(-_-) 藪の中Ver. エンチャントファイアのようです
1 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:27:39 ID:DEAJLcTM0

  引古森尾ことヒッキーは探偵である!


(-_-) 「犯人は――――あなたですね」

( ;^)(^) 「馬鹿な! なぜ僕が下着泥棒だと!?」


 その推理は正確!
 その頭脳は明晰!
 その容姿は端麗! 盛った! その容姿は中の上! 本人談!


(;、;*川 「ありがとうございます……! もう……もう二度とこの子には会えないかと……」

(-_-) 「礼なんて要りません。その子を大事にしてくれれば、それだけで十分です」

(=゚ω゚) < ニャー


 猫探し! 浮気調査! 猫探し!猫探し!犬探し! 近所の八百屋の店番代理!
 舞い込む数々の難事件、それらをことごとく解決してきた街の名探偵――ヒッキー!


(;-_-) (あぁっちぃー……夏あっちぃー……)


 八月のクソほど暑い夜にトレンチコートと鹿撃ち帽! 「形から入る」の語源みてえな男!
 クーラーの利いた事務所にさっさと戻りてえなと願う一心、
 猫探しに手間取ったせいですっかり日の暮れた夜の街を行く、パッと見ハードボイルドな迷探偵――ヒッキー!

2 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:28:17 ID:DEAJLcTM0


         , ____                (
        l"゙ヽ、~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~)    (
       ,/;;;;;;;;;;ゝ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;( (    ) (
      .,,il"''~~`'/ゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞ;ゞヽヽ  ノ''(    ) 
    ,,r"ヾ;ヾ;ヾ:/ゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞ ゞゞゞ) ))  ノ      、
   .,r"ヾ;ヾヾヾ;;/|ヒッキー探偵事務所|ゞゞゞゞ: 、   (,, (  ) ))
  ,r"ヾ;ヾ;ヾ;ヾ;;/ゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞゞ;ゞゞゞ .|':i;;| 、   (,, (      \>
 r";;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; |;';;;| ー/ / ',  ヘ_)ノ
..《%%%%%《i‰‰‰‰‰‰‰‰‰‰‰‰ \;| r‐//┐_|:|::::::::;⊥、
 ~゙'r゙~~~~~~~~~ l:;:::;;;:;:||  l  l  l|;:;:;:;; ;:;:;:;;:; ;:;. ;i`!、::://:::::::::::::::::::r| .::| /.:
  :|;:;; ;:; :;:; ;: ;:; l;.:,;;::;;.||kr|  │  l|;:;:;:; :;:;: ;:;:; ;:; ┬| |;、\::::::::i'|::::::r┴冂、
  / ̄ ̄ ̄ ̄~/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\|iiョrrrrrrrrrrrrョ\ ̄ヽ,
  ~| ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄━━━━━━┛| ̄
  |; :;: ;:;: ;:;;;; ;|;: ; ;:;; | ̄ ̄ ̄ ̄|;:;:;:;:;:;:;┌――――┐  i◎i;:;::(川(:; :;:|
  |; :;: ;:;: ;:;;;; ;| ;;:; :; ;|        |;:;:;;:;:;:;:│    │  i 目  ;:;;; ;; ;:;;:;:;; :;;:;|
i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄||.illlllllllll|llllllllll| ;:; ;:;:;;:;;;|| ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄
i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄||,illllllllllllllllllllllli,,,,;;;;;;;;;;;;;;|| ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄
i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄||,,            || ̄i ̄i ̄i ̄i ̄i ̄
"""""""""""""""""""""""""""""""゙ヽ,            ~"""""""""""""
                         ヽ、            `~''-、,,_



( ゚_゚)




 というわけで、この話はそんなヒッキー探偵の事務所が全焼するところから始まります。


                             【 藪の中Ver. エンチャントファイア 】
                                  はじまりはじまり~

3 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:28:49 ID:DEAJLcTM0

 嘘をつきました。
 もっと厳密な話をすると、正確なスタートはそれから十日後くらいの喫茶店での話になります。


( _ )

(#゚;;-゚)

川 ゚ -゚)


川 ゚ -゚) 「……あの、ご注文は?」

(#゚;;-゚) 「ああ、えっと……」

(#゚;;-゚) 「アイスコーヒーを、ふたつ」

(-_-) 「……ああ、俺にも同じものを」

(#゚;;-゚)

川 ゚ -゚)


 運ばれてきた四つのアイスコーヒーをこいつマジかよみたいな目で見たのち、
 うち三つをさりげなくヒッキーのほうにスライドさせて、会話スタート。


.

4 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:29:20 ID:DEAJLcTM0


(#゚;;-゚) 「どういう状況ですか?」

(-_-) 「燃えた」

(#゚;;-゚)

(-_-) 「燃えたよ。全焼……」

(#゚;;-゚) 「いや……まあ……そうなんですけど……」


 死んだ目で三本のストローを握ってトライデント飲みを披露、
 手元でかさばる火災保険の資料の束が痛ましい迷探偵in喫茶店である。 


(-_-) 「出火元カーテン。灯油撒いてた。十中八九、放火。……だとさ」

(#゚;;-゚) 「鍵……かけてたん、ですよね?」

(-_-) 「かけてたはず」

(#゚;;-゚) 「はず……」


 「探偵事務所です」って言われて想像すんの絶対これじゃねえよなって感じの、
 フツーの田舎の木造借家。事務所と命名したはいいけど、いるのも助手が一人だけ。
 そんなボロ事務所を狙う謎の放火魔、現代に蘇る本能寺。


.

5 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:30:03 ID:DEAJLcTM0

 助手にしてみれば出勤早々職場がKEEP OUTなわけで、呆然とするしかなかったわけで、
 まあとりあえず近所のカフェにでも、なんて下策も下策のナンパみてえな指示が探偵から来たものだから、
 ひとまずカフェに集合してみたはいいものの、探偵は火災保険に埋もれて死んでいる。


(#゚;;-゚) 「……えっと、どうするんですか、これから」

(-_-) 「どうもこうも火災保険だけどさ。とりあえず、仮でいいから新しい事務所欲しい……」

(#゚;;-゚) 「事務所……ですか」


 普段猫探しか浮気調査か適当なバイトしかしてないくせに何をそこまで事務所にこだわんだよ、
 みたいな闇をクールな助手のクールな表情から読み取ってしまい、ヒッキーくんは慌てて弁明に入ります。


(-_-) 「まあ、なんていうのかな。いや、今こんな状況ではあるんだけど……」

(-_-) 「新しい仕事が入ったんだ。だから、何かしらの拠点は要るよなって」

(#゚;;-゚) 「仕事……。依頼ですか?」

(-_-) 「うん、依頼。っていうか、その依頼人とこれから会うことになってる……」


 そんなら最初のメールにそう書けやと言わんばかりの無表情で助手はコーヒーを飲み干し、
 ちょうどそのタイミングで、喫茶店にもう一人のお客がご来店。ちりんちりーん。


.

6 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2017/08/25(金) 04:30:43 ID:DEAJLcTM0

川 ゚ -゚) 「いらっしゃいませー」

(-_-)σ

(#゚;;-゚)


(゚、゚トソン 「ええと、先に来ている引古という男が……あ」


 指さす先の女が振り向いたのを見て、助手くんは、
 パリッとした感じの人だなー、几帳面そうな人だなー……
 なんて思ったとか思わなかったとか、そういう話です。


(゚、゚トソン 「たくましく生きているようでなにより。お久しぶりですね」

(-_-) 「うん。俺も久々の再会はできれば自分の事務所がよかった」

(^、^トソン 「違いない」

(#゚;;-゚) 「……お知り合い、ですか?」

(゚、゚トソン 「そんなところです。幼馴染とでも言いましょうか……」

(-_-) 「俺もこいつもこの街の生まれ。小学校から同じだよ」


.

7 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:31:18 ID:DEAJLcTM0

 まあそんな話はどうでもよくて、
 助手くんが本当に驚いたのは、その後の「ご職業は?」「ああ、刑事です」というやりとり。
 というか注文取りにきたバイトの子もちょうどそれ聞いちゃってちょっと委縮してた。


川 ゚ -゚) 「……その、ご注文は」

(゚、゚トソン 「ああ、注文。そうですね……」


 卓の二人のグラスが既に空になっているのを見て、そこで都村さんは気を遣いました。


(゚、゚トソン 「アイスコーヒーを、みっつ」

(-_-) 「あ、俺とこいつにも同じものを」

(#゚;;-゚) 

(゚、゚トソン

川 ゚ -゚)


 運ばれてきた九つのアイスコーヒーをこいつマジかよみたいな目で眺めつつ、
 ひとつは自分に、もうひとつはでぃに、残り七つはヒッキーに、当然のように都村は押し付ける。
 で、ヒッキーもヒッキーで、七つ分付属したミルクと砂糖を当然のように都村のほうへ滑らせるし、
 受け取った都村は計八つになったミルク&砂糖を黙々と自分のカップにぶち込みはじめた。なんだこの文章。算数の問題かよ。


.

8 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:31:49 ID:DEAJLcTM0

 ヤマタノオロチ飲法 ※頭1個死んだver を披露する探偵、
 ヤマタノスティックシュガー飲法 ※こっちは死んでない を披露する刑事、
 クソほどどうでもいいところに幼馴染のつながりを感じさせつつ、本題。


(゚、゚トソン 「燃えたそうですね。事務所が」

(-_-) 「燃えてなかったら事務所で出迎えてるよ。今頃この子がカルピス作って出してくれてたとこだよ」

(#゚;;-゚) ← この子

(゚、゚トソン 「ま、燃えてなければあなたに会いに来ることもなかったわけですが。……で?」

(-_-) 「で? ……って? 何?」

(゚、゚トソン 「物盗りがあったわけでもない。事務所の内部まで侵入して、ただ炎だけを放って帰った。ピンポイントな犯行です」

(゚、゚トソン 「よかったじゃないですかホームズさん。そのへんの木っ端探偵じゃ、金出してもそんな恨みは買えない」

(-_-) 「猫探しの何がそこまで気に入らんのかな。浮気調査だってたまにしか来ないのに」



(゚、゚トソン

(-_-)



.

9 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:32:20 ID:DEAJLcTM0

(#゚;;-゚) 「……?」


 突如、場を満たす張り詰めた空気
 ヒッキーの前に積み上げられた十杯のグラスがいっとき見えなくなるくらいには、シリアス。
 助手くんは不安げにアイスコーヒーのグラスをそっと握りしめ、
 それに気づいた都村さんが、まるで取り繕うかのように、話を振っていくわけですね。


(゚、゚トソン 「……この街で発生した不審火の件数を知っていますか?」

(#゚;;-゚) 「ええと……」


 まあこういう聞き方するからには多いに決まってんだろうな、
 という推測を遮るかのよーに、
 というか、庇うような感じで、探偵がすっと割って入る。


(-_-) 「この街じゃ、俺たちは猫の移動ルートだけ知ってりゃ生きていける」

(゚、゚トソン 「探偵業だけでは生計が立たないと以前伺いましたが」

(-_-) 「訂正しよう。この街じゃ俺たちは猫の移動ルートとたまのバイト先だけ知ってれば」


.

10 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:32:53 ID:DEAJLcTM0



(゚、゚トソン 「本気でとぼけるつもりですか?」

(-_-)



(#゚;;-゚)


 言い逃れのしようもなく険悪なムード、どうしてくれんだよ、私ただのバイトなんだけど、
 なんて助手くんが考えていたかどうかはちょっと定かじゃないものの、
 ともあれこれで都村も人の子、ふうとため息をひとつ吐くと、
 バッグから数冊のファイルを取り出し、ばしんとテーブルに叩きつけ、


(゚、゚トソン 「あなたも探偵を名乗る身です。自分の事件は自分で解決するべきだ」

(-_-) 「いや自分で解決しろってさ、それ民間に言うの本職の名折れだよなって自分で思わない?」

(゚、゚トソン 「あなたが狙われたというのは、ある意味では進展であると考える」

(-_-) 

(゚、゚トソン 「終わりは近い。このところ、私はずっとそんな気がしてならない」


.

11 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:33:28 ID:DEAJLcTM0


 言うだけ言って席を立ち、自分が飲んだぶんの料金をテーブルに置くと、
 いかにもやり手のキャリアウーマンっぽい後ろ姿だけを見せながら、
 店を出て行ってしまった、と。


(-_-)

(#゚;;-゚)


 で、当然、残されたこの二人が、どんな話をするかといえば、
 そりゃ、まあ、他にない。


(#゚;;-゚) 「……どういうご関係ですか?」

(-_-)

(-_-) 「んー………」

(-_-) 「………………」

(#゚;;-゚)


.

12 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:34:07 ID:DEAJLcTM0


( -_-) 「……幼馴染だよ。俺の、大事な」

(#゚;;-゚)

( -_-)

(#゚;;-゚)

( ;-_-)


 大事な幼馴染とあんな会話すんのかよテメーはよ、
 なんて助手くんは一言も言ってないんだけど、
 まあ、無表情に睨まれる側は、あれこれ考えてしまうわけで。


(-_-) 「あー、……。まあ……」

(-_-) 「……不審火、多いって言ってたじゃん、さっき」

(#゚;;-゚) 「はい」


 いやまあ言ってはねえけどな、おまえが勝手に割り込んでくるからな、
 なんて感情はおくびにも出さず、ふんふんと頷く助手くんです。


.

13 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:34:34 ID:DEAJLcTM0


(-_-) 「えーっと……、まあ、あれだ」



(-_-) 「あいつは、犯人を捜してるんだ。昔からこの街にいる、放火魔を」



 一回出ようかという探偵の言葉に乗って二人は店を出て、
 八月の、うだるような蝉しぐれ。
 人もまばらな田舎町。青空は澄んでる、取り柄はそれだけ。

 そんな街をぽつぽつと歩きながら、ヒッキーは、独り言のように。


(-_-) 「……俺もあいつもこの街の出身、って言ったじゃん。さっき」

(#゚;;-゚) 「はい」

(-_-) 「で、……どっから説明すりゃあいいかな……」

(#゚;;-゚)


 ところで私ら帰る事務所が今はもう無いわけですけど、
 この歩きはいったいどこへ向かってんでしょう。
 行き当たりばったり? 無軌道? え、ちょっと待ってこいつ大丈夫か?


.

14 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:34:59 ID:DEAJLcTM0


(-_-) 「まあ……あれだ」


(-_-) 「……家が、近かったんだよね、俺らは」



(#゚;;-゚)


 みたいな疑問に、聞いてる助手くんが行き当たっていたかどうかは、やっぱり定かでない。








  ×  ×

15 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:35:59 ID:DEAJLcTM0


 都村とヒッキーは幼馴染だ。小学校からずっと同じの。
 でも、それだけじゃ登場人物が足りない。
 だいたいが、この町は小学校が一学年一クラスとかそのレベルの田舎なんで、
 幼馴染が都村とヒッキーの二人だけで済むはずはない。


 流石兄弟というのがいた。二人の、共通の幼馴染として。


 流石といえばその街ではわりと有名な家柄で、
 田舎にしては、というのがどうしても頭につきはするものの、
 流石邸といえば、それは街でもわりと有名な、立派な家だった。


 都村も、ヒッキーも、二人とも、その家の兄弟と仲が良かった。


 でも、木造だった。


 木造の、古い屋敷だった。


.

