新世界奇譚のようです [無断転載禁止]©2ch.net
- 1 名前: ◆R27FA5eA9E 投稿日:2017/08/26(土) 10:04:20.202 ID:oG/10qIV0
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どうやら担任教師が異世界転生してしまったようだ。
学年主任の説明を聞きながら、俺は歯がゆい気持ちを抑えることができず、
机の下で握りしめている拳を震わせていた。
(´・ω・`)「新しい先生どんな人かな?」
休み時間、ショボーンが呟いた言葉に適当な返事をしながら、
トソン先生が転生した異世界を想像していた。
―――どれだけ素晴らしい世界なのだろう。
('A`)「どうせなら美人がいいな」
(´・ω・`)「ね!」
―――剣と魔法のファンタジー。城よりも大きな翼竜との戦い。魔界から呼び出す召喚獣
―――ああ、どうして現実ってこんなに退屈なんだ
退屈な日常のすぐ隣で、心躍る冒険の世界が広がっているのだろうと思うと、
もはや気が気でない。
('A`)(俺も……)
主人公になりたいのだ。
- 2 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:05:33.152 ID:oG/10qIV0
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新世界奇譚のようです
ブーン系紅白2017─夏の陣─ 参加作品
- 3 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:07:51.008 ID:oG/10qIV0
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トソン先生はトラックに轢かれた際、異世界へと転生したらしい。
死体が忽然と消えているというのが、異世界転生を行った者の共通的な特徴だ。
それゆえに行方不明者と判別がつかないが、今では突然消えた人は大体異世界転生したのだろうと
決めつけられるほどに、異世界転生者は多い。
色々と調べたが、以下のような転生のパターンがある。
・トラックに轢かれる等の事故
・ゲームの最中にそのゲームの世界に行ってしまう
・寝ている間に異世界転生している
特に事故死による異世界転生はもはや話題にもならない程度でありふれている。
事故死より事故による異世界転生の方が多くなっているのではないかという論文もあった。
論文は後々否定されているが、ある条件下でその理論は統計的に正しいということが今日判明している。
('A`)「ヒッキー最近見ないな」
(´・ω・`)「異世界転生したらしいよ」
('A`)「そうなのか……」
十代や二十代の若者である場合、事故死よりも事故による転生の方が多いらしいのだ。
- 4 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:08:48.097 ID:oG/10qIV0
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異世界転生したい。
俺のように考える若者は後をたたないらしく、実際にわざと事故に遭い、
異世界転生しようとする人間が社会問題となり、
実行しようとする者にはそれなりに重い罰則が課せられるようになった。
それでも俺は、異世界転生したい。
―――ダンジョンへ潜り、金銀財宝、失われた秘宝を探索
―――種族間の争いに巻き込まれ、血で血を洗う戦争が起こり
―――王国を揺るがしかねない禁呪を付け狙う闇の組織が暗躍し
―――モンスターを食材にして珍しい料理を作り
―――幼女が帝国軍を率いる軍師として活躍し
―――手を叩けば元素を組み替えて様々な錬成を…
(´・ω・`)「ねえ、次の教科なんだっけ?」
('A`)「錬金術……」
現実はクソッタレだ。
誰がなんと言おうと、俺は異世界転生がしたい。
- 5 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:09:38.772 ID:oG/10qIV0
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俺が本気で異世界転生を考えるようになったのは、近所に住んでいる幼馴染の女の子が、
ある日異世界転生したということを聞いてからだった。
彼女の名前はクー。
川 ゚ -゚)
物静かというよりは、凛とした雰囲気を持った堅苦しい女だった。
しかし何となく気の合った俺達は、親同士の付き合いもあってよく一緒に遊んでいた。
クーは、異世界転生を嫌っていた。
川 ゚ -゚)「だって、現実でも十分冒険はしていると思うよ」
鼻で笑ったら二の腕辺りをつねられた記憶がある。
- 6 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:10:44.521 ID:oG/10qIV0
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特別意識していたような仲ではない。
しかしいなくなってしまった今、彼女への寂しさが去来しているということは、
子供ながらに俺たちの間には単なるご近所さんを超えた繋がりがあったのだろうと今更思う。
何よりも、彼女は毎晩夢でこうつぶやくのだ。
―――ドクオ。お前は異世界へ来るな。ここは、来てはいけない
意識するなというのが無理だろう。
叫び声に近い、必死な声で俺を止めようとするのだ。
俄然、燃えてくる。
創作物の世界では、異世界転生を行う者が、このような謎の声(クーだとはわかっているが)に
導かれるまま異世界転生を行うというのはありふれている。
('A`)(この流れに乗るんだ)
クー、そりゃ俺にとって火に油ってもんだ。
真夜中、謎の声(クー)に起こされたとき、俺はいつも拳を握り、高らかに宣言するんだ。
全ては運命さって。
- 7 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:11:32.847 ID:oG/10qIV0
