(*゚∀゚)消えたよだかを想うようです
1 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:08:59 ID:KHxWAKRw0


(゚、゚トソン「埴谷先輩って、なんで天文部に入ったんですか?」

 天文部の夏休み合宿二日目。昼食を早めに終えて課題を進めていたら、いつの間にか隣に居た後輩から話を振られた。
あまりにも突拍子の無い振りだったので、思わず作業の手を止める。

(*゚∀゚)「なんでって……。急になんだよ」

(゚、゚トソン「いや、前から気になってたんです。先輩ってどっちかというと運動部向きじゃないですか?足早いし」

(*゚∀゚)「そうかぁ?平均くらいだぜ」

(゚、゚トソン「ご謙遜を……。こないだの体育祭、徒競走ぶっちぎりトップだったでしょう。覚えてますからね、私」

(;゚∀゚)「アハハ……」

なんと返していいのやら。愛想笑いで返し、作業を続行する。後輩──都村はまだこちらを見ている。
それで、と再び口を開いた。

(゚、゚トソン「それで、まだ質問に答えてもらえてないのですが……」

(*゚∀゚)「ああ、なんで天文部入ったのかだろ?」

(゚、゚トソン「はい」

(*゚∀゚)「んー……そうだなぁ……星を見たいとかじゃ駄目?」

(゚、゚トソン「その言い方じゃ別の理由があるってことですよね、駄目です」

(*゚∀゚)「ですよねー」

2 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:11:29 ID:KHxWAKRw0


 意外と粘り強い都村の目には好奇心の光が宿っていて、適当に誤魔化せそうにないなと諦めた。
どうせ午後は殆ど自由時間。観測の準備をするにはまだ早い。
暇つぶしに課題を進めていただけだから、世間話くらいにはなるだろうと都村の方へ向き直った。

(*゚∀゚)「じゃあ聞いてくれるか?辛気臭い話だし、長くなるかもしれないけど」

(゚、゚トソン「先輩がいいなら、かまいませんよ。頼んだのは私です」

(*-∀-)「……そうだなぁ」

(゚、゚トソン「?」

(*゚∀゚)「……何年も前の話だよ───」



***


───俺には二つ上の姉貴がいたんだ。
大人しくて無口で本ばっか読んでたけど、勉強教えてくれたし、面白い話をいっぱい知ってた。

ただ、顔やら腕に大きく目立つ痣があった。顔なんかは特に酷くて、左半分くらいは痣だったな。
あとで聞いたら生まれつきのものだったらしい。だからいつも、それを隠すみたいに長袖ばかり着てた。俺は痣なんて気にしなかったけど。

(#゚;;-゚)「つー。宿題してるの」

(*゚∀゚)「さんすーしてんの。今度テストあるんだー」

(#゚;;-゚)「そっか。テストがんばってね」

(*゚∀゚)「うん!」

面倒見はよかった。年齢のわりには大人びてたしな。でも───

3 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:16:46 ID:KHxWAKRw0

「でぃ!」

(#゚;;-゚)「!」

(*゚ -゚)「今、何してたの?」

(;#゚;;-゚)「あ、その、」

(*゚ -゚)「つー君に近づくなって言ったでしょう?あんたの汚い痣が伝染ったらどうしてくれるの?」

(;# ;;- )「す、すみません……」

(;*゚∀゚)「……」

母親がさ、姉貴を嫌ってたんだ。あ、いや、嫌ってたっていうか……差別してたっていうか。
まあとにかく、俺や父親に近付くのが嫌だったみたいで。それでよく叩かれたりしてた。

「アンタさえいなければよかった……!産むんじゃなかったわこの出来損ないっ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「あの人の帰りがいつも遅いのもアンタのせいよっ!アンタの醜い痣見てたら不快なのよっ!」

「ごめんなさい許してくださいごめんなさい」

毎晩、特に父親の帰りが遅い日は母親の怒鳴り声が酷かった。

(∩*;∀;)

俺は布団被って泣きながらそれを聞いてた。神様でも誰でもいいから、姉貴を救ってくれるよう祈ってた。
怖くて、自分じゃ何も出来なかった。

4 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:20:01 ID:KHxWAKRw0

***


(゚、゚;トソン「……あの」

申し訳なさそうな顔で都村が話を遮る。

(*゚∀゚)「……やっぱ気分悪くしちゃったか?」

(゚、゚;トソン「いえ、私は大丈夫です……けど、その……」

(*゚∀゚)「あぁ、俺?もう平気だよ、わりと吹っ切れた。
てか、誰かに聞いてほしいってのもあるかな。懺悔?みたいなもんだよ」

(゚、゚;トソン「懺悔……ですか……」

(*゚∀゚)「続けて大丈夫?」

(゚、゚;トソン「はい……」


***

───姉貴は時々中学の制服を汚して帰ってきてた。そんな時母親がそれを目敏く見つけて姉貴を罵るんだ。
なんでそんな汚したのか、高い金出して買ってやった制服なのに、みたいにさ。
姉貴は申し訳なさそうに俯いてて、流石に見かねて俺が間に入ってやると、

(*゚ー゚)「つー君は優しい子ねぇ。もうこんな子放っておいてお菓子でも食べましょうねぇ」

なんて猫なで声で俺をリビングまで連れていく。
大体俺はここで菓子を何個かくすねておいて、あとで姉貴に分けに行く。勿論母親が買い物なんかでいない時だけど。

(*゚∀゚)「姉ちゃん、お菓子持ってきたよ。食べよ」

(;#゚;;-゚)「駄目だよ。つーも怒られちゃうよ」

(*゚∀゚)「別にいーよ、あんなババアの言うことなんて誰が聞くかよ」

(;#゚;;-゚)「こら!お母さんのことそんな風に言っちゃ駄目でしょ!」

(;*゚∀゚)「あーうっせうっせ!とにかく食おーぜ!」

その時間が一番楽しかった。俺のクラスメイトが馬鹿やった話とか、姉貴が授業で聞いた難しい話。
二人で笑い合える少ない時間だった。いつも無表情の姉貴も、この時だけは笑ってた。

