「あんたも悪知恵は良く回るらしいな」
(´・ω・`)「ジャーナリストは皆君みたいな人間なのかい?」
ノパ听)「どうだろうね。 警官は皆あんたみたいな人間なのか?」
それから無言で1階の大広間へと向かう。
長机を囲んで座る2人の面持は暗く、沈んでいる。
ξ;゚听)ξ「くそっ!! 昨日の内に消しておくべきだったのよ、あの男は!!」
/;。゚ 3「落ち着くんじゃ、慌てたところで仕方がない。
それより、ブーンを探して警察を呼んだ方がいい。
これは極めて悪質な殺人事件じゃ」
(´・ω・`)「駄目だ。 さっきから城中を探し回ったけどブーンはどこにもいない。
ボディーガード達はおろか使用人らしい人たちもいないんだ」
相手は3人。
この状況。
ヒートにとっては不利な場面だが、立ち回り方次第では危機を回避できるはずだ。
まず、これ以上余計な情報を自ら発することを止めなければならない。
今ショボンが放った一言も罠だ。
ヒートの朝食が運ばれてきた事を考えれば、使用人はいるはずなのだ。
ましてやこの嵐の中。
城の外に出ていくとは考えにくい。
探索し切れていない隠し通路の類があってもおかしくはない。
ノパ听)「それより、現場はどんな感じなんだ?
当然、写真に撮ってあるよな?」
(´・ω・`)「あぁ、これだよ」
ショボンがスマートフォンの画面を見せる。
そこに映っていたのは、ヒートの予想を超えた惨状だった。
赤黒く変色した血の色がまずは視界に飛び込んできた。
シーツがまるで雪のようだ。
ベッドの中心には人間だった物が横たわっている。
- 31 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:46:54.215 ID:rnOeHQJa0
- 次の写真には、人の顔をぎりぎり保っている死体が映されていた。
だが肉が抉られ過ぎて何がどう傷つけられているのかがよく見えない。
少なくとも眼球が1つ潰され、眼窩に無理やり詰められているのは確実だ。
次の写真は部屋の窓に鍵がかかっているものだった。
飛び散った血が生々しさを物語っている。
ノパ听)「酷いな」
(´・ω・`)「どうやら薬を盛られて、意識のある状態で殺されたらしい。
犯人に人の心はないだろうよ」
ノパ听)「時間は?」
(´・ω・`)「ざっとした見積もりだが、昨夜から未明にかけてだろう。
その時間、君は何をしていた?」
ノパ听)「寝てた」
(´・ω・`)「それを証明する人は?」
ノパ听)「あたしだ」
ξ゚听)ξ「ちょっと、もう少し協力しなさいよ!!」
ノパ听)「煩いな。
あのな、あたしを疑ってるんなら時間の無駄だから今すぐに止めろ。
怪しさの点で言えばおまわりさん、あんたの方が濃いぞ」
(´・ω・`)「どういうことかな?」
ノパ听)「どうしてトソンの部屋に行った?
どうして扉を開けて部屋の中に入った?
先にその理由を言ってみろよ」
/ ,' 3「言い争いは止めんか。
なぁ、お嬢さん。
今は状況の整理が目的であって、わしらの中の犯人捜しをしているわけではないんじゃ」
ノパ听)「だとしたら今すぐにこの野郎の口の効き方を直すべきだな。
まるで犯人扱いされてご機嫌な人間がいるんなら別だがよ」
(´・ω・`)「……すまない、職業柄どうしても全てを疑わないと気が済まなくてね」
全てを疑う、と言う割にはヒートにだけその疑いの目が向けられていたのは果たして偶然なのだろうか。
この男の評判はそこまで聞いていない。
つまり、凡夫と言う事だ。
いや、役立たずと言っていいかもしれない。
ノパ听)「……」
肩を竦め、続きを促す。
ショボンは軽く咳払いをして、話を続けることにした。
(´・ω・`)「僕がトソンを訪ねたのは、僕らは朝食を皆で食べる約束をしていたのに来なかったからだ。
彼女は約束を守る人間だから、おかしいと思って部屋に行ったんだ。
鍵はかかっていなかったよ」
ノパ听)「じゃあ密室って訳じゃないのか」
- 32 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 20:50:49.783 ID:rnOeHQJa0
- (´・ω・`)「そう、そこが問題なんだ。
そして、オットーを閉じ込めておいた部屋に行ったらもぬけの殻だった。
ロープで縛ったんだが、それを解いたらしい」
それはつまり、誰にでも犯行は可能だった、と言う事だ。
その状況がありながら最初に疑いの矛先を向けてきたのは、彼らのグループと連携を取らなかったからだろう。
オットーでなければ、ヒートしかいないというわけだ。
ノパ听)「オットーの行方は?」
/ ,' 3「どうも、奴は窓から外に逃げたらしい」
ノパ听)「いたのは何階なんだ?」
/ ,' 3「4階じゃ。 窓の傍がまだ濡れておった。
つまり奴は嵐がここに来た時に部屋を出て行ったことになる」
ノパ听)「部屋は今手つかずか?」
/ ,' 3「そりゃあ勿論。
ただ、流石に窓は閉めておいたぞ」
ノパ听)「それは手つかずとは言わねぇんだよ、爺さん。
まぁいい、オットーの部屋に行ってみよう。
全員で、な」
ショボンを先頭に、4人はオットーの部屋に向かった。
指紋が付かないように扉をハンカチ押さえて開き、ショボンが最初に、続いてヒートが入る。
ローテーブルには空のグラスが2つと、バーボンとワインのボトルが1つずつ。
グラスの傍に行き、ヒートはその香りをかいだ。
ノパ听)「……妙だな」
(´・ω・`)「何がだい?」
ノパ听)「グラスが2つ出てる」
(´・ω・`)「違う種類の酒を飲みたかったんだろ」
ノパ听)「……いいや、違うな。
注がれているのは同じ酒だ」
グラスに残る香りは同一の物だった。
独特の甘い香りはバーボンのそれ。
ノパ听)「同じ酒を違うグラスで飲む奴はいない。
この部屋に、もう一人いたんだ。
それが誰だかは知らないけどな」
(´・ω・`)「……君はジャーナリストよりも警官の方が向いているよ、ヒート。
つまり、誰かがオットーを逃がしたと?」
ノパ听)「可能性の話だがな。
だがそれが一番確実だろ」
ξ゚听)ξ「私達の中にいるって言いたいの?」
ノパ听)「いいや、誰もあいつに手を貸して得をする人間がいない。
あたしの知る限りではね」
- 34 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:08:57.638 ID:rnOeHQJa0
- / ,' 3「じゃが、そうすると誰が……」
ノパ听)「例えば、ブーンとかな」
ξ;゚听)ξ「それこそありえないでしょ。
私達に真実を話すって言っている人間が、わざわざ人殺しを匿うなんて」
ノパ听)「オットーの言葉を思い出してみろよ。
あいつは鮫島事件に関する何かしらの情報を知っていた。
それに、ブーンが真相を話して得することは何だ?
逆に鮫島事件に興味を持っている人間を殺すために呼んだかもしれない」
オットーの話が本当であれば、事態は少なくとも警察が絡んでいる。
となれば、国家が絡んでいる事件と考えてもいい。
その事件に興味を持つ人間をこうやって呼び出し、殺せば、いつかは完全に物語と化す。
ノパ听)「だが全部は憶測に過ぎない。
こういう時には下手に単独行動をとると命取りになる。
犯人捜しをするぐらいなら全員でこの城の探索をした方がまだ有意義だ」
ξ;゚听)ξ「あんた、馬鹿でしょ!!
オットーのいるかもしれないこの城で探索?!
危険よ!!」
ノパ听)「あたしは案を出しただけで、別にそれを強制するつもりはねぇよ。
じゃ、あたしは行くよ」
(;´・ω・`)「まぁまぁ、そう急くこともあるまいよ」
ノパ听)「あるさ。 トソンを殺した人間がこの城に潜んでいないとも限らないし、ブーンがいれば先に鮫島事件の話を聞いてあたしは帰る」
怪しいのはこの城の1階だ。
恐らく、どこかに隠し通路があってそれが地下に通じているはず。
そしてその地下にブーンは身を潜めているか、地下を通じて別の場所にいるはず。
ヒート達だけをこの城に残しておく利点が無い。
監視カメラなどで今の様子を見ていると考えると、実に腹立たしい。
これでは囚人を利用した実験だ。
ブーンを見つけて話を聞き次第、すぐにこの島から出て行きたかった。
長居をすれば他の面倒事に巻き込まれかねない。
ヒートは広間を出て、城の壁や床に目を向けて手がかりを探し始めた。
後ろから足跡が聞こえ、ショボン達が露骨に嫌そうな顔をヒートに向けている。
その存在と視線に気づいたが、黙殺することにした。
構ってやる程暇ではない。
(´・ω・`)「なぁ、オットーを逃がしたのは本当にブーンなのか?
ひょっとしたら、僕たち以外にこの島に来ている人間がいて、オットーを逃がしたのかもしれない」
ノパ听)「まぁ可能性はゼロじゃねぇな。
だとしたら、あたし達と同じようにこの島に呼ばれた人間だろうな」
全ては推測にすぎない。
ブーンの指定した時間までにこの事件を解決しなければ、何かろくでもないことになる気がしてならない。
膿は早く出しておくに限る。
‥…━━ 08:55 ━━…‥
- 35 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:12:19.441 ID:rnOeHQJa0
- 最初に疑問を口にしたのは荒巻だった。
/ ,' 3「んん?」
ノパ听)「どうした?」
/ ,' 3「いや、大したことじゃないんじゃが……
この城の構造が少し気になっての」
ノパ听)「構造?」
/ ,' 3「全部の階が同じ構造で、部屋数や構造も同じ。
だが1階だけが異なる理由が分からなくてのう」
ようやくヒートの行動が理解出来たらしい。
そんな荒巻に対して無知をさらけ出したのはツン。
ξ゚听)ξ「比較的新しいから、その辺は考慮していないだけじゃないかしら?
手抜きよ、手抜き」
ノパ听)「手抜きをするなら5階建てにする必要はないだろうよ。
大方、別荘や税金対策の城だろう。
何にしても、地下室は絶対にありそうだな」
ξ゚听)ξ「自信ありげね。 どこから来るのかしら」
ノパ听)「経験だよ。 卑しい考えの人間は山ほど見て来たからな」
/ ,' 3「……ふむ。 構造の異なる部屋を中心に探してみようかのう」
ノパ听)「そうだな。 だがそうなると入り口が……」
そして気付く。
ノハ;゚听)「入り口は外にあるのか」
壁を叩いていたショボンが目を見開く。
彼も気付いたようだ。
(;´・ω・`)「窓から外に逃げた、ということは外に入り口があるから……
そう言う事か!!」
ノパ听)「仕方がねぇ。 雨具は意味がないだろうから、懐中電灯だけで行くしかねぇな」
(;´・ω・`)「よし、僕も行くよ。 何か武器になりそうな物も探してくる」
ξ;゚听)ξ「ちょっと、本気? この嵐の中外に出るなんて、馬鹿のする事よ!」
ノパ听)「なら引きこもってろよ」
ξ#゚听)ξ「……ねぇ、ヒートさん。 あなた、私に対して随分な口を利くのね。
何か恨みでも買ったかしら?」
ノパ听)「文句しか言わない人間を好きになる奴がいるんなら、あたしはそいつを尊敬するよ。
あんた、自分が全く生産的な意見を言っていないって気付いてるか?
否定と罵詈雑言だけじゃねぇか」
流石にヒートの堪忍袋もそろそろ限界だ。
この女。
致命的なまでに空気が読めない。
- 36 名前: ◆n8vcLxTNN6[gl/5] 投稿日:2017/08/25(金) 21:15:43.636 ID:rnOeHQJa0
- ξ#゚听)ξ「いい? 私は色々なところに顔が効くのよ?
あんたがどこの出版社に所属していてもそれを潰せるだけのコネが――」
ノパ听)「――今すぐ黙らねぇと昨日みたいに地面を這わせるぞ」
ξ#゚听)ξ「調子に乗るんじゃないわよ!!」
容赦なく繰り出したヒートの掌底が正確にツンの鼻っ面を捉え、ツンは背中から床に転がり、顔を押さえて悶絶した。
赤黒い血が手の間から流れ出ている。
感触的にも鼻の骨は折れたらしい。
ノパ听)「警告はしたぞ。
ほら、今すぐお前の言うコネを使ってみろよ!!」
/;,' 3「暴力はいかんぞ、暴力は」
ノパ听)「悪いな。 あたしは言動が素直な人間なんだ。
腐った女みたいな話し合いをしたいんなら、他の人間を探してくれ」
‥…━━ 09:15 ━━…‥
嵐の中、入り口探しは難航していた。
まず、部屋にあった懐中電灯は防水仕様ではなかったため、5分も使っていたら使い物にならなくなった。
体が吹き飛ばされそうになりながらも、城周辺の捜索が続けられた。
時折雷鳴と雷光が作業を中断させ、空に目を向けさせる。
ノハ#゚听)「くそっ、何もありゃしねぇ!!」
(;´・ω・`)「これだけの広さだ!!
自然物が入り口になっている可能性だってあり得る!!」
/ 。゚ 3「だが、水害を受けない場所なのは確実じゃ!!
浸水しないような、死角になっているところを重点的に探すぞい!!」
3人は城の外壁に沿って一定の感覚を開けて歩き、あるかどうかも分からない地下への入り口を探していた。
大声で怒鳴らなければ互いの声が聞こえない状況は決していいものではない。
岩があればそれを蹴ってみたり、人工物があればとにかく押したり引っ張ったりと、あの手この手で捜索活動が続く。
城を一周して分かったのは、城が正方形で構成されており、四隅に至るまで全て同じ作りをしているという事だった。
木の下に集まり、3人で成果を話し合う。
ノハ;゚听)「すまねぇ、外にはなさそうだ!!」
(;´・ω・`)「仕方がない、中に戻ってもう一度探索しよう!!