16 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:36:43 ID:DEAJLcTM0


 高校二年の夏だった。

 なんか騒がしくて、なんか寝苦しくて、そんな理由で目を覚ましたヒッキーは、
 窓の外、遠くでどこかの家が燃えているのを見て、瞬間、一発で覚醒した。


(;-_-) 『え、 ――え? え、あそこ……え? え!?』


 遠くとは言ったものの、それは別に走れば行ける距離で、


( ゚_゚)


 要するに、火事になったのはその流石邸だった。
 野次馬をかき分けて前に出て、燃えている家を目の当たりにして、
 『やべえ』より『もう無理だ』が先に出たくらいには、大炎上。

 救急も消防もまだ来ない。

 住人はどうした、流石一家は、野次馬のがなり立てる声がして、
 まだ誰も、野次馬の声がして、

.

17 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:41:00 ID:DEAJLcTM0


(゚、゚;トソン


 同じように、息せき切って野次馬の海を抜けてきた、都村の姿を見つけた。
 ぜえぜえと肩で息をするその姿は、
 たぶん、ヒッキーと同じようなタイミングで目が覚めて、
 ヒッキーと同じように全力疾走してきて、今まさに、たどり着いたばかりのような。


 ごうごう、とか、めきめき、とか、ものすごい音を立てながら、流石邸は燃えていた。
 都村も、ヒッキーも、二人とも、その家の兄弟と仲が良かった。


 燃える流石邸を見て、都村は一瞬だけ足を止めた。
 ほんとに一瞬だけだった。


 野次馬の誰かが叫ぶ声を振り切って、都村は、業火の中に飛び込んだ。
 一切のためらいを感じさせない速度――


(;゚_゚) 『――おい! 都村!!』


 とにかくヒッキーは目を剥いた。
 目を剥いて、一瞬だけその場で足踏みをして、どうしようと考えて、どうするべきか考えて、
 そうすると、ふくらはぎのあたりにとても嫌な怖気が走って、
 それでもヒッキーは都村を追った。

.

18 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:41:33 ID:DEAJLcTM0


 熱かった。怖かった。それだけしかヒッキーは覚えていない。
 だから大層な火事レポはできない。
 しいて言えることがあるとするなら、

 外から見ても中から見ても、第一印象は『もう無理だ』。


(;゚_゚) 『待って! ――待って!!』


(;゚_゚) 『無理だよ! 無理! これは――あっつい! 熱い!!』


(;゚_゚) 『……戻れ! 戻って!! 死ぬ! これっ……死ぬ! 死ぬから! ――戻れって!!』


 燃える廊下を駆ける都村の姿が熱気で歪んで見えた。
 ちらつく炎で何度もその後ろ姿を見失いそうになった。
 それでもなんとか追いつけた。

 たぶん居間のあたりなのだろう炎の前で、都村は立ち往生していた。
 天井の桟かなにかが落ちていて、炎の壁がそこにはあった。
 死ぬ覚悟がなければというか、死ななければそこから先に進むことはできなかった。


 でも、最悪なことに、炎の壁の向こうには――人影がちらついていた。


.

19 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:42:16 ID:DEAJLcTM0

(    ) 『う、っ、う……ぐうぅ……』


(;゚_゚) 『――弟者!?』

(゚、゚;トソン 『弟者!!』


(     ) 『――!』


(´<_`; ) 『……おまえら……ッホ、ゲッ、が……ごほっ』


 炎、炎、一面炎。真っ黄色の炎に覆われたその空間で、
 かろうじて火の隙間から見えた弟者のその顔は、煙に煤けて黒くなっていた。


(゚、゚;トソン 『――弟者! 今そっちに!」

(;゚_゚) 『ちょっ……』


( <_ ; ) 『――――――来んな!!!』


(゚、゚;トソン 『っ……』

.

20 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:43:38 ID:DEAJLcTM0


( <_ ; ) 『……逃げろ。死ぬぞ』

(゚、゚;トソン 『でも……!』

(;゚_゚)


 煙に喉をやられたのか、制止するその声もガラガラで、
 ――ガラガラの、ひどい声を張り上げて、最後に。


( <_ ; ) 『トソォォン!! ひっきぃぃ!!!』

( <_ ; ) 『だのむ……あいつ、だ。あいつを、ぜったい……』


(;゚_゚) 『……え?』


 最期に――――――弟者は、吠えた。


( <_ ; ) 『……火ぃつけられた。あいつがやったんだ。……あの野郎を! 絶対、絶対に――』


 ――そこでとうとう限界が来て、壁とか、天井が崩れ始めた。


.

21 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:45:23 ID:DEAJLcTM0

 弟者は完全に炎に呑まれて、姿どころか声さえも、ついには聞こえなくなった。


(゚、゚;トソン 『弟者! ――弟者!! 弟者!』

(;゚_゚) 『待って! 待って都村! ――待って!!』


 それでも都村は助けに行こうとして、でも、この状況、
 もう本当にこれは無理だとヒッキーは思った。
 炎がすぐ間近に迫っていた。


(;゚_゚) 『死ぬんだよ!! このままだと!! ――ここにいると死ぬんだよ!!』 

(;、; トソン 『弟者! 弟者あああああああああああああ!!!』


 その後どうやって逃げたかなんて、もう二人とも覚えていない。
 重症軽症色とりどりの火傷を全身に負いながら、彼らはなんとか生還した。
 流石家の人間は誰一人帰ってこられなかったけど、二人はなんとか戻ってきた。
 それは、まあ、いいことだった。

 その後が問題だった。


.

22 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:46:00 ID:DEAJLcTM0


 都村は、まるまる一年近くはショックで口を利けなくて、
 その間に、火事の調査は済んだ。


 タバコの吸い殻が原因の失火。そういうことになったらしい。


 ヒッキーの迷いは相当なものだった。警察に言うべきかどうか。
 弟者が、放火犯の存在を示唆する証言をしたのだと、伝えたほうがいいか悩んだ。
 すぐに言い出せなかったのは、聞いていたのが自分一人ではないから。

 少しずつ回復していった都村に、ある日ヒッキーはそのことを打ち明けた。


(゚、゚トソン 『黙っておきましょう』

(;-_-) 『……え?』


 なぜもっと早く言わなかったのか、なぜ犯人を捜させようとしないのか。
 そんなキレ方をされるだろうと思っていたから、ヒッキーは驚いた。
 都村はとても静かだった。



.

23 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:46:29 ID:DEAJLcTM0


(゚、゚トソン 『あれは……私に、……私たちに、託された仕事です』

(゚、゚トソン 『……私の、私たちの手で。成し遂げなくては、ならないことです』


(;-_-)


 以来、人並み以上に火事のニュースに敏感になってしまった彼らが、
 かたや警察に、かたや探偵に、それぞれの進路を違えても、まだ、
 あのときの犯人は捕まっていないし、
 街の不審火は減っていない。


 それでも、忘れたわけではない。





  ×  ×


.

24 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:46:52 ID:DEAJLcTM0


(#゚;;-゚)

(-_-) 「まあ……なんていうのかな」

(-_-) 「俺が狙われたってのを、犯人がこっちの動きに感づいた、みたいに考えてるんだと思う」

(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「……そのときの、犯人を。捜して、捕まえる……っていう、仕事ですか」

(-_-) 「それは警察の仕事であって、俺がやるのはそーいうのじゃない」

(#゚;;-゚) 


 じゃあどーいうのだよ、と助手くんが思ったかどうかは定かでない。
 つーかバイトにんなクソ重てえ話してんじゃねえよ、と思ったかどうかもやはり定かでない。

 助手くんが確実に考えていたであろうことは、
 都村の置いていったファイルは、過去の不審火に関する情報をまとめたものであるのだろう、
 という推測くらい。 

.

25 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:47:16 ID:DEAJLcTM0


(-_-) 「『犯人』とか、『真相』とか。そーいうのを見つけるのは、べつに探偵の仕事じゃない」

(#゚;;-゚) 「……じゃあ、これからどうするんですか。具体的に、何をするんです?」

(-_-) 「具体的にか。とりあえず、今気になってることはひとつあるよ」

(#゚;;-゚) 「それは」


 そこでヒッキー探偵は、財布からレシートを取り出した。
 さっき払った喫茶店のお代。



(-_-) 「なんでか知んないけどさ、あいつ一杯ぶんしか料金置いてってないんだよね」



(#゚;;-゚) 



 『とりあえず気になること』よりも、『とりあえずムカつくこと』
 のほうが正確なのはそうなんですが、まあそれはさておくとして。
 そもそもの話なんでこいつらコーヒー13杯も飲んでんだろうな。



.

26 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/25(金) 04:47:49 ID:DEAJLcTM0

○ここまでのあらすじ!

 田舎町に小さな事務所を構える迷探偵のヒッキーくん。そんな彼の事務所が放火されました。
 この街は昔から不審火が多い。おや? もしかしてこれは同一犯による連続放火なのではないか?
 という情報を警察の知り合いから入手したヒッキー探偵。となれば、探偵がやることはひとつ! 調査するしかありませんよね!

 ……なんて理屈はすべて建前で、
 彼を突き動かすもの、それは、過去に背負った業。ただそれだけ。

 あの日友が遺していった謎。迷探偵に解くことはできるか。


○とーじょーじんぶつ!

都村 … 業を背負った刑事

ヒッキー … 業と火災保険を背負った貧乏探偵

でぃ … 表情の読みづらい彼女の内心はそのとき作るカルピスの濃度によって判断される

流石一家 … 既にこの世の住人ではない。彼らは記憶の中にのみ存在する

カフェの店員 … この人なんか勘違いしてるよなとさすがに感づいてはいたけれど、まあ注文は注文なので

正体不明の放火犯 … その正体はスレタイから察するべし


34 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:08:29 ID:06WXlP1Q0

 たしか、高一のときの話だ。
 その当時のヒッキーの登校時刻はだいたいいつも始業ぎりぎり、
 その日も、いつも通りの時間に、彼は校門をくぐったわけで、


( *´_ゝ`) 『♪ねえ聞いて 素敵な』


(-_-)


( *´_ゝ`) 『♪恋を してるの』


(´・ω・`)


( *´_ゝ`) 『♪ドキドキ超えて ワクワクしてるハートっ☆』


 なので、まあ、始業ギリギリ登校初っ端、
 朝っぱらから歌って踊れるゴミが下駄箱前を占領している現場にブチ当たったその瞬間、
 ヒッキーの頭の中からは『死ね』以外の感情がすべて失われたわけです。


(´・ω・`) 『おはようヒッキー。これ何?』

(-_-) 『えっと、これは……』

.

35 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:08:53 ID:06WXlP1Q0


( *´_ゝ`) 『この世に、俺を愛した人間が少なくとも一人はいるという――生まれたことの肯定だよ』


 ”コレ”のイントネーションが完全にもはや救えぬ領域に辿り着いてしまった者を指すときのそれですが、
 でもまあ兄者くんも大概無駄に心の強い子だったので、
 ハート形のシールが貼られた封筒を左うちわに仰ぎながら、


(´・ω・`) 『……ああ、ラブレターか』

(-_-) 『あー。弟者の朝練終わんの待ってたの?』

( ´_ゝ`) 『いや違うよ、弟者へのラブレター中継すんのにこんだけ歌って踊って喜んでたら完全に狂人だろ。違うよ』

(´・ω・`) 『違うの?』

( ´_ゝ`) 『いやまあ、俺が狂人かどうかはまた別で議論の余地があるかもしんないけど、そこじゃなくて……』

(-_-) 『あるの?』

( ´_ゝ`) 『ないの?』

(´・ω・`) 『ない』

( ´_ゝ`) 『えぇ……』


 それはさておき、封筒の裏面には『兄者くんへ』の文字。
 そりゃまあこの場の三人は高い順に並べて現代文のスコアが43/27/0ではあるが、
 そんな黄赤無のシグナルトライデントもさすがに兄と弟は間違えない。


.

36 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:09:16 ID:06WXlP1Q0


( *´_ゝ`) 『ついに我が世の春が来たんだよ。弟者という太陽の裏で輝く俺という月に気づいた娘が』

(´・ω・`) 『太陽がなくては輝けない存在……』

( ´_ゝ`) 『やかましいよ。なんであれ俺の手元には俺宛のラブレターがある! それがすべて……お? ん?』


 恥じらいとか奥ゆかしさとかそういう概念にマヨネーズをぶちまけて食う勢いで封筒を破り裂き、

 封筒の中には、それよりひとまわり小さい封筒と、一枚のわら半紙が入っていた。
 英語の小テストだった。

 封筒のほうには、丸みを帯びたかわいらしい字で『弟者くんへ』、
 小テストの裏には、テキトーに書き殴った字で『弟者くんに渡しといて』。


( ´_ゝ`) 『かなり悪質なトラップだと思わんか?』

(´・ω・`) 『胴体の部分で上下に分割でき、中には少し小さい人形が入っている。これが何回か繰り返され……』
っ【スマホ】


 マトリョーシカ人形 - Wikipediaの文章をショボンが読み上げると兄者は声をあげて泣き出した。
 経文唱えて悪霊除霊する坊さんみてえだなとヒッキーは思った。悪霊についてはまあ合ってる。


.

37 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:09:39 ID:06WXlP1Q0


 だいたい、そんな感じの兄弟だ。


     (´<_` )


(-_-) 『……いっつも不思議なんだけどさ。弟者のほうが背ぇ高いよね?』

(´・ω・`) 『背ってか、足。足めっちゃ長く見える』

( ´_ゝ`) 『キャラデザは同じはずなんだがな……』


 兄者が猫背だからそう見えるのだろうとヒッキーは思っている。
 にしても足の長さは説明つかねえよなとショボンは憐れんでいる。

 観客席で管を巻く三人、
 見下ろす先では、砂場の近くで準備体操をしている弟者。
 何をしているのかといえば、陸上部の応援に来た、の一言。
 兄者はまあ身内なのでともかく、
 陸上部とまったく接点のないヒッキーとショボンまでもが来ているのは、まあ、
 ひとえに、流石一家の大黒柱:母者殿の豪胆さがなせる業というか、そんな感じです。

 弟者の参加種目が何かといえば、それは走り幅跳び。
 7メーター30ぅー、とかいう測定係の声を聞きながらの、男三人キャラデザ談義。


.

38 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:11:28 ID:06WXlP1Q0


(-_-) 『すんげー跳ぶよね。やっぱこーいうのって足長いほうが有利なの?』

(´・ω・`) 『キャラデザは同じで何が違うんだろうね。作画の問題かな』


 長い手足を風車みたいに回しながら助走をつける弟者、
 なんとなく、換気扇が転がっていくみたいな印象をヒッキーは受けていて。
 7メートル30ってあれだよね、僕ら三人が縦に並んで寝っ転がったとして、
 あいつそれ全部余裕で跳び越せるってことじゃん、
 とか、そういうたとえ話を、ショボンはへらへら笑って話して。


(゚、゚*トソン

(´<_` )


 休憩時間、マネージャーの都村と、弟者は、楽しげに話していて、


( ´_ゝ`) 


 30は、あいつのベストじゃねえよ、と。
 冗談みたいに滞空時間の長い弟者のジャンプを食い入るように見ながらぼそっと呟いた、
 そのときの兄者の声が、いやに虚ろで、とても寂しそうで、

 その声は、どういうわけだか、今も――ヒッキーの耳から、離れてくれない。




 ×  ×

.

39 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:11:55 ID:06WXlP1Q0

(#゚;;-゚)

(-_-)


(#゚;;-゚) 「あのう」

(-_-) 「ん?」

(#゚;;-゚) 「これは、どういう時間なんです?」

(-_-) 「ああ……。人を待ってる」

(#゚;;-゚)


 都村と会ったのとは、また別の喫茶店。
 入店早々誰か知り合いに電話をかけたヒッキーは、
 それ以降、都村からもらったファイルにぱらぱらと目を通すのみ。
 静かなものである。


ξ゚⊿゚)ξ 「ご注文いかがいたしましょうか?」

(#゚;;-゚)

(-_-)

 ここで自分が答えてはならないと、かしこい助手くんは学習している。
 でも探偵は資料に目を落とすのみでまったく返事をしない。

.