5 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:22:57 ID:KHxWAKRw0

 小六の秋頃だったかな。帰り道にある本屋の前を通ったら、そこの本棚を見つめる姉貴がいた。

(*゚∀゚)「姉ちゃん?何してんの?」

(;#゚;;-゚)「ひぇ!?……なんだ、つーかぁ……」

 俺がいきなり話しかけたもんだから驚いたらしい。手に取ってた本を慌てて棚に戻すのが見えた。

(*゚∀゚)「本?買うの?」

(#゚;;-゚)「ううん。お金も無いし……。そんなことより、暗くなっちゃうから早く帰ろう?」

(*゚∀゚)「……うん」

……俺さ、結構視力よかったんだ。だから本の表紙とかタイトルくらいなら、俺にはなんとなく読めた。
姉に手を引かれながらじっとその本を見てた。見失わないように。忘れないように。


 次の日曜日に財布を握りしめて本屋に走った。母親はいつも俺にだけ小遣いを多めにくれてたから、本の一冊くらいは余裕だったんだ。
漫画とかは買ってもらえてたし。
姉貴の誕生日も近かったし、なにより受験のために一人で頑張ってるみたいだったから、俺なりに応援したかったのかもしれない。

(*゚∀゚)「……あった」

特徴的な、夜空に鉄道が走ってるデザインの表紙。多分都村も知ってるよな。宮沢賢治の短編集だったんだ。
当時の俺はその場でペラペラめくって数ページで挫折したっけ。
本屋のおっさんに包んで貰って、家に帰った。そんで母親が買い物に行ってるのを見計らって姉貴にそのままあげた。

(*゚∀゚)「姉ちゃん!これあげる」

(#゚;;-゚)「つー、どうしたのいきなり」

(*゚∀゚)「いいから!開けてみ!」

6 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:25:39 ID:KHxWAKRw0


内心俺はドキドキしてた。姉ちゃんびっくりするかな、喜ぶかな、笑ってくれるかな。
包装を開けて、姉貴はポカンとしてた。その顔を見たら急に恥ずかしくなってきて

(;*゚∀゚)「あ…はは…ほら、姉ちゃんもうすぐ誕生日だしさ!こんなんしか、あげらんないけど」

なんて誤魔化そうとしたんだけど、姉貴が急に抱きしめてきた。

(# ;;- )「ありがとう……」

顔は見えなかったけど、声でなんとなくわかった。姉貴が泣いてること。

(;*゚∀゚)「えっどうしたんだよ姉ちゃん……!泣くことないだろ……もしかして違った?」

(#。゚;;-゚)「そうじゃないの……ごめんね……つーは本当に優しいのね……ありがとう……」

(#。 ;;- )「……私みたいな人間に、ならないでね……」

(;*゚∀゚)「……?うん……」

 その時は母親が帰ってきたから曖昧な感じで終わった。表情が少ない姉貴の泣き顔なんて後にも先にもあれ一回ポッキリだったかもな。
でも、その後俺があげた本を熱心に読んでる姿を見た時は嬉しかった。


───後になって、本なんてあげるんじゃなかった、って後悔することになるんだけどな。

7 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:27:52 ID:KHxWAKRw0


***


(;*-∀-)-3「……ふぃー……長話は疲れるね」

(゚、゚;トソン「お、お疲れ様です……」

(*゚∀゚)「少し休もっか。お茶持ってこようか?」

(゚、゚;トソン「……あの……」

(*゚∀゚)「ん?疲れたか?なら明日にするけど」

(゚、゚;トソン「いえ、えっと……本をあげなきゃって……その、何か、あったんですか?」

(*゚∀゚)

(*-∀-)「あー……うん」

(*゚∀゚)「……俺が、あの本をあげたから」



「姉貴は、あの後死んだんだ」


(゚、゚;トソン「……え……?」

8 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:34:12 ID:KHxWAKRw0

***

───じゃあ続きを話そうか。まあまだ時間あるし、退屈しのぎだと思って聞いてくれ。
話が暗くて申し訳ないけど。

 月日も経って俺は姉貴と同じ中学に入った。
母親は姉貴が入学したことなんて覚えてないんじゃないかってくらい過剰な程喜んだし、父親は相も変わらず何も言ってこなかった。
でも新しく始まる生活には俺もワクワクしてた。学ランには前から憧れてたし、部活見学も楽しみだった。
体動かすのは好きだったから。
何より学校で姉貴と時々すれ違ったりするのも新鮮な気分だった。姉貴が中学に上がってから薄暗くて狭い部屋にいる姿しか見れなかったしな。
姉貴が卒業するまで一年しか無いけど、それでも嬉しかった。


 クラスにそれなりに馴染んできて、友達もできた頃のことだ。
俺は英語の辞書を家に忘れちゃって、真面目な姉貴なら持ってるかなって思って借りに行った。
クラスは前に聞いたから覚えてたけど、いざ扉の前に立つとちょっと緊張した。いるかな、と思って窓から覗いた。
結論から言うと姉貴はいた。けど様子がおかしい。何人かの同級生に囲まれて何か言われてたんだ。雰囲気も険悪だった。
その状況からなんとか救ってやりたくて、思わず扉を開けてた。