時間はまだあるんだ!!」
/;。゚ 3「構造が違う場所……
一か所だけあるぞ、この城に!!」
(;´・ω・`)「どこにあるって?」
/;。゚ 3「この城の入り口じゃ!!
あの扉は儂等の死角!
ほとんど気にかけない場所であるが故に堂々と隠せる!」
なるほど。
確かに、理にかなった意見だ。
か細い理ではあるが、何もないよりかは遥かにいい。
- 38 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:20:57.566 ID:rnOeHQJa0
- ノハ;゚听)「よし! 入り口に行こ――」
その時。
雷光が周囲を照らした。
それは自然のもたらしたまったくの偶然だった。
だが。
ノハ;゚听)「――おい、ありゃあ何だ?!」
城の壁にぶらさがるそれは、偶然の産物などではない。
(;´・ω・`)「ブーン?!」
それは糸の切れたマリオネットのような姿をしていた。
腕と足の位置は逆になり、左右は反転していた。
だが、風に揺れる首が果たしてどの位置が正常なのかによってそれも変わってくる。
今は胴体の下に位置しているから、少なくとも上下は反転しているはずだ。
風に揺れ、血の気の失せた顔がヒート達を向いている。
恐らくは細いワイヤーで吊るされているのだろう。
(;´・ω・`)「どうなってるんだ?!
どうして?!」
/;。゚ 3「まずいぞ!!
オットーは儂等を皆殺しにするつもりなんじゃ!」
ノハ;゚听)「あの位置……
オットーの部屋の上か!!」
つまりは5階。
殺された時間帯は不明だが、もしもこれが昨夜の犯行であれば、ヒートが寝ている隣で殺人と死体遺棄が行われたことになる。
(;´・ω・`)「一旦戻ろう!!
ツンが心配だ!!」
3人は一斉に駆けだした。
扉を押し開き、ツンが待機しているはずの部屋に向かって走る。
ショボンとヒートが先に走り、遅れる荒巻が大広間を覗いて確認の声を上げる。
/;。゚ 3「大広間にはいない!!」
(;´・ω・`)「部屋だ、部屋にいるはずだ!!
2階の角部屋だ!!」
ショボンとヒートは階段を駆け上り、ツンがいるはずの角部屋の扉を叩いた。
(;´・ω・`)「おい、ツン!! いるか!!」
返事はない。
ショボンが扉のノブを回すが、内側から鍵がかかっているようでびくともしなかった。
(;´・ω・`)「おい!! 開けるぞ!!」
ノハ;゚听)「足を貸す!!」
2人は息を合わせて、扉を蹴破った。
だが部屋には誰もいなかった。
- 39 名前: ◆n8vcLxTNN6[VhFyn] 投稿日:2017/08/25(金) 21:22:15.715 ID:rnOeHQJa0
- (;´・ω・`)「いない……のか?」
ノハ;゚听)「いや、待て……」
五感の全てが一瞬でヒートに警告した。
この部屋には舌先で味が分かる程に血臭が満ち、水とは違う粘度のある液体が滴る音が聞こえ、浴室に続く床に血痕が見え、靴越しに感じる絨毯はヒートよりも重い誰かに踏まれた後であることが分かる。
2人は慎重に浴室に進み、そして、絶句した。
‥…━━ 10:10 ━━…‥
ツンは裸で肩まで風呂に浸かっていた。
赤黒い液体で満ちた湯船。
血の気の失せた体。
虚ろな視線は己の血を見下ろし、口は縫い合わされていた。
血の量に対して浴室は全く汚れが無く、本当に赤黒い湯に浸かっていると錯覚しそうだった。
(;´・ω・`)「嘘……だろ……」
ノハ;゚听)「城の中にいたってことか……!!」
息を切らせながら部屋に入ってきた荒巻もツンの死体を見て言葉を失った。
/;。゚ 3「な、何……!?」
6人いたはずのメンバーが、これで3人となった。
内2人は惨殺。
そして、当初の目的であった鮫島事件の真相を知る人間も殺された。
(;´・ω・`)「下に降りて話し合おう、すぐにでも!!」
生き残った3人はツンの遺体を調べることを諦め、大広間へと引き上げた。
もう、この島に残る理由はない。
ノパ听)「島を出て行った方がいいと思うんだが、どうだ?」
(;´・ω・`)「あぁ、賛成だ。
圏外じゃなくなったら警察を呼ぼう」
/;,' 3「うむ、賛成じゃ。
結局鮫島事件の真相は分からないままじゃが、命には代えられない」
(;´・ω・`)「なら船で行こう。
僕たちの乗ってきた船なら、燃料はまだたくさん残っていたはずだから」
ノパ听)「決まりだ、じゃあ船だ。
船に乗っていくぞ」
/;,' 3「オートクルーズなしで平気かぇ?」
ノパ听)「方角さえ分かればどうにかなる。
そうすりゃ、その内電波を拾うさ」
3体の死体はこの島に残す。
一応、ヒートはその全てを写真に収めていた。
後日警察が介入した際に、必ず役立つはずだ。
ノパ听)「まずは食料を部屋中から集めよう。
全員で一緒に行動するぞ」
- 41 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:23:53.504 ID:rnOeHQJa0
- (´・ω・`)「よし、なら他にも使えそうな道具を探すことにしよう。
常に互いの姿を見えるように行動して、何かあったらすぐに声に出すようにする。
いいね?」
/ ,' 3「異議なしじゃ」
ノパ听)「あたしも異議なしだ」
食料品は根こそぎ集められ、ベッドのシーツやカーテンレール、針金などが揃った。
中でも収穫だったのが裁縫セットとポットだった。
針と糸が手に入ったことにより釣道具を作る事ができ、ポットには真水とお湯を保管できる。
水があれば人は約一か月生き延びられるというデータがある。
食料はどうにかなるとして、海上では何より真水の確保が大変なのだ。
武器として使えそうだったのはナイフぐらいで、後は金属製の長い靴べらぐらいだ。
漂流してからも使えるであろう木の板や電池、衣類や懐中電灯、使い捨てライターなどが集められた。
確実に運搬するために、それらは備え付けの箪笥にまとめられた。
‥…━━ 11:25 ━━…‥
(´・ω・`)「よし、道具はこの辺でいいだろう」
荷の確認が済み、いよいよ船へと運び出す段階まで持ち込めた。
出来る限りの備えはした。
後は、詰んだ船が無事にどこかの港へ到着できるかどうかだ。
体力のあるヒートとショボンが重めの荷物を持ち、老体の荒巻は軽い荷物を持つ代わりに道の確保を担当することとなった。
/ ,' 3「よし、行くぞ!!」
荒巻が入り口の扉に手を伸ばしかけた瞬間、ヒートのうなじが総毛だった。
ノハ;゚听)「待て!! 扉から離れろ!!」
/ ,' 3「ん?!」
ノハ;゚听)「嫌な感じがする……
なぁ、あたし達がこうして島から逃げようとするってことは誰でも考え付くだろ?
あたし達を全員殺すつもりなら、必ず罠を張ってるはずだ。
目を離した間にツンが殺されたのを考えると、相手はまだこの城の中。
扉に何か細工をしていても不思議じゃない」
(;´・ω・`)「一理ある……
そこにある花瓶をぶつけてみるか」
荒巻は扉から下がり、ショボンはローテーブルに置かれていた花瓶を手に取った。
勢いをつけてそれを扉に投げつけ、安全を確認する。
特に変化は起こらなかった。
/;,' 3「よ、よし。 警戒しすぎるぐらいがいいんじゃ。
慎重に行くぞい」
気を取り直して荒巻が扉を引く。
だが扉はびくともしなかった。
何度も力を入れて扉を引くが、変化はない。
/;,' 3「開かない……!!」
- 42 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:26:25.094 ID:rnOeHQJa0
- 今一度、荒巻が腰に力を入れて扉を引いた時、異変が起きた。
気付いたのはヒートだけかもしれないし、勘違いかも知れないが、扉が水平に動いたように見えたのだ。
ノハ;゚听)「おい、扉が……!!」
/;。゚ 3「開けぇぇぇ!!」
結論から言えば、警告は辛うじて間に合った。
その手に違和感を覚えた荒巻が数歩下がり、今正に己に倒れ掛かってきている鋼鉄の扉を見上げ、脱兎の如く後退した。
巨大な金属音が周囲に響き渡り、衝撃が床と壁を揺らした。
コンマ数秒遅れていたら、荒巻は扉の下敷きになっていた事だろう。
/;。゚ 3「あ、あぶ、危なかった……!!」
ノハ;゚听)「手の込んだ細工をしやがる……」
この仕掛けはまだ新しいはずだ。
ヒート達の出入りは不規則で、狙ったタイミングで扉が倒れてくるように仕向けるのは運の要素が強すぎる。
つまり、ヒート達が外から城の中に戻って部屋を探索している間に行われたのだろう。
(;´・ω・`)「船に急ごう!!」
気を取り直し、3人は嵐の中に再び突入することにした。
嵐は先ほどと変わりなく強い雨風が吹き荒れていた。
海上は白波で泡立ち、岩辺に打ち付けられた波がマグマのように爆ぜて飛沫が上がる。
桟橋に繋がれている船が木の葉のように揺られ、何度も転覆しそうになっていた。
/;。゚ 3「急げぇぇぇ!!」
船が沈む前に乗らなければ。
この状況下であれば、誰だってそう考える。
ノハ;゚听)「だから、落ち着け!!」
声は届かない。
嵐がヒートの警告を打消し、荒巻は即座に船に乗り込む。
荷物を素早く船倉に投げ入れ、エンジンを始動する。
/ 。゚ 3「早く乗るんじゃ――」
――そして。
そして爆音と共に荒巻の姿が紅蓮の炎に包まれ、爆炎が船を上空高くに舞い上げた。
空中で何度か爆発を起こし、最後に、船首から海に落下した。
持っていた荷物を取り落とし、ショボンは黒煙の立ち上る方角を見て言葉を失っている。
ヒートも同じく言葉を失っていた。
この犯人は一体どこまで徹底しているのだ。
(;´・ω・`)「……くそっ!! くそっ!! 糞ぉぉぉ!!」
ノハ;゚听)「船が使えねぇとなると、大分追い詰められたぞ!!」
(;´・ω・`)「城に戻って作戦を練ろう!!