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(´・ω・`)「やっぱり長剣には火のエレメンタルをつけておいた方が、オークには有効みたいだね」
('A`)「水じゃ駄目なん? 俺あいつ倒すのすげえ苦労したんだけど」
(´・ω・`)「わかんない。でもジョルジュのお兄ちゃんが言ってた」
学校帰りに行うショボーンとの他愛無い会話ですらもはや苦痛に感じるほどに、
意識が宙ぶらりんになっているようだった。
('A`)「テスト勉強は大丈夫なのかよ」
(´・ω・`)「うっ……そうだ、僕早く帰らないと」
ショボンの家はまあまあ厳しい。
対して俺の家は、まあまあゆるい。
分かれ道で帰路を急ぐ友人の背中を見送りながら、まっすぐ家に帰る道に回れ右し、
ぶらぶらと街の方へ歩いていった。
- 8 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:12:36.423 ID:oG/10qIV0
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特に目的はなかった。
無性に気持ちだけが昂り、とりとめもない焦りに似た感情だけが足を急かした。
このままでは、十代が過ぎてしまう。
そうなれば異世界転生できる確率はぐっと低くなるだろう。
家に戻って勉強するフリをするよりは、こうやって街をぶらついた方が何か起こる可能性がある。
そんな吹けば飛びそうな希望にすがるほど、今は絶望に浸っていた。
「ねえ」
何度か、俺に声をかけたのかもしれない。
少々の苛つきを含んだその声に気がついた俺は、歩みを止めた。
( ・∀・)「時間ある?」
……。
('A`)「……はい?」
見覚えの無い若い男の顔があった。
- 9 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:13:21.573 ID:oG/10qIV0
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一瞬怯んだ俺の警戒を解こうとしたのか、男はいかにもな愛想笑いを浮かべる。
( ・∀・)「ちょっと話、できる?」
思考が数巡したのち、鼓動の高鳴りを覚えた。
来た!
具体的な何かとは何も言えないが、謎の男との遭遇というのは、異世界転生へ繋がるイベントとして
よくある展開じゃないか!(美少女でないのが残念だが)
('A`)「あります、けど」
ダメだ、喜ぶな。
ここで喜んでたらストーリーとしてはおかしい。
主人公としてやらなければならないのは、怪訝な顔をして警戒しながらも、
この後の展開に都合よく流されていくというリアクションだ。
( ・∀・)「急にごめんね。ああ、俺はモララー。トソン先生って知ってるでしょ?」
('A`)「え?」
( ・∀・)「君の学校の先生、だよね?」
- 10 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:14:08.817 ID:oG/10qIV0
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嬉しいような、少し期待していた展開と違うような。
('A`)「そうです、けど。ていうか、俺の担任だったし」
男がほんの少し目を見開いた。
( ・∀・)「よかった。俺、トソンの婚約者なんだ。奢るから、ちょっと話をさせてくれ」
やっぱり、何か違う気がする。
注文を済ませると、一仕事終えたようなため息を吐き出し、
モララーはまた作ったはにかみを見せた。
( ・∀・)「今日は学校だったろ?」
('A`)「あ、まあ」
( ・∀・)「家に戻らなくていいの? あ……まあ、引き止めた俺が、こんなこと言うのおかしいけど」
('A`)「日が暮れる前なら、別に……」
- 11 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:15:09.337 ID:oG/10qIV0
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本題に入る前に、他愛ない話で緊張を和らげようとしてくれているのだろう。
どちらかといえば、緊張しているのはモララーの方に見えた。
( ・∀・)「えっと、さ。トソンのことなんだけど」
トソン、と言ったときだけ、声が小さかった。
( ・∀・)「あいつ、異世界転生したいとか、そういうこと言ってた?」
('A`)「え……」
きょとんとする俺に追撃することはせず、モララーは答えを待つ姿勢を見せた。
('A`)「いや、別にそんな……」
( ・∀・)「だよ、ね」
今度のため息は、落胆していたような、どこかほっとしているような、
どちらにも取れる感情が見えた。
( ・∀・)「いや、さ、俺さ、あいついなくなってから、色々聞きまわってんだ」
先程の緊張した表情は消え、それからは饒舌だった。
( ・∀・)「あいつの友達とか、家族とか。手当たり次第」
- 12 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:16:10.463 ID:oG/10qIV0
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('A`)「はあ」
( ・∀・)「誰に訊いても、異世界転生のことは知らなくてさ」
ほんの少しだけ浮かんだ、異世界転生へ繋がるイベントかもしれないという期待感は、
もうこの時点でほとんど潰えていた。
( ・∀・)「だってさ、俺を置いて……異世界を選んだんだとしたら、それは、ひでーじゃん」
('A`)「そう、っすね」
( ・∀・)「もちろんあいつがいなくなったことに変わりないけど、でも、きっと異世界で元気にやってるしさ」
元気にやっている保証は無いが。
( ・∀・)「最後に誰か、生徒に訊いてみて、もう終わらせようって。
あいつのことは、寂しいけど、諦めようかなって思ってたんだ」
('A`)「追いかけようとか、思わないんですか」
思わず出てしまった言葉に、ばつの悪い気持ちになった。
モララーもびくっと表情をこわばらせた。
( ・∀・)「追いかけるって、俺も異世界に行くってこと?」