40 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:12:27 ID:06WXlP1Q0

(#゚;;-゚) 「……アイスコーヒーを、」

(-_-) 「ふたつ」

(#゚;;-゚)

ξ゚⊿゚)ξ 「かしこまりました。ご注文以上でよろしいでしょうか?」


 お財布事情が逼迫してくると正常な判断ができるようになる、
 という探偵の生態を助手くんがメモ帳に書きとっているところに、
 ちょうど、呼び出した相手はやってきました。ちりんちりーん。


('、`*川


ξ゚⊿゚)ξ 「いらっしゃいませー」

(-_-) 「久しぶり」

('、`*川 「……はあ」


 ろくに挨拶もせず、不機嫌に席に着いたその女性。
 「ご注文は?」と店員が聞きに来て、助手くんはちょっと身構えたのですが、
 別に何も、と鬱陶しそうに手で払ったのを見て、ほっと一息……

.

41 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:12:53 ID:06WXlP1Q0

(-_-)

('、`*川


(#゚;;-゚)


 どう考えてもほっと一息って感じの空気じゃないですね。


(#゚;;-゚) 「……ええと、お知り合いでしょうか」

('、`*川 「……っは。ええ、知り合い。いちおう、知り合いです」

(-_-) 「まあ……、高校時代のね、同級生。伊藤」

('、`*川 「伊藤です。覚えなくていいよ」

(#゚;;-゚)


 険悪という字は険が悪すぎると書いて険悪と読むんだよ、みたいな感じのこの空気。
 先に仕掛けたのは、伊藤のほう。

.

42 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:13:22 ID:06WXlP1Q0

('、`*川 「で。あんた、何? 何の話したいの?」

(-_-) 「聞きたいことが、ありました」

('、`*川 「何を」

(-_-) 「最近、都村と会ってない?」


 隠す気のない舌打ちというのは、それはそれは空気を悪くします。


('、`*川 「会ってない。……なに? 何年経ってると思ってんの」

('、`*川 「いい加減にしろよ。まだ疑ってんの?」

(-_-) 「いや、それならそれでいいんだけど。そうだよ、だいぶ経ったよね」

(-_-) 「……もう、出てるんじゃなかったかな」


 全力の台パンというのも、言い訳のしようもなく空気を悪くします。


('、`*川 「……帰る」

(-_-) 「お気をつけて」

.

43 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:13:46 ID:06WXlP1Q0

 なにも飲み食いしてないのに律儀にお金を置いて帰った伊藤の背中を眺めつつ、
 そこで炸裂する助手くんの名推理!


(#゚;;-゚) 「……ええっと、昔の恋人とか、そういう……」

(-_-) 「ふっは」

(#゚;;-゚) 

( -_-) 「……いや、あいつ見て元カノはセンスあるよ。うん。……うん」

(#゚;;-゚) 


 探偵は肩を震わせて笑い、ひとしきり笑ったのち、
 テメー私の推理笑うのはいいけど師匠筋にあたるのが自分だってこと忘れてんじゃねえだろうな、
 みたいな怨念のこもった(気がする)視線に耐えかね、ぽつぽつと語り始めました。


(-_-) 「えーっとねえ。どこからっていうか……どっちから話せばいいかな……」




 ×  ×

.

44 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:14:17 ID:06WXlP1Q0


 なんかヤバい。なんかヤバいことになってる。
 当時高一、都村と違うクラスになったヒッキーが、そのことに気づくまでには、
 何段階かのステップを踏む必要がありました。

 そのいち。ツイッターがなんかおかしい。


双子の社会的に下のほう@flow_stone_Mario 1時間前
 やっべーガチモンのアルファ様呼んじゃった

悲喜こもごもり@Amano_iwato 1時間前
 一万RTの男だ

クソリプと引用RTは即ブロックします@shot_born 1時間前
 オメガツイッタラーです よろしく
    →2

双子の社会的に下のほう@flow_stone_Mario 1時間前
 こんな身近にアルファツイッタラーがいたとはな……

つむつむ@city_and_village 1時間前
 あっ、このツイートも
    →32  ☆39

つむつむ@city_and_village 2時間前
 最近、見知らぬ鍵垢からやたらにお気に入りとかRTとかをされるんですけど、
これは誰がやってるんでしょう…? 学校の方?
    →28  ☆44

双子の下のほう@flow_stone_Luigi 2時間前
 トソンのツイートなんか変じゃね? 気のせい?

.

45 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:14:44 ID:06WXlP1Q0

(-_-) 『……なんじゃこりゃ?』


 当時の彼らは、まあ当時にしてみればイマドキの高校生ということで、
 ラインにツイッター、インスタグラム、
 SNSの類はそりゃもうなんでもござれといった調子。

 で、高校生の日常ツイートともなれば、身内以外に見られたくないと思うのも、まあ普通のこと。
 アカウントに鍵をかけて、アカウント主が承認した者以外にはつぶやきが見られないようにする、
 ってのも、普通ではあったんですけど。

 にしても、都村自身に心当たりのない鍵アカウントの群れがたかっているというのは、だいぶ謎。



 そのに。都村自身もなんかおかしい。


( ´_ゝ`) 『だからなヒッキー。今日これからおまえが学校サボって家に帰るとするだろ?』

(-_-) 『しねえよ?』

( ´_ゝ`) 『するとだな、2限の英語で俺が当てられるタイミングが一個ズレるわけだよ。簡単なやつに。な?』

(-_-) 『あ、おはよう都村』

( ´_ゝ`) 『ん? おお。おはよー』

.

46 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:15:14 ID:06WXlP1Q0


(゚、゚トソン


( ´_ゝ`) 『ん? 都村?』


(゚、゚トソン


(゚、゚トソン 『……ああ。おはようございます……』


(-_-)

( ´_ゝ`)


 廊下でばったり出くわしても、露骨に元気がない様子。


つむつむ@city_and_village 2時間前
 高校三年間。過ぎてみればあっという間ってよく言いますけど、通り過ぎた側は平気でそう言いますけど、
今、その真っ最中にいる人間からしてみれば、無限みたいな時間なんですよね。
    →39  ☆51


 ポエムじみたツイートを投稿する頻度が増えました。

.

47 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:15:39 ID:06WXlP1Q0

 そのさん。


( ´_ゝ`) 『♪あなたは私のぉ~、♪ほんのイチブしか知らなァ~い、』

(-_-) 『勝ち誇るように笑われても?』

(´・ω・`) 『それほどどころか死ぬほど嫌だよ』


 購買で買ったパンを片手に屋上へと向かう昼休み、
 たどり着いた屋上には、先客が一人だけおりました。
 フェンスにもたれかかって、ぼうっと空を見上げている都村。


(-_-) 『あれ。どしたの』

(゚、゚トソン 『……ああ。いえ……』


 声をかけられると、ふと気が付いたように、ゆらりと歩き出して
 ふらふら、ふらふら、幽霊みたいに、
 前もろくに見ず歩いていた都村は、そこで兄者とぶつかって――


( ´_ゝ`) 『おっと。なんか落とし』

(゚、゚;トソン 『―――――――!』


.

48 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:16:21 ID:06WXlP1Q0


 からんと硬い音を立て、きらんと太陽を反射して、
 ポケットから滑り落ちたそれを、都村は超速で拾い上げると、
 そそくさと、屋上から消えていき。


( ´_ゝ`) 『……あの……今の……』

(-_-)

(´・ω・`)


( ´_ゝ`) 『ガチめの……ナイフじゃ、ありませんでしたこと……?』

(´・ω・`) 『職質されたら言い逃れできないタイプのやつね』

(-_-) 『…………』





 そのよん。

 なんでその日の放課後に屋上へ行ったんだったか、
 そんな理由はもうヒッキーも覚えてないんですけれど、


.

49 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:17:18 ID:06WXlP1Q0


(;-_-)

( ;´_ゝ`)


(;、;トソン⊂(´<_` )


 夕暮れの屋上、都村の腕を掴んでねじり上げている弟者、
 その手から滑り落ちるナイフ、
 都村の左手首のあたりにうっすらと残る赤い線、


( ;´_ゝ`) 『……おい、弟者』

(´<_` ) 『止めたよ。ギリだった』

(;-_-)


(;、;トソン


 ツイッターが粘着されてるとかはまだまだかわいいもんで、
 だいぶ陰湿な、きっついやつが、裏には存在していたよーです。グループラインとか、そういうの。


.

50 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:18:09 ID:06WXlP1Q0


 弟者は、都村の様子がこのところおかしかったのをわりと気にしていて、
 まあ、そのおかげで阻止できたと。

 付け加えて言うならば、一年のこのときすでに、弟者は陸上の才能、
 というより、ヒーローの資質を開花させておりまして。
 クラスでも、それなり以上の地位を築いていたわけですよ。キャラデザ同じの兄とは違って。


o川*゚ー゚)o 『ね、ねえ、弟者くん……。話って……なに?』

从*'ー'从

('、`*川


(´<_` ) 『ああ……。いや、別に、大した話じゃない』


(´<_` ) 『つまんねーことすんの、やめろ』


o川 ゚-゚)o

从'-'从

('、` 川


 というわけで、なんかサクッとカタを付けちゃったわけですよ。

.

51 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:18:34 ID:06WXlP1Q0


 都村が、そのとき入ってた家庭部だか手芸部だかを抜けて、
 陸上部のマネージャーになるのは、もうしばらく後の話。


 ×  ×


(#゚;;-゚)

(-_-) 「すげーやつだったよ、弟者は。優しくて、かっこよくて……」

(-_-) 「……ほんとにね、かっこいいんだよ。なんていうのかな、俺もそんなに応援行ったわけじゃないけど」

(-_-) 「幅跳び、跳ぶ前のね。もう、傍から見ててもわかるくらい、すぅっ……と、『入る』感じ」

(-_-) 「どっか遠くを見てるみたいな。自分だけの世界に、その瞬間入っちゃう感じ……」

(#゚;;-゚)

( -_-) 「……っていう評価は、まあ。ぶっちゃけると、全部、他人の受け売りなんだけど」

(#゚;;-゚) 「……受け売り、ですか」

( -_-) 「兄者のね」


.

52 名前:名無しさん 投稿日:2017/08/26(土) 16:19:33 ID:06WXlP1Q0

(#゚;;-゚) 


 助手くんには、その台詞の意味がよくわからなくて、でも、
 「どっか遠くを見てるみたいな」、という表現の意味は、よくわかったことだろう。

 今、死んだ双子の兄弟について語る、目の前の探偵が。
 まさしく、そういう目をしていたから。


(-_-) 「で……、弟者は、そういうキャラだったから。表立っては、なんもなかったけど……」

(-_-) 「やっぱりまあ、やり込められた側は、弟者のことをよくは思わないわけよ。いくら顔が良くてもさ」

(#゚;;-゚)

(-_-) 「弟者とすれ違うたびに舌打ちしたり。あと兄者とすれ違っても舌打ちしたり」

(#゚;;-゚)

(-_-) 「『おまえ……普段は間違っても俺と弟者見間違えたりしねーくせにおまえ……こんなときだけ……』」

(-_-) 「『んじゃ単に弟者関係なく兄者が純粋に嫌われてるだけじゃないの?』」

(#゚;;-゚)

.

53 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:20:03 ID:06WXlP1Q0


 当然、助手くんは探偵の友人本人の声を知らない。
 それでも、声真似をしているということだけは、問題なく伝わった。
 ほんのすこしそこに含まれた――寂しさと、一緒に。


(-_-) 「で、……あれだ」

(-_-) 「こっからちょっと飛んで、二年のときの話ね?」



 ×  ×


 たとえば、ゴミ捨て場に火がつけられたとか。
 たとえば、河原の雑草に火がつけられたとか。
 たとえば、駐輪場に停めてあった自転車のシートが燃やされたとか。

 そーいう不審火自体は、それまでもちょいちょい発生してて、でも、

 家が一軒、まるごと燃えたのは、その事件が初めてだったのです。


.

54 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:20:25 ID:06WXlP1Q0

ミセ;゚ー゚)リ 『貞子さん大丈夫だった……!? 家、燃えちゃったって……』

川д川 『あ……、ま、まあ……』

ミ,,゚Д゚彡 『っていうか、家燃えたってこれからどうすんの? どこ住むの?』

川д川 『いったん……適当なアパートに移る予定で……』

( ^Д^) 『え、転校とかしたりすんの?』

川д川 『そ、それは大丈夫……』


(´・ω・`) 『物騒な時代だよねえ』

( ´_ゝ`) 『……そうだなあ』


 ちょうどそのとき、ヒッキーも、兄者も、ショボンも、被害者とは同じクラスで。
 普段あまり目立たない彼女が、一躍、質問攻めにされているのを。
 遠巻きに、眺めていたわけですが……

 流石邸全焼事件が起きたのが、この事件のちょうど一か月後。


 ×  ×

.

55 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:20:47 ID:06WXlP1Q0

(-_-) 「……巻いてこうか、もう。貞子の家が燃えた事件、およびそれまでの不審火については犯人がわかってる」

(#゚;;-゚)


(-_-) 「素直と渡辺。都村のイジメに加担してて、弟者にやり込められたやつら。この二人」


(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「えっと……、伊藤さんは」

(-_-) 「あいつは参加してない。……って、少なくとも警察はそう判断した」


 もともと素直も渡辺もあまりガラのいい生徒ではなかったというのもあるし、
 進学のための塾通いだのなんだので、ストレスというのはあったらしく。
 むしゃくしゃして放火してみたら、それがなんか病みつきになってしまった、と。
 そんなガチ犯罪にドン引きして、伊藤は二人の元を離れた。
 自分は関わっていない、という言い分。それは警察にも認められている。


(-_-) 「ただし、その後の流石邸全焼については二人とも容疑を否認」

(-_-) 「状況証拠から言っても、こいつらの犯行とは考えにくいだろう、との警察の判断」


.

56 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:21:20 ID:06WXlP1Q0

(#゚;;-゚) 「その二人は、結局……」

(-_-) 「とーぜん、二人とも少年院。でも、あれから八年経った」

(#゚;;-゚)


 細く、長い溜め息をついて、探偵は指を二本立てました。


(-_-) 「都村が今考えてるだろう線は、たぶん二つあって」

(-_-) 「関わってないってのが嘘で。流石邸、およびそれ以降の不審火の真犯人が、伊藤である可能性」

(-_-) 「それプラス、素直と渡辺の二人が、やっぱり流石邸放火もやってたって可能性……かな?」

(-_-) 「弟者の関係者だから、火事の現場に居合わせたから、あの火事を嗅ぎまわってるから」

(-_-) 「そんな感じの理由で、出てきた二人が俺を狙って事務所燃やした。とか、都村は考えてんのかな……」


(#゚;;-゚)


(-_-) 「……どしたの?」

.

57 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:21:43 ID:06WXlP1Q0


(#゚;;-゚) 「……その」

(#゚;;-゚) 「他人事、みたいな言い方を、するんだな……って」


(-_-)


(-_-) 「ああ」


 都村が考えてるだろう線は。
 ――とか都村は考えてんのかな。

 言葉尻を目ざとく拾い上げた助手くんに、探偵は、笑顔で――


(-_-) 「まあ、ぶっちゃけ犯人が誰かってのはどうでもいいんだ、俺は」


 とんでもないことを言ってくれました。


.