この嵐の中じゃ、僕たちに出来ることはそんなにない!!」
ノハ;゚听)「分かった!!」
- 43 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:30:17.386 ID:rnOeHQJa0
- 荷物を拾い、2人は城へと駆け戻った。
頭から水を被った状態のため、冷房の効いた城内は寒いぐらいだ。
(;´・ω・`)「3階の角部屋に行こう。
そこなら敵は一方からしか来れない」
ノハ;゚听)「あぁ……」
それは逆にヒート達の逃げ道も1つになるという事でもあるが、言わずにおいた。
追い詰められたと考えるか逃げおおせたと考えるのかは、本人次第だ。
ヒートは全ての点でこの状況を考えていた。
犯人の攻め込む道を1つに絞ったことにより、直接対決が可能となる。
相手を殺した方の勝ち。
結局ヒート達が得る物は何もなかったが、生還できれば上出来だ。
この状況であれば、それが唯一ヒート達の得る物だろう。
部屋に入り、すぐにチェーンと鍵をかける。
扉の前にバリケードの代わりとしてイスと机を積み上げ、全ての窓の鍵を確かめた。
(´・ω・`)「どっちが先にシャワーを?」
ノパ听)「レディーファースト、とは言わねぇよ。
好きに選んでくれ」
(´・ω・`)「じゃあ、僕が先にシャワーを浴びよう。
その間、任せたよ」
ノパ听)「あいよ」
ショボンはバスルームに向かい、ヒートはソファに腰かけて出入り口に目を光らせることにした。
念のため、クローゼットやベッドの下など、人が隠れられるスペースを調べたが何もなかった。
ノパ听)「……鮫島事件、ねぇ」
結局、鮫島事件の真相は闇の中。
それを知ろうとした人間が全員殺されることで幕を降ろすのかと考えると、やはり、鮫島事件は実際に起きた事件だと考えるのが自然だ。
そうでなければここまで必死になる必要はない。
では何を隠したいのだろうか。
そこまでして知られたくない事件。
関連していると考えられるのは、オットーの言っていた薬品だ。
全てが推測でしかないが、その薬が人間の言動に多大な影響を及ぼす薬物であり、その開発に国が関係していると思われる。
所詮は薬だが、薬の開発には多くの利権がからんでくる。
例えばその薬品が極めて効果が高く需要のある物だとしたら、大きな利益を生み出す。
勿論、その製造方法が他社に知られなければ利益は独占できる。
そこに国が一枚噛んでいたと考えてもしても不思議はない。
世界中に蔓延する病気の特効薬が製造されれば、世界中がそれを欲しがる。
例え対立関係にある国だとしても、その薬が必要とみなされれば、交渉の場に必ず出てくる。
あくまでもこれは薬品が鮫島事件の中心にあると仮定しての話だ。
ノパ听)「ネットは…… おっ!」
- 46 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:35:26.417 ID:rnOeHQJa0
- スマートフォンがWi-Fiの電波を掴んだ。
すかさずインターネット掲示板を開き、最も人の出入りが多い板を開く。
そして、スレッドを建てることにした。
ノパ听)「鮫島事件について……っと」
タイトルと本文を入力して、スレッドを建てることに成功した。
10数秒後、反応があった。
ノパ听)「懐かしい話題だな……か」
やはり、鮫島事件は今では風化しつつある都市伝説。
それに多くの人間があれはインターネット上のジョークであると結論付けている。
今では知らない人間の方が多いはずだ。
ノパ听)「本当の話らしい、っと」
やり取りを数分続けたが、誰もヒートの言葉を信じるような人間はいなかった。
それはそうだ。
仮に自分が同じ立場だとしても、ヒートの話を信じることはしない。
インターネットは互いの顔を見ることが出来ない特性があるため、嘘を嘘と見抜けない人間は利用するべきではないのだ。
(´・ω・`)「お待たせ」
ノパ听)「気にすんな」
更衣室で濡れた服を全て脱いだが、ベレッタだけは浴室に持ち込むことにした。
広い浴室にはまだショボンが使ったであろうシャンプーの匂いが残り、湯気も立ち込めている。
熱いシャワーを頭から浴び、一息つく。
冷えていた体が温まっていくのがよく分かる。
気分も心なしか落ち着いてきた。
湯船には浸かる気になれなかったため、手短に体と頭を洗い、ベレッタを手に風呂を出る。
タオルで全身を拭き終り、下着を身に着けた時、ヒートは何か物音を聞いた気がした。
ノパ听)「ショボン!! 大丈夫か?」
返事はない。
すぐに着替え、バスルームからベッドルームに向かう。
そこにショボンの姿はなかった。
代わりに窓が開け放たれ、風が不気味な音を立てて部屋の中に入ってきている。
窓は割られた後が無く、内側から開けられていた。
ベレッタを構え、ヒートは窓の下を慎重に覗き込んだ。
暗闇の中には何も浮かび上がってこない。
窓と鍵を閉め、ヒートは思考をフル回転させ、ショボンに何があったのかを考えた。
巻き込まれたのであれば、侵入された形跡があるはずだが、窓は内側にしか鍵がない。
つまり内側から開けたことになる。
室内にいたのはヒートとショボンの2人だけ。
消去法で開けたのはショボンと言うことになる。
だが何故開けたのだろうか。
この状況下で、どうして窓を開けたのか。
開けてでも手に入れたい何かがあったのか。
- 48 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:40:32.627 ID:rnOeHQJa0
- ノハ;゚听)「残りはあたしだけか……」
アタッシュケースから予備の弾倉を取り出し、それをスラックのポケットに詰めた。
今、ベレッタだけがヒートの仲間と化していた。
嵐が過ぎ去るのを待ち、いかだにでも乗って逃げるべきか。
それとも、ネット掲示板に助けを求める書き込みをするべきか。
ノハ;゚听)「……」
深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。
壁際にソファを引きずっていき、そこに深く腰掛けた。
24時間と経たずに4人が殺された現実は、ヒートの中に眠る感情に火を点けた。
幼少期に抱いた感情。
復讐を果たしたいと願う人間の感情だった。
出会ったばかりの人間達に特に思い入れがあるわけではない。
だがそれでも、ヒートは警官だ。
犯人を見つけ、罪を償わせなければ気が済まない。
罪には罰を。
罰があるから罪があるのではない。
罪があるから罰があるのだ。
罰は必ず受けさせる。
この手で、必ず。
ノハ#゚听)「絶対に許さねぇ」
‥…━━ 12:55 ━━…‥
ヒートは嵐が過ぎるのを待ちながら、掲示板の反応を見ていた。
反応はいまいちで、ほとんどが昔を懐かしむレスか悪ふざけの延長線上の書き込みしかない。
そんな中、興味深いレスが1つだけあった。
(:::::::::::)『詳しくは言わないけど鮫島事件の鮫島は人の名前のこと』
ヒートはすぐに反応した。
ノパ听)『もうちょっとヒントを』
だがそれ以降、そのIDからの返答はなかった。
他の板にいるかどうかも調べたが、その1レスだけしか書き込まれていなかった。
人名。
ヒートは思考した。
これが正しい情報であるかは別として、考えてみる価値はありそうだ。
鮫島、と言えばニュー速国の元大統領で、死刑廃止の法律を定めた張本人だ。
国のために尽くした人間として知られ、死刑廃止に反対していた若者によって殺された男。
世間は広く、鮫島と言う名前を持つ人間はごまんといるだろう。
ただの偶然か、それとも――
ノハ;゚听)「……待てよ」
――ヒートの頭の中で、パズルが組み合わさった音がした。
- 49 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:45:07.563 ID:rnOeHQJa0
- ノハ;゚听)「……」
この事件。
ヒートの勘が正しければ、犯人はオットーではない。
最低限の荷物をアタッシュケースに詰め、ヒートは全ての窓を開け放った。
風と雨が室内に入り込んでくる。
カーテンが揺れ、ベッドのシーツはめくれ上がった。
使い捨てのライターと度数の高い酒を使い、ヒートは部屋に火を放った。
風が炎を大きくし、雨だけでは消しきれない程大きなものへと成長していく。
床が燃え、天井が燃え、壁が燃えた。
ヒートは紅蓮の炎が照らし出す部屋の中、静かにその時を待っていた。
勘が正しければ、犯人は早期決着を図るためにヒートの前に姿を現す。
ノパ听)「なぁ、かくれんぼはもう止めにしようや。
蒸し焼きになりたくないだろ?」
クローゼットが開き、そこからヒートの想像した通りの犯人が姿を現した――
(´^ω^`)「あぁ、見つかってしまったか。
しかし火事にするのは反則だろう」
ノパ听)「あたしを殺そうとしてるやつ相手に反則も糞もないよ」
(´^ω^`)「まいったね、こりゃ。
いつ気付いた?」
ノパ听)「ついさっきだよ。
窓は内側から開けられていた。
部屋にいたのはあたしとあんただけだ。
となると、開けられたのはあんただけだ。
いかにも自分が窓の外に消えたかのようにして、隠れていたわけだ。
単純な手口だよ、今にして思えばな」
犯人が別にいると考えてしまえば、人間がその心理から逃げるのは非常に難しい。
だが一度抜け出してしまえば、これほど簡単な話はない。
消去法で犯人を捜し出せるのだ。
(´^ω^`)「ははっ、単純な手口だが有効だ。
これはあり得ない、などと考える人間がよく引っかかるんだ」
ノパ听)「だな。 さぁ、色々と話してもらいたいことがあるんだ」
ベレッタの銃腔がショボンの脚に向けられる。
ショボンは両手を挙げて無抵抗をアピールする。
(´^ω^`)「ただのジャーナリストじゃねぇな。
探偵か? それとも、どこかの組織の人間か?」
ノパ听)「そんな事は訊いてない。
何故ブーン達を殺した? 理由と目的を話せ」
(´^ω^`)「なぁ、取引しないか?
10億ドルをキャッシュでやる。
それでこの島の事を忘れて、日常にもどr」
- 53 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:52:15.692 ID:rnOeHQJa0
- 溜息と共に銃爪を引いた。
ショボンの左膝が赤黒く爆ぜ、バランスを崩して倒れる。
(;´・ω・`)「う、撃ちやがったな!?
こっちは無抵抗なんだぞ!!」
次にヒートは厄介そうな右肩を撃った。
(;´・ω・`)「ぎゃっ!!」
ノパ听)「質問に答えろ」
(;´・ω・`)「鮫島事件に関わろうとするな!!
お前なんかこの世界から存在ごと消されるぞ!!」
ノパ听)「上等だ。 やれるもんならやってみろ!!」
(;´・ω・`)「それに、僕は人を殺してなんかいない!!」
左肩を銃弾が抉った。
(;´・ω・`)「ひぐっ!!」
ノパ听)「そうだろうな。 そんな事は知ってるよ。
あんたがしたのは手引き、そうだな?」
ヒートを睨みつけるショボンの目に、確かな動揺の色が浮かんだ。
推測は正解だった。
ノパ听)「トソン、ツン、どっちも部屋に鍵がかかっていなかった。
どっちも鍵を確認したのはお前だもんなぁ。
まんまとやられたよ、鍵がかかっていたフリをされたとは思わなかった」
(;´・ω・`)「……」
ノパ听)「ツンの死体を詳しく調べないようにその場から退場させたのも、乗ってきた船に確実に乗るように一言添えたのもお前だ。
全員が微妙な言葉で操られていたわけだ」
(;´・ω・`)「……だからどうしたって?!
それがどうしたって?!」
絨毯に這いつくばりながらも、ショボンの威勢は衰えない。
よほどの自信があるらしい。
ノパ听)「方法はどうでもいい。
理由だよ、あたしが知りたいのは」
(;´・ω・`)「喋ると思うのか? えぇ?」
ノパ听)「そりゃあ喋らないだろうな。
だから、あんたはここで焼け死んでくれ。
運が良ければこの城の火を見て誰か来てくれるかもしれないしな」
その言葉を後押しするかのように、天井の一部が焼け落ちてきた。
もうこの部屋は長くはもたないだろう。
(;´・ω・`)「わ、分かった…… 喋る、喋るよ!!」
ノパ听)「そうか…… じゃあ」
- 55 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:55:35.668 ID:rnOeHQJa0
- ヒートは己の直感を信じ、ショボンの肺を狙い撃った。
(#´・ω・`)「ばっ!! ばっ?!」
ノパ听)「喋る気がないんだろ?
精々苦しんで死ね」
(#´・ω・`)「ごっ……!! お、おまっ……!!」
喋るはずがない。
刑事として生きながら、多くの命を奪う立場に回った男が今さら何かを喋るはずがない。
数発撃たれても口を割ろうとしなかったという事は、それだけの大きな背景がある事件なのだ。
恐らくは末端機関としての役割しか担っていないのだろう。
それだけの端役でありながら、この忠誠心は見上げたものがある。
だからこそ、もう利用価値はない。
このままではヒートが焼け死ぬことになる。
それに、まだ問題が2つ残っている。
殺人の実行犯とオットーの行方だ。
この2つが解決しなければ、ヒートはこの島から脱出することが出来ない。
(;´・ω・`)「た、助けっ……」
ノパ听)「殺された連中も同じことを思っただろうよ」
部屋を飛び出し、ヒートは一目散に出口へと駆けた。
殺人犯に心当たりはあったが、正体は分からなかった。
オットーの行方に心当たりはなく、とっくに殺されている可能性が高い。
だが死体はどこへ?
海へ捨てたのか。
それとも、埋めたのか。
城の周囲には見当たらなかったため、どこか見つかりにくい場所に隠されたのか、幽閉されたのか。
こればかりは手がかりがないため、推理のしようがない。
答えの出ないまま走り、入り口の扉が見えてきた時、物陰から黒い影が覗き見えた。
ノハ;゚听)「っ!?」
急いで止まり、壁になりそうな椅子の影に隠れた。
直後、連続した破裂音――短機関銃の発砲音――が聞こえ、楯にした椅子が粉々に砕け散った。
ノハ;゚听)「やっとおでましかよ!!」
音の方向に向けて撃ち返し、逃げる隙を作る。
すぐに弾切れを起こしたのはヒートの方だった。
ノハ;゚听)「ちっ」
拳銃と短機関銃では勝負にならない。
離れればこちらが不利なままだ。
弾倉を交換し、ヒートは相手の出方を窺う前に新たな遮蔽物として柱を選び、移動した。
すぐそばを銃弾が通り過ぎ、耳障りな虫の羽音のような音がヒートの肝を冷やした。
せめて時間稼ぎが出来ればと思い、ヒートは襲撃者に声をかけることにした。
ノハ;゚听)「お手伝いだったり殺し屋だったり大変だな!!」
- 56 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 21:57:43.840 ID:rnOeHQJa0
- 銃撃が止んだ。
再装填によるものではない。
どうやら、ヒートの推測は正解だったようだ。
この島にいる人間について、全員が誤解をしていた。
トソン、ツン、荒巻、ショボン、オットー、ブーン、そしてヒート。
この7人だけが舞台に立っていると勘違いしていたのだ。
もう1人、ヒート達の傍にいた人間を失念していた。
そう。
これもまた心理的な死角の1つ。
彼女達を城に招いた仮面の男が、まだ残されていたのだ。
「大変ではないさ」
その声。
ヒートがこれまでに聞いたどのような音よりも不愉快で、決して記憶から消されることの無かった声だった。
ノハ;゚听)「アニジャ……アニジャ・スコットピルグリム?!」
「正解だ、大正解だ」
MP7短機関銃を手に物陰から現れたのは、紛れもなくアニジャだった。
ヒートの心臓が高鳴る。
それは嫌悪と憎悪によって磨かれた宝石のような心が表出する、噴火のような瞬間だった。
( ´_ゝ`)「野菜にしては上出来だ」
その物言い。
その表情。
裁判で見た時と変わらない、頭のネジが外れた人間がいた。
姉を辱め、自殺に追い込み、それでもなお生き長らえる男。
人を人とは思わず、野菜と考える真性の精神異常者。
ヒートにとっての、復讐の相手。
様々な感情が一気に溢れ出し、それは声となってヒートの声帯を震わせた。
ノハ#゚听)「……手前、手前ぇ!!」
( ´_ゝ`)「あ? 五月蠅い野菜だな、犯すぞ」
ノハ#゚听)「やれるもんならやってみろ、この糞野郎が!!」
感情がヒートの理性を上回った。
柱から姿を出し、アニジャに向かって走りだす。
( ´_ゝ`)「いいぞ、いいガッツだ!!