9 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:35:06 ID:KHxWAKRw0

(;゚∀゚)「し、失礼します!えっと……埴谷でぃはいますか!?」

ミセ*゚ー゚)リ「はぁ、いるけどぉ……どちら様ですかぁ?なんか用?」

(;゚∀゚)「あ、自分弟っス!えと、ちょっと辞書借りに来ました……」

ミセ*゚ー゚)リ「ふぅん……。埴谷さぁん?弟くんが呼んでるけどぉ?」

(#゚;;-゚)「……はい。どうしたの?」




(*゚∀゚)「あーえっと、英語の辞書持ってない?忘れちゃってさ」

(#゚;;-゚)「ああ……持ってるよ。ちょっと待っててね」

(*゚∀゚)「サンキュ!あとでジュース奢るよ」

(#゚;;-゚)「気にしないで……はい」

(*゚∀゚)「んじゃお借りしまーす」

(#゚;;-゚)「うん、またね」

休み時間も少ないから、ちょっと急ぎ足で帰った。
でもせっかく辞書を借りたのに頭の中は姉貴のことでいっぱいだった。

姉貴に向けるクラスメイトの視線は母親のようだった。クラスの雰囲気も暗かったし。
あれが所謂『いじめ』というものなのか。思えば姉貴はよく制服を汚して帰ってきてた。
漫画みたいに、殴られたりしてたらどうしようとか思った。

もし姉貴がいじめられてるんなら俺が助けなきゃって思った。家でも学校でも居場所がないなんて、悲しかったから。

10 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:38:26 ID:KHxWAKRw0

 助けなきゃって言っても俺は頭は悪いから上手い仕返しなんて思いつかない。喧嘩なんてしたことないし。
だから手っ取り早く姉貴の担任に話してみることにした。交流もないから顔知ってるくらいの先生だったけど。
確か、盛岡って言ったかなぁ。若い新任の先生だった。放課後、廊下で見かけて慌てて声かけた。

(;゚∀゚)「あ、あのっ!」

(´・_ゝ・`)「ん?……ああ、埴谷さんの弟くん、だっけ?」

(;゚∀゚)「今、時間大丈夫ですか?その、お話があって……」

(´・_ゝ・`)「うーん、まあ大丈夫だけど。廊下は人多いし、そこの教室空いてるからそこで話そうか」

(;゚∀゚)「あ、うす……」

なんかいかにもフツーの教師だった。平凡を絵に描いたような感じ?
ちょっと頼りなさげだったからもうこの時点で不安だった。まあ予感は的中するんだけど。


(´・_ゝ・`)「───それって“いじめ”なの?」

俺の話を聞いた第一声がこれだった。

(;゚∀゚)「えっ……」

(´・_ゝ・`)「困るんだよねぇ。最近そういう生徒多くてさ。
悪口言われた気がするとか、落書きされたかもとか」

(;゚∀゚)「でも、確かにあの時」

(´・_ゝ・`)「うーん、君はうちのクラスをあんまり知らないからさ、そう見えちゃったのかもしれないよ?
ほら、この前学校でいじめ調査あったろ。アンケートのやつ」

(;゚∀゚)「……はい」

(´・_ゝ・`)「僕のクラスは誰一人“いじめがある”なんて答えなかったよ。君のお姉さんもそうだった」

(;゚∀゚)「そ、そんなのどうとでも誤魔化せるじゃないですか!
姉ちゃんだって、チクるなって脅されてたのかも……」

……この後あの教師が放った言葉はたぶん、一生忘れられない、と思う。
俯いて、大きなため息を吐いて、それから───。

11 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:42:01 ID:KHxWAKRw0


(#´・_ゝ・`)「あのさぁ!君みたいな子供が一番困るんだよね!
君達生徒は知らないだろうけど、担当クラスでいじめの報告なんてあったら担任の出世に響くんだよ。
仮にいじめがあったとしたら僕の評価が下がるわけだ。君は正義感からこんなこと言ってるのかもしれないけど、こっちだって生きる為に必死なんだ。
それに、誰も告発しない以上、現状維持を望む人間は多いってことなんだよ。
いい加減君も中学生なんだからさぁ、それくらい分かってくれよ」

(* ∀ )

(;´・_ゝ・`)「……ああ、しまった……怒鳴ってしまってすまない……こんなつもりじゃ……。
……その、僕は明日の準備をしなきゃいけないからもう帰るよ。君も暗くなる前に、早く帰りなさい」

そうして先生は、バツの悪そうな顔で教室からさっさと出ていって、俺一人だけが取り残された。
静かになった教室の窓からは気持ち悪いくらい綺麗な夕焼けが見えて、


(*;∀;)

俺は、思わず泣いてしまった。

***

12 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:44:59 ID:KHxWAKRw0


(*-∀-)「ーーーそのあと俺は、」

(゚、゚#トソン「……」

(;*゚∀゚)「っておい都村!?椅子持ってどこ行くんだよ!」

(゚、゚#トソン「そのクs……教師をぶんなg……教育しに行きます」

(;*゚∀゚)「落ち着いて!こっち越してくる前の話だから!」

(゚、゚#トソン「教師の風上にもおけぬ……」

(;*゚∀゚)「椅子を凶器にしないで!合宿所のものは大切に使いなさいって!
毛利先生に怒られるからあああああ!」



***


───落ち着いた?いや、いいよ謝らなくて。というか過去の話だし、気にしてないよ。
うん、まあそのあと俺は虚しい気持ちのまま家に帰って、ぼんやりと夜を過ごして。
だけどやっぱり姉貴が気がかりだったから、寝る前に部屋に行ってみた。