58 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:22:18 ID:06WXlP1Q0


(#゚;;-゚)


(-_-) 「『探偵』ってのはさ、何をする仕事だと思う?」

(#゚;;-゚)


 探偵失格みたいな台詞を堂々と吐いたその口で、探偵の定義を問うヒッキーくん。
 だいぶ意味のわからない上司を前にして、
 助手くんは一生懸命頭をひねり、なんかかっこいい答え方したほうがいいのかな、とか考えて……


(#゚;;-゚) 「……真実を探す仕事、でしょうか」

(-_-) 「俺は違うと思うんだな、それ」

(#゚;;-゚)


 すっぱりぱんぱん一刀両断。
 なんやねんこいつは偉そうに、と助手くんが思ったかどうかは定かでない。

59 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:24:18 ID:06WXlP1Q0


(-_-) 「必要なのは、『真実』じゃなくて『納得』。俺はそう思う」


(-_-) 「だから、探偵がやるべきなのは……『納得』するのに必要な材料を集めること」


(#゚;;-゚)


(-_-) 「で、その材料が真実かどうかは、そんなに気にしなくていい。っていうのが俺の職業論。どうかな?」


(#゚;;-゚)


 いや、どうかなとか言われても知らんがな。
 表情の読みづらい彼女の内心を推し量るのは困難だけれど、
 このときはさすがに『や、マジで知らんがな』って思ってたんじゃないかと思うんですけど、どうでしょう?


.

60 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/26(土) 16:24:58 ID:06WXlP1Q0
○ここあら!

 高校時代、都村はイジメを受けていた。それを助けてくれたのが弟者。
 いじめっ子たちを一掃する弟者はかっこよかったけれど、
 やられた側は間違いなく弟者への憎しみを募らせたよね。

 流石邸炎上事件よりも前に発生した、貞子家炎上事件。
 この事件の犯人はもう捕まっていて、彼女らは流石邸の件とは無関係とされている。

 ほんとに無関係なのだろうか。たぶん都村はそれを疑っている。


○とーじん!

都村 … 彼女は弟者に借りがある

ヒッキー … シグナルトライデント赤信号担当。今年で25歳になる

でぃ … (でもこの人事務所燃えてんだよな……)と思っている

ショボン … シグナルトライデント黄信号担当。ツイートが1万RTされたことがある

兄者 … シグナルトライデント無信号担当。弟者と二人並んだだけで『作画崩壊』のあだ名がつく

弟者 … 走幅跳高校記録が7m96cmとかそんなだったような

素直、渡辺、伊藤 … 現時点での容疑者候補。誰だろうね犯人。

.


69 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:53:51 ID:2SwlmMHE0

双子の社会的に下のほう
@flow_stone_Mario


@flow_stone_Marioのツイート

双子の社会的に下のほう@flow_stone_Mario 8年前 9月19日
 「冗談でもおまえがキキを名乗るのはやめろ」が追加で2件来て、
 魔女宅ガチ勢まで潜んでるこのTLは何なんだよ


双子の社会的に下のほう@flow_stone_Mario 8年前 9月19日
 「画像消せ」と「死ね」が一瞬で3件くらい来たんですけど、
 このTLいきもの苦手ガチ勢が多すぎる


双子の社会的に下のほう@flow_stone_Mario 8年前 9月19日
 わたし魔女のキキです。こっちはザリガニのザザ

   ⌒V⌒
 (V)o∧o(V)
  ヽ(゚д゚)ノ
  (/ V |つ
  Σ__ノ
   ∪∪


.

70 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:54:27 ID:2SwlmMHE0


@flow_stone_Marioがいいねしたツイート

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 ぶち殺すぞ
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくないをいい
 ねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 いや普通に返事してよ。別にいいねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日 
 兄者起きてる? 今日来れんの? 
            ☆1



.

71 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:55:11 ID:2SwlmMHE0

 ×  ×


  (#゚;;-゚)( -_-)っ【スマホ】


  (#゚;;-゚)( -_-)っ【スマホ】


  (#゚;;-゚)(-_- )っ【スマホ】


 よい子のみなさんは、悪いこと言わないから他人のスマホを死角から勝手に覗き込むのはやめましょう。
 というわけで再びの喫茶店ハシゴ、三軒目のその店は、
 完全に気配を殺した助手くんにtwitterを覗き見られていた探偵が
 心底ビビったとこからのスタート、という流れになります。


(;-_-) 「びっくりした」

(#゚;;-゚) 「えっと、……」

(#゚;;-゚) 「……ついったー、やってたんですか」

(-_-) 「あー……。いや、……わかってるとは思うけど」

(-_-) 「……これは、俺のアカウントじゃない」

(#゚;;-゚)


 もう二度と新しいツイートがされることはないそのアカウントを、今でも、見ている探偵の、
 その頭の中には、どんな思考が展開されているのか。

.

72 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:55:42 ID:2SwlmMHE0


 そんなことは、まあ、バイトの助手くんには、どうでもいいこと……
 なのかどうかは定かでないですが、
 とりあえず、ここで彼女が切り出したのは、それとは違う件。


(#゚;;-゚) 「ええと、……お仕事用に、私もフォローしておいたほうがいいのかな、と……」

(-_-) 「や、それは別に……。っていうか、あれ。でぃちゃんもツイッターやってんだ」

(#゚;;-゚) 「一応は……。ええっと、ですね」


 勝手に見ちゃった罪滅ぼし、というわけでもないでしょーけど、
 ポケットからスマホを取り出した助手くんは、ちょちょいとロック画面を解除して、
 これです、とスマホを探偵に差し出し――


ツイッターする前に課題やれ
@dedeideidedei

亀が踊るバスストップ
         ♪
   __   _
  /♯#\ /・_)
(ソ♯#♯#Y /
 (_)――-(_)′  ♪

20xx年4月に登録


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73 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:56:09 ID:2SwlmMHE0


(#゚;;-゚) 「すみません」


 ――超速で電源を落としました。


(#゚;;-゚) 


(-_-)


(#゚;;-゚) 「……間違えました。こっちじゃなくてですね……」


(-_-) 「あ、うん……」

 アカウント間違えました、の一言だけ弁明のコメントを添えて、
 後はいつも通りの無表情でスマホの電源を入れ直す鉄の女っぷり。
 さすがに年下の女の子が相手ともなると気は遣うので、なにか、まあ、話題を変えようとして。


(-_-) 「っていうか、それなんてアプリ?」

(#゚;;-゚) 「はい」

(-_-) 「や、なんか見たことない感じの画面だったから。公式のじゃないよね」


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74 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:56:32 ID:2SwlmMHE0


(#゚;;-゚) 

(#゚;;-゚) 「twitboonっていうアプリで……、公式のより、使いやすい、ので」

(-_-) 「ほうほう」

(#゚;;-゚) 「……いいねしたツイートが、日付順じゃなく、いいねした順で見れたり……」

(-_-) 「なるほど。俺も変えてみよっかな……」


 ザ・上っ面って感じの会話ではあるものの、
 っていうかアプリの使いやすさを意識している時点でそこそこtwitterやりこんでね? とか、
 そんな推理が無駄に頭をよぎる会話ではあるものの、それはさておき。


<prrrrrrr

(-_-) 「っと。……ごめんね、ちょい離席します」

(#゚;;-゚) ?

(-_-) 「や、ちょっと人前ではまずい感じのお話なので……。……あー、えーっと、」

(-_-) 「えーっとね。もしショボンが来たら、……まあ、適当に相手しといてくれない?」

(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「わかりました」


 ×  ×

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75 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:57:00 ID:2SwlmMHE0






  ×  ×




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76 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:57:25 ID:2SwlmMHE0




 その火事の現場には、たまたま居合わせた。


(    )


 真夜中、星も出ていない空の下で、煌々と燃える炎。騒ぐ人々。
 いつもなら、野次馬が大勢集まった様子を見て、
 電灯に群がる羽虫のようだなあと、そんなふうに形容したかもしれない。



(    )



 でも、このときは、どうしてだか。
 赤々と、天高く噴き上がる炎の熱に浮かされて、か。

 花火みたいだと、思ってしまった。

 これだけ大きな炎なら、きっと遠くからでも見えるだろう。
 みんなが燃える家を見ている。
 みんなが見ている。
 みんなが見てくれている――――――


 燃えたのはクラスメイトの家だった。


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77 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:57:46 ID:2SwlmMHE0


ミセ;゚ー゚)リ 『貞子さん大丈夫だった……!? 家、燃えちゃったって……』

川д川 『あ……、ま、まあ……』


 普段ちっとも目立たない彼女が、人の輪の中心にいた。
 見てもらえていた。みんなから。



 なるほど。
 そういう手もあるのか?



(    )



 彼からのメッセージを受け取ったのは、それから、もうしばらく後の話。



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78 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 20:58:29 ID:2SwlmMHE0






  ×  ×




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79 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:00:03 ID:2SwlmMHE0


( ´_ゝ`) ♪ このまーまっ どこかとーくっ つれてーってっ くれないーかっ


( ´_ゝ`) ♪ きみはー きみこそーはっ


( ;´_ゝ`) ♪ にちよぉぉぉ~~びッ よぉりのぉぉ~~おおおおおおあッ!?!?


(-_-) 『あ、そこ深いって言ったのに』

(´・ω・`) 『死んだか……』


 高校二年の九月、十九日、日曜日。だったはず。
 まだまだ暑い盛り、カンカン照りの太陽の下、
 彼らが何をやっていたのかと言えば、なんとですね、ザリガニ獲り。
 ザリガニですよ、ザリガニ。高校の二年生にもなって。


( ´_ゝ`)


( ´_ゝ`) 『何してんだろうな俺らは……』


 足首を川に漬け、タモ網片手にザリガニを探していた兄者くんは、
 川底のやわらかーい泥をモロに踏み抜いて深みにはまり、
 胸のちょい下くらいまで一気に沈んでしまっておりました。

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80 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:00:27 ID:2SwlmMHE0


 ターミネーター2ごっこでもするかと親指を立ててもそれ以上沈むことはなく、
 脱出しようともがいても足が抜けず、え、もしかしてこれ詰んだ?


( ´_ゝ`)b 『夏休みは延々補習漬け……せっかくの日曜にもザリガニ漁……』

(´・ω・`) 『兄者もいちおー部員でしょうに。もう向こうの籍抜いてんでしょ?』

( ´_ゝ`)b 『そうだけど……』


 ザリガニを釣るエサ用に持ってきた裂きイカを放り投げると、兄者はそれを口でキャッチ。
 楽しくなったショボンとヒッキーはかわるがわる裂きイカを投げ続け、
 やがて兄者の裂きイカ・キャパシティが限界を迎え、
 つまり端的に言ってブチ切れて、怒りのパワーでもって沼を脱出。

 高校時代のヒッキーとショボンは、実を言うと、生物部という名前の帰宅部に所属しておりまして。
 でもまあ文化祭シーズンくらいはね、せめてね、何かしらはやってほしいよね、
 という顧問からの要請により、手軽に用意できる出し物とはなんぞや、みたいなことを考えた結果、
 ビニールプールにザリガニでも放って適当に釣らせようぜ、という案が採択されました。
 そういうわけで、人手を集めてザリガニ漁という流れです。

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81 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:00:58 ID:2SwlmMHE0

( ´_ゝ`) 

(´・ω・`)

(-_-)


 一通り作業を切り上げた男三人、
 後ろでザリガニを積んだタライがシャカシャカと音を立てる中、
 川べりに座り、シャリシャリと棒アイスをほおばる夏景色。


( ´_ゝ`) 『…………彼女…………欲しいよな………』


(´・ω・`)

(-_-)


( ´_ゝ`) 『言ってみただけだから……言ってみただけだから……無の沈黙やめて……』

(´・ω・`) 『いや、なんも脈絡なかったから正直びっくりして』

(-_-) 『あれだよあれ、前になんかで見た』

(-_-) 『彼女欲しい欲しいって言うばっかりで、実際は何も行動を起こさないからオタクはダメなんだって……』

(´・ω・`) 『おい』

(-_-) 『えっ?』


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82 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:01:25 ID:2SwlmMHE0


( ´_ゝ`)


( ´_ゝ`) 『……俺が、行っても』


( ´_ゝ`) 『しょうがねえだろうよ。……あいつは』


(´・ω・`)


(-_-)

(-_-) 『あー…………、そっか』


( ´_ゝ`) 


 という一瞬の不穏なやり取りは、まあ、いったん置いておくとして。

 男三人、川辺で並んでアイスクリームをほおばる中、
 なぜ兄者だけがアイスでなく裂きイカをいつまでもクッチャクッチャしているのか、
 じゃなくて、なぜ兄者までもがザリガニ漁に徴兵されているのか、といいますと。


(´・ω・`) 『強すぎるよねえライバルが。……っていうか、その弟者って今なにやってんの?』

( ´_ゝ`) 『あー……。全国大会近いから』

(-_-) 『あ、やっぱ全国行くんだ。すごい』

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83 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:02:23 ID:2SwlmMHE0


 もともとは、弟者と同じよーに、走り幅跳びをやっていた兄者は、
 少し前、陸上部を完全に退部してしまって、
 生物部に籍を移していたから、という話になります。


( ´_ゝ`) 


( ´_ゝ`) 『おんなじ、双子、なんだがなー……』


(-_-)

(´・ω・`)


( ´_ゝ`) 『……俺さあ』

( ´_ゝ`) 『幅跳びとか、高跳びとか、ああいうの、やっぱ嫌いなんだ』

(-_-) 『なんで?』

( ´_ゝ`) 『踏み切りが大事だから』

(´・ω・`) 『ふむ』

( ´_ゝ`) 『短距離にしろ長距離にしろ……、走るだけならさあ、走ることだけ考えてりゃいいんだよ』

( ´_ゝ`) 『でもねー、幅跳びってそうもいかないの』

( ´_ゝ`) 『砂場に向かって必死で走る。助走をつける。スピードに乗る。で、踏切板踏んで大ジャンプ!』

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84 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:02:49 ID:2SwlmMHE0


( ´_ゝ`) 『……ちょっとでも、足が、踏切板からはみ出したら、それで失格なわけよ。ファール。記録なし』

( ´_ゝ`) 『何メートル地点から助走始めるか。歩幅どのくらいか。ラスト五歩はリズム感を意識してどうのこうの……』

( ´_ゝ`) 『どんだけリハーサルしてもさあ、大会本番ってね、なんか足の調子おかしくて、歩幅合わなくて』

( ´_ゝ`) 『走り出した瞬間に、あ、これダメだ、合わねえ、って頭よぎるわけよ。わかる?』

( ´_ゝ`) 『そんでもまあ失格よりはマシだから、いっそ板の全然手前でいいから、もう無理やり踏み切っちまえ、とか』

( ´_ゝ`) 『ごちゃごちゃ考えてるとさあ、全然走りのスピード出なくてさあ……』


( -_-)

(´・ω・`)

( ´_ゝ`) 


( ´_ゝ`) 『そういうの、ほんとに嫌だよなあ、って……聞いたら、さあ』

( ´_ゝ`) 『本番は、頭ん中、全然何にも考えてねえな、俺は、って……』


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85 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:03:57 ID:2SwlmMHE0


( ´_ゝ`) 『……外さねえんだよ、あいつ。ファールしたとこ見たことないんだよ』


( ´_ゝ`) 『なーーー……にが違うんだろうなぁー……』


( -_-)

(´・ω・`)


 急に始まった陸上トークに、いつもみたいな茶化しを入れないのが。
 陸上部をやめちゃった理由を、いちいち詮索しないのが。
 それこそが、彼ら三人の間に確かに存在する、友情ってやつだったわけですよ。


( ´_ゝ`) 『いや、マジでほんっと何が違うんだ。見ろこれを。見たまえよこれを……待って、なんで電源切れてんのもう……』


 そして、そこで兄者が露骨に声色を変えたのは、
 変な話してごめんなさい、こっからは弄りOKですよという意思を端的に示す、
 それもまた、ひとつの友情の証だったと言えるかもしれない。


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86 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:04:20 ID:2SwlmMHE0