- 13 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:16:59.167 ID:oG/10qIV0
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死別ではないからまだマシだとしても、恋人を失った男にかける言葉ではなかった。
俺は恐る恐る頷いた。
( ・∀・)「それは……ちょっと、考えた」
少し間が空いてから、随分と気の抜けた声で彼は答えた。
気持ちが不安定なのか、さっきとは打って変わって声に気力がない。
( ・∀・)「でも、無理だよ。異世界に行く方法は確立されてないし、異世界は、厳しい世界だ」
('A`)「……」
( ・∀・)「トソンは……もしかしたら、もう死んじゃってるかもしれない。みんな言わないけど」
言わなきゃよかった。
異世界転生を試みる人間は多いといっても、全体からすればマイノリティだ。
( ・∀・)「君なら、追ってた?」
―――ドクオ。絶対にこっちの世界には、来ていけない
('A`)「……」
- 14 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:17:34.048 ID:oG/10qIV0
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夢の中でだけ会える、彼女の顔が浮かんだ。
その夜、俺は唐突に目が覚めた。
クーの声にうなされて目覚めたわけではない。
(;'A`)(どうして?)
強いて言えば、胸騒ぎがしたからだ。
昼間モララーとした会話が延々と頭の中を駆け巡っている。
もう、死んでいるかもしれない。
そうなのだ。
クーはもう、死んでしまっているのかもしれないのだ。
- 15 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:19:26.455 ID:oG/10qIV0
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体に電流が走ったような気分だった。
鬱屈した毎日で降り積もったストレスが臨界点を超えたのか。
はたまたは、見て見ぬふりをしていた事実を気が付かされたことで、
心の奥底に眠っていた感情が目を覚ましたのか。
ともすればそれは、誰かがページをめくってくれたのだろう。
跳ねるように体を起こした俺は、窓から外へ飛び出た。
汗でベタついた部屋着のまま、裸足で地面を駆ける。
(;'A`)「クー!」
どうして気が付かなかったんだ。
もう彼女とは会えないのかもしれない。
(;'A`)「クー!!」
今わかった。
俺はそもそも、異世界転生がしたかったんじゃない。
- 16 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:19:57.982 ID:oG/10qIV0
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(;A;)「クー!!!」
もう一度、彼女と会いたかっただけなのだ。
足の爪が剥がれても気が付かない狂乱に満ちた俺は、
いつの間にかまばゆい光の中にいた。
自分がトラックの前に飛び出していることに気がついたのは、全てが終わる直前であった。
・
・
・
・
- 17 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:20:21.262 ID:oG/10qIV0
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それは全てが始まる直前でもあった。
・・・・・・
「どうして、私の忠告を聞かなかったんだ」
―――忠告?
「来るなと言っただろう」
―――うん
「どうして、そんな無茶を」
―――う……運命さ
「決め台詞を噛むな。アホ」
- 18 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:21:17.028 ID:oG/10qIV0
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('A`)
川 ゚ -゚)
- 19 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:22:06.676 ID:oG/10qIV0
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トラックに轢かれる直前に見たまばゆい光とは違う、
カーテンの隙間から漏れる柔らかく温かい光に、目を細めた。
川 ゚ -゚)「気がついたか」
俺の目線がクーを捉えると、彼女は冷ややかな目で俺を見返した。
しばらく俺の様子を見たのち、部屋のカーテンを一気に開ける。
('A`)「……クー」
- 20 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:22:41.439 ID:oG/10qIV0
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窓から差す光を背に、やはりクーは冷ややかな視線を投げ落としてきた。
かなり怒っている。
怖い。
しかし、それ以上に俺は、高ぶりを抑えることができず、くしゃくしゃの顔で笑ってしまった。
川 ゚ -゚)「ここは病院だ」
知ってる。
川 ゚ -゚)「お前が寝ているのはベッドだ」
知ってる。
川 ゚ -゚)「体に繋がれているのは点滴だ」
ああ、もちろん知ってる。
川 ゚ -゚)「窓の外を見てみろ」
- 21 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:23:28.527 ID:oG/10qIV0
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点滴を外さぬよう、そろりそろりとベッドから起き上がり、窓から外の世界を見やった。
高速で地面を移動する鉄の塊―――自動車だ!