そうでなきゃ犯し甲斐がない!!」
短機関銃が火を噴く。
ヒートはその銃声で理性を取り戻し、ジグザグに軌道を描きつつ接近を試みる。
だがそうそう上手くいかない。
数発の銃弾がヒートの脚を掠め、砕けた床の欠片が足の肉に食い込む。
負けじと撃ち返し、徐々に距離を詰めていく。
弾切れになったのは、今度はアニジャだった。
遊び感覚で銃を使っていたために早々に弾切れを起こしたのだ。
短機関銃はその発射速度が利点であり、弱点でもある。
- 57 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:00:35.413 ID:rnOeHQJa0
- 弾切れになったのはヒートも同じだった。
ノハ#゚听)「ぶっ殺してやる!!」
( ´_ゝ`)「ぶち犯してやる!!」
接近戦。
ヒートの所有する武器は弾切れになった拳銃だけ。
対するアニジャはナイフを取り出し、余裕の表情を浮かべている。
この勝負、有利だとヒートは考えた。
間違いなく、自分に有利だ。
ナイフを使う人間が素人であれば、使うのはナイフだけ。
殴る蹴るなどの技はほとんど使われない。
訓練と現場で鍛え上げたヒートと、無抵抗な人間に対してだけ力を振るってきたアニジャとでは、戦闘力に差が出るのは当然。
いよいよ互いの顔がよく見える距離にまで接近した時、先手を打ったのはアニジャだった。
ナイフを振るい、まずは牽制を試みる。
ナイフによる一撃目はまず本命ではない。
それはナイフを持つ人間がよく知っている。
故に、一撃目よりも二撃目に注意しなければならない。
振るわれた一閃を掻い潜り、ヒートは更に低く身構え、膝に向けて回し蹴りを見舞った。
(;´_ゝ`)「おっ」
たまらず体制を崩したアニジャ。
狙いやすい位置に現れた腹部に、遠心力を乗せた後ろ回し蹴り。
(;゚_ゝ゚)「ぐっ」
内臓が破裂するほどの一撃を受けたアニジャはそのまま背中から倒れ、姿勢を整えたヒートはすかさず拳銃の弾倉を交換する。
態勢を整えられる前に、ヒートはアニジャの脚を撃った。
太腿の肉が抉れるほど撃ち、アニジャの叫び声が聞こえた気がしたが、ヒートは攻撃を止めなかった。
狙ったのは付け根だった。
人間の血管が多く集まる付け根に撃ち込まれた銃弾は血管を傷つけ、出血量を増やした。
ノハ#゚听)「よう、虫螻みたいにはいつくばる気分はどうだ?」
(;´_ゝ`)「ははっ、悪くない。
……悪くないぞ、これでいい。
流石だな、俺は」
ノハ#゚听)「いろいろと喋ってもらいたいんだが、いいな?」
(;´_ゝ`)「勿論、何でも話すさ」
ノハ#゚听)「オットーはどこに行った?」
(;´_ゝ`)「あぁ、あいつか……
あいつは、今頃海底で海水浴を楽しんでいるだろ」
ノハ#゚听)「弟を殺したってのかよ……」
- 60 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:12:27.807 ID:rnOeHQJa0
- (;´_ゝ`)「いいんだよ、これで。
あいつは生きていてもどうせ税金を無駄に使う糞野郎になるんだ
それにあいつは俺より先に妹を犯したんだ、弟の立場ってのを分かってない。
だから俺の手で殺したんだ、優しいだろ?
で、他に知りたいことは?」
ノハ#゚听)「鮫島事件について教えろ」
(;´_ゝ`)「あぁ、それか。
俺が知ってることにも限度があるから、それはちょっと話すのが難しいな」
銃創を爪先で蹴り飛ばし、アニジャに苦痛を与えた。
ノハ#゚听)「話せ」
(;´_ゝ`)「……1つ頼みがある」
ノハ#゚听)「……聞いてやる」
(;´_ゝ`)「出来るだけ俺を苦しめて殺してほしい。
あらん限りの苦痛をもって、俺を殺すんだ」
ノハ#゚听)「……いいだろう。
さ、話せ」
願ってもない事だ。
法律ではこの男を殺せないが、今ならヒートの手で殺すことが出来る。
アニジャは溜息を吐き、重い口を開いた。
(;´_ゝ`)「鮫島事件って言うのは、1つの事件じゃない。
複数の事件の集合体だ」
ノパ听)「薬とか国が絡んでいるってやつか?」
(;´_ゝ`)「まぁ聞けよ。
より厳密に言えば、この国のタニシン鮫島が大統領に就任して以降の事件だ。
俺の事件も鮫島事件の1つだし、それ以前にあったバスジャックも町ぐるみでのリンチ事件も、そのほとんどが鮫島事件の1つだ」
ノパ听)「誰かに指示されたのか?」
(;´_ゝ`)「いいや、違う。 俺達の意志で犯罪が行われた。
厳密に言えば、俺達が俺達の意志で犯罪を起こすように調整されていたんだ。
オットーが薬の話をしてただろ? あれがそうさ」
ノハ;゚听)「ちょっと待て、何でその話を知ってるんだよ」
あの場にいた人間でなければ、オットーの話は知らないはずだ。
死の間際にオットーが話したのだろうか。
(;´_ゝ`)「ショボンが盗聴器を身に着けてたからな。
会話は全部筒抜けってわけだよ。
そのためにWi-Fiまで用意したんだ、俺が。
一部だがネットは使えただろ?
あれな、俺のおかげなんだ」
なるほど。
ショボンは報告する必要なく、自分達の動向をアニジャに伝えられたのはそういう背景があったのだと、ヒートは得心した。
リアルタイムでの状況報告が出来れば、1人の時間を無理に作らなくてもいい。
- 61 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:13:47.380 ID:rnOeHQJa0
- そしてWi-Fiの謎も、遠距離の盗聴が目的と言う事で理解出来た。
腹立たしいことに、アニジャの掌の上でヒートは踊らされていたのだ。
ノハ;゚听)「なるほどね。 それで、その薬ってのは?」
(;´_ゝ`)「倫理観を外す薬だ。
おまけに依存性が強い上に、薬物検査にも引っかからないらしい」
ノパ听)「つまり、お前はその薬を飲んでおかしくなったと?」
(;´_ゝ`)「さぁな、よく覚えてないんだ。
ただ、昔からそういう考えをしていたのかどうか、薬の影響なのかは分からない。
この島は、俺みたいに刑期満了で出てきた連中を隔離するための島なんだ。
薬を断たれたら俺達は発狂死する。
速い話が俺達を処分するための場所なのさ、ここは。
俺が知ってるのはここまで。
後は、あんたの仕事さ」
ノパ听)「……本当かどうかは後で判断する。
だがどうして話す気になったんだ?
話そうと思えば世間に公表だって出来たはずだ」
いくらなんでも潔すぎる。
ヒートの予想ではもっと悪あがきをしたり、偽りの情報をヒートに告げるものだと思っていた。
勿論、今の話が偽りの可能性は大いにある。
この男は文句なしの鬼畜であり、人の姿をした黒い欲望の化身なのだ。
(;´_ゝ`)「はははっ、狂人の言う事を信じるかよ。
俺は今でも人間が野菜程度の物にしか思えないんだ。
事実、人を殺しても弟を殺しても良心は痛まない。
植物の葉を引き千切って嘆いたり、花の蜜を吸って罪悪感を覚える奴はいない。
今の俺は、そういう人間になったんだよ。
だったらせめて、俺を殺したがっている奴に話しておいた方がいい。
散々迷惑をかけたんだ、誰かの役に立って死にたいのさ」
ノパ听)「偽善だな」
(;´_ゝ`)「知ってるよ。 だけど、俺はもう誰かを傷つけたりしたくないのさ。
倫理観のストッパーが外れているのは分かるんだが、一体どこが外れているのかが分からない。
俺はそれが怖くて仕方がない。
自分の言動のどれがおかしいのかが分からないっていうのは、本当に怖いんだ。
速度メーターの壊れた車みたいなものさ」
ノパ听)「そもそも誰が何の目的でそんな事を始めたのか、は分からないか?」
今は話を出来るだけ聞き、矛盾点が無いかを探すことにした。
疑い始めた切りがない。
可能な限り情報を手に入れた方がいいとヒートは判断し、銃爪から指を離さずに話を続けた。
(;´_ゝ`)「すまないが、もうこれ以上は俺も知らないんだ。
ここまで調べるのだって大変だったんだ」
ノパ听)「調べた?」
- 64 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:16:53.027 ID:rnOeHQJa0
- (;´_ゝ`)「あぁ。 せめて自分が置かれている状況ぐらいは知りたいからな。
ついでに、俺がここに呼ばれた連中を殺した理由も知りたいだろ?
あいつらを殺したら薬をくれるって言うから殺した。
いいだろ? それぐらい別に」
ノパ听)「どういうことだ?
全員お前の事件に絡んでいたのは分かったが、どうして殺す必要がある?」
(;´_ゝ`)「さあね。 依頼人は俺が殺したからもう分からない。
あぁ、依頼人ってのはブーンだ。
あいつは鮫島事件の管理人の1人らしい。
俺が殺さなきゃ、この島で最後に息をしていたのはあいつだけだろうな」
ノパ听)「どうしてブーンを殺したんだ?」
(;´_ゝ`)「言っただろ? 俺の倫理観は狂ってるんだ。
ブーンを殺したらどうなるんだろうって思った時にはもう体が動いていたわけだ。
たぶん、これはあいつらの中では予想外だっただろうさ」
少しずつ、アニジャの言葉に狂気が浮かび始めてきた。
ひょっとしたら今、彼込み上げてくるその狂気を押さえつけて話をしているのかもしれない。
ノパ听)「結局、招待されたのはお前の事件に関係していた人間ばかりだったわけだが、その理由は?」
(;´_ゝ`)「……それについては俺も知らないが、きっと、俺がいたから丁度いい処分のセットだったんじゃないかな。
だがブーンが言ってたよ、呼んでいない人間が来ていて、呼んでいる人間が来ていないって」
ノパ听)「それはオットーだろ?」
(;´_ゝ`)「いいや、オットーはもともと呼ばれていたんだ、俺の代理枠ってことでね。
結局のところ、答えは分からずじまい、ってことさ。
……こんなもんでいいか?」
出血量が増えてきたため、アニジャの顔は蒼白になりつつあった。
このまま放置していれば失血死するだろう。
だがまだだ。
まだ聞きたいことが1つだけある。
ノパ听)「……最後にもう1つ。
あたしの事は分かるか?」
(;´_ゝ`)「忘れるはずがない。
ヒート・フランクリン、キュート・フランクリンの妹だ。
俺が犯し、自殺に追いやった人間の家族だろ?
一目見た時から分かっていたよ。
だから、あんたには俺に復讐する権利があるし、俺はそれを望んでいる。
だが……あぁっ、そう、そんな人間を犯したらきっと気持ちいいんだろうなぁ。
きっといい悲鳴を聞かせてくれるんだろうな、あんたは。
そうそう、島から出たいなら、爆発した船以外を使うと良い」
ノパ听)「……分かった。 望みを叶えてやるよ」
ヒートはアニジャの腰を狙い撃った。
腰の根元を撃ち抜かれれば、どんな人間でも立ち上がることはできない。
- 65 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:18:21.552 ID:rnOeHQJa0
- アニジャは悶えていた。
だが悲鳴は上げなかった。
それを受け入れ、噛み締めているかのようだ。
(;´_ゝ`)「はぁっ……!! ぐっく……!!
これで……!! やっと、罰を受けられるっ……!!」
ノパ听)「……」
(;´_ゝ`)「あ、ありがとう……!!」
血を流しながらも、アニジャはヒートに礼の言葉を述べた。
それが腹立たしかった。
最後の最期に、ヒートはこの男に感謝されるような行いをしたのだ。
アニジャの望みは死であり、ヒートの望みはアニジャの死。
互いの要求を満たした結末だった。
だがそれはヒートの望みが実現したとは言い難い結末だ。
それでも、まだこの事件は終わっていない。
確かめなければならない事が残っているのだ。
気分の悪い中、ヒートは燃える城を背に嵐の海へと向かったのであった。
‥…━━ 8月22日 22:00 ━━…‥
締め切られたヴィップ州警察資料室には男が一人いた。
男はカフェインレスのコーヒーを飲み、眠気覚ましのガムを噛んでパソコンの画面を睨みつけていた。
(=゚д゚)
男の名前はトラギコ・キャラハン。
署内では有名な堅物であり、デスクワークよりも現場に出ることを好む数少ない男だった。
警部としての地位にありながら、彼がこれまでに解決してきた事件の数は誰よりも多い。
(=゚д゚)「……遠慮するな、入るラギ」
扉の向こうにいる人間に対して、彼は視線を向けずに声だけを投げかけた。
静かに開いた扉から入ってきたのは、ヒート・フランクリンだった。
ノパ听)「例の件、終わりました」
(=゚д゚)「そうか、どうだった?」
ノパ听)「その前に訊きたいことがあります」
(=゚д゚)「構わねぇ、言ってみろ」
ノパ听)「トラギコさん、本当は知っていたんですね?
鮫島事件が何であるか、を」
(=゚д゚)「ほぅ、何でそう思うラギ?」
ノパ听)「今回、あの島に招待されたのは私ではなくトラギコさんだからです」
そこでようやく、トラギコは視線をヒートに向けた。
相変わらず冷たい視線だが、興味深そうにヒートの次の言葉を待っているかのようにも見える。
- 67 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:24:10.322 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「あの手紙、どうして私宛だと思ったんですか?
私のゴミ箱から見つけた?