     既読36 『すんませーん』

     既読36 『明後日ダンスの練習つってたけど、あれ汝からでしたっけ』

     既読36 『ちげえ何時』

『6時から』

     既読36 『ういっす』


(´・ω・`) 『いや教えてやったじゃん。僕が』

( ´_ゝ`) 『そりゃまあ教えてはくれたんですけどね、俺はね、弟者のスマホをこの前うっかり見てしまってですね、』

(-_-) 『なんで?』

( ´_ゝ`) 『まあね……同じ部屋で暮らしてるてね……どうしてもね……』

(´・ω・`) 『あぁー言ってた言ってた。パソコン共用だからおちおちエロ画像も落とせないしtwitterもログインできないってやつ』

( ´_ゝ`) 『落とせないのに落ち落ちみたいな?』

(´・ω・`) 『僕巻き込んで滑るのやめてくんない?』


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87 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:08:01 ID:2SwlmMHE0


 ザリガニはあくまで部の出し物、クラスの出し物は創作ダンス。
 隅っこにいてもヘタクソは目立つ、ゆえに練習は全員参加。


( ´_ゝ`) 『なんかですね、あいつの発言に対するみんなの反応がね、ちゃんと既読数に見合ったものになっていたというか……』

(´・ω・`) 『ああ、僕しか返事してくれないみたいな寂しい状況じゃなくて』

( ´_ゝ`) 『んん~~オブラート。もうひとオブラート』

(-_-) 『俺もちょいちょい返事してるよ?』

(´・ω・`) 『大差ねえ……』

( ´_ゝ`) 『ん~~~ひとオブラート増やしてほしかったんだけどなァ~~剥がすんじゃなくてさあ~~~~』


 作画崩壊という兄者のあだ名は、まあ、あくまでネタだったわけですが、
 このときの兄者の顔面は汗と裂きイカと涙でわりとマジに崩壊していたと言えます。字面がもうしょっぱい。


( ´_ゝ`) 『マジで何が違うんだろうって考えたくもなりますよそりゃあ……誰だよ俺の作画監督……』

(´・ω・`) 『うーむ。んじゃまあ、兄者くんにいいことをひとつ教えてあげようか』

( ´_ゝ`) 『お?』

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88 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:08:26 ID:2SwlmMHE0


(´・ω・`) 『キャラデザが同じなのに、なぜこうも差が生じるか。それは、人間が見たいものしか見ない生き物だからです』

( ´_ゝ`) 『その心は?』

(´・ω・`) 『弟者は既に成功している。既に部活で結果を残してる、すごい人だってのがわかってるからー、』

(´・ω・`) 『すごい人だって思いながら見れば、実際、すごい人に見えるわけよ』

(´・ω・`) 『実際どうかってのはあんまり関係ない。そう思いこめばそう見える』

(´・ω・`) 『で、周りからすごい人として扱われる弟者くんは、プラスのサイクルの中で実際さらにすごい人になっていき……』

(-_-) 『その逆は?』

(´・ω・`) 『スタート地点が無の人間である兄者は、』

( ´_ゝ`) 『ごめんわかった。理屈わかったから解説いいです』

(´・ω・`) 『マイナスのサイクルの中で、』

( ´_ゝ`) 『涙の数だけ傷が染みるよ』

(-_-) 『アスファルトを裂くヒビのように』


 いろいろと言ってはいても、なんだかんだで仲の良い友達であったはずの三人で。

 それが二人になったのは、この翌日の話です。



 ×  ×

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89 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:08:52 ID:2SwlmMHE0


  『―――それでですね――――』

(-_-)】 「……」


 電話の声に耳を傾ける傍ら、ぱらぱらと資料をめくり、
 八年前から今に至るまで、この街で多発している不審火。

 六年前から三年前にかけて、それが犯行のピーク。
 この時期の不審火件数は年二桁に乗りそうなほどで、
 反面、それ以降。二年前からは件数が落ち込み、
 その少ない発生件数も、八月と一月に集中する。

 規模も、被害者のプロフィールも、さまざま。
 ガレージが一部焼けただけ。家がまるごと全焼した。いろいろ。
 高校生の娘がいる家庭。中小企業の社長宅。借金苦に自殺を考えていた一家。いろいろ。

 いろんな差異はあるけれど、でも、とりあえずの共通点は――
 どれも、死人は出していない。


  『――会合の場を持ちたいと。そう考えています』

(-_-)】

(-_-)】 「……そんな改まらなくてもさあ、話くらい好きにすればいいじゃん。知らん仲でもないんだし」

  『なるべくなら、警戒されないのが望ましい』

  『可能な限りの少人数。加えて、私のことはできれば伏せる方向で……』


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90 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:09:16 ID:2SwlmMHE0


(-_-)】 「……あのさ、都村」

  『?』

(-_-)】 「それはさあ、警察の立場からの言葉ってことで、いいんだよね?」






  『いえ』



(-_-)】

(-_-)】 「………………」


 短い返事だけを残して、それで、電話は乱暴に切られ。
 しばしの硬直ののち、ヒッキーは、大きく緊張の息を吐き――

 店員に軽く頭を下げると、テーブルのほうへと戻っていきました。



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91 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:09:44 ID:2SwlmMHE0


(-_-) 「ごめん。ちょっと電話長引いた」

(´・ω・`) 「別にいいよ。君のおごりだしね、電話ごときで文句は言わない」

(-_-) 「は? 何それ?」

(´・ω・`) 「え、この娘がおごりだって……」

(-_- )

(゚;;-゚#)


 それが彼女なりの照れ隠しというか、
 見られたからには死んでもらう理論なのかどうかについては、さておくとして。


(´・ω・`) 「ちなみに、電話って誰から?」

(-_-) 「都村」

(´・ω・`) 「あー。ちょうどあの人の話してたとこだよ」


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92 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:10:06 ID:2SwlmMHE0


(-_-) 「都村の? どんな?」

(#゚;;-゚) 「ええと……、都村さんは、その」

(#゚;;-゚) 「いかにも真面目そうな人で。刑事って言われると、たしかに、それが天職みたいな人なんだろうな、という……」

(-_-) 「都村に。刑事が。天職」

(´・ω・`) 「そう見えるってさ」

(-_-) 「そりゃないね。あいつほど刑事に向いてないやつもいないよ」

(#゚;;-゚)


 え、アホなのは知ってたけどそこまで節穴だとは思わなかった……バイトやめます……
 みたいな視線を向けてくる助手くんに、でも、ヒッキーは肩をすくめて。


(-_-) 「だってさあ……、もっかい包丁飛んできたら次はもう避ける自信ないよ俺」

(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「包丁、ですか」

(-_-) 「そ。あれは甲子園狙えた」


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93 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:10:29 ID:2SwlmMHE0


(#゚;;-゚) 「……どういうご関係なんですか?」

(´・ω・`) 「まあ、複雑なのは間違いない」


 思いのほかバイオレンスな上司の女性事情に、
 助手くんが目まいを覚えたかどうかは定かでないものの、とりあえず。


(´・ω・`) 「で、今日結局何の話なんだっけ」

(-_-) 「連続放火の話……なんだけど、というよりは、俺の個人的な相談、というよりは……」

(-_-) 「……愚痴?」

(´・ω・`) 「あー。君の事務所燃えたんだっけ?」

(-_-) 「そう。全焼」

(´・ω・`) 「しょーもない事務所ってのは聞いてたけどさ。こうなると一回くらい顔出しとけばよかったって思うよね」

(-_-) 「違いねえ……」



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94 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:10:52 ID:2SwlmMHE0


(-_-)


(´・ω・`)


(#゚;;-゚) 「……?」


 なんとなく歯切れの悪い探偵、静かに腕を組んでいるその友人、
 この微妙な空気はなんでしょう、と助手くんが首をかしげたそのときです。


(´・ω・`) 「で、君は何の話しにきたの?」

(-_-)

(-_-) 「あのさあ」




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95 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:11:16 ID:2SwlmMHE0





(-_-) 「死んだ人間との約束って、守る必要あると思うか?」




(´・ω・`)


(#゚;;-゚)


(´・ω・`) 「一応、聞くけどさ」

(-_-) 「ああ」

(´・ω・`) 「きみ今相当罰当たりなことを言ってるって僕は思うんだけど。自覚ある?」

(-_-) 「……約束破って、一番怒るのが誰かって、そりゃ約束した相手じゃん」

(-_-) 「その相手がもうこの世にいない。誰も怒る人はいない」

(´・ω・`) 「だから破って問題ないって?」

(-_-) 「破ったところで、誰も責めないよ」


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96 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:11:41 ID:2SwlmMHE0


(-_-) 「別に、それを破ったからって、死んだ弟者が蘇ってきて都村を責めるわけじゃない」

(-_-) 「都村が自分で自分を責めるんだ」

(-_-) 「都村の中に住んでる弟者が。都村が自分で作った弟者が、都村のことを責めるんだ」


 目の前のショボンに話しているのか、それともただのひとりごとなのか。
 立て板に水、まくし立てるように話し続けるヒッキーの姿に、
 ショボンは、大きくため息をついて。


(´・ω・`) 「弟者は、君たちに託したんだろう」

(´・ω・`) 「炎の中で。もう逃げられないと知って。それでも、懸命に、最期の言葉……」

(´・ω・`) 「犯人を、捕まえてほしいと。そう望まれたはずだ。君たちは」


(-_-)

(#゚;;-゚)


(´・ω・`) 「部外者の立場から、何が何でも果たせとまでは言えないが」

(´・ω・`) 「敵討ちは、弟者自身が望んだこと。無視していいものじゃないはずだ」


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97 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:12:02 ID:2SwlmMHE0


(-_-) 「いいや。それはちょっと違う」

(´・ω・`) 「……何が?」


(-_-) 「敵討ちなんか弟者は望んでない。復讐なんかしても、弟者は絶対に喜ばない」

(-_-) 「それだけは、絶対に間違いのない……『真実』だ」


(´・ω・`)

(-_-) 


(#゚;;-゚)


 肌がぴりぴりするような沈黙だったと、のちに助手くんは語る……
 かどうかは定かでないものの、
 切り出したショボンの声には、多分に、呆れの感情が含まれていました。


(´・ω・`) 「やっすいことを言うよねえ……。少なくとも僕なら喜ぶけどな」

(-_-) 「いいや、弟者は喜ばない。それだけは絶対にありえない。だって弟者はもういないから」

(´・ω・`) 

(-_-) 「いるのは、俺の中の弟者だけだ」


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98 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:12:22 ID:2SwlmMHE0


(-_-) 「兄者も弟者も、都村に復讐してほしいなんて望んでない。断言できる。だって死人はものを考えないんだから」

(´・ω・`) 「……」

(-_-) 「俺には俺の兄者がいる。『俺から見た兄者』……『俺にとっての兄者』が、俺の頭の中には住んでるんだ」

(-_-) 「おまえの頭の中にもいるだろうね。『おまえから見た兄者』ってのが」


(´・ω・`)


(-_-) 「『俺から見た兄者』と、『おまえから見た兄者』っていうのは、たぶん……重ねても、重ならない」

(-_-) 「同じものでは、たぶんない。俺はおまえの知らない兄者を知ってて、おまえは俺の知らない兄者を知ってるから」

(-_-) 「で、都村の頭の中には、『都村から見た弟者』がいる。『都村にとっての弟者』が住んでる」

(-_-) 「弟者は、復讐なんか絶対に望んでないんだよ。死体は復讐なんか望まない」

(-_-) 「復讐を望むのは、あくまで……『都村の中の弟者』なんだ」

(-_-) 「『生きてる都村の中に、今も残り続ける弟者』であって。それは決して、『死んだ弟者』と同一人物じゃない」


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99 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:12:46 ID:2SwlmMHE0


(´・ω・`) 「……よく口が回るね」

(-_-) 「八年あった。考える時間は」

(´・ω・`) 「…………」


(#゚;;-゚)


 これ、結局なんの話なんでしたっけ、みたいな顔を、蚊帳の外の助手くんが浮かべたちょうどそのとき。
 旧友二人の長い会話も、ぼちぼち終わりを迎えます。


(-_-) 「……俺ん中じゃあ」

(-_-) 「弟者っていったら、どっか遠くの、ふつうとは違う、完璧な男だったわけだよ。そういう男に、俺には見えた……」

(-_-) 「そんな男が、その後の都村の人生全部縛り付けるような……『呪い』を、最期に遺すかな、って」

(-_-) 「それだけ、ずっと気になってる」

(´・ω・`) 「それが、『ヒッキーの中の弟者』?」

(-_-) 「ああ」

(´-ω-`) 「……見たいものしか見ないんだよなあ、人は…………」


 一通り語り終えた探偵の横顔は、萎んだ風船のようで――
 ショボンも、疲れきった様子で、一言。

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100 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:13:20 ID:2SwlmMHE0



(´-ω-`) 「僕は、兄者の友達だった。君も、そうだったと思ってる」


(-_-) 「ああ。俺も、そう思ってる」

(´-ω-`) 「……君が何を言いたいかはわかるよ。何を考えているかはわかる」




(´・ω・`) 「――なら、君もわかってなきゃならない。それが死人に鞭打つ行為だと」


(-_-) 「死人は鞭打っても痛がらない。生きてるやつは今も痛がってる」



(´・ω・`)

(-_-)


(#゚;;-゚)


( -_-) 「…………悪い」

(´・ω・`) 「いや」


 なにかが限界に達してしまった探偵は、そこで旧友との会合を打ち切ることとして。
 明日もう一回会えるか、とだけ、約束を取り付けて――あとは、助手くんとの帰り道。


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101 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:13:53 ID:2SwlmMHE0


(#゚;;-゚)

(-_-) 「……ショボンとさ、どんな話した?」

(#゚;;-゚) 「えっ、と……」

(#゚;;-゚) 「高校を出てからは、県内の大学に進学して……、自宅から、電車で、毎日、時間をかけて通ってた……とか」

(#゚;;-゚) 「卒業後は、県外の会社に就職したけれど、二年ほどで退職」

(#゚;;-゚) 「今年、この街に戻ってきたばかり、と……」

(-_-) 「……そう」


 もはや、ヒッキーとどう接していいのかわからなくなっている助手くんに、
 明日は来なくていいよ、とだけ。
 短く、それだけ、言い置いて、探偵は夜の街に消えた。




 ×  ×

.

102 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:14:30 ID:2SwlmMHE0
 ×  ×


【twitboon】

@flow_stone_Marioがいいねしたツイート

クソリプと引用RTは即ブロックします@shot_born 8年前 8月12日
 大ピンチ!歴代徳川将軍はえげつないほど衆道に興味津々なようです
 #第17回ブーン系作品スレタイを組み合わせて1番面白い奴が優勝
     →10667    ☆11291


悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 ぶち殺すぞ
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくないをいい
 ねしなくてよくない?
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくない?
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 いや普通に返事してよ。別にいいねしなくてよくない?
             ☆1



 ×  ×

103 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/08/28(月) 21:15:14 ID:2SwlmMHE0

○ヒッキーのこれまでのあらすじ

 流石兄弟の死体は、一方は廊下、一方は客間にあった。
 炎から逃げようとしたことが伺える。
 弟が廊下、兄が客間。居間からの距離は、似たようなもの。
 死亡推定時刻に若干の差があるが、双子のためDNA鑑定が難しく、
 どちらの死が先だったのかは不明。



○登場人物

都村 … 包丁を投げる女

ヒッキー … 包丁を避ける男

でぃ … しょうもないネタツイートが多い

ショボン … 当時、ヒッキーが弟者の件を話すことができたのは、都村を除けばこいつだけだった

兄者 … なにかに敗れた男

弟者 … 普段どれだけできた男でも、死の淵ギリギリで冷静さを保つのはたぶん難しい


.