(*゚∀゚)「姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「つー。どうしたの?眠れない?」

姉貴はまだ起きてて、教科書を開いて勉強してた。

13 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:46:35 ID:KHxWAKRw0


(*゚∀゚)「……勉強してんの?」

(#゚;;-゚)「うん、高校行きたいから。お母さんは働けって言うけど……」

(*゚∀゚)「あの人の言う通りになんかすんなよ。……俺は姉ちゃんの味方だから」

(#゚;;-゚)「ありがと、つーはいい子ね」

(*゚∀゚)「てか、むしろ俺が働きてーよ。勉強とかできねーし」

(#゚;;-゚)「だーめ、高校くらいは出ておきなさい」

(*゚∀゚)「へーへー。お姉様は優秀でございますねぇ」

(#゚;;-゚)「もう……」

 クマが濃くなった以外はいつも通りの姉貴で、少し安心した。
けど今思えばただの強がりだったのかもな。

(*゚∀゚)「じゃ、寝るわ。挨拶しに来ただけだから。おやすみなー」

(#゚;;-゚)「うん、おやすみ」

(*゚∀゚)「……姉ちゃん」

(#゚;;-゚)「なぁに?」

(*゚∀゚)「……何かあったら、言ってくれよな。さっきも言ったけど、俺はいつでも味方になるからさ」

(#゚;;-゚)「……ありがと」



なんか、改めて振り返るとちょっと恥ずかしいな。え、かっこいい?ありがと。
だけど、結局俺は姉貴を救えなかったんだ。

14 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:48:36 ID:KHxWAKRw0


 夏休みに突入してから、俺はわりとダラダラと遊び呆けてた。受験とかまだよく分からないし、宿題なんて後回し。
まあ、そこらの中学生とさして変わらないよ。
そんで、宿題が終わらなくて大変な思いするパターンだな。俺は20日過ぎたくらいから慌ててやり始めた。
数学が多くてさ、夜更かしして進めてた。

日付が変わる少し前くらいかな。喉が渇いたから居間に行こうとしたら、話し声が聞こえた。
夏だし扉は開け放してあったから、ちょこっと覗いてみた。


(,,゚Д゚)「───それで、でぃは高校に行きたいのか」

(;#゚;;-゚)「……はい」

(*゚ -゚)「駄目よ。学費いくらかかると思ってるの」

(;#゚;;-゚)「で、でも、えっと、今、特待生になれるよう、勉強してて」

(*゚ -゚)「それでどうするの?特待生は私立だけでしょう?
この辺私立は無いわよ。遠くに行くにしても交通費だってかかるわ」

(;#゚;;-゚)「……バイト、します。自分で稼ぎます」

(*゚ -゚)「バイトなんてしながら勉強出来るほど、世の中甘くないわよ」

(;#゚;;-゚)「……」

両親と姉貴の進路について話し合ってたみたいで、どう見ても姉貴のピンチ。
助けようか悩んでいたら、意外なところから声が上がった。

15 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:52:14 ID:KHxWAKRw0


(,,゚Д゚)「……まあ、俺は高校くらい構わないと思うが」

(;#゚;;-゚)「!」

父親だ。

(*゚ -゚)「あなた、何言ってるの」

(,,゚Д゚)「このご時世、高校ぐらい良いだろう。娘一人高校にやれないほどうちはそこまで困窮してない」

(#*゚ -゚)「そういう問題じゃないの。ここで調子に乗って大学進学まで言い出したらどうするのよ。
学費はつー君の分だって必要なのよ?」

(,,゚Д゚)「つーを行かせるなら尚更でぃも行かせてやらないといけないだろ。
……前々から思っていたが、最近色々とやりすぎじゃないか?少し休んだらどうだ?
知り合いに精神科の医者をやってる奴が───」

(#*゚ -゚)「あなたは私が異常者だって言いたいの!?」

(,,゚Д゚)「そうじゃない、一回行ってみたらと言ってるんだ」

(#゚ー゚)「そういうことでしょ!?言わせてもらうけど、あなただっておかしいわ!
いつもいつも残業ばっかり、ろくに家に帰って来ないじゃない!」

(,#゚Д゚)「俺は仕事が忙しいんだ!そもそもお前は疲れてる俺を労ってもくれないじゃないか!」

(#゚ー゚)「私だって子育てと家事で忙しいのよ!」

(,#゚Д゚)「子育て!?子供を理不尽に怒鳴りつけるのが子育てか!?」

(#゚ー゚)「今更何言ってるのよ!あなたいつも見て見ぬふりしてるじゃないの!」

 当時、両親の仲は険悪だった。顔を突き合わせては喧嘩ばかりしてて。この時もいつの間にか夫婦喧嘩に発展していた。
放置された姉貴は、俯いて何も言わずに座ってるだけだった。

16 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:53:52 ID:KHxWAKRw0

 それ以降、姉貴が勉強をする姿を見るのは減った。そのかわり、夏休みが明けてから帰りが遅くなった。
何回か部活帰りに見かけたけど、学校近くの雑木林の辺りをぼんやりふらついているだけだった。
なんとなく声をかけづらかったから特に何も言わなかったけど、一回だけ、何してるの?って聞いたら、