いいえ、それはあり得ません。 私が捨てたのは別のゴミ箱です」
(=゚д゚)「……」
ノパ听)「さらに、あの手紙には宛名がありませんでした。
宛名の無い手紙がどうして私の机に届けられたのでしょうか。
そして、どうしてトラギコさんはそれが私宛だと分かったのでしょう」
(=゚д゚)「勘、だと言ったら?」
ノパ听)「嘘ですね。 トラギコさんは勘で断定をしません。
つまりトラギコさんはあの手紙を受け取った張本人で、その後、別の封筒に手紙を入れなおした。
そして私の机の上に置き、それがゴミ箱にあった事から私が読んだと推理したんでしょう」
加えて、ヒートが捨てたゴミ箱は彼女の席から離れた場所にあったものだ。
その中でヒート宛の手紙だと推理できるのは、その手紙を置いた人間かそれを目撃した人間以外にありえない。
(=゚д゚)「ほぅ、それで?」
ノパ听)「主催者が言っていましたが、あの島には招待されなかった人間がいたそうです。
招待された人間の中にいた、招かれざる客。
言わずもがな、それはあたしでした。
そして、主催者は2対1の予定が1対1になっている、と言っていました。
最初は男女比化と思いましたが、私が招かれざる客であることでもう一つの比率が浮かび上がりました。
そもそもの前提の違いです。
あの場に集められた6人で2対1となる場合、4人と2人のグループに分かれます。
でも、もしその比率が全員を対象としない物だったとすれば合点がいきます。
鮫島事件に深く関係している人間が2人で、集められた人間の中で鮫島事件実行犯が1人。
後者はアニジャ・スコットピルグリムの代理人である、オットーであることが分かりました。
……鮫島事件の関係者の1人はショボン・アナホリです。
姉の事件で捜査の指揮を執っていた人間です。
よくご存じだと思います、あの事件を担当していたトラギコさんなら」
トラギコもあの事件を担当していた事をヒートは良く知っている。
彼のおかげでヒートは立ち直り、どうにか生きていくことが出来たのだ。
両親を失ったヒートの世話をしてくれたのも、生活が出来るように工面してくれたのも、授業参観に姿を見せてくれたのもトラギコだった。
そして、彼に憧れて警官になろうと志した時も、トラギコは嫌がる表情一つ見せずにアドバイスをくれた。
ヒートにとってトラギコとは恩人であり上司であり、父であり、兄でもあるのだ。
これだけの情報を集めてこなければ彼が何かを喋るような人間でないことは、よく知っている。
だからヒートは、己の集めたパズルのピースを繋げ、一気にトラギコに詰め寄ることにしたのだ。
(=゚д゚)「そりゃあ知ってるラギ。
昔の同僚だからな。
つまりお前は、俺とショボンが鮫島事件に関係している人間だと、そう言いたいのか?」
最も言いにくいことをトラギコが自らの口で話してくれた。
そう。
あの場に呼ばれたはずのトラギコは、ショボンと同様、鮫島事件に関係していたのだ。
だがその関係の深さまでは分からない。
ショボン以下かもしれないし、それ以上かもしれない。
- 68 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:27:42.698 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「はい。 難しい言葉を抜きにして言うとそうなります。
ですが分からないのは、どうしてトラギコさんは私にあの場に行かせたんですか?
その理由だけがどうしても分からないんです」
ショボンが呼ばれた理由は明白で、あの場に集まった人間達を殺害することにあった。
トラギコも同じだったのだろうか。
それが嫌でヒートを向かわせたのだろうか。
それとも、別の理由があったのか。
こればかりは推測のしようがなく、本人に直接訊かなければならないことだった。
(=゚д゚)「……鮫島事件についてどこまで調べがついた?」
ノパ听)「タニシン鮫島政権以降に発生した多くの事件の総称が鮫島事件である、ということぐらいです。
その理由や具体的な部分までは全く……」
あれからいくら調べても、鮫島事件に関する情報は見つからなかった。
アニジャの話した内容だけが、ヒートにとって唯一の手がかり。
長い沈黙があった。
トラギコはゆっくりと席を立ち、入り口にゆっくりと近づき、鍵をかけた。
そして、ヒートを見た。
(=゚д゚)「鮫島事件はより正確に言うなら、タニシン鮫島政権以降に政府によって意図的に起こるように仕組まれた凶悪犯罪の総称ラギ。
その年ごとに発生する事件や回数は変わるがな」
ノハ;゚听)「意図的に……政府が?」
さも当然の事実を語るように、トラギコは口を開いた。
(=゚д゚)「鮫島元大統領が死刑を廃止した際、多くの懸念があったのは知ってるだろ?
犯罪率の上昇、治安の悪化。
そういった懸念は、実際、現実のものになったラギ。
特に凶悪犯罪の数が増え、早急な対応が必要になった。
そこで政府が考えたのは、“凶悪犯を警察が捕まえ、罰を与える”という姿をより多く見せる事だったラギ。
そうすれば市民は皆、“罪人は必ず捕まり、裁かれる”と考える。
偽りの平穏を作り出したってわけラギ。
死刑が無い代わりに、国に潜む犯罪者はしっかりと逮捕されるってな」
ノハ;゚听)「姉の事件も……その為に起こされた、と?」
まるで躊躇う様子もなく紡がれたトラギコの言葉を鵜呑みにしていいものか。
本当にトラギコが鮫島事件の関係者であれば、ヒートに話をする理由を疑わなければならない。
ヒートは息を呑み、続きを待つことにした。
(=゚д゚)「いや、違うラギ。 政府は人を選び、その人物に投薬することで犯罪を起こさせるように仕向けただけラギ。
投薬された人間か予てから嫌悪感のあった事件を起こすようになる薬。
ヌル・ポーテンス、と呼ばれる薬ラギ。
こうして犯罪者になった人間は政府によって処理され、市民たちは安心を得る、そういう話ラギ。
当然のことだが、法律に関係する全ての組織に鮫島事件の担当者がいるラギ。
上から下まで、どんなところにも政府の目がある。
意図的に作られた恐怖を管理し、意図的に作られた平穏を国民に広めるためには当然の話だ。
ツン、トソン、荒巻もそうだ。
だが奴らは勿論、他の人間でも気付いている奴はほとんどいないラギ。
役割は細かく分散され、分担されているからな」
- 69 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:32:34.156 ID:rnOeHQJa0
- ノハ;゚听)「そんな……」
国家が絡んでいるとは聞いていたが、それがまさか、鮫島元大統領の政策の尻拭いだとは誰が予想しただろうか。
死刑廃止によって上昇した犯罪率は、一時期警察を悩ませたと聞く。
人権団体とデモ隊の衝突にまで発展したこの政策は、現代では大いに評価されている。
だがその背景には、意図的に起こされる犯罪があった。
政府によって人が不幸になる代わりに、その政策は効果を発揮する。
本末転倒な話だ。
ノハ;゚听)「本末転倒にもほどがあります……」
(=゚д゚)「そうだな。 実際問題、犯罪率とその発生率で言えば前と大差はないラギ。
だがそれが政府の指針ラギ」
ノハ;゚听)「それじゃあ、これはまだ続くってことですか?!」
(=゚д゚)「あぁそうだ。
これから先、役人たちがそれぞれの顔を守るためにこれは続くラギ。
インターネットでの書き込みが途中で途切れるのは、政府の人間が常に見張っていて、途中で乗っ取って書き込むからラギ。
相手は国家。 新聞に載せようとしたら即日関係者全員事故死ラギ」
ノハ#゚听)「こんなの、間違ってます!!」
声を荒げるヒートを見て、トラギコは安心した風な表情を浮かべた。
嬉しそうでいて、そして、誇らしそうな。
(=゚д゚)「だろうな。 大いに間違ってるラギ。
だから、お前に行かせたラギ。
実際に鮫島事件の片鱗を見せなきゃ、お前はこの事件を信じなかっただろ?」
ノハ;゚听)「あたしに理解させるために、今回行かせたんですか?」
(=゚д゚)「まぁな。 お前なら信頼できるラギ。
ただ、これはそう簡単に終わらせられる話じゃないラギ。
関わっている全てのパズルを揃え、繋げ、守り、そして暴かなきゃならないラギ。
どうだ? 俺と一緒にやってみないラギか?」
ノパ听)「……トラギコさんは、どうして鮫島事件に関わることになったんですか?」
返事の代わりに質問をしたヒートを叱咤することもなく、トラギコは答えた。
(=゚д゚)「俺のひい爺さんが担当者だったラギ。
そして爺さんも、そして親父も。
俺の家は代々この役割を担うようになってるラギ。
今は俺の順番になってるが、正直、俺は出世とかどうでもいいからここでその連鎖を打ち切るラギ」
ノパ听)「でも、そんなことをすればトラギコさんの家は……」
(=゚д゚)「いいんだよ。 人を不幸にして自分が幸せになろうなんて考える家は滅びれば。
むしろこれまでが長すぎたぐらいラギ」
ノパ听)「分かりました。 あたしもこの事件を終わらせる手伝いをさせてもらいます」
(=゚д゚)「お前ならそう言ってくれると思ったラギ。
以前にこの事件に挑んだ人間がいたが、結局、そいつらは本当のことを知る前に全員死んじまったラギ。
だが、お前は大丈夫そうラギ」
- 70 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:39:42.375 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「任せてください。 それで、具体的にはこれから何をすればいいんですか?」
(=゚д゚)「鮫島事件は膨大な事件を管理する必要があるラギ。
その背景にはノーザンライツと呼ばれる計画書の土台が存在するラギ。
政府要人の署名入りでな」
ノハ;゚听)「署名入り? 役人は馬鹿なんですか?」
(=゚д゚)「その署名は勿論偽名だが、奴らの連帯感を強めるための1つの儀式ラギ。
一蓮托生、ってお前の国では言うんだろ?
誰かがヘマをすれば全員に危機が及ぶから、そうならないように細心の注意を払うための保険だ。
偽名だが、筆跡までは偽れないラギ。
そいつを手に入れ、薬のサンプル――これは俺がオットーから回収した――と一緒に世界中に拡散する。
そうすりゃ、他国の火消は出来ないラギ」
自国であれば火消が可能だが、他国ともなれば流石に影響力を持たない。
例え警察や政治家がその中心にいるとしても、鮫島事件の情報は世界中に広まり、遂には明るみに出る。
だが果たして、そう上手くいくのだろうか。
計画書の場所は勿論、その保管方法。
どのようにしてそれを手に入れるのかが問題なのだ。
在処の分からない財宝を探すような物だし、何よりも時間がかかればそれだけ目立つリスクが生じる。
ノパ听)「ノーザンライツはどこにあるか分かっているんですか?」
(=゚д゚)「あぁ、分かってる。
お前の危惧する通り、かなり厳重な場所にある。
ノーザンライツは全部で48の書類に分割、保存されているラギ」
48という数字に、ヒートはすぐに思い当たった。
ノハ;゚听)「ニュー速国の州の数と同じですね」
(=゚д゚)「そうだ。 そして、それは州の警察本署に保管されているラギ。
俺の手で集められたのはその内47。
残りの1つだけがどうしても手に入れられないラギ」
ノハ;゚听)「自力で47?! すげぇ……」
流石は現場実力主義の人間だ。
自分で出来ることは全て自分でやるという信念があっても、こうはいかない。
トラギコだからこそ出来た結果と言えよう。
(=゚д゚)「暗号化されているから一見すれば普通の文書だし、価値を知らない奴を利用すればあっという間ラギ。
それに、これは全部揃えないと意味がないラギ。
おまけに、1年に1度内容と暗号の更新が行われるから昔の物は意味を失くすラギ。
最後の1つがこの警察署にあるところまでは調べたラギ」
ノハ;゚听)「この署に?」
自らの職場をけなすわけではないが、この職場は国内で最も混沌とした職場だ。
セキュリティに人員を割くぐらいなら捜査にまわさなければならない程で、実際、受付業務はほぼ1人で行われている。
(=゚д゚)「あぁ。 だが、いくら探してもないんだ。
この署にいる鮫島事件の関係者は俺だけのはずなんだが、どうにも怪しくてな。
そこで、お前の力を借りたいラギ」
- 73 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:43:09.226 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「ノーザンライツの特徴を教えてもらえますか?
普通の書類に偽装されているなら、流石にあたしは分かりかねますので」
トラギコが探しても難しいなら、当然、ヒートにとっては難題中の難題だ。
少なくともノーザンライツなる書類の特徴を把握しておかなければ、探しようがない。
トラギコでさえ探せない偽装の施された書類だが、必ず何かしらのヒントがあるはず。
そうでなければ、その書類の価値を知らない人間が破棄してしまう可能性があるのだ。
(=゚д゚)「普通の書類には必要不可欠なものが欠けているのが特徴ラギ。
一見すればただのミスだが、そうじゃない。
改行が一番大きな特徴ラギね。
単語の途中で改行されているのがあれば、ほぼ間違いないラギ」
だがそれでは、普通のミスをした書類との違いが分からない。
単なる改行ミスやスペルミスの書類は、警察ではよく出回ってくる。
(=゚д゚)「そして、直筆のサインが必ず最終ページにあるラギ。
そんなミスをした書類にサインをする馬鹿はいないだろ?」
ノパ听)「なるほど、それなら分かりそうです」
書類への捺印、署名はその書類が正しく記載されていることの証明であり、保証だ。
改行のミスという一見すれば分かるミスを見逃しての署名など、普通はあり得ない。
(=゚д゚)「出来れば今日中に決着をつけたいラギ。
あの島からの報告が無いとなると、荒療治の専門家が動くからな」
ノパ听)「というと、民間軍事会社ですか?」
(=゚д゚)「あぁ。 これも、鮫島の影響ラギ。
当たり前だが、PMCの連中は何も知らないラギ。
それっぽい理由で来るだろうさ。
俺達のところにな」
ノパ听)「万一に備えて武器を持っておきたいところですね」
(=゚д゚)「ま、ストームが不満ならグロックしかないラギ。
警官の過剰な武装は市民を怯えさせるらしいからな」
ノパー゚)「武器が不要な州に移ればいいんですよ、そういう奴は」
そして、どちらともなく2人は無言で頷き合い、部屋を出た。
署に残っているのは残業好きな人間か、宿直の人間ぐらいだ。
他の人間は街に向かい、これ以上の治安悪化を阻止する仕事に従事している。
仮にヒート達が鮫島事件の真相を世に伝えたとしても、この街からサイレンの音が消えることはないだろう。
犯罪とは、そんなに単純な物ではない。
どんな国でも犯罪は決して絶えない。
このニュー速国は移民によって生まれ、移民によって変化し、そして、移民によって創り変えられる国なのだ。
その最前線がここ、ヴィップ州。
この国がこの国である以上、犯罪も混沌も決して変わりはしない。
2人がやって来たのは地下1階にある資料室だった。
この資料室は過去に起きた全ての事件に関する資料が保管されており、中には一世紀以上も昔の物もある。
背の高い金属のラックに積まれたファイルの数はあまりにも膨大で、地下2階にもいたるその量は1冊に10分の時間をかけたとしても、全てに目を通すのには1年以上かかるだろう。
- 74 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:48:21.862 ID:rnOeHQJa0
- (=゚д゚)「地下2階は俺が調べて、ここも俺が調べたんだが、どこにもなかったラギ。
考えられる可能性としては、俺が47の資料を手に入れたと悟られて最後の1つを隠されたってことラギ。
資料の移動が最近になって依頼されただろ?」
そう言えば、シナーがそんな事を話していた覚えがある。
書類整理の仕事が増えたのは、これが原因だったのか。
手引きされた誰かが書類を隠したのではなく、事務仕事の一環として偽装され、書類の攪乱が行われたのだ。
(=゚д゚)「依頼人は警察の本部。 もっと言えば、その最高責任者からラギ。
だが俺は、これが目くらましだと考えているラギ。
移動された資料の中に本物はない。
絶対にこの建物のどこかにそれを隠したはずラギ。
木を隠すなら森の中ってことラギ。
何か心当たりはあるラギか?」
ノパ听)「シナーさんも書類整理を依頼された、と言っていました。
そう考えると、資料の移動が不要な場所が死角になっていると思います」
(=゚д゚)「移動が不要、ねぇ。
……無難に署長の金庫とかが考えられるが、そんなところに置くとは思えないラギ」
その言葉で、ヒートはある可能性を思いついた。
ノパ听)「……始末書とかどうでしょうか。
あれにもサインは必要ですし、何より……」
(=゚д゚)「誰も見ない、か。
確かに俺も、始末書は見てないラギ」
始末書は限られた人間しか書かないものであり、その行き先は上司であり、行き着く先は書庫の最深部。
所属がなくなると同時に廃棄されるような代物であり、古くても60年前の物があれば御の字だろう。
(=゚д゚)「よし、やるラギよ。
それじゃあ――」
――その時。
薄暗かったはずの部屋から、全ての明かりが消えた。
非常灯の明かりさえ失われ、全てが漆黒に塗りつぶされている。
(=゚д゚)「すまねぇ、来ちまったらしいラギ」
ノハ;゚听)「PMCが警察署に?!