110 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:45:33 ID:RZcXQo220

 ×  ×

 田舎の家のセキュリティなんて知れてる。不法侵入くらいは容易い。
 とはいえ、当時高校三年生になったばかりのヒッキーは、やっぱり驚いてしまうわけですよ。
 深夜二時過ぎ、かすかな物音で目を覚ましたら、


(゚、゚トソン


 自室に、包丁を握った幼馴染が立っていた、なんて状況には。
 眠気も一発で覚めますよ、そりゃ。


(;-_-) 『え……。え? 都村? なに?』

(゚、゚トソン 『あなたですか?』

(;-_-) 『は?』


(゚、゚トソン 『あなたが燃やしたのかと、聞いています』


 このとき、都村が投げた包丁は、本当にきれいに、まっすぐ飛んできて。
 これを回避することができたあのときの俺には神が憑いていたと、
 今でも、ヒッキーはそう思っている。

.

111 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:46:21 ID:RZcXQo220

 その時期の都村は、まだ、とても不安定で。


(;-_-) 『――待って! 待って都村!! 落ち着いて!!!』

( 、 トソン 『――”あの野郎”と弟者は言いました! 野郎呼び! ならば男か!?』

( 、 トソン 『――”あいつ”と弟者は言いました!! この呼び方! ならば知り合いか!?』

(;-_-) 『落ち着いて!』

( 、 #トソン 『殺すと脅せば吐くでしょう! どんな悪党でも!! どんなクズ野郎でも!!』

(;-_-) 『―――――トソン!!!』


 いじめられていた都村は、最終的に、ナイフを持ち歩くようになった。
 どちらに向けるつもりだったのかはわからない。
 自分の手首を切るつもりだったのかもしれないし、
 限界を超えたとき、それでいじめっ子を刺すつもりだったのかもしれない。
 なんにせよ、都村は追いつめられると刃物を持ち出すような、そういう性格をしているということだ。


(;、;トソン 『返さなきゃならなかった。返さなきゃならなかったのに』

(;、;トソン 『なんでですか』

(;、;トソン 『なんで、私のほうが生きてるんですか?』


(;-_-) 



 そんなやつにあんなことを言ったら、こういう状態になって当たり前だ。

.

112 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:46:49 ID:RZcXQo220

 ただでさえ思い詰めやすい性質で、
 ただでさえ、助けられた恩がある。

 そんなやつが、助けてくれた当人から、あんなことを頼まれたら。
 当然、一直線に復讐へ走る。
 一直線に犯人を捜して、


 一直線に、殺しに行く。


 それがわからなかった男ではないはずだ。弟者ほどの男なら。
 なら、あれは誰だったのか。


 たぶん、誰でもなかったのだ。



 ×  ×




.

113 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:47:21 ID:RZcXQo220



(´・ω・`) 「えーっと。出火元カーテンって言ったっけ?」

(-_-) 「ああ」

(´・ω・`) 「ふーむ。黒だとやっぱ燃えやすいのかな……」


 旧友たちが集ったのは、焼け焦げたヒッキー探偵事務所跡地。
 こういうとこ勝手に入って大丈夫なの、と渋るショボンをなだめて、
 元・オフィスに足を踏み入れたヒッキーは――


(´・ω・`) 「……最初に言ってたのはさあ、都村さんも入れて、三人で会うって話だったじゃん」

(´・ω・`) 「なんで急に場所と時間変えたの?」

(-_-) 「鬼の居ぬ間に終わらせなきゃならない話がある。それだけだ」


 前置きもそこそこに、語り始めた。


(-_-) 「9月19日。8年前。何してた日か覚えてる?」

(´・ω・`) 「……覚えてると思う?」

(-_-) 「ザリガニ獲ってたんだよ、俺ら。文化祭用の。兄者も一緒に」


.

114 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:47:52 ID:RZcXQo220


(´・ω・`)

(´・ω・`) 「……ああ。懐かしい思い出だ」

(-_-) 「思い出してもらえたようで何より。……で」

(-_-) 「何があったか、覚えてる?」

(´・ω・`)

(-_-) 「あの日の、……っつーか、兄者はいつでもそんな感じだったけど」

(-_-) 「あの日も、兄者は寝坊してきた」


 ×  ×

@flow_stone_Marioがいいねしたツイート

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 ぶち殺すぞ
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくないをいい
 ねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 いや普通に返事してよ。別にいいねしなくてよくない?
            ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日 
 兄者起きてる? 今日来れんの? 
            ☆1

 ×  ×

.

115 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:48:20 ID:RZcXQo220

(-_-) 「この一連の俺のツイートも、そーいうやつだったわけだよ」

(´・ω・`) 「……」

(-_-) 「これが、兄者がいいねした最後のツイート」

(-_-) 「当然っちゃあ当然だよね。燃えたのが二十日の夜だから」

(-_-) 「それ以降のツイートを、あいつがいいねすることはできない。当たり前の話だと」


(-_-) 「今の今まで、思ってた」


(´・ω・`)


(-_-) 「いまさら、解説は要らないと思うけど……」

(-_-) 「ふつーの、twitter公式アプリは。他人のツイートをいいねした場合……」

(-_-) 「ツイートが、日付順に並ぶようになってるんだ」

(-_-) 「①9月の俺のツイートをいいねした後に、②8月のおまえのツイートをいいねする」

(-_-) 「……っていう順番だったとしても。関係なく、日付の新しいほうが上に来る。そういう仕組みになってる」


.

116 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:48:54 ID:RZcXQo220



(-_-) 「が」



(-_-) 「かしこい助手くんに教えてもらった、こちらのアプリでは……」

(-_-) 「ツイート自体の日付に関係なく。いいねしたツイートが、いいねした順番に並ぶ」

(-_-) 「さっきのたとえ話で言うなら、後にいいねしたほうの、8月の、おまえのツイートが」

(-_-) 「後になっていいねしたほうが、上に来るようになってる」



 ×  ×


【twitboon】

@flow_stone_Marioがいいねしたツイート

クソリプと引用RTは即ブロックします@shot_born 8年前 8月12日
 大ピンチ!歴代徳川将軍はえげつないほどあなとちんこに興味津々なようです
 #第17回ブーン系作品スレタイを組み合わせて1番面白い奴が優勝
     →10667    ☆11291


悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 ぶち殺すぞ
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくないをいい
 ねしなくてよくない?
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 別にいいねしなくてよくないをいいねしなくてよくない?
             ☆1

悲喜こもごもり@Amano_iwato 8年前 9月19日
 いや普通に返事してよ。別にいいねしなくてよくない?
             ☆1

 ×  ×

.

117 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:49:26 ID:RZcXQo220


(´・ω・`) 「……しょうもないツイートだよ。なんでこんなのが1万RTもされたのか」

(-_-) 「どういう意味か、わかるか?」

(´・ω・`) 


(-_-) 「当たり前の話をする」

(-_-) 「俺のこのツイートは、9月19日にしたものだ。だから、9月19日以前にこれらを『いいね』することはできない」

(-_-) 「兄者が、俺のツイートを『いいね』できたのは、9月19日以降。すなわち……」

(-_-) 「おまえのツイートが、俺のツイートより後に来ている以上」

(-_-) 「おまえのツイートを『いいね』したのも、9月19日以降でなければならない。そういうことになる」

(´・ω・`) 「……当たり前の話だね。それが何か?」


(-_-) 「いつだ?」


(´・ω・`) 


(-_-) 「ザリガニ獲りに行った日曜日と、その翌日。月曜日。兄者が焼け死ぬまでの間」

(-_-) 「この二日間のどこかで、兄者は、おまえのツイートを『いいね』した。そういうことになる。が……」

(-_-) 「いつだ?」


.

118 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:50:02 ID:RZcXQo220

(´・ω・`) 「いつでもいい」

(-_-) 「本当に?」

(´・ω・`) 「……」

(´・ω・`) 「一年も前のツイートを、なんで急に掘り出してきたのかは知らないけど……」

(´・ω・`) 「あの後、家に帰ってからでも。適当に『いいね』したんじゃないの?」

(-_-) 「この後、都村と会うことになってる。おまえとの話はそれまでにケリをつけなきゃならない」

(-_-) 「……都村と会う前に終わらせなきゃならない。無駄な時間は使いたくない」

(-_-) 「だから、そういうボケはいらない。――本気で忘れたわけじゃないだろ」

(´・ω・`) 「……」





(-_-) 「水没したスマホって、さあ」

(-_-) 「電源、入れちゃダメなんだよな」




.

119 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:50:33 ID:RZcXQo220




 ×  ×


( ´_ゝ`) 『あれ? ……あれ?』

(-_-) 『ん? どしたん?』

( ´_ゝ`) 『いや、なんか電源入んない……』

(´・ω・`) 『ああ。そりゃまあそうなるでしょ』

(´・ω・`) 『水没した携帯ってさあ、乾くまで電源入れちゃダメなんだよ。濡れたとこに電気通すとショートしちゃうから』

( ´_ゝ`) 『それを知っていたのなら なぜ忠告してくれなかったの』

(´・ω・`) 『や、もう手遅れかなと思って……』

( ´_ゝ`)

( ´_ゝ`) 『え? マジでこのスマホ死んだ?』

(´・ω・`) 『死んだ』

( ´_ゝ`)


.

120 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:50:58 ID:RZcXQo220


( ´_ゝ`) 『おおぉーん……帰りドコモショップ寄って帰ろっか……』

(´・ω・`) 『今何時?』

( ´_ゝ`) 『そうね大体ね……』

(´・ω・`) 『おまえに聞いてねえよ。時計死んでるやつは黙ってろ』


( ´_ゝ`)、 ショボン


(-_-) 『7時半』

(´・ω・`) 『7時半。開いてないでしょもう』

( ´_ゝ`) 『お"お"お"ぉ"ーん……。じゃ明日の帰りか……』

(-_-) 『え。いや、明日って……』

(´・ω・`) 『ダンスの練習。六時から』

( ´_ゝ`) 『そして六時までは補習がみっちりと詰まっております』

(-_-)

(´・ω・`)

( ´_ゝ`) 『お"お"お"お"お"ぉ"ぉ"ん』




 ×  ×

121 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:51:31 ID:RZcXQo220


(-_-) 「9月19日の夕方の時点で、兄者のスマホは故障してる。それを修理する時間もなかった」

(-_-) 「加えて、あの兄弟はパソコンが共用。PCでのtwitterへのログインは避けている」


(-_-) 「――いつだ?」


(´・ω・`) 


(-_-) 「9月19日から20日。ザリガニ獲りが終わってから、流石邸が燃えるまで」

(-_-) 「その間、兄者がtwitterのアカウントにログインできたタイミングは、ない」

(-_-) 「実際、兄者自身はザリガニ獲りの画像を最後に、まったくツイートをしていない」


(´・ω・`) 「不思議な話だねえ」


(-_-) 「あの兄弟の死亡時刻には差がある。一方がもう一方より長く生きていた」




(´・ω・`)


(-_-)


.

122 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:52:13 ID:RZcXQo220



(´-ω-`) 「……無駄な時間を取らせるなって、君が言ったんだろ」

(´-ω-`) 「聞かせておくれよ。”探偵”さん」





(-_-) 「火事の最中だと、俺は思う」




(´-ω-`)



(-_-) 「あの火の中、パソコンが生きていたかどうかは怪しい。なら、たぶん……弟者のスマホだ」


(-_-) 「弟者のスマホを使って、兄者は自分のアカウントにログイン。そしておまえのツイートを『いいね』した」


(-_-) 「そういうことだと、俺は思う」


(´・ω・`) 「さすがに話が飛びすぎている」


(-_-) 



( -_-) 「…………」




.

123 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:52:49 ID:RZcXQo220



( -_-) 「怖かったんだ」



( -_-) 「まったく、何のためらいもなしに。燃えてる家に突っ込んでった都村が、すげえ怖かった」



(´・ω・`)



( -_-) 「……もともと、ああいうやつだから」



( -_-) 「死んでも、弟者だけは助けようとするだろうなって、一発でわかったし」



( -_-) 「だから……」





( -_-) 「もし、もう、弟者が、死んでたら」



( -_-) 「こいつは、どうなるんだろうって。……怖かった」







.

124 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:53:35 ID:RZcXQo220



 ×  ×


(    ) 『う、っ、う……ぐうぅ……』


(;゚_゚) 『――弟者!?』

(゚、゚;トソン 『弟者!!』


(     ) 『――!』



 ×  ×



.

125 名前:名無しさん 投稿日:2017/09/01(金) 06:54:08 ID:RZcXQo220







(-_-) 「『弟者』って呼んだの、俺なんだよ」







.

126 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:54:48 ID:RZcXQo220



 ×  ×


 その瞬間の絶望は、どれほどのものだったろう?


(    ) 『熱……っ!! う"ぅ"、う……くそ………』


(    ) 『なんだよ……なんなんだよ……ッ!』


 炎に焼かれ、煙に巻かれ、家族は既に焼け死んで、
 逃げる場所など、どこにもなく。


       『無理だよ! 無理! これは――』


(    ) 『……!!』


 そんな中に聞こえた友の声は、
 いったい、どんな感情を。
 どれほどの感情を、彼の中に巻き起こしたことか。
 もはや想像すら及ばないだろう。


 が、


.

127 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:55:18 ID:RZcXQo220





(;゚_゚) 『――弟者!?』



(    )



 その友ですら、自分を見てくれなかった。




(゚、゚;トソン 『弟者!!』



(    )



 好きだった人も、当然、自分のことなんか――見てくれない。



.

128 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:55:43 ID:RZcXQo220




(    )


 声は、煙にやられてしわがれ、
 顔も、黒く煤けてしまった。
 ごうごうと燃え盛る炎。目を開けているのも辛いほどの熱気、
 陽炎のように揺らめく視界―――――


 業火の死に化粧によって隠された、
 ”彼”の素顔は、あのとき、いったい、

 ――どんな顔をしていたと思う?





(;  _ゝ )





 どれほどのものだったと思う?

 最期の瞬間すら、誰からも見てもらえなかったという絶望は。


 ×  ×



.

129 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:56:10 ID:RZcXQo220



(-_-) 「……俺のほうが先だった。俺が最初にそう呼んだ」

(´・ω・`)

(-_-) 「先に死んだのは弟者のほうだ。あそこにいたのは兄者だった」

(-_-) 「あれはただの失火だった。あの事件に犯人はいない」

(-_-) 「最後の最後。よりにもよって死の直前に、弟者と間違われた兄者が……」

(-_-) 「俺たちへの、当てつけのつもりで。さも放火犯がいるかのような台詞を吐いた。……それだけなんだ」


(´・ω・`) 「5点」


(-_-)

(-_-) 「……何点満点?」

(´・ω・`) 「100点に決まってんでしょう。……見たいものしか見えないって、あんだけ言ったのにさ」

(´・ω・`) 「君が言ってるのは『推理』じゃない。探偵らしくないにもほどがある」

(-_-) 「……へえ」


.

130 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:56:41 ID:RZcXQo220


(´・ω・`) 「君に復讐を依頼したのは、君が大好きな弟者ではなく、おまけの兄者のほうだった」

(´・ω・`) 「しかも、それはただの狂言で。これはただの失火だった。この事件に犯人なんかいない」

(´・ω・`) 「弟者は復讐なんか望んでない。だから都村、君がそんなことを考える必要はないんだ!」

(´・ω・`) 「こんな事件はもう忘れて、これからは自分の人生を生きるんだ――――って」

(´・ω・`) 「……そういう方向に持っていきたいわけだろ。シナリオありきの話じゃないか」

(-_-) 「納得にはシナリオが必要だ。生きてる人間には物語が要る」

(´・ω・`) 「火事の最中と断定するのも早すぎる。ログインする機会が本当に一切なかったとなぜ断言できる?」

(´・ω・`) 「ザリガニ獲ってる最中にいいねしたのかもしれない」

(´・ω・`) 「弟者がいない間に家でパソコンを使ってログインしたのかもしれない」

(´・ω・`) 「でなければ月曜、学校のパソコン室にでも行ってログインしたのかもしれない」

(´・ω・`) 「それとも、もしかしたら、兄者のアカウントのパスワードはどこかに流出していて……」

(´・ω・`) 「あのツイートをいいねしたのは、兄者ではない別人だったのかもしれない」


.