(#゚;;-゚)「探してるの」

としか言わなかった。


 そんでとうとう十月、二十二日の夜のこと。珍しく姉貴の方からよく覚えてる。
もう寝ようかなって思った時に、部屋に姉貴が来た。

(#゚;;-゚)「起こしちゃった?」

(*゚∀゚)「んーん、これから寝るとこ。姉ちゃんが来るなんて珍しいね」

(#゚;;-゚)「……」

(*゚∀゚)「?とりあえず座ったら?」

姉貴は黙ったまま床に座って、暫く床を見つめてから、

(#゚;;-゚)「つーは、将来何になりたいとか考えたことある?」

(*゚∀゚)「……将来?」

突拍子もない質問で戸惑ったけど、正直に特に無い、って答えた。

(#゚;;-゚)「……私ね、天文学者になりたかったの」

(*゚∀゚)「天文学者?」

(#゚;;-゚)「うん、宇宙のこと勉強して、星を研究して、新しい星を見つけるのが夢だったの」

(*゚∀゚)「……姉ちゃんなら、頭いいからなれるよ」

(#゚;;-゚)「そう、ね……」

17 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 00:54:55 ID:KHxWAKRw0

また少し間が空いて、気まずくなった俺は来月が姉貴の誕生日だってことを思い出した。

(*゚∀゚)「あ、のさ、姉ちゃん来月誕生日だろ?なんか、欲しい物ある?」

(#゚;;-゚)「来月……?ああ……そっか。もうそんな時期か……。ならちょうどいっか」

(*゚∀゚)「?」

(#゚;;-゚)「これ……」

姉貴に渡されたのは、簡素な包装紙で包まれた小さな箱だった。

(*゚∀゚)「なにこれ」

(#゚;;-゚)「私、誕生日は何もいらない。そのかわりこれを預かっててほしいの」

(*゚∀゚)「いいけど……いつまで?」

(#゚;;-゚)「私の誕生日が過ぎるまで。そしたら中を見て欲しいの」

(*゚∀゚)「……それだけ?本とか、お菓子とか」

(#゚;;-゚)「いらない。前に貰ったあの本だけで充分だよ」

(*゚∀゚)「そっか、わかった」

(#゚;;-゚)「ありがと」

じゃあ寝るね、遅くにごめんね、って言って姉貴は立ち上がった。

(*゚∀゚)「いいよ、おやすみ」

(#゚;;-゚)「おやすみ……。つー、」

(*゚∀゚)「?」

(# ;;- )「……ごめんね」

(*゚∀゚)「え?」

聞き返そうとしたけど、ドアはもう閉められてた。まあいいかと思って、箱を引き出しにしまって寝た。

姉貴と長く話したのは、これが最後になった。


───この二日後に、姉貴は失踪した。


22 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 12:59:24 ID:KHxWAKRw0


───最初は、いつもみたいにふらついてるんだって思ってた。母親も特に何も言わなかったし。
だんだん外が暗くなってきて、父親も帰ってきて、日付も変わって、流石に両親もまずいと思ったのか、警察、なんて言葉が飛び出して、また揉めていた。
もし、保護されたとして、家で虐待されてるなんて言われてたら社会的に立場が危ういと思ったのかもしれない。
受験のことで揉めてたこともあったし。

俺はもう姉貴が心配で、気が気じゃなかった。
事件に巻き込まれたかもしれない。事故にあってたらどうしよう。怪我をしてしまっているのかもしれない。最悪の場合───。

結局親は警察に通報したらしく、父親が、もう寝なさいって声をかけてきた。例え真夜中に俺一人が探しに行ったところで、無力なのは分かってたから大人しく部屋に帰った。
ほとんど眠れなかったけど。

 翌日。準備をして居間に行くと、親は二人共警察に行ったみたいで、書き置きが残してあった。
どうせ、親が姉貴の為に動くのは世間体の為だ。そう思ってたから、モヤモヤしながら学校に行った。
授業も頭に入らなかった。黒板の文字がぐちゃぐちゃに見えて、早く帰りたいってずっと思ってた。部活なんかサボって町中探し回らなきゃって。
4時間目の終わり頃、顔しか知らない教師が慌てた感じで俺のクラスに来た。
担当の教師となんか話した後、俺の名前が呼ばれた。

23 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:05:11 ID:KHxWAKRw0



姉貴が“見つかった”という報告が、警察から来たらしい。

それを聞いた時、俺は心底ほっとした。でも、俺を囲む教師達の様子がおかしいことに気付いて、何か嫌な予感がした。
少し、間を置いて、いつも授業を担当してる女教師が、泣きそうな、哀れむような顔で俺に話しかけた。


「……埴谷くん、言いづらいんだけど、実はね───」






───お姉さん、亡くなられてたらしいの。





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24 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:08:39 ID:KHxWAKRw0


 正直、そこから先は頭が真っ白になってたから、よく覚えてないんだ。
いつの間にか警察の人と話してて、葬式があって、両親が怒鳴りあってて、父親が泣いてて、荷物をまとめて、車に乗って。

気がついたらこの町に住んでる父方のじいちゃん達の家にいたんだ。
車で片道何時間ってくらい遠いから、なかなか来れなくて、めちゃくちゃ久しぶりに会ったじいちゃん達はちょっと老けてた。

ミ,,゚Д゚彡「久しぶりだなぁ、つー。大きくなったな」

(*゚∀゚)「うん、まあ」

ミ,,゚Д゚彡「……でぃも、さぞかし大きくなってたろうになぁ……」

<(' _';<人ノ「あなた!」

ミ,;゚Д゚彡「ああ!すまなかった!一番辛いのはつーだよなぁ、ごめんなぁ」

(*゚∀゚)「……んーん。へいきだよ」

ミ,,゚Д゚彡「……これからはここで暮らすことになるけど、遠慮せずに何でも言うんだぞ」

<(' _'<人ノ「つーちゃんも疲れたでしょう?お風呂沸いてるからゆっくり入りなさいな」

(*゚∀゚)「ありがとう、じいちゃん、ばあちゃん」

25 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:13:37 ID:KHxWAKRw0


じいちゃんもばあちゃんも優しかった。姉ちゃんのことを可愛がってくれる唯一の肉親だったから、俺も姉ちゃんも正直あの人達に一番懐いてたと思う。
可愛がってた初孫をあんなに酷い形で亡くしたのに、真っ先に俺のことを心配してくれた。