まさか、そんな滅茶苦茶な事をするほど馬鹿な奴らが……」
暗闇の中、トラギコの声が溜息交じりに聞こえた。
(=゚д゚)「あぁ、いるラギ。 それが軍施設だろうと攻めてくる“ブルー・オイスター”って奴らがな。
何せ、軍が監修したから容赦はねぇぞ」
ノハ;゚听)「は?!」
(=゚д゚)「軍が自分達の手を汚したくない時に使う奴らラギ。
装備と練度は軍と同じだと思えばいいラギ」
冷静に言ってくれるが、ニュー速国の軍隊は世界中の紛争地域に平和維持の名目で介入する為、場数と練度は世界屈指。
警官が太刀打ちできる相手ではない。
(=゚д゚)「仕方ねぇ」
- 76 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:51:06.692 ID:rnOeHQJa0
- (=゚д゚)「仕方ねぇ」
独特の軽い金属音と共に、ジッポライターに炎が灯る。
(=゚д゚)「武器庫に行くラギ」
ノハ;゚听)「でも、うちの武器庫なんてたかが知れてます!!
精々あってもショットガンぐらいで……!!」
トラギコは腰からベレッタ・ストームを取り出し、安全装置を解除する。
艶消し加工のされた黒い銃身が炎に揺られ、怪しげに輝く。
(=゚д゚)「あのなぁ。 俺が何の準備もなしに動くと思ったか?
最悪、この署が攻め入られるのは想定内ラギ」
妙に落ち着き払った様子のトラギコの横に並び、ヒートも銃を構えた。
(=゚д゚)「あいつらはプロラギ。
余計な殺しはしないし、俺達だけを狙ってくるラギ。
規模は5人以上。 俺の知る限りではな」
そうだとしても、戦闘のプロが5人と考えれば、楽観視はできない。
だがやれることをやらなければ無駄死にしか結末は待っていない。
武器庫は今いる地下1階の奥づまった場所にある。
管理者が交代でその出入り口を見張っているが、幸か不幸か、今日はその人間が席を外していた。
武器庫が最後に使用されたのはおそらく、20年前にあった銀行強盗対応の際だろう。
鋼鉄製の扉を開き、トラギコは並べられたショットガンを無視して、更にその奥へと向かう。
そこにあったのは掃除用のロッカーだった。
(=゚д゚)「これが必要な時は、掃除をする必要がある時だからな」
ロッカーをずらして、その下に現れた鉄輪の付いた床のブロックを引き上げる。
そこに手を入れ、トラギコが取り出したのはH&K416アサルトライフルだった。
かなり高価な銃で、軍でも採用を見送られた銃だ。
ダットサイトが装着されており、弾さえあればすぐにでも戦闘で使えそうだった。
ノハ;゚听)「HK416……
高かったでしょうに」
(=゚д゚)「どうせ死ぬんだ。 派手に使わないとな」
そう言って自分用に一挺、アモボックスを1つ取り出す。
マガジンを受けとり、装填作業を行う。
(=゚д゚)「俺が連中の相手をするラギ。 ヒート、書類を任せるラギ。
俺以外の人間が来たら撃っていいラギ」
ノパ听)「合言葉でも決めますか?」
(=゚ー゚)「なら、怪しいと思った時に声をかけるラギ。
アイワナビー、ってお前が言ったら、俺がア・ヴィップスター、って言うラギ」
冗談のような口調でそう言って、トラギコは武器庫の中に保管されていたフラッシュライトを取ってヒートに投げてよこした。
強烈な光は直視した人間の視界を一瞬だが奪う事が出来る上に、そのライト自体の重さと固さで殴打も出来る代物だ。
トラギコもライトを手にし、ライターをしまった。
(=゚д゚)「いいか、死ぬんじゃねぇぞ」
- 78 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:53:55.041 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「トラギコさんも、どうかご無事で」
そして、ヒートは走り出した。
ノーザンライツを見つけ出し、警察署からトラギコと共に逃げ出すには一刻も時間が惜しい。
資料室にある始末書の棚に行き、観音開きの扉を静かに開いた。
そこには青いファイルが隙間なく床から天井まで、優に2メートルは積まれている。
その棚が全部で10。
これらの中から探し出すためには、ある程度の予想能力が必要だ。
真っ先に除外するべき可能性と、真っ先に探すべき可能性の予想。
それは最新の書類だ。
最近の物はヒートの書類が多く挟み込まれており、万が一不審な書類が発見された際には破棄されかねない。
そう考えると、調べ始めるのはバックナンバーの古い物からと言うことになる。
最も古いファイルを棚から取り出して、初めのページに目を通し始めた時、遠くから銃声が聞こえた。
ノハ;゚听)「始まったか……!」
悠長なことはしていられない。
すぐさまヒートはページを捲り、改行におかしな部分が無いかを探し始めた。
右端の部分に目を向け、そこに不自然な切れ方をした単語が無いかを探す。
1冊が終わるのに要したのは2分。
無駄が多い証拠だ。
もっと時間を短縮してファイルを探せるはずだ。
書類を隠す際、最も有効なのは最も忙しい時。
そして、最も書類の提出率が多い人間であれば、尚の事隠しやすくなる。
1年ごとに更新されたとしても、その量が署で1番であれば最高だ。
ヒートはその条件に一致する人間をよく知っている。
ノハ#゚听)「あたしの始末書にあったら絶対ぶっ殺してやる……」
ヒートがこの職に就いてから提出した始末書はあまりにも多いが、そのどれもがある主特徴的な書類となっている。
毎回書類を書き続けるのはあまりにも面倒であるため、シナー・ライバックがアドバイスをくれたのだ。
曰く、テンプレートを3種類用意し、それを状況に応じて使いまわすというものだ。
そしてヒートは決して書類の書き直しが無いよう、その雛形をそっくりそのまま書き写すことにした。
結果、ほぼ全ての書類がほぼ同じ文字サイズで書かれ、改行のタイミングも完全に同じものとなった。
もしもヒートの始末書に偽装していたとしたら、必ずその形式を逸脱していることになる。
自分の始末書だけを見ればいいと考えたヒートの推理は、果たして、10冊目のファイルを開いた時に報われることになる。
ノハ;゚听)「……これか」
字は似せてあるが、不自然な改行があった。
そして何より、承認欄に書かれた名前はこの署に存在しない人間の物だった。
これこそが鮫島事件を公にするための文章、ノーザンライツの最後の1枚。
それをファイルから取り出し、懐にしまった。
銃声は依然として上から聞こえており、トラギコが戦っているのが分かる。
運が良ければ残業している同僚達も参戦してくれているだろう。
すぐに応援に向かおうと、ヒートは階段を1段飛ばしに駆け上がった。
‥…━━ 8月23日 00:55 ━━…‥
- 80 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 22:56:28.205 ID:rnOeHQJa0
- 漂う硝煙。
不自然に抉れた壁や床、転がる無数の真鍮の輝き。
1階は戦場の様相を呈していた。
銃声はあちらこちらから響いていた。
どうやら警官たちも参戦しているようだ。
(;=゚д゚)「おう、守備は?!」
地下に続く扉の前でライフルを構えていたトラギコは、ヒートの顔を見て安心した風な表情を浮かべた。
書類を入れた懐を叩いて、成功を伝える。
ノハ;゚听)「手に入れました!!」
(;=゚д゚)「よし、後はこの署内に入ってきた馬鹿どもは他の奴らに任せるラギ。
シナー!! 俺達はちょっとコーヒー飲みに行ってくるから後は任せた!!」
(;`ハ´)「俺達って……って、ヒート?!
お前、また何かやったアルか?!
友達は選ぶの普通アル!!」
拳銃を構えたシナーが受付カウンターの陰から文句を述べ、その声の場所に銃声が集中する。
すかさずヒートとトラギコが援護射撃を加え、襲撃者を打ち倒す。
倒れている完全武装の人間は5人どころではない。
(=゚д゚)「奴ら10人以上で来やがったラギ。
よほど警戒している証拠ラギ」
ノハ;゚听)「皆大丈夫ですかね」
(=゚д゚)「普段銃を撃ちたくても撃てない奴らばっかりなんだ。
さっき、押収品の機関銃を取りにモナーたちが大喜びで駆けて行ったラギよ」
署には犯罪者たちから押収した多くの武器が厳重に保管されている。
そのラインナップは武器庫よりも豊富で、そして実用性のあるものばかりだ。
押収した弾薬も十分にあるため、武器には困らないだろう。
(=゚д゚)「そう言うわけだ、行くぞ、ヒート!!」
ノハ;゚听)「済みません、後はお願いします!!」
(;`ハ´)「戻ってきたら後片付け手伝うアルよ!!」
警察署の裏口から外へと出て、トラギコはパトカーには目もくれず、目抜き通りの方へと走って行った。
ノパ听)「パトカーは使わないんですか?」
(=゚д゚)「位置情報を読み取られるからな、どこまでもついてくるラギ。
だったら、街中で車を借りた方が早いラギよ」
ノパ听)「でも、お金ないですよ」
(=゚д゚)「あのな、警察手帳ってのは上手に使えばクレジットカードよりも便利ラギよ」
行き交う車の数も少なくなった通りに出たトラギコは、適当なセダンを見つけて道に飛び出した。
突然現れたトラギコに運転手は急ブレーキで対応し、扉を開けて文句を言おうと上半身を出す。
そしてトラギコの持つアサルトライフルを見て絶句し、次に彼が見せた警察手帳で顔面は蒼白になった。
(=゚д゚)「いい車ラギね」
- 82 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:06:48.956 ID:rnOeHQJa0
- (;'A`)「え、えぇ……」
(=゚д゚)「無期限で借りるラギよ」
(;'A`)「ちょ、ちょっと!」
(=゚д゚)「あんだよ」
(;'A`)「乗り捨てるんなら中に連絡先が書いてあるから、場所だけでも教えてくれ!!
保険で新車を買うから!!」
(=゚д゚)「あぁ、善処するラギ。
駄目だったらもっといい車を買ってやるよ」
セダンに乗り込み、2人はすぐに街を北に進んだ。
運転席でアクセルを踏み込むトラギコは信号を無視して、ひたすらに車を走らせる。
クラクションが夜の街に鳴り響く。
ノパ听)「どこに向かうんですか?」
(=゚д゚)「国内はどこも駄目ラギ。
シベリアに行って、そこからシタラバに向かうラギ」
シベリアよりも更に北の地にあるシタラバ国。
そこは厳格な法律によって平和の守られた小国で、ニュー速国と比べると国としての歴史は浅いが、住みやすい国として知られている。
だがそこに至るためには、無事にシベリアに到着するだけでなく、広大な土地を渡り切らなければならない。
永久凍土の土地を持つシベリアを追われながらの移動では、精神的にも体力的にも長くはもたない。
トラギコはそこをどう考えているのか。
(=゚д゚)「シベリアにノーザンライツを隠してあるラギ。
最後の1枚と合わせてシベリアに渡し、そのままシタラバに亡命させてもらうラギ。
知ってるだろ? シベリアとニュー速は仲が悪いラギ」
ノパ听)「なるほど、後は政治家に任せると」
(=゚д゚)「政治家が始めたことは政治家に任せるのが一番だからな。
ここから国境までは一直線ラギ。
精々2時間ってとこだろ」
ノパ听)「追手がいなければ、ですけどね」
(=゚д゚)「なぁに。 来たとしてもお前がどうにかしてくれるんだろ?」
ノパ听)「出来る限りの事はします」
‥…━━ 02:00 ━━…‥
予想に反して、それから1時間経っても追手も尾行車も現れなかった。
エンジン音とラジオから聞こえてくる静かな音楽が車内に静かに流れていた。
ノパ听)「トラギコさんに個人的に訊きたいことがあるんですが、いいですか?」
(=゚д゚)「答えられる範囲でならな」
ノパ听)「どうして警官になったんですか?」
(=゚д゚)「……もともと警官になりたいって気持ちもあったし、親のコネも使えたからな。
俺はな、昔から真面目な人間が馬鹿を見る世の中が嫌いだったんだ。
だから、少しでもそれが変えられたら、とか思っていたんだが、現実はこんなもんさ」
- 83 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:10:10.098 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「鮫島事件が公になれば、少しは変わるんでしょうか」
僅かな沈黙を挟んでトラギコは答える。
(=゚д゚)「答えはイエスであり、ノーだ。 まず間違いないのは、国内のあっちこっちが荒れるってことだ。
鮫島事件という存在が公になったところで、それに関係しているのはこの国だけラギ。
精々でかいゴシップで終わるかもしれないし、この国の政治家が総入れ替えでもされない限り、形を変えて鮫島事件は起きるラギ。
ま、いい意味で変わるかどうかは分の悪い賭けラギね、正直」
ノパ听)「なら……どうして」
(=゚д゚)「仮に変わらなかったとして、だからどうした?