131 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:57:12 ID:RZcXQo220

(-_-) 「万一にでも履歴を残すのが嫌だから、ログイン自体を控えてるみたいなこと。いつか言ってなかったかな」


(´・ω・`)


(-_-) 「おまえのツイートは一年も前のものだ。そんなものをなぜ掘り返したのかは知らない」

(-_-) 「あいつは他に何もしてない。なにかツイートをしたわけでもない。他のツイートはいいねしてない」

(-_-) 「川辺で作業してる真っ最中? わざわざ学校のパソコン室使って?」

(-_-) 「ただ、おまえのツイートをいいねするためだけに。……説明がつくか?」


(´・ω・`) 「可能性があるだけで十分だ。僕が説明までつける必要はない」


(-_-) 「そうかい」


(´・ω・`) 「そして、なによりも気に入らないのはその解釈だ。…………君は、」

(´・ω・`) 「一年も前の僕のツイートを兄者が『いいね』した、その理由を。どう考えている?」


(-_-) 「解釈なんか、いくらでもつけられる」


.

132 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:57:46 ID:RZcXQo220


(-_-) 「自分も、こんなふうに。1万回リツイートされるくらい、誰かに見てもらえる人間になりたかった」

(-_-) 「そういうメッセージだったかもしれないし……でなければ」

(-_-) 「ここにいたのは兄者だったんだって」

(-_-) 「あそこには自分がいたんだってメッセージを、おまえに残したかったのかもしれない」

(´・ω・`) 「そうだ。勝手な解釈ばかりだ。それ以外僕らに道はない。兄者は死んでしまったんだから」

(´・ω・`) 「その本心を確認する術なんか僕らにはもうないんだ。想像するしかない。だが……」



(´・ω・`) 「さっき、なんて言った?」



(-_-) 



(´・ω・`) 「……そうだよ。『存在しねー犯人を一生追い続けてろ』っていう、呪いのつもりで言ったのかもしれない」

(´・ω・`) 「君は、その可能性を採用したのかもしれない。……が、逆」



.

133 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:58:21 ID:RZcXQo220


(´・ω・`) 「弟者が死んでしまったら、都村さんは生きがいをなくすだろうなって、そう、心配になった兄者が……」

(´・ω・`) 「あえて、弟者のフリをして。『復讐』を依頼することで……」

(´・ω・`) 「生きる目的を作ってやった、とか。そういう気遣いだったかもしれない」

(-_-) 「そうかもしれないね」

(´・ω・`) 「そう、解釈なんかいくらでもつけられる。……つけられるはずなのに!」

(´・ω・`) 「『あてつけ』と言ったね、君は。――すべて兄者が悪いと言いたいのか?」


(-_-)


(´・ω・`) 「君は都村さんに復讐を捨ててほしいんだろう。それはわかる。だが……」

(´・ω・`) 「あれが弟者でなく兄者だったら、都村さんは復讐なんかしないって」

(´・ω・`) 「兄者はその程度の存在だって。君は自分で認めているのか?」

(-_-) 「あれが兄者なら犯人はいなかったことになる、だから復讐もやめる。それだけの理屈。曲解するのをやめろ」

(´・ω・`) 「同じことだ。放火犯の存在を捏造した『悪』に兄者を押し込んでいる」

(´ ω `) 「……『全部兄者が悪い』で片付けるのか。よりにもよって都村さん相手に!」


(-_-)

.

134 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:59:07 ID:RZcXQo220


(-_-) 「……『弟者のために』じゃないんだよ。誰かのためにすることじゃない。その『誰か』はもうこの世にいないんだ」

(-_-) 「『そうしないと生きてる自分の気が済まないから』やることなんだよ」

(-_-) 「復讐ってのは、一から十まで自分のための行為でなきゃならない。そういうものだと、俺は思うし」

(-_-) 「あいつが、そこを履き違えたまま、復讐を実行しようとしてるなら……それは、絶対、止めなきゃならない。そう思ってる」


(´・ω・`) 「そのためなら死者の名誉など知ったことじゃないと?」


(-_-) 「生きてる俺たちの頭の中に残る『死者のイメージ』に付随する名誉だ。『死者の名誉』なんて存在しない」

(´・ω・`) 「……やっぱり、5点だ。探偵失格。証拠なんてどこにもない」

(´・ω・`) 「君は結局、都村さんの復讐をどうにかしたいから、あれが兄者だったんだと思い込もうとしているだけだ」


(-_-) 


(-_-) 「……らしくねえとか、失格とか。好き放題言ってくれやがったけど……」

(-_-) 「そこまで言うなら、言ってやろうか。少しは、探偵っぽいこと、さ」

(´・ω・`) 「どうぞ。ぜひお願いしたい」


.

135 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 06:59:38 ID:RZcXQo220








(-_-) 「なんでカーテン黒だって知ってた?」








.

136 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:00:13 ID:RZcXQo220


×  ×

(´・ω・`) 「えーっと。出火元カーテンって言ったっけ?」

(-_-) 「ああ」

(´・ω・`) 「ふーむ。黒だとやっぱ燃えやすいのかな……」

×  ×




×  ×


(´・ω・`) 「しょーもない事務所ってのは聞いてたけどさ。こうなると一回くらい顔出しとけばよかったって思うよね」


×  ×



.

137 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:00:43 ID:RZcXQo220








(´・ω・`) 「気づくのが、遅すぎる」








.

138 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:01:15 ID:RZcXQo220


(-_-) 「別に気づいてなかったわけじゃねえよ……。取ってつけたようなヒント出しやがって……」


 六年前から三年前にかけては、不審火の件数が多い。
 これはショボンの在学中、県内の大学に通っていた=この街に住んでいた時期と一致するし、
 被害者の家庭を辿ってみれば、ショボンが家庭教師のバイトに訪れていた、という記録もある。
 その後、件数の落ち込んだ二年は、ショボンが他県で就職していた時期で。
 その時期の犯行は、盆と正月、帰省シーズン付近に絞られる。


(´・ω・`) 「……貞子さん、覚えてるかな。家燃やされた人」

(´・ω・`) 「あの人の家が燃えてるとこにね、ばったり居合わせて。びっくりしたよ」

(´・ω・`) 「野次馬がね、ほんとに、大勢、これでもかってくらい集まってるんだ。……それは君も知ってるか」

(´・ω・`) 「挙句その後も、あの人いつも全然目立たない人だったのにさ、みんなから質問攻めされてたじゃない?」

(-_-)

(´・ω・`) 「狼煙……じゃない。もっと派手な、」


(´・ω・`) 「……花火みたいだなって、思ったよ」


 普段誰にも見てもらえなかった者が、家に火がつけられたというだけで、一躍有名人。
 そんなところに魅せられたと、ショボンは正気そのものの目で語る。

.

139 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:02:16 ID:RZcXQo220


(-_-) 「一応聞くけどさ。俺の事務所に火つけたのは?」

(´・ω・`) 「こっち帰ってきてから、ヒッキーが探偵やってるって聞いてね。でも繁盛してないって聞いたから」

(-_-) 「言葉通りの炎上商法?」

(´・ω・`) 「そんな感じ」

(-_-) 「……余計なお世話だよ。本当に」


 連続放火犯を目の前にして、まったく動じも責めもしないヒッキーも、また。
 ひょっとすると、正気ではないのかもしれない。


(´・ω・`) 「―――大学のとき、僕は家庭教師のバイトをやってたんだけど、」

(-_-) 「まあ、おまえの事情はどうでもいい」

(´・ω・`) 「そこの女の子にクラスで孤立してるって悩みを打ち明け…………えっ」

(-_-) 「おまえの辿ってきた道筋に興味はない」

(´・ω・`) 「そこで僕は、僕に任せてくれないか、つって炎の魔術師ここに降臨……」

(-_-) 「おまえが辿る道筋にも、興味はない」

(´・ω・`) 「……みたいな話を、なるべく丁寧に、じっくり、話して聞かせようと……思ってたんだけど……」

(-_-) 「どうでもいい」

(´・ω・`) 「えぇー……」

.

140 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:02:49 ID:RZcXQo220


(-_-) 「放火犯としてのおまえは、どこへなりとも行けばいい。捕まろうが逃げようが知ったこっちゃない。が……」

(-_-) 「おまえになら証言できるはずだ。夜中に兄者から通知が来たと」

(-_-) 「他の通知で押し流されたかもしれない。そもそも覚えてないかもしれない。でもそんなことはどうでもいい」

(-_-) 「おまえには証言できる。火事の真っ最中に兄者がおまえのツイートをいいねしたと」

(-_-) 「あの火事の中で生きていたあいつが、どちらだったか確定させられる」


(´・ω・`)

(-_-)


(´・ω・`) 「……都村さんに、そう証言しろって?」

(-_-) 「放火犯の正体はおまえだが、おまえは流石邸炎上の件とは無関係だ」

(-_-) 「そして、あの場にいたのは兄者。弟者ではない。偽証の動機がある兄者だ」

(-_-) 「――あの火事だけは、本当に、ただの失火だった。おまえの存在でそれが証明できる」


(´・ω・`)


(´-ω-`)


.

141 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:03:19 ID:RZcXQo220


(´-ω-`) 「8年も経てば記憶は薄れる。そこまで責めるつもりはない。けど……」


(´・ω・`) 「都村さんが動いてるのは、弟者の復讐を果たすためだ」


(´・ω・`) 「君がこうして動いてるのも、全部、都村さんのため。どころか……」


(´・ω・`) 「兄者を、悪役に仕立てようとすらしている」


(-_-)


(´-ω-`) 「火事の炎はとても大きい。遠くからだって見える狼煙だ。花火だ。その中で兄者は死んだ」


(´・ω・`) 「――兄者は死んだ。焼け死んだんだ。誰の目にも見える炎の中で」


(´・ω・`) 「なのに、誰からも見てもらえていない。……5点だよ。なにが5点かってね」


(´・ω・`) 「火事の真っ最中、死に際に、兄者が僕のツイートをいいねしたというのが事実だったとして……」



.

142 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:04:00 ID:RZcXQo220










(´・ω・`) 「それが、犯人を指し示すダイイングメッセージであった可能性を。なぜ、まったく考えていない?」










.

143 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:04:27 ID:RZcXQo220



(-_-)



(´・ω・`)



 ショボンが、懐から、なにか、
 スイッチのような器具を取り出したのと、ちょうど同じタイミング。



 焼け焦げた木の床をきいきいと軋ませながら歩く音がして、

 旧友、二人だけしかいなかったはずの空間に、



(゚、゚トソン



 この場に、絶対に来てはならなかった人間が。
 姿を現した。




 ×  ×

.

144 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:04:57 ID:RZcXQo220



(-_-)


(-_-) 「なんで」

(゚、゚トソン 「そちらの、ショボンさんご自身から。……連絡がありました」

(´・ω・`) 「待ち合わせ場所と時間が変わったってね。いつ来るかいつ来るかと思ってたけど……」

(´・ω・`) 「時間稼ぎには、まあ。そんなに、苦労はしなかったな」


(゚、゚トソン

(´・ω・`)


 スイッチを手にしたショボンの声も、体も、震えひとつ起こしてはおらず。
 ショボンと対峙する都村の表情には、色がまったくない。
 隣のヒッキーなど、たぶん、もう、視界にすら入っていない。




.

145 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:05:21 ID:RZcXQo220


(´・ω・`) 「よーこそおいでくださいました。……ありがとうね来てくれて」

(-_-)

(-_-) 「違う」

(´・ω・`) 「悪いことをしたとは思ってた。死なせるつもりはなかったから。あれは本当に予定外だった」

(´・ω・`) 「だから――――これは、僕なりの罪滅ぼしってとこかな」


 手の中のスイッチを見せびらかすように、
 ショボンは、鷹揚な態度でしゃべる。


(-_-) 「……違う。おまえじゃないはずだ」

(´・ω・`) 「ヒッキーの始末には失敗した。警察にも嗅ぎまわられているようだ。となれば、あとはもう……」

(´・ω・`) 「再会させてやるくらいしか手がない。まとめてあちらに送ることでね」

(;-_-) 「――違う。おまえは関係ない!」

(´・ω・`) 「爆弾って趣味じゃないんだけどね。でもまあ、このボロ事務所一軒吹っ飛ばすくらいの威力は保証する」

(´・ω・`) 「そういうわけだから、君たち二人にはここで消えてもら――」



 銃声。



.

146 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:05:52 ID:RZcXQo220


(;-_-)


(;´・ω・) 「が……っ……、」


 黒焦げの床に鮮血がびちゃりと飛び散り、そこからワンテンポ遅れて、
 ショボンの握っていたスイッチが、むなしく、床に転がった。


(;-_-) 「――都村!!」


(゚、゚トソン 「あなたですか?」


(;´・ω・)


 腕のみを的確に撃ち抜いた射撃の腕は、彼女の、修練のほどを伺わせ。
 この場に銃を持ち込めたという事実は、彼女が、警察であることを示す。


 でも、彼女は今この場所に、警察として来たわけではない。


.

147 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:06:19 ID:RZcXQo220






(゚、゚トソン 「あなたが燃やしたのかと、聞いています」








(;´・ω・) 「そうだよ」








 あの日止められたナイフを振るう機会が、このとき、ついに来た。



.

148 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:06:41 ID:RZcXQo220



(;-_-) 「――待て! 待って!!」



 引き金に指がかかった瞬間、ヒッキーはその手首を必死に掴んだ。
 殺意すら感じられるほどの勢いを視線と腕に込めて、都村はヒッキーを振りほどく。


(゚、゚トソン 「どきなさい」

(;-_-) 「ダメだ。おまえは勘違いしてる。こいつは犯人じゃない。関係ない!」

(゚、゚トソン 「この男が放火犯である線は濃い。挙句、たった今、自白した!」

(;-_-) 「――それに!」

(;-_-) 「あそこにいたのは弟者じゃない。――兄者だったんだ!!」

(゚、゚トソン

(;-_-) 「……ずっと勘違いをしてたんだ。弟者は! おまえに復讐なんか望んじゃ――」


(゚、゚トソン 「あなたは、いつもそうでした」


 銃口がヒッキーに向いた。


.

149 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:07:12 ID:RZcXQo220


(;-_-)


(゚、゚トソン 「必死さをまるで感じない。流石一家の無念を晴らそうという意志を、ひとつも感じられなかった」

(゚、゚トソン 「調査に非協力的であるばかりか。なにかと理由をつけては、私をあの火事から遠ざけようとすらした」


( 、 トソン 「私が。……私たちが。託されたことだったというのに」


(;-_-) 「都村、」

( 、 トソン 「その理由がやっとわかりました。……友人だったからですね?」

(;-_-)

( 、 トソン 「真犯人が友人であることを知っていたから。……私が、真犯人をどうするつもりか、ずっと知っていたから」

( 、 トソン 「庇おうとして、遠ざけようとして、私を、阻止しようとしていた」

(;-_-) 「ちがう」


(; _ ) 「ちがうよ、トソン」


(; _ ) 「俺が」


(; _ ) 「――俺が、……今まで、どんだけ……ッ!!」



.