言葉に甘えて風呂に入って、そのまま新しく用意された自分の部屋に入った。
敷布団に寝っ転がって、姉貴のことを思った。

 姉貴は首を吊ってたらしい。学校近くの雑木林の中で。あの時探してたのは、首を吊るのにちょうどいい枝だったんだろうか。
姉貴の鞄の中からは遺書、って書いてある紙が見つかったらしい。簡単に言えば、親族や両親への感謝と謝罪、それと将来への不安が淡々と書いてあるだけの物だったそうだ。
というのも、俺はそれを見れてないんだ。見せてもらえなかったから。話を聞いたらしい祖父母が、後から簡単に内容を教えてくれたんだ。

そこでふと、両親のことが気になった。正直喧嘩の内容は分からないけれど、もしかすると俺は捨てられたのかもしれない。
で、どんどん不満みたいなのが頭の中で湧いて出てきた。

母親は姉貴をずっといじめてた。あんなに謝ってたのに、痣があるだけで悪いこともしてないのに。
自分が産んた子供なのに。口を開けば八つ当たりばかり。
父親はずっと黙って見てた。人前じゃ正義ヅラするクセに、家じゃ口を開けば世間体世間体。家のことなんて見てくれなかった。
あの盛岡とかいう教師。姉ちゃんが苦しんでたのに、評価の為に無視してた。
それどころか俺がいじめを訴えかけても怒鳴りつけてきて、結局、教師のクセに姉ちゃんが死ぬまで何もしてくれなかったじゃないか。

26 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:18:14 ID:KHxWAKRw0


そして、俺。あんなに姉ちゃんに味方ヅラしといて、調子いいこと言って、見て見ぬ振りして、見殺しにした。
きっと俺はどこかで姉ちゃんを見下してたんだ。姉ちゃんも俺が嫌いだったに違いない。
俺さえ生まれなければ姉ちゃんは高校に行って大学に行って夢を叶えてたかもしれない。
そういえば俺が買ったあの本、宇宙がテーマだって聞いたことがある。
あれを俺が買わなきゃ姉ちゃんは宇宙なんて───。

そこからは完全に自己嫌悪に陥ってて、それでも涙は出てこなかった。
ゆっくり目線を上げると、壁掛けのカレンダーが目に入った。そういえば、最後に話したのはいつだっけ───。

(*゚∀゚)「あ」

あの箱のことを思い出した。最後に渡された箱。確か誕生日の後に開けてくれって言ってた。
その時の日付は十一月十一日。姉貴の誕生日の三日後だった。

荷物をまとめたダンボールを漁った。適当に詰めたから置いてきたかもしれない。
そう焦って探したんだけど、わりとあっさりそれは見つかった。白い包装紙に包まれた箱。
バカ丁寧に包装紙をゆっくり剥がして、出てきた紙の箱をそっと開けてみた。

(*゚∀゚)「あれ、これって」

あの時買った本だった。宮沢賢治の短編集。それと封筒が一つ入ってた。

(*゚∀゚)「……」

読むのが少し怖かった。俺のせいで死んだと書かれていたらどうしよう。
そっと開いて、姉貴の綺麗な字が見えた。

一行目に、目を通した。

27 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:26:58 ID:KHxWAKRw0


『つーへ

 こんな風に手紙を書くのは初めてだから、緊張してます。これを読んでるってことはやっぱりそういうことだよね。
驚かせちゃったり悲しませちゃったりしたらごめんなさい。これはつー宛の遺書です。できれば最後まで読んでほしいな。

 まず、お父さんやお母さんを責めないでね。二人共、最初は優しかったの。ホントだよ?
でも私が痣だらけで、人よりもとろいから、周りの人達から馬鹿にされてたみたいなの。だから私に当たっちゃったんだと思う。
こればかりはどうしようもないことだから。私はもう、恨んでないよ。

 二つ目。一学期、盛岡先生につーが話に行ってたって、先生に聞いたよ。
先生も色々考えなおしたみたいで、私に謝ってくれた。つーにも謝っておいてくれって。ホントは直接謝りたかったみたいなんだけど、避けられてるみたいでなかなか会えなくて話せないって。
クラスの子とも、今度ちゃんと話し合ってみるって。卒業までに、少しは改善しようって。
悪い先生じゃないと思うの。気が弱いだけだったの。初めて担当したクラスでいじめなんて、誰だって怖いもの。きっと、仕方ないことだったんだよ。ちょっと間に合わなかっただけ。

 最後に、つー。今まで何回も助けてもらった。つーに何度も救われた。いっぱい気にかけてくれたよね。
自分を責めないでね。本をプレゼントしてくれた時、自分の心が汚いんだって知った。
ここだけの話、その頃は色々あって何もかも恨んでたの。親も、クラスメイトも、先生も、つーのことだって恨んでた。自分がこんな目に遭うのは周りのせいだって。
でも違うの。誰も悪くないのね。つーは私に教えてくれた。本はつーが読んで。私はもういいの。私の宝物だから、大事にしてね。

 つー。生まれてきてくれてありがとう。私の弟でいてくれてありがとう。大事な大事なもう一つの宝物。
お姉ちゃんは先に宇宙に行って見守ってるから。幸せになってね。約束。
 でぃ』