俺はな、ただ許せなくなったのさ。
変えたいと思っていながら変えないのは、どうにも嫌でな。
法律が何だ。
規則が何だ。
俺は警官ラギ。 警官が平和を守ろうとして何が悪いラギ」
ノパ听)「その結果、国内で争いが起きたとしても……?」
(=゚д゚)「今まで黙っていたんだ。 それぐらいのペナルティは受けてもらうラギ。
それにな」
トラギコはラジオのスイッチを切った。
窓を開け、夏の空気を車内に取り込む。
(=゚д゚)「立ち上がろうとするときに転ぶのは、誰だって一緒だろ。
傷つかずに変わろうなんて甘いんだよ」
車はアウトバーンに乗り、速度を一層上げた。
時速200キロを超え、抜き去る車もまばらとなり、車内に沈黙が流れる。
ノパ听)「……前にトラギコさんがあたしに言ってくれた言葉を、今返しますね」
(=゚д゚)「あ?」
ノパ听)「あたしは、トラギコさんの味方です」
(=゚д゚)「……そんなこともあったな」
再び沈黙が流れるかと思われたが、ハイビームの眩い光がバックミラーに映ったために、それは中断された。
黒い車体。
独特の姿をしたそれは、直線を早く走る事だけに重きを置かれた1台。
その名は、ブガッティ・ヴェイロン。
(=゚д゚)「お迎えラギよ」
ノハ;゚听)「しかもヴェイロンですよ……」
(=゚д゚)「たぶんありゃあ、カミカゼしてくるラギね。
事故に見せかけて爆発炎上、ってところだろ」
トラギコもアクセルを踏み込むが、叶うはずがない。
ヒートは後部座席に置いていたHK416を取り、窓から半身を出して銃爪を引いた。
夜のアウトバーンに響く銃声は、2台の車が奏でる爆音じみたエンジン音に追い抜かれていく。
- 85 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:15:41.025 ID:rnOeHQJa0
- 銃弾はヴェイロンのボンネットに当たるが、エンジンがそこにないためか、あまり効果が見られない。
フロントガラスには蜘蛛の巣状のひびが入るだけで砕ける様子もない。
防弾ガラスだ。
ノハ;゚听)「その割には固いです!!」
(=゚д゚)「タイヤはどうだ?」
激しく動く目標を狙い、銃爪を引く。
3発ずつの発砲で様子を見る。
反応は、更なる加速。
ノハ;゚听)「駄目です!!」
(=゚д゚)「仕方ねぇ、ちょっとその辺りに捕まってろ」
理由を聞く前にヒートは頭を庇って身を丸くし、それと同時に2人を乗せたセダンは180度回頭した。
(=゚д゚)「よぅ」
そしてハイビームに切り替え、まばゆい光を浴びせかける。
フロントガラスの向こうで運転手が一瞬手で目を覆ったのを、トラギコは見逃さなかった。
ハンドルを巧みに操ってタイヤに悲鳴を上げさせて小さな弧を描き、背後に回り込んだ。
一瞬の出来事だったが、その一瞬が命取りとなる。
目標を失ったヴェイロンの背中には、エンジンがほぼむき出しの状態で晒されていた。
そこに向け、トラギコが拳銃を発砲する。
白煙が上がり、黒煙に、そして、コントロールを失って反対側のアウトバーンへと飛び出して行った。
(=゚д゚)「もういいぞ」
ノハ;゚听)「こんな運転、どこで練習したんですか……」
(=゚д゚)「トップ・ギアでやってたラギ」
絶対に嘘だ、という言葉をギリギリのところで飲み込み、ドライブは再開した。
間もなく夜明けだ。
‥…━━ 06:00 ━━…‥
ニュー速とシベリアの間に広がる荒涼とした土地の果てには、巨大な検問所がある。
不法移民を取締り、不法入国者を逮捕するための検問所。
国内と国外を繋ぐ陸地の最終防衛戦。
背の高い鋼鉄の壁が国境沿いに並び、その付近を武装した国境警備隊の人間がパトロールしている。
闇夜に紛れて壁を越えようとする人間は放し飼いにされたシェパードが決して逃さない。
定期的に上空を無人航空機が周回し、不審者の索敵を行っている。
出国待ちの車列の最後尾に並び、トラギコはエンジンを切った。
ガソリンの残量は残りわずかだった。
(=゚д゚)「さて、ここが本番ラギよ。
ヒート、ちょっと手を出すラギ」
ノパ听)つ「はい?」
言われたままに素直に手を出すと、トラギコはそこに革製のキーケースを乗せた。
使い古されたキーケースを開くと、1つの鍵と1枚のメモが入っていた。
- 87 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:20:12.294 ID:rnOeHQJa0
- (=゚д゚)「シベリアにあるノーザンライツの隠し場所ラギ。
これは、お前しか知らないラギ」
ノハ;゚听)「なら、トラギコさんが持っていてくださいよ」
(=゚д゚)「駄目ラギ。 俺はこの国に残らなきゃならねぇラギ」
ノハ;゚听)「どうしてですか?!
一緒に亡命するんでしょ!!」
(=゚д゚)「俺はそんな事一言も言ってねぇラギ。 お前が1人で亡命しろ。
俺は、まだ片付けなきゃならねぇ仕事が山ほどあるラギ」
ノハ;゚听)「殺されますよ!!」
(=゚д゚)「どうだろうな。
殺されるかもしれないし、生かされるかもしれないラギ。
全部はお前次第ラギよ」
ノハ;゚听)「それに、あたしはパスポートなんて持って来てないですし、ここをどうにかして抜けるにはトラギコさんがいないと無理です!!」
(=゚д゚)「おいおい、お前の仕事を思い出すラギよ。
おまわりさん、だろ?
そしてお前の持ってる手帳はクレジットカードよりも便利ラギ」
ノハ;゚听)「見捨てて行けと、そう言うんですか?!」
(=゚д゚)「誰が誰を見捨てるって?
俺は自分の意志でここに残るだけラギ。
だからお前は見捨てるわけじゃないラギ」
ノハ;゚听)「難しい言葉を使わないでください!!」
深い溜息を吐いて、トラギコは言い聞かせるようにして言葉をゆっくりと紡ぐ。
(=゚д゚)「鮫島事件は絶対に風化させちゃならねぇ事件ラギ。
お前は事件の真相を知った。
警官としてお前がするべきことは、その事件に関わっていた警官を気にするよりも、事件の解決だろ?
そうじゃねぇと、また不幸になる人間が出てくるラギよ」
その言葉はヒートにとって、毒のような物だった。
自分と同じ人間がこれ以上この世の中に増えてほしくない。
警官を志すことになった初心は、今でも忘れてはいない。
天秤にかければこれほど分かり易い式はないだろう。
同僚1人の命と、無数の命。
救うべきなのは後者だ。
例え前者が旧知の仲であっても、選ばなければならないのは後者。
唇から血が出る程強く噛み締め、ヒートは一言を発する。
ノパ听)「……あたしはどう動けば?」
(=゚д゚)「そう難しくないラギ。
国境警備隊のところに行って、指名手配中の男がここにいるって言えばいいラギ。
そんでもって、男の仲間がシベリアの国境付近にいるという情報があるから、それを探しに行くって言えば完璧ラギよ」
ノパ听)「その後トラギコさんはどうするんですか?」
- 88 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:24:21.222 ID:rnOeHQJa0
- (=゚ー゚)「そりゃ逃げるラギよ。
適当な車を借りて、そうだな、テンゴク州にでも遊びに行くさ」
ヒートの頭を乱暴に撫で、トラギコはそう言った。
きっと、もう会う事はないのかもしれないと、ヒートは悟った。
ノパー゚)「……必ず、迎えに行きます」
(=゚д゚)「あぁ、期待せずに待ってるラギ。
じゃあな、ヒート」
拳銃だけを装備して、ヒートはセダンを出た。
小走りで検問所の前で警備をしている人間のところへと向かい、ライフルを肩から提げる男に警察手帳を見せた。
効果はてき面だった。
警戒の態勢を取っていた男は肩から少しだけ力を抜き、ライフルの銃把から手を離した。
(,,゚Д゚)「どうかしましたか?」
ノパ听)「この車列の中に指名手配犯がいる。 逮捕に協力してもらえないか?
相手はかなりの手練で、あたし1人じゃかなり厳しいんだ」
(,,゚Д゚)「手配犯の名前は?」
ノパ听)「トラギコ・キャラハンだ。 警官だが、かなり凶悪でな」
(,,゚Д゚)「なるほど。 分かりました。
おい! デミタス、ロミス!!」
(´・_ゝ・`)「サー、お呼びで?」
£°ゞ°)
2人の男が検問所の中から出てきて、ヒートの対応をした男から手短に命令を伝えられる。
男達はヒートを見て敬礼をした。
(,,゚Д゚)「それで、どの車に?」
ノパ听)「あそこのセダンに……」
トラギコの乗るセダンを指さすと、セダンからトラギコが飛び出し、検問所を背にして走り出した。
不運にも彼の後ろに停まっていた車を奪い、逃亡を図る。
(;´・_ゝ・`)「あっ!!」
(,,゚Д゚)「ちっ、気付かれたか!!
追え!!」
男が言い終わる頃には、2人はすでに駆け出した後だった。
甲高いサイレンが周囲に木霊し、数台の軍用車両がトラギコの乗った車を追いはじめる。
一気に場が騒然となり始めたタイミングを狙い、ヒートは次の手に出る。
ノパ听)「あぁ、それと。
あの男を手引きしようとした奴が、シベリアの国境傍に隠れているという通報も受けていてね。
シベリアの警備員に話しをさせてもらいたい」
(,,゚Д゚)「え、いや、流石にそれは……」
- 89 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:29:18.641 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「国内にテロリストが増えることになってもいいのか?!
ここで取り逃せば、国内でどんな事件が起きるかも想像できない奴には分からないだろうがな!!
そうなったら、あんたが責任を取るんだぞ?」
(,,゚Д゚)「で、ですが……」
ノパ听)「よく分かった。 じゃあ、あたしはもう知らん。
明日のニュースで国境の検問所で自爆テロが報道されないといいな」
押して駄目なら引いてみるという交渉のテクニックを使う。
(;,,゚Д゚)「わ、分かりました!! ですが、この事はどうか御内密に……」
ノパ听)「当たり前だろ。 これはお互いに秘密だ。
ほら、警備の仕事に戻ってくれ」
ゲートの隣にある連絡通路を通り、ヒートはシベリアの地へと歩きはじめる。
通路は網状のフェンスで囲まれ、互いの出入り口に監視カメラが1台ずつ。
シベリア側に通じる扉の前に歩哨が1人立っており、ヒートの登場に僅かだが眉を動かした。
双方の距離は40メートル。
走ればすぐにでも終わるような距離だが、今ここで走れば、不審がられて全てが水泡に帰しかねない。
( ><)「……何の用なんです?」
ノパ听)「……」
( ><)「何の用なんです?」
無言。
今は答える必要が無い。
シベリア領へと入る事が出来てから、ようやくヒートは話す必要に迫られる。
( ><)「何の用かと訊いているんです!!
ここから先はシベリア国の領地なんです!!」
男がライフルを構える。
撃てるはずがない。
(;><)「と、止まるんです!!」
残り5メートル。
(;><)「これ以上近付くなら撃つんです!! 本気なんです!!」
ノパ听)「……」
最後の数歩。
歩哨のライフルの内側まで静かに近づき、ヒートはようやく口を開いた。
ノパ听)「今すぐシベリアの大統領補佐官に連絡しろ。
ニュー速をひっくり返すスクープを持ってる女が来たってな」
ヒートが次に一歩を踏み出した時、その足が踏むのはニュー速国の領土ではなくなっていた。
.
- 90 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:33:39.826 ID:rnOeHQJa0
- 【Epilogue】
‥…━━ 8月24日 17:00 ━━…‥
シベリアの大統領執務室は非常に質素な調度品だけが並び、国内最高権力者の椅子もまた、質素な物だった。
だがそこに座る男、ロマネスク・ネクロノミコンの放つ雰囲気だけは、決して質素ではなかった。
広大な領地を持つシベリアを統べる男は、机の向こうに立つヒートをじろりと一瞥し、着席を促した。
ヒートは小さなアタッシュケースを足元に置いて来客用の椅子に座り、ロマネスクの次の動き、発言を待つ。
そのアタッシュケースはトラギコの指示した建物で見つけた、ノーザンライツの残部47枚と暗号解読用のデータディスクが入った物だ。
そしてそこには、ヒートの手に入れた最後のノーザンライツを足してある。
つまり、このケースの中に鮫島事件を解決させるための鍵が全て揃っていることになる。
( ФωФ)「鮫島事件というものは、吾輩も聞いたことがある。
だがそれは、インターネット上の戯れであろう?」
ノパ听)「火の無いところに煙は立たないと言います」
( ФωФ)「仮に我が国がこの鮫島事件の書類を手に入れ、それを世間に公表したとして、得られるのは何だ?