見慣れない服、見慣れない髪型、あの建物は、もしかして学校?
俺が通っていた魔法学校とは違い、無骨で機能的だ。
(*'A`)「あれは何だ!?」
川 ゚ -゚)「スカイツリーという塔だ。いわゆる、電波塔だな」
('A`)「電波!」
川 ゚ -゚)「つまり……」
クーがスイッチを押すと、箱として沈黙していた物体に絵が映った。
中に入っている小さな人間がこちらに向かって話しかけてくる。
(*'A`)「で、電波ビジョンだ! 本物だ!」
川 ゚ -゚)「それはフィクションだ。こちらの世界ではテレビという」
見るもの、触るもの、感じるもの全てが新鮮で、刺激的だった。
- 22 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:24:15.357 ID:oG/10qIV0
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何よりもこの世界には、
川 ゚ -゚)「色々と、覚えなくてはな」
君がいる。
それからは衝撃の連続だった。
水属性の魔法を駆使しなくとも、全て自動でやってくれる洗濯機という機械。
わざわざ大魔導師に頼まなくても空を移動できる飛行機。
薪割りしなくても火で料理はできるし、遠くの者と通信するのに魔法陣を描く必要もない。
最初の数ヶ月は、それはもう夢の世界へ来てしまったのだと思った。
('A`)「おはよう……」
川 ゚ -゚)「おい、何だその顔は」
- 23 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:24:59.969 ID:oG/10qIV0
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('A`)「いや、昨日気合入れて勉強しすぎた……」
川 ゚ -゚)「受験前日くらいは休むのが普通だぞ」
しかし、異世界(今では現実だが)は甘くなかった。
俺は今受験戦争の真っ只中にいる。
オークやゴブリンとの戦いも面倒なものだったが、こちらの世界で行われる戦争も、
それはもう熾烈なものだ。
川 ゚ -゚)「鉛筆はちゃんと予備まで持ってるな?」
('A`)「おまえ俺の母ちゃんかよ」
川 ゚ -゚)「保護者という意味では同じだ」
この戦いを勝ち抜いても、就職戦争、出世レースが待っているという。
それだけではない。
この世界には目には見えない争いが常に起こっていて、それに負けると手痛い罰が待っているのだ。
- 24 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:29:01.303 ID:oG/10qIV0
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元の世界ではほとんど起こり得なかった自殺という忌まわしい行為が、
この世界ではありふれていてもはや誰も驚かないという。
それは、戦いの中で心が干上がってしまった者が最後に行き着く場所だからだ。
心の中にしまいこんだ凶器を、いつ誰が持ち出すかわからない、殺伐とした世界だ。
同じ人間同士で何百、何千万という死体を生みながら、それでもまだ争いを続けている地域もあるという。
夢見ていた世界は、決して甘いことばかりではない。
(;'A`)「うおっと!」
川 ゚ -゚)「おい! 参考書はしまっていろ。ちゃんと前を見て歩け」
('A`)「あぶねえ。トラックか。こっちの世界のトラックって、比較的うるさいけど、こういう時助かるな」
川 ゚ -゚)「ああ、そういえば移動用召喚獣のことをそっちではトラックって言ってたか」
('A`)「まー昔の話だ」
魔法が存在しない代わりに、この世界には科学がある。
科学がある代わりに、日常の大部分は不自然に侵攻されていた。
自分にとって何もかも都合のいい世界なんてのは、どんな異世界にもありはしない。
- 25 名前:以下、無断転載禁止でVIPがお送りします 投稿日:2017/08/26(土) 10:34:20.326 ID:oG/10qIV0
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きっとどこにいても、俺たちは戦わなくてはいけない。
川 ゚ -゚)「急ごう。電車に乗り遅れて遅刻でもしたら、トソン先生に何言われるかわからないぞ」
一番大事なのは、その時誰が隣にいるか、そんな程度のことなのだろう。
決戦の地へとページがめくられようとしている。
手作りのマフラーを巻き直し、クーのいるこの世界を守るために、見えない剣を握りしめた。
―完―
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