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28 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:30:47 ID:KHxWAKRw0


姉貴らしい、丁寧できれいな字。箱も封筒も便箋も、真っ白の新品だった。
でも、本だけは手垢や折り目で薄汚れていて、何度も何度も読み返した跡が残ってた。

(* ∀ )「……」

手紙をずっと読み返してた。読み残しがないように。

(* ∀ )「ぅ……」

何十分も経ってやっと声が出た。

(*;∀;)「ぅ、あ、ああ」

涙が出て、

(*∩д;)「ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」

気付けば大声で泣いてた。姉貴が死んでから初めて泣いた。じいちゃん達が心配することもなんとなく分かってたけど、止まらなかった。
でも、じいちゃん達は来なかった。今思えば気を使ってくれてたのかもしれない。
その夜は手紙を枕元に置いて、泣きながら本を読んだ。

29 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:34:07 ID:KHxWAKRw0


 二週間くらいして、俺は新しい学校に通い始めた。ばあちゃんはもう少し休んだら?って聞いてきたけど、外に出た方が気分が晴れるからって言ったら、喜んでくれた。
流石に体育館で、しかも全校生徒の前で自己紹介させられるとは思わなかったけど。全学年二クラスしかないことにも驚いたし。

(;*゚∀゚)(ひぃー……普通に緊張した)

「へいへい、そこの転校生」

(;*゚∀゚)「ひぇ!?」

( ´_ゝ`)「えっ何かビビられた」

(´<_` )「いきなり話しかけるからだ」

( ´_ゝ`)「そうなのか……。じゃあやり直させてくれ。
……やぁおはよう。時期外れの転校生くん、いい天気だね」

(´<_` )「なんか腹立つな」

(;*゚∀゚)「……」

妙な双子に話しかけられた。

( ´_ゝ`)「ドン引きしてるじゃないか」

(´<_` )「お前のせいだ」

(;*゚∀゚)「あ、えっと、何か用ですか?」

(´<_` )「敬語使わなくていいよ、確か同じ学年……つか二分の一で同じクラスだろ」

( ´_ゝ`)「そうそう。あ、そんでこれ落ちたよ。はい」

(*゚∀゚)「あっ……ありがとう」

30 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:36:25 ID:KHxWAKRw0


落としたものは、休んでる間に本屋で買った星についての本だった。姉貴が考えてたこと、少しは分かるかもって思って。
それと友達が出来なかった時のために、時間を潰せるよう持ってってたんだ。

( ´_ゝ`)「埴谷くんだっけ。もしかしてもしかすると宇宙とか星が好きなのかい?」

(*゚∀゚)「好きっていうか……最近興味湧いてきて…… 」

(´<_`* )「ほぉ!聞いたか兄者!布教のチャンスだぞ!」

( *´_ゝ`)「ふむ!これは運命だな!」

(*゚∀゚)「えっ」

( *´_ゝ`)「埴谷くん!俺達と一緒に!」

(´<_`* )「天文クラブに入らないかい!?」

(*゚∀゚)

(*゚∀゚)「えっ」



 まあ、こういう訳であの宇宙オタク達とつるむようになって、一緒の高校に入って。で、今に至るんだよ。


***

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31 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:42:32 ID:KHxWAKRw0


(;*゚∀゚)「まあ、こんな感じ。暗い話でごめんなぁ」

(;、;トソン グスグス

(;*゚∀゚)「つ、都村!?大丈夫か!話が重かったか!ほんとごめん!」

(う、;トソン「先輩がお姉さんを想う気持ちと、お姉さんの優しさに感動した気持ちに加えて、
いきなり乱入してきた珍妙先輩共への怒りがこの涙には混じってます……」エグエグ

(*゚∀゚)「凄い複雑な涙だ……」

 年下の女子を泣かせてしまったことに罪悪感を抱きながら、近くにあったティッシュを渡す。こういう時に限ってハンカチを持っておけばよかった、と後悔する。
ふと時計を見遣ると集合時間まで、大体二十分くらい。都村が落ち着くのを待っている間にトイレにでも行っておこう。
そう思って、一言声を掛けてから扉を開けると、