こちらには隣国の怒り、そちらには混沌だ」
確かにそうだ。
大国の弱みを握ってこのシベリアにどのような利益があるのか、それが分からなければ手を貸す意味はない。
だがこうして話し合いの場に応じてくれたという事は、ロマネスクは勘づいているはずだ。
この事件は、大きな利益につながるという事を。
ノパ听)「あたしの目的はこの事件を終わらせること。
この事件が終わったとしても、この事が公になられたら困る人間は大勢います。
ニュー速に対してこの情報を流すと脅せば、それなりの見返りは得られるはずです」
( ФωФ)「……吾輩に脅せと?」
ノパ听)「いいえ、交渉するだけです。
交渉は可能な限り早くしなければ、この情報の鮮度は失われます。
ロマネスク大統領、決断の時間はあまりありません」
( ФωФ)「随分と強気だな。 何がそこまでお前にそうさせる?
正義か? それとも義務か?」
トラギコが鮫島事件を公にしようと決意したのは、そんな理由ではなかった。
彼は正義感の強い男だったが、正義の押し売りはしなかった。
正義や義務などではなく、理由はもっと簡単な物だった。
ノパ听)「これがあたしだからです」
( ФωФ)「くっ……はははっ!!
いいな、強気な女は実にいい。
いいだろう、この話、乗らせてもらおう」
上機嫌でそう言ったロマネスクは卓上の電話を手に取り、どこかへと電話をかけ始めた。
時間にして僅か2コール目で、相手が電話に応じた。
受話器越しに相手の声が聞こえてきた。
その声は、紛れもなく、ニュー速国の大統領の物だった。
- 91 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:40:05.246 ID:rnOeHQJa0
- ( ФωФ)「よぅ、吾輩だ。 久しぶりだな、セントジョーンズ大統領。
少し訊きたいことがあってな。
鮫島事件というものを知っているか? ははっ、そう冷たくするな。
お前の国がやって来たことを知る機会に恵まれてな、どうだ?
48の資料は今、吾輩の手元にある。
どうだ? 吾輩と話をしたくなったか?」
セントジョーンズの怒鳴り声が聞こえてきたが、ロマネスクは満足そうに頷き、短く伝えた。
( ФωФ)「また後で連絡する」
受話器を置き、ロマネスクはヒートを見た。
( ФωФ)「どうやら実在するらしいな。 それで、お前の望みは何だ?
亡命先での生活が出来るように手はずを整えてやることぐらいは簡単にできるぞ。
それとも、この国で働くか?」
ノパ听)「いえ、願いは1つだけです」
ノーザンライツの入ったアタッシュケースを手に入れた時から、ヒートは考え続けていた。
今頃トラギコがどうなっているのかは分からない。
運が良ければ逃亡に成功しているが、恐らくは捕まり、殺されるか拷問を受けているだろう。
執務室に入る前にヒートの答えは決まっていた。
ノパ听)「ニュー速国に戻ります」
( ФωФ)「……馬鹿か? そこから逃げて来たのに、そこにまた戻る?
正気じゃねぇな」
ノパ听)「警官が街を見捨てたら、誰が街を守るんですか?
あたしは警官です。
例え腐った政治家が国を統べていても、あたしは国に忠誠を誓ったつもりはありません。
真面目に生きる人間が馬鹿を見ない社会に近づけるためには、警察が必要なんです」
トラギコは警官として国に残る決断を下した。
それは彼が警官だからだ。
警官とは市民の平和を守る存在であり、犯罪を取り締まる存在。
いわば犯罪と市民とを隔てる壁の役割を担っている。
その壁が己の職務を忘れることがあってはならない。
例え1人の離反であっても、それはやはり、警官本来の仕事を捨てたことになる。
それは出来ない。
微力であっても、ヒートは警官であり続けたい。
ノパ听)「だから、あたしをニュー速のヴィップ州警察署に連れて行ってください」
( ФωФ)「本気で言ってるのか? 国家を揺るがす事件のネタだぞ?
金や自由は簡単に手に入るだろうよ。
それに、シタラバにでも行けば安全で安心な日々が過ごせる。
何がそこまで不満なんだ?
警官としての仕事であれば、シタラバでも出来るだろうよ」
- 92 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:45:29.419 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「あたしは、ヴィップの街が好きなんです。
混沌としたあの街が好きなんですよ、本当に。
だから例え、どれだけ便利で安全な街に行けるとしても、あたしはあの街で働き続けたい。
最後の1人になっても、あたしは警官であり続けたいんです」
これは偽らざるヒートの本心だった。
結局、ヒートも1人の警官なのだ。
( ФωФ)「分からんな、その気持ちは。
分からんが、嫌いではない。
今日中に国に帰れるよう、手配しておこう。
欲しい物はあるか?」
ノパ听)「銃と弾だけあれば十分です。
それと、セントジョーンズ大統領に伝言をお願いしても?」
( ФωФ)「言ってみろ」
ノパ听)「もう1人に手を出すな、と」
( ФωФ)「いいだろう」
ノパ听)「ノーザンライツは大統領、あなたに預けます。
どう使おうが、あたしの知ったところではありません」
‥…━━ 23:50 ━━…‥
一夜明けたヴィップ州警察署は後片付けで大忙しだった。
事件現場の捜査や襲撃者の身元特定と特別対策本部の設置など、やらなければならない事が山のようにあった。
昨夜の襲撃で死亡した警察関係者はおらず、負傷者の搬送や建物の修復、使用された弾薬の管理だけがネックとなっていた。
( `ハ´)「えーっと、散弾が49ダース、拳銃弾が63ダース……
紛失した書類が2017枚っと」
シナー・ライバックはキーボードのテンキーを叩きながら、大きな溜息を吐いた。
彼は署内で使われた弾薬と失われた書類の一覧を作成し、それを集計する作業を任されていた。
事務作業を得意とする他の同僚は別の作業に追われ、知識と経験のある彼にその仕事の一部が回って来たという次第だ。
(#`ハ´)「撃ちすぎアルよ、まったく」
ノパ听)「ストレスが溜まってたんじゃないですか?」
彼の横に現れたヒートを見て、シナーは驚きの表情を浮かべた。
( `ハ´)「帰って来たアルか。
よし早速手伝うアルよ」
だがそれも僅かの事。
シナーはヒートの机上に書類の山の一部を移動させ、そう言った。
ノパ听)「うへぇ……」
( `ハ´)「今日中に終わらせないといけないアル。
ほれ、後10分頑張ればいいだけアルよ。
後でラーメンわけてやるから」
- 94 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:48:38.426 ID:rnOeHQJa0
- パソコンを起動し、ヒートは早速書類仕事に取り掛かることにした。
指定されたファイルに数字を入れて行き、また新たな書類を手に取って打ち込んでいく。
ディスプレイから視線を逸らすことなく、ヒートはシナーに声をかけた。
ノパ听)「トラギコ警部は戻りましたか?」
( `ハ´)「あぁ、さっき戻ってきて即入院アルよ。
何でも軍に拘束されてたとかで、結構ぼろぼろになっていたアル」
負傷はしているものの、生きているのであればそれは何よりだ。
つまり、この国の大統領は約束を果たしたことになる。
ノパ听)「それはよかった」
( `ハ´)「見舞いに行くアルか?」
ノパ听)「出来れば行きたいですね」
すると、ヒートの机上にあった書類の山をシナーが再び自らの机に戻した。
だが依然として彼の視線はディスプレイと書類にだけ向けられている。
( `ハ´)「行って来いアル。
何があったのかは知らないけど、この事件で出てくるいろんな繋がりで察するアルよ。
ラーメンはまた今度アル」
ノパ听)「……すみません、お言葉に甘えさせてもらいます」
シナーの心遣いをありがたく受け取り、ヒートは職場に戻って早々にトラギコの元へと向かうことにした。
彼の入院先をシナーからメモで渡され、その住所に向かって車を走らせる。
大きな渋滞やトラブルもなく、数十分で車は目抜き通りの傍にある国営病院に到着した。
白く巨大な建物が街の光を下から受けて輝き、その存在感を一層際立たせている。
日付は変わり、25日となっていた。
受付を済ませ、トラギコの入院する最上級の個室へと向かう。
リノリウムの床を踏みつける靴音が不気味に木霊する。
扉をノックし、扉を開く。
ノパ听)「トラギコさん、無事ですか?」
ベッドの上に横たわるトラギコの顔は傷だらけで、僅かに除く腕も同じく傷にまみれていた。
指の全てに白い包帯が巻かれているのを見て、拷問を受けていたのだとすぐに理解した。
(=゚д゚)「よくねぇな。 全身筋肉痛ラギ。
……どうして戻ってきた?」
ノパ听)「警官ですから。 警官が事件から逃げるなんて、そんなことは許されません」
(=゚д゚)「ノーザンライツはどうした?」
ノパ听)「ロマネスク大統領に渡しました。
それでこの国のトップと交渉をする予定ですし、実際、トラギコさんが解放されたのもその1つです」
(=゚д゚)「馬鹿が…… 俺なんか放っておけばよかったラギ。
交渉するってことはつまり、鮫島事件は公にされずに終わるってことだ。
どうするんだよ、また起こるぞ」
ノパ听)「それについて考えて、いい手段を思いたんです」
(=゚д゚)「ってえと?」
- 95 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/25(金) 23:54:06.644 ID:rnOeHQJa0
- ノパ听)「鮫島事件の概要をインターネット上に掲載します。
そして、私達がどんなことに巻き込まれたのかも、一切合切」
(;=゚д゚)「そんなもん、誰が信じるっていうラギ?
ブログやら何やらに書いたところで、精々オカルトマニアを楽しませて終わりラギよ。
それに、連中は逐一インターネットを監視しているラギ。
不穏な書き込みをしようとしたら、これまでの奴らと同じですぐに内容を書き換えられるラギよ」
ノパ听)「えぇ、普通に書いたところで信じる人はいないでしょうし、書き込みは消されるでしょう。
ですが、普通ではない形式にすればどうでしょうか?
鮫島事件を題材にした小説の形を取って、その中にノーザンライツの在処を残しておくんです。
巡回している政府の人間が気付くことなく世界中に発信が可能です」
(;=゚д゚)「……ちょっと待てよ、お前、データをコピーしたのか?」
ノパー゚)「えぇ、ロマネスクに渡したのは書類のコピー。
原本はこちらにあります。 勿論、暗号解読用のデータディスクもこちらが本物です。
政治家にノーザンライツを渡したところで、交渉の材料にしか使わないのであれば、本物である必要はありませんから」
要は、ノーザンライツが流出したという事とそれがロマネスクの手中にあるかのように思わせればいいだけなのだ。
そうすればニュー速国は鮫島事件の継続が国の崩壊につながるレベルで危険であると判断し、中断ないし破棄を検討するはずだ。
抑止力としての効果がかなり高い事は、現状が何よりの証拠だ。
くつくつと、トラギコは意地悪そうに嗤った。
(=゚ー゚)「やるじゃねぇか、ヒート。
それで、具体的にはどうやるラギ?」
もう答えは分かっているはずだ。
全ての始まりの地。
何者にも縛られない、現代のソドム。
ノパー゚)「一時とは言え、鮫島事件の噂が爆発的に広まったのはその情報が掲載された場所が問題でした。
だから今夜、再びそこに掲載します。
インターネットの坩堝、匿名掲示板に――」
‥…━━ 8月25日 19:37 ━━…‥
とあるインターネット匿名掲示板に、1つのスレッドが立ち上げられた。
内容は掲示板に昔からある小説形式の物語であり、偶然にもイベントの真っただ中であった。
数多のスレッドの中にひっそりと隠れ潜むようにして、そのスレッドには書き込みが続いた。
そこに書き込まれた物語はインターネットに昔から流れている噂話を題材としており、昔を懐かしむ人間や、目新しさを覚える人間が多く閲覧した。
('A`)「へぇ……」
ある男がいた。
その男は先日車を警官に貸し、廃車となった愛車の代わりに新型の車を国から送られた男だった。
男はその物語を読み、先日自分が体験したような話が出てきたことに興味を持った。
元々インターネットを利用することの多い男は、その物語を純粋な好奇心で読み進め、そして労いの言葉を書き込もうとした。
('A`)「ん?」
- 96 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/26(土) 00:00:36.060 ID:EggX578L0
- ふと、男は気付いた。
スレッド主の書き込みの一部に、何やらアルファベットが並べられていることに。
それは単体では意味のない文字の羅列だったが、明らかに故意によるものだと気付いた。
通常、メール欄に書き込まれるのとはまるで異なる文字列だ。
何の気なしにその文字を並べると、短縮されたURLであることが分かった。
('A`)「随分と凝った仕組みだな」
芸の細かさに、一先ずは称賛の言葉を書き込む。
そして、そのURLをブラウザに貼り付け、リンク先にアクセスした。
そこにあったのは、1つの圧縮ファイルだった。
('A`)「……おいおい」
この形式で小説を書く人間が圧縮ファイルを利用することはまずない。
精々が画像ファイルかテキストファイルで、圧縮することなく用意に貼り付けることが出来る。
では、この圧縮ファイルの中身は何であろうか。
<ヽ`∀´>
好奇心がある男の背を押した。
<ヽ`∀´ミ,,゚Д゚(=゚ω゚('A`)
好奇心が男達の背を押した。
ミセ*゚ー゚)リ
好奇心がある女の背を押した。
ミセ*゚ー゚)瓜゚∀゚从'ー'从 ゚∀从
好奇心が女達の背を押した。
マト#>Д<)メ
彼らの好奇心が、スレッドのデータをまとめる人間に伝播した。
そのスレッドは書き込みの全てをまとめられ、1つの記事として世界中に発信された。
勿論、隠されたメッセージをそのままに。
数十人、或いは数百人の人間達はファイルをダウンロードし、そして――
- 97 名前: ◆n8vcLxTNN6 投稿日:2017/08/26(土) 00:01:28.662 ID:EggX578L0
- ノパ听)が鮫島事件に巻き込まれたようです
The END
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