150 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:07:42 ID:RZcXQo220

×  ×


 将来、何になりたいって言ってたか、おまえは、もう、覚えてないのかよ。


(゚、゚*トソン

(´<_` )


 陸上の、コーチだとか、アシスタントだとか、そういうのに。
 そういうのになってみたいって、言ったんだよ。言ってたんだよ。おまえは。


 それが、


(゚、゚;トソン


 それが、


(;、;トソン


 急に、――ほんとうに、急に。
 人が変わったみたいに、警察目指す、なんて言い出したのが、なんでかくらい。
 わからないはずがない。



.

151 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:08:05 ID:RZcXQo220



 見間違えたかもしれない、と。
 その可能性に思い当たった瞬間、――猛烈に、怖くなった。
 あのとき自分が兄者に与えたかもしれない絶望の総量を考えると、
 それだけでゲロを吐きそうになった。

 それでも、死んだ人間からは逃げられた。
 夢に見なくなれば、それで終わりだった。


 でも、死者から目を逸らした先には、生きた人間がいた。



 生きた人間からは逃げられなかった。

 いじめられていたころの、暗く、淀んだ、絶望の目よりも、
 
 いっそう、冷たく据わるようになった、


 おまえの、その瞳からは。



  ×  ×


.

152 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:08:25 ID:RZcXQo220



 その一瞬、ヒッキーの頭の中で渦を巻いた記憶の数々は、
 目の前に突きつけられた銃口の放つ圧力すら跳ねのけて、
 探偵の口を動かした。


(;-_-) 「……やっとわかった。確定したんだ。兄者だったんだよあれは」

(;-_-) 「おまえに復讐しろって言ったのは、おまえの大好きな弟者じゃねえんだよ!」

(;-_-) 「――――誰も、いなかったんだよ、あそこには!!」


 あのとき弟者はもう死んでいた。
 兄者は弟者の仮面をかぶった。

 死に際ですら、誰からも求められなかった兄者は、その瞬間に――この世から消えた。

 あそこには誰もいなかった。
 あのときあそこにいたのは兄でも弟でもないなにかだった。


(;-_-) 「……それで復讐なんかしたって! おまえは、幸せになんかなれない!」


 都村はずっと幻影の言葉に踊らされていただけだ。
 それがヒッキーの選んだ真実。

 なんとしても自分は彼女を止めなくてはならないのだと、
 そう考えてもがき続けた男の出した結論だった。



.

153 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:08:48 ID:RZcXQo220


 『弟者のために』復讐をするというのなら、
 その呪いは、絶対に、解かれなくてはならないと。



(゚、゚トソン 「――だとしたら、なんだと言うのです」



(;-_-) 


(;-_-) 「え、……」


 そう願った男の、最後の砦だった。


(;´ ω ) 「――っがあ……ッ!! う"う"……ぐっ……」


 ふと自分から逸れた銃口に、ヒッキーが安堵の息を吐く間もなく、
 ショボンが、またも壮絶なうめき声を上げ。

 取り落としたスイッチににじり寄ろうとしていたのを阻止したのだ、
 という言い訳がまったく効かない領域に達した殺意をにじませ、
 都村は、――吠えた。



.

154 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:09:13 ID:RZcXQo220



( 、 トソン 「幸せになりたくてこんなことをしていると。……そう思っていたのですか?」


( 、 #トソン 「――私は憎い。ただただ憎い」


(゚、゚#トソン 「――この男が弟者を焼き殺したのは事実!! 私はこの男が憎い!!」


(;-_-) 「違う! こいつは――」


(゚、゚トソン 「あれが兄者だったというならそれでも別にいいでしょう。私は憎い。ただ憎い!」


( 、 #トソン 「弟者を殺したこの男を――私は! 『私が』!!! 許せない!!!」



(;-_-) 





(;-_-) 



.

155 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:09:38 ID:RZcXQo220


 復讐というのは、一から十まで自分のための行為でなければならない。
 一から十まで自分の意志で行われるものでなければならない。

 八年間の思考の果てにひねり出した、自己正当化の理屈だった。
 都村はそれに当てはまらないから復讐なんかさせてはいけないのだと、
 自分で論を立て、自分で信じて、それで今まで動いてきた。


 でも、
 あのとき幻影が遺した呪いの言葉は、今では、もう、
 都村の中に完全に溶け込んで、
 『都村の意志』になってしまっていた。


(;-_-) 「これで、――――これで不満かよ!!」

(;-_-) 「やっと、八年、やっと……やっと!! やっと確定したのに!!」

(; _ ) 「なんで、そんな、……なんで…………ッ!」


 それが、本当に、百パーセント、自分の意志だって言い切れるのかよ。
 外から刷り込まれたものが、それと気づかないうちに膨れ上がって、
 最初からあったものだと錯覚してるだけじゃないのかよ。
 なあ。
 違うのかよ、


.

156 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:10:03 ID:RZcXQo220



(;´ ω ) 「がああああああああああッ!!!」


 そんな思いは、今まさに拳銃をその手に握った都村を前にして、
 決して、声になることはなく。


(;-_-) 「や、め――ろ!!」

( 、 #トソン 「っ……どきなさい!!」


 とにかく、そのときのヒッキーにできたのは、
 無我夢中で、都村に体当たりをすることだけ。

 もつれあって床に転がる二人、
 その床を伝わってヒッキーの耳に飛び込む、息も絶え絶えな、ショボンの言葉。


(;´ ω ) 「くそ、みたいな、つぶやき、だったのに……」


(;´ ω ) 「こんな、……ものが、うらやまし、かったの、かって、……おもうと……」


(;-_-) 「――おい。おい!!」


 都村が取りこぼした拳銃を、できうる限り遠くに蹴り飛ばし。
 なりふり構わずショボンのもとに駆け寄って、その体を抱き起こす。


.

157 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:10:36 ID:RZcXQo220



(;-_-) 「出火元は両親の寝室。父者の煙草。一家揃ってたんだあの家には! おまえに忍び込めたはずがない!!」

(;-_-) 「目立つ目立たないっつたってそもそもおまえの放火は人死にを一件も出してない! おまえのはずがないんだよ!!」


 でも、それは別に、ショボンのことを気遣っていたわけではなくて。
 まくしたてるヒッキーの台詞は、それはもう、馬鹿みたいな早口で。


(;-_-) 「あの事件に犯人はいない!! 認めろ!! それを! 頼むから!!」


(;´ ω ) 


(; _ ) 「―――――認めてくれよ!! 頼むから!!」


(;´ ω ) 「それ  さあ……」

(;´ ω ) 「 証明、  できる?」


(; _ ) 「……っ!!!」


(;´ ω ) 「……きみは、ほんとうに、兄者に、つめたい……」



.

158 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:10:58 ID:RZcXQo220



(;-_-) 「おまえじゃない。――――おまえのはずがない!!」


(;´ ω ) 「いや   僕だよ」


(;´ ω ) 「だって、 誰か、いなきゃ」


(;´ ω ) 「いくら  じご 、じ、t、く、でも、」


(;´ ω ) 「あんまり、不憫、すぎる……」


(; _ ) 「馬っか――――っげえっ」


 致命傷を負った旧友の体を、一切の気遣いなく、容赦なく揺さぶっていたヒッキーは、
 背後から都村に蹴り飛ばされて、燃え落ちた床の上を転がり、
 ぐらつく頭と、揺れる視界の中で、最後にわかったのは、


( 、 #トソン


 都村が、拳銃だけでなく、
 ――あの日のナイフも、この場に持ってきていたということ。
 それだけだった。
 それだけが、最後に残った。


.

159 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:11:32 ID:RZcXQo220



 ×  ×






 ×  ×


.

160 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:11:56 ID:RZcXQo220



 燃え尽きた流石邸はとっくの昔に取り壊されてしまって、もうない。
 かといって、墓前に足を運ぶことはできなかった。
 どうしても足が遠のいてしまった。

 だからヒッキーは、毎年、海岸沿いの道路から、彼らを忍ぶことにしていた。。
 水がいっぱいあったほうがいいだろうという、単純な理由だった。


(#゚;;-゚)

(-_-)


 けれど、こんなに大きな花束を担いでやってきたのは、これが初めてで。
 たぶん、これが最後になるだろうと、ヒッキー自身も思っている。


 ショボンは死んで、都村は復讐を完遂した。
 当然、しかるべき罰を受けることになる。


 それで終わりだ。その先はない。


(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「……なんとなく、わかった気がします」

(-_-) 「ん? 何が?」



.

161 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:12:19 ID:RZcXQo220


(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「必要なのは、『真実』じゃなくて……『納得』」

(#゚;;-゚) 「『納得』するのに必要な材料を集めるのが、探偵の仕事だ、って……」

(-_-) 「あー。あー…………」


 似合わない花束を背負って、いつになく神妙な顔をして、
 それも無理からぬことだと気を遣っていた年若き助手くんの台詞に、
 探偵は、しばし何事か考えるふりをして――――


(-_-) 「……私、今までキノコ派の人のことが無性にだいっ嫌いだったんだけど、なんで嫌いなのか今やっと”わかった”」

(-_-) 「タケノコ派が圧倒的多数だから、そんな中で『ちょっと通な自分』を演出したくて……」

(-_-) 「別に好きでもないキノコを好きって言ってる。それが気に食わないんだ!」

(#゚;;-゚) 

(-_-) 「……みたいなこと言う人ってさ、いるじゃん?」


(#゚;;-゚) 

(-_-) 

(#゚;;-゚) 



.

162 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:12:41 ID:RZcXQo220



(-_-) 「もちろん今の例文は死ぬほどテキトーに作ったやつなんで、それ自体は真に受けないでほしいんだけど」

(#゚;;-゚) 

(-_-) 「こーいうときの『わかった』っていうのはさ。『真実に辿り着いた』とか、『正解を見つけた』って意味じゃなくて……」

(-_-) 「『私は、この理屈を"真実"として採用することに決めた』っていう。そういう表明に過ぎないって、俺は思うんだ」

(-_-) 「たったひとつの正解があって、それを見つけたから『わかった』って言ってるわけじゃない」

(-_-) 「いくつかある候補の中で、一番自分にしっくり来る理屈を見つけたから」

(-_-) 「それを正解ってことにして、『わかった』って言ってるだけ」

(#゚;;-゚) 

(#゚;;-゚) 「……」

( -_-) 「……ごめん。忘れて」

(#゚;;-゚)


 ガードレールの向こう側に、探偵が、何を見ているのかについて。
 助手くんが『わかった』と言うことは――この状況では、たぶん、許されていない。


.

163 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:13:02 ID:RZcXQo220


 100%と断言するには証拠が足りない、それはショボンの言った通り。
 あれが兄者だったと断定してしまうことはできないし、
 そもそも、兄者であったとしても、
 あのとき、兄者が何を考えていたのか、という話になると、
 それはもう、どうやったって知ることはできない。


 同じように。
 ショボンが、いつからこの結末を想定して動いていたのかも、わからないままだ。


 だから、生者にできることといえば、あとはもう――見たいものを見るしかない。
 解釈する以外にできることはない。
 解釈の余地がない情報というのは、現在のところ、ひとつしかない。


 あの探偵事務所には、確かに、爆弾……の、ようなもの。それが仕掛けられていた。
 が、事務所をまるごと吹き飛ばすなんてのは無茶もいいところで、
 せいぜいが、ちょっとしたボヤ騒ぎを起こすくらいの、しょうもない発火装置だったということ。


 それだけだ。



.

164 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:13:24 ID:RZcXQo220


( -_-) 「そーだよねー……。幸せになりたいわけじゃないんだよねー……。マイナススタートだからね」

( -_-) 「復讐に勝る幸福を。提示しなきゃならんかったわけだ」


(#゚;;-゚)


( -_-) 「……俺じゃあねー……」


(#゚;;-゚) 「……」


( -_-)


( -_-) 「……あのさ」


( -_-) 「……今回の件の、報告書って……もう作ってくれてんだっけ?」

(#゚;;-゚) 「えっと、……いちおう、一通りは……」

( -_-) 「あ~……、」

( -_-) 「……処分、しちゃってくんないかな。全部」

(#゚;;-゚)

(#゚;;-゚) 「……わかりました」

( -_-) 「ありがと。……ごめんね」


  ×  ×

.

165 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:14:02 ID:RZcXQo220



( -_-)


 助手くんを帰らせて、田舎町、車もろくに通らない海岸沿い、
 花束もしおれてしまうような、暑い日差しの中で、


( -_-)


 静かに目を閉じた探偵の、
 その瞼の裏に映るのは。
 その耳の奥で蘇る声は――


 ×   ×


( ´_ゝ`)


( ´_ゝ`) 『……俺が、行っても』


( ´_ゝ`) 『しょうがねえだろうよ。……あいつは』


 ×  ×

.

166 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:14:32 ID:RZcXQo220







( -_-) 「――無理だったよ。俺にも」






 青空に、ふわりと舞った花束は、
 夏の、涼やかな風に吹かれて、空中でバラバラにほどけて、
 見渡す限りの大海原に、一本ずつ、散っていく―――






 ×  ×



.

167 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:15:01 ID:RZcXQo220


 せこせこと書き溜めてきた報告書の束を、机の上に積み上げて。
 せっかく作ったのにな、と思う気持ちがないわけではないけれど、
 こんな事件を手元に残しておきたくはないという探偵の気持ちも、
 やっぱり、助手くんには理解できるわけで。


(#゚;;-゚)


 処分ってどうしよう、燃やせばいいのかな、
 いやでもこの流れで火は縁起悪いよな、みたいなことを助手くんが考えていたかは定かでないものの。


(#゚;;-゚)


 なんの気なしに、自分が書いたはずの報告書を、ぱらぱらとめくってみて……


(#゚;;-゚)


(#゚;;-゚) 「……あれ?」


 首をかしげました。



.

168 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:15:25 ID:RZcXQo220




(#゚;;-゚)




(#゚;;-゚) 「あれ。……あれ?」





(#゚;;-゚) 「わたし、こんな書き方、したっけ……?」








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169 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:15:55 ID:RZcXQo220
○リザルト

都村 … ×avenger ○revenger

ヒッキー … 生者の安らぎを第一とする男

でぃ … 巫女。

ショボン … 死者の名誉を第一とした男

流石兄弟 … 顔は煤け、声はしわがれ、炎で視界は悪かった


○あらすじ

 『必要なのは真実じゃない』とヒッキーは言った。あれ結構いい線いってると思う。
 大事なのは自分がどう思うか。自分がどう納得するかであって、
 納得のために使う材料はべつに真実でなくていい。肌に合うものを選べばいい。
 真実なんてものがどこかにあったとして、でも、そんなものに意味はない。

 ヒッキーには『真実を確定させる力』がなかった。
 もっと正確にいえば、『真実を真実だと信じさせる力』がなかった。
 でもね、考えてもみればです。
 『信じさせる力』なんてのをもしも持っているのなら、そもそもの話。
 そこで提示するものって、べつに真実じゃなくてかまわないと思いません?

 「信じる力」が都村にはあった。事の真偽は関係ない。それが自分にとっての真実なんだと信じ込んで、
 あとはもう、ただそれを実行する。そんな力があったわけですよ。
 それってつまり、「真実」がそれ単品でなにか特別な力を持つようなものではない、って証明してるようなもんじゃんよ。
 だから俺には口がない。あっても意味がないからね。
 で、口がないから、書くしかない。
 たぶん、ヒッキーはこの先二度と語りたがらないだろう話を、こうして、ちゃんと語り直す役。


 いつか謝ろうとは思ってる。
 こっちで会えればの話だけどね。



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170 名前: ◆XEQ9kqx9Y6[sage] 投稿日:2017/09/01(金) 07:16:32 ID:RZcXQo220









     ( ´_ゝ`) 藪の中Ver. エンチャントファイアのようです










                                真実は炎の中





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