( ∩_ゝ∩) グスグス

(う<_∩ ) ズビズビ

( ;∀;) ダバダバ

なんか居た。

32 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:44:42 ID:KHxWAKRw0


(*゚∀゚)「……何してんの」

( ;∀;)「はっはにやあ゙あ゙!おっおまえぐろうじできだんだなあ゙あ゙!」

(;*゚∀゚)「ちょっ……毛利先生大丈夫スか……?うわっ鼻水きたなっ!顔きたなっ!」

( う_ゝ;)「グスッ……俺達のことお兄ちゃんって呼んでもいいんだぞつー」

(う<_; )「ズビ……妹がいるから慣れてるぞ」

(;゚∀゚)「誰が呼ぶか!同い年だろうが!……つーか聞いてたのかよ。恥ずかしい……」

( ∩∀;)「暇だから一緒に遊ぼうと思って……呼びに来たら聞こえてきちゃってつい……
ごめん……俺のこともお兄ちゃんって呼んでいいよ……」

(;*゚∀゚)「いや別にいいっスけど……あとそれも遠慮しときます」

(゚、゚トソン「あれ、珍妙三馬鹿さん達じゃないですか。ティッシュどうぞ」

( う_ゝ`)「ち、珍妙三馬鹿て……ありがと……」

三人はティッシュで延々と涙やら鼻水やらを拭き始めた。
毛利先生が一番重症みたいで、拭いても拭いても涙が出ていた。

(゚、゚トソン「先輩」

(*゚∀゚)「お、おう都村、泣かせてホントごめんな」

(゚、゚トソン「私が頼んだんですから。先輩のせいじゃありませんよ。
……お姉さんのことも」

(*゚∀゚)「……ん、ありがとう」

33 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:53:25 ID:KHxWAKRw0


(゚、゚トソン「……『よだかの星』を思い出しました。宮沢賢治の」

(*゚∀゚)「ああ……本にも載ってたな。もしかしたら、自分と境遇重ねちゃったのかなーって、時々考えるよ」

(゚、゚トソン「でも、宇宙の話ってもう一つメインのがありますよね?私はそっちも思い出しました。」

(*゚∀゚)「『銀河鉄道の夜』?……まあ、確かにあれもそういう話だけど」

(゚、゚トソン「……先輩、よだかの星のモデルになった星をご存知ですか?」

(*゚∀゚)「え?あるの?」

(゚、゚トソン「チコの星っていうんです。発見された年からとってsn1572ともいいますね」

都村は近くの窓を開けて空を見た。時期的に、時間帯としてはまだ明るかった。

(゚、゚トソン「もう肉眼じゃ見れないんですけど。でもこの空のどこかに、まだよだかは居るんです。
それって素敵だと思いません?」

(*゚∀゚)「確かに、ロマンがあるな」

(゚、゚トソン「埴谷先輩が天文部に入ったのって、要するにお姉さんを理解したいっていうか……
もう一度、会いたいから、なんじゃないですか?」

(*゚∀゚)「んー……そういう事になるのかなぁ」

それなら、と言って都村が振り返る。

(゚、゚トソン「こっちから会いに行けばいいんですよ。銀河鉄道に乗って」

(;*゚∀゚)「へ?」

34 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 13:59:46 ID:KHxWAKRw0


(゚、゚トソン「よだかは羽があるから空を飛べましたけど、人は飛べないじゃないですか。だから空に行くには乗り物が必要なんです。
だからお姉さんはきっと、死に場所を探してたわけじゃなくて。
銀河鉄道の駅を探してて、それに乗っていったのかもしれないと思うんです」

(*゚∀゚)「……なるほど」

(゚、゚トソン「なら埴谷先輩も駅を探すのが先なんですよ」

(*゚∀゚)「ふーむ……でもどうやって探すんだ?仮にあるとして、どういう条件で出てくるんだろうな?」

(゚、゚;トソン「えと……あ、お姉さんは手紙で幸せになって欲しいって言ってたじゃないですか。
だから、えっと、埴谷先輩が幸せになれれば、お姉さんが導いてくれる気がするんですけど……夢見がちですかね……」

都村の言葉は後半になって勢いを無くしていく。もしかしたら彼女なりに慰めようとしていたのか。
そんなことない、と否定しようとした矢先、復活した三人組が後ろから現れる。

( ´_ゝ`)「いいじゃん、めっちゃ夢あって。なぁ?」

(´<_` )「女の子はそれらい夢持ってた方が可愛いよな」

( ・∀・)「そうそう、年相応だよな」

(*゚∀゚)「……そう、だよな、俺もそう思うぜ」

(゚、゚トソン「先輩……」

35 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 14:01:43 ID:KHxWAKRw0


(゚、゚トソン「あの、こんな空気の中すっごく申し訳ないんですけど、集合時間大丈夫ですか?」

その言葉で一斉に全員が時計を見た。いつの間にやら集合時間五分前だ。

(;・∀・)「えっあっやっべ!他の奴ら待たせちゃう!」

( ´_ゝ`)「いーじゃんいーじゃん。どうせ機材の準備するだけだろ」

(´<_` )「夕飯も俺達を待ってるんだぞ兄者」

( ´_ゝ`)「おいお前ら早くしろよ!」

(*゚∀゚)「欲望に忠実だなぁ兄者は。都村、行こうぜ」

(゚、゚;トソン「あっはい」

先に走っていった毛利先生達の後ろを俺達も走った。まあ、これくらいならなんとか間に合うだろう。
ここの部活自体わりと緩いから、ちょっとぐらい遅刻しても許してもらえる。毛利先生は怒られるかもしれないけど。

36 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 14:03:34 ID:KHxWAKRw0


(゚、゚;トソン「あのっ先輩!」

走りながら都村が話しかけてきた。

(*゚∀゚)「どうした!」

(゚、゚;トソン「私でよければ!一生かけてでもお手伝いしますから!幸せもお姉さんも見つけましょうね!」

(*゚∀゚)「……うん」

(゚、゚;*トソン「……あっ!一生とかっ!深い意味ないですから!ほんとに!あっあっ忘れてくだしゃい!!」

(*゚∀゚)「?」

いい後輩を持ったものだと俺はしみじみ思った。途中から様子がおかしかったけれど。
それでも、俺の為に一生懸命考えてくれたのだと思うと、嬉しかった。

(*゚∀゚)「……都村!」

(゚、゚;*トソン「はっはい!」

(*゚∀゚)「ありがとーな!!!」

(゚、゚トソン

(゚、゚*トソン「どういたしまして!」




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37 名前: ◆Y2ntqd/Oco 投稿日:2017/08/19(土) 14:05:57 ID:KHxWAKRw0





───どこに本当の幸せがあるかなんて分からない。もしかしたら知らない内に、見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。
けれど目を逸らさないでじっと目を凝らせば、きっと何かしらは見つかるはずなんだ。星のように、キラキラと瞬く幸せが。
そこで見つけた物は全部離さないようにしよう。
いつか姉ちゃんに会えた時恥ずかしくないように。幸せになれたよって言えるように